JP2019026639A - ユーカリからペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明の課題は、製紙用原料として大規模植林されているユーカリの木質部より、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を得る方法を提供することである。【解決手段】 ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法であって、ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程と、水熱処理工程により得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液と有機溶媒とを混合し、有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程とを含む製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ユーカリに対して水熱処理を行い、その処理物から有機溶媒可溶成分を抽出することにより、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)活性化作用を有する抽出物を製造し得る方法に関する。
オイルリファイナリーに代わるバイオリファイナリーが注目されている。原料としては、食料と競合しない木質系や草本系バイオマスを用い、これらを適当な前処理を施すことにより、糖や芳香族化合物を得る技術の開発が行われている。このようなバイオリファイナリー技術により、バイオ資源からエネルギーや化学品が製造される。しかしながら、現時点ではバイオリファイナリー技術の経済性向上が課題であり、木質系・草本系バイオマスの主要成分であるセルロース、ヘミセルロース、そしてリグニンのトータル的な利用が求められている。セルロースやヘミセルロースは糖から構成されており、従来の可食性バイオマスから生産されるグルコース等から様々な化学品原料を製造する技術を応用することが可能である。一方、芳香族化合物であるリグニンは、製紙産業で黒液として燃料利用されているほか、コンクリート混和剤(特許文献1)としての利用等、ごく限られた用途でのみしか商業利用されていない。
これまでに、リグニンの有効利用技術として、ポリフェノールとして有する抗酸化作用や抗菌作用の利用技術(非特許文献1)、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等への樹脂原料としての利用(特許文献2)等が報告されている。近年、小麦等の植物由来のリグニン配糖体が免疫賦活剤として利用できること(特許文献3)、リグニンの前駆体であるフェルラ酸が脳機能改善剤としての能力を持っていること(特許文献4)等が報告されている。このことから、リグニンの持つ生理活性機能を利用した、新しい機能化学品の創製が期待される。
製紙原料として、広葉樹のユーカリがベトナムやオーストラリア、チリ、タイ等で大規模に植林され、日本にも製紙用チップとして大量に輸入されており、バイオリファイナリーの原料として有力である。ユーカリ成分の化学品利用としては、ユーカリの葉を水蒸気蒸留処理等により生じる精油成分(ユーカリオイル)が持つ抗菌作用、抗炎症、鎮静作用、血糖値低下作用、抗ウイルス作用、抗ガン作用等を利用した様々な用途に利用されている(非特許文献2)。ユーカリの代表種の一つであるユーカリプタス グロブルスから抽出されるユーカリオイルの主成分はテルペンである1,8−シネオールであり、ユーカリオイルに95%以上含まれている場合もある(非特許文献3)。他のユーカリオイルの成分もほとんどがテルペン化合物である(非特許文献4)。よって、上記に列挙した抗菌作用、鎮静作用等はテルペン化合物に由来すると考えられる。
一方、ユーカリは葉において精油含有量が多いが、木質部における精油含有量はほとんど含まれないため、ユーカリ成分の抽出原料として木質部は着目されてこなかった。このようなユーカリ木質部中から、特にリグニンに由来する有用な成分を抽出することができれば、さらに大規模生産による有用成分のコスト低下、そしてバイオリファイナリーの経済性向上が図られる。
特開2011−184230号公報 特開2013−227470号公報 特許第5766192号公報 特開2005−272355号公報
Ynag W. et al., Ind. Crops Prod., 94 (2016) 800-811 Vuong QV. et al., Chemistry and Biodiversity, 12 (2015) 907-924 Emira Noumi et al., J. Med. Plants Res, 5 (2011) 4147-4156 Lila Harkat-Madouri et al., Ind. Crops Prod., 78 (2015) 148-153
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は製紙用原料として大規模植林されているユーカリの木質部を原料とした化学品への利用を可能とする方法の提供を課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ユーカリ木質部に特定の温度条件下において水熱処理を施し、得られた固形物および/または水熱処理液から有機溶媒可溶成分を抽出することにより、当該課題を解決し得ることを見出した。なお、ユーカリ木質部から得られる抽出物は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用(PPAR活性化作用)を有するものであった。
近年、植物由来の抽出物を利用した化学品の一つとして、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)のリガンド剤に関する技術が報告されている。例えば、植物由来の抽出物を利用したペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)に対するリガンド剤として、ノコギリヤシやエゾウコギ、アサイなどの植物から得られる植物抽出物を有効成分とするペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)のリガンド剤について報告がある(再公表2009/054504号公報)。しかし、これらの植物の賦存量は非常に少ないため、生産量は少なく、得られる植物由来の抽出物は高価になってしまう。また、ユーカリからの抽出物を利用するものとして、例えば、特開2007−119432号公報は、ユーカリの葉を原料とするペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤の提供について開示している。しかしながら、特開2007−119432号公報は、ユーカリの葉を原料として用いる技術であり、ユーカリ木質部を利用してペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)のリガンド剤を提供することについての記載はない。このように、ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を得る方法については報告がなく、本発明者らにより新たに見出された知見である。
また、本発明者らにより見出された方法は、水熱処理により木質部に含まれるヘミセルロースの多くを単糖またはオリゴ糖へと分解し処理液中に分離させる工程を含むが、当該単糖およびオリゴ糖は、さらに分解されると、キシロースの過分解物であるフルフラールを生成する。同様に、処理温度をさらに上げると、グルコース等6単糖の過分解物である5−ヒドロキシメチルフルフラールも生成する。これらフルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラールは、有機溶媒と水との両方に溶解するため、最終的に得られる抽出物との分離が難しく、また、水熱処理後の固形分にも付着してしまい、洗浄してもなかなか洗浄しきれずに、抽出物の回収効率を下げてしまう。
そこで、本発明者らはさらに鋭意検討を重ね、これらのヘミセルロースやセルロース由来の単糖またはオリゴ糖の過分解物を抑制するための条件を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一態様は、
〔1〕ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法であって、
前記ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程と
前記工程により得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程と
を含む製造方法に関する。
ここで、本発明のユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造方法は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の製造方法であって、前記水熱処理工程後であって抽出物を得る工程の前に、前記ユーカリ木質部を含む水熱処理液を乾燥する工程をさらに含むことを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔3〕ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法であって、
(a)前記ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程と
(b)水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理溶液からユーカリ木質部および水熱処理液を固液分離によりそれぞれ回収する工程と
(c)回収したユーカリ木質部または水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程と
を含む製造方法に関する。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔4〕上記〔3〕に記載の製造方法であって、前記(b)固液分離工程の後、
前記ユーカリ木質部または水熱処理液を乾燥する工程をさらに含むことを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔5〕上記〔3〕または〔4〕に記載の製造方法であって、
前記(b)固液分離工程が、水熱処理後のユーカリ木質部を水熱処理溶液から固液分離により回収する工程であり、
前記(c)抽出物を得る工程が、回収したユーカリ木質部と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程であることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔3〕または〔4〕に記載の製造方法であって、
前記(b)固液分離工程が、水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理溶液から水熱処理液を固液分離により回収する工程であり、
前記(c)抽出物を得る工程が、回収した水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程であることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の方法であって、
前記(a)水熱処理の工程において、前記水または有機溶媒と水との混合液に対する前記ユーカリ木質部を1重量%〜20重量%の範囲とすることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の製造方法であって、
前記(c)抽出物を得る工程において使用する有機溶媒が、エーテル類、アルコール類、ニトリル類、ケトン類およびジスルホキシド類からなる群より選択される1種類または2種類以上の有機溶媒であることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔9〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の製造方法であって、
上記〔1〕または〔2〕における前記抽出物を得る工程、または、上記〔3〕〜〔8〕のいずれかにおける前記(c)抽出物を得る工程において使用する有機溶媒が、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、および、テトラヒドロフランからなる群より1種類または2種類以上の有機溶媒であるであることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔10〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の製造方法であって、
前記(a)水熱処理の工程が有機溶媒と水との混合液中で行われ、前記有機溶媒が、アセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、および、ジエチルエーテルからなる群より1種類または2種類以上の有機溶媒であることを特徴とする。
また、本発明の製造方法は、一実施の形態において、
〔11〕上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の製造方法であって、上記〔1〕における前記抽出物を得る工程、または、上記〔3〕〜〔10〕のいずれかにおける前記(c)抽出物を得る工程の後に、
(d)得られた抽出物をさらに精製する工程を含むことを特徴とする。
また、本発明は、別の態様において、
〔12〕上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の製造方法により得られる抽出物(ただし、1,8−シネオールを含むユーカリ由来の抽出物ではない)に関する。
ここで、本発明の抽出物は、
〔13〕p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核のいずれか1種類以上を有する化合物を含み、かつ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が、2以上である、ユーカリ木質部由来の抽出物(ただし、1,8−シネオールを含むユーカリ由来の抽出物ではない)。
また、本発明は、別の態様において、
〔14〕上記〔12〕または〔13〕に記載の抽出物を含む、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤に関する。
また、本発明は、別の態様において、
〔15〕上記〔12〕または〔13〕に記載の抽出物を含む、抗肥満剤に関する。
また、本発明は、別の態様において、
〔16〕上記〔12〕または〔13〕に記載の抽出物を含む、飲食品に関する。
また、本発明は、別の態様において、
〔17〕上記〔12〕または〔13〕に記載の抽出物を含む、化粧品に関する。
また、本発明は、別の態様において、
〔18〕上記〔12〕または〔13〕に記載の抽出物を含む、医薬組成物に関する。
本発明の方法によれば、ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性を有する抽出物を、水熱処理と有機溶媒による抽出で製造することができる。また、本発明の方法によれば、高濃度での酸やアルカリを加熱溶媒として利用しないため、ユーカリ木質部に含まれるセルロースやヘミセルロースの糖成分の過分解を抑制することができる。これにより、ユーカリ木質部内のセルロースやヘミセルロースに由来する糖の利用が可能である。
図1は、ユーカリ木質部を水熱処理して固形分を得て、当該固形物のアセトン抽出物に含まれる化合物をGC-MSにより測定した結果を示すグラフである。 図2は、ユーカリ木質部木粉末のアセトン抽出物に含まれる化合物をGC-MSにより測定した結果を示すグラフである。 図3は、ユーカリ木質部を水熱処理して固形分を得て、当該固形物のアセトン抽出部に含まれる化合物を熱分解GC-MSにより測定した結果をしめすグラフである。 図4は、ユーカリ木質部木粉末のアセトン抽出物に含まれる化合物をGC-MSにより測定した結果を示すグラフである。 図5は、ユーカリ木質部を水熱処理して固形分を得て、当該固形分のヘキサン抽出物に含まれる化合物をGC-MSにより測定した結果を示すグラフである。 図6は、ユーカリ木質部を水熱処理して水熱処理液を得て、当該溶液中のジエチルエーテル抽出物に含まれる化合物を熱分解GC-MSにより測定した結果を示すグラフである。
以下、本発明のユーカリ木質部からのPPAR活性化作用を有する抽出物を製造する方法についての実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明のユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体を活性化する作用を有する抽出物を製造する方法は、一実施の形態において、下記の2つの工程を含む:
(a)ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程、
(b)水熱処理工程により得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液と有機溶媒とを混合し、有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程。
また、140℃〜200℃の範囲で水熱処理したユーカリ木質部を含む水熱処理液は、固液分離によりユーカリ木質部である固形分と水熱処理液とに分離させて回収することができる。このように分離された固形分および水熱処理液のいずれからも、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体を活性化する作用を有する抽出物を得ることができる。すなわち、本発明のユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体を活性化する作用を有する抽出物を製造する方法は、別の実施の形態において、下記の工程を含む:
(a)前記ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程
(b)水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理液からユーカリ木質部と水熱処理液を固液分離によりそれぞれ回収する工程
(c)回収したユーカリ木質部または水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程。
[原料]
本発明において、原料として用いられるユーカリは、Eucalyptus globulus、E. grandis、E. radiata等、特に限定するものではないが、大規模植林される製紙用原料に用いられる品種が望ましい。使用する部位はユーカリ木質部である。ユーカリ木質部は、樹幹から樹皮を除いた部分をいう。原料として用いられるユーカリ木質部の形状や大きさは、水熱処理により木質部に含まれるヘミセルロースの分解が促進される限りにおいて制限されないが、たとえば、数cm長の製紙用チップや、カッターミル等により製紙用チップを粉砕して微粉化させたものを使用することができる。
[水熱処理]
ユーカリ木質部において、セルロース、ヘミセルロース、リグニンは、それぞれが強固に結び合って構造体を形成している。リグニンは、主にヘミセルロースとエステル結合で結合していると考えられている。本発明における水熱処理は、ユーカリ木質部に含まれるヘミセルロース成分を単糖、オリゴ糖として分解し、処理液中に分離させる。また、水熱処理は、ユーカリ木質部に含まれる一部のセルロース成分も分解する。これにより、ユーカリ木質部内のリグニンとヘミセルロース等との結合を切断し、リグニンの回収を効率よく行うことが可能となる。
なお、好ましい一実施の形態において、本発明の水熱処理は、原料となるユーカリ木質部に含まれるヘミセルロースの50%重量以上を処理液中に単糖またはオリゴ糖として分離することができ、より好ましくは、60%重量以上、70%重量以上、80%重量以上、90%重量以上で分離することができる。例えば、ユーカリ木質部を150℃、4時間の水溶媒を用いた水熱処理を行うことで、原料中のヘミセルロース成分の約70%重量相当が処理液中へ分離することができる。
また、同時に、本発明における水熱処理は、処理液中へ溶解した単糖やオリゴ糖がさらに過分解することを抑制する。これにより、ユーカリ木質部へ残ったセルロース成分、ヘミセルロース成分とともに、処理液中に分離されたセルロース、ヘミセルロース由来の糖成分もバイオリファイナリーの原料として利用できる。
ユーカリ木質部に含まれるヘミセルロースは、約90%以上がキシランを主鎖とした4−O−メチルグルクロノキシランである。よって、ヘミセルロースの分解により得られる単糖またはオリゴ糖の多くは、キシロースまたはキシロオリゴ糖である。これらのキシロース、キシロオリゴ糖は、非可食性バイオマスから各種化学品等へ変換する原料として利用可能である。
本発明に係る水熱処理温度は、セルロースやヘミセルロースから分解、分離された単糖とオリゴ糖の残存を目的とすることから、これらの過分解物である5−ヒドロキシメチルフルフラールやフルフラールの生成を抑制するため、200℃以下で行う。また、ヘミセルロースの加水分解を促して、有機溶媒可溶成分の収率を向上させるためにも140℃以上とする。なお、より好ましくは、水熱処理温度を140℃〜170℃の範囲内とする実施形態である。
水熱処理時間は、水熱処理温度ならびに水熱処理器の性能(熱伝達等)に依存するが、1分間〜8時間の範囲とし、200℃では短時間、140℃では長時間の処理時間が望ましい。水熱処理前に、水熱処理器内の気相を窒素や酸素に置換、または空気のまま処理を行っても良い。
水熱処理に用いる溶媒としては、水または有機溶媒と水との混合液を用いることができる。ここで、有機溶媒と水との混合液に使用される有機溶媒としては、極性溶媒のものを使用することができる。このような有機溶媒としては、以下に限定されないが、例えば、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、エタノール、メタノール、アセトニトリル、または、ジエチルエーテルなどを挙げることができる。これらの有機溶媒は、1種類として使用しても良く、2種以上を混合して使用してもよい。なお、有機溶媒と水との混合液を用いる際の混合割合は、水熱処理によりヘミセルロースを単糖またはオリゴ糖へ分解し分離できる限りにおいて制限されない。用いる有機溶媒により異なるが、例えば、1:9〜9:1の割合で有機溶媒と水とを混合することができる。
また、水または有機溶媒と水との混合液に対するユーカリ木質部の割合は、1重量%〜20重量%の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることでユーカリ木質部の分解が促進され好ましく、20重量%を超えるとユーカリ木質部の炭化やリグニンの重合等が生じて好ましくない。
水熱処理の実施に用いられる装置または方法としては、従来公知の装置または方法により行うことができる。例えば、以下に限定されないが、オートクレーブなどを用いて水熱処理を実施することができる。
なお、好ましい一実施の形態においては、水熱処理の工程の前に、ユーカリ木質部を水または有機溶媒と水との混合液に浸漬させておく工程を含む。これにより、チップのように形状が大きなものを原料とする場合に、水熱処理を効率的に行うことができる。また、水熱処理時間を短く設定したい場合にも、予めユーカリ木質部を水または有機溶媒と水との混合液に浸漬させておくことが好ましい。浸漬の方法や条件は、サンプルが乾燥している状態にならない限りにおいて特に制限されない。例えば、製紙用チップを原料とする場合に、水と混合させて一晩以上静置することができる。
[固液分離]
水熱処理後の処理物は、固液分離をせずに、下記に記載する有機溶媒による抽出工程に用いることができる。本発明に係るユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法の一実施の形態においては、水熱処理後に得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液はフィルターろ過や遠心によって固相と液相に分離することができる。固液分離の方法には特段の制限はなく、固液分離を数回繰り返し行い、水熱処理中に生成した糖(主に、ヘミセルロース由来の糖)を処理液中に溶解させて分離することが望ましい。
このように、固液分離の工程によりユーカリ木質部を含む水熱処理溶液からユーカリ木質部(固相)および水熱処理液(液相)を分離・回収することができる。固液分離により得られたユーカリ木質部または水熱処理液のいずれからも、下記の有機溶媒抽出工程を経ることでペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を得ることができる。ここで、ユーカリ木質部に含まれるリグニン由来成分は、水熱処理により分解されて低分子となり、そのうちの一部のリグニン由来成分を含む化合物が固液分離を経て液相である水熱処理液中に溶解した状態で分離することができる。このリグニン由来成分を含む水溶性の化合物は、アセトンやジエチルエーテルなどの有機溶媒により水熱処理液から抽出することができる。よって、固液分離工程により得られた水熱処理液を有機溶媒抽出工程に用いる実施の形態においては、リグニン由来成分を含む水溶性の化合物も分離して回収することが可能となる。また、固液分離後の液相(水熱処理液)由来の抽出物は親水性化合物を多く含むと考えられ、例えば、細胞内へ吸収されるルートで機能を発現させる場合に好ましい。一方で、固液分離工程により得られた固相(ユーカリ木質部)を有機溶媒抽出工程に用いる実施の形態においては、固液分離後の固相(ユーカリ木質部)由来の抽出物は疎水性化合物を多く含むと考えられ、例えば、皮膚表面などにおいて機能を発現させる場合に好ましい。
なお、好ましい一実施の形態においては、水熱処理工程の後、ユーカリ木質部を含む水熱処理液を凍結乾燥する工程を含む。固液分離工程を含む実施の形態においては、固液分離工程の後、得られた固形物(ユーカリ木質部)または水熱処理液をそれぞれ凍結乾燥する工程を含むことができる。例えば、固液分離工程後の有機溶媒により抽出物を得る工程において、水と混和しやすい有機溶媒(例えば、アセトンなど)を用いた場合、十分に洗浄・乾燥させないと水とともにヘミセルロース由来の糖がアセトン溶液中に混入してしまう。よって、有機溶媒による抽出工程の前に凍結乾燥工程を含むと、水と有機溶媒との混和を防ぐことができ好ましい。なお、エーテルのような水とほとんど混和しない有機溶媒を有機溶媒抽出工程で用いる場合には、水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理液、または、固液分離後のユーカリ木質部もしくは水熱処理液の凍結乾燥処理は不要とすることができる。
[有機溶媒抽出]
水熱処理後に得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液に、有機溶媒を添加することでペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を回収することができる。また、水熱処理後に固液分離工程を含む実施形態においては、固液分離後に得られたユーカリ木質部または水熱処理液に、有機溶媒を添加することでペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を回収することができる。
この工程において使用される有機溶媒としては、エーテル類、アルコール類、ニトリル類、ケトン類、アミン類およびジスルホキシド類からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の有機溶媒を挙げることができる。ここで、エーテル類とは、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルを含み、アルコール類とは、例えば、メタノール、エタノールを含み、ニトリル類とは、例えば、アセトニトリルを含み、ケトン類とは、例えば、アセトンを含み、アミン類とは、例えば、ピリジンを含み、ジスルホキシド類とは、例えば、ジメチルスルホキシドを含む。
好ましい実施の形態において使用される有機溶媒は、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフランである。さらに好ましくは、有機溶媒の除去による有効成分の濃縮化を容易にするため、低沸点なジエチルエーテル、アセトンが好ましい。
使用する有機溶媒の量は、水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理液、または、固液分離後のユーカリ木質部もしくは水熱処理液からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を回収できる限りにおいて制限されない。例えば、水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理液に対しては、3重量%以上の範囲で使用することができ、ユーカリ木質部に対しては、5重量%以上の範囲で使用することができる。
有機溶媒による抽出工程は、攪拌の操作を伴うことが好ましい。例えば、1時間以上撹拌することにより抽出物を有機溶媒中に溶解させ、固液分離によりペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出溶液を得ることができる。
また、上記で得られたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出溶液から溶媒を除去して、固形のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤を得ることもできる。
このように、本発明の製造方法は、一実施の形態において、ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程と、水熱処理工程により得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液と有機溶媒とを混合し、有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程とを含み、これにより、ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造することができる。
なお、水熱処理後に固液分離工程を含む実施の形態においては、(a)前記ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程、(b)水熱処理後のユーカリ木質部と水熱処理溶液とを固液分離により回収する工程、および、(c)回収したユーカリ木質部または水熱処理溶液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程を含み、これにより、ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造することができる。
また、本発明の好ましい一実施の形態においては、上記の(c)抽出物を得る工程(有機溶媒抽出工程)の後に、(d)得られた抽出物をさらに精製する工程を含む。
具体的には、例えば、有機溶媒の抽出により得られたペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出溶液を、カラムクロマト等により分画することができる。分画後の抽出溶液についても、溶液から溶媒を除去して固形のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤を得ることもできる。
カラムクロマトに使用するカラムクロマト充填剤は、順相、逆相の制限はなく、当業者は適宜好ましい充填剤を選択することができる。有機溶媒抽出工程により得られた抽出溶液を分画することで、よりPPAR活性の高い抽出溶液を得ることができる。例えば、有機溶媒抽出工程に使用する有機溶媒としてアセトンを用いた場合、分子量範囲が300〜5000程度であるが、その溶媒抽出物をカラムクロマトにより分画した数平均分子量が300〜2000の範囲内となる抽出溶液を分画することができる。この数平均分子量の範囲内として分画される抽出溶液は、高いPPAR活性作用を有する。なお、より好ましくは、数平均分子量が500〜1200の範囲内となる抽出溶液である。なお、本明細書に記載の数平均分子量は、下記実施例に用いられるように、ポリスチレンをスタンダードとして計算したものである。
ここで、好ましい一実施の形態においては、有機溶媒抽出工程に使用される溶媒として、ジエチルエーテルを使用することができる。この有機溶媒を用いた場合には、上記の精製工程を経ずとも、当初よりPPAR活性の高い抽出溶液を得ることができるため好ましい。
本明細書において、「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用」(PPAR活性化作用)とは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体であるPPARαまたはPPARγに対して活性化の作用を有していることをいう。本発明が提供するPPAR活性化作用を有する抽出物は、一実施の形態において、PPARγに対する活性化作用を有するものである。また、より好ましい実施の形態においては、PPARγおよびPPARαの2つの受容体を活性化可能なものである。
また、本明細書において「PPARに対して活性化の作用を有している」とは、PPARのリガンド結合ドメインに作用し、リガンド依存性の受容体活性化をPPARに促す作用を有することを意味する。なお、PPAR活性化作用を有する抽出物により活性化された受容体(PPAR)は、細胞の核内に移行して転写調節領域のDNAとの相互作用により標的遺伝子の転写を抑制あるいは促進することにより転写調節する。
また、PPAR活性化作用は、活性倍数最大値として評価することができる。例えば、本明細書において、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が2以上というとき、PPAR活性の活性倍数最大値が2以上であることを意味する。PPAR活性の活性倍数最大値は、下記実施例に示すように、ルシフェラーゼレポーターアッセイの方法により得られたPPAR活性値の最大値とすることができる。なお、活性倍数最大値は、PPAR活性が最大となる値であって、かつ、細胞に対する毒性を示さない値である。このとき、細胞に対する毒性を示さない値か否かは、ウミシイタケルシフェラーゼ発光強度が、陰性コントロール物質または陽性コントロール物質を添加した場合の発光値の少ない方と比較して、試験物質を添加した場合に1/2より低下することにより判断することができる。
また、本明細書において、「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用」を有するというとき、上記PPAR活性の活性倍数最大値が少なくとも2以上であることをいう。また、本発明の製造方法により得られたユーカリ木質部由来の抽出物は、好ましい実施の形態において、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が、3以上である。より好ましい実施の形態においては4以上であり、さらに好ましくは5以上である。
ユーカリ木質部に含まれるリグニンは、p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核の構造に富む。よって、本発明の方法により得られる抽出物は、これらの構造を有する化合物を含む。すなわち、本発明は、別の態様として、p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核の少なくとも1種類以上を有する化合物を含み、かつ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が、2以上である、ユーカリ木質部由来の抽出物を提供する。
なお、本発明により提供されるユーカリ木質部由来の抽出物は、一実施の形態において、テルペン類化合物を含まない。ここで、「テルペン類化合物」とは、炭素骨格構造が2個以上のイソプレンから構成される化合物であり、特にユーカリ葉から抽出されたユーカリオイルの主成分であるテルペン類化合物を指す。ユーカリ葉から抽出されたユーカリオイルの主成分であるテルペン類化合物としては、具体的には、1,8−シネオール、α−ピネン、α−テルピネオール、クリプトン、リモネン、スパツレノールなどを挙げることができ、ユーカリオイルは特に、1,8−シネオールの含有量が多いとされる。
よって、一実施の形態において、本発明により提供されるユーカリ木質部由来の抽出物は、1,8−シネオールを含まない抽出物である。すなわち、このような実施の形態は、p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核の少なくとも1種類以上を有する化合物を含み、かつ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が2以上である、ユーカリ木質部由来の抽出物(ただし、1,8−シネオールを含むユーカリ由来の抽出物ではない)を提供する。なお、より好ましい実施の形態において、本発明のユーカリ木質部由来の抽出物は、p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核の少なくとも1種類以上を有する化合物を含み、かつ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が2以上である、ユーカリ木質部由来の抽出物(ただし、ユーカリ葉に含まれるテルペン類化合物を含むユーカリ由来の抽出物ではない)である。また、さらに好ましい実施の形態において、本発明のユーカリ木質部由来の抽出物は、p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核の少なくとも1種類以上を有する化合物を含み、かつ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が2以上である、ユーカリ木質部由来の抽出物(ただし、テルペン類化合物を含むユーカリ由来の抽出物ではない)である。
また、別の態様によれば、本発明は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を含む、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤を提供する。また、本発明は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物と、薬学上許容される添加剤や飲食可能な添加剤とを含有する医薬組成物、飲食品、化粧品も提供する。特に、本発明の医薬組成物は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体が関連する疾患の予防及び/又は治療のために用いることができ、具体的には、例えば、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病などの予防又は改善に有効である。また、本発明の医薬組成物は、従来、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体を活性化させるリガンド剤が有する作用から応用される用途で使用することができ、例えば、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、骨代謝、抗腫瘍作用、抗炎症作用を有するものである。
また、本発明の飲食品は、例えば、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品などの飲食品として提供することができる。これらの飲食品は、例えば、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病などの予防又は改善用の飲食品として提供することができる。また、本発明の飲食品は、従来、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体を活性化させるリガンド剤が有する作用から応用される用途で使用することができ、以下に限定されないが、例えば、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、骨代謝、抗腫瘍作用、抗炎症作用を有するものである。
また、本発明の化粧品は、肥満の予防または改善用の化粧品や角化細胞の分化促進(特表2006−501136公報)用の化粧品として提供することができる。本発明の化粧品は、従来、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体を活性化させるリガンド剤が有する作用から応用される用途で使用することができ、以下に限定されないが、例えば、抗炎症作用や角化細胞の分化促進作用を有するものである。
本発明の医薬組成物に使用される添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などが例示される。医薬組成物の形態は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられるが、特に経口用組成物としての形態が好ましい。投与量については、患者の状態(年齢、性別、症状など)、及び投与態様等、ならびに、抽出物の活性能を考慮し、適宜投与量を決定することができる。以下に制限されないが、例えば、抽出物の摂取量が、成人一人一日当たり0.01〜1000mg/kg体重、好ましくは1〜300mg/kg体重、さらに好ましくは2〜20mg/kg体重の範囲となるように設定することができる。
本発明の飲食品に添加される添加剤としては、飲食品に通常用いられる添加剤であり、以下に限定されないが、例えば、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、糖類、賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、香料、凝固剤、pH調整剤、増粘剤、エキス粉末、生薬、無機塩等を挙げることができる。
また、飲食品の形態も限定されず、例えば、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類、アイスクリーム、氷菓などの冷菓類、茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料、うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類、蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品、ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料、マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類、パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食品として提供することができる。飲食品に対する本発明の抽出物の含有量や摂取量は、飲食品の種類や品質、期待される作用により異なり、特に限定されず、当業者であれば、その活性能を参照して適宜設定することができる。以下に制限されないが、例えば、抽出物の摂取量が、成人一人一日当たり0.01〜1000mg/kg体重、好ましくは1〜300mg/kg体重、さらに好ましくは2〜20mg/kg体重の範囲となるように設定することができる。
本発明の化粧品も公知の添加剤を含有することができる。また、本発明の化粧品の形態も限定されず、例えば、乳液、石鹸、洗顔料、入浴剤、クリーム、乳液、化粧水、オーデコロン、ひげ剃り用クリーム、ひげ剃り用ローション、化粧油、日焼け・日焼け止めローション、おしろいパウダー、ファンデーション、香水、パック、爪クリーム、エナメル、エナメル除去液、眉墨、ほお紅、アイクリーム、アイシャドー、マスカラ、アイライナー、口紅、リップクリーム、シャンプー、リンス、染毛料、分散液、洗浄料などとして提供することができる。化粧品に対する本発明の抽出物の含有量は、化粧品の種類や品質、期待される作用により異なり特に限定されず、当業者であれば、その活性能を参照して適宜設定することができる。
本発明は、別の態様として、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体が関連する疾患を、予防及び/又は治療するための方法であって、当該予防及び/又は治療を必要とする個体に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を含有する医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
また、本発明は、別の態様として、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体が関連する疾患の予防及び/又は治療のために用いる医薬組成物の製造のための、本発明の、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物の使用を提供する。
また、本発明は、肥満を予防及び/又は治療するための方法であって、当該予防及び/又は治療を必要とする個体に、本発明の、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を含む抗肥満剤を投与することを含む、方法を提供する。
また、本発明は、本発明のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物の、肥満を予防及び/又は治療のために用いる抗肥満剤の製造のための使用を提供する。
以下に、具体的な実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1:ユーカリ木質部の水熱処理の検討>
(製造例1)
原料として、約3cm長のユーカリチップ(E. globulus)を市販のカッターミルで3mm以下に粉砕し、得られた木粉を水と混合させて一晩以上静置した。このスラリーを固液比1:10、水量150mlとなるように調整した後、市販のオートクレーブで150℃、4時間の条件で水熱処理を行った。水熱処理後、遠心分離と蒸留水添加による洗浄を5回繰り返した。洗浄後の固形物は、十分に凍結乾燥した後にデシケーター内で保管された。洗浄後の乾燥不溶分の重量を測定したところ、投入原料(水熱処理に供した木粉乾燥重量)の73%であった。これは、原料中のヘミセルロース成分が加水分解により単糖、オリゴ糖となり、処理液中に溶解したためである。
上記で得られた固形物(絶乾重量10g)をフラスコに取り、200mlのアセトンを添加して密閉し、室温で1時間攪拌した。攪拌後、フィルター(PTFE、孔径0.2μm)によりろ過し、得られた抽出液を72時間以上真空乾燥した。乾燥後に測定した抽出物の重量に基づいて有機溶媒可溶率を求めた。有機溶媒可溶率は、下記式により木粉末乾燥重量ベースに換算した。
Figure 2019026639
(製造例2)
製造例1の条件において水熱処理条件を140℃、8時間に変更した以外は、製造例1と同様にして抽出物を得て、有機溶媒可溶率を求めた。140℃、8時間処理における水熱処理固形分回収率は0.74であった。
(比較例1)
カッターミル後の3mm長以下の原料木粉に対して、水熱処理を行わず、直接アセトンを添加し、室温で72h撹拌した。攪拌後、フィルター(PTFE、孔径0.2μm)によりろ過し、得られた抽出液を72時間以上真空乾燥した。乾燥後に測定した抽出物の重量に基づいて有機溶媒可溶率を求めた。
(比較例2)
製造例1の条件において水熱処理条件を100℃、8時間とした以外は、製造例1と同様にして抽出物を得て、有機溶媒可溶率を求めた。
製造例1、2および比較例1、2の有機溶媒可溶率の結果を表1に示す。
Figure 2019026639
表1に示される通り、本発明に属する実施例では、水熱処理を施すことにより、水熱処理固形分の有機溶媒への可溶率を向上させることができ、抽出撹拌時間の大幅な低減が可能である。なお、比較例1が示すように、木粉末から水熱処理工程を経ずに、直接アセトンで有機溶媒可溶成分を抽出することも可能であったが、水熱処理固形分に比べて有機溶媒可溶率は1/10以下であった。比較例1および2のそれぞれにおいて、処理後の固形分残存率(対木粉末重量)は95%以上であった。すなわち、比較例1および2において、原料木粉末重量からほとんど減少していなかった。
また、製造例1の水熱処理固形分からのアセトン抽出物は透き通った濃赤色であるが、比較例1の木粉末からのアセトン抽出物は濁っていた。さらに、比較例1の木粉末からのアセトン抽出物を乾燥後、再度アセトンを添加したところ、完全には溶解しなかった。
<実施例2:アセトン抽出物の分析>
製造例1、ならびに比較例1で得られたアセトン抽出物溶液(溶媒:アセトン)中の組成物をガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所QP-2010Ulta)で分析した。その結果を図1(製造例1)、図2(比較例1)に示す。キャピラリーカラム(アジレント株式会社DB-1、30m×0.25μm×0.25mm)を用いて、キャリアガスはヘリウム、初期温度45分でラグタイム5分、4℃/分で加熱し、300℃で10分保持した。
図1で示されるように、シリンガアルデヒド(図1中、3のピークに該当する化合物)のようにリグニン由来モノマーが顕著に検出されたが、保持時間67分付近にシトステロール(図1中、5のピークに該当する化合物)、スチグマスタノール(図1中、6のピークに該当する化合物)も検出された。同定されていないピークについても、シミラリティは低いが、リグニン由来物質と推測される。以上のように、詳細な反応は不明であるが、ユーカリ木質部の構成成分であるリグニンが低分子化され、有機溶媒に可溶な化合物になったものと考えられる。一方、図2で示されるように、木粉末からのアセトン抽出物はリグニン由来モノマーがほとんど含まれておらず、シトステロール、スチグマスタノールが顕著であった。
また、製造例1、ならびに比較例1で得られたアセトン抽出溶液(溶媒:アセトン)中の構成成分を熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(フロンティアラボパイロライザーPY-3030D+島津製作所QP-2010Ultra)を用いて分析した。その結果を図3に示す。550℃、12秒の熱分解ガスを、ヘリウムをキャリアガスとしてキャピラリーカラム(フロンティアラボUltraALLOY-5(MS/HT))に導入した。初期温度は45℃、ラグタイム3分、4℃/分で加熱し、300℃で10分保持した。図3に示されるように、検出されたほとんどのピークがリグニン由来物質であり、アセトン抽出物中の成分はほぼリグニン由来物質で占められていると考えられる。一方、図4で示されるように、木粉末からのアセトン抽出物にもリグニン由来物が検出されるものの含有率は低いと推測される。
<実施例3:有機溶媒抽出物のPPARγ活性測定>
製造例1で得られたアセトン抽出物によるPPARγ活性を、ルシフェラーゼレポーターアッセイにより測定した。具体的には、アフリカミドリザル腎由来細胞株であるCV−1細胞を、それぞれ2×10個/ウェルとなるように6ウェルプレートに播種し、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)中で1日間培養した。次に、GAL4遺伝子のDNA結合ドメイン(Gal4−DBD)とヒトの核内受容体PPARγのリガンド結合ドメインとのキメラタンパク質を発現する、キメラタンパク質発現プラスミド(pGal4−DBD/PPARγ−LBD)、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流にGal4−DBD応答配列を連結したレポータープラスミド(pGal4−Luc)、ならびにウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の上流に遺伝子構成的発現プロモーターであるCMVプロモーターを連結した内部標準プラスミド(pRL−CMV)の3つのプラスミドを用意し、これらキメラタンパク質発現プラスミド、レポータープラスミドおよび内部標準プラスミドを重量比1:0.9:0.1の割合で混合して混合プラスミド液を調製した。調製した混合プラスミド液を、総DNA量で10μg/mLとなるようOpti−MEM培地に加え、さらに遺伝子導入試薬X−tremeGENE HP(Roche社)を1/50量加えて15分間静置し、これを遺伝子導入用培地とした。CV−1細胞を播種した各ウェル に、調製した遺伝子導入用培地を200μLずつ添加し、6時間培養することによってCV−1細胞にキメラタンパク質発現プラスミド、レポータープラスミドおよび内部標準プラスミドを導入し、これを検討用細胞とした。
試験物質として、製造例1で得られたアセトン抽出物、陽性コントロール物質としてピオグリタゾン10μmol/L、また、陰性コントロール物質としてDMSOを用意した。フェノールレッドを含まない、活性炭処理したFBSを10%(v/v)含むDMEM培地(活性炭処理FBS含有DMEM培地)に、試験物質、陽性コントロール物質または陰性コントロール物質のいずれかを添加して、検討用の培地を調製した。検討用の培地における陰性コントロール物質の濃度は、DMSOが終濃度0.5%(v/v)とした。
次に、上記検討用細胞にトリプシンを作用させて細胞を分散し、96ウェルプレートに1.6×10個/ウェルとなるよう播種した後、ウェル内の培地を検討用の培地に交換して48時間培養することにより、検討用細胞に試験物質、陽性コントロール物質および陰性コントロール物質を作用させた。続いてリン酸緩衝生理食塩水で細胞を洗浄し、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社)およびプレートリーダー(Luminescencer、AB-2350EX;ATTO社)を用いてホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼの発光強度を測定した。
以上の操作を、1サンプルにつき3つのウェルを用いて行い、サンプルごとに3つのウェルの発光強度の平均値を算出し、これを発光強度の測定結果とした。
ホタルルシフェラーゼの発光強度を、次式のようにウミシイタケルシフェラーゼの発光強度で除した値を実質的発光値とした。
Figure 2019026639
さらに、次式のように試験物質を添加した場合の実質的発光値を、陰性コントロール物質を添加した場合の実質的発光値で除した相対比をPPARγ活性値とした。
Figure 2019026639
PPARγ活性値が2以上であって、かつ細胞毒性が無い場合は、核内受容体の活性を有意に促進したと言える。なお、ウミシイタケルシフェラーゼ発光強度が、陰性コントロール物質または陽性コントロール物質を添加した場合の発光値の少ない方と比較して、試験物質を添加した場合に1/2より低下した場合は細胞毒性が有るものとし、発光値が1/2以上である場合は細胞毒性が無いものとした。
また、毎回の試験実施時に陽性コントロール物質のピオグリタゾンを添加した場合のPPARγ活性値を測定し、大きな差異がないことを確認して再現性を担保した。結果を表2に示す。なお、PPARγ活性成分は、成分ごと添加濃度依存的に毒性が生じるが、PPARγ活性の最大値は、毒性が生じていない状態における活性の最大値を示す。
Figure 2019026639
表2に示すように、製造例1および2では、3以上のPPARγ活性倍数最大値を示した。また、140℃、8時間の水熱処理物のアセトン抽出物(製造例2)は、150℃、4時間の場合(製造例1)と同程度の活性促進効果を有していた。一方で、表2の比較例1および2の結果が示すように、水熱処理なしの条件、および、100℃、8時間の水熱処理条件では、PPARγ活性の増加は認められなかった。
(製造例3および4)
製造例1で得られたアセトン抽出物を、HPLC(島津製作所Prominance GPC・フラクションコレクターシステム)を用いて数平均分子量1000(製造例3)、500(製造例4)にそれぞれ分画した。当該サンプルを用いた以外は上記実施例2と同じ条件でPPARγ活性を測定した。その結果を表3に示す。数平均分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィ―法により測定した。カラムは昭和電工製GPC-LF804を2本、ガードカラムとともに連結し、40℃に設定したオーブンの中で使用した。溶離液として高速液体クロマトグラフ用のテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流した。検出器は島津製作所製吸光度検出器SPD-20Aで、254nmの吸光度を測定した。数平均分子量は、分子量分布の狭い標準ポリスチレン試料(NMIJ CRM、PS500、PS1000、PS2400、PS8500)をスタンダードとして、島津製作所製GPCソフトウェアから算出した。
(比較例3)
製造例1で得られたアセトン抽出物から、HPLCで分画された数平均分子量2000のサンプルを調製した。当該サンプルを用いて、実施例3と同じ条件でPPARγ活性の測定を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2019026639
表3に示される通り、ユーカリ木質部の水熱処理固形物から得られた有機溶媒可溶成分は、PPARγ活性化作用を有しており、特に分子量1000や500の活性化の最大値(試験溶媒のみ(100μg/ml DMSO)を添加した群の発現量に対するサンプル溶液を添加した群の発現量の比の最大値)が高かった。一方、分子量2000のものは、活性化の最大値が2以下であった。このように、有機溶媒可溶成分をカラムクロマト等により分離することで、活性が高い成分を抽出することができる。
<実施例4:有機溶媒の検討>
(製造例5)
製造例1において使用する有機溶媒をアセトンからジエチルエーテルに変更した以外は製造例1と同じ条件で抽出物を調製した。すなわち、製造例1に記載する、ユーカリ木質部の水熱処理後の固液分離により得られた固形物(絶乾重量10g)をフラスコに取り、200mlのジエチルエーテルを添加して密閉し、室温で1時間攪拌した。攪拌後、フィルター(PTFE、孔径0.2μm)によりろ過し、得られた抽出液を72時間以上真空乾燥した。乾燥後に測定した抽出物の重量に基づいて有機溶媒可溶率を求めた。結果を表3に示す。
(製造例6)
製造例5において、ジエチルエーテル添加後の撹拌時間が24時間である以外は製造例5と同じ条件でユーカリ木質部から抽出物を調製した。また、実施例1と同様にして、有機溶媒可溶率を求めた。結果を表4に示す。
(比較例4)
製造例1において使用する有機溶媒をアセトンからヘキサンに変更し、ヘキサン添加後の攪拌時間を72時間とした以外は、製造例1と同じ条件でユーカリ木質部から抽出物を調製した。また、実施例1と同様にして、有機溶媒可溶率を求めた。結果を表4に示す。
Figure 2019026639
水熱処理固形分はアセトンによく溶解したが、ジエチルエーテルにも溶解可能であった。一方で、ヘキサンへの可溶率は非常に小さいものであった。
製造例6で得られたジエチルエーテル抽出物の数分子量を、製造例3および4で用いたHPLCシステムで測定した。分析条件は製造例3および4と同じである。その結果、ジエチルエーテル抽出物の数平均分子量は609であり、製造例4の数平均分子量500より若干分子量が大きい抽出物であった。
比較例4で得られたヘキサン抽出溶液(溶媒:ヘキサン)中の組成物を上記<実施例2:アセトン抽出物の分析>に記載の方法と同様にガスクロマトグラフ質量分析計で分析した。その結果を図5に示す。なお、図5には、ユーカリの葉から抽出されるユーカリオイルの主要成分である1,8−シネオールの試薬をヘキサンに溶解させて、対照実験として測定した結果も併せて示す。
図5に示されるように、ユーカリ木質部由来のヘキサン抽出物にはリグニン由来物質が検出されなかった。よって、ヘキサンを抽出溶媒として用いた際には、リグニン由来のPPAR活性物質を得ることができなかった。
また、図5に示されるように、ユーカリ木質部由来のヘキサン抽出物には、ユーカリオイルの主成分である1,8−シネオールが検出されなかった。これは、図1や図3に示すように、他の有機溶媒を用いた際にも同様であった。すなわち、本発明の方法によるユーカリ木質部由来の抽出物は、ユーカリ葉から抽出されるユーカリオイル中の主要成分である1,8−シネオールなどのテルペン化合物を含まず、リグニン由来成分等がPPARγ活性化作用に影響を及ぼしていることが分かった。
<実施例4:ジエチルエーテル抽出物のPPARγ活性測定>
製造例5で得られたジエチルエーテル抽出物を用いた以外は実施例3と同じ条件で、PPARγ活性の測定を行った。その結果を表5に示す。
Figure 2019026639
ジエチルエーテルを有機溶媒として、水熱処理後のユーカリ木質部から抽出物を得た場合、表4に示すように、有機溶媒可溶率はアセトンと比較して低いものであった。しかしながら、PPARγ活性に着目すると、表5に示すように、ジエチルエーテル抽出物は、アセトン抽出物のPPARγ活性よりも高く、アセトン抽出成分をHPLCで分画した数平均分子量500の分画成分に近い活性を有していた。
<実施例5:水熱処理液からのアセトン抽出物のPPARγ活性測定>
(製造例7)
製造例1で得られた水熱処理液を十分に凍結乾燥し、固形化した後に、デシケーター内で保管した。上記で得られた固形分(絶乾重量10g)をフラスコに取り、200mlのアセトンを添加して密閉し、室温で6h攪拌した。攪拌後、フィルター(PTFE、孔径0.2μm)よりろ過し、得られた抽出液からロータリーエバポレーターでアセトンを留去し、72時間以上真空乾燥して固形状の抽出物を得た。得られた抽出物は、水に再溶解可能であった。上記で得られた抽出物を、実施例3と同じ条件でPPARγ活性の測定を行ったその結果を表6に示す。
Figure 2019026639
水熱処理液からアセトン可溶成分を抽出して得られた抽出物においても、必要濃度は高くはなるが、水熱処理後のユーカリ木質部固形分から抽出物を得た場合とほぼ同等のPPARγ活性を持っていた。
<実施例6:水熱処理液からのジエチルエーテル抽出物の分析>
(製造例8)
製造例7において、水熱処理液を凍結乾燥せず、ジエチルエーテルで液―液抽出を72時間行った以外は製造例7と同じ条件で、ユーカリ木質部から抽出物を調製した。得られた抽出物の回収量より、この時の有機溶媒可溶率(抽出物回収量/水熱処理に使用したユーカリ木質部重量)は、2.11%であった。
上記で得られたジエチルエーテル抽出物の構成成分について、実施例2で行った同じ条件で熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析した結果を、図6に示す。図6から、主要なピークの多くはリグニン由来成分であることが分かった。
<実施例7:水熱処理液からのジエチルエーテル抽出物のPPARγ活性>
製造例8で得られた、水熱処理液からのジエチルエーテル抽出物のPPARγ活性測定を、核内受容体、コファクターアッセイシステムにより測定した。具体的には、EnBio RCAS subtype set for PPARγキット(コスモ・バイオ株式会社)を用いて測定した。試験物質として、製造例8で得られた水熱処理液からのジエチルエーテル抽出物および製造例5で得られた水熱処理後のユーカリ木質部固形分からのジエチルエーテル抽出物、陽性コントロール物質としてGW1929 16μmol/L、陰性コントロール物質としてDMSOを96ウェルプレートに添加した。それぞれのサンプルを添加した時の吸光度は、インキュベーションリーダー(HiTS-S2;株式会社サイニクス)を用いて450nmの波長で測定した。それぞれのサンプルは、3つ以上のウェルを用いて行い、平均値を算出して吸光度の測定結果とした。水熱処理液からのジエチルエーテル抽出物ならびに水熱処理後のユーカリ木質部固形分からのジエチルエーテル抽出物は、任意の濃度でDMSOに溶解させ、最終的な濃度における最大活性とその時の濃度の結果を表7に示す。表7では、下記製造例9および10により得られた抽出物の活性測定結果も示す。ここで、最大活性は次式により計算した。
Figure 2019026639
Figure 2019026639
<実施例8:水熱処理温度の影響>
(製造例9)
製造例5において、水熱処理温度が200℃、水熱処理時間が10分、ならびにジエチルエーテル添加後の撹拌時間が3時間である以外は製造例5と同じ条件でユーカリ木質部から抽出物を調製した。
(製造例10)
製造例8において、水熱処理温度が200℃、水熱処理時間が10分である以外は製造例8と同じ条件でユーカリ木質部から抽出物を調製した。
表7から、150℃、4時間水熱処理液ジエチルエーテル抽出物ならびに200℃、10分水熱処理ユーカリ木質部ジエチルエーテル抽出物、200℃、10分水熱処理液ジエチルエーテル抽出物は、最大活性濃度は150℃、4時間水熱処理ユーカリ木質部よりも高いものの、最大活性値も高かった。以上のことから、200℃水熱処理ユーカリ木質部ならびに150℃及び200℃水熱処理液からのジエチルエーテル抽出物は、150℃水熱処理ユーカリ木質部からのジエチルエーテル抽出物とともに、PPARγ活性を有している。
本発明の製造方法によれば、製紙産業で行われている大規模植林で生産されたユーカリの木質部から、PPARγ活性倍数最大値2以上のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤を得ることができる。このとき、木質部の他の成分であるセルロースやヘミセルロース由来の糖は過分解されておらず、これらの糖を利用したバイオリファイナリーを行うことも可能である。

Claims (18)

  1. ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法であって、
    前記ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程と
    前記工程により得られたユーカリ木質部を含む水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程と
    を含む製造方法。
  2. 請求項1に記載の製造方法であって、前記水熱処理工程後であって抽出物を得る工程の前に、前記ユーカリ木質部を含む水熱処理液を乾燥する工程をさらに含む、製造方法。
  3. ユーカリ木質部からペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用を有する抽出物を製造する方法であって、
    (a)前記ユーカリ木質部を、水または有機溶媒と水との混合液中、140℃〜200℃の範囲で水熱処理する工程と
    (b)水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理溶液からユーカリ木質部および水熱処理液を固液分離によりそれぞれ回収する工程と
    (c)回収したユーカリ木質部または水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程と
    を含む製造方法。
  4. 請求項3に記載の製造方法であって、前記(b)固液分離工程の後、
    前記ユーカリ木質部または水熱処理液を乾燥する工程をさらに含む、製造方法。
  5. 請求項3または4に記載の製造方法であって、
    前記(b)固液分離工程が、水熱処理後のユーカリ木質部を水熱処理溶液から固液分離により回収する工程であり、
    前記(c)抽出物を得る工程が、回収したユーカリ木質部と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程である、製造方法。
  6. 請求項3または4に記載の製造方法であって、
    前記(b)固液分離工程が、水熱処理後のユーカリ木質部を含む水熱処理溶液から水熱処理液を固液分離により回収する工程であり、
    前記(c)抽出物を得る工程が、回収した水熱処理液と有機溶媒とを混合し、前記有機溶媒に可能な成分を抽出物として得る工程である、製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、
    前記(a)水熱処理の工程において、前記水または有機溶媒と水との混合液に対する前記ユーカリ木質部を1重量%〜20重量%の範囲とする、製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法であって、
    前記(c)抽出物を得る工程において使用する有機溶媒が、エーテル類、アルコール類、ニトリル類、ケトン類およびジスルホキシド類からなる群より選択される1種類または2種類以上の有機溶媒である、製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法であって、
    請求項1または2における前記抽出物を得る工程、または、請求項3〜8のいずれか一項における前記(c)抽出物を得る工程において使用する有機溶媒が、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、および、テトラヒドロフランからなる群より1種類または2種類以上の有機溶媒であるである、製造方法。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法であって、
    前記(a)水熱処理の工程が有機溶媒と水との混合液中で行われ、前記有機溶媒が、アセトン、エタノール、メタノール、プロパノール、および、ジエチルエーテルからなる群より1種類または2種類以上の有機溶媒である、製造方法。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法であって、請求項1または2における前記抽出物を得る工程、または、請求項3〜10のいずれか一項における前記(c)抽出物を得る工程の後に、
    (d)得られた抽出物をさらに精製する工程を含む、製造方法。
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法により得られる抽出物(ただし、1,8−シネオールを含むユーカリ由来の抽出物ではない)。
  13. p−ヒドロキシフェニル核、グアイアシル核、または、シリンギル核のいずれか1種類以上を有する化合物を含み、かつ、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化作用が2以上である、ユーカリ木質部由来の抽出物(ただし、1,8−シネオールを含むユーカリ由来の抽出物ではない)。
  14. 請求項12または13に記載の抽出物を含む、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体活性化剤。
  15. 請求項12または13に記載の抽出物を含む、抗肥満剤。
  16. 請求項12または13に記載の抽出物を含む、飲食品。
  17. 請求項12または13に記載の抽出物を含む、化粧品。
  18. 請求項12または13に記載の抽出物を含む、医薬組成物。
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