以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着シート〕
本発明の実施形態に係る粘着シートは、少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、他の表示体構成部材とを貼合するための粘着剤層を有する。なお、表示体および表示体構成部材については、後述する。
1.物性
(1)モジュラス
上記粘着剤層を構成する粘着剤について23℃にて引張試験を行ったときの、粘着剤の1000%モジュラス(伸び率1000%に達する前に破断したときには破断時のモジュラス;以下単に「破断時のモジュラス」という場合がある。)は、下限値として0.22MPa以上であり、好ましくは0.25MPa以上であり、特に好ましくは0.27MPa以上である。上記1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)の下限値が0.22MPa以上であることにより、粘着剤層としての被膜強度が高く、加工性に優れたものとなる。例えば、粘着シートを抜き加工等する際に、刃に粘着剤が付着して粘着剤層の一部が欠けてしまう等の問題が発生することが抑制される。また、粘着シートの保管時等に、粘着剤層から粘着剤が染み出すことも抑制される。
上記1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)の上限値は、特に限定されないが、通常は、2.0MPa以下であることが好ましく、特に1.0MPa以下であることが好ましく、段差追従率をより優れたものとする観点から、0.50MPa以下であることがさらに好ましい。ここで、上記引張試験の詳細は、後述する試験例に示す通りである。
(2)段差追従性
本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層は、下記の式で示される段差追従率(%)が、下限値として30%以上であり、好ましくは40%以上であり、特に好ましくは50%以上である。一方、段差追従率の上限値としては、特に限定されないが、通常、80%以下であることが好ましく、特に70%以下であることが好ましい。
段差追従率(%)={(所定耐久試験後、気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された段差の高さ(μm))/(粘着剤層の厚み)}×100
なお、上記の所定耐久試験は、サンプルを85℃、85%RHにて72時間保管する試験であり、段差追従率の具体的な試験方法は、後述する試験例に示す通りである。
粘着剤層の段差追従率が上記の範囲にあることにより、本実施形態に係る粘着シートを、段差を有する表示体構成部材に貼付したときに、粘着剤層が段差に追従し易く、段差近傍に隙間、浮き等が生じることが抑制される。また、その状態で高温高湿条件下、例えば、85℃、85%RH条件下に72時間置いた場合でも、段差近傍に気泡、浮き、剥がれ等が発生することが抑制される。これにより、得られる表示体において、光の反射損失が生じることが抑制される。
以上のように、本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層は、高い被膜強度および優れた段差追従性という相反する物性を両立させたものである。
(3)破断伸度
上記粘着剤層を構成する粘着剤について、23℃にて引張試験を行ったときの破断伸度は、500%以上であることが好ましく、特に800%以上であることが好ましく、さらには1000%以上であることが好ましく、1200%以上であることが最も好ましい。破断伸度が500%以上であることにより、粘着剤層は、上記の段差追従率を満たし易いものとなる。
なお、破断伸度の上限値は、特に限定されないが、通常は、3000%以下であることが好ましく、特に2000%以下であることが好ましい。ここで、破断伸度の引張試験は、前述した1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)の引張試験と同じ方法によるものである。
(4)粘着力
本実施形態に係る粘着シートのソーダライムガラスに対する粘着力は、下限値として5N/25mm以上であることが好ましく、特に10N/25mm以上であることが好ましく、さらには15N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1の粘着力が5N/25mm以上であると、高温高湿下での段差追従性がより優れたものとなる。また、本実施形態に係る粘着シートのソーダライムガラスに対する粘着力は、上限値として50N/25mm以下であることが好ましく、40N/25mm以下であることがより好ましく、35N/25mm以下であることが特に好ましく、25N/25mm以下であることがさらに好ましい。粘着シート1の粘着力が50N/25mm以下であると、裁断の際に刃への粘着剤が付着するのを防止することができ、さらに25N/25mm以下であると、良好なリワーク性が得られ、貼合ミスが生じた場合、高価な表示体構成部材の再利用が可能となる。
ここで、上記粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいうが、測定サンプルは25mm幅、100mm長とし、当該測定サンプルを被着体に貼付し、0.5MPa、50℃で20分加圧した後、常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、剥離速度300mm/minにて測定するものとする。
(5)湿熱粘着力
本実施形態に係る粘着シートのソーダライムガラスに対する湿熱条件における粘着力(本明細書において「湿熱粘着力」という。)は、下限値として5N/25mm以上であることが好ましく、特に10N/25mm以上であることが好ましく、さらには15N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1の湿熱粘着力が5N/25mm以上であると、高温高湿下での段差追従性がより優れたものとなる。また、本実施形態に係る粘着シートのソーダライムガラスに対する湿熱粘着力は、上限値として50N/25mm以下であることが好ましく、40N/25mm以下であることがより好ましく、30N/25mm以下であることが特に好ましく、25N/25mm以下であることがさらに好ましい。粘着シート1の湿熱粘着力が50N/25mm以下であると、裁断の際に粘着剤が刃に付着するのを防止することができ、さらに25N/25mm以下であると、良好なリワーク性が得られ、貼合ミスが生じた場合、高価な表示体構成部材の再利用が可能となる。
ここで、上記湿熱粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいうが、測定サンプルは25mm幅、100mm長とし、当該測定サンプルを被着体に貼付し、0.5MPa、50℃で20分加圧した後、60℃、90%RHの条件下で24時間放置し、次いで常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、剥離速度300mm/minにて測定するものとする。
(6)ヘイズ値
本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層のヘイズ値は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましく、0.7%以下であることがさらに好ましい。粘着剤層のヘイズ値が5%以下であると、透明性が非常に高く、光学用途(表示体用)として好適である。なお、本明細書におけるヘイズ値は、JIS K7136:2000に準じて測定した値とする。
2.粘着剤層
本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層は、前述した1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)および段差追従性を満たし、好ましくは、さらに前述した破断伸度、粘着力、湿熱粘着力およびヘイズ値を満たす粘着剤によって構成される。
かかる粘着剤は、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマー(分子内に水酸基を含有するモノマー)および脂環式構造含有モノマー(分子内に脂環式構造を含有するモノマー)を含む(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、環状分子として環状オリゴ糖を有するポリロタキサン化合物(B)と、イソシアネート系架橋剤(C)とを含有する粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)を架橋することにより、好ましく得ることができる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
上記粘着性組成物Pを架橋させると、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基含有モノマー由来の水酸基と、イソシアネート系架橋剤(C)のイソシアネート基とが反応して三次元網目構造が形成され、所定の凝集力を有する粘着剤が得られる。ポリロタキサン化合物(B)は、環状分子とそれを貫通する直鎖状分子との機械的結合を有しており、環状分子は直鎖状分子上を自由に移動することが可能となっている。かかる構造により、ポリロタキサン化合物(B)は、得られる粘着剤に優れた応力緩和性を付与することができる。また、脂環式構造含有モノマーは嵩高いため、これを重合体中に存在させることにより、重合体同士の間隔を広げるものと推定され、得られる粘着剤を柔軟性に優れたものとすることができる。したがって、粘着性組成物Pが上記ポリロタキサン化合物(B)を含むとともに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が脂環式構造含有モノマーを構成モノマー単位とすることにより、粘着性組成物Pを架橋させて得られる粘着剤は、段差追従性に優れたものとなり、前述した段差追従性の値を満たすことができる。
上記の優れた段差追従性は、粘着剤の貯蔵弾性率を低くしなくても得られるため、粘着性組成物Pを架橋させて得られる粘着剤から形成される粘着剤層は、高い被膜強度を発揮することができ、前述した1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)の値を満たすことができる。
ここで、ポリロタキサン化合物(B)の環状分子が、反応性基として水酸基を有する環状オリゴ糖である場合には、特に以下の作用効果が奏される。すなわち、粘着性組成物Pを架橋させると、イソシアネート系架橋剤(C)のイソシアネート基と、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基含有モノマー由来の水酸基とが反応するとともに、イソシアネート系架橋剤(C)のイソシアネート基と、ポリロタキサン化合物(B)が有する環状分子の水酸基とが反応する。これにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、水酸基によりイソシアネート系架橋剤(C)を介してポリロタキサン化合物(B)の1つの環状分子と結合し、同様に、別の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が当該ポリロタキサン化合物(B)の別の環状分子と結合するものと推定される。その結果、複数の(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)はポリロタキサン化合物(B)により互いに機械的に結合された三次元網目構造等の高次構造を形成するものと推定される。かかる高次構造により、ポリロタキサン化合物(B)を有しない以外は同様な高次構造と比較して、応力緩和性を悪化させることなく(段差追従性はそのままに)、被膜強度をより高いものとすることができる。
なお、得られる粘着剤の全てが上記の推定構造である必要はなく、2つの(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、ポリロタキサン化合物(B)を介さず、イソシアネート系架橋剤(C)により直接結合されている構造等を含んでいてもよい。
(1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーおよび脂環式構造含有モノマーを含むことが好ましい。
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基のイソシアネート系架橋剤(C)との反応性および他の単量体との共重合性の点から(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、下限値として3質量%以上含有することが好ましく、特に5質量%以上含有することが好ましく、さらには10質量%以上含有することが好ましい。水酸基含有モノマーの含有量が3質量%以上であれば、得られる粘着剤の凝集力が向上し、それにより被膜強度がより高いものとなる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、上限値として30質量%以下含有することが好ましく、特に25質量%以下含有することが好ましく、さらには20質量%以下含有することが好ましい。水酸基含有モノマーの含有量が30質量%以下であれば、適切な粘着性が得られ易くなるとともに、粘着剤が硬くなり過ぎることを抑制し、段差追従性がより優れたものとなる。
脂環式構造含有モノマーにおける脂環式構造の炭素環は、飽和構造のものであってもよいし、不飽和結合を一部に有するものであってもよい。また、脂環式構造は、単環の脂環式構造であってもよいし、二環、三環等の多環の脂環式構造であってもよい。得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の相互間の距離を適切にし、粘着剤により高い応力緩和性を付与する観点から、上記脂環式構造は、多環の脂環式構造(多環構造)であることが好ましい。さらに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と他の成分との相溶性を考慮して、上記多環構造は、二環から四環であることが特に好ましい。また、上記と同様に応力緩和性を付与する観点から、脂環式構造の炭素数(環を形成している部分の全ての炭素数をいい、複数の環が独立して存在する場合には、その合計の炭素数をいう)は、通常5以上であることが好ましく、7以上であることが特に好ましい。一方、脂環式構造の炭素数の上限は特に制限されないが、上記と同様に相溶性の観点から、15以下であることが好ましく、10以下であることが特に好ましい。
上記脂環式構造含有モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等が挙げられ、中でも、湿熱条件下でより優れた段差追従性を発揮する、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル(脂環式構造の炭素数:10)、(メタ)アクリル酸アダマンチル(脂環式構造の炭素数:10)または(メタ)アクリル酸イソボルニル(脂環式構造の炭素数:7)が好ましく、特に(メタ)アクリル酸イソボルニルが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、脂環式構造含有モノマーを1質量%以上含有することが好ましく、特に5質量%以上含有することが好ましく、さらには10質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、脂環式構造含有モノマーを50質量%以下含有することが好ましく、特に40質量%以下含有することが好ましく、さらには30質量%以下含有することが好ましい。脂環式構造含有モノマーの含有量が上記範囲内にあると、得られる粘着剤の段差追従性がより優れるとともに、透明導電膜およびプラスチックに対する優れた粘着力が十分に発揮される。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、上記水酸基含有モノマーおよび脂環式構造含有モノマー以外に、アルキル基の炭素数が5〜20、特に8〜15の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(脂環式構造を含まないもの)を含有することが好ましい。これにより、ポリロタキサン化合物(B)との相溶性を低下させることなく、好ましい粘着性を発現することができる。また、得られる粘着剤に柔軟性を付与し、段差追従性を優れたものとすることができる。なお、上記アルキル基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
上記の観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が5〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10質量%以上含有することが好ましく、特に20質量%以上含有することが好ましく、さらには50質量%以上含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10質量%以上含有すると、得られる粘着剤が好適な粘着性およびより優れた段差追従性を発揮することができる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が5〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを90質量%以下含有することが好ましく、特に80質量%以下含有することが好ましく、さらには70質量%以下含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを90質量%以下とすることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
アルキル基の炭素数が5〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル等が挙げられる。中でも、粘着性およびポリロタキサン化合物(B)との相溶性をより向上させる観点から、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が4以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有しないか、60質量%未満、好ましくは50質量%以下、特に好ましくは30質量%以下の量で含有することも好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、窒素原子含有モノマーを含有することも好ましい。窒素原子含有モノマーを構成単位として重合体中に存在させることにより、粘着剤に所定の極性を付与し、ガラスのようなある程度の極性を有する被着体に対しても、親和性に優れたものとすることができる。上記窒素原子含有モノマーとしては、アミノ基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー、窒素含有複素環を有するモノマーなどが挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に適度な剛性を持たせる観点から、窒素含有複素環を有するモノマーが好ましい。
窒素含有複素環を有するモノマーとしては、例えば、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−(メタ)アクリロイルピロリドン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルアジリジン、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ビニルピラジン、1−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルフタルイミド等が挙げられ、中でも、より優れた粘着力を発揮するN−(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、特にN−アクリロイルモルホリンが好ましい。
なお、窒素原子含有モノマーとして、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルカプロラクタム、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を使用することもできる。
以上の窒素原子含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として窒素原子含有モノマーを含有する場合、当該窒素原子含有モノマーを0.5質量%以上含有することが好ましく、特に1質量%以上含有することが好ましく、さらには3質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、当該窒素原子含有モノマーを20質量%以下含有することが好ましく、特に15質量%以下含有することが好ましく、さらには8質量%以下含有することが好ましい。窒素原子含有モノマーの含有量が上記の範囲内にあると、得られる粘着剤が、ガラスに対する優れた粘着力を十分に発揮することができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以上のハードモノマーを含有することも好ましい。なお、このハードモノマーには、前述した各種のモノマーも含まれ得る。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成するモノマー単位として、上記ハードモノマーを含有させることにより、得られる粘着剤は、凝集力がより向上し、被膜強度がより高いものとなる。特に、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が5〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル)を使用する場合には、凝集力が低くなる傾向があるため、上記ハードモノマーを使用することが好ましい。上記ハードモノマーのホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)は、下限値として15℃以上であることが好ましく、特に80℃以上であることが好ましい。また、上記ガラス転移温度(Tg)は、上限値として200℃以下であることが好ましく、特に180℃以下であることが好ましい。
上記ハードモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、アクリル酸イソボルニル(Tg94℃)、メタクリル酸イソボルニル(Tg180℃)、アクリル酸アダマンチル(Tg115℃)、メタクリル酸アダマンチル(Tg141℃)、アクリロイルモルホリン(Tg145℃)、アクリル酸シクロヘキシル(Tg19℃)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として上記ハードモノマーを含有する場合、当該ハードモノマーを5質量%以上含有することが好ましく、10質量%以上含有することが特に好ましい。上記ハードモノマーを5質量%以上含有することにより、被膜強度をより向上させることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、上記ハードモノマーを40質量%以下含有することが好ましく、30質量%以下含有することが特に好ましい。上記ハードモノマーを40質量%以下の含有量とすることにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中におけるそれ以外のモノマー単位の相対的な不足を防止し、得られる粘着剤の粘着性および段差追従性を優れたものとすることができる。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性を有する官能基(水酸基を除く)を含むモノマーであってもよいし、反応性を有する官能基を含まないモノマーであってもよい。
反応性を有する官能基を含むモノマーとしては、カルボキシ基含有モノマーが好ましく挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、水酸基含有モノマー由来の水酸基とイソシアネート系架橋剤(C)との反応への影響、および他の単量体との共重合性の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が当該重合体を構成するモノマー単位としてカルボキシ基含有モノマーを含有する場合、その含有量は、下限値として0.5質量%以上であることが好ましく、特に1質量%以上であることが好ましい。また、上限値としては、20質量%以下であることが好ましく、特に10質量%以下であることが好ましい。
なお、得られる粘着剤の架橋構造の制御を容易にする観点から、反応性を有する官能基を含むモノマーを前述の水酸基含有モノマーのみとすることも好ましい。
一方、反応性を有する官能基を含まないモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、下限値として10万以上であることが好ましく、特に20万以上であることが好ましく、さらには30万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記以上であると、得られる粘着剤の被膜強度がより高いものとなる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量は、上限値として90万以下であることが好ましく、特に80万以下であることが好ましく、さらには70万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記以下であると、得られる粘着剤の段差追従性がより優れたものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(2)ポリロタキサン化合物(B)
ポリロタキサン化合物(B)は、少なくとも2つの環状分子の開口部に直鎖状分子が貫通し、かつ、直鎖状分子の両末端にブロック基を有してなる化合物である。このポリロタキサン化合物(B)においては、環状分子が直鎖状分子上を自由に移動することが可能であるが、ブロック基により環状分子は直鎖状分子からは抜け出せない構造となっている。すなわち、直鎖状分子および環状分子は、共有結合等の化学結合ではなく、いわゆる機械的結合によりその形態を維持するものとなっている。粘着性組成物Pが、かかる機械的結合を有するポリロタキサン化合物(B)を含有することにより、得られる粘着剤は、応力緩和性が低下することなく、1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)が向上する。これにより、粘着剤層は、被膜強度が増強され、加工性に優れたものとなる。
ポリロタキサン化合物(B)は、環状分子として環状オリゴ糖を有することが好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の環状分子として環状オリゴ糖を使用することにより、適切な環径の選択が可能となり、それにより、直鎖状分子上で環状分子が移動することによる効果が発現しやすい。また、上記環状オリゴ糖が反応性基として水酸基を有すると、イソシアネート系架橋剤(C)との反応が容易である。さらに、様々な置換基等の導入も容易であり、それにより、ポリロタキサン化合物(B)とその他の成分との相溶性をポリロタキサン化合物(B)によって調整することが可能となる。さらに、環状オリゴ糖であれば、入手も容易であるという利点もある。なお、本明細書において、「環状分子」または「環状オリゴ糖」の「環状」は、実質的に「環状」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で移動可能であれば、環状分子は完全には閉環でなくてもよく、例えば螺旋構造であってもよい。
環状オリゴ糖としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等のシクロデキストリンが好ましく挙げられ、中でも特にα−シクロデキストリンが好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の環状分子は、ポリロタキサン化合物(B)中または粘着性組成物P中で2種以上混在していてもよい。
ポリロタキサン化合物(B)の環状分子(環状オリゴ糖)が、反応性基として水酸基を有する場合、その水酸基は、環状オリゴ糖がオリジナル(修飾前の状態をいう。)で有する水酸基であってもよいし、環状オリゴ糖に置換基として導入された水酸基であってもよい。
上記環状分子の水酸基価は、下限値として10mgKOH/g以上であることが好ましく、30mgKOH/g以上であることがより好ましく、50mgKOH/g以上であることが特に好ましい。水酸基価の下限値が上記以上であると、ポリロタキサン化合物(B)がイソシアネート系架橋剤(C)と十分に反応することができる。また、上記環状分子の水酸基価は、上限値として1000mgKOH/g以下であることが好ましく、200mgKOH/g以下であることがより好ましく、100mgKOH/g以下であることが特に好ましい。水酸基価の上限値が上記の値を超えると、同一の環状分子において多数の架橋が生じることにより、当該環状分子自体が架橋点となり、ポリロタキサン化合物(B)全体としての架橋点の効果を発揮できなくなることが考えられる。その結果、ポリロタキサン化合物(B)の添加による、段差追従性はそのままに被膜強度を向上させる効果が十分でなくなることが考えられる。
ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子は、環状分子に包接され、共有結合等の化学結合でなく機械的な結合で一体化することができる分子または物質であって、直鎖状のものであれば、特に限定されない。なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で環状分子が移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。
ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましく、これらの直鎖状分子は、粘着性組成物P中で2種以上混在していてもよい。
ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子の数平均分子量は、下限値として3,000以上であることが好ましく、特に10,000以上であることが好ましく、さらには20,000以上であることが好ましい。数平均分子量の下限値が上記以上であると、環状分子の直鎖状分子上での移動量が確保され、粘着剤の応力緩和性が十分に得られる。また、ポリロタキサン化合物(B)の直鎖状分子の数平均分子量は、上限値として300,000以下であることが好ましく、特に200,000以下であることが好ましく、さらには100,000以下であることが好ましい。数平均分子量の上限値が上記以下であると、ポリロタキサン化合物(B)の溶媒への溶解性や(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性が良好になる。
ポリロタキサン化合物(B)のブロック基は、環状分子が直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持し得る基であれば、特に限定されない。このような基としては、嵩高い基、イオン性基等が挙げられる。
具体的には、ポリロタキサン化合物(B)のブロック基は、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等、あるいは、数平均分子量1,000〜1,000,000の高分子の主鎖または側鎖等が好ましく、これらのブロック基は、ポリロタキサン化合物(B)中または粘着性組成物P中で2種以上混在していてもよい。
以上説明したポリロタキサン化合物(B)は、従来公知の方法(例えば特開2005−154675に記載の方法)によって得ることができる。
粘着性組成物P中におけるポリロタキサン化合物(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として3質量部以上であることが好ましく、特に5質量部以上であることが好ましく、さらには7質量部以上であることが好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の含有量が3質量部以上であると、得られる粘着剤の1000%モジュラス(または破断時のモジュラス)が増し、加工性がより優れたものとなる。また、ポリロタキサン化合物(B)の含有量が7質量部以上であると、さらに、得られる粘着剤の段差追従性も向上する。また、ポリロタキサン化合物(B)の含有量は、上限値として30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが特に好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。ポリロタキサン化合物(B)の含有量が30質量部以下であると、得られる粘着剤の加工性がより優れたものとなるとともに、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性を良好に維持し、得られる粘着剤のヘイズ値を低く抑えることができる。また、ポリロタキサン化合物(B)の含有量が15質量部以下であると、さらに、得られる粘着剤の段差追従性も向上する。
(3)イソシアネート系架橋剤(C)
イソシアネート系架橋剤(C)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基含有モノマー由来の水酸基、およびポリロタキサン化合物(B)が有する環状分子である環状オリゴ糖の水酸基との反応性に優れる。
イソシアネート系架橋剤(C)は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートおよびトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートが好ましい。なお、イソシアネート系架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
粘着性組成物P中におけるイソシアネート系架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.05質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには0.2質量部以上であることが好ましい。イソシアネート系架橋剤(C)の含有量の下限値が上記以上であると、前述した高次構造を良好に形成することができるものと推定され、得られる粘着剤の高温高湿下での段差追従性がより優れたものとなる。また、イソシアネート系架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、上限値として3質量部以下であることが好ましく、特に2質量部以下であることが好ましく、さらには1質量部以下であることが好ましい。イソシアネート系架橋剤(C)の含有量の上限値が上記以下であると、架橋の程度を適度なものとし、得られる粘着剤の段差追従性を良好に確保することが可能である。
(4)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えばシランカップリング剤、反応促進剤、反応抑制剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pを構成する添加剤に含まれないものとする。
シランカップリング剤としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相溶性がよく、光透過性を有するものが好ましい。
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粘着性組成物Pがシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、上記シランカップリング剤の含有量は、上限値として1質量部以下であることが好ましく、特に0.5質量部以下であることが好ましく、さらには0.3質量部以下であることが好ましい。
(5)粘着性組成物の製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、ポリロタキサン化合物(B)と、イソシアネート系架橋剤(C)とを混合するとともに、所望により添加剤を加えることで製造することができる。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
なお、上記重合工程において、2−メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、ポリロタキサン化合物(B)、イソシアネート系架橋剤(C)、ならびに所望により希釈溶剤および添加剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。なお、上記各成分のいずれかにおいて、固体状のものを用いる場合、あるいは、希釈されていない状態で他の成分と混合した際に析出を生じる場合には、その成分を単独で予め希釈溶媒に溶解もしくは希釈してから、その他の成分と混合してもよい。
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10〜60質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
(6)粘着剤の製造
粘着性組成物Pを架橋することにより、本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層を構成する粘着剤を好ましく得ることができる。粘着性組成物Pの架橋は、通常は加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、所望の対象物に塗布した粘着性組成物Pの塗膜から希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
加熱処理の加熱温度は、50〜150℃であることが好ましく、特に70〜120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、10秒〜10分であることが好ましく、特に50秒〜2分であることが好ましい。
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1〜2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤が形成される。
上記の加熱処理(及び養生)により、イソシアネート系架橋剤(C)を介して(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)(およびポリロタキサン化合物(B))が十分に架橋される。このようにして得られる粘着剤は、段差追従性に優れ、かつ高い被膜強度を発揮することができる。
(7)粘着剤のゲル分率
本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層を構成する粘着剤、特に粘着性組成物Pから得られる粘着剤のゲル分率は、下限値として40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。粘着剤のゲル分率の下限値が上記以上であると、粘着剤の凝集力が高くなり、粘着剤層の被膜強度がより高いものとなる。また、粘着性組成物Pから得られる粘着剤のゲル分率は、上限値として90%以下であることが好ましく、特に85%以下であることが好ましく、さらには80%以下であることが好ましい。粘着剤のゲル分率の上限値が上記以下であると、粘着剤が硬くなり過ぎず、粘着剤層の段差追従性がより優れたものとなる。ここで、粘着剤のゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
(8)粘着剤層の厚さ
本実施形態に係る粘着シートにおける粘着剤層の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、下限値として10μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、特に50μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記以上であると、所望の粘着力を発揮し易く、さらに、表示体構成部材の通常の段差に対して十分な段差追従性を確保することができる。また、粘着剤層11の厚さは、上限値として1000μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、特に300μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記以下であると、加工性が良好なものとなる。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
3.粘着シートの具体的構成
本実施形態に係る粘着シートの一例としての具体的構成を図1に示す。
図1に示すように、一実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
(1)粘着剤層
粘着剤層11は、前述した物性を満たす粘着剤から構成され、好ましくは、粘着性組成物Pを架橋してなる粘着剤から構成される。
(2)剥離シート
剥離シート12a,12bは、粘着シート1の使用時まで粘着剤層11を保護するものであり、粘着シート1(粘着剤層11)を使用するときに剥離される。本実施形態に係る粘着シート1において、剥離シート12a,12bの一方または両方は必ずしも必要なものではない。
剥離シート12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
(3)粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例としては、一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを熱架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
本実施形態に係る粘着シート1においては、粘着剤層11の被膜強度が高いため、粘着シート1を抜き加工等する際に、刃に粘着剤が付着して粘着剤層11の一部が欠けてしまう等の問題が発生することが抑制される。また、粘着シート1の保管時等に、粘着剤層11から粘着剤が染み出すことも抑制される。
〔表示体〕
図2に示すように、本実施形態に係る表示体2は、少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材21(一の表示体構成部材)と、第2の表示体構成部材22(他の表示体構成部材)と、それらの間に位置し、第1の表示体構成部材21および第2の表示体構成部材22を互いに貼合する粘着剤層11とを備えて構成される。本実施形態に係る表示体2では、第1の表示体構成部材21は、粘着剤層11側の面に段差を有しており、具体的には、印刷層3による段差を有している。
上記表示体2における粘着剤層11は、前述した粘着シート1の粘着剤層11である。
表示体2としては、例えば、液晶(LCD)ディスプレイ、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電子ペーパー等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。また、表示体2としては、それらの一部を構成する部材であってもよい。
第1の表示体構成部材21は、ガラス板、プラスチック板等の他、それらを含む積層体などからなる保護パネルであることが好ましい。この場合、印刷層3は、第1の表示体構成部材21における粘着剤層11側に、額縁状に形成されることが一般的である。
上記ガラス板としては、特に限定されることなく、例えば、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、アルミノケイ酸ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス等が挙げられる。ガラス板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.1〜5mmであり、好ましくは0.2〜2mmである。
上記プラスチック板としては、特に限定されることなく、例えば、アクリル板、ポリカーボネート板等が挙げられる。プラスチック板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.2〜5mmであり、好ましくは0.4〜3mmである。
なお、上記ガラス板やプラスチック板の片面または両面には、各種の機能層(透明導電膜、金属層、シリカ層、ハードコート層、防眩層等)が設けられていてもよいし、光学部材が積層されていてもよい。また、透明導電膜および金属層は、パターニングされていてもよい。
第2の表示体構成部材22は、第1の表示体構成部材21に貼付されるべき光学部材、表示体モジュール(例えば、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等)、表示体モジュールの一部としての光学部材、または表示体モジュールを含む積層体であることが好ましい。
上記光学部材としては、例えば、飛散防止フィルム、偏光板(偏光フィルム)、偏光子、位相差板(位相差フィルム)、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム、液晶ポリマーフィルム、拡散フィルム、半透過反射フィルム、透明導電性フィルム等が挙げられる。飛散防止フィルムとしては、基材フィルムの片面にハードコート層が形成されてなるハードコートフィルム等が例示される。
印刷層3を構成する材料は特に限定されることなく、印刷用の公知の材料が使用される。印刷層3の厚さ、すなわち段差の高さの下限値は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが特に好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。下限値が上記以上であることにより、電気配線を視認者側から見えなくする等の隠蔽性を十分に確保することができる。また、上限値は、50μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが特に好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。上限値が上記以下であることにより、当該印刷層3に対する粘着剤層11の段差追従性の悪化を防止することができる。
上記表示体2を製造するには、一例として、粘着シート1の一方の剥離シート12aを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11を、第1の表示体構成部材21の印刷層3が存在する側の面に貼合する。このとき、粘着剤層11は、段差追従性に優れるため、印刷層3による段差近傍に隙間や浮きが生じることが抑制される。
その後、粘着シート1の粘着剤層11から他方の剥離シート12bを剥離して、粘着シート1の露出した粘着剤層11と第2の表示体構成部材22とを貼合する。また、他の例として、第1の表示体構成部材21および第2の表示体構成部材22の貼合順序を入れ替えてもよい。
以上の表示体2においては、粘着剤層11が高温高湿条件下でも段差追従性に優れるため、表示体2が、例えば高温高湿条件下(例えば、85℃、85%RH)に置かれた場合でも、段差近傍に気泡、浮き、剥がれ等が発生することが抑制される。
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方または両方は省略されてもよく、また、剥離シート12aおよび/または12bの替わりに所望の光学部材が積層されてもよい。また、第1の表示体構成部材21は、印刷層3以外の段差を有するものであってもよい。さらには、第1の表示体構成部材21のみならず、第2の表示体構成部材22も粘着剤層11側に段差を有するものであってもよい。
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル重合体の調製
アクリル酸2−エチルヘキシル60質量部、アクリル酸イソボルニル20質量部、4−アクリロイルモルホリン5質量部およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル15質量部を共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)60万であった。
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、ポリロタキサン化合物(B)(アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製,製品名「セルム スーパーポリマー SH3400P」,直鎖状分子:ポリエチレングリコール,環状分子:ヒドロキシプロピル基およびカプロラクトン鎖を有するα−シクロデキストリン,ブロック基:アダマンタン基,重量平均分子量(Mw)70万,水酸基価72mgKOH/g)3.0質量部と、イソシアネート系架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,製品名「コロネートL」)0.25質量部と、シランカップリング剤としての3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製,製品名「KBM−403」)0.25質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、固形分濃度40質量%の粘着性組成物の塗布溶液を得た。
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
IBXA:アクリル酸イソボルニル
ACMO:4−アクリロイルモルホリン
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル
BA:アクリル酸n−ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
CHA:アクリル酸シクロヘキシル
MA:アクリル酸メチル
[イソシアネート系架橋剤(C)]
TDI:トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,製品名「コロネートL」)
XDI:トリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネート(綜研化学社製,製品名「TD−75」)
3.粘着シートの製造
上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布した。そして、塗布層に対し、90℃で1分間加熱処理して塗布層を形成した。
次いで、上記で得られた重剥離型剥離シート上の塗布層と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382120」)とを、当該軽剥離型剥離シートの剥離処理面が塗布層に接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:25μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる第1の粘着シートを作製した。
また、上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布したのち、90℃で1分間加熱処理して塗布層(厚さ:25μm)を形成した。同様に、上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382120」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布したのち、90℃で1分間加熱処理して塗布層(厚さ:25μm)を形成した。
次いで、上記で得られた塗布層付きの重剥離型剥離シートと、上記で得られた塗布層付きの軽剥離型剥離シートとを、両塗布層が互いに接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:50μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる第2の粘着シートを作製した。
なお、上記粘着剤層の厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG−02」)を使用して測定した値である。
〔実施例2〜15,比較例1〜5〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を構成する各モノマーの種類および割合、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量、ポリロタキサン化合物(B)の配合量、イソシアネート系架橋剤(C)の種類および配合量、ならびにシランカップリング剤の配合量を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC−8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL−H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
〔試験例1〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で得られた第1の粘着シート(粘着剤層の厚さ:25μm)を80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
〔試験例2〕(ヘイズ値の測定)
実施例および比較例で得られた第1の粘着シート(粘着剤層の厚さ:25μm)の粘着剤層について、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH−2000」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。結果を表2に示す。
〔試験例3〕(引張試験)
実施例および比較例で得られた第2の粘着シート(粘着剤層の厚さ:50μm)の粘着剤層を複数層積層し、合計厚さ600μmとした後、10mm幅×75mm長のサンプルを切り出した。サンプル測定部位が10mm幅×20mm長(伸長方向)になるように上記サンプルを引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロン」)にセットし、23℃、50%RHの環境下で当該引張試験機を用いて引張速度200mm/分で伸長させ、伸び率が1000%となる応力値を1000%モジュラス(MPa)として測定した。なお、伸び率が1000%になるまでに破断した場合には、その破断時の応力値を測定した(破断時のモジュラス)。結果を表2に示す(表2中、括弧書のものが破断時のモジュラス)。
また、上記の引張試験において、サンプルを破断するまで伸長させ、サンプルが破断したときの伸び率、すなわち破断伸度(%)を測定した。結果を表2に示す。
〔試験例4〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で得られた第1の粘着シート(粘着剤層の厚さ:25μm)から軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、100mm長に裁断し、これをサンプルとした。
23℃、50%RHの環境下にて、上記サンプルから重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付したのち、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z 0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
〔試験例5〕(湿熱粘着力の測定)
試験例4と同様にして得たサンプルについて、23℃、50%RHの環境下にて、粘着剤層から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付したのち、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、60℃、90%RHの条件下で24時間放置し、次いで常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z 0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
〔試験例6〕(段差追従率の測定)
ガラス板(NSGプレシジョン社製,製品名「コーニングガラス イーグルXG」,縦90mm×横50mm×厚み0.5mm)の表面に、紫外線硬化型インク(帝国インキ社製,製品名「POS−911墨」)を塗布厚が5μm、10μm、15μm、20μm及び25μmのいずれか1つとなるように額縁状(外形:縦90mm×横50mm,幅5mm)にスクリーン印刷した。次いで、紫外線を照射(80W/cm2,メタルハライドランプ2灯,ランプ高さ15cm,ベルトスピード10〜15m/分)して、印刷した上記紫外線硬化型インクを硬化させ、印刷による段差(段差の高さ:5μm、10μm、15μm、20μm及び25μmのいずれか1つ)を有する段差付ガラス板を作製した。
実施例および比較例で得られた第2の粘着シート(粘着剤層の厚さ:50μm)から軽剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合した。次いで、重剥離型剥離シートを剥がし、粘着剤層を表出させた。そして、ラミネーター(フジプラ社製,製品名「LPD3214」)を用いて、粘着剤層が額縁状の印刷全面を覆うように上記積層体を各段差付ガラス板にラミネートし、これを評価用サンプルとした。
得られた評価用サンプルを、50℃、0.5MPaの条件下で30分間オートクレーブ処理した後、常圧、23℃、50%RHにて24時間放置した。次いで、85℃、85%RHの高温高湿条件下にて72時間保管し(耐久試験)、その後、段差追従性を評価した。段差追従性は、粘着剤層により印刷段差が完全に埋められているか否かで判断し、印刷段差と粘着剤層との界面で気泡、浮き、剥がれなどが観察された場合は、印刷段差に追従できなかったと判断される。ここでは、段差追従性は、下記の式で示される段差追従率(%)として評価した。結果を表2に示す。
段差追従率(%)={(耐久試験後、気泡、浮き、剥がれ等が無く埋められた状態が維持された段差の高さ(μm))/(粘着剤層の厚み:50μm)}×100
〔試験例7〕(カット適性の評価)
実施例および比較例で得られた第2の粘着シート(粘着剤層の厚さ:50μm)の粘着剤層を複数層積層し、合計厚さ1mmの積層体を得た。その積層体を裁断装置(荻野製作所社製,製品名「スーパーカッター PN1−600」)によって裁断した。裁断後における粘着剤層の裁断面(長さ:100mm)を目視にて確認し、以下の基準によりカット適性を評価した。結果を表2に示す。
○:裁断面に粘着剤層の欠けなし
△:裁断面に若干の粘着剤層の欠けあり(裁断面の10%未満)
×:裁断面に粘着剤層の欠けあり(裁断面の10%以上)
表2から分かるように、実施例で得られた粘着シートは、段差追従性に優れるとともに、良好なカット適性、すなわち高い被膜強度を有するものであった。