本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、特に非ゼロの総角運動量によって引き起こされる問題を軽減するための方法および装置を提供することである。
本発明の目的は、請求項1の特徴部分に記載の装置によって達成される。本発明の目的は、請求項11の特徴部分に記載の方法によってさらに達成される。
本発明の実施形態は、請求項に記載のセンサ素子が良好な性能で角速度の確実な測定を有効にするという利点を有する。提示されるセンサ素子構造は、低い公称周波数および非常に低い総角運動量を有する逆相主モードを有する。低い公称周波数は、センサデバイス全体の機械的堅牢性を促進する。低い総角運動量は、センサ素子の検出可能な振動を低減する。したがって、センサ素子の外側に振動エネルギーが漏れることはまったくないか、または非常に少なく、これによって、センサデバイスのQ値の安定性が向上する。
第1の態様によれば、少なくとも1つのロータ質量と2つの線形的に運動する質量とを含む振動角速度センサのための構造が提供される。この構造は、各々が可撓性ばねによって2つの線形的に運動する質量およびロータ質量に結合された2つのT字形レバーを備える。T字形レバーは、ロータ質量および2つの線形的に運動する質量を逆相主モードになるように励起されることを有効にし、構造の幾何学的中心に対するロータ質量の角運動量の方向は、線形的に運動する質量の角運動量の方向とは反対である。
第2の態様によれば、2つのT字形レバーは、ロータ質量の第1の対向する側に対称に配置される。
第3の態様によれば、上記線形的に運動する質量は、ロータ質量の第2の対向する側に対称に配置される。
第4の態様によれば、センサは、2つの線形的に運動する質量をデバイスの平面内で線形主振動運動にするように励起するための励起手段をさらに備え、2つのT字形レバーは、2つの線形的に運動する質量の線形主振動運動をロータ質量の回転主運動に伝達し、回転主運動は、デバイスの平面内で発生する。
第5の態様によれば、線形主振動運動は、2つの平行な第1の軸に沿ってそれぞれ発生するように構成され、2つの線形的に運動する質量は逆の位相で運動するように構成され、2つの平行な第1の軸は、非ゼロ距離によって分離され、ロータ質量の回転主運動は、デバイスの平面に垂直な第2の軸を中心として発生するように構成される。
第6の態様によれば、ロータ質量および線形的に運動する質量に結合されたT字形レバーの端部は、二等辺三角形を形成し、各T字形レバーは、第1のレバーの長さのほぼ中央で第1のレバーに取り付けられた第2のレバーを備え、かつ/または、第2のレバーと第1のレバーとは90度の角度で取り付けられている。
第7の態様によれば、T字形レバーは、ロータ質量および2つの線形的に運動する質量が平行位相主モードになるように励起されることをさらに有効にし、このモードにおいて、ロータ質量の角運動量の方向は、線形的に運動する質量の角運動量の方向と同じである。
第8の態様によれば、逆相主モードの公称周波数は、平行位相主モードの公称周波数よりも低い。
第9の態様によれば、逆相主モードは、ロータ質量と2つの線形的に運動する質量との角運動量の絶対値の合計の5%未満である総角運動量を有する。
第10の態様によれば、構造は、2つの支持フレームをさらに備え、2つの支持フレームの各々は、第1の懸架構造に非可撓性に結合され、2つの支持フレームの各々は、可撓性ばねによって少なくとも2つの第2の懸架構造に結合される。2つの支持レバーの各々は、少なくとも2つの可撓性ばねによって、線形的に運動する質量のうちの1つに結合される。
少なくとも1つのロータ質量と2つの線形的に運動する質量とを含む振動角速度センサを動作させるための第1の方法態様によれば、この方法は、ロータ質量および2つの線形的に運動する質量を逆相主モードに設定するステップを含み、構造の幾何学的中心に対するロータ質量の角運動量の方向は、線形的に運動する質量の角運動量の方向とは反対である。
第2の方法態様によれば、方法は、2つのT字形レバーを使用してロータ質量および2つの線形的に運動する質量を逆相主モードに設定するステップを含み、各T形状レバーは、可撓性ばねによって、2つの線形的に運動する質量およびロータ質量に結合される。
第3の態様によれば、ロータ質量および2つの線形的に運動する質量を逆相主モードに設定するステップは、2つの線形的に運動する質量をデバイスの平面内で線形主振動運動するように励起するステップと、2つの線形的に運動する質量の線形主振動運動をロータ質量の回転主運動に伝達するために、2つのT字形レバーを使用するステップとを含み、回転主運動は、デバイスの平面内で発生する。
第4の方法態様によれば、線形主振動運動は、2つの平行な第1の軸に沿って発生し、2つの線形的に運動する質量は逆の位相で振動し、2つの平行な第1の軸は、互いから非ゼロ距離だけ離れており、回転主運動は、デバイスの平面に垂直な第2の軸を中心として発生する。
第5の方法態様によれば、2つのT字形レバーは、ロータ質量の第1の対向する側に対称に配置される。
第6の方法態様によれば、2つの線形的に運動する質量は、ロータ質量の第2の対向する側に対称に配置される。
第7の方法態様によれば、逆相主モードは、ロータ質量と2つの線形的に運動する質量との角運動量の絶対値の合計の5%未満である総角運動量を有する。
第9の方法態様によれば、上記T字形レバーは、ロータ質量および2つの線形的に運動する質量が平行位相主モードになるように励起されることをさらに有効にし、このモードにおいて、ロータ質量の角運動量の方向は、線形的に運動する質量の角運動量の方向と同じである。
第10の方法態様によれば、逆相主モードの公称周波数は、平行位相主モードの公称周波数よりも低い。
第11の方法態様によれば、2つの線形的に運動する質量は、2つの支持フレームによってさらに支持され、支持フレームは、線形主振動運動中に、デバイスの平面から外れる、2つの線形的に運動する質量の運動を低減する。
以下において、添付の図面を参照しながら、好ましい実施形態に関連して、本発明をより詳細に説明する。
「デバイスの平面」、「構造の平面」、「センサの平面」、「質量の平面」または「ロータ質量の平面」が参照されている場合、これらは、いかなる運動をするようにも励起されていないときに、それらの初期位置においてセンサデバイスの慣性質量によって形成される平面を意味する。本明細書に添付の図面の座標において、この平面はxy平面に対応する。物理的デバイスの慣性質量は、z軸の方向に非ゼロの厚さを有する。これらの質量の平面は、それぞれの参照される構造要素の厚さ内に含まれる平坦な平面を含むと理解されるべきである。
「線形的に運動する質量」という用語は、線形主振動運動、すなわち、所与の軸に沿った縦振動を有するように意図されている振動質量を指し、これは、このような線形主振動運動を有するように意図された振動質量を、回転主運動を有するように意図された振動質量から区別するためである。線形的に運動する質量は、センサデバイスの設計および意図された用途に従って、様々な補助検出運動モードを有することができる。
「ロータ質量」という用語は、回転主運動を有するように意図されており、1つ,2つまたは3つの自由軸を中心として回転させることが可能であり、またそのように意図されている振動質量を指し、1つの特定の軸を中心とした回転運動は、主モードの一部であり、1つまたは2つの他の軸を中心とした回転運動は、補助検知運動に使用することができる。「線形主振動運動」は、線形的に運動する質量の運動を指し、「回転主運動」は、ロータ質量の運動を指すが、「主モード」は、主運動するように励起されるときの、センサ素子のすべての慣性部分の運動の組み合わせを表す。
慣性MEMSデバイスでは、ばね構造は、通常は一様な断面を有するビームから構成されている。MEMS技術は基本的に平坦であるが、ビームの寸法は、特にz軸の寸法または厚さにおいて制限される。したがって、MEMSデバイスの可動部分は、xy平面内に実質的に平坦な構造を形成すると考えることができる。ビームの長さおよび幅ならびに形状は、変化させることができる。本明細書では、「ばね」という用語は、可撓性ばねとして機能することを意図している任意の種類の直線状、折り畳まれた、または屈曲したビーム構造に使用される。例えば、ばねは、少なくとも1つの方向に柔軟な運動を可能にする、狭いビームが1回以上折り畳まれた構造である。直線ビームは、その剛性が低いときにばねとして機能することができ、これによってビームがねじれもしくは屈曲し、またはねじれを伴って動くことが可能になる。用語「レバー」は、剛性である、すなわちばねのように可撓性ではないように意図されている構造を指す。これらは、ビームとして、または、2つ以上のビームの組み合わせとして形成されてもよく、それらはより複雑な構造を含んでいてもよい。
図1aは、センサ素子の主要な構造部分を概略的に示す。図1bは、いくつかのさらなる実施態様詳細を伴う、同じ要素の典型的な実施形態を示す。図面はここでは並列して記載されており、一般的な構造要素が見えている場合、これらは同じ参照符号を有する。この図は、センサ素子内の慣性要素、可動要素の性質および機能を説明することを目的としているが、センサ素子の支持体はこれらの図には示されていない。センサの支持体は、デバイス層の下にあるハンドルウェハを含むことができ、デバイス層は、ハンドルウェハの上に懸架されている。デバイス層は、本明細書に記載されている構造部品を含むセンサのすべての慣性部分および可動部分を含む。
図1aおよび図1bによるセンサ素子は、少なくとも2つの線形的に運動する質量(101,102)およびロータ質量(103)を有する。線形的に運動する質量(101,102)は、平面内で主運動するように励起され、z軸を中心とした角運動速度を検知するために使用され得る。より具体的には、線形的に運動する質量は、質量の平面内でx軸の方向に発生する線形主振動運動をするように励起される。x軸の方向について、運動が主にx軸の方向に生じるように意図されているが、この方向の何らかのずれが、物理的デバイスの非理想性のために生じ得る。範囲から逸脱することなく、通常の動作公差内での意図された正確な方向からのずれが許容される。z軸を中心とした角速度が、振動している、線形的に運動する質量(101,102)に作用すると、y軸方向にコリオリ力が生じ、線形的に運動する質量(101,102)がy軸方向の検出運動を開始することができる。ロータ質量(103)は、質量の平面に垂直なz軸を中心として回転主運動をするように励起され、面内角運動速度を検出するために使用され得る。線形的に運動する質量の構造は変化し得る。それらは、各々単一の運動質量を含んでもよく、または、それらは各々少なくとも2つの運動質量から構成されてもよい。例えば、各線形的に運動する質量は、内側運動質量、および、フレームとも呼ばれる外側運動質量を含んでもよい。さらに別の代替形態では、各線形的に運動する質量は、フレーム内に2つ以上の運動質量を含んでもよい。種々の運動質量の目的は、質量に、主モードおよび補助検知運動(検知モード)に必要な自由度を与えることである。線形的に運動する質量の構造の詳細は、振動マイクロメカニカルセンサに精通した人には知られており、簡単にするために本明細書では詳細には説明しない。以下の例は、2つの典型的な実施形態を示す。
ロータ質量(103)は、典型的には、センサ素子の本体に対して、ロータ質量(103)がロータ質量(103)構造の中心の周りを回転することを可能にする、懸架構造(106)とロータ質量(103)との間の可撓性ばね(118、図1aには明確には示されていない)を使用して、アンカーと呼ばれることもある、基本的にロータ質量(103)の中央にある懸架構造(106)に対して支持されている。この構成では、ロータ質量(103)の主回転は、ロータ質量(103)の面内において、すなわちxy平面内で、センサ素子およびロータ質量(103)の幾何学中心を通過するz軸を中心として発生する。ロータ質量(103)の平面、すなわちセンサ素子の平面は、静止しているとき、すなわち、いかなる運動をするようにも励起されていないときに、センサ素子によって形成される平面を意味する。
センサ素子は、線形的に運動する質量(図示せず)の端部に配置された励起コームによって励起されてもよいが、当業者に知られているような、デバイスを励起するための任意の他の方法および構造が使用されてもよい。例えば、ピエゾ励起を代替的に使用してもよい。主振動運動および主モードは、図2a〜図2dに関連してさらに説明される。
ロータ質量(103)を所望の回転主運動をするように励起するために、このデバイスは、次に説明するビームおよびばね構成を有する。2つの線形的に運動する質量(101,102)は、第1のレバー(110,112)であって、剛性である、すなわち、すなわち、いかなる大きな曲げもねじれも許容しない第1のレバー(110,112)によって互いに結合されている。これらの第1のレバー(110,112)は、可撓性ばね(120,121,122,123)を用いて2つの線形的に運動する質量(101,102)に結合されている。線形的に運動する質量(101,102)がただ1つの部分で作られる場合、可撓性ばねは質量自体に結合されることになる。線形的に運動する質量(101,102)が内側質量および外側質量を有する場合、可撓性ばねは当然ながら外側質量、すなわちフレームに結合されることになる。各第1のレバー構造は、各々が2つの第1のレバー(110,112)の一方をそれぞれ可撓性ばね(115,117)を介してロータ質量(103)に結合するさらなる第2のレバー(114,116)を追加することによって、さらに増強されてレバーT字形レバー構造になる。第1のレバー(110)および第2のレバー(114)は、第1のレバー(112)および第2のレバー(116)によって形成されたものと基本的に同様のT字形レバーをともに形成し、T字形レバーは、ロータ質量(103)の対向する両側に配置される。T字形レバーを形成するこれらの異なるビーム構造は、好ましくは、同じ製造工程中に製造される。すなわち、ビームに要求される特別な「結合」、「取り付け」または「接続」はなく、それらは例えば、少なくともいくつかの共通の製造プロセスステップを使用してすべてのセンサ構造を作成することができる、単一のシリコンウェハ上でのマスキングおよびエッチングプロセスのようなパターニングプロセスを通じて形成することができる。
2つのT字形レバー構造は、好ましくはデバイスが静止しているときに対象な位置に配置され、それによって、第2のレバー(114,116)がそれらの間のロータ質量(103)に結合され、T字形レバーは、ロータ質量(103)の2つの対向する側で互いに反対に配置され、ロータ質量(103)とそれを懸架構造(106)に結合するばねとを備えるロータシステムは、ロータ質量(103)の中心を通過する少なくとも1つの軸に関して対称である。この例では、システムは、x軸およびy軸の両方に関して対称である。現在の例では、ロータ質量(103)は四角形であり、T字形レバーは、対向する側のうち、線形的に運動する質量(101,102)とは異なる側にあり、それによって、線形的に運動する質量(101、102)またはT字形レバーのいずれかが、ロータ質量(103)の各側に見られる。基本的にロータ質量(103)の中間にある筐体内に懸架構造(106)があり得、これはロータをデバイス本体に懸架する。デバイス本体は、この図には示されていないが、提示されているセンサ素子の下または上に存在すると理解することができる。ロータ質量(103)は、ロータ質量(103)が少なくとも1つの方向において、すなわち、少なくとも1つの軸を中心として回転することを可能にするばね(118)を用いて、ロータ質量(103)の平面内で懸架構造(106)によって懸架することができる。現在の例では、ロータ質量(103)を懸架構造(106)に結合するばね構造(118)は、ロータ質量(103)が3つの軸(x、y、z)のすべてを中心に回転することを可能にすることができる。基本的にロータ質量(103)の中央にある筐体内の懸架構造(106)に加えて、静止しているときおよび/または質量の平面内で発生している主モードになるように励起されたときに、ハンドルウェハの上にある質量の意図された平面内でセンサ素子を懸架する目的のためのいくつかのさらなる懸架構造(107)があってもよい。ばね構成は、ロータ質量(103)および線形的に運動する質量(101,102)が懸架構造(106,107)に対して運動することを可能にする。センサ素子は、駆動および検出コームならびに/またはばねもしくは他の駆動要素、追加の懸架構造などのさらなる構造部品を含むことができる。これらの構造および要素のすべてが、図1aおよび図1bの概略図に示されているわけではなく、特許請求されている発明を理解するために必要な部分のみが示されている。
第1のレバー(110または112)および第2のレバー(それぞれ114または116)の構造をT字形レバーとして説明しているが、この構造は本発明から逸脱することなくいくつかの変形を有することができることを理解されたい。変形は、製造プロセスにおけるいくつかの非理想性によって引き起こされ得、またはそれらは意図的であり得る。第2のレバー(114,116)は、好ましくは、それぞれの第1のレバー(110,112)に90度の角度で取り付けられているが、T字形レバーの機能を大きく変えることなく、角度がわずかに変化してもよい。同様に、第2のレバー(114,116)の位置は、それぞれの第1のレバー(110,112)の絶対的な中央になくてもよく、わずかに離れていてもよい。レバー間の頂点またはビーム/ばねの曲げ部の任意の角部は鋭くなくてもよく、頂点にはいくらかの丸み、すなわちフィレットがあってもよい。製造プロセスにおいて、いくつかの鋭い角部は、任意の設計上の対策さえなしに、フィレットによってわずかに滑らかになってもよい。他方、フィレットは、頂点領域内の応力を緩和する目的で頂点内に設計さえされてもよい。頂点領域に何らかの意図的に追加される材料、すなわち、T字形レバーの応力緩和または剛性増大のための材料があってもよい。なおさらに、剛性レバーは、断面が一様でないビームを含むことができる。T字形を形成する第1のレバーおよび/または第2のレバーは、さらに湾曲していてもよく、または湾曲もしくは屈曲した部分を含んでいてもよい。第1のレバー(110または112)の各端部と第2のレバー(114または116)の端部との間の距離が基本的に等しくなるように、振動質量(101,102,103)に結合されているT字形レバーの3つの端部が二等辺三角形を形成する限り、T字形レバーの任意の変形が範囲内にある。
図2a、図2b、図2cおよび図2dは、図1aおよび図1bの剛性線形ビーム(110,112)と第2のレバー(それぞれ114,116)との組合せに対応するT字形レバー構造(218,219)によって有効にされるいくつかの可能な運動モードの2つの例を示す。図2aおよび図2bは、第1の主モードを示しており、図2aはより一般的な概略図であり、図2bは、MEMSデバイスに実装されたより多くの構造詳細を有する第1の主モードの一実施形態を示す。図2cおよび図2dは、第1の主モードとは異なる第2の主モードを示しており、図2cは一般的な概略図であり、図2dは、MEMSデバイスに実装されたより多くの構造詳細を有する第2の主モードの典型的な実施形態を示す。線形的に運動する質量(101,102)とロータ質量(103)とを結合するT字形レバー(218,219)は、異なる構造部分の運動の相対的な方向だけでなく、異なる運動モードの公称周波数も相互に大きく異なる少なくとも2つの運動モードを有効にする。
システムは、好ましくは、2つの線形的に運動する質量(101,102)を、デバイス平面内でx軸の方向に振動する線形主振動運動で動かすことによって励起される。各線形的に運動する質量(101,102)は、x軸からおよび互いから非ゼロの距離をおいて、x軸に平行な異なる軸に沿って運動する。構造が外力によって励起されないとき、構造は平衡状態と呼ぶことができる位置にとどまる。線形的に運動する質量(101,102)は、線形的に運動する質量(101,102)が最初に、平衡状態からの設定された変位に達するまで平衡状態から外方に運動し、その後、平衡状態に戻って、さらに引き続き設定された変位まで反対方向に運動し、再び運動の方向が変化して平衡状態に戻る、所与の周波数を有する振動をするように励起され得る。例として、図2a、図2b、図2cおよび図2dにおいて、上側の線形的に運動する質量(101)は右に運動し、下側の線形的に運動する質量(102)は左に運動している。したがって、2つの線形的に運動する質量(101,102)は、互いから非ゼロの距離をおいて、平行に位置するそれぞれの軸に沿って反対方向に運動する。2つの線形的に運動する質量の線形主振動運動の位相は逆であるとも言える。線形的に運動する質量(101,102)を現在の位置に運んだ運動の方向は、点線の矢印で概略的に示されている。すべての図2a、図2b、図2cおよび図2dにおいて、最初に平衡状態であった後に線形的に運動する質量(101,102)の現在位置に達するために、線形的に運動する質量(101,102)はロータ質量(103)およびセンサ構造全体の幾何学的中心に位置する回転軸(z軸)を中心とした時計回り方向にある角運動量を有する方向に移動していることも分かる。振動の次のサイクルでは、線形的に運動する質量(101,102)は、反時計回り方向にある総角運動量を有し、y軸に関して鏡像反転したときの、図2a〜図2dの鏡像であると説明することができる位置に達する。サイクルは、再び図2a、図2b、図2cおよび図2dに示されるような位置に向かって継続し、そこでは、線形的に運動する質量(101,102)は、回転軸(z軸)を中心とした時計回り方向にある角運動量を有する。線形主振動運動の間に、線形的に運動する質量(101,102)の運動はさらに、意図された線形主振動運動に加えて望ましくない直交運動のような何らかの他の運動成分を有する場合がある。直交運動は、当業者に知られている任意の方法によって低減することができる。主モードを改善することを目標とする本発明に照らして、線形的に運動する質量(101,102)に対する主な関心は、線形主振動運動および主モードにおける上述の線形運動によって生じる角運動量であり、ここで、2つの線形的に運動する質量(101,102)が反対の位相で振動し、センサ構造全体の幾何学的中心でもあるロータ質量(103)の幾何学的中心における共通の回転軸(z軸)を基準とした正味の(合計)角運動量を発生させる。
線形的に運動する質量(101,102)の線形主振動運動は、ロータ質量(103)をロータ質量(103)の中心周りに回転させる。この運動は、ロータ質量(103)の回転主運動と呼ばれる。線形振動運動は、T字形レバー(218,219)によってロータ質量(103)に向かって伝達され、ロータ質量(103)に、それ自身の特徴的な主運動を開始させる。2つの線形的に運動する質量(101,102)とロータ質量(103)とを組み合わせる可撓性ばねおよびT字形レバー構造(218,219)は、ロータ質量(103)に作用する力を発生させ、ロータ質量は、線形的に運動する質量(101,102)の線形主振動運動によって設定される周波数での振動回転運動を開始する。
剛性T字形レバー(218,219)は、直線ビーム、折り畳まれたビーム、U字形または蛇行ばねなどの可撓性ばねを用いて3つの運動質量に結合されると、ロータ質量(103)が所望の方向に自由に回転することを有効にする。この回転自由度は、センサ素子が、いくつかの異なる主振動モードになることを可能にし、そのうちの2つの典型的な振動モードが次に詳細に説明される。
図2aおよび図2bは、線形的に運動する質量(101,102)およびロータ質量(103)が、本明細書において逆相主モードと呼ばれる方法で運動する第1の主モードを提示する。このモードでは、ロータ質量(103)は、線形的に運動する質量(101,102)の位相とは反対の位相で回転する。線形的に運動する質量(101,102)が時計回り方向の角運動量を有するようにする方向に運動した後にピーク位置に到達する位置に線形的に運動する質量(101,102)が達すると、ロータ質量(103)は、反時計回り方向に回転した後にそのピーク位置に達する。このピーク位置に向かう運動の間、ロータ質量(103)は、線形的に運動する質量(101,102)の運動によって引き起こされる角運動量とは反対の方向にある、ロータ質量(103)の中心に位置する回転軸(z軸)を中心とした角運動量を有する。さまざまな要素の運動および運動量の方向が、点線の矢印で示されている。同様の状況および運動量の相対的な方向は、振動が次の回転位相に変わるときに継続する。線形的に運動する質量(101,102)は、反時計回り方向にある、原点、すなわちロータ質量(103)の幾何学的中心に位置する回転軸(z軸)に対する合成角運動量を有し、一方で、ロータ質量(103)は、同じ回転軸(z軸)に対する時計回り方向の角運動量を有する。T字形レバー、ばね、システムの全体構造の3つの質量の設計および慣性に基づいて、このような安定した逆位相振動運動に達すると、一定の周波数が存在する。この周波数は、逆相駆動モードの公称周波数と呼ぶことができる。線形的に運動する質量(101,102)およびロータ質量(103)が適切に設計されているとき、線形的に運動する質量(101,102)の角運動量の和は、ロータ質量(103)の角運動量と反対であり、その強度はほぼ等しく、それによって、角運動量同士が互いに大きく相殺され、振動システムの残りの総角運動量は、この種のシステムで可能なほぼすべての他の回転モードと比較して非常に低い。また、T字形レバー(218,219)さえも、ロータ質量(103)の回転と反対の方向に回転することも分かる。T字形レバー(218,219)はいかなる回転中心にも固定されていないが、ロータ質量(103)の回転軸に対していくらかの角運動量を有することができる。最小総角運動量を有するシステムを設計するとき、実際にはいくらかの質量自体を有する、T字形レバー(218,219)によって引き起こされる角運動量さえも考慮に入れられ得るが、ここでは簡略化のために省略している。
システム内の運動質量の残りの総角運動量の比は、以下のように記述することができる。
LRlinear1およびLlinear2はそれぞれ線形的に運動する質量(101,102)の角運動量を表し、Lcenterはロータ質量(103)の角運動量を表す。線形的に運動する質量(101,102)の角運動量LRlinear1、Llinear2は、任意の瞬間におけるロータ質量(103)の中心から引かれた半径に対する接線の方向を有する、線形的に運動する質量(101,102)の総運動量の成分を含むものとして理解される。線形的に運動する質量(101,102)の運動は回転運動ではないが、ロータ質量(103)の中心と各線形的に運動する質量(101,102)の重心との間の半径は、線形的に運動する質量(101,102)が線形主振動運動にあるときに、経時的にわずかに変化する。図2aの逆相主モードは、線形的に運動する質量(101,102)の振動の周波数が、好ましくは以下に説明する第2の主モードにおける振動の周波数よりも低い場合に生じる。これらの2つの公称振動周波数における顕著な差異は、デバイスの堅牢性を促進する。ロータ質量(103)および線形的に運動する質量(101,102)(ならびに随意によりT字形レバー(218,219)も)を適切な寸法にすることによって、この第1の主モードにおけるシステムの残りの総運動量Lremainingは、これらの質量の角運動量の絶対値の合計の5%以下にすることができる。例えば、角運動量の絶対値の合計の4%の総角運動量値がシミュレーションで達成されている。
図2cおよび図2dは、平行位相主モードまたは寄生モードと呼ばれる場合がある第2の主モードを説明する。線形的に運動する質量(101,102)の励振周波数が適切に設定されると、質量系は別の振動平衡状態を有し、その平衡状態では、ロータ質量(103)は常に、線形的に運動する質量(101,102)によって引き起こされる運動量と同じ方向にある角運動量を有する。ここでも、各部分の運動の方向は、点線の矢印で示されている。デバイスのすべての主要な慣性質量は同じ方向の角運動量を有し、それによって運動量が合計されるため、このモードはシステムに対してかなり高い総角運動量を発生させる。このモードにおける総角運動量は、方程式[1]の分母に対応する。言い換えれば、平行位相主モードの総角運動量は、線形的に運動する質量(101,102)とロータ質量(103)との運動量の絶対値の合計に対応する総運動量を有する。 さらに、T字形レバー(218,219)の角運動量さえも同じ方向を有し、角運動量の総計に加算される。さらにはT字形レバー(218,219)によって引き起こされるこの追加の角運動量も設計において考慮され得るが、ここでは簡略化のために省略されている。
平行位相主振動モードは、逆相主振動モードよりもはるかに高い公称周波数を有する。2つの振動は周波数によって明確に区別されるが、センサ構造は、高い信頼性で、高い所望の逆相主モード振動に励起することができる。典型的なシステムでは、逆相主モードは約8kHzの公称周波数を有し、一方、平行位相主モードは約18kHzの2倍超の公称周波数を有する。好ましい主モードに低公称周波数を使用することを有効にすることにより、センサ素子に利益がもたらされる。逆相主モード(第1の主モード)が最低公称周波数モードとして設定されると、センサ素子の機械的堅牢性が促進される。
複数の運動する振動部分を有する本明細書に記載のセンサ素子は、1つまたは複数のさらなる主モードを有することができる。本明細書において説明されている最初の主モード(逆相主モード)が好ましい主モードであり得る一方、他のすべての主モードは寄生モードと呼ばれる場合がある。図2cおよび図2dは、典型的な寄生モードの1つを記載しており、これを第2の主モードと呼ぶ。好ましい動作モード(第1の逆相主モード)と任意の寄生動作モード(すなわち、第2の平行主モード)との間で公称周波数が明確に分離されることにより、好ましい主モードの安定性も向上する。したがって、センサ素子の設計が、好ましい主モードからできるだけ遠い公称周波数を有する寄生モードを促進することが有益である。第1の主モードが低い公称周波数を有するとき、これは、好ましくは、寄生動作モードが第1の主モードよりも明らかに高い公称周波数を有するべきであることを示唆する。
図3は、図1a、図1b、図2a、図2b、図2c、図2d、図4a、図4bで説明したもののような慣性要素および慣性要素を支持するデバイス本体を備えるセンサ素子(301)が、プラスチック材料から作られている予め成形されたもしくはオーバーモールドされたパッケージ、セラミックパッケージまたはチップサイズパッケージを含むことができるハウジング(303)の内部に配置されている、センサデバイス(305)を概略的に示す。センサ素子(301)はハウジング(303)の内部に配置され、接着剤(302)を用いてハウジングに取り付けられている。ハウジングは、キャップ(304)で覆われている。キャップ(304)は、ニッケル鉄合金のような金属またはプラスチック材料から作られていてもよい。
システムの総運動量を低くすることによって、大きな利点がもたらされる。センサ素子(301)の総運動量がゼロに近い場合、センサデバイス(305)はその環境に向かっていかなる振動も発生させず、センサデバイス(305)内部で発生する振動は外部から検出され得ない。センサ素子(301)の外部に漏れる振動エネルギーはほとんどまたはまったくなく、漏れは、例えばセンサデバイス(305)のQ値の安定性の問題を引き起こす可能性がある。センサ素子(301)をそのハウジング(303)に取り付けるためにエポキシなどの硬質接着剤を使用したとしても、低いまたはゼロの総運動量は、センサデバイス(305)からの振動エネルギーの漏れの影響を低減または排除する。しかしながら、硬質接着剤の使用は、センサ素子(301)への機械的干渉の増加をさらに引き起こす可能性がある。例えば、類似の種類のセンサまたはセンサ素子(301)に近い共振周波数を有する他の部品のような、センサデバイス(305)の近くに位置する別の共振器からの干渉が、硬質接着剤が使用された場合に増加され得る。したがって、軟質接着剤を使用することができることが有益であることが判明している。
振動センサ素子(301)がそれ自体でハウジング(303)に向けていかなる有意な振動も生じさせない場合、振動センサ素子(301)をハウジング(303)に取り付けるために軟質接着剤(302)を使用することが有効になる。センサ素子(301)からの総運動量が非ゼロであり、センサ素子(301)が軟質接着剤(302)を用いてハウジング(303)に取り付けられた場合、センサ素子(301)はハウジング(303)内部で運動し得、これは許容可能でない。ゼロまたは非常に低い運動量のセンサ素子(301)は、センサ素子(301)をハウジング(303)内に取り付けるために軟質接着剤(302)を使用することを可能にする。シリコンのような軟質接着剤(302)の使用は、ハウジングおよびパッケージからのもしくはそれらを通じた、すなわち温度変化による、接着剤(302)を通る外部応力を減少させるので、有益であり、実行する価値がある。したがって、軟質接着剤(302)の使用は、変化する温度にわたってより良好なバイアス安定性および検知安定性を有効にする。低い総運動量はまた、センサ素子(301)の起動中またはセンサデバイス(305)に外部衝撃が発生したときに特に重要である、駆動振動(主モード)の全体的な安定性を改善する。
図4aおよび図4bは別のものを示しており、これらの図はセンサ素子の主な慣性部分を示しており、支持体は示されていない。図4aは、センサ素子の概略図であり、一方、図4bは、物理デバイスの一実施形態を示している。図1のように、2つの線形的に運動する質量(101,102)の間に設置されたロータ質量(103)がある。T字形レバー(218,219)は、可撓性ばね(120,121,122,123)を介して、線形的に運動する質量(101,102)を互いに結合する。ここで、各線形的に運動する質量(101,102)は、内側質量(101m、102m)と外側質量(101f、102f)とを備え、後者はフレームとも呼ばれる場合もある。各内側質量(101m、102m)は、それぞれの外側質量(101f、102f)に、線形主振動運動の方向に比較的剛性である、少なくとも2つのばねを用いて結合されており、したがって、内側質量(101m、102m)は、線形主振動運動をするように励起されたときに外側質量(101f、102f)の運動に追従する。T字形レバー(218,219)は、ここで、可撓性ばね(120,121,122,123)を用いて、線形的に運動する質量(101,102)のフレーム部分(101f、102f)に結合されており、可撓性ばね(115,117)を介してロータ質量(103)に結合されている。図1に示す典型的なデバイスと同様に、T字形レバー(218,219)は、線形的に運動する質量(101,102)の間の第1のレバーと、第1のレバーをロータ質量(103)に結合する第2のレバーとを備えるものと説明することができ、各T字形レバー(218,219)の3つの端部は二等辺三角形を形成する。ロータ質量(103)は、ロータ質量(103)の平面内のデバイスの中心を横切る2つの軸に関してx方向およびy方向の両方において対称である可撓性ばね構成(図4bでは118、明瞭にするために図4aには示されていない)を用いて、筐体内で、基本的にロータ質量(103)の中央に配置された懸架構造(106)に結合されている。
図4bは、第2のレバーおよび第1のレバーが互いに接合してT字形レバー(218,219)を形成する領域における可能な構造的変形の例を示しており、構造の剛性を高めるために、すなわち、T字形レバーが第1のレバーと第2のレバーとの結合領域またはその付近で屈曲するのを防止するために、頂点に何らかの材料が付加されている。
図4aおよび図4bに示された実施形態はまた、線形的に運動する質量(410,412)にさらなる支持を与える追加の支持フレーム構造(430,432)をも備える。これらの支持フレーム構造(430,432)は、主アンカーとも呼ばれるいくつかの懸架構造(433,434)に直接結合されている。好ましくは、支持フレーム(430,432)は、それぞれの主アンカー(433,434)を用いて固定される。支持フレーム構造(430)は、少なくとも2つのばね(435,436)を用いてそれぞれの線形的に運動する質量(101)に結合されている。支持フレーム構造(432)は、少なくとも2つのばね(437,438)を用いてそれぞれの線形的に運動する質量(102)に結合されている。支持フレーム構造(430,432)の目的は、特にz軸の方向における、線形的に運動する質量(101,102)の安定性を改善することである。
図4aおよび図4bは、また静止状態および/または主モードにあるときにデバイスの意図された平面において支持フレーム構造(430,432)をさらに懸架するように構成されたサブアンカー(440,441,442,443)と呼ばれる追加の懸架構造を有する、さらなる支持構成を示す。ばね(450,452)は、支持フレーム構造(430)を2つのサブアンカー(440,442)にそれぞれ結合する。ばね(451,453)は、支持フレーム構造(432)を2つのサブアンカー(441,443)にそれぞれ結合する。サブアンカー(440,441,442,443)によって支持フレーム構造(430,432)の懸架を改善することによって、線形的に運動する質量(101,102)の主モードの安定性がさらに高められ、線形的に運動する質量(101,102)の望ましくない運動成分が、特にz軸方向において減少する。
図4aおよび図4bに示された実施形態は、図1に示されたより従来式のタイプのデバイスよりも、外部応力または熱応力に起因する変形の下でさえ、温度変動に対してより安定した速度オフセットをもたらす。可能な直交信号(主運動のみが存在する場合には、z軸の方向における質量の意図しない運動)が、追加の支持フレーム構成によって低減され、直交信号は温度変化に起因して変動も少なくなる。したがって、図4aおよび図4bに記載された実施形態は、センサデバイスが厳しい条件で使用される場合に好ましい実施形態であり得る。
技術の進歩とともに、本発明の基本的な着想を様々な方法で実施することができることが、当業者には明らかである。それゆえ、本発明およびその実施形態は上記の例には限定されず、特許請求項の範囲内で様々に変化してもよい。