本願は以下の説明を添付の図面と共に考慮することにより理解される。
図1Aは、イデラリシブ(Idelalisib)を化合物Bとの組合せで投与した場合における、OCI−LY10細胞株の細胞生存率を示すグラフである。
図1Bは、化合物Bをイデラリシブとの組合せで投与した場合における、OCI−LY10細胞株の細胞生存率を示すグラフである。
図1Cは、イデラリシブを化合物Bとの組合せで投与した場合における、TMD−8細胞株の細胞生存率を示すグラフである。
図1Dは、化合物Bをイデラリシブとの組合せで投与した場合における、TMD−8細胞株の細胞生存率を示すグラフである。
図1Eは、化合物Bをイデラリシブとの組合せで投与した場合における、TMD−8細胞株の細胞生存率を示すヒートマップである。「0」=未処理(薬物作用なし);「100」=完全細胞増殖抑制(アッセイのインターバルに成長なし);及び「200」=完全細胞毒性(バックグラウンド信号)。更に、白線は臨床上達成可能な用量を意味する。
図1FはTMD−8細胞株のアイソボログラムである。
図1Gは、TMD8細胞をイデラリシブ(IDELA)、化合物B(Cmpd.B)、又はイデラリシブと化合物Bとの組合せ(IDELA+Cmpd.B)で処理した場合のアポトーシスのレベルを示す。
図1Hは、ABC DLBCL細胞株をイデラリシブ、化合物B、及びイブルチニブ(Ibrutinib)で処理した場合の細胞生存率を示すグラフである。
図2A及び2Bは、化合物Bをイデラリシブとの組合せで投与した場合のRec−1細胞株(図2A)及びJVM−2細胞株(図2B)の細胞生存率を示すヒートマップである。
同上。
図2Cは、化合物Bをイデラリシブとの組合せで投与した場合のTMD−8細胞株の細胞生存率を示すヒートマップである。
図2DはTMD−8細胞株のアイソボログラムである。
図2Eは、イデラリシブ(IDELA;420nM)、化合物B(Cmpd.B;320nM)、又はイデラリシブと化合物Bとの組合せ(IDELA+Cmpd.B)により2時間及び24時間処理した細胞における、シグナル伝達成分のリン酸化についてのウエスタンブロットを示す。
図3A、3B、3C、及び3Dは、(図3A及び3D)BTK C481F変異及び(図3B及び3C)A20 Q143*変異を有するイブルチニブ抵抗性TMD−8の成長阻害を示すグラフである。「TMD8S」は親細胞株を指し、「TMD8R」は抵抗性を示した細胞株を指す。点線はイデラリシブを化合物Bとの組合せで投与した後のTMD−8細胞株に対する作用を示す。
同上。
同上。
同上。
図3Eは、イブルチニブの存在下でのイブルチニブ抵抗性TMD8クローンの細胞生存アッセイの結果を示す(N=4)。
図4は、細胞生存に関するTMD8のPI3Kδ依存性を示すグラフである。
図5は、TMD8Rのイデラリシブに対する獲得抵抗性 を示すグラフである。
図6A及び6BはPI3Kγのアップレギュレーションを示し、図6C及び6DはPTEN喪失を示す。
同上。
同上。
同上。
図7は、TMD8Rがドゥベリシブ(Duvelisib)に対して交差抵抗性を有することを示すグラフである。
図8Aは、イデラリシブ感受性及びイデラリシブ抵抗性のABC−DLBCL細胞株のRNAseq分析である。
図8Bは、500nMのイデラリシブで24時間のウエスタンブロットを示す。
図8Cは、TMD8Sではc−Mycがイデラリシブにより阻害されたが、TMD8Rではされなかったことを示すウエスタンブロットである。
図8Dは、RNAseqにより測定されたc−Myc標的遺伝子の発現を示す。
図9は、リン酸タンパク質分析を示すグラフである。
図10A及び10Bは、TMD8R細胞がイブルチニブ及び化合物Bに対して交差抵抗性を有することを示すグラフである。
同上。
図11Aは、MK−2206とイデラリシブとの組合せにより抵抗性が克服され得ることを示すグラフである。
図11Bは、24時間経過時点で測定されたカスパーゼ3/7切断を示すグラフであり、図11Cは、48時間経過時点で測定されたアネキシンを示すグラフである。両側t検定を用いてp値を算出した。PI=ヨウ化プロピジウム。
同上。
図11Dは、イデラリシブ、MK−2206、又はイデラリシブとMK−2206との組合せ(1μM)で処理したTMD8S及びTMD8R細胞の96時間経過時点での細胞生存アッセイの結果を示す(N=4)。
図12は、MK−2206とイデラリシブとの組合せによるPI3K経路の阻害を示すウエスタンブロットである。
図13Aは、GSK−2334470とイデラリシブとの組合せにより抵抗性が克服され得ることを示すグラフである。
図13Bは、24時間経過時点で測定されたカスパーゼ3/7切断を示すグラフであり、図13Cは、48時間経過時点で測定されたアネキシンVを示すグラフである。両側t検定を用いてp値を算出した。PI=ヨウ化プロピジウム。
同上。
図13Dは、イデラリシブ、GSK−2334470又はイデラリシブとGSK−2334470との組合せ(3μM)で処理したTMD8S及びTMD8R細胞の96時間経過時点での細胞生存アッセイの結果を示す(N=4)。
図14は、GSK−2334470とイデラリシブとの組合せによるPI3K経路の阻害を示すウエスタンブロットである。
図15は、FSCCLがPI3Kδ阻害に対して感受性であることを示すグラフである。
図16は、FSCCLS及びFSCCLRがイブルチニブに対して低下した感受性を示すことを表すグラフである。
図17A及び17Bは、FSCCLR PI3KCA変異体(N345K)がイデラリシブとBYL−719との組合せに対して回復した感受性を示すことを表すグラフである。
同上。
図18Aは、FSCCLRにおけるpAKT(Ser473)発現のイデラリシブとBYL−719との組合せによる低減を示すウエスタンブロットである。
図18Bは、IgMによる刺激を受けたFSCCLRにおけるpAKT(Ser473)発現のイデラリシブとBYL−719との組合せによる低減を示すウエスタンブロットである。
図19A及び19Bは、SPK及びpSykの補償経路の活性化を示すウエスタンブロットである。
同上。
図20A及び20Bは、FSCCLR SFKHIGHがイデラリシブとダサチニブとの組合せに対して増加した感受性を示すことを表すグラフである。
同上。
図21A及び21Bは、FSCCLR SFKHIGHがイデラリシブとエントスプレチニブとの組合せに対して増加した感受性を示すことを表すグラフである。
同上。
図22Aは、FSCCLRクローン;4D4D6及び2C4D9についてのWnt/β−カテニンシグナル伝達経路のRNAseqヒートマップである。FSCCLSと比較して示す。
図22Bは、未処理FSCCLS及びWnt−シグネチャーFSCCLRクローンのウエスタンブロットである。
図23Aは、イデラリシブ、化合物B、又は化合物Bとイデラリシブとの組合せで処理したイデラリシブ抵抗性TMD8R及びTMD8S細胞の細胞生存アッセイの結果を示す。
図23Bは、イデラリシブ(IDELA、420nM)、化合物B(Cmpd.B、320nM)、又は組合せ(IDELA + Cmpd.B)により処理したTMD8R細胞におけるp−AKT S473、p−BTK Y233、c−Myc及びアクチンの結果を示す。
図24Aは、PI3Kδ阻害剤とBTK阻害剤(化合物B;Cmpd.B)との組合せ、ビヒクル対照、又は単剤で処理したマウスにおける腫瘍体積の変化を示す;腫瘍体積は平均±SEMで表し、ビヒクル動物との比較におけるp<0.05、p<0.0001を示す。
図24Bは、PI3Kδ阻害剤とBTK阻害剤との組合せ(化合物B;Cmpd.B)により処理されたTDM8異種移植モデルマウスにおける、BTK及びPI3K活性化のウエスタンブロットの結果を、ビヒクル対照及び単剤処理と比較して示す。ビヒクル、PI3Kδ阻害剤(5mg/kg)、化合物B(10mg/kg)、又はPI3Kδ阻害剤+化合物B(5mg/kg + 10mg/kg)により処理したマウスから、腫瘍を採取し、磨り潰し、溶解した。図24C及び24Dは、各処理群のマウスの腫瘍の平均の定量値である;タンパク質はAUCにより定量化し、p−BTK Y223は総BTKタンパク質に対して正規化し、p−S6RP S235/236はアクチンに対して正規化した。平均±SD。
同上。
同上。
以下の記載では方法やパラメーター等の例を述べる。しかし、斯かる記載は、本発明の範囲の限定を意図するものではなく、例示的な態様の説明として供するにすぎない点を留意されたい。
本明細書において提供されるのは、B細胞悪性腫瘍を、それを必要とするヒトにおいて治療する方法であって、治療有効量の2−(1−((9H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン又は医薬的に許容可能なその塩、及び、治療有効量の6−アミノ−9−[1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オン又は医薬的に許容可能なその塩を投与することを含む方法である。また、本明細書に記載のPI3K阻害剤及びBTK阻害剤を含む組成物(例えば医薬組成物、製剤、又は単位投与形態)、製品及びキットも提供される。また、2−(1−((9H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン又は医薬的に許容可能なその塩の化合物、及び、6−アミノ−9−[1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オン又は医薬的に許容可能なその塩の、B細胞悪性腫瘍を治療する薬剤の製造における使用も提供される。また、2−(1−((9H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン、及び、6−アミノ−9−[1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オン又は医薬的に許容可能なその塩の、B細胞悪性腫瘍を治療するための使用も提供される。
化合物
2−(1−((9H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン又は医薬的に許容可能なその塩は、PI3K阻害剤の一例であり、より具体的には、PI3キナーゼδ特異的アイソフォーム(PI3Kδ)阻害剤の一例である。斯かる化合物は、本技術分野ではイデラリシブとも呼ばれており、本願明細書では化合物Aとも称するが、以下の構造を有する。
一例によれば、化合物Aは主に、以下の構造を有するS−光学異性体である。
化合物Aの(S)−光学異性体は、その化合物名:(S)−2−(1−((9H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オンとして呼ばれる場合もある。
化合物Aは、例えば米国特許第7,932,260号明細書に記載の方法により合成され得る。
6−アミノ−9−[1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オン又は医薬的に許容可能なその塩は、BTK阻害剤の一例である。斯かる化合物は、本明細書では化合物Bとも称するが、以下の構造を有する化合物である
一例によれば、化合物Bは主に、以下の構造を有する(R)−光学異性体である。
化合物Bの(R)−光学異性体は、その化合物名:6−アミノ−9−[(3R)−1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オンとして呼ばれる場合もある。
一部の態様によれば、BTK阻害剤は化合物Bの塩である。例えば、ある変形例によれば、BTK阻害剤は化合物Bの塩酸塩である。一例によれば、BTK阻害剤は化合物Bの一塩酸塩である。
化合物Bは、例えば米国特許第8,557,803号明細書に記載の方法により合成され得る。
本明細書において提示される化合物名は、ChemBioDraw Ultra 14.0を用いて命名されたものである。当業者であれば理解するように、化合物は、種々の一般に認められている命名法及び記号を用いて命名又は特定することができる。例として、化合物は通称名、体系名、又は非体系名で命名又は特定することができる。化学分野で一般に認められている命名法及び記号としては、例えば化学情報検索サービス機関(Chemical Abstract Service:CAS)、ChemBioDraw Ultra、及び国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry:IUPAC)が挙げられる。
また、本明細書に詳述される化合物の同位体標識形態も、本明細書において提供される。同位体で標識された化合物は、選択された原子質量又は質量数を有する原子により1又は2以上の原子が置換されてなることを除けば、本明細書に示す式により表される構造を有する。本発明の化合物に導入することが可能な同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素及び塩素の同位体、例えば、これらに限定されるものではないが、2H(重水素、D)、3H(三重水素)、11C、13C、14C、15N、18F、31P、32P、35S、36Cl及び125Iが挙げられる。同位体標識された種々の本願の化合物、例えば3H、13C及び14C等の放射性同位体が導入された化合物が提供される。斯かる同位体標識された化合物は、例えば代謝研究、反応動態研究、検出、又は画像化技術、例えば陽電子断層撮影法(positron emission tomography:PET)又は単光子放出コンピューター断層撮影法(single-photon emission computed tomography:SPECT)、例えば対象(例えばヒト)の放射線治療における薬物又は基質の組織分布アッセイ等に有用である。また、本明細書に記載の同位体標識化合物に関し、該当する場合には、医薬的に許容可能な塩又は水和物も提供される。
一部の例によれば、本明細書に開示される化合物は、ある炭素原子に結合する1〜n個の水素が重水素で置換されるように改変されていてもよい。ここでnは分子内の水素の数である。斯かる化合物は、代謝に対する抵抗性が上昇しうることから、哺乳類への投与時における化合物の半減期を延長するのに有用である。例えば、Foster, “Deuterium Isotope Effects in Studies of Drug Metabolism”, Trends Pharmacol. Sci. 5(12):524-527(1984)参照。斯かる化合物は、本技術分野で周知の手法により、例えば、1又は2以上の水素が重水素で置換された出発物質を用いることにより合成される。
重水素により標識又は置換された本発明の治療用化合物は、吸収、分布、代謝及び排出(absorption, distributuion, metabolism, and excretion:ADME)に関するDMPK(薬物代謝及び薬学動態:drug metabolism and pharmacokinetics)の性質が改善され得る。重水素等の重同位体で置換することにより、例えばインビボ(in vivo)での半減期の延長、必要用量の低減、及び/又は、治療指数の改善等、代謝安定性の向上による特定の治療上の利点がもたらされ得る。18F標識化合物は、PET又はSPECT研究に有用な場合がある。本発明の同位体標識化合物は概ね、以下に記載のスキーム、又は、以下に記載の実施例及び調製例に開示の手順を、非同位体標識されていない試薬の代わりに、容易に入手可能な同位体標識試薬を用いて実施することにより、調製することができる。なお、この場合の重水素は、本明細書で提供される化合物の置換基と見做されるものと解される。
斯かる重同位体、特に重水素の濃度は、同位体濃縮係数により定義することができる。本発明の化合物において、具体的に特定の同位体として表示されていない原子は、斯かる原子の安定な同位体を意味するものと意図される。別途記載されない限り、ある位置が具体的に「H」又は「水素」として表示されていない場合、その位置には水素が、その天然存在度の同位体組成において存在するものと解される。従って、本発明の化合物において、具体的に重水素(D)として表示されている任意の原子は、重水素を意味するものと解される。
ある物質について「医薬的に許容可能な」と言う場合には、斯かる物質のうち、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等を有さず、概ね安全且つ使用に適しており、合理的なリスク対効果比に見合っている物質を意味する。
「医薬的に許容可能な塩」とは、ある化合物(例えば化合物A又は化合物B、又はその双方)の塩であって、医薬的に許容可能であり、且つ親化合物の所望の薬理活性を保持する(或いは斯かる活性を有する形態に変換可能である)塩を意味する。斯かる塩としては、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等と形成される酸付加塩;又は有機酸、例えば酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、乳酸、マレイン酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、オレイン酸、パルミチン酸、プロピオン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸等と形成される酸付加塩、或いは、親化合物に存在する酸性陽子が、金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアルミニウム等により置換され;又は有機塩基、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルグルカミン等に配位することにより形成される塩が挙げられる。更にこの定義に含まれるものとして、アンモニウムや、置換又は四級化されたアンモニウム塩が挙げられる。医薬的に許容可能な塩の代表的且つ非限定的なリストは、S.M. Berge et al., J. Pharma Sci., 66(1), 1-19 (1977)や、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, R. Hendrickson, ed., 21st edition, Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, (2005)の732頁の表38−5に見いだされる。これらの文献は何れも引用により本明細書に組み込まれる。
治療の方法
本明細書に記載のPI3K及びBTK阻害剤は、組合せ治療に使用してもよい。即ち、本明細書では、B細胞悪性腫瘍を、それを必要とするヒトにおいて治療する方法であって、本明細書に記載されるPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量を、ヒトに投与することを含む方法も提供される。
一部の例によれば、「治療」(treatment)又は「治療する」(treating)とは、有益又は所望の結果、例えば臨床結果を得るためのアプローチである。有益又は所望の臨床結果としては、例えば以下のうち1又は2以上が挙げられる。
(i)疾患又は病態を阻害する(例えば、疾患又は病態に起因する1又は2以上の症状を低下させ、及び/又は、疾患又は病態の程度を軽減する);
(ii)疾患又は病態に関連する1又は2以上の臨床症状の進行を減速又は停止させる(例えば、疾患又は病態を安定化させ、疾患又は病態の悪化又は進行を予防又は遅延し、及び/又は、疾患又は病態の蔓延(例えば、転移)を予防又は遅延する);及び/又は、
(iii)疾患を軽減する、即ち、臨床症状の退行を生じさせる(例えば、疾患の状態を改善し、疾患又は病態の部分又は完全寛解を供し、他の投薬治療の効果を増強し、疾患の進行を遅延させ、生活の質を向上させ、及び/又は、生存期間を延長する)。
一部の例によれば、疾患又は病態の進行を「遅延させる」(delaying)とは、疾患又は病態の進行を延期し、妨害し、減速させ、遅滞させ、安定化させ、及び/又は、順延することを意味する。斯かる遅延の時間は、疾患又は病態の病歴、及び/又は、治療される対象に応じて様々である。例えば疾患又は病態の進行を「遅延させる」(delays)方法とは、斯かる方法を使用しない場合と比較して、所与の時間枠における疾患又は病態の進行の可能性を低下させ、及び/又は、所与の時間枠における疾患又は病態の程度を低下させる方法である。斯かる比較は、通常は臨床試験に基づき、統計的に有意な数の対象を用いて行われる。疾患又は病態の進行は、標準的な方法、例えば定期的な身体検査、マンモグラフィー、画像化、又は生検を用いて検出することが可能である。また、進行には、当初は検出できないような疾患又は病態の進行、例えば発症、再発、及び兆候等を含めてもよい。
一部の態様によれば、本明細書に記載のPI3K阻害剤及びBTK阻害剤の投与により、PI3K阻害剤単独又はBTK阻害剤単独の投与に伴う副作用が、予想外に低減され得る。例えば、ある例によれば、副作用の低減は、副作用の頻度の低減であってもよい。一部の態様によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤の投与により、下痢、大腸炎、アミノ基転移酵素の上昇、発疹、又は肺炎、又はこれらの任意の組合せの頻度が低減される。別の変形例によれば、副作用の低減は、副作用の重症度の低減であってもよい。一部の態様によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤の投与により、下痢、大腸炎、アミノ基転移酵素の上昇、発疹、又は肺炎、又はこれらの任意の組合せの重症度が低減される。他の態様によれば、本明細書に記載のPI3K阻害剤及びBTK阻害剤の投与により、PI3K阻害剤単独又はBTK阻害剤単独の投与に伴う副作用が、予想外にも殆ど又は全く増加しない。他の態様によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤の投与により、下痢、大腸炎、アミノ基転移酵素の上昇、発疹、又は肺炎、又はこれらの任意の組合せが、殆ど又は全く増加しない。
本明細書に記載のPI3K阻害剤及びBTK阻害剤の投与により、BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せに対する抵抗性が、予想外に改善され得る。ある側面によれば、本明細書では、BTK阻害剤単独、PI3K阻害剤単独、又はこれらの組合せに対するヒトの抵抗性を治療する方法であって、本明細書に記載のPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量を、ヒトに投与することを含む方法が提供される。
ある側面によれば、PI3K及びBTKの両シグナル伝達経路を阻害することで、PI3K又はBTK阻害剤に対する抵抗性の克服に相乗的に作用し得る。ある側面によれば、両経路を阻害することで、PI3K、BTK、及び/又は、MAPK経路を相加的又は相乗的に阻害し得る。斯かる相乗的な応答により、結果としてPI3K及び/又はBTK阻害剤の用量を低減し、治療時間を短縮し、又は治療に対する患者の応答を増強することが可能となる。
一部の態様によれば、BTK阻害剤単独及び/又はPI3K阻害剤単独を含む治療に抵抗性を有するヒトは、腫瘍壊死因子α誘導性タンパク質3(tumor necrosis factor alpha-induced protein 3:TNFAIP3、別名A20)変異を有する場合がある。更に別の側面によれば、ヒトのB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、a)腫瘍壊死因子α誘導性タンパク質3(TNFAIP3、別名A20)変異を有するヒトを選択すること;及びb)本明細書に記載のPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量を当該ヒトに投与することを含む方法が提供される。特定の態様によれば、BTK阻害剤単独及び/又はPI3K阻害剤単独を含む治療に抵抗性を有するヒトは、BTK C481変異を有する場合がある。他の特定の側面によれば、ヒトのB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、a)BTK C481F変異を有するヒトを選択すること;及びb)本明細書に記載のPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量を当該ヒトに投与することを含む方法が提供される。
一例によれば、本明細書では、BTK阻害剤単独に対する抵抗性を有するヒトを治療する方法であって、本明細書に記載のPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量を当該ヒトに投与することを含む方法が提供される。他の例によれば、本明細書では、PI3K阻害剤単独に対する抵抗性を有するヒトを治療する方法であって、本明細書に記載のPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量を当該ヒトに投与することを含む方法が提供される。
B細胞悪性腫瘍
一部の態様によれば、B細胞悪性腫瘍はB細胞リンパ腫又はB細胞白血病である。一部の例によれば、B細胞悪性腫瘍は、濾胞性リンパ腫(FL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、非胚中心B細胞リンパ腫(GCB)、又はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。
一部の例によれば、B細胞悪性腫瘍はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。一例によれば、DLBCLは活性化B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC−DLBCL)である。別の変形例によれば、DLBCLは胚中心B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(GCB−DLBCL)である。他の変形例によれば、DLBCLは非GCB DLBCLである。
他の例によれば、B細胞悪性腫瘍は慢性リンパ性白血病(CLL)である。他の例によれば、B細胞悪性腫瘍はマントル細胞リンパ腫(MCL)である。更に他の例によれば、B細胞悪性腫瘍はヴァルデンストレームマクログロブリン血症(WM)である。
一部の変形例によれば、B細胞悪性腫瘍は低悪性度非ホジキンリンパ腫である。
対象
(治療を)必要とするヒトとは、例えばB細胞悪性腫瘍を有する、又はその疑いがある個人である。ある例によれば、斯かるヒトとは、B細胞悪性腫瘍を発症するリスクのあるヒト(例えば、遺伝的又は非遺伝的にB細胞悪性腫瘍を発症する素因のあるヒト)であって、B細胞悪性腫瘍との診断を受けたことがあるか否かにはよらない。本明細書で使用する場合、「リスクのある」(at risk)対象とは、B細胞悪性腫瘍を発症するリスクのある対象である。斯かる対象は、検出可能な疾患を有していてもいなくてもよく、また、本明細書に記載の治療方法に先立ち、検出可能な疾患を発症していてもいなくてもよい。リスクのある対象は、1又は2以上のいわゆる危険因子を有する場合がある。危険因子とは、B細胞悪性腫瘍の進行と相関を有する測定可能なパラメーター、例えば本明細書に記載のパラメーターである。こうした危険因子を1又は2以上有する対象は、これらの危険因子を有しない個人よりも、B細胞悪性腫瘍を発症する可能性が高い。
これらの危険因子としては、例えば年齢、性別、人種、食生活、既往歴、疾患の前兆の存在、遺伝子的(例えば遺伝的)考察、及び環境暴露等が挙げられる。一部の態様によれば、B細胞悪性腫瘍のリスクのあるヒトとしては、例えばこの疾患を経験した親族を有するヒトや、遺伝子学又は生化学的マーカーの分析によりリスクがあると判定されたヒトが挙げられる。B細胞悪性腫瘍の既往歴も、B細胞悪性腫瘍の再発危険因子の例である。
一部の態様によれば、本明細書では、B細胞悪性腫瘍に関連する1又は2以上の症状を呈するヒトを治療する方法が提供される。一部の態様によれば、斯かるヒトは、早期のB細胞悪性腫瘍を有する。他の態様によれば、斯かるヒトは、進行期のB細胞悪性腫瘍を有する。
一部の態様によれば、本明細書では、B細胞悪性腫瘍を治療するための1又は2以上の標準療法、例えば化学療法、放射線療法、免疫療法、及び/又は、手術を受けたヒトを治療する方法が提供される。即ち、前述の態様の一部によれば、本明細書に記載のPI3K阻害剤とBTK阻害剤との組合せは、化学療法、放射線療法、免疫療法、及び/又は、手術の実施の前、実施と同時、又は実施の後の何れに投与してもよい。
別の側面によれば、本明細書では、B細胞悪性腫瘍の治療に対して「難治性」(refractory)であるヒト、又は、B細胞悪性腫瘍の治療の後に「再発」(relapse)を生じたヒトを治療する方法が提供される。抗B細胞悪性腫瘍療法に対して「難治性」の対象とは、特定の治療に対して応答しないことを意味し、抵抗性(resistant)とも呼ばれる。B細胞悪性腫瘍は、治療の開始時から治療に対して抵抗性であってもよく、治療の過程において、例えば治療がB細胞悪性腫瘍に対して幾分の、しかし寛解又は部分寛解と見做すには十分ではない程度の効果を示した後に、抵抗性となったものでもよい。「再発」を生じた対象とは、改善の期間の後、例えば治療によりB細胞悪性腫瘍の有効な低減が見られた後、例えば対象が寛解又は部分寛解した後、B細胞悪性腫瘍が再度出現し、又はB細胞悪性腫瘍の兆候及び症状が再出現することを意味する。
一部の例によれば、ヒトは、(i)少なくとも1つの抗B細胞悪性腫瘍治療に対して難治性であるか、(ii)少なくとも1つの抗B細胞悪性腫瘍治療による治療の後に再発したか、又は(i)及び(ii)の両方である。ある態様によれば、ヒトは、少なくとも2種、少なくとも3種、又は少なくとも4種の抗B細胞悪性腫瘍療法(例えば標準又は実験的な化学療法を含む)に対して難治性である。一例によれば、ヒトは、(i)BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せに対して難治性であるか;又は(ii)BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せによる治療の後に再発したか;又は(i)及び(ii)の両方である。更なる例によれば、ヒトは、(i)BTK療法又はその組合せに対して難治性であるか;又は(ii)BTK療法又はこれらの組合せによる治療後に再発したか;又は(i)及び(ii)の両方である。ある追加の例によれば、ヒトは、(i)PI3K療法又はその組合せに対して難治性であるか;又は(ii)PI3K療法又はこれらの組合せによる治療後に再発したか;又は(i)及び(ii)の両方である。他の例によれば、ヒトは、BTK療法に対して難治性であるか;又は(ii)BTK療法による治療後に再発したか;又は(i)及び(ii)の両方である。他の特定の変形例によれば、ヒトは、(i)PI3K療法に対して難治性であるか、又は(ii)PI3K療法による治療後に再発したか;又は(i)及び(ii)の両方である。
ある例によれば、ヒトは、(i)少なくとも1つの慢性リンパ性白血病療法に対して難治性であるか、(ii)少なくとも1つの慢性リンパ性白血病療法による治療の後に再発しているか、又は(i)及び(ii)の両方である。一例によれば、ヒトが受け得る慢性リンパ性白血病療法としては、例えば:
a)フルダラビン(Fludara(登録商標));
b)リツキシマブ(Rituxan(登録商標));
c)リツキシマブ(Rituxan(登録商標))とフルダラビンとの組合せ(適宜FRと略称する);
d)シクロホスファミド(シトキサン(Cytoxan)(登録商標))とフルダラビンとの組合せ;シクロホスファミドとリツキシマブ及びフルダラビンとの組合せ(適宜FCRと略称する);
e)シクロホスファミドとビンクリスチン及びプレドニゾンとの組合せ(適宜CVPと略称する);
f)シクロホスファミドとビンクリスチン、プレドニゾン、及びリツキシマブとの組合せ;
g)シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン(Oncovin)、及びプレドニゾンの組合せ(適宜CHOPと略称する);
h)クロラムブシルと、プレドニゾン、リツキシマブ、オビヌツズマブ、又はオファツムマブとの組合せ;
i)ペントスタチンとシクロホスファミド及びリツキシマブとの組合せ(適宜PCRと略称する);
j)ベンダムスチン(Treanda(登録商標))とリツキシマブとの組合せ((適宜BRと略称する);
k)アレムツズマブ(キャンパス(campath)(登録商標));
l)フルダラビン、及び、シクロホスファミド、ベンダムスチン、又はクロラムブシル;及び
m)フルダラビン、及び、シクロホスファミド、ベンダムスチン、又はクロラムブシルと、抗CD20抗体、例えばリツキシマブ、オファツムマブ、又はオビヌツズマブとの組合せ。
別の側面によれば、(i)少なくとも1つの化学療法対して難治性であるか、又は(ii)化学療法による治療後に再発したか、又は(i)及び(ii)の両方であるヒトを感作する方法であって、本明細書に記載のPI3K阻害剤とBTK阻害剤との組合せをヒトに投与することを含む方法が提供される。感作されるヒトは、本明細書に記載のPI3K阻害剤とBTK阻害剤との組合せの投与を伴う治療に対して反応性であるヒト、又は、斯かる治療に対して抵抗性を発症していないヒトである。一例によれば、ヒトは、(i)BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せに対して難治性であるか;又は(ii)BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せによる治療後に再発したか;又は(i)及び(ii)の両方である。
更に別の側面によれば、BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せに対して抵抗性であるヒトを治療する方法であって、本明細書に記載のPI3K阻害剤とBTK阻害剤との組合せをヒトに投与することを含む方法が提供される。一部の態様によれば、PI3K阻害剤をBTK阻害剤との組合せで投与することで、BTK療法又はPI3K療法を同じヒトに対して投与した場合の細胞アポトーシスと比較して、細胞アポトーシスが少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも90%増加する。一例によれば、PI3K阻害剤をBTK阻害剤との組合せで投与することで、BTK阻害剤を唯一の活性剤として含む治療剤をヒトに対して投与した場合の細胞アポトーシスと比較して、細胞アポトーシスが少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも90%増加する。別の例によれば、PI3K阻害剤をBTK阻害剤との組合せで投与することで、PI3K阻害剤を唯一の活性剤として含む治療剤を同じヒトに対して投与した場合の細胞アポトーシスと比較して、細胞アポトーシスが少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも90%増加する。
一部の態様によれば、BTK療法、PI3K療法、又はこれらの組合せに対して抵抗性を有するヒトは、腫瘍壊死因子α誘導性タンパク質3(TNFAIP3、別名A20)変異を有していてもよい。更に別の側面によれば、ヒトのB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、a)腫瘍壊死因子α誘導性タンパク質3(TNFAIP3、別名A20)変異を有するヒトを選択すること;及びb)本明細書に記載のPI3K阻害剤の治療有効量及びBTK阻害剤の治療有効量をヒトに投与することを含む方法が提供される。
一部の例によれば、BTK療法は、唯一の活性剤がBTK阻害剤である療法である。例として、BTK阻害剤としては、これらに限定されるものではないが、化合物B、イブルチニブ(別名1−[(3R)−3−[4−アミノ−3−(4−フェノキシフェニル)−1H−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン−1−イル]ピペリジン−1−イル]プロプ−2−エン−1−オン)、及びアカラブルチニブ(acalabrutinib)(別名4−{8−アミノ−3−[(2S)−1−(2−ブチノイル)−2−ピロリジニル]イミダゾ[1,5−a]ピラジン−1−イル}−N−(2−ピリジニル)ベンズアミド)が挙げられる。一部の例によれば、PI3K療法は、唯一の活性剤がPI3K阻害剤である療法である。例として、PI3K阻害剤としては、これらに限定されるものではないが、化合物A(別名イデラリシブ、イデラリシブ、又はIDELA、又は2−(1−((9H−プリン−6−イル)アミノ)プロピル)−5−フルオロ−3−フェニルキナゾリン−4(3H)−オン)、ドゥベリシブ(duvelisib)(別名8−クロロ−2−フェニル−3−[(1S)−1−(3H−プリン−6−イルアミノ)エチル]−1(2H)−イソキノリノン)、TGR1202、及びアルペリシブ(alpelisib)(別名BYL719)が挙げられる。
別の側面によれば、本明細書では、共存症を伴うヒトのB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、ここで上記治療が共存症の治療にも有効である方法が提供される。B細胞悪性腫瘍の「共存症」(comorbidity)とは、B細胞悪性腫瘍と同時に起こる疾患である。
別の側面によれば、本明細書では、それを必要とするヒトにおいて癌を治療する方法であって、治療有効量の化合物A又は医薬的に許容可能なその塩、及び、治療有効量の化合物B又は医薬的に許容可能なその塩を、ヒトに対して投与することを含む方法が提供される。一部の態様によれば、癌は、膵臓癌、泌尿器癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、肝細胞癌、甲状腺癌、胆嚢癌、肺癌(例えば非小細胞肺癌、小細胞肺癌等)、卵巣癌、子宮頸癌、胃癌、子宮内膜癌、食道癌、頭頸部癌、メラノーマ、神経内分泌癌、CNS癌、脳腫瘍(例えばグリオーマ、未分化希突起グリオーマ、成人多形成グリア芽細胞腫、及び成人未分化星細胞腫)、骨肉腫、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、腹水、悪性胸水、中皮腫、ウィルムス腫瘍、栄養膜新生物、血管周囲細胞腫、カポジ肉腫、粘液様癌腫、円形細胞癌腫、扁平上皮細胞癌腫、食道扁平上皮細胞癌腫、経口癌腫、副腎皮質の癌、又はACTH産生腫瘍が挙げられる。一例によれば、癌は膵臓癌である。
治療有効量
一部の例によれば、治療有効量とは、以下に定義する治療を必要とする対象(例えばヒト)に投与した場合に、斯かる治療を有効とせしめるのに十分な量を意味する。治療有効量は、治療される対象及び病態、対象の体重及び年齢、病態の重症度、投与形式等によってことなるが、当業者であれば容易に決定することが可能である。例えば、ある例によれば、化合物A又は医薬的に許容可能なその塩の治療有効量は、PI3K発現を調節し、これにより適応症を患うヒトを治療し、又は適応症の既存の症状を緩和又は軽減するのに十分な量である。一例によれば、化合物B又は医薬的に許容可能なその塩の治療有効量は、BTK活性を調節し、これにより適応症を患うヒトを治療し、又は適応症の既存の症状を緩和又は軽減するのに十分な量である。
別の例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩の治療有効量は、PI3K活性の阻害に応じて、疾患又は病態の症状を低減するのに十分な量である。別の例によれば、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩の治療有効量は、BTK活性の阻害に応じて、疾患又は病態の症状を低減するのに十分な量である。
ある例によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤の治療有効量を、それを必要とするヒトに投与することにより:
(i)ヒトに投与した場合に、少なくとも1つの有害事象の頻度及び/又は重症度が低減され;又は、
(ii)ヒトに投与した場合に、少なくとも1つの有害事象の頻度及び/又は重症度の上昇が殆ど又は全く生じず;又は、
(i)及び(ii)の組合せが達成される。
一部の例によれば、有害事象として、下痢、大腸炎、アミノ基転移酵素の上昇、発疹、及び肺炎が挙げられる。
一部の例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して、150mg未満、又は150mg未満;又は40mg〜150mg、50mg〜150mg、50mg〜100mg、又は50mg〜75mg;又は約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、約145mg、又は約150mgの用量で投与される。
例えば、ある例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩が、150mg未満の用量で投与され、且つ、斯かる用量においてBTK阻害剤との組合せで投与された場合に、PI3K及びBTK阻害剤の組合せが当該ヒトに投与された場合の少なくとも1つの有害事象の頻度及び/又は重症度を(i)低減し、及び/又は、(ii)その増加が殆ど又は全く生じないようにすることができる。ある例によれば、PI3K及びBTK阻害剤の組合せの投与により、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩を、単独で150mgの用量で投与した場合と比較して、B細胞悪性腫瘍の治療に対し少なくとも同等の有効性(例えば抗増殖活性、無憎悪生存、完全奏効率等)が発揮される。
別の例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩が、150mg以下の用量で投与され、且つ、斯かる用量においてBTK阻害剤との組合せで投与された場合に、PI3K及びBTK阻害剤の組合せが当該ヒトに投与された場合の少なくとも1つの有害事象の頻度及び/又は重症度を(i)低減し、及び/又は、(ii)その増加が殆ど又は全く生じないようにすることができる。ある例によれば、PI3K及びBTK阻害剤の組合せの投与により、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩を、単独で150mgの用量で投与した場合と比較して、B細胞悪性腫瘍の治療に対し少なくとも同等の有効性(例えばヒトにおける抗増殖活性等)が発揮される。
一部の例によれば、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して、1mg〜600mg、40mg〜600mg、1mg〜250mg、1mg〜200mg、1mg〜175mg、1mg〜160mg、1mg〜100mg、5mg〜50mg、又は5mg〜30mg;又は約10mg、約15mg、約20mg、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、又は約145mgの用量で投与される。
ある例によれば、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して、40mg〜1200mgの用量で、40mg〜800mg、40mg〜600mg、40mg〜400mg、約40mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、又は約800mgの用量で投与される。
治療有効量のPI3K及びBTK阻害剤は、所望の治療目標を達成する量を単回用量として供してもよく、複数回用量として供してもよい。本明細書で使用する場合、「用量」(dose)とは、ヒトが各投与時点で摂取すべき活性成分の合計量を指す。例えば上述の経口投与等で投与される用量は、毎日一回(QD)、毎日二回(BID)、毎日三回、毎日四回、又は毎日五回以上投与することができる。一部の態様によれば、PI3K及び/又はBTK阻害剤は、毎日一回投与することができる。一部の態様によれば、PI3K及び/又はBTK阻害剤は、毎日二回投与することができる。更に別の態様によれば、PI3K及び/又はBTK阻害剤は、毎週一回投与することができる。
一例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して50mgの用量で毎日二回投与される。別の変形例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して100mgの用量で毎日一回投与される。
別の例によれば、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して40mg〜150mg、又は約20mg、約40mg、又は約75mgの用量で、毎日二回投与される。更に別の変形例によれば、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して40mg〜80mgの用量で毎日一回投与される。
例えば、ある例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して約50mgの用量で毎日二回投与され、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して20mg〜150mg、又は約20mg、又は約40mg、又は約80mg、又は約150mgの用量で、毎日一回投与される。他の例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して約50mgの用量で毎日二回投与され、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して20mg〜75mg、又は約20mg、又は約40mg、又は約75mgの用量で、毎日二回投与される。
他の特定の例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して約100mgの用量で毎日二回投与され、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して20mg〜150mg、又は約20mg、又は約40mg、又は約80mg、又は約150mgの用量で、毎日一回投与される。他の例によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して約100mgの用量で毎日二回投与され、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩は、ヒトに対して20mg〜75mg、又は約20mg、又は約40mg、又は約75mgの用量で、毎日二回投与される。
ある例によれば、BTK阻害剤の投薬に先立って、PI3K阻害剤の投薬を行う。例えば、ある特定の例によれば、PI3K阻害剤50mg〜150mgを毎日二回、所定の期間に亘って投薬した後で、BTK阻害剤との同時投与を行う。ある例によれば、BTK阻害剤との同時投与に先立ち、PI3K阻害剤を最長約12週間に亘って投薬する。ある例によれば、BTK阻害剤との同時投与に先立ち、PI3K阻害剤を約1〜12週、4〜12週、6〜12週、8〜12週、10〜12週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週、又は12週の期間に亘って投薬する。ある特定の例によれば、BTK阻害剤との同時投与に先立ち、PI3K阻害剤を約4〜12週又は約6〜12週の期間に亘って投薬する。ある例によれば、PI3K阻害剤50mg〜150mgを毎日二回、所定の期間に亘って投薬した後で、BTK阻害剤との同時投与を行う。ここで、BTK阻害剤は40mg〜1200mg、40mg〜800mg、40mg〜600mg、40mg〜400mg、約40mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、又は約800mgの用量で投与される。
ある例によれば、PI3K阻害剤の投薬に先立って、BTK阻害剤の投薬を行う。例えば、ある特定の例によれば、BTK阻害剤を毎日又は毎週40mg〜1200mg、40mg〜800mg、40mg〜600mg、40mg〜400mg、約40mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、又は約800mgの用量で、所定の期間に亘って投薬した後で、PI3K阻害剤との同時投与を行う。ある例によれば、PI3K阻害剤との同時投与に先立ち、BTK阻害剤を最長約12週間に亘って投薬する。ある例によれば、PI3K阻害剤との同時投与に先立ち、BTK阻害剤を約1〜12週、4〜12週、6〜12週、8〜12週、10〜12週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、11週又は12週の期間に亘って投薬する。ある特定の例によれば、PI3K阻害剤との同時投与に先立ち、BTK阻害剤を約4〜12週又は約6〜12週の期間に亘って投薬する。ある例によれば、BTK阻害剤を毎日又は毎週40mg〜1200mg、40mg〜800mg、40mg〜600mg、40mg〜400mg、約40mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、又は約800mgの用量で、所定の期間に亘って投薬した後で、PI3K阻害剤との同時投与を行う。ここで、PI3K阻害剤は50mg〜150mgの用量で毎日二回投与される。
一部の例によれば、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩と、化合物B又は医薬的に許容可能なその塩との組合せにより、同用量を単剤投与した場合と比較して、各化合物の治療有効量が低減される。
ある側面によれば、PI3K阻害剤、例えば化合物Aと、BTK阻害剤、例えば化合物Bとの投与の組合せによって、各薬物をより低い用量で投与することができ、惹いては各薬物の毒性を低減することができる。ある例によれば、斯かる組合せにより、単剤投与と比較してより低い用量での投与が可能となる。例えば、PI3K阻害剤、例えば化合物Aと、BTK阻害剤、例えば化合物Bとを、毎日又は毎週1mg〜2000mg、5mg〜2000mg、10mg〜2000mg、20mg〜2000mg、30mg〜2000mg、40mg〜2000mg、40mg〜1200mg、40mg〜800mg、40mg〜600mg、40mg〜400mg、例えば約1mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、又は約800mgの用量で、所定の期間に亘って投与する。本明細書において提供されるある側面によれば、組合せ治療におけるPI3K阻害剤(例えばイデラリシブ)及びBTK阻害剤(例えば化合物B)の各々は、単剤治療におけるPI3K阻害剤又はBTK阻害剤の各々と比べて、より低い用量で投与することができる。
投与
PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩と、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩とは、本技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて投与することができる。例えば、これらの化合物は、口腔内、眼内、経口、浸透圧、非経口(筋肉内、腹腔内、胸骨内、静脈内、皮下)、直腸内、局所、経皮、又は膣内の経路により投与することができる。一例によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤は各々経口投与される。
更に、ある例によれば、本明細書に記載のPI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩の投与は、BTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩の投与に対して、先に行ってもよく、後に行ってもよく、同時に行ってもよい。更に、ある例によれば、本明細書に記載のBTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩の投与は、PI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩の投与に対して、先に行ってもよく、後に行ってもよく、同時に行ってもよい。
医薬組成物
PI3K及びBTK阻害剤は、医薬組成物の形態で投与することができる。例えば、ある例によれば、本明細書に記載のPI3K阻害剤は、PI3K阻害剤と少なくとも1つの医薬的に許容可能なビヒクルとを含む医薬組成物中に存在するものであってもよい。一部の例によれば、本明細書に記載のBTK阻害剤は、BTK阻害剤と少なくとも1つの医薬的に許容可能なビヒクルとを含む医薬組成物中に存在するものであってもよい。医薬的に許容可能なビヒクルとしては、例えば医薬的に許容可能な担体、アジュバント、及び/又は、賦形剤が挙げられるが、他の成分であっても、製剤中の他の成分と適合すると共に、需要者に対して有害なものでない限り、医薬的に許容可能であると見做される。
従って、本明細書では、本明細書に記載のPI3K及びBTK阻害剤と、1又は2以上の医薬的に許容可能なビヒクル、例えば賦形剤、担体、例えば不活性の固体希釈材及び充填材、希釈媒、例えば無菌水性溶液及び種々の有機溶媒、透過促進剤、溶解剤及びアジュバント等を含む医薬組成物が提供される。斯かる医薬組成物は単独で投与してもよく、他の治療剤と組合せて投与してもよい。斯かる組成物は、医薬分野で周知の手法により調製することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mace Publishing Co., Philadelphia, PA 17th Ed. (1985);及びModern Pharmaceutics, Marcel Dekker, Inc. 3rd Ed. (G.S. Banker & C.T. Rhodes, Eds.)等を参照)。
本医薬組成物は単回用量又は複数回用量の何れで投与してもよく、同様の有用性を有する剤について認められている投与形態の何れにより、例えば直腸内、口腔内、鼻腔内、及び経皮経路により、動脈内注入により、静脈内、腹腔内、非経口、筋肉内、皮下、経口、局所投与により、吸入剤として、又は含浸又は被覆デバイス、例えばステント、又は動脈内挿入シリンダー状ポリマー等により投与してもよい。特定の態様によれば、医薬組成物は単回用量又は複数回用量として経口投与される。
一部の態様によれば、本明細書に記載の医薬組成物は、単位投与形態として処方される。「単位投与形態」(unit dosage form)とは、ヒト対象への単回投与に適した物理的に分離した単位であって、各単位が、所望の治療効果を発揮するべく計算された所定量の活性成分を、適切な医薬賦形剤との組合せで含むものをいう。一部の例によれば、本明細書に記載の医薬組成物は、錠剤、カプセル、又はアンプルの形態である。
特定の態様によれば、本明細書に記載のPI3K阻害剤、例えば化合物A又は医薬的に許容可能なその塩は、錠剤として処方される。特定の態様によれば、本明細書に記載のBTK阻害剤、例えば化合物B又は医薬的に許容可能なその塩も、錠剤として処方される。一部の変形例によれば、化合物A又は医薬的に許容可能なその塩と、化合物B又は医薬的に許容可能なその塩とが、個別の錠剤として処方される。他の変形例によれば、化合物A又は医薬的に許容可能なその塩と、化合物B又は医薬的に許容可能なその塩とが、単一の錠剤として処方される。
追加の治療剤
本明細書において、ある側面によれば、本明細書に記載の組合せ(例えばPI3K阻害剤とBTK阻害剤との組合せ)は、化学療法剤、免疫療法剤、放射線療法剤、抗新生物剤、抗癌剤、抗増殖剤、抗線維化剤、抗血管新生剤、治療用抗体、又はこれらの任意の組合せと使用し、或いはこれらと組合せてもよい。
化学療法剤はその作用機序に基づき、例えば以下の群に分類される:代謝拮抗剤/抗癌剤、例えばピリミジン類似物(フロクスリジン(フロクスウリジン)、カペシタビン、及びシタラビン);プリン類似物、葉酸アンタゴニスト及び関連阻害性抗増殖剤/抗有糸分裂剤、例えば天然産物、例えばビンカ・アルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン)及び微小管、例えばタキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロン及びナベルビン、エピジポドフィロトキシン(epidipodophyllotoxin)(エトポシド、テニポシド);DNA損傷剤(アクチノマイシン、アムサクリン、ブスルファン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド(シトキサン)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イホスファミド、メルファラン、メクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソ尿素、プロカルバジン、タキソール、タキソテール、テニポシド、エトポシド、トリエチレンチオリン酸アミド);抗生物質、例えばダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシン;酵素(L−アスパラギナーゼ:全身にてL−アスパラギンを代謝し、自らアスパラギンを合成する能力を有さない細胞を死滅させる);抗血小板剤;抗増殖/抗有糸分裂性アルキル化剤、例えば窒素マスタード、シクロホスファミド及び類似物、メルファラン、クロラムブシル)、及び(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、アルキルニトロソ尿素(BCNU)及び類似物、ストレプトゾシン)、トリアゼン−ダカルバジン(DTIC);抗増殖/抗有糸分裂性代謝拮抗剤、例えば葉酸類似物(メトトレキサート);白金配位錯体(シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトテン、アミノグルテチミド;ホルモン、ホルモン類似物(エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)及びアロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール);抗凝血剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩及び他のトロンビンの阻害剤);線維素溶解剤(例えば組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼ)、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル;抗遊走剤;抗分泌剤(ブレフェルジン(breveldin));免疫阻害剤、タクロリムス、シロリムス、アザチオプリン、ミコフェノール酸;化合物(TNP−470、ゲニステイン)及び成長因子阻害剤(血管内皮成長因子阻害剤、線維芽細胞成長因子阻害剤);アンジオテンシン受容体遮断薬、酸化窒素供与体;アンチセンスオリゴヌクレオチド;抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ);細胞周期阻害剤及び分化誘導剤(トレチノイン);阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ゲニポシド(eniposide)、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン及びミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン)、コルチコステロイド(コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン(methylpednisolone)、プレドニゾン、及びプレドニゾロン);成長因子シグナル伝達キナーゼ阻害剤;機能不全誘導剤、毒素、例えばコレラ毒素、リシン、緑膿菌外毒素、百日咳菌アデニル酸シクラーゼ毒素、又はジフテリア毒素、及びカスパーゼ活性化因子;及びクロマチンが挙げられる。
本明細書で使用する場合、「化学療法剤」(chemotherapeutic agent, chemotherapeutic)(又は化学療法剤で治療する場合の「化学療法」(chemotherapy))という語は、癌の治療に有用な任意の非タンパク質性(即ち非ペプチド性)化合物を包含する意である。化学療法剤の例として、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標));アルキルスルホン酸、例えばブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン、例えばベンゾドパ(benzodopa)、カルボクオン(carboquone)、メツレドパ(meturedopa)、及びウレドパ(uredopa);エミレルミン(emylerumines)及びメミラメラミン(memylamelamine)、例えばアルトレタミン(alfretamine)、トリエチレンメラミン(triemylenemelamine)、トリエチレンリン酸アミド、トリエチレンチオリン酸アミド及びトリメチロールメラミン(trimemylolomelamine);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);カンプトセシン(合成類似物トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼルシン及びビゼレシン合成類似物を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似物KW−2189及びCBI−TMIを含む);エリュテロビン;パンクラスタチン;サルコディクチン(sarcodictyin);スポンジスタチン;窒素マスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミン酸化物、メルファラン、ノベンビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えばカリケアミシン、特にカリケアミシンγII及びカリケアミシンφI1、例えばAgnew, Chem. Intl. Ed. Engl, 33:183−186 (1994);ダイネミシン(dynemicin)、例えばダイネミシン(dynemicin)A;ビスホスホネート、例えばクロドロン酸(clodronate);エスペラミシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carrninomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(Adramycin)(登録商標)(例えばモルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシン)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、マイコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ぺプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えばメトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似物、例えばデモプテリン(demopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似物、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似物、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスリジン(フロクスウリジン);アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤(antiadrenal)、例えばアミノグルテチミド、ミトテン、トリロスタン;葉酸補給剤、例えばフォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルラシル(eniluracil);アムサクリン;ヘストラブシル(hestrabucil);ビスアントレン;エダトレキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン;エルホルムチン(elformthine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロイコボリン;ロニダミン;メイタンシノイド、例えばメイタンシン及びアンサマイトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;フルオロピリミジン;フォリン酸;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2',2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特にT−2毒素、ベラクリンA(verracurin A)、ロリジンA(roridin A)及びアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド("Ara-C");シクロホスファミド;チオテパ(thiopeta);タキサン系薬(taxoids)、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol Meyers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhone−Poulenc Rorer, Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン(Gemzar(登録商標));6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似物、例えばシスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン(Navelbine(登録商標));ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えばレチノイン酸;カペシタビン;FOLFIRI(フルオロウラシル、ロイコボリン、及びイリノテカン)、並びに上記の何れかの医薬的に許容可能な塩、酸、又は誘導体が挙げられる。
更に「化学療法剤」の定義に入るものとしては、腫瘍に対するホルモンの作用を制御又は阻害する作用を有する抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲン剤及び選択的エストロゲン 受容体モジュレーター(selective estrogen receptor modulator:SERM)、例えばタモキシフェン(例えばNolvadex(登録商標))、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(Fareston (登録商標));副腎でのエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼ阻害剤、例えば、4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、酢酸メゲストロール(Megace(登録商標))、エキセメスタン、フォルメスタン、ファドロゾール、ボロゾール(Rivisor(登録商標))、レトロゾール(Femara(登録商標))、及びアナストロゾール(Arimidex(登録商標));及び抗アンドロゲン、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド(leuprohde)、及びゴセレリン;並びに上記の何れかの医薬的に許容可能な塩、酸、又は誘導体が挙げられる。
抗血管新生剤としては、これらに限定されるものではないが、レチノイド酸及びその誘導体、2−メトキシエストラジオール、アンジオスタチン(ANGIOSTATIN)(登録商標)、エンドスタチン(ENDOSTATIN)(登録商標)、スラミン、スクアラミン、メタロプロテアーゼ−1の組織阻害剤、メタロプロテアーゼ−2の組織阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−2、軟骨由来阻害剤、パクリタキセル(nab−パクリタキセル)、血小板因子4、硫酸プロタミン(クルペイン)、硫酸化キチン誘導体(ズワイガニの殻から調製される)、硫酸化多糖類ペプチドグリカン複合体(sp−pg)、スタウロスポリン、基質代謝のモジュレーター、例えばプロリン類似物((1−アゼチジン−2−カルボン酸(LACA)、シスヒドロキシプロリン、d,I−3,4−デヒドロプロリン、チアプロリン、α−ジピリジル、フマル酸β−アミノプロピオニトリル、4−プロピル−5−(4−ピリジニル)−2(3H)−オキサゾロン;メトトレキサート、ミトキサントロン、ヘパリン、インターフェロン、2マクログロブリン−血清、chimp−3、キモスタチン、β−シクロデキストリンテトラデカスルフェート、エポネマイシン(eponemycin);フマギリン、金チオリンゴ酸ナトリウム、d−ペニシラミン(CDPT)、β−1−抗コラゲナーゼ−血清、α−2−抗プラスミン、ビスアントレン、ロベンザリット二ナトリウム、n−2−カルボキシフェニル−4−クロロアントラニル酸二ナトリウム又は「CCA」、サリドマイド;アンジオスタチン系ステロイド、カルボキシアミノイミダゾール;メタロプロテアーゼ阻害剤、例えばBB94等が挙げられる。他の抗血管新生剤としては、以下の血管新生成長因子:β−FGF、α−FGF、FGF−5、VEGFアイソフォーム、VEGF−C、HGF/SF及びAng−1/Ang−2等に対する抗体、好ましくはモノクローナル抗体が挙げられる。Ferrara N. and Alitalo, K. "Clinical application of angiogenic growth factors and their inhibitors" (1999) Nature Medicine 5:1359-1364を参照。
抗線維化剤としては、これらに限定されるものではないが、例えばβ−アミノプロプリオニトリル(BAPN)等の化合物、並びに、リシルオキシダーゼの阻害剤、及び、そのコラーゲンの異常沈着に関連する疾患及び病態の治療におけるその使用に関する、米国特許第4,965,288号明細書(Palfreyman等、1990年10月23日発行、発明の名称「リシルオキシダーゼの阻害剤」)に開示の化合物;米国特許第4,997,854号明細書(Kagan等、1991年3月5日発行、発明の名称「抗線維化剤、及び、隣接して位置するジアミン類似基質を用いてリシルオキシダーゼの活性をインサイチュ(in situ)で阻害する方法」)に開示の、種々の病理学的線維化状態の治療のためにLOXを阻害する化合物等が挙げられる。これらの文献は、引用により本明細書に組み込まれる。更なる阻害剤の例は、米国特許第4,943,593号明細書(Palfreyman等、1990年7月24日発行、発明の名称「リシルオキシダーゼの阻害剤」)に記載の化合物、例えば2−イソブチル−3−フルオロ−、クロロ−、又はブロモ−アリルアミン等;並びに、米国特許第5,021,456号明細書;米国特許第5,5059,714号明細書;米国特許第5,120,764号明細書;米国特許第5,182,297号明細書;米国特許第5,252,608号明細書(2−(1−ナフチルオキシメチル)−3−フルオロアリルアミンに関する);及び米国特許出願公開第2004/0248871号明細書等に記載されている。コレラの文献は引用により本明細書に組み込まれる。抗線維化剤の例としては、他にもリシルオキシダーゼの活性部位のカルボニル基と反応する一級アミンや、更に具体的には、カルボニルとの結合後に共鳴により安定化する生成物を形成するもの、例えば以下の一級アミン:エチレンジアミン、ヒドラジン、フェニルヒドラジン、及びそれらの誘導体、セミカルバジド、及び尿素誘導体、アミノニトリル、例えばβ−アミノプロピオニトリル(BAPN)、又は2−ニトロエチルアミン、不飽和の又は飽和のハロアミン、例えば2−ブロモ−エチルアミン、2−クロロエチルアミン、2−トリフルオロエチルアミン、3−ブロモプロピルアミン、p−ハロベンジルアミン、セレノホモシステインラクトン等が挙げられる。また、抗線維化剤としては、細胞浸透性又は非浸透性の銅キレート剤等が挙げられる。化合物の例としては、リシルオキシダーゼによるリシル及びヒドロキシリシル残基の酸化的脱アミノ化に由来するアルデヒド誘導体を遮断する間接的阻害剤等の化合物、例えばチオールアミン、特にD−ペニシラミン又はその類似物、例えば2−アミノ−5−メルカプト−5−メチルヘキサン酸、D−2−アミノ−3−メチル−3−((2−アセトアミドエチル)ジチオ)ブタン酸、p−2−アミノ−3−メチル−3−((2−アミノエチル)ジチオ)ブタン酸、ナトリウム−4−((p−1−ジメチル−2−アミノ−2−カルボキシエチル)ジチオ)ブタンスルフレート、2−アセトアミドエチル−2−アセトアミドエタンチオールスルファネート、ナトリウム−4−メルカプトブタンスルフィネート三水和物等が挙げられる。
免疫療法剤としては、これらに限られるものではないが、患者の治療に適している治療抗体;例えばアバゴボマブ、アデカツムマブ、アフツズマブ、アレムツズマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブ、アルシツモマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベバシズマブ、ビバツズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、カンツズマブ、カツマクソマブ、セツキシマブ、シタツズマブ、シクスツムマブ、クリバツズマブ、コナツムマブ、ダラツムマブ、ドロジツマブ、ヂュリゴツマブ(duligotumab)、デュシギツマブ(dusigitumab)、デツモマブ、ダセツズマブ、ダロツズマブ、エクロメキシマブ、エロツズマブ、エンシツキシマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、ファーレツズマブ、フィクラツズマブ、フィギツムマブ、フランボツマブ、フツキシマブ、ガニツマブ、ゲムツズマブ、ギレンツキシマブ、グレムバツムマブ、イブリツモマブ、イゴボマブ、イムガツズマブ、インダツキシマブ、イノツズマブ、インテツムマブ、イピリムマブ、イラツムマブ、ラベツズマブ、レクサツムマブ、リンツズマブ、ロルボツズマブ、ルカツムマブ、マパツムマブ、マツズマブ、ミラツズマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モキセツモマブ、ナルナツマブ、ナプツモマブ、ネシツムマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブ、オカラツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オナルツズマブ、オポルツズマブ、オレゴボマブ、パニツムマブ、パルサツズマブ、パトリツマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ピンツモマブ、プリツムマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロバツムマブ、サツモマブ、シブロツズマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、ソリトマブ、タカツズマブ、タプリツモマブ、テナツモマブ、テプロツムマブ、ティガツズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、ツコツズマブ、ウブリツキシマブ、ベルツズマブ、ボルセツズマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、CC49及び3F8等が挙げられる。これらの例示された治療用抗体は、更に標識されていてもよく、放射性同位体粒子、例えばインジウムIn111、イットリウムY90、ヨウ素I131等と組合わされてもよい。
特定の態様によれば、(例えば、本明細書に記載のPI3K阻害剤及びBTK阻害剤と更に組合せて使用される)追加の治療剤は、窒素マスタードアルキル化剤である。窒素マスタードアルキル化剤の限定されない例としては、クロラムブシルが挙げられる。
リンパ腫又は白血病の治療に適した化学療法剤としては、アルデスロイキン、アルボシジブ(alvocidib)、抗新生物薬AS2−1、抗新生物薬A10、抗胸腺細胞グロブリン、アミホスチン三水和物、アミノカンプトセシン、三酸化ヒ素、β−アレチン、Bcl−2ファミリータンパク質阻害剤ABT−263、ABT−199、ABT−737、BMS−345541、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))、ブリオスタチン 1、ブスルファン、カルボプラチン、キャンパス(campath)−1H、CC−5103、カルムスチン、カスポファンギン酢酸塩、クロファラビン、シスプラチン、クラドリビン(Leustarin)、クロラムブシル(Leukeran)、クルクミン、シクロスポリン、シクロホスファミド(Cyloxan, Endoxan, Endoxana, Cyclostin)、シタラビン、デニロイキン・ディフティトックス、デキサメタゾン、DT PACE、ドセタキセル、ドラスタチン10、ドキソルビシン(Adriamycin(登録商標), Adriblastine)、塩酸ドキソルビシン、エンザスタウリン、エポエチンアルファ、エトポシド、エベロリムス(RAD001)、フェンレチニド、フィルグラスチム、メルファラン、メスナ、フラボピリドール、フルダラビン(Fludara)、ゲルダナマイシン(17−AAG)、イホスファミド、イリノテカン塩酸塩、イキサべピロン、レナリドミド(Revlimid(登録商標), CC−5013)、リンホカイン−活性化キラー細胞、メルファラン、メトトレキサート、ミトキサントロン塩酸塩、モテキサフィンガドリニウム、ミコフェノール酸モフェチル、ネララビン、オブリメルセン(Genasense)、オバトクラックス(GX15-070)、オブリメルセン、オクトレオチド酢酸塩、Ω−3脂肪酸、オキサリプラチン、パクリタキセル、PD0332991、PEG化リポソーム性ドキソルビシン塩酸塩、ペグフィルグラスチム、ペントスタチン(Nipent)、ペリフォシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、R−ロスコビチン(roscovitine)(Selicilib、CYC202)、組換インターフェロンα、組換インターロイキン−12、組換インターロイキン−11、組換flt3リガンド、組換ヒトトロンボポエチン、リツキシマブ、サルグラモスチム、クエン酸シルデナフィル、シンバスタチン、シロリムス、スチリルスルホン、タクロリムス、タネスピマイシン、テムシロリムス(CCl−779)、サリドマイド、治療同種リンパ球、チオテパ、チピファルニブ、ベルケイド(登録商標)(ボルテゾミブ又はPS-341)、ビンクリスチン(Oncovin)、ビンクリスチン硫酸塩、ビノレルビン酒石酸塩、ボリノスタット(SAHA)、ボリノスタット、及びFR(フルダラビン、リツキシマブ)、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン)、CVP(シクロホスファミド、ビンクリスチン及びプレドニゾン)、FCM(フルダラビン、シクロホスファミド、ミトキサントロン)、FCR(フルダラビン、シクロホスファミド、リツキシマブ)、ハイパーCVAD(過分割シクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメタゾン、メトトレキサート、シタラビン)、ICE(イホスファミド、カルボプラチン及びエトポシド)、MCP(ミトキサントロン、クロラムブシル、及びプレドニゾロン)、R−CHOP(リツキシマブ及びCHOP)、R−CVP(リツキシマブ及びCVP)、R−FCM(リツキシマブ及びFCM)、R−ICE(リツキシマブ−ICE)、及びR−MCP(R−MCP)が挙げられる。
イデラリシブに対して抵抗性の対象を治療する方法
特定の側面によれば、本明細書では、イデラリシブに対して抵抗性である、又は抵抗性を発現しているヒトにおいてB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、それを必要とするヒトに対して、治療有効量のイデラリシブ及び治療有効量の更なる剤を投与することを含む方法が提供される。別の側面によれば、本明細書では、イデラリシブに対する抵抗性を遅延又は延期させるべく、ヒトにおいてB細胞悪性腫瘍を治療する方法であって、それを必要とするヒトに対して、治療有効量のイデラリシブ及び治療有効量の更なる剤を投与することを含む方法が提供される。
上記の側面の一部の態様によれば、B細胞悪性腫瘍はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。一態様によれば、B細胞悪性腫瘍は活性化B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(ABC−DLBCL)である。上記の側面及び態様の一部の変形例によれば、更なる剤はMK−2206又はGSK−2334470である。当業者であれば認識するように、MK−2206はAkt阻害剤であり、GSK−2334470はPDK1阻害剤であり、これらの構造は本技術分野において公知である。
上記の側面の他の態様によれば、B細胞悪性腫瘍は濾胞性リンパ腫(FL)である。上記の態様の一部の変形例によれば、更なる剤はBYL−719、ダサチニブ、又はエントスプレチニブである。当業者であれば認識するように、BYL−719はPI3Kα阻害剤であり、ダサチニブはBcr−Ablチロシンキナーゼ阻害剤及びSrcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤であり、エントスプレチニブはSyk阻害剤であり、何れの構造も本技術分野において公知である。
製品及びキット
本明細書に記載のPI3K阻害剤を含む組成物(例えば製剤及び単位投与形態が挙げられる)及び本明細書に記載のBTK阻害剤を含む組成物を調製し、適切な容器に入れ、適応対象の病態の治療用である旨を表示することができる。従って、本明細書に記載のPI3K阻害剤の単位投与形態及びBTK阻害剤の単位投与形態と、これらの化合物を使用するための指示を含むラベルとを包入した容器等の製品も提供される。一部の態様によれば、当該製品は、(i)本明細書に記載のPI3K阻害剤と、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態;及び(ii)本明細書に記載のBTK阻害剤と、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態を包入した容器である。一態様によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤の各単位投与形態は、何れも錠剤である。
別の側面によれば、イデラリシブの単位投与形態と、MK−2206、GSK−2334470、BYL−719、ダサチニブ、又はエントスプレチニブの単位投与形態と、これらの化合物を使用するための指示を含むラベルとを包入した容器等の製品も提供される。一部の態様によれば、当該製品は、(i)イデラリシブと、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態;及び(ii)MK−2206、GSK−2334470、BYL−719、ダサチニブ、又はエントスプレチニブと、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態を包入した容器である。
また、キットも考えられる。例えば、(i)本明細書に記載のPI3K阻害剤及び(ii)本明細書に記載のBTK阻害剤の単位投与形態と、これらの組成物を病状の治療に使用するための指示を含む添付文書とを備えるキットが提供される。一部の態様によれば、当該キットは、(i)本明細書に記載のPI3K阻害剤と、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤とを含む単位投与形態;及び(ii)本明細書に記載のBTK阻害剤と、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態を備える。一態様によれば、PI3K阻害剤及びBTK阻害剤の各単位投与形態は、何れも錠剤である。
別の側面によれば、(i)イデラリシブ、及び、(ii)MK−2206、GSK−2334470、BYL−719、ダサチニブ、又はエントスプレチニブの各単位投与形態と、これらの組成物を病状の治療に使用するための指示を含む添付文書とを備えるキットが提供される。一部の態様によれば、当該キットは、(i)イデラリシブと、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態;及び(ii)MK−2206、GSK−2334470、BYL−719、ダサチニブ、又はエントスプレチニブと、1又は2以上の医薬的に許容可能な担体、アジュバント又は賦形剤との単位投与形態とを備える。
当該キットに使用される指示は、本明細書に更に記載されるように、B細胞悪性腫瘍を治療するためのものであってもよい。
以下の実施例は、本出願に開示した態様の理解を更に助ける目的で示すものであるが、これら実施例が属する分野の当業者には周知の従来法を理解していることが前提となる。以下に記載する具体的な材料及び条件は、本明細書に開示した態様の特定の側面を例示することを意図したものである。よって、本発明の合理的な範囲を限定するものと解すべきではない。
実施例1A:DLBCL細胞系における増殖阻害アッセイ
本実施例では、化合物Bと組み合わせたイデラリシブの抗増殖活性を3つのDLBCL細胞系で評価する。
材料と方法
細胞系及び培養条件:イデラリシブ(化合物Aと呼ぶ)と6−アミノ−9−[(3R)−1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オンの一塩酸塩(実施例では化合物Bと呼ぶ)との組合せを、インビトロ増殖阻害アッセイにより、3つのABC−DLBCL細胞系(OCI−LY10、Ri−1、TMD−8)及び1つのGCB−DLBCL細胞系(Pfeiffer)で評価した。他のDLBCL細胞系(NU−DUL−1、SU−DUL−8、SU−DHL−2、OCI−Ly3、U−2932が含まれる)についても、イデラリシブ、化合物B、及びイブルチニブで処理し、増殖阻害アッセイで調べた。
細胞系は、American Type Culture Collection(ATCC)、Leibniz-Institut DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikrooorgansimen und Zellkulturen GmbH(DSMZ社)、University Health Network(トロント、カナダ国)、及び東京医科歯科大学難病疾患研究所の何れかから取得した。細胞は、提供された指示に従って培養した。RPMI基本培地(Gibco社カタログ番号22400-089)に20%熱不活性化ウシ胎仔血清(Gibco社カタログ番号16140-063)及び100U/lのペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco社カタログ番号15140-148)を添加して完全培地を調製した。細胞を37℃/5%CO2でインキュベートした。下記表A参照。
遺伝子変異プロファイリング:FoundationOne
(登録商標)ヘムアッセイ(Foundation Medicine社)を利用し、使用した細胞系に共通するシグナル伝達経路の要素の変異を明らかにした。
細胞生存アッセイ:細胞のATPレベルを定量するCellTiter-Glo(登録商標)アッセイ(Promega社)を用いて薬剤のインビトロでの抗増殖活性を評価した。試験化合物をDMSOに溶解して10mMの貯蔵溶液を調製した。単剤のEC50を求めるため、全試験化合物を96ウェルプレート上でDMSOにより3倍ずつ段階希釈し、試験培地中0.1%DMSOの溶液内で10μM〜0.51nMの最終用量範囲を実現した。組合せ薬の試験のため、化合物Bについては水平方向の2倍又は3倍ずつの段階希釈パターンを用い、垂直方向の2倍、3倍、又は4倍ずつの段階希釈パターンを用いたイデラリシブと組み合わせた。細胞系のEC50に応じて試験対象濃度の上限を変えた。最大濃度は10μMであった。試験培地中のDMSOの最終濃度は0.2%であった。各組合せは4つのプレートを用いて反復実験を行い、相乗スコアの評価に十分なデータを得た。全ての試験プレートに、0%阻害(DMSO)及び100%阻害(2μMスタウロスポリン)を示す対照ウェルをそれぞれ1列ずつ設けた。何れの細胞系についても、アッセイ増殖培地としては、20%FBS及び100U/lペニシリン−ストレプトマイシンを添加したRPMIを用いた。各細胞系の播種密度は、96時間の増殖速度に基づき最適化し、96ウェルプレートの各ウェル当たり10,000〜30,000細胞とした。37℃/5%CO2下で薬剤と共に4日間インキュベートした後、CellTiter-Glo(登録商標)アッセイを製造者のプロトコルに従って実施した。Biotek社のSynergyルミノメータを用いて相対ルミネセンス単位を定量した。
データ分析:Z’<0.5又は4日間のアッセイ期間内の細胞系の増殖が2倍未満のプレートのデータは除外した。Z’は、式
Z’=[1−((3(σstau+σDMSO))/(|μDMSO−μstau|)]
により算出した。ここで、σstau及びσDMSOはそれぞれ100%阻害スタウロスポリン対照ウェル及び0%阻害DMSO対照ウェルの標準偏差であり、μDMSO及びμstauはそれぞれ100%阻害スタウロスポリン対照ウェル及び0%阻害DMSO対照ウェルの平均値である。Cell Titer Gloの原信号は、式
[(原数値)−(100%阻害スタウロスポリン対照)]/[(DMSO対照値)−(100%阻害スタウロスポリン対照)]
により正規化した。
EC50は、GraphPad Prism又はDose Responseソフトウエアを用いて、データを4パラメータ変数勾配モデルにフィットさせることにより求めた。EC90は、「Find ECanything」変数勾配モデルを用い、Fを10に設定してデータをフィットさせることにより計算した。10μMでのEmaxは、阻害剤が存在しない対照の信号に対する阻害剤10μMでの信号の比の値を計算することにより求めた。組合せ試験では、一方の化合物の用量を固定した場合の他方の化合物のEC50のグラフから、各被検物質濃度のEC50を求めた。EC50シフトは、単剤のEC50を第2の薬剤の最大用量でのEC50で割った比を計算することにより求めた。
相乗作用はMacSynergy IIプログラムを用いて分析した。このプログラムは、Bliss Independence数学モデルを用い、組合せ薬の理論的な加算値を、各薬物単独で得られる値に基づいて計算する。このBliss Independenceモデルでは、各薬物が独立に作用すると仮定する。各化合物の理論的加算作用を計算し、これを実際に得られた作用から差し引く。予想される効果よりも大きいことを相乗作用と定義し、予想される効果よりも小さいことを拮抗作用と定義する。本実施例では、相乗作用値が50よりも大きい場合に有意であると判断した。薬組合せ試験で求めたEC50値は、4回反復実験のうち一つを表すものであるため、単剤のEC50値とは僅かに異なる可能性がある。
アポトーシスアッセイ:OCI−Ly10とTMD−8という2つのDLBCL細胞系において、化合物Bと組み合わせたイデラリシブのアポトーシスも測定した。20%FBS及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したRPMI1640に細胞を0.2×106細胞/mlの密度で播種した。細胞を156nMのイデラリシブ、化合物B、及びこれらの組合せにより処理した。対照は0.2%DMSOで処理した。次に細胞を37℃で48時間インキュベートした。アポトーシスについては、アネキシンV/FITCキットを用いて測定し、フローサイトメトリーにより分析した。また、アネキシンV/7ADDキット(Beckman Coulter社)を用いたアポトーシスの測定も行った。BD LSRIIを用いて蛍光をフローサイトメトリーによって測定し、FACSDivaを用いて結果を分析した。
結果
化合物Bは、3種類のABC−DLBCL細胞系(OCI−LY10、Ri−1、及びTMD−8)の増殖を強く阻害することが分かった(EC50<26nM)。これらの細胞系はイデラリシブに対しても感受性を示した(EC50<210nM)。図1A〜図1D及び下記表1〜表3に示すように、イデラリシブ及び化合物Bの組合せにより、ABC−DLBCL細胞系であるOCI−LY10及びTMD−8の増殖が相乗的に阻害され、アポトーシスが単剤で観察されたレベルを超えて増加した。追加の結果を図1Gに示す。
イデラリシブ、化合物B、及びイブルチニブは、OCI−LY10、Ri−1、及びTMD−8細胞系の増殖を阻害した。実験で使用したイデラリシブ濃度は臨床上意義のある範囲であり、103nM及び591nMはそれぞれ臨床でのCmin及びCmaxに対応している。化合物Bとの組合せがTMD−8及びOCI−LY10の細胞生存に相乗効果を及ぼすことが観察された。イデラリシブに化合物Bを6nM、12nM、25nMの濃度で追加すると、TMD−8細胞系ではEC50値が254nMからそれぞれ108nM、34nM、及び24nMへとシフトし、OCI−LY10細胞系ではEC50値が122nMからそれぞれ24nM、19nM、及び13nMへとシフトした。
共通するシグナル伝達経路の要素における変異の分析から、OCI−LY10細胞系、Ri−1細胞系、及びTMD−8細胞系は、PI3KCA、AKT1/AKT2、TP53、及びPTENの何れの遺伝子にも変異を有さないことが分かった。更に、これらの結果から、TMD−8とOCI−LY10はCD79A/CD79B及びMYD88に変異を含んでいることと、Ri−1はTP53に変異を、AKT1/AKT2及びMALT1に増幅を含み、NU−DUL−1及びSU−DUL−8はTP53に変異を含み、OCI−LY3は、CD79A/CD79B、CARD11、及びMYD88に変異を、TP53に欠失を、RB1に増幅を含み、U−2932は、TP53に変異を、MALT1に増幅を、RB1に欠失を含むことが分かった。
実施例1B:TMD−8における細胞生存アッセイ
イデラリシブと化合物Bとの組合せ投与がTMD−8細胞系に与える上述の効果を、本実施例では更に検討した。
抗増殖アッセイ:抗増殖アッセイの終点の読み取りは、生存細胞の指標となるATPの定量値に基づき行った。細胞を液体窒素で保存した状態から解凍した。細胞が予想される倍加時間で増殖・分裂するようになってからスクリーニングを開始した。黒色384ウェル組織培養物治療済プレート内の増殖培地に、細胞を1ウェル当たり500細胞の割合で播種した(分析装置中の指定箇所を除く)。細胞を遠心分離によりアッセイプレート内で平衡させ、Dosing Moduleに接続したインキュベータ内で37℃で24時間放置してから処理に供した。治療の際には、(治療しなかった)一群のアッセイプレートを採取し、ATPLite(Perkin Elmer社)を添加してATPレベルを測定した。これらのTzero(T0)プレートをEnvision Plate Readerにより超高感度ルミネセンスを用いて読み取った。処理アッセイプレートは化合物と共に120時間インキュベートした。120時間後、プレートを現像し、ATPLiteを用いて終点を分析した。自動化プロセスによって全データ点を採取し、品質管理を行い、Horizon CombinatoRx専用ソフトウエアを用いて分析した。アッセイプレートは品質管理基準を満たしたもののみ許容した。具体的には、相対ルシフェラーゼ値が実験全体を通じて一定であり、Z因子スコアが0.6よりも大きく、未処理/ビヒクル対照がプレート上で一定の挙動を示すことを基準とした。
Horizon Discoveryは、細胞生存の指標として増殖阻害(Growth Inhibition:GI)を利用した。ビヒクルの細胞生存を投与時(T0)及び120時間後(T120)に測定した。GI読み取りが0%であるとは、増殖阻害がないことを表す。化合物処理細胞の信号とT120ビヒクルの信号が一致する場合である。GIが100%であるとは、増殖が完全に阻害されたことを表す。化合物処理細胞の信号とT0ビヒクルの信号が一致する場合である。GIが100%のウェルでは、処理期間中に細胞数が増加しておらず、化合物による細胞分裂の阻害効果が、この効果レベルでプラトーに達した可能性を示唆する。GIが200%であるとは、培養ウェル内の全細胞が完全に死滅したことを表す。GI200%の活性プラトーに到達した化合物は細胞障害性と判定した。Horizon CombinatoRxは、以下の条件及び式を適用することによりGIを計算する。
但し、Tは被験物質の信号測定値、Vはビヒクル処理対照の測定値、V0は時刻ゼロでのビヒクル対照の測定値である。この式は、National Cancer InstituteのNCI-60高スループットスクリーンで用いられている増殖阻害の計算法による。
相乗スコア分析:Loewe相加性を超える組合せ効果を測定するため、Horizon Discoveryは、相乗的相互作用の強さを表す相乗スコアというスカラー指標を考案した。相乗スコアは以下の式で計算される。
行列中の各要素薬剤及び各組合せ点の部分阻害(fractional inhibition)を、ビヒクルで処理した全対照ウェルの中央値に対する相対値として計算した。相乗スコアの式は、要素薬剤の活性から相加性に関するLoeweモデルを用いて数値的に導出したモデル面を基準として、行列中の各点における実験で観察された活性量の超過分を積分するものである。(上記の)相乗スコアの式における追加の項を用いることで、個々の薬剤に使用される種々の希釈因子を正規化し、実験全体を通じた相乗スコアの比較を可能とした。ポジティブ阻害ゲーティング又はIdata乗算因子を含めることで、ゼロ効果レベル近傍の雑音と、高い活性レベルにおいて生じる相乗的相互作用の偏った結果を除去した。
力価のシフトはアイソボログラムを用いて評価した。アイソボログラムは、所望の効果レベルを達成するのに必要な組み合わせ薬をどれだけ低減できるかを、その効果を実現するのに必要な単剤の用量と比較して示す。アイソボログラムの描画は、指定の阻害レベルと交差する濃度の位置を同定することにより行った。これは、用量行列内で各単剤濃度が他の単剤濃度と交差する交点を特定することにより行った。実際には、垂直方向の各濃度CYを固定し、二分アルゴリズムを用いて、その垂直方向の用量と組み合わせることにより反応面Z(CX,CY)において選択された効果レベルを与える水平方向の濃度CXを同定した。続いて、これらの濃度を線形補間により連結し、アイソボログラム表示を作成した。
相乗的相互作用の場合、アイソボログラムの形状が相加性閾値よりも下方に移動して原点に近づく一方、拮抗的相互作用の場合は相加性閾値よりも上方に存在することになる。エラーバーは、アイソボログラムの作成に用いた個々のデータ点に起因する不確実性を表す。各交点の不確定性は、二分法を用いてZ−σZ(CX,CY)及びZ+σZ(CX,CY)がIcutと交差する濃度を見出す際の応答誤差から見積もった。但し、σZは効果スケール上の残余誤差の標準偏差である。
結果
図1Eは、イデラリシブと化合物Bとの組合せ投与による細胞死効果を視覚的に示すものであり、図1Fは、本実施例のデータから作成したアイソボログラムである。本実施例で行ったアッセイに関する相乗スコアは44であることが分かった。本実施例で行ったアッセイの範囲は0.2〜44である。従って、得られた44というスコアは、イデラリシブと化合物Bとの組合せが相乗的であることを示している。
実施例2:用量漸増試験
本実施例では、B細胞リンパ増殖性悪性腫瘍を有する対象に対する、イデラリシブとの組合せにおける化合物Bの安全性、耐容性、PK、薬物動態、予備的効果を評価する。抵抗性又は再発性のB細胞悪性腫瘍を有する対象を逐次登録しつつ、イデラリシブとの組み合わせで経口摂取させる化合物Bの用量レベルを徐々に増加させる。
化合物Bの開始用量は20mgを1日1回、イデラリシブの開始用量は50mgを1日2回とする。コホート1Aにおいてサイクル1の1日目から28日以内に用量制限毒性(dose-limiting toxity:DLT)が生じる場合は、このコホートを拡張して追加の3人の対象を組み入れる。コホート1Aにおいて≧2DLTが生じる場合は、化合物Bとイデラリシブとの組合せの開発を中止する。コホート1Aにおいて3人の対象でDLTが生じないか、最大6人の対象で<2DLTとなる場合は、コホート2Aを開く。コホート2Aには3人の対象を登録し、化合物B40mgを1日1回、イデラリシブ50mgを1日2回とする。コホート2Aへの登録が完了したら、コホート2Bに3人の対象を登録し、化合物B20mgを1日2回、イデラリシブ50mgを1日2回とする。コホート2A及びコホート2Bでは独立且つ並列に用量を漸増させる。コホート2Aにおいて3人の対象でDLTが生じないか、最大6人の対象で<2DLTとなり、且つコホート2Bが登録を完了している場合は、コホート3Aに次の3人の対象を組み入れ、80mgの化合物Bを1日1回、50mgのイデラリシブを1日2回にする。同様にして、コホート2Bにおいて3人の対象でDLTが生じないか、最大6人の対象で<2DLTとなる場合は、コホート3Bに3人の対象を登録し、化合物B40mgを1日2回、イデラリシブ50mgを1日2回とする。その後のコホートでは、3人の対象でDLTが生じないか、最大6人の対象で<2DLTとなることが観察される場合に、対象を登録する。何れかのコホートで第2のDLTが観察される場合は、イデラリシブと組み合わせた化合物Bの最大耐量(maximum tolerated dose:MTD)を超過しているはずであるから、それ以前のコホートがMTDとなる。化合物Bが1日1回の場合のMTDは、化合物Bが1日2回の場合のMTDとは別に決定する。
上記のプロトコルが完了した時点で、安全性、耐容性、及びPKに関して利用できる全データを検討する。
1日2回50mgのイデラリシブと組み合わせた場合の化合物BのMTDを、安全性及び効果に基づき決定したら、1日2回100mgのイデラリシブとの組み合わせで、化合物BをMTDの最高50%の用量で投与する追加のコホートを登録してもよい。各コホートの用量を表4に示す。
DLT:DLTは、イデラリシブ及び/又は化合物Bとの関連性が推測される下記定義の毒性であり、各コホートにおいてDLT評価期間(1日目〜29日目)内に生じる。
1)全グレード≧4 7日間超持続する血液毒性。
2)全グレード≧3 非血液学的毒性(医学的介入から72時間以内に解決する脱毛症、吐き気、嘔吐、下痢、又は便秘を除く)。
3)全グレード≧4 臨床検査値異常。
4)発熱性好中球減少症(その定義は、単発的に体温が38.3℃[101F]超になるか、1時間超に亘って持続的に体温が38℃[100.4F]以上、ANCが1.0×109/l未満になること)。
5)全グレード≧2 非血液学的治療下発現有害事象(treatment-emergent adverse event:TEAE)であって、検査者の所見により、潜在的な臨床上の有意性を有し、用量を更に漸増すれば対象を受容し難いリスクに曝す可能性があるとされたもの。
治療:資格要件を満たす対象に、サイクル1の1日目に単一用量の化合物Bを与え、次いでサイクル1の2日目から、化合物Bとの組み合わせでイデラリシブの投与を開始する。第1のサイクルは28日間(化合物B単独を1日、組合せ治療を27日間)からなり、その後の各サイクルは28日間の組合せ治療である。安全性及び効果の評価は外来により実施し、評価項目としては腫瘍反応、身体検査、生命兆候(vitals)、ECG、血液サンプル採取(慣例の安全性臨床検査のためであり、外来で可能なときに化合物BとイデラリシブのPK、薬物動態、バイオマーカーを調べる)、有害事象(adverse events:AE)(例えば下痢/大腸炎、トランスアミナーゼ上昇、発疹、間質性肺炎)を含める。それに加え、対象は12週間毎(DLBCLについては最初の12週間は6週間毎)にCT(又はMRI)スキャンを受ける。臨床評価又はCT(又はMRI)によって疾患進行の兆候が見られない対象は、(臨床又はX線検査による)疾患の進行、受容できない毒性、同意の取り下げ、又は他の理由が生じるまで、イデラリシブと組み合わせた化合物Bの投与を毎日受け続けることができる。治療の中止後、対象は30日間に亘って安全性に関する追跡調査を受ける。
PKと薬物動態のサンプリング:化合物Bについては、サイクル1の1日目の投与前と、投与から0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、及び12時間(任意)後、化合物Bとイデラリシブについては、サイクル1の2日目及び8日目の投与前と、投与から0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間(任意)、及び24時間後に、PKサンプルを採取する。投与12時間後のPKサンプルは任意である。投与12時間後のPKサンプルは、試験対象薬をBIDで投与する場合は晩の投与前に採取すべきであり、24時間目のサンプルは、朝の投与から24時間後に採取する。何れのコホートでも、サイクル1の15日目の投与前及び投与から1〜6時間後にはPKサンプルを採取する。また、サイクル2〜6の初日の任意の時点で、少量のPKサンプルも採取する。薬物動態用の血液サンプルは、サイクル1の1日目の投与前、及び、投与から1時間、2時間、4時間、及び6時間後に採取すると共に、サイクル1の2日目及び8日目の投与前と、投与から1時間、2時間、4時間、6時間、及び24時間後に採取する。地理的条件によっては、物流体制ゆえに、これらのサンプルの一部又は全部の採取を現場で実施できない場合もある。また、得られたデータによっては、サンプリング時点を省略又は変更してもよい。
用量と投与方式:コホートによっては、試験のサイクル1の1日目から、化合物Bを経口で1日1回又は2回自己投与し、その後は治療が終わるまで毎日ほぼ同じ時刻に行なう。サイクル1の2日目からは、化合物Bと同時に(10分以内に)イデラリシブを経口で1日2回自己投与する。化合物Bは、10mg及び25mgのカプセルとして提供される。イデラリシブは、50mg及び100mgの錠剤として提供される。
FL、MZL、CLL、SLL、MCL、WM、非GCB−DLBCLを有する対象について、将来の臨床試験で用いる化合物B及びイデラリシブの組合せ投薬計画は、PK及び薬物動態のデータによって支持される安全性及び効果のデータに基づいて選択する。
実施例3A:MCL細胞系における増殖阻害アッセイ
本実施例では、化合物Bとの組み合わせによるイデラリシブの抗増殖活性を種々のMCL細胞系で評価する。
材料と方法
細胞系と培養条件:イデラリシブと6−アミノ−9−[(3R)−1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オンの一塩酸塩(実施例では化合物Bと呼ぶ)の組合せを、インビトロ増殖阻害アッセイにより、種々のMCL細胞系、例えばRec−1、JVM−2、Granta−519、Jeko−1、JMP−1、JVM−13、Maver−1、Mino、PF−1、PF−2、Z−138等について評価した。これらの細胞系は、実施例1Aに示した手順に従って培養した。
抗増殖アッセイ及び相乗スコア分析:ビヒクルの細胞生存率を投与時(T0)及び120時間後(T120)に測定した。GI読み取りが0%とは、増殖阻害がなかったことを表し、GIが100%とは、増殖が完全に阻害されたことを表し、GIが200%とは、培養ウェル中の全細胞が完全に死滅したことを表す。組合せ効果を測定するため、Loewe相加性の超過分を用いて相乗的相互作用の強さを表した(これを相乗スコアと呼ぶ)。アッセイ及び相乗スコア分析は、上記の実施例1Bに記載したプロトコルに従って実施した。
結果
イデラリシブ及び化合物Bの組合せを投与した結果を以下の表5に示す。イデラリシブに化合物Bを組み合わせて投与すると、2種のMCL細胞系(Rec−1及びJVM−2)において、増殖が相乗的に阻害されることも分かった。図2A及び図2B参照。Rec−1の相乗スコアは4.1、JVM−2の相乗スコアは6.2となった。本実施例では、相乗スコアが4以上の場合に有意であると判断し、相乗性の範囲は4.0〜19.0となった。
実施例3B:DLBCL細胞系における増殖阻害アッセイ
本実施例では、化合物Bとの組み合わせにおけるイデラリシブの抗増殖活性を、種々のDLBCL細胞系について評価する。
材料と方法
細胞系と培養条件:イデラリシブと6−アミノ−9−[(3R)−1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オンの一塩酸塩(実施例では化合物Bと呼ぶ)の組合せを、インビトロ増殖阻害アッセイにより、種々のDLBCL細胞系、例えばHBL−1、OCI−Ly3、Ri−1、SU−DHL−2、TMD−8、U2932、OCI−Ly4、Pfeiffer、SU−DHL−10、SU−DHL−6、SU−DHL−8、Carnaval、及びU2973等について評価した。これらの細胞系は、実施例1Aに示した手順に従って培養した。
抗増殖アッセイ及び相乗スコア分析:アッセイ及び相乗スコア分析は、上記の実施例3Aに記載したプロトコルに従って実施した。
ウエスタンブロット:106個の細胞を、氷冷した150μlの溶解緩衝液中で30分間かけて溶解することにより、ウエスタンブロットサンプルを調製した。また、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Diagnostics Corp社)と、ホスファターゼ阻害剤のセット1及びセット2(EMD Millipore社)も、溶解緩衝液(Cell Signaling Technology社)に添加した。細胞を4℃にて12.5gで10分間遠心分離した。上清を回収して新しい試験管に移した。サンプル緩衝液を各溶解物に添加した後、99℃で5分間煮沸した。タンパク質をSDS−PAGEゲルに添加し、125Vで2時間泳動した。電気泳動の後、X Cell Blotを用いてゲルをImmobilon−F膜に移送した。次に、膜をブロッキング緩衝液中で室温で1時間ブロックした後、ブロッキング緩衝液で希釈した一次抗体と共に一晩インキュベートした。使用した抗体を下記の表7に示す。翌日、膜をTBSTで3回(各回5分間)洗浄した。二次抗体を添加し、膜を室温で45分間インキュベートした後、TBSTで3回(各回5分間)洗浄した。Licor Imagerを用いてブロットを読み取った。一次抗体としては、p−AKT(S473)、p−BTK(Y223)、BTK、p−ERK(T202/Y204)、ERK、及びアクチン(Cell Signaling Technologies社)を含有するものを用い、二次抗体としては、IRDyeが共役した抗マウス抗体及び抗ウサギ抗体、LI-CORを含有するものを用いた。バンドの強度は、LI-CORイメージャ及びLI-COR Odysseyソフトウエアを用いて測定した。
タンパク質発現分析:また、溶解物に対して、Peggy Sue(ProteinSimple社)を用いたSimple Westernによる分析も行った。組換えタンパク質を用いて標準曲線を作成し、Peggy Sue上でPI3Kアイソフォームのレベルを測定した。データはCompassソフトウエア(ProteinSimple社)を用いて処理した。
結果
イデラリシブ及び化合物Bの組合せを投与した結果を下記の表6に示す。また、イデラリシブと化合物Bの組合せ投与により、幾つかのDLBCL細胞系、例えばTMD−8、U2932、及びOCI−Ly4において、増殖が相乗的に阻害されることも分かった。TMD−8の相乗スコアは65.7、U2932の相乗スコアは7.9、OCI−Ly4の相乗スコアは8.7となった。本実施例では相乗スコアが6.6以上の場合を有意であると判断し、相乗性の範囲は6.6〜65.7となった。
図2Cは、イデラリシブと化合物Bの組合せ投与による細胞死効果を視覚的に表した図であり、図2Dは、本実施例のデータから作成したアイソボログラムである。本アイソボログラムは、上記の実施例1Bに記載した手順に従って作成した。
下記の表7に、2時間後及び24時間後に取得したTMD−8ウエスタンブロットの結果を示す。以下から分かるように、イデラリシブと化合物Bの組合せ治療により、鍵となる生存経路と増殖経路が阻害されることが持続的に観察された。
図2Eは、シグナル伝達経路要素のリン酸化状態を決定するためのウエスタンブロットの結果を示す図である。イデラリシブにより誘導されたp−AKT(S473)及びp−ERK(T202/Y204)の阻害率(それぞれ58%及び71%)は、化合物Bによる阻害率(それぞれ46%及び48%)よりも高かった。化合物Bは、p−BTK(Y223)によって測定されるBTK活性化を阻害した(59%)。2時間後の時点において、イデラリシブと化合物Bの組合せは、単剤だけの場合と同等の結果を示した。24時間後の時点では、イデラリシブと化合物Bの組合せは、単剤だけの場合と比べてp−AKT(S473)、p−BTK(Y223)、及びp−ERK(T202/Y204)の阻害レベルを向上させた(それぞれ83%、66%、及び36%)。
実施例4A:BTK阻害剤に対する耐性の機序
材料と方法
イブルチニブ耐性クローンの作製:TMD8におけるイブルチニブ耐性の機序を調べるため、数個の独立なTMD8のクローン単離体を、2回の限界希釈細胞播種により作製した。5%CO2及び95%空気からなる37℃の湿潤雰囲気中でイブルチニブの存在下にて連続継代することにより、12週間かけてイブルチニブ耐性TMD8を作製した後、イブルチニブに対する耐性が確立するまで用量を10nM又は20nMまで漸増させた。継代が一致する薬剤感受性対照系として、並列培養物を0.1% v/v DMSOの存在下で増殖させた。感受性TMD8細胞及び耐性TMD8細胞のクローンを、2回の単一細胞限界希釈を通じて単離した。親株を一致させるため、倍加時間及びイブルチニブに対する感受性を評価した。
細胞生存アッセイ:継代が一致したDMSO処理培養物及びイブルチニブ処理培養物を、96時間CellTiter-Glo生存アッセイ(Promega社)を用いて比較することにより、イブルチニブに対する耐性を調べた。
遺伝子型プロファイリング:イブルチニブ感受性クローン及びイブルチニブ耐性クローンの遺伝子型特性を、サンガーホットスポット変異分析(Genewiz社)により、又は全エキソームシークエンシング(whole exome sequencing:WES)及びRNASeqにより評価した(発現分析)。BWAによりDNAシークエンシングのリードをヒト参照ゲノムとアラインメントした。VarScanを用いて単一ヌクレオチド変異体を同定し、SnpEffを用いてアノテーションを付した。変異体アレル頻度、反復性、及び予想される機能的影響に基づいて、推定される体細胞変異に優先順位をつけた。STARを用いてRNAシークエンシングのリードをヒト参照ゲノムとアラインメントし、RSEMを用いてRNA量を定量した。Bioconductor社のパッケージedgeRを用いて配列のカウントを正規化し、limmaを用いて差分遺伝子発現分析(differential gene expression analysis)を実施した。
タンパク質発現及びリン酸化プロテオミクス:上記の実施例3Bに記載したようにウエスタンブロット又はPeggy Sueを用いて、タンパク質発現レベル及びリン酸化プロテオミクスを測定した。
結果
10nM又は20nMのイブルチニブ中で細胞を数ヶ月かけて連続継代することにより、BTK阻害剤耐性TMD−8細胞を作製した。10nMで処理した細胞からは、TNFAIP3(Q143*、A20タンパク質)に1つの変異が同定された。20nMで処理した細胞からは、BTK(C481F)に1つの変異が同定され、それに伴うA20タンパク質の喪失が見られた。両細胞系のクローン単離体のWES分析により、20nMのイブルチニブで処理したクローンのみ(TMD8BTK−C481F、22/22クローン)BTKのC481Fにホモ変異があることが明らかになり、その結果はサンガーシークエンシングによって確認された。10nMのイブルチニブで処理したクローンのWES分析から、NF−κB阻害剤であるTNFα誘導プロテイン3に不活性化変異があることが明らかになった(TNFAIP3のQ143*変異、別名A20タンパク質;TMD8A20−Q143*、5/5クローン)。イブルチニブ存在下での細胞生存アッセイは、これらのクローン(TMD8BTKiR)がイブルチニブに対して耐性であることを示している(図3E)。
本実施例の結果を下記の表8に示す。表8のデータは、上記の実施例3Bに記載したウエスタンブロット手順に従って取得した。
タンパク質発現プロファイリングによれば、TMD8A20−Q143*クローンはA20の喪失及びp−IκBαの増加を示していた。これは、NF−κB経路が活性化されたことを示している(表8)。TMD8BTK−C481Fも、未知の機序によるA20の喪失を示した。上記の表に示すように、BTKのC481の位置に観察された獲得変異は、イブルチニブの臨床耐性と合致しており、A20の変異及び機能喪失がBTK阻害剤に対する耐性の機序であることが特定された。
実施例4B:BTK阻害剤への耐性に対して化合物Bとの組み合わせによるイデラリシブが及ぼす効果
材料と方法
TMD−8におけるイブルチニブ耐性の機序を評価するため、数個の独立なTMD−8のクローン単離体を、2回の限界希釈細胞播種により作製した。親株を一致させるため、倍加時間及びイブルチニブに対する感受性を評価した。段階的に増加させたイブルチニブの存在下、或いはこれと並行して、0.1% v/v DMSO中において、クローン単離体を継代することによりイブルチニブ耐性を確立した。イブルチニブに対する耐性は、継代が一致したDMSO処理培養物及びイブルチニブ処理培養物のイブルチニブ感受性を、96時間 Cell Titer Glo生存アッセイ(Promega社)を用いて比較することにより確認した。イブルチニブ感受性(DMSO処理)培養物及びイブルチニブ耐性(イブルチニブ処理)培養物からのクローン単離体を、2回の限界希釈播種を通じて作製した。イブルチニブ感受性クローン及びイブルチニブ耐性クローンの遺伝子型の特徴を、サンガーホットスポット変異分析(Genewiz社)により、又は全エキソームシークエンシング(WES)により評価した(発現分析)。PI3Kアイソフォーム選択的及びBTK阻害剤、又はこれらの組合せに対するイブルチニブ耐性TMD−8の感受性を、10点用量応答において細胞を阻害剤により96時間処理した後、Cell Titer Glo細胞生存アッセイを実施することによって調べた。
PI3K、MAPK、BTK、及びNF−κB要素の全タンパク質発現レベル及びリン酸化を、ウエスタンブロット又はPeggy Sueによって求めた。細胞をイデラリシブ(420nM)、又は化合物B(320nM)、又はこれらの組合せにより処理した。タンパク質発現レベル及びリン酸化プロテオミクスは、実施例3Bに記載した手順を利用し、ウエスタンブロット(p−ERK 1/2、p−AKT S473、全AKT)及びPeggy Sue(p−BTK、p−IκBα S32、全IκBα)を用いて決定した。各群のAUCを求めた後に結果を定量し、DMSOビヒクル対照に正規化した。
結果
TMD−8におけるBTK阻害剤耐性の2つの機序が同定された。即ち、NF−κB阻害剤であるA20の不活性化変異(TNFAIP3 Q143*)と、更に最大濃度(20nM)のイブルチニブで生じたクローンのみに存在するBTK変異(C481F)である。BTK(C481F)変異のみを有するTMD−8細胞は、イデラリシブに対する感受性が弱かった(1μMでのEmax=14%に対して親では86%、図3A)。
これらのクローンでは、化合物Bを添加しても増殖阻害が増大しなかった。A20変異のみを有するTMD−8細胞は、化合物Bに対して耐性であった(EC50>10μM)が、イデラリシブに対しては感受性であった。もっとも、その感受性は親よりも弱かった(EC50≧4300nM対54nM)。50nMの化合物Bをイデラリシブに添加することで、増殖が更に阻害され(野生型BTKの存在と整合性がある)、イデラリシブの力価が親TMD−8と同等のレベルまで上昇した(EC50≧99nM、n=5クローン、図3B)。
イデラリシブと化合物Bの組合せによる効果を、図3C及び図3D、並びに下記の表10及び表11に更に示す。これらのデータは、斯かる組合せが、TMD8−A20Q143*におけるMAPK(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ)経路及びNF−κB経路の下方調節により、BTK阻害剤に対する耐性を克服し得ることを示している。表9及び表10のデータは、上記の実施例3Bに記載のウエスタンブロット手順に従って得た。図3Dに示すように、TMD8BTK−C481F系は、イデラリシブ、化合物B、及びこれらの組合せの何れにも耐性である。これは、この系における耐性の機序が複雑であることを示唆している。TMD8A20−Q143*細胞は、イデラリシブ又は化合物B単独に対して耐性であるが、両者を組み合わせるとその感受性が回復した(図3C)。
これらの結果によれば、両薬剤の組合せで処理した試料では、TMD8
A20−Q143*系におけるp−ERK及びp−IκBαの阻害率が増加したことが分かる。
結論
A20の変異及び機能喪失が、BTK阻害剤に対する耐性の新規な機序であることが特定された。イデラリシブはA20変異TMD−8の増殖を阻害する力がより弱いことが分かったが、化合物Bと組み合わせることで追加の利点が提供されることも分かった。BTK−C481F変異を有するTMD−8は、イデラリシブ、及び、イデラリシブと化合物Bとの組合せに対して耐性であった。これらのデータは、イデラリシブと化合物Bの組合せが、BTK耐性の幾つかの機序を克服できることを示唆している。これらの結果は、この系をイデラリシブと化合物Bの組合せを用いて処理した場合に見られる細胞生存率の低下が、MAPK経路及びNF−κB経路の阻害による結果である可能性を示唆している。
実施例5:PI3Kシグナル伝達経路の上方調節がイデラリシブ耐性を媒介する
本実施例では、イデラリシブに対する耐性の機序を検討するため、PI3Kδによって駆動されるモデルを開発した。また、ABC−DLBCL(TMD−8)のモデルでもイデラリシブ耐性の機序を評価した。また、イデラリシブ耐性細胞において調節が異常な細胞シグナル伝達経路も特定した。更に、イデラリシブ耐性を克服できる化合物を同定した。
材料と方法
イデラリシブ又は他の阻害剤に対する増殖阻害を、CellTiter-Glo生存アッセイを用いて、96時間後の時点で評価した。1μMのイデラリシブ(最大濃度[Cmax]約2倍、タンパク質結合について)に継続的に曝露することにより、イデラリシブ耐性系(TMD8R)を作製した。継代が一致するジメチルスルホキシド(DMSO)系を対照(TMD8S)として作製した。プールから2回の限界希釈によりクローン単離体を作製した。細胞系を、全エキソームシークエンシング、RNASeq、リン酸化プロテオミクスによって分析した。シンプルウエスタン及びSDS/PAGE及びウエスタンブロットを用いてタンパク質発現を測定した。Caspase-Glo3/7アッセイを用いてカスパーゼ3/7を測定した。アネキシンVアッセイ及びヨウ化プロピジウムフローサイトメトリーによりアポトーシスを測定した。
ゲノムプロファイリング:遺伝子発現レベル及び変異を、それぞれ全エキソームシークエンシング(Genewiz社)及びRNASeq(発現分析)により決定した。以下のバイオインフォマティクスプラットフォームを用いて配列のリードを分析した。BWAによってDNAシークエンシングのリードをヒト参照ゲノムとアラインメントした。VarScanを用いて単一ヌクレオチド変異体を同定し、SnpEffを用いてアノテーションを付した。変異体アレル頻度、再発、予想される機能的影響によって推定体細胞変異に優先順位をつけた。RNAシークエンシングのリードを、STARを用いてヒト参照ゲノムとアラインメントし、RSEMを用いてRNA量を定量した。Bioconductor社のパッケージedgeRを用いて配列のカウントを正規化し、limmaを用いて差分遺伝子発現分析を実施した。
ウエスタンブロット及びタンパク質発現:上記の実施例3Bに記載した手順に概ね従い、シンプルウエスタン、SDS/PAGE、及びウエスタンブロット又はPeggy Sue(ProteinSimple社)を用いてタンパク質発現を測定した。リン酸化されたタンパク質又は全タンパク質のレベルの検討に用いた一次抗体は、p−AKT(S473)、p−AKT(T308)、AKT、p−ERK(T202/Y204)、p−S6(S235/236)、S6、p−PDK1(S241)、p−PLCγ2(Y1217)、p−GSK3β(S9)、p−STAT3(Y705)、p−IκBα(S32)、IκBα、p−SYK(Y525/526)、p−BTK(Y223)、PI3Kγ、PTEN、及びアクチンに対する抗体等である。
本実施例で用いた化合物は(1)イデラリシブ(別名「IDELA」);(2)6−アミノ−9−[(3R)−1−(2−ブチノイル)−3−ピロリジニル]−7−(4−フェノキシフェニル)−7,9−ジヒドロ−8H−プリン−8−オンの一塩酸塩、実施例での別称化合物B;(3)GDC−0941;(4)BYL−719;(5)AZD−6482;(6)デュベリシブ;(7)イブルチニブ;(8)MK−2206;及び(9)GSK−2334470等である。
統計分析:四重反復実験のサンプルから作成したシグモイド用量−反応(変数勾配)曲線を用いて細胞生存EC50を求めた。Prism(GraphPad社)において、細胞生存についてはスチューデントのt検定を用い、アポトーシス実験については両側一対t検定を用いて、統計的有意性を求めた。
結果
図4及び下記の表11は、TMD−8がイデラリシブ及びpan−PI3K阻害剤(GDC−0941)に対して感受性であるが、PI3Kα(BYL−719)阻害剤又はPI3Kβ(AZD−6482)阻害剤に対しては感受性でないことを示している。これは、細胞生存が主にPI3Kδによって駆動されることを示唆している。
図5は、後天的にイデラリシブ耐性を獲得したTMD8細胞(TMD8R)が、イデラリシブに対する感受性を喪失したことを示している。増殖阻害は、TMD8Rでは1μMのとき19%であったのに対し、感受性DMSO対照(TMD8S)では92%であった。
TMD8Rプロファイリングは、PI3Kγの上方調節及びPTENの喪失を示している。図6A及び図6Bは、TMD8Rプール及び8/8クローンでは、TMD8Sと比べてPIK3CG(p110γ)mRNA(2倍、図6A)及びタンパク質(3〜5倍、図6B)の僅かな上方調節が見られたことを示している。
図6Cは、PI3KδがTMD8Rプール及び8/8クローンで発現する最も優勢なPI3Kアイソフォームであり続けたことを示している。PI3Kδ、PI3Kα、PI3Kβ、及びPI3Kγのレベルは、それぞれ326.5、10、25、及び9pg/μlであった。TMD8Rクローンにおいて、PI3Kδ又はPI3K/AKT経路の他のメンバー、例えばPTEN等において、WESにより変異は見出されなかった。図6Dは、PTENタンパク質発現の劇的な低下(1/9)が観察されたことを示している。
図7から明らかなように、TMD8Rは、PI3Kδ/γ二重阻害剤であるIPI−145(デュベリシブ)に対して交差耐性であることが見いだされた。TMD8Rに関するデュベリシブのEC50は>4μMであるのに対し、TMD8Sに関するEC50は0.58μMであることが分かった。
また、イデラリシブは、感受性だが耐性ではないABC−DLBCL細胞系においてc−Myc RNA及びc−Mycタンパク質を下方調節することも分かった。図8Aは、イデラリシブ感受性ABC−DLBCL細胞系及びイデラリシブ耐性ABC−DLBCL細胞系のRNAseq分析であり、感受性細胞系(TMD8及びRi−1)では500nMのイデラリシブ処理によってc−Myc mRNAが下方調節されたが、耐性細胞系(U2932及びSU−DHL−8)では下方調節されなかったことを示している。図8Bでは、500nMのイデラリシブを用いた24時間のウエスタンブロットにより、RNAseqのデータを検証した。図8Cに示すように、TMD8Sではc−Mycがイデラリシブにより阻害されたが、TMD8Rでは阻害されなかった。図8Dでは、RNAseqによって測定したc−Myc標的遺伝子の発現が、TMD8S細胞系と比較して、TMD8R細胞系では変化していなかった。イデラリシブによるc−Mycの下方調節の喪失が、耐性の1つの機序である可能性のあることが明確になった。(R)、耐性(resistant);(S)、感受性(sensitive)。
リン酸化タンパク質分析によれば、TMD8
RにおいてPI3K経路及びMAPK経路の上方調節が見いだされたが、並列のB細胞受容体シグナル伝達経路に対する効果は殆ど又は全く存在しなかった。その結果を図9及び表12に示す。ウエスタンブロットの定量分析を写真濃度測定によって取得し、TMD8
S及びTMD8
Rにおける倍数変化を算出した。図9から分かるように、TMD8
RではPI3K経路及びMAPK経路が上方調節されたのに対し、BTK経路、SYK経路、JAK経路、及びNF−κB経路は変化しなかった。p−SYK信号、p−STAT3信号、及びc−JUN信号の低下に現われているように、一部の経路は下方調節された。p−ERK及びp−SFKのレベルは変化しなかった。下記の表12に示すTMD8
Rのリン酸化プロテオミクスの結果をTMD8
S細胞と比較することにより、ウエスタンブロットの結果を検証した。p−AKT S473、p−AKT T308、p−S6 S235/236、p−GSK3βの上方調節から明らかなように、PI3K経路及びMAPK経路の要素はTMD8
R細胞で上方調節されたのに対し、並行のB細胞受容体シグナル伝達経路では、効果は殆ど又は全く観察されなかった。
図10A及び図10Bから分かるように、TMD8R細胞は、BTK阻害剤、イブルチニブ、及び化合物Bのそれぞれに対して交差耐性であることが観察された。イブルチニブのEC50は、TMD8Sでは0.5であり、TMD8Rでは<10であった。化合物BのEC50は、TMD8Sでは1.2であり、TMD8Rでは<10であった。
図11A〜図11Cから分かるように、MK−2206(AKT阻害剤)とイデラリシブの組合せを用いて耐性を克服できることが観察された。1μMのMK−2206ではEC50<10μM;1μMのイデラリシブ+1μMのMK−2206ではEC50=1.6μM。図11B及び図11Cでは、カスパーゼ3/7は24時間後の時点で測定し、アネキシンVは48時間後の時点で測定した。イデラリシブ=1μM、MK−2206=1μM;N=4。両側t検定を用いてp値を計算した。ビヒクル対照で処理した細胞(24%)及びイデラリシブだけで処理した細胞(21%)と比べて、MK−2206で処理した細胞ではアポトーシスが増加すること(33%)が分かった。また、MK−2206とイデラリシブの組合せで処理した群も、アポトーシスの増加(46%)を示した。図11Dは、TMD8R細胞においてイデラリシブに対する耐性がMK−2206とイデラリシブの組合せによって低下することを示している。
MK−2206とイデラリシブの組合せによるPI3K経路の阻害を更に図12に示す。図12では、細胞を1μMのイデラリシブ、1μMのMK−2206、又はそれらの組合せで2時間処理した。タンパク質溶解物を作製してウエスタンブロットで分析した。TMD8Rでは、TMD8Sと比べてp−AKT S473、p−AKT T308、p−S6 S235/236の発現増加が見られた。全タンパク質には変化は見られなかった。単一の化合物を用い他場合、TMD8Sでは、TMD8Rと比べてリン酸化タンパク質のより大きな阻害が見られた。イデラリシブとMK−2206の組合せは、TMD8R細胞とTMD8S細胞とで同じ阻害結果をもたらした。これらの結果は、イデラリシブをAKT阻害剤と組み合わせることによって、TMD8R細胞においてPI3K経路の上方調節を調節できる可能性を示唆している。
図13A〜図13Cでは、GSK−2334470(PDK1阻害剤)とイデラリシブの組合せにより耐性が克服できることが分かった。1μMのGSK−2334470ではEC50<10μM;1μMのイデラリシブ+1μMのGSK−2334470ではEC50=1.6μM。図13B及び図13Cでは、カスパーゼ3/7を24時間後の時点で測定し、アネキシンVを48時間後の時点で測定した。イデラリシブ=1μM、GSK−2334470=1μM;N=4。両側t検定を用いてp値を計算した。PI、ヨウ化プロピジウム。ビヒクル対照、GSK−2334470だけで処理した細胞、及びイデラリシブだけで処理した細胞のアポトーシスは、それぞれ22%、21%、及び24%であった。それと比較して、GSK−2334470とイデラリシブの組合せを用いて処理した細胞では、アポトーシスの増加が見られた(49%)。図13Dは、GSK−2334470とイデラリシブの組合せにより、TMD8R細胞のイデラリシブ耐性が低下したことを示す。
GSK−2334470とイデラリシブの組合せによるPI3K経路の阻害を更に図14に示す。細胞をビヒクル、イデラリシブ(1μM)、GSK−2334470(1μM)、又はイデラリシブとGSK−2334470の組合せで2時間治療した。タンパク質溶解物をウエスタンブロットによって分析した。TMD8RではTMD8Sと比べてp−AKT S473、p−AKT T308、p−S6 S235/236の基本的発現が増加することが観察された。全タンパク質には変化は見られなかった。単一の化合物を用いた場合、TMD8SではTMD8Rと比べてリン酸化タンパク質のより大きな阻害が観察された。イデラリシブとGSK−2334470の組合せは、TMD8R細胞とTMD8S細胞とで同じ阻害結果をもたらした。これらの結果は、イデラリシブをPDK1阻害剤と組み合わせることによってTMD8R細胞においてPI3K経路の上方調節を調節できる可能性を示唆している。
このように、本実施例のデータは、MK−2206又はGSK−2334470とイデラリシブとの組合せによる処理が、イデラリシブ耐性の克服に寄与することを示している。
実施例6:濾胞性リンパ腫WSU−FSCCL細胞系におけるイデラリシブ耐性の機序の研究
本実施例では、濾胞性リンパ腫細胞系(WSU−FSCCL)におけるイデラリシブに対する耐性の機序を解析した。更に、イデラリシブに対する獲得耐性を克服するため、PI3K/プロテインキナーゼB(AKT)経路阻害剤の有効性を評価した。
材料と方法
WSU−FSCCLのクローン単離体を1μMのイデラリシブの存在下で連続継代し、イデラリシブ耐性を確立した。継代が一致する系(FSCCLS)及びイデラリシブ耐性系(FSCCLR)から、2回の単一細胞限界希釈を通じてクローン単離体を作製した。96時間後に、Cell Titer Glo生存アッセイを用いてイデラリシブ又は他の阻害剤による増殖阻害を実施した。変異と遺伝子発現の特徴は、それぞれ全エキソームシークエンシングとRNA−Seqによって同定した。全細胞溶解物をウエスタンブロットによって分析した。
本実施例で用いた化合物は、(1)イデラリシブ(別名「IDELA」);(2)GDC−0941;(3)BYL−719;(4)AZD−6482;(5)ダサチニブ;及び(6)エントスプレチニブ(別名「ENTO」)等である。
結果
図15では、FSCCLがPI3Kδ阻害に対して感受性であることが観察された。FSCCLは、イデラリシブ及びGDC−0941に対して同程度の感受性を有することが分かった(それぞれEC50=140nM、180nM)。また、FSCCLはBYL−719(EC50>10μM)及びAZD−6482(EC50=4.6μM)に対してより感受性が低いことも分かった。
図16では、FSCCLS及びFSCCLRのイブルチニブに対する感受性がより小さいことが分かった(EC50>1μM)。イデラリシブに対して、FSCCLSは感受性であり(EC50=100nM)、FSCCLRは感受性がより小さいことも分かった(EC50>10μM)。
図17A及び図17Bでは、FSCCL
R PI3KCA変異体(N345K)が、イデラリシブとBYL−719の組合せに対して回復した感受性を示した。更に、下記の表13は、PI3KCA N345K変異FSCCL
R系の生存性を示している。全エキソームシークエンシング分析から、独立に作製した3組のFSCCLRクローンにおけるPI3KCA耐性変異が明らかになった。
細胞を無薬剤培地で一晩増殖させた後、0.1%DMSO、600nMのイデラリシブ、500nMのBYL−719、又は600nMのイデラリシブ+500nMのBYL−719で2時間処理した。図18Aから分かるように、イデラリシブとBYL−719の組合せは、FSCCLRにおけるpAKT(Ser473)の発現を低下させる。IgMによる刺激を含む実験も実施した。細胞を一晩増殖させた後、0.1%血清の中で1時間飢餓状態にした上で(上記の)薬を添加した。2時間後、5μg/mlのIgMを培地に10分間かけて添加した。IgM、免疫グロブリンM;pAKT、リン酸化AKT;Stim、刺激。図18Bから分かるように、イデラリシブとBYL−719の組合せは、IgMで刺激したFSCCLRにおいてpAKT(Ser473)の発現を低下させる。即ち、FSCCLRはイデラリシブ処理に対しては耐性であるのに対し、イデラリシブとBYL−719の組合せは、pAKTを顕著に低下させて対照細胞系と同等のレベルにした。
図19A及び図19Bから分かるように、FSCCLR SFKHIGHは、SFKリン酸化(pSFK Tyr416)、並びに、SrcファミリーのメンバーであるpHck Tyr411及びpLyn Tyr396のリン酸化を、FSCCLSと比べて上方調節した。
図20A及び図20B、並びに下記の表14は、イデラリシブとダサチニブの組合せに対してFSCCL
R SFK
HIGHの感受性が増大することを示している。
図21A及び図21B、並びに下記の表15は、イデラリシブとエントスプレチニブの組合せに対するFSCCL
R SFK
HIGHの感受性が増大し、pSykがFSCCL
Sレベルに回復することを示している。
全体として、イデラリシブとダサチニブの組合せ、又はイデラリシブとエントスプレチニブの組合せを用いると、単剤だけの場合よりも大きな感受性が観察された。
図22A及び図22Bを参照すると、FSCCLR PI3KCA WT単一細胞クローンのRNA−Seq分析から、あるクローンのサブセットは(1)Wnt経路のシグネチャを上方調節し、2つのFSCCLRクローンではLEF1及びc−Junが最も顕著に上方調節され;(2)ウエスタンブロット分析により、FSCCLRにおいてLEF1/TCF、c−Jun、β−カテニン、c−Myc、及びpGSK3βの上方調節が確認された。
即ち、本実施例のデータは、イデラリシブと共にダサチニブ又はエントスプレチニブを用いた処理が、イデラリシブに対する耐性の克服に寄与することを示している。
実施例7:化合物Bと組み合わせたイデラリシブがPI3Kδ阻害剤に対する耐性に及ぼす効果
材料と方法
イデラリシブ耐性(TMD8R)細胞系と、継代が一致したイデラリシブ感受性(TMD8S)細胞系を、上記の実施例5に記載した手順に従って作製した。耐性細胞を特徴解析するため、細胞生存アッセイ、ABCトランスポータ遺伝子(N=33)の多剤耐性(MDR)ファミリーのRNASeq、アポトーシスアッセイ、及びリン酸化タンパク質分析を実施した。細胞生存率は、上記の実施例1Aに記載したようにCellTiter-Gloを用いて測定した。420nMのイデラリシブ、320nMの化合物B、及びこれらの組合せで処理した後、Peggy Sue(ProteinSimple社)自動化ウエスタンブロットシステムを用いて、ウエスタンブロット及びタンパク質レベル分析を実施した。組換えタンパク質標準を用いてタンパク質の濃度(pg/μl)を定量した。処理群のそれぞれについて、アクチンに正規化したAUCを求めた。上記の実施例1Aに記載したように、アポトーシスをヨウ化プロピジウム及びアネキシンV/FITCで染色して評価し、フローサイトメトリーによって測定した。抗p−AKT(S473)抗体及びPeggy Sueを用いたウエスタンブロットを用いて、下流のシグナル伝達要素のリン酸化状態を決定した。
結果
細胞生存アッセイは、TMD8S細胞系がイデラリシブに対する感受性を保持していた一方で、TMD8R細胞系はイデラリシブ治療に対して耐性であったことを示していた(それぞれEC50=220nM、EC50>10μM)。獲得耐性は、天然の耐性細胞の部分集団の存在によるものではなかった。というのも8つの単一細胞クローン単離体の評価は全て、イデラリシブに対する耐性を示していたからである(データは示さず)。また、TMD8S及びTMD8R細胞系におけるABCトランスポータのMDRファミリーのRNAseq分析の結果は、MDRの上方調節が耐性の機序ではなかったことを示している(データは示さず)。
図23Aに示すように、イデラリシブ及び化合物Bは何れも、TMD8S細胞系の細胞増殖を阻害したが、TMD8R細胞系は阻害しなかった。両薬剤を組合せて用いたところ、TMD8S細胞系の感受性は回復した。
また、図23Bの結果は、イデラリシブ単独での処理及び組合せによる処理によってp−AKTが阻害されたが、化合物Bによる処理では阻害されなかったこと、また、化合物B単独での処理及び組合せによる処理によってp−BTKが阻害されたが、イデラリシブによる処理では阻害されなかったことを示している。また、組合せにより処理した細胞では、単剤で処理した細胞と比べて、c−Mycに対する阻害が増加することも分かった。
実施例8:腫瘍異種移植片モデルにおけるPI3Kδ及びBTKの阻害が腫瘍退縮に及ぼす効果
材料と方法
腫瘍異種移植片モデル:放射線照射マウスに培養TMD8細胞を導入してTMD8腫瘍異種移植片モデルを作製した。何れの動物実験もInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)のプロトコルに従って実施した。オスCB17-SCIDマウスに60Co放射線源を用いて1.44Gyを全身照射し、74時間後、1×107個のTMD8細胞を右脇腹に皮下注射で接種した。腫瘍の平均体積が200mm3に到達したとき、マウスをランダムに複数の群に割り当てた(n=13)。これらの群に、ビヒクル、1mg/kg及び5mg/kgのPI3Kδ阻害剤、又は5mg/kg及び10mg/kg化合物Bを、単剤又は組合せで1日2回、経口摂取により投与体積5ml/kgで投与した。何れの試験化合物も、5%(v/v)N−メチル−2−ピロリドン(NMP)/55%(v/v)ポリエチレングリコール300(PEG300)/40%(v/v)水/1%(w/v)ビタミンEコハク酸D−α−トコフェロールポリエチレングリコール1000(TPGS)により製剤化した。腫瘍体積は式(長さ×幅2)/2を用いて算出した。但し長さは腫瘍を横断する最長直径であり、幅はそれに対する垂直な直径である。腫瘍増殖阻害率は式1−(腫瘍サイズ化合物治療の終点−腫瘍サイズ化合物治療の始点/腫瘍サイズビヒクル治療の終点−腫瘍サイズビヒクル治療の始点)×100を用いて計算した。
ウエスタンブロット:前記試験で得られた腫瘍サンプルを溶解し、当該サンプルにウエスタンブロットを実施し、BTK及びS6(PI3Kシグナル伝達の下流エフェクター)のリン酸化レベルを求めた。ウエスタンブロットは、上記実施例3Bに記載したウエスタンブロット手順に従い、p−S6(S235/236)、p−BTK(Y223)、BTK、及びアクチンに対する抗体を用いて実施した。タンパク質レベルは、Peggy Sue(ProteinSimple社)自動化ウエスタンブロットシステムを用いて求めた。処理群のそれぞれについて正規化されたAUCを求めた。p−BTK(Y223)は全BTKタンパク質に対して正規化し、p−S6(S235/236)はアクチンに対して正規化した。
免疫組織化学:免疫組織化学用に腫瘍サンプルのパラフィン切片を調製した。EZ Prep(Ventana Medical Systems社)及びCC1(Ventana Medical Systems社)を用いてスライドの準備を整え、Reaction Buffer(Ventana Medical Systems社)でリンスした。スライドをChromoMap阻害剤(Ventana Medical Systems社)と共にインキュベートし、Reaction Bufferリンスをリンスした後、0.02μg/mlの抗pS6(S235/236)ウサギモノクローナル抗体(Cell Signaling Technology社)又は0.3μg/mlの抗c−MYCウサギモノクローナル抗体(Abcam Inc.社)と共にインキュベートした。1時間室温にした後、スライドを順番に抗ウサギHQ(Ventana Medical Systems社)、抗HQ HRP(Ventana Medical Systems社)、過酸化水素CM(Ventana Medical Systems社)、銅CM(Ventana Medical Systems社)、ヘマトキシリンIIと共にインキュベートした。Leica AT2ディジタルスライドスキャナ(Leica Microsystems Inc.社)を用いてスライドの画像を取得し、Digital Image Hub(DIH−SlidePath社)に記録した。
統計分析:反復測定用分散モデルの分析を用いて、腫瘍増殖に対する治療効果を決定した。腫瘍体積にフィットさせるモデルは、治療法、時間、及び両者の相互作用の因子を含むものであった。また、ベースラインの腫瘍体積も共変量として含まれていた。反復測定値間の共分散を直前値依存(ante-dependence)構造により仮定した。8つの単剤処理群及び組合せ処理群をビヒクル対照とダネット多重比較調節法で比較した。4つの組合せ処理群のそれぞれを2つの対応する単剤処理群とも比較した。多変量t法を多重比較調節法に適用した。モデルの仮定に合致するよう対数変換を腫瘍体積に適用した。SAS(登録商標)9.2(SAS Institute, Inc.社)を用いて分析を実施した。
結果
図24Aは、PI3Kδ阻害剤とBTK阻害剤(化合物B)の組合せで処理したTDM8異種移植片モデルマウスにおける腫瘍体積の変化を、ビヒクル対照及び単剤治療と比較して示す図である。腫瘍体積評価によれば、PI3Kδ阻害剤単独の場合、1mg/kg BID又は5mg/kg BIDの何れでも腫瘍の増殖が阻害されなかったのに対し、化合物B単独の場合、3mg/kg BIDでは腫瘍の増殖が阻害されなかったが、10mg/kg BIDでは腫瘍の増殖が75%阻害されたことが分かった(P<0.05)。PI3Kδ阻害剤と化合物Bの組合せを投与されたマウスは、低用量及び高用量の何れにおいても腫瘍増殖阻害を示し、試験された全ての用量の組合せで腫瘍が退縮した(P<0.0001)。
図24B〜図24Dは、PI3Kδ阻害剤とBTK阻害剤(化合物B)の組合せで処理したTDM8異種移植片モデルマウス(各群N=13)におけるBTKとPI3Kの活性化に関するウエスタンブロット分析の結果を、ビヒクル対照治療及び単剤治療と比較して示す図である。図24C及び図24Dは、各処理群の腫瘍の平均定量値を示している(ビヒクル群、PI3Kδ阻害剤群、及び化合物B群ではn=3、組合せではn=2)。BTKの活性化は、p−BTKで示されるように、化合物B処理群では35%低下した。化合物B及びPI3Kδ阻害剤はそれぞれ単独ではp−S6に対する効果を有さなかったが、化合物BとPI3Kδ阻害剤の組合せを用いた治療ではp−S6が79%低下した。
免疫組織化学(IHC)分析の結果は、PI3Kδ阻害剤(5mg/kg)と化合物B(10mg/kg)の組合せを用いて処理した群で、p−S6とc−MYCの信号が低下したことを示していた(データは示さず)。一方、PI3Kδ阻害剤(5mg/kg)又は化合物B(10mg/kg)の単剤治療では、p−S6 S235/236及びc−MYCのレベルは低下しなかった(データは示さず)。
まとめると、PI3Kδ及びBTKシグナル伝達経路の双方を阻害すると、多数のシグナル伝達経路に対して相乗効果を示し、両シグナル伝達経路の阻害剤を組合せて投与すれば、インビボで腫瘍退縮が観察される。