以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
(実施の形態)
<表示装置の全体構造について>
本実施の形態の表示装置は、有機EL素子を利用した有機EL表示装置(有機エレクトロルミネッセンス表示装置)である。本実施の形態の表示装置を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の表示装置1の全体構成を示す平面図である。
図1に示される表示装置1は、表示部2と、回路部3とを有している。表示部2には、複数の画素がアレイ状に配列されており、画像の表示を可能としている。回路部3には、必要に応じて種々の回路が形成されており、例えば、駆動回路または制御回路などが形成されている。回路部3内の回路は、必要に応じて、表示部2の画素に接続されている。回路部3は、表示装置1の外部に設けることもできる。表示装置1の平面形状は、種々の形状を採用できるが、例えば矩形状である。
図2は、表示装置1の要部平面図であり、図3は、表示装置1の要部断面図である。図2には、表示装置1の表示部2の一部(図1に示される領域4)を拡大して示してある。図3は、図2のA1−A1線の位置での断面図にほぼ対応している。
表示装置1のベースを構成する基板11は、絶縁性を有している。また、基板11は、フレキシブル基板(フィルム基板)であり、可撓性を有している。このため、基板11は、絶縁性を有するフレキシブル基板、すなわちフレキシブル絶縁基板である。基板11は、更に透光性を有する場合もあり得る。基板11として、例えばフィルム状のプラスチック基板(プラスチックフィルム)を用いることができる。基板11は、図1の表示装置1の平面全体に存在しており、表示装置1の最下層を構成している。このため、基板11の平面形状は、表示装置1の平面形状とほぼ同じであり、種々の形状を採用できるが、例えば矩形状とすることができる。なお、基板11の互いに反対側に位置する2つの主面のうち、有機EL素子が配置される側の主面、すなわち後述のパッシベーション膜12、電極層13、有機層14、電極層15および保護膜16を形成する側の主面を、基板11の上面と称することとする。また、基板11における上面とは反対側の主面を、基板11の下面と称することとする。
基板11の上面上には、パッシベーション膜(パッシベーション層)12が形成されている。パッシベーション膜12は、絶縁材料(絶縁膜)からなり、例えば酸化シリコン膜からなる。パッシベーション膜12は、形成しない場合もあり得るが、形成した方がより好ましい。パッシベーション膜12は、基板11の上面のほぼ全体にわたって形成することができる。
パッシベーション膜12は、基板11側から有機EL素子(特に有機層14)への水分の伝達を防止(遮断)する機能を有している。このため、パッシベーション膜12は、有機EL素子の下側の保護膜として機能することができる。一方、保護膜16は、有機EL素子の上側の保護膜として機能することができ、上側から有機EL素子(特に有機層14)への水分の伝達を防止(遮断)する機能を有している。
基板11の上面上には、パッシベーション膜12を介して、有機EL素子が形成されている。有機EL素子は、電極層13と有機層14と電極層15とからなる。つまり、基板11上のパッシベーション膜12上には、電極層13と有機層14と電極層15とが、下から順に形成(積層)されており、これら電極層13と有機層14と電極層15とにより、有機EL素子が形成されている。
電極層13は、下部電極層であり、電極層15は、上部電極層である。電極層13は、陽極および陰極のうちの一方を構成し、電極層15は、陽極および陰極のうちの他方を構成する。すなわち、電極層13が陽極(陽極層)の場合は、電極層15は陰極(陰極層)であり、電極層13が陰極(陰極層)の場合は、電極層15は陽極(陽極層)である。電極層13および電極層15は、それぞれ導電膜からなる。
電極層13および電極層15のうちの一方は、反射電極として機能できるように、アルミニウム(Al)膜などの金属膜により形成することが好ましく、また、電極層13および電極層15のうちの他方は、透明電極として機能できるように、ITO(インジウムスズオキサイド)などからなる透明導体膜により形成することが好ましい。基板11の下面側から光を取出す、いわゆるボトムエミッション方式を採用する場合は、電極層13を透明電極とすることができ、基板11の上面側から光を取出す、いわゆるトップエミッション方式を採用する場合は、電極層15を透明電極とすることができる。また、ボトムエミッション方式を採用する場合は、基板11として透光性を有する透明基板(透明フレキシブル基板)を用いることができる。
基板11上のパッシベーション膜12上に電極層13が形成され、電極層13上に有機層14が形成され、有機層14上に電極層15が形成されているため、電極層13と電極層15との間には、有機層14が介在している。
有機層14は、少なくとも有機発光層を含んでいる。有機層14は、有機発光層以外にも、ホール輸送層、ホール注入層、電子輸送層および電子注入層のうちの任意の層を、必要に応じて更に含むことができる。このため、有機層14は、例えば、有機発光層の単層構造、ホール輸送層と有機発光層と電子輸送層との積層構造、あるいは、ホール注入層とホール輸送層と有機発光層と電子輸送層と電子注入層との積層構造などを有することができる。
電極層13は、例えば、X方向に延在するストライプ状のパターンを有している。すなわち、電極層13は、X方向に延在するライン状の電極(電極パターン)13aが、Y方向に所定の間隔で複数配列した構成を有している。電極層15は、例えば、Y方向に延在するストライプ状のパターンを有している。すなわち、電極層15は、Y方向に延在するライン状の電極(電極パターン)15aが、X方向に所定の間隔で複数配列した構成を有している。つまり、電極層13は、X方向に延在するストライプ状の電極群からなり、電極層15は、Y方向に延在するストライプ状の電極群からなる。ここで、X方向とY方向とは、互いに交差する方向であり、より特定的には、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は、基板11の上面に略平行な方向でもある。
電極層15を構成する各電極15aの延在方向はY方向であり、電極層13を構成する各電極13aの延在方向はX方向であるため、電極15aと電極13aとは、平面視において互いに交差している。なお、平面視とは、基板11の上面に略平行な平面で見た場合を言うものとする。電極15aと電極13aとの各交差部においては、電極15aと電極13aとで有機層14が上下に挟まれた構造を有している。このため、電極15aと電極13aとの各交差部に、電極13aと電極15aと電極13a,15a間の有機層14とで構成される有機EL素子(画素を構成する有機EL素子)が形成され、その有機EL素子により画素が形成される。電極15aと電極13aとの間に所定の電圧が印加されることで、その電極15a,電極13a間に挟まれた部分の有機層14中の有機発光層が発光することができる。すなわち、各画素を構成する有機EL素子が発光することができる。電極15aが、有機EL素子の上部電極(陽極または陰極の一方)として機能し、電極13aが、有機EL素子の下部電極(陽極または陰極の他方)として機能する。
なお、有機層14は、表示部2全体にわたって形成することもできるが、電極層13と同じパターン(すなわち電極層13を構成する複数の電極13aと同じパターン)として形成することもでき、あるいは、電極層15と同じパターン(すなわち電極層15を構成する複数の電極15aと同じパターン)として形成することもできる。いずれにしても、電極層13を構成する複数の電極13aと電極層15を構成する複数の電極15aとの各交点には、有機層14が存在している。
このように、平面視において、表示装置1の表示部2では、平面視において、基板11上に有機EL素子(画素)がアレイ状に複数配列した状態になっている。
なお、ここでは、電極層13,15がストライプ状のパターンを有している場合について説明した。このため、アレイ状に配列した複数の有機EL素子(画素)において、X方向に並んだ有機EL同士では、下部電極(電極13a)同士が繋がっており、また、Y方向に並んだ有機EL同士では、上部電極(電極15a)同士が繋がっている。しかしながら、これに限定されず、アレイ状に配列する有機EL素子の構造は、種々変更可能である。
例えば、アレイ状に配列した複数の有機EL素子が、上部電極でも下部電極でも互いにつながっておらず、独立に配置されている場合もあり得る。この場合は、各有機EL素子は、下部電極と有機層と上部電極との積層構造を有する孤立パターンにより形成され、この孤立した有機EL素子が、アレイ状に複数配列することになる。この場合は、各画素において有機EL素子に加えてTFT(薄膜トランジスタ)などのアクティブ素子を設けるとともに、画素同士を必要に応じて配線を介して接続することができる。
基板11(パッシベーション膜12)の上面上には、有機EL素子を覆うように、従って電極層13と有機層14と電極層15とを覆うように、保護膜(保護層)16が形成されている。表示部2に有機EL素子がアレイ状に配列している場合は、それらアレイ状に配列した有機EL素子を覆うように、保護膜16が形成されている。このため、保護膜16は、表示部2全体に形成されていることが好ましく、また、基板11の上面のほぼ全体上に形成されていることが好ましい。有機EL素子(電極層13、有機層14および電極層15)を保護膜16により覆うことで、有機EL素子(電極層13、有機層14および電極層15)を保護し、また、有機EL素子への水分の伝達、特に有機層14への水分の伝達を、保護膜16によって防止(遮断)することができる。すなわち、保護膜16を設けたことで、保護膜16を越えて有機EL素子側に水分が侵入するのを防止することができる。保護膜16は、有機EL素子用の保護膜である。
但し、電極または配線などの一部を、保護膜16から露出させる必要がある場合もあり得る。そのような場合は、基板11の上面側の全領域に保護膜16を形成するのではなく、基板11の上面側の一部に保護膜16が形成されない領域を設けておき、そこ(保護膜16が形成されていない領域)から、電極または配線などの一部を露出させることもできる。但し、そのような場合でも、保護膜16を形成していない領域から、有機層14は露出しないようにすることが好ましい。
保護膜16は、水分に対するバリア性を得られるように、無機絶縁材料により構成されている。すなわち、保護膜16は、無機絶縁膜である。但し、保護膜16は、単層の絶縁膜ではなく、複数の絶縁膜(無機絶縁膜)を積層した積層絶縁膜である。
本実施の形態では、保護膜16は、絶縁膜(無機絶縁膜、絶縁層)16aと、絶縁膜16a上の絶縁膜(無機絶縁膜、絶縁層)16bと、絶縁膜16b上の絶縁膜(無機絶縁膜、絶縁層)16cとの積層膜からなる。すなわち、保護膜16は、絶縁膜16aと絶縁膜16bと絶縁膜16cとの3つの層を有している。
保護膜16を構成する絶縁膜16a,16b,16cのうち、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、それぞれ、プラズマALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法で形成された絶縁膜であり、絶縁膜16bは、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相成長)法により形成された絶縁膜である。ALD法は、原料ガスと反応ガスとを交互に供給することにより、処理対象物上に原子層単位で膜を形成する成膜方法である。また、絶縁膜16bを形成するプラズマCVD法としては、ICP(Inductively Coupled Plasma)−CVD法(誘導結合型プラズマCVD法)を好適に用いることができる。
絶縁膜16bとしては、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜または酸窒化シリコン膜を好適に用いることができるが、窒化シリコン膜が最も好ましい。絶縁膜16aとしては、アルミニウム(Al)を含有する絶縁膜を用いることができ、例えば、酸化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜を好適に用いることができるが、その中でも、酸化アルミニウム膜が特に好ましい。同様に、絶縁膜16cとしては、アルミニウム(Al)を含有する絶縁膜を用いることができ、例えば、酸化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜を好適に用いることができるが、その中でも、酸化アルミニウム膜が特に好ましい。
保護膜16上には、樹脂膜(樹脂層、樹脂絶縁膜、有機絶縁膜)17が形成されている。すなわち、絶縁膜16c上に樹脂膜17が形成されている。樹脂膜17は、有機絶縁膜とみなすこともできる。樹脂膜17の材料としては、例えばPET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)などを好適に用いることができる。
樹脂膜17は、その形成を省略することもできる。但し、樹脂膜17を形成しない場合よりも、樹脂膜17を形成した場合の方が、より好ましい。樹脂膜17は、柔らかいため、樹脂膜17を設けることで、表示装置1を扱いやすくなる。
保護膜16は、無機絶縁膜である。無機絶縁膜は、水分を通しにくい膜であるが、硬い膜でもある。このため、保護膜16上に、樹脂膜17を形成することもでき、この樹脂膜17を、表示装置1の最上層の膜として用いることもできる。樹脂膜(17)は、無機絶縁膜(保護膜16)に比べて、水分を通しやすいため、水分の侵入を防止する膜としての機能は小さい。しかしながら、樹脂膜(17)は、無機絶縁膜(保護膜16)に比べて、柔らかい。このため、保護膜16上に柔らかい樹脂膜17を形成することで、表示装置1を取り扱いやすくなる。また、樹脂膜17は、物理的な衝撃からの保護膜(機械的保護膜)として機能することができる。
また、保護膜16上に樹脂膜17を形成した場合、保護膜16と樹脂膜17とを合わせたものを、保護膜とみなすこともできる。但し、樹脂膜17を形成した場合、水分の侵入を防止する膜(水分防止膜)として機能するのは、保護膜16であり、樹脂膜17は、主として、機械的な保護膜として機能する。水分保護膜(ここでは保護膜16)は、無機絶縁体からなり、機械的保護膜(ここでは樹脂膜17)は、樹脂材料(有機絶縁体)からなることが好ましい。
本実施の形態では、表示装置1の基板11としてフレキシブル基板を用いている。図4は、表示装置1を構成する基板11(フレキシブル基板)を折り曲げた場合、すなわち、表示装置1を折り曲げた場合を模式的に示す断面図である。図4は、断面図であるが、図面を見やすくするために、ハッチングは省略してある。表示装置1の基板11としてフレキシブル基板を用いることで、表示装置1の折り曲げが可能になる。また、基板11は、フレキシブル基板であるが、繰り返しの折り曲げも可能であり、ベンダブル(bendable)基板とみなすこともでき、また、折りたたむことも可能であり、フォルダブル(foldable)基板とみなすこともできる。このため、基板11は、フレキシブル基板であるが、そのフレキシブル基板には、ベンダブル基板やフォルダブル基板も包括されている。
<表示装置の製造方法>
本実施の形態の表示装置1の製造方法について、図面を参照して説明する。図5は、本実施の形態の表示装置1の製造工程を示す、工程フロー図である。図6は、本実施の形態の表示装置1の製造工程のうちの、保護膜16形成工程の詳細を示す、工程フロー図である。図7〜図14は、本実施の形態の表示装置1の製造工程中の要部断面図であり、上記図3に相当する領域の断面図が示されている。なお、ここでは、主として、表示装置1の表示部2の製造工程を説明する。
まず、図7に示されるように、ガラス基板9とフレキシブル基板である基板11とが貼り合わされた基板10を用意(準備)する(図5のステップS1)。基板11は可撓性を有しているが、基板11がガラス基板9に貼り合わされていることで、基板11はガラス基板9に固定される。これにより、基板11上への各種の膜の形成やその膜の加工などが容易になる。なお、基板11の下面が、ガラス基板9に貼り付けられている。
次に、図8に示されるように、基板10の上面上に、パッシベーション膜12を形成する(図5のステップS2)。なお、基板10の上面は、基板11の上面と同義である。
パッシベーション膜12は、スパッタリング法、CVD法またはALD法などを用いて形成することができる。パッシベーション膜12は、絶縁材料からなり、例えば酸化シリコン膜からなる。例えば、CVD法により形成した酸化シリコン膜を、パッシベーション膜12として好適に用いることができる。
次に、図9に示されるように、基板10の上面上に、すなわちパッシベーション膜12上に、電極層13と電極層13上の有機層14と有機層14上の電極層15とからなる有機EL素子を形成する。すなわち、パッシベーション膜12上に、電極層13と有機層14と電極層15とを順に形成する(図5のステップS3,S4,S5)。この工程は、例えば、次のようにして行うことができる。
すなわち、基板10の上面上に、すなわちパッシベーション膜12上に、電極層13を形成する(図5のステップS3)。電極層13は、例えば、導電膜をパッシベーション膜12上に形成してから、この導電膜を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いてパターニングすることなどにより、形成することができる。それから、電極層13上に有機層14を形成する(図5のステップS4)。有機層14は、例えば、マスクを用いた蒸着法(真空蒸着法)などにより、形成することができる。また、有機層14用の膜を成膜してからその膜をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いてパターニングする手法で、有機層14を形成することも可能である。それから、有機層14上に電極層15を形成する(図5のステップS5)。電極層15は、例えば、マスクを用いた蒸着法などにより、形成することができる。また、電極層15用の膜を成膜してからその膜をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いてパターニングする手法で、電極層15を形成することも可能である。
電極層13と有機層14と電極層15とからなる有機EL素子を形成した後、基板10の上面上に、すなわち電極層15上に、保護膜16を形成する(図5のステップS6)。保護膜16は、有機EL素子を覆うように形成される。
保護膜16は、絶縁膜16aと絶縁膜16a上の絶縁膜16bと絶縁膜16b上の絶縁膜16cとの積層膜からなるため、ステップS6の保護膜16形成工程は、図6に示されるように、ステップS6aの絶縁膜16a形成工程と、ステップS6bの絶縁膜16b形成工程と、ステップS6cの絶縁膜16c形成工程と、を有している。ステップS6aの後にステップS6bが行われ、更にその後にステップS6cが行われる。
このため、ステップS6の保護膜16形成工程は、具体的には次のようにして行うことができる。すなわち、まず、図10に示されるように、基板10上に、すなわち電極層15上に、絶縁膜16aをプラズマALD法を用いて形成する(図6のステップS6a)。絶縁膜16aは、有機EL素子を覆うように形成される。それから、図11に示されるように、絶縁膜16a上に絶縁膜16bを、プラズマCVD法を用いて形成する(図6のステップS6b)。それから、図12に示されるように、絶縁膜16b上に絶縁膜16cを、プラズマALD法を用いて形成する(図6のステップS6c)。これにより、絶縁膜16aと絶縁膜16bと絶縁膜16cとの積層膜からなる保護膜16が形成される。
また、電極または配線などの一部を、保護膜16から露出させる必要がある場合もあり得る。そのような場合は、基板10の上面の全領域に保護膜16を形成するのではなく、基板10の上面の一部に保護膜16が形成されない領域を設けて、そこ(保護膜16が形成されていない領域)から、電極または配線などの一部を露出させることができる。この場合は、ステップS6の保護膜16形成工程は、例えば次のようにして行うことができる。
すなわち、まず、基板10上に、すなわち電極層15上に、マスク(メタルマスク)を配置してから、ステップS6aとして絶縁膜16aをプラズマALD法を用いて形成する。それから、そのマスクを取り除いてから、次のマスク(メタルマスク)を基板10上に、すなわち電極層15上に配置してから、ステップS6bとして絶縁膜16a上に絶縁膜16bをプラズマCVD法を用いて形成する。それから、そのマスクを取り除いてから、次のマスク(メタルマスク)を基板10上に、すなわち電極層15上に配置してから、ステップS6cとして絶縁膜16b上に絶縁膜16cをプラズマALD法を用いて形成し、その後、そのマスクを取り除く。これにより、絶縁膜16aと絶縁膜16bと絶縁膜16cとの積層膜からなる保護膜16が形成される。マスクで覆われずに露出されていた領域には、絶縁膜16a,16b,16cが形成され、従って保護膜16が形成されるが、マスクで覆われていた領域には、絶縁膜16a,16b,16cは形成されず、従って保護膜16は形成されない。これにより、有機EL素子を覆うように保護膜16を形成することができるとともに、保護膜16が形成されていない領域から、電極または配線などを必要に応じて露出させることができる。
いずれにしても、ステップS6a,S6cにおいて、絶縁膜16a,16cはプラズマALD法を用いて形成され、ステップS6bにおいて、絶縁膜16bはプラズマCVD法を用いて形成される。ステップS6bにおいて、プラズマCVD法としてICP−CVD法を用いれば、より好ましい。
詳細は後述するが、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cは、絶縁膜16bの応力を緩和(相殺)するために形成され、保護膜16は、絶縁膜16aと絶縁膜16cとで絶縁膜16bを挟んだ構造を有している。このため、ステップS6bでは、絶縁膜16bは、絶縁膜16a上に、絶縁膜16aに接するように形成され、また、ステップS6cでは、絶縁膜16cは、絶縁膜16b上に、絶縁膜16bに接するように形成される。このため、ステップS6a,S6b,S6cを終了すると、絶縁膜16aと絶縁膜16bと絶縁膜16cとの積層膜からなる保護膜16が形成され、絶縁膜16bは、絶縁膜16a上に形成されてその絶縁膜16aに接し、絶縁膜16cは、絶縁膜16b上に形成されてその絶縁膜16bに接している。なお、ステップS6aにおいて、絶縁膜16cは有機EL素子を覆うように形成され、従って、保護膜16は、有機EL素子を覆うように形成される。
有機EL素子(特に有機層14)は高温に弱いため、ステップS6a,S6b,S6cの各成膜温度、すなわち絶縁膜16a,16b,16cの各成膜温度は、有機EL素子(特に有機層14)に悪影響を及ぼさないように、比較的低温であることが好ましく、具体的には、100℃以下であることが好ましく、例えば80℃程度とすることができる。
このような低い成膜温度でも緻密な膜を形成できるようにするには、プラズマCVD法を用いる絶縁膜16bについては、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜または酸窒化シリコン膜を用いることが好ましく、その中でも窒化シリコン膜が特に好ましい。また、プラズマALD法を用いる絶縁膜16a,16cについては、アルミニウム(Al)を含有する絶縁膜を用いることが好ましく、酸化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜を好適に用いることができるが、その中でも、酸化アルミニウム膜が特に好ましい。
保護膜16を形成すると、電極層13と有機層14と電極層15とからなる有機EL素子は、保護膜16で覆われる。複数の有機EL素子がアレイ状に配列している場合は、それら複数の有機EL素子が保護膜16で覆われる。
ステップS6で保護膜16を形成した後、図13に示されるように、基板10の上面上に、すなわち保護膜16上に、樹脂膜17を形成する(図5のステップS7)。
保護膜16の最上層は絶縁膜16cであるので、絶縁膜16c上に樹脂膜17が形成される。樹脂膜17は、例えばPETなどからなり、スピンコート法(塗布法)などを用いて形成することができる。
その後、図14に示されるように、基板11をガラス基板9から引きはがすことにより、基板11とその上面上の構造体とを、ガラス基板9から分離する。このようにして、表示装置1を製造することができる。
<成膜装置について>
図15は、保護膜16形成用の成膜装置の一例を示す説明図である。
図15の成膜装置21は、複数のチャンバを有するマルチチャンバ型の成膜装置である。具体的には、成膜装置21は、ロードロック室22と、トランスファチャンバ23と、複数のチャンバ(処理室、成膜室、成膜容器)24,25,26とを有している。このうち、チャンバ24,26は、プラズマALD法を用いて成膜が行われるチャンバであり、チャンバ25は、プラズマCVD法を用いて成膜が行われるチャンバである。チャンバ24は、上記絶縁膜16aを形成するために用いられ、チャンバ25は、上記絶縁膜16bを形成するために用いられ、チャンバ26は、上記絶縁膜16cを形成するために用いられる。成膜装置21を用いて保護膜16を形成する工程フローについて、以下に説明する。
まず、保護膜16形成工程より前の工程を終了した後、保護膜16形成工程を行うために、処理対象物を、成膜装置21のロードロック室22に搬入する。ここで、ロードロック室22に搬入する処理対象物は、上記パッシベーション膜12、電極層13、有機層14および電極層15などが形成された基板10であり、基板10上に図9の構造が形成されており、後述の図16および図17では、符号27を付して処理対象物27として示してある。
それから、ロードロック室22内に搬入された処理対象物を、トランスファチャンバ23を経由してチャンバ24内に搬送(真空搬送)する。そして、チャンバ24内に配置された処理対象物に対して、プラズマALD法を用いて絶縁膜16aを成膜する。この場合、上記ステップS6aが、チャンバ24で行われることになる。それから、チャンバ24内の処理対象物を、トランスファチャンバ23を経由してチャンバ25内に搬送(真空搬送)する。そして、チャンバ25内に配置された処理対象物に対して、プラズマCVD法を用いて絶縁膜16bを成膜する。この場合、上記ステップS6bが、チャンバ25で行われることになる。それから、チャンバ25内の処理対象物を、トランスファチャンバ23を経由してチャンバ26内に搬送(真空搬送)する。そして、チャンバ26内に配置された処理対象物に対して、プラズマALD法を用いて絶縁膜16cを成膜する。この場合、上記ステップS6cが、チャンバ26で行われることになる。それから、チャンバ26内の処理対象物を、トランスファチャンバ23を経由してロードロック室22に搬送(真空搬送)する。その後、処理対象物は、ロードロック室22から成膜装置21の外部に搬出され、次の工程(例えば樹脂膜17形成工程)を行うための製造装置に搬送される。
また、成膜装置21において、搬入用のロードロック室と搬出用のロードロック室との2つのロードロック室を設けることもできる。その場合は、処理対象物は、搬入用のロードロック室に搬入され、トランスファチャンバ23を経由してチャンバ24,25,26でステップS6a,S6b,S6cの処理が施され、その後、搬出用のロードロック室から成膜装置21の外部に搬出され、次の工程に送られる。
また、絶縁膜16a,16b,16cの各成膜工程において、処理対象物上にマスクを配置した状態で成膜を行う場合は、トランスファチャンバ23にマスク着脱用のチャンバ(マスクチャンバ)を連結しておき、そのマスクチャンバにおいて、マスクの着脱を行うことができる。
図15の成膜装置21を用いれば、上記ステップS6a(絶縁膜16a形成工程)と、上記ステップS6b(絶縁膜16b形成工程)と、上記ステップS6c(絶縁膜16c形成工程)とを、処理対象物を大気中にさらすことなく、連続的に行うことができる。これにより、ステップS6aで絶縁膜16aを形成した後、絶縁膜16aの表面に不要な膜が形成されることなく、ステップS6bで絶縁膜16a上に絶縁膜16bを形成することができ、また、ステップS6bで絶縁膜16bを形成した後、絶縁膜16bの表面に不要な膜が形成されることなく、ステップS6cで絶縁膜16b上に絶縁膜16cを形成することができる。これにより、絶縁膜16aと絶縁膜16bと絶縁膜16cとからなる保護膜16をより的確に形成することができ、その保護膜16により水分の侵入を防止する効果を、より的確に得ることができる。
図16は、プラズマCVD法による成膜を行うチャンバ25の構成の一例を示す断面図である。チャンバ25は、プラズマCVD法を用いて成膜が行われるチャンバであるが、プラズマCVD法を用いて成膜を行う成膜装置とみなすこともでき、従って、プラズマCVD装置またはプラズマCVD成膜装置とみなすこともできる。
図16に示されるように、チャンバ25内には、処理対象物27を配置するためのステージ31と、ステージ31の上方に配置されたシャワーヘッド(ガス供給部)32と、シャワーヘッド32の下に配置されたアンテナ33と、が配置されている。アンテナ33は、ステージ31とシャワーヘッド32との間において、シャワーヘッド32の近くに配置されている。なお、図16において、チャンバ25内で、アンテナ33は、紙面に略垂直な方向に延在している。チャンバ25の排気部(排気口)34は、真空ポンプ(図示せず)などに接続されており、チャンバ25内を所定の圧力に制御できるようになっている。
チャンバ25を用いた成膜時は、シャワーヘッド32からチャンバ25内に成膜用のガスが放出され、アンテナ33に高周波電力が印加される。窒化シリコン膜を成膜する場合は、成膜用ガスとしては、例えば、SiH4ガス(シランガス)とNH3ガス(アンモニアガス)との混合ガスを用いることができる。ガスは、プラズマ化して化学反応し、生成されたSiN(窒化シリコン)の粒子が、ステージ31上に配置された処理対象物27上に堆積して、窒化シリコン膜が形成される。チャンバ25内で処理対象物27上に形成される膜(例えば窒化シリコン膜)が、上記絶縁膜16bに対応する。
図17は、プラズマALD法による成膜を行うチャンバ24の構成の一例を示す断面図である。チャンバ26の構成も、図17のチャンバ24と同様であるので、ここでは、チャンバ24,26を代表して、チャンバ24の構成を、図17を参照して説明する。チャンバ24,26のそれぞれは、プラズマALD法を用いて成膜が行われるチャンバであるが、プラズマALD法を用いて成膜を行う成膜装置とみなすこともでき、従って、プラズマALD装置またはプラズマALD成膜装置とみなすこともできる。
また、本実施の形態では、絶縁膜16a,16cの形成には、ALD法として、プラズマALD法を用いることが好ましく、従って、チャンバ24,26では、プラズマALD法を用いた成膜を行うことが好ましい。プラズマALD装置(チャンバ24,26)においては、反応活性を高めるために、プラズマ放電を行って反応ガスをプラズマ化する。このため、プラズマALD装置(チャンバ24,26)では、プラズマ放電を行うため、平行平板電極などが使用される。
図17に示されるように、チャンバ24内には、処理対象物27を配置するためのステージ41と、ステージ41の上方に配置された上部電極(平板電極)42とが、配置されている。上部電極42には、高周波電源46が接続されており、その高周波電源46によって上部電極42に、従って上部電極42とステージ41との間に、高周波電力を印加できるようになっている。ステージ41は、下部電極としての機能も有している。上部電極42と、下部電極(ここではステージ41)とにより、平行平板電極が構成される。高周波電源46は、チャンバ24の外に配置することができる。ステージ41は、ヒータ(図示せず)などを備えており、ステージ41上に配置した処理対象物27を加熱し、処理対象物27の温度を所望の温度に調整することができるようになっている。チャンバ24の排気部(排気口)43は、真空ポンプ(図示せず)などに接続されており、チャンバ24内を所定の圧力に制御できるようになっている。また、チャンバ24には、チャンバ24内にガスを導入するためのガス導入部44と、チャンバ24内からガスを排出するためのガス排出部(ガス排気部)45と、を有している。なお、図17では、理解を簡単にするために、ガス導入部44からチャンバ24内に導入するガスの流れと、ガス排出部45からチャンバ24外に排出するガスの流れとを、それぞれ矢印で模式的に示してある。
なお、図17では、プラズマの発生に平行平板型の電極を用いる成膜装置について示しているが、他の形態として、プラズマの発生に、平行平板型以外の方式(例えばICP(Inductively Coupled Plasma)型)を用いることもできる。
チャンバ24を用いた成膜(プラズマALD法による成膜)は、例えば、次のようにして行うことができる。
チャンバ24内のステージ41上に処理対象物27が配置された状態で、以下に説明する第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、複数サイクル繰り返すことで、処理対象物27の表面上に、所望の膜(例えば酸化アルミニウム膜)を所望の厚さに形成することができる。以下、具体的に説明する。
まず、第1ステップ(原料ガス供給ステップ)として、原料ガスをガス導入部44からチャンバ24内に導入(供給)する。酸化アルミニウム膜を成膜する場合は、原料ガスとしては、例えばTMA(Trimethylaluminium:トリメチルアルミニウム)ガスを用いることができる。第1ステップを行うと、ステージ41上に配置された処理対象物27の表面上に、原料ガスの分子が吸着する。すなわち、処理対象物27の表面に、原料ガスの吸着層が形成される。
次に、第2ステップ(パージステップ)として、チャンバ24内への原料ガスの導入を停止し、パージガスをガス導入部44からチャンバ24内に導入(供給)する。パージガスとしては、不活性ガスを好適に用いることができるが、窒素ガス(N2ガス)を用いる場合もあり得る。パージガスを導入することで、処理対象物27の表面に吸着していた原料ガス分子(原料ガスの吸着層)は残存するが、それ以外の原料ガスは、パージガスと一緒にガス排出部45からチャンバ24外に排出される(パージされる)。
次に、第3ステップ(反応ガス供給ステップ)として、反応ガスを、ガス導入部44からチャンバ24内に導入(供給)する。酸化アルミニウム膜を成膜する場合は、反応ガスとしては、例えばO2ガス(酸素ガス)を用いることができる。そして、上部電極42に、従って上部電極42とステージ41との間に、高周波電力を印加する。これにより、上部電極42とステージ41との間にプラズマ放電が発生し、反応ガス(ここではO2ガス)はプラズマ化して、反応ガスにラジカル(活性種)が生成され、処理対象物27の表面に吸着していた原料ガス分子(原料ガスの吸着層)が反応ガスと反応する。これにより、処理対象物27の表面に、原料ガスの吸着層と反応ガス(反応ガスのプラズマ)との反応層である酸化アルミニウムの原子層(一層)が形成される。
次に、第4ステップ(パージステップ)として、チャンバ24内への反応ガスの導入と上部電極42への高周波電力の印加を停止し、パージガスをガス導入部44からチャンバ24内に導入(供給)する。パージガスとしては、不活性ガスを好適に用いることができるが、窒素ガス(N2ガス)を用いる場合もあり得る。パージガスを導入することで、反応ガスは、パージガスと一緒にガス排出部45からチャンバ24外に排出される(パージされる)。
このような第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、複数サイクル繰り返すことで、処理対象物27の表面上に、所望の膜(例えば酸化アルミニウム膜)を所望の厚さに形成することができる。例えば、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、30サイクル繰り返せば、30層の原子層からなる膜が形成され、また、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、60サイクル繰り返せば、60層の原子層からなる膜が形成されることになる。
チャンバ26を用いた成膜(プラズマALD法による成膜)も、チャンバ24を用いた成膜(プラズマALD法による成膜)と基本的には同じであるので、ここではその説明は省略する。チャンバ24内で処理対象物27の表面上に形成される膜(例えば酸化アルミニウム膜)が、上記絶縁膜16aに対応し、チャンバ26内で処理対象物27の表面上に形成される膜(例えば酸化アルミニウム膜)が、上記絶縁膜16cに対応する。
チャンバ24で形成される絶縁膜16aが酸化アルミニウム膜の場合、その酸化アルミニウム膜の成膜条件としては、例えば次の条件を例示できる。すなわち、基板温度(成膜温度)が80℃で、TMAガスの流量が50sccmで、O2ガスの流量が300sccmで、RFパワー(高周波パワー)が750Wで、成膜速度が4nm/分である。
チャンバ25で形成される絶縁膜16bが窒化シリコン膜の場合、その窒化シリコン膜の成膜条件としては、例えば次の条件を例示できる。すなわち、基板温度(成膜温度)が80℃で、SiH4ガスの流量が100sccmで、NH3ガスの流量が150sccmで、RFパワー(高周波パワー)が1000Wで、成膜速度が100nm/分である。
チャンバ26で形成される絶縁膜16cが酸化アルミニウム膜の場合、その酸化アルミニウム膜の成膜条件としては、例えば次の条件を例示できる。すなわち、基板温度(成膜温度)が80℃で、TMAガスの流量が50sccmで、O2ガスの流量が300sccmで、RFパワー(高周波パワー)が750Wで、成膜速度が4nm/分である。
<検討の経緯について>
有機EL素子は、水分に弱いため、有機EL素子を覆うように保護膜(水分保護膜)を形成して、有機EL素子への水分の伝達を防ぐことが望ましい。この保護膜には、水分の侵入を防止する効果が高い無機絶縁膜を用いることが望ましい。また、有機EL素子は高温に弱いため、保護膜の成膜温度は、有機EL素子に悪影響を及ぼさないように、比較的低温であることが好ましく、従って、保護膜としては、比較的低温度で成膜が可能な材料膜を用いることが好ましい。
ところで、本発明者は、有機EL素子を形成する基板として、フレキシブル基板を用いることを検討している。フレキシブル基板は、可撓性を有しているため、折り曲げることが可能である。有機EL表示装置の基板としてフレキシブル基板を用いれば、その表示装置の折り曲げが可能になる。
フレキシブル基板を用いる場合は、フレキシブル基板と一緒に保護膜も折り曲げられることになるため、保護膜においても折り曲げ耐性が重要になる。しかしながら、無機絶縁膜は、保護膜(水分保護膜)としては優れているが、樹脂膜などに比べて硬い材料であるため、基板としてフレキシブル基板を用いる場合には、曲げに伴って無機絶縁膜からなる保護膜にクラックが生じるリスクがある。すなわち、フレキシブル基板を小さな折り曲げ半径で折り曲げると、それに伴い保護膜も小さな折り曲げ半径で折り曲げられることになり、その曲げに伴って保護膜にクラックが発生するリスクがある。保護膜にクラックが発生してしまうと、そのクラックを通じて有機EL素子側へ水分が侵入してしまい、その水分が有機EL素子に伝達され、有機EL素子の劣化を引き起こす虞がある。これは、有機EL素子の信頼性の低下や、有機EL素子を用いた表示装置(有機EL表示装置)の信頼性の低下につながってしまう。
このため、フレキシブル基板を用いる場合には、保護膜(水分保護膜)について、水分に対するバリア性を高めるだけでなく、折り曲げ耐性も高めることが重要である。
<主要な特徴と効果について>
本実施の形態の主要な特徴のうちの一つは、基板11としてフレキシブル基板を用いたことである。本実施の形態の主要な特徴のうちの他の一つは、無機絶縁材料からなる保護膜16が、プラズマALD法で形成した絶縁膜16aと、絶縁膜16a上にプラズマCVD法で形成した絶縁膜16bと、絶縁膜16b上にプラズマALD法で形成した絶縁膜16cとを有する積層膜からなることである。
本実施の形態では、基板11としてフレキシブル基板を用いているため、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させて、折り曲げに伴い保護膜16にクラックが生じないようにすることが望まれる。これを実現するために、本実施の形態では、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16aとプラズマALD法で形成した絶縁膜16cとで挟んだ構造(積層構造)を有する保護膜16を採用している。これにより、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させることができるが、このことについて、図18〜図21を参照して以下に詳細に説明する。なお、保護膜の折り曲げ耐性とは、折曲げ試験に対する耐久性に対応している。また、折曲げ試験とは、折り曲げ動作を多数回繰り返す試験に対応している。折り曲げ動作を多数回繰り返しても、保護膜にクラックなどの不具合が生じなければ、保護膜の折り曲げ耐性が向上したと判断することができる。
図18〜図21は、保護膜の断面構造を示す断面図(説明図)であり、表示装置1の一部(上記図3の一部)を抜き出して示したものである。但し、図18は、本実施の形態に対応しているが、図19、図20および図21は、本発明者が検討した検討例に対応している。図18〜図21には、保護膜(16,116,216,316)の断面構造が示されているが、図18〜図21において、保護膜の断面構造は互いに相違している。
なお、図18〜図21において、保護膜(16,116,216,316)の下地を構成する層を、符号18を付して下地層18として示しており、保護膜(16,116,216,316)は、下地層18上に形成されている。下地層18は、上記電極層15、有機層14、電極層13、パッシベーション膜12あるいは基板11で構成されているが、下地層18が、電極層15、有機層14、電極層13、パッシベーション膜12あるいは基板11のいずれによって構成されているかは、保護膜の平面位置によって相違し得る。例えば、1つの保護膜16が、保護膜16の下の下地層18が電極層15で構成されている領域と、保護膜16の下の下地層18が有機層14で構成されている領域と、保護膜16の下の下地層18が電極層13で構成されている領域と、保護膜16の下の下地層18がパッシベーション膜12で構成されている領域と、を一体的に有する場合もあり得る。
図18〜図21のそれぞれにおける保護膜の構造(断面構造)は、次の通りである。
図18は、本実施の形態の保護膜16の断面図が示されている。図18に示されるように、無機絶縁材料からなる保護膜16は、プラズマALD法で形成された絶縁膜16aと、絶縁膜16a上にプラズマCVD法で形成された絶縁膜16bと、絶縁膜16b上にプラズマALD法で形成された絶縁膜16cとの積層構造を有している。保護膜16を構成する積層構造において、プラズマALD法で形成された絶縁膜16cが最上層であり、プラズマALD法で形成された絶縁膜16aが最下層であり、プラズマCVD法で形成された絶縁膜16bが中間層である。
図19は、第1検討例の保護膜116の断面図が示されている。図19に示されるように、無機絶縁材料からなる保護膜116は、プラズマCVD法で形成された膜であり、単層構造を有している。図19(第1検討例)の場合、保護膜116は、全体が上記絶縁膜16bに相当する膜で構成されており、本実施の形態における絶縁膜16a,16cに相当する膜は有していない。
図20は、第2検討例の保護膜216の断面図が示されている。図20に示されるように、無機絶縁材料からなる保護膜216は、プラズマCVD法で形成された絶縁膜216bと、絶縁膜216b上にプラズマALD法で形成された絶縁膜216cとの積層構造を有している。保護膜216を構成する積層構造において、プラズマALD法で形成された絶縁膜216cが最上層でありプラズマCVD法で形成された絶縁膜216bが最下層である。図20(第2検討例)の場合、保護膜216は、絶縁膜16bに相当する絶縁膜216bと絶縁膜16cに相当する絶縁膜216cとで構成されており、絶縁膜16aに相当する膜は有していない。
図21は、第3検討例の保護膜316の断面図が示されている。図21に示されるように、無機絶縁材料からなる保護膜316は、プラズマALD法で形成された絶縁膜316aと、絶縁膜316a上にプラズマCVD法で形成された絶縁膜316bとの積層構造を有している。保護膜316を構成する積層構造において、プラズマCVD法で形成された絶縁膜316bが最上層であり、プラズマALD法で形成された絶縁膜316aが最下層である。図21(第3検討例)の場合、保護膜316は、絶縁膜16aに相当する絶縁膜316aと絶縁膜16bに相当する絶縁膜316bとで構成されており、絶縁膜16cに相当する膜は有していない。
ところで、水分に対するバリア性を有する保護膜(水分保護膜)としては、プラズマCVD法で形成したSi含有無機絶縁膜が適している。プラズマCVD法で形成したSi含有無機絶縁膜は、低温での成膜が可能で、かつ、膜の密度を高くできるため、単位厚さ当たりの水分透過率が低く、有機EL素子への水分の伝達を防ぐ保護膜として好適だからである。ここで、Si含有無機絶縁膜とは、Si(シリコン、ケイ素)を構成元素として含有する無機絶縁膜であり、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜または酸窒化シリコン膜を例示できる。特に、窒化シリコン膜は、単位厚さ当たりの水分透過率が非常に低く、水分に対する高いバリア性を有しているため、水分保護膜として好ましい。これは、窒化シリコン膜をプラズマCVD法で成膜する場合、低温で、より緻密な膜を形成することができるからである。
しかしながら、プラズマCVD法で形成した膜は、その膜の応力を制御することが容易ではない。このため、有機EL素子に悪影響を及ぼさないような温度(好ましくは100℃以下)でプラズマCVD法を用いて形成した膜(16b,116,216b,316b)は、応力を有する膜(引張応力膜または圧縮応力膜)として形成されやすい。特に、有機EL素子に悪影響を及ぼさないような温度(好ましくは100℃以下)でプラズマCVD法を用いて形成した窒化シリコン膜は、水分に対する高いバリア性を有する反面、かなり大きな圧縮応力を有する膜となってしまう。
このため、図19の保護膜116は、プラズマCVD法を用いて形成していることを反映して、応力が大きくなりやすく、特に、保護膜116が、プラズマCVD法で形成した窒化シリコン膜の単層構造を有している場合には、保護膜116は、大きな圧縮応力を有する膜となってしまう。
保護膜116が圧縮応力または圧縮応力を有していると、その応力に逆らうように保護膜116が折り曲げられたときに保護膜116にクラックが発生するリスクが高くなる。例えば、保護膜116が圧縮応力を有している場合には、上記図4の場合と同様の方向に表示装置を折り曲げると、保護膜116の圧縮応力に逆らって保護膜116が折り曲げられることになり、保護膜116にクラックが発生するリスクが高くなってしまう。また、保護膜116が引張応力を有している場合には、上記図4の場合とは逆の方向に表示装置を折り曲げると、保護膜116の引張応力に逆らって保護膜116が折り曲げられることになり、保護膜116にクラックが発生するリスクが高くなってしまう。
保護膜(水分保護膜)の応力は、その保護膜の折り曲げ耐性に影響を与えるため、図19のように、プラズマCVD法で形成した膜のみを保護膜116として使用してしまうと、保護膜116の応力に起因して、保護膜116の折り曲げ耐性が低くなり、折り曲げに伴い保護膜116にクラックが生じる懸念がある。
すなわち、保護膜116に相応しい材料(例えば窒化シリコン)を選択し、有機EL素子に悪影響を及ぼさないような温度(好ましくは100℃以下)で保護膜116を形成すると、保護膜116には大きな応力(保護膜116が窒化シリコン膜の場合は大きな圧縮応力)が発生し、その応力に起因して、保護膜116の折り曲げ耐性が低下する虞がある。つまり、図19に示される第1検討例の保護膜116においては、全体がプラズマCVD法を用いて形成した膜により構成されているため、そのプラズマCVD法を用いて形成した膜の応力が、保護膜116の折り曲げ耐性に大きく影響することになり、保護膜116の折り曲げ耐性が低くなってしまうのである。
一方、プラズマALD法は、形成する膜の応力の制御が比較的容易であり、成膜条件を調整することにより、形成する膜の応力を、所望の大きさおよび方向に制御することができる。例えば、後述の図22を参照して説明するように、プラズマを生成するための高周波電力(上記上部電極42に印加する高周波電力)を制御することによって、プラズマALD法で形成する膜の応力を制御することができる。
そこで、本実施の形態では、図18にも示されるように、保護膜16は、プラズマALD法で形成された絶縁膜16aと、絶縁膜16a上にプラズマCVD法で形成された絶縁膜16bと、絶縁膜16b上にプラズマALD法で形成された絶縁膜16cとの積層構造を有している。すなわち、保護膜16は、プラズマCVD法で形成された絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成された絶縁膜16cとプラズマALD法で形成された絶縁膜16aとで挟んだ構造を有している。これにより、プラズマCVD法で形成された絶縁膜16bの応力を、プラズマALD法で形成された絶縁膜16cとプラズマALD法で形成された絶縁膜16aとで緩和(相殺)することができるため、保護膜16の応力に起因して保護膜16の折り曲げ耐性が低くなるのを抑制または防止でき、折り曲げに伴い保護膜16にクラックが生じるのを抑制または防止することができる。
すなわち、本実施の形態の保護膜16においても、絶縁膜16bは、プラズマCVD法を用いて形成していることを反映して、応力が大きくなりやすく、特に、絶縁膜16bが、プラズマCVD法で形成した窒化シリコン膜である場合には、絶縁膜16bは、大きな圧縮応力を有する膜となってしまう。しかしながら、形成する膜の応力の制御が比較的容易なプラズマALD法を用いて、絶縁膜16a,16cを形成し、これら絶縁膜16a,16cで絶縁膜16bを挟んだことで、プラズマCVD法で形成された絶縁膜16bの応力を、プラズマALD法で形成された絶縁膜16cとプラズマALD法で形成された絶縁膜16aとで緩和(相殺)することができる。
つまり、絶縁膜16a,16cの成膜法として膜応力の制御が容易なプラズマALD法を採用したことで、プラズマCVD法で形成する絶縁膜16bの応力を絶縁膜16a,16cの応力で緩和(相殺)できるように、絶縁膜16aを形成する際に、その絶縁膜16aの応力を制御し、また、絶縁膜16cを形成する際に、その絶縁膜16cの応力を制御することができる。
具体的には、ステップS6bで形成される絶縁膜16bの応力が圧縮応力である場合には、ステップS6aでは、引張応力を有する絶縁膜16aをプラズマALD法で形成し、ステップS6cでは、引張応力を有する絶縁膜16cをプラズマALD法で形成する。これにより、形成された保護膜16において、絶縁膜16bの応力の方向(ここでは圧縮応力)と、絶縁膜16bを挟む絶縁膜16a,16cの応力の方向(ここでは引張応力)とが、互いに逆方向になるため、絶縁膜16bの応力(ここでは圧縮応力)を、絶縁膜16cおよび絶縁膜16aの応力(ここでは引張応力)で緩和(相殺)することができる。
一方、ステップS6bで形成される絶縁膜16bの応力が引張応力である場合には、ステップS6aでは、圧縮応力を有する絶縁膜16aをプラズマALD法で形成し、ステップS6cでは、圧縮応力を有する絶縁膜16cをプラズマALD法で形成する。これにより、形成された保護膜16において、絶縁膜16bの応力の方向(ここでは引張応力)と、絶縁膜16bを挟む絶縁膜16a,16cの応力の方向(ここでは圧縮応力)とが、互いに逆方向になるため、絶縁膜16bの応力(ここでは引張応力)を、絶縁膜16cおよび絶縁膜16aの応力(ここでは圧縮応力)で緩和(相殺)することができる。
上述のように、有機EL素子に悪影響を及ぼさないような温度(好ましくは100℃以下)でプラズマCVD法を用いて形成した窒化シリコン膜は、かなり大きな圧縮応力を有する膜となってしまう。このため、プラズマCVD法で形成する絶縁膜16bとして、窒化シリコン膜を採用する場合は、絶縁膜16bは、かなり大きな圧縮応力を有する膜となる。この場合は、プラズマALD法で形成する絶縁膜16a,16cを、引張応力を有する膜とすればよい。これにより、絶縁膜16bの応力(ここでは圧縮応力)を、絶縁膜16cと絶縁膜16aとの応力(ここでは引張応力)で緩和(相殺)することができる。
このように、本実施の形態では、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16cで挟んだ構造を採用したことで、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの応力を、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16cの応力によって緩和(相殺)することが可能になる。具体的には、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cのそれぞれが、絶縁膜16bの応力の方向とは逆方向の応力を有するように、ステップS6a,S6cで絶縁膜16a,16cを形成する。これにより、形成された保護膜16において、絶縁膜16bを挟む絶縁膜16a,16cの応力が、絶縁膜16bの応力と逆方向となるため、絶縁膜16bの応力を、絶縁膜16cおよび絶縁膜16aの応力により緩和(相殺)することができる。
図20の第2検討例の保護膜216は、プラズマCVD法で形成された絶縁膜216bと絶縁膜216b上にプラズマALD法で形成された絶縁膜216cとからなる積層構造を有しているが、プラズマCVD法で形成された絶縁膜216bの下には、プラズマALD法で形成された絶縁膜(本実施の形態の絶縁膜16aに相当する膜)は形成されていない。また、図21の第3検討例の保護膜316は、プラズマALD法で形成された絶縁膜316aと絶縁膜316a上にプラズマCVD法で形成された絶縁膜316bとからなる積層構造を有しているが、プラズマCVD法で形成された絶縁膜316bの上には、プラズマALD法で形成された絶縁膜(本実施の形態の絶縁膜16cに相当する膜)は形成されていない。このため、図20の第2検討例の保護膜216と図21の第3検討例の保護膜316とにおいては、保護膜(216,316)は、プラズマCVD法で形成した絶縁膜をプラズマALD法で形成した絶縁膜で挟んだ構造とはなっていない。このため、図20の第2検討例の保護膜216や図21の第3検討例の保護膜316では、プラズマCVD法で形成された絶縁膜(216b,316b)の応力をプラズマALD法で形成された絶縁膜(216c,316a)の応力によって十分に緩和(相殺)することは難しい。
すなわち、図20の第2検討例の保護膜216において、プラズマCVD法で形成された絶縁膜216bが圧縮応力を有する膜であり、絶縁膜216b上にプラズマALD法で形成された絶縁膜216cが引張応力を有する膜であると仮定する。この場合、絶縁膜216bにおける上層部分の応力(圧縮応力)は、絶縁膜216b上の絶縁膜216cの応力(引張応力)によって緩和(相殺)できるが、絶縁膜216bにおける下層部分の応力(圧縮応力)は、絶縁膜216b上の絶縁膜216cの応力(引張応力)によって緩和(相殺)することは難しい。このため、図20の第2検討例の保護膜216では、プラズマCVD法で形成された絶縁膜216b上にプラズマALD法で形成された絶縁膜216cを配置したとしても、保護膜216の応力に起因して保護膜216の折り曲げ耐性が低くなるのを抑制する効果は限定的であり、折り曲げに伴い保護膜216にクラックが生じる懸念がある。
また、図21の第3検討例の保護膜316において、プラズマCVD法で形成された絶縁膜316bが圧縮応力を有する膜であり、絶縁膜316bの下のプラズマALD法で形成された絶縁膜316aが引張応力を有する膜であると仮定する。この場合、絶縁膜316bにおける下層部分の応力(圧縮応力)は、絶縁膜316bの下の絶縁膜316aの応力(引張応力)によって緩和(相殺)できるが、絶縁膜316bにおける上層部分の応力(圧縮応力)は、絶縁膜316bの下の絶縁膜316aの応力(引張応力)によって緩和(相殺)することは難しい。このため、図21の第3検討例の保護膜316では、プラズマCVD法で形成された絶縁膜316bの下にプラズマALD法で形成された絶縁膜316aを配置したとしても、保護膜316の応力に起因して保護膜316の折り曲げ耐性が低くなるのを抑制する効果は限定的であり、折り曲げに伴い保護膜316にクラックが生じる懸念がある。
それに対して、本実施の形態では、保護膜16は、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bをプラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16bで挟んだ構造となっている。ここで、プラズマCVD法で形成された絶縁膜16bが圧縮応力を有する膜であり、プラズマALD法で形成された絶縁膜16a,16cが引張応力を有する膜であると仮定する。この場合、絶縁膜16bにおける下層部分の応力(圧縮応力)は、絶縁膜16bの下の絶縁膜16aの応力(引張応力)によって緩和(相殺)でき、絶縁膜16bにおける上層部分の応力(圧縮応力)は、絶縁膜16b上の絶縁膜16cの応力(引張応力)によって緩和(相殺)できる。このため、絶縁膜16b全体における応力(圧縮応力)を、絶縁膜16aおよび絶縁膜16bの応力によって緩和(相殺)することができる。従って、本実施の形態では、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bをプラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16bで挟むことで、保護膜16の応力に起因して保護膜116の折り曲げ耐性が低くなるのを的確に抑制または防止することができ、折り曲げに伴い保護膜16にクラックが生じるのを的確に抑制または防止することができる。
また、図20の第2検討例の保護膜216の場合や図21の第3検討例の保護膜316の場合、プラズマCVD膜(216b,316b)の上面側と下面側のうち、一方の側にしかプラズマALD膜を形成していないため、プラズマCVD膜(216b,316b)の応力を緩和させる作用を高めるためには、プラズマALD膜(216c,316a)の厚さを厚くする必要がある。しかしながら、プラズマALD膜の厚さを厚くすることは、プラズマALD膜とプラズマCVD膜とを含む保護膜全体の厚さを厚くすることにつながるが、保護膜の厚さを厚くすることは、保護膜の折り曲げ耐性を低下させ、折り曲げに伴う保護膜のクラックが生じやすくすることにつながってしまう。なお、プラズマALD法を用いて形成した膜(絶縁膜)を、プラズマALD膜と称し、また、プラズマCVD法を用いて形成した膜(絶縁膜)を、プラズマCVD膜と称することとする。絶縁膜16a、絶縁膜16c、絶縁膜216cおよび絶縁膜316aは、いずれもプラズマALD膜とみなすことができ、絶縁膜16b、保護膜116、絶縁膜216bおよび絶縁膜316bは、いずれもプラズマCVD膜とみなすことができる。
保護膜における応力の有無にかかわらず、保護膜の厚さを厚くすることは、折り曲げに伴う保護膜のクラックが生じやすくなることにつながる。保護膜の折り曲げ耐性を向上させる上では、保護膜の厚さを薄くすることが有効であり、保護膜の厚さを薄くすれば、折り曲げに伴う保護膜のクラックが生じにくくなる。このため、図20の第2検討例の保護膜216の場合や図21の第3検討例の保護膜316の場合、プラズマCVD法で形成した絶縁膜(216b,316b)の応力を緩和させる作用を高めるためにプラズマALD膜(216c,316a)の厚さを厚くすることは、保護膜の折り曲げ耐性を向上させる観点で、得策ではない。
それに対して、本実施の形態の保護膜16の場合は、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの上面側と下面側の両方にプラズマALD膜(16a,16c)を形成しているため、プラズマALD膜(16a,16c)の厚さを厚くしなくとも、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの応力を緩和させる作用を高めることができる。このため、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16cの厚さを厚くしなくとも、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの応力を緩和させる作用を効率的に得ることができる。すなわち、保護膜16全体の厚さを抑制しながら、保護膜16全体の応力を緩和することができる。このため、本実施の形態の保護膜16の場合は、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの応力を、その絶縁膜16bを挟むプラズマALD膜(16a,16c)の応力によって緩和する点と、その緩和作用をプラズマALD膜(16a,16c)の厚さを厚くしなくとも効率的に得られるという点とで、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させることができる。本実施の形態では、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16cで挟んだ構造を採用したことで、保護膜16全体の応力を制御して保護膜16の折り曲げ耐性を向上させることができ、また、保護膜16全体の厚さを抑制することで保護膜16の折り曲げ耐性を向上させることができる。このため、折り曲げ時に保護膜16にクラックが生じるのを、抑制または防止することができる。従って、保護膜16の信頼性を向上させることができ、ひいては、表示装置の信頼性を向上させることができる。
また、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cは、絶縁膜16bの応力を緩和(相殺)するために設けている。このため、保護膜16全体における応力(全応力)の大きさは、絶縁膜16bにおける応力の大きさよりも小さくなっている。つまり、絶縁膜16a,16cを形成せずに単独の絶縁膜16bによって保護膜を形成した場合よりも、絶縁膜16a,16b,16cの積層膜によって保護膜を形成した場合の方が、保護膜の応力(絶対値)は小さくなっている。このため、絶縁膜16a,16cのそれぞれは、絶縁膜16bの応力の方向とは逆方向の応力を有する必要がある。応力を有する絶縁膜16bを、絶縁膜16bの応力とは逆方向の応力を有する絶縁膜16a,16cで挟むことで、絶縁膜16bの応力を緩和(相殺)し、絶縁膜16a,16cを形成しない場合に比べて、保護膜16の応力の大きさを小さくすることができ、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させることができる。このため、折り曲げ時に保護膜16にクラックが生じるのを、抑制または防止することができる。従って、保護膜16の信頼性を向上させることができ、ひいては、表示装置の信頼性を向上させることができる。
例えば、絶縁膜16a,16cを形成せずに単独の絶縁膜16bによって保護膜を形成した場合は、保護膜全体の応力の大きさ(絶対値)は300〜400MPa程度であったものが、絶縁膜16bを絶縁膜16a,16bで挟んだ構造の保護膜では、全体の応力の大きさ(絶対値)は100MPa以下程度(すなわち−100MPa〜100MPa)とすることができる。
また、本実施の形態の保護膜16においては、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16b上に、その絶縁膜16bに接するように、絶縁膜16cをプラズマALD法で形成している。これにより、絶縁膜16bをプラズマCVD法で形成したことに伴い、絶縁膜16bにピンホールが発生しても、絶縁膜16cをプラズマALD法で形成したことで、そのピンホールを埋めることができるという効果も得られる。このことについて、具体的に説明する。
プラズマCVD法で形成した膜は、成膜時にピンホール(微小な孔)などの欠陥が形成される虞がある。このため、絶縁膜16bをプラズマCVD法で形成したことを反映して、絶縁膜16bの成膜時に、絶縁膜16bにピンホールが発生する虞がある。絶縁膜16bにピンホールが形成されてしまうと、そのピンホールを経由して有機EL素子側に水分が侵入してしまう懸念がある。
それに対して、本実施の形態では、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16b上に、絶縁膜16cをプラズマALD法で形成している。プラズマALD法は、段差や孔に対する被覆性が高い成膜法であるため、プラズマCVD法で絶縁膜16bを形成した際に、その絶縁膜16bにピンホールが形成されたとしても、その絶縁膜16b上にプラズマALD法で絶縁膜16cを形成すれば、その絶縁膜16cで絶縁膜16bのピンホールを埋めることができる。これにより、絶縁膜16bのピンホールを経由して水分が有機EL素子へ伝達してしまうのを防止することができる。このため、保護膜16の水分の伝達を防止(遮蔽)する機能を高めることができ、保護膜16により有機EL素子への水分の伝達を防止する効果を高めることができる。このため、保護膜16の信頼性を向上させることができる。従って、有機EL素子の信頼性を向上させることができ、有機EL素子を用いた表示装置(有機EL表示装置)の信頼性を向上させることができる。
また、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cのそれぞれは、絶縁膜16bの応力の方向とは逆方向の応力を有しているが、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cのそれぞれの応力の大きさ(絶対値)は、絶縁膜16bの応力の大きさ(絶対値)よりも小さいことが好ましい。なぜなら、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cは、絶縁膜16bの応力を緩和(相殺)するために設けているが、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cの応力が大きくなり過ぎると、絶縁膜16aおよび絶縁膜16cの大きな応力が保護膜のクラックに繋がる懸念が生じるからである。このため、絶縁膜16a,16cの応力の大きさは、絶縁膜16bの応力の大きさよりも小さいことが好ましく、これにより、絶縁膜16a,16cによって絶縁膜16bの応力を緩和(相殺)して保護膜16の折り曲げ耐性を向上できるとともに、絶縁膜16a,16cの応力が保護膜16の折り曲げ耐性を低下させるリスクを抑制または回避できる。従って、保護膜16全体の応力を的確に制御して、保護膜16全体の折り曲げ耐性を的確に向上させることができる。
また、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、応力の方向が同じであるが、絶縁膜16aの応力の大きさ(絶対値)と絶縁膜16cの応力の大きさ(絶対値)とが同程度であれば、より好ましい。そうすることで、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16aにより緩和(相殺)する作用と、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16cにより緩和(相殺)する作用とを、同程度にすることができるため、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。
また、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、同じ材料により形成されていれば、より好ましい。ステップS6aとステップS6cとで、第1ステップで使用される原料ガスの種類を共通(同じ)にし、かつ、ステップS6aとステップS6cとで、第3ステップで使用される反応ガスの種類を共通(同じ)にすれば、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、構成元素が互いに同じになるため、同じ材料により形成されることになる。
絶縁膜16aと絶縁膜16cとが同じ材料により形成されていれば、絶縁膜16aの応力の大きさと絶縁膜16cの応力の大きさとを同程度にしやすくなる。このため、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16aにより緩和(相殺)する作用と、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16cにより緩和(相殺)する作用とを、同程度にしやすくなるため、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。
また、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、同じ成膜条件で形成されていれば、より好ましい。成膜条件には、例えば、第1ステップで使用される原料ガスの種類と流量、第3ステップで使用される反応ガスの種類と流量、第3ステップの高周波電力の大きさと周波数、基板温度(成膜温度)などがある。絶縁膜16aと絶縁膜16cとを同じ成膜条件で形成すれば、絶縁膜16aと絶縁膜16cとについて、応力の方向が同じで、かつ、応力の大きさ(絶対値)を同程度とすることができる。これにより、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16aにより緩和(相殺)する作用と、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16cにより緩和(相殺)する作用とを、同程度にすることができるため、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。
本実施の形態の他の特徴について、更に説明する。
本実施の形態では、保護膜16を、絶縁膜16aと絶縁膜16bと絶縁膜16cとの積層膜とするとともに、各絶縁膜16a,16b,16cの厚さも工夫している。以下、具体的に説明する。
保護膜における応力の有無にかかわらず、保護膜の厚さを厚くすることは、折り曲げに伴う保護膜のクラックが生じやすくなることにつながる。保護膜の折り曲げ耐性を向上させる上では、保護膜の厚さを薄くすることが有効であり、保護膜の厚さを薄くすれば、折り曲げに伴う保護膜のクラックが生じにくくなる。
このため、本実施の形態においても、保護膜16の厚さを抑制することが望ましいが、保護膜16の厚さを抑制しても、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を確保できるようにする必要がある。
そこで、本実施の形態では、保護膜16を、絶縁膜16a,16b,16cの積層膜により形成するとともに、絶縁膜16bの厚さ(膜厚)T2を、絶縁膜16aの厚さ(膜厚)T1と絶縁膜16cの厚さ(膜厚)T3との合計よりも大きくすることが好ましい(すなわちT2>T1+T3)。なお、絶縁膜16aの厚さT1は、上記図3、図10および図18に示され、絶縁膜16bの厚さT2は、上記図3、図11および図18に示され、絶縁膜16cの厚さT3は、上記図3、図12および図18に示され、保護膜16の厚さ(膜厚)T4は、上記図3、図12および図18に示されている。これにより、保護膜16の厚さを抑制しても、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に確保することができる。その理由について、以下に説明する。
すなわち、プラズマALD法により形成した絶縁膜16a,16cよりも、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの方が、水分に対するバリア性が高く、単位厚さ当たりの水分の透過率は低い。逆に言えば、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bよりも、プラズマALD法により形成した絶縁膜16a,16cの方が、水分に対するバリア性が低く、単位厚さ当たりの水分の透過率は高い。このため、保護膜16の厚さT4のうち、絶縁膜16a,16cに配分する厚さを大きくするよりも、絶縁膜16bに配分する厚さを大きくした方が、保護膜16の水分に対するバリア性を高める上では有利である。
そこで、本実施の形態では、水分に対するバリア性が低い絶縁膜16a,16cの合計の厚さ(T1+T3)よりも、水分に対するバリア性が高い絶縁膜16bの厚さ(T2)を大きくしている(すなわちT2>T1+T3)。これにより、保護膜16の厚さT4のうち、水分に対するバリア性が低い絶縁膜16a,16cに配分された厚さよりも、水分に対するバリア性が高い絶縁膜16bに配分された厚さを相対的に大きくすることができるため、保護膜16の水分に対するバリア性を効率的に高めることができる。
すなわち、絶縁膜16a,16b,16cのうち、単位厚さ当たりの水分の透過率が低い絶縁膜16bを厚くしたことにより、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を高めることができ、絶縁膜16bよりも、単位厚さ当たりの水分の透過率が高い絶縁膜16a,16cについては、厚さを薄くしたことにより、保護膜16全体の厚さを抑制することができる。これにより、保護膜16の厚さを抑制しながら、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に得ることができる。このため、保護膜16の厚さを抑制することによる保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を得ながら、保護膜16の厚さを抑制しても保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に確保することができる。
なお、絶縁膜16bの厚さT2を、絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16cの厚さT3との合計よりも大きくする(すなわちT2>T1+T3とする)ことは、保護膜16の厚さT4のうちの半分(50%)よりも多くを、絶縁膜16bの厚さT2に配分する(すなわちT2>T4×1/2とする)ことに対応している。すなわち、絶縁膜16bの厚さT2を、絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16cの厚さT3との合計よりも大きくすることは、絶縁膜16bの厚さT2を、保護膜16の厚さT4の半分(50%)よりも大きくすることに対応している。これは、保護膜16は、絶縁膜16a,16b,16cの積層膜からなるため、保護膜16の厚さT4は、絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16bの厚さT2と絶縁膜16cの厚さT3との合計と実質的に同じであり(すなわちT4=T1+T2+T3)、それゆえ、T2>T1+T3の関係とT2>T4×1/2の関係とは、実質的に等価だからである。
本実施の形態では、保護膜16の厚さT4の半分(50%)よりも多くを、絶縁膜16bの厚さT2に配分し、保護膜16を主として、水分に対するバリア性が高い絶縁膜16bで構成することにより、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に得ることができる。
また、保護膜16を構成する絶縁膜16a,16b,16cのうち、水分の侵入を防止する作用を主として担うのは絶縁膜16bであるため、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を高めるためには、絶縁膜16bの厚さT2を、ある程度厚くすることが有効である。この観点で、ステップS16bで形成する絶縁膜16bの厚さT2は、20nmよりも大きいことが好ましい(すなわちT2>20nm)。これにより、水分に対するバリア性が高い絶縁膜16bの厚さT2を確保して、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を的確に得ることができるようになる。
本実施の形態では、絶縁膜16bに比べて絶縁膜16a,16cの厚さを薄くしているが、絶縁膜16bの上面側とおよび下面側の一方だけにプラズマALD膜を配置したのではなく、絶縁膜16bの上面側と下面側の両方にプラズマALD膜を配置しており、絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16aとプラズマALD法で形成した絶縁膜16cとで挟んだ構造を採用している。このため、絶縁膜16a,16cの厚さを厚くしなくとも、絶縁膜16bの応力を緩和させる作用を効率的に得ることができる。このため、本実施の形態では、絶縁膜16bの厚さT2よりも絶縁膜16a,16cの合計の厚さを小さく(すなわちT2>T1+T3)しても、絶縁膜16a,16cにより絶縁膜16bの応力を緩和する作用を効率的に得ることができる。従って、本実施の形態では、保護膜16の応力を制御することにより保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果と、保護膜16の厚さを抑制することにより保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果とを得ながら、保護膜16の厚さを抑制しても保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に確保することができる。
また、上述したように、絶縁膜16cは、絶縁膜16bに形成されたピンホールを埋める作用も有している。しかしながら、絶縁膜16cの厚さT3が薄すぎると、絶縁膜16bに形成されたピンホールを絶縁膜16cで十分に埋められなくなる虞がある。このため、ステップS6cで形成する絶縁膜16cの厚さT3は、10nm以上(T3≧10nm)が好ましく、15nm以上(T3≧15nm)であればより好ましい。そうすることにより、ステップS6bで絶縁膜16bをプラズマCVD法で形成した際に絶縁膜16bにピンホールが発生しても、ステップS6cで絶縁膜16cをプラズマALD法で形成した際に、絶縁膜16bのピンホールを絶縁膜16cで的確に埋め込むことができるようになる。これにより、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を、より的確に得ることができる。
また、絶縁膜16aの厚さT1は、絶縁膜16cの厚さT3と同じである(すなわちT1=T3)ことが好ましい。その理由は次のようなものである。
すなわち、本実施の形態では、絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16aとプラズマALD法で形成した絶縁膜16cとで挟んだ構造を採用しており、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、いずれも、絶縁膜16bの応力を緩和(相殺)する作用を有している。絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16cの厚さT3とが互いに同じであれば、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16aにより緩和(相殺)する作用と、絶縁膜16bの応力を絶縁膜16cにより緩和(相殺)する作用とが、ほぼ同じになるため、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。このため、絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16cの厚さT3とが同じ(すなわちT1=T3)であれば、より好ましい。従って、絶縁膜16cの厚さT3は10nm以上(T3≧10nm)が好ましいことを反映して、絶縁膜16aの厚さT1も、10nm以上(T3≧10nm)が好ましい。
また、本実施の形態では、絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16aおよび絶縁膜16cで挟んだ構造を採用することで、保護膜の折り曲げ耐性を向上させているため、保護膜16を厚くしても、折り曲げ時に保護膜16にクラックが生じにくくなっている。しかしながら、保護膜の厚さを厚くすることは、折り曲げ時に保護膜にクラックが生じるリスクを高めるように作用する。このため、保護膜16の厚さT4は、200nm以下(すなわちT4≦200nm)であれば、より好ましい。これにより、フレキシブル基板(表示装置)を小さな折り曲げ半径で折り曲げたときでも、保護膜16にクラックが発生するのを、より的確に防止することができる。なお、保護膜16の厚さT4が200nm以下であることは、絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16bの厚さT2と絶縁膜16cの厚さT3の合計が200nm以下(すなわちT1+T2+T3≦200nm)であることに対応している。
また、保護膜16を構成する絶縁膜16a,16b,16cのうち、水分の侵入を防止する作用を主として担うのは絶縁膜16bであるため、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を高めるためには、絶縁膜16bの密度を高くすることが有効である。絶縁膜16bの密度を高くすれば、絶縁膜16bの水分に対するバリア性を、より高めることができる。このため、ステップS6bでプラズマCVD法を用いて絶縁膜16bを形成する際には、ICP−CVD法を用いれば、より好ましい。ICP−CVD法は、CCP(Conductively Coupled Plasma)−CVD法(容量結合型プラズマCVD法)などに比べて、プラズマ密度(プラズマ電子密度)を高くしやすく、成膜温度を抑えながら形成する膜の密度を高めやすい。絶縁膜16bの形成工程にICP−CVD法を用いることにより、成膜温度を抑えながら、絶縁膜16bの密度を高めることができ、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を更に高めることができる。従って、保護膜16の厚さを抑制しながら、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を更に高めることができる。
<絶縁膜16aと絶縁膜16cの形成工程について>
上述のように、絶縁膜16a,16b,16cの積層膜からなる保護膜16において、絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、絶縁膜16bの応力とは逆方向の応力を有する膜である。絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、いずれもプラズマALD法を用いて形成するが、プラズマALD法で絶縁膜16aや絶縁膜16cの応力を制御する手法について、以下に説明する。
ALD法(プラズマALD法)は、上記「成膜装置について」の欄で説明したように、第1ステップ(原料ガス供給ステップ)と第2ステップ(パージステップ)と第3ステップ(反応ガス供給ステップ)と第4ステップ(パージステップ)とを1サイクルとして、これを複数サイクル繰り返すことで、処理対象物27の表面上に、所望の膜を形成する手法である。ALD法としてプラズマALD法を用いる場合は、第3ステップにおいて、反応ガスはプラズマ化される。絶縁膜16aと絶縁膜16cとは、いずれも、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを、複数サイクル繰り返すことにより、形成される。但し、ステップS6aの絶縁膜16a形成工程(プラズマALD工程)とステップS6cの絶縁膜16c形成工程(プラズマALD工程)との間には、ステップS6bの絶縁膜16b形成工程(プラズマCVD工程)が行われる。上述したように、第1ステップは、チャンバ(成膜容器)内に原料ガスを供給する工程であり、第2ステップは、チャンバ内にパージガスを供給する工程であり、第3ステップは、チャンバ内に反応ガスを供給する工程であり、第4ステップは、チャンバ内にパージガスを供給する工程である。このチャンバは、ステップS6aにおいては上記チャンバ24に対応し、ステップS6cにおいては上記チャンバ26に対応している。
本実施の形態では、プラズマALD装置(プラズマALD法)を用いて絶縁膜16aと絶縁膜16cとを形成しており、ステップS6aおよびステップS6cのそれぞれにおいて、第3ステップ(反応ガス供給ステップ)では、高周波電力により反応ガスがプラズマ化される。各絶縁膜16a,16cの応力を制御する手法は、第3ステップの高周波電力の大きさを制御することによって、成膜される絶縁膜の応力を制御する手法であり、これについて、以下に具体的に説明する。
プラズマALD装置を用いた成膜工程では、形成した膜の密度は、第3ステップ(反応ガス供給ステップ)において、反応ガスをプラズマ化するための高周波電力(ここでは上部電極42に印加される高周波電力)の大きさによって、制御することができる。具体的には、第3ステップの高周波電力を大きくすると、形成される膜の密度が高くなり、第3ステップの高周波電力を小さくすると、形成される膜の密度が低くなる傾向にある。なお、第3ステップの高周波電力をある程度以上大きくすると、形成される膜は、欠陥(空孔)が少なく、理想的な結晶構造の膜(層)に近くなるため、形成される膜の密度は、ほぼ一定になる。なお、第3ステップにおける、反応ガスをプラズマ化するための高周波電力(ここでは上部電極42に印加される高周波電力)を、「第3ステップにおける高周波電力」または「第3ステップの高周波電力」と称することとする。
すなわち、第3ステップでは、チャンバ(24,26)内に導入した反応ガスを、処理対象物27の表面に吸着していた原料ガス分子と反応させるが、反応ガスの反応性(反応活性)を高めるために、反応ガスをプラズマ化して、処理対象物27の表面に吸着していた原料ガス分子と反応させ、それによって、処理対象物27の表面に反応層である原子層を形成する。第3ステップの高周波電力を大きくした場合は、生成されるプラズマ(活性種)と処理対象物27の表面に吸着していた原料ガス分子との反応性が高くなる。このため、第3ステップの高周波電力を大きくした条件で、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを複数サイクル繰り返すと、生成された膜は、欠陥(空孔)が少なく、理想的な結晶構造の膜(層)に近い高密度の膜になる。一方、第3ステップの高周波電力を小さくした場合は、生成されるプラズマ(活性種)と処理対象物27の表面に吸着していた原料ガス分子との反応性が低くなる。このため、第3ステップの高周波電力を小さくした条件で、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップおよび第4ステップを複数サイクル繰り返すと、生成された膜は、欠陥(空孔)が多く、理想的な結晶構造の膜(層)に比べて密度が低い膜になる。
このため、プラズマALD法では、第3ステップの高周波電力を大きくすれば、高密度の膜を形成することができ、第3ステップの高周波電力を小さくすれば、低密度の膜を形成することができるため、第3ステップの高周波電力を制御することにより、形成される膜の密度を制御することができる。
プラズマALD法で形成された膜は、その膜の密度(緻密性)とその膜の応力とが関連している。図22は、プラズマALD法で形成された膜(ここでは酸化アルミニウム膜)の密度と応力との相関を調べた結果を示すグラフである。図22のグラフの横軸は、プラズマALD法で形成された酸化アルミニウム膜の密度(膜密度)に対応し、図22のグラフの縦軸は、プラズマALD法で形成された酸化アルミニウム膜の応力(膜応力)に対応している。なお、図22の縦軸において、引張応力をプラス、圧縮応力をマイナスで表記している。このため、例えば、300MPaと−300MPaとは、応力の大きさは同じであるが、応力の方向が互いに反対方向であり、300MPaは引張応力であり、−300MPaは圧縮応力である。
なお、図22のグラフには、第3ステップの高周波電力を変えてプラズマALD法で形成した4つの酸化アルミニウム膜について、密度と応力との相関を調べてプロットしてある。すなわち、密度が2.85g/cm3の酸化アルミニウム膜と、密度が2.94g/cm3の酸化アルミニウム膜と、密度が3.02g/cm3の酸化アルミニウム膜と、密度が3.17g/cm3の酸化アルミニウム膜とを、それぞれプラズマALD法で形成し、それら酸化アルミニウム膜の密度と応力との相関を図22のグラフにプロットしてある。
上述のように、プラズマALD法では、第3ステップの高周波電力を制御することにより、形成される膜の密度を制御することができる。このため、図22のグラフにプロットされた4つの酸化アルミニウム膜についても、第3ステップの高周波電力を制御することにより、膜の密度を制御しており、高密度の酸化アルミニウム膜は、第3ステップの高周波電力を大きくした条件で形成され、低密度の酸化アルミニウム膜は、第3ステップの高周波電力を小さくた条件で形成されている。このため、図22のグラフにプロットされた4つの酸化アルミニウム膜について、第3ステップの高周波電力を比べると、密度が3.17g/cm3の酸化アルミニウム膜、密度が3.02g/cm3の酸化アルミニウム膜、密度が2.94g/cm3の酸化アルミニウム膜、密度が2.85g/cm3の酸化アルミニウム膜の順で、第3ステップの高周波電力が小さくなっている。
プラズマALD法では、第3ステップの高周波電力を制御することにより、形成される膜の密度を制御することができ、それに伴い、形成される膜の応力を制御することができる。
例えば、酸化アルミニウム膜をプラズマALD法で形成する場合は、図22のグラフにも示されるように、第3ステップの高周波電力を大きくすれば、高密度の酸化アルミニウム膜を形成することができ、それに伴い、形成された酸化アルミニウム膜は圧縮応力を有する膜となる。そして、第3ステップの高周波電力を小さくすれば、低密度の酸化アルミニウム膜を形成することができ、それに伴い、形成された酸化アルミニウム膜は引張応力を有する膜となる。
すなわち、第3ステップの高周波電力を十分に大きくすると、形成される酸化アルミニウム膜は、緻密で高密度の膜となり、それに伴い圧縮応力を有する膜となる。そして、第3ステップの高周波電力を小さくしていくと、形成される酸化アルミニウム膜の密度は徐々に低くなり、それに伴い、形成される酸化アルミニウム膜の応力は、圧縮応力の大きさが徐々に小さくなっていき、圧縮応力から引張応力に遷移してからは、引張応力の大きさが徐々に大きくなっていく。
このため、ステップS6aにおいて、プラズマALD法を用いて絶縁膜16aを形成し、第3ステップの高周波電力を制御することにより、形成される絶縁膜16aの応力の方向と大きさとを所望の方向および大きさに、容易かつ的確に制御することができる。同様に、ステップS6cにおいて、プラズマALD法を用いて絶縁膜16cを形成し、第3ステップの高周波電力を制御することにより、形成される絶縁膜16cの応力の方向と大きさとを所望の方向および大きさに、容易かつ的確に制御することができる。従って、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bの応力を緩和できるような方向および大きさを有する絶縁膜16a,16cを、プラズマALD法を用いて容易かつ的確に形成することができる。
本実施の形態では、絶縁膜16a,16cの成膜法として、プラズマALD法を用いることで、薄くても強い応力を有する膜を絶縁膜16a,16cとして形成することが可能になる。このため、絶縁膜16bの応力が大きくなったとしても、その絶縁膜16bの応力を、絶縁膜16a,16bの応力によって十分に緩和して保護膜16の折り曲げ耐性を向上させることができる。例えば、−300〜−400MPa程度の圧縮応力を有する絶縁膜16bを、それぞれ100〜250MP程度の引張応力を有する絶縁膜16a,16bで挟むことができる。
また、絶縁膜16aと絶縁膜16cとを同じ材料により形成するとともに、ステップS6aとステップS6cとで、第3ステップの高周波電力の大きさを同じにすることで、絶縁膜16aと絶縁膜16cとについて、応力の方向を同じにし、かつ、応力の大きさ(絶対値)を同程度にすることができる。これにより、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。
図23は、折曲げ試験後の保護膜のクラック数を調べた結果を示す表である。図23には、フレキシブル基板上に保護膜を形成したものを用意してから、そのフレキシブル基板を小さな折り曲げ半径で、多数回繰り返し折り曲げた後に、保護膜を観察して保護膜における単位面積当たり(1cm2当たり)のクラック数を調べた結果を載せてある。
図23に示される「単層構造保護膜」は、プラズマCVD法で形成された窒化シリコン膜の単層により形成された保護膜であり、上記図19の第1検討例の保護膜116の構造に相当している。また、図23に示される「三層構造保護膜」は、プラズマCVD法で形成された窒化シリコン膜を、プラズマALD法で形成された2つの酸化アルミニウム膜で挟んだ構造の保護膜であり、上記図18の本実施の形態の保護膜16の構造に相当している。
図23における「単層構造保護膜」の場合は、保護膜には−250MPa程度の圧縮応力が発生していた。一方、図23における「三層構造保護膜」の場合は、−250MPa程度の圧縮応力を有する窒化シリコン膜(プラズマCVD膜)を、引張応力を有する酸化アルミニウム膜(プラズマALD膜)で挟み、窒化シリコン膜の圧縮応力をその窒化シリコン膜を挟む酸化アルミニウム膜の引張応力で緩和(相殺)することで、保護膜全体では、−50MPa程度の圧縮応力が発生していた。そして、折曲げ試験後の保護膜を観察したところ、「単層構造保護膜」の場合は、保護膜において1cm2当たり1×105本程度のクラックが観察されたが、「三層構造保護膜」の場合は、保護膜において1cm2当たり2×103本程度のクラックが観察された。「単層構造保護膜」の場合よりも、「三層構造保護膜」の場合の方が、折り曲げに伴うクラックが発生しにくく、保護膜の折り曲げ耐性が高いことが分かる。
なお、図23では、「単層構造保護膜」と「三層構造保護膜」とで、折り曲げに伴うクラックの発生数を比較しやすくするために、保護膜の厚さをわざと500nmと厚くし、折り曲げ試験で保護膜にクラックが発生しやすくしている。このため、「三層構造保護膜」の場合、500nmの厚さの保護膜には、折曲げ試験後に1cm2当たり2×103本のクラックが観察されたが、保護膜の厚さを100nmにすると、「三層構造保護膜」の場合は、折曲げ試験後にクラックはほとんど観察されなかった。
このため、「三層構造保護膜」を採用することで、保護膜の折り曲げ耐性が向上し、保護膜の厚さを薄くすることで、保護膜の折り曲げ耐性が更に向上することが分かる。
本実施の形態では、「三層構造保護膜」のように、保護膜16が、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16bを、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16cで挟んだ構造を有し、絶縁膜16a,16cのそれぞれが、絶縁膜16bの応力の方向とは逆方向の応力を有することで、保護膜の折り曲げ耐性を向上させることができる。そして、保護膜16の厚さを薄くすれば、保護膜16の折り曲げ耐性を更に向上させることができるが、上述のように保護膜16を構成する絶縁膜16a,16b,16cのそれぞれの厚さを工夫することにより、保護膜16の厚さを薄くしても、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に確保することができるようにしている。これにより、保護膜16の総合的な信頼性を向上させることができ、ひいては、表示装置の信頼性を向上させることができる。
<変形例>
図24は、変形例の保護膜16の断面構造を示す断面図(説明図)であり、上記図18に相当する断面が示されている。
図24の場合は、保護膜16は、プラズマALD法で形成された絶縁膜16aと、絶縁膜16a上にプラズマCVD法で形成された絶縁膜16b1と、絶縁膜16b1上にプラズマALD法で形成された絶縁膜16dと、絶縁膜16d上にプラズマCVD法で形成された絶縁膜16b2と、絶縁膜16b2上にプラズマALD法で形成された絶縁膜16cと、からなる積層構造を有している。保護膜16において、絶縁膜16aが最下層であり、絶縁膜16cが最上層であり、絶縁膜16b1は絶縁膜16aに接し、絶縁膜16dは絶縁膜16b1に接し、絶縁膜16b2は絶縁膜16dに接し、絶縁膜16cは絶縁膜16b2に接している。絶縁膜16a,16c,16dは、それぞれプラズマALD膜とみなすことができ、絶縁膜16b1,16b2は、それぞれプラズマCVD膜とみなすことができる。
この図24の保護膜16は、上記図18の保護膜16において、プラズマCVD膜(16b)の厚みの途中に、プラズマALD膜(16d)を挿入した場合に対応している。すなわち、図24の保護膜16は、図18の保護膜16において、絶縁膜16bを、絶縁膜16b1と絶縁膜16b1上の絶縁膜16dと絶縁膜16d上の絶縁膜16b2との積層膜に置き換えた場合に対応している。
図24の保護膜16は、絶縁膜16aをプラズマALD法で形成する工程と、絶縁膜16a上に絶縁膜16b1をプラズマCVD法で形成する工程と、絶縁膜16b1上に絶縁膜16dをプラズマALD法で形成する工程と、絶縁膜16d上に絶縁膜16b2をプラズマCVD法で形成する工程と、絶縁膜16b2上に絶縁膜16cをプラズマALD法で形成する工程と、により形成される。
絶縁膜16dとしては、絶縁膜16a,16cと同様に、アルミニウム(Al)を含有する絶縁膜を用いることができ、例えば、酸化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜または窒化アルミニウム膜を好適に用いることができるが、その中でも、酸化アルミニウム膜が特に好ましい。絶縁膜16b1,16b2としては、上記絶縁膜16bと同様に、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜または酸窒化シリコン膜を好適に用いることができるが、窒化シリコン膜が最も好ましい。絶縁膜16b1と絶縁膜16b2とは、互いに同じ材料により形成されていることが好ましく、また、絶縁膜16aと絶縁膜16cと絶縁膜16dとは、互いに同じ材料により形成されていることが好ましい。
図24の保護膜16においては、絶縁膜16b1と絶縁膜16b2とは、いずれもプラズマCVD法により形成されており、応力の方向が同じである。すなわち、絶縁膜16b1が圧縮応力膜の場合は、絶縁膜16b2も圧縮応力膜であり、絶縁膜16b1が引張応力膜の場合は、絶縁膜16b2も引張応力膜である。一方、絶縁膜16aと絶縁膜16cと絶縁膜16dとは、いずれもプラズマALD法により形成されており、応力の方向が絶縁膜16b1,16b2の応力の方向とは逆である。すなわち、絶縁膜16b1,16b2が圧縮応力膜の場合は、絶縁膜16a,16c,16dのそれぞれは引張応力膜であり、絶縁膜16b1,16b2が引張応力膜の場合は、絶縁膜16a,16c,16dのそれぞれは圧縮応力膜である。絶縁膜16a,16c,16dは、プラズマALD法により形成されているため、応力の制御が容易であり、絶縁膜16b1,16b2の応力とは逆方向の応力を有する膜として、形成することができる。
図24の保護膜16の場合は、保護膜16として、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16b1が、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16dで挟まれ、かつ、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16b2が、プラズマALD法で形成した絶縁膜16d,16cで挟まれた構造を有している。そして、絶縁膜16aと絶縁膜16cと絶縁膜16dとのそれぞれは、絶縁膜16b1,16b2の応力の方向とは逆方向の応力を有している。このため、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16b1の応力を、プラズマALD法で形成した絶縁膜16a,16dの応力によって緩和(相殺)し、かつ、プラズマCVD法で形成した絶縁膜16b2の応力を、プラズマALD法で形成した絶縁膜16d,16cの応力によって緩和(相殺)することができる。これにより、保護膜16の応力に起因して保護膜16の折り曲げ耐性が低くなるのを抑制または防止することができ、折り曲げに伴い保護膜16にクラックが生じるのを抑制または防止することができる。
ここで、図24の保護膜16と上記図18の保護膜16とを比較する。上記図18の保護膜16は、図24の保護膜16に比べて、次のような利点を有している。
すなわち、上記図18の保護膜16は、図24の保護膜16に比べて、保護膜を構成する絶縁膜の数(層数)が少ないため、保護膜16を形成するのに要する工程数を低減でき、保護膜16の形成に要する時間の短縮や、スループットの向上を図ることができる。
また、図18の場合と図24の場合とを比べると、保護膜16の厚さが同じであれば、図18の保護膜16におけるプラズマCVD膜(16b)の厚さの方が、図24の保護膜16におけるプラズマCVD膜(16b1,16b2)の合計の厚さよりも、大きくなる。すなわち、保護膜16の厚さに占めるプラズマCVD膜の厚さの割合は、図24の場合よりも図18の場合の方が、大きくしやすい。このため、保護膜16の水分のバリア性をできるだけ高くする、すなわち、保護膜16の水分透過率をできるだけ低くするという観点では、水分のバリア性に優れたプラズマCVD膜の厚さをより厚くできる図18の場合の方が、図24の場合よりも有利である。
一方、図24の保護膜16は、上記図18の保護膜16に比べて、次のような利点を有している。
すなわち、図18の保護膜16よりも図24の保護膜16の方が、個々のプラズマCVD膜の厚さを薄くすることができるため、プラズマCVD膜の応力を、そのプラズマCVD膜を挟むプラズマALD膜の応力によって緩和しやすくなる。
なお、図24の保護膜16の場合、絶縁膜16b1の厚さ(膜厚)T2aと絶縁膜16b2の厚さ(膜厚)T2bとの合計が、絶縁膜16aの厚さ(膜厚)T1と絶縁膜16cの厚さ(膜厚)T3と絶縁膜16dの厚さ(膜厚)T5との合計よりも大きい(すなわちT2a+T2b>T1+T3+T5)ことが好ましい。すなわち、図24の保護膜16の場合も、保護膜16の厚さのうちの半分(50%)よりも多くを、絶縁膜16b1,16b2の合計の厚さに配分することが好ましい。そうする理由は、水分に対するバリア性は、絶縁膜16a,16c,16dよりも絶縁膜16b1,16b2の方が高いからである。図24の場合も、保護膜16の厚さの半分(50%)よりも多くを、絶縁膜16b1,16b2の合計の厚さ(T2a+T2b)に配分し、保護膜16を主として、水分に対するバリア性が高い絶縁膜16b1,16b2で構成することにより、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を効率的に得ることができる。
また、図24の保護膜16の場合、絶縁膜16dの厚さT5は、10nm以上(T5≧10nm)が好ましく、15nm以上(T5≧15nm)であればより好ましい。そうすることにより、絶縁膜16b1をプラズマCVD法で形成した際に絶縁膜16b1にピンホールが発生しても、絶縁膜16dをプラズマALD法で形成した際に、絶縁膜16b1のピンホールを絶縁膜16dで的確に埋め込むことができるようになる。同様に、絶縁膜16cの厚さT3は、10nm以上(T3≧10nm)が好ましく、15nm以上(T3≧15nm)であればより好ましい。そうすることにより、絶縁膜16b2をプラズマCVD法で形成した際に絶縁膜16b2にピンホールが発生しても、絶縁膜16cをプラズマALD法で形成した際に、絶縁膜16b2のピンホールを絶縁膜16cで的確に埋め込むことができるようになる。これにより、保護膜16による水分の侵入を防止する効果を、より的確に得ることができる。
また、図24の保護膜16の場合、絶縁膜16aの厚さT1と絶縁膜16cの厚さT3と絶縁膜16dの厚さT5とは、互いに同じである(すなわちT1=T3=T5)ことが好ましい。また、絶縁膜16b1の厚さT2aと絶縁膜16b2の厚さT2bとは、互いに同じである(すなわちT2a=T2b)ことが好ましい。これにより、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。
また、図24の保護膜16の場合、絶縁膜16aと絶縁膜16cと絶縁膜16dとは、同じ成膜条件で形成されていれば、より好ましい。成膜条件には、例えば、第1ステップで使用される原料ガスの種類と流量、第3ステップで使用される反応ガスの種類と流量、第3ステップの高周波電力の大きさと周波数、基板温度(成膜温度)などがある。また、絶縁膜16b1と絶縁膜16b2とは、同じ条件で形成されていれば、より好ましい。成膜条件には、例えば、プラズマCVD法で使用されるガスの種類と流量、基板温度(成膜温度)などがある。絶縁膜16aと絶縁膜16cと絶縁膜16dとを同じ成膜条件で形成すれば、絶縁膜16aと絶縁膜16cと絶縁膜16dとについて、応力の方向が同じで、かつ、応力の大きさ(絶対値)を同程度とすることができる。また、絶縁膜16b1と絶縁膜16b2とを同じ成膜条件で形成すれば、絶縁膜16b1と絶縁膜16b2とについて、応力の方向が同じで、かつ、応力の大きさ(絶対値)を同程度とすることができる。これにより、保護膜16における応力のバランスが良くなり、保護膜16の折り曲げ耐性を向上させる効果を、より高めることができる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。