実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1にかかる電力変換装置を適用した電力変換システムの構成図である。
図1に示す上記電力変換システム全体は、本実施の形態の電力変換装置100、直流電源1、電流センサ3とで構成される。また、説明の便宜上、図1には負荷4を記載している。電力変換装置100は、直流電力を交流電力に変換するインバータの機能を有し、入力電源である直流電源1から供給される直流電力を交流電力に変換して負荷4に供給する。電流センサ3は電力変換装置100から負荷4に供給される電流の値に基づき電流検出信号Ioutを出力する。本実施の形態では電流センサ3を電力変換装置100とは別に設ける構成としたが、電力変換装置100に内蔵する構成としてもよい。
本実施の形態における電力変換装置100は、電力変換部2と制御部6とで構成されている。
電力変換部2は、P側とN側との2つのスイッチング素子20、21で構成され、それらは直列接続されている。P側スイッチング素子20およびN側スイッチング素子21はそれぞれIGBT(Insulated gate bipolar transistor)201、211およびFWD(Freewheeling Diode)202、212によって構成されている。また、スイッチング回路の両端の端子は外部の直流電源1に接続され、2レベル単相ハーフブリッジ回路が構成されている。なお、P側スイッチング素子20およびN側スイッチング素子21は単にスイッチング素子とも記載する。
本実施の形態において、スイッチング素子としてIGBT201、211を用いているが、MOSFET(Metal−oxide−smiconductor field−effect transistor)など他のスイッチング素子を用いることもできる。また、2レベル単相ハーフブリッジ回路を例に説明するが、本発明の方式はレベル数や相数を問わず適用できる。説明の便宜上、直流電源1は図1に示したXの位置を基準電位とし、−Vdc/2[V]とVdc/2[V]を出力するものとする。
スイッチング素子20、21の切り替えと、付加するデッドタイムについて以下で説明する。本実施の形態の回路は、P側スイッチング素子20とN側スイッチング素子21とを相補的にオンおよびオフ動作させて上記スイッチング回路から負荷4に電力を供給するための出力端子の端子電圧を変化させる。本実施の形態では、後述する制御部6からのスイッチング指令Sw2*に基づいて、オンおよびオフ状態の割合を変えることで、平均的な上記端子電圧を変化させ負荷4へ電力を供給する。
P側およびN側スイッチング素子20、21は高速にオンおよびオフ状態が切り替わるものであるが、実際はP側およびN側スイッチング素子20、21の、オンおよびオフ状態が切り替わるまでにはある程度の時間を要する。そのため、切り替わるまでに要する時間を考慮せずにP側およびN側スイッチング素子20、21の制御をすると、P側スイッチング素子20とN側スイッチング素子21とが共にオンとなる状態が現れる。その結果、電気的に短絡を生じ、回路に過大な電流が流れ回路が破損する。
そこで、スイッチング指令Sw2*には、短絡を防止するためのデッドタイムと呼ばれる保護期間が設けられている。このデッドタイムの間は、相補的なオンおよびオフ状態の入れ替わりのタイミングで、P側およびN側スイッチング素子20、21が共にオフ状態となる。また、スイッチング指令Sw2*のような信号はフォトカプラ等の絶縁素子を介するため伝達遅れが生じる事が多い。さらに、絶縁素子を含む信号伝達経路の回路素子の個体差のため伝達遅れもばらつく場合がある。これらの伝達遅れもP側およびN側スイッチング素子20、21の短絡を招く要因である。このため、スイッチング指令Sw2*には上述の伝達遅れも考慮したデッドタイムが設けられている。
制御部6は、電流センサ3からの電流検出信号Ioutを入力とし、スイッチング指令Sw2*を出力とする。図2は制御部6のハード構成を示した図である。制御部6は、プロセッサ601と記憶装置602で構成され、後述する各部の機能はこれらにより実現可能である。例えば、記憶装置602には、制御用プログラムの他、後述する電圧指令値Vi*、電流指令値I*、デッドタイムの長さ指令Td*などの演算により得られたデータが保存格納されている。また、その処理の過程で一時的に記憶すべき情報等のデータが保存格納されている。
プロセッサ601は、記憶装置602に格納されているプログラムを読み出し実行する。また、本実施の形態の動作を実行する過程で一時的に記憶すべき情報の書き込みや読み出しを行う。
記憶装置602は、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備している。また、不揮発性の補助記憶装置として、フラッシュメモリの代わりにハードディスク等の補助記憶装置を具備していてもよい。
図1のシステム構成図にて制御部6を説明する。制御部6はシーケンス管理部61、電圧指令生成部62、PWM処理部63、デッドタイム付加部(以下Td付加部と記載する)64で構成される。
シーケンス管理部61は電流指令値I*を電圧指令生成部62へ出力する。また、Td付加部64へデッドタイムの長さ指令Td*を出力する。
電圧指令生成部62はシーケンス管理部61からの電流指令値I*と電流センサ3からの電流検出信号Ioutとを用いて電流制御処理を行い、後述するPWM処理部63に電圧指令値Vi*を出力する。電流制御処理は例えば電流指令値I*と電流検出信号Ioutとの偏差が零となるように、電圧指令値Vi*を生成する。
PWM処理部63は電圧指令生成部62からの電圧指令値Vi*に対し、例えば電圧指令値Vi*を直流電源電圧値Vdc/2[V]で除算し変調率指令に変換する。そして、三角波やノコギリ波との大小比較によるPWM処理を実施しスイッチング指令Sw1*を出力する。
Td付加部64はシーケンス管理部61からのデッドタイムの長さ指令Td*に従ってスイッチング指令Sw1*にデッドタイムを付加する。そしてデッドタイムを付加したスイッチング指令Sw2*を電力変換部2へ出力する。
ここでデッドタイムによって生じる誤差について分析する。付加されたデッドタイムの間では、スイッチング素子20、21を構成するIGBT201、211とFWD202、212のうち、IGBT201、211はオフ状態となる。このため、FWD202、212を電力変換部2の出力電流の少なくとも一部が通過する。上記出力電流は、電力変換部2の極性に基づいて、P側のFWD202またはN側のFWD212のどちらを通過するかが決定される。
例えば、電力変換部2の出力電流の極性の方向が図1における上記出力端子から負荷4に向かう方向dと一致する場合を正とする。このとき、出力電流の極性の方向が正の場合は、N側のFWD212を出力電流が通過し、このN側FWD212を通じて電力変換部2の上記出力端子の電圧は−Vdc/2[V]になる。出力電流の極性の方向が負の場合は、P側のFWD202を電流が通過し、このP側のFWD202を通じて電力変換部2の出力電圧はVdc/2[V]となる。
デッドタイムの間の電力変換部2の出力電圧誤差は、スイッチング素子20、21のスイッチング動作の近傍、例えば数[μsec]で、極短時間のパルス状に発生する。上述のようにスイッチング指令Sw2*は、PWM処理部63においてPWM処理を経て得られたスイッチング指令Sw1*にデッドタイムを付加したものである。このため該キャリアを基準として、パルス状の出力電圧誤差を該キャリア1周期区間内での平均値に換算すると(1)式に表すことができる。この(1)式で示した出力電圧誤差を、以下デッドタイム電圧誤差と記載する。
(1)式中のVtdはデッドタイム電圧誤差、fcはキャリア周波数[Hz]、Tdは付加
するデッドタイムの長さ[sec]、Vdcは電力変換部2の入力となる直流リンク電圧、sign(i)は上記出力電流の極性をそれぞれ示している。付加するデッドタイムの長さは矩形波で理想的に付加されることを想定したものである。また、上記出力電流の極性は電力変換部2から負荷4に向かう方向dと一致する場合を正とし、正のとき1、負のとき−1とする。
デッドタイム電圧誤差を補償する方法としては、デッドタイム電圧誤差と逆極性の電圧を電圧指令値に加算することが一般的に実施されている。この電圧の補償制御をデッドタイム補償と言う。
デッドタイム補償は概ね良好に動作するが、次に記載する複数の理由により補償精度が低下することがある。
補償精度が低下する第一の理由は電力変換部2の上記出力端子の端子電圧波形が理想のステップ波形とはならないためである。上述したようにスイッチング素子20、21のオンおよびオフ状態が切り替わるまでにはある程度の時間を要する。(1)式のデッドタイム電圧誤差は上記端子電圧がステップ波形に瞬時に変化する理想波形を想定して求められている。このため、理想波形との差異は結果としてデッドタイム補償の誤差となる。さらに上記端子電圧波形は電力変換部2の上記出力電流に応じて形状が変化する。この端子電圧の波形の変化もデッドタイム補償の誤差をもたらすことになる。
補償精度が低下する第二の理由は制御部6からスイッチング素子20、21へ生成されるスイッチング指令Sw2*の伝達遅れのバラつきによるものである。スイッチング指令Sw2*はデッドタイムの長さが矩形波なることを想定して生成されている。このため、スイッチング指令Sw2*の伝達遅れのバラつきは、想定されたデッドタイムの長さと実際のデッドタイムの長さの差異を生じさせる。よってデッドタイム補償の誤差をもたらすことになる。
補償精度が低下する第三の理由はスイッチング素子20、21の過電圧保護に設置されるスイッチング素子を20、21構成するFWD201、211に並列された図示しないスナバ回路内のコンデンサの充放電によるものである。スナバ回路内のコンデンサの充放電により、デッドタイム中の上記端子電圧波形の形状が変化する。これもデッドタイム補償の誤差となる。電流による充放電動作であるため、負荷4の電流はもとより、実際に付加されるデッドタイムの長さによって上記端子電圧波形の形状の変化が発生する。
補償精度が低下する第四の理由はスナバ回路のコンデンサと同様にスイッチング素子20、21近傍に付随する浮遊容量の充放電が影響をもたらすためである。
上述のように複数の要因で発生するデッドタイム電圧誤差は、(2)式にまとめて係数αとして表現することができる。この(2)式で示すデッドタイム電圧誤差に基づいて、逆極性の電圧値を電圧指令値に加算することで、高精度なデッドタイム補償を実現できる。言い換えると、高精度なデッドタイム補償の実現には、係数αを高い精度で入手する必要がある。そこで本実施の形態では、後述する動作を行うことで高精度な係数αの取得を実現する。
本実施の形態にかかる動作を説明する。図3は本実施の形態にかかる制御部6の実行動作の一例を示すフローチャート図である。本発明ではデッドタイムの長さを複数設定して電力変換制御を実施する。このとき負荷4の電流制御を行い、前記のデッドタイム長さに対応した電圧指令Vi*を記録する。ここで(1)式の逆極性の電圧を電圧指令Vi*に加算する一般的なデッドタイム補償をオフにしていると前記電圧指令Vi*には(2)式で示すデッドタイム電圧誤差を含む結果となる。デッドタイム長さTdとキャリア周波数fcは既知の値であり、直流リンク電圧Vdcは測定にて取得できるとする。この場合、前記(2)式に基づき、各デッドタイムの長さに対応する各電圧指令の傾きを求めることで(2)式の係数αを求めることができる。本実施の形態ではデッドタイムの長さを2種類設定する場合の構成を記載しており、図3のフローチャートはこれに対応する。前記傾きの計算は2種類のデッドタイム長さに対応した2種類の電圧指令の差分に基づいて計算できる。
電流指令ステップS101では、シーケンス管理部61から電圧指令生成部62へ電流指令値I*を出力する。このときの電流指令値I*は任意に設定された値とする。電圧指令生成部62は、電流指令値I*と電流センサ3からの電流検出信号Ioutとに基づいて、上述した電流制御処理を行う。そして、電圧指令値Vi*をPWM処理部63に出力する。さらにPWM処理部63は、電圧指令生成部62からの電圧指令値Vi*に基づき、スイッチング指令Sw1*をTd付加部64へ生成する。
第一のデッドタイムの長さ指令ステップS102では、シーケンス管理部61からTd付加部64へデッドタイムの長さ指令Td*を出力する。本実施の形態においては、デッドタイムの長さ指令Td*のある値としてTd1*を出力する。Td付加部64は、デッドタイム長さの指令Td1*に基づいてスイッチング指令Sw1*にデッドタイムを付加する。そして、デッドタイム付加後のスイッチング指令Sw2*を電力変換部2へ出力する。
ここまでのステップの動作により、電力変換部2ではスイッチング指令Sw2*に基づいてスイッチング素子20、21がオンおよびオフ動作される。電力変換部2は、スイッチング素子20、21のオンおよびオフ動作により、直流電源1から供給された電力を負荷4に出力する。
このときの電力変換部2から負荷4へ供給される電流は、電力変換部2と負荷4とを接続する導線に設置された電流センサ3によって検出される。電流センサ3は、電流検出信号Ioutを電圧指令生成部62へ出力する。
第一の電圧指令取得ステップS103では、電圧指令値Vi*をV1*として記憶装置602に記憶する。電圧指令値V1*は、デッドタイムの長さ指令Td1*に基づいて上述した電流制御処理により新たに出力された電圧指令値である。
電圧指令値V1*は、上述のように電圧指令生成部62にて電流指令値I*と電流検出信号Ioutとに基づいて生成される。このとき、デッドタイム補償は行われていないため、電流制御処理によって補償された結果、負荷4のインピーダンスによる電圧降下分とデッドタイム電圧誤差成分がシーケンス管理部61へ入力される電圧指令値V1*に含まれる。
第二のデッドタイムの長さ指令ステップS104では、シーケンス管理部61からTd付加部64へデッドタイムの長さ指令Td2*を出力する。デッドタイムの長さ指令Td2*はデッドタイムの長さ指令Td1*とは異なる値である。Td付加部64は、デッドタイム長さの指令Td2*に基づいてスイッチング指令Sw1*にデッドタイムを付加する。そして、デッドタイム付加後のスイッチング指令Sw2*を電力変換部2へ出力する。
電力変換部2のスイッチング素子20、21はスイッチング指令Sw2*に基づいてオンおよびオフ動作される。電力変換部2はスイッチング素子20、21のオンおよびオフ動作により直流電源1から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷4に出力する。
このときに電力変換部2から負荷4へ供給される電流が電力変換部2と負荷4とを接続する導線に設置された電流センサ3によって検出される。電流センサ3は、電流検出信号Ioutを電圧指令生成部62へ出力する。
第二の電圧指令取得ステップS105では、新たに取得した電圧指令値Vi*をV2*として記憶装置602に記憶する。電圧指令値V2*は、デッドタイムの長さ指令Td2*に基づいて上述した電流制御処理により新たに出力された電圧指令値である。
電圧指令値V2*は、上述のように電圧指令生成部62にて電流指令値I*と電流検出信号Ioutとに基づいて生成される。このとき、デッドタイム補償は行われていないため、電流制御処理によって補償された結果、負荷4のインピーダンスによる電圧降下分とデッドタイム電圧誤差成分がシーケンス管理部61へ入力される電圧指令値V2*に含まれる。
係数α取得ステップS106では、記憶装置602に記憶された電圧指令値V1*、V2*に基づき、係数αを取得する。この動作は、プロセッサ601により、実行される。
係数αの取得方法について説明する。上述のステップS101からS105の過程において得られる電圧指令値V1*およびV2*は、検出電流信号Ioutと電流指令値I*を用いた電流制御処理により生じる値である。この電圧指令値V1*およびV2*であるが、上述の(2)式に基づいてキャリア周波数fc[Hz]、デッドタイムの長さ指令[sec]、電力変換部2への入力となる直流リンク電圧Vdc、出力電流の極性sign(i)を用いて表すことができる。
(3)式は、デッドタイムの長さ指令をTd1*としたときに得られた電圧指令値V1*を(2)式に基づき表した式である。また、(4)式は、デッドタイムの長さ指令をTd2*としたときに得られた電圧指令値V2*を(2)式に基づいて表した式である。それぞれのZ・iは負荷4のインピーダンスによる電圧降下成分を示している。
係数α取得ステップS106では、まず、電圧指令値V1*の(3)式と電圧指令値V2*の(4)式との差分を計算する。すなわち、2つの電圧指令値V1*とV2*との差分を求めることにより(3)式と(4)式のそれぞれの右辺の負荷4のインピーダンスによる電圧降下成分Z・iを相殺し、電圧降下成分Z・iの影響をなくすことができる。また、(3)式および(4)式での記載は省略しているが、スイッチング素子20、21のオン電圧成分も同様に差分を計算することにより相殺できる。よって、デッドタイム電圧誤差のみを高精度に取り出すことができる。このとき、係数α以外は既知の値であるため、(5)式に示すように係数αを取得することができる。
このように、係数α取得ステップS106で係数αを取得すると、動作は終了される。以上が本実施の形態において係数αを求めるための基本的な実行動作である。これにより正確な係数αを取得することができる。なお、デッドタイムの長さ指令Td1*およびTd2*の値は任意で設定してよいが、設定可能な範囲内において、Td1*およびTd2*の値の差がより大きくなるように設定する方がよりよい。
さらに、より正確なデッドタイム補償実現のため、図4に示すように電流指令変更ステップS107を設けてもよい。この場合、係数α取得ステップS106で係数αを取得した後、電流指令変更ステップS107で任意の電流指令I*に変更する。そして電流指令ステップS101で変更後の電流指令I*を出力し、上述したS101からS106の動作を繰り返す。図4はある任意の電流指令I*に対し2種類のデッドタイムの長さ指令にて測定を行うフローを示しているが、デッドタイムの長さ指令をTd1*とし、複数の電流指令I*に対して測定を行い、次にデッドタイムの長さ指令をTd2*とし、同様に複数のI*に対して測定を行う構成としてもよい。プロセッサ601の種類によっては、デッドタイムの長さ指令を変更する場合、プロセッサ601自体を停止・再起動させる必要がある機種がある。この場合、測定条件の変更に時間を要する場合があるが、前述の順序とすると、測定条件の変更に要する時間を削減することができる。計算に用いる電圧指令V1*およびV2*は記憶装置602に保存され、また前記電圧指令値が揃ってから(5)式の計算がなされるため本発明の本質的な効果には影響は与えない。
これにより、電流指令値I*ごとの係数αを取得できる。すなわち、上記出力電流ごとのテーブルとして保持することができる。上記出力電流ごとに係数αをもつことにより、上記出力電流に応じてデッドタイム電圧の変化を考慮したデッドタイム補償が実施可能となる。さらに該デッドタイム補償により電力変換部2の出力電圧精度を向上させることができる。また、電力変換部2に付随する電流センサ3のみを用い、係数αの測定を自動で実施できるため、人手を介した測定と比較して労力を大幅に削減することが可能となる。
電流指令変更ステップS107では電流指令値I*は、一意的に増加または減少するように変更しステップS101からS106を繰り返すことで連続して変化する電流指令値I*ごとの係数αを取得してもよい。また、ランダムに変化させて各々の係数αを取得しテーブルを取得するようにしてもよい。繰り返し回数は、取得したいテーブルに応じて任意で決定してよい。テーブルを取得する場合の実行動作は、テーブルを取得した後、終了する。
図5は電圧指令値Vi*および電流指令値I*の関係を示すものであり、(3)式から(5)式を説明する図でもある。横軸は電流指令値I*、縦軸は電圧指令値Vi*とし、デッドタイムの長さ指令がTd1*のときに得られた電圧指令値V1*を各電流指令値I*ごとに◆でプロットしている。また、デッドタイムの長さ指令がTd2*のときも同様に電圧指令値V2*を電流指令値I*ごとに△でプロットしている。なお、図5では、説明の便宜上、直流通電した場合を示した例のみを示すが、交流通電などの他の通電方式に変更しても実効値で表すことにより同様の模式図を示すことが可能である。また、基本的な係数αの取得方法も同じである。
同じ電流指令値I*によって得られた電圧指令値V1*およびV2*にはそれぞれ同様の電圧降下成分Z・iが存在する。この電圧降下成分Z・iは、電流指令値I*ごとに得られた電圧指令値V1*とV2*との差分をとることにより、除去できる。その結果、図5の△と◆との間にあたる電圧の差分のみを得ることができる。そして、(5)式により、電圧指令値V1*とV2*との差分から係数αを求めることができることがわかる。
また、直流電源1の種類によっては負荷4に電流を流すと、負荷4での電力消費によって、直流リンク電圧Vdcが変動する場合がある。例えば電源系統からの交流電力を整流して供給するダイオードコンバータなどが相当する。この時はデッドタイムの長さ指令Td*を変更した場合のそれぞれの直流リンク電圧値Vdcを記録して、(5)式に変えて(6)式を用いて係数αの計算を行ってもよい。なお図1においては該Vdcの検出箇所の記載は省略している。
このように、本実施の形態では、デッドタイムの異なる2種類の電圧指令値V1*、V2*により、高精度に係数αを取得できる。また、求めた係数αを用いてデッドタイム補償を行うことで、補償精度の低下を抑制することができる。さらに、出力電流に応じた係数αのテーブルを取得しておくことで、出力電流に応じて選択した係数αをデッドタイム補償に用いることができ、より高精度な補償が可能となる。デッドタイム補償は、例えば、制御部6に図示しない補償部を設けた構成とし、補償部で上述したようなデッドタイム補償を実施することにより実現できる。
係数αの測定を、デッドタイムの長さを変更して行う利点についてさらに詳細に説明する。
電力変換部2を用いて負荷4に電流を流す場合、PWM制御により、矩形波類似形状の電圧が負荷4に印加される。このため、電力変換部2からの上記出力電流には電流リプルが含まれる。この電流リプルによってαの測定精度が低下する場合がある。
上記αの測定精度低下の第一の理由は電流リプルによってサンプリングした電流とスイッチング近傍の電流の極性が異なることである。この電流リプルを避ける方法として、例えばPWM制御を行う際の比較に用いる搬送波が三角波キャリアの場合その山・谷タイミングなどの特定のタイミングで電流サンプリングを実施する方法がある。
しかしながら、負荷4の電気時定数によっては、電流リプルが顕著となる。この結果、特に電流ゼロ近傍でスイッチング瞬間の電流値とサンプル電流値の大きさや極性が異なることがある。これは特に三角波キャリアのキャリア周波数を下げた場合に顕著である。
図6は電流サンプリングタイムとスイッチタイミングの関係を示している。これを用いてデッドタイム補償精度が低下する例を説明する。
図6(A)は、横軸に時間をとり、低キャリア周波数で通電した場合の電流波形を示したものである。図6(B)は、横軸に時間をとり、高キャリア周波数で通電した場合の電流波形を示したものである。双方の電流波形中に○で記載のタイミングは三角波キャリアの頂点に同期した電流のサンプリングタイミングを示し、●で記載のタイミングはスイッチングタイミングを示している。
図6中の電流波形の値の上下変動は、電流リプルが生じていることを表している。図6(A)、(B)双方の電流波形に電流リプルが生じているが、低キャリア周波数時(A)は、高キャリア周波数時(B)と比較し、電流リプルが大きいことがわかる。この大きな電流リプルによって例えば図6(A)の点線で囲った箇所のように、サンプリングした電流値とスイッチング近傍の電流値の極性が異なる場合がある。
係数αの測定においては、電流制御系はPI制御器で構成されることが殆どである。すなわち、係数αの測定において、デッドタイム電圧誤差はPI制御器の積分器が受け持つことになる。このため、電流極性が異なる現象が発生すると、電流制御に大きな乱れが生じる。そしてこの乱れを含んだ電圧指令値Vi*が出力される。
この結果、上述の電圧指令値Vi*を用いる係数αの計算に誤差が生じる。この係数αに誤差が発生する現象は電流ゼロクロス近傍で顕著である。電流ゼロクロス近傍では特に、電流リプルが電流指令値Vi*に沿って負荷4に出力される出力電流である主電流に対して大きくなる。
上記αの測定精度低下の第二の理由は電流リプルが顕著になることによって、サンプリングした電流値と負荷4に流れる平均電流値との間に乖離が生じることによって発生する。この場合、2つのスイッチング周波数での電圧指令を用いる従来の方法では、負荷4での電圧降下がそれぞれ異なる。この差異が係数αの計算結果に流入し誤差を生じることがある。
図7(A)、(B)を用いてその例を説明する。図7(A)は横軸に時間をとり、負荷4の電気時定数よりもキャリア周波数の低い、低キャリア時の電流波形の例を示したものである。図7(B)は横軸に時間をとり、負荷4の電気時定数よりもキャリア周波数が高い、高キャリア時の電流波形の例を示したものである。双方の電流波形上に記載の○で示したタイミングは、三角波キャリアの頂点に同期した電流のサンプリングタイミングを示している。また点線で示した直線は、それぞれの電流波形の平均である平均電流値を示している。
図7(A)は、負荷4の電気時定数がキャリア周波数と比較して短いため、電流は曲線状に変化する。このため、上記平均電流値はサンプリングした電流値と差異が生じている。一方、図7(B)は負荷4の電気時定数がキャリア周波数と比較し長いため、電流は直線的に変化し、上記平均電流値とサンプリングした電流値とが一致する。図7(A)のような、上記平均電流値とサンプリングした電流値との差異は、電流に応じた係数αの変化が大きい電力変換部2では特に問題となる。
さらに、電流制御処理を用いて係数αの測定を行った際に検出した電流検出信号Ioutには、ノイズが含まれることが多い。このため、電圧指令値Vi*もノイズ起因成分を含有する。このノイズ起因成分は、係数αの計算結果にも影響を与え誤差をもたらす。このノイズの影響を抑制するため、信号と雑音の比率であるS/N比の向上を考慮すると、測定に用いる二種類のキャリア周波数の差を大きく設定する必要がある。
上記電流リプルやノイズによる問題を避けるため、例えば、従来の方法では、α測定時の二種類のキャリア周波数の組み合わせを調整している。しかしながら、上述の電流リプルを考慮すると、二種類のキャリア周波数のうち、低いほうのキャリア周波数の下限が制限されることになる。
一方、二種類のキャリア周波数のうち、高いほうのキャリア周波数は、上げすぎるとスイッチング損失の増大を招く。したがって電力変換部2のスイッチング素子20、21に接続された図示しない冷却装置の冷却能力によって上限が制限される。
S/N比の向上を図る場合、複数回の測定で得られた測定値の平均化処理を行う方法も考えられるが、測定時間の増加によって、電力変換部2の通常の電力供給動作に遅れが生じる問題がある。またキャリア周波数は電圧の更新周期を決定しているが、係数αの測定においてキャリア周波数が変更されるため、電圧の更新周期も変更される。これに応じて電流制御ループの発振や不安定化を防止するため、電流制御系のゲイン調整が必要になる手間が生じる。
一方で、本実施の形態のデッドタイムの長さ指令Td*の変更は、電流リプルの大きさには殆ど影響を与えない。これはPWM制御による出力電圧のパルス幅に対し、デッドタイムの長さ自体が元々非常に小さいためである。係数αの測定に用いる二種類のデッドタイムの長さ条件のうち、短いほうはスイッチング素子20、21の上下短絡防止のため、制限がある。しかし、長いほうのデッドタイムの長さは特に制約はなく(3)式から(6)式の計算に用いる電圧指令値V1*、V2*の取得において、Td1*とTd2*との差を大きくすることができる。従って、電流制御処理のノイズに対してS/N比を大幅に向上させることができる。
図8を用いて具体例を説明する。図8は、スイッチング素子20、21のスイッチングオフ状態とスイッチングオン状態の時間の一例を示した図である。図8中のCWはキャリア周波数、SWPはデッドタイム付加後のP側スイッチング指令、SWNはデッドタイム付加後のN側スイッチング指令、Voutは電力変換部2の出力電圧をそれぞれ示している。説明のため電力変換部2の出力電圧はステップ状に変化するものとして記載している。例えば、電力変換部2のスイッチング素子20、21をシリコン製IGBT素子とし、負荷4をモータとして駆動する場合、キャリア周波数は1〜20[kHz]程度、デッドタイムの長さを3〜4[μsec]に設定することが多い。
比較のため、キャリア周波数を変更する従来の方法を説明する。図8(A)と(B)はデッドタイムの長さが同じでキャリア周波数が異なっている。例えば、従来の方法であれば、図8(A)に示すキャリア周波数5[kHz]での電圧指令値Vi*を得た後、デッドタイムの長さは変更せず、図8(B)に示すキャリア周波10[kHz]での電圧指令値Vi* を取得する。デッドタイムの長さは3[μsec]、電圧指令値は0[V]、電力変換部2の出力電流は正とし、デッドタイム中の出力電圧は−Vdc/2[V]とする。このとき、図8(A)のキャリア周波数5[kHz]のときの電圧パルス幅は97[μsec]である。図8(B)のキャリア周波数10[kHz]に変更すると、電圧パルス幅は47[μsec]となる。キャリア周波数10[kHz]時の電圧パルス幅は、キャリア周波数5[kHz]時の電圧パルス幅に対して48[%]の長さとなる。
一方で、本実施の形態では、キャリア周波数が同じで、デッドタイムの長さを変更する。例えば、図8(A)に示すキャリア周波数5kHz、デッドタイム3[μsec]の電圧指令値Vi*を得た後、キャリア周波数は変更せず、図8(C)に示すようにデッドタイムの長さのみを6[μsec]に変更した電圧指令値Vi*を取得する。このとき、図8(A)に示すデッドタイム3[μsec]のときの電圧パルス幅は、97[μsec]である。そして図8(C)のデッドタイムの長さのみを6[μsec]に変更した電圧パルス幅は94[μsec]である。デッドタイム6[μsec]の電圧パルス幅は、デッドタイム3[μsec]の電圧パルス幅に対して97[%]の長さとなる。
キャリア周波数10[kHz]とし、デッドタイムのみが異なる図8(B)と(D)との対比においても、電圧パルスの幅は47[μsec]から44[μsec]に変化する。すなわち、キャリア周波数10[kHz]においてデッドタイム3[μsec]の電圧パルス幅に対するデッドタイム6[μsec]の電圧パルス幅の割合は94[%]となる。
上述のようにデッドタイムの長さを変更する場合、キャリア周波数を変更する場合と比較し電圧パルスの幅の変動は少ない。また係数αの測定において、キャリア周波数の変更を要しない。このためスイッチング素子20、21に接続される冷却機の冷却能力の範囲内、すなわちスイッチング損失が許容できる範囲が高くなる。このことから本実施の形態におけるデッドタイムの長さ指令Td1*とTd2*との差を大きくすることで、S/N比を大幅に向上させることができる。
さらに負荷4の電気時定数と比較して十分に高いキャリア周波数に設定して測定を行うことで、電流ゼロクロス近傍における電流リプルによるαの測定精度への影響を抑制することができる。
このように本実施の形態によれば、デッドタイムの長さが異なる2種類の電圧指令値Vi*を取得することにより、電流リプルやノイズの影響を抑制して係数αを高精度に取得し、補償量を求めることができる。また、求めた補償量を用いることにより、デッドタイムによる出力電圧誤差の補償精度を向上させる効果を奏する。
実施の形態2.
実施の形態2を説明する。実施の形態1では係数αの測定においてデッドタイムの長さ指令Td*が二種類の場合を例として説明したが、実施の形態2は、デッドタイムの長さ指令Td*を複数種類取得し、係数αを求める構成が実施の形態1と相異している。その他構成については実施の形態1と同一または対応する構成を示しており、その説明を省略し、実施の形態2では、実施の形態1と相違する部分について以下で説明する。
実施の形態2では、表1に示すように複数のデッドタイムの長さにて電圧指令値Vi*の取得を行う。表1の項目Xで示すのは、デッドタイムの長さ指令Td*を変化させた際に得られた各電圧指令値(V3*、V4*、V5*・・・)である。また、表1の項目Yに示すのは複数のデッドタイムの長さ指令(Td3*、Td4*、Td5*・・・)と電力変換部2への入力となる直流リンク電圧Vdc(Vdc3、Vdc4、Vdc5・・・)の積である。この項目Xおよび項目Yに対し、最小二乗法にて直線近似を行い傾きSを求める。そしてこの傾きSとキャリア周波数fcを用いて(7)式にて係数αが計算できる。
シーケンス管理部61によって実行されるステップを図9で説明する。図9は本実施の形態にかかる制御部6の実行動作の一例を示すフローチャート図である。
電流指令ステップS111で、シーケンス管理部61から電圧指令生成部62へ電流指令値I*を出力する。このときの電圧指令値I*は任意に設定された値とする。電圧指令生成部62は、電流指令値I*と電流センサ3からの電流検出信号Ioutとに基づいて、上述した電流制御処理を行う。そして、電圧指令値Vi*をPWM処理部63に出力する。さらにPWM処理部63は、電圧指令生成部62からの電圧指令値Vi*に基づき、スイッチング指令Sw1*をTd付加部64へ生成する。
第一のデッドタイムの長さ指令ステップS112では、シーケンス管理部61からTd付加部64へデッドタイムの長さ指令Td*を出力する。本実施の形態においては、デッドタイムの長さ指令Td*のある値としてTd3*を出力する。Td付加部64は、デッドタイム長さの指令Td3*に基づいてスイッチング指令Sw1*にデッドタイムを付加する。そして、デッドタイム付加後のスイッチング指令Sw2*を電力変換部2へ出力する。
ここまでのステップの動作により、電力変換部2ではスイッチング指令Sw2*に基づいてスイッチング素子20、21がオンおよびオフ動作される。電力変換部2は、スイッチング素子20、21のオンおよびオフ動作により、直流電源1から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷4に出力する。
このときの電力変換部2から負荷4へ供給される電流は、電力変換部2と負荷4とを接続する導線に設置された電流センサ3によって検出される。電流センサ3は、電流検出信号Ioutを電圧指令生成部62へ出力する。
第一の電圧指令取得ステップS113では、電圧指令値V3*を記憶装置602に記憶する。電圧指令値V3*は、デッドタイムの長さ指令Td3*に基づいて上述した電流制御処理により新たに出力された電圧指令値である。このときに、デッドタイムの長さ指令Td3*と直流リンク電圧Vdc3の積を求め記憶装置602に記憶する。
第二のデッドタイムの長さ指令ステップS114では、シーケンス管理部61からTd付加部64へデッドタイムの長さ指令Td4*を出力する。デッドタイムの長さ指令Td4*はデッドタイムの長さ指令Td3*とは異なる値である。Td付加部64は、デッドタイム長さの指令Td4*に基づいてスイッチング指令Sw1*にデッドタイムを付加する。そして、デッドタイム付加後のスイッチング指令Sw2*を電力変換部2へ出力する。
電力変換部2のスイッチング素子20、21はスイッチング指令Sw2*に基づいてオンおよびオフ動作される。電力変換部2はスイッチング素子20、21のオンおよびオフ動作により直流電源1から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷4に出力する。
このときに電力変換部2から負荷4へ供給される電流が電力変換部2と負荷4とを接続する導線に設置された電流センサ3によって検出される。電流センサ3は、電流検出信号Ioutを電圧指令生成部62へ出力する。
第二の電圧指令取得ステップS115では、新たに取得した電圧指令値V4*を記憶装置602に記憶する。電圧指令値V4*は、デッドタイムの長さ指令Td4*に基づいて上述した電流制御処理により新たに出力された電圧指令値である。このときに、デッドタイムの長さ指令Td4*と直流リンク電圧Vdc4の積を求め記憶装置602に記憶する。
本実施の形態ではこの動作をデッドタイムの長さ指令Td*をTd5*、Td6*・・・と変更して任意の回数繰り返す。そして任意の回数繰り返したのち、係数α取得ステップS116にて(7)式を用いて係数αを取得する。
複数の電圧指令値Vi*およびデッドタイムの長さ指令Td*と直流リンク電圧Vdcとの積を用いることにより、電圧指令値Vi*のノイズなどの測定のバラつきを抑制することができる。なお、繰り返し回数に相当するデッドタイムの長さ指令Td*の種類は、より多い方がノイズを抑制することができるため、得たい抑制効果に応じ、任意で決定してよい。
また、図10に示すように、電流指令変更ステップS117を設けても良い。この場合、係数α取得ステップS116で係数αを取得した後、電流指令変更ステップS117で任意の電流指令I*に変更する。そして電流指令ステップS111で変更後の電流指令I*を出力し、上述したS111からS116の動作を繰り返す。これにより電流指令値I*ごとに係数αを取得し、テーブルとして保持することができる。
このように、実施の形態2では、複数のデッドタイムの長さ指令Td*を設定して係数αの測定を行うため、電圧指令値Vi*のノイズなどの測定のバラつきを抑制することができる。したがって、電流リプルやノイズの影響を抑制して係数αを高精度に取得し、補償量を求めることができる。また、求めた補償量を用いることにより、デッドタイムによる出力電圧誤差の補償精度を向上させる効果を奏する。
実施の形態3.
実施の形態3は、係数αの取得において特定のシーケンスを設けず、負荷4に通常の電力供給を行いつつ係数αを取得し、デッドタイム補償を実施する。実施の形態1および2とは、制御部6の構成の一部が相異している。その他構成については実施の形態1および2と同一または対応する構成を示しており、その説明を省略し、実施の形態1および2と相違する部分について以下で説明する。
図11は、本発明を実施するための実施の形態3にかかる電力変換装置を適用した電力変換システムの構成図である。前記システム全体は、本実施の形態の電力変換装置100、直流電源1、電流センサ3とで構成されている。説明の便宜上、図11には負荷4も記載している。電力変換装置100は、直流電力を交流電力に変換するインバータの機能を有し、入力電源である直流電源1から供給される直流電力を交流電力に変換して負荷4に供給する。電流センサ3は電力変換装置100から負荷4に供給される電力に基づき検出電流信号Iuvwを出力する。なお、本実施の形態において電流センサ3は電力変換装置100と別に設ける構成としたが、電力変換装置100に含めて構成してもよい。
また、実施の形態3においては、説明の便宜上、電力変換部2に接続されている負荷4は3相負荷とする。3相負荷の例としては、例えば永久磁石同期モータや誘導モータなどがあげられる。
図11に示すように、本実施の形態における電力変換装置100は、電力変換部2と制御部6とで構成されている。
負荷4が3相負荷である場合、電力変換部2は例えば三相ブリッジ回路で構成される。三相ブリッジ回路の詳細は図11に記載していないが、u相、v相、w相の各相に対応する三相ブリッジ回路の回路は、実施の形態1および2の回路構成を示す図1と同様にIGBT201、211とFWD202、212によって構成される。P側スイッチング素子20およびN側スイッチング素子21が直列接続されている。さらに本実施の形態では、図1のスイッチング素子20および21を1セットとして、これらを並列に3つ接続し、計6個のスイッチング素子を用いたブリッジで構成されている。三相ブリッジ回路における上記各相のスイッチング素子20および21は、制御部6からのスイッチング指令Swuvw2*に基づいて駆動される。
電流センサ3は例えば、電力変換部2と負荷4とを接続する導線に設置されたシャント抵抗やカレントトランスなどである。電流センサ3は上記各相に設置されて、電力変換部2から負荷4に流れる三相電流を検出する。三相電流は、P側スイッチング素子20とN側スイッチング素子21との間からバスバー等を通じて負荷4の各相端子へそれぞれ流れて供給される。
電流センサ3が上記各相に設けられている例を図11に図示して説明するが、電流センサ3は2個でもよい。この場合、既知の方法により検出した上記各相のうちの2相の電流値から3相の電流値を把握することが可能である。
制御部6は、電流センサ3からの検出電流信号Iuvwに基づいて電力変換部2へスイッチング指令Swuvw2*を出力する。スイッチング指令Swuvw2*は、電力変換部2の上記各相のスイッチング素子20、21を駆動するための指令である。
制御部6のハード構成は実施の形態1および2と同様にプロセッサ601と記憶装置602とで構成されており、以下で説明する各部の機能を実現する。制御部6についてさらに説明する。
制御部6は、図11に示すように電圧指令生成部62、デッドタイム補償部(以下Td補償部と記載する)66、PWM処理部63、Td付加部64、シーケンス管理部61にて構成される。
シーケンス管理部61は、実施の形態1および2の動作とは異なり、電流センサ3の検出電流信号Iuvwに基づいて、時間変化するデッドタイムの長さ指令Td*(t)をTd付加部64に出力する。また、係数αをTd補償部66に出力する。
電圧指令生成部62は、電圧指令値Vuvw1*を生成し、Td補償部66へ出力する。このときの各相の電圧指令値Vuvw1*のそれぞれを(8)式に記載する。(8)式のVampは電圧指令振幅、θは電圧指令位相をそれぞれ示している。なお、本実施の形態における電圧指令値Vuvw1*の生成方法については特に問わずに適用できる。よって、(8)式に記載の3相の電圧指令値Vuvw1*は振幅と位相を記載した一般的な表現としている。
Td補償部66はデッドタイム電圧誤差と逆極性の補償電圧を電圧指令値Vuvw1*に加算してデッドタイム補償を行う。Td補償部66は、検出電流信号Iuvwの極性とシーケンス管理部61からの係数αと、時間変化するデッドタイムの長さ指令Td*(t)とを受け取りデッドタイム補償を実施する。この結果、デッドタイム補償後の電圧指令値Vuvw2*は(9)式となる。(9)式のfcはキャリア周波数[Hz]、Vdcは電力変換部2への入力となる直流リンク電圧、sign(iu)、sign(iv)、sign(iw)は上記各相の出力電流の極性をそれぞれ示している。また、上記出力電流の極性は電力変換部2から負荷4に向かう方向dと一致する場合を正とし、正のとき1、負のとき−1とする。
PWM処理部63は、Td補償部66からのデッドタイム補償後の電圧指令値Vuvw2*を元にPWM処理を実施しスイッチング指令Swuvw1*をTd付加部64へ出力する。PWM処理は、三角波やノコギリ波との大小比較による処理を実施する。
Td付加部64は、PWM処理部63で処理されたスイッチング指令Swuvw1*にシーケンス管理部61からの時間変化するデッドタイムの長さ指令Td*(t)に従ってデッドタイムを付加する。そして、デッドタイムを付加したスイッチング指令Swuvw2*を電力変換部2へ出力する。
シーケンス管理部61についてさらに詳細に説明する。本実施の形態でシーケンス管理部61から出力される時間変化するデッドタイムの長さ指令Td*(t)は、(10)式となる。すなわちデッドタイムの長さ指令Td*(t)は所定の周波数で振動する。
(10)式中のTdAmpはTd長さの振動成分振幅、θtdは振動の位相を示している。振動の周波数は、他の外乱電圧の周波数成分を避けて設定される。また、デッドタイムの長さを振動させつつも、上記各相のスイッチング素子の上下短絡を防止するために、オフセット値Td_ofsを持たせている。(10)式は三角関数に基づいてデッドタイムの長さを振動させるものである。本実施の形態においては、デッドタイムの長さの振動が所定の周波数成分を持って振動すればよい。よって例えば矩形波形状に振動させてもよい。ここで周波数ftdとするとθtdとの関係は(11)式となる。
θtdの周波数を他の外乱電圧の周波数成分を避けて設定する理由について説明する。例えば負荷4として3相交流モータが接続されている場合、モータ自体が外乱電圧を出力することがある。永久磁石同期モータでは回転子の磁束と回転によって発生する誘起電圧高調波である。誘導モータでは相互インダクタンスの飽和による電圧歪みである。
これらは3相静止座標上では複数の次数の高調波電圧成分を含み、負荷4であるモータの3相電流も同様の成分を含む。特に5次、7次の成分は顕著であり、これらは3相電流および3相電圧を2軸直交回転座標上に変換すると電力変換部2の交流出力電圧の周波数に対し6次の周波数成分を含むことが知られている。
一方、デッドタイム電圧誤差も同様に3相静止座標上では矩形波に近い形状となり奇数次の高調波電圧成分を含む。同様に5次や7次の成分は顕著である。前記デッドタイム電圧誤差は2軸直交回転座標上においてはノコギリ状の電圧となり、6次の周波数成分となる。このデッドタイム電圧誤差に起因し2軸直交回転座標上の電流に6次の周波数成分が含まれることはよく知られた現象である。
そのため、2軸直交回転座標上の電流の6次の周波数成分を利用したTd補償電圧の調整方式も提案されている。しかし、従来の方法では、モータ起因の6次の周期外乱電圧によって調整が阻害されデッドタイム補償精度が低下することがある。
そこで本実施の形態では、デッドタイムの長さを時間変化させるにあたり、その周波数を外乱電圧の周波数成分とは異なる値に設定し、外乱電圧の影響を抑制する。具体的には、3相交流モータ負荷の場合、6次の周期以外の周期で時間変化させる。これにより係数αの誤差に起因する電流脈動成分の周波数と、モータ起因の外乱成分の周波数を異ならせることができる。その結果、モータ起因の外乱電圧の影響を受けることなく、係数αの調整ができる。また、調整された係数αを用いて補償することにより、デッドタイム補償精度を向上させることが可能となる。
次に係数αの調整方法について説明する。
デッドタイムの長さ指令を時間変化させ、これに応じてデッドタイム補償を計算し実施する場合、係数αの正確な値が把握できていればよい。正確な値を把握することで、デッドタイム電圧誤差は抑制される。すなわち負荷4への出力電流には、該当の振動成分は含まれない。
しかし、係数αの値の誤差が含まれると、負荷4への出力電流には上述の振動するデッドタイム電圧成分に起因する脈動が含まれる。このため、基本的には、デッドタイム電圧誤差の振動成分に起因する出力電流の脈動を検出する。そして、この脈動がゼロになるように調整すれば良い。そのため様々な方法を用いることができる。
例えば係数αを所定の範囲で徐々に変化させる。その際の検出電流信号Iuvwに含まれるデッドタイム電圧誤差の振動に起因する周波数を持つ脈動成分の有無を記録する。そして、該電流脈動が最小となる係数αを調整結果として、最終的にTd補償部66へ出力する方式を用いる。この動作を適当な時間間隔で実施することで、負荷4への電力供給の間、高精度なデッドタイム補償が実現できる。
他の方法として以下の方法を用いることができる。デッドタイム電圧誤差は、負荷4に3相正弦波交流電流が流れている状態を想定する。この場合、デッドタイム電圧誤差は、(2)式に従い矩形波に近い形状を持つ。電力変換部2の出力電圧の周波数をfとすると3相正弦波交流電流も同じ周波数fの電流となる。
このとき(8)式に記載する電圧指令位相θの周波数もfとなる。デッドタイムの長さを時間変化させると(2)式に基づき矩形波となるデッドタイム電圧誤差の振幅を変動させることになる。一種の振幅変調となるため、デッドタイム電圧誤差中に含まれる振動成分はf+ftd、f−ftdの周波数成分を持つ。
また該矩形波形状のデッドタイム電圧誤差の基本波成分の位相は3相正弦波交流電流と同相となる。このため、デッドタイム電圧誤差の振動成分は相電流の振幅方向に主な成分を持つ。同様に該振動成分に起因する電流脈動も相電流の振幅方向に主な成分を持つ。
したがって、相電流信号にあたる検出電流信号Iuvwにおいて振幅を取り出せばデッドタイム電圧誤差の振動成分に起因する電流脈動を取り出すことができる。ただし3相であるため、全相をまとめて取り扱う必要がある。この場合、2軸直交回転座標上に変換した相電流ベクトルの大きさに該電流脈動が含まれる。
これを(12)式と(13)式に示す。(12)式においては、座標変換位相は電圧指令位相θとしたが、電力変換部2の出力電圧あるいは3相交流電流と同じ周波数を持つ位相なら何でも良い。(13)式のinは検出電流ベクトルの振幅を示す。
(12)式において回転座標変換によって変換処理される信号の周波数成分のシフトが発生する。座標変換位相θの周波数はfである。(13)式に記載する相電流ベクトルの大きさinには、周波数シフトによって元のftdの周波数を持つ脈動が含まれる。
この電流脈動は上述のとおり、係数αの誤差に伴い発生する。よって相電流ベクトルの大きさinに基づき(14)式でαの調整を実施する。
(10)式においてデッドタイム電圧誤差の振動成分の位相θtdに対しcos成分で振動を発生させる。このとき、ftdを負荷4の電気時定数の逆数より十分大きな値に設定しておく。これにより、デッドタイム電圧誤差の振動成分は主に負荷4のインダクタンス成分が受け持つことになる。
このためデッドタイム電圧誤差の振動成分に起因する電流脈動は、該電圧の振動成分に対し90度位相遅れの成分が主となる。(14)式はこれを反映し、位相θtdのsin信号で検波する簡易な構成となる。係数αの調整がなされると、(13)式に記載する相電流ベクトルの大きさinにはデッドタイム電圧誤差の振動成分に起因する電流脈動が含まれなくなる。したがって、(14)式の積分は自動的に停止する。(14)式中のKはα調整の応答速度を決めるゲインを示す。
このような方法を用いる場合、シーケンス管理部61は(10)式から(14)式を制御周期毎に実施しαの調整を実施する。この方法は常時動作が可能である。よって負荷4への電力供給中に係数αの変動が発生しても追従させることが可能となる。
例えば、本方式に、キャリア周波数を振動させる従来の手法を適用させようとすると、キャリア周波数が局所的に低下する。その結果、電圧指令値がPWM電流リプルの影響を受け係数αの推定精度が低下する。また、変動するキャリア周波数にあわせ電流のサンプリングタイミングや電圧指令値の更新周期も変動するため、制御部6の構成が複雑となる問題が発生する。
一方、本実施の形態においては、デッドタイムの長さを所定の周期で時間変化させデッドタイム電圧誤差を振動させる。このときデッドタイム補償も時間変化するデッドタイムの長さTd*(t)に応じ補償電圧を計算して実施する。よって、係数αの正確な値が把握できていれば、デッドタイム電圧誤差は抑制される。この結果、負荷4の電流には、該当の振動成分は含まれない。
さらには、負荷4の電流に含まれる振動するデッドタイム電圧誤差成分に起因する電流脈動に対しては、電流脈動をゼロになるように係数αを調整する。これにより正確なαの値が取得できる。そして取得した係数αによって、デッドタイム電圧誤差以外の外乱電圧の影響を抑制することができる。
このように本実施の形態では、デッドタイム電圧誤差を外乱電圧の周波数成分とは異なる値で振動させることで外乱電圧の影響を抑制できる。また、デッドタイム電圧誤差成分に起因する電流脈動に対して、電流脈動をゼロになるように係数αを調整、取得することができる。よって電流リプルやノイズの影響を抑制して係数αを高精度に取得し、デッドタイム電圧誤差を補償する補償量を求めることができる。さらに、モータ起因の外乱電圧の影響を受けることなく係数αを調整できる効果に加え、負荷4に通常の電力供給を行いつつ、高精度なデッドタイム補償の実施も可能とする効果を奏する。
実施の形態4.
実施の形態3ではデッドタイムの長さ指令を時間変化させ、デッドタイム電圧誤差を振動させて、出力電流に含まれるデッドタイム電圧誤差の振動に起因する電流脈動から係数αの調整を実施する構成を説明した。実施の形態4では、電圧指令値Vuvw*に基づいて係数αの調整を行う点が実施の形態3と相異している。その他構成については実施の形態3と同一または対応する構成を示しており、その説明を省略する。
図12に本実施の形態にかかる電力変換装置を適用した電力変換システムの構成図を示す。電圧指令生成部62には、電流センサ3からの電流検出信号Iuvwが入力される。電圧指令生成部62は、この電流検出信号Iuvwと例えば図示しない上位の制御出段からの電圧指令に応じて電流制御処理を行い、Td補償部66へ電圧指令値Vuvw*を出力する。また、シーケンス管理部61へも電圧指令値Vuvw*を出力する。
シーケンス管理部61は、電流制御処理後の電圧指令Vuvw*が入力され、この電圧指令Vuvw*に基づいて係数αの調整が行われる。Td補償部66では、この電流制御処理後の電圧指令Vuvw*に逆極性の補償電圧を加算してデッドタイム補償を実施し、補償後の電圧指令値Vuvw2*を出力する。その他動作については、実施の形態3と同様であり、その説明を省略する。
デッドタイム電圧誤差起因の電流脈動は外乱であり、同様の周波数や振幅の信号が電流指令値に含まれる運転は一般的に非常に少ない。したがって制御部6の動作に電流制御処理が含まれる場合、電流脈動の成分を抑制するように電流制御処理が動作する。このため、電流制御処理の出力である電圧指令値Vuvw*には電流脈動と同じ周波数成分が逆極性で含まれる。よって電圧指令値Vuvw*に基づいて係数αの調整を行うことが可能である。
このように、電圧指令値Vuvw*に基づいて係数αの調整が可能である実施の形態4は実施の形態1および2と同様に、係数αを高精度に取得し、デッドタイム電圧誤差を補償する補償量を求めることができる。また、実施の形態3と同様に、モータ起因の外乱電圧の影響を受けることなく係数αを調整でき、負荷4に通常の電力供給を行いつつ、高精度なデッドタイム補償の実施も可能とする効果を奏する。
実施の形態5
実施の形態3および4では時間変化するデッドタイム長さを用いてデッドタイム電圧誤差を振動させ、出力電流または電圧指令に含まれるデッドタイム電圧誤差の振動に起因する電流脈動から係数αの調整を実施する構成を説明した。このとき時間変化するデッドタイムの長さの周波数は3相で同じ値とした。実施の形態5では、デッドタイムの長さを時間変化させる周波数が3相で異なるようにする構成が実施の形態3および4と相異している。その他構成については実施の形態3および4と同一または対応する構成を示しており、その説明を省略し、相違する部分について以下で説明する。
デッドタイムの長さを時間変化させる周波数が3相で異なる場合、実施の形態3および4におけるデッドタイム補償後の電圧指令値Vuvw2*を示す(9)式は(15)式となる。これにより、係数αの過剰または不足を相ごとに把握できる。これを利用すれば、3相個別に係数αの調整ができ、デッドタイム補償をより高精度化することができる。
Tdu*(t)はu相の時間に応じ変化するTd長さ、Tdv*(t)はv相の時間に応じ変化するTd長さ、Tdw*(t)はw相の時間に応じ変化するTd長さ、αuはu相の係数α、αvはv相の係数α、αwはw相の係数αをそれぞれ示している。
デッドタイムの長さは(16)式、(17)式を用いて各相計算する。
ftduはu相のTd長さの振動成分周波数、ftdvはv相のTd長さの振動成分周波数、ftdwはw相のTd長さの振動成分周波数をそれぞれ示している。
デッドタイム電圧誤差の振動に起因する電流脈動が相電流ベクトルの大きさに現れることは実施の形態3で説明した3相で同じデッドタイムの長さの時間変化させる場合と同じである。よって(12)式および(13)式は変更なく使用できる。3相の係数αの調整式は(14)式に変えて(18)式にて実施する。
例えば、本方式に、キャリア周波数を振動させる従来の手法を適用させるとする。この場合、キャリア周波数の変更によって3相個別でのαの調整には3相で個別の周波数を持つキャリアを用いる必要がある。このため3相の電圧で構成するPWM空間電圧ベクトルが大幅に崩れ電流が乱れる問題が発生する。
一方、本実施の形態のようにデッドタイムの長さ自体を時間変化させる場合には、このような問題は発生しない。よって、3相で個別に係数αの調整が実施できる。
このように本実施の形態は、実施の形態1から4と同様の効果に加え、3相で個別に係数αの調整することでより高精度なデッドタイム補償が可能となる効果を奏する。
なお、本発明は、発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせることや、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。