以下、圧縮自己着火式エンジンの制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、圧縮自己着火式エンジンの制御装置の一例である。図1は、圧縮自己着火式エンジンの構成を例示する図である。図2は、圧縮自己着火式エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
エンジン1は、四輪の自動車に搭載される。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1では、1つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を形成する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったタイミングで形成される空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。詳細な図示は省略するが、ピストン3の上面は平坦面である。ピストン3の上面には、キャビティが形成されている。シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、二つの傾斜面によって構成されている。燃焼室17は、いわゆるペントルーフ形状である。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、理論熱効率の向上や、後述するCI(Compression Ignition)燃焼(つまり、自己着火燃焼)の安定化を目的として高く設定されている。具体的に、エンジン1の幾何学的圧縮比は、17以上である。幾何学的圧縮比は、例えば18としてもよい。幾何学的圧縮比は、17以上20以下の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、2つの吸気ポート18が形成されている(尚、図1では一つの吸気ポート18のみ示している)。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気動弁機構は、所定のタイミングで、吸気弁21を開閉する。吸気動弁機構は、この構成例では、図2に示すように、可変動弁システム及びタイミング変更機構としての吸気VVT(Variable Valve Timing)231を有している。吸気VVT231は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、吸気VVT231は、例えば電動VVTや、液圧式のVVTとすればよい。
吸気動弁機構はまた、この構成例では、図2に示すように、可変動弁システム及びリフト変更機構としての吸気CVVL(Continuously Variable ValveLift)232を有している。吸気CVVL232は、吸気弁21のリフト量を、所定の範囲内で連続的に変更するよう構成されている。尚、吸気CVVL232の構成は、公知の構成を適宜採用すればよい。吸気CVVL232の構成は、任意である。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、2つの排気ポート19が形成されている(尚、図1では一つの排気ポート19のみ示している)。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気動弁機構は、所定のタイミングで、排気弁22を開閉する。排気動弁機構は、この構成例では、図2に示すように、可変動弁システム及びタイミング変更機構としての排気VVT241を有している。排気VVT241は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、排気VVT241は、電動VVTや、液圧式のVVTとすればよい。
排気動弁機構はまた、この構成例では、図2に示すように、可変動弁システムとしての排気VVL242を有している。排気VVL242は、詳細は後述するが、排気弁22を、第1のカム部811及び第2のカム部812のいずれか一方によって開弁することにより、排気弁22のリフト量を変更するよう構成されている。
詳細は後述するが、このエンジン1は、吸気動弁機構及び排気動弁機構によって、吸気弁21の開弁時期と排気弁22の閉弁時期とに係るオーバーラップ期間の長さを調整する。このことによって、燃焼室17の中の既燃ガスを掃気したり、燃焼室17の中に熱い既燃ガスを閉じ込めたり(つまり、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入したり)する。また、このエンジン1は、所定の運転状態にあるときに、排気動弁機構によって、排気弁22を吸気行程において開弁する。このことによって、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入する。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射するよう構成されている。インジェクタ6は、その中心軸が、シリンダ11の中心軸に沿うように配設されている。インジェクタ6は、キャビティに対向している。尚、インジェクタ6の中心軸は、シリンダ11の中心軸とずれていてもよい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。
尚、インジェクタ6は、多噴口型のインジェクタに限らない。インジェクタ6は、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄えるよう構成されている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能に構成されている。燃料供給システム61の最高燃料圧力は、例えば120MPa程度にしてもよい。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸を挟んだ吸気側に配設されている。点火プラグ25は、インジェクタ6に隣接している。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。詳細な図示は省略するが、点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40は、燃焼室17に導入するガスが流れる通路である。吸気通路40の上流端部には、新気を濾過するエアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するよう構成されている。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気を過給するよう構成されている。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式スーパーチャージャーである。機械式の過給機44は、例えばルーツ式としてもよい。機械式の過給機44の構成はどのような構成であってもよい。機械式の過給機44は、リショルム式や遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。つまり、このエンジン1は、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給することと、過給機44が、燃焼室17に導入するガスを過給しないこととを切り替えることができるよう構成されている。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却するよう構成されている。インタークーラー46は、例えば水冷式に構成すればよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調整する。
過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)には、エアバイパス弁48を全開にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給の状態、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)には、過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。エアバイパス弁48の開度を調整することによって、逆流量を調整することができるから、燃焼室17に導入するガスの過給圧を調整することができる。この構成例においては、過給機44と電磁クラッチ45とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。排気通路50には、1つ以上の触媒コンバーター51を有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバーター51は、三元触媒を含んで構成されている。尚、排気ガス浄化システムは、三元触媒のみを含むものに限らない。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、既燃ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における触媒コンバーター51の上流に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40におけるサージタンク42の上流に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、既燃ガスを冷却するよう構成されている。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる既燃ガスの流量を調整するよう構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却した既燃ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調整することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、EGR通路52及びEGR弁54を含んで構成されている外部EGRシステムと、前述した吸気動弁機構及び排気動弁機構を含んで構成されている内部EGRシステムとによって構成されている。
圧縮自己着火式エンジンの制御装置は、図2に示すように、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、コントローラーの一例である。
ECU10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16が接続されている。センサSW1〜SW16は、検知信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、及び、新気の温度を検知する第1吸気温度センサSW2、吸気通路40における過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を検知する第1圧力センサSW3、吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を検知する第2吸気温度センサSW4、サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を検知する第2圧力センサSW5、各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を検知する指圧センサSW6、排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW7、排気通路50における触媒コンバーター51の上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するリニアO2センサSW8、排気通路50における触媒コンバーター51の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を検知するラムダO2センサSW9、エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を検知する水温センサSW10、エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW11、アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW12、エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を検知する吸気カム角センサSW13、エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を検知する排気カム角センサSW14、EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を検知するEGR差圧センサSW15、並びに、燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を検知する燃圧センサSW16である。
ECU10は、これらの検知信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気VVT231、吸気CVVL232、排気VVT241、排気VVL242、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、及び、エアバイパス弁48に出力する。例えば、ECU10は、EGR差圧センサSW15の検知信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量を調整する。ECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
(エンジンの運転領域)
図3は、エンジン1の運転領域を例示している。エンジン1の運転領域は、負荷の高低、及び、回転数の高低に対し、大きく四つの領域に分けられている。具体的に、四つの領域は、アイドル運転付近の負荷の低い領域と低負荷でかつ回転数が高い領域とを含む低負荷SI領域、全開負荷を含む高負荷の高負荷SI領域、低負荷SI領域と高負荷SI領域との間の領域であって、相対的に負荷が低くかつ回転数の低い非過給CI領域、及び、相対的に負荷の高い過給CI領域である。エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、非過給CI領域及び過給CI領域において、圧縮自己着火による燃焼を行う。また、低負荷SI領域及び高負荷SI領域において、火花点火(つまり、Spark Ignition:SI)による燃焼を行う。以下、低負荷SI領域、非過給CI領域、過給CI領域、及び、高負荷SI領域における燃焼形態について、順に説明をする。
エンジン1の運転状態が低負荷SI領域にあるときの燃焼形態は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に点火を行うことによって混合気を火炎伝播により燃焼させるSI燃焼である。低負荷SI領域において、混合気の空燃比A/F(つまり、燃焼室17の中の新気と燃料との質量比)は、略理論空燃比である(つまり、A/F=14.7)。三元触媒が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。従って、混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。過給機44は、吸気の過給を行わず、スロットル弁43の開度は適宜調整される。燃焼室17に内部EGRガスは導入されない。
エンジン1の運転状態が非過給CI領域にあるときには、低負荷SI領域よりも燃料の噴射量が多くなる。燃焼温度が高くなるため、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入することによって、燃焼室17の温度が高くなり、自己着火を安定して行うことが可能にある。エンジン1は、非過給CI領域において、CI燃焼を行う。また、エンジン1の運転状態が非過給CI領域にあるときには、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入する一方で、吸気の過給は行わない。混合気のA/Fは、理論空燃比よりもリーンにする。
エンジン1の負荷が高まり、燃料量がさらに増えたときに、自然吸気の状態であれば、燃焼室17の中に導入する新気量が不足する。そこで、エンジン1の運転状態が過給CI領域にあるときには、過給機44が、燃焼室17の中に導入する吸気の過給を行いながら、エンジン1は、CI燃焼を行う。また、エンジン1の運転状態が過給CI領域にあるときにも、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入する。混合気のA/Fは、理論空燃比よりもリーンにする。過給CI領域は、第1領域に相当し、過給CI領域よりも負荷の低い非過給CI領域は、第2領域に相当する。
エンジン1の負荷が高いと、燃料の噴射量が多い。そのため、CI燃焼を行うと、燃焼騒音を抑制することが困難になる。また、燃焼室17の中の温度が高くなるため、CI燃焼を行おうとしても、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じやすい。そのため、エンジン1の運転状態が高負荷の領域(つまり、高負荷SI領域)にあるときの燃焼形態は、SI燃焼である。混合気のA/Fは、略理論空燃比にする。また、エンジン1の運転状態が高負荷SI領域にあるときには、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入しないが、過給機44は過給を行う。高負荷SI領域は、過給CI領域よりも負荷の高い第3領域に相当する。
(燃料噴射制御)
図4は、所定のエンジン回転数において、エンジン1の負荷の高低に対する燃料の噴射態様の変化を示している。以下、四つの領域のそれぞれにおける燃料噴射態様を順に説明する。
(高負荷SI領域)
前述の通り、エンジン1は、高負荷SI領域においてはSI燃焼を行うが、幾何学的圧縮比が高いこと等に起因して、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じやすくなるという問題がある。
そこで、エンジン1は、高負荷SI領域において、燃料噴射の形態を工夫することにより異常燃焼を回避するよう構成されている。具体的に、ECU10は、30MPa以上の高い燃料圧力でかつ、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)内のタイミングで、燃焼室17内に燃料を噴射するよう、燃料供給システム61及びインジェクタ6に制御信号を出力する。従って、グラフ401に示すように、第1噴射と第2噴射との噴射割合は、10:0である。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。また、グラフ402に例示するように、第1噴射の噴射開始SOIは、圧縮行程後期である。
ECU10はまた、燃料の噴射後、圧縮上死点付近のタイミングで、混合気に点火を行うよう、点火プラグ25に制御信号を出力する。尚、以下においては、高い燃料圧力でかつ、リタード期間内のタイミングで、燃焼室17の中に燃料を噴射することを、高圧リタード噴射と呼ぶ。
高圧リタード噴射は、混合気が反応する時間を短くすることによって、異常燃焼を回避する。すなわち、混合気が反応する時間は、(1)インジェクタ6が燃料を噴射する期間(つまり、噴射期間)と、(2)燃料の噴射が終了した後、点火プラグ25の周りに可燃混合気が形成されるまでの期間(つまり、混合気形成期間)と、(3)点火によって開始されたSI燃焼が終了するまでの期間((3)燃焼期間)と、を足し合わせた時間である。
高い燃料圧力で、燃焼室17の中に燃料を噴射すると、噴射期間及び混合気形成期間は、それぞれ短くなる。噴射期間及び混合気形成期間が短くなると、燃料の噴射を開始するタイミングを点火タイミングに近づけることが可能になる。高圧リタード噴射は、燃料の圧力を高くすることによって、圧縮行程後期から膨張行程初期までのリタード期間内のタイミングで燃料噴射を行うことができる。
高い燃料圧力で燃焼室17の中に燃料を噴射すると、燃焼室17の中の乱流エネルギが高くなる。燃料噴射のタイミングを圧縮上死点に近づけると、燃焼室17の中の乱流エネルギが高い状態でSI燃焼を開始することができる。その結果、燃焼期間が短くなる。
高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間をそれぞれ短くすることができる。吸気行程中に燃焼室17の中に燃料を噴射する場合と比較して、高圧リタード噴射は、混合気が反応する時間を大幅に短くすることができる。高圧リタード噴射は、混合気が反応する時間が短くなるから、異常燃焼を回避することが可能になる。
燃料圧力を、例えば30MPa以上にすれば、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間を効果的に短縮することができる。尚、燃料圧力は、燃料の性状に応じて適宜設定するのが好ましい。燃料圧力の上限値は、一例として、120MPaとしてもよい。
(低負荷SI領域)
低負荷SI領域において、ECU10は、インジェクタ6が吸気行程中に燃料を噴射するよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。グラフ401に示すように、インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。尚、インジェクタ6は、燃料を分割して噴射してもよい。吸気行程中に燃焼室17の中に噴射された燃料は、燃焼室17の中に導入される吸気によって拡散される。混合気の均質性が高まる。その結果、未燃損失が低減することにより、エンジン1の燃費が向上する。また、スモークの発生が回避されることにより、排出ガス性能が向上する。
(非過給CI領域)
非過給CI領域は、負荷の低い領域と、負荷の低い領域とに分けられる。負荷の低い領域においては、低負荷SI領域と同様に、インジェクタ6は、吸気行程中に燃料を、一括で噴射する。一方、負荷の低い領域においては、インジェクタ6は、第1噴射と第2噴射とを含む分割噴射を行う。第1噴射の噴射開始SOIは、グラフ402に例示するように、圧縮行程前半である。第2噴射の噴射開始SOIは、グラフ403に例示するように、圧縮行程後半である。ここで、圧縮行程前半は、圧縮行程の期間を二等分したときの前半であり、圧縮行程後半は、圧縮行程の期間を二等分したときの後半である。
第1噴射と第2噴射との噴射割合は、グラフ401に例示するように、エンジン1の負荷が高くなるに従い、第2噴射の噴射量を次第に増やしかつ、第1噴射の噴射量を次第に減らす。第1噴射の噴射量と第2噴射の噴射量との大小関係は、所定負荷を境にして逆転する。
ECU10は、非過給CI領域において、エンジン1の負荷の高低に応じて、所定のタイミングで、所定量の燃料を噴射するよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。
(過給CI領域)
過給CI領域においては、エンジン1の負荷の高低に関わらず、インジェクタ6は、第1噴射と第2噴射とを含む分割噴射を行う。第1噴射の噴射開始SOIは、グラフ402に例示するように、圧縮行程前半である。第2噴射の噴射開始SOIは、グラフ403に例示するように、圧縮行程後半である。第1噴射の噴射量と第2噴射の噴射量との割合は一定である。第2噴射の噴射量の方が、第1噴射の噴射量よりも多い。
ECU10は、過給CI領域においては、圧縮行程中に第1噴射と第2噴射との二回の燃料噴射を行うよう、インジェクタ6に制御信号を出力する。
(吸気弁及び排気弁の動作)
次に、エンジン1の負荷の高低に対する吸気弁21及び排気弁22の動作の変化について説明をする。
先ず、図5を参照しながら、排気VVL242の構成の詳細を説明する。図5は、エンジン1における特定のシリンダ11のみを示している。エンジン1のシリンダヘッド13には、各シリンダ11について二つずつ、排気弁22と、排気弁22を閉方向に付勢するリターンスプリング84とが設けられている。また、シリンダヘッド13の上部において、ロッカーアーム85を介してリターンスプリング84の付勢力に抗して排気弁22を開弁する排気側のカム軸86を備えている。カム軸86は、シリンダヘッド13に設けられた軸受部80に回転自在に支持されている。カム軸86は、図5では図示を省略するクランクシャフト15により、チェーンを介して回転駆動される。
カム軸86には、筒状のカム要素部81がスプライン嵌合されている。カム要素部81は、カム軸86に対して回転方向に結合して一体回転するとともに、軸方向にスライド可能に嵌合されている。カム要素部81は、図示は省略するが、各シリンダ11に対応するように、カム軸86上でカム軸方向に列状に配置されている。カム要素部81は、ロッカーアーム85のカムフォロア851に摺接することで排気弁22を開閉させる、第1のカム部811、及び、第2のカム部812を有している。第1のカム部811は、第1カムに相当し、第2のカム部812は、第2カムに相当する。一つのシリンダ11に対して二つの排気弁22が設けられていることに対応して、第1のカム部811及び第2のカム部812はそれぞれ、一つのシリンダ11に対して二つずつ設けられている。
第1のカム部811及び第2のカム部812は、互いに隣接して設けられている。第1のカム部811は、後述するように、低負荷SI領域、過給CI領域、及び高負荷SI領域において選択されるカム部であり、第2のカム部812は、非過給CI領域において選択されるカム部である。
第1のカム部811及び第2のカム部812は、ベースサークル813が共通で、リフト量が異なるノーズ部がベースサークル813上に位相差をもって設けられている。尚、ベースサークル813が共通であるとは、第1のカム部811と第2のカム部812とのベースサークル813のベース円の径が同じであることを意味する。
カム要素部81の軸方向の両端部には、端面カム82がそれぞれ設けられている。端面カム82は、回転方向に対して基準面から軸方向のリフト量が次第に増加し、リフト終了位置で基準面に戻るように形成されている。
カム要素部81の上方でかつ、カム軸方向両側の端面カム82に対応する位置には、電磁式アクチュエータ83が配設されている。電磁式アクチュエータ83は、通電時にカム軸86に向かって突出可能なピン部831を有する。ECU10からの制御信号も応じて、電磁式アクチュエータ83に通電しない状態では、ピン部831は、アクチュエータ内部に設けられた永久磁石によって上方の不作動位置に保持される。一方、電磁式アクチュエータ83に通電されると、ピン部831は、永久磁石に抗して下方へ突出して作動位置に進出する。
電磁式アクチュエータ83のピン部831が作動位置に進出すると、ピン部831の先端部が対応する端面カム82に摺接することとなり、カム要素部81がカム軸方向へスライドされる。
具体的に、カム要素部81の一端側(つまり、図5における右側)の電磁式アクチュエータ83を作動させて、ピン部831をカム要素部81の一端側の端面カム82に摺接させると、カム要素部81は、カム軸方向の他端側(つまり、図5における左側)にスライドして、第2のカム部812がロッカーアーム85のカムフォロア851に摺接するようにシフトする。また、カム要素部81の他端側の電磁式アクチュエータ83を作動させて、ピン部831をカム要素部81の他端側の端面カム82に摺接させると、カム要素部81は、カム軸方向の一端側にスライドして、第1のカム部811がロッカーアーム85のカムフォロア851に摺接するようにシフトする。このように、カム要素部81の軸方向へのシフトによって、第1のカム部811及び第2のカム部812のうちで排気弁22を開閉させるカム部が切り替えられることになる。端面カム82及び電磁式アクチュエータ83によって、第1のカム部811及び第2のカム部812を切り替える切り替え機構が構成されている。
次に、図6を参照しながら、吸気弁21及び排気弁22の開弁動作を説明する。吸気弁21のリフト量は、吸気CVVL232によって、図6に示すように、最小リフトから最大リフトの間を連続的に変化する。ここで、吸気CVVL232は、吸気弁21の閉弁時期を一定に維持しつつ、吸気弁21のリフト量を変更するよう構成されている。従って、吸気弁21のリフト量が大きくなると、吸気弁21の開弁時期は進角する。また、図6には示していないが、吸気VVT231によって、吸気弁21のバルブタイミングは、所定の範囲で変更される。
排気VVL242における第1のカム部811のカムプロフィールは、図6には示していないが、吸気弁21のカムプロフィールと同様に、クランク角の進行に対して、排気弁22のリフト量が、ゼロから次第に増えて最大リフト量に至ると共に、その後、リフト量が次第に減ってゼロに至るような、一つのカム山を有している。
これに対し、排気VVL242における第2のカム部812のカムプロフィールは、図6に例示するように、リフトカーブにおける閉弁側に、クランク角の進行に対して、排気弁22のリフトを略一定に維持するリフト棚部222を有している。より詳細に、第2のカム部812のカムプロフィールは、大リフト部221と、リフト棚部222と、小リフト部223とを有している。大リフト部221は、クランク角の進行に対して、排気弁22のリフト量がゼロから次第に増えて最大リフト量に至ると共に、その後、リフト量が次第に減る部分である。大リフト部221は、排気行程において排気弁22を開弁する第1のカム山に相当する。リフト棚部222は、大リフト部221に連続すると共に、排気弁22のリフトを略一定に維持したまま、吸気行程へと至る部分である。小リフト部223は、リフト棚部222に連続すると共に、排気弁22のリフト量を、リフト棚部222よりも大きくした後、リフト量が次第に減ってゼロへと至る部分である。リフト棚部222及び小リフト部223は、第1のカム山に連続すると共に、排気行程から吸気行程まで、排気弁22を開弁したままにする第2のカム山に相当する。
ここで、図6における破線は、ピストン3の頂面と、排気弁22の配設箇所における燃焼室17の天井面との隙間の大きさを示しており、リフト棚部222のリフト量は、排気弁22がピストン3の頂面に干渉しない限度において、最大リフト量に設定されている。また、小リフト部223を設けることによって、排気弁22の開弁から閉弁までの期間を短くしながら、吸気行程において排気弁22が開弁している量(つまり、図6に示す排気弁22のリフトカーブが、吸気行程の期間において形成する範囲の面積)を大きくすることができる。吸気行程において排気弁22が開弁している量を大きくすると、燃焼室17の中に導入される内部EGRガスの導入量が増える。尚、リフト棚部222のリフト量は、前記の最大リフト量よりも小さくしてもよい。
また、第2のカム部812は、排気カムに相当する。第2のカム部812のバルブリフト特性の詳細については、別途後述する。
排気弁22のバルブタイミングは、排気VVT241によって、図6に矢印で示すように、所定の範囲で変更される。
図7は、各運転領域における吸気弁21及び排気弁22のバルブリフトの関係を例示している。先ず、グラフ701は、エンジン1が高負荷SI領域において運転しているときの、吸気弁21及び排気弁22のバルブリフトの関係の一例である。吸気弁21は、吸気CVVL232によって、リフト量が大に設定される。また、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、エンジン1の運転状態に応じて、吸気VVT231により、適宜調整される。一方、排気弁22は、排気VVL242の第1のカム部811によって開弁する。排気弁22は、排気行程において開弁し、排気上死点の付近において閉弁する。排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、排気VVT241によって、適宜の時期に設定される。エンジン1が高負荷SI領域において運転しているときには、排気上死点の周りにおいて、吸気弁21及び排気弁22が共に開弁する。つまり、可変動弁システムは、高負荷SI領域において、第3モードで動作する。吸気弁21及び排気弁22のポジティブオーバーラップ期間を設けることと、過給機44が過給を行うこととが組み合わさって、燃焼室17の中の既燃ガスの掃気が促進される。エンジン1が高負荷SI領域において運転しているときに、燃焼室17の中に導入される内部EGRガスは、実質的にゼロになる。このことは、高負荷SI領域において、異常燃焼を回避する上で有利になる。
グラフ704は、エンジン1が低負荷SI領域において運転しているときの、吸気弁21及び排気弁22のバルブリフトの関係の一例である。吸気弁21は、吸気CVVL232によって、リフト量が小に設定される。また、吸気弁21の開弁時期及び閉弁時期は、エンジン1の運転状態に応じて、吸気VVT231により、適宜調整される。一方、排気弁22は、排気VVL242の第1のカム部811によって開弁する。排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、排気VVT241によって、適宜の時期に設定される。エンジン1が低負荷SI領域において運転しているときにも、燃焼室17の中に導入される内部EGRガスは、実質的にゼロになる。
グラフ703は、エンジン1が非過給CI領域において運転しているときの、吸気弁21及び排気弁22のバルブリフトの関係の一例である。排気弁22は、排気VVL242の第2のカム部812によって開弁する。従って、排気弁22の閉弁時期は、吸気行程の期間内になる。また、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、後述するように、エンジン1の負荷の高低に応じて、排気VVT241により調整される。吸気弁21のリフト量は、後述するように、吸気CVVL232によって、所定の大リフト量に設定される。また、吸気弁21の閉弁時期は、吸気VVT231により所定の時期に設定される一方で、吸気弁の開弁時期は、リフト量に応じて設定される。排気弁22を吸気行程において開弁することにより、排気行程中に排気ポート19に排出された既燃ガスが、燃焼室17の中に再導入される。燃焼室17の中には、所定量の内部EGRガスが導入される。つまり、非過給CI領域において、可変動弁システムは、第2モードで動作する。
尚、第2モードは内部EGRモードに相当する。
グラフ702は、エンジン1が過給CI領域において運転しているときの、吸気弁21及び排気弁22のバルブリフトの関係の一例である。排気弁22は、排気VVL242の第1のカム部811によって開弁する。また、排気弁22の開弁時期及び閉弁時期は、後述するように、エンジン1の負荷の高低に応じて、排気VVT241により調整される。排気弁22の閉弁時期は、排気上死点よりも前に設定される。吸気弁21のリフト量は、後述するように、吸気CVVL232によって、エンジン1の負荷の高低に応じて変更される。また、吸気弁21の閉弁時期は、吸気VVT231により所定の時期に設定される一方で、吸気弁21の開弁時期は、リフト量に応じて設定される。排気弁22及び吸気弁21は、排気上死点周りにおいて共に閉弁する。排気弁22及び吸気弁21のネガティブオーバーラップ期間を設けることにより、既燃ガスの一部が、燃焼室17の中に閉じ込められる。燃焼室17の中には、所定量の内部EGRガスが導入される。つまり、過給CI領域において、可変動弁システムは、第1モードで動作する。
次に、図8及び図9を参照しながら、エンジン1の負荷の高低に対する吸気弁21及び排気弁22の可変動弁システムの制御、及び、過給システム49の制御について詳細に説明をする。以下においては、エンジン1が、負荷の低い状態から負荷の高い状態へと次第に変化すると仮定して、各運転領域における可変動弁システム、及び、過給システム49の制御について説明をする。尚、エンジン1が、負荷の高い状態から負荷の低い高い状態へと次第に変化するときには、以下の説明とは逆になる。
先ず、図8のグラフ801は、エンジン1の回転数が所定回転数のときの、エンジン1の負荷の高低に対する、内部EGR率の変化を示している。エンジン1の負荷が低い低負荷SI領域においては、前述したように、燃焼室17の中に導入する内部EGRガスの量は、実質的にゼロになる。従って、内部EGR率も、実質的にゼロである。このときに、排気弁22は、第1のカム部811によって開弁する。排気VVT241は、グラフ802に示すように、排気弁22のバルブタイミングを遅角側に設定する。これにより、排気弁22の閉弁時期(EVC)は、グラフ803に示すように、排気上死点付近に設定される。
吸気CVVL232は、吸気弁21のリフト量を、図9のグラフ901に示すように、所定の小リフト量にする。吸気VVT231は、グラフ902に示すように、吸気弁21の閉弁時期(IVC)を、吸気下死点前にする。これに伴い、吸気弁21の開弁時期(IVO)は、グラフ903に示すように、所定の時期に設定される。
低負荷SI領域においては、過給システム49は、吸気の過給を行わない(グラフ904参照)。また、ECU10は、スロットル弁43を適宜の開度に調整し、燃焼室17の中に導入する新気の量を調整する。よって、過給圧(つまり、吸気圧)は、大気圧よりも低くなる。
エンジン1の負荷が高くなった非過給CI領域においては、グラフ801に示すように、燃焼室17の中に比較的大量の内部EGRガスの量を導入する。グラフ803に示すように、排気VVL242は、低負荷SI領域と非過給CI領域との境界において、第1のカム部811と第2のカム部812との切り替えを行う。つまり、エンジン1の運転状態が低負荷SI領域から非過給CI領域へと移行するときには、排気VVL242は、第1のカム部811から第2のカム部812に切り替える。排気弁22の閉弁時期(EVC)は、グラフ803に示すように、排気上死点付近から、吸気行程の期間内へと、瞬時に遅角する(図7のグラフ703の実線も参照)。これにより、大量の内部EGRガスを、燃焼室17の中に導入することが可能になる。可変動弁システムが第2モードで動作すると、第1モードで動作するときと比較して、内部EGR率を高くすることが可能になる。非過給CI領域では、エンジン1の負荷が相対的に低いため、内部EGRガスの温度が相対的に低くなるが、可変動弁システムを第2モードで動作させることによって大量の内部EGRガスを燃焼室17の中に導入することができるから、燃焼室17の中の温度を、所望の温度にまで高くすることができる。その結果、非過給CI領域において、CI燃焼を安定化させることができる。
排気VVT241は、グラフ802に示すように、非過給CI領域において、エンジン1の負荷が高くなるに従い、排気弁22のバルブタイミングを次第に進角させる。これにより、排気弁22の閉弁時期は、グラフ803に示すように、吸気行程の期間内において、排気上死点に向かって次第に進角する。吸気行程の期間内において開弁している排気弁22の開弁量が少なくなる(グラフ703の破線を参照)から、燃焼室17の中に導入される内部EGRガスの量が、次第に減る。よって、グラフ801に示すように、非過給CI領域において、内部EGR率は、エンジン1の負荷が高くなるに従い、次第に低くなる。エンジン1の負荷が高くなるに従い、燃料量が増えて燃焼室17の中の温度は高くなる。内部EGRガスを減らしても、混合気を安定して自己着火により燃焼させることが可能になる。また、吸気の過給を行わない非過給CI領域では、内部EGRガスを減らす分、新気が増えるため、燃料量の見合った新気を確保することができる。
吸気VVT231は、非過給CI領域において、吸気弁21のバルブタイミングを遅角する。吸気弁21のリフト量は、グラフ901に示すように、非過給CI領域においては、所定の大リフト量に変更される。こうすることで、図10に示すように、吸気行程の期間における吸気弁21と排気弁22との開弁量の和が大きくなるから、エンジン1のポンプ損失を低減することが可能になる。所定の大リフト量は、例えば最小リフト量よりも大きくかつ、最大リフト量よりも小さい、としてもよい。吸気CVVL242は、吸気弁21の閉弁時期を変更せずに、リフト量を変更するため、グラフ902に示すように、吸気弁21の閉弁時期は、非過給CI領域において一定であると共に、グラフ903に示すように、吸気弁21の開弁時期は、リフト量が大きくなることに伴い進角する。
尚、非過給CI領域において、過給システム49は、吸気の過給を行わない(グラフ904参照)。また、ECU10は、スロットル弁43を全開にする。これにより、過給圧は大気圧になる。
エンジン1の負荷がさらに高くなった過給CI領域においては、グラフ801に示すように、内部EGR率を、エンジン1の負荷が高くなるに従い、次第に低くする。非過給CI領域と過給CI領域との境界において、内部EGR率は連続している。従って、非過給CI領域と過給CI領域との全体に亘って、エンジンの負荷が高くなるに従い、内部EGR率は連続的に低下する。グラフ801に示すように、内部EGR率は、非過給CI領域から過給CI領域までの間において、エンジン1の負荷が高まるに従い、一次関数的に低下する。
前述したように、非過給CI領域では、排気VVL242は、排気弁22を第2のカム部812で開弁し、過給CI領域では、排気VVL242は、排気弁22を第1のカム部811で開弁する(グラフ803も参照)。エンジン1の運転状態が、非過給CI領域から過給CI領域へと移行するタイミングで、ECU10は、排気VVL242に、第2のカム部812から第1のカム部811への切り替えを実行させる。カムの切り替え前後において、内部EGR率が急変してしまうことを防止しなければならない。
第1のカム部811と第2のカム部812との切り替えは、詳細な図示は省略するが、カム要素部81において、第1のカム部811と第2のカム部812との間で段差が無いタイミングで行う。具体的には、図7に白抜きの矢印で示すように、最大リフトを超えた閉弁側において、排気弁22のリフト量が、第1のカム部811と第2のカム部812との間で一致している所定のタイミングで行う。
排気弁22のバルブタイミングが、図7のグラフ703の破線で示す所定の進角位置にあるときに、排気VVL242が、第2のカム部812から第1のカム部811への切り替えを行うと、グラフ702に実線で示すように、排気弁22のリフトカーブが瞬時に切り替わる。これにより、排気弁22の閉弁時期は、吸気行程の期間内から、排気行程期間内へと瞬時に変化する。可変動弁システムは、排気弁22を吸気行程において開弁することによって、内部EGRガスを燃焼室17の中に導入していた第2モードから、排気弁22を、排気上死点前に閉弁することによって内部EGRガスを燃焼室17の中に閉じ込める第1モードへと切り替わる。内部EGRガスを燃焼室の中に導入する手段は変わるものの、内部EGRガスを燃焼室の中に導入する状態は継続することができる。
非過給CI領域から過給CI領域へ移行するタイミングで、吸気CVVL232は、グラフ901に示すように、吸気弁21のリフト量を、前記の大リフト量から所定のリフト量まで小さくする。これによってグラフ903に示すように、吸気弁21の開弁時期が遅角側へと変更される。こうすることで、図7のグラフ702に示すように、排気弁22の閉弁時期から排気上死点までの期間と、排気上死点から吸気弁21の開弁時期までの期間が等しくなる。吸気弁21及び排気弁22のネガティブオーバーラップ期間を設けたときに、ポンプ損失を小さくすることが可能になる。
また、過給システム49は、過給CI領域において過給を行う。具体的には、ECU10が、電磁クラッチ45を接続することにより、過給機44が過給を開始する。過給圧は、グラフ904に示すように、エンジン1の負荷が高くなるに従い、次第に高くなる。過給圧の調整は、ECU10が、エアバイパス弁48の開度を調整することにより行う。
仮に過給CI領域において排気VVL242が第2モードで動作していると、吸気行程において排気弁22及び吸気弁21の両方が開弁しているときに、エンジン1の吸気側から、燃焼室17を通って、排気側へと流れる吸気の吹き抜けが発生してしまう。これにより、燃焼室17の中に導入する内部EGRガスの量を精度よく調整することが難しくなる。つまり、内部EGR率の制御性が低下してしまう。
これに対し、過給CI領域において、排気VVL242を第1モードで動作させることにより、吸気行程において排気弁22及び吸気弁21の両方が開弁することがないから、前述した吸気の吹き抜けを防止することができる。これにより、内部EGR率の制御性が向上する。
また、排気VVL242を第1モードで動作させると、燃焼室17の中に、大量の内部EGRガスを導入することが困難になるが、過給CI領域は、エンジン1の負荷が相対的に高い領域であるため、CI燃焼を安定化するために要求される燃焼室17内の温度は、相対的に低い。また、過給CI領域では、燃料量が相対的に多いため、内部EGRガスの温度が相対的に高くなる。従って、燃焼室17の中に導入する内部EGRガスの量が少なくても、燃焼室17の中の温度を所望の温度にまで高めることが可能になる。
過給CI領域において、排気VVT241は、グラフ802に示すように、排気弁22のバルブタイミングをエンジン1の負荷が高くなるに従い、次第に遅角させる。これにより、排気弁22の閉弁時期は、グラフ803に破線で示すように、排気上死点に近づくから、ネガティブオーバーラップ期間が短くなって、内部EGR率が次第に低下する。
過給CI領域において、吸気CVVL232は、グラフ901に示すように、吸気弁21のリフト量を、エンジン1の負荷が高まるに従い、次第に大きくする。これにより、吸気弁21の閉弁時期は、グラフ902に示すように、一定のままで、吸気弁21の開弁時期は、グラフ903に示すように、次第に進角する(図7のグラフ702の矢印も参照)。
これにより、燃料量の増量に対応するように、燃焼室17の中に導入する新気量を増やすことができる。図11は、非過給CI領域における、燃焼室17内のガス組成の一例と、過給CI領域における、燃焼室17内のガス組成の一例との比較である。非過給CI領域及び過給CI領域のそれぞれにおいて、エンジン1の負荷の高低に関わらず、混合気のG/F(つまり、燃焼室17の中の全ガスと燃料との質量比)は一定に維持される一方で、混合気のA/Fは、エンジン1の負荷が高くなると、大きくなる。尚、前述したように、非過給CI領域及び過給CI領域において、混合気のA/Fは、理論空燃比よりもリーンである(つまり、混合気の空気過剰率λは、1を超える)。
高負荷SI領域においては、前述したように、内部EGR率を実質的にゼロにする(グラフ801参照)。排気VVT241は、グラフ802に示すように、排気弁22のバルブタイミングを最遅角にし、これにより、排気弁22の閉弁時期は、グラフ803に示すように、排気上死点よりも遅角側(つまり、吸気行程内)になる。排気VVT241は、高負荷SI領域においては、エンジン1の負荷の高低に関わらす、排気弁22のバルブタイミングを一定にする(グラフ802、803参照)。
高負荷SI領域においては、混合気のA/Fは、略理論空燃比になる。A/Fが理論空燃比よりもリーンである過給CI領域から、高負荷SI領域へと、エンジン1の運転状態が移行するタイミングで、燃焼室17の中に導入する新気量を減らさなければならない。吸気CVVL242は、グラフ901に示すように、吸気弁21のリフト量を一旦、低くする。これに伴い、吸気弁21の開弁時期が、グラフ903に示すように、一旦、遅角する。高負荷SI領域において、吸気CVVL242は、吸気弁21のリフト量を、エンジン1の負荷が高くなるに従い、次第に大きくする。これに伴い、吸気弁21の開弁時期は、エンジン1の負荷が高くなるに従い、次第に進角する。
吸気VVT231はまた、高負荷SI領域において、グラフ902に示すように、エンジン1の負荷が高くなるに従い、吸気弁21の閉弁時期を、次第に遅角する。吸気弁21は、圧縮行程において閉弁する遅閉じとなり、吸気弁21の遅閉じ量が次第に増える。
また、過給システム49は、エンジン1の運転状態が過給CI領域から高負荷SI領域へと移行するタイミングで、新気量の調整のために、過給圧を、一旦、低くする(グラフ904参照)。過給システム49は、高負荷SI領域において、エンジン1の負荷が高くなるに従い、過給圧を次第に高める。
エンジン1の負荷が高くなるほど、吸気弁21の遅閉じ量を増やすことによって、ノッキングの発生を回避することが可能になる。その一方で、吸気弁21を遅閉じにする分、過給圧を高める必要があるため、過給機44の仕事はロスになる。
ここで、変形例として図12のグラフ1201に示すように、吸気VVT231は、吸気弁21の閉弁時期を、高負荷SI領域において一定に維持するようにしてもよい。この場合、ノッキングの発生を回避するために、点火時期をリタードしなければならない場合がある。一方、過給システム49は、グラフ1202に示すように、過給圧を相対的に低くすることが可能になる。尚、グラフ1202における破線は、図9のグラフ904の実線に相当する。
吸気VVT231による吸気弁21の閉弁時期の設定は、過給機44の効率に応じて、図9のグラフ902か、又は、図12のグラフ1201のいずれか一方を、適宜、設定すればよい。また、エンジン1の回転数の高低に応じて、グラフ902か、又は、グラフ1201のいずれか一方を選択してもよい。
(非過給CI領域と過給CI領域との境界におけるカムの切り替え制御)
図13は、非過給CI領域及び過給CI領域における、排気VVT241による排気弁22のバルブタイミングと、内部EGR率との関係を示している。図13において「NVOによる内部EGR」と示される線は、排気VVL242が第1モードで動作することにより、吸気弁21及び排気弁22のネガティブオーバーラップ期間を設けることによって、燃焼室17の中に内部EGRガスを導入するときの、排気弁22のバルブタイミングと、内部EGR率との関係である。この場合、排気弁22のバルブタイミングを進角すると、ネガティブオーバーラップ期間が長くなるから、内部EGR率が高くなる。よって、「NVOによる内部EGR」と示される線は、図13において右上がりになる。
排気VVL242が第2モードで動作することにより、排気弁22が、吸気行程において開弁することによって、燃焼室17の中に内部EGRガスを導入するときは、排気弁22のバルブタイミングを進角すると、吸気行程において排気弁22が開弁している期間が短くなるから、内部EGR率が低くなる一方、排気弁22のバルブタイミングを遅角すると、吸気行程において排気弁22が開弁している期間が長くなるから、内部EGR率が高くなる。
ここで、排気VVL242が第2モードで動作しているときは、吸気弁21のリフト量を変更すると、吸気弁21を通じて燃焼室17の中に流入するガス流れに対する抵抗が変化するから、燃焼室17の中に導入される内部EGRの量が変更する。具体的には、吸気弁21のリフト量が小さいと、排気弁22を通じて既燃ガスが相対的に流れやすくなるから内部EGR率が高くなり、吸気弁21のリフト量が大きいと、吸気弁21を通じて新気が相対的に流れやすくなるから内部EGR率が低くなる。図13の、二本の一点鎖線の内「最大リフト」と示す線は、吸気弁21のリフト量を最大リフト量とした上で、排気弁22のバルブタイミングを変更したときの内部EGR率の変化を示す。「最小リフト」と示す線は、吸気弁21のリフト量を最小リフト量とした上で、排気弁22のバルブタイミングを変更したときの内部EGR率の変化を示す。「最大リフト」及び「最小リフト」と示される線はそれぞれ、図13において右下がりになる。
また、図13に縦の矢印で示すように、排気弁22のバルブタイミングが同じであっても、吸気弁21のリフト量を変更することによって、内部EGR率を変更することが可能である。
前述したように、非過給CI領域と過給CI領域との境界では、第1のカム部811と第2のカム部812との切り替え前後で、内部EGR率が変わらないように、第1のカム部811と、第2のカム部812との切り替えが行われる。具体的には、排気VVT241によって排気弁22のバルブタイミングが所定のタイミングのときに、排気VVL242は、ECU10からの制御信号に基づいて、カムの切り替えを行う。非過給CI領域においては、ポンプ損失を少なくする観点から、前述したように吸気弁21のリフト量は所定の大リフト量にする。エンジン1の負荷が高くなって、排気弁22のバルブタイミングが進角するに従い、内部EGR率は、図13に太矢印で示すように、次第に低下する。そして、太矢印が、「NVOによる内部EGR」の線と交差するバルブタイミングで、排気VVL242が第2モードで動作しているときの内部EGR率と、排気VVL242が第1モードで動作しているときの内部EGR率とが一致する。従って、このバルブタイミングで、第2のカム部812から第1のカム部811への切り替えが行われる。吸気弁21のリフト量を大リフト量にすることで、前述したように、非過給CI領域におけるポンプ損失の低減という作用効果の他に、第2のカム部812から第1のカム部811への切り替えを行うことができるまでの、排気弁22の進角量を少なくすることができるという作用効果を奏する。
例えば、アクセルペダルの踏み込み操作に伴い加速をする状況においては、エンジン1の運転状態が非過給CI領域から過給CI領域へと速やかに移行をして、過給システム49による過給を速やかに開始することが可能になる。運転者の加速要求に対するレスポンスを向上させることが可能になる。
また、排気VVL242が第2モードで動作しているときには、吸気弁21のリフト量の調整によって、内部EGR率を調整することができるから、前述したように排気弁22のバルブタイミングを調整することに加えて、吸気弁21のリフト量の調整を行うことにより、第1のカム部811と、第2のカム部812との間の切り替え時に、内部EGR率が変わってしまうことを、確実に防止することができる。また、様々な要因によって排気弁22のバルブタイミングを調整することだけでは、内部EGR率が一致しない状況であっても、吸気弁21のリフト量の調整を行うことにより、内部EGR率が一致するようになり、第1のカム部811と、第2のカム部812との間の切り替えを速やかに行うことができる。
次に、図14に示すフローチャートを参照しながら、非過給CI領域と、過給CI領域との間におけるカムの切り替え制御について説明をする。ステップS1において、ECU10は、各種のセンサSW1〜SW16から入力された検出信号等に基づき、エンジン1の運転状態を読み込む。
次に、ステップS2において、ECU10は、各種のセンサSW1〜SW16から入力された検出信号等に基づき、エンジン1に要求される運転状態を把握する。また、その運転状態に対応する各デバイス(インジェクタ6、点火プラグ25、燃料供給システム61、スロットル弁43及びEGR弁54)、並びに、各システム(可変動弁システム(吸気VVT231、吸気CVVL232、排気VVT241及び排気VVL242)及び過給システム49(電磁クラッチ45及びエアバイパス弁48)の制御量のベースセットを読み込む。
次に、ステップS3において、ECU10は、エンジン1に対する要求運転状態が非過給CI領域と過給CI領域との間で切り替わるか否かを判定する。この判定がYESのときには、プロセスはステップS4に進み、NOのときには、プロセスはステップS1に戻る。
ステップS4において、ECU10は、非過給CI領域から過給CI領域への切り替えか否かを判定する。この判定がYESのときには、プロセスはステップS5に進み、NOのときには、プロセスはステップS7に戻る。
非過給CI領域から過給CI領域への切り替えであるステップS5では先ず、ECU10は、排気VVL242が、第2のカム部812から第1のカム部811への切り替えを行うよう制御信号を出力する。これにより、吸気弁21及び排気弁22のネガティブオーバーラップ期間が設けられる。
その後のステップS6において、ECU10は、過給システム49に対し、過給を開始するよう制御信号を出力する。これにより、電磁クラッチ45が接続し、過給機44が過給を開始する。
このように、排気VVL242が排気弁22のカムの切り替えを行った後で、過給システム49が過給を開始することにより、過給CI領域において、吸気側から排気側への吸気の吹き抜けを防止することができる。その結果、内部EGR率の調整を、精度よく行うことができる。
過給CI領域から非過給CI領域への切り替えであるステップS7では、ECU10は、過給システム49に対して、過給を停止するよう制御信号を出力する。そして、ステップS8で、ECU10は、過給圧が所定値以下に低下したか否かを判定する。過給圧が所定値以下に低下していない間は、ステップS8を繰り返す。過給圧が所定値以下に低下すれば、ステップS9に進む。
ステップS9において、ECU10は、排気VVL242に対し、第1のカム部811から第2のカム部812への切り替えを行うよう制御信号を出力する。これにより、排気弁22が、吸気行程において開弁する。カムの切り替えを行うときには、過給圧が低下しているため、吸気側から排気側への吸気の吹き抜けを防止することができる。その結果、内部EGR率の調整を、精度よく行うことができる。
<内部EGRモード>
第2モード(内部EGRモードに相当)について、更に詳しく説明する。前述したように、第2モードは、排気弁22の開弁時期を吸気行程まで拡大し、排気行程及び吸気行程の両行程にわたって排気弁22を開弁させることにより、燃焼室17に内部EGRガスを導入するモードである。第2モードは、排気行程で排気弁22を開弁させる第1モードとの間で、エンジン1の運転状態に応じてカムを切り替えることによって選択される(いわゆるカムシフティング)。すなわち、排気VVL242が、第1モードを構成する第1のカム部811から第2のカム部812(排気カムに相当)に切り替えることによって第2モードが実行されるようになっている。
第2のカム部812は、独特なカムプロフィールを有しており、排気弁22は、そのカムプロフィールに基づくバルブリフト特性に従って開弁動作を行う。すなわち、排気弁22のリフト量は、クランク角に応じて連続的に変動する所定のリフトカーブ(軌跡)を描く。
具体的には、第2のカム部812のバルブリフト特性は、大リフト部221と、リフト棚部222と、小リフト部223とを有している(図6参照)。具体的には、クランク角の進角側に位置し、排気行程において相対的に大きなリフト量をピーク値とする大リフト部221と、クランク角の遅角側に位置し、吸気行程において相対的に小さなリフト量をピーク値とする小リフト部223と、これら大リフト部221と小リフト部223との間に連なる略平坦なリフト棚部222と、を有している。
リフト棚部222は、大リフト部221のピーク値よりも十分小さい一定のリフト量を保持しながら、大リフト部221から連続して吸気行程側に直線状に延びている。従って、ピストン3との干渉を回避しつつ、大リフト部221によって排気行程で十分な排気を行いながら、吸気行程にも、排気弁22を開いた状態で移行することができる。排気行程から吸気行程にわたって、排気弁22は開いたままであるので、内部EGRガスを円滑に燃焼室17に導入することができ、より多くの内部EGRガスを燃焼室17に導入できる。
リフト棚部222における排気弁22のリフト量は、本実施形態で示すように、排気上死点(ピストン3の物理的な変位上限)に位置するピストン3と干渉しないように設定するのが好ましい。排気弁22は、第2のカム部812のカムプロフィールという、物理的な制約に従ってリフトするため、仮に制御において誤作動が生じても、排気弁22とピストン3との干渉(接触)を確実に回避できる(フェールセーフ)。
特に、その排気弁22のリフト量を最大量に設定すれば、多量の内部EGRガスを導入できるようになり、高い内部EGR率が実現できる。
そして、吸気行程に延びるリフト棚部222の吸気行程側の部分に、リフト棚部222よりもリフト量が大きなピーク値とする小リフト部223が設けられている。従って、吸気行程において排気弁22が開いている量が増加し、より多量の内部EGRガスを燃焼室17に導入することができ、高い内部EGR率が実現できる。内部EGRガスの導入量が同じであれば、小リフト部223が無い場合に比べて、排気弁22の開弁期間を短縮できる。排気弁22の開弁期間の短縮は、第2のカム部812のサイズ縮小に役立つため、カム設計の自由度を高める利点もある。
小リフト部223は、本実施形態で示すように、第2のカム部812のバルブリフト特性の最遅角位置に設けるのが好ましい。すなわち、小リフト部223のピーク値に続く遅角側のリフト量が、段差を経ることなく、次第に減ってゼロへと至る状態にするのが好ましい。このように小リフト部223を、そのバルブリフト特性の吸気行程側の端部に位置させることにより、相対的に、ピストン3との干渉が回避できるリフト棚部222の範囲を大きくできる。そうすることで、排気弁22のバルブタイミングを変更できる範囲が拡大し、制御の自由度を向上させることができる。
また、例えば、小リフト部223の遅角側にも更にリフト棚部222のようなものが有るなど、小リフト部223を最遅角位置に設けない場合に比べて、小リフト部223の面積も拡大できるので、効率的に、より多くの内部EGRガスを燃焼室17に導入でき、更に高い内部EGR率が実現できる。
特に、小リフト部223のピーク値での排気弁22のリフト量は、本実施形態で示すように、排気上死点に位置するピストン3と干渉しない量を超えるようにするのが好ましい。そうすることで、小リフト部223による排気弁22のリフト量がより大きくなる。排気弁22のリフト量が大きくなる分、更に多量の内部EGRガスを導入できるようになり、より高い内部EGR率が実現できる。
一方、このように、小リフト部223のピーク値での排気弁22のリフト量を大きくすると、排気弁22とピストン3とが接触する場合はあり得るが、前述したように、排気VVT241による排気弁22のバルブタイミングの設定により、そのような場合が発生するのを回避できる。
すなわち、排気弁22のバルブタイミングは、排気VVT241によって所定の範囲で変更される。具体的には、図6に矢印で示す範囲で、エンジン11の運転状態に応じて進角したり遅角したりする。小リフト部223での排気弁22のリフト量だけでなく、大リフト部221での排気弁22のリフト量も、通常は、排気上死点に位置するピストン3と干渉しない量を超えるため、排気VVT241の制御によっては排気弁22とピストン3とが干渉するおそれがある。
それに対し、排気VVT241が変更可能な排気弁22の最遅角位置、つまりは物理的な遅角制御の限界(図6において最も右側に位置する実線で示す、排気弁22のリフトカーブが最も遅角側に有る状態)において、排気上死点よりも進角側に位置する大リフト部221での排気弁22のリフト量が排気上死点に位置するピストン3と干渉しないように設定されている。
同様に、排気VVT241が変更可能な排気弁22の最進角位置、つまりは物理的な進角制御の限界(図6において最も左側に位置する実線で示す、排気弁22のリフトカーブが最も進角側に有る状態)において、排気上死点よりも遅角側に位置する小リフト部223での排気弁22のリフト量が排気上死点に位置するピストン3と干渉しないように設定されている。
従って、排気VVT241で、いかなる制御が行われても、つまりは誤作動が発生したとしても、排気弁22とピストン3とが干渉することを確実に回避できるようになっている(フェールセーフ)。
第1及び第2のカム部811,812の切り替えは、本実施形態で示すように、排気弁22が閉じる方向に変位しているときに行うのが好ましい。
これら第1及び第2のカム部811,812の切り替えは、エンジン1の運転状態が、低負荷SI領域と非過給CI領域との間で移行するときと、非過給CI領域と過給CI領域との間で移行するときの、2つのポイントで行われる(グラフ803参照)。
これらポイントでの第1のカム部811及び第2のカム部812の切り替えは、前述したように、カム要素部81において、第1のカム部811と第2のカム部812との間で、ピーク値を超えた閉弁側の段差が無い所定のタイミングで行われる。
具体的には、図15に示すように、第1のカム部811のバルブリフト特性225におけるピーク値(リフト量が最大となる点)から離れる遅角側(排気弁22が閉じる過程)の所定範囲225aと、同じく、第2のカム部812のバルブリフト特性における大リフト部221のピーク値から離れる遅角側の、リフト棚部222に至るまでの所定範囲221aとが、互いに重なる、カムプロフィールの段差が無いタイミングで切り替えが行われる。
このように、排気弁22が閉じる方向に変位しているときに切り替えるようにすれば、図15に示すような、クリアランスが狭くて干渉し易い最遅角位置で切り替える場合(低負荷SI領域と非過給CI領域との間で切り替える場合)であっても、排気弁22はピストン3から離れる方向に変位しているので、制御に誤作動が生じてタイミングに多少のズレが発生してもピストン3との干渉を回避できる。
更には、第1のカム部811から第2のカム部812に切り替えるときには、切り替わった後直ぐに、吸気行程で排気弁22を開弁させることができるので、内部EGRガスの導入に対する応答性に優れる。また、第2のカム部812から第1のカム部811に切り替えるときには、切り替わった後直ぐに、排気弁22を閉弁できるので、ネガティブオーバーラップ期間の設定に対する応答性も優れる。
従って、このエンジン1によれば、多量の内部EGRガスを効率的に燃焼室17に導入できるようになり、高い内部EGR率が実現できる。それにより、内部EGRガスの導入安定性を向上させることができる。
尚、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1の構成は、様々な構成を採用することが可能である。例えば、前記の構成では、エンジン1は、機械式のスーパーチャージャーを備えているが、これに代えて、排気エネルギによって駆動するターボ過給機を備えるようにしてもよい。