本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、就寝者の呼吸状態の変化をより精度よく計測することができる、新規な構造の呼吸計測装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第一の態様は、就寝者の呼吸動作に伴う圧力変動を検出する圧力センサと、前記圧力センサにより検出された圧力変動時系列データにおける呼吸に関連する周波数成分に対してCDM処理を行い、瞬時周波数の時系列データを生成するデータ生成手段と、前記データ生成手段で得られたデータを出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする。
本態様に従う構造とされた呼吸計測装置によれば、圧力センサによって検出された、就寝者の呼吸動作に伴う圧力変動時系列データにおける呼吸に関する周波数成分に対して、データ生成手段においてCDM (Complex Demodulation) 処理を行うことにより瞬時周波数の時系列データを得ることができ、得られた瞬時周波数の時系列データを任意の方法で出力手段を介して出力することができる。これにより、従来のフーリエ変換処理では得られなかった、呼吸に関連する瞬時周波数を計測することができ、就寝者の呼吸数や呼吸振動をある区間の平均値ではなく瞬時値として得ることができる。その結果、就寝者の呼吸の状態をより精度よく計測することができ、リアルタイムに得られる呼吸間隔変動のデータから睡眠状態の判定(レム/ノンレム睡眠)や無呼吸状態の検知などを瞬時に行うことが可能となる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載のものにおいて、前記データ生成手段が、瞬時周波数の正常範囲を設定する正常範囲設定部と、前記瞬時周波数の値が前記正常範囲を逸脱する場合に異常値と判定する異常値判定部とを含んでいるものである。
本態様によれば、瞬時周波数の時系列データにおける出力周波数が0.1Hz〜0.5Hzの範囲内であれば、安静時の呼吸による圧力変動波形を反映し、その範囲を逸脱すれば、無呼吸状態や寝返りなどの体動発生を検知できるという本発明者等が見出した知見に基づき、例えば安静時の呼吸による圧力変動に基づく瞬時周波数の範囲を正常範囲として設定し、その範囲を逸脱する値を異常値と判定することにより、正確な安静時の瞬時呼吸数を取得したり、異常の発生を検知することが可能となる。
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に記載のものにおいて、前記異常値判定部が、前記瞬時周波数の値が前記正常範囲の上限値を超えた場合に前記就寝者の前記呼吸動作以外の体動による異常値と判定するようになっているものである。
本態様によれば、上記瞬時周波数が正常範囲を上回った場合は、体動による変動として峻別でき、かかるノイズを取り除いた安静時の瞬時呼吸数を取得することができる。
本発明の第四の態様は、前記第二または第三の態様に記載のものにおいて、前記データ生成手段が、前記CDM処理によりさらに瞬時振幅の時系列データを生成するものであり、前記正常範囲設定部が前記瞬時振幅の安静時の平均値をさらに設定するようになっており、前記異常値判定部が、前記瞬時振幅の安静時の平均値の1/3以下となった場合に、無呼吸による異常値と判定するようになっているものである。
本態様によれば、データ生成手段において、CDM処理によりさらに瞬時振幅の時系列データを生成することにより、瞬時振幅の値を利用して、かかる値が正常範囲設定部で予め設定された安静時の平均値の1/3以下になった場合は、無呼吸と判定でき、無呼吸の発生を速やかに確認することができる。
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記圧力変動時系列データにおける呼吸に関連する前記周波数成分が、0.1〜0.5Hzのものである。
本態様によれば、周波数成分を0.1〜0.5Hzのものに設定することにより、心拍に関連する周波数成分を除去しつつ、呼吸に関連した周波数帯域を広くサンプリングすることができる。これにより、安静時の瞬時呼吸数に加えて、無呼吸状態も容易に確認することが可能となる。
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れか一つの態様に記載のものにおいて、前記圧力センサが、多数の感圧点が分散配置されたシート形状を有し、前記就寝者を支持する支持面上に配設されて、前記就寝者の少なくとも胸部から腹部に亘る上半身が載置されるようになっている多点検出感圧センサによって構成されているものである。
本態様によれば、多数の感圧点が分散配置されたシート形状の多点検出感圧センサを用いることにより、就寝者の体を拘束することなく、就寝時等の就寝者の呼吸動作に基づく圧力変動を安定して取得することができる。しかも、シート形状の多点検出感圧センサには、呼吸動作によって変動する就寝者の少なくとも胸部から腹部に亘る上半身が載置されるようになっていることから、呼吸動作に基づく圧力変動を最も有利に取得できる感圧点を選択することができ、呼吸に関する周波数成分を含んだ圧力変動時系データを有利に得ることができる。
本発明の第七の態様は、前記第六の態様に記載のものにおいて、前記データ生成手段が圧力変動算出部を含み、前記圧力変動算出部が、前記多数の感圧点のうち、呼吸周波数帯域の出力値が大きい順に選択した複数の前記感圧点から得られる出力値の平均値から、前記圧力変動時系列データを算出するものである。
本態様によれば、呼吸周波数帯域の出力値が大きい順に選択した複数の感圧点から得られる出力値の平均値に基づき、圧力変動時系列データを算出していることから、呼吸動作に基づく圧力変動を最も有利に表わす圧力変動時系列データを有利に取得することができる。
本発明の第八の態様は、前記第六の態様に記載のものにおいて、前記データ生成手段が圧力変動算出部を含み、前記圧力変動算出部が、前記多数の感圧点のうち、取得圧力のパワースペクトルの全面積に対する呼吸周波数帯域の占める割合が大きい順に選択した複数の前記感圧点から得られる出力値の平均値から、前記圧力変動時系列データを算出するものである。
本態様によれば、取得圧力のパワースペクトルの全面積に対する呼吸周波数帯域の占める割合が大きい順に選択した複数の感圧点から得られる出力値の平均値から、圧力変動時系列データを算出することにより、呼吸に関する周波数成分を含んだ圧力変動時系データを一層確実に得ることができる。なお、選択される感圧点の数は、呼吸に対応した体動が現れる部位が分散される場合もあることから、好ましくは2〜5つ、より好ましくは4つ程度の感圧点を選択することが望ましい。
本発明によれば、圧力センサによって検出された、就寝者の呼吸動作に伴う圧力変動時系列データにおける呼吸に関する周波数成分に対して、データ生成手段においてCDM処理を行うことにより瞬時周波数の時系列データを得ることができる。これにより、就寝者の呼吸数や呼吸振動を、従来の如きある区間の平均値ではなく瞬時値として得ることができる。その結果、リアルタイムに得られる呼吸間隔変動のデータから睡眠状態の判定や無呼吸状態の検知などを瞬時に行うことが可能となる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1および図2には、本発明の一実施形態に従う構造とされた呼吸計測装置10が示されている。呼吸計測装置10は、例えば就寝者12を支持するベッド14の床部16の支持面18上に配設された圧力センサとしてのシート状の多点検出感圧センサ20と、多点検出感圧センサ20に電気的に接続された制御装置22を含んで構成されている。より詳細には、図1および図2に示されているように、多点検出感圧センサ20は、例えばマットレス等を備えた床部16の支持面18上の一部の領域に配設されており、多点検出感圧センサ20上に就寝者12の胸部24から腹部26に亘る上半身28が載置されるようになっている。そして、かかる多点検出感圧センサ20を用いて、就寝者12の呼吸動作に伴う圧力変動が検出されるようになっている。なお、以下の説明において、上方とは、図1中の上方、下方とは、図1中の下方、また前方とは、図2中の上方、後方とは、図2中の下方を言うものとする。また、図1,2では、理解を容易とするため、就寝者12を仮想線で記載している。
図3に示されているように、多点検出感圧センサ20は、歪ゲージや磁歪体を用いたロードセル等を用いて、例えば歪ゲージを4隅に配設して面圧分布センサを構成する等しても良いが、本実施形態においては、シート状の静電容量型センサによって、圧力センサとしての多点検出感圧センサ20が構成されている。静電容量型センサとしては、従来公知のものが適宜に採用可能である。
図3および図4に、多点検出感圧センサ20を構成する静電容量型センサを概略的に示す。なお、図3においては、後述する誘電層32および表側基材34を透視して図示すると共に、後述する感圧点42を内部に斜線を付した四角で示す。
多点検出感圧センサ20を構成する静電容量型センサは、誘電層32と、表側電極01X〜32Xと、裏側電極01Y〜25Yと、表側配線01x〜32xと、裏側配線01y〜25yと、表側基材34と、裏側基材36と、表側配線用コネクタ38と、裏側配線用コネクタ40と、を備えている。
誘電層32は、例えばエラストマーとしてのウレタン発泡体製であって、平面視で略矩形平板形状のシート状を呈し、弾性変形可能とされている。また、表側基材34は、例えばゴム製であって、平面視で略矩形平板形状を呈しており、誘電層32の上方(表側)に積層されている。さらに、裏側基材36は、例えばゴム製であって、平面視で略矩形平板形状を呈しており、裏側基材36は、誘電層32の下方(裏側)に積層されている。
図4に示されているように、表側基材34の外縁と裏側基材36の外縁とは接合されており、表側基材34と裏側基材36が、袋状に貼り合わされている。これにより、誘電層32は、当該袋内に収容されている。加えて、誘電層32の上面四隅は、表側基材34の下面四隅に、スポット的に接着されている一方、誘電層32の下面四隅は、裏側基材36の上面四隅に、スポット的に接着されている。それゆえ、誘電層32は、表側基材34および裏側基材36に対して、使用時にシワがよらないように、位置決めされるようになっている。なお、誘電層32は、四隅が接着された状態で、表側基材34および裏側基材36に対して、水平方向(前後左右方向)に弾性変形可能とされている。
表側電極01X〜32Xは、図3に示されているように、誘電層32の上面に、合計32本配置されており、各々、例えば、アクリルゴムと、導電性カーボンブラックと、を含んで形成されている。また、表側電極01X〜32Xは、各々、略帯状を呈しており、柔軟に伸縮可能に形成されている。さらに、表側電極01X〜32Xは、各々、横方向(図3中、左右方向)に延在していると共に、縦方向(図3中、上下方向)に所定間隔を隔てて離間して、互いに略平行になるように配置されている。
表側配線01x〜32xは、誘電層32の上面に、合計32本配置されており、各々、例えば、アクリルゴムと、銀粉と、を含んで形成されている。また、表側配線01x〜32xは、各々、略線状を呈している。さらに、表側配線用コネクタ38は、表側基材34および裏側基材36の隅部に配置されている一方、表側配線01x〜32xは、各々、表側電極01X〜32Xの端部と表側配線用コネクタ38と、を接続している。
一方、裏側電極01Y〜25Yは、誘電層32の下面に、合計25本配置されている。裏側電極01Y〜25Yは、各々、例えば、アクリルゴムと、導電性カーボンブラックと、を含んで形成されている。また、裏側電極01Y〜25Yは、各々、帯状を呈しており、柔軟に伸縮可能に形成されている。さらに、裏側電極01Y〜25Yは、各々、縦方向(図3中、上下方向)に延在していると共に、横方向(図3中、左右方向)に所定間隔を隔てて離間して、互いに略平行になるように配置されている。このように、表側電極01X〜32Xと裏側電極01Y〜25Yとは、上方または下方から見て、互いに直交する略格子状に配置されている。
裏側配線01y〜25yは、誘電層32の下面に、合計25本配置されている。裏側配線01y〜25yは、各々、例えば、アクリルゴムと、銀粉と、を含んで形成されている。また、裏側配線01y〜25yは、各々、線状を呈している。さらに、裏側配線用コネクタ40は、表側基材34および裏側基材36の隅部に配置されている一方、裏側配線01y〜25yは、各々、裏側電極01Y〜25Yの端部と裏側配線用コネクタ40と、を接続している。
感圧点42は、図3に内部に斜線を付した四角で示すように、表側電極01X〜32Xと、裏側電極01Y〜25Yと、が上下方向に交差する部分(重複する部分)に配置されて、誘電層32の略全面に亘って、縦横に略均等に配置されている。すなわち、圧力センサとしての多点検出感圧センサ20は、多数(本実施形態では、32×25=800個)の感圧点42が分散配置された構造を有している。また、感圧点42は、各々、表側電極01X〜32Xの一部と、裏側電極01Y〜25Yの一部と、誘電層32の一部と、を備えている。
図3に示されているように、制御装置22は、表側配線用コネクタ38および裏側配線用コネクタ40と、電気的に接続されている。制御装置22は、CPU(Central Processing Unit)44と、ROM(Read Only Memory)46と、RAM(Random Access Memory)48と、電源回路50と、モニタ52や図示しないタイマー、カウンタ、入出力インターフェース(I/O)等を備えている。ROM46には後述する制御方法に基づく制御プログラム等が記憶されている一方、RAM48には、制御プログラムの演算値等が一時的に格納されるようになっている。なお、制御装置22は、後述するデータ生成手段A、圧力変動算出部a1 、正常範囲設定部a2 、異常値判定部a3 を備えており、これらは、ROM46に記憶され、CPU44によって実行されるソフトウェアによって実現されている。
電源回路50は、感圧点42に、周期的な矩形波電圧を走査的に順番に印加する。また、ROM46には、予め、感圧点42に構成されたコンデンサの静電容量と体圧(圧力)との対応を示すマップが格納されている。一方、RAM48には、表側配線用コネクタ38、裏側配線用コネクタ40から入力される感圧点42の静電容量が一時的に格納される。そして、CPU44が、RAM48に格納された感圧点42の静電容量から、ROM46に記憶されたマップに基づいて、感圧点42に作用している体圧を検出するようになっている。なお、かかる制御装置22における作業内容や測定結果等は、モニタ52に出力されるようになっている。
次に、本実施形態の呼吸計測装置10を用い、就寝者12がベッド14の床部16上に横たわって就寝した際に、就寝者12の呼吸動作に伴う圧力変動から就寝者12の呼吸に関する瞬時周波数データを得る方法について説明する。
図5に、制御装置22のデータ生成手段Aの処理内容を示す。本制御処理は、例えば、制御装置22に設けられた図示しない操作ボタン(操作ボタンは、制御装置22に設けられたモニタ52上に表示されるGUI等でも良い)を使用者が操作すること等によって開始されるようになっている。先ず、データ生成手段Aは、S1において、圧力データの取得を実行する。かかる圧力データの取得(S1)とは、全ての感圧点42における任意の区間N(秒)の圧力変動の時系列データを取得することである。
圧力データの取得(図5中、S1)が終了した後に、データ生成手段Aは、S2において、感圧点選択処理を実行する。
感圧点選択処理(S2)の処理内容を、図6を用いて説明する。先ず、データ生成手段Aは、S20において、S1で取得した全ての感圧点42における圧力データに対してFFT解析(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)を行い、全ての感圧点42における周波数毎のパワースペクトルを求める。続いて、S21において、かかる全ての感圧点42におけるパワースペクトルを用いて、全面積すなわち全周波数帯域における積分値と、呼吸周波数帯域(例えば0.1〜0.5Hz)における積分値を計算し、全周波数帯域における積分値に対する呼吸周波数帯域における積分値の割合が大きい順に例えば4つの感圧点42を選択して、感圧点選択処理(S2)を終了する。なお、選択される感圧点42の数は1つでもよいが、呼吸に対応した体動が複数の感圧点42に分散して及ぼされる場合も考慮し、2〜5個等複数選択することが好ましく、より好ましくは4つ程度であることが望ましい。
感圧点選択処理(図5中、S2)が終了した後に、データ生成手段Aの圧力変動算出部a1 は、S3において、感圧点選択処理(S2)で選択された例えば4つの感圧点42から得られる出力値の平均値を、圧力変動時系列データとして算出・取得する。
圧力変動時系列データを算出・取得(図5中、S3)が終了した後に、データ生成手段Aは、S4において、圧力センサとしての多点検出感圧センサ20により検出された上記圧力変動時系列データを用いて、呼吸に関連する周波数成分すなわち例えば0.1〜0.5Hzの範囲内の周波数成分に対してCDM処理を実行する。
次に、上記S4におけるCDM処理の詳細について、以下に説明する。CDM処理とは、時系列内の予め定められた範囲内の周波数成分の瞬時周波数と瞬時振幅の時間的変化を分析する信号処理の手法である。今回、与えられた時系列である圧力変動時系列データ:X(t)に対して、関心のある成分(呼吸に関連する成分):x(t)の瞬時周波数:F(t)および瞬時振幅:A(t)を求める手順について説明する。呼吸に関連する周波数成分が、0.1〜0.5Hzすなわち(0.3Hz(中心周波数:f0 )±0.2Hz(fw ))の範囲内にあることが分かっているとすると、瞬時周波数:F(t)と中心周波数:f0 とのずれを位相:P(t)の変化であると見なすと、数1に示す関係がある。
これにより、関心のある成分:x(t)の瞬時振幅:A(t)とすると、x(t)は数2のように表される。
一方、元の圧力変動時系列データ:X(t)は、x(t)以外の成分:z(t)を含むので、数3のように表される。
数3の複素数での表現は、数4のように表される。
なお、ここで、z(t)には、0.1〜0.5Hzすなわち(0.3Hz(中心周波数:f0 )±0.2Hz)の範囲内の成分は含まれていないと仮定している。次に、数4の両辺にexp(−i2πf0 t)を掛けて周波数軸上で−f0 だけシフトさせた信号をY(t)とすると、数5のように表される。
これにより、求めたい成分の瞬時周波数は、Y(t)中の±fw の範囲内に存在していることになる。そこで、Y(t)を周波数:fw のローパスフィルタにかけると、出力される時系列データは、数6のように表される。
このようにして求められた数6の時系列データ:y(t)を用いて、関心のある成分(呼吸に関連する成分):x(t)の瞬時振幅:A(t)を求めることができる。すなわち、数6より、y(t)の振幅=|y(t)|=A(t)/2であることから、瞬時振幅:A(t)は数7から求められる。
また、数6の時系列データ:y(t)を用いて、関心のある成分(呼吸に関連する成分):x(t)の瞬時周波数:F(t)も求めることができる。まず、数6より、P(t)を求める、すなわち、数6の時系列データ:y(t)を用いて、数8に示すようにy(t)/|y(t)|からexp(iP(t))を求めた後、数9を用いてP(t)を求める。
そして、数9を用いることにより、数1から瞬時周波数:F(t)が求められるようになっているのである。以上のようにして、瞬時周波数:F(t)と瞬時振幅:A(t)が得られるのである。
S4においてCDM処理が行われることにより、データ生成手段Aは、S5において、呼吸に関連する周波数成分の瞬時周波数および瞬間振幅の時系列データを生成し、瞬時周波数・振幅取得が実行される。なお、かかるデータ生成手段によって得られたデータは、例えばグラフ表示等により可視化されてモニタ52に対して出力されるようになっている。
瞬時周波数・振幅取得(図5中、S5)が終了した後に、データ生成手段Aは、S6において、異常値検出処理を実行する。
異常値検出処理(S6)の処理内容を、図7を用いて説明する。先ず、データ生成手段Aの正常範囲設定部a2 には、S60において、瞬時周波数の正常範囲および瞬時振幅の安静時の平均値が予め設定されている。本実施形態では、かかる瞬時周波数の正常範囲は予め一般的な安静時の呼吸動作に基づく圧力変動の範囲として想定された値である0.1〜0.5Hzに設定されるようになっているが、予め取得された就寝者12の安静時の瞬時周波数の範囲に基づいて設定するようにしてもよい。一方、瞬時振幅の安静時の平均値は、予め取得された就寝者12の安静時における瞬時振幅の平均値を用いて設定されるようになっている。本実施形態では、平均値:0.02kPa(キロパスカル)が設定されている。
データ生成手段Aの異常値判定部a3 は、S60〜S64において、瞬時周波数の値が正常範囲を逸脱する場合に異常値と判定するようになっている。より詳細には、データ生成手段Aの異常値判定部a3 は、S60において、S5で取得した瞬時周波数が正常範囲である0.1〜0.5Hz以上か否かを判定し、かかる瞬時周波数が0.5Hz以上である場合(S60=Yes)すなわち異常値である場合には、就寝者12の呼吸動作以外の体動が発生しているものとして、S61において、体動発生を例えばモニタ52に文字列やグラフ表示の色の変更等で出力すると共にRAM48内に書き込んだ後に、異常値検出処理(S6)を終了する。一方、瞬時周波数が0.5Hz未満である場合(S60=No)には、次のS62に進み、瞬時周波数が正常範囲である0.1〜0.5Hz以下か否かを判定する。かかる瞬時周波数が0.1Hz以下である場合(S62=Yes)すなわち異常値である場合には、さらにS63に進んで、瞬時振幅がS60で設定した安静時の平均値:0.02kPaの1/3以下か否かを判定する。ここで、瞬時振幅が安静時の平均値の1/3を超える場合(S63=No)には、体動が発生しているものとして、S61において、体動発生を例えばモニタ52に文字列等で出力すると共にRAM48内に書き込んだ後に、異常値検出処理(S6)を終了する。一方、瞬時振幅が安静時の平均値の1/3以下である場合(S63=Yes)には、無呼吸が発生しているものとして、S64において、無呼吸発生を例えばモニタ52に文字列等で出力すると共にRAM48内に書き込んだ後に、異常値検出処理(S6)を終了する。加えて、瞬時周波数が0.1Hzを超える場合(S62=No)には、瞬時周波数が正常範囲(0.1〜0.5Hz)であることから、そのまま異常値検出処理(S6)を終了する。
異常値検出処理(図5中、S6)が終了した後に、データ生成手段Aは、S7において、呼吸計測を終了するか否かを判断する。かかる判断は、例えば、制御装置22に設けられた図示しない操作ボタン(操作ボタンは、制御装置22に設けられたモニタ52上に表示されるGUI等でも良い)を使用者が操作すること等によって行われる。引き続き呼吸計測を行う場合(S7=No)には、圧力変動時系列データの取得(S3)〜呼吸計測終了の判断(S7)を繰り返して呼吸データの取得を継続する。一方、呼吸計測を終了する場合(S7=Yes)には、図5に示す一連の作業を完了する。
次に、本実施形態の呼吸計測装置10を用いた呼吸計測について、図8および図9の実測データを用いて具体的に説明する。先ず、図5に示すような制御装置22のデータ生成手段Aの処理としてのS1〜S3を行うことにより、図8(a)に示されているような圧力変動時系列データを取得する。そして、かかる圧力変動時系列データを用いて、呼吸に関連する周波数成分すなわち0.1〜0.5Hzの範囲内の周波数成分に対してCDM処理を実行する(図5中、S4参照)ことにより、図8(b),(c)に示されているような瞬時周波数と瞬時振幅の時間的変化のデータを取得できるようになっている。なお、図8は、就寝者12の安静状態におけるデータを示している。すなわち、図8(a)〜(c)に示されているように、各データが時間に対して略一定となっていると共に、瞬時周波数が0.1〜0.5Hzの範囲内に納まっていることが分かる。
続いて、図9(a)(b)に、安静状態にあった就寝者12が無呼吸となった場合(図中、略125〜175秒の間)の瞬時周波数と瞬時振幅の時間的変化のデータを示す。かかる場合において、図7に示す異常値検出処理を実行すると、略125〜175秒の間において瞬時周波数は0.1Hz以下であることから、S60=NoかつS62=Yesとなる。無呼吸というのは、瞬時周波数が0Hzであることに相当するが、図9(b)から分かるように0Hzであることを正確に測定することは極めて困難である。それゆえ、本実施形態においては、S63を行うすなわち略125〜175秒の間の瞬時振幅が安静時(図9中、略20〜120秒の間)の1/3以下になっていることを確認することにより、無呼吸発生を容易に検知することができることが分かる。
本実施形態に従う構造とされた呼吸計測装置10によれば、圧力センサとしての多点検出感圧センサ20によって検出される就寝者12の呼吸動作に伴う圧力変動時系列データを用いて呼吸に関連する周波数成分に対してCDM処理を行うことにより、呼吸に関連する周波数成分の瞬時周波数および瞬間振幅の時系列データを、従来のフーリエ変換処理によって得られるような平均値ではなく瞬時値として得ることができる。それゆえ、就寝者12の呼吸の状態をより精度よく計測することができると共に、リアルタイムに得られる呼吸間隔変動のデータから睡眠状態の判定(レム/ノンレム睡眠)などを瞬時に行うことが可能となるのである。
例えば、瞬時周波数の時系列データにおける周波数が0.1Hz〜0.5Hzの範囲内であれば安静時の呼吸による圧力変動波形を反映していると判断する(図8(c)参照)一方、上記周波数範囲を逸脱すれば、無呼吸状態や寝返りなどの体動発生を検知できるという本発明者等が見出した知見に基づき、例えば安静時の呼吸による圧力変動に基づく瞬時周波数の範囲を正常範囲として設定し、その範囲を逸脱する値を異常値と判定することにより、正確な安静時の瞬時呼吸数を取得したり、異常の発生を検知することが可能となるのである。より詳細には、CDM処理を行う周波数成分を0.1〜0.5Hzの呼吸に関連する周波数成分に設定することにより、心拍に関連する周波数成分を除去しつつ、呼吸に関連した周波数帯域を広くサンプリングすることができるようになっているのである。そして、上記瞬時周波数が正常範囲を上回った場合は、体動による変動として峻別できる一方、上記瞬時周波数が正常範囲を下回った場合は、瞬時振幅の値を利用することにより、安静時の瞬時振幅の平均値の1/3以下になった場合に無呼吸と判定できることから、無呼吸の発生を速やかかつ容易に確認することができるようになっているのである。
また、本実施形態では、多数の感圧点42が分散配置されたシート形状の多点検出感圧センサ20を用いることにより、就寝者12の体を拘束することなく、就寝時等の就寝者12の呼吸動作に基づく圧力変動を安定して取得できるようになっている。しかも、シート形状の多点検出感圧センサ20には、呼吸動作によって変動する就寝者12の少なくとも胸部24から腹部26に亘る上半身28が載置されるようになっていることから、呼吸動作に基づく圧力変動を最も有利に取得できる感圧点42を選択することができ、呼吸に関する周波数成分を含んだ圧力変動時系データを有利に得ることができるのである。加えて、圧力変動時系列データを算出するため感圧点42が、全ての感圧点42におけるパワースペクトルを用いて、全面積すなわち全周波数帯域における積分値と、呼吸周波数帯域(例えば0.1〜0.5Hz)における積分値を計算し、全周波数帯域における積分値に対する呼吸周波数帯域における積分値の割合が大きい順に選択した複数(本実施形態では4つ)から構成されていることから、かかる複数の感圧点42の圧力変動時系列データの平均値によって、呼吸に関する周波数成分を含んだ圧力変動時系データを一層確実に得ることができるようになっている。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、上記実施形態では、圧力変動時系列データを算出するため感圧点42が、全ての感圧点42におけるパワースペクトルを用いて全面積すなわち全周波数帯域における積分値と呼吸周波数帯域(例えば0.1〜0.5Hz)における積分値を計算し、全周波数帯域における積分値に対する呼吸周波数帯域における積分値の割合が大きい順に選択した4つから構成されていたが、圧力変動時系列データを算出するため感圧点42が、全ての感圧点42におけるパワースペクトルを用いて全面積すなわち全周波数帯域における積分値と呼吸周波数帯域(例えば0.1〜0.5Hz)における積分値を計算し、呼吸周波数帯域における積分値の割合が大きい順に選択した複数の感圧点42から構成されていてもよい。これにより、呼吸動作に基づく圧力変動を最も有利に表わす圧力変動時系列データを一層有利に取得することができる。
また、上記実施形態では、圧力変動時系列データを算出するため感圧点42が4つから構成されていたが、5つ以上であってもよい。さらに、上記実施形態では、圧力センサとしてのシート状の多点検出感圧センサ20は、就寝者12を支持するベッド14の床部16の支持面18上に配設されていたが、床部16を構成するマットレス等の内部や下面側に配設されていてもよい。加えて、圧力センサは例示の多点検出感圧センサ20に限らず、就寝者12の呼吸動作に伴う圧力変動を検出し得るものであれば、任意の圧力センサを用いることができる。なお、上記実施形態では、制御装置22における作業内容や測定結果等は、モニタ52に出力されるようになっていたが、プリンタや音声等の公知の任意の出力手段に出力可能である。