JP2018162398A - 樹脂組成物及び樹脂組成物の難燃性判定方法 - Google Patents

樹脂組成物及び樹脂組成物の難燃性判定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 難燃性成形品の製造に適し、少ない難燃剤の添加量であっても高い難燃性を発揮させることのできる樹脂組成物と、樹脂組成物の難燃性を判定するための難燃性判定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含み、下記の関係式(1)及び(2)を満たすものである。
【数1】

【数2】

(上式(1)及び(2)において、TP、TB及びTCMPは熱重量分析における重量減少速度ピーク時の温度を指し、それぞれ、TP:熱可塑性樹脂の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TB:セルロース系材料の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TCMP:樹脂組成物の重量減少速度ピーク時の温度(℃)である。ただし、樹脂組成物の重量減少速度ピークが2つある場合は低温側の温度をTCMPとする。)
【選択図】 なし

Description

本発明は、難燃性成形品の製造に適した樹脂組成物と、樹脂組成物の難燃性を判定するための難燃性判定方法に関する。
近年、プラスチック等の有機材料が、家電品、自動車、建材等、多岐にわたって利用されている。
しかし、有機材料は、易燃性、可燃性が欠点として問題となる場合が多い。すなわち、電気機器や自動車部品等に利用する場合、使用環境等によっては、火災の原因あるいは燃焼拡大の原因となる危険がある。
そこで、プラスチックの難燃性を向上させるために、難燃剤を添加することが知られている。
特許文献1には、熱可塑性樹脂と、木質材料粉と、相溶化剤を含む樹脂組成物が開示され、難燃剤としてリン酸系難燃剤を添加した例が示されている。
特開2014−133835号公報
高い難燃性を得るために難燃剤を大量に添加する場合には、機械的特性の低下や高コスト化の問題を生じる。
そのため、難燃剤の添加量を抑えながらも高い難燃性を発揮させることが望ましい。
そこで、本発明は、難燃性成形品の製造に適し、少ない難燃剤の添加量であっても高い難燃性を発揮させることのできる樹脂組成物と、樹脂組成物の難燃性を判定するための難燃性判定方法を提供することを目的としている。
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、セルロースの脱水反応により生成された不燃性ガス及び炭化層形成が難燃性の発揮に重要な役割を果たしており、かつ、リン酸系難燃剤がセルロースの脱水反応を促進することを見出し、このような相乗効果を十分に発揮させるための条件をも見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含み、下記の関係式を満たすものである。
(上式(1)及び(2)において、TP、TB及びTCMPは熱重量分析における重量減少速度ピーク時の温度を指し、それぞれ、TP:熱可塑性樹脂の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TB:セルロース系材料の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TCMP:樹脂組成物の重量減少速度ピーク時の温度(℃)である。ただし、樹脂組成物の重量減少速度ピークが2つある場合は低温側の温度をTCMPとする。)
また、本発明にかかる樹脂組成物の難燃性判定方法は、熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含む樹脂組成物について、下記の判定要素(1)及び(2)に基づいて難燃性を判定するものである。
判定要素(1):TPとTCMPの差
判定要素(2):TPとTBの大小関係
(上記判定要素(1)及び(2)において、TP、TB及びTCMPは熱重量分析における重量減少速度ピーク時の温度を指し、それぞれ、TP:熱可塑性樹脂の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TB:セルロース系材料の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TCMP:樹脂組成物の重量減少速度ピーク時の温度(℃)である。ただし、樹脂組成物の重量減少速度ピークが2つある場合は低温側の温度をTCMPとする。)
本発明の樹脂組成物は、難燃性成形品の製造に適し、少ない難燃剤の添加量であっても高い難燃性を発揮させることができる。
本発明の樹脂組成物の難燃性判定方法は、混練から燃焼試験までのトライ&エラーの時間を割く必要がなく、簡単な熱重量分析により、難燃性を判定することができる。
実施例におけるポリプロピレン系試料混練に用いたスクリューセグメントの構成を示す図である。 実施例におけるポリ乳酸系試料混練に用いたスクリューセグメントの構成を示す図である。 実施例で作製したダンベル試験片を示す図である。 実施例で作製した平板試験片を示す図である。 実施例における水平燃焼試験の試験方法を示す図である。 実施例における垂直燃焼試験の試験方法を示す図である。 実施例における炭化層形成速度及び厚さの測定試験の試験方法を示す図である。 実施例における各試料の発熱速度と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の発熱速度と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の発熱速度と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の発熱速度と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示すグラフである。 実施例における各試料の燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示すグラフである。 実施例における各試料の燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示すグラフである。 実施例における各試料の燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示すグラフである。 実施例における各試料(水平燃焼試験後)のEDSによる元素解析結果を示す写真である。 実施例における各試料(水平燃焼試験後)のEDSによる元素解析結果を示す写真である。 実施例における各試料(垂直燃焼試験後)のEDSによる元素解析結果を示す写真である。 実施例における各試料(垂直燃焼試験後)のEDSによる元素解析結果を示す写真である。 実施例における各試料の重量減少率と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の重量減少率と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の重量減少率と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の重量減少率と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の重量減少速度と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料の重量減少速度と温度の関係を示すグラフである。 実施例における各試料のTPとTCMPの差と、炭化層形成速度との関係を示すグラフである。 実施例における各試料のTPとTCMPの差と、発熱速度との関係を示すグラフである。 実施例における各試料のTPとTCMPの差と、炭化層の厚さとの関係を示すグラフである。 実施例におけるポリアセタール系試料混練に用いたスクリューセグメントの構成を示す図である。 実施例におけるポリアセタール系試料混練に用いたスクリューセグメントの構成を示す図である。 実施例におけるポリアセタール系試料について、水平難燃試験の燃焼速度の結果を示す図である。 実施例における各試料の重量減少速度と温度の関係を示すグラフである。
以下、本発明にかかる樹脂組成物及び樹脂組成物の難燃性判定方法の好ましい実施形態について詳しく説明する。
ただし、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明にかかる樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含む。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体、ポリ乳酸やポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等が挙げられ、ポリオレフィン又はポリエステルが好ましく、ポリ乳酸が特に好ましい。
セルロース系材料としては、例えば、セルロース粉末が挙げられるほか、木材または木材を粉砕した木粉などセルロース以外の成分(リグニン、ヘミセルロース等)を含むものであってもよいし、繊維状セルロースをチップ化したパルプなどの加工品であってもよい。難燃性付与の点において、セルロース粉末が特に好ましい。
セルロース系材料の大きさは、特に限定されないが、粒径150μm以下のものが好ましい。粒径が150μmを超えると、成形品の引張強度等の機械特性に問題が出るおそれがある。
セルロース系材料の配合量としては、特に限定されないが、70重量%以下であることが好ましい。70重量%を超えると、成形性や成形品の機械特性に問題が出るおそれがある。
リン酸系難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン等が好適である。
リン酸系難燃剤の配合量としては、特に限定されないが、例えば、5〜15重量%とすることができる。配合量が少なすぎると難燃効果が不十分となるおそれがあり、他方、配合量が多すぎると、成形品の機械的強度が低下するおそれがある。
本発明においては、セルロース系材料とリン酸系難燃剤との相乗効果によって難燃性を付与するので、難燃剤の添加量が少なくとも十分な難燃性を発揮させ得る。
本発明にかかる樹脂組成物は、上記各成分以外にも、本発明の効果を害しない範囲で、他の成分を含んでもよい。
そのような他の成分として、例えば、相溶化剤を挙げることができる。
相溶化剤としては、マトリックス樹脂として使用される熱可塑性樹脂によって適宜決定すればよいが、例えば、ポリプロピレンの場合、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが挙げられる。
相溶化剤の配合量としては、熱可塑性樹脂によって適宜決定され、特に限定されないが、得られる成形品の引張強度等の機械特性を確保するために、重量比でセルロース系材料の1/20以上が好ましく、1/17〜1/15がより好ましい。
本発明にかかる樹脂組成物は、下記の関係式を満たすものである。
上式(1)及び(2)において、TP、TB及びTCMPは熱重量分析における重量減少速度ピーク時の温度を指し、それぞれ、TP:熱可塑性樹脂の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TB:セルロース系材料の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TCMP:樹脂組成物の重量減少速度ピーク時の温度(℃)である。
ただし、樹脂組成物の重量減少速度ピークが2つある場合は低温側の温度をTCMPとする。
P、TB及びTCMPは、従来公知の微分熱重量(DTG)分析により測定することができる。
成形性、成形物の機械的特性なども考慮しつつ、上記関係式を満たすように、本発明にかかる樹脂組成物の各成分の種類、配合等を適宜選択すれば良い。
本発明にかかる樹脂組成物の難燃性判定方法は、熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含む樹脂組成物について、下記の判定要素(1)及び(2)に基づいて難燃性を判定するものである。
判定要素(1):TPとTCMPの差
判定要素(2):TPとTBの大小関係
各成分や、TP、TB及びTCMPの意義などについては、本発明にかかる樹脂組成物についての説明と重複するので、説明を割愛する。
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明にかかる樹脂組成物及び樹脂組成物の難燃性判定方法について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔ポリプロピレン系試料の作製〕
<実施例1>
熱可塑性樹脂、セルロース系材料、リン酸系難燃剤及び相溶化剤を混練し、樹脂組成物を得た。
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製,J108M,以下「PP」と略する)を用いた。
セルロース系材料としては、セルロース粉末(日本製紙株式会社製,KCフロックW−100GK,以下「CP」と略する)を用いた。
リン酸系難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウム(太平化学産業株式会社製,タイエンK,以下「APP」と略する)を用いた。
相溶化剤としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成株式会社製,ユーメックス1001,以下「MAPP」と略する。)を用いた。
配合は、
PP36.7重量%、CP50重量%、APP10重量%、MAPP3.3重量%
とした。
混練は、同方向回転二軸押出機「ZSK18」(Coperion社製、スクリュー径=18mm、L/D=40)を用い、一括混練とした。
スクリューセグメントの構成を図1に示す。スクリュー構成は、熱可塑性樹脂を可塑化させるためのニーディングディスクを1か所、セルロース系材料の分散性を向上させるためのニーディングディスクを2か所とミキシングスクリューを1か所入れ、混練時、試料にせん断力をかけられる構成にした。
セルロース系材料とリン酸系難燃剤は、熱風乾燥器(株式会社いすゞ製作所製,強制循環式恒温器そよかぜ、以下同様)で80℃、24時間熱風乾燥した。
混練条件を下表に示す。丸数字は図1の位置関係と対応している。
<実施例2,3、比較例1〜13>
原料ないし配合量を下表2のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2,3の各樹脂組成物、比較例1の樹脂混練物、比較例2〜13の各樹脂組成物を試料として得た。
表2中の数値は重量%を表す。
表2中、Pulpは、繊維状セルロースをチップ化したパルプ(Fibria製,BLEACHED EUCALYPTUS KRAFT PULP−Tres Lagoas mill)を指す(以下も同様に「Pulp」と略記する)。Pulpの平均繊維長は1657μmのものを使用した。
表2中、BFは、バイオフィラー(プレジール株式会社製,広島県庄原市産)を指す(以下も同様に「BF」と略記する)。このBFはセルロース成分以外にリグニン及びヘミセルロースを含む木粉である。
参照の便宜のため、実施例1の配合も表2に併記している。
〔ポリ乳酸系試料の作製〕
<実施例4>
熱可塑性樹脂、セルロース系材料及びリン酸系難燃剤を混練し、樹脂組成物を得た。
熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸(Zhejiang Hisun Biomaterials Co.,Ltd,REVODE110,以下「PLA」と略)を用いた。
セルロース系材料としては、実施例1と同様、CPを用いた。
リン酸系難燃剤としては、実施例1と同様、APPを用いた。
配合は、
PLA60重量%、CP30重量%、APP10重量%
とした。
混練は、実施例1と同様、同方向回転二軸押出機「ZSK18」(Coperion社製、スクリュー径=18mm、L/D=40)を用いた。
PLAとCPを先に一括混練しマスターバッチを作製し、その作製したPLA/CPペレットとAPPをよく混ぜ合わせホッパーから投入する2回混練とした。
スクリューセグメントの構成を図2に示す。スクリュー構成は、熱可塑性樹脂を可塑化させるためのニーディングディスクを1か所入れ、その先はすべてフルフライトスクリュにし、混練時に試料が発熱しない温度条件とスクリュー構成にした。
混練前に、PLAは真空乾燥器(ヤマト科学株式会社製,ADP300)で90℃、3時間真空乾燥し、CPとAPPは熱風乾燥器で80℃、24時間熱風乾燥した。
混練条件を下表3に示す。丸数字は図2の位置関係と対応している。
<実施例5、比較例14〜19>
原料ないし配合量を下表4のとおりに変更したこと以外は実施例4と同様にして、実施例5、比較例14の樹脂混練物、比較例15〜19の各樹脂組成物を試料として得た。
表4中の数値は重量%を表す。
参照の便宜のため、実施例4の配合も表4に併記している。
〔試験〕
<試験片の作製>
上記実施例ないし比較例にかかる各試料(二軸押出機を用いて作製した各ペレット)から、射出成形機(東洋機械金属株式会社製,PLASTRET−40V)を用いて、図3に示す試料評価用のダンベル試験片を作製した。
同様に、上記実施例ないし比較例にかかる各試料を用いて、図4に示す平板試験片を作製した。
ダンベル試験片の射出成形の条件を表5に、平板試験片の射出成形の条件を表6に、それぞれ示す。
「PP系」、「PLA系」とあるのは、それぞれ、上記「ポリプロピレン系試料の作製」で得た各試料、上記「ポリ乳酸系試料の作製」で得た各試料に対応する。
なお、射出成形は、各試料(ペレット)を熱風乾燥器で80℃、24時間熱風乾燥させてから行った。
<試験方法>
(1)燃焼試験
(1−1)水平燃焼試験
上記「試験片の作製」の項で作製したダンベル試験片の片端を切断して使用して試験を行った。試験条件はUL94規格を参考に行った。
燃焼させる部分の寸法は長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmとした。
試験片に自由端から20mm及び80mmの箇所に標線をつけた。
また、すべての試験片は試験前に80℃で24時間熱風乾燥を行った。試験片の本数は各試料につき5本とした。
試験装置を図5に示す。試験片の長さ方向は水平に、幅方向は水平に対して45°の角度で保持し、試験片の下端から10mmの位置に滴下の影響を防ぐための金網を設置した。寸法が230mm×130mmの物を使用した。点火には可燃ガス(榮製機株式会社製,RT−20/HCシリーズ用R200)を燃料とするガストーチバーナーを使用した。ストップウォッチは0.1秒目盛の物を使用した。
(1−2)垂直燃焼試験
上記(1−1)の水平燃焼試験において自己消火性を示した試料のみに対して、垂直燃焼試験を行った。試験条件はUL94のV−0規格を参考に行った。実験に用いた試験片は水平燃焼試験に用いたものと同様のものを使い、試験片の本数は各試料につき5本とした。
試験装置を図6に示す。試験片を垂直に固定し、水平燃焼試験と同様のバーナー、ストップウォッチを用いて試験を行った。試験方法は空気の流れを感じない室内で、バーナーは試験片から離して点火し、炎の高さ約20mmの安定した青色炎に調整した。炎は試験片の下端に試験片の長さ方向に対して20°の角度で炎の中心部を10秒間接炎した。燃焼時間を記録し、燃焼が途中で止んだ場合は再び10秒間接炎し、燃焼時間を記録、燃焼の合計時間を求めた。
(2)コーンカロリーメータ
上記「試験片の作製」の項で作製した平板試験片の発熱量及び発熱速度の測定をコーンカロリーメータ(株式会社東洋精機製作所製、CONECALORIMETER IIIC3)で行った。試験片の寸法は50mm×50mm×3.3mmとし、コーンヒータ下端と試験片上面の距離は25mm、ヒーター温度734.5℃で輻射量50.0W/m2とした。試験片は試験前に熱風乾燥器で80℃、24時間熱風乾燥を行った.
(3)炭化層形成速度及び厚さの測定
上記「試験片の作製」の項で作製したダンベル試験片を切断し、4mm×10mm×10mmの試験片とした。
ガストーチバーナーを図7に示すように使用して試験片を燃焼させた。燃焼試験と同様のバーナー、ストップウォッチを用いて試験を行った。10秒、20秒、30秒と10秒間隔で燃焼時間を増やしていった。燃焼後、試験片を水没させ急冷した。試験片は試験前に熱風乾燥器で80℃、24時間熱風乾燥を行った。
燃焼した試験片は80℃で24時間乾燥させて、形成させた炭化層が崩れないように樹脂(サカモト工機製,キング埋込樹脂及びキング埋込樹脂専用添加剤 硬化剤,促進剤)で硬化させた。24時間硬化させた後、試験片中央部を電動のこぎりで切断し、断面上部を実体顕微鏡(MT9430,メイジテクノ株式会社)で撮影した。撮影した試験片の炭化層をコンピュータソフトSigma Pro Scan 5で各条件当たり120箇所測定した。
(4)炭化物観察
上記「(1)燃焼試験」後の炭化物を、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製,JSM7001FD,以下「SEM」と略)を用いて観察した。SEMを用いて元素分析(以下EDSと略)を行った。具体的には、水素、炭素、窒素、酸素、リンの元素分析を行った。加速電圧は20kVで観察した。
(5)熱重量分析
上記「試験片の作製」の項で作製したダンベル試験片をチップ状に切断したものを試料とし、示差熱量分析装置(島津製作所株式会社製、DTG−50H)を用いて熱重量測定を行った。セルはアルミニウムを用いた。試験に用いた試料は10〜11mgとし、空気中で試験を行った。昇温速度10℃/minで600℃まで昇温した。ホールド時間は0時間でその後、−10℃/minで40℃まで冷却した。
<試験結果>
(1)燃焼試験の結果
水平・垂直燃焼試験の結果を表7,8に示す。
(2)コーンカロリーメータの結果
コーンカロリーメータの結果を表9,10に示す。
図8に、
実施例1(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%/APP10wt%)、
比較例1(PP)、
比較例2(PP/MAPP3.3wt%/APP10wt%)、
比較例5(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%)
の各試料における発熱速度と温度の関係を示す。
図9に、
実施例2(PP/MAPP3.3wt%/Pulp50wt%/APP10wt%)、
比較例1(PP)、
比較例2(PP/MAPP3.3wt%/APP10wt%)、
比較例10(PP/MAPP3.3wt%/Pulp50wt%)
の各試料における発熱速度と温度の関係を示す。
図10に、
実施例3(PP/MAPP3.3wt%/BF50wt%/APP10wt%)、
比較例1(PP)、
比較例2(PP/MAPP3.3wt%/APP10wt%)、
比較例13(PP/MAPP3.3wt%/BF50wt%)
の各試料における発熱速度と温度の関係を示す。
図11に、
実施例5(PLA/CP40wt%/APP10wt%)、
比較例14(PLA)、
比較例15(PLA/APP10wt%)、
比較例18(PLA/CP40wt%)
の各試料における発熱速度と温度の関係を示す。
(3)炭化層形成速度及び厚さの測定の結果
炭化層形成速度測定の結果を表11,12に示す。
図12に、
実施例1(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%/APP10wt%)、
比較例4(PP/MAPP3.3wt%/CP30wt%)、
比較例5(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%)、
比較例7(PP/MAPP3.3wt%/CP30wt%/APP10wt%)
の各試料における燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示す。
図13に、
実施例2(PP/MAPP3.3wt%/Pulp50wt%/APP10wt%)、
比較例9(PP/MAPP3.3wt%/Pulp30wt%)、
比較例10(PP/MAPP3.3wt%/Pulp50wt%)、
比較例12(PP/MAPP3.3wt%/Pulp30wt%/APP10wt%)
の各試料における燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示す。
図14に、
実施例3(PP/MAPP3.3wt%/BF50wt%/APP10wt%)、
比較例13(PP/MAPP3.3wt%/BF50wt%)
の各試料における燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示す。
図15に、
実施例4(PLA/CP30wt%/APP10wt%)、
実施例5(PLA/CP40wt%/APP10wt%)、
比較例17(PLA/CP30wt%)、
比較例18(PLA/CP40wt%)
の各試料における燃焼時間と炭化層の厚さとの関係を示す。
(4)炭化物観察の結果
EDSにより、
比較例5(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%)、
比較例18(PLA/CP40wt%)
の水平燃焼試験後の炭化物について、リンの元素解析を行った結果を、それぞれ図16及び図17に示す。
また、EDSにより、
実施例1(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%/APP10wt%)、
実施例5(PLA/CP40wt%/APP10wt%)
の垂直燃焼試験後の炭化物のリンの元素解析を行った結果を、それぞれ図18及び図19に示す。
図18及び図19の(a)は10秒間の一回接炎後,(b)は10秒間の二回接炎後の炭化物のEDS解析の結果を示す。
これらEDSの結果は、画像上に表示されている直線に沿って波形が出ていればリンが存在するということである。
(5)熱重量分析の結果
熱重量分析の結果をそれぞれ表13〜16に示す。
下記表中、Ti1(℃)及びTe1(℃)は、それぞれ、1つ目のピークにおける重量減少開始温度及び重量減少終了温度であり、Ti2(℃)及びTe2(℃)は、それぞれ、2つ目のピークにおける重量減少開始温度及び重量減少終了温度である。T5%は重量が5%減少した時の温度(℃)である。
また、Vmax1は重量減少速度の1つ目のピークであり、Tmax1はVmax1の時の温度である。Vmax2は重量減少速度の2つ目のピークであり、Tmax2はVmax2の時の温度である。
図20に、
実施例1(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%/APP10wt%)、
比較例1(PP)、
比較例2(PP/MAPP3.3wt%/APP10wt%)、
比較例5(PP/MAPP3.3wt%/CP50wt%)、
比較例6(PP/MAPP3.3wt%/CP10wt%/APP10wt%)、
比較例7(PP/MAPP3.3wt%/CP30wt%/APP10wt%)
の各試料における重量減少率と温度の関係を示す。
参考のために、セルロース粉末(Cellulose Powder)のデータも併記した。
図21に、
実施例2(PP/MAPP3.3wt%/Pulp50wt%/APP10wt%)、
比較例1(PP)、
比較例2(PP/MAPP3.3wt%/APP10wt%)、
比較例10(PP/MAPP3.3wt%/Pulp50wt%)、
比較例11(PP/MAPP3.3wt%/Pulp10wt%/APP10wt%)、
比較例12(PP/MAPP3.3wt%/Pulp30wt%/APP10wt%)
の各試料における重量減少率と温度の関係を示す。
図22に、
実施例3(PP/MAPP3.3wt%/BF50wt%/APP10wt%)、
比較例1(PP)、
比較例2(PP/MAPP3.3wt%/APP10wt%)、
比較例13(PP/MAPP3.3wt%/BF50wt%)
の各試料における重量減少率と温度の関係を示す。
図23に、
実施例4(PLA/CP30wt%/APP10wt%)、
実施例5(PLA/CP40wt%/APP10wt%)、
比較例14(PLA)、
比較例15(PLA/APP10wt%)、
比較例18(PLA/CP40wt%)、
比較例19(PLA/CP10wt%/APP10wt%)
の各試料における重量減少率と温度の関係を示す。
参考のために、セルロース粉末(Cellulose Powder)のデータも併記した。
図20,図23に示した重量減少挙動を重量減少速度へ変換した図を図24,図25に示す。
<考察>
(1)難燃機構について
樹脂の難燃化には、「着火→熱分解→可燃性ガスの発生→燃焼→発熱→熱分解・・・」のサイクルを断ち切る必要がある。
そのサイクルを断ち切る方法として、1つ目に「不燃性ガスの気相による難燃機構」が挙げられる。これは水蒸気などの不燃性ガスによる吸熱効果や樹脂の熱分解から発生した可燃性ガス希釈効果によって難燃化する方法である。
2つ目に「断熱層形成の固相による難燃機構」が挙げられる。これは炭化層等の断熱層を形成することにより、燃焼熱の断熱効果や樹脂の熱分解から発生した可燃性ガス遮断効果によって、樹脂を難燃化する方法である。
以下の考察に見るように、本発明における難燃性の発揮は、上記2つの難燃機構が重要な役割を果たしていると考えられる。
(2)熱可塑性樹脂単体について
PP単体及びPLA単体では水平燃焼試験において自己消火に至らなかった(表7,8の比較例1,14参照。)。両試料とも水平燃焼中に燃焼熱による滴下・溶融がみられた。
また、PP単体よりもPLA単体の方が、燃焼速度、発熱速度ともに遅い結果となった(表7〜10の比較例1,14参照。)。
この結果は、PPとPLAの化学式の違いにあると考えられる。
すなわち、PPとPLAのそれぞれの化学式は(C36n、(C342nである。PPは自身に酸素原子を持たないため、空気中の酸素と酸化反応し燃焼する。さらに空気中の酸素だけでは酸素不足になり不完全燃焼を引き起こすため、一酸化炭素やすすといった燃焼拡大の原因物質を生成してしまう。その結果、非常に発熱速度が大きくなり燃焼が拡大したと考えられる。
一方で、PLAは自身に酸素原子を持つため、燃焼中に酸素不足にならない。そのため、完全燃焼となり、二酸化炭素と水の不燃性ガスを生成する。その結果、PPに比べ発熱速度が小さくなったと考えられる。しかし、PLAだけでは燃焼拡大を止める程、不燃性ガスを生成することが出来なかったため、自己消火に至らなかったと考えられる。
(3)セルロース系材料のみの添加について
セルロース系材料のみを添加した場合、PP系試料においてもPLA系試料においても水平燃焼試験では自己消火しなかった(表7,8の比較例3〜5,8〜10,13,16〜18参照。)。単純にCPの添加量を増やせば、燃焼熱による滴下や溶融現象が抑えられた。
表9,10と図8〜11より、PP系試料、PLA系試料のいずれにおいても、セルロース系材料を添加することにより、発熱速度が低下することが分かった。
この結果は、セルロース系材料が燃焼熱によって脱水反応し、生成された水の吸熱反応によるものと考えられる。
すなわち、セルロース系材料を添加することで「不燃性ガスの気相による難燃機構」が発現したと考えられる。
一方で、脱水反応によって炭素が生成されているはずである。しかし、表11,12から分かるように、PP系試料においても、PLA系試料においても、炭化層形成速度が遅い。
この理由として、脱水反応せず水分子ではなく、水素のみが抜けた可能性がある。水素が抜けると、残った炭素と酸素が結合して一酸化炭素などの可燃性ガスになっている可能性が高いと言われている(斉藤勝,たかが木炭されど木炭(1),林産試だより,10月号,(1993),pp.6−12)。
セルロース系材料を添加すると脱水反応で生成された水の吸熱反応を起こすが、その一方で、脱水反応せず水素のみが抜けた結果、炭化層として残るべき炭素が一酸化炭素などの可燃性ガスとなって燃焼が拡大したと考えられる。
(4)リン酸系難燃剤のみの添加について
リン酸系難燃剤のみを添加した場合、PP系試料では燃焼拡大し、PLA系試料では水平燃焼試験で自己消火性を示した(表7の比較例2、表8の比較例15参照。)。
表9,10と図8〜11より、PP系試料、PLA系試料のいずれにおいても、リン酸系難燃剤を添加することにより、発熱速度が低下することが分かった。
APPは加熱されると起こる「アンモニアの離脱」と「脱水反応による水の発生」といった不燃性ガスの生成にも優れている。この不燃性ガスによる「可燃性ガスの希釈効果」や「水の吸熱反応」が発現したのではないかと考えられる。つまり、APPを添加することで「不燃性ガスの気相による難燃機構」が発現したと考えられる。
PLAの場合、これに加え、上述の通り完全燃焼により不燃性ガスを生成するため、「不燃性ガスの気相による難燃機構」がより強力に発現したと考えられる。
以上の理由から、PLA/APPのみ水平燃焼試験によって自己消火性を示したと考えられる。しかし、燃焼中に発生した滴下物に炎が燃え移っていた。たとえ自己消火性を示したとしても、この滴下物によって他に燃え移る可能性があると考えた。そのため、本実験では最も悪い難燃性であるHB評価を与えた。
(5)セルロース系材料とリン酸系難燃剤の併用について
上記(2)〜(4)に示すとおり、熱可塑性樹脂は易燃性が高く、また、セルロース系材料やリン酸系難燃剤を単独で添加するだけでは十分な難燃性は得られない。
しかし、セルロース系材料とリン酸系難燃剤を併用することによって、相乗効果により、高い難燃性が得られる。PP系試料、PLA系試料のいずれにおいても、水平燃焼試験において滴下物も見られなかった。
セルロース系材料やリン酸系難燃剤を単独で添加した場合と明らかに違うのは、炭化層形成である。
PP系試料においてもPLA系試料においても炭化層形成速度が増加していることが分かる(表11の実施例1〜3、比較例7,12、表12の実施例4,5参照。)。
理由として、リン酸系難燃剤によるセルロース系材料の脱水反応の促進により炭化層形成が増加し、これより「炭化層形成の固相による難燃機構」が発現したためであると考えられる。
さらに、リン酸系難燃剤と一緒に添加するセルロース系材料の量を増やすと、リン酸系難燃剤によって促進させるセルロース系材料の量が増加するので炭化層形成速度は増加する。
PP系試料とPLA系試料とで炭化層形成速度にほとんど変化はなかった(表11の比較例7と表12の実施例4参照。)。
つまり、APPによるCPの炭化層形成の促進はPPとPLAの違い(燃焼の仕方等)によって差は見られない。
「炭化層形成の固相による難燃機構」は熱可塑性樹脂の違いによらず発現することが分かった。
しかし、CP10wt%添加とCP30wt%添加ではAPPの添加量が同じにも関わらず、PPとPLAで自己消火性に違いが見られた(表7の比較例6,7と、表8の比較例19、実施例4参照。)。
この理由として、APPのみの添加した場合と同様、PLAは完全燃焼により不燃性ガスを生成するため「不燃性ガスの気相による難燃機構」がより強力に発現したと考えられる。
CP50wt%添加のPP系試料(実施例1)は、垂直燃焼試験において、10秒間の2回接炎を行っても、非常に良い自己消火性を示した。
CP30wt%添加及びCP40wt%添加の各PLA系試料(実施例4,5)も、垂直燃焼試験において、10秒間の2回接炎を行っても、非常に良い自己消火性を示した。
図16〜19から分かるとおり、V−0評価を得たこれらの試料の炭化層は、炭化したCPがリン成分で被覆されている。そのため、1回目の接炎で生成された炭素が、2回目の接炎で酸化せずに炭化層として残った。
さらに、CPの添加量が多いと、APPによるCPの脱水反応の促進により炭化層形成速度が増加し、「炭化層形成の固相による難燃機構」がより強力に発現したと考えられる。
このようにセルロース系材料による炭化層がリン酸系難燃剤によるリン成分で被覆されることで、「炭化層形成の固相による難燃機構」が良好に発揮される。
図8〜10を参照すると、セルロース系材料を添加した各PP系試料では、2つ凸のような曲線を描いているのが分かる。
1つ目の凸は初期の発熱に対して炭化層を形成したため発熱が抑えられた挙動を表している。2つ目は材料に熱を与え続けた結果、一度形成した炭化層が崩れ内部の樹脂が露呈したため再び発熱したことを表している。
一方で、図11を参照すると、セルロース系材料を添加したPLA系試料では、2つ目の凸を描いておらず、発熱速度もPP系試料に比べて低いことが分かる。
この理由として、第1に、発熱の初期段階で形成した炭化層が与え続けられる熱によって崩れなかったこと、第2に、炭化層が崩れてPLAが露呈したとしても、PLAの完全燃焼による不燃性ガスとAPPの効果による不燃性ガスの希釈効果により発熱が抑えられたこと、以上2つの理由が考えられる。
よって、PP系試料よりもPLA系試料のほうが、「不燃性ガスの気相による難燃機構」の効果が大きいため難燃性に優れていることが分かった。
上記に関連して、PP系試料におけるセルロース系材料の種類による違いについてみてみると、まず、1つ目の凸は、BF添加の試料が一番大きな発熱速度である。つまり、CP添加及びPulp添加の試料に比べ、BF添加の試料において、初期の発熱を抑え難かったと言える。
セルロース系材料のみの添加(リン酸系難燃剤不使用)では、併用の場合の上記結果とは逆で、BF添加が一番小さな発熱速度であったことから、セルロース成分の方がリン酸系難燃剤と相性が良いのではないかと考えられる。
BFに含まれる天然リグニンは、セルロースやヘミセルロースと共に強固な複合材料を形成している(高野俊幸,リグニンの利用に向けて,「ネットワークポリマー」,Vol.31,No.5,(2010),pp.213−223)。そのためリグニンの存在により、APPによる脱水反応がされ難かったのではないかと考えられる。
2つ目の凸を見てみると、発熱速度のピークは大きな差は見られない。しかし、ピーク後の発熱挙動を見てみると、特にPulp添加の試料が発熱していることが分かる。
理由として、粒子状に粉砕しているCPやBFに比べて、Pulpは繊維長が大きいため、APPと反応する比表面積が、CPやBFに比べて低下してしまい、「不燃性ガスの気相による難燃機構」と「炭化層形成の固相による難燃機構」が作用し難く、総発熱速度が増加したと考えられる。
実際、炭化層形成速度もPulp添加の試料が一番小さかった(表11の実施例1〜3参照。)。
よって、リグニン等の複雑な構造を持たないセルロース成分が多く、粒子サイズが小さいセルロース系材料が、難燃発現に有効であることが分かった。今回の場合、CPがこの条件を満たしており、APPの脱水反応の効果が大きいため、より良い難燃性を得られることが分かった。
以上に詳述したとおり、熱可塑性樹脂の難燃化には、リン酸系難燃剤によるセルロース系材料の脱水反応の促進が有効であることが分かった。脱水反応の促進によって、セルロース系材料添加の利点である「水」と「炭素」を大量に生成できたと考えられる。
その結果、生成された「水」は「不燃性ガスの気相による難燃機構」へ、「炭素」は「炭化層形成の固相による難燃機構」へ作用し、最も良い難燃性であるV−0評価を得ることができたと考えられる。
(6)難燃性を発現させるためのパラメータについて
次に、熱重量分析の結果から、脱水反応が如何に低温で起こるかが「不燃性ガスの気相による難燃機構」と「炭化層形成の固相による難燃機構」を発現させる重要な要因であると考えた。
また、低温でセルロース系材料の脱水反応が起こった後に、熱可塑性樹脂の熱分解が起こることで、非常に脱水反応の効果を得やすいと考えた。
そこで、熱重量分析における重量減少ピーク速度に達した時の温度について、熱可塑性樹脂とセルロース系材料の大小関係と、熱可塑性樹脂と樹脂組成物の差に着目した。
なお、低温過程(<300℃)での主な熱分解反応が脱水であるという報告(河本晴雄,セルロースの熱分解反応と分子構造,木材学会誌,Vol.61,No.1,(2015),pp.127−133)から、低温側(ここでは300℃より低温)で重量減少のピーク(下に凸)を示す場合は、その低温側のピーク温度について考えることとした。
すなわち、表13〜16におけるTmax1について、熱可塑性樹脂のTmax1をTP、セルロース系材料のTmax1をTB、樹脂組成物のTmax1をTCMPとしたときのTPとTBの大小関係及びTP−TCMPに着目した。
PとTCMPの差を使って、炭化層形成速度、発熱速度、炭化層の厚さとの関係を整理したグラフを、それぞれ、図26〜28に示す。
これらのグラフより、TP−TCMPの値が大きいほど炭化層形成速度が上昇し、それに伴って発熱速度が低下することが分かる。
つまり、熱可塑性樹脂の熱分解のピーク時の温度から如何に樹脂組成物の脱水反応のピークの温度を低下させるかが、難燃を発現するための要因の1つであると言える。
各実施例及び比較例におけるTP、TB、TCMP、TP−TCMPの値と難燃性の結果を整理すると、下表のとおりである。
今回最も良い難燃性であるV−0を達成した実施例1〜5におけるTP−TCMPの値が、それぞれ113℃、108℃、97℃、119℃、125℃であり、他の比較例は最も悪い難燃性であるHBの評価であり、TP−TCMPの値が最大で93℃であった(比較例19)。
また、V−0を達成した実施例1〜5は、いずれもTP>TBの条件を満たしている。
この結果から、セルロース系材料の脱水反応を促進することにより、V−0を達成するためには、TP>TBの条件を満たした上で、TP−TCMPの値が95℃以上必要であると分かる。
P−TCMPの値が大きいということは、それだけ低温で脱水反応が発生していることである。より低温で脱水反応が起きることによって、その分多くの「水」と「炭素」が生成され、炭化層が分厚くなる。
実施例1〜5がV−0を達成した理由は、脱水反応促進によって炭化層の厚さが一定以上に達したことにより、材料内部を燃焼継続温度以下に保ったためと考えられる。
上記関係式の発見によって、今後様々な熱可塑性樹脂をセルロース系材料の脱水反応の促進によってV−0を目指す際に、混練から燃焼試験までのトライ&エラーの時間を割く必要がなく、TP−TCMPの値は、V−0達成を出来るかどうかを判定する簡単なパラメータになる。
〔追加実験:ポリアセタール系試料を用いた実験〕
本発明の技術的意義をさらに明確するため、ポリアセタール系試料を用いた実験を追加的に行った。
<ポリアセタール系試料の作製>
(比較例20)
熱可塑性樹脂、セルロース系材料及びリン酸系難燃剤を混練し、樹脂組成物を得た。
熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユピタール(F20)、以下POMと略)を用いた。
セルロース系材料としては、BFを用いた。粒子径が50μm〜150μmのものを用いた。
リン酸系難燃剤としては、APPを用いた。
配合は、
POM44重量%、BF36重量%、APP10重量%
とした。
混練は、以下のように行った。
すなわち、まず、POMとBFを同方向回転二軸押出機(Coperion社製,ZSK18,スクリュー径=18mm,L/D=40)を用いて溶融混練した。
スクリューセグメントの構成を図29に示す。スクリューの構成はBFの分散性を向上させるためにニーディングディスクを2か所とミキシングスクリューを1か所入れ、混練時、試料にせん断力をかけられる構成とした。
混練前にPOMとBFは熱風乾燥器で80℃、24時間熱風乾燥した。
混練条件を下表21に示す。丸数字は図29の位置関係と対応している。
なお、得られたペレットを、以下、「POM/BFペレット」と称する。
次に、POM/BFペレットに対してAPPを添加し、同方向回転二軸押出機(Coperion社製,ZSK18,スクリュー径=18mm,L/D=40)を用いて溶融混練を行った。スクリューセグメントの構成は上記と同様、図29に示すとおりである。
POM/BFペレットとAPPは、混練前に熱風乾燥器で80℃、24時間乾燥させた。
混練条件を下表22に示す。丸数字は図29の位置関係と対応している。
(比較例21)
熱可塑性樹脂、セルロース系材料及びリン酸系難燃剤を混練し、樹脂組成物を得た。
熱可塑性樹脂としてはPOMを用いた。
セルロース系材料としては、BFを用いた。粒子径が50μm〜150μmのものを用いた。
リン酸系難燃剤としては、ポリリン酸メラミン(三和ケミカル株式会社製,MPP−A,以下MPPと略)を用いた。
配合は、
POM44重量%、BF36重量%、MPP10重量%
とした。
混練は、以下のように行った。
まず、比較例20と同様にして、POM/BFペレットを得た。
次に、POM/BFペレットに対してMPPを添加し、同方向回転二軸押出機(Thermo Fisher Scientific社製,Thermo Scientific HAAKE Process11,スクリュー径=11mm,L/D=40)を用いて溶融混練した。
スクリューセグメントの構成を図30に示す。スクリューの構成はBFの分散性を向上させるためにニーディングディスクを3か所入れ、混練時、試料にせん断力をかけられる構成とした。
POM/BFペレットとMPPは、混練前に熱風乾燥器で80℃で24時間乾燥させた。
混練条件は、スクリュー回転速度:150rpm、ヒーター設定温度:180℃とした。
(比較例22)
リン酸系難燃剤として、MPP10重量%に代え、APP7重量%とメラミン(三井化学株式会社製,以下MEと略)3重量%を併用したこと以外は、比較例21と同様にして、樹脂組成物を得た。
(比較例23)
比較例20に記載のPOM/BFペレットを比較例23とした。
配合は、
POM60重量%、BF40重量%
である。
<試験>
(試験片の作製)
PP系試料、PLA系試料と同様にして、図3に示す試料評価用のダンベル試験片を作製した。
ただし、射出成形の条件は、表23に示すとおりとした。
(試験方法)
上記で作製した試験片を用いて、PP系試料、PLA系試料における「(1)燃焼試験」、「(5)熱重量分析」と同様の試験を行った。
(試験結果)
水平燃焼試験より得られた燃焼速度の結果を図31に示す。
BF、APP、MEを添加した比較例22のみ、自己消火性を示した。自己消火までにかかった時間は、77.66秒であった。
しかし、この比較例22の試験片について垂直燃焼試験を行なったところ、1回目の接炎で自己消火に至らなかった。
また、熱重量分析を行った結果を下表に示す。
図32に、
比較例20(POM/BF(3:2)+APP(K)10wt%)、
比較例21(POM/BF(3:2)+MPP10wt%)、
比較例22(POM/BF(3:2)+APP(K)7wt%+ME3wt%)、
比較例23(POM/BF(3:2))
の各DTG曲線を示す。
参考のために、ポリアセタールのみのデータ(POM)も併記した。
(考察)
上記各比較例におけるTP、TB、TCMP、TP−TCMPの値と難燃性の結果を整理すると、下表のとおりである。
上記POM系試料にかかる比較例の結果からも、V−0を達成するためには、TP>TBの条件を満たし、TP−TCMPの値が95℃以上必要であることが確認できた。

Claims (7)

  1. 熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含み、下記の関係式(1)及び(2)を満たす、樹脂組成物。
    (上式(1)及び(2)において、TP、TB及びTCMPは熱重量分析における重量減少速度ピーク時の温度を指し、それぞれ、TP:熱可塑性樹脂の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TB:セルロース系材料の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TCMP:樹脂組成物の重量減少速度ピーク時の温度(℃)である。ただし、樹脂組成物の重量減少速度ピークが2つある場合は低温側の温度をTCMPとする。)
  2. 前記セルロース系材料がセルロース粉末である、請求項1に記載の樹脂組成物。
  3. 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィンである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
  4. 前記熱可塑性樹脂がポリエステルである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
  5. 前記ポリエステルがポリ乳酸である、請求項4に記載の樹脂組成物。
  6. 前記リン酸系難燃剤がポリリン酸アンモニウム及び/又はリン酸メラミンである、請求項1から5までのいずれかに記載の樹脂組成物。
  7. 熱可塑性樹脂と、セルロース系材料と、リン酸系難燃剤とを含む樹脂組成物について、下記の判定要素(1)及び(2)に基づいて難燃性を判定する、樹脂組成物の難燃性判定方法。
    判定要素(1):TPとTCMPの差
    判定要素(2):TPとTBの大小関係
    (上記判定要素(1)及び(2)において、TP、TB及びTCMPは熱重量分析における重量減少速度ピーク時の温度を指し、それぞれ、TP:熱可塑性樹脂の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TB:セルロース系材料の重量減少速度ピーク時の温度(℃)、TCMP:樹脂組成物の重量減少速度ピーク時の温度(℃)である。ただし、樹脂組成物の重量減少速度ピークが2つある場合は低温側の温度をTCMPとする。)
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