JP2018159564A - 水素ガスセンサ - Google Patents

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Abstract

【課題】100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制でき且つ応答性を向上させることができる水素ガスセンサを提供すること。【解決手段】基板と、基板の一面側に設けられ、水素ガスを検知する検知部と、基板の一面側で検知部に接触して設けられ、検知部における電気抵抗を測定するための一対の電極と、検知部を加熱するための発熱部を有するヒータ装置と、検知部の温度を測定する温度測定装置と、温度測定装置によって測定される検知部の温度に基づいてヒータ装置における前記発熱部の発熱量を調節し、前記検知部の温度を210℃以下の温度に制御する制御装置とを備え、検知部が金属酸化物及び触媒を含み、検知部についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比が0.16以下である、水素ガスセンサ。【選択図】図1

Description

本発明は、水素ガスセンサに関する。
近年、環境・エネルギー問題の解決のため、日本では水素社会化の動きが加速している。例えば水素と酸素との化学反応を利用して発電しモータを回して走る燃料電池車などの開発が行われている。一方、水素ガスは、大気中での濃度が4%(40000ppm)を超えると爆発する気体であるにもかかわらず、無色透明でにおいもなく、漏洩を検知することが困難である。このため、漏洩検知用の水素ガスセンサに対する関心が高まっている。
水素ガスセンサとしては、三酸化タングステンなどの金属酸化物に触媒を担持させた検知部を有する水素ガスセンサが知られている。三酸化タングステンなどの金属酸化物の周囲に水素が存在すると、触媒により水素分子が分解してプロトンと電子になり、これらが金属酸化物内に入り込んで電荷担体(キャリア)密度が上昇するため、検知部の電気抵抗が低下する。このため、上記水素ガスセンサは、この電気抵抗の変化を利用して水素ガスを電気的に検知することができる。
このような電気抵抗検知式の水素ガスセンサとして、例えば下記特許文献1に記載の水素ガスセンサが知られている。下記特許文献1には、基板と、基板上に設けられ、三酸化タングステンなどの金属酸化物及び触媒からなる検知膜と、検知膜を加熱するためのヒータと、基板及び水素検知膜に接して形成される一対の電極とを有する水素ガスセンサが開示されている。
特許第4076465号公報
しかし、上記特許文献1に記載の水素ガスセンサは、以下の課題を有していた。
すなわち、上記特許文献1に記載の水素ガスセンサは、工業的なプロセスで水素を使用する装置・機器類のほか、水素ステーションや燃料自働車などで使用される。このような環境においては、空気中に水素ガスのみならず、僅かながら水素ガス以外の夾雑ガス(例えばガソリンやエタノールなどの炭化水素系ガス)が含まれることが考えられる。この夾雑ガスは、検知膜の動作温度が400℃の高温になると、検知膜の触媒上で解離され、検知膜の電気抵抗を変化させる。このとき、夾雑ガスによる電気抵抗の変化が十分に小さければよいが、夾雑ガスの種類によっては、検知膜の電気抵抗の変化が、水素ガスによる検知膜の電気抵抗の変化より大きくなる場合もある。特にこのことは、水素ガス濃度の測定値が小さい場合(100ppm付近)に起こり得る。従って、上記特許文献1記載の水素ガスセンサでは、100〜40000ppmの水素ガス濃度において水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知が生じるおそれがあった。
また、上記特許文献1に記載の水素ガスセンサでは、水素ガスに対する応答性の点で改善の余地があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制でき且つ水素ガスに対する応答性を向上させることができる水素ガスセンサを提供することを目的とする。
本発明者は、上記特許文献1記載の水素ガスセンサにおいて、100〜40000ppmの水素ガス濃度で水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制するべく検討を重ねた。その結果、上記特許文献1記載の水素ガスセンサにおいて検知膜の温度を210℃以下の温度に制御すると、水素ガス以外の夾雑ガスが触媒上で解離されにくくなり、夾雑ガスによる電気抵抗の変化を十分に抑制でき、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制できることを突き止めた。
しかし、検知膜の温度を210℃以下にすると、水素ガスに対する応答性が低下する傾向がある。そこで、本発明者は、水素ガスセンサにおいて検知膜の温度を210℃以下にしても、同一の検知膜温度における水素ガスに対する応答性を改善させることができるように研究を重ねた。具体的に、本発明者は、金属酸化物膜を成膜する際に成膜条件を変えて作製した異なる結晶性を有するいくつかの金属酸化物膜に対して水素ガスを吹きかけた。その結果、電気抵抗の変化率に大きな違いが見られることに気付いた。そこで、本発明者は金属酸化物膜の結晶性が電気抵抗の変化率の違いを生じさせる原因となっているのではないかと考えた。しかし、金属酸化物膜の厚さは通常、数100nmのオーダーであり、通常のX線回折等でその結晶性を確認することが困難であった。そこで、本発明者はさらに鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物膜のラマン散乱測定であれば、金属酸化物膜の厚さが小さくても、その結晶性を確認できることを突き止めた。特に、ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいては、金属酸化物は、金属原子及び酸素原子の一重結合のピークを有しており、結晶性が低くなるにつれて金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度が大きくなることが分かった。さらに本発明者は、一重結合のピーク強度に対する二重結合のピーク強度の比が特定の値以下であることが、同一の検知膜温度における水素ガスに対する応答性を改善する上で有効であることを見出した。こうして、本発明者は本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、基板と、前記基板の一面側に設けられ、水素ガスを検知する検知部と、前記基板の一面側で前記検知部に接触して設けられ、前記検知部における電気抵抗を測定するための一対の電極と、前記検知部を加熱するための発熱部を有するヒータ装置と、前記検知部の温度を測定する温度測定装置と、前記温度測定装置によって測定される前記検知部の温度に基づいて前記ヒータ装置における前記発熱部の発熱量を調節し、前記検知部の温度を210℃以下の温度に制御する制御装置とを備え、前記検知部が金属酸化物及び触媒を含み、前記検知部についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、前記金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する前記金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比が0.16以下である、水素ガスセンサである。
本発明の水素ガスセンサによれば、ヒータ装置の発熱部により検知部が加熱される。このとき、温度測定装置によって検知部の温度が測定され、その測定された温度に基づいて、制御装置によりヒータ装置における発熱部の発熱量が調節され、検知部の温度が210℃以下の温度に制御される。このように検知部の温度が210℃以下の温度に制御されると、水素ガス濃度の測定値が100ppmでも、夾雑ガスの種類にかかわらず、夾雑ガスによる電気抵抗の変化を水素ガスによる電気抵抗の変化よりも小さくすることができる。このため、本発明の水素ガスセンサは、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制できる。
また、本発明によれば、検知部についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比が0.16以下であることで、ピーク強度の比が0.16を超える場合に比べて、検知部において同一温度における水素ガスに対する応答性を向上させることが可能となる。
上記水素ガスセンサにおいては、前記制御装置が、前記温度測定装置によって測定される前記検知部の温度に基づいて前記ヒータ装置における前記発熱部の発熱量を調節し、前記検知部の温度を80℃以上の温度に制御することが好ましい。
この場合、検知部の温度が80℃未満の温度に制御される場合に比べて、水素ガスに対する検知部の応答性や検知部の電気抵抗の安定性がより向上する。
上記水素ガスセンサにおいて、前記金属酸化物が三酸化タングステンで構成されることが好ましい。
この場合、金属酸化物が三酸化タングステン以外の金属酸化物で構成される場合に比べて、水素ガスセンサは、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知をより十分に抑制できる。
なお、本発明において、「前記検知部について顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、前記金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する前記金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比」とは、以下の測定条件下で顕微ラマン散乱測定を行った場合における比を言うものとする。
(測定条件)
露光時間:20秒
照射光波長:532nm
対物レンズの倍率:100倍
対物レンズの開口数:0.95
露光回数(積算回数):3回
測定温度:25℃
また本発明において、「金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度」とは、ラマンスペクトルにおいて、金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合に対応する散乱ピークが複数本出現する場合に、複数本の散乱ピークのうち最も散乱強度の大きい散乱ピークのピーク強度を言う。ここで、「金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合」には、対称な伸縮振動、非対称な伸縮振動及び曲げによる振動(変角振動)に関する一重結合が全て含まれる。
本発明によれば、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制でき且つ水素ガスに対する応答性を向上させることができる水素ガスセンサが提供される。
本発明の水素ガスセンサの一実施形態を示す平面図である。 図1のII−II線に沿った切断面端面図である。 実施例1〜4及び比較例1〜2の水素ガスセンサにおける検知部についての顕微ラマン散乱測定によって得られたラマンスペクトルを示すグラフである。 実施例5〜8及び比較例3の水素ガスセンサにおける検知部についての顕微ラマン散乱測定によって得られたラマンスペクトルを示すグラフである。 比較例4〜8の水素ガスセンサにおける検知部についての顕微ラマン散乱測定によって得られたラマンスペクトルを示すグラフである。 水素ガス濃度と検知部の電気抵抗値との関係を示すグラフである。 実施例1〜4及び比較例1〜2に係る検知部の表面温度と抵抗値との関係を示すグラフである。 実施例5〜8及び比較例3に係る検知部の表面温度と抵抗値との関係を示すグラフである。 比較例4〜8に係る検知部の表面温度と抵抗値との関係を示すグラフである。 実施例1〜8及び比較例4〜8に係る検知部の表面温度と水素ガスに対する80%応答時間との関係を示すグラフである。
以下、本発明の水素ガスセンサの実施形態について図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の水素ガスセンサの一実施形態を示す平面図、図2は、図1のII−II線に沿った切断面端面図である。
図1及び図2に示すように、水素ガスセンサ100は、基板10と、基板10の一面10a側に設けられ、水素ガスを検知する検知部20と、基板10の一面10a側で検知部20に接触して設けられ、検知部20における電気抵抗を測定するための一対の電極31,32と、検知部20を加熱するための発熱部44を有するヒータ装置40と、検知部20の温度を測定する温度測定装置50と、温度測定装置50によって測定される検知部20の温度に基づいてヒータ装置40における発熱部44の発熱量を調節し、検知部20の温度を210℃以下の温度に制御する制御装置60とを備えている。本実施形態では、一対の電極32,33は、基板10の一面10aと検知部20とによって挟まれるように設けられている。また検知部20は金属酸化物及び触媒を含んでいる。さらに検知部20においては、検知部20についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比が0.16以下となっている。
水素ガスセンサ100は、検知部20に水素ガスが吸着される場合における検知部20の電気抵抗の変化を一対の電極32,33間に電圧を印加することによって測定し、その電気抵抗の変化によって水素ガスを検知する。
水素ガスセンサ100によれば、ヒータ装置40により検知部20が加熱される。このとき、温度測定装置50によって検知部20の温度が測定され、その測定された温度に基づいて、制御装置60によりヒータ装置40における発熱部44の発熱量が調節され、検知部20の温度が210℃以下の温度に制御される。このように検知部20の温度が210℃以下の温度に制御されると、水素ガス濃度の測定値が100ppmでも、夾雑ガスの種類にかかわらず、夾雑ガスによる電気抵抗の変化を水素ガスによる電気抵抗の変化よりも小さくすることができる。このため、水素ガスセンサ100は、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制できる。
また、水素ガスセンサ100によれば、検知部20についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比が0.16以下であることで、ピーク強度の比が0.16を超える場合に比べて、検知部20において同一温度における水素ガスに対する応答性を向上させることが可能となる。
次に、上述した基板10、検知部20、電極31,32、ヒータ装置40、温度測定装置50及び制御装置60の各々について詳細に説明する。
<基板>
基板10としては、シリコン、サファイヤ、ガラス、アルミナなどの絶縁性基板や、SiCなどの半絶縁性基板などを用いることができる。
上記ガラスとしては、無アルカリガラス又は石英ガラスなどを用いることができる。
<検知部>
検知部20は、上述したように、金属酸化物及び触媒を含む。
(金属酸化物)
金属酸化物は、触媒による水素ガスの分解作用によって発生したプロトン及び電子によって電気抵抗が低下する金属酸化物で構成されていればよい。金属酸化物としては、例えば三酸化モリブデン(MoO)、三酸化タングステン(WO)、二酸化チタン(TiO)、五酸化バナジウム(V)、酸化ニッケル(NiO)などが挙げられる。これらは1種類単独で又は2種以上を組み合せて用いてもよい。金属酸化物は、三酸化タングステン(WO)で構成されることが好ましい。この場合、金属酸化物が三酸化タングステン以外の金属酸化物で構成される場合と比べて、水素ガスセンサ100は、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知をより十分に抑制できる。
(触媒)
触媒は、水素ガスをプロトンと電子とに分解する作用を持つものであればよい。このような触媒としては、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)及びルテニウム(Ru)が挙げられる。これらは1種類単独で又は2種以上を組み合せて用いてもよい。上記触媒の中でも、白金(Pt)が特に好ましい。
触媒は、金属酸化物で構成される金属酸化物層の上に担持されていてもよいし、個々の金属酸化物の表面に付着している形態でもよい。
検知部20についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいては、金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比(以下、「ピーク強度比」と呼ぶ)が0.16以下である。この場合、ピーク強度比が0.16を超える場合に比べて、検知部20において、同一温度における水素ガスに対する応答性を向上させることができる。
ピーク強度比は0.14以下であることが好ましい。この場合、ピーク強度比が0.14より大きい場合と比べて、検知部20の温度が210℃以下であっても、検知部20において、同一温度における水素ガスに対する応答性をより向上させることができる。
ここで、金属酸化物が三酸化タングステンで構成される場合のピーク強度比について詳細に説明する。
金属酸化物が三酸化タングステンで構成される場合、ピーク強度比は、タングステン原子と酸素原子との一重結合(W−O)の最大ピーク強度に対するタングステン原子と酸素原子との二重結合(W=O)のピーク強度の比を言う。ここで、タングステン原子と酸素原子との一重結合(W−O)の最大ピーク強度は通常、750〜850cm−1の範囲内にあり、タングステン原子と酸素原子との二重結合(W=O)のピーク強度は通常、900〜1000cm−1の範囲内にある。ここで、タングステン原子と酸素原子との一重結合(W−O)の最大ピークは非対称の伸縮振動に対応するピークであり、タングステン原子と酸素原子との二重結合(W=O)のピークは対称な伸縮振動に対応するピークである。
検知部20の厚さは特に限定されるものではないが、1μm以下であることが好ましい。この場合、水素ガスセンサ100が、検知部20において同一温度における水素ガスに対する応答性をより向上させることができる。検知部20の厚さはより好ましくは0.5μm以下である。但し、検知部20の厚さは0.05μm以上であることが好ましい。
<ヒータ装置>
ヒータ装置40は検知部20を加熱し得る発熱部44を有するものであればよい。ヒータ装置40としては、例えば白金ヒータ、セラミックヒータ及び裸発熱体などが挙げられる。ヒータ装置40が白金ヒータで構成される場合、ヒータ装置40は、例えば図1及び図2に示すように、発熱部44を有するヒータ装置本体部41と、ヒータ装置本体部41に接続され、ヒータ装置本体部41に電圧を印加する電圧印加装置42とを有する。ヒータ装置本体部41は、発熱部44を支持面43a上に支持する支持体43と、支持体43の支持面43a上に設けられ、発熱部44の両端に接続される接続端子45a,45bとを有する。電圧印加装置42は、接続端子45aと接続端子45bとを接続するものである。
<電極>
電極31,32は、水素ガス、炭化水素系ガス、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスに対して触媒活性を示さない導電材料であれば特に制限されるものではない。このような電極31,32を構成する導電材料としては、例えば金、銀、アルミニウム合金、チタン、白金などが挙げられる。電極31,32は、上記導電材料からなる単一の層であってもよく、異なる導電材料からなる複数の層の積層体であってもよい。電極31,32の種類は特に制限されず、電極31,32の種類としては、円形状電極、四角形状電極、櫛歯状電極が挙げられる。中でも、電極31,32は櫛歯状電極であることが、電極31,32が微小電極であっても水素ガスに対する検出感度が高いことから好ましい。電極31,32が櫛歯状電極である場合、電極31は、例えば本体部31aと、本体部31aから延びる歯部31bと、本体部31aに接続され、検知部20の外側に設けられる接続端子部31cとを有する。同様に、電極32は、例えば本体部32aと、本体部32aから延びる歯部32bと、本体部32aに接続され、検知部20の外側に設けられる接続端子部32cとを有する。
<温度測定装置>
温度測定装置50は、検知部20の温度を測定し得るものであればいかなるものでもよい。温度測定装置50としては、例えば熱電対、サーモグラフィ、測温抵抗体及びサーミスタなどが挙げられる。
<制御装置>
制御装置60は、温度測定装置50によって測定される検知部20の温度に基づいてヒータ装置40における発熱部44の発熱量を調節し、検知部20の温度を210℃以下の温度に制御するものであればよい。制御装置60としては、例えば温度調節器などを用いることができる。
制御装置60において制御目標とする温度は210℃以下の温度であればよいが、80℃以上の温度であることが好ましい。この場合、検知部20の温度が80℃未満の温度に制御される場合に比べて、水素ガスセンサ100において、水素ガスの検知の応答性や検知部20の電気抵抗の安定性がより向上する。制御装置60において制御目標とする温度は120〜200℃の温度であることがより好ましい。
次に、水素ガスセンサ100の製造方法の一例について説明する。
まず支持体43を用意する。
次に、支持体43の一面43a上に発熱部44及び接続端子45a,45bを複数形成する。こうしてヒータ装置本体部41を得る。
次に、ヒータ装置本体部41の各発熱部44を覆うように基板10を形成する。
次に、基板10の一面10a上に複数対の電極31,32を形成する。電極31,32は、例えば基板10の一面10a上に、スパッタ法などによって電極層(図示せず)を形成した後、フォトリソグラフィ加工などによって所定の形状に形成することによって得ることができる。
次に、各対の電極31,32を覆うように検知部20を形成する。検知部20は、例えばゾル−ゲル法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パルスレーザーアブレーション)法などを用いて形成することができる。中でもゾル−ゲル法は、大気中で容易に検知部20を形成できることから好ましく用いられる。
例えばゾル−ゲル法を用いて検知部20を形成する場合、金属酸化物の前駆体と、触媒を構成する元素を含む化合物とを混合して混合液を用意し、この混合液を、基板10の一面10a上に塗布して乾燥することで脱水及び縮重合を促して検知部20の前駆体を得た後、この検知部20の前駆体に対して熱処理を行うことで焼成して検知部20を形成することができる。このとき、ピーク強度比が0.16以下である検知部20を得るためには、ゾル−ゲル法における熱処理温度を調整すればよい。熱処理温度を高くすれば結晶性の高い検知部20を形成できるので、ピーク強度比を小さくすることができる。一方、熱処理温度を低くすれば結晶性の高い検知部20を形成できず、金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度が大きくなるので、ピーク強度比を大きくすることができる。
上記混合液の塗布方法としては、例えばディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法及びバーコート法などが挙げられる。中でも、基板10の片面に塗布でき且つ厚さを制御しやすいことから、スピンコート法が好ましい。
こうして構造体を得る。
次に、構造体を複数個のセンサチップに分割した後、接続端子45a,45bを電圧印加装置42で接続する。こうしてヒータ装置40が得られる。
次に、検知部20に温度測定装置40を接続する。
そして、温度測定装置40とヒータ装置40の電圧印加装置43とを制御装置60によって電気的に接続する。
こうして水素ガスセンサ100が得られる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、一対の電極31,32が、検知部20と基板10の一面10aとによって挟まれるように設けられているが、一対の電極31,32は、検知部20のうち基板10と反対側の面に設けられていてもよい。
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず支持体43として、300μm(厚さ)×直径50mmの円板状の石英基板を用意した。
次に、支持体43の一面43a上に、Ptペーストをスクリーン印刷した後、焼成して発熱部44及び接続端子45a,45bを複数形成した。こうしてヒータ装置本体部を得た。
次に、各発熱部44を覆うように、スパッタ装置(ULVAC社製、製品名「SH−350H」)によってSiOからなる基板10を形成した。
次に、基板10の一面10a上に、上記スパッタ装置によって厚さ2nmのTi層及び厚さ10nmのPt層を順次形成して金属層の積層体を形成した後、この金属層の積層体に対してフォトリソグラフィ加工を行うことによって複数対の櫛歯状電極31,32を作製した。このとき、櫛歯状電極31は、本体部31aと、歯部31bと、接続端子31cとを有するように形成し、歯部31bの本数を10本とし、隣り合う歯部31b同士間の間隔を50μmとした。同様に、櫛歯状電極32は、本体部32aと、歯部32bと、接続端子32cとを有するように形成し、歯部32bの本数を10本とし、隣り合う歯部32b同士間の間隔を50μmとした。
次に、塩化タングステンをエタノールに溶解させて、タングステンアルコキシド溶液を作製した。次に、塩化白金酸六水和物をエタノールに溶解させて、白金イオン含有エタノール溶液を作製した。次に、タングステンアルコキシド溶液と白金イオン含有エタノール溶液とをモル比で95:5の割合で混合させて混合液を作製した。
次に、基板10の一面10a上に上記混合液を、各対の櫛歯状電極31,32に対し、接続端子31c、32cを覆わず、本体部31b、32bのみを覆うようにスピンコートによって塗布した後、乾燥することで脱水、縮重合を促して検知部の前駆体を得た。その後、得られた検知部の前駆体を600℃で30分保持することで焼成した。こうして検知部を得た。このとき、上記混合液のスピンコートによる塗布量は、検知部20の厚さが500nmとなる量とした。こうして構造体を得た。
次に、得られた構造体をガラススクライバーで切断し、一対の櫛歯状電極31,32を有する5mm×5mmのセンサチップを得た。
次に、接続端子45a,45bを電圧印加装置42で接続した。こうしてヒータ装置40を形成した。
次に、水素ガスセンサの検知部20の上に、温度測定装置50としての熱電対(理化工業社製、製品名「ST−55」)を取り付けた。
そして、熱電対とヒータ装置40の電圧印加装置42とを制御装置60としての温度調節器に接続した。このとき、制御装置60において、検知部20は、80℃の温度に制御されるようにした。
以上のようにして水素ガスセンサを用意した。
得られた水素ガスセンサの検知部について室温にて顕微ラマン散乱測定を行い、ラマンスペクトルを得た。結果を図3に示す。図3に示すラマンスペクトルにおいて、WOにおけるW原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度(IW=O)及びWOにおけるW原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度(IW−O)を測定し、ピーク強度の比(IW=O/IW−O)を算出したところ、IW=O/IW−Oは表2に示す通り0.105であった。なお、顕微ラマン散乱測定の測定条件は以下の通りとした。またIW=Oは、ラマンシフトが940cm−1付近におけるピーク強度であり、IW−Oは、ラマンシフトが804cm−1付近におけるピーク強度である。

露光時間:20秒
照射光波長:532nm
対物レンズの倍率:100倍
対物レンズの開口数:0.95
露光回数(積算回数):3回
測定温度:25℃
(実施例2〜4及び比較例1〜2)
実施例1の水素ガスセンサにおいて、制御装置における検知部の表面の制御温度を表2に示す温度に変更することにより、実施例2〜4及び比較例1〜2の水素ガスセンサを用意した。
(実施例5〜8及び比較例3)
検知部を得る際に、検知部の前駆体を550℃で30分保持して焼成することによってIW=O/IW−Oが表2に示す値となる検知部20を得るとともに、制御装置における検知部の表面の制御温度を表2に示す温度としたこと以外は実施例1と同様にして実施例5〜8及び比較例3の水素ガスセンサを用意した。
実施例5の水素ガスセンサの検知部について室温にて顕微ラマン散乱測定を行い、ラマンスペクトルを得た。結果を図4に示す。図4に示すラマンスペクトルにおいて実施例1と同様にしてピーク強度の比(IW=O/IW−O)を算出したところ、IW=O/IW−Oは表2に示す通り0.156であった。
(比較例4〜8)
検知部の前駆体を400℃で30分保持して焼成することによってIW=O/IW−Oが表2に示す値となる検知部20を得るとともに、制御装置における検知部20の表面の制御温度を表2に示す温度としたこと以外は実施例1と同様にして比較例4〜8の水素ガスセンサを用意した。
比較例4の水素ガスセンサの検知部について室温にて顕微ラマン散乱測定を行い、ラマンスペクトルを得た。結果を図5に示す。図5に示すラマンスペクトルにおいて実施例1と同様にしてピーク強度の比(IW=O/IW−O)を算出したところ、IW=O/IW−Oは表2に示す通り0.236であった。
<水素ガス濃度と検知部の電気抵抗との関係>
上記のようにして得られた実施例1〜8のうち例えば実施例4の水素ガスセンサ、すなわち検知部20の温度を200℃に制御した水素ガスセンサについて、水素ガス濃度と検知部の電気抵抗との関係を調べた。具体的には、水素ガス濃度が100ppm、500ppm、1000ppm、5000ppm、10000ppm、40000ppmのときの検知部20の電気抵抗値を測定した。結果を表1及び図6に示す。図6において、縦軸は検知部20の電気抵抗値の常用対数であり、横軸は水素ガス濃度の常用対数である。図6に示すように、水素ガス濃度の常用対数は、検知部20の電気抵抗値の常用対数と比例関係にあり、水素ガス濃度が大きくなるにつれて電気抵抗値が低下することが分かる。
Figure 2018159564
<水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知の抑制に関する評価>
上記のようにして得られた実施例1〜8及び比較例1〜8の水素ガスセンサについて、以下の(1)〜(3)の抵抗値R1〜R3を別々に測定し、R1がR2及びR3の両方よりも低い場合には、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知が十分に抑制されたものと評価し、R1がR2及びR3の少なくとも一方以上である場合には、1000〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知が十分に抑制されなかったものと評価した。結果を表2に示す。
なお、表2の「信頼性」の欄において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知が十分に抑制された場合には「〇」と表記し、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知が十分に抑制されなかった場合には「×」と表記した。また、抵抗値R1〜R3と制御装置60における検知部20の制御温度との関係を図7〜9に示す。
(1)100ppmの水素ガス、窒素ガス及び酸素ガスを含む水素含有空気を1000sccmの流量で(酸素流量:210sccm、水素流量:1sccm、窒素流量:789sccm)吹き付けたときの検知部の抵抗値R1(Ω)
(2)1%のガソリンを含む空気(ガソリン含有空気)を1000sccmmの流量で吹き付けたときの検知部の抵抗値R2(Ω)
(3)エタノール5μLを、マイクロピペットを用いて検知部の表面に滴下したときの検知部の抵抗値R3(Ω)
上記(1)において、空気中の水素ガスの濃度を100ppmとしたのは以下の理由によるものである。すなわち、水素ガス濃度が100ppm超である場合には、図6に示すように、検知部の電気抵抗は、水素ガス濃度が100ppmであるときの検知部の電気抵抗よりも低くなる。このため、水素ガスの濃度が100ppmのときに測定される検知部の抵抗値が、水素ガス以外の夾雑ガスによる抵抗値より低いことが分かれば、水素ガス濃度が100〜40000ppmの範囲において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知が十分に抑制されることが分かる。そこで、上記(1)では空気中の水素ガスの濃度を100ppmとしたものである。
また、R2の測定条件を(2)の通りとしたのは、ガソリンの燃焼濃度範囲が1.4%〜7.6%であり、ガソリン蒸気の影響を安全に調べるための上限を1%と考えたためである。
さらに(3)において、R3を測定する際にエタノールの滴下量を5μLとしたのは、5μLが検知部20の表面全体を覆うことができる量だからである。
<水素ガスに対する応答性に関する評価>
上記のようにして得られた実施例1〜8及び比較例1〜8の水素ガスセンサについて、以下のようにして応答性の評価を行った。水素ガスセンサの応答性は、80%応答時間と呼ばれる値を算出して評価した。80%応答時間とは、反応開始から飽和値の80%に到達する時間のことであり、応答性の指標として使用されるものである。
具体的には、水素ガスセンサの表面に窒素ガスと酸素ガスを混合した合成空気(窒素/酸素=80%/20%(体積比))を流しながら、検知部の表面が表2に示す温度となるようにヒータの電圧を制御した。この状態で一対の電極同士間の電気抵抗をデジタルマルチメータで測定し始め、5分後に合成空気中の水素濃度が10,000ppmとなるように水素を添加した。そして、水素添加前の電気抵抗値および添加後に安定したときの電気抵抗値をそれぞれ対数で示し、その差の80%の時点を求め、この時点と電気抵抗値が変化し始めた反応開始時点との差を算出し、これを80%応答時間とした。結果を表2及び図9に示す。
Figure 2018159564
表2及び図7〜9に示す結果より、制御装置60において検知部20の温度を210℃以下の温度に制御するようにした実施例1〜8及び比較例4〜7では、R1がR2及びR3のいずれよりも低くなることが分かった。これに対し、制御装置60において検知部20の温度を210℃超の温度に制御するようにした比較例1〜3及び8では、R1はR3よりも低かったが、R2よりも高くなることが分かった。
また、表2及び図10に示す結果より、制御装置60において検知部20の温度を210℃以下の温度に制御するようにした実施例1〜8の方が、検知部において同一温度における比較例4〜8に比べて応答速度が低くなることが分かった。
以上のことから、本発明の水素ガスセンサによれば、制御装置において検知部の温度を210℃以下の温度に制御すると共にピーク強度の比(IW=O/IW−O)を0.16以下とすることで、100〜40000ppmの水素ガス濃度において、水素ガス以外の夾雑ガスによる誤検知を十分に抑制でき且つ水素ガスに対する応答性を向上させることができることが確認された。
本発明の水素ガスセンサは、工業的なプロセスで水素を使用する装置・機器類のほか、水素ステーションや燃料電池車などで利用可能である。
10…基板
10a…基板の一面
20…検知部
40…ヒータ装置
44…発熱部
31,32…電極
50…温度測定装置
60…制御装置
100…水素ガスセンサ

Claims (3)

  1. 基板と、
    前記基板の一面側に設けられ、水素ガスを検知する検知部と、
    前記基板の一面側で前記検知部に接触して設けられ、前記検知部における電気抵抗を測定するための一対の電極と、
    前記検知部を加熱するための発熱部を有するヒータ装置と、
    前記検知部の温度を測定する温度測定装置と、
    前記温度測定装置によって測定される前記検知部の温度に基づいて前記ヒータ装置における前記発熱部の発熱量を調節し、前記検知部の温度を210℃以下の温度に制御する制御装置とを備え、
    前記検知部が金属酸化物及び触媒を含み、
    前記検知部についての顕微ラマン散乱測定を行って得られるラマンスペクトルにおいて、前記金属酸化物における金属原子及び酸素原子の一重結合の最大ピーク強度に対する前記金属原子及び酸素原子の二重結合のピーク強度の比が0.16以下である、水素ガスセンサ。
  2. 前記制御装置が、
    前記温度測定装置によって測定される前記検知部の温度に基づいて前記ヒータ装置における前記発熱部の発熱量を調節し、前記検知部の温度を80℃以上の温度に制御する、請求項1に記載の水素ガスセンサ。
  3. 前記金属酸化物が三酸化タングステンで構成される、請求項1又は2に記載の水素ガスセンサ。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2024204073A1 (ja) * 2023-03-27 2024-10-03 京セラ株式会社 基板、パッケージ、ガスセンサモジュール、ガスセンサおよびガスセンサの製造方法

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