JP2018158318A - 逆電気透析方法及びその利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】水溶液中に二価以上の多価イオンを含む場合であっても、良好な逆電気透析を行うことができる、新規の逆電気透析方法及びその利用技術を提供する。【解決手段】逆電気透析方法は、陽イオン交換膜(C)と陰イオン交換膜(A)とを交互に配置し、各イオン交換膜(A,C)の間に塩濃度の高い水溶液(S)と塩濃度の低い水溶液(R)とを交互に供給する。陽イオン交換膜(C)及び/又は陰イオン交換膜(A)において、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層(31,41)を設ける。【選択図】図2

Description

本発明は、逆電気透析方法及びその利用技術に関するものである。
従来、化石燃料の代替エネルギー源として、種々の再生可能エネルギーの開発が行われており、その一つとして塩分濃度差エネルギーが有望なものと期待されている。この塩分濃度差エネルギーを利用した技術として、逆電気透析法(RED;Reverse Electro Dialysis)が存在する。
逆電気透析法を利用した発電とは、淡水と海水のように塩濃度の異なる2種の水溶液が混ざる際に発生する混合自由エネルギー(濃度差エネルギー)を直接電気に変換する発電方法である。具体的には、2つの電極間に複数のイオン交換膜(陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜)を交互に配置し、間にイオン交換膜を挟んで一方の側に高濃度の塩溶液を流し、他方の側に低濃度の塩溶液を流し、イオン交換膜の一方の面側と他方の面側での濃度差により、イオンが高濃度側から低濃度側に移動するときに発生する電位を電流に変換して電力を得るものである。海水と河川水のように再生可能な資源を使用することから、環境負荷の少ない、クリーンな発電技術として注目を集めている(例えば、特許文献1)。
ところで、海水中にはNa、Clのような一価イオンだけでなく、Ca2+、Mg2+、SO 2−のような二価イオンも多数存在する。しかし、逆電気透析法を利用した発電では、二価以上の多価イオンが存在する場合、出力が低減することが知られている。その理由としては、逆電気透析法の出力根拠となる膜電位が価数で変化すること、また多価イオンの移動に伴う膜抵抗が高い、といったことが挙げられる。
かかる問題を解決するために、イオン交換膜の両面に、一価イオン選択透過性の表面処理を施すことで、多価イオンの影響を低減する試みがなされている(例えば、非特許文献1、2)。
特許第5770670号公報
J. Membr. Sci 330(2009)65-72 J. Membr. Sci 455(2014)254-270
しかしながら、上述した従来技術では十全とはいえず、多価イオンの影響を低減するための新しい技術の開発が求められていた。
本発明は、前記課題に鑑みなされたものであり、新規の逆電気透析方法及びその利用技術を提供することを目的とする。
前記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討したところ、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜のいずれか一方の面に一価イオン選択透過性層を形成すること、特にイオン交換膜における塩濃度の低い水溶液と接する面に一価イオン選択透過性層を形成することにより、多価イオンの影響による出力低下を抑制し得ること、を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を含むものである。
〔1〕陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配置し、各イオン交換膜の間に塩濃度の高い水溶液と塩濃度の低い水溶液とを交互に供給する逆電気透析方法であって、
前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜において、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層を設けることを特徴とする逆電気透析方法。
〔2〕前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜において、前記一価イオン選択透過性層を、塩濃度の低い水溶液と接する面にのみ設けることを特徴とする〔1〕に記載の逆電気透析方法。
〔3〕前記一価イオン選択透過性層は、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の逆電気透析方法。
〔4〕前記水溶液は、少なくとも一価イオン及び二価以上の多価イオンを含むものであることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載の逆電気透析方法。
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の逆電気透析方法により、塩濃度の差を利用して発電を行うことを特徴とする発電方法。
〔6〕陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配置し、各イオン交換膜の間に塩濃度の高い水溶液と塩濃度の低い水溶液とを交互に供給する逆電気透析装置であって、前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜は、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層を備えるものであることを特徴とする逆電気透析装置。
〔7〕前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜は、前記一価イオン選択透過性層を、塩濃度の低い水溶液と接する面にのみ備えるものであることを特徴とする〔6〕に記載の逆電気透析装置。
〔8〕前記一価イオン選択透過性層は、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であることを特徴とする〔6〕又は〔7〕に記載の逆電気透析装置。
〔9〕前記水溶液は、少なくとも一価イオン及び二価以上の多価イオンを含むものことを特徴とする〔6〕〜〔8〕のいずれか1つに記載の逆電気透析装置。
〔10〕〔6〕〜〔9〕のいずれか1つに記載の逆電気透析装置により、塩濃度の差を利用して発電を行うことを特徴とする発電装置。
本発明によれば、水溶液中に二価以上の多価イオンを含む場合であっても、良好な逆電気透析を行うことができる、新規の逆電気透析方法及びその利用技術を提供することができる。
本発明の一実施形態における逆電気透析方法を実施する装置を示す概略図である。 本発明の一実施形態における逆電気透析方法において用いられるイオン交換膜の構成を示す断面図であり、(a)は処理面を濃厚室側に向けた状態、(b)は処理面を希薄室側に向けた状態を示している。 (a)は各種の陽イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜電位に及ぼす影響を示すグラフであり、(b)は各種の陰イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜電位に及ぼす影響を示すグラフである。 (a)は種々の陽イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜抵抗に及ぼす影響を示すグラフであり、(b)は種々の陰イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜抵抗に及ぼす影響を示すグラフである。 塩を含む水溶液中のMgSO分率が逆電気透析装置の出力密度に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)は陽イオン交換膜を変化させた場合、(b)は陰イオン交換膜を変化させた場合、(c)は陽イオン交換膜および陰イオン交換膜の両方を変化させた場合の、MgSO分率の影響の違いを示すグラフである。
本発明の一実施形態について、図1及び図2に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
(1.本発明の特徴点について)
本発明の一実施形態に係る逆電気透析方法およびその利用技術は、逆電気透析方法および逆電気透析装置において、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜のいずれか一方の面に一価イオン選択透過性層を形成すること、特にイオン交換膜における塩濃度の低い水溶液と接する面に一価イオン選択透過性層を形成することを特徴点とする。
通常、自然海水を用いて逆電気透析方法を実施する場合、Ca2+、Mg2+、SO 2−のような二価イオンが存在すると発電効率が低下するという課題があったが、本構成によれば、多価イオンの影響による出力低下を抑制することができる。
一般的に、当業者であれば、多価イオンの影響を抑制するためには、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の両面に一価イオン選択透過性層を形成するという構成を想定する。あるいは、仮に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の片面だけに一価イオン選択透過性層を形成する場合であっても、塩濃度の高い水溶液と接する面に一価イオン選択透過性層を形成する構成を採用するのが一般的であろう。
ところが、驚くべきことに、本発明者らが鋭意検討したところ、(ア)陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の両面に一価イオン選択透過性層を形成する構成に比べて、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の一方の面のみに一価イオン選択透過性層を形成する構成の方が優れた発電性能を達成できること、さらに(イ)陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜において、塩濃度の高い水溶液と接する面に一価イオン選択透過性層を形成する構成に比べて、塩濃度の低い水溶液と接する面に一価イオン選択透過性層を形成する構成の方が、発電性能により優れることを見出した。
尚、本特徴点以外の基本的な部分は従来の逆電気透析方法と同じであり、従来公知の逆電気透析方法および逆電気透析装置に関する技術を好適に利用でき、特に限定されるものではない。以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて詳説する。
(2.逆電気透析方法および逆電気透析装置の一例)
以下の説明においては、図1及び図2を用いて、本発明の一実施形態に係る逆電気透析方法および逆電気透析装置について説明する。尚、本実施の形態では、逆電気透析により発生する起電力を発電に利用する逆電気透析方法等について説明するが、本発明の一態様における逆電気透析方法等は、これに限定されない。例えば、水素を製造するために用いることもできる。
図1は、本実施の形態における逆電気透析方法を実施する逆電気透析装置1を示す概略図である。図1に示すように、本逆電気透析方法を実施するには、電極板11及び電極板21の間に、複数の陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜Cとが交互に配置されており、電極板11及び電極板21は、互いに通電可能に結線されている。以下、陰イオン交換膜A及び陽イオン交換膜Cをまとめて、イオン交換膜A,Cと称することがある。
各イオン交換膜A,Cの間に塩濃度の高い水溶液と塩濃度の低い水溶液とを交互に供給する。換言すれば、複数枚のイオン交換膜A,Cはそれぞれ、その両面に塩濃度の異なる水溶液が流される。すなわち、各イオン交換膜A,Cにおいて、その一方の側は、塩濃度の高い水溶液Sが流される濃厚室3となっており、他方の側は、塩濃度の低い水溶液Rが流される希薄室5となっている。
本実施の形態では、「塩濃度の高い水溶液S」として海水を、また「塩濃度の低い水溶液R」として淡水を一例にあげ、以後、それぞれ「海水S」、「淡水R」と称する。なお、本発明に使用し得る水溶液は、海水や淡水に限定されるものではなく、少なくとも一価イオン及び二価以上の多価イオンを含むものであればよい。また、「塩濃度の高い水溶液S」と「塩濃度の低い水溶液R」とは、双方を比較して、相対的に塩濃度の高低があればよく、その塩濃度についても特に限定されず、一般的な逆電気透析方法に利用し得るものを好適に使用できることを念のため付言しておく。「塩濃度の高い水溶液S」の塩濃度は0.1〜3.0M、特には0.2〜1.0Mから採択されるのが好ましく、他方、「塩濃度の低い水溶液R」は0.001〜0.03M、特には0.002〜0.01Mから採択されるのが好ましく、さらに「塩濃度の高い水溶液S」/「塩濃度の低い水溶液R」が少なくとも5以上、特には10〜500であるのが好ましい。
また本明細書でいう「塩」とは、陰イオン(アニオン)と陽イオン(カチオン)とが互いにイオン結合した化合物であって、溶媒中に溶解した際に、陰イオンと陽イオンに電離する物質を意図しており、「電解質」と交換可能に使用し得る。
海水Sは、例えば0.1〜5M程度の塩を含む。この海水Sとしては、海から汲み出した未処理の海水、不純物の濾過等の処理を行った海水を用いることができる。また、海水Sとして、海水の濃縮水を好適に使用することができる。中でも、逆浸透膜により海水の淡水化を行う場合に副生する海水濃縮水は、濃度が高いだけでなく、処理工程で温められており、発電効率の向上が期待できる。或いは、海水Sの代わりに、塩濃度の高い水溶液として、塩湖から汲み出した湖水を用いることもできる。
淡水Rとしては、河川水、または下水道処理水がそのまま使用できる。中でも、下水道処理水は、天候によらず清澄な淡水を安定に供給できる上に、処理工程で温められており、発電効率の向上が期待できる。これら河川水や下水道処理水には、通常、少量の塩が含まれている。該塩濃度が極端に低い場合には、若干の塩を添加したり、海水Sを添加(混合)したりして所望の塩濃度となるように調整してもよい。
複数枚のイオン交換膜A,Cの枚数は任意に決められるが、通常は10枚ずつ(10対)から5000枚ずつの範囲であり、好適には30枚ずつから1000枚ずつの範囲である。
図1の例では、電極板11は正極(カソード)となっており、電極板21は負極(アノード)となっている。電極板11を含むカソード室(電極室)10、及び電極板21を含むアノード室(電極室)20にはそれぞれ極液(電解液)Eが流される。カソード室10内で電気化学的な還元反応が生じ、アノード室20内で電気化学的な酸化反応が生じる。
電極板11及び電極板21は、電気透析や電解用の電極として従来公知の材料を制限なく使用できる。
カソードとして機能する電極板11としては、一般に、Ni、Au、Ag(AgClで部分的に被覆された銀/塩化銀電極を含む)、並びに、Pt及びPd等の白金族、等の金属単体で形成されているものを使用することができる。また、電極板11として、Ni−Sn及びNi−Fe−C等の合金、ステンレススチール、Ti基材上にRuO、IrO、若しくはTiOを形成させた金属酸化物の複合電極、黒鉛等で形成されているものを使用してもよい。
一方で、アノードとして機能する電極板21としては、一般に、Ni、Au、Ag(AgClで部分的に被覆された銀/塩化銀電極を含む)、並びに、Pt及びPd等の白金族、等の金属単体で形成されているものを使用することができる。また、電極板21として、Ti基材上にRuOやIrO、TiOを形成させた金属酸化物の複合電極、黒鉛等で形成されているものを使用してもよい。
カソード室10及びアノード室20には、図示しない極液タンクから極液Eが循環供給される。極液Eとしては、各種塩の水溶液が使用され、塩の種類は特に制限されないが、一般的には、Na及びK等のアルカリ金属の塩化物、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩などの水溶液が使用される。極液Eとしては、電導度が高いほど好ましいため、その濃度は飽和濃度以下であれば良く、一般には0.1M〜飽和濃度であり、例えば硫酸ナトリウムの場合は、0.1〜3.0Mが好ましい。尚、図1の例では、NaCl水溶液を極液Eとして使用した場合の例が示されている。
また、カソード室10には希薄室5が隣接しており、カソード室10と希薄室5との間には隔膜として陰イオン交換膜Aが設けられている。アノード室20には希薄室5が隣接しており、アノード室20と希薄室5との間には隔膜として陽イオン交換膜Cが設けられている。
カソード室10からアノード室20に向かって、陰イオン交換膜A、陽イオン交換膜Cの順で、イオン交換膜A,Cが交互に配置されている。
上記のような逆電気透析装置1において、海水S、淡水R、および極液Eを流すと、各イオン交換膜を介して膜電位が生じ、この膜電位によって図1に示されているようなイオン流が生成する。これに伴い、カソード室10及びアノード室20にて酸化還元反応が生じる。この反応について以下に説明する。ここで、図1において、アノードとして機能する電極板21が設けられている方向(図1の左方向)をアノード側、カソードとして機能する電極板11が設けられている方向(図1の右方向)をカソード側とする。
すなわち、図1中、★で表す希薄室5の両側にはそれぞれ、陽イオン交換膜Cまたは陰イオン交換膜Aを介して濃厚室3が隣接している。海水Sと淡水Rとの濃度差により、アノード側に隣接している濃厚室3から希薄室5へ、海水S中の陽イオン(図1では、Na)が陽イオン交換膜Cを通して侵入する。また、★で表す希薄室5のカソード側に隣接している濃厚室3からは、やはり濃度差により、海水S中の陰イオン(図1ではCl)が陰イオン交換膜Aを通して侵入する。
上記のようにして各イオン交換膜A,C間でイオンの移動が生じる。また、アノード室20では、陽イオン(Na)が陽イオン交換膜Cを通って隣接する希薄室5内に移動し、これに伴い、陰イオン(Cl)が酸化され、塩素が生成する。或いは、例えば電極板21がAgの場合、電極板21の表面にAgClが析出する。この電極反応(酸化反応)は、塩素の生成を例にとると、下記式で表される。
アノードでの電極反応(酸化反応);
2Cl→Cl+2e
尚、図1の例では、NaClの水溶液を極液Eとして使用しているため、塩素が発生しているが、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等の水溶液を使用した場合には、OHが酸化されて、酸素が生成することとなる。
また、カソード室10では、陰イオン(Cl)が陰イオン交換膜Aを通って隣接する希薄室5内に移動し、これに伴い、陽イオン(Na)よりもイオン化傾向の低い水素イオンが還元され、水素が生成する。或いは、例えば電極板11がAgClの場合、電極板11の表面においてAgとClとに分解する反応が生じる。この電極反応(還元反応)は、水素の発生を例にとると、下記式で表される。
カソードでの電極反応(還元反応)
2H+2e→H
尚、カソードとしての電極板11が塩化銀、アノードとしての電極板21が銀からなる場合等には、その電極反応は下記式に示すものになる。
カソードでの電極反応(還元反応)
AgCl+e→Ag+Cl
アノードでの電極反応(酸化反応)
Ag+Cl→AgCl+e
逆電気透析装置1における電極板11と電極板21との間に生じる開回路電圧としての膜電位VOCは、以下の理論式(1)により表される。
OC=α・Nm・(RT/zF)・ln(a/a)・・・(1)
式中、
Nmは、電極板11と電極板21との間に存在する陰イオン交換膜Aおよび陽イオン交換膜Cの数であり、
αは、イオン交換膜A,Cの輸率の合計であり、
は、濃厚室3に流される海水Sのイオンの平均活量(mol/dm)であり、
は、希薄室5に流される淡水Rのイオンの平均活量(mol/dm)であり、
Rは、気体定数(J/(K・mol))であり、
Tは、絶対温度(K)であり、
zは、イオンの価数であり、
Fは、ファラデー定数(C/mol)である。
ここで、上記理論式は、分母にイオンの価数が入っている。そのため、本発明の逆電気透析方法を実施する逆電気透析装置1のように、濃厚室3に海水Sを流す場合、海水S中に存在する二価イオンによって膜電位が下がり、発電の出力(以下、RED出力と称することがある)が低減し得る。
従来、例えば、イオン交換膜の両面に、一価イオン選択透過性の表面処理を施すことで、多価イオンの影響を低減する試みがなされている。しかし、本発明者らが鋭意検討したところ、この場合、形成された一価イオン選択透過性層によって膜抵抗が高くなり、その結果として、RED出力が低減し得ることを見出した。これは、逆電気透析装置1の総抵抗および外部負荷の抵抗を合計した抵抗値をRtotalとすると、RED出力Wは、W=(Voc)/Rtotalとなるためである。
このような状況の中、本発明者らは、多価イオンの影響によりRED出力が低減することを抑制し得る方法を種々検討し、その結果、以下のような新たな知見を得た。すなわち、陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜において、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層を設けることにより、膜抵抗の増大を抑制しつつ、多価イオンの影響を低減することができることを見出した。そして、更なる検討を行い、この一価イオン選択透過性層を、塩濃度の低い水溶液と接する面にのみ、すなわち希薄室5側の面にのみ設けることにより、多価イオンの影響によってRED出力が低減することをより一層抑制することができるということを見出した。
ここで、一般に、多価イオンが多数存在する濃厚室3側に一価イオン選択透過性層を設ける場合の方が、希薄室5側に設ける場合よりも効果が比較的大きいと予測され得るところ、上記の知見は全く予測されないものであった。
このような現象が生じる機構の詳細については未だ明らかではないが、以下のように推定される。すなわち、イオン交換膜を介して生じる膜電位は、イオン交換膜相と希薄室側液の界面に生じる電位差と、イオン交換膜相と濃厚室側界面に生じる電位差の合算となる。それぞれの界面電位差は前記式(1)で表わされ、通常、イオン交換膜相の塩濃度は数M程度と高いため、イオン交換膜と希薄室側の界面電位差の方がイオン交換膜と濃厚室側界面の電位差よりも大きくなる。従って、多価イオンの存在による膜電位の低下はイオン交換膜相と希薄室側の界面で大きくなり、一価イオン選択透過性層を希薄室5側の面に設けることで、多価イオンの存在による膜電位の低下を小さくすることができるものと考えられる。この効果は、イオン交換膜の両面に一価イオン選択透過層を設けても同様に得られるが、この場合には、一価イオン選択透過層による膜抵抗の増大が著しく、膜電位を高く維持できたとしても、出力が低くなる。
(片面処理イオン交換膜)
本発明の逆電気透析方法では、陰イオン交換膜Aおよび陽イオン交換膜Cは、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層を設ける。イオン交換膜A,Cの構成について、図2を用いて以下に説明する。図2は、本実施の形態における逆電気透析方法において用いられるイオン交換膜A,Cの構成を示す断面図であり、(a)は処理面を濃厚室3側に向けた状態、(b)は処理面を希薄室5側に向けた状態を示している。
図2に示すように、陽イオン交換膜Cは、陽イオン交換膜Cの母材30における一方の面にのみ一価イオン選択透過性層31が形成されている。ここで、陽イオン交換膜Cにおいて、一価イオン選択透過性層31が形成された面を濃厚室3側に向けた状態を片面処理陽イオン交換膜CH、希薄室5側に向けた状態を片面処理陽イオン交換膜CLと称する。
また、陰イオン交換膜Aは、陰イオン交換膜Aの母材40における一方の面にのみ一価イオン選択透過性層41が形成されている。ここで、陰イオン交換膜Aにおいて、一価イオン選択透過性層41が形成された面を濃厚室3側に向けた状態を片面処理陰イオン交換膜AH、希薄室5側に向けた状態を片面処理陰イオン交換膜ALと称する。
本発明の一態様における逆電気透析方法は、陽イオン交換膜Cと陰イオン交換膜Aとを交互に配置し、各イオン交換膜A,Cの間に塩濃度の高い水溶液と塩濃度の低い水溶液とを交互に供給する逆電気透析方法であって、陽イオン交換膜C及び/又は陰イオン交換膜Aにおいて、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層31,41を設けることを特徴としている。
この構成によれば、水溶液中に二価以上の多価イオンを含む場合であっても、膜抵抗の増大を抑制しつつ、多価イオンの影響を低減することができる。そのため、良好な逆電気透析を行うことができる。その結果、発電に利用する場合には、発電特性が優れるという効果を奏する。
また、本発明の一態様における逆電気透析方法は、陽イオン交換膜C及び/又は陰イオン交換膜Aにおいて、一価イオン選択透過性層31,41を、希薄室5側の面(塩濃度の低い水溶液と接する面)にのみ設けることが好ましい。この場合、多価イオンの影響をより一層低減することができ、良好な逆電気透析を行うことができる。
ここで、一価イオン選択透過性層31,41の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であることが好ましい。尚、「表面緻密層」とは、イオン交換膜の表面部を緻密な構造(例えば、表層部に架橋度の高い層あるいは固定イオン濃度の高い層)を形成したものであり、「電気的中性層」とは、イオン交換膜の表面にイオン交換基を含まない電気的に中性の薄層を形成したものである。また、「反対荷電層」とは、イオン交換膜の表面に反対電荷の薄層を形成したものである。
これら表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層の具体的な態様は特に限定されず、公知の方法を用いて母材30,40の一方の面に一価イオン選択透過性を付与する表面処理を施すことで形成することができる。
上記母材30、40としては公知のイオン交換膜を制限なく使用することができる。特には、織布、不織布、多孔質フィルムなどの多孔性補強材にスチレン系の単官能単量体とジビニルベンゼンなどの多官能単量体を含侵重合させ、必要に応じてイオン交換基を導入して得られる炭化水素系の架橋型イオン交換膜が好ましい。一価イオン選択透過性を付与する表面処理に際して、極端な膜抵抗の増大を抑制することができ、さらに、優れたイオン交換膜特性が容易に得られるためである。
これら、母材となるイオン交換膜の性状も特に制限されず、本発明のイオン交換膜A、Cの性状が得られるように、補強材の厚み、単量体の種類や架橋度を変えることで膜厚、イオン交換容量、含水率、膜抵抗などを適宜調整して用いられる。
一価選択透過性層の形成方法としては、例えば、陽イオン交換膜の表面に反対荷電層を形成する方法としては特許第1891853号公報記載の第四級アンモニウム塩基類と3個以上のビニルベンジル基とを有する化合物の重合体を陽イオン交換膜の表面に存在させる方法、並びに、特許第4759781号公報記載の分子量5000以上のアリルアミンの単独重合体若しくは共重合体などの高分子陽イオンを陽イオン交換膜の表面に接触させる方法などがある。
陰イオン交換膜の表面に緻密層を形成する方法としては、例えば、特許0853708号公報記載の膜表面にエポキシ化合物を反応させる方法や特許5100222公報記載のアミン化合物を反応させる方法などがある。
上記の構成によれば、優れた一価イオン選択透過性を付与することができる。
一価イオン選択透過性層31の厚さは、例えば0.01μm〜5μmであり、好ましくは0.05μm〜2μmである。また、一価イオン選択透過性層41の厚さは、例えば0.01μm〜5μmであり、好ましくは0.05μm〜2μmである。
こうした一価イオン選択透過性は選択透過係数を測定することで評価できる。陰イオン交換膜であれば二価陰イオンとして代表的な硫酸イオンと一価陰イオンとして代表的な塩素イオンとの選択透過係数(PCl SO4)が0.01〜0.3、好ましくは0.02〜0.25、より好ましくは0.03〜0.1の範囲であるのが好適である。他方、陽イオン交換膜においては、二価陽イオンの代表的なカルシウムイオンと一価陽イオンの代表的なナトリウムイオンとの選択透過係数(PNa Ca)が0.01〜1.0、好ましくは0.05〜0.8、より好ましくは0.07〜0.5の一価陽イオン選択透過性膜を使用することが好適である。
イオン交換膜の電気抵抗は逆電気透析の出力に影響を与える因子であり、一価イオン選択性層が片面にのみ処理されているために低くなることが期待される。電気抵抗の範囲としては、0.1Ωcm〜2.8Ωcmであり、好ましくは0.3Ωcm〜2.3Ωcmである。
その他の一般的なイオン交換膜の物性としては、イオン交換容量は0.1〜3.0meq/g−乾燥質量、含水率は10%〜50%、ミューレン破裂強度は0.1MPa〜2.0MPa、膜厚は10μm〜300μmの一価イオン選択透過性膜を使用することが好適である。
本発明の一態様における逆電気透析方法および装置は、水溶液として、少なくとも一価イオン及び二価以上の多価イオンを含む水溶液を用いることができる。そのため、一価イオン及び多価イオンを含む海水及び河川・湖沼等の水を利用することができ、低コストで逆電気透析を行うことができる。
(3.発電方法および発電装置)
また、本発明の一態様における逆電気透析方法により、塩濃度の差を利用して発電を行う発電方法および発電装置も本発明の範疇に入る。これにより、逆電気透析に利用して効率的に発電を行うことができる。
海水及び河川・湖沼等の水を、循環するのではなくワンパスで供給及び排出することによれば、濃厚室3および希薄室5における塩濃度を維持するように調整することが不要となる。そのため、塩濃度を維持する装置を併設してシステムが複雑化することを抑制することができる。また、淡水に海水を添加して塩濃度を調節することもでき、より一層シンプルなシステムにできる。その結果、発電のコストを抑制することができる。さらに、世の中に豊富に存在する海水を用いることができ、工業的な規模での生産に適しており、実用化に非常に有用である。
(4.その他の構成)
本発明の一態様における逆電気透析方法を実施する逆電気透析装置1としては、(i)少なくとも1つの陽イオン交換膜Cが片面処理陽イオン交換膜CH若しくは片面処理陽イオン交換膜CLとなっている、または、(ii)少なくとも1つの陰イオン交換膜Aが片面処理陰イオン交換膜AH若しくは片面処理陰イオン交換膜ALとなっていればよい。
また、逆電気透析装置1は、全ての陽イオン交換膜Cが片面処理陽イオン交換膜CHとなっており、かつ全ての陰イオン交換膜Aが片面処理陰イオン交換膜AHとなっていることが好ましい。これにより、膜抵抗の増大を抑制しつつ、多価イオンの影響を低減することができる。
さらに、本実施の形態における逆電気透析装置1は、全ての陽イオン交換膜Cが片面処理陽イオン交換膜CLとなっており、かつ全ての陰イオン交換膜Aが片面処理陰イオン交換膜ALとなっていることがより好ましい。この構成によれば、多価イオンの影響によってRED出力が低減することをより一層抑制することができる。
また、本発明の一態様における逆電気透析装置は、複数のイオン交換膜A,Cがそれぞれ、片面処理陰イオン交換膜AH、片面処理陰イオン交換膜AL、片面処理陽イオン交換膜CH、片面処理陽イオン交換膜CLが組み合わされて構成されていてもよい。
本実施の形態における逆電気透析装置1は、塩を含む水溶液として海水Sおよび淡水Rを用いて、それらをワンパスで流しているが、これに限定されない。原理的には、各種塩類の水溶液、有機溶媒溶液などを使用し得る。また、海水Sおよび淡水Rは循環供給であってもよい。
本実施の形態における逆電気透析装置1は、極液Eとしては、海水Sをそのまま流通させることもできる。
本発明の一態様における逆電気透析方法を実施するための装置は、以下のような構成であるということもできる。すなわち、本発明の一態様における逆電気透析方法は、互いに導通している一対の電極板の間に、複数枚の陰イオン交換膜Aと陽イオン交換膜Cとを交互に配置する。アノードとしての電極板21と陽イオン交換膜Cとを含むアノード室(電極室)20、及びカソードとしての電極板11と陰イオン交換膜Aとを含むカソード室(電極室)10に極液E(電解液)を流す。そして、各イオン交換膜A,Cにおける一方の面側に形成される室を濃厚室3として相対的に塩濃度の高い水溶液(電解質溶液)を流し、他方の面側に形成される室を希薄室5として相対的に塩濃度の低い水溶液(電解質溶液)を流す。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜として、下記のものを使用した。
(陽イオン交換膜)
陽イオン交換膜(以下、CEMと称することがある)として、(株)アストム製のネオセプタ(登録商標)CMX、CIMS、CMSを使用した。
ネオセプタCMX(以下、CMX)は、一価イオン選択透過性層が形成されていない陽イオン交換膜であり、ネオセプタCMS(以下、CMS)は、一価イオン選択透過性層としての反対荷電層が両面に形成された陽イオン交換膜である。
ネオセプタCIMSは、一価イオン選択透過性層としての反対荷電層が一方の面にのみ形成された片面処理陽イオン交換膜であり、以下では、上記反対荷電層を濃厚室3側とした試料をCIMS(H)と称し、希薄室5側とした試料をCIMS(L)と称する。
(陰イオン交換膜)
陰イオン交換膜(以下、AEMと称することがある)として、(株)アストム製のネオセプタAMX、ACS−8T、ACSを使用した。
ネオセプタAMX(以下、AMX)は、一価イオン選択透過性層が形成されていない陰イオン交換膜であり、ネオセプタACS(以下、ACS)は、一価イオン選択透過性層としての表面緻密層が両面に形成された陰イオン交換膜である。
ネオセプタACS−8Tは、一価イオン選択透過性層としての表面緻密層が一方の面にのみ形成された片面処理陰イオン交換膜であり、以下では、上記表面緻密層を濃厚室3側とした試料をACS−8T(H)と称し、希薄室5側とした試料をACS−8T(L)と称する。
以上の陽イオン交換膜および陰イオン交換膜の特性を表1にまとめた。なお、表1における特性は以下の方法により測定されたものである。
(イオン交換容量および含水率)
イオン交換膜を1mol/l−HCl水溶液に10時間以上浸漬する。
その後、陽イオン交換膜の場合には、1mol/l−NaCl水溶液でイオン交換基の対イオンを水素イオンからナトリウムイオンに置換させ、遊離した水素イオンを水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。一方、陰イオン交換膜の場合には、1mol/l−NaNO水溶液で対イオンを塩化物イオンから硝酸イオンに置換させ、遊離した塩化物イオンを硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。
次に、同じイオン交換膜を1mol/l−NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量(Wg)を測定した。さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さ(Dg)を測定した。上記測定値に基づいて、イオン交換膜のイオン交換容量および含水率を次式により求めた。
イオン交換容量=A×1000/D[meq/g−乾燥質量]
含水率=100×(W−D)/D[%]
(膜厚)
イオン交換膜を0.5mol/L−NaCl溶液に4時間以上浸漬した後、ティッシュペーパーで膜の表面の水分を拭き取り、マイクロメ−タ MED−25PJ(株式会社ミツトヨ社製)を用いて測定した。
(膜抵抗)
白金黒電極を有する2室セル中にイオン交換膜を挟み、イオン交換膜の両側に0.5mol/L−NaCl水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗とイオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により膜抵抗(Ω・cm)を求めた。なお、上記測定に使用するイオン交換膜は、予め0.5mol/L−NaCl水溶液中で平衡にしたものを用いた。
(破裂強度)
イオン交換膜を0.5mol/L−NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した。次いで、膜を乾燥させることなく、ミューレン破裂試験機(東洋精機製)により、JIS−P8112に準拠して破裂強度を測定した。
(選択透過係数 PCl SO4
有効通電面積4.0cmの陰イオン交換膜で隔てられた二室型のガラス製セルの両室に銀塩化銀電極を設け、陽極室側に0.5mol/L−NaCl水溶液100mlを、また、陰極室側に0.25mol/L−NaCl及び0.125mol/L―NaSOの混合水溶液100mlをそれぞれ供して、25℃で40mAの直流電流を1時間通電後、陰極室の塩素イオン及び硫酸イオンの量を定量した。得られた塩素イオン量及び硫酸イオン量から、次式より選択透過係数PCl SO4を求めた。
Cl SO4=(tSO4/tCl)/(CSO4/CCl
SO4は膜を透過した硫酸イオン当量数、tClは膜を透過した塩素イオン当量数、CSO4は測定後の陰極室の硫酸イオン当量濃度、CClは測定後の陰極室の塩素イオン当量濃度である。
(選択透過係数 PNa Ca
有効通電面積4.0cmの陽イオン交換膜で隔てられた二室型のガラス製セルの両室に銀塩化銀電極を設け、陽極室側に0.25mol/L−NaCl及び0.125mol/L―CaClの混合水溶液100mlを、また、陰極室側に0.5mol/L−NaCl水溶液100mlをそれぞれ供して、25℃で40mAの直流電流を1時間通電後、陽極室のナトリウムイオン及びカルシウムイオンの量を定量した。得られたナトリウムイオン量及びカルシウムイオン量から、選択透過係数PNa Caを次式より求めた。
Na Ca=(tCa/tNa)/(CCa/CNa
Caは膜を透過したカルシウムイオン当量数、tNaは膜を透過したナトリウムイオン当量数、CCaは測定後の陽極室のカルシウムイオン当量濃度、CNaは測定後の陽極室のナトリウムイオン当量濃度である。
Figure 2018158318
(実施例1)
塩濃度の高い水溶液として0.508mol/dmの濃度のNaCl−MgSO水溶液を用い、塩濃度の低い水溶液として0.017mol/dmの濃度のNaCl−MgSO水溶液を用いた。これらの水溶液を用いて、上記各種の陽イオン交換膜、及び上記各種の陰イオン交換膜のそれぞれについて、水溶液中のMgSO分率を0〜100の間で変化させて、膜電位を測定した。結果を表2に示し、さらに、水溶液中のMgSO分率と膜電位との関係をグラフ化し図3に示した。
Figure 2018158318
図3の(a)は、各種の陽イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜電位に及ぼす影響を示すグラフであり、(b)は各種の陰イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜電位に及ぼす影響を示すグラフである。
図3の(a)に示すように、水溶液中のMgSO分率が0%の場合、即ちNaCl水溶液を用いた場合、各種の陽イオン交換膜はいずれも、理論値に近い80mVの膜電位を示した。
水溶液中のMgSO分率が高くなると、一価イオン選択透過性層が形成されていないCMXは、二価イオンの影響を受けて膜電位が大きく減少することがわかる。
一方で、CIMS(H)は、二価イオンの影響による膜電位の低下が抑制されている。そして、CIMS(L)では、二価イオンの影響による膜電位の低下が大幅に抑制されていることがわかる。
CMSも二価イオンの影響が低減されているが、両面に一価イオン選択透過性層が形成されているため、膜抵抗は高いものとなってしまう(実施例2参照)。
図3の(b)に示すように、各種の陰イオン交換膜を用いた場合においても、上記陽イオン交換膜の結果と同様に、一価イオン選択透過性層を片面にのみ設けることで、二価イオンの影響による膜電位の低下が抑制されるという結果が得られた。
(実施例2)
前述の膜抵抗の測定方法において、0.5mol/L−NaCl水溶液に変えて0.508mol/dmの濃度のNaCl−MgSO水溶液を用いて膜抵抗を測定した。結果を表3に示し、さらに、水溶液中のMgSO分率と膜抵抗との関係をグラフ化し図4に示した。
Figure 2018158318
図4の(a)は、各種の陽イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜抵抗に及ぼす影響を示すグラフであり、(b)は各種の陰イオン交換膜における塩を含む水溶液中のMgSO分率が膜抵抗に及ぼす影響を示すグラフである。
図4の(a)に示すように、水溶液中のMgSO分率が0%の場合、即ちNaCl水溶液を用いた場合、各種の陽イオン交換膜はいずれも、膜抵抗は低い値を示した。
水溶液中のMgSO分率が高くなると、各種の陽イオン交換膜はいずれも膜抵抗が増大するが、CMSの膜抵抗は、CMXよりも大幅に増大することがわかる。このことは、逆電気透析の出力を低減させる。
これに対して、CIMSでは、水溶液中のMgSO分率の影響による膜抵抗の増大が、CMSよりも抑制されていることがわかる。
図4の(b)に示すように、各種の陰イオン交換膜を用いた場合においても、上記陽イオン交換膜の結果と同様に、一価イオン選択透過性層を片面にのみ設けることで、二価イオンの影響による膜抵抗の増大が抑制されるという結果が得られた。
以上の実施例1及び実施例2から、以下のことがわかる。すなわち、海水におけるMgSO分率は10〜20%程度であり、CIMS及びACS−8Tを逆電気透析に使用することによって、二価イオンの影響を受けて膜電位が大きく減少すること、及び膜抵抗が大きく増大することがない。そのため、二価イオンの影響による出力低下を抑制し得る。
(実施例3)
通電部面積が88cmである20枚の上記の各種の陽イオン交換膜及び20枚の各種の陰イオン交換膜を用意した。また、濃厚室3を構成する厚さ0.18mmのガスケット、希薄室5を構成する厚さ0.18mmのガスケット、電極板11としてAgCl、電極板21としてAgを用意した。極液として濃度3mol/dmのNaCl水溶液を用意した。
塩濃度の高い水溶液として0.508mol/dmの濃度のNaCl−MgSO水溶液、塩濃度の低い水溶液として0.017mol/dmの濃度のNaCl−MgSO水溶液を用意し、また、MgSOの分率が0%、10%のものを用意した。
これらを、図1に示す逆電気透析装置1の構成とし、逆電気透析を行い、発電出力を測定した。線測度は1.5cm/sとした。液温は25±5℃であった。なお、例えば陽イオン交換膜CとしてCIMS(L)を用いる場合、20枚の陽イオン交換膜Cの全てをCIMS(L)として、出力密度を測定した。つまり、逆電気透析装置1が含む全ての陽イオン交換膜C及び陰イオン交換膜Aを変化させて、出力密度の変化について調べた。
結果を表4に示し、さらに、水溶液中のMgSO分率と出力密度との関係をグラフ化し図5に示した。
Figure 2018158318
図5は、塩を含む水溶液中のMgSO分率が逆電気透析装置の出力密度に及ぼす影響を示すグラフであり、(a)は陽イオン交換膜を変化させた場合、(b)は陰イオン交換膜を変化させた場合、(c)は陽イオン交換膜および陰イオン交換膜の両方を変化させた場合の、MgSO分率の影響の違いを示すグラフである。尚、図5の(a)〜(c)において、出力密度の理論値を図中に点線にて示している。
図5の(a)に示すように、陽イオン交換膜CとしてCMX、陰イオン交換膜AとしてAMXを用いた場合(以下、AMX/CMXの場合と称する)、即ち一価イオン選択透過性層が形成されていないイオン交換膜を用いた場合、MgSO分率が0%から10%に増大すると、出力密度は29%低下した。これに対して、陰イオン交換膜AはAMXのまま、陽イオン交換膜CとしてCIMS(L)を用いた場合、出力密度の変動は15%であり、AMX/CMXの場合よりも大幅に抑制された。
また、図5の(b)に示すように、陽イオン交換膜CをCMXとし、陰イオン交換膜AとしてACS−8T(L)を用いた場合、MgSO分率が0%から10%に増大すると、出力密度は26%低下した。これは、AMX/CMXの場合よりも、少し変動が小さくなっている。
図5の(c)に示すように、陽イオン交換膜CをCIMS(L)とし、陰イオン交換膜AとしてACS−8T(L)を用いた場合、MgSO分率が0%から10%に増大すると、出力密度は17%低下した。これは、AMX/CMXの場合における出力密度の変動(29%低下)よりも小さい。
以上のように、本発明の逆透析方法を用いて、陽イオン交換膜C又は陰イオン交換膜Aを、片面処理陰イオン交換膜又は片面処理陽イオン交換膜とすることにより、水溶液中に二価以上の多価イオンを含む場合に多価イオンの影響を低減することができ、良好な逆電気透析を行うことができることが確認された。
本発明は、溶媒中に二価以上の多価イオンを含む溶液を用いる逆電気透析に利用することができる。海水及び河川水を用いる逆電気透析に好適に使用することができ、水素製造用として用いることもできる。
1 逆電気透析装置
3 濃厚室
5 希薄室
31、41 一価イオン選択透過性層
A 陰イオン交換膜
C 陽イオン交換膜
E 極液
S 海水(塩濃度の高い水溶液)
R 淡水(塩濃度の低い水溶液)

Claims (10)

  1. 陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配置し、各イオン交換膜の間に塩濃度の高い水溶液と塩濃度の低い水溶液とを交互に供給する逆電気透析方法であって、
    前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜において、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層を設けることを特徴とする逆電気透析方法。
  2. 前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜において、前記一価イオン選択透過性層を、塩濃度の低い水溶液と接する面にのみ設けることを特徴とする請求項1に記載の逆電気透析方法。
  3. 前記一価イオン選択透過性層は、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の逆電気透析方法。
  4. 前記水溶液は、少なくとも一価イオン及び二価以上の多価イオンを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の逆電気透析方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の逆電気透析方法により、塩濃度の差を利用して発電を行うことを特徴とする発電方法。
  6. 陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に配置し、各イオン交換膜の間に塩濃度の高い水溶液と塩濃度の低い水溶液とを交互に供給する逆電気透析装置であって、
    前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜は、一方の面にのみ一価イオン選択透過性層を備えるものであることを特徴とする逆電気透析装置。
  7. 前記陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜は、前記一価イオン選択透過性層を、塩濃度の低い水溶液と接する面にのみ備えるものであることを特徴とする請求項6に記載の逆電気透析装置。
  8. 前記一価イオン選択透過性層は、表面緻密層、電気的中性層、及び反対荷電層からなる群より選択される少なくとも一種の層であることを特徴とする請求項6又は7に記載の逆電気透析装置。
  9. 前記水溶液は、少なくとも一価イオン及び二価以上の多価イオンを含むものことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の逆電気透析装置。
  10. 請求項6〜9のいずれか1項に記載の逆電気透析装置により、塩濃度の差を利用して発電を行うことを特徴とする発電装置。
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