以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
[第1実施形態]
図1〜図9を参照して第1実施形態を説明する。
<転がり式変位拡大機構の基本構成>
最初に、図1、図2を参照して、転がり式変位拡大機構11aの基本構成を説明する。図1は、転がり式変位拡大機構11aが適用されるアクチュエータユニット11の概略構成を示す。具体的には、図1(A)はアクチュエータユニット11の斜視図であり、図1(B)は外殻11eの一部を切り欠いた状態のアクチュエータユニット11の斜視図である。また、図1(C)はB−C平面におけるアクチュエータユニット11の部分断面図であり、図1(D)はB−C平面における転がり式変位拡大機構11aの断面図である。
アクチュエータユニット11は、容量性アクチュエータを構成する駆動ユニットである。本実施形態では、アクチュエータユニット11は、主に、転がり式変位拡大機構11a、出力ジョイント11b、バネ予圧調整機構11c、ピエゾ予圧調整機構11d、及び外殻11eを含む。
転がり式変位拡大機構11aは、転がりジョイントを介した回転動作を利用して、容量的性質を有する伸縮素子の変位を拡大する機構である。転がり式変位拡大機構の中でも、座屈現象を用いる場合は座屈式変位拡大機構となる。本実施形態では、容量的性質を有する伸縮素子はピエゾ素子である。但し、伸縮素子は、磁歪素子、油圧シリンダ、空気圧シリンダ等であってもよい。また、転がり式変位拡大機構11aは、主に、一対の対称に配置されたピエゾ素子11a1と、各組がピエゾ素子11a1の両端面に接合している二対のキャップCP1,CP2,CP3,CP4と、2つのピエゾ素子11a1の外側の端面の動作を規制する一対の対称に配置されたサイドブロック11a2(以下「固定部11a2」とも表記する)と、2つのサイドブロック11a2を係合するフレーム11e(以下「外殻11e」とも表記する)と、2つのピエゾ素子11a1の内側の側面の動作によって拡大された変位を出力する変位拡大出力部11a3(以下「出力部11a3」とも表記する)と、予圧調整バネ11a4と、を有する。
転がり式変位拡大機構11aでは、ピエゾ素子11a1の伸縮動作が、回転動作に変換されて、出力部11a3に変位拡大された直動往復動作を引き起こす。ピエゾ素子11a1の回転動作は、キャップCP1,CP4とサイドブロック11a2、キャップCP2,CP3と変位拡大出力部11a3にそれぞれ設けた転がり接触する転がりジョイント(回転ジョイント)によって案内される。転がりジョイントの転がり面が常に一定以上の予圧をもって接触するために、両端の転がりジョイント部の間の距離は、自然長よりも短くなる調整が可能な構成としている。また、転がりジョイント部に対する予圧力による転がり接触の維持と同時に、出力部11a3の挙動を安定化させるため、出力部11a3を固定端と接続する弾性体にて、出力部動作方向に拘束する構成を採用している。この弾性体は、予圧調整バネ11a4であり、以下ではPCS(Preload Compensation Spring)とも呼ぶ。
一対のピエゾ素子11a1はそれぞれ、一端が転がりジョイントを介して固定部11a2に連結され、且つ、他端が転がりジョイントを介して出力部11a3に連結される。本実施形態では、ピエゾ素子11a1は積層セラミクスで構成される。左側のピエゾ素子11a1に関する転がりジョイントは、図1(D)に示すように、左側のピエゾ素子11a1の左端にあるキャップCP1の端部曲面(転がり面)と左側の固定部11a2の端部曲面(転がり面)との転がり接触(線接触)を介した連結、及び、左側のピエゾ素子11a1の右端にあるキャップCP2の端部曲面(転がり面)と出力部11a3の左側の端部曲面(転がり面)との転がり接触(線接触)を介した連結を意味する。なお、転がり接触が点接触となる転がり面であってもよい。また、図1(D)の円C1は左側の固定部11a2の端部曲面(部分円筒面)の輪郭を含む円を表し、円C2はキャップCP1、CP2の端部曲面(部分円筒面)の輪郭を含む円を表し、円C3は出力部11a3の左側の端部曲面(部分円筒面)の輪郭を含む円を表す。また、本実施形態では、キャップCP1、CP2は、ピエゾ素子11a1とは別個独立の部材として存在するが、ピエゾ素子11a1と一体的に形成されてもよい。右側のピエゾ素子11a1に関する転がりジョイントについても同様である。以下では、固定部11a2とピエゾ素子11a1との間の転がりジョイントと、ピエゾ素子11a1と出力部11a3との間の転がりジョイントとを纏めて「転がり部」とも表記する。
一対のピエゾ素子11a1はそれぞれ、電圧が印加された場合に長手方向(B軸方向)に伸張して、ピエゾ素子11a1が傾き、その伸張変位よりも大きい変位で出力部11a3を長手方向に垂直な方向(C軸方向)に変位させる。すなわち、ピエゾ素子11a1の伸縮運動は転がりジョイントで回転運動に変換されてその伸縮変位が拡大される。そして、出力部11a3における直動往復動作をもたらす。このように、転がり式変位拡大機構11aは、一対のピエゾ素子11a1のそれぞれの出力を変換し、ピエゾ素子11a1の伸縮方向とは異なる方向である所定の出力方向に出力部11a3を付勢して変位させる。なお、以下では出力部11a3の変位を「拡大変位」と称する。
出力部11a3は、転がり式変位拡大機構11aの出力を外部に伝達する機能要素である。本実施形態では、出力部11a3は、+C側の端部が予圧調整バネ11a4に接続され、−C側の端部が出力ジョイント11bに接続される。
予圧調整バネ11a4は、転がり式変位拡大機構11aの出力部11a3を所定の特性で付勢する付勢手段の一例である。本実施形態では、予圧調整バネ11a4は、出力部11a3の拡大変位とその拡大変位によってもたらされる推力との関係である拡大変位−推力特性を調整する。具体的には、予圧調整バネ11a4は、図1(A)〜(C)に示すように、−C方向に膨らむように湾曲した一対の湾曲部を含む板バネで構成され、その中央部が出力部11a3に固定され、その両端部がバネ予圧調整機構11cを介して一対の固定部11a2に接続される。予圧調整バネ11a4は、出力部11a3の拡大変位によってもたらされる推力をオフセットするC軸方向の力を発生させる。以下では、予圧調整バネ11a4が発生させる力を「オフセット力」と称する。この構成により、予圧調整バネ11a4は、出力部11a3の拡大変位の方向を決定付けて出力部11a3の挙動を安定化させることができる。
バネ予圧調整機構11cは、予圧調整バネ11a4によるオフセット力を調整する機構である。本実施形態では、バネ予圧調整機構11cはウェッジブロックで構成される。使用者は、予圧調整バネ11a4の両端部のC軸方向における位置を調整することで予圧調整バネ11a4の中央部が−C方向に出力部11a3を押し付ける力であるオフセット力を調整できる。
ピエゾ予圧調整機構11dは、転がり式変位拡大機構11aにおける4つの転がりジョイントに対する予圧の付与及び調整を行う機構である。本実施形態では、左側のピエゾ素子11a1に関するピエゾ予圧調整機構11dは、図1(D)に示すように、キャップCP1、ガイドGD1、及びシムSH1で構成される。
キャップCP1は、左側のピエゾ素子11a1と左側の固定部11a2との間の転がりジョイントを構成するために左側のピエゾ素子11a1の左端に取り付けられる部材である。
ガイドGD1は、キャップCP1が左側のピエゾ素子11a1の左端に取り外し可能に取り付けられるように案内する部材であり、キャップCP1に固定される。キャップCP1及びシムSH1はピエゾ素子11a1で発生した推力を高効率で伝達するように構成される。そのため、望ましくは、鋼材、セラミクス等、高い弾性と強度を備える材料で形成される。ガイドGD1は、キャップCP1及びピエゾ素子11a1のアライメントを確保すると共にピエゾ素子11a1の外面を保護するように構成される。そのため、望ましくは、ピエゾ素子11a1よりも低い弾性の材料で形成され、或いは、低い弾性の構造を有する。なお、キャップCP1とガイドGD1は一体的に形成されてもよい。
シムSH1は、ガイドGD1内でキャップCP1と左側のピエゾ素子11a1の左端との間に配置可能な部材であり、キャップCP1と左側のピエゾ素子11a1の左端との間隔を調整するために用いられる。シムSH1のB軸方向の幅が大きいほど、4つの転がりジョイントに対する予圧は大きい。
なお、ピエゾ予圧調整機構11dは、左側のピエゾ素子11a1の左端ばかりでなく、左側のピエゾ素子11a1の右端に配置されてもよい。右側のピエゾ素子11a1についても同様である。
ピエゾ予圧調整機構11dにより、左端の接触点と右端の接触点との間の距離は自然長よりも短くなるように調整される。そのため、転がりジョイントの転がり面は、常に所定値以上の力を受けた状態で転がり接触する。なお、左端の接触点は、キャップCP1の端部曲面と左側の固定部11a2の端部曲面との接触点であり、右端の接触点は、キャップCP4の端部曲面と右側の固定部11a2の端部曲面との接触点である。また、自然長は、無負荷状態で一直線上に並べられた各部材(キャップCP1、左側のピエゾ素子11a1、キャップCP2、出力部11a3、キャップCP3、右側のピエゾ素子11a1、及びキャップCP4)の合計長さである。
また、左側のピエゾ素子11a1に関する転がり面は、キャップCP1の表面のうち左側の固定部11a2が接触する接触部分、左側の固定部11a2の表面のうちキャップCP1が接触する接触部分、キャップCP2の表面のうち出力部11a3が接触する接触部分、及び、出力部11a3の表面のうちキャップCP2が接触する接触部分を含む。右側のピエゾ素子11a1に関する転がり面についても同様である。
外殻11eは、一対の固定部11a2の間の距離を固定する機能要素である。本実施形態では、外殻11eは、一対のピエゾ素子11a1、一対の固定部11a2、及び出力部11a3を取り囲むように形成される部材であり、転がり式変位拡大機構11aで一対の固定部11a2の間の距離が拡がるのを防止する。
ここで、図2を参照し、転がり式変位拡大機構11aの出力特性について説明する。図2は、転がり式変位拡大機構11aの各構成要素に作用する力を示す模式図である。
転がり式変位拡大機構11aにおいて、出力部11a3の拡大変位−推力特性は、拡大変位をY、推力をFyとすると、推力Fyは、式(1)のように拡大変位Yの三次関数で表される。なお、拡大変位Yの一次項は、ピエゾ予圧調整機構11dによるピエゾ予圧力、ピエゾ予圧調整機構11dの機械的圧縮剛性、PCS剛性(バネ予圧調整機構11cの機械的圧縮剛性)、ピエゾ素子11a1に対する印加電圧に応じて発生する推力(ピエゾ推力)に依存する成分である。また、拡大変位Yの三次項は、転がり式変位拡大機構11aの機械特性に依存する成分である。またa3、a1はそれぞれ三次項、一次項の係数である。なお、図2に示すY方向は、図1に示すC軸方向と同一方向である。
また、転がり式変位拡大機構11aの出力特性は、ピエゾ素子11a1のアクチュエータ特性と、転がり式変位拡大機構11aによる運動変換特性を考慮すると、式(2)のように表される。
なお、kPCSはバネ予圧調整機構11cのバネ剛性を表し、kPZTはピエゾ素子11a1の機械的圧縮剛性を表す。また、kFは外殻11eの長手方向の機械的引張剛性を表し、kJは転がりジョイントの機械的圧縮剛性を表す。また、kSはピエゾ素子11a1の変位方向における転がり式変位拡大機構11aの総合機械剛性を表し、外殻11eの機械的引張剛性kF、及び、転がりジョイントの機械的圧縮剛性kJに依存する。言い換えると、kSはジョイント部(転がりジョイント)とフレーム部(外殻11e)の機械剛性の合成値である。
また、Lは固定部11a2に関する転がりジョイントの回転中心と出力部11a3に関する転がりジョイントの回転中心との間の距離(下記の基準線Aの方向に沿った距離)を表す。また、FVはピエゾ推力(ピエゾ素子11a1への印加電圧に応じて発生する機械推力)を表し、FPLはピエゾ予圧調整機構11dによるピエゾ予圧力を表し、FZはピエゾ素子11a1の変位量に依存してピエゾ素子11a1の内部で発生する機械的推力を表す。
また、zPZTはピエゾ素子11a1の変位を表し、zSはピエゾ素子11a1の変位方向における転がりジョイントと外殻11eとの総合変位を表す。なお、zSは、転がりジョイントや外殻11eが例えば弾性変形などによって変形したときに、この変形に伴いピエゾ素子11a1の変位方向に生じる変位、とも表現できる。
zは、半径Rの円筒面を持つピエゾキャップCP1の円筒中心OSと、同じく半径Rの円筒面を持つピエゾキャップCP2の円筒中心OCとの距離を表す(図12(a)参照)。式(2)の第2式では、この距離zをzPZTとzSとの和で表している。ピエゾ素子11a1の伸縮の無い初期状態のときには、ピエゾキャップCP1の円筒中心OSと、ピエゾキャップCP2の円筒中心OCとは、ピエゾ素子11a1の中心OZ(図12など参照)と重なるので、z=0となる。
また、dは圧電歪定数であり、VPZTはピエゾ素子11a1に印加される電圧を表す。また、αは接点間角度を表す。接点間角度αは、ピエゾ素子11a1と固定部11a2との接点PSと、ピエゾ素子11a1と出力部11a3との接点PCとを結ぶ線分の基準線Aに対する傾斜角度である。基準線Aは、拡大変位Yがゼロのときの固定部11a2に関する転がりジョイントの回転中心と出力部11a3に関する転がりジョイントの回転中心とを繋ぐ直線である。基準線Aは、図2では水平方向の直線として示されている。図2の水平方向は例えば図1に示すB軸方向と同一方向である。
式(2)の第1式は出力部11a3の拡大変位Yの方向における力のつり合いを示す。また、第2式は転がり式変位拡大機構11aによる運動変換特性を示し、第3式はピエゾ素子11a1の変位方向における力のつり合いを示す。なお、第2式では、ピエゾ素子11a1の伸縮の影響をキャップの径の微小変化で近似している。この近似は、例えば、キャップCP1の端部曲面(部分円筒面)の輪郭を含む円と、キャップCP2の端部曲面(部分円筒面)の輪郭を含む円とが同心円C2(図1(D)参照。)となるように設計された場合に採用可能である。
以上の構成により、転がり式変位拡大機構11aは、ピエゾ素子11a1の変位を100倍以上に拡大可能であり、且つ、出力エネルギを70%以上伝達可能な特性を有する。また、静推力維持に伴うエネルギロスが無く且つ拡大変位が比較的大きいという特性を備えていることから、転がり式変位拡大機構11aは、例えば、クランプ動作が求められるブレーキアクチュエータに適用され得る。
<転がり式変位拡大機構の高出力化>
次に、図3〜図9を参照して、第1実施形態の特徴である、転がり式変位拡大機構11aを高出力化する構成について説明する。
図3は、第1実施形態の転がり部の概略構成を示す模式図である。図3(a)は、第1実施形態で予圧調整バネ11a4として用いる非線形バネ(以下では「非線形バネ11a4」とも表記する)の形状を示す。図3(b)は、(a)に示す非線形バネ11a4を組み付けた転がり部の基準位置(Y=0)における姿勢を示す。図3(c)は、(a)に示す非線形バネ11a4を組み付けた転がり部の最大変位位置(Y=Ymax)における姿勢を示す。
第1実施形態の転がり式変位拡大機構11aでは、サイドブロック(固定部11a2)およびセンターブロック(出力部11a3)の転がり面形状を、図3(b)、(c)に示すような平面形状とすることも可能である。平面は変位拡大後の出力軸方向Yに対して傾きα0をもつ。さらに、ピエゾ素子11a1のキャップCP1〜CP4が同心円となる設計において、転がり面の接点間を結ぶ線のx軸に対する角度はα0となる。図3(b)、(c)に示す構成において.sinα0≒α0、cosα0≒1が成り立つ範囲で、変位Y−推力fy特性は式(3)のように表わされる。ただし、式(3)では非線形バネ11a4の剛性を含まない。
さらに、ピエゾ素子11a1に電圧Vを印加したとき(図3(c)の状態)と、電圧を印加しないとき(図3(b)の状態)のY−fy特性をそれぞれ式(4)、(5)に示す。
式(4)、(5)より、電圧印加による発生力fyON−fyOFFは式(6)で表され、Yに依らないことがわかる。
次に、本発明の構成要素である非線形バネ11a4の特徴を述べる。図3(a)に非線形バネ11a4の模式図を示す。図3(a)の非線形バネ11a4は板バネであり、構成の一例として、両端部12bが転がり式変位拡大機構11aの固定部11a2に固定され、中央部12aが転がり式変位拡大機構11aの出力部11a3と係合される。PCS11a4の変位ypの方向は、アクチュエータの出力方向Yに一致する。第1実施形態で使用する非線形バネ11a4は、図3(a)に示すように、Y方向に対して中央部12aと両端部12bとの間に距離ydが設けられている。自然長の状態においてyd=yd0とすると、自然長の状態からyd<yd0となる向きに、非線形バネ11a4の中央部が変位するとき、剛性が一定値にならない非線形な変位yp−荷重fp特性を示す。
第1実施形態で予圧調整バネ11a4として用いる非線形バネ11a4の形状は、例えば、Y方向と直交する平板状の中央部12aと、この中央部12aの両側に設けられ、自然長のときY方向にyd0のオフセットをとって配置され、中央部12aと同様にY方向と直交する平板状の一対の両端部12bと、Y方向に対して傾斜して設けられ、中央部12aと一対の両端部12bとを接続する一対の接続部12cとを有する形状をとる。
第1実施形態のピエゾアクチュエータ11は、上記のとおり、固定部11a2及び出力部11a3の転がり面形状を平面形状とした転がり式変位拡大機構11aと、予圧調整バネ11a4として適用される非線形バネ11a4とを含んで構成される。
図4に第1実施形態で設計した転がり式変位拡大機構11aにおける変位Y−推力fy特性を示す。ただし、図4は非線形バネ11a4を含んでいないY−fy特性である。図4の太い実線はピエゾ素子11a1に最大電圧Vmaxを印加したとき、点線はVmax/2を印加したとき、細い実線はピエゾ素子11a1への印加電圧Vが0のときの、それぞれのY−fy特性を示す。Vmax/2を印加したときのY−fy特性は、式(3)より次の式(7)のように表わされる。
第1実施形態で予圧調整バネ11a4として用いる非線形バネ11a4の変位(撓み量)yp−荷重fp特性を図5に示す。図5より、非線形バネ11a4の変位yp=0〜yppの範囲では、バネ剛性は正の値を示すが、ypの増加に伴い、バネ剛性が小さくなる傾向がみられ、さらに、yp=ypp〜ypeの範囲ではバネ剛性が負の値を示す。ここで、バネ剛性とは、変位ypに対する荷重fpの変化率(dfp/dyp)を意味する。
第1実施形態では、図3(b)(c)に示すように、図5の特性を有する非線形バネ11a4は、中央部12aと出力部11a3との間にY方向に所定の変位オフセット量ypOをとって変位拡大機構11aに設置される。この場合、図5に示すypOの位置が、アクチュエータ11の出力変位が0のときの非線形バネ11a4の変位量を示す。このとき、アクチュエータ11の動作範囲に対して、非線形バネ11a4の変位の範囲はyp=ypO〜ypeとなる。なお、オフセット量ypOは、例えば中央部12aと出力部11a3との間にスペーサなどのバネ予圧調整機構11cを設置することにより適宜調整できる。
ここで、Y=yp−ypOとするY軸上での非線形バネ11a4の変位Y−荷重fpOe特性を図6に示す。つまり図6は、図5に示した特性をもつ非線形バネ11a4を所定のオフセット量ypOで出力部11a3に取り付けた状態における特性である。図5に示した非線形バネ11a4の特性は、バネ荷重が最大となる変位yppよりバネ変位が増えると、変位増加に応じてバネ荷重が略均等に減少する傾向があり、線形に近い挙動となる。本実施形態では、オフセット量ypOは、yppより大きくとられ、アクチュエータ11の動作範囲において非線形バネ11a4の特性が線形近似できる範囲となるように調整される。
図6で、Y=0〜yeにおける線形近似の直線は、次の式(8)で表わされる。
式(8)について、以下の式(9)、(10)が成り立つ条件では、式(3)と式(8)より、非線形バネ11a4を含めたアクチュエータ11のY−Fy特性として、次の式(11)が得られる。
式(11)をまとめると、次の式(12)のようになり、FyはYに依らず、VPZTで定められる。また、式(12)の特性では、印加電圧がVmax/2のときにFy=0となり、±の二方向の推力を得ることができる。
本実施形態では、式(9)、(10)の関係に近くなるように非線形バネ11a4の特性を設計した。図7に、転がり式変位拡大機構11aにおける非線形バネ11a4を含まないY−fy特性と、非線形バネ11a4の変位yp−荷重fp特性とを示し、図8に、これらの特性を合成した変位拡大機構11aのY−Fy特性を示す。なお、図8では、推力Fyを、バネ特性を含まない推力fyとバネ荷重との和(推力fy+バネ荷重[N])として表記している。
図9は、比較例としての従来の転がり式変位拡大機構のY−Fy特性の一例を示す図である。図9に示すように、従来の転がり式変位拡大機構のY−Fy特性は、一定印加電圧における推力の変動が大きい非線形関係となるため、変位拡大機構の出力可能エネルギに対して、実効範囲AAは格段に小さくなる。
図8に示す特性では、一定印加電圧における推力の変動が、25N程度であり、図9に示す従来アクチュエータの変動よりも小さい。これにより、Y−Fy特性は、推力変動が印加電圧のみに依存する関係(Fy=C・V:Cは係数)に近づけることができている。この結果、第1実施形態の転がり式変位拡大機構11aは、出力可能エネルギに対して実効範囲AAを充分に大きくとることができ、出力可能エネルギを実効範囲AAとして有効に利用でき、高出力化が可能となる。
さらに、図8に示す、一定印加電圧におけるY−Fy特性カーブの線形近似曲線の傾きは1.7〜2.0N/mmと小さく、推力が印加電圧のみに依存する関係(Fy=C・V:Cは係数)に近い特性が得られていることを確認できた。これにより、アクチュエータユニット11の理論上の出力範囲に対する実効範囲AAの比率を大きくできる。
このように、第1実施形態の転がり式変位拡大機構11aでは、予圧調整バネ11a4として適用する非線形バネが、さらに、出力部11a3の出力変位Yに対する推力Fyの変化率を0に近づけるように、出力部11a3に外力(バネ荷重fp)を加える外力印加部としても機能する。この非線形バネ11a4は、バネの撓み量ypに対するバネ荷重fpの変化率が、撓み量ypの増加に応じて正から徐々に低減して負に変わり、略一定の負の値に収束する非線形特性(図5参照)を有する。
また本実施形態では、出力部11a3の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分、及び、固定部11a2の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分が平面形状であり、転がり式変位拡大機構11aのうち非線形バネ11a4を除くY−fy特性は、図4に示すように単調減少の線形特性となる。また、非線形バネ11a4は、出力部11a3の動作範囲における非線形特性が、バネの撓み量に対するバネ荷重の変化率が略一定の負の値となる領域(図5のypO〜ypeの範囲)となるように、出力部11a3が初期位置にあるときの撓み量(すなわちオフセット量ypO)が調整される。
これらの構成により、転がり式変位拡大機構11aのうち非線形バネ11a4を除くY−fy特性の傾きは、非線形バネ11a4の変位(撓み量)yp−荷重fp特性の傾きと正反対となるため相殺されて、この結果、転がり式変位拡大機構11aの全体のY−Fy特性は、例えば図8に示すような特性となり、傾きが0に近く、推力Fyの変動は出力変位Yの変動に依存しにくくなる。これにより、変位拡大機構11aの出力可能エネルギに対して実効範囲AAを充分に大きくとることができ、出力可能エネルギを実効範囲AAとして有効に利用でき、高出力化が可能となる。
なお、上記の第1実施形態の説明では、転がり部のうちサイドブロック(固定部11a2)およびセンターブロック(出力部11a3)の転がり面形状を、図3(b)、(c)に示すような平面形状とする構成を例示したが、非円筒面(第2実施形態参照)や部分円筒面など他の形状でもよい。
また、上記の第1実施形態では、外力印加部(予圧調整バネ11a4)として、ばね変位の増加に応じてバネ剛性が正から負に遷移する変位yp−荷重fp特性を持つ非線形バネ(図5参照)を用いる構成を例示したが、転がり式変位拡大機構11aのうち予圧調整バネ11a4を除くY−fy特性の傾き(すなわち、出力変位Yに対する推力Fyの変化率)を0に近づけることができる特性であればよく、他の特性をもつ非線形バネも適用できる。図10は、第1実施形態に用いる非線形バネの他の特性の一例を示す図である。図10(a)に示すように、ばね変位の増加に応じてバネ剛性(k=dfp/dyp)が正の大きい値から正の小さい値へ遷移する特性の非線形バネを用いてもよいし、図10(b)に示すように、ばね変位の増加に応じてバネ剛性が正から0に遷移する特性の非線形バネを用いてもよい。
同様に、転がり式変位拡大機構11aのうち予圧調整バネ11a4を除くY−fy特性の傾きを0に近づけることができれば、例えば線形の変位―荷重特性を有する線形バネなど、非線形バネ以外の要素を予圧調整バネ11a4として用いることもできる。
第1実施形態では説明の便宜上、外力印加部として用いる非線形バネ11a4が単一の構成を例示したが、外力印加部の所望の変位yp−荷重fp特性を出力するために、複数枚の非線形バネを組み合わせて外力印加部として用いてもよい。
[第2実施形態]
図11〜図18を参照して第2実施形態を説明する。第2実施形態の変位拡大機構11aは、転がり面の少なくとも一部の形状を所定関数に基づき導出される非円筒面とする点で、第1実施形態と異なる。
従来の転がり式変位拡大機構では、転がり面で部分円筒面を介した転がり接触を利用する場合、出力特性(出力部11a3の変位Yと出力部11a3による推力Fyとの関係)の設計自由度が制限され、ピエゾ素子11a1が出力可能なエネルギを有効利用できない場合がある。
そこで、第2実施形態では、転がり面の少なくとも一部に非円筒面を採用することで、転がり式変位拡大機構11aの出力特性の設計自由度を拡大させる。非円筒面は、円筒面以外の面であり、典型的には円筒面以外の曲面である。具体的には、所定平面(B−C平面に平行な面)における円筒面の輪郭線上の各点は所定点(B−C平面と円筒中心軸の交点)からの距離(半径)が一定(曲率が一定)となるのに対し、その所定平面における非円筒面の輪郭線上の各点PS(図12等参照)は、所定点Orsからの距離がそれぞれ異なる(曲率がそれぞれ異なる)。そして、出力特性はその曲率に応じて変化するため、非円筒面の輪郭線上の各点における曲率の変化は、所望の出力特性の実現をもたらす。また、転がり面は典型的にはA軸に平行に延びる面であり、所定平面における転がり面(非円筒面)の輪郭線の形状はA軸上の所定平面の位置にかかわらず同じである。この場合、転がり面同士の接触は線接触となり、転がり面での接触応力は点接触の場合に比べて小さくなる。そのため、転がり面同士の線接触は、点接触の場合に比べて転がり面の寿命を延長でき、且つ、転がり式変位拡大機構11aの動作安定性を高めることができる。
次に、図11〜図15を参照して、第2実施形態における転がり面断面形状の設計方法について説明する。なお、第2実施形態では、転がり面断面形状とは、A軸と直交する方向(図1(C)、(D)、図2の紙面垂直方向)から視たときの転がり面の輪郭線の形状をいう。
式(2)の第1式のように、ピエゾ素子11a1の出力FZと、転がり式変位拡大機構11aの出力FYとは、転がりジョイントの接点間角度αで関係づけられる。そこで本実施形態では、転がりジョイントの接点間角度αに基づき転がり面断面形状を設計する。
まず図11、図12を参照して、本実施形態に係る転がり式変位拡大機構11aの各要素の幾何的関係について説明する。
図11に転がり部全体での対称性を示す模式図を示す。図11に示すように、転がり式変位拡大機構11aは下記(1)、(2)の対称構造をとる。
(1)センターブロック(出力部)11a3の転動面形状や対称構造により、センターブロック11a3はY方向のみに並進するように拘束される。
(2)サイドブロック(固定部)11a2とセンターブロック11a3は、ピエゾ素子11a1の中心OZを基準とした点対称構造としている。
上記(1)、(2)の対称構造の条件により、図11の実線で示すサイドブロック11a2と、それに接触するピエゾキャップCP1、およびピエゾ素子中心OZの挙動から(すなわち、一対のピエゾ素子で構成されるアクチュエータのうちの、1つのピエゾ素子の出力軸方向半分の挙動に注目することで)、転がり式変位拡大機構11aの全体の転がり動作を解析できる。
図12に、転がり式変位拡大機構11aにおける主要な特徴点の関係を示す。図12には、サイドブロック11a2側の転がり面の関数xS=f(yS)の原点Orsと、接点PSと、半径Rの円筒面を持つピエゾキャップCP1の円筒中心OSとのそれぞれの位置関係を示している。θaは、接点PSでの法線角度を示す。図12(a)は転がり式変位拡大機構11aの各要素を模式的に示し、図12(b)は、(a)に対応する幾何的表現である。
図12において、OZは、ピエゾ素子11a1の中心を表す。本実施形態では、OZのx軸方向位置はl0で固定されており、ピエゾ素子中心OZのx軸方向の拘束条件となっている。φは、ピエゾ素子11a1の出力軸の傾き角度を表し、ψは、ピエゾキャップCP1の転がり角度を表す。Y0は、出力部11a3の初期状態におけるY方向位置である(図2参照)。
図12(b)では、原点Orsを中心とするxy座標で各特徴点の関係を表現している。y軸は、出力部11a3の変位Yの方向であり、図12の上下方向である。x軸は、y軸と直交する方向あり、図12の水平方向である。接点PSの位置は、このxy座標を用いて(xS、yS)と表される。ピエゾキャップCP1の円筒中心OSの位置は、xy座標を用いて(xOS、yOS)と表される。ピエゾ素子11a1の中心OZの位置は、xy座標を用いて(xZ、yZ)と表される。
図13は、第2実施形態における転がりジョイントの断面形状の設計方法の手順を示すフローチャートである。以下、図13のフローチャートの各ステップS1〜S3を説明する。
ステップS1では、転がり動作幾何学解析を行う。具体的には、接点間角度αに基づき接点Psの軌跡を算出する。
図14にステップS1における接点軌跡を導出するためのモデルを示す。図14には、転がり動作における各接点、中心位置と角度の関係を示す。図14の(a)は初期状態、(b)は出力変位Yを与えた状態、(c)接点軌跡を導出するための近似関係を示す。
ここでは、ピエゾキャップCP1は、図12(b)に示したように、半径Rの円筒面として扱う。図14(a)の初期状態において解析初期条件として、z=0、Y=0において、原点Ors、接点PSと、円筒中心OSと、ピエゾ素子11a1の中心OZとは、初期接点間角度α0の傾きをもつ直線上に位置するものとした。図14では、この初期位置を、それぞれPS0、OS0、OZ0で表す。
接点間角度αを出力変位Yの関数として設定する。具体的には、以下の式(13)に示す多項式とする。式(13)の右辺の多項式の各項の係数an(n=k〜N)を調整することにより、変位Yに応じた所望の接点間角度αの推移を設定できる。
図14(b)は、入力変数Yにおける(すなわち出力部11a3の拡大変位Yが出力されたときの)各接点、中心位置および角度の関係を示す。図14(b)から、接点PSのy方向位置xS、ySは、それぞれ以下の式(14)、(15)で表される。l0はピエゾ素子中心OZのx軸方向の拘束条件である。
ここで、z≪Rかつ∠OSPSOZ≒0であることから、以下の式(16)の近似関係を用いた。
さらに、z/2・sinφ≒0、z/2・cosφ≒z/2であることから、OS(xOS、yOS)とOZ(xZ、yZ)のx,y方向の位置について式(17)および(18)の近似関係を用いた。
式(16)、(17)、(18)の近似関係を適用したときの各接点、中心位置および角度の関係を図14(c)に示す。
式(16)、(17)の近似より、近似的に出力変位Yに対するySの関係を式(19)とした。
図14(c)と式(18)より、接点PSのx方向位置xSは式(20)で示される。
しかしながら、図14(c)において、OSのx方向の位置xOSは与えられていないため、式(20)からxSは特定されない。そこで、図14(c)に加えて、図15に示すような、接点PSをYの微小な変化に対して離散的に与えたときの、n−1番目のYn−1のときの接点位置PS n−1と、n番目のYnのときの接点位置PS nの関係を設定した。図15に示すように、接点PSのx方向の変化分ΔxSを以下の式(21)とし、接点PSのx方向位置xSは式(22)とした。
この結果、式(19)と式(22)より、接点軌跡PS(xS、yS)が算出される。ステップS1の処理が完了するとステップS2に進む。
次に、ステップS2にて、ステップS1にて算出した接点軌跡PSについて、最小二乗近似により、サイドブロックの転がり面の曲面関数を導出する。曲面関数は以下の式(23)に示すx−y座標における近似多項式曲面である。
この曲面関数が転がり面の断面形状を定義する。なお、本実施形態では6次多項式としたが、多項式の次数は適宜変更してよい。ステップS2の処理が完了するとステップS3に進む。
次にステップS3において、ステップS2で求めた曲面関数を用いて転がり動作解析及び出力特性解析を行う。ySを入力変数として、転がり動作における幾何学解析により、接点PSとピエゾキャップ円中心OS、ピエゾ素子中心OZの位置を算出し、各接点および中心位置からz、Y、αを導出する。
図12(b)に示す関数曲面f(yS)上での転がりにおける各接点、中心位置の関係について以下に述べる。数値計算では、入力変数を接点Psのy座標ySとし、上記の式(23)より接点Psのx座標xSを算出する。図12(b)におけるOS(xOS、yOS)、OZ(xZ、yZ)は、以下の式(24)、式(25)により導出される。式(25)において、l0はピエゾ素子中心OZのx軸方向の拘束条件である。
また、転がり動作において、接点でのすべりが生じないことを前提条件とすると、サイドブロック曲面上の接点移動距離と、ピエゾキャップ円筒面上の接点移動距離が等しいという関係が得られる。変数区間ySO〜ySにおける関数曲面上の曲線長さをsとすると、図12(b)に示すピエゾキャップCP1の転がり角度ψは以下の関係式(26)、(27)より導出される。式(27)の右辺については、平方根をテイラー展開し、4次関数として近似した後、積分計算を行い、数値解を求めた。
上記のように、各転がり接点・中心位置を求めることにより、ピエゾ素子の変位量z、水平軸に対する転がり接点間の角度αout、出力変位Yを計算することができる。各接点・中心位置とz、αout、Yの関係は以下の式(28)〜(30)の通りである
さらに、式(28)〜(30)の計算値を式(2)に代入することで、各入力変数に対する推力Fyが計算される。入力変数に対して、変位Yと推力Fyを対応づけることにより、変位−推力特性が求められる。なお、このときαoutは、式(2)のαとして代入される。
ステップS3では、このように求めた値や特性を用いて接点間角度αの調整を行う。具体的には、転がり式変位拡大機構11aの出力を所望のものに近づける方向に、式(13)の右辺の多項式の係数an(n=k〜N)を調整する。
ステップS3では、2段階に分けて接点間角度αの調整を行うことができる。まず第1段階として、式(29)で求めたαoutのYに応じた軌跡と、式(13)のαのYに応じた軌跡とを比較する。両者に許容値以上の差異がある場合には、αoutとαとが一致する方向に式(13)の係数anを調整する。一方、αoutとαに許容値以上の差異が無い場合には、第2段階として、式(28)〜(30)を用いて算出した変位Y―推力Fy特性と、所望の特性とを比較して、両者に許容値以上の差異がある場合には所望の特性に近づく方向に式(13)の係数anを調整する。
次に図16〜図18を参照して第2実施形態に係る転がり式変位拡大機構11aの効果について説明する。
第2実施形態の転がり式変位拡大機構11aは、容量的性質を有するピエゾ素子11a1と、このピエゾ素子11a1の一端と接触し、ピエゾ素子11a1の伸縮に応じてピエゾ素子11a1の伸縮方向とは異なる方向に変位する出力部11a3と、ピエゾ素子11a1の他端と接触し、ピエゾ素子11a1の伸縮によっては変位しない固定部11a2と、を有する。転がり式変位拡大機構11aは、出力部11a3の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分、及び、固定部11a2の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分のそれぞれが非円筒面を含む。ピエゾ素子11a1と固定部11a2との接点PSと、ピエゾ素子11a1と出力部11a3との接点PCとを結ぶ線分の傾斜角度である接点間角度αは、出力部11a3の出力変位Yの関数(式(13))として設定される。転がりジョイントの非円筒面の輪郭は、接点間角度αの関数(式(19)、式(22))で表される。
この構成により、転がり面を、式(13)の係数anをパラメータとして導出された関数(xS=f(yS)で導出される非円筒面形状の曲面とすることで、出力特性の設計自由度を拡大させることができる。これにより、高出力化等のアクチュエータ性能改善を図ることができる。
これまでの設計方法では、出力部11a3の推力Fyが出力変位Yの奇関数となり、Yが大きくなることでFyが大きく変化し、アクチュエータとしてのストロークが制約されていた。Yに対するFyの変化率を縮小して大きなストロークを得ることを狙い、式(13)のαを導出する関数の係数anの設定を行った。以下にその設計例を示す。また、式(13)で算出されるαと、式(29)で算出されるαoutを比較することで、本実施形態で提案する曲面設計手法の妥当性を確認した。
図16に、Yとαの関係を示す。図16の実線は式(13)で設定されたαの出力変位Yに応じた推移を示し、図16の点線は、式(29)で算出されたαoutの出力変位Yに応じた推移を示す。また、図16には、比較例として、転がりジョイントの転がり面を円筒面とした場合の推移もαCとして示す。比較例の接点間角度αCは、出力変位Yの増加に応じて単調増加する比例関係となっている。
図16に示すように、式(13)にて設定したαに対して、このαに基づき導出した接点軌跡Psから幾何的に導出されたαoutがよく一致していることから、本実施形態で提案する曲面設計手法の妥当性が確認できる。なお、図16では、αとαoutを両方視認できるように、両者のグラフの間に若干の隙間があるが、実際には両者のグラフは重なっている。
また、比較例としての円筒面での接点間角度αCは、ほぼ線形な変化となるが、本実施形態のα、αoutは非線形であり、Yに対しての変化率が小さい。式(2)の第1式に示すように、ピエゾ素子11a1の出力FZから出力部11a3の推力FYへの変換は接点間角度αによる。このため、接点間角度αの出力変位Yに対する変化率を小さくすることが、推力FYの変化率を小さくする有効な手段であるといえる。
図17は、第2実施形態の手法で設計した転がり面形状の曲率半径の変化を示す図である。図17では、本実施形態の式(19)、式(23)による曲面の曲率半径の、接点PSのy方向位置ySに対する推移を実線で示し、比較例としての円筒面の場合の推移を点線で示す。図17に示すように、比較例の円筒面の場合は、接点PSのy方向位置ySによらず曲率半径は一定である。これに対して本実施形態の曲面では、接点PSのy方向位置ySの変化に応じて、単調な変化ではなく、高次の変化となることが判る。
図18は、第2実施形態の手法で設計した転がり面形状の変位−推力特性を示す図である。図18には、第2実施形態の曲面形状における特性をグラフA1,A2で示し、特性の自由度の範囲(設定可能な出力変位Yと推力FYの幅)をA3で示す。また、比較例としての円筒形の場合の特性をグラフB1,B2で示し、特性の自由度の範囲をB3で示す。ここで、A1,B1は最大電圧印加時の推力、A2,B2は電圧無印加時の推力変化を示す。また、Y=0における転がり接点間の初期角度は0.015rad、プリロードは10kNとし、実施形態の曲面と円筒面とで同一条件とした。
図18に点線で示す円筒面の変位−推力特性B1,B2は、Yの三次多項式で近似される特性となっており、変位Yによって大きく推力FYが変化する。一方で、図18に実線で示す、本実施形態の手法で設計した曲面の変位−推力特性A1,A2は、円筒面の特性B1,B2から大きく異なり、推力FYの変化幅が小さいことを確認した。これより、本実施形態の手法で設計した多項式曲面を用いることにより、従来の円筒面では得られなかった出力特性が設計できるといえる。
また、図18において、所定幅(例えば100N)の推力FYを利用できる範囲として、本実施形態の曲面の場合の範囲A3を破線の四角で示し、比較例の円筒面の場合の範囲B3を一転鎖線の四角で示す。これらの四角形の横幅は、所定幅の推力FYを利用できる出力変位Yのストロークを示す。図18に示すように、この有効ストロークは、本実施形態の曲面の場合に比較例の円筒面の場合と比べて1.5倍程度拡張している。このように、本実施形態の手法により設計された曲面を転がりジョイントに用いると、円筒面を用いる場合と比較して、推力FYの変化幅が小さくなったことで、有効なストロークが拡張されたことが判る。
上記の第2実施形態では、出力部11a3の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分、及び、固定部11a2の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分のそれぞれが非円筒面を含むように構成される。また、上記の第2実施形態では、ピエゾ素子11a1の表面のうち出力部11a3が接触する接触部分、及び、ピエゾ素子11a1の表面のうち固定部11a2が接触する接触部分のそれぞれが部分円筒面で構成される。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。具体的には、ピエゾ素子11a1の表面のうち出力部11a3が接触する接触部分、ピエゾ素子11a1の表面のうち固定部11a2が接触する接触部分、出力部11a3の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分、及び、固定部11a2の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分の少なくとも1つの接触部分が少なくとも部分的に非円筒面を含む構成であればよい。例えば、上記実施形態とは反対に、ピエゾ素子11a1の表面のうち出力部11a3が接触する接触部分、及び、ピエゾ素子11a1の表面のうち固定部11a2が接触する接触部分のそれぞれが非円筒面を含むように構成され、出力部11a3の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分、及び、固定部11a2の表面のうちピエゾ素子11a1が接触する接触部分のそれぞれが部分円筒面で構成されてもよい。
また、上記の第2実施形態では、非円筒面を含む端部曲面と部分円筒面で構成される端部曲面とが接触するように構成される。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、非円筒面を含む端部曲面と非円筒面を含む別の端部曲面とが接触するように構成されてもよい。
また、上記の第2実施形態では、転がり式変位拡大機構11aは、基本的に、一対のピエゾ素子11a1と一対の固定部11a2と1つの出力部11a3とで構成される。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、変位拡大機構は、基本的に、1つのピエゾ素子と1つの固定部と1つの出力部で構成されてもよい。
[第3実施形態]
図19を参照して第3実施形態を説明する。図19は、第3実施形態に係る弁駆動装置20の構成の一例を示す模式図である。
図19に示すように、第3実施形態の弁駆動装置20は、第1、第2実施形態に係る転がり式変位拡大機構11aを駆動源として用いることができる。図19において、弁駆動装置20の制御対象として例示する弁はエア三方弁であり、スプール21と、スリーブ22と、マニホールド23とを備える。スプール21はスリーブ22の内部に一方向(図19では紙面左右方向)に直動可能に収容される。スリーブ22とマニホールドとの間には、圧縮空気をスリーブ内部に供給する供給ポートPsと、スリーブ22内の空気を大気開放する排気ポートExと、スリーブ22内の空気を駆動部に供給するコントロールポートPcとが形成されている。供給ポートPs、排気ポートEx、コントロールポートPcは、スプール21のスリーブ22内での位置に応じてスリーブ22内部と連通または遮断される。
転がり式変位拡大機構11aは、スプール21のスリーブ22内での駆動のための動力を供給する。転がり式変位拡大機構11aの出力部11a3は、例えばスプール21の一端部に連結される。転がり式変位拡大機構11aは、出力部11a3の変位方向がスプール21の駆動方向と一致するように設置される。これにより、転がり式変位拡大機構11aが作動して、出力部11a3が変位すると、スプール21がスリーブ22内で変位して、これにより供給ポートPs、排気ポートEx、コントロールポートPcの連通/遮断状態が切り替わる。
例えば、出力部11a3が動作範囲の中心から紙面左側に移動すると、スプール21は排気ポートEx側に移動する。この状態では、主に供給ポートPsからコントロールポートPcにエアが供給される。一方、出力部11a3が動作範囲の中心から紙面右側に移動するとスプール21は供給ポートPs側に移動する。この状態では、主にコントロールポートPcから排気ポートExにエアが排出される。
なお、第3実施形態の弁駆動装置20は、第1、第2実施形態に係る転がり式変位拡大機構11aを駆動源として用いればよく、制御対象は図19に例示したエア三方弁以外の弁でもよい。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。