以下、本発明の実施の形態に係る開放式耐力体のうち、まずは壁として用いられる開放式耐力壁について図面に基づき説明する。なお、この説明に用いる図面のうち、図1は本実施の形態に係る開放式耐力壁の屋内側から見た正面図、図2は図1のA−A断面図、図3は図1の右下部を拡大した拡大部分正面図、図4および図5は開放式耐力壁に水平方向の力が作用した場合を説明するための概略正面図、図6は開放式耐力壁の屋内側および屋外側から作用する力を説明するための分解斜視図である。また、前記図面のうち、図7〜図12は、本発明の他の実施の形態に係る開放式耐力壁を説明するための正面図である。さらに、前記図面のうち、図14は、前記開放式耐力壁の第一斜状面および第二斜状面を水平断面で拡大した拡大水平断面図である。
ここで、一般的な開放式耐力壁の概略について説明する。
開放式耐力壁は、骨格部材を有する建築物に設けられるものである。この骨格部材とは、内側に開口部を形成するものであればよく、例えば図1に示すように、家屋などの建築物の梁105、土台106および柱107などである。なお、詳しくは後述するが、これら105〜107の内側に設けられた受材、および、横材なども、骨格部材となる。このような骨格部材105〜107で囲われた空間が、開口部109となる。
前記開口部109は、そのままの空間であれば建築物として耐力性に劣ることになる。この対策として、従来では、金網、パンチングメタルまたは筋交いなど、通気性および採光性に優れて強度部材となる面材を開口部109に張ることで、開放式で耐力性を有する壁(つまり開放式耐力壁)が構成されていた。
次に、本発明の実施の形態に係る開放式耐力壁10、すなわち、十分な強度を担保し得るとともに、製作性を向上させ得る開放式耐力壁10の構成について、図1〜図3に基づき詳細に説明する。
図1に示すように、この開放式耐力壁10は、開口部109に張られて正面視が網のように見えるものとして、第一斜状面1および第二斜状面2を備える。すなわち、前記第一斜状面1および第二斜状面2は、前記開口部109の正面視で交差するように配置される。この開口部109は、梁105、土台106および2本の柱107(いずれも骨格部材105〜107の一例である)で囲われた空間である。図2に示すように、第一斜状面1は開口部109の屋外側の面に張られたものであり、第二斜状面2は開口部109の屋内側の面に張られたものである。このため、屋内側から前記開放式耐力壁10を見た図である図1では、第一斜状面1(屋外側)の周縁部が骨格部材105〜107に隠れて現れないが、第二斜状面2(屋内側)の全てが現れる。
前記開放式耐力壁10は、第一斜状面1および第二斜状面2を開口部109に張るために、図3に示すように、骨格部材105〜107に設けられた多数の掛部3を有する。すなわち、これら多数の掛部3は、骨格部材105〜107に第一斜状面1および第二斜状面2を掛けるためものである。これら多数の掛部3は、梁105、土台106および2本の柱107のそれぞれにおいて、一列状で且つ等間隔にされることが好ましい。前記掛部3は、釘、ねじ、または打ち込みカンなどである。掛部3としての釘またはねじは、骨格部材105〜107に取り付けられるのが容易である上に、第一斜状面1および第二斜状面2が容易に掛けられるので、製作性を向上させるのに有利である。一方で、掛部3としての打ち込みカンは、骨格部材105〜107に強固に取り付けられる上に、一旦掛けられた第一斜状面1および第二斜状面2が外れ難いので、強度の面で有利である。なお、掛部3は、釘、ねじ、または打ち込みカンのような別途の部材に限られず、骨格部材105〜107において第一斜状面1および第二斜状面2が直接掛けられるように形成された部分でもよい。なお、本実施の形態における多数とは、4つ以上を意味する。
前記第一斜状面1および第二斜状面2は、いずれも、線材から構成される。ここで、線材とは、化学繊維または天然繊維からなる紐またはロープだけでなく、高強度な硬質合成樹脂製のもの(ガラス繊維など)または金属製のもの(ワイヤーロープなど)を含む、あらゆる線状または帯状の材料を意味する。
図3に示すように、前記第一斜状面1は、線材を並列に且つ水平(骨格部材105〜107の一辺105,106)に対して鋭角αになるように、前記骨格部材105〜107に設けられた多数の掛部3に掛けたものである。同様に、前記第二斜状面2は、線材を並列に且つ水平に対して鈍角βになるように、前記骨格部材105〜107に設けられた多数の掛部3に掛けたものである。このため、前記第一斜状面1および第二斜状面2は、それぞれ、線材の並列に配置された多数の線材部4からなる。なお、並列とは、並びつらなる状態を意味し、必ずしも平行まで限定して解釈されない。しかしながら、全ての線材部4をできる限り平行に配置する方が、強度の面で有利である。
これら線材部4のうち、図1に示すように、一端部が柱107に掛けられるとともに他端部が梁105に掛けられた線材部4の集合が、梁抜け防止部分5となり、一端部が土台106に掛けられるとともに他端部が柱107に掛けられた線材部4が、土台抜け防止部分6となる。すなわち、梁抜け防止部分5は、一端部が柱107に掛けられるとともに他端部が梁105に掛けられた線材部4の集合であることにより、梁105から柱107が抜けようとするのを防止する部分となる。同様に、土台抜け防止部分6は、一端部が土台106に掛けられるとともに他端部が柱107に掛けられた線材部4の集合であることにより、土台106から柱107が抜けようとするのを防止する部分となる。勿論、図1に示した部分以外にも、梁抜け防止部分5は、梁105と柱107とを鉛直に(当該柱107に沿って)接続した線材の部分を含んでもよく、同様に、土台抜け防止部分6は、土台106と柱107とを鉛直に(当該柱107に沿って)接続した線材の部分を含んでもよい。
前記第一斜状面1および第二斜状面2は、交差することで正面視が網のように見えるものの、互いに非固着であるから、直接的に影響を与える(互いに力を作用させ合う)ことはない。
以下、地震などにより前記骨格部材105〜107および開放式耐力壁10に水平方向(例えば、右方向または左方向)の力が作用した場合を、図4および図5に基づき説明する。
まず、図4の白抜矢印で示すように、前記骨格部材105〜107および開放式耐力壁10が右方向の力を受けた場合について説明する。
この場合、第一斜状面1から、図4の黒塗矢印で示すように、梁105および右側の柱107Rが左下方向の力を受けるとともに、土台106および左側の柱107Lが右上方向の力を受ける。このような力により、梁105、土台106および柱107は、地震などから受ける右方向の力を第一斜状面1にも分担させる。特に、第一斜状面1の梁抜け防止部分5は、これが掛けられた骨格部材105,107Lにおいて、開放式耐力壁10への右方向の力(白抜矢印)を、梁105にとっては左側の柱107Lへの力(左下方向への黒塗矢印)で且つ左側の柱107Lにとっては梁105への力(右上方向への黒塗矢印)とする。このため、第一斜状面1の梁抜け防止部分5は、梁105から左側の柱107Lが抜けるのを防止する。一方で、第一斜状面1の土台抜け防止部分6は、これが掛けられた骨格部材106,107Rにおいて、開放式耐力壁10への右方向の力(白抜矢印)を、土台106にとっては右側の柱107Rへの力(右上方向への黒塗矢印)で且つ右側の柱107Rにとっては土台106への力(左下方向への黒塗矢印)とする。このため、第一斜状面1の土台抜け防止部分6は、土台106から右側の柱107Rが抜けるのを防止する。
これに対して、第二斜状面2は、弛むことになるので、梁105、土台106および柱107は、地震などから受ける右方向の力が分担されない。また、この弛みが第一斜状面1に直接的に影響を与えることはない。
次に、図5の白抜矢印で示すように、前記骨格部材105〜107および開放式耐力壁10が左方向の力を受けた場合について説明する。
この場合、第二斜状面2から、図5の黒塗矢印で示すように、梁105および左側の柱107Lが右下方向の力を受けるとともに、土台106および右側の柱107Rが左上方向の力を受ける。このような力により、梁105、土台106および柱107は、地震などから受ける左方向の力を第二斜状面2にも分担させる。特に、第二斜状面2の梁抜け防止部分5は、これが掛けられた骨格部材105,107Rにおいて、開放式耐力壁10への左方向の力(白抜矢印)を、梁105にとっては右側の柱107Rへの力(右下方向への黒塗矢印)で且つ右側の柱107Rにとっては梁105への力(左上方向への黒塗矢印)とする。このため、第二斜状面2の梁抜け防止部分5は、梁105から右側の柱107Rが抜けるのを防止する。一方で、第二斜状面2の土台抜け防止部分6は、これが掛けられた骨格部材106,107Lにおいて、開放式耐力壁10への左方向の力(白抜矢印)を、土台106にとっては左側の柱107Lへの力(左上方向への黒塗矢印)で且つ左側の柱107Lにとっては土台106への力(右下方向への黒塗矢印)とする。このため、第二斜状面2の土台抜け防止部分6は、土台106から左側の柱107Lが抜けるのを防止する。
これに対して、第一斜状面1は、弛むことになるので、梁105、土台106および柱107は、地震などから受ける左方向の力が分担されない。また、この弛みが第二斜状面2に直接的に影響を与えることはない。
このように、前記開放式耐力壁10によると、水平方向の力が第一斜状面1および第二斜状面2のいずれか一方にのみ作用し、他方に直接的に影響を与えないので、十分な強度を担保することができる。また、第一斜状面1および第二斜状面2は線材を骨格部材105〜107に掛けたものであるから、現場での製作が可能になり、製作性を向上させることができる。
加えて、梁抜け防止部分5および土台抜け防止部分6により、水平方向の力を受けても梁105および土台106からの柱107の抜けが防止されるので、十分な強度を担保することができるとともに、安全性を向上させることができる。
また、図6に示す開口部109の屋外側に張られた第一斜状面1と屋内側に張られた第二斜状面2とにより、第一斜状面1が柱107を屋外側で開口部109に巻き込もうとする力F1(図6の白抜矢印で示す)と、第二斜状面2が柱107を屋内側で開口部109に巻き込もうとする力F2(図6の黒塗矢印で示す)と、が打ち消し合うことになる。このため、柱107の捻転による骨格部材105〜107の破損が生じ難くなるので、安全性を一層向上させることができる。
ところで、前記実施の形態での図1および図3では、線材に弛みの無い状態を示したが、図7(第二斜状面2の図示を省略する)に示すように、予め線材を弛ませた構成でもよい。この構成であれば、図8(図7と同様に第二斜状面2の図示を省略する)に示すように水平方向の力を受けた場合、まずは建築物における外壁用合板または石膏ボードなどの仕上げ用面材(化粧材)に力が分担され、その後に第一斜状面1または第二斜状面2に力が分担される。このため、水平方向の力が長時間に亘って分担されるので、水平方向の振幅が大きくなるような力に対して一層十分な強度が担保される。なお、この構成では、線材の予めの前記弛みを、前記化粧材が降伏する前の状態で初めて線材がピンと張る(線材部4が直線状になる)程度にする。
また、前記実施の形態では、開口部109の屋外側/屋内側の面に第一斜状面1/第二斜状面2が張られるとして説明したが、第一斜状面1および第二斜状面2が張られる面を入れ替えてもよい。さらに、図9に示すように屋外側および屋内側のいずれか一方の面に、第一斜状面1および第二斜状面2の両方を張るようにしてもよい。これにより、屋外側および屋内側のいずれか一方の面から第一斜状面1および第二斜状面2の両方を張ることが可能になるので、製作性を一層向上させることができる。
加えて、前記実施の形態では、壁が大壁(柱107が壁よりも薄い)の場合として説明したが、壁が真壁(柱107が壁よりも厚い)の場合、図10に示すように、梁105、土台106および2本の柱107に沿って開口部109側に受材108を配置してもよい。この受材108は、柱107よりも薄く、骨格部材105〜108となる。この受材108に、第一斜状面1および第二斜状面2を掛けるようにしてもよい。
勿論、骨格部材105〜108は、このような、梁105,土台106および2本の柱107または受材108に限定されず、内側に開口部を形成する部材であればよい。例えば、骨格部材として、梁105および/または土台106の代わりに横材を採用してもよい。図11には、骨格部材として、梁105および土台106の代わりに2本の横材104を採用した例を示す。勿論、骨格部材は、内側に開口部を形成する部材であれば、どのような形状、位置および本数であってもよい。開口部がどのような形状であっても、前記第一斜状面1および第二斜状面2を構成するのは線材であるから、上述したように線材を骨格部材104〜108に掛けることで、容易に開放式耐力壁10を製造することが可能である。
また、前記実施の形態での図1および図3では、第一斜状面1および第二斜状面2がそれぞれ一本の線材からなるとして示したが、図12に示すように、線材部4毎に一本ずつの線材を用いるようにしてもよい。これにより、線材が破断しても、破断しなかった線材部4が骨格部材105〜107に掛けられているので、これら破断しなかった線材部4に地震などから受ける力が分担される。すなわち、線材が破断した後でも、破断しなかった線材部4が引き続き強度部材となるので、開放式耐力壁10は全体としてより粘り強い耐力を有することになる。したがって、図12に示す開放式耐力壁10は、一層十分な強度を担保することができる。なお、図12に示すような全ての線材部4にそれぞれ一本ずつの線材を用いるのではなく、部分的に(特に破断しやすい部分に)一本ずつの線材を用いてもよい。これにより、一層十分な強度を担保することができるとともに、図12に示す開放式耐力壁10よりも線材の本数を減らせるので、製作性を向上させることができる。なお、図1および図3に示すように、第一斜状面1および第二斜状面2がそれぞれ一本の線材からなる場合、隣り合う線材部4が互いに接続されているので、線材部4の受ける力が均されることになる。このため、線材が破断にし難くなるので、安全性を一層向上させることができる。また、この場合、第一斜状面1および第二斜状面2をそれぞれ一本の線材から製作可能になるので、現場での製作が容易になり、製作性を一層向上させることができる。
また、前記実施の形態では、梁105、土台106および2本の柱107で囲われる開口部109が矩形状として図示したが、これに限定されるものではなく、柱107が傾いているなど矩形状以外の開口部109であってもよい。すなわち、前記開放式耐力壁10は、柱107が傾いているような既存の古い建築物に対しても適用可能である。
また、前記実施の形態に係る前記開放式耐力壁10は、屋内側または屋外側に傾いたものであってもよい。
また、前記実施の形態では、建築物の一例として家屋について説明したが、建築物であれば特に限定されるものではない。なお、建築物が木造家屋である場合など強度が十分でなければ、前記開放式耐力壁10は一層適する。
また、前記実施の形態では、前記開放式耐力壁10が屋内側と屋外側とを隔てる外壁として説明したが、これに限定されるものではなく、屋内で用いられるものであってもよい。
また、前記実施の形態では、前記線材が高強度な硬質合成樹脂製のもの(ガラス繊維など)または金属製のもの(ワイヤーロープなど)を含む、あらゆる線状または帯状の材料として説明したが、好ましくは、(1)軸方向の圧縮力を曲げにより吸収するように構成された金属製の線材、または、(2)可撓性を有する繊維製線材である。以下、前記(1)および(2)について説明する。
前記(1)として、前記線材が軸方向の圧縮力を曲げにより吸収するように構成された金属製の線材(特に針金などの鉄線)であることにより、その軸方向の圧縮力を受けても、湾曲または折り曲げなどにより当該圧縮力を吸収する。このため、前記金属製の線材は、前記圧縮力が作用しても、それぞれの両端部の掛部3に過剰な力を作用させないので、掛部3の破損が防止される。これにより、一層十分な強度を担保することができる。
前記(2)として、前記線材が可撓性を有する繊維製線材であることにより、従来の開放式耐力壁では担保されなかった安全性も向上させることができる。例えば、前記特許文献1および2に記載の開放式耐力壁は、許容以上の力を受けるなどで破断した場合、これら高強度な硬質合成樹脂または金網の破断面が鋭利になるので、安全性に改善の余地がある。これに対して、前記実施の形態に係る線材が可撓性を有する繊維製線材であれば、仮に破断しても破断面が人を傷つけるほどに鋭利でない上に、破断した近傍が自重により垂れ下がって破断面を下に向けるからである。また、前記実施の形態に係る線材が可撓性を有する繊維製線材であれば、第一斜状面1および第二斜状面2が柔軟性を有する(伸びにより外力を吸収する)ので、変形してより粘り強い耐力(つまり靭性)を維持することになり、結果として十分な強度を担保することができる。ここで、繊維製線材とは、化学繊維または天然繊維からなる紐またはロープを意味し、高強度な硬質合成樹脂製のもの(ガラス繊維など)または金属製のもの(ワイヤーロープなど)を除く。また、可撓性とは、自重により垂れ下がる程度まで撓むことを意味する。可撓性を有する繊維製線材には、ナイロンまたはポリエチレンなどの合成繊維からなるロープを採用することが一層好ましい。このような合成繊維からなるロープ、例えばナイロンロープは、入手が容易なので製作性に有利であり、強度も高いからである。ナイロンロープの中でも、強度の面から3打ちのものが好ましく、強度をより重視するのであれば、パラ系アラミド繊維からなるロープを採用することが好ましい。なお、パラ系アラミド繊維からなるロープ以外にも、メタ系アラミド繊維からなるロープなど、アラミド繊維からなるロープが好ましい。本実施の形態におけるナイロンロープとは、複数打ちの場合、撚られるストランドが1本でもナイロンであるものを意味する。このため、好ましいナイロンロープは、複数打ちであって、撚られるストランドに、ナイロンのストランドだけでなく、強度を向上させる材料(炭素繊維などナイロンよりも高強度の材料)のストランドも有する。
前記線材は、1種類の材質からなるもの限られず、2種類以上の材質からなるものであってもよい。2種類以上の材質からなる線材の例としては、繊維製線材の芯として金属製の線材を採用したものが挙げられる。
前記線材部4は、全て同じ線材に限られず、異なる部分で異なる材質の線材が採用されてもよい。例えば、高い強度が必要とされる線材部4には金属製の線材が採用され、伸びが必要とされる線材部4には可撓性を有する繊維製線材が採用される。
前記可撓性を有する繊維製線材(一例としてナイロンロープ)は、外径0.1mm〜10mmが好ましく、前記線材部4の隣り合う間隔は200mm以下が好ましく、前記第一斜状面1におけるナイロンロープの水平に対して配置された鋭角α(図3を参照)は40〜50°が好ましく、前記第二斜状面2におけるナイロンロープの水平に対して配置された鈍角β(図3を参照)は130〜140°が好ましい。このような外径および配置のナイロンロープを採用することで、想定される地震などから骨格部材105〜107に作用する力に対して強度の面で有利であり、言い換えれば、一層十分な強度を担保することができる。勿論、外径0.1mm〜10mmのナイロンロープも入手が容易なので、このようなナイロンロープを採用することで、製作性を一層向上させることができる。
ここで、本発明の実施例に係る開放式耐力壁10と、従来品である比較例の開放式耐力壁との強度を比較するために、以下の実験を行った。この実施例に係る開放式耐力壁10では、前記実施の形態に係る開放式耐力壁10において、前記線材に外径4.0mmのナイロンロープ(ストランドが全てナイロンの3打ち)を採用し、前記鋭角αを45°、前記鈍角βを135°(いずれも製作上の誤差を含む)とした。また、従来品である比較例の開放式耐力壁は、実施例に係る開放式耐力壁10の線材を金属線材にし、第一斜状面および第二斜状面を互いに交差した箇所で溶接したものとした。前記実験では、当該実験のための装置であるシリンダで梁105を面内方向(左右方向)に往復運動させて、試験体である開放式耐力壁が左右に傾斜するように当該試験体に外力を作用させることで、当該試験体が当該外力に抵抗する力(荷重)を計測した。この往復運動では、前記シリンダで梁105を7往復(第1回目の往復〜第7回目の往復)させ、往復が進むにつれて振幅を大きくしていった。そして、第7回目の往復の後に、どの程度で破損するかを調べるために往運動のみを進めて行った。なお、各往復とその振幅との関係を次の表1に示し、この表1での振幅を土台106に対する柱107の傾斜した角度(以下、傾斜角という)で示す。
前記実験の結果である、梁105の移動量(X軸)−シリンダが受ける荷重(Y軸)は、図13に示す通りである。図13において、上側が前記実施例に係る開放式耐力壁10の結果であり、下側が比較例の開放式耐力壁の結果である。なお、図13の上側に示す前記実施例に係る開放式耐力壁10では、往復運動(第1回目の往復〜第7回目の往復)で破損しなかった。その後、往運動のみを進めていき、傾斜角が125.0×10−3radを超えるまで梁105をシリンダで移動させ続けた。すると、図13の上側に示すように、傾斜角が125×10−3radを超えても、前記実施例に係る開放式耐力壁10は梁105の移動量に比例した荷重をシリンダに与える結果となった。一般に、125.0×10−3radの傾斜角は木造軸組住宅(建築物の一例である)が倒壊する角度と想定されているので、前記実施例に係る開放式耐力壁10は、木造軸組住宅が倒壊するまで、移動量に比例した力で第一斜状面1および第二斜状面2が骨格部材105〜107を保持することになる。したがって、前記実験により、前記実施例に係る開放式耐力壁10は、より粘り強い耐力(つまり靭性)を維持すること、すなわち、十分な強度を担保することが示された。一方で、図13の下側に示す比較例の開放式耐力壁でも、往復運動(第1回目の往復〜第7回目の往復)で破損しなかった。その後、往運動のみを進めていき、梁105をシリンダで移動させ続けた。すると、図13の下側に示すように、傾斜角が50.0×10−3radを超えた辺りで、荷重が急激に減少した。これは、傾斜角が50.0×10−3radを超えた辺りで、比較例の開放式耐力壁が破損により機能を発揮しなくなったからである。このため、比較例の開放式耐力壁は、木造軸組住宅が倒壊する角度と想定されている125.0×10−3radの傾斜角よりも遥かに小さい50.0×10−3rad辺りの傾斜角で、破損することになる。したがって、前記実験により、比較例の開放式耐力壁は、より粘り強い耐力(つまり靭性)を維持していない、すなわち、十分な強度を担保していないことが示された。なお、図13の上側(実施例)と下側(比較例)とを比較すると、同じ傾斜角での荷重が上側(実施例)で下側(比較例)よりも低くなっている。しかしながら、実施例において、ナイロンロープの隣り合う間隔をN分の1にすることで、荷重がN倍となり、図13の上側に示すグラフでの傾きもN倍大きくなる。
また、前記線材は、可撓性を有する繊維製線材の他に、弾性材料からなるものも好ましい。弾性材料からなる線材の例としては、ゴム製ロープまたはゴム製バンドである。線材がゴム製ロープまたはゴム製バンドであることにより、可撓性を有する繊維製線材と同様の作用効果を奏するからである。
また、前記実施の形態に係る前記開放式耐力壁10は、前記第一斜状面1および第二斜状面2が互いに非固着であるから、これらのうち一方(第一斜状面1/第二斜状面2)が他方(前記第二斜状面2/第一斜状面1)を視覚的に妨げにくいので、見る角度によって表示する絵柄を変化させる被描写体にすることができる。具体的な例としては、第一斜状面1および第二斜状面2を水平断面で拡大した図14に示すように、第一斜状面1および第二斜状面2の正面(屋内側)を向いた部分12,22には正面視で表示する描写がされ、正面からの左斜面を向いた部分13,23には正面からの左斜面視で表示する描写がされ、正面からの右斜面を向いた部分14,24には正面からの右斜面視で表示する描写がされる。同様に、背面(屋外側)を向いた部分11,21には背面で表示する描写がされ、背面からの左斜面を向いた部分15,25には背面からの左斜面視で表示する描写がされ、背面からの右斜面を向いた部分16,26には背面からの右斜面視で表示する描写がされる。これにより、正面、正面からの左斜面、正面からの右斜面、背面、背面からの左斜面、および、背面からの右斜面、の6通りで見る角度によって表示する絵柄が変化することになる。
次に、本発明の実施の形態に係る開放式耐力体のうち、床として用いられる開放式耐力床について図面に基づき説明する。
この開放式耐力床は、上述した開放式耐力壁10を床として用いたものであるから、骨格部材105〜107を構成する部材が異なるだけで、その他は開放式耐力壁10と同じ構成である。具体的に説明すると、図15に示すように、前記開放式耐力床10aの骨格部材105a〜107aを構成する部材は、前記開放式耐力壁10の骨格部材105〜107を構成する部材である梁105、土台106および2本の柱107ではなく、床板110の下に配置される水平部材105a〜107aである。床板110の下に配置される水平部材105a〜107aとしては、例えば根太、土台および大引などがあるが、これらに限定されるものではない。勿論、床板110の下に配置される水平部材のうち、第一斜状面1または第二斜状面2が掛けられない部材117は、骨格部材105a〜107aではない。
前記開放式耐力床10aは、前記開放式耐力壁10と略同一の構成であるから、奏する作用効果も同一である。
次に、本発明の実施の形態に係る開放式耐力体のうち、屋根として用いられる開放式耐力屋根について図面に基づき説明する。なお、ここでの屋根とは、天井も含む。
この開放式耐力屋根は、上述した開放式耐力壁10を屋根として用いたものであるから、骨格部材105〜107を構成する部材が異なるだけで、その他は開放式耐力壁10と同じ構成である。具体的に説明すると、図16に示すように、前記開放式耐力屋根10bの骨格部材105b〜107bを構成する部材は、前記開放式耐力壁10の骨格部材105〜107を構成する部材である梁105、土台106および2本の柱107ではなく、屋根のための強度部材105b〜107bである。勿論、屋根のための強度部材のうち、第一斜状面1または第二斜状面2が掛けられない部材127は、骨格部材105b〜107bではない。
前記開放式耐力屋根10bは、前記開放式耐力壁10と略同一の構成であるから、奏する作用効果も同一である。
また、前記実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。なお、前記実施の形態で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
なお、前記実施の形態での開放式耐力体(開放式耐力壁10、開放式耐力床10aおよび開放式耐力屋根10b)において、第一斜状面1および第二斜状面2の代わりに、可撓性を有する繊維製線材からなる網(以下では略して繊維網という)を用いてもよい。この繊維網は、斜状に多数配置された網糸部と、この網糸部の外枠になる枠部とからなる。前記繊維網では、交差する網糸部が必ずしも互いに固着されている必要はない。なお、前記繊維網は、開口部109の、いずれか一方の面に張られてもよく、両方の面に張られてもよい。これにより、線材部4を一つずつ骨格部材105〜107,105a〜107a,105b〜107bに掛けて第一斜状面1および第二斜状面2とする手間が省かれて、前記枠部を骨格部材105〜107,105a〜107a,105b〜107bに掛けるだけで済むので、製作性を極めて向上させることができる。