JP2018150583A - 高強度低合金鋼材 - Google Patents

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Abstract

【課題】高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1500MPa以上で、耐水素脆化特性に優れ、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材を提供する。【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.60%超〜1.0%、Si:1.2〜2.0%、Mn:0.30〜1.0%未満、Cr:0.5〜1.5%、Al:0.005〜0.10%、Mo:0〜0.30%未満、Ti:0〜0.10%、Nb:0〜0.10%、V:0〜0.10%、Zr:0〜0.20%、残部:Fe及び不純物で、不純物としてのP、S、N及びOが、P≦0.030%、S≦0.030%、N≦0.030%及びO≦0.010%で、金属組織が、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上で、面積率(Sγ)で5〜20%の残留オーステナイトを含み、かつ、Sf−Sγ:5〜15%、を満たす、高強度低合金鋼材。但し、上記のSfは、全組織に対して、C濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率を表す。【選択図】なし

Description

本発明は、高強度低合金鋼材、特に、引張強さが1500MPa以上で耐水素脆化特性に優れ、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材に関する。
近年、軽量化、機能等の観点から引張強さが1000MPaを超えるような高強度鋼材が使用される傾向にある。しかし、鉄鋼材料は引張強さが1000MPaを超えると、水素脆化が深刻な問題となる。水素脆化とは、鉄鋼材料中に水素が侵入することにより機械特性が元の値よりも劣化する現象である。なお、水素はその原子半径が全元素中最小であることから鉄鋼材料中への侵入は不可避である。
耐水素脆化特性に優れた高強度の鉄鋼材料およびその製造方法に関して、例えば、特許文献1に、水素脆化特性の1形態である遅れ破壊特性を抑止した技術が開示されている。具体的には、特定量のCを含有する鋼材からなり、ベイナイト組織の面積率を80%以上とし、その後、強伸線加工することによって1200MPa(1200N/mm2)以上の強度と優れた耐遅れ破壊性を有するようにした、耐遅れ破壊性と鍛造性に優れた高強度鋼線に関する技術が開示されている。なお、特許文献1には、上述の化学組成を有する鋼を熱間圧延または鍛造した後、300〜500℃の温度まで急冷し、その温度から1℃/秒以下の平均冷却速度で200秒以上かけて冷却し、その後に強伸線加工を行う製造方法が示されている。
特開2002−241899号公報
矢澤武男ら:鉄と鋼、Vol.83(1997)No.1、pp.60−65
特許文献1で開示された高強度鋼線は、破断限界水素濃度の観点から耐水素脆化特性に改善の余地がある。
本発明は、高価な合金元素の含有量が低く、しかも引張強さが1500MPa以上で、耐水素脆化特性に優れる、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、下記に示す高強度低合金鋼材にある。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.60%を超えて1.0%以下、
Si:1.2〜2.0%、
Mn:0.30%以上1.0%未満、
Cr:0.5〜1.5%、
Al:0.005〜0.10%、
Mo:0〜0.30%未満、
Ti:0〜0.10%、
Nb:0〜0.10%、
V:0〜0.10%、
Zr:0〜0.20%、
残部がFeおよび不純物であり、
不純物としてのP、S、NおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.030%以下およびO:0.010%以下であり、
金属組織が、
旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上で、
面積率(Sγ)で5〜20%の残留オーステナイトを含み、かつ、
Sf−Sγ:5〜15%、を満たす、
高強度低合金鋼材。
但し、上記のSfは、全組織に対して、炭素濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率を表す。
(2)質量%で、
Mo:0.05%以上で0.30%未満を含有する、
上記(1)に記載の高強度低合金鋼材。
(3)質量%で、
Ti:0.005〜0.10%、
Nb:0.005〜0.10%、
V:0.005〜0.10%、および、
Zr:0.010〜0.20%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載の高強度低合金鋼材。
本発明の高強度低合金鋼材は、高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1500MPa以上で耐水素脆化特性に優れるため、自動車、産業機械、建築構造物等に好適に用いることができる。
実施例において、倍率1000倍の光学顕微鏡で観察した金属組織の一例を模式的に示す図である。図において旧オーステナイト結晶粒界を覆うように白く現出しているものがフェライトで、それ以外はラス状のベイニティックフェライト、残留オーステナイトおよび加工誘起マルテンサイトである。なお、図中の「BF」、「γ」および「M」はそれぞれ、ベイニティックフェライト、オーステナイトおよび加工誘起マルテンサイトを指す。 実施例で耐水素脆化特性の評価のために用いた切欠き付引張試験片の形状を示す図である。図中の数値は寸法(単位:mm)を示す。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成について:
C:0.60%を超えて1.0%以下
Cは、本発明において最も重要な元素である。Cは、同じ強度でも吸蔵水素濃度を低減する作用があるので、Mo、Ni等の高価な元素の含有量を低くしても、耐水素脆化特性を向上させることができる。Cは、オーステナイト安定化元素であり、Mnと同様、残留オーステナイトの確保に有効な元素であるが、Mnとは異なって耐水素脆化特性を劣化させにくい。鋼材のC含有量が高くなると、オーステナイト中に濃化するC量が多くなり、安定な残留オーステナイトが得られるため、耐水素脆化特性が向上すると推定される。また、Cは、高強度の確保に重要な元素であり、過剰な冷間加工を施さなくても強度を担保できるため、冷間加工により導入する転位が少なくてすみ、耐水素脆化特性を低下させにくい。このため、Cは0.60%を超えて含有させなくてはならない。加えてCには、金属組織が、本発明で規定する、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上で、面積率(Sγ)で5〜20%の残留オーステナイトを含み、かつ、前述の「Sf−Sγ:5〜15%」を満たす場合の高強度低合金鋼材において、残部組織を、高強度を確保しやすく耐水素脆化特性にも優れる、後述のベイニティックフェライトにする効果もある。一方、Cの含有量が増えて1.0%を超えると靱性の劣化が著しくなる。したがって、Cの含有量を0.60%を超えて1.0%以下とする。C含有量の望ましい下限は0.65%、また望ましい上限は0.80%である。
Si:1.2〜2.0%
Siは、脱酸作用を有し、強度の向上作用もある。強度の向上は1500MPa以上の引張強さの確保に有効である。また、Siは、炭化物の生成を抑制して残留オーステナイトを確保しやすくするので、安定して多量の残留オーステナイトを得るために重要な元素である。これらの効果を得るには、Siの含有量は1.2%以上とする必要がある。一方、2.0%を超えてSiを含有させてもその効果は飽和することに加え、靱性の劣化が生じる。したがって、Siの含有量を1.2〜2.0%とする。Si含有量の望ましい下限は1.3%、また、望ましい上限は1.5%である。
Mn:0.30%以上1.0%未満
Mnは、強度を向上させる作用を有する。また、Mnには、Sと結合して硫化物を形成し、Sの粒界偏析を抑制して耐水素脆化特性を向上する効果もある。加えて、オーステナイト安定化元素であるMnには、残留オーステナイトを確保しやすくする効果もある。これらの効果を得るには、Mnの含有量は0.30%以上とする必要がある。一方で、Mnを過剰に含有させると粒界に偏析し、粒界割れ型の水素脆性破壊を促進する。したがって、Mnの含有量を0.30%以上1.0%未満とする。Mn含有量の望ましい下限は0.40%、また、望ましい上限は0.60%である。
Cr:0.5〜1.5%
Crは、強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を得るためには、Crを0.5%以上含有させる必要がある。一方で、Crを過剰に含有させると靱性の劣化が生じる。したがって、Crの含有量を0.5〜1.5%とする。Cr含有量の望ましい下限は0.8%、また、望ましい上限は1.2%である。
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸作用を有する元素である。この効果を十分に確保するためにはAlを0.005%以上含有させる必要がある。一方、Alを0.10%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがって、Alの含有量を0.005〜0.10%とする。なお、本発明のAl含有量とは酸可溶Al(所謂「sol.Al」)での含有量を指す。
Mo:0〜0.30%未満
Moは、Fe炭化物の安定性を高めて、耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてMoを含有させてもよい。しかしながら、本発明では、C等の他の元素の含有量および金属組織を適正化することで良好な耐水素脆化特性を確保することができるし、Moが非常に高価な元素であるため、Moの多量の含有は経済性を大きく損なうことになる。したがって、含有させる場合のMo含有量を0.30%未満とする。Mo含有量の上限は、0.28%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Mo含有量の下限は、0.05%であることが望ましく、0.10%であることが一層望ましい。
Ti:0〜0.10%
Tiは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてTiを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のTiを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のTi含有量の上限を0.10%とする。Ti含有量の上限は、0.08%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Ti含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
Nb:0〜0.10%
Nbは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてNbを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のNbを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のNb含有量の上限を0.10%とする。なお、前記の効果を安定して得るためには、Nb含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
V:0〜0.10%
Vは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてVを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のVを含有させても、旧オーステナイト結晶粒を微細にする効果は飽和し、コストが嵩むだけである。したがって、含有させる場合のV含有量の上限を0.10%とする。V含有量の上限は、0.08%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、V含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
Zr:0〜0.20%
Zrは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてZrを含有させてもよい。しかしながら、0.20%を超える量のZrを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のZr含有量の上限を0.20%とする。Zr含有量の上限は、0.12%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Zr含有量の下限は、0.010%であることが望ましく、0.06%であることが一層望ましい。
上記のTi、Nb、VおよびZrを複合して含有させる場合の合計量は、0.08%以下であることが望ましい。
本発明に係る高強度低合金鋼材は、上述の各元素と、残部がFeおよび不純物とからなり、不純物としてのP、S、NおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.030%以下およびO:0.010%以下である化学組成を有する。
ここで「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
P:0.030%以下
Pは、不純物として含有され、粒界に偏析して靱性および/または耐水素脆化特性を低下させる。Pの含有量が0.030%を超えると上記の悪影響が顕著になる。このため、Pの含有量を0.030%以下とする。Pの含有量は極力低いことが望ましい。
S:0.030%以下
Sは、不純物として含有され、Pと同様に粒界に偏析して耐水素脆化特性を低下させる。Sの含有量が0.030%を超えると上記の悪影響が顕著になる。このため、Sの含有量を0.030%以下とする。Sの含有量は極力低いことが望ましい。
N:0.030%以下
Nは、不純物として含有され、その含有量が過剰になって0.030%を超えると靱性の劣化が顕著になる。したがって、Nの含有量を0.030%以下とする。Nの含有量は極力低いことが望ましい。
O:0.010%以下
O(酸素)は、不純物として含有され、Alと結びついて酸化物を形成する。その含有量が多くなって0.010%を超えると、酸化物が過剰に形成されて靱性が低下する等の問題が生じる。したがって、Oの含有量を0.010%以下とする。Oの含有量は極力低いことが望ましい。
(B)金属組織について:
上記(A)項で述べた化学組成を有する本発明の高強度低合金鋼材は、金属組織が、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上で、面積率(Sγ)で5〜20%の残留オーステナイトを含み、かつ、前述の「Sf−Sγ:5〜15%」を満たす、高強度低合金鋼材である。なお、既に述べたように、上記のSfは、全組織に対して、炭素濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率を表す。
旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0未満の場合には、冷間での加工が困難になり1500MPaの引張強さが得られない。また、十分な耐水素脆化特性も得られない。したがって、旧オーステナイト結晶粒をJIS粒度番号6.0以上とする。旧オーステナイト結晶粒は、その粒度番号が大きければ大きいほど(つまり、旧オーステナイト結晶粒が小さければ小さいほど)望ましいが、工業的な製造ではJIS粒度番号12.5程度がその上限になる。
残留オーステナイトは、水素トラップ作用を有して耐水素脆化特性の向上に寄与するため、良好な耐水素脆化特性を得るために必要な組織である。
残留オーステナイトの水素トラップ作用による耐水素脆化特性の向上効果を得るには、残留オーステナイトの面積率(Sγ)は5%以上とする必要がある。耐水素脆化特性の観点からは残留オーステナイトの面積率(Sγ)は高ければ高いほど良いが、20%を超えると、上記(A)項で述べた化学組成では、引張強さで1500MPa以上という高強度を得るのが難しくなる。したがって、残留オーステナイトの面積率(Sγ)を5〜20%とする。なお、本発明で規定する「残留オーステナイトの面積率(Sγ)」とは、後述の実施例で詳しく述べるように、非特許文献1に準拠した方法でX線回折測定を実施した結果から算出した値を指す。
加えて、全組織に対して炭素濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率をSfとした時に、上記(A)項で述べた化学組成では、「Sf−Sγ」が5%以上を満たさなければ、優れた耐水素脆化特性を劣化させることなく、引張強さで1500MPa以上という高強度を得るのが難しくなる。一方で、「Sf−Sγ」が15%以下を満たさなければ、冷間での加工時の割れが増え、1500MPa以上の引張強さの鋼材を安定して製造するのが難しくなる。したがって、「Sf−Sγ」を5〜15%とする。
全組織に対して炭素濃度が1.0〜2.0%の領域は、冷間での加工前に残留オーステナイトであった領域である。ここで、本発明で規定する上記領域の面積率「Sf」とは、後述の実施例で詳しく述べるように、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer、以下「EPMA」という。)で炭素濃度分布の測定を行った結果から求めた値を指す。したがって、面積率「Sf−Sγ」が示すのは、上記冷間加工によって生じた加工誘起マルテンサイトの面積率であると考えられる。
加工誘起マルテンサイトは残留オーステナイトから変態誘起塑性によって変態して生じたマルテンサイトで、冷間加工前の残留オーステナイト中の高炭素化学組成を受け継ぐ。よって、その炭素濃度から非常に高強度であり、高強度を安定して得るために必要な組織である。加えて、微細分散していること、周りの組織に対して強度が高いため応力がかかってもほとんど変形しないこと、加工誘起マルテンサイトの隣には必ず耐水素脆化特性に強い残留オーステナイトが存在することなどから、高強度であるにも関わらず耐水素脆化特性を劣化させない。
なお、本発明者らは、冷間加工前の材料において、10μm×10μmの同一視野で電子線後方散乱回折(Electron Backscatter Diffraction、以下「EBSD」という。)とEPMA観察を行い、組織と炭素濃度の関係を詳細に調査した。その結果、EPMAで炭素濃度が1.0〜2.0%の部分が、EBSDによってオーステナイトと判定されることが分かった。また、EPMAによって500μm×500μm視野で測定した炭素濃度1.0〜2.0%の領域の面積率「Sf’」が、X線回折によって求めた残留オーステナイトの面積率「Sγ’」と同等の値を示すことも分かった。加えて、冷間加工後の材料において、500μm×500μmの視野をEPMAで同様に測定し、炭素濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率「Sf」を求め、さきほどの「Sf’」と比較すると、同等の値を示すことも分かった。以上から、面積率で「Sf」の領域が、冷間での加工前に残留オーステナイトであった領域であるとの結論に達したのである。
上記で求めた「Sf’」と「Sf」は冷間加工前後で同一視野を測定することが不可能であるため、完全に一致するとは限らない。また、「Sf」と「Sγ」は同一サンプルで測定するものの、測定方法や測定視野が異なるため、完全に一致するとは限らない。冷間加工前の材料において「Sf’」と「Sγ’」の誤差が最大で3%程度生じることから、冷間加工後の材料における「Sf」と「Sγ」でも最大で3%程度の誤差を生じる場合があると考えられる。よって、加工誘起マルテンサイトが存在しなくても、測定誤差の関係上、「Sf−Sγ」の値が0にならないこともある。
上記(A)項で述べた化学組成を有する鋼材において、金属組織が、面積率(Sγ)で5〜20%の残留オーステナイトを含み、かつ、「Sf−Sγ:5〜15%」を満たす場合には、残部はベイニティックフェライトである。ベイニティックフェライトは、セメンタイトの析出を伴わないベイナイトであり、安定して残留オーステナイトを存在させる。また、ベイニティックフェライトは、転位密度が高いため高強度を確保しやすい。さらに、ベイニティックフェライトは、C濃度が高く耐水素脆化特性にも優れる。
ベイニティックフェライトは、旧オーステナイト結晶粒界に生成するフェライト、いわゆるフェライト(後述の図1参照)とは異なる。フェライトは、容易に良好な伸びを確保できる組織であるが、強度を極端に低下させる。さらに、フェライトは、柔らかい組織であり、優先的に変形してひずみの局所化を助長させるので、耐水素脆化特性を低下させる。
(C)高強度低合金鋼材の強度について:
本発明に係る高強度低合金鋼材は、引張強さの目標が1500MPa以上である。なお、前記(A)項で述べた化学組成および(B)項で述べた金属組織を満たせば、1500MPa以上の引張強さを達成することができる。引張強さが1500MPa以上であれば、近年、軽量化、機能等の観点から自動車、産業機械、建築構造物等に対して要求されている高強度化に十分応えることができる。引張強さの上限は2500MPaであることが望ましく、2000MPaであればより望ましい。
(D)製造方法について:
本発明に係る高強度低合金鋼材は、例えば、以下の方法によって、製造することができる。
前記(A)項で述べた化学組成を有する低合金鋼を溶製した後、鋳造によりインゴットまたは鋳片とする。鋳造されたインゴットまたは鋳片は、熱間圧延、熱間押出、熱間鍛造等の熱間加工によって、さらに必要に応じて、冷間加工を行って、丸棒、鋼線等所要の形状を有する鋼材に仕上げる。その後、該鋼材に、以下に述べる(i)から(iv)までの工程を順に施す。
(i):850〜1050℃で20〜60分加熱する、オーステナイト化工程
上述した鋼材を850〜1050℃で20〜60分加熱して、完全にオーステナイト化する。鋼材の加熱温度が、850℃を下回ると、完全にオーステナイト化できない場合がある。一方、加熱温度が1050℃を超えると、旧オーステナイト粒が粗大になり延性が低下するため、後述する(iv)の冷間での加工を行うことが困難になる。鋼材の加熱温度が上記の範囲であっても、加熱時間が20分未満では、鋼材を完全にオーステナイト化できないことがあり、また、60分を超えると、エネルギーコストが嵩むことに加えて、微細な旧オーステナイト粒を得ることが困難になる場合がある。なお、この(i)の工程での加熱温度は、鋼材の表面における温度を指す。鋼材の加熱温度の望ましい下限は、870℃である。また、上記加熱温度の望ましい上限は、1000℃であり、950℃であれば一層望ましい。加熱時間の望ましい下限は30分であり、また、望ましい上限は45分である。
(ii):30℃/秒以上の冷却速度で400〜300℃の温度域まで冷却し、該温度域で10〜100分保持する、等温変態工程
上記(i)の工程でオーステナイト化した鋼材を、冷却速度を30℃/秒以上として、400〜300℃の温度域まで冷却し、該温度域で10〜100分保持して等温変態させる。オーステナイト化後の冷却速度が30℃/秒未満の場合には、後述の(iv)の冷間加工を施しても、所定の1500MPa以上という引張強さに達しないことがある。なお、オーステナイト化後の冷却速度の上限は工業的には80℃/秒程度である。上記の30℃/秒以上の冷却速度であっても、冷却する温度が400℃を超える場合は1500MPa以上の強度を得るのが難しくなる。また、前記の温度が300℃未満で10分以上保持するとマルテンサイト変態が生じる可能性があり、脆くなって、(iv)の冷間加工時に割れ等の欠陥を生ずる可能性がある。また、上記(A)項で述べた化学組成の場合、通常、完全オーステナイト化させた後、前記した温度範囲で10〜100分保持することにより、後の(iii)および(iv)の工程を経れば(B)項に記載の金属組織および(C)項に記載の引張強さで1500MPa以上の高強度を安定して具備させることができる。なお、鋼材のサイズまたは/および含有元素の影響から、(iv)の冷間加工時に割れ等の欠陥が生じたり、所望の耐水素脆化特性が得られなくなる場合があるので、前記した温度範囲における保持時間の下限は、30分であることが望ましく、60分であればより望ましい。また、上限は80分程度であることが望ましい。なお、この(ii)の工程での冷却速度および温度は、鋼材の表面を基準にした冷却速度および温度を指す。
(iii):室温まで冷却する、冷却工程
上記(ii)の工程で等温変態させた鋼材を、室温まで冷却する。この際の冷却速度については、特に制限がない。この(iii)の工程での冷却温度も、鋼材の表面における温度を指す。
(iv):総減面率10.0%以上で加工する、冷間加工工程
上記(iii)の工程で室温まで冷却した鋼材を、総減面率10.0%以上の冷間での加工を施す。該冷間加工における総減面率が10.0%未満の場合には、所望の引張強さと耐水素脆化特性(1500MPa以上という引張強さでの良好な耐水素脆化特性)が得られない場合がある。総減面率の下限は12.0%であることが望ましい。なお、本発明において、上記の冷間加工が「引抜加工」である場合には、鋼材をダイスを通して引き抜いて一方向に伸ばす塑性加工法を指し、線材コイルの伸線加工も包含する。
総減面率が10.0%以上であれば、冷間での加工の回数は特に限定されず、1回でも複数回でもよい。
(iv)の工程における冷間加工は、(iii)の工程で室温まで冷却した鋼材に対して、軟化処理することなく施す必要がある。なお、第n回目の冷間加工における「減面率」とは、上記n回目(ただし、nは正の整数である。)の冷間加工前後の鋼材の断面積をそれぞれ、「Sn-1」および「Sn」とした場合に
{(Sn-1−Sn)/Sn-1}×100
で表される値を指す。そして、「総減面率」とは、第1回目の冷間加工前の鋼材の断面積を「S0」、最終の冷間加工を施した後の鋼材の断面積を「Sf」とした場合に
{(S0−f)/S0}×100
で表される値を指す。
室温まで冷却した鋼材には、必要に応じて、冷間加工する前に切削加工やピーリング加工等の機械的な加工処理または酸洗等の化学的な処理を行ってもよい。なお、冷間加工の際には、適宜の方法で潤滑処理を行うことが好ましい。
以下、実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Oを溶製し、鋳型に鋳込んで得たインゴットを1250℃に加熱した後、熱間鍛造により直径25mmの丸棒とした。
表1中の鋼A〜Iは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であり、一方、鋼J〜Oは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
上記のようにして得た鋼A〜Oの直径25mmの丸棒を、表2に示す温度で45分加熱してオーステナイト化した。試験番号1〜11および試験番号13〜21の各丸棒はオーステナイト化後、該温度から5秒以内に鉛浴中または塩浴中に浸漬して等温変態処理した。また、試験番号12の丸棒はオーステナイト化後、該温度から大気中で冷却し、30秒経過したところで鉛浴中に浸漬して等温変態処理した。オーステナイト化温度からの冷却速度ならびに、等温変態処理の温度および保持時間(鉛浴または塩浴の温度(つまり、上記冷却速度による冷却を停止した温度)および該温度での保持時間)の詳細は、表2に示すとおりである。等温変態処理後は、試験番号11を除いて、大気中で室温まで放冷した。一方、試験番号11は、等温変態処理後、30℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した。なお、後述の表3に示す試験番号22は、室温まで放冷した試験番号1を切断したものである。
上記の室温まで冷却した直径25mmの各丸棒の一部を用いて長手方向にその中心線をとおって切断(以下、「縦断」という。)して試験片を採取し、上記試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨し、その後、2%ナイタールでエッチングした。次いで、エッチングした各試験片を、倍率1000倍の光学顕微鏡で10視野観察して、金属組織を調査した。
その結果、本発明例の試験番号1〜9の金属組織は、残留オーステナイトとベイニティックフェライトであった。金属組織には、マルテンサイト、フェライト、セメンタイトが析出したベイナイトおよびパーライトのいずれも認められなかった。
一方、比較例については、試験番号11の金属組織にマルテンサイトが認められたが、その他にはマルテンサイトは認められなかった。また、試験番号12および試験番号17の金属組織には旧オーステナイト粒界に生成したと思われるフェライトが認められたが、その他にはこのようなフェライトは認められなかった。さらに、試験番号15および試験番号19の金属組織にはセメンタイトが析出したベイナイトが認められ、このうちで試験番号19の金属組織はセメンタイトが析出したベイナイトと、パーライトの混合組織であったが、その他にはセメンタイトが析出したベイナイトも、パーライトも認められなかった。
さらに、上記の室温まで冷却した直径25mmの各丸棒の中心部から、引張試験片を切り出し、引張試験を行った。引張試験片は、平行部の直径が6mm、標点距離は40mmとした。表2に、引張強さを併せて示す。
次に、室温まで冷却した試験番号1〜19および試験番号21の直径25mmの丸棒の残りを直径23mmにピーリング加工した後、軟化処理を施すことなく、1回目の減面率を8.5%または16.6%として、表3に示す条件で冷間において引抜加工を施した。引抜加工時の潤滑は、湿式潤滑油剤で行った。試験番号20および試験番号22の直径25mmの丸棒については、引抜加工を実施しなかった。
なお、表3に示すように、試験番号11および試験番号13は、上記の減面率を16.6%とする1回目の引抜加工で割れを生じた。
引抜加工後の丸棒については、上記の1回目の引抜加工で割れを生じた試験番号11および試験番号13を除いて、先ず、下記の〈1〉に示す金属組織の調査を行った。また、引抜加工を実施しなかった試験番号20および試験番号22についても、下記の〈1〉に示す金属組織の調査を行った。
さらに、引抜加工後の丸棒については、引抜加工で割れを生じた試験番号11および試験番号13を除いて、下記の〈2〉に示す引張特性、または〈2〉に示す引張特性および〈3〉に示す耐水素脆化特性も調査した。また、引抜加工を実施しなかった試験番号20および試験番号22についても、下記の〈3〉に示す耐水素脆化特性も調査した。
〈1〉金属組織:
〈1−1〉旧オーステナイト結晶粒のJIS粒度番号調査:
旧オーステナイト結晶粒の粒度番号を調査した。具体的には、上記各試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、JIS G 0551(2013)の附属書JAに記載の、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液によってエッチングして旧オーステナイト結晶粒界を現出し、倍率200倍で10視野光学顕微鏡観察して、切断法により旧オーステナイト結晶粒の「(丸棒の長手方向長さ+長手方向に直角な方向の長さ)/2」を求め、その平均を結晶粒径とし、これからJIS粒度番号に換算した。
〈1−2〉ナイタールエッチングによる光学顕微鏡観察:
各試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、2%ナイタールでエッチングした。次いで、エッチングした各試験片を、倍率1000倍の光学顕微鏡で10視野観察して、金属組織を調査した。上記のようにして調査した金属組織の一例として、図1に、ラス状のベイニティックフェライト、残留オーステナイトおよび加工誘起マルテンサイトならびに、フェライトからなる試験番号17の場合を模式的に示す。フェライトは旧オーステナイト結晶粒界を覆うように白く現出していたため、明確に判定できた。しかし、ラス状の残留オーステナイトおよび加工誘起マルテンサイトは細かすぎるため、上記倍率の光学顕微鏡観察では明瞭ではなかった。
〈1−3〉X線回折法による測定:
上記の各丸棒の径方向中心部から、長手方向に厚さが2mm、幅が8mmで長さが8mmの寸法の試験片を採取し、1200番エメリー紙まで研磨後、室温のフッ酸と過塩素酸の混合溶液に浸漬して化学研磨し、表面の加工層50μmを除去した。次いで、上記の加工層を除去した試験片に非特許文献1に準拠した方法でX線回折測定(Cu対陰極、管電圧30kV、管電流100mA)を実施し、fcc構造相である残留オーステナイトに関しては(111)、(200)および(220)、bcc構造相またはbct構造相であるベイニティックフェライト、フェライトおよびマルテンサイトに関しては(110)、(200)および(211)のピーク強度を求め、非特許文献1に準拠した方法で残留オーステナイトの面積率(Sγ)を算出した。
〈1−4〉EPMAによる測定:
各丸棒について、同様にその径方向中心部から、長手方向に厚さが2mm、幅が8mmで長さが8mmの寸法の試験片を採取し、アルミナ粒子0.05μmの仕上げバフまで研磨後、コロイダルシリカで化学研磨を行った。次いで、研磨を行った各試験片を用いて炭素濃度分布の測定を行った。炭素濃度分布は、EPMAを用いて中心部の500μm×500μmをステップ0.1μmで測定し、炭素濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率(Sf)を測定した。
最後に、〈1−3〉および〈1−4〉の結果から、「Sf−Sγ」を算出し、5〜15%を満たすかどうかを調査した。
〈2〉引張特性:
引抜加工後の丸棒について、その中心部から、長手方向に平行部の直径が6mmで標点距離が40mmの丸棒引張試験片を切り出し、室温で引張試験して、引張強さを求めた。引張試験を行ったのは、引抜加工で割れを生じなかった試験番号1〜10、試験番号12、試験番号14〜19および試験番号21の丸棒である。なお、引張強さの目標は1500MPa以上とした。
〈3〉耐水素脆化特性:
各丸棒の中心部から、長手方向に図2に示す形状の切欠き付引張試験片を切り出して、耐水素脆化特性を調査した。具体的には、3%NaCl溶液に1mA/cm2の電流密度で陰極チャージする条件下で、900MPaの応力を負荷した定荷重試験を200時間行い、その際の破断の有無を調査した。耐水素脆化特性を調査したのは、上記〈2〉の調査で1500MPa以上の引張強さが得られた試験番号15、試験番号16、試験番号18および試験番号19ならびに、引抜加工を施さなかった試験番号20および試験番号22の丸棒である。
次いで、破断しなかった試験片について、図1に示す平行部10mmを低温切断機で切出し、昇温脱離装置により10℃/分で昇温した際に500℃までに放出される水素濃度を測定し、該水素濃度を「破断限界水素濃度」と見做した。
なお、上記の定荷重試験で破断せず、破断限界水素濃度が0.50ppm以上の場合に良好な耐水素脆化特性を有すると判定し、これを目標とした。
表3に、上記の各調査結果をまとめて示す。なお、表3において、試験番号20および試験番号22の引張強さは、引抜加工前の結果を記載した。
表3から、本発明で規定する化学組成と金属組織の条件を満たす本発明例の試験番号1〜9の丸棒は、1500MPa以上という高い引張強さを有するにもかかわらず、陰極チャージ下での定荷重試験で破断が起こらず、その時の破断限界水素濃度も0.56ppm以上で、0.50ppm以上という目標を満たすものであり、良好な耐水素脆化特性を備えていることが明らかである。しかも、上記試験番号1〜9の各丸棒は、総減面率で16.6%の引抜加工を施しても割れを生じなかった。
これに対して、比較例の試験番号10〜22の丸棒の場合は、引抜加工を施した際に割れが発生したり、1500MPa以上という引張強さおよび良好な耐水素脆化特性という重要な特性の同時確保ができていない。
試験番号10の丸棒は、化学組成は、本発明で規定する範囲内にあるものの、金属組織におけるSγが23.1%であって、本発明で規定する上限を超えるため、引張強さが1433MPaと低く、目標の1500MPaに達しなかった。
試験番号12の丸棒は、用いた鋼Cの化学組成は本発明で規定する範囲内にある。しかしながら、室温まで冷却した状態でフェライトが生成し、引抜加工後の丸棒の金属組織において、Sγが1.3%と低く本発明で規定する条件から外れ、さらに「Sf−Sγ」も本発明で規定する下限を外れるため、引張強さが1383MPaと低く、目標の1500MPaに満たなかった。これは、等温変態処理前のオーステナイト化後の冷却速度が遅かったためと考えられる。
試験番号14の丸棒は、用いた鋼JのC含有量が0.47%と少なく、本発明で規定する条件から外れるため、引張強さが1435MPaと低く、目標の1500MPaに満たなかった。
試験番号15の丸棒は、用いた鋼KのSi含有量が0.89%と少なく、本発明で規定する条件から外れるので、室温まで冷却した状態でセメンタイトの析出したベイナイトが生成し、また、引抜加工後の丸棒の金属組織において、Sγが0.8%と低く本発明で規定する条件から外れ、さらに「Sf−Sγ」も本発明で規定する下限を外れている。このため、破断限界水素濃度が0.29ppmと低く、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号16の丸棒は、用いた鋼LのMn含有量が1.22%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、陰極チャージ下での定荷重試験で破断し、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号17の丸棒は、用いた鋼MのCr含有量が0.36%と少なく、室温まで冷却した状態でフェライトが生成し、引抜加工後の後の丸棒の金属組織における「Sf−Sγ」も本発明で規定する下限を外れている。このため、引張強さが1427MPaと低く、目標の1500MPaに満たなかった。
試験番号18の丸棒は、用いた鋼Nの不純物中のPとSの含有量がそれぞれ、0.042%および0.040%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、陰極チャージ下での定荷重試験で破断し、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号19の丸棒は、用いた鋼OのSiの含有量が0.19%と低いうえにCrを含有しておらず、本発明で規定する化学組成条件から外れる。さらに、室温まで冷却した状態の金属組織はセメンタイトが析出したベイナイトおよびパーライトの混合組織を形成しており、残留オーステナイトは認められなかったので、引抜加工後の丸棒の金属組織におけるSγおよび「Sf−Sγ」も本発明で規定する条件から外れている。このため、45.4%もの総減面率を割れずに確保できるものの、破断限界水素濃度が0.32ppmと低く、耐水素脆化特性に劣っている。なお、室温まで冷却した状態で上記の金属組織を呈するのは、等温変態処理の温度および保持時間がそれぞれ、450℃および4分であったためと考えられる。
試験番号20の丸棒は、用いた鋼Aの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるが、金属組織におけるSγが22.8%と高く、「Sf−Sγ」も本発明で規定する下限を外れるので、破断限界水素濃度は0.63ppmと良好な耐水素脆化特性を備えるものの、引張強さが1187MPaと低く、目標の1500MPaに満たなかった。これは、等温変態処理温度が420℃であり、さらに、引抜加工も行わず、変態誘起塑性が起こらなかったためと考えられる。
試験番号21の丸棒は、用いた鋼Bの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるものの、引抜加工後の丸棒の金属組織において、「Sf−Sγ」が本発明で規定する下限を外れるので、引張強さが1417MPaと低く、目標の1500MPaに満たなかった。これは、総減面率で8.5%という引抜加工では、変態誘起塑性が進まなかったためと考えられる。
試験番号22の丸棒は、用いた鋼Aの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるものの、金属組織におけるSγが27.8%と高く、「Sf−Sγ」も本発明で規定する下限を外れるので、破断限界水素濃度は0.66ppmと良好な耐水素脆化特性を備えるものの、引張強さが1463MPaと低く、目標の1500MPaに満たなかった。これは、引抜加工を行わず、変態誘起塑性が起こらなかったためと考えられる。
本発明の高強度低合金鋼材は、高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1500MPa以上で耐水素脆化特性に優れるため、自動車、産業機械、建築構造物等に好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.60%を超えて1.0%以下、
    Si:1.2〜2.0%、
    Mn:0.30%以上1.0%未満、
    Cr:0.5〜1.5%、
    Al:0.005〜0.10%、
    Mo:0〜0.30%未満、
    Ti:0〜0.10%、
    Nb:0〜0.10%、
    V:0〜0.10%、
    Zr:0〜0.20%、
    残部がFeおよび不純物であり、
    不純物としてのP、S、NおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.030%以下およびO:0.010%以下であり、
    金属組織が、
    旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上で、
    面積率(Sγ)で5〜20%の残留オーステナイトを含み、かつ、
    Sf−Sγ:5〜15%、を満たす、
    高強度低合金鋼材。
    但し、上記のSfは、全組織に対して、炭素濃度が1.0〜2.0%の領域の面積率を表す。
  2. 質量%で、
    Mo:0.05%以上で0.30%未満を含有する、
    請求項1に記載の高強度低合金鋼材。
  3. 質量%で、
    Ti:0.005〜0.10%、
    Nb:0.005〜0.10%、
    V:0.005〜0.10%、および、
    Zr:0.010〜0.20%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1または2に記載の高強度低合金鋼材。

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