JP2018146307A - ゼータ電位測定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶液中に分散する微粒子のゼータ電位を簡素な構成で簡易に測定する。【解決手段】ゼータ電位測定装置(1)は、微粒子(8)に電界を印加する電界印加器(2)と、微粒子(8)に照射されて散乱された超音波パルスを受信するトランスデューサ(3)と、トランスデューサ(3)により受信された超音波パルスに基づいて、微粒子(8)の泳動速度を動的超音波散乱法により算出する泳動速度算出器(4)と、微粒子(8)の泳動速度に基づいて、微粒子(8)のゼータ電位を算出するゼータ電位算出器(5)とを備える。【選択図】図1

Description

本発明は、溶液中の微粒子の周りに形成される電気二重層中の、液体流動が起こり始める「すべり面」の電位を表すゼータ電位を超音波により測定するゼータ電位測定装置に関する。
溶液中に分散するコロイド粒子の表面は正もしくは負に帯電していることが多い。例えば負電荷を帯びたコロイド粒子同士の斥力反発により、コロイド粒子は水中で安定に分散することができると考えられている。このコロイド粒子の表面電位の状態は、図19に示すゼータ電位というパラメータで評価されることが多い。このゼータ電位は、コロイド粒子表面の電位(厳密にはシュテルン電位)と考えてよい。ゼータ電位は、コロイド科学や界面化学はもちろんのこと、食品や生物学においても非常に重要な特性である。コロイド粒子の帯電の度合いとして、コロイド粒子表面のゼータ電位を解析することは、コロイド粒子の分散安定性を把握する上で非常に有効な手法である。
さて、ゼータ電位を測定する方法としては、顕微鏡法、電気的方法をはじめとして様々な方法が知られている。顕微鏡法では、電界印加に伴う微粒子の移動を微粒子層界面での微粒子の下降を元に考える。しかしながら顕微鏡法は、光学顕微鏡で解像できるほどの大きな粒子がかなり低濃度で存在している場合には粒子をカウントできるが、ナノ粒子になると沈降界面全体が降下する速度を測定することになり、個々の微粒子を個別に解析してゼータ電位を測定している訳ではない。
個々の微粒子を個別に解析してゼータ電位を直接的に測定する方法として、今日最も広く用いられている方法は、動的光散乱の原理を組み合わせた電気泳動動的光散乱(ELS、Electrophoretic Light Scattering)法である。このELS法は、レーザ光を照射して、それぞれの微粒子からのレーザ光散乱振幅を時間の変化として捉え、ヘテロダイン検出という技術を駆使して、電界印加に伴うそれぞれの微粒子の移動度を算出し、そこから平均のゼータ電位を求める方法である。
しかしながら、このELS法は、溶液中に分散した微粒子の速度を光学的に読み取る技術であるため、光が透過しない高度に乳濁した溶液の場合、測定が原理的に困難である。このため、高度に乳濁した溶液のゼータ電位を測定しようとする多くの場合、光が十分に透過するように溶液を大幅に希釈することを余儀なくされる。
つまり、希薄系溶液におけるゼータ電位を知るだけであれば、大幅な希釈無しにELS法で測定することも可能である。しかしながら、多くの実用の材料となる溶液は、濃度の高い状態、光学的に高度に乳濁した状態で用いられることが多い。そのため、希釈すると、希釈された溶液は本来の状態を捉えているとは言えず、多くの場合、希釈による分散安定化が誤って観測されてしまう。従って、やはり、希釈無しに濃厚系溶液のそのままの状態でゼータ電位を測定する技術が求められてきた。
上述したELS法のような光学的方法の代わりに、光の透過性が問題にならない超音波を用いてゼータ電位を測定する技術として、超音波振動電位(CVP(Colloid Vibration Potential))法、及び、動電音響法(ESA(Electrokinetic Sonic Amplitude))が知られている(非特許文献1)。
CVP法は、溶液中に分散するコロイド粒子に超音波を照射してコロイド粒子を振動させる。例えば負に帯電したコロイド粒子が超音波の照射により水中で振動すると、コロイド粒子は超音波の照射により例えば右方向に移動する。そして、コロイド粒子の周りの正電荷は、反対の左方向に偏る。このため、コロイド粒子の左側には正電荷が多く集まり、相対的に右側には負電荷が多く集まる。この結果、歪んだ電気二重層がコロイド粒子の周りに形成される。従って、超音波によるコロイド粒子の振動により、双極子モーメントが誘起される。超音波は粗密波であるので、コロイド粒子に照射される超音波の発信子から離れた位置では、この双極子モーメントが集まって配向し、巨視的な双極子モーメント、即ち電界が形成される。
この電界の形成により、コロイド粒子の表面に粒子表面伝導電流Iが誘起され、それを補償する補償電流Iが生じる。ゼータ電位測定装置により、この粒子表面伝導電流I、補償電流Iを測定してゼータ電位が算出される。
このように、CVP法は、溶液中に分散する微粒子に超音波を照射して微粒子を振動させ、その振動により誘起された粒子表面伝導電流I、補償電流Iを検出してゼータ電位を算出するものである(非特許文献1)。
ESA法は、帯電している微粒子に交流電圧を外部から印加することで微粒子を振動させ、振動により生じた音響シグナル(音圧変動)を検出する。そして、検出された音響シグナルの大きさと印加された交流電界の大きさとからゼータ電位を算出する(非特許文献1)。
また、溶液中に分散する微粒子の粒子径を超音波により測定する従来技術が本発明者らにより発表されている(特許文献1)。この従来技術は、溶液中の沈降する微粒子に照射されて散乱された超音波パルスを受信して、前記超音波パルスの伝搬時間tと前記微粒子の運動に対する観測時間Tに基づく第1散乱振幅Ψ(t、T)を生成する。そして、前記第1散乱振幅Ψ(t、T)を前記伝搬時間tの方向にフーリエ変換した周波数fと観測時間Tの関数である第2散乱振幅Ψ(f、T)を生成し、前記第2散乱振幅Ψ(f、T)の実数部及び虚数部に基づいて振幅r(f、T)及び位相θ(f、T)をそれぞれ算出する。次に、前記振幅r(f、T)及び前記位相θ(f、T)に基づいて前記微粒子の粒子径を算出する。
国際公開公報2016/129399号(2016年8月18日公開)
武田真一,「濃厚系スラリーにおける粒度分布およびゼータ電位測定」,粉体工学会誌 Vol.41 No.3 Page 190-196(2004.03.10)
しかしながら、上述のようなCVP法は、超音波からゼータ電位を算出する際に微小電流を検出し、この微小電流から様々なパラメータを使用し、複雑な計算処理を経てゼータ電位を算出するものである。従って、測定に時間がかかる、さまざまなパラメータを準備する必要がある、測定精度が悪いなどの多くの問題がある。このため、一般的に受け入れ易い方法とは言い難く、実用化されていない。
また、ESA法は、微粒子に印加される交流電圧と、上記微粒子の振動による音響シグナルの音圧との間の関係から複雑な校正を行ってゼータ電位を算出する。このため、複雑な校正を必要とするために使い難く、やはり実用化されていない。
この結果としてユーザーは、やはりゼータ電位の測定対象を希薄系溶液に限定しながらELS法を使うケースが多いように見受けられる。何より前述した顕微鏡法は、個々の微粒子を個別に解析している訳ではないので、様々な種類の微粒子が混合されている場合など、現実的な溶液系においてゼータ電位測定の精度が低く、有効な技術とは言い難い。ELS法の基本的な問題は、ELS法が溶液中に分散した微粒子の速度を光学的に読み取る技術であるため、光が透過しない高度に乳濁した溶液の場合、ELS法では測定が原理的に困難であることである。
特許文献1に記載の従来技術は、溶液中の微粒子の粒子径を算出する構成を開示するものであり、溶液中に分散する微粒子の表面のゼータ電位を測定する本願発明を示唆するものではない。
本発明の一態様は、濃度の高い状態、光学的に高度に乳濁した状態で溶液中に分散する微粒子のゼータ電位を、簡素な構成で簡易に精度よく測定することができるゼータ電位測定装置を実現することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、液体中の帯電した微粒子を泳動させるために電界印加方向に沿って前記帯電した微粒子に電界を印加する電界印加器と、前記電界が印加された微粒子に照射されて散乱された超音波パルスを受信する超音波受信器と、前記超音波受信器により受信された超音波パルスに基づいて、前記電界印加方向に沿った前記微粒子の泳動速度を動的超音波散乱法により算出する泳動速度算出器と、前記泳動速度算出器により算出された前記微粒子の泳動速度に基づいて、前記微粒子のゼータ電位を算出するゼータ電位算出器とを備えることを特徴とする。
この特徴によれば、電界印加方向に沿った微粒子の移動速度が、動的超音波散乱法により算出される。このため、CVP法のように超音波から電界に変換する際の様々なパラメータが不要であり、ESA法のように交流電圧と音圧との間の関係を校正する必要もない。この結果、溶液中に分散する微粒子のゼータ電位を簡素な構成で簡易に測定することができる。
本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、前記超音波パルスが、前記電界印加方向に交差する方向に沿って前記微粒子に照射されることが好ましい。
上記構成によれば、電界印加器と超音波照射器との配置をコンパクトに構成することができる。
本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、前記電界印加器が前記微粒子に正弦波交流電界を印加し、前記動的超音波散乱法が位相モード法を含み、前記微粒子がマイクロ粒子又はサブミクロン粒子を含むことが好ましい。
上記構成によれば、マイクロ粒子又はサブミクロン粒子のゼータ電位の測定に好適である。
本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、前記正弦波交流電界の電界強度が2.0(V/cm(ボルト/センチメートル))以上であり、前記正弦波交流電界に対応する正弦波信号の周期が1秒以上30秒以下であることが好ましい。
正弦波信号の電界強度が2.0(V/cm)未満であると、微粒子の泳動速度が小さく、微粒子の泳動が観察しにくく測定精度が低下する。微粒子に印加される正弦波信号の周期が30秒を超えると、微粒子が沈降しきってしまうか、又は、測定に時間がかかりすぎるため好ましくない。正弦波信号の周期Tが1秒よりも小さくなると、高い周波数に追従するためにパルス繰り返し時間(PRT、Pulse Repetition Time)が1ms以下であることが必要になるため好ましくない。
本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、前記電界印加器が前記微粒子に矩形波交流電界を印加し、前記動的超音波散乱法が複素相関関数法を含むことが好ましい。
上記構成によれば、ナノ粒子のゼータ電位の測定に好適である。
本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、前記矩形波交流電界の電界強度が1(V/cm)以上10(V/cm)以下であり、前記矩形波交流電界に対応する矩形波信号の周期が1秒以上30秒以下であることが好ましい。
矩形波信号の電界強度が1(V/cm)未満である領域で複素相関関数法を適用した場合、微粒子の泳動速度が遅いため、微粒子の泳動による複素相関関数の振動の振動点が長時間側にシフトする。このため、微粒子の緩和時間によっては泳動速度の実測が困難になるので好ましくない。矩形波信号の電界強度が10(V/cm)を超えると、電界印加器の正極又は負極付近に集まった微粒子が凝集するため好ましくない。
矩形波信号の周期が30秒を超えると、微粒子の動きが一方通行となり、電界印加器の正極又は負極に微粒子8が溜まり、その結果、微粒子の凝集が生じやすいため好ましくない。矩形波信号の周期が1秒を下回ると、複素相関関数が構築できないため好ましくない。
本発明の一態様に係るゼータ電位測定装置は、前記液体が懸濁液であることが好ましい。
上記構成によれば、動的光散乱(DLS)法と比較して液体が高度に乳濁していても、液体中に分散する微粒子のゼータ電位を測定することができる。
本発明の一態様によれば、溶液中に分散する微粒子のゼータ電位を簡素な構成で簡易に測定することができるという効果を奏する。
実施形態に係るゼータ電位測定装置の概略構成を示す模式図である。 上記ゼータ電位測定装置の具体構成を示し、(a)は正面断面図であり、(b)は平面図であり、(c)は要部側面図である。 上記ゼータ電位測定装置に設けられた電気泳動セルを説明するための図であり、(a)は組立構成を示す図であり、(b)は平面図であり、(c)は上記ゼータ電位測定装置に設けられたトランスデューサとの関係を示す図である。 電界が印加された微粒子に照射されて散乱された超音波パルスに基づいて算出された微粒子の泳動速度により、前記微粒子のゼータ電位を算出する手順を説明するための図である。 (a)(b)は上記電界印加器により印加された電圧の極性と微粒子の泳動方向との間の関係を示す図である。 (a)(b)は上記電界印加器により印加された電圧の極性と微粒子の泳動方向との間の関係を示す図である。 上記ゼータ電位測定装置による正弦波交流法を用いた測定方法を示す図であり、(a)は上記ゼータ電位測定装置に設けられた電界印加器により液体中の微粒子に印加された電界に対応する交流電圧を示すグラフであり、(b)は微粒子の泳動速度を示すグラフであり、(c)は位相法を用いて解析された上記微粒子の速度場を示す解析結果を示す図である。 (a)〜(f)は正弦波交流法による印加電圧に対する微粒子の泳動運動の依存性を示すグラフである。 (a)〜(f)は正弦波交流法による電界周期に対する微粒子の泳動運動の依存性を示すグラフである。 上記ゼータ電位測定装置による矩形波交流法を用いた測定方法を示す図であり、(a)は上記ゼータ電位測定装置に設けられた電界印加器により液体中の微粒子に印加された電界に対応する矩形波電圧を示すグラフであり、(b)は微粒子の泳動速度を示すグラフであり、(c)はFD−DSSを用いて解析された上記微粒子の速度を示す解析結果を示す図である。 (a)〜(f)は矩形波交流法による印加電圧に対する微粒子の泳動運動の依存性を示すグラフである。 (a)〜(f)は矩形波交流法による電界周期に対する微粒子の泳動運動の依存性を示すグラフである。 上記微粒子のゼータ電位のpH依存性を示すグラフである。 上記微粒子のゼータ電位の粒子径依存性を示すグラフである。 上記微粒子のゼータ電位の試料濃度依存性を説明するためのグラフである。 ムライト粒子のゼータ電位を示すグラフである。 ポリジビニルベンゼン架橋体のゼータ電位の界面活性剤濃度依存性を示すグラフである。 ポリジビニルベンゼン架橋体のゼータ電位の粒子濃度依存性を示すグラフである。 コロイド粒子の表面電位の状態を示す図である。
(概要)
今日、固体微粒子分散系やエマルジョン、マイクロバブルなど、固体、液体、気体を問わず様々な分散系が活用されている。このような分散系の特性評価を行う上で、分散系が分散する溶液(試料)の希釈や乾燥なしに溶液中そのままの状態で分散系の特性を評価する技術の開発は重要な課題である。
そのようなニーズの中で、本発明者らはこれまで高周波動的超音波散乱(DSS、Dynamic UltraSound Scattering)法を開発してきた。このDSS法は、光を使って溶液中に浮遊する微粒子の運動をそのままの状態で解析するELS法の超音波版と言えるものである。DSS法は、光を使ったELS法と比較して、超音波を使っているので溶液が高度に乳濁していて光を通さない場合でも活用できるメリットを有する。当初は、20メガヘルツという高周波の超音波縦波トランスデューサを用いた場合においても、数〜数十マイクロメートル程度の比較的大きな微粒子解析に適用が限定されていたが、最近開発した周波数ドメイン動的超音波散乱(FD−DSS)法(複素関数法)の誕生により、その適用下限は30ナノメートル程度の微粒子解析にまで飛躍的に向上した。
本発明者らは、時間ドメインDSS法、位相モードDSS(Phase-mode DSS)法(位相モード法)、FD−DSS法、アクティブモード法など、超音波パルスを用いた様々な新しい技術を開発してきた。例えば、超音波パルスの振幅のみならず位相を解析することで、スペクトル解析的な手法でありながら空間的なイメージ解析をも可能にし、特に浮上・沈降する粒子の識別や、運動速度という動的特性の位置依存解析(イメージング)をも実現している。
これらの方法は、同じく超音波パルスを用いる超音波スペクトロスコピー法(吸収法)と異なり、個々の微粒子の運動状態をリアルタイムで個別に評価できる点が大きな特長である。すなわち、溶液中に浮遊するナノ粒子のブラウン運動やそのマイクロ凝集体の沈降速度の運動モード識別と定量化が行え、これから微粒子の分散安定性解析が実現されている。
(ゼータ電位測定装置1の概略構成)
このような背景の中、本発明の実施形態では、濃度の高い状態等の光学的に高度に乳濁した状態で溶液中に分散する微粒子のゼータ電位を、簡素な構成で簡易に、しかも精度よく測定することができるゼータ電位測定装置を実現することを目的として、動的超音波散乱法の原理を採用した電気泳動動的超音波散乱(ESS、Electrophoretic UltraSound Scattering)法であるゼータ電位測定装置を提案する。その概念は簡単に説明すると、図1に示すとおりである。
図1は実施形態に係るゼータ電位測定装置1の概略構成を示す模式図である。超音波パルスを用いて懸濁液7中の微粒子8の泳動状態を直接定量的に読み取る。その結果、電界印加に伴う微粒子8の泳動速度からゼータ電位を求めることができる。図1では微粒子8は動作原理が説明しやすいように一つだけ記載されているが、実際は懸濁液7中に多数分散されている。
ゼータ電位測定装置1は、微粒子8が多数分散された懸濁液7を収容する電気泳動セル9と、懸濁液7中の微粒子8を泳動させるためにZ方向(電界印加方向)に沿って微粒子8に電界を印加する電界印加器2とを備える。電界印加器2は正極12及び負極11を有する。
ゼータ電位測定装置1には、電界印加器2により電界が印加されて泳動する微粒子8にZ方向に交差する斜め方向に沿って超音波パルスを照射し、微粒子8により散乱された超音波パルスを受信するトランスデューサ3(超音波送受信器)が設けられる。図1では超音波の送信と受信を一つのトランスデューサ3で行っているが、送信と受信を別々のトランスデューサ(超音波送信器と超音波受信器)で行ってもよい。
ゼータ電位測定装置1は解析器6を備える。解析器6は泳動速度算出器4とゼータ電位算出器5とを有する。泳動速度算出器4は、トランスデューサ3により受信された超音波パルスに基づいて、電界印加方向であるZ方向に沿った微粒子8の泳動速度を動的超音波散乱法により算出する。ゼータ電位算出器5は、泳動速度算出器4により算出された微粒子8の泳動速度に基づいて、微粒子8のゼータ電位を算出する。
この方法は、本発明者らがこれまで発展させてきた、超音波パルスの周波数ドメイン解析(周波数ドメイン動的超音波散乱(FD−DSS)法(複素関数法))を用いて、ナノ粒子からマイクロ凝集体もしくはマイクロ粒子まで、一つの技術で全ての粒径範囲の微粒子の情報を同時に得ることが可能である。
ここで周波数ドメイン解析とは、フーリエ振幅の大きさを評価する周波数ドメインのスペクトル解析ではなく、周波数成分に分解された複素時間相関関数に基づく手法であり、これまでサイズのみならず運動モードの識別等で大きな成果をあげている。
また、位相モードDSS法(位相モード法)を新たに発展させ、これより電界印加に伴う微粒子泳動の(時間のみならず空間情報を有した)場をリアルタイムで解析することが可能である。
さらに、懸濁液7中のそのままの状態で微粒子8の解析が可能であり、もちろん白濁系溶液であっても濃厚系溶液であっても超音波が伝搬できる限りは試料の希釈は不要である。微粒子8の泳動状態をリアルタイムで直接プローブできるため、様々な微粒子8が混合された系でも有効である。以下にその原理と実践例について述べる。
図2はゼータ電位測定装置1の具体構成を示し、(a)は正面断面図であり、(b)は平面図であり、(c)は要部側面図である。図3はゼータ電位測定装置1に設けられた電気泳動セル9を説明するための図であり、(a)は組立構成を示す図であり、(b)は平面図であり、(c)は上記ゼータ電位測定装置1に設けられたトランスデューサ3との関係を示す図である。
ゼータ電位測定装置1には、図2及び図3に示すような、電気泳動セル9と、電気泳動セル9を保持するためのセルホルダ10と、超音波パルスのトランスデューサ3とを用いる。これらの電気泳動セル9、セルホルダ10、及びトランスデューサ3は、超音波減衰が小さく、またトランスデューサ3と電気泳動セル9の位置を自在に変更可能にするために、水中など音響整合の役目を果たす液体中に配置される。
トランスデューサ3と電気泳動セル9内の微粒子(試料)8との間にガラスやプラスチック製の超音波整合材を設けて、トランスデューサ3を超音波整合材に接触させる方法もある。ただし、この場合には超音波整合材に接触させたトランスデューサ3に対して空気層を形成しないためのカップリング媒質が必要になり、接触の程度によっては誤差を引き起こす可能性がある。従って、電気泳動セル9、セルホルダ10、及びトランスデューサ3は超音波が安定して伝搬するような状況を作るため、水中などの液体中に配置することが好ましい。
トランスデューサ3から照射される超音波パルスは、図2(c)に示すように電界印加に伴う微粒子8の泳動方向に対して斜め方向に入射し、得られた斜め方向の泳動速度に基づいて後で泳動方向成分を算出して解析を行う。
電気泳動セル9は、金属セル13にテフロン(登録商標)のテープ15を巻き、ラバーリング17、ポリスチレンフィルム18、及び金属セル14と、金属セル13との間に挟み込まれる白金材16を、ネジ孔20に挿入されるネジ19により固定して組み立てられる。白金材16は電界印加器2の正極12及び負極11を構成する。
(泳動速度の解析の流れ)
微粒子8が分散した懸濁液7を収容する電気泳動セル9の両端に電界印加器2により電界を印加する。そして、微粒子8の表面の電位に依存して、正極12又は負極11に向かって泳動する微粒子8の泳動速度を、動的超音波散乱法により検出する。微粒子8の泳動速度を測定するための一連の解析の流れを図4 に示す。
図4は、電界が印加された微粒子8に照射されて散乱された超音波パルスに基づいて算出された微粒子8の泳動速度により、微粒子8のゼータ電位を算出する手順を説明するための図である。
電界印加方向に対して斜めに入射した超音波パルスに基づいて算出された微粒子8の泳動速度をvDSSとする。この泳動速度vDSSを斜めに入射した角度θ1に対応する方向余弦で除算することにより、泳動速度算出器4が泳動速度vDSSを電界印加方向成分(X方向)の泳動速度vobsに変換する。
本方法では、超音波パルスの特徴を生かして、一度の測定で試料深さ(Y方向)の情報を有した複数の泳動速度を評価可能である。そこで、パルス伝搬時間毎の泳動速度vobsを、試料中の深さYの関数形である泳動速度vobsへと泳動速度算出器4が変換する。以上で、電界印加に伴う見かけの泳動速度vobsを算出するための解析が完了する。
微粒子8の泳動には、微粒子8の表面電荷に由来する成分に加えて、電気泳動セル9に特有の電気浸透流成分が関与する。そこで、電気浸透流成分を見かけの泳動速度vobsから分離するための解析を行う。電気浸透流成分の解析には、様々な式が提案されているが、広く受け入れられている理論として、森・岡本の理論(森祐行, 1980, 顕微鏡電気泳動法における長方形 セル内の流れの解析, 浮選, 27(4), 171)が知られている。この理論による泳動速度vobsを求める式の例を以下に示す。
Figure 2018146307
ここで、xはセル幅方向、yは深さ方向を表しており(zは電極間の方向)、試料の中心を原点とする。セル幅2a、セルの深さ2bである。
また、
Figure 2018146307
である。
上記(式1)により、電気泳動セル9の幅、奥行き、高さを考慮した電気浸透流成分の解析が行える。上記(式1)は一例であり、状況に応じて他の式を用いて計算することも可能である。
電気浸透流成分を見かけの泳動速度vobsから分離することにより得られた微粒子8の泳動速度vは、あらかじめ準備しておいた電界の大きさE(V/m)で規格化することで電気泳動移動度μとなる。一般的に、ゼータ電位ζは、この電気泳動移動度μと、誘電率εと、粘度ηとから算出できる。なお、微粒子8の粒子径と電気二重層の厚みとによって用いる式が異なる。(Henry, D. C., 1931, The Cataphoresis of Suspended Particles. Part 1 - The Equation of Cataphoresis, Proc. R. Soc. Lond, A 133)。以下に、式の一例を示す。
Figure 2018146307
ここで、μは印加電場で規格化した粒子速度、f (κa) はヘンリー係数、εrは溶媒の比誘電率、ε0は真空の誘電率、ηは溶媒の粘度、ζは求めるゼータ電位である。
電気二重層が粒子径よりも非常に小さいときは(式2)が使用される。電気二重層が粒子径よりも非常に大きいときは(式3)が使用される。(式3)は両極源を結ぶ理論を表す。
(電界の印加による微粒子8の泳動)
電界印加器2による電界の印加に対して微粒子8の泳動が正しく追従し、微粒子8の表面電荷の符号に応じてしかるべき電極に向かって微粒子8が泳動している態様を図5及び図6 に示す。図5(a)(b)は電界印加器2により印加された電圧の極性と微粒子8の泳動方向との間の関係を示す図である。図6(a)(b)は電界印加器2により印加された電圧の極性と微粒子8の泳動方向との間の他の関係を示す図である。
ここでは、微粒子8としての粒子直径3マイクロメートルのシリカ粒子を1mM(モル)のKCl水溶液に分散した試料を用いる。このシリカ粒子は、等電点を境として、酸性側では正に、塩基性側では負に帯電することが知られている。塩基性側のペーハーpH=9の測定例を図6に示し、酸性側のpH=3の測定例を図5に示す。pH=9では、微粒子8の表面は負に帯電し、正極12側に泳動する様子が確認できる。そして、逆にpH=3では正に帯電した微粒子8が負極11側に泳動する様子が確認できる。
(正弦波交流法)
図7は、ゼータ電位測定装置1による正弦波交流法を用いた測定方法を示す図であり、(a)はゼータ電位測定装置1に設けられた電界印加器2により懸濁液7中の微粒子8に印加された電界に対応する交流電圧を示すグラフであり、(b)は微粒子8の泳動速度を示すグラフであり、(c)は位相モードDSS法を用いて解析された微粒子8の速度場を示す解析結果を示す図である。
電界印加器2は、電気泳動セル9中の帯電した微粒子8に正弦波交流電圧を印加する。実験では電極間を3cmに設定している。そして、トランスデューサ3は交流電圧を印加されて泳動する微粒子8に超音波パルスを照射し、泳動する微粒子8により散乱された超音波パルスを受信する。
次に、泳動速度算出器4は、位相モードDSS法(位相モード法)に基づいて、泳動する微粒子8により散乱されてトランスデューサ3により受信された超音波パルスから、泳動する微粒子8の速度場(速度の時空間イメージ)を解析し、微粒子8の泳動速度を算出する。
位相モードDSS法とは、DSS法のセットアップにおいて特に信号の振幅部ではなく、位相部を活用した解析方法であり、瞬間で(パルス繰り返し時間で許される限り短い時間で、例えば0.01秒で)微粒子の運動速度を解析する手段である。位置情報を保有した粒子運動速度データが、短時間で時間ごとに得られる。
具体的には、ブロードバンド超音波パルスの主たる周波数(例えばピーク振幅を与える周波数)にロックインして、その信号成分の位相差により微粒子運動速度データが算出できる(Ayumi Nagao, Mariko Kohyama, Tomohisa Norisuye, and Qui Tran-Cong-Miyata, Journal Of Applied Physics 105, 023526, 2009)。
これに対して、従来の相関関数法では、一定時間(例えば10分程度)の安定な振幅を記録し、その相関関数を構築することで精度の高い運動速度評価を行った。しかしながら、微粒子の沈降のように時々刻々と状態が変化する場合には積算している間に状態が変化するため従来の相関関数法は不向きである。位相モードDSS法は、リアルタイムで瞬間の微粒子速度を求めることを可能にする。すなわち、正弦波交流電界を印加した場合には位相モードDSS法を用いることが極めて有効である。
その後、ゼータ電位算出器5は、泳動速度算出器4により算出された微粒子8の泳動速度vobsに基づいて、微粒子8のゼータ電位を算出する。具体的には、ゼータ電位算出器5は、図4を参照して前述したように、泳動速度vobsから電気浸透流成分を分離することにより微粒子8の泳動速度vを算出する。そして、ゼータ電位算出器5は泳動速度vを電界の大きさE(V/m)で規格化することにより電気泳動移動度μを算出する。次に、この電気泳動移動度μと、誘電率εと、粘度ηとに基づいてゼータ電位算出器5はゼータ電位ζを算出する。
図8(a)〜(f)は正弦波交流法による印加電界に相当する微粒子8の泳動運動の依存性を示すグラフである。
図8(a)は微粒子8に印加される電界強度Epp(ppはピーク・ツウ・ピークを表す)が3.3(V/cm(ボルト/センチメートル))である例を示し、図8(d)は電界強度Eppが3.3(V/cm)で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図8(b)は電界強度Eppが16.7(V/cm)である例を示し、図8(e)は電界強度Eppが16.7(V/cm)で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図8(c)は電界強度Eppが33.4(V/cm)である例を示し、図8(f)は電界強度Eppが33.4(V/cm)で測定された微粒子8の泳動速度を示す。
図8(d)からもわかるように電界強度Eppが3.3(V/cm)の時は泳動速度に対する揺らぎの寄与が平均泳動成分と比べて大きくなっている。微粒子8に印加される電界強度Eppが2.0(V/cm)未満であると、微粒子8の泳動速度がさらに小さく、微粒子8の泳動が観察しにくくなる。つまり、電界強度Eppが2.0(V/cm)未満であると、泳動速度に対する揺らぎの寄与が平均泳動成分と比べて大きくなってしまう。微粒子8に印加される電界強度Eppは溶液の粘度や電極間距離などによっても変わるが、一般的な溶液の場合には、微粒子8に印加される電界強度Eppは2.0(V/cm)以上であることが好ましく、さらに、3.0(V/cm)以上であると精度良く計測できるのでより好ましい。
電界強度の試料への影響を考慮すると、電界強度が大きいときは印加時間を短くすることが好ましい。電界強度Epp=3.3(V/cm)で30秒、Epp=16.7(V/cm)で10秒、Epp=33.4(V/cm)で10秒の条件で3分測定しても微粒子8(試料)のダメージ等の問題は無かった。また、Epp=6.7(V/cm)で3時間電界を印加し続けても試料のダメージ等の問題は無かった。
図9(a)〜(f)は正弦波交流法による電界周期に対する微粒子8の泳動運動の依存性を示すグラフである。
図9(a)は微粒子8に印加される電界の周期Tが1秒である例を示し、図9(d)は電界の周期Tが1秒で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図9(b)は電界の周期Tが2秒である例を示し、図9(e)は電界の周期Tが2秒で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図9(c)は電界の周期Tが5秒である例を示し、図9(f)は電界の周期Tが5秒で測定された微粒子8の泳動速度を示す。
微粒子8に印加される電界の周期Tが30秒を超えると、微粒子8が沈降しきってしまうか、又は、測定に時間がかかりすぎるため好ましくない。また、100V以上の高電圧を微粒子8に印加しながら、電界の周期Tが30秒を超える程遅い場合は、電気泳動セル9内の懸濁液7に生じる乱流の影響等で微粒子8の泳動速度のプロファイルが正しく測定されない場合もあるため好ましくない。
印加電界の周期Tの中で微粒子8の泳動速度を精度良く求めるためには複数(例えば1000パルス以上)の測定パルスが必要になり、電界の周期Tが短くなるとパルス繰り返し時間(PRT)が短くなる。実験的には、印加電界の周期Tが1秒よりも小さくなると、パルス繰り返し時間(PRT)が1ms以下であることが必要になるため、処理時間および超音波の残響などの点で好ましくない。すなわち、印加電界の周期Tは1〜30秒に設定することが好ましい。
(矩形波交流法)
図10はゼータ電位測定装置1による矩形波交流法を用いた測定方法を示す図であり、(a)はゼータ電位測定装置1に設けられた電界印加器2により懸濁液7中の微粒子8に印加された電界に対応する矩形波電圧を示すグラフであり、(b)は微粒子8の泳動速度を示すグラフであり、(c)はFD−DSS法を用いて解析された微粒子8の速度場を示す解析結果を示す図である。
前述した正弦波交流法の例は、正弦波交流電界を印加して、正弦波交流電界に伴う微粒子8の泳動状態を観測している。しかしながら、本発明はこれに限定されない。正負極性を一定時間おきに切り替える矩形波に基づく矩形波交流電界の印加(矩形波交流法)が有効な場合もある。
大きなマイクロ粒子(もしくは凝集体)の場合や、電界印加に伴って時間とともに凝集しやすい微粒子の場合など、測定状況に応じて正弦波交流法と矩形波交流法とを有効に使い分けることが可能である。例えば、比較的大きな粒径であるマイクロ粒子は、沈降も速く、状態が時々刻々と変化するので、リアルタイムで運動情報を取得できる位相モード動的超音波散乱法が有効である。その一方で、ナノ粒子の場合には、安定な信号を長時間に渡って記録できるので、小さい粒子の情報を十分な統計精度で測定したい場合には安定な時間信号の複素相関関数を構築できるFD−DSS方が好ましいことを本発明者らは見出した。
正弦波交流電界印加に伴う粒子運動の状態変化の観察には、特にリアルタイムで速度場が観察できる位相モードDSS(Phase-mode DSS)法が有効であることを本発明者らは見出した。これは、前述のように位相モードDSS法がサンプルの状態変化に十分に高速に追従して情報を取得できるという解析原理による。
逆に、一定時間一定の電界を矩形波により印加する矩形波交流法の場合には、複素相関関数法(周波数ドメイン動的超音波散乱(FD−DSS)法)が有効であることを本発明者らは見出した。FD−DSS法は、時間に対して比較的安定な信号を解析することに適しており、その中の小さな揺らぎを検出することに適しているためである。矩形信号の安定部分は、定常性が保たれているので、その領域で相関関数を構築すると微細な粒子の情報を十分な統計精度を保って分析することが可能である。
電界印加器2は、電気泳動セル9中の帯電した微粒子8に矩形波電圧(矩形波交流電界)を印加する。そして、トランスデューサ3は矩形波電圧を印加されて泳動する微粒子8に超音波パルスを照射し、泳動する微粒子8により散乱された超音波パルスを受信する。
そして、前記超音波パルスの伝搬時間tと微粒子8の泳動に対する観測時間Tに基づく第1散乱振幅Ψ(t、T)が生成される。
次に、泳動速度算出器4は、第1散乱振幅Ψ(t、T)を伝搬時間tの方向にフーリエ変換した周波数fと観測時間Tの関数である第2散乱振幅Ψ(f、T)を生成する。そして、この第2散乱振幅Ψ(f、T)の実数部及び虚数部に基づいて振幅r(f、T)及び位相θ(f、T)をそれぞれ泳動速度算出器4は算出する。次に、振幅r(f、T)及び前記位相θ(f、T)に基づいて複素相関関数を泳動速度算出器4は求める。その後、泳動速度算出器4はこの複素相関関数に基づいて微粒子8の泳動速度を算出する。
このように、泳動速度算出器4は、複素相関関数法に基づいて、泳動する微粒子8により散乱されてトランスデューサ3により受信された超音波パルスから、泳動する微粒子8の速度場(速度の時空間イメージ)を解析し、微粒子8の泳動速度を算出する。
その後、ゼータ電位算出器5は、泳動速度算出器4により算出された微粒子8の泳動速度vobsに基づいて、微粒子8のゼータ電位を算出する。具体的には、ゼータ電位算出器5は、図4を参照して前述したように、泳動速度vobsから電気浸透流成分を分離することにより微粒子8の泳動速度vを算出する。そして、ゼータ電位算出器5は泳動速度vを電界の大きさE(V/m)で規格化することにより電気泳動移動度μを算出する。次に、この電気泳動移動度μと、誘電率εと、粘度ηとに基づいてゼータ電位算出器5はゼータ電位ζを算出する。
図11(a)〜(f)は矩形波交流法による印加電圧に対する微粒子の泳動運動の依存性を示すグラフである。ここで、電極間距離は3cmに設定している。
図11(a)は微粒子8に印加される電界強度Eppが2.6(V/cm)である例を示し、図11(d)は電界強度Eppが2.6(V/cm)で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図11(b)は電界強度Eppが4(V/cm)である例を示し、図11(e)は電界強度Eppが4(V/cm)で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図11(c)は電界強度Eppが5.4(V/cm)である例を示し、図11(f)は電界強度Eppが5.4(V/cm)で測定された微粒子8の泳動速度を示す。
微粒子8に印加される電界強度Eppが1(V/cm)未満である領域で複素相関関数法を適用した場合、微粒子8の泳動速度が遅いため、微粒子8の泳動による複素相関関数の振動の振動点が長時間側にシフトする。このため、微粒子8の緩和時間によっては泳動速度の実測が困難になるので好ましくない。時間遅れは緩和時間で約3秒である。
電界強度Eppが10(V/cm)を超えると、電界印加器2の正極12又は負極11付近に集まった微粒子8が凝集するため好ましくない。微粒子8に印加される電界強度Eppは溶液の粘度や電極間距離などによっても変わるが、一般的な溶液の場合には、微粒子8に印加される電界強度Eppは1(V/cm)〜10(V/cm)が好ましい。
一般的には、適切な相関時間が確保されるように印加電圧(電界強度Epp)を定めることが好ましい。
図12(a)〜(f)は矩形波交流法による電界周期に対する微粒子8の泳動運動の依存性を示すグラフである。
図12(a)は微粒子8に印加される電界の周期Tが10秒である例を示し、図12(d)は電界の周期Tが10秒で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図12(b)は電界の周期Tが20秒である例を示し、図12(e)は電界の周期Tが20秒で測定された微粒子8の泳動速度を示す。図12(c)は電界の周期Tが30秒である例を示し、図12(f)は電界の周期Tが30秒で測定された微粒子8の泳動速度を示す。
微粒子8に印加される電界の周期Tが30秒を超えると、微粒子8の動きが一方通行となり、電界印加器2の正極12又は負極11に微粒子8が溜まり、その結果、微粒子8の凝集が生じやすいため好ましくない。
電界の周期Tが1秒を下回ると、複素相関関数が構築できないため好ましくない。つまり、印加電界の周期Tは1〜30秒が好ましい。
一般的には、印加電圧で決まる相関時間に対して十分な時間を確保しつつ、短い周期Tで矩形波電圧を微粒子8に印加することが好ましい。
(測定結果)
図13は微粒子8のゼータ電位のpH依存性を示すグラフである。微粒子8がシリカ粒子の場合、pHの低い側ではゼータ電位は正になり、pHが大きくなるとゼータ電位は零に近づく。そして、等電点のpH3からpH4付近を超えるとゼータ電位は負になる。さらにpHが大きい塩基性の領域では、ゼータ電位は負の絶対値がさらに大きくなる。この系に塩を添加すると、微粒子8の電気二重層が遮蔽されて薄くなるので、図13に示すように、ゼータ電位の負の絶対値は小さくなり、グラフは全体的に零に近づき平坦となる。
なお、電気泳動移動度の計算には、Henry式を用いるのがより一般的ではあるが、この塩基性の領域ではSmoluchowskiの式を用いても大差ない。以上のことから、ゼータ電位が、pHの関数、および、濃度の関数として正しく測定できることが示された。
図14は微粒子8のゼータ電位の粒子径依存性を示すグラフである。微粒子8が、直径が30ナノメートル、600ナノメートル、3マイクロメートル(3000ナノメートル)のシリカ粒子である場合についてゼータ電位を測定した例が図14に示されている。このように、マイクロ粒子、サブミクロン粒子、ナノ粒子といった様々な大きさの粒子径の微粒子8について、個々の微粒子8の泳動を独立に実測し、ゼータ電位を得ることに成功した。また、ゼータ電位の実測値と文献に記載されたゼータ電位の値との間の合致も良好であることから、本実施形態に係る測定方法の有効性が示された。
図15は微粒子8のゼータ電位の試料濃度依存性を説明するためのグラフである。本実施形態の測定方法は、試料の乳濁を問題としないので、光を使った測定方法と比較して、かなり高濃度の試料まで測定が可能である。3マイクロメートルの粒子径を有するシリカ粒子のpH7におけるゼータ電位の体積分率依存性が図15に示されている。ナノ粒子とは異なり、直径が数マイクロメートル程度の粒子は光散乱が著しく、1%以下の希薄な条件ですら、計測が困難である。しかしながら、本実施形態に係る測定方法により数十%の試料濃度であっても電気泳動移動度の実測と、ゼータ電位の解析とが行えることがわかった。
図16はムライト粒子のゼータ電位を示すグラフである。ムライト粒子のゼータ電位のpH依存性が、シリカ粒子のそれと対比されながら示されている。
図17はポリジビニルベンゼン架橋体のゼータ電位の界面活性剤濃度依存性を示すグラフである。図18はポリジビニルベンゼン架橋体のゼータ電位の粒子濃度依存性を示すグラフである。
シリカ粒子以外にも、ムライト粒子や、界面活性剤で分散させたポリスチレン系粒子の懸濁液のゼータ電位を測定することができた。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
1 ゼータ電位測定装置
2 電界印加器
3 トランスデューサ(超音波受信器)
4 泳動速度算出器
5 ゼータ電位算出器
6 解析器
7 懸濁液(液体)
8 微粒子
9 電気泳動セル
10 セルホルダ
11 負極
12 正極

Claims (7)

  1. 液体中の帯電した微粒子を泳動させるために電界印加方向に沿って前記帯電した微粒子に電界を印加する電界印加器と、
    前記電界が印加された微粒子に照射されて散乱された超音波パルスを受信する超音波受信器と、
    前記超音波受信器により受信された超音波パルスに基づいて、前記電界印加方向に沿った前記微粒子の泳動速度を動的超音波散乱法により算出する泳動速度算出器と、
    前記泳動速度算出器により算出された前記微粒子の泳動速度に基づいて、前記微粒子のゼータ電位を算出するゼータ電位算出器とを備えることを特徴とするゼータ電位測定装置。
  2. 前記超音波パルスが、前記電界印加方向に交差する方向に沿って前記微粒子に照射される請求項1に記載のゼータ電位測定装置。
  3. 前記電界印加器が前記微粒子に正弦波交流電界を印加し、
    前記動的超音波散乱法が位相モード法を含む請求項1に記載のゼータ電位測定装置。
  4. 前記正弦波交流電界の電界強度が2.0(V/cm(ボルト/センチメートル))以上であり、
    前記正弦波交流電界に対応する正弦波信号の周期が1秒以上30秒以下である請求項3に記載のゼータ電位測定装置。
  5. 前記電界印加器が前記微粒子に矩形波交流電界を印加し、
    前記動的超音波散乱法が複素相関関数法を含む請求項1に記載のゼータ電位測定装置。
  6. 前記矩形波交流電界の電界強度が1(V/cm)以上10(V/cm)以下であり、
    前記矩形波交流電界に対応する矩形波信号の周期が1秒以上30秒以下である請求項5に記載のゼータ電位測定装置。
  7. 前記液体が懸濁液である請求項1に記載のゼータ電位測定装置。
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