JP2018139518A - 糸引き納豆、その製法、並びに、糸引き納豆のえぐみの改善方法 - Google Patents
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Abstract
Description
さらに、近年、納豆にはプロバイオティック作用、抗菌作用、機能性成分等による各種健康増進効果があることが報告されており、益々需要が期待されている食品である。
当該糸引き成分は、独特の風味や食感を納豆に与える性質を有し、白米を炊いたご飯との相性が抜群に良いが、喫食の際に箸や容器に付着しやすく、しかも付着すると洗浄に時間を要するなど、不都合があり、特に撹拌後の糸の付着しづらい納豆が要望されていた。
このような独特な「えぐみ」は、納豆を初めて食する場合の障壁となる場合がある。
また、発酵が過剰に進行した場合は、煮豆本来のフレッシュな風味が失われる場合があった。
また、本発明は、煮豆本来のフレッシュな風味が保持された糸引き納豆を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、糸やネバの付着しづらい、特に撹拌後喫食の際に箸や容器などに糸の付着しづらい糸引き納豆を提供することを目的とするものである。
その結果、2-エチルブチリック アシドを特定割合で含有したものが、上記従来の問題を悉く解消し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
(1):糸引き納豆であって、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有することを特徴とする、糸引き納豆。
(2):前記(1)に記載の糸引き納豆であって、さらに2-メチルプロピオン酸を含有し、2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比が以下の関係式1を満たすことを特徴とする、糸引き納豆。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
(3):前記(1)または(2)に記載の糸引き納豆であって、さらにベンゼンカルボアルデヒドを含有し、2-エチルブチリック アシドとベンゼンカルボアルデヒドとの含有量比が以下の関係式2を満たすことを特徴とする、糸引き納豆。
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
(4):糸引き納豆の製法であって、蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌する植菌工程と、前記植菌工程の後に納豆の品温として37℃〜53℃の範囲で10時間〜24時間維持する発酵工程を有し、前記発酵工程以降に、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で産生させることを特徴とする、糸引き納豆の製法。
(5):前記(4)に記載の糸引き納豆の製法であって、前記発酵工程以降に、さらに2-メチルプロピオン酸を以下の関係式1を満たすように産生させることを特徴とする、糸引き納豆の製法。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
(6):前記(4)または(5)に記載の糸引き納豆の製法であって、前記発酵工程以降に、さらにベンゼンカルボアルデヒドを以下の関係式2を満たすように産生させることを特徴とする、糸引き納豆の製法。
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
(7):前記(4)乃至(6)のいずれか一項に記載の製法で製造し、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有する糸引き納豆。
(8):2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有させることを特徴とする、糸引き納豆のえぐみの抑制方法。
また、本発明によれば、煮豆本来のフレッシュな風味が保持された糸引き納豆が提供される。ここで、煮豆本来のフレッシュな風味とは、青臭い香りであるヘキサナールや青葉様の香気を呈する3-ヘキセン-1-オールなど、煮豆に含有する複数の香気成分によって醸しだされる好適な風味のことを意味する。本発明によれば、このような「フレッシュな風味」が向上した糸引き納豆が提供されることから、糸引き納豆の嗜好性が高まる。
さらに、本発明によれば、ポリグルタミン酸を主成分とする糸引き納豆の糸の粘りが改質されて、糸やネバの付着しづらい、特に撹拌後の糸の付着しづらい糸引き納豆が提供される。したがって、本発明によれば、糸引き納豆を購入する際に心理的抵抗感を与えていた、喫食後の使用器具の洗浄の手間が省力化される。
従って、本発明によれば、糸引き納豆の嗜好性を全体的に向上させることができる。
しかも、本発明は、従来と異なる方法で納豆製造を行う必要はなく、このためコストが増加するという問題もない。
従って、本発明は、糸引き納豆を提供する技術として、有効に用いることができる。
本発明の第1は、糸引き納豆に関し、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有することを特徴とするものである。
納豆発酵により、当該割合の2-エチルブチリック アシドを産生させて含有させた場合、大豆由来の「えぐみ」が抑制され、煮豆本来のフレッシュな風味が保持され、しかも糸やネバの付着しづらい、特に撹拌後の糸の付着しづらい糸引き納豆となる。 2-エチルブチリック アシドが上記の効果を奏する理由は不明であるが、2-エチルブチリック アシドが有する脂質様の香気の作用によって、納豆に含まれる大豆由来の「えぐみ」を抑制するだけでなく、フレッシュな風味を引き立たせており、さらに、糸引き納豆の糸やネバの物性にも何らかの影響を与えている可能性が考えられる。また、2-エチルブチリック アシドを納豆発酵により含有させた方がより好ましい効果が得られることから、2-エチルブチリック アシドの産生に合わせて産生される他の成分との相乗効果により、上記効果がより増強されている可能性も考えられる。
ここで2-エチルブチリック アシドの納豆湿重量1000gあたりの含有量が少な過ぎると、2-エチルブチリック アシドが十分な効果を発揮せず、大豆由来の「えぐみ」がそのまま感じられ、煮豆本来のフレッシュな風味は向上されず撹拌後喫食の際に箸や容器などに糸やネバが付着しやすいため、好ましくない。
一方、2-エチルブチリック アシドの納豆湿重量1000gあたりの含有量が多過ぎても、大豆由来の「えぐみ」がかえって強く感じられるばかりか、酸化した脂質様の香気が生じて煮豆本来のフレッシュな風味が失われ、糸引き納豆の糸の物性にも悪影響を与え、撹拌後喫食の際に箸や容器などに糸やネバが付着しやすくなるため、好ましくない。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
ここで2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比(a/b)が、0.0057未満であると、2-エチルブチリック アシドによる煮豆本来のフレッシュな風味の向上効果を、相対的に過剰な2-メチルプロピオン酸が阻害してしまうため、好ましくない。
また、2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比(a/b)が、20を超えても、2-メチルプロピオン酸の含有量が相対的に過小となり、2-エチルブチリック アシドとの相乗的な効果を有さないため、煮豆本来のフレッシュな風味の向上効果が十分には発揮されないため好ましくない。
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
ここで2-エチルブチリック アシドとベンゼンカルボアルデヒドとの含有量比(a/c)が、0.080未満であると、相対的に過剰なベンゼンカルボアルデヒドが2-エチルブチリック アシドによる糸引き納豆の糸やネバの改質に関する効果を阻害し、攪拌後喫食の際に箸や容器などに糸やネバが付着しやすくなるため、好ましくない。
また、2-エチルブチリック アシドとベンゼンカルボアルデヒドとの含有量比(a/c)が、32を超えても、ベンゼンカルボアルデヒドが過小となり2-エチルブチリック アシドとの相乗的な効果を有さないため、糸引き納豆の糸やネバの改質に関する効果が十分に発揮されないため、好ましくない。
このうち、上記各成分を納豆発酵により含有させて、本発明の第1乃至第3の糸引き納豆を得る方法を提供するのが、本発明の第4乃至第6に示す製法である。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
従って、以下、共通の製法に関して、まとめて説明する。
以下に、糸引き納豆の製造法を例示するが、本発明の第4〜6においては、糸引き納豆の製造方法に用いられる方法に通常用いられる製法であれば、どのような方法でも用いることができる。
(1)原料大豆の浸漬及び液中加熱による、蒸煮大豆又は煮大豆の調製
まずは、蒸煮大豆又は煮大豆を得るため、原料大豆の浸漬及び液中加熱を行う。
本発明の糸引き納豆の製造方法では、通常の糸引き納豆の製造に用いることができるものであれば、如何なる原料大豆をも用いることができる。
原料大豆としては、例えば、丸大豆、半割大豆、割砕大豆(挽き割り納豆の原料)、脱脂大豆などを使用できる。これら原料大豆の中でも、特に高品質の糸引き納豆製造時に使用される中粒や大粒のものが好適である。
これらの原料大豆は、生のまま用いることもできるが、乾燥処理を行ったもの(乾燥品)を用いることが一般的である。
即ち、本発明では、原料大豆を常法により蒸煮大豆又は煮大豆とするため、液中加熱を行う。成分の流亡を防ぐ意味では、蒸煮大豆が好適である。
なお、蒸煮や煮る操作を行う前には、原料大豆を水に浸漬し、膨潤させて用いることが望ましい。
また、煮大豆の具体的な調製手順としては、例えば、原料大豆を常温の水中に6〜24時間程度浸漬した後、90〜100℃の湯で、20〜50分間煮込む方法を採用することができる。
このようにして得られた蒸煮大豆又は煮大豆に、納豆菌を植菌する。
即ち、本発明の第4〜6においては、糸引き納豆を製造するにあたり、上記のようにして得られた蒸煮大豆又は煮大豆に、納豆菌を植菌する植菌工程を行う。
なお、本発明の第4〜6による糸引き納豆の製造に際しては、後述する実施例で例示したBacillus subtilis(バシルス・サチリス) MZ-21113株、Bacillus subtilis (バシルス・サチリス) MZ-21544株のように、2-エチルブチリック アシドを納豆発酵中に産生する菌株が好適である。
そのような2-エチルブチリック アシドを産生する納豆菌は、特に制限はないが、納豆工業で使用されている納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、親株としての納豆菌を、2-エチルブチリック アシドを産生するように育種改良することにより得たものを用いることができる。
育種改良の対象である元の納豆菌(親株)としては、特に制限はないが、通常、納豆工業で使用されている納豆菌や、自然界から分離取得された納豆菌、並びに、さらに改良を重ねて得られた納豆菌などを用いるのが望ましい。
上記液体培地の成分としては、納豆菌の胞子形成と成育を可能にし、納豆菌の培養に通常使用される、炭素源、窒素源、無機塩類等の培地成分を含む液体培地であれば、特に限定はされず、合成培地であっても天然培地であってもよい。
培地成分のうち、炭素源としては、グルコース、シュクロース、ガラクトース、マンノース、デンプン、デンプン分解物などの糖類、クエン酸などの有機酸類、窒素源としては、ペプトン、肉エキス、カゼイン加水分解物、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化第2鉄・6水和物、硫酸マグネシウム・7水和物、塩化マンガン・4水和物、硫酸第一鉄等が挙げられる。
また、当該培地には、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、ビタミン類(ビオチン等)などを含有させてもよい。遺伝子欠損等で特定の栄養成分を要求する納豆菌変異株を用いた場合は、適時培地組成を変更してもよい。
また、数リットル体積容の容器等にて発酵を行うことも可能であるが、表面積に対する体積の値が大きくなると、中央部の豆に温度変化が伝わりにくくなることを考慮すると、大きめの容器を用いることは望ましくない。
また、容器の形状として、当該容器を用いて直接、喫食のための掻き混ぜ(攪拌)ができるような形状のものが好適である。
また、発酵後は、蓋やシーリングによる封を行うことができる態様のものが好適である。
本発明の第4〜6においては、このようにして蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌する植菌工程を行った後に、発酵を行う。
また、本発明の第4〜6に示される糸引き納豆の製法においては、室温を30〜50℃(好ましくは35〜45℃)の温度帯に維持することによって、発酵中の大豆の品温を上記温度帯に維持することが可能となる。発酵熱によって豆の品温が上昇し、上記納豆発酵温度帯に維持されるためである。
大豆の品温を、当該納豆発酵温度帯に維持する所定時間(発酵時間)としては、特に制限はないが、10〜24時間、好ましくは14〜20時間を挙げることができる。
発酵工程終了後、二次発酵による糸引き劣化、アンモニアの産生等の品質劣化を抑制するために、通常、3℃以上10℃未満、好ましくは3℃以上8℃未満、より好ましくは3℃以上6℃未満の低温になるようにして6時間〜3日間、好ましくは8時間〜2日間、より好ましくは24時間程度、熟成を行い納豆の製造が完了する。
なお、熟成工程、その後の納豆製品の保管流通時に納豆の保存温度が高い場合は、二次発酵に伴う納豆菌の代謝により、2-エチルブチリック アシド等の含有量が増加することがある。ただし、二次発酵が発生すると納豆の品質劣化が避けられないため、二次発酵により2-エチルブチリック アシド等の含有量を調整することは好ましくない。
本発明の第4においては、この発酵工程以降に、2-エチルブチリック アシドを上記特定量産生させて、糸引き納豆中に含有させるが、2-エチルブチリック アシドの含有量が少ないような場合には、必要に応じて、2-エチルブチリック アシドを添加してもよい。逆に、2-エチルブチリック アシドの含有量が多過ぎるようになりそうな場合には、前記したように、2-エチルブチリック アシドが所定の含有量に到達した時点で発酵工程を停止させればよい。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
換言すると、本発明の第5に係る糸引き納豆の製法は、納豆発酵により、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有させると共に、さらに2-メチルプロピオン酸を含有させ、2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比が上記関係式1を満たすものである。
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
換言すると、本発明の第6に係る糸引き納豆の製法は、納豆発酵により、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有させると共に、ベンゼンカルボアルデヒドを含有させ、2-エチルブチリック アシドとベンゼンカルボアルデヒドとの含有量比が上記関係式2を満たすものであって、さらに必要に応じて、2-メチルプロピオン酸を含有させ、2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比が上記関係式1を満たすものである。
本発明の第4〜6による糸引き納豆の製法で得られる糸引き納豆中に含まれる2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドの測定は、いずれもガスクロマトグラフィー質量分析法など、揮発性成分の微量分析に使用しうる測定法であれば、どのような方法でも用いることができる。
以下に、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いた測定法を例示する。
測定に用いるガスクロマトグラフィー分析装置としては、キャピラリーカラムが接続でき、一般的なガスクロマトグラフィー分析装置としての性能を有するものならば如何なるものでも用いることができるが、例えばHP6890 Series GC System(Agilent社製)等を用いることができる。
また、キャピラリーカラムは、一般的な分析に使用するものであれば特に制限はないが、内膜にジメチルポリシロキサン、ジフェニル、シアノプロピルフェニル、ポリエチレングリコール、テレフタル酸修飾ポリエチレングリコールなどを含むものがよく、例えばTC-WAX(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)(GL-Sciences社製)等を用いることができる。
移動相として、例えば、高純度のヘリウムガスを用いることができる。
測定用の試料としては、納豆中の揮発性成分を有機溶媒で抽出した抽出液を用いることができる。使用する有機溶媒の種類は特に限定されないが、ジクロロメタンを用いると高収率で揮発性成分を回収できる。
四重極型の質量分析装置として、例えば5973 Mass Selective Detector(Agilent社製)等を用いることができる。
また、試料のイオン化法は、電子イオン化法(EI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、化学イオン化法(CI)、電解脱離法(FD)などの一般的な方法が採用できるが、測定データのライブラリが豊富な電子イオン化法(EI)が好ましい。例えば電子イオン化法:EI+、フラグメンテーター電圧:70Vの条件で分析を行うことができる。
質量分析計の測定モードは、全イオン検出(スキャン)モードまたは選択イオン検出(SIM)モードのいずれも用いることが可能であるが、より低濃度の物質が定量可能な選択イオン検出(SIM)モードで測定するのが好ましい。
本発明の第4、5、6による糸引き納豆の製法については、上記したとおりである。
本発明の第7に係る糸引き納豆は、本発明の第4乃至第6のいずれか一に記載の製法で製造されたものである。
本発明の第4乃至第6においては、2-エチルブチリック アシドの納豆湿重量1000gあたりの含有量、2-エチルブチリック アシドとベンゼンカルボアルデヒドとの含有量比、2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比、が特定されている。
しかしながら、納豆発酵中においては、これら2-エチルブチリック アシド、ベンゼンカルボアルデヒド、2-メチルプロピオン酸以外にも生成される成分があり、これら成分を全て特定することは著しく困難というか、実際上不可能である。また、2-エチルブチリック アシド、ベンゼンカルボアルデヒド、2-メチルプロピオン酸以外に生成される成分の全てを特定することは、著しく過大な経済的支出を伴い、およそ実際的ではない。
さらに、例えば、特定割合の2-エチルブチリック アシドを添加して含有させた糸引き納豆の場合(添加系の場合)と比べて、納豆発酵により、特定割合の2-エチルブチリック アシドを産生させて含有させた糸引き納豆の場合(発酵系の場合)、大豆由来の「えぐみ」が抑制され、煮豆本来のフレッシュな風味が保持され、しかも糸やネバの付着しづらい、特に撹拌後の糸の付着しづらい糸引き納豆となることが、実施例で示されているなど、発酵系と添加系の評点に差があることからも、2-エチルブチリック アシド、ベンゼンカルボアルデヒド、2-メチルプロピオン酸以外に生成される成分が存在することが示唆される。
ここで2-エチルブチリック アシドの納豆湿重量1000gあたりの含有量が少な過ぎても、或いは、逆に多過ぎても、糸引き納豆中における、大豆由来の「えぐみ」を抑制することはできない。
この糸引き納豆のえぐみの抑制は、上記割合の2-エチルブチリック アシドを、糸引き納豆中に、納豆発酵によって含有させることにより行ってもよいし、添加によって含有させることにより行ってもよいし、さらには、納豆発酵と添加の両方によって含有させることにより行ってもよいが、納豆発酵によって含有させることにより行った場合に、糸引き納豆中における、大豆由来の「えぐみ」を抑制することができる。
a)納豆発酵
実施例1、実施例2、比較例3は、上述に記載の定法に従い納豆発酵を行うことで調製した。
納豆菌スターターに用いる納豆菌株は、実施例1はBacillus subtilis(バシルス・サチリス)MZ-21113株、実施例2はBacillus subtilis(バシルス・サチリス) MZ-21544株、比較例3はBacillus subtilis(バシルス・サチリス)No.7株をそれぞれ用いて、定法に従って納豆菌胞子液を調製して納豆菌スターターとした。培地としては、以下表1記載の胞子形成培地を用いた。なお、Bacillus subtilis(バシルス・サチリス)MZ-21113株、同MZ-21544株は、2017年2月16日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、それぞれ国際寄託されており、その受託番号は、それぞれ NITE BP-02420(識別の表示:MZ-21113)、NITE BP-02421(識別の表示:MZ-21544)である。また、Bacillus subtilis(バシルス・サチリス)No.7株は、2014年2月25日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号(NITE BP-01805)として、国際寄託されている。
その後、45gずつをポリスチレン製納豆容器に入れて蓋をして発酵を行った。発酵時の気相温度は、実施例1は40℃、実施例2と比較例3は43℃に設定した。なお、定常状態に達した時の各試料の納豆品温は、発酵熱により44〜50℃となっていた。各試料とも約17時間発酵を継続した時点で、糸引き納豆として十分な糸引きと香りが生じていたため、発酵を終了し、4℃の冷蔵庫で2日以上冷却することで熟成を行った。
実施例2cの糸引き納豆;実施例2:比較例3=2:1
実施例2dの糸引き納豆;実施例2:比較例3=1:2
納豆中の2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドの測定は、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて測定した。
各成分の標準物質及び内部標準物質(1-ペンタノール)としては、以下を用いた
・2-エチルブチリック アシド(和光純薬工業 販売元コード054-03722 CAS:88-09-5)
・2-メチルプロピオン酸(関東化学 販売元コード:04442-30 CAS:79-31-2)
・ベンゼンカルボアルデヒド(和光純薬工業 販売元コード025-12206 CAS:100-52-7)
・1-ペンタノール(和光純薬工業 販売元コード013-03656 CAS:71-41-0)
分析用試料(ジクロロメタン抽出液)は、スプリットレス注入法によってガスクロマトグラフィー/質量分析装置に1μL注入した。
ガスクロマトグラフィー分析装置としては、HP6890 Series GC System(Agilent社製)を使用し、キャピラリーカラムは、Stabilwax(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)(島津ジーエルシー社製)を使用した。該ガスクロマトグラフィー分析装置の試料注入口の温度は250℃に設定し、移動相としてヘリウムガスを用いた。カラムの昇温プログラムは35℃にて5分保持し、その後、5℃/分にて145℃まで昇温した後、20℃/分にて230℃にて15分保持する条件に設定した。ガスクロマトグラフィー装置に接続した質量分析計で、各保持時間に検出された成分の質量電荷比(m/z)を求め、定量を行った。
・1-ペンタノール:定量イオン 70、確認イオン55,42
・ベンゼンカルボアルデヒド:定量イオン106、確認イオン105,77
・2-メチルプロピオン酸:定量イオン73、確認イオン 88,43
・2-エチルブチリック アシド:定量イオン88、確認イオン73,101
具体的には、上記の標準物質希釈液を検体と同様の条件で分析に供し、分析用試料の測定時に得られたクロマトグラフパターンから標準物質希釈液と保持時間が近いピークを当該成分と判定し、分析用試料と標準物質希釈液との定量イオンのピーク面積値から分析用試料(ジクロロメタン抽出液)中の2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドの含有量を算出した。
各成分の保持時間はそれぞれ2-エチルブチリック アシド:24.4min 、2-メチルプロピオン酸:20.0min、ベンゼンカルボアルデヒド:18.7minであった。
なお、ピークシグナルとベースノイズの比(S/N比)が10未満のピークについては、ノイズが大きく定量が困難であったため、不検出(ND)とした。
回収率は、分析用試料に含まれる1−ペンタノールと標準物質希釈液に含まれる1−ペンタノールのピーク面積値から算出し(分析用試料に含まれる1-ペンタノールのピーク面積が標準物質希釈液の90%であった場合は回収率90%と算定)、測定結果の補正を行った。なお、1-ペンタノールの保持時間は11.6minであった。
実施例、比較例の評価は、官能検査員として選抜した人員のべ6名で実施した。
評価項目と評価尺度は以下の通りである。
「大豆のえぐみ」、「納豆のフレッシュ感」については、喫食により評価を行った。「糸の付着しづらさ」については、割り箸で10秒間納豆を攪拌した後の割り箸への糸の付着状況で評価した。
それぞれの評価は、5段階で行い、いずれの評価も、評点「5」が最も評価が高く、評点の数値が低くなるにつれて、評価が低下していき、評点「1」が最も評価が低いことを表わしている。いずれの評価についても、評点が「3」点以上であれば、良好であると判定される。
評価結果及び前述の機器分析結果を表3に示す。
5:えぐみが感じられない、4:えぐみがあまり感じられない、3:普通、2:えぐみがやや感じられる、1:えぐみが強く感じられる
5:フレッシュ感が強い、4:フレッシュ感がやや強い、3:普通、2:フレッシュ感がやや弱い、1:フレッシュ感が弱い
5:糸が付着しづらい、4:糸がやや付着しづらい、3:普通、2:糸がやや付着しやすい、1:糸が付着しやすい
比較例2x、実施例2a、実施例2b、実施例2e、実施例3a、比較例3x、比較例3yは、実施例2又は比較例3で得られた納豆に、表2に示す添加量(含量)で、前述の2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドの各標準物質を添加することで調製した。
評価結果及び前述の機器分析結果を表3に示す。
なお、表3において、2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドの含有量の単位は、いずれも「mg/納豆湿重量1000g」である。
また、表3において、含有の方法について、「納豆発酵のみ混合」と記載されているのは、「納豆発酵により得られた糸引き納豆を上記したように混合して用いた」ことを表わしている。
特に、上述の検体のうち、納豆発酵のみで適量の2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドを含有させた実施例1、実施例2と;標準物質の添加も併用して実施例1、実施例2と同程度の含有量となるように調製した実施例2eと;を比較すると、実施例1、実施例2の方が評価結果が良好な傾向となっており、成分添加よりも納豆発酵のみで2-エチルブチリック アシド、2-メチルプロピオン酸、ベンゼンカルボアルデヒドを含有させることが好適なことが示唆された。
Claims (8)
- 糸引き納豆であって、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有することを特徴とする、糸引き納豆。
- 請求項1に記載の糸引き納豆であって、さらに2-メチルプロピオン酸を含有し、2-エチルブチリック アシドと2-メチルプロピオン酸との含有量比が以下の関係式1を満たすことを特徴とする、糸引き納豆。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
- 請求項1または請求項2に記載の糸引き納豆であって、さらにベンゼンカルボアルデヒドを含有し、2-エチルブチリック アシドとベンゼンカルボアルデヒドとの含有量比が以下の関係式2を満たすことを特徴とする、糸引き納豆。
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
- 糸引き納豆の製法であって、蒸煮大豆又は煮大豆に納豆菌を植菌する植菌工程と、前記植菌工程の後に納豆の品温として37℃〜53℃の範囲で10時間〜24時間維持する発酵工程を有し、前記発酵工程以降に、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で産生させることを特徴とする、糸引き納豆の製法。
- 請求項4に記載の糸引き納豆の製法であって、前記発酵工程以降に、さらに2-メチルプロピオン酸を以下の関係式1を満たすように産生させることを特徴とする、糸引き納豆の製法。
(関係式1)
0.0057≦a/b≦20
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
b: 納豆湿重量1000gあたりの2-メチルプロピオン酸の含有量(mg)
- 請求項4または請求項5に記載の糸引き納豆の製法であって、前記発酵工程以降に、さらにベンゼンカルボアルデヒドを以下の関係式2を満たすように産生させることを特徴とする、糸引き納豆の製法。
(関係式2)
0.080≦a/c≦32
ただし a: 納豆湿重量1000gあたりの2-エチルブチリック アシドの含有量(mg)
c: 納豆湿重量1000gあたりのベンゼンカルボアルデヒドの含有量(mg)
- 請求項4乃至6のいずれか一項に記載の製法で製造し、2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有する糸引き納豆。
- 2-エチルブチリック アシドを納豆湿重量1000gあたり0.005mg以上1.0mg以下の範囲で含有させることを特徴とする、糸引き納豆のえぐみの抑制方法。
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---|---|---|---|
JP2017035141A JP2018139518A (ja) | 2017-02-27 | 2017-02-27 | 糸引き納豆、その製法、並びに、糸引き納豆のえぐみの改善方法 |
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Citations (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2000224982A (ja) * | 1999-01-13 | 2000-08-15 | Mitsukan Group Honsha:Kk | 短鎖分岐脂肪酸非生産納豆菌 |
JP2015181373A (ja) * | 2014-03-24 | 2015-10-22 | 株式会社Mizkan | 保存性の向上した納豆とその製造方法 |
-
2017
- 2017-02-27 JP JP2017035141A patent/JP2018139518A/ja active Pending
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Non-Patent Citations (1)
Title |
---|
日本食品工業学会誌, 1984年, vol. 第31巻, 第9号, JPN6020045524, pages 587 - 595, ISSN: 0004513179 * |
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