JP2018139500A - 培養容器、及び培養容器の製造方法 - Google Patents

培養容器、及び培養容器の製造方法 Download PDF

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貴彦 戸谷
洋佑 松岡
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洋佑 松岡
郷史 田中
Goshi Tanaka
郷史 田中
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Abstract

【課題】 接着細胞を好適に培養することが可能な培養容器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 細胞を接着培養するための培養容器であって、培養容器の培養面の静的接触角が95度以上であり、培養面の水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有し、培養面に細胞接着因子がコーティングされた培養容器とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞の培養技術に関し、特に細胞を接着培養するための培養容器、及び培養容器の製造方法に関する。
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、培養容器に細胞と培地を注入して、細胞を培養することが行われている。
特に、多能性幹細胞(iPS細胞など)又は胚性幹細胞(ES細胞)を培養容器で接着培養する場合、プラズマ処理などを施して親水化したポリスチレン(PS)製の培養容器の培養面にラミニンなどの細胞接着因子をコーティングし、この培養面に細胞を接着させて培養するのが、現在主流の培養方法である(特許文献1参照)。
一方、細胞を大量培養するためには、培養容器をバッグ形状(袋状)に形成して、閉鎖系で培養を行うことが望ましいため、培養容器の材料としては、硬いポリスチレンではなく、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
特開2015−178526号公報 特許第5776162号公報
ところが、単にポリオレフィン系樹脂を用いて培養容器を形成した場合、接着細胞は培養容器の培養面に十分に接着することができず、適切に培養することができないという問題があった。
これに対して、ポリオレフィン系樹脂にプラズマ処理などを施して親水化することによって、培養容器を形成することが考えられるが、通常、親水化処理を行う場合には、培養面を形成するフィルムやシートの面を露出することが必要であるため、培養容器の製造にあたって必要以上の清浄環境が要求されることとなり、接着細胞を大量培養するための培養バッグ(袋状培養容器)の製造が困難になるという問題があった。
ここで、本出願人は、特許文献2に示すように、既に接着細胞を培養することに適した培養容器を開発しており、この培養容器は培養面を親水化することなく、接着細胞を培養可能にしたものであるため、上記の問題を解消することが可能である。そこで、この培養容器を用いて、その培養面にラミニンなどの細胞接着因子をコーティングしてiPS細胞などの接着細胞を培養した結果、好適に培養することに成功し、本発明を完成させた。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、接着細胞を好適に培養することが可能な培養容器及びその製造方法の提供を目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の培養容器は、細胞を接着培養するための培養容器であって、前記培養容器の培養面の静的接触角が95度以上であり、前記培養面の水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有し、前記培養面に細胞接着因子がコーティングされた構成としてある。
また、本発明の培養容器の製造方法は、フェノール系酸化防止剤を含有するポリオレフィンの層を有するフィルム又はシートから培養容器を形成し、前記培養容器の前記ポリオレフィンの層に、オゾン発生波長を除いた紫外線照射を施して、静的接触角が95度以上であり、かつ水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有する培養面を形成し、前記培養面の一部又は全部に細胞接着因子をコーティングする方法としてある。
本発明によれば、接着細胞を好適に培養することが可能となる。
静的接触角と水滑落時の前進接触角と後退接触角の差(ヒステリシス)の測定についての説明図である。 実施例及び比較例における接着細胞の培養結果の写真を示す図である。
以下、本発明の培養容器及び培養容器の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の培養容器は、細胞を接着培養する培養容器であって、培養容器の培養面の静的接触角が95度以上であり、培養面の水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有し、培養面に細胞接着因子がコーティングされたことを特徴とする。
培養容器の培養面とは、培養容器に形成された、細胞を培養するための内表面であり、この培養面に細胞接着因子がコーティングされ、細胞接着因子上で細胞培養が行われる。すなわち、細胞接着因子は、培養面上にコーティングされた、細胞を接着培養するための足場として機能する。
次に、静的接触角と水滑落時の前進接触角と後退接触角の差(ヒステリシス)について、図1を参照して説明する。
静的接触角とは、静止した液体の表面が固体壁に接するところで液面と固体面がなす角であり(図1のθs)、単に接触角とも称する。接触角が大きい場合には表面の疎水性が強く、接触角が小さい場合には表面の親水性が強いという関係がある。
一般に、接着細胞の培養に適する培養面の接触角は、60°〜80°程度と言われており(Jurnal of Biomedical Materials Research, Vol.28, 783-789(1994))、接触角がこの範囲内であれば培養面の親水性は高く、接着細胞が培養面に好適に接着することが知られている。
水滑落時の前進接触角と後退接触角の差(ヒステリシス)とは、接触角ヒステリシスであり、水滴が培養面を滑落するときの前進接触角(θa)と、後退接触角(θr)との差(滑落時ヒステリシス(θa−θr))を示している。すなわち、水平に支持した表面に水滴を摘下し、表面を徐々に傾け、液滴が転落を開始したときの前進接触角と後退接触角にもとづき算出される。このヒステリシスは、表面の動的な濡れ性を示す指標として用いられる。
本実施形態の培養容器における培養面のヒステリシスは、25°より大きいことが好ましい。ヒステリシスが25°以下の場合は、十分な細胞接着率を得ることができないのに対し、ヒステリシスが25°よりも大きくなると、細胞接着率が顕著に向上するためである。
また、ヒステリシスを25°より大きくする領域は、培養容器全体であっても、培養容器の内表面の一部又は全部であっても良い。培養容器の内表面の一部でもヒステリシスが25°より大きくなれれば、その領域の細胞接着率を向上させることができ、細胞増殖効率が向上するためである。
本実施形態の培養容器を用いて培養する細胞は、接着細胞であれば特に限定されないが、多能性幹細胞(iPS細胞など)や胚性幹細胞(ES細胞)等を挙げることができる。
本実施形態の培養容器によれば、これらの細胞を培養面に接着して好適に培養することが可能である。
また、本実施形態の培養容器は、その培養面がポリオレフィン系樹脂からなるものとすることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン・コポリマー等を用いることが好ましく、特にポリエチレン又はポリプロピレンを用いることが好ましい。
また、培養面に用いるポリオレフィン系樹脂には、酸化防止剤を含有させることが好ましく、特にフェノール系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。このようにポリオレフィン系樹脂にフェノール系の酸化防止剤を含有させることで、紫外線照射を行ったときのポリオレフィン系樹脂のヒステリシスを好適に増大させることができるためである。
本実施形態の培養容器の培養面にコーティングする細胞接着因子としては、ラミニンやフィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリノーゲン等の接着タンパクを用いることが好ましく、特にラミニン又はそのフラグメントを好適に用いることができる。ラミニンのフラグメントとしては、例えばラミニン511−E8を用いることができる。
本実施形態の培養容器の製造方法は、フェノール系酸化防止剤を含有するポリオレフィンの層を有するフィルム又はシートから培養容器を形成し、培養容器のポリオレフィンの層に、オゾン発生波長を除いた紫外線照射を施して、静的接触角が95度以上であり、かつ水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有する培養面を形成し、培養面の一部又は全部に細胞接着因子をコーティングすることを特徴とする。
具体的には、例えば、以下の工程を含むものとすることができる。
まず、ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂ペレットを、押出成形やホットプレスによって製膜し、フィルム(又はシート)を形成する。
このポリオレフィン系樹脂としては、前述の通り、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン・コポリマー等を用いることが好ましく、特にポリエチレン又はポリプロピレンを用いることが好ましい。また、この樹脂ペレットの製造にあたっては、ポリオレフィン系樹脂に、フェノール系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。
次に、このフィルムを袋状に貼り合わせて、四方をシールし、培養容器を形成する。
そして、この培養容器に紫外線照射を照射して、その培養面のヒステリシスを25度より大きくする。
本実施形態における紫外線照射は、このようにフィルムを製袋して、培養容器を形成した後に行うことができる。すなわち、本実施形態における紫外線照射は、培養面を親水化するものではないため、培養面に直接照射しなくても良く、フィルム又はシートにより形成された閉鎖領域の外側より施すことで、培養面のヒステリシスを増大させることができる。また、このように紫外線照射を閉鎖領域の外側より施すことで、培養面の無菌性を保証しやすくなるという効果を得ることができる。
また、本実施形態における紫外線照射は、製袋する前のフィルムやシートに対して行うこともできる。さらに、インフレーションフィルムからフィルムを巻き取る間において紫外線照射を行うこともできる。また、樹脂ペレットに対して紫外線照射を行うこともできる。
すなわち、本実施形態における紫外線照射は、オゾン発生波長を含まないため、照射されたフィルムの表面が親水化されず、フィルムのヒートシール強度が大きく低下することがない。
このため、製袋前にフィルムやシートに紫外線照射を行っても、適切に製袋を行うことができ、従来法のようなヒートシールを行う部分をマスキングするといった煩雑な工程を含めることなく、培養容器を製造することが可能となっている。
さらに、得られた培養容器に細胞接着因子をコーティングする。細胞接着因子としては、ラミニン又はそのフラグメントを好適に用いることができる。
細胞接着因子のコーティングは、例えば培養容器内にラミニン溶液を入れて、37℃で1時間以上、静置させることにより、行うことができる。
なお、製袋前のフィルムに紫外線を照射して、次いで細胞接着因子をコーティングし、このフィルムを用いて培養容器の製袋を行うことも可能である。
以上説明したように、本実施形態の培養容器及びその製造方法によれば、接着細胞を好適に培養することが可能となる。
以下、本実施形態の培養容器の性能を評価するために行った試験について説明する。
実施例1の培養容器は、KF283(日本ポリエチレン株式会社製 酸化防止剤含有)を使用した。また、比較例1の培養容器は、125FN(宇部丸善ポリエチレン株式会社製 酸化防止剤無添加)を使用した。製膜は、ラボプラストミル(東洋精機製作所製)を使用して、押出成形により行った。また、これらのフィルムを袋状に貼り合わせて、四方をシールし、それぞれの培養容器を形成した。
実施例1の培養容器に対する紫外線照射には、UVランプ(主波長254nm、オゾン発生波長185nmは石英管によってカット,商品名TUV15W/G15T8,フィリップス社製)を使用し、積算光量26J/cmで照射を行った。積算光量は、紫外線積算光量計UIT−150(ウシオ電機株式会社製)にて測定した。
そして、実施例1と比較例1の培養容器の静的接触角とヒステリシスを測定した。
静的接触角及びヒステリシスの測定には、固液界面解析システムDropMaster 700(協和界面科学株式会社製)を使用した。
静的接触角(θs)は、フィルム上に純水3μlを滴下して測定した。また、ヒステリシス(θa−θr)は、フィルム上に純水30μlを滴下し、1秒毎に1°ずつ測定台を傾け、滑落時の前進接触角(θa)と後退接触角(θr)を接線法により算出して得た。その結果、実施例1の培養容器の静的接触角は、98.7°、ヒステリシスは34.5°であった。また、比較例1の培養容器の静的接触角は、96.7°、ヒステリシスは19.2°であった。
また、実施例1の培養容器の内表面には、細胞接着因子として、ラミニン511−E8(ラミニンのフラグメント)であるi−Matrix511(株式会社ニッピ製)を0.5μg/cmでコーティングした。コーティングは、培養容器内にラミニンのフラグメントを含有する溶液を注入して、37℃で1時間静置させることにより行った。
細胞としては、iPS細胞1231A3株(京都大学iPS細胞研究所)を用い、ポリスチレン製培養プレート(AGCテクノグラス株式会社製)上で培養していたiPS細胞を剥離したものを使用した。
培地としては、Stem Fit(登録商標)AK−02N(味の素株式会社製)を使用した。
上記のiPS細胞を実施例1と比較例1の培養容器にそれぞれ1.3×10cellsずつ播種した。そして、1日1回培地を交換して、5日後に培養容器内の細胞を観察し、写真撮影を行った。その結果を、図2に示す。
図2に示されるように、実施例1の培養容器では、iPS細胞が培養面に接着して十分に培養できていることが分かる。一方、比較例1の培養容器では、細胞の一部が剥離していることが分かる。
これにより、本実施形態の培養容器及びその製造方法によれば、接着細胞を好適に培養できることが明らかとなった。
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施例では接着細胞としてiPS細胞を用いているが、これに限定されるものではなく、接着細胞であればその他の細胞を用いることができる。また、培地の種類等も適宜変更することが可能である。
本発明は、培養容器を用いて、接着細胞を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。

Claims (5)

  1. 細胞を接着培養するための培養容器であって、前記培養容器の培養面の静的接触角が95度以上であり、前記培養面の水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有し、前記培養面に細胞接着因子がコーティングされたことを特徴とする培養容器。
  2. 前記培養面が、フェノール系酸化防止剤を含有するポリオレフィンからなることを特徴とする請求項1記載の培養容器。
  3. 前記ポリオレフィンが、ポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする請求項2記載の培養容器。
  4. 前記細胞接着因子が、ラミニン又はそのフラグメントである請求項1〜3のいずれかに記載の培養容器。
  5. フェノール系酸化防止剤を含有するポリオレフィンの層を有するフィルム又はシートから培養容器を形成し、
    前記培養容器の前記ポリオレフィンの層に、オゾン発生波長を除いた紫外線照射を施して、静的接触角が95度以上であり、かつ水滑落時の前進接触角と後退接触角の差が25度より大となる濡れ性を有する培養面を形成し、
    前記培養面の一部又は全部に細胞接着因子をコーティングする
    ことを特徴とする培養容器の製造方法。
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