JP2018138652A - 摩擦材 - Google Patents

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Abstract

【課題】銅成分を含まない摩擦材であって、高温での高い摩擦係数と耐摩耗性に優れた摩擦材を提供する。【解決手段】2種以上のチタン酸塩とセラミック繊維とを含有し、かつ銅成分を含まない摩擦材を用いることで、チタン酸塩による移着被膜の移着の程度を、異なる種類のチタン酸塩によって制御する。移着被膜を形成するチタン酸塩に加えて、さらに異なる種類のチタン酸塩及びセラミック繊維を組み合わせて用いることで、高温での高い摩擦係数と耐摩耗性に優れた摩擦材を得る。【選択図】なし

Description

本発明は、銅成分を含まない摩擦材に関し、特に自動車、鉄道車両、産業機械等のブレーキパッドまたはブレーキライニング、クラッチ等に用いられる摩擦材に関する。
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、或いはクラッチなどに使用される摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与え、且つ、その摩擦性能を調整する摩擦調整材、及び、これらの成分を一体化する結合材などの原材料からなっている。
昨今の車両の高性能化、高速化に伴い、ブレーキの役割は益々過酷なものとなってきており、十分に高い摩擦係数(効き)を有することが必要である。さらに高速からの制動時には高温となることから、低温低速での制動時とは摩擦状態が異なり、温度変化による摩擦係数の変化が少ない、安定した摩擦特性が求められている。
現在、一般的な摩擦材に金属繊維を適量含有することは、摩擦材の強度補強や摩擦係数の安定化、さらには高温における摩擦係数の維持や放熱効率の向上、耐摩耗性向上等に有効であることが知られている。この金属繊維の特性に着目し、スチール繊維を5〜10質量%、平均繊維長が2〜3mmの銅繊維を5〜10質量%、および粒径が5〜75μmの亜鉛粉を2〜5質量%含有した摩擦材が特許文献1に開示されている。
特許文献1によれば、摩擦材は銅繊維を所定量の範囲で含有すると、低温での摩擦係数の向上を図ることができ、高温高速時の摩擦係数の低下を抑制することができる。これは、摩擦材と相手材(ディスクロータ)との摩擦時に、銅の展延性によって相手材表面に凝着被膜が形成し、この被膜が保護膜として作用することで、高温での高い摩擦係数を維持し、相手材の摩耗を抑制することができるものと考えられる。
しかしながら、ディスクロータの摩耗粉やブレーキパッドの摩擦材に含まれる金属成分が摩擦材に食い込み、そこで凝集して大きな金属塊となってブレーキパッドとディスクロータの間に留まってしまう場合がある。このように凝集した金属塊は、ブレーキパッドやディスクロータを異常摩耗させることがある(特許文献2)。
現在、摩擦材に含まれる金属成分は主にスチール繊維や銅繊維といった金属繊維が多く、これらの繊維を多量に含有した場合、上述のディスクロータの異常摩耗を引き起こすおそれがある。
また、摩擦材中に含まれる銅成分は、ブレーキ制動により摩耗粉として放出されることから、自然環境への影響が指摘されている。
そこで特許文献3では、摩擦材中の銅成分の溶出を抑制する方法が開示されている。
特開2010−77341号公報 特開2007−218395号公報 特開2010−285558号公報
上述のように、相手材(ディスクロータ)の異常摩耗の防止および環境低負荷を目的として、銅成分を含まない摩擦材や銅成分の溶出を抑制した摩擦材等が種々検討されている。しかしながら、銅成分を含まない摩擦材は、銅の展延性による凝着被膜(保護膜)ができず、高温での摩擦係数が低下したり、摩耗量が大きいなどの課題があった。
そこで、銅の凝着被膜の代替効果を狙って、多量のチタン酸塩を摩擦材に使用すると、移着被膜が相手材に形成される。しかしながら、チタン酸塩単独では、形成される移着被膜が厚くなりすぎて、制動時に被膜に亀裂が入り部分的に剥離するためにブレーキパッドとディスクロータの接触が安定せず、摩擦材の摩擦係数が不安定となり、摩耗量が大きくなるおそれがあることから、改善の余地があった。
そこで本発明では、銅成分を含まない摩擦材であって、高温での高い摩擦係数と耐摩耗性に優れた摩擦材を提供することを目的とする。
本発明者らは、銅成分を含まない摩擦材であって、移着被膜を形成するチタン酸塩に加えて、さらに異なる種類のチタン酸塩及びセラミック繊維を組み合わせて用いることで、高温での高い摩擦係数と耐摩耗性に優れた摩擦材を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
なお本願明細書で、「銅成分を含まない」とは、銅繊維、銅粉、並びに銅を含んだ合金(真鍮又は青銅等)及び化合物のいずれも、摩擦材の原材料として配合していないことを言う。なお、環境負荷の観点から不純物として混入する銅成分は0.5質量%以下であることが好ましい。
すなわち本発明は、上記課題を解決するものであり、下記[1]〜[8]に関するものである。
[1] 2種以上のチタン酸塩とセラミック繊維とを含有し、かつ銅成分を含まない摩擦材。
[2] 前記2種以上のチタン酸塩が2種以上のチタン酸アルカリ金属塩を含有する、前記[1]に記載の摩擦材。
[3] 前記2種以上のチタン酸塩がチタン酸アルカリ土類金属・アルカリ金属塩とチタン酸アルカリ金属塩とを含有する、前記[1]に記載の摩擦材。
[4] 前記2種以上のチタン酸塩がチタン酸リチウムカリウムとチタン酸カリウムとを含有する、前記[1]又は[2]に記載の摩擦材。
[5] 前記2種以上のチタン酸塩がチタン酸マグネシウムカリウムとチタン酸カリウムとを含有する、前記[1]又は[3]に記載の摩擦材。
[6] 前記セラミック繊維の繊維径が0.1〜10μm、繊維長が1〜1000μm、かつショット含有量が0.1〜70質量%である、前記[1]〜[5]のいずれか1に記載の摩擦材。
[7] 前記2種以上のチタン酸塩の摩擦材における含有量が合計で3〜40体積%である、前記[1]〜[6]のいずれか1に記載の摩擦材。
[8] 前記セラミック繊維の摩擦材における含有量が1〜6体積%である、前記[1]〜[7]のいずれか1に記載の摩擦材。
本発明によれば、銅成分による凝着被膜の代わりに形成された、チタン酸塩による移着被膜の移着の程度を、異なる種類のチタン酸塩によって制御することができ、さらにセラミック繊維によって、該移着被膜を適度な厚みに研削することができる。これらにより、銅成分を含んでいなくても、高温における高い摩擦係数と耐摩耗性を有する摩擦材を得ることができる。
本発明に係る摩擦材は、2種以上のチタン酸塩とセラミック繊維とを含有し、かつ銅成分を含まないことを特徴とする。
<摩擦材>
摩擦材とは一般的に、結合材、摩擦調整材、繊維基材及び潤滑材を含み、前記摩擦調整材として、有機充填材や無機充填材等の充填材、研削材、金属粉等を含有する。
本発明におけるチタン酸塩は充填材として用いられ、セラミック繊維は繊維基材として用いられる。
<チタン酸塩>
本発明に係る摩擦材は、2種以上のチタン酸塩を含有することを特徴とする。チタン酸塩としては、移着の程度を制御する目的で2種以上を使用することが好ましい。
2種以上のチタン酸塩のうち、少なくともひとつは、チタン酸アルカリ金属塩やチタン酸アルカリ土類金属・アルカリ金属塩等が挙げられる。より具体的には、チタン酸リチウムカリウムやチタン酸マグネシウムカリウム等が好ましい。
中でも、鱗片状(層状)、柱状、板状又は扁平状と呼ばれる形状が、好ましく、これらの形状を有するチタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムがより好ましい。また、効力安定化の点から、形状は層状であることがさらに好ましい。
チタン酸リチウムカリウムの分子式は、KLiTiにおいてx=0.5〜0.7、y=0.27、z=1.73、w=3.85〜3.95などを使用することができる。
チタン酸マグネシウムカリウムの分子式は、KMgTiにおいてx=0.2〜0.7、y=0.4、z=1.6、w=3.7〜3.95などを使用することができる。
移着被膜形成の程度を制御する、もう一方のチタン酸塩としては、チタン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。より具体的には、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム等が好ましい。
中でも、繊維状、球状、粉状、不定形状又は複数の凸部形状のチタン酸塩が、前記鱗片状(層状)、柱状、板状又は扁平状のチタン酸塩と形状が異なることから好ましく、これらの形状を有するチタン酸カリウムがより好ましく用いられる。中でも、複数の凸部形状のチタン酸塩は耐摩耗性の点からより好ましい。
なお本明細書において、複数の凸部形状とは、チタン酸塩の平面への投影形状が少なくとも通常の多角形、円、楕円等とは異なり、2方向以上に凸部を有する形状を取りうるものであることを意味する。
凸部とは、光学乃至電子顕微鏡等による写真(投影図)に多角形、円、楕円等(基本図形)を当てはめ、それに対して突出した部分に対応する部分を言う。複数の凸部形状を有するチタン酸塩の具体的3次元形状としては、その投影図が、ブーメラン状、十字架状、アメーバ状、種々の動植物の部分(例えば、手、角、葉等)又はその全体形状、あるいはそれらの類似形状、金平糖状等が挙げられる。
以上より、本発明における2種以上のチタン酸塩は、2種以上のチタン酸アルカリ金属塩を含有すること、又は、チタン酸アルカリ土類金属・アルカリ金属塩とチタン酸アルカリ金属塩とを含有することが好ましい。より具体的には、チタン酸リチウムカリウムとチタン酸カリウム、又は、チタン酸マグネシウムカリウムとチタン酸カリウムとを含有することが特に好ましい。
本発明における2種以上のチタン酸塩は結晶質でも非晶質でもよい。また、摩擦材の強度を向上させるという観点から、チタン酸塩の表面にシランカップリング剤等により表面処理が施されていてもよい。
鱗片状(層状)、柱状、板状又は扁平状のチタン酸塩の摩擦材全体における含有量は、2〜30体積%であることが効力の安定化、フェードの摩擦係数の低下の防止といった、フェード特性向上の点から好ましく、2〜25体積%がより好ましい。
繊維状、球状、粉状、不定形状又は複数の凸部形状のチタン酸塩の摩擦材全体における含有量は、1〜25体積%であることが耐摩耗性の点から好ましく、1〜20体積%がより好ましい。
チタン酸塩の摩擦材における合計の含有量は、3〜40体積%であることが耐摩耗性の点から好ましく、3〜30体積%がより好ましい。
<セラミック繊維>
移着被膜による凝着作用の補強効果を狙って、先述したチタン酸塩を多量に使用すると、形成される移着被膜の膜厚が厚くなりすぎる。厚すぎる被膜は亀裂やひび等が生じやすくなり、該亀裂等が引き金となって部分的に剥離しやすくなる。被膜が剥離すると、摩擦材(ブレーキパッド)と相手材(ディスクロータ)との接触が安定せず、効き(摩擦係数)が不安定となり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
一方、研削材が硬すぎて、移着被膜を削りすぎると、鳴き等が発生するおそれがある。そのため、本発明では移着被膜を適度な厚みに削るマイルドな研削材として、セラミック繊維を用いる。中でも、ショット(粒状物)を含むセラミック繊維がより好ましく用いられる。
本発明において、セラミック繊維とは無機繊維の一種であり、人体内に取り込まれた場合でも短時間で分解され体外に排出される特徴を有する生体溶解性のものと、生体非溶解性のものがある。
生体溶解性無機繊維とは、その化学組成においてアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上であり、かつ、呼吸による短期バイオ永続性試験において20μm以下の繊維の質量半減期が10日以内である若しくは気管内注入時の短期バイオ永続性試験において20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内である、又は腹膜内試験において過度の発癌性の証拠が無い、又は長期呼吸試験において関連の病原性や腫瘍発生が無いことを満たす無機繊維を意味する(EU指令97/69/ECのNote Q(発癌性適用除外))。
このような生体溶解性無機繊維は、化学組成として、SiO、MgO及びSrOからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、具体的にはSiO−CaO−MgO系繊維、SiO−CaO系繊維、SiO−MgO系繊維、SiO−MgO−SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維やSiO−CaO−MgO−Al系繊維等の生体溶解性ロックウール等が挙げられる。
本発明において使用するセラミック繊維は、アルミナシリカ繊維と同等の優れた耐熱性を有し、さらに優れた生体溶解性及び耐水性を有する点で、生体溶解性セラミック繊維であるSiO−MgO−SrO系繊維が好ましい。また、これらの生体溶解性無機繊維は、無機繊維の原料を一般に使用される溶融紡糸法等により繊維化して製造される。
SiO−CaO−MgO系繊維、SiO−CaO−MgO−Al系繊維、SiO−MgO−SrO系繊維等の生体溶解性ロックウールや生体溶解性セラミック繊維としては、市販のRB220−Roxul1000(ラピナス社製)、ファインフレックス−E バルクファイバーT(ニチアス社製)、BIOSTARバルクファイバー(ITM社製)等が使用可能である。
生体非溶解性セラミック繊維としてはAl−SiO系繊維、Al−ZrO−SiO系繊維、Al系繊維、ムライト系繊維等が挙げられる。
セラミック繊維は繊維径0.1〜10μm、繊維長1〜1000μmであることが好ましく、繊維径0.2〜6μm、繊維長10〜850μmであることが更に好ましい。この範囲であれば、本発明の効果を有効に発揮することができる。
繊維径及び繊維長は、それぞれJIS A9504により測定することができる。
また、本発明で用いることのできるセラミック繊維は一般に、製造過程で繊維にならなかったショット(粒状物)が繊維中に含まれている。これらのショット含有量は繊維基材中0.1〜70質量%であることが好ましい。ショット含有量が上記範囲よりも多いと、相手材への攻撃性が増大する。一方ショット含有量が上記範囲よりも少ないと相手材のクリーニング効果が期待できなくなる。
なお、セラミック繊維とショットを製造過程で分離し、任意の比率で配合して使用することも可能である。また、セラミック繊維は、その表面にシランカップリング剤等により表面処理が施されていてもよい。
本発明において、セラミック繊維はロータ攻撃性の点から摩擦材全体中、通常、1〜6体積%、好ましくは1〜3体積%用いられる。
<その他の成分>
本発明に係る摩擦材に含まれるその他の成分として、結合材、摩擦調整材(充填材、研削材、金属粉)、繊維基材及び潤滑材について以下に述べる。
(結合材)
結合材としては通常用いられる結合材が含まれていればよい。
具体的には、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、各種変性フェノール樹脂を含む)、エラストマー変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。なお、各種変性フェノール樹脂には炭化水素樹脂変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂等が挙げられる。
エラストマー変性フェノール樹脂において、フェノール樹脂を変性させるエラストマーはフェノール樹脂に可塑性を与えるものであればよく、架橋した天然ゴムや合成ゴムが例示される。
フェノール樹脂を変性させるエラストマーとしては、アクリルゴム、シリコーンゴム等が好ましく用いられる。
エラストマー変性フェノール樹脂は摩擦材全体中に10〜30体積%含有することが好ましく、10〜25体積%含有することが更に好ましい。この範囲であれば、金属成分由来の凝着被膜が無くても、低温での摩擦係数の安定化を図ることができる。
なお、本発明において、結合材は摩擦材全体中、通常は10〜30体積%、好ましくは10〜25体積%用いられる。
(摩擦調整材:充填材)
充填材として有機充填材やチタン酸塩以外の無機充填材を含むことができる。有機充填材としては、例えば、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等からなる各種ゴムやタイヤトレッド、ゴムダスト、カシューダストなどの有機物ダスト等が挙げられる。
チタン酸塩以外の無機充填材としては、例えば、バーミキュライト、マイカ、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
有機充填材の含有量は、摩擦材中1〜20体積%であることが好ましい。無機充填材の含有量はチタン酸塩を含めて、摩擦材中1〜70体積%であることが好ましい。
(摩擦調整材:研削材)
研削材の粒径は小さいほどマイルドな研削材となるが、小さすぎると研削材としての役目を果たさなくなる。一方、粒径が大きいほど相手材を研削して摩擦係数を向上させるが、大きすぎると相手材を過剰に研削する。研削材の種類や形状、モース硬度に応じて、粒径や含有量を調整することが必要である。
研削材としては例えば、アルミナ、シリカ、シリコンカーバイド、ムライト、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、四三酸化鉄、マグネシア、クロマイト等を挙げることができる。
研削材全体の含有量は、摩擦材中通常1〜9体積%である。
(摩擦調整材:金属粉)
金属粉としては、亜鉛、鉄、スズ、アルミニウム、Fe−Al金属間化合物等の銅以外の金属を使用することができる。金属粉の含有量は合計で、摩擦材中通常0.5〜3体積%である。
(繊維基材)
繊維基材としては、有機繊維として、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、セルロース繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられる。
また、セラミック繊維以外の無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、ロックウール等が挙げられる。
金属繊維としては、スチール、アルミニウム、亜鉛、錫および錫合金、ステンレス等の繊維が挙げられる。
セラミック繊維も含んだ繊維基材全体の含有量は、摩擦材中通常1〜35体積%であり、好ましくは5〜30体積%である。
(潤滑材)
潤滑材としては、黒鉛、リン酸塩被覆黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化亜鉛、三硫化アンチモン等が挙げられる。
潤滑材全体の含有量は摩擦材中通常15体積%以下が好ましい。
リン酸塩被覆黒鉛は、固体潤滑材として用いられる黒鉛をリン酸塩で被覆したものである。リン酸塩で黒鉛を被覆することにより、高温時のロータへの移着を高め、ロータ摩耗量を低減することができる。
黒鉛を被覆するリン酸塩としては、その塩を構成する金属が、周期表(長周期型)の1族、2族、12族または13族に属する金属であることが好ましい。具体的には1族に属するNa、K;2族に属するMg;12族に属するZn;13族に属するAl;などを好ましく挙げることができる。具体的には、リン酸アルミニウム類、リン酸マグネシウム類、リン酸カルシウム類、リン酸カリウム類、リン酸ナトリウム類およびリン酸亜鉛類からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのリン酸塩は、水溶性やpHなどの観点から、リン酸水素塩が好ましい。
リン酸塩を用いて黒鉛を被覆する方法については、例えば特開2011−102381号公報に記載の公知の方法を用いることができる。
摩擦材におけるリン酸塩被覆黒鉛の含有量は適切な移着層の厚みを得る観点から1〜9体積%であることが好ましく、1〜6体積%がより好ましい。
潤滑材全体の含有量は摩擦材中通常1〜15体積%である。
上記に摩擦材に含まれていてもよい各種成分を例示したが、成分各々において、1種を用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
<摩擦材の製造方法>
本発明に係る摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研摩等の処理を施すことにより製造することができる。上記摩擦材を備えたブレーキパッドは、以下の工程(1)〜(4)により製造することができる。
(1)鋼板(プレッシャプレート)を板金プレスにより所定の形状に成形する工程。
(2)所定の形状に成形された鋼板に脱脂処理、化成処理及びプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程。
(3)上記(1)および(2)の工程を経たプレッシャプレートと、上記摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着する工程。
(4)その後アフタキュアを行い、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<実施例1〜8および比較例1〜4>
摩擦材の配合材料を表1に示す配合組成(体積%)に従って混合機にて均一に混合し、摩擦材混合物を得た。続いて摩擦材混合物を常温、圧力20MPaで10秒間予備成形した。成形後の予備成形品を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャープレート:P/P)を重ね、温度150℃、成形面圧40MPaで5分間加熱圧縮成形を行った。この加熱圧縮成形体に対し、温度150〜300℃で1〜4時間熱処理し、所定の厚みに研摩・塗装することで、実施例1〜8及び比較例1〜4に係る摩擦材を含むブレーキパッドを得た。
チタン酸リチウムカリウムは層状・鱗片状のTERRACESS L−SS(大塚化学株式会社製)を用いた。チタン酸マグネシウムカリウムは層状・鱗片状のTERRACESS P−SS(大塚化学株式会社製)を用いた。チタン酸カリウムは繊維状のTISMO D(大塚化学株式会社製)と複数の凸部形状のTERRACESS JP(大塚化学株式会社製)とをそれぞれ用いた。
セラミック繊維は、ショット含有量60%のSiO−MgO−SrO系の生体溶解性繊維(株式会社ITM社製、Biostar200/50)を用いた。
リン酸塩被覆黒鉛は以下の手順により得た。
リン酸二水素アルミニウムを純水に溶解し、濃度1質量%の水溶液を調製した。この水溶液100質量部に対し、人造黒鉛(東海カーボン社製、G152A(商品名)、平均粒径700μm)42質量部を加え、回転翼式攪拌機(アズワン社製、PM−203(機種名))により、温度50℃にて1時間攪拌した。
得られた混合物を大気中で24時間乾燥後、解砕したのち、真空中で800℃にて3時間熱処理を行った。熱処理後、乳鉢にて粉砕し、粒子表面がリン酸二水素アルミニウムで被覆された黒鉛粉末(リン酸塩被覆黒鉛)を得た。
得られたブレーキパッドの摩擦特性評価方法を以下に示す。
JASO C427(温度別摩耗試験)に準拠し、1/7スケールテスタを用いて摩擦特性の評価を行った。初速度を50km/h、減速度を2.94m/sに固定し、200回すり合わせた後、300℃で500回制動、400℃で500回制動、500℃で500回制動を行った。400℃及び500℃での制動後の摩耗量、並びに500℃での制動後の摩擦係数μの平均を求めた。なお、摩耗量は1000回制動相当に換算した。結果を表1に表す。ディスクロータ材にはFC250相当を用いた。
なお表1中、「500℃摩耗評価」とは、500℃におけるパッド摩耗量について、比較例1の結果を基準とし、−30%以下:◎、−30%より大きく−10%以下:○、−10%より大きく+10%未満:△、+10%以上:×としている。
「500℃性能評価」とは、500℃での摩擦係数μの平均が0.4以上である場合を○、0.4未満である場合を×と表記している。
Figure 2018138652
比較例1に係る摩擦材を含むブレーキパッドは銅繊維を含有しており、配合組成はNAO(Non−Asbestos Organic)材の摩擦材として従来一般的に用いられる配合組成に相当するものである。銅繊維を配合しない比較例2に係る摩擦材を含むブレーキパッドでは、500℃におけるパッド摩耗量が、比較例1と比べて+58%(表中、×と記載。)と著しく増大する。これは、相手材に銅による凝着被膜が形成されないためであると考えられる。また、比較例3において、相手材に移着被膜を形成すると考えられるリン酸塩被覆黒鉛のみを添加しても、比較例1と比べると500℃摩耗量が+35%(表中、×と記載。)と、依然として大きい。
しかしながら、実施例7において、チタン酸カリウムに加えて、チタン酸マグネシウムカリウムを添加することにより、500℃における摩耗量が、比較例1に対して−32%(表中、◎と記載。)と、大幅に改善されることが分かった。さらに、実施例1〜6及び8より、チタン酸カリウムに加えてチタン酸リチウムカリウムを添加することによっても、500℃におけるパッド摩耗量が、比較例1に比べて大幅に改善される。このとき、実施例1〜3に示すように、潤滑材である黒鉛とリン酸塩被覆黒鉛の配合割合及びセラミック繊維の含有量を変えても、良好な摩擦係数及び摩耗特性が得られた。
さらに、実施例2及び4〜8の結果より、2種類の異なるチタン酸塩が含まれていれば、チタン酸塩の種類、摩擦材全体における配合量や、2種のチタン酸塩の配合割合に関わらず、本発明の効果が得られることが分かった。
以上より、摩擦材は、2種以上の異なるチタン酸塩とセラミック繊維とを含むことにより、銅成分による凝着被膜が形成されなくても、高温における摩擦係数の低下を防ぎ、良好な耐摩耗性が得られることが分かった。これは、2種以上の異なるチタン酸塩によって相手材に移着被膜が形成されることで良好な摩擦係数を得ることができ、また、該移着被膜がセラミック繊維によって適度に研削されることで適度な厚さとなり、良好な耐摩耗性が得られるようになるものと考えられる。そのため、本発明によれば、銅成分を含む従来の摩擦材と同等またはそれ以上の性能を示す、優れた摩擦材が得られることが分かった。
本発明に係る摩擦材は、銅成分を含まないことから環境低負荷な摩擦材である。また、銅成分を含まないにも関わらず、2種以上の異なるチタン酸塩及びセラミック繊維を含有することにより、高温において、従来と同等かそれ以上の良好な摩擦係数及び耐摩耗性に優れた摩擦材となる。したがって、本発明に係る摩擦材は、自動車、鉄道車両、産業機械等に使用されるブレーキパッドやブレーキライニング、クラッチ等へ適用することは特に有用であり、その技術的意義は極めて大きなものである。

Claims (9)

  1. 2種以上のチタン酸塩とセラミック繊維とを含有し、かつ銅成分を含まず、
    前記2種以上のチタン酸塩が、鱗片状(層状)、柱状、板状又は扁平状であるチタン酸塩(A)と、繊維状、球状、粉状、不定形状又は複数の凸部形状であるチタン酸塩(B)とを含有する摩擦材。
  2. 前記チタン酸塩(A)がチタン酸アルカリ金属塩(a1)であり、前記チタン酸塩(B)がチタン酸アルカリ金属塩(b1)である、請求項1に記載の摩擦材。
  3. 前記チタン酸塩(A)がチタン酸アルカリ土類金属・アルカリ金属塩(a2)であり、前記チタン酸塩(B)がチタン酸アルカリ金属塩(b1)である、請求項1に記載の摩擦材。
  4. 前記チタン酸塩(B)が複数の凸部形状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材。
  5. 前記チタン酸アルカリ金属塩(a1)がチタン酸リチウムカリウムであり、前記チタン酸アルカリ金属塩(b1)がチタン酸カリウムである、請求項2又は4に記載の摩擦材。
  6. 前記チタン酸アルカリ土類金属・アルカリ金属塩(a2)がチタン酸マグネシウムカリウムであり、前記チタン酸アルカリ金属塩(b1)がチタン酸カリウムである、請求項3又は4に記載の摩擦材。
  7. 前記セラミック繊維の繊維径が0.1〜10μm、繊維長が1〜1000μm、かつショット含有量が0.1〜70質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の摩擦材。
  8. 前記2種以上のチタン酸塩の摩擦材における含有量が合計で3〜40体積%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の摩擦材。
  9. 前記セラミック繊維の摩擦材における含有量が1〜6体積%である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の摩擦材。
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