JP2018136351A - 超音波を用いた赤外線欠陥検出システム - Google Patents

超音波を用いた赤外線欠陥検出システム Download PDF

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Abstract

【課題】超音波エネルギを検査対象物に与えて欠陥箇所の温度変化を赤外線サーモグラフィ法で検出する超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、検査対象物に対する制限を少なくすることである。【解決手段】超音波を用いた赤外線欠陥検出システム120は、液体状の流動性媒体である水18に超音波エネルギを与える超音波加振装置と、水18から超音波エネルギが与えられた容器状の検査対象物118の表面の温度状態を撮像し検査対象物118の表面温度分布を表示する赤外線サーモグラフィ装置30とを備える。超音波加振装置は、検査対象物118である容器の内側に満たされた水18に超音波エネルギを与え、赤外線サーモグラフィ装置30は、検査対象物118である容器の外側表面の温度状態を撮像し測定結果として検査対象物118の表面温度分布を表示する。【選択図】図6

Description

本発明は、超音波を用いた赤外線欠陥検出システムに係り、特に検査対象物に超音波エネルギを与え、欠陥箇所で発熱する状態を赤外線で検出することを利用する超音波を用いた赤外線欠陥検出システムに関する。
構造物の欠陥を検出する方法としては、構造物に超音波を入力し、欠陥の箇所から反射して戻ってくる反射波に基づいて欠陥の有無や位置を検出する超音波探傷法が知られている。また、構造物に熱流を与えて、欠陥の箇所で生じる熱流の状態変化を赤外線サーモグラフィ装置で検出する赤外線欠陥検出法も用いられる。
例えば、特許文献1には、スパッタターゲットとバッキングプレートとの間の接合界面評価方法として、評価対象物を水中に浸漬してその表面を超音波走査する場合には、走査速度を約15〜30cm/minとして、1,000cmの対象物の場合走査時間が約30〜60分かかると述べている。これに対し、対象物を水浴に浸漬して水温で加熱あるいは冷却し、接合界面における熱エネルギの流れを赤外線カメラで撮像し、その撮像画面を解析して評価する場合は、約0.01〜100フレーム/sとして、1,000cmの対象物の撮像時間が約1〜500sで済むと述べている。このように、赤外線欠陥検出法は、熱流を与える手段を要するが、超音波探傷法に比べ格段に高速で広範囲の欠陥検出が可能である。
近年、超音波探傷法よりも広い検出範囲と短時間の検査時間という利点を有しつつ、構造物に熱流を与える必要のないSonic−IR法が用いられるようになった。Sonic−IR法は、検査対象物に超音波エネルギを与えると、欠陥箇所で摩擦が生じ、摩擦熱でその箇所の温度が上昇するので、その温度変化等を赤外線で検出する方法で、超音波を入力し、赤外線による温度分布を出力する欠陥検出法である。以下では、Sonic−IR法のことを「超音波を用いた赤外線欠陥検出法」と呼び、Sonic−IR法を用いる欠陥検出システムを「超音波を用いた赤外線欠陥検出システム」と呼ぶ。
例えば、特許文献2には、製鉄プラントの圧延ラインに用いられるテーブルローラの両端ネック部分のき裂の状態を診断するき裂診断装置として、超音波振動発生装置の超音波振動子をテーブルローラに所定の押付力で押し付け、ネック部分の表面に発生する温度変化について赤外線サーモグラフィ装置を用いて検出する構成が開示されている。ここでは、テーブルローラの両端ネック部の上部を覆う鋼鉄製の冷却水保護カバーが赤外線カメラの撮像の妨げになるので、冷却水保護カバーとは反対側のネック部分の表面の温度変化について反射板を用いて検出すること、超音波振動子の先端形状をテーブルローラの形状に合わせることなどが述べられている。
特表2007−531817号公報 特開2013−92489号公報
超音波を用いた赤外線欠陥検出法では、検査対象物に超音波を入力するため、特許文献2に述べられているように、検査対象物に超音波振動子を押し付ける。超音波エネルギがよく伝達するように、押付力を強くすると、剛性によっては検査対象物が損傷することが生じる。また、曲面を有する検査対象物の場合は、特許文献2に述べられているように、その曲面に適合する形状を有する超音波振動子を準備しなければならない。このように超音波を用いた赤外線欠陥検出法には、検査対象物の形状や剛性等に制限がある。
本発明の目的は、検査対象物に対する適用制限を少なくできる超音波を用いた赤外線欠陥検出システムを提供することである。
本発明に係る超音波を用いた赤外線欠陥検出システムは、検査対象物の形状に倣って隙間なく接触する液体状の流動性媒体に超音波エネルギを与える超音波加振装置と、液体状の流動性媒体から超音波エネルギが与えられた検査対象物の表面の温度状態を撮像し測定結果として検査対象物の表面温度分布を表示する赤外線サーモグラフィ装置と、を備え、容器型の形状を有する検査対象物について、超音波加振装置は、検査対象物である容器の内側に満たされた液体状の流動性媒体に超音波エネルギを与え、赤外線サーモグラフィ装置は、検査対象物である容器の外側表面の温度状態を撮像し測定結果として検査対象物の表面温度分布を表示することを特徴とする。
また、本発明に係る超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、液体状の流動性媒体は、水、油脂、アルコール類のいずれか1を主成分とすることが好ましい。
また、本発明に係る超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、液体状の流動性媒体は、各種添加物を含んでもよい。
上記構成により、超音波を用いた赤外線欠陥検出システムは、検査対象物の形状に倣って隙間なく接触する液体状の流動性媒体に超音波エネルギを与え、液体状の流動性媒体から超音波エネルギが与えられた検査対象物の表面の温度状態を撮像し測定結果として検査対象物の表面温度分布を表示する。したがって、検査対象物の形状を問わず、また剛性の低い検査対象物であっても、検査対象物について欠陥検出を容易に行うことが出来る。さらに、容器型の形状を有する検査対象物については、例えば投げ込み式の超音波振動子を有する超音波加振装置を用い、検査対象物である容器の内側に満たされた液体状の流動性媒体の中に超音波振動子を設置し、容器の内側から超音波エネルギを与えて、容器の外側表面の温度状態を赤外線サーモグラフィ装置で調べる。これにより、容器の内側の形状、外側の形状を問わず、欠陥検出を行うことが出来る。
また、超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、液体状の流動性媒体は、水、油脂、アルコール類のいずれか1を主成分とするものでよく、欠陥検出のための特別形状の治具等が不要である。
また、超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、液体状の流動性媒体は、各種添加物を含んでもよい。例えば、切削用添加剤が入った切削油や切削水、不凍液が入った水、防錆材を添加した水や油等をそのまま用いることが出来る。
参考実施の形態の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムの構成を示す図である。ここでは、耐熱溶射皮膜付タービンブレードにおいて基材部からの耐熱溶射皮膜の剥離を検出する例を示した。 超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、検査対象物の切欠から進展した疲労き裂を検出する例を示す図である。図2において、(a)は、初期状態の検査対象物の斜視図であり、(b)は、繰り返し曲げを与えたときの検査対象物の斜視図であり、(c)は(a)に対応する表面温度分布を示す図であり、(d)は(b)に対応する表面温度分布を示す図であり、(e)は、(d)の断面図で切欠から進展した疲労き裂を示す図である。 超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、スポット溶接された検査対象物の欠陥を検出する例を示す図である。図3において、(a)は、スポット溶接を示す図で、(b)は、スポット溶接された検査対象物を示す図であり、(c)は(a)に対応する表面温度分布を示す図であり、(d)は(b)に対応する表面温度分布を示す図であり、(e)は、(d)で検出された欠陥箇所の断面図である。 図1で述べた参考実施の形態の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムの変形例を示す図である。 参考実施の形態の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、検査対象物の一部を液体状の流動性媒体に浸漬するために、検査対象物に対し媒体浴槽を上下させる例を示す図である。 本発明に係る実施の形態の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、容器状の検査対象物の欠陥検出を行う例を示す図である。 参考実施の形態の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、プラント装置に用いられる液体状の処理媒体の流路用パイプの欠陥検出を行う例を示す図である。 参考実施の形態の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、液体状の流動性媒体を満たした媒体浴槽中に浸漬されて配置される検査対象物の欠陥検出を行う例を示す図である。図8(a)は、媒体浴槽における断面図、(b)は媒体浴槽の外側に配置される赤外線サーモグラフィ装置等の配置を示す図である。
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、検査対象物の材質として金属の場合を述べるが、超音波エネルギが与えられると欠陥箇所で摩擦が生じる材質、例えば、プラスチックやセラミック、ゴム等であっても構わない。また、外力が加わると変形するものであっても構わない。例えば、剛性の低い物体の他、板バネ、コイルばね等、弾性体、粘弾性体等であってもよい。
以下で述べる形状、寸法、材質等は、説明のための例示であって、超音波を用いた赤外線欠陥検出システムの仕様等に合わせ、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、参考実施の形態における超音波を用いた赤外線欠陥検出システム10の構成を示す図である。以下では、超音波を用いた赤外線欠陥検出システム10を、特に断らない限り、欠陥検出システム10と呼ぶ。図4以下で説明する各種の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムも、特に断らない限り、欠陥検出システムと呼ぶ。
図1には、欠陥検出システム10の構成要素ではないが、曲面形状を有する検査対象物8を示した。図1(a)は全体構成図で、(b)は、検査対象物8における欠陥箇所の断面図である。検査対象物8は、翼形状の基材部6の外表面全体に耐熱溶射皮膜7がコーティングされた耐熱溶射皮膜付タービンブレードである。
欠陥検出システム10は、超音波水槽12に張られた水18に検査対象物8の一部を浸漬し、水18を介して検査対象物8に超音波エネルギを与え、検査対象物8の表面温度分布を赤外線サーモグラフィ装置30で撮像し、撮像データから、欠陥の有無、その位置、その大きさ等を検出するシステムである。
超音波水槽12は、縦、横がそれぞれ約1〜2m、深さが約1m弱の大きさの大型超音波洗浄槽である。超音波水槽12は、水18が満たされる浴槽空間を有する媒体浴槽14と、媒体浴槽14の底部等に配置される超音波加振装置16が一体化されて構成される。
媒体浴槽14は、金属製の大型容器を用いることが出来る。ホーロー引き等の表面処理が行われていてもよい。
超音波加振装置16は、水18に超音波エネルギを与える超音波振動源である。超音波加振装置16は、任意の周波数と任意の振幅の超音波を出力するファンクションジェネレータである超音波発振器と、超音波発振器と適当な信号線で接続され、超音波を外部に出力する超音波振動子とで構成される。図1の例では、複数個の超音波振動子が媒体浴槽の外側底面に固定設置されている。超音波加振装置16の発振周波数、最大出力等は、欠陥検出システム10の仕様に応じたものが用いられる。例えば、発振周波数は、検出すべき欠陥の種類や大きさ等から定めることが出来る。欠陥の種類としては、剥離欠陥、クラック欠陥、空洞欠陥等である。最大出力は、媒体浴槽14の大きさ、浴槽空間に満たされる水18の量によって適宜変更できる。一例を挙げると、発振周波数は数100Hz〜数10kHz、最大出力は数100Wから数10kWの範囲である。例えば、発振周波数が約40kHz、最大出力が約0.5kWの超音波発振器が用いられる。
水18は、液体状の流動性媒体であって、超音波加振装置16が出力する超音波エネルギを検査対象物8に伝達する超音波エネルギ伝達物質である。ここでは、液体状の流動性媒体である水18として、水道水が用いられる。水道水以外であっても、検査対象物8の外形形状に倣って隙間なく接触する液体状の流動性媒体であれば、欠陥検出システム10における超音波エネルギ伝達物質として用いることが出来る。
液体状の流動性媒体としては、水道水である水18以外であっても、例えば、水、油脂、アルコール類のいずれか1を主成分とする液体を用いることが出来る。なお、一般的な超音波探傷法においては、超音波振動子の先端部と検査対象物の表面との間に超音波エネルギの伝達損失を少なくするためにクリーム状のグリセリン等を塗布することが行われる。この場合のクリーム状の媒体の塗布は、超音波振動子の先端部に局部的に媒体を塗布するものであって、自然状態において検査対象物8の外形形状に倣って隙間なく接触するものではなく、浸漬とは異なる概念である。したがって、媒体浴槽に粘度の低いグリセリンを大量に充填し、その中に検査対象物の一部を埋没させる場合を除いて、ここでいう液体状の流動性媒体に含まれない。
液体状の流動性媒体は、各種添加物を含んでもよい。例えば、切削用添加剤が入った切削油や切削水、不凍液が入った水、防錆材を添加した水や油等を、液体状の流動性媒体として用いることが出来る。
液体状の流動性媒体である水18を超音波エネルギ伝達物質として用いることで、水18を介して超音波エネルギを検査対象物8に与えられるので、検査対象物8が複雑な形状であってもよく、形状の制約がない。また、検査対象物8が変形するような大きな押付力を加えることもなく、剛性に対する制約がない。
水18は、媒体浴槽14に適当な水位レベルで満たすことがよい。適当な水位レベルとしては、媒体浴槽14の深さの約50〜80%程度がよい。
保持装置22は、媒体浴槽14の水18に検査対象物8を浸漬させて保持する装置である。保持装置22は、検査対象物8の一方端側を水18に浸漬する高さになるように高さを調整して、他方端部を水18の上方空間で固定して保持する。保持装置22は、検査対象物8の他方端部を固定する固定部24と、固定部24の高さを調整する高さ調整部26を備える。図1に水面20を示した。
固定部24は、水面20が波立っても検査対象物8が運動しない程度に検査対象物8の他方端部を緩やかに固定する保持手段である。検査対象物8が運動しない程度とは、赤外線サーモグラフィ装置30による温度状態検出に支障のない程度のことで、具体的には、赤外線サーモグラフィ装置30のデータ転送速度であるフレームレート以下の低周波振動であれば許容できる。緩やかに固定、とは、検査対象物8を損傷しないように保持することを意味する。かかる固定部24としては、例えば、把持部分にクッション材が設けられたクリップ、両面接着シート等を用いることが出来る。検査対象物8が磁力で把持できる材質であるときは、磁石を固定部24として用い、媒体浴槽14に対して磁力で検査対象物8を吊下げるようにしてもよい。
高さ調整部26は、検査対象物8の一方端側が水18の水面20下に位置するように固定部24の高さを調整し、検査対象物8の一部を水18に浸漬する。浸漬量が小さいと、水18を介して超音波エネルギが十分に伝達されず、浸漬量が大きいと、赤外線サーモグラフィ装置30の検出可能領域が狭くなる。これらから、浸漬量は、検査対象物8の全体の高さの約5〜20%程度とすることがよい。
赤外線サーモグラフィ装置30は、検査対象物8の温度分布測定装置であり、検査対象物8の欠陥検出装置でもある。赤外線サーモグラフィ装置30は、赤外線カメラ32と、赤外線カメラ32で撮像した検出データを温度分布に変換し、その結果を測定結果として表示する解析表示装置34で構成される。ここでは、赤外線サーモグラフィ装置30として、赤外線カメラ32と、解析表示装置34を別体構成としたが、これをカメラと演算装置と画像モニタとを一体化した装置としてもよい。
赤外線カメラ32の画素数や、撮像のフレームレート、温度分解能等は、欠陥検出システム10の仕様に応じたものが用いられる。例えば、赤外線カメラ32の画素数は、検出すべき欠陥の最小寸法や、赤外線カメラ32から検査対象物8までの距離等で定めることが出来る。また、撮像のフレームレートは、検査時間の仕様等から定めることが出来る。温度分解能は、検出すべき欠陥の種類や大きさに基づいて定めることが出来る。一例を挙げると、赤外線カメラ32の画素数は数万素子から数10万素子、撮像のフレームレートは、数Hzから数100Hz、温度分解能は、数10mKから数100mKの範囲である。撮像のフレームレートは、超音波加振装置16の発振周波数に比べ2〜3桁程度低い周波数である。例えば、赤外線カメラ32の画素数を約20万素子、撮像のフレームレートを約100Hz、温度分解能を約25mKの赤外線サーモグラフィ装置30が用いられる。
解析表示装置34は、ディスプレイを有するパーソナルコンピュータを用いることが出来る。解析表示装置34は、赤外線カメラ32で撮像した検出データを温度分布に変換した画像表示データに変換する機能と、変換された画像表示データは温度分布データとしてディスプレイに表示する機能を有する。解析表示装置34は、適当なインタフェース回路を用いて超音波加振装置16と接続し、超音波加振装置16の動作を制御するものとしてよい。図1では、解析表示装置34のディスプレイに、検査対象物8の温度分布図36が表示されている。
検査対象物8の温度分布図36には、局部的に温度の高い箇所38が環状に現れていることが示される。この箇所38の周辺が剥離欠陥箇所である。図1(b)は、検査対象物8の箇所38の部分についての断面図である。検査対象物8は、翼形状の基材部6の外表面全体に耐熱溶射皮膜7がコーティングされた耐熱溶射皮膜付タービンブレードで、欠陥箇所は、基材部6から耐熱溶射皮膜7が剥離している箇所である。図1(b)では、基材部6の片面側に剥離が生じている。欠陥箇所は、タービンブレード6と耐熱溶射皮膜7の間に空洞が生じている部分4と、部分4の周辺において僅かな隙間が生じている部分5に分けられる。
欠陥検出システム10では、超音波によって欠陥箇所において摩擦が生じることで発生する温度変化を検出するものである。空洞が生じている部分4と僅かな開口隙間が生じている部分5の相違は、基材部6と耐熱溶射皮膜7の界面における開口隙間の隙間間隔の大小である。欠陥検出システム10において、摩擦が発生する欠陥の隙間間隔は、材料の物性によって異なるが、一例を挙げると、数μm程度である。数μm程度よりも十分大きい隙間間隔の欠陥を開口欠陥と呼ぶと、開口欠陥では欠陥界面の所に空気層あるいは真空層があり、摩擦が発生しない。また、数μm程度よりも十分小さい隙間間隔を閉口欠陥と呼ぶと、閉口欠陥では界面の間にほとんど隙間がなく摩擦が発生しても赤外線サーモグラフィ装置30の温度分解能以下の温度上昇となって検出できない。したがって、欠陥検出システム10で検出できるのは、開口欠陥と閉口欠陥の境界部で、数μmの隙間間隔の開口隙間を有する箇所である。
図1(b)の例では、空洞が生じている部分4は開口欠陥であるので、摩擦による温度上昇が生じない。また、僅かな隙間が生じている部分5よりも外側は閉口欠陥であるので、摩擦による温度上昇がほとんど生じない。摩擦による温度上昇が検出できるのは、数μmの僅かな隙間が生じている部分5のみで、剥離によって空洞が生じている部分4の周囲を環状に囲む部分である。このように、剥離欠陥の場合には、剥離によって空洞が生じた部分4の周囲に、環状に局部的に温度の高い箇所38が現われる。この箇所38で囲まれた領域が剥離によって空洞が生じている部分である。このようにして、欠陥検出システム10において、剥離欠陥の位置とその大きさが検出される。
図1の検査対象物8は、曲面状の外形を有するので、一般的なSonic−IR法を適用しようとすると、この曲面状の外形に適合した先端形状を有する超音波振動子が必要となる。また、検査対象物8における剥離欠陥は、基材部6と耐熱溶射皮膜7の間の界面に発生するので、仮に適当な先端形状の超音波振動子を用意しても、一般的なSonic−IR法では摩擦熱を発生させる程度の超音波エネルギの入力が必要で、検査対象物8にかなり大きな押付力で超音波振動子を押し付ける必要がある。そのように大きな押付力で検査対象物8に超音波振動子を押し付けると、耐熱溶射皮膜7の剥離やき裂を発生させる恐れがある。押付力を少なくすると超音波エネルギが検査対象物8に十分に伝達されず、欠陥検出が不十分となる。また、一般的な赤外線探傷法を適用しようとすると、曲面状の外形を有する検査対象物8に適当な熱流を形成する手段が必要である。
これに対し、図1における欠陥検出システム10では、検査対象物8の形状に倣って隙間なく接触する液体状の流動性媒体である水18に超音波エネルギを与え、水18から超音波エネルギが与えられた検査対象物8の表面の温度状態を撮像し検査対象物8の表面温度分布を表示する。したがって、検査対象物8が曲面状の形状であっても、また、耐熱溶射皮膜7の剛性が低くても、検査対象物8の剥離欠陥の検出を容易に行うことが出来る。
図2と図3は、欠陥検出システム10を用いて剥離欠陥以外の欠陥検出の例を示す図である。図2は、曲面形状を有する検査対象物の切欠から進展した疲労き裂を検出する例を示す。図3は、剛性の低い薄板同士をスポット溶接した検査対象物の欠陥を検出する例を示す。
図2において、(a)は、初期状態の検査対象物の斜視図であり、(b)は、繰り返し曲げを与えたときの検査対象物の斜視図であり、(c)は(a)に対応する表面温度分布を示す図であり、(d)は(b)に対応する表面温度分布を示す図であり、(e)は、(d)の拡大図で、切欠から進展した疲労き裂を示す図である。
図2における検査対象物40は、曲面形状を有する試験片本体42と、試験片本体42に設けられた切欠部44で構成される疲労試験片である。検査対象物40は、所定の繰り返し曲げが印加されることで、図2(b)に示すように、外形が部分的に塑性変形した検査対象物43となる。しかし目視では、検査対象物43に欠陥が視認されていない。
図2(c),(d)は、図1で説明した欠陥検出システム10を用いて得られた温度分布を示す図である。図2(c)は、図2(a)の初期状態における検査対象物40の温度分布で、局部的温度上昇が検出されない。図2(d)は、図2(b)の繰り返し曲げ負荷後の検査対象物41の温度分布で、切欠部44の先の部分に局部的に温度の高い箇所46が検出される。この箇所46の周辺が、繰り返し曲げ負荷による疲労き裂が生じた欠陥箇所である。
図2(e)は、検査対象物41の箇所46の部分の拡大図である。欠陥箇所は、切欠部44から延びるき裂が生じている箇所で、切欠部44に接続してき裂がかなり大きく開口している部分48と、き裂が僅かに開口している部分50と、き裂がほとんど開口していない部分52に分けられる。
図2(e)の例では、き裂がかなり大きく開口している部分48は、図1(b)で説明した開口欠陥であるので、摩擦による温度上昇が生じない。また、き裂がほとんど開口していない部分52は、図1(b)で説明した閉口欠陥であるので、摩擦による温度上昇がほとんど生じない。摩擦による温度上昇が検出できるのは、開口の隙間間隔が数μmの僅かな開口が生じている部分50のみで、切欠部44からやや離れた箇所である。したがって「かなり大きく開口している」とは、数μmよりも大きな隙間開口であることで、「ほとんど開口していない」とは、数μm未満の隙間開口であることを意味する。数μmの具体的数値は、検査対象物8の物性や検査仕様等に基づいて予め設定することが可能である。このように、切欠部44から進展する疲労き裂の欠陥の場合には、切欠部44からやや離れた箇所に、局部的に温度の高い箇所46が現われる。切欠部44とこの箇所46を結ぶ線上に、疲労き裂の欠陥が生じている。このようにして、欠陥検出システム10において、疲労き裂の欠陥の位置とおおよその大きさが検出される。
図3において、(a)は、スポット溶接を示す図で、(b)は、スポット溶接された検査対象物を示す図であり、(c)は(a)に対応する表面温度分布を示す図であり、(d)は(b)に対応する表面温度分布を示す図であり、(e)は、(d)で検出された欠陥箇所の断面図である。
図3(a)で、スポット溶接は、一対の溶接端子54,56と、溶接端子54,56の間に溶接電力パルスを供給する溶接電源58を用いて行われる。ここでは、スポット溶接対象物60として、2枚の薄板62,64が示されている。スポット溶接は、2枚の薄板62,64を重ねて、薄板62側に溶接端子54を宛がい、これに対向する位置で薄板64側に溶接端子56を宛がい、溶接電源58から溶接端子54,56の間に溶接電力パルスを印加し、薄板62と薄板64を溶接箇所66で一体化する。図3(b)は、溶接によって一体化された検査対象物61を示す図で、目視ではスポット溶接による欠陥が視認されていない。
図3(c),(d)は、図1で説明した欠陥検出システム10を用いて得られた温度分布を示す図である。図3(c)は、スポット溶接対象物60の温度分布で、局部的温度上昇が検出されない。図3(d)は、図3(b)のスポット溶接後の検査対象物61の温度分布で、溶接箇所66に対応する箇所に、局部的に温度の高い環状箇所70,72が検出される。環状箇所70,72は互いに離間し、環状箇所が二重となっている。この環状箇所70,72の周辺が、スポット溶接によって生じた欠陥箇所である。
図3(e)は、検査対象物61の環状箇所70,72の部分についての断面図である。図3(e)に示されるように、2枚の薄板62,64は、環状の部分80で接続され一体化されている。この環状の部分80は、スポット溶接によって2枚の薄板62,64が一体化された溶接箇所66に対応する部分である。環状の部分80の外側の隙間82は、2枚の薄板62,64がスポット溶接されていない部分で、溶接箇所66の外側の部分である。
正常にスポット溶接が行われているときは、2枚の薄板62,64が接続一体化される部分は、溶接箇所66と同じ円形形状部分となって環状の部分80とはならない。図3(e)では、スポット溶接が完全でなく、溶接個所の64に対応する部分の中央部に隙間84が生じている。
隙間82,84は図1(b)で説明した開口欠陥である。隙間82に接する環状の部分80の境界には、僅かな開口が生じている領域があり、同様に、環状の部分80に接する隙間84の境界にも僅かな開口が生じている領域がある。開口欠陥である隙間82,84では、薄板62,64の間で摩擦が生じない。環状の部分80の外周側で隙間82に接する環状境界、環状の部分80の内周側で隙間84と接する環状境界では、数μmの僅かな開口が生じていて、ここで摩擦による温度上昇が検出される。
図3(d)において局部的に温度の高い環状箇所70は、環状の部分80の外周側で隙間82に接する環状境界の部分であり、環状箇所70の内側のもう1つの環状箇所72は、環状の部分80の内周側で隙間84に接する環状境界の部分である。このように、薄板62,64のスポット溶接の溶接箇所66に生じる欠陥の場合には、溶接箇所66に局部的に温度の高い環状箇所70,72が現われる。スポット溶接が正常に行われても環状箇所70は現われる。このように、欠陥検出システム10において、スポット溶接の溶接箇所66およびその欠陥の位置とその大きさが検出される。
図1では、検査対象物8は、媒体浴槽14に満たされた液体状の流動性媒体である水18に浸漬されるように保持装置22によって吊下げられた。検査対象物8に液体状の流動性媒体を介して超音波エネルギを与える方法は、検査対象物の形状によって他の手段の方が便利なことがある。図4から図7を用いて、検査対象物8に液体状の流動性媒体を介して超音波エネルギを与える様々な方法を説明する。
図4に示す参考実施の形態の欠陥検出システム11は、図1の欠陥検出システム10の変形例である。欠陥検出システム11は、欠陥検出システム10と同様に、床面2に固定して置かれた媒体浴槽14に対し検査対象物8を±Z方向に上下させるものであるが、超音波加振装置の構成が異なる。超音波加振装置は、防水型の超音波振動子17が防水型信号線で超音波発振器と接続される構成を有し、防水型の超音波振動子17は投げ込み式で媒体浴槽14に満たされる液体状の流動性媒体である水18に浸漬して設置される。超音波発振器は媒体浴槽14の外側の適当な個所に設けられる。このような構成とすることで、媒体浴槽14として一般的な容器を用いることが出来る。さらに、屋外のプールや、ドックヤードを媒体収容空間として用いることも可能になる。これにより、ボート、船舶等を検査対象物とすることが容易になる。
図5に示す参考実施の形態の欠陥検出システム100は、検査対象物98の一部を液体状の流動性媒体である水18に浸漬するために、検査対象物98に対し媒体浴槽102を±Z方向に上下させる方法である。検査対象物98として大型構造物である大型トラスが示されている。検査対象物98の少なくとも一部が媒体浴槽102に満たされた液体状の流動性媒体である水18に浸漬されるように、媒体浴槽102に対する相対的位置を定めて検査対象物98を保持する。保持のための保持装置104としては、検査対象物98を床面に対し一定の高さ位置で固定する固定部106と、媒体浴槽102を±Z方向に昇降させる昇降部108が用いられる。昇降部108としては、油圧ジャッキを用いる。油圧ジャッキに代えて、昇降用モータを用いてもよい。
検査対象物98が大型で、赤外線サーモグラフィ装置30の赤外線カメラ32が固定位置では検査対象物98の全体を撮像できないときは、赤外線カメラ32を検査対象物98の長手方向であるX方向に沿って移動可能とすることが好ましい。赤外線サーモグラフィ装置30の解析表示装置34のディスプレイには、検査対象物98の温度分布図110が表示され、局部的に温度の高い箇所112が示される。
このように、図5に示す欠陥検出システム100は、検査対象物98が大型構造物であって、検査対象物98を±Z方向に移動させるよりも媒体浴槽102を±Z方向に移動させることの方が容易であるときに用いられる。
図6は、容器状の検査対象物118の欠陥検出を行う欠陥検出システム120を示す図である。容器状の検査対象物118の例は、図1,2で説明した媒体浴槽14である。検査対象物118である容器の内側には液体状の流動性媒体である水18が満たされる。超音波加振装置は、図4で説明したものと同じで、水18に超音波エネルギを与える超音波振動子17としては、検査対象物118である容器の内側空間に設置される投げ込み式で防水型のものが用いられる。
赤外線サーモグラフィ装置30の赤外線カメラ32は、検査対象物118である容器の外側に配置され、検査対象物118である容器の外側の温度状態を撮像する。検査対象物118の外側一周に渡って撮像するためには、赤外線カメラ32を検査対象物118の外周に沿って移動可能とすることが好ましい。これに代えて、赤外線カメラ32を固定位置として、検査対象物118を回転させてもよい。その場合には、検査対象物118である容器に満たされた水18が波立たないように、検査対象物118をゆっくりと回転させることがよい。
赤外線サーモグラフィ装置30の解析表示装置34のディスプレイには、検査対象物118の温度分布図122が表示され、局部的に温度の高い箇所124が示される。
このように、図6に示す欠陥検出システム120は、検査対象物98が液体状の流動性媒体である水18を満たせるような容器であるときに用いると便利である。
図7は、参考実施の形態として、プラント装置に用いられる液体状の処理媒体の流路用パイプ128の欠陥検出を行う欠陥検出システム130を示す図である。図7(a)は、プラント装置における欠陥検出システム130の全体を示す図で、(b)は、欠陥検出システム130における赤外線サーモグラフィ装置30と検査対象の流路用パイプ128の断面とを示す図である。
図7では、プラント装置として、処理媒体供給パイプ132から第1タンク134に処理媒体140を一旦収容し、第1タンク134から送出ポンプ136を備える流路用パイプ128を用いて第2タンク138に向けて送出する例を示した。検査対象物は、処理媒体140が流れる流路用パイプ128である。処理媒体140は、超音波エネルギが与えられる液体状の流動性媒体に相当する。
処理媒体140に超音波エネルギを与える超音波加振装置は、図4,6で説明したものと同じで、水18に超音波エネルギを与える超音波振動子17としては、第1タンク134の内側空間に設置される投げ込み式で防水型のものが用いられる。超音波加振装置の発振周波数fUSは、流路用パイプ128の管内を流動する液体状の処理媒体140の流動速度が変動する周波数よりも高周波側の周波数に設定される。処理媒体140の流動速度の変動の原因の1つは送出ポンプ136による脈動である。この脈動周波数をfとして、fUS>fに設定される。例えば、脈動周波数fを60Hzとして、fUSは、fよりも数10倍高周波側の数kHz以上に設定される。
赤外線サーモグラフィ装置30の赤外線カメラ32は、検査対象物である流路用パイプ128の外側に配置され、流路用パイプ128の外側表面の温度状態を撮像する。第1タンク134から第2タンク138までの流路用パイプ128の全長に渡って撮像するためには、赤外線カメラ32を流路用パイプ128の敷設方向に沿って移動可能とすることが好ましい。赤外線サーモグラフィ装置30の解析表示装置34のディスプレイには、検査対象物である流路用パイプ128の温度分布図144が表示され、局部的に温度の高い箇所146が示される。
このように、図7に示す欠陥検出システム130は、処理媒体140に超音波エネルギを与えることによって、流路用パイプ128の内側の形状、外側の形状、曲り等を問わず、実際のプラントの現場において欠陥検出を行うことが出来る。
図8は、参考実施の形態として、液体状の流動性媒体である水18を満たした媒体浴槽152中に浸漬されて配置される検査対象物148の欠陥検出を行う欠陥検出システム150を示す図である。このような検査対象物148の例としては、原子炉格納容器内におけるパイプ、各種隔壁、復水器内における冷却水パイプ等がある。図8(a)は、媒体浴槽152における断面図、(b)は媒体浴槽152の外側に配置される赤外線サーモグラフィ装置154等の配置を示す図である。
図7までは、赤外線サーモグラフィ装置は、検査対象物の水に浸漬されていない部分の欠陥を検出するために用いられているが、図8では、検査対象物148の水18に浸漬されている部分における欠陥を検出する。赤外線は、大気には吸収されないが、水18には吸収される。したがって、赤外線カメラ32を水18に浸漬させて配置しても、赤外線カメラ32と検査対象物148との間に水18があると、赤外線カメラ32は検査対象物148からの赤外線を検出できない。
そこで、図8の欠陥検出システム150では、防水型の赤外線サーモグラフィ装置154を用いる。防水型の赤外線サーモグラフィ装置154は、媒体浴槽152の中の水18に浸漬して配置される防水型の赤外線カメラ装置156と、媒体浴槽152の外側に配置される解析表示装置34を含んで構成される。防水型の赤外線カメラ装置156は、内部に赤外線カメラ32が収納される防水ケース158と、赤外線カメラ32に接続され媒体浴槽152の外に引き出される防水型信号線160を含む。防水型信号線160は媒体浴槽152の外へ引き出された後、解析表示装置34から引き出される防水型でない一般的な信号線161に接続される。
防水ケース158は、防水筐体159と、防水筐体159に取り付けられる撮像窓162と、撮像窓162の外周部に張り出す張出枠体164とを含む。防水筐体159と撮像窓162は防水構造で接続され、防水筐体159と撮像窓162とで区画された内部空間は、気密かつ液密の空間で、その中に赤外線カメラ32が配置される。赤外線カメラ32の撮像レンズは撮像窓162に向かい合うように配置される。防水筐体159には、赤外線カメラ32から引き出される防水型信号線160を通す防水ブッシュが設けられる。
撮像窓162は、赤外線を吸収しない透明体で構成される。かかる撮像窓162としては、サファイアガラス板を用いることができる。防水筐体159と撮像窓162との間の防水構造としては、防水筐体159の内壁面と撮像窓162の外周面とをシリコーン樹脂でコーキング処理する構造、防水筐体159の内壁面と撮像窓162の外周面との間に弾性体の防水リングを配置する構造等を用いることができる。防水筐体159の内壁面と撮像窓162の外周面との間をテーパねじ構造として、さらにコーキング処理を施すものとしてもよい。
張出枠体164は、撮像窓162の外側の外周部を環状に取り囲む部品である。撮像窓162の外側とは、赤外線カメラ32に向かい合う側を内側としてその反対側で、水18に向かい合う側である。環状は円環状でもよく、多角形環状等でもよい。張出枠体164は、防水筐体159を検査対象物148の表面に向い合せたときに、張出枠体164と撮像窓162と検査対象物148とで囲まれた空間166を形成する機能を有する。
防水筐体159の空間166に面して開口する気体供給口168は、防水筐体159に設けられる気体流路169と逆止弁170と気体供給チューブ172を介して、媒体浴槽152の外側に配置される加圧気体供給源174に接続される。加圧気体供給源174としてはコンプレッサを用いることができる。
気体供給口168は、加圧気体供給源174から供給される加圧気体を空間166に噴出して供給する。これによって、空間166にある水18を張出枠体164の外側に押し出し、空間166を赤外線を吸収しない気体のみの空間にする。逆止弁170は、赤外線カメラ32が向かい合う位置における媒体浴槽152の水圧以上の気体圧の気体が気体供給口168から噴出するようにするために設けられる。例えば、検査対象物148の欠陥検出を行う位置が媒体浴槽152の水深で10mであるときは、その位置の水圧は大気圧に比べ約1atm高いので、気体供給口168からはその水圧よりも高い約2atm以上の気体圧を有する気体が噴出する。逆止弁170にはバイアス圧を設定できるので、例えば、バイアス圧を約0.2atmとすると、気体供給口168からは約2.2atmの気体圧を有する気体が噴出する。
検査対象物148が媒体浴槽152中で固定されている場合には、気体供給口168から噴出する気体の気体圧によって動くことはないので、気体供給口168からの噴出流量を多くできる。噴出流量が十分多いときは、張出枠体164を検査対象物148に接触させなくても、空間166の中の水18を張出枠体164の外側に排除できる。したがって張出枠体164は、弾性体でなくてもよく、単純な環状板材とすることができる。気体供給口168から噴出する気体の気体圧によって検査対象物148が動く可能性があるときは、気体供給口168からの噴出流量をあまり多くできず、例えば、張出枠体164を弾性体リングとして、検査対象物148に押し付けながら、空間166の中の水18を張出枠体164の外側に押し出すようにして排除する。
なお、検査対象物148が媒体浴槽152中でしっかり固定されてなく、気体供給口168から噴出する気体の気体圧で動く可能性があるときは、検査対象物148を一時的に固定する手段を用いることがよい。例えば、検査対象物148の表面に一時的吸着盤等を設けて欠陥測定中は一時的吸着盤を固定するようにすることができる。一時的吸着盤としては真空吸着盤や、磁石吸着盤等を用いることができる。また、検査対象物148の裏側を押さえて保持できる場合は、適当な押さえ保持装置を用いて、検査対象物148について気体供給口168からの噴出する気体を受ける側と反対側を押さえ保持するようにしてもよい。
防水筐体159の天井部から上方に延びて取り付けられるカメラ支持部材176は、防水ケース158を媒体浴槽152の中で移動可能に支持する柱部材である。図8には互いに直交するX方向とY方向とZ方向を示した。Z方向が重力に平行な方向で、上方とはZ方向に沿って上方であり、水深方向とはZ方向に沿って下方である。X方向は防水ケース158と検査対象物148との間の間隔を増減する方向である。カメラ支持部材176は媒体浴槽152の外側に設けられる移動装置によって、X方向とY方向とZ方向のそれぞれについて任意の移動量で移動することができ、これによって赤外線カメラ32の撮像範囲を検査対象物148の表面に沿って走査することができる。
防水型の超音波振動子17は、水18に浸漬され、水18に超音波エネルギを与える超音波振動源である。防水型の超音波振動子17は防水型信号線180を介して媒体浴槽152の外側に設けられる超音波発振器182に接続される。防水型の超音波振動子17から上方に延びて取り付けられる振動子支持部材184は、防水型の超音波振動子17を媒体浴槽152の中で移動可能に支持する柱部材である。振動子支持部材184は媒体浴槽152の外側に設けられる移動装置によって、少なくともZ方向について任意の移動量で移動することができ、これによって赤外線カメラ32の撮像位置に合わせて防水型の超音波振動子17を移動することができる。
振動子支持部材184は、カメラ支持部材176と独立に移動してもよく、カメラ支持部材176の移動に連動して移動するものとしてもよい。後者の場合は、防水型の超音波振動子17と防水型の赤外線カメラ装置156との間を常に所定の位置関係とすることができ、検査対象物148に与える超音波エネルギをほぼ同一の条件としながら、赤外線カメラ32の撮像範囲を検査対象物148の表面に沿って走査することができる。
欠陥検出システム150において、水18を満たした媒体浴槽152中に浸漬されて配置される検査対象物148の欠陥検出は、次のようにして行われる。水18を満たした媒体浴槽152中に浸漬して配置された超音波振動子17から水18に超音波エネルギを与え、水18を介して検査対象物148に超音波エネルギを与える。そして、カメラ支持部材176を適当に移動させて、水18を満たした媒体浴槽152中で防水型の赤外線カメラ装置156を検査対象物148の表面に近接させる。そのとき、気体供給口168から気体を噴出して空間166の中の水18を排除しながら、検査対象物148の表面の温度状態を防水ケース158の撮像窓162を介して撮像する。撮像されたデータは防水型信号線160を介して媒体浴槽152の外部に設けられる解析表示装置34に伝送される。解析表示装置34は測定結果として検査対象物148の表面温度分布をディスプレイに表示する。
図8では、ディスプレイに検査対象物148の温度分布図186が表示され、局部的に温度の高い箇所188が示される。カメラ支持部材176を適当に移動させることで、媒体浴槽152中で防水型の赤外線カメラ装置156を検査対象物148の表面に沿って走査でき、これによって、水18を満たした媒体浴槽152中に浸漬されて配置される検査対象物148の表面の全域に渡って、欠陥検出を行うことができる。
図8の例では、検査対象物148が水18の中でZ方向に延びるものとしたので、赤外線カメラ装置156の撮像方向はYZ平面にほぼ垂直のX方向を向くものとした。カメラ支持部材176に赤外線カメラ装置156の撮像方向を任意に変更できる撮像方向変更部を設けることで、赤外線カメラ装置156の撮像方向をX方向のみならず任意の方向とすることができる。このようにすることで、検査対象物148が水18の中で水平方向に延びるものの場合や、検査対象物148が水18の中で傾斜面を有する場合等に、適切に対応できる。かかる撮像方向変更部としては、適当な傘歯車機構と小型モータを組み合わせたもの等を用いることができる。
2 床面、4,5 (欠陥箇所の)部分、6 (耐熱溶射皮膜付タービンブレードの)基材部、7 耐熱溶射皮膜、8,40,41,43,61,98,118,148 検査対象物、10,11,100,120,130,150 (超音波を用いた赤外線)欠陥検出システム、12 超音波水槽、14,102,152 媒体浴槽、16 超音波加振装置、17 (防水型の)超音波振動子、18 (液体状の流動性媒体である)水、20 水面、22,104 保持装置、24,106 固定部、26 高さ調整部、30 赤外線サーモグラフィ装置、32 赤外線カメラ、34 解析表示装置、36,110,124,144,186 温度分布図、38,46,112,124,146,188 (局部的に温度の高い)箇所、42 試験片本体、44 切欠部、48 き裂がかなり大きく開口している部分(開口欠陥)、50 き裂が僅かに開口している部分、52 き裂がほとんど開口していない部分(閉口欠陥)、54,56 溶接端子、58 溶接電源、60 スポット溶接対象物、66 溶接箇所、62,64 薄板、70,72 環状箇所、80 環状の部分、82,84 隙間、108 昇降部、128 流路用パイプ、132 処理媒体供給パイプ、134 第1タンク、136 送出ポンプ、138 第2タンク、140 処理媒体、154 防水型の赤外線サーモグラフィ装置、156 防水型の赤外線カメラ装置、158 防水ケース、159 防水筐体、160,180 防水型信号線、161 信号線、162 撮像窓、164 張出枠体、166 空間、168 気体供給口、169 気体流路、170 逆止弁、172 気体供給チューブ、174 加圧気体供給源、176 カメラ支持部材、182 超音波発振器、184 振動子支持部材。

Claims (3)

  1. 検査対象物の形状に倣って隙間なく接触する液体状の流動性媒体に超音波エネルギを与える超音波加振装置と、
    液体状の流動性媒体から超音波エネルギが与えられた検査対象物の表面の温度状態を撮像し測定結果として検査対象物の表面温度分布を表示する赤外線サーモグラフィ装置と、
    を備え、
    容器型の形状を有する検査対象物について、
    超音波加振装置は、
    検査対象物である容器の内側に満たされた液体状の流動性媒体に超音波エネルギを与え、
    赤外線サーモグラフィ装置は、
    検査対象物である容器の外側表面の温度状態を撮像し測定結果として検査対象物の表面温度分布を表示することを特徴とする超音波を用いた赤外線欠陥検出システム。
  2. 請求項1に記載の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、
    液体状の流動性媒体は、水、油脂、アルコール類のいずれか1を主成分とすることを特徴とする超音波を用いた赤外線欠陥検出システム。
  3. 請求項2に記載の超音波を用いた赤外線欠陥検出システムにおいて、
    液体状の流動性媒体は、各種添加物を含むことを特徴とする超音波を用いた赤外線欠陥検出システム。
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