以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
(実施の形態1)
[1.マルチプレクサの基本構成]
本実施の形態では、TD−LTE(Time Division Long Term
Evolution)規格のBand25(送信通過帯域:1850−1915MHz、受信通過帯域:1930−1995MHz)およびBand66(送信通過帯域:1710−1780MHz、受信通過帯域:2010−2200MHz)に適用されるクワッドプレクサについて例示する。
本実施の形態に係るマルチプレクサ1は、Band25用デュプレクサとBand66用デュプレクサとが共通端子50で接続されたクワッドプレクサである。
図1は、実施の形態に係るマルチプレクサ1の回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ1は、送信側フィルタ11および13と、受信側フィルタ12および14と、インダクタンス素子21(第2インダクタンス素子)と、共通端子50と、送信入力端子10および30と、受信出力端子20および40とを備える。また、マルチプレクサ1は、共通端子50においてアンテナ素子2に接続されている。共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と、基準端子であるグランドとの間には、インダクタンス素子31(第1インダクタンス素子)が接続されている。なお、インダクタンス素子31は、1つのパッケージとしてマルチプレクサ1に含めた構成としてもよいし、マルチプレクサ1の外部、例えば、マルチプレクサ1を構成する送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14の少なくともいずれかが配置される基板上または基板内に形成された構成であってもよい。
送信側フィルタ11は、送信回路(RFICなど)で生成された送信波を、送信入力端子10を経由して入力し、当該送信波をBand25の送信通過帯域(1850−1915MHz:第1の通過帯域)でフィルタリングして共通端子50へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第1の弾性波フィルタ)である。
受信側フィルタ12は、共通端子50から入力された受信波を入力し、当該受信波をBand25の受信通過帯域(1930−1995MHz:第2の通過帯域)でフィルタリングして受信出力端子20へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第2の弾性波フィルタ)である。また、受信側フィルタ12と共通端子50との間には、インダクタンス素子21が直列接続されている。インダクタンス素子21が受信側フィルタ12の共通端子50側に接続されることにより、受信側フィルタ12の通過帯域外の帯域を通過帯域とする送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ14のインピーダンスは誘導性となる。
送信側フィルタ13は、送信回路(RFICなど)で生成された送信波を、送信入力端子30を経由して入力し、当該送信波をBand66の送信通過帯域(1710−1780MHz:第3の通過帯域)でフィルタリングして共通端子50へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第3の弾性波フィルタ)である。
受信側フィルタ14は、共通端子50から入力された受信波を入力し、当該受信波をBand66の受信通過帯域(2010−2200MHz:第4の通過帯域)でフィルタリングして受信出力端子40へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第4の弾性波フィルタ)である。
送信側フィルタ11および13、ならびに、受信側フィルタ14は、共通端子50に直接接続されている。
なお、インダクタンス素子21は、受信側フィルタ12と共通端子50との間に限らず、受信側フィルタ14と共通端子50との間に直列接続されていてもよい。
[2.弾性表面波共振子の構造]
ここで、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する弾性表面波共振子の構造について説明する。
図2は、本実施の形態に係る弾性表面波フィルタの共振子を模式的に表す概略図であり、(a)は平面図、(b)および(c)は(a)に示した一点鎖線における断面図である。図2には、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する複数の共振子のうち、送信側フィルタ11の直列共振子の構造を表す平面摸式図および断面模式図が例示されている。なお、図2に示された直列共振子は、上記複数の共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数や長さなどは、これに限定されない。
送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する共振子100は、圧電基板5と、櫛形形状を有するIDT(InterDigital Transducer)電極101aおよび101bとで構成されている。
図2の(a)に示すように、圧電基板5の上には、互いに対向する一対のIDT電極101aおよび101bが形成されている。IDT電極101aは、互いに平行な複数の電極指110aと、複数の電極指110aを接続するバスバー電極111aとで構成されている。また、IDT電極101bは、互いに平行な複数の電極指110bと、複数の電極指110bを接続するバスバー電極111bとで構成されている。複数の電極指110aおよび110bは、X軸方向と直交する方向に沿って形成されている。
また、複数の電極指110aおよび110b、ならびに、バスバー電極111aおよび111bで構成されるIDT電極54は、図2の(b)に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっている。
密着層541は、圧電基板5と主電極層542との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。密着層541の膜厚は、例えば、12nmである。
主電極層542は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。主電極層542の膜厚は、例えば162nmである。
保護層55は、IDT電極101aおよび101bを覆うように形成されている。保護層55は、主電極層542を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜である。保護層55は、圧電膜53とIDT電極54とで構成される凹凸形状に沿って、圧電膜53とIDT電極54の上に、例えば25nmの厚さで形成されている。
なお、密着層541、主電極層542および保護層55を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極54は、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極54は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属又は合金から構成されてもよく、また、上記の金属又は合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護層55は、形成されていなくてもよい。
次に、圧電基板5の積層構造について説明する。
図2の(c)に示すように、圧電基板5は、高音速支持基板51と、低音速膜52と、圧電膜53とを備え、高音速支持基板51、低音速膜52および圧電膜53がこの順で積層された構造を有している。
圧電膜53は、50°YカットX伝搬LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸から50°回転した軸を法線とする面で切断したタンタル酸リチウム単結晶、またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。圧電膜53は、例えば、厚みが600nmである。なお、送信側フィルタ13および受信側フィルタ14については、42〜45°YカットX伝搬LiTaO3圧電単結晶、または圧電セラミックスからなる圧電膜53が用いられる。
高音速支持基板51は、低音速膜52、圧電膜53ならびにIDT電極54を支持する基板である。高音速支持基板51は、さらに、圧電膜53を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、高音速支持基板51中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電膜53および低音速膜52が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板51より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板51は、例えば、シリコン基板であり、厚みは、例えば200μmである。
低音速膜52は、圧電膜53を伝搬するバルク波よりも、低音速膜52中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電膜53と高音速支持基板51との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速膜52は、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜であり、厚みは、例えば670nmである。
圧電基板5の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性表面波共振子を構成し得るので、当該弾性表面波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
また、受信側フィルタ12の共通端子50側にインピーダンス整合用のインダクタンス素子21が直列接続された場合など、複数の弾性表面波フィルタ間でのインピーダンス整合をとるため、インダクタンス素子やキャパシタンス素子などの回路素子が付加される。これにより、共振子100のQ値が等価的に小さくなる場合が想定される。しかしながら、このような場合であっても、圧電基板5の上記積層構造によれば、共振子100のQ値を高い値に維持できる。よって、帯域内の低損失性を有する弾性表面波フィルタを形成することが可能となる。
なお、高音速支持基板51は、支持基板と、圧電膜53を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速膜とが積層された構造を有していてもよい。この場合、支持基板は、サファイア、リチウムタンタレート、リチウムニオベイト、水晶等の圧電体、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト等の各種セラミック、ガラス等の誘電体またはシリコン、窒化ガリウム等の半導体及び樹脂基板等を用いることができる。また、高音速膜は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、DLC膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等、様々な高音速材料を用いることができる。
なお、図2の(a)および(b)において、λはIDT電極101aおよび101bを構成する複数の電極指110aおよび110bの繰り返しピッチ、LはIDT電極101aおよび101bの交叉幅、Wは電極指110aおよび110bの幅、Sは電極指110aと電極指110bとの間の幅、hはIDT電極101aおよび101bの高さを示している。
[3.各フィルタおよびインダクタンス素子の構成]
[3−1.送信側フィルタの回路構成]
以下、図3A〜図6Cを用いて、各フィルタの回路構成について説明する。
図3Aは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand25の送信側フィルタ11の回路構成図である。図3Aに示すように、送信側フィルタ11は、直列共振子101〜105と、並列共振子151〜154と、整合用のインダクタンス素子141、161および162とを備える。
直列共振子101〜105は、送信入力端子10と送信出力端子61との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子151〜154は、送信入力端子10、送信出力端子61および直列共振子101〜105の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子101〜105および並列共振子151〜154の上記接続構成により、送信側フィルタ11は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。
インダクタンス素子141は、送信入力端子10と直列共振子101との間に直列接続されている。インダクタンス素子141は第3インダクタンス素子であり、後述するインダクタンス素子21を接続した受信側フィルタ12とのアイソレーションが必要な送信側フィルタ11は、アンテナ素子2に接続される共通端子50とは反対側の送信入力端子10に直列にインダクタンス素子141を有している。なお、インダクタンス素子141は、送信入力端子10と並列、つまり、送信入力端子10と直列共振子101との接続経路と基準端子との間に接続されていてもよい。インダクタンス素子141を有することにより、インダクタンス素子141と他のインダクタンス素子161、162との結合を利用することで、送信側フィルタ11のアイソレーションを大きくすることができる。
また、インダクタンス素子161は、並列共振子152、153および154の接続点と基準端子との間に接続されている。インダクタンス素子162は、並列共振子151と基準端子との間に接続されている。
送信出力端子61は、共通端子50(図1参照)に接続されている。また、送信出力端子61は、直列共振子105に接続されており、並列共振子151〜154のいずれにも直接接続されていない。
図3Cは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand66の送信側フィルタ13の回路構成図である。図3Cに示すように、送信側フィルタ13は、直列共振子301〜304と、並列共振子351〜354と、整合用のインダクタンス素子361〜363とを備える。
直列共振子301〜304は、送信入力端子30と送信出力端子63との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子351〜354は、送信入力端子30、送信出力端子63および直列共振子301〜304の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子301〜304および並列共振子351〜354の上記接続構成により、送信側フィルタ13は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。また、インダクタンス素子361は、並列共振子351および352の接続点と基準端子との間に接続されている。インダクタンス素子362は、並列共振子353と基準端子との間に接続されている。インダクタンス素子363は、送信入力端子10と直列共振子301との間に接続されている。インダクタンス素子363は、上述した送信側フィルタ11におけるインダクタンス素子141と同様、第3インダクタンス素子である。インダクタンス素子363は、送信入力端子30と並列、つまり、送信入力端子30と直列共振子301との接続経路と基準端子との間に接続されていてもよい。
送信出力端子63は、共通端子50(図1参照)に接続されている。また、送信出力端子63は、直列共振子304に接続されており、並列共振子351〜354のいずれにも直接接続されていない。
[3−2.受信側フィルタの回路構成]
図3Bは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand25の受信側フィルタ12の回路構成図である。図3Bに示すように、受信側フィルタ12は、例えば、縦結合型の弾性表面波フィルタ部を含む。より具体的には、受信側フィルタ12は、縦結合型フィルタ部203と、直列共振子201と、並列共振子251〜253とを備える。
図4は、本実施の形態に係る縦結合型フィルタ部203の電極構成を示す概略平面図である。同図に示すように、縦結合型フィルタ部203は、IDT211〜IDT215と、反射器220および221と、入力ポート230および出力ポート240とを備える。
IDT211〜215は、それぞれ、互いに対向する一対のIDT電極で構成されている。IDT212および214は、IDT213をX軸方向に挟み込むように配置され、IDT211および215は、IDT212〜214をX軸方向に挟み込むように配置されている。反射器220および221は、IDT211〜215をX軸方向に挟み込むように配置されている。また、IDT211、213および215は、入力ポート230と基準端子(グランド)との間に並列接続され、IDT212および214は、出力ポート240と基準端子との間に並列接続されている。
また、図3Bに示すように、直列共振子201、ならびに、並列共振子251および252は、ラダー型フィルタ部を構成している。
受信入力端子62は、インダクタンス素子21(図1参照)を介して共通端子50(図1参照)に接続されている。また、図3Bに示すように、受信入力端子62は、並列共振子251に接続されている。
図3Dは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand66の受信側フィルタ14の回路構成図である。図3Dに示すように、受信側フィルタ14は、直列共振子401〜405と、並列共振子451〜454と、整合用のインダクタンス素子461とを備える。
直列共振子401〜405は、受信出力端子40と受信入力端子64との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子451〜454は、受信出力端子40、受信入力端子64および直列共振子401〜405の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子401〜405および並列共振子451〜454の上記接続構成により、受信側フィルタ14は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。また、インダクタンス素子461は、並列共振子452、452および453の接続点と基準端子との間に接続されている。
受信入力端子64は、共通端子50(図1参照)に接続されている。また、図3Dに示すように、受信入力端子64は、直列共振子401に接続されており、並列共振子451には直接接続されていない。
なお、本実施の形態に係るマルチプレクサ1が備える弾性表面波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成は、上記実施の形態に係る送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14で例示した配置構成に限定されない。上記弾性表面波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成は、各周波数帯域(Band)における通過特性の要求仕様により異なる。上記配置構成とは、例えば、直列共振子および並列共振子の配置数であり、また、ラダー型および縦結合型などのフィルタ構成の選択である。
本実施の形態に係るマルチプレクサ1が備える弾性波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成のうち、本発明の要部特徴は、(1)送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14のそれぞれは、直列共振子および並列共振子の少なくとも1つを備え、(2)一の弾性波フィルタである受信側フィルタ12の受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続され、かつ、並列共振子251と接続され、(3)受信側フィルタ12以外の弾性波フィルタである送信側フィルタ11、13の送信出力端子61および63ならびに受信側フィルタ14の受信入力端子64は、それぞれ、共通端子50に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子105、304および405と接続されている、ことである。
つまり、本実施の形態に係るマルチプレクサ1は、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性表面波フィルタと、アンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続される共通端子50と、共通端子50と一の弾性波フィルタである受信側フィルタ12の受信入力端子62との間に直列に接続されたインダクタンス素子21とを備える。
ここで、複数の弾性表面波フィルタのそれぞれは、圧電基板5上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板5上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の弾性表面波フィルタのうち、受信側フィルタ12の受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続され、かつ、並列共振子251と接続される。一方、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の送信出力端子61および63ならびに受信入力端子64は、それぞれ、共通端子50に接続され、かつ、直列共振子105、304および401と接続され、並列共振子と接続されていない。
また、インダクタンス素子31は共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間に接続され、共通端子50とアンテナ素子2との間に直列に接続されないので、各フィルタに直列に接続される抵抗成分はないため、インピーダンス整合におけるインダクタンス素子31のQ値の影響は少ない。したがって、上記要部特徴を有するマルチプレクサ1によれば、Q値が低いインダクタンス素子を用いた場合であっても、マルチプレクサを構成する各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
[3−3.各フィルタおよびインダクタンス素子の配置構成]
図5Aは、本実施の形態に係るマルチプレクサの送信側フィルタおよび受信側フィルタの配置の一例を示す平面図である。図5Bは、本実施の形態に係るマルチプレクサの送信側フィルタおよび受信側フィルタの配置の一例を示す断面図である。図5Bは、図5AにおけるVB−VB線における断面図である。
図5Aおよび図5Bに示すように、マルチプレクサ1では、送信側フィルタ11および13のそれぞれを構成する圧電基板11aおよび13aと受信側フィルタ12および14のそれぞれを構成する圧電基板12aおよび14aとは、実装基板6の上に実装されている。
より具体的には、圧電基板11a、12a、13aおよび14aは、図5Bに示すように、実装基板6の上にはんだ7により実装されている。
また、共通端子50は、図5Aに示すように、実装基板6の圧電基板11a、12a、13aおよび14aが実装される面と反対側の面において、実装基板6の一端に近い側に配置されている。そして、圧電基板11aおよび14aは、共通端子50に最も近い一端側に、共通端子50を挟んで並んで配置されている。また、圧電基板12aおよび13aは、共通端子50に最も近い一端と対向する他端側に並んで配置されている。つまり、圧電基板11aおよび14aは、圧電基板12aおよび14aよりも共通端子50に近い位置に配置されている。なお、圧電基板11a、12a、13aおよび14aは、図5Aに示す配置関係に限らず、他の配置関係となるように配置されてもよい。
また、実装基板6の上には、圧電基板11a、12a、13aおよび14aを覆うように、封止樹脂8が配置されている。封止樹脂8は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性の樹脂により構成されている。
図6A〜図6Dは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1におけるインダクタンス素子21およびインダクタンス素子31の配置を示すための、実装基板6の一の層および他の層における平面図である。
実装基板6は、プリント基板が複数層積層された構成を有している。複数層のプリント基板には、配線パターンおよびビアが形成されている。例えば、実装基板6は、図6A〜図6Dに示すように、第1層6a、第2層6b、第3層6cおよび第4層6dを含んでいる。第1層6aには配線パターン7aおよびビア8a、第2層6bには配線パターン7bおよびビア8b、第3層6cには配線パターン7cおよびビア8c、第4層6dには配線パターン7dおよびビア8dが形成されている。
また、実装基板6には、インダクタンス素子21およびインダクタンス素子31が内蔵されている。また、実装基板6には、送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ14を構成するインダクタンス素子が内蔵されている。図6B〜図6Dに示すように、第2層6b、第3層6cおよび第4層6dには、インダクタンス素子21および31の一部がそれぞれ配線パターンとして形成されている。第2層6b、第3層6cおよび第4層6dを積層し、第2層6bと第3層6c、および、第3層6cと第4層6dにおけるインダクタンス素子21および31の配線パターンをそれぞれ接続することにより、インダクタンス素子21および31が形成される。
ここで、インダクタンス素子21および31は、図6B〜図6Dに示すように、インダクタンス素子21および31をそれぞれ構成する配線の巻き方向が同一となるように形成されている。インダクタンス素子21および31を構成する配線の巻き方向とは、実装基板6を第1層側から平面視したときに、第1層6a側から第4層6d側へインダクタンス素子21および31のそれぞれを構成する配線パターンを辿ったときに、当該配線パターンが巻き回される方向(時計回り又は反時計回り)のことをいう。これにより、インダクタンス素子21および31には相互インダクタンスが発生するので、実装基板6において、平面視したときのインダクタンス素子21および31それぞれの占める面積を狭小化することができる。
[4.弾性表面波フィルタの動作原理]
ここで、本実施の形態に係るラダー型の弾性表面波フィルタの動作原理について説明する。
例えば、図3Aに示された並列共振子151〜154は、それぞれ、共振特性において共振周波数frpおよび反共振周波数fap(>frp)を有している。また、直列共振子101〜105は、それぞれ、共振特性において共振周波数frsおよび反共振周波数fas(>frs>frp)を有している。なお、直列共振子101〜105の共振周波数frsは、略一致するように設計されるが、必ずしも一致していない。また、直列共振子101〜105の反共振周波数fas、並列共振子151〜154の共振周波数frp、および、並列共振子151〜154の反共振周波数fapについても同様であり、必ずしも一致していない。
ラダー型の共振子によりバンドパスフィルタを構成するにあたり、並列共振子151〜154の反共振周波数fapと直列共振子101〜105の共振周波数frsとを近接させる。これにより、並列共振子151〜154のインピーダンスが0に近づく共振周波数frp近傍は、低域側阻止域となる。また、これより周波数が増加すると、反共振周波数fap近傍で並列共振子151〜154のインピーダンスが高くなり、かつ、共振周波数frs近傍で直列共振子101〜105のインピーダンスが0に近づく。これにより、反共振周波数fap〜共振周波数frsの近傍では、送信入力端子10から送信出力端子61への信号経路において信号通過域となる。さらに、周波数が高くなり、反共振周波数fas近傍になると、直列共振子101〜105のインピーダンスが高くなり、高周波側阻止域となる。つまり、直列共振子101〜105の反共振周波数fasを、信号通過域外のどこに設定するかにより、高周波側阻止域における減衰特性の急峻性が大きく影響する。
送信側フィルタ11において、送信入力端子10から高周波信号が入力されると、送信入力端子10と基準端子との間で電位差が生じ、これにより、圧電基板5が歪むことでX方向に伝搬する弾性表面波が発生する。ここで、IDT電極101aおよび101bのピッチλと、通過帯域の波長とを略一致させておくことにより、通過させたい周波数成分を有する高周波信号のみが送信側フィルタ11を通過する。
以下、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の高周波伝送特性およびインピーダンス特性について、比較例に係るマルチプレクサと比較しながら説明する。
[5.マルチプレクサの高周波伝送特性]
以下、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の高周波伝送特性を、比較例に係るマルチプレクサの高周波伝送特性と比較しながら説明する。
比較例に係るマルチプレクサの構成は、図1に示した本実施の形態に係るマルチプレクサ1と比較して、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子であるグランドとの間にインダクタンス素子31が接続されておらず、代わりに共通端子50とアンテナ素子2の間に直列にインダクタンス素子が接続された構成である。
図7Aは、本実施の形態および比較例に係るBand25の送信側フィルタ11の通過特性を比較したグラフである。図7Bは、本実施の形態および比較例に係るBand25の受信側フィルタ12の通過特性を比較したグラフである。図7Cは、本実施の形態および比較例に係るBand66の送信側フィルタ13の通過特性を比較したグラフである。図7Dは、本実施の形態および比較例に係るBand66の受信側フィルタ14の通過特性を比較したグラフである。
図7A〜図7Dより、Band25の送信側および受信側、ならびに、Band66の送信側および受信側において、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の通過帯域内の挿入損失が比較例にかかるマルチプレクサの通過帯域内の挿入損失よりも優れていることが解る。さらに、本実施の形態に係るマルチプレクサ1では、Band25の送信側および受信側、ならびに、Band66の受信側の全ての周波数帯域において、通過帯域内の要求仕様(送信側挿入損失2.0dB以下、および、受信側挿入損失3.0dB以下)を満足していることが解る。
一方、比較例に係るマルチプレクサでは、Band25の送信側および受信側において、通過帯域内の要求仕様を満足していないことが解る。
以上のように、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、それらを構成する各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
以下、本実施の形態に係るマルチプレクサ1が通過帯域内の低損失性を実現できる理由を含め、マルチプレクサ1におけるインピーダンス整合について説明する。
[6.マルチプレクサにおけるインピーダンス整合]
図8Aおよび図8Bは、それぞれ、本実施の形態に係るBand25の送信側フィルタ11単体の送信出力端子61から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ12単体の受信入力端子62から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。また、図8Cおよび図8Dは、それぞれ、本実施の形態に係るBand66の送信側フィルタ13単体の送信出力端子63から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ14単体の受信入力端子64から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
本実施の形態に係るマルチプレクサ1では、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14単体でのインピーダンス特性においては、通過帯域外の周波数領域における複素インピーダンスがオープン側に来るように設計される。具体的には、図8Aにおける、インダクタンス素子21が接続されていない送信側フィルタ11の通過帯域外領域BOUT11、図8Cにおける、インダクタンス素子21が接続されていない送信側フィルタ13の通過帯域外領域BOUT13、および、図8Dにおける、インダクタンス素子21が接続されていない受信側フィルタ14の通過帯域外領域BOUT14の複素インピーダンスを、略オープン側に配置している。これらの複素インピーダンス配置を実現するため、上記3つのフィルタの、共通端子50に接続される共振子を、並列共振子ではなく直列共振子としている。
一方、インダクタンス素子21が接続されている受信側フィルタ12では、共通端子50に接続される共振子を、並列共振子としている。このため、図8Bに示すように、受信側フィルタ14の通過帯域外領域BOUT12の複素インピーダンスを、略ショート側に配置している。通過帯域外領域BOUT12をショート側に配置した目的については後述する。
また、図9は、本実施の形態に係るBand25の受信側フィルタ12以外の全てのフィルタを共通端子50で並列接続した回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャート(左側)、および、本実施の形態に係るBand25の受信側フィルタ12とインダクタンス素子21とが直列接続された回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャート(右側)である。
図9に示すように、インダクタンス素子21と受信側フィルタ12の入力端子とが直列接続された状態で、インダクタンス素子21を介して受信側フィルタ12単体を見た場合の、所定の通過帯域における複素インピーダンスと、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の入力端子および出力端子のうちアンテナ素子2に近い方の端子が共通端子50と接続された状態で、共通端子50と接続された上記端子側から送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14を見た場合の、上記所定の通過帯域における複素インピーダンスとは、概ね複素共役に近い関係にあることが解る。つまり、上記2つの複素インピーダンスを合成すれば、インピーダンス整合がとれ、合成された回路の複素インピーダンスが特性インピーダンス付近に来ることとなる。
なお、2つの回路の複素インピーダンスが複素共役の関係にあるとは、互いの複素インピーダンスの複素成分の正負が反転している関係を含み、複素成分の絶対値が等しい場合に限定されない。つまり、本実施の形態における複素共役の関係とは、一方の回路の複素インピーダンスが容量性(スミスチャートの下半円)に位置し、他方の回路の複素インピーダンスが誘導性(スミスチャートの上半円)に位置するような関係も含まれる。
ここで、図8Bに示したように、受信側フィルタ12の通過帯域外領域BOUT12の複素インピーダンスを略ショート側に配置した目的は、通過帯域外領域BOUT12(送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の通過帯域)の複素インピーダンスを、インダクタンス素子21により、上記複素共役の関係を有する位置にシフトさせるためである。なお、このときのインダクタンス素子21のインダクタンス値は、例えば、5.9nHである。
仮に、受信側フィルタ12の通過帯域外領域BOUT12がオープン側に位置する場合には、より大きなインダクタンス値を有するインダクタンス素子21により、通過帯域外領域BOUT12を上記複素共役の関係を有する位置にシフトさせなければならない。インダクタンス素子21は、受信側フィルタ12に直列接続されているので、インダクタンス値が大きければ大きいほど受信側フィルタ12の通過帯域内の挿入損失が悪化してしまう。そこで、本実施の形態に係る受信側フィルタ12のように、並列共振子251を利用して通過帯域外領域BOUT12の複素インピーダンスをショート側に配置させることにより、インダクタンス素子21のインダクタンス値を小さくできるので、通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
図10Aは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1を共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。つまり、図10Aに示された複素インピーダンスは、図9に示された2つの回路を合成したマルチプレクサの共通端子50から見た複素インピーダンスを表している。図9に示された2つの回路の複素インピーダンスを、互いに複素共役となる関係に配置したことにより、合成された回路の複素インピーダンスは、4つの通過帯域において特性インピーダンスに接近したものとなっており、インピーダンス整合が実現されている。
図10Bは、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続した場合の、アンテナ素子2側から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。図10Aに示されたように、互いに複素共役となる関係に配置された2つの回路を合成した回路では、複素インピーダンスが特性インピーダンスから容量性側かつショート側へずれている。
これに対して、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続することにより、共通端子50から見たマルチプレクサ1の複素インピーダンスを調整する。なお、このときのインダクタンス素子31のインダクタンス値は、例えば、5.6nHである。
ここで、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続することによりインピーダンス整合を行うことができる範囲について説明する。図11は、本実施の形態に係るマルチプレクサの共通端子とアンテナ素子との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続した場合の、アンテナ素子側から見た複素インピーダンスの範囲を表すスミスチャートである。
共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続することによりインピーダンス整合を行うことができる範囲は、図11に示す領域Pの範囲に限られる。具体的には、インピーダンス整合を行うことができる範囲は、特性インピーダンスから容量性側かつショート側へずれた領域Pである。この領域Pにある複素インピーダンスは、インダクタンス素子31を接続することにより、後述するように、スミスチャートにおいて反時計回りで特性インピーダンスに近づく動きをするため、マルチプレクサ1を構成する各フィルタの挿入損失を損なうことなく、容易に各フィルタの通過帯域における複素インピーダンスを特性インピーダンスに一致させることが可能となる。
なお、図11において、領域Pの左上の境界線付近は、後述する特性インピーダンスR+jX[Ω]の実部Rが40Ωのとき、領域Pの右下の境界線付近は、特性インピーダンスR+jX[Ω]の実部Rが60Ωのときを示している。
ここで、領域Pに含まれる複素インピーダンスの値について、以下具体的に説明する。
図12は、本実施の形態に係るマルチプレクサにおいて、特性インピーダンスR+jX[Ω]の実部Rを変更したときの送信側フィルタ11の挿入損失を示す図である。送信側フィルタ11の挿入損失は、マルチプレクサ1においてパワーアンプ(図示せず)の消費電力の低減およびフィルタの耐電力性の向上の点から、2dB以下であることが好ましい。ここで、図12によると、挿入損失が2dB以下となる特性インピーダンスR+jX[Ω]の実部Rの値は、およそ38Ω〜62Ω程度となる。したがって、特性インピーダンスR+jXの実部Rが少なくとも40Ω以上60Ω以下(40≦R≦60)であれば、挿入損失は2dB以下となるといえる。
次に、特性インピーダンスR+jX[Ω]の実部Rを40Ω以上60Ω以下の範囲としたときの、特性インピーダンスR+jX[Ω]の虚部Xの値の範囲について説明する。図13A〜13Cは、本実施の形態に係るマルチプレクサにおいて、特性インピーダンスの実部Rをそれぞれ40Ω、50Ωおよび60Ωとしフィルタの容量値を変更したときの、マルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを説明するスミスチャートである。
特性インピーダンスR+jX[Ω]の実部Rを40Ω、50Ω、60Ωとしたときのそれぞれでフィルタの容量値を5種類に変化させたときの特性インピーダンスの変化を確認したところ、図13A〜図13Cに示すような軌跡をたどることがわかった。図13A〜図13Cのそれぞれにおいて、最もショート側に示される軌跡は最もインダクタンス値が小さい場合であり、オープン側に行くにつれてインダクタンス値を大きくした場合の軌跡を示している。その軌跡の範囲で特性インピーダンスR+jX[Ω]の虚部Xの値を確認したところ、最も小さいところで−40Ωであった。また、インダクタンス素子31を共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間に接続してインピーダンス整合を取るため、特性インピーダンスR+jX[Ω]の虚部Xの値は0Ω未満である。つまり、特性インピーダンスR+jX[Ω]の虚部Xの値は、−40Ω以上0Ω未満(−40≦X<0)となる。
したがって、インダクタンス素子31を共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間に接続してインピーダンス整合を取ることを前提に考えると、必要な挿入損失を得るためには、共通端子50で共通化した全フィルタの共通端子50側からみた特性インピーダンスR+jX[Ω]は、40≦R≦60、かつ、−40≦X<0の範囲とするのが好ましい。これにより、送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14の挿入損失を悪化させることなく、インピーダンス整合を取ることができる。
[7.まとめ]
以上、本実施の形態に係るマルチプレクサ1は、(1)受信側フィルタ12と共通端子50との間にインダクタンス素子21が直列接続されており、(2)共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されており、(3)受信側フィルタ12の受信入力端子62には並列共振子251が接続されており、(4)送信側フィルタ11の送信出力端子61、送信側フィルタ13の送信出力端子63および受信側フィルタ14の受信入力端子64にはそれぞれ直列共振子105、304、405が接続されている。
これによれば、インダクタンス素子21と受信側フィルタ12とが直列接続された回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスと、受信側フィルタ12以外の全てのフィルタを共通端子50で並列接続した回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスとを、複素共役の関係にすることができる。これにより、上記2つの回路が合成された回路を有するマルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを、通過帯域内の低損失性を確保しつつ容易に特性インピーダンスと整合させることが可能となる。また、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続することにより、マルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを、誘導性側へと調整することが可能となる。
また、インダクタンス素子31は共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間に接続され、共通端子50とアンテナ素子2との間に直列に接続されないので、各フィルタに直列に接続される抵抗成分はないため、インピーダンス整合におけるインダクタンス素子31のQ値の影響は少ない。したがって、Q値が低いインダクタンス素子を用いた場合であっても、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
(実施の形態2)
上述したマルチプレクサ1において、複数の弾性波フィルタ11〜14のうちの送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ14のうち、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14は、実装基板内の配線長が最も短く、送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ14のうち、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13は、実装基板内の配線長が最も長い構成としてもよい。なお、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14は第1フィルタ、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13は第2フィルタである。
上述したマルチプレクサ1では、図5Aに示したように、圧電基板11a、12a、13aおよび14aは、実装基板6の上に実装されている。より具体的には、圧電基板11aおよび14aは、共通端子50に最も近い一端側に、共通端子50を挟んで並んで配置されている。また、圧電基板12aおよび13aは、共通端子50に最も近い一端と対向する他端側に並んで配置されている。つまり、圧電基板11aおよび14aは、圧電基板12aおよび14aよりも共通端子50に近い位置に配置されている。
この配置により、図6Aに示すように、実装基板6において、共通端子50が配置された一端に近い側に配置される圧電基板14aから共通端子50に接続されるビア8aまでの配線の長さは、圧電基板13aから共通端子50に接続されるビア8aまでの配線の長さよりも短くなる。つまり、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さは、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さよりも短い。
これにより、マルチプレクサ1では、以下に説明するように、アンテナ2に接続される共通端子50におけるインピーダンス整合、および、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14の挿入損失を良好にすることができる。
以下、受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さを送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さよりも短くした場合の効果について説明する。以下では、比較例としてマルチプレクサ1aを挙げ、マルチプレクサ1とマルチプレクサ1aとを比較しながら説明する。
はじめに、比較例に係るマルチプレクサ1aの構成について、マルチプレクサ1と異なる点を説明する。図14は、比較例に係るマルチプレクサ1aの送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14を構成する圧電基板11a、13aおよび12a、14aの配置の一例を示す平面図である。図15A〜図15Dは、比較例に係るマルチプレクサ1aにおける配線パターンを示すための、実装基板の一の層および他の層における平面図である。
マルチプレクサ1aがマルチプレクサ1と異なる点は、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さが、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さよりも長くなっている点である。
詳細には、マルチプレクサ1aでは、送信側フィルタ11および13のそれぞれを構成する圧電基板11aおよび13aと、受信側フィルタ12および14のそれぞれを構成する圧電基板12aおよび14aとは、実装基板6の上に実装されている。実装基板6は、図15A〜図15Dに示すように、第1層6a、第2層6b、第3層6cおよび第4層6dを含んでいる。第1層6aには配線パターン7aおよびビア8a、第2層6bには配線パターン7bおよびビア8b、第3層6cには配線パターン7cおよびビア8c、第4層6dには配線パターン7dおよびビア8dが形成されている。
ここで、マルチプレクサ1aでは、図14に示したように、圧電基板12aおよび13aは、実装基板6において共通端子50に最も近い一端側に、共通端子50を挟んで並んで配置されている。また、圧電基板11aおよび14aは、実装基板6において共通端子50に最も近い一端と対向する他端側に並んで配置されている。つまり、圧電基板12aおよび13aは、圧電基板11aおよび14aよりも共通端子50に近い位置に配置されている。
この配置により、図15Aに示す第1層6aにおいて、実装基板6の共通端子50が配置された一端に近い側に配置される圧電基板13aから共通端子50に接続されるビア8aまでの配線の長さは、圧電基板14aから共通端子50に接続されるビア8aまでの配線の長さよりも短くなっている。つまり、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さは、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さよりも長くなっている。
図16Aは、本実施の形態および比較例に係るBand25の送信側フィルタ11の通過特性を比較したグラフである。図16Bは、本実施の形態および比較例に係るBand25の受信側フィルタ12の通過特性を比較したグラフである。図16Cは、本実施の形態および比較例に係るBand66の送信側フィルタ13の通過特性を比較したグラフである。図16Dは、本実施の形態および比較例に係るBand66の受信側フィルタ14の通過特性を比較したグラフである。
図16A〜図16Dに示すように、マルチプレクサ1aに対してマルチプレクサ1では、通過特性が良好になっている。特に、中心周波数が最も高いBand66の受信側フィルタ14では、挿入損失が低減し、良好になっていることがわかる。また、中心周波数が最も低いBand66の送信側フィルタ13では、本実施の形態に係るマルチプレクサ1と比較例に係るマルチプレクサ1aとでは挿入損失にはほとんど差が見られない。また、Band25の送信フィルタ11および受信フィルタ12についても、挿入損失が低減し、通過特性が良好になっていることがわかる。
図17Aおよび図17Bは、それぞれ、マルチプレクサ1および1aにおけるBand25の送信側フィルタ11単体の送信出力端子61から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。図18Aおよび図18Bは、それぞれ、マルチプレクサ1および1aにおけるBand25の受信側フィルタ12単体の受信入力端子62から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。図19Aおよび図19Bは、それぞれ、マルチプレクサ1および1aにおけるBand66の送信側フィルタ13単体の送信出力端子63から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。図20Aおよび図20Bは、それぞれ、マルチプレクサ1および1aにおけるBand66の受信側フィルタ14単体の受信入力端子64から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
図17B、図18B、図19Bおよび図20Bに示す比較例に係るマルチプレクサ1aと比較して、図17A、図18A、図19Aおよび図20Aに示すマルチプレクサ1では、送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14それぞれの共通端子50側から見た複素インピーダンスが、スミスチャートの中央部に示される特性インピーダンス(50Ω)に近い位置に示されていることがわかる。したがって、マルチプレクサ1の方がマルチプレクサ1aよりもインピーダンス整合が良好に取れていることがわかる。
このように、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さを、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さよりも短くすることより、マルチプレクサ1では、共通端子50におけるインピーダンス整合、および、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14の挿入損失を良好にすることができる。
以下、その理由について図21を用いて説明する。図21は、共通端子50と送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14の各フィルタとの間の配線の長さを変更したときの、マルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスの動きを説明するスミスチャートである。
送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14の各フィルタと共通端子50とを接続する配線を実装基板6内に設けると、当該配線のインダクタンス成分によって、送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14の各フィルタの共通端子50側から見たインピーダンスは変化する。具体的には、共通端子50側から見た複素インピーダンスをスミスチャートに示した場合、図21に示す矢印のように、共通端子50側から見た複素インピーダンスは時計回りに変化する。この変化量は、送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12、14の各フィルタと共通端子50との間の配線の長さが同一であっても、フィルタの中心周波数が高いほど大きくなる。
比較例に係るマルチプレクサ1aでは、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さは、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さよりも長いため、共通端子50側から見た受信側フィルタ14の複素インピーダンスの変化量は大きくなる。そのため、共通端子50側から見た受信側フィルタ14の複素インピーダンスと、共通端子50側から見た送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12の各フィルタの複素インピーダンスとのずれ量は大きくなる。したがって、共通端子50側から見たマルチプレクサ1aの複素インピーダンスを特性インピーダンスと整合させることが難しくなる。
これに対し、本実施の形態に係るマルチプレクサ1では、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14と共通端子50との間の配線の長さは、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13の配線の長さよりも短い。したがって、共通端子50側から見た受信側フィルタ14の複素インピーダンスと、共通端子50側から見た送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ12の各フィルタの複素インピーダンスとのずれ量は小さく、共通端子50におけるインピーダンス整合は、マルチプレクサ1aと比較して改善する。つまり、共通端子50側から見たマルチプレクサ1の複素インピーダンスを特性インピーダンスと容易に整合させることができる。
特に、図16Dに示したように、マルチプレクサ1では、マルチプレクサ1aよりも、中心周波数が最も高いBand66の受信側フィルタ14の挿入損失が良好となっている。これは、中心周波数が最も低いフィルタであれば配線が長くなっても挿入損失への影響が小さいが、中心周波数が最も高いフィルタであれば、配線の長さが挿入損失に敏感に影響するためである。
したがって、本実施の形態に係るマルチプレクサ1のように、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14の配線の長さを短く、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13の配線長さを長くすることにより、アンテナ2に接続される共通端子50におけるインピーダンス整合が良好で、かつ、中心周波数が最も高い受信側フィルタ14の挿入損失が良好なマルチプレクサを実現することができる。
また、図22は、本実施の形態および比較例に係るBand66の送信側フィルタ13の通過特性を比較したグラフである。中心周波数が最も低い送信側フィルタ13の配線の長さが長い場合、図22に示すように、実装基板6内のインダクタンス成分と実装基板6内で自然に生じるキャパシタンス成分によって通過帯域高周波側に発生する減衰極の周波数は、低周波数側に移動する。これにより、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と、送信側フィルタ13よりも中心周波数の高い他のフィルタとの間のアイソレーション特性を改善することができる。
なお、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さが長すぎると、当該配線はλ/4の伝送線路となり、定在波が発生する。したがって、実装基板6内に配置される、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線の長さは、λ/4未満としてもよい。これにより、中心周波数が最も低い送信側フィルタ13と共通端子50との間の配線において定在波が発生するのを抑制することができる。
(その他の変形例など)
以上、本発明の実施の形態に係るマルチプレクサについて、クワッドプレクサを含むマルチプレクサを挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態には限定されない。例えば、上記実施の形態に次のような変形を施した態様も、本発明に含まれ得る。
例えば、実施の形態1および2に係る圧電基板5の圧電膜53は、50°YカットX伝搬LiTaO3単結晶を使用したものであるが、単結晶材料のカット角はこれに限定されない。つまり、LiTaO3基板を圧電基板として用いて、実施の形態に係るマルチプレクサを構成する弾性表面波フィルタの圧電基板のカット角は、50°Yであることに限定されない。上記以外のカット角を有するLiTaO3圧電基板を用いた弾性表面波フィルタであっても、同様の効果を奏することが可能となる。
また、本発明に係るマルチプレクサ1は、さらに、アンテナ素子2と共通端子50との間の経路とグランドとの間に接続されたインダクタンス素子31を備えてもよい。例えば、本発明に係るマルチプレクサ1は、高周波基板上に、上述した特徴を有する複数の弾性波フィルタと、チップ上のインダクタンス素子21および31とが実装された構成を有していてもよい。
また、インダクタンス素子21および31は、例えば、チップインダクタであってもよく、また、高周波基板の導体パターンにより形成されたものであってもよい。
また、本発明に係るマルチプレクサは、実施の形態1および2のようなBand25+Band66のクワッドプレクサに限られない。
図14Aは、実施の形態1および2の変形例1に係るマルチプレクサの構成を示す図である。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、図14Aに示すように、送信帯域および受信帯域を有するBand25、Band66およびBand30を組み合わせたシステム構成に適用される、6つの周波数帯域を有するヘキサプレクサであってもよい。この場合、例えば、Band25の受信側フィルタに、インダクタンス素子21が直列接続され、Band25の受信側フィルタの受信入力端子には並列共振子が接続される。さらに、Band25の受信側フィルタ以外の5つのフィルタの共通端子と接続される端子には、直列共振子が接続され並列共振子は接続されない。
図14Bは、実施の形態1および2の変形例2に係るマルチプレクサの構成を示す図である。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、図14Bに示すように、送信帯域および受信帯域を有するBand1、Band3およびBand7を組み合わせたシステム構成に適用される、6つの周波数帯域を有するヘキサプレクサであってもよい。この場合、例えば、Band1の受信側フィルタに、インダクタンス素子21が直列接続され、Band1の受信側フィルタの受信入力端子には並列共振子が接続される。さらに、Band1の受信側フィルタ以外の5つのフィルタの共通端子と接続される端子には、直列共振子が接続され並列共振子は接続されない。
前述したように、本発明に係るマルチプレクサでは、構成要素である弾性波フィルタの数が多いほど、従来の整合方法により構成されたマルチプレクサと比較して、通過帯域内の挿入損失を低減できる。
さらに、本発明に係るマルチプレクサは、送受信を行うデュプレクサを複数有する構成でなくてもよい。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、複数の送信周波数帯域を有する送信装置として適用できる。つまり、本発明に係るマルチプレクサは、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を入力し、当該複数の高周波信号をフィルタリングして共通のアンテナ素子から無線送信させる送信装置であって、送信回路から複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の送信用弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に第1インダクタンス素子が接続される共通端子とを備えていてもよい。ここで、複数の送信用弾性波フィルタのそれぞれは、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の送信用弾性波フィルタのうち、一の送信用弾性波フィルタの出力端子が、当該出力端子および共通端子に接続された第2インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続された構成となる。一方、上記一の送信用弾性波フィルタ以外の送信用弾性波フィルタの出力端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続された構成となる。
さらに、本発明に係るマルチプレクサは、例えば、複数の受信周波数帯域を有する受信装置として適用できる。つまり、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を、アンテナ素子を介して入力し、当該複数の高周波信号を分波して受信回路へ出力する受信装置であって、アンテナ素子から複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の受信用弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に第1インダクタンス素子が接続される共通端子とを備えてもよい。ここで、複数の受信用弾性波フィルタのそれぞれは、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の受信用弾性波フィルタのうち、一の受信用弾性波フィルタの入力端子は、当該入力端子および共通端子に接続された第2インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続される。一方、上記一の受信用弾性波フィルタ以外の受信用弾性波フィルタの入力端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている。
上記のような構成を有する送信装置または受信装置であっても、実施の形態1および2に係るマルチプレクサ1と同様の効果が奏される。
また、本発明は、上記のような特徴的な弾性波フィルタおよびインダクタンス素子を備えるマルチプレクサ、送信装置および受信装置だけではなく、このような特徴的な構成要素をステップとしたマルチプレクサのインピーダンス整合方法としても成立する。
図15は、実施の形態に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法を説明する動作フローチャートである。
本発明に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法は、(1)互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタのうち、一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)の入力端子および出力端子の一方から、当該一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがショート状態となり、上記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタ(弾性波フィルタB)の入力端子および出力端子の一方から、当該弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがオープン状態となるよう、複数の弾性波フィルタを調整するステップ(S10)と、(2)上記一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)にフィルタ整合用インダクタンス素子が直列接続された場合の、フィルタ整合用インダクタンス素子側から上記一の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスと、上記一の弾性波フィルタ以外の他の弾性波フィルタ(複数の弾性波フィルタB)が共通端子に並列接続された場合の、共通端子側から他の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスとが、複素共役の関係となるように、フィルタ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値を調整するステップ(S20)と、(3)フィルタ整合用インダクタンス素子を介して上記一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)が共通端子と接続され、かつ、共通端子に上記他の弾性波フィルタ(複数の弾性波フィルタB)が並列接続された合成回路の、共通端子から見た複素インピーダンスが、特性インピーダンスと一致するようアンテナ素子と共通端子との接続経路と基準端子との間に接続されるアンテナ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値を調整するステップ(S30)とを含む。そして、(4)複数の弾性波フィルタを調整するステップでは、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを有する上記複数の弾性波フィルタのうち、上記一の弾性波フィルタにおいて、並列共振子がフィルタ整合用インダクタンス素子と接続されるよう並列共振子および直列共振子を配置し、上記他の弾性波フィルタにおいて、並列共振子および直列共振子のうち直列共振子が共通端子と接続されるよう、並列共振子および直列共振子を配置する。
これにより、Q値が低いインダクタンス素子を用いた場合であっても、各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
また、上記実施の形態では、クワッドプレクサを含むマルチプレクサ、送信装置および受信装置を構成する送信側フィルタおよび受信側フィルタとして、IDT電極を有する弾性表面波フィルタを例示した。しかしながら、本発明に係るクワッドプレクサを含むマルチプレクサ、送信装置および受信装置を構成する各フィルタは、直列共振子および並列共振子で構成される弾性境界波やBAW(Bulk Acoustic Wave)を用いた弾性波フィルタであってもよい。これによっても、上記実施の形態に係る、クワッドプレクサを含むマルチプレクサ、送信装置および受信装置が有する効果と同様の効果が奏される。
また、上記実施の形態に係るマルチプレクサ1では、受信側フィルタ12にインダクタンス素子21が直列接続された構成を例示したが、送信側フィルタ11および13、または、受信側フィルタ14にインダクタンス素子21が直列接続された構成も本発明に含まれる。つまり、本発明に係るマルチプレクサは、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路に第1インダクタンス素子が直列接続される共通端子と、第2インダクタンス素子とを備え、複数の弾性波フィルタのうち、送信側フィルタの出力端子は、当該出力端子および共通端子に接続された第2インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続され、上記送信側フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうちアンテナ素子側の端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている構成を有していてもよい。これによっても、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、低損失のマルチプレクサを提供することが可能となる。