[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態の構成を示すブロック図である。図1に示すように、レーダ装置1は、フェーズドアレイアンテナを有するn個(nは3以上の整数)の空中線部11〜空中線部1nと、空中線部11〜1nのそれぞれの方位を機械的に変更するためのn個の空中線駆動部21〜空中線駆動部2nとを備えている。またレーダ装置1は、空中線部11〜1nと空中線駆動部21〜2nが設置されている回転台30と、回転台30の回転角度を制御する回転台駆動部31と、を備えている。
またレーダ装置1は、n個の空中線部11〜1nの各設定方位を計算してn個の空中線駆動部21〜2nの制御を行うための制御データおよび空中線部11〜1n全体の回転量を計算する空中線駆動制御部32を備えている。
またレーダ装置1は、特定方位のレーダ性能の向上を指示する指示部33を備えている。指示部33は、例えば、操作員が操作することで、重点的に監視を行うための特定方位のレーダ性能の向上を指示するよう構成されたタッチパネルであってよい。また、指示部33には、操作員が操作することで、機能を喪失した空中線部と、その空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能を維持する指示が入力されてもよい。指示部33は、入力された指示を空中線駆動制御部32へ伝送する。
空中線駆動制御部32は、入力された指示が、重点的に監視が必要と判断された特定方位の入力であった場合、2つの空中線部のアンテナ開口が同一平面を形成し、空中線部11〜1nにより方位全周の走査が維持できるよう、各空中線部11〜1nの設定方位を計算する。空中線駆動制御部32は、各空中線部11〜1nが設定方位に向くよう空中線駆動部21〜2nを制御する方位制御データを生成し、空中線駆動部21〜2nに伝送する。
空中線駆動部21〜2nは、方位制御データに従って機械的に作動し各空中線部11〜1nを回転し各空中線部11〜1nのアンテナ開口の方位を設定する。また空中線駆動制御部32は、同一平面を形成する2つの空中線部のアンテナ開口が特定方位に向くよう回転台駆動部31を制御する回転台制御データを生成し、回転台駆動部31に伝送する。回転台駆動部31は、回転台制御データに従って回転台30を回転させる。
また、空中線駆動制御部32は、機能が喪失された空中線部が入力された場合、機能が喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲を他の空中線部で補完できるように、各空中線部の設定方位を計算し、各空中線部11〜1nが設定方位に向くよう空中線駆動部21〜2nを制御する方位制御データを生成し、空中線駆動部21〜2nに伝送する。空中線駆動部21〜2nは、方位制御データに従って機械的に作動し各空中線部11〜1nを回転し各空中線部11〜1nのアンテナ開口の方位を設定する。
また空中線駆動制御部32は、入力された指示が、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能維持の指示であった場合には、その方位に、機能を喪失していない空中線部のうちのいずれか1つが向くよう回転台駆動部31を制御する回転台制御データを生成する。空中線駆動制御部32は、生成した回転台制御データを回転台駆動部31に伝送する。回転台駆動部31は、回転台制御データに従って回転台30を回転させる。
次に本実施形態の動作を詳細に説明する。図2は、図1の動作を示すフローチャートである。
指示部33からn個の空中線部11〜1nの設定方位及び回転台30の回転角度に関する指示が伝送されると、空中線駆動制御部32は、重点的に監視を行うための特定方位が入力されたか判断する(ステップS1)。空中線駆動制御部32は、重点的に監視を行うための特定方位が入力された場合、特定方位へのビーム形成に用いるフェーズドアレイアンテナの開口の大きさが増大するように、2つの空中線部のアンテナ開口が同一平面を形成する。また空中線駆動制御部32は、方位全周の走査が維持できるよう、各空中線部を回転する(ステップS2)。通常は、1つの空中線部でビーム形成を行うが、本実施形態では特定方位へは複数の空中線部を同時に用いてビーム形成を行う。ここで、複数の空中線部で特定方位のビーム形成を行うように空中線部のアンテナ開口の方位設定角度を変えると、その空中線部は、方位全周を走査する捜索ビームを形成する際に、アンテナ開口の方位に対して左右のいずれかに大きくビーム方位をシフトさせる必要が生じる。その結果、ビーム形成の方位から見たアンテナ開口が実効的に小さくなるために、目標の探知性能の低下を招くおそれがある。さらに、ビームの半値幅が大きくなるために、方位分解性能も低下する。空中線駆動制御部32は、このようなレーダ性能に対する悪影響を軽減させるために、特定方位へビームを形成する空中線部のアンテナ開口の方位設定角度だけでなく、それ以外の領域へビームを形成する他の空中線部のアンテナ開口の方位設定角度も変化させる。また、複数の空中線部で特定方位にビームを形成する際に、複数の空中線部で形成したアンテナ開口の方位が必ずしも特定方位に一致するものではなく、一般的にはビーム方位を電子的にシフトさせて特定方位へビームを形成する必要がある。その結果、ビームのシフト量の大きさに伴ってレーダ性能が劣化する。
そこで、同一平面を形成する2つの空中線部のアンテナ開口が特定方位に向くよう回転台30を回転する(ステップS3)。それにより、複数の空中線部で特定方位にビームを形成する際に、ビーム方位の電子的なシフトが必要なくなり、最大のレーダ性能を得ることができるようになる。
ステップS1において、重点的に監視を行うための特定方位の入力でなかった場合、機能を喪失した空中線部が入力されたか判断し(ステップS4)、機能を喪失した空中線部が入力された場合、機能を喪失した空中線部が分担していたビーム走査範囲を他の空中線部で補完できるよう各空中線部11〜1nを回転する(ステップS5)。さらに、入力された指示が、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能を維持するよう指示するものであったか判断し(ステップS6)、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能を維持する場合には、その方位に、機能を喪失していない空中線部のうちのいずれか1つが向くよう回転台30を回転する(ステップS7)。これにより、機能を喪失した空中線部に代わって同一の方位に他の空中線部の方位角度が設定されるため、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能を維持することができる。
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置は、入力された指示が、重点的に監視が必要と判断された特定方位の入力であった場合、複数の空中線部のアンテナ開口で同一平面を形成し、その方位が特定方位に一致するように空中線部が設置された回転台を回転させる。また本発明のレーダ装置は、機能を喪失した空中線部が入力された場合、機能を喪失した空中線部が分担していたビーム走査範囲を他の空中線部で補完し、さらに機能を喪失した空中線部のアンテナ開口の方位に、機能を喪失していない空中線部のうちのいずれか1つが向くように、回転台を回転させる。
したがって本実施形態のレーダ装置は、必要に応じて特定の方位に対するレーダ性能を高め、複数のフェーズドアレイアンテナのうち少なくとも1つが機能を喪失しても、そのフェーズドアレイアンテナが分担していた方位範囲の監視機能を維持しながら方位全周の監視機能を行うことができる。これとともに、本実施形態のレーダ装置の構成によれば、重点的な監視が必要な特定方位または機能を喪失したフェーズドアレイアンテナのアンテナ開口の方位に対して、最大のレーダ性能が得られる。
[第2の実施形態]
次に本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、第2の実施形態の構成を示すブロック図である。図3に示すように、レーダ装置2は、第1の実施形態と同様なフェーズドアレイアンテナを有するn個(nは3以上の整数)の空中線部11〜1nと、空中線部11〜1nのそれぞれの方位を機械的に変更するためのn個の空中線駆動部21〜2nとを備えている。またレーダ装置1は、第1の実施形態と同様な空中線部11〜1nと空中線駆動部21〜2nが設置されている回転台30と、回転台30の回転角度を制御する回転台駆動部31と、を備えている。またレーダ装置1は、第1の実施形態と同様なn個の空中線部11〜1nの各設定方位を計算してn個の空中線駆動部21〜2nの制御を行うための制御データおよび空中線部11〜1n全体の回転量を計算する空中線駆動制御部32を備えている。
さらに本実施形態のレーダ装置2は、所定の空中線部のRF(Radio Frequency)信号が入出力できるように切り替えを行うセクタ切替部40と、信号系統の送受信の切り替えを行う送受信切替部41とを備えている。またレーダ装置2は、送受信切替部41から受信RF信号を受信してIF(Intermediate Frequency)信号に変換する受信部42と、受信部42から入力されたIF信号の目標検出を行う信号処理部43と、検出目標の追尾を行う追尾部44とを備えている。またレーダ装置2は、方位全周を常時走査する捜索ビームを形成するための制御データを生成するビーム制御部45と、ビーム制御部45が生成した制御データを送受信切替部41へ送信する送信部46とを備えている。
また本実施形態のレーダ装置2は、検出目標の追尾状況を表示する表示部47と第1の実施形態における指示部33の機能を含む表示・操作部48を備えている。
図3に示すように、セクタ切替部40は、空中線部11〜空中線部1nと接続され、送受信RF信号の入出力を実行する空中線部11〜1nを適宜に切り替える。また、セクタ切替部40は、送受信切替部41と接続されており、受信RF信号を受信部42へ伝送する。
送受信切替部41は、送信部46からの送信RF信号を受信してセクタ切替部40へ伝送する。また、送受信切替部41は受信部42へ受信RF信号を入力する。
受信部42は、入力された受信RF信号を受信IF信号に変換し信号処理部43に入力する。信号処理部43は、入力された受信IF信号を分析して目標検出を行い、目標検出結果を追尾部44に入力する。追尾部44は、入力された目標検出結果をもとに検出目標の追尾を行い、検出目標の追尾状況を表示部47に入力する。表示部47は、画面に検出目標の追尾状況を表示し、操作員が検出目標の追尾状況を視認する。
また、追尾部44は追尾処理結果をビーム制御部45へ伝送する。ビーム制御部45は、追尾目標に対して照射する追尾ビームを形成するための制御データを生成する。さらに、ビーム制御部45は、方位全周を常時走査する捜索ビームを形成するための制御データも生成する。これらの制御データは、送信部46、送受信切替部41及びセクタ切替部40のルートで空中線部11〜空中線部1nへ伝送される。
また、送信部46は、ビーム制御部45で生成された制御データに基づいて、送信RF信号を生成して送受信切替部41へ伝送し、さらに、セクタ切替部40が、所定の空中線部のRF信号が空中線部11〜空中線部1nへ入出力できるように切り替えを行う。そして、空中線部11〜空中線部1nでは、それぞれのフェーズドアレイアンテナが所定の方向にビームを形成する。
また、操作員は、表示部47にて目標の追尾状況を視認し、指示部33に、特に重点的に監視が必要と判断した特定方位を手動で入力する。指示部33は、入力された特定方位を空中線駆動制御部32へ伝送する。
空中線駆動制御部32は、入力された指示が、重点的に監視が必要と判断された特定方位の入力であった場合、2つの空中線部のアンテナ開口が同一平面を形成し、空中線部11〜1nにより方位全周の走査が維持できるよう、各空中線部11〜1nの設定方位を計算する。空中線駆動制御部32は、各空中線部11〜1nが設定方位に向くよう空中線駆動部21〜2nを制御する方位制御データを生成し、空中線駆動部21〜2nに伝送する。空中線駆動部21〜2nは、方位制御データに従って機械的に作動し各空中線部11〜1nを回転し各空中線部11〜1nのアンテナ開口の方位を設定する。また空中線駆動制御部32は、同一平面を形成する2つの空中線部のアンテナ開口が特定方位に向くよう回転台駆動部31を制御する回転台制御データを生成し、回転台駆動部31に伝送する。回転台駆動部31は、回転台制御データに従って回転台30を回転させる。
また、空中線駆動制御部32は、機能が喪失された空中線部が入力された場合、機能が喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲を他の空中線部で補完できるように、各空中線部の設定方位を計算し、各空中線部11〜1nが設定方位に向くよう空中線駆動部21〜2nを制御する方位制御データを生成し、空中線駆動部21〜2nに伝送する。空中線駆動部21〜2nは、方位制御データに従って機械的に作動し各空中線部11〜1nを回転し各空中線部11〜1nのアンテナ開口の方位を設定する。また空中線駆動制御部32は、入力された指示が、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能維持の指示であった場合には、その方位に、機能を喪失していない空中線部のうちのいずれか1つが向くよう回転台駆動部31を制御する回転台制御データを生成し、回転台駆動部31に伝送する。回転台駆動部31は、回転台制御データに従って回転台30を回転させる。
次に本実施形態の動作を詳細に説明する。フェーズドアレイアンテナを有するn個の空中線部11〜1nで受信された受信RF信号は、セクタ切替部40を経由して送受信切替部41へ伝送される。このとき、セクタ切替部40は、ビーム制御部45からの制御信号によって、どの空中線部からの受信RF信号を入力するかを選択的に切り替える。送受信切替部41は、セクタ切替部40から入力された受信RF信号を受信部42へ伝送する。そして、受信部42が、受信RF信号をIF信号に変換し信号処理部43へ伝送する。
さらに、信号処理部43が、目標に相当する信号を抽出する目標検出処理を行い、目標の検出時刻、位置情報などの目標検出データを追尾部44へ伝送する。これによって、追尾部44は、目標検出データに基づいて、現時点における目標位置、速度、および針路の推定や、未来時刻の目標位置、速度、および針路の予測を行う。そして、追尾部44は、推定した目標位置、速度、および針路のデータを表示部47へ伝送し、表示部47において、表示画面に目標の位置、速度、および針路のデータなどを表示して、操作員に視認させる。
また、追尾部44で得られる未来時刻の目標位置のデータはビーム制御部45へ伝送され、ビーム制御部45が、当該時刻になったら目標位置に対してビームを照射する追尾ビームの制御データを生成する。なお、ビーム制御部45は、追尾ビームの他に、方位全周を常時ビーム走査するための捜索ビームの制御データも生成する。ビーム制御部45で生成された制御データは、送信部46→送受信切替部41→セクタ切替部40→空中線部11〜空中線部1nのルートで伝送される。
このとき、送信部46は、制御データにより指定される所定のタイミングで送信RF信号を発生し、この送信RF信号を、送受信切替部41を経由してセクタ切替部40へ伝送する。セクタ切替部40は、ビーム制御部45からの制御データに基づいて、所定の方位にビームを形成するよう空中線部11〜空中線部1nのうち、必要な空中線部に送信RF信号の伝送先を切り替える。そして、空中線部11〜空中線部1nは、入力されたRF送信信号と、ビーム制御部45からの制御データとに基づいて、所定の空中線部のフェーズドアレイアンテナが送信ビームを形成する。
一方、操作員は、表示部47に表示される目標の位置、速度、進行方向、および種別などのデータから状況を把握し、必要と判断する場合には、重点的に監視を行うための特定方位を指示部33から手動で指定する。このとき指定した特定方位の方位データは、指示部33から空中線駆動制御部32へ伝送される。これによって、空中線駆動制御部32は、特定方位へのビーム形成に用いるフェーズドアレイアンテナの開口の大きさが増大するように、各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度を計算する。通常は、1つの空中線部でビーム形成を行うが、特定方位へは複数の空中線部を同時に用いてビーム形成を行う。複数の空中線部で特定方位のビーム形成を行うように空中線部のアンテナ開口の方位設定角度を変えると、方位全周を走査する捜索ビームを形成する際に、その空中線部は、アンテナ開口の方位に対して左右のいずれかに大きくビーム方位をシフトさせる必要が生じる。その結果、ビーム形成の方位から見たアンテナ開口が実効的に小さくなるために、目標の探知性能の低下を招くおそれがある。さらに、ビームの半値幅が大きくなるために、方位分解性能も低下する。空中線駆動制御部32は、このようなレーダ性能に対する悪影響を軽減させるために、特定方位へビームを形成する空中線部のアンテナ開口の方位設定角度だけでなく、それ以外の領域へビームを形成する他の空中線部のアンテナ開口の方位設定角度も変化させる。また、複数の空中線部で特定方位にビームを形成する際に、複数の空中線部で形成したアンテナ開口の方位が必ずしも特定方位に一致するものではなく、一般的にはビーム方位を電子的にシフトさせて特定方位へビームを形成する必要がある。その結果、ビームのシフト量の大きさに伴ってレーダ性能が劣化する。そこで、複数の空中線部で形成したアンテナ開口の方位が特定方位に一致するように、すべての空中線部が設置された回転台30を回転させる。それにより、複数の空中線部で特定方位にビームを形成する際に、ビーム方位の電子的なシフトが必要なくなり、最大のレーダ性能を得ることができるようになる。
また、操作員は、機能を喪失した空中線部のデータを指示部33から手動で入力する。これによって、機能を喪失した空中線部のデータは、指示部33から空中線駆動制御部32へ伝送される。ここで、空中線部の機能が喪失されると、その空中線部が分担していた方位範囲のビーム走査ができなくなる。そのため、機能を喪失した空中線部の情報に応じて、その空中線部が分担していたビーム走査範囲を他の空中線部で補完できるように、空中線駆動制御部32は、各空中線部の設定方位を計算すると共に方位制御データを生成する。そして、空中線駆動制御部32で計算された各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度は空中線駆動部21〜2nに伝送され、空中線部11〜空中線部1nがそれぞれ設定された方位に設定されるよう機械的に作動させる。さらに、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能を維持するように、操作員が指示部33で指定した場合には、その指定情報が空中線駆動制御部32に伝送される。空中線駆動制御部32では、機能を喪失した空中線部の方位に、機能を喪失していない空中線部のうちのいずれか1つが向くように、回転台30の回転量を計算して、回転台駆動部31へ回転を指示する。これにより、機能を喪失した空中線部に代わって同一の方位に他の空中線部が設定されるため、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲のレーダ性能を維持することができる。
以上説明した本実施形態のレーダ装置によれば、目標検出データに基づいて、現時点における目標位置、速度、および針路の推定や、未来時刻の目標位置、速度、および針路の予測を行い、推定した目標位置、速度、および針路のデータを表示画面に表示して、操作員に視認させることができる。また本実施形態のレーダ装置によれば、未来時刻の目標位置に対して追尾ビームを照射することができ、さらに追尾ビームの他に、方位全周を常時ビーム走査するための捜索ビームを照射することができる。これとともに、本実施形態のレーダ装置によれば、第1の実施形態と同様に、必要に応じて特定の方位に対するレーダ性能を高め、複数のフェーズドアレイアンテナのうち少なくとも1つが機能を喪失しても、そのフェーズドアレイアンテナが分担していた方位範囲の監視機能を維持しながら方位全周の監視機能を行う。これと共に、本実施形態のレーダ装置によれば、重点的な監視が必要な特定方位または機能を喪失したフェーズドアレイアンテナのアンテナ開口の方位に対して、最大のレーダ性能が得られる。
[第3の実施の形態]
図4は、第3の実施形態の構成を示すブロック図である。第3の実施形態では、操作員が指定した重点監視を必要とする目標の存在する方位を自動的に特定方位に設定すると共に、その目標の移動に伴い特定方位を自動的に変更することができるように構成されている。構成上、図3と異なる点は、表示・操作部51が、操作員が操作することによって表示中の複数の目標のうち追尾目標とする重点監視目標を指定する目標指定部52を備え、また指示部53は、目標指定部52により指定された目標の方位データを追尾部44から取得して特定方位とし空中線駆動制御部に伝送する点である。
追尾部44は、第2の実施形態と同様、信号処理部43から入力される目標検出データを用いて追尾処理を行い現時点の目標の位置、速度、および針路の推定、未来時刻の目標の位置、速度、および針路の予測を行う。指示部53は、目標指定部52により重点監視目標に指定された目標の方位を追尾部44から取得する。指示部53は、重点監視目標に指定された目標の方位を検知し、その都度、特定方位を更新して、空中線駆動制御部32に伝送する。
図5は、図4の重点監視目標の更新の動作を示すフローチャートである。まず追尾部44が、信号処理部43から入力される目標検出データを用い追尾処理を行い、現時点の目標の位置、速度、および針路の推定、未来時刻の目標の位置、速度、および針路の予測を行う(ステップS20)。目標予測データはビーム制御部45へ伝送され、目標推定データは表示部47へ伝送される。
表示・操作部51の表示部47は、追尾目標情報表示処理、具体的には目標推定データに基づく追尾目標情報を表示するための画面表示データの生成処理及び、画面への追尾目標情報の表示処理を行う(ステップS21)。また表示・操作部51の目標指定部52が、操作員によって追尾目標とする重点監視目標の指定の操作がされた場合、その重点監視目標の指定を受け付け、追尾目標を指定する重点監視目標データを生成し、指示部53に伝送する(ステップS22)。
指示部53は、追尾目標を指定する重点監視目標データを受信すると、重点監視目標が変更されたか、または初めて重点監視目標が設定されたかを判定する(ステップS23)。既存の重点監視目標から変更があった場合及び初めて重点監視目標が設定された場合には(ステップS23でYES)、指示部53は、既存の重点監視目標を削除し、新たに指定された目標を重点監視目標とする(ステップS24)。指示部53は、追尾部44が現在追尾中の複数の目標の位置データの中から重点監視目標の方位データを抽出し(ステップS25)、抽出した方位データから重点監視目標の方位を生成し、重点監視目標の方位を特定方位として空中線駆動制御部32へ伝送する。空中線駆動制御部32は、空中線駆動部21〜2n及び回転台駆動部31を制御し、特定方位とされた重点監視目標の方位にて最大のレーダ性能が得られるように空中線部11〜1n及び回転台30を回転させる。
以上説明したように、本実施形態によれば、操作員の操作により重点監視目標が変更されたか、または初めて重点監視目標が設定された場合、追尾目標とする重点監視目標を更新して重点監視目標の方位を特定方位とし、特定方位において最大のレーダ性能が得られるように空中線部11〜1n及び回転台30を回転させる。
このような構成により、操作員の重点監視目標の指定操作により重点監視目標を更新して、逐次指定された重点監視目標の方位にて最大のレーダ性能が得られるよう、空中線部11〜1n及び回転台30を回転させることができる。
[第1の実施例]
次に第2の実施形態の具体例である第1の実施例について説明する。図6は、第1の実施例の構成を示すブロック図である。第1の実施例は、図6に示すように、4個の空中線部により4面のフェーズドアレイアンテナを有するレーダ装置の実施例である。なお、図6に示す構成および基本動作は、空中線部の数量が4個である以外は前述の図3の構成と同じである。
図6に示すように、セクタ切替部40およびビーム制御部45は、空中線部11〜空中線部14に接続してデータの授受を行う。また、空中線駆動制御部32は、空中線駆動部21〜24に接続して各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度を伝送する。図7を用いて、特定方位の指定が無い場合の空中線駆動制御部32における各空中線部の設定方位の計算例を説明する。
図7は、図6に示すレーダ装置において、特定方位の指定が無い場合の各アンテナ開口の設定方位およびビーム走査範囲の一例を示す図である。なお、図7は、4面のフェーズドアレイアンテナを上方から見下ろしたときの、各フェーズドアレイアンテナの配置とビーム走査範囲を表している。図7において、空中線部11〜空中線部14は、それぞれのフェーズドアレイアンテナの中心軸111〜141を中心として回転動作を行い、空中線部のアンテナ開口の方位を変更させる。
ここで、説明を簡単にするために、空中線部11のアンテナ開口の方位を方位θ=0°とし、時計回りにθが増大するものと定義する。特定方位の指定が無い場合は、図7に示す通り、空中線部11〜空中線部14の方位設定角度を、それぞれ、θ1=0°、θ2=90°、θ3=180°、およびθ4=270°に設定する。また、それぞれの空中線部が受け持つビーム走査方位範囲は、空中線部11はθ=315°〜360°および0°〜45°、空中線部12はθ=45°〜135°、空中線部13はθ=135°〜225°、および空中線部14はθ=225°〜315°である。
次に、操作員により特定方位が指定された場合の動作について説明する。図8は、図6の特定方位が設定された場合の動作の一例を示すフローチャートである。操作員により特定方位が指定された場合は、まず指定された特定方位をもとに、空中線駆動制御部32は、同一平面を形成する2つの空中線部を決定する(ステップS31)。空中線駆動制御部32は、例えば特定方位に対して隣り合う2面の空中線部のフェーズドアレイアンテナを、同一平面を形成する2面の空中線部のフェーズドアレイアンテナとして決定する。
次に空中線駆動制御部32は、決定した2つの空中線部のアンテナ開口が同一平面を形成するよう各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度をそれぞれ計算する(ステップS32)。具体的には、空中線駆動制御部32は、決定した2つの空中線部の初期の方位設定角度の平均値を計算する。
また空中線駆動制御部32は、決定した2つの空中線部以外の、残りの2つの空中線部により方位全周の走査が維持できるよう各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度をそれぞれ計算する(ステップS33)。そして空中線駆動制御部32は、算出された方位設定角度を空中線駆動部21〜24に伝送し、各空中線駆動部21〜24は、各空中線部11〜14が空中線駆動制御部32により算出された方位設定角度を向くよう各空中線部11〜14を回転する(ステップS34)。
最後に、特定方位のレーダ性能が最大となるように、同一平面を形成する2面の空中線部のフェーズドアレイアンテナが特定方位に向くよう回転台30を回転させる(ステップS35)。具体的には空中線駆動制御部32は、ステップS32で算出された方位設定角度と指定された特定方位との差を算出して回転台30の回転角度とする。
図9は、図6の各空中線部の設定方位およびビーム走査範囲の一例を示す上面図である。図9は、特定方位としてθ=45°が指定された場合の各空中線部の設定方位とビーム走査範囲の例を示している。図9の例では、特定方位としてθ=45°が指定されたので、図8のステップS31では、θ=0°の方向にある空中線部11とθ=90°の方向にある空中線部12の2面のフェーズドアレイアンテナが同一平面を形成する2つの空中線部として決定される。ステップS32では、2つの空中線部11、12の方位設定角度として、空中線部11の初期方位設定角度θ=0°と空中線部12の初期方位設定角度θ=90°の中間の角度であるθ=45°が方位設定角度として算出される。
空中線部11と空中線部12の2面のフェーズドアレイアンテナの設定方位を変更したことにより、それぞれのフェーズドアレイアンテナが受け持つビーム走査範囲を図7と同じとした場合、例えば空中線部12はθ=45°〜135°である。このことから、アンテナ開口の方位角度θ=45°に対して0°〜90°ビームを方位方向にシフトさせる必要が生じる。しかし、アンテナ開口の方位に対して90°シフトさせてビーム形成することは不可能であり、また、アンテナ開口の方位に対して90°以下であっても、アンテナ開口の方位から大きくビームをシフトさせると、ビーム方向の放射電力の低下による目標探知性能の低下、ビームの半値幅増大による方位分解性能の低下を招く。空中線駆動制御部32は、そこで、これらの性能低下を軽減させるために、空中線部13と空中線部14の方位設定角度も変化させる。
ステップS33では、方位全周の走査が維持できるよう、残りの2つの空中線部13,14の方位設定角度をそれぞれ計算する。例えば空中線駆動制御部32は、2つの空中線部11、12と、空中線部13と、空中線部14で全方位を3等分するものとして、各空中線部13、14の方位設定角度をそれぞれ計算する。すなわち、図9において2つの空中線部11、12の方位設定角度の時計回り側にある空中線部13は、空中線部11、12の方位設定角度から時計回りに120°の角度に方位角度が設定される。また、図9において2つの空中線部11、12の方位設定角度の反時計回り側にある空中線部14は、空中線部11、12の方位設定角度から反時計回りに120°の角度に方位角度が設定される。すなわち空中線部13の方位設定角度はθ=165°とし、空中線部14の方位設定角度は、θ=285°とする。
そしてステップS34では空中線駆動制御部32は、空中線駆動部21、22に方位設定角度θ=45°を伝送し、空中線駆動部23に方位設定角度θ=165°を伝送し、空中線駆動部24に方位設定角度θ=285°を伝送する。各空中線駆動部21〜24は、各空中線部11〜14が空中線駆動制御部32により算出された方位設定角度を向くよう各空中線部11〜14を回転する。
そして、それぞれの空中線部が受け持つビーム走査方位範囲を120°とする。すなわち空中線部11と空中線部12のビーム走査方位範囲はθ=345°〜360°および0°〜105°とする。また、空中線部13のビーム走査方位範囲はθ=105°〜225°、空中線部14のビーム走査方位範囲はθ=225°〜345°とする。これにより、各空中線部がその法線方向に対して±60°以内でのビームシフトによってそれぞれが分担する方位範囲をビーム走査することで方位全周の走査が可能となる。
ステップS35では、回転台30の回転角度として、ステップS32で算出した方位設定角度θ=45°と、特定方位として指定された角度θ=45°との差が算出される。特定方位としてθ=45°が指定された場合は、ステップS32で算出した方位設定角度と、特定方位として指定された角度の差は0°になり、回転台30の回転角度は0°となる。
このようにして図9に示すように、空中線部11、12がいずれも方位設定角度θ=45°に向いて同一平面を形成しビーム形成に用いるアンテナ開口の増大化を図ることができる。その結果、1つのフェーズドアレイアンテナでアンテナ開口の方位にビームを形成する場合と比較して、アンテナ開口の方位方向の大きさはおよそ2倍、アンテナ素子数も2倍となる。アンテナ開口の大きさは空中線の送信利得と受信利得に比例し、アクティブフェーズドアレイアンテナの素子数増加は送信電力に比例する。これら、空中線の送信利得、受信利得、送信電力の積は最大探知距離の4乗に比例する。従って、図7の場合では、1つのフェーズドアレイアンテナで法線方向にビームを形成する場合と比較すると、最大探知距離が約1.7倍に向上する。
また、ビームの方位方向の半値幅はアンテナ開口の方位方向の大きさに反比例するので、同様に比較すると半値幅は1/2となり、その結果、特定方位の周辺については方位方向分解性能が2倍に向上する。
また空中線部13は空中線部11、12の方位設定角度から時計回りに120°の角度となるθ=165°に向き、空中線部14は空中線部11、12の方位設定角度から反時計回りに120°の角度となるθ=285°に向き、それぞれその法線方向に対して±60°以内でのビームシフトによって、方位全周の走査が維持できる。
以上は特定方位をθ=45°と指定した場合の各空中線部のフェーズドアレイアンテナの配置とビーム走査範囲の説明であるが、特定方位がθ=135°と指定された場合には、空中線部12と空中線部13の方位設定角度をθ=135°として2つの空中線部のフェーズドアレイアンテナで特定方位へビーム形成を行う。これと共に、空中線部14と空中線部11の方位設定角度も、前記と同様の要領にて各空中線部のビーム走査方位範囲が均等になるように設定する。
同様に、特定方位がθ=225°と指定された場合には、空中線部13と空中線部14の方位設定角度をθ=225°に設定し、残りの空中線部も前記と同様に設定する。特定方位がθ=315°と指定された場合には、空中線部14と空中線部11の方位設定角度をθ=315°に設定し、残りの空中線部も前記と同様に設定する。特定方位が45°、135°、225°、315°の場合は、回転台30を回転しなくとも、2つのフェーズドアレイアンテナで形成したビームにより特定方位で最大のレーダ性能を得ることができる。しかし、それ以外の方位が特定方位と指定された場合には、ビームを方位方向にシフトする必要が生じる。
図9に示す空中線部のアンテナ開口の方位設定のままで特定方位が0°と指定された場合、空中線部11と空中線部12の2つのフェーズドアレイアンテナで形成したビームを45°シフトさせる必要が生じる。その結果、θ=0°方向から見たアンテナ開口の水平方向の実効的な大きさは、フェーズドアレイアンテナ法線方向(θ=45°)から見た大きさに対して約0.7倍に縮小する。このとき、フェーズドアレイアンテナ法線方向にビームを形成した場合に対してθ=0°方向にビームを形成した場合の最大探知距離は、約0.8倍に劣化する。
空中線部11と空中線部12の設定方位をそれぞれθ=0°とすることにより、ビームの方位をシフトすること無く特定方位に向けることができるが、空中線部12のアンテナ開口の一部を空中線部11が遮蔽する配置になる。その結果、2つのフェーズドアレイアンテナのアンテナ開口が得られないだけでなく、空中線部12から放射した電波が空中線部11の背面で反射し、空中線部12で受信することになる。その結果、所望のビームが形成できなくなったり、近傍からの強力な反射波によって空中線部12の構成品を破損したりするなどの問題が生じる。従って、空中線部11と空中線部12の設定方位をそれぞれθ=0°とする方法をとることはできない。
そこで、空中線駆動制御部32は、回転台30を回転させて、2つのフェーズドアレイアンテナで形成したアンテナ開口を特定方位に向ける。図10は、特定方位がθ=0°の場合の図6の空中線部のアンテナ開口の方位設定を示す上面図である。図10に示すように、空中線駆動制御部32は、図9の空中線部のアンテナ開口の方位設定のままで回転台30を回転させて、空中線部11と空中線部12によるアンテナ開口を特定方位θ=0°に向ける。説明したとおり、2つのフェーズドアレイアンテナで形成したアンテナ開口を特定方位に向けるように、空中線駆動制御部32が回転台30の回転角度を計算して回転台駆動部31へ回転動作を指示し、空中線駆動制御部32が計算した回転角度に従って回転台駆動部31が回転台30を回転させる。これにより、2つのフェーズドアレイアンテナで形成したビーム方位をシフトすることなく特定方位へ向けることができるので、特定方位で最大のレーダ性能が得られるようになる。
なお、図6の特定方位が設定された場合の動作は、図8のフローチャートに示す例に限られない。図11は、図6の特定方位が設定された場合の動作の他の例を示すフローチャートである。図11に示すように、空中線駆動制御部32は、操作員により特定方位が指定された場合、ステップS31で、指定された特定方位をもとに、同一平面を形成する2つの空中線部を決定し、ステップS32で、決定した2つの空中線部のアンテナ開口が同一平面を形成するよう各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度をそれぞれ計算したのち、ステップS35の処理を行う。すなわち空中線駆動制御部32は、特定方位のレーダ性能が最大となるように、同一平面を形成する2面の空中線部のフェーズドアレイアンテナが特定方位に向くよう回転台30を回転させてもよい。このとき、空中線駆動制御部32は、各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度を、回転台30の回転角度に応じて増減させる(ステップS36)。
例えばステップS31で特定方位がθ=0°とされ、2つの空中線部11、12の方位設定角度とされて、ステップS32で空中線部11の初期方位設定角度θ=0°と空中線部12の初期方位設定角度θ=90°の中間の角度であるθ=45°が方位設定角度として算出され、ステップS35で回転台30を45°反時計回りに回転したとする。この場合、空中線駆動制御部32は、ステップS36で各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度をそれぞれ45°減算し、空中線部11、12の方位設定角度を0°とし、空中線部13の方位設定角度を180°から135°とし、空中線部14の方位設定角度を270°から225°とする。
その後、空中線駆動制御部32は、ステップS33の処理を行って、方位全周の走査が維持できるよう決定した2つの空中線部以外の、残りの2つの各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度をそれぞれ計算し、上記の例では、空中線部13の方位設定角度はθ=120°とし、空中線部14の方位設定角度は、θ=240°とする。
そして空中線駆動制御部32は、ステップS34の処理を行って、算出された方位設定角度を空中線駆動部21〜24に伝送し、各空中線駆動部21〜24は、各空中線部11〜14が空中線駆動制御部32により算出された方位設定角度を向くよう各空中線部11〜14を回転する。
次に本実施例の、機能を喪失した空中線部が指定された状況で、重点監視を行いたい目標が存在した場合の各アンテナ開口の方位角度の設定動作について説明する。図12は、空中線部11が機能喪失し、特定方位が設定された場合の動作の一例を示すフローチャートである。また図13は、空中線部11が機能を喪失したと指定された場合の各アンテナ開口の方位角度の設定の一例を示す図である。
操作員が空中線部11の機能が喪失したと指定した場合、空中線駆動制御部32は、他の3つの空中線部で方位全周360°のビーム走査を行うために、指定された各空中線部がその法線方向に対して±60°の範囲をビーム走査するように方位設定角度を変更する。まず、空中線駆動制御部32は、機能が喪失した空中線部11の走査範囲を補うよう方位角度を変更する2つの空中線部を決定する(ステップS41)。図13の例では、機能が喪失した空中線部11の両隣の空中線部12、14が方位角度を変更する空中線部として決定される。これにより残りの1つの空中線部13は、方位角度を変更しなくてすむ。
次に、空中線駆動制御部32は、決定した2つの空中線部12,14のアンテナ開口の方位設定角度を、方位全周の走査が維持できるようそれぞれ計算する(ステップS42)。空中線駆動制御部32は、ステップS41で決定された2つのうち、方位角度を変更しない空中線部13の、図13において反時計回り側の空中線部12の方位設定角度を、空中線部13の方位設定角度θ=180°から反時計回りに120°の角度に設定する。すなわち空中線駆動制御部32は、空中線部12の方位設定角度をθ=60°に設定する。
また、空中線駆動制御部32は、方位角度を変更しない空中線部13の、図13において時計回り側の空中線部14の方位設定角度を、空中線部13の方位設定角度θ=180°から時計回りに120°の角度に設定する。すなわち空中線駆動制御部32は、空中線部14の方位設定角度をθ=300°に設定する。
そして空中線駆動制御部32は、機能が喪失した空中線部11以外の空中線部12〜14の空中線駆動部22〜24に、算出された方位設定角度を伝送する。各空中線駆動部22〜24は、各空中線部11〜14が空中線駆動制御部32により算出された方位設定角度を向くよう各空中線部11〜14を回転する(ステップS43)。
すなわち空中線駆動制御部32は、空中線駆動部22に方位設定角度θ=60°を伝送し、空中線駆動部23に方位設定角度θ=180°を伝送し、空中線駆動部24に方位設定角度θ=300°を伝送する。各空中線駆動部22〜24は、各空中線部12〜14が空中線駆動制御部32により算出された方位設定角度を向くよう各空中線部11〜14を回転する。
このような角度設定により、空中線部12のビーム走査範囲をθ=0°〜120°、空中線部13のビーム走査範囲をθ=120°〜240°、空中線部14のビーム走査範囲をθ=240°〜360°として、3つの空中線部で方位全周のビーム走査が維持される。
以上は空中線部11の機能が喪失したと指定された場合の各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度とビーム走査範囲の説明であるが、空中線部12の機能喪失が操作員により指定された場合には、空中線部11の方位設定角度をθ=30°、空中線部13の方位設定角度をθ=150°、空中線部14の方位設定角度をθ=270°に設定する。また空中線部13の機能喪失が操作員により指定された場合には、空中線部11の方位設定角度をθ=0°、空中線部12の方位設定角度をθ=120°、空中線部14の方位設定角度をθ=240°に設定する。また、空中線部14の機能喪失が操作員により指定された場合には、空中線部11の方位設定角度をθ=330°、空中線部12の方位設定角度をθ=90°、空中線部13の方位設定角度をθ=210°に設定する。これらにより、いずれの場合も3個の空中線部で方位全周のビーム走査が維持される。
さらに空中線部11の機能喪失を指定した状況で、θ=0°方向に重点監視を行いたい目標が存在した場合、図13に示す空中線部のアンテナ開口の方位設定角度では空中線部11または空中線部14で形成したビーム方位を60°シフトさせる必要があるため、θ=0°方向のレーダ性能が大きく劣化する。
ビーム方位を60°シフトさせた場合、ビーム方位から見たアンテナ開口の水平方向の大きさは、アンテナ開口正面から見た大きさに対して0.5倍になる。その結果、アンテナ開口正面にビームを形成した場合に対して、ビーム方位を60°シフトした場合の最大探知距離は0.7倍に低下する。
そこで、空中線駆動制御部32は、回転台30を回転させて、機能を喪失していない空中線部のうち1つのアンテナ開口を特定方位に向ける。図14は、図13の空中線部のアンテナ開口の方位設定のままで回転台30を回転させて、空中線部12のアンテナ開口を特定方位θ=0°に向けた例である。
操作員が指示部33で空中線部11の機能が喪失したと指定している状況で、特定方位をθ=0°と指定すると、指示部33は、空中線駆動制御部32に特定方位θ=0°を伝送する。空中線駆動制御部32は、特定方位に向ける1つの空中線部を決定する(図12のステップS44)。
例えば、機能を喪失した空中線部12〜14の方位設定角度のうち特定方位との差が小さい空中線部を特定方位に向ける1つに決定する。図12の状況では、空中線部12及び空中線部14の方位設定角度と特定方位との差はいずれも60°であるが、このような場合が、例えば特定方向の時計回り側の空中線部12に決定してもよい。そして空中線駆動制御部32は、決定した空中線部12のアンテナ開口面が特定方位θ=0°に向くように回転方向及び回転角度を決定する(図12のステップS45)。
例えば、空中線部12の方位設定角度θ=60°と特定方位θ=0°の大小関係から、空中線駆動制御部32は、回転方向として反時計回りと決定する。また、空中線部12の方位設定角度θ=60°と特定方位θ=0°との差から空中線駆動制御部32は、回転角度として60°を算出する。
そして空中線駆動制御部32は、回転台駆動部31へ反時計回りに60°回転するよう回転動作を指示する。回転台駆動部31は空中線駆動制御部32からの指示に基づいて回転台30を回転させる。
これにより、空中線部12で形成したビームをシフトすることなく特定方位へ向けることができるので、特定方位で最大のレーダ性能を得ることができる。
なお上記の例では操作員が指示部33で特定方位を指定するものとしたが、これに限らず、例えば指示部33は、機能を喪失した空中線部が入力されれば特定方位の指定の有無にかかわらず機能を喪失した空中線部の方位を特定方位としてもよい。
[第2の実施例]
次に第3の実施形態の具体例である第2の実施例について説明する。図15は、第2の実施例の構成を示すブロック図である。第2の実施例は、図4の第3の実施形態において、4個の空中線部を有し特定方位を自動的に変更するレーダ装置の例である。すなわち、図15は、4個の空中線部によりフェーズドアレイアンテナを4面有するレーダ装置において、操作員が指定した重点監視を必要とする目標の存在する方位を自動的に特定方位に設定すると共に、その目標の移動に伴い特定方位を自動的に変更する場合の実施例を示している。なお、図15の構成および基本動作は、空中線部の数量が4個である以外は前述の図2の構成と同じである。
基本的なレーダ動作は前述の第1の実施例と同じであるが、前述の図4を用いてその処理の詳細を説明する。信号処理部43から追尾部44へ入力された目標検出データを用いて、追尾部44は、追尾処理にて現時点での目標の位置、速度、および針路の推定、未来時刻の目標の位置、速度、および針路の予測を行う。
目標予測データはビーム制御部45へ伝送され、ビーム制御部45は、当該時刻になったら目標位置に対してビームを照射する追尾ビームの制御データを生成する。また、目標推定データは、表示部47へ伝送され、ここで、表示部47が追尾目標情報表示処理により画面表示データの生成、および画面表示を行う。また、操作員による手動設定操作により追尾目標に対して重点監視目標の指定が行われると、目標指定部52が、その重点監視目標データを指示部53に伝送し、指示部53が重点監視目標変更の有無の判定を行う。
ここで、既存の重点監視目標から変更があった場合や初めて重点監視目標を設定する場合には指示部53は「変更あり」と判断し、既存の重点監視目標を削除して、新たに指定した目標を重点監視目標とする。一方、重点監視目標は「変更なし」と判断された場合には、指示部53は、現状設定されている重点監視目標をそのまま維持する。さらに、指示部53は、追尾部44が現在追尾中の複数の目標の位置データの中から、重点監視目標の方位データを抽出し、抽出された方位データから特定方位を生成し空中線駆動制御部32へ伝送する。
以降の処理は、第1の実施例と同様に、図15の空中線駆動制御部32が特定方位データに基づき各空中線部のアンテナ開口の方位設定角度を計算し、空中線部11〜空中線部14の方位設定角度を設定する。
さらに、2つの空中線部を同一方位に向けて形成したアンテナ開口または機能を喪失していない空中線部のアンテナ開口が特定方位に向くように、空中線駆動制御部32が回転台30の回転角度を計算して回転台駆動部31へ回転動作を指示する。空中線駆動制御部32の指示に基づいて回転台駆動部31が回転台30を回転させる。
以上のような処理によって、時間経過とともに重点監視目標の位置、速度、および針路が変化しても、操作員が特定方位を逐次手動操作により設定する必要がなく、自動的に重点監視目標の方位を特定方位として設定するとともに、常に特定方位において最大のレーダ性能を得ることができる。
以上、本発明を2つの実施形態および2つの実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
なお、本発明によるレーダの制御方法は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、本発明によるレーダの制御方法の処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等の、いわゆる非一時的な記録媒体をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記プログラムは、前述した機能をすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。