JP2018127442A - レプトスピラ症の診断に用いるレプトスピラ抗原検出用抗体 - Google Patents
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Abstract
Description
レプトスピラ症の患者発生は全世界で年間約30〜50万人,致死率は23%にのぼると推測されている。また,病原性レプトスピラは250以上の血清型があり,正確な同定には,時間と高度の専門技術が必要となってくる。加えて,レプトスピラ症は,他の感染症(マラリア,デング等)と臨床症状が酷似していることもあり,正確な診断を困難としている。
先行技術において作製された抗血清は,尿中におけるHADHを検出することで,レプトスピラ症の感染有無の診断が期待できる点において有用である。
しかし,この先行技術における抗血清は,HADHのみならず他のバンドも検出してしまう。そのため,この先行技術は,レプトスピラ症に感染しておらず,HADHが検出されないはずのハムスターにおいても非特異的な検出を示すことから,必ずしもレプトスピラ症の感染を正確に診断することができない。
そのため,HADHのみを検出する特異性の高い技術の開発が強く望まれていた。
すなわち,HADHは,病原性レプトスピラだけでなく,非病原性レプトスピラにおいても存在する。そのため,HADHそのものを検出したとしても,非病原性レプトスピラを検出する場合があり,この場合,偽陽性として検出することとなってしまい,正確な診断ができない。
さらには,ヒトにおいて同様の報告は未だなく,レプトスピラ患者の尿中でハムスターの尿中と同様に,HADHを検出できるかも不明である。
このELISAキットを用いた,レプトスピラ症感染患者と健常者のヒト尿試料による実験において,健常者と比較してレプトスピラ症感染患者のOD値が有意に高い測定値が示された。この結果から,このELISAキットが,ヒト生体試料においてもHADHの検出が可能であるとともに,レプトスピラ症感染患者に対して特異度の高い検出が可能になることが明らかになった。
本発明の第一の構成は,HADHを抗原とすることを特徴とする抗HADHモノクローナル抗体である。
本発明の第二の構成は,第一の構成に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。
本発明の第三の構成は,第一の構成に記載の抗HADHモノクローナル抗体によりHADHの検出を行い,レプトスピラ感染の診断を行うレプトスピラ症診断方法である。
本発明の第四の構成は,HADHの検出が,ELISA又はイムノクロマトグラフィーのいずれかによる第三の構成に記載のレプトスピラ症診断方法である。
本発明の第六の構成は,少なくとも配列番号5の検出を行うことを特徴とする第五の構成に記載のレプトスピラ症診断方法である。
本発明の第七の構成は,前記検出が,抗体により行われることを特徴とする第五又は第六の構成に記載のレプトスピラ症診断方法である。
本発明の第八の構成は,さらに,HADHを抗原とする抗HADH抗体と合わせて,HADHの検出を行う第五から第七の構成いずれかに記載のレプトスピラ症診断方法である。
本発明の第九の構成は,ELISA又はイムノクロマトグラフィーのいずれかを用いて検出を行う第五から第八の構成いずれかに記載のレプトスピラ症診断方法である。
本発明の第十の構成は,第五から第九の構成いずれかに記載のレプトスピラ症診断方法に用いられる抗体である。
本発明の第十一の構成は,第十の構成に記載の抗体を含むことを特徴とするレプトスピラ症診断キットである。
すなわち,本発明の抗HADHモノクローナル抗体ならびに抗HADH断片抗体は,HADHの特異度の高い検出を可能とするものであり,これを単独もしくは組み合わせて用いることにより,病原性レプトスピラに対して,より特異度の高い診断を可能とするものである。
本発明のレプトスピラ症診断方法の第一の態様においては,HADH全長を抗原として検出を行うものであり,HADHを抗原とする抗HADHモノクローナル抗体を用いることを特徴とする。加えて,かかる抗HADHモノクローナル抗体ならびにこれを産生するハイブリドーマについても,発明者により完成された発明である。
一例として,ハイブリドーマ法(実験例1参照)では,免疫原としてリコンビナントHADHなどを用いて免疫したマウスなどの動物の脾臓ないしリンパ節から採取したB細胞と,不死化させたミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマの作製を行う。この作製されたハイブリドーマについてスクリーニングを行い,HADHとの特異的結合能を有するものなど,HADHの検出に有用なハイブリドーマを選択すればよい。
ハイブリドーマからモノクローナル抗体を得るには,ハイブリドーマの培養を行い,その培養上清として得ることができる。もしくは,ハイブリドーマと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ,その腹水として得ることができる。
HADHの検出については,HADHの検出が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の免疫学的測定方法を用いることができる。このような手法として,例えば,ELISAやイムノクロマトグラフィーを用いることができる。
本発明のレプトスピラ症診断方法の第二の態様については,HADH断片を抗原として検出を行うものであり,発明者により,下記の知見が見出されたことを基礎とする。
(1) 病原性レプトスピラと非病原性レプトスピラのアミノ酸配列を比較し,下記に示す診断に有用な5つの配列が見出された。
配列番号1(285-296):MSKTPDGKKEKL
配列番号2(301-311):GADLYEPVPKF
配列番号3(317-332):RQANKRISEADYTGAM
配列番号4(396-414):DAIQLIEKAKLPVPEVLAK
配列番号5(410-424):EVLAKAKPGKPFYEL
(2) 上記配列から配列番号5を最も好ましい部位として選択し,これを認識する抗HADHポリクローナル抗体を作製したところ,この抗体が,複数種の病原性レプトスピラ由来HADHを検出した一方,非病原性レプトスピラ由来HADHを検出しなかった。
(3) 上記実験結果から,配列番号5に記載のアミノ酸配列部位ならびにこれを認識する抗体が,病原性レプトスピラの診断に有用であることが分かった。
本発明において「HADHにおける配列番号1から配列番号5に示されるアミノ酸配列のいずれか又は複数を検出」とは,これら配列番号に記載されるアミノ酸配列そのもののみを検出することに限定されるものではない。すなわち,これら5つのアミノ酸配列が「病原性レプトスピラと非病原性レプトスピラのアミノ酸配列を比較し,診断に有用なアミノ酸配列である」という本発明の趣旨に沿う範囲で,これら5つのアミノ酸配列を包含するアミノ酸配列も検出対象として含まれるものである。このようなアミノ酸配列として,これら配列番号1から配列番号5に示されるアミノ酸配列に,それぞれのアミノ酸配列における近傍のアミノ酸ないし任意のアミノ酸を好ましくは6個,より好ましくは4個ほど付加する形の配列であればよい。
また,検出する検体としては,HADHの検出が可能な限り特に限定する必要はなく,種々の検体を用いることができるが,典型的には,尿を検体として,必要に応じ前処理を行い,用いることができる。
すなわち,マイクロプレートに,抗HADHモノクローナル抗体,抗HADH断片抗体のいずれかを固相化させ,これに検体試料,一次抗体,二次抗体(場合によっては検出用基質)を反応させるなどである。この場合,固相化された抗体とは,異なる種の組み合わせで一次抗体を用いることができる。
キット化については,被検体の種類や検出手段により適宜調整すればよく,例えば,配列番号1から5を認識しうる抗HADH断片抗体,抗HADHモノクローナル抗体,修飾抗体,これら抗体を固相化させたマイクロプレート,ICストリップ,尿の前処理のためのフィルター,蛍光標識された二次抗体などが挙げられる。
レプトスピラHADHを抗原として用い,抗レプトスピラHADHモノクローナル抗体の作製を行った。
2.リンパ節から,リンパ球を分離・精製した後,ミエローマ細胞と融合ならびに培養を行った。
3.得られた4320個のハイブリドーマについてELISAにより一次スクリーニングを行い,HADHと反応がみられた31個のハイブリドーマを得た(図1)。さらに,二次スクリーニングを行い,31個のうち,10個のハイブリドーマを選択した。
4.以下の検討では,選択された10個のハイブリドーマから得られる抗体を,抗HADHモノクローナル抗体として用いた。
作製した抗HADHのハイブリドーマの性能評価を目的に,ELISAによる検討を行った。
(1) 検討を行った10個の抗HADHハイブリドーマの培養上清は,そのすべてにおいて,陰性コントロールであるPBSと比較すると高いOD値を示していた。
(2) この結果から,検討を行った10個の抗HADHハイブリドーマいずれも,HADHに対する結合能を有するモノクローナル抗体を産生することが確認された
(1) 検討を行った5つの抗HADHモノクローナル抗体は,そのすべてにおいて,陰性コントロールであるPBSと比較すると高いOD値を示していた。
(2) この結果から,検討を行った5つの抗HADHモノクローナル抗体は,いずれも,HADH対して特異性を有することが確認された。
(1) 検討を行った5つの抗HADHモノクローナル抗体は,そのすべてにおいて,添加する抗原濃度に応じて,OD値が減少していた。
(2) この結果から,検討を行った5つの抗HADHモノクローナル抗体は,いずれも,HADH対して特異性を有するとともに,定量的な検出が可能なことが示された。
(3) また,17C7の例では,陽性の場合,黄色く呈色するのに対し,陰性の場合は無色透明であり,目視の点からも検出が可能であることが示された。
作製を行った抗HADHモノクローナル抗体について,病原性レプトスピラならびに非病原性レプトスピラを用い,電気泳動による特異的検出が可能かどうかを調べることを目的に検討を行った。
2.電気泳動後,タンパクをPVDF膜に転写し,作製した抗HADHモノクローナル抗体(5A9,3H12)と反応させた。抗原・抗体反応は,HRP標識二次抗体を用いて化学発光により検出した。
(1) 5A9では,コントロールであるリコンビナントHADHならびに全ての病原性レプトスピラの検出が可能であった。加えて,非病原性レプトスピラ(L. biflexa)においては,HADHに相当するバンドは検出されず,その他,非特異的と思われる検出もほとんどなかった。
(2) 3H12では,コントロールであるリコンビナントHADHならびに全ての病原性レプトスピラの検出が可能であった。しかしながら,非病原性レプトスピラ(L. biflexa)においては,HADHとは異なるバンドが検出され,同様のバンドの検出が,全ての病原性レプトスピラにおいても検出された。
全ての病原性レプトスピラに反応するとともに特異性が高い抗体を作製することを目的として,病原性レプトスピラと非病原性レプトスピラのHADH配列構造を比較し,どの配列部分が抗体認識部位として適切かを明らかにするため,検討を行った。
2.結果を図6ならびに図7に示す。
(1) 病原性レプトスピラ由来HADHは,436のアミノ酸配列を有し,それぞれ図6に示された配列部分において,シグナルペプチド部位,膜貫通部位,プロペプチド部位を示した。
(2) これと非病原性レプトスピラの配列を比較したところ,図7の四角で囲まれた部分に相当する下記5つの配列部分が,抗体認識部位として有用であることが分かった。
配列番号1(285-296):MSKTPDGKKEKL
配列番号2(301-311):GADLYEPVPKF
配列番号3(317-332):RQANKRISEADYTGAM
配列番号4(396-414):DAIQLIEKAKLPVPEVLAK
配列番号5(410-424):EVLAKAKPGKPFYEL
3.さらに検討を行った結果,親水性を有するとともに,配列内部にターンがあると推測される配列番号5を,抗原ペプチドとして選択した。
配列番号5を認識する抗体作製を目的として行った。
2.アジュバントとして1回目は,完全フロインドアジュバントを使用し,それ以後は不完全フロイントアジュバントにした。
3.免疫開始56日後に全採血を行い,血清を分離し,抗HADH断片ポリクローナル抗体とした。
作製した抗HADH断片ポリクローナル抗体が,どのような認識能を有するかを確認することを目的として検討を行った。
2.電気泳動後,タンパクをPVDF膜に転写し,作製した抗HADH断片ポリクローナル抗体と反応させた。抗原・抗体反応は,HRP標識二次抗体を用いて化学発光により検出した。
(1) 非病原性レプトスピラ(L. biflexa)においては,HADHに相当するバンドは検出されなかった。
(2) 病原性レプトスピラ(Manilae,Hebdomadis,Icterohaemorrhagiae,Pyrogenes)においては,HADHに相当するバンドがはっきりと強く検出された。
(1) 陽性コントロールにおいて,HADHは強く検出された。
(2) また,本検討に用いた2種の病原性レプトスピラ(L.interrogans serovar Manilae,L.interrogans serovar Hebdomadis),いずれにおいてもHADHが検出された。
(3) さらに,正常な尿において,HADHに相当するバンドは検出されなかった。
(1) 陽性コントロールにおいて,HADHは強く検出された。
(2) また,レプトスピラ症患者A,B,いずれにおいてもHADHが検出された。
(3) さらに,抗HADH抗体はアルブミンと交差反応しないことを確認した。
7.よって,作製した抗HADH断片ポリクローナル抗体は,レプトスピラ症の診断において,特異度の高い抗体として用いられることが分かった。また,HADHを診断の対象として選択することにより,特異性の高い診断が可能となることが示された。
作製した抗HADH断片ポリクローナル抗体もしくは抗HADHモノクローナル抗体を用いて,生体試料におけるHADH検出が可能かどうかについて,検討を行った。
2.健常者もしくはレプトスピラ症感染患者の尿,各種一次抗体,PO標識二次抗体,POD基質の順に反応させ,OD値の測定を行った。
(1) 抗HADH断片ポリクローナル抗体を固相化したマイクロプレートにおいて,一次抗体として抗HADHモノクローナル抗体を用いて検討を行った結果を図11の左に示す。抗HADHモノクローナル抗体のうち,17C7ならびに23A2において,健常者と感染症患者で差が認められた。
(2) 抗HADHモノクローナル抗体(17C7)を固相化したマイクロプレートにおいて,一次抗体として抗HADH断片ポリクローナル抗体を用いて検討を行った結果を図11の右に示す。いずれにおいても差が認められたが,希釈倍率500倍の方が顕著な差が認められた。
作製された各抗体を用いて,ICストリップ(イムノクロマトストリップ)の試作を行い,その性能の評価を行った。
(1) 陰性コントロール(25mMリン酸2水素カリウム溶液),ならびにHADHを含むすべての濃度において,コントロールラインにおける検出が確認できた。
(2) また,テストラインにおいては,312ng/mL以上の濃度で検出が可能であり,また,濃度依存的に検出バンドも濃くなっていた。
(3) なお,156ng/mL以下の濃度ならびに陰性コントロールでは,テストラインによる検出は確認されなかった。
Claims (11)
- HADHを抗原とすることを特徴とする抗HADHモノクローナル抗体
- 請求項1に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ
- 請求項1に記載の抗HADHモノクローナル抗体によりHADHの検出を行い,レプトスピラ感染の診断を行うレプトスピラ症診断方法
- HADHの検出が,ELISA又はイムノクロマトグラフィーのいずれかによる請求項3に記載のレプトスピラ症診断方法
- HADHにおける配列番号1から配列番号5に示されるアミノ酸配列のいずれか又は複数を検出することにより,病原性レプトスピラ感染の診断を行うことを特徴とするレプトスピラ症診断方法
- 少なくとも配列番号5の検出を行うことを特徴とする請求項5に記載のレプトスピラ症診断方法
- 前記検出が,抗体により行われることを特徴とする請求項5又は6に記載のレプトスピラ症診断方法
- さらに,HADHを抗原とする抗HADH抗体と合わせて,HADHの検出を行う請求項5から7のいずれかに記載のレプトスピラ症診断方法
- ELISA又はイムノクロマトグラフィーのいずれかを用いて検出を行う請求項5から8のいずれかに記載のレプトスピラ症診断方法
- 請求項5から9に記載のレプトスピラ症診断方法に用いられる抗体
- 請求項10に記載の抗体を含むことを特徴とするレプトスピラ症診断キット
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