JP2018123360A - 軟磁性合金および磁性部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】高い飽和磁束密度、低い保磁力及び高い透磁率を同時に有する軟磁性合金の提供。
【解決手段】組成式((Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b))MaBb)1−cCcで表される主成分、及び、少なくともP,S並びにTiを含む副成分からなる軟磁性合金。(X1はCo及びNiから選択される1種以上;X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi又は希土類元素から選択される1種以上;MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W又はVから選択される1種以上;0.030≦a≦0.14;0.005≦b≦0.2;0,0≦c≦0.040;α≧0;β≧0;0≦α+β≦0.50)Pの含有量が0.001〜0.050wt%、Sの含有量が0.001〜0.050wt%、Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、0.10≦P/S≦10である軟磁性合金。
【選択図】なし
【解決手段】組成式((Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b))MaBb)1−cCcで表される主成分、及び、少なくともP,S並びにTiを含む副成分からなる軟磁性合金。(X1はCo及びNiから選択される1種以上;X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi又は希土類元素から選択される1種以上;MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,W又はVから選択される1種以上;0.030≦a≦0.14;0.005≦b≦0.2;0,0≦c≦0.040;α≧0;β≧0;0≦α+β≦0.50)Pの含有量が0.001〜0.050wt%、Sの含有量が0.001〜0.050wt%、Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、0.10≦P/S≦10である軟磁性合金。
【選択図】なし
Description
本発明は、軟磁性合金および磁性部品に関する。
近年、電子・情報・通信機器等において低消費電力化および高効率化が求められている。さらに、低炭素化社会へ向け、上記の要求が一層強くなっている。そのため、電子・情報・通信機器等の電源回路にも、エネルギー損失の低減や電源効率の向上が求められている。そして、電源回路に使用される磁性素子の磁心には飽和磁束密度の向上、コアロス(磁心損失)の低減および透磁率の向上が求められている。コアロスを低減すれば、電力エネルギーのロスが小さくなり、透磁率を向上すれば、磁性素子を小型化できるので高効率化および省エネルギー化が図られる。
特許文献1には、Fe−B−M(M=Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W)系の軟磁性非晶質合金が記載されている。本軟磁性非晶質合金は市販のFeアモルファスと比べて高い飽和磁束密度を有するなど、良好な軟磁気特性を有する。
なお、上記の磁心のコアロスを低減する方法として、磁心を構成する磁性体の保磁力を低減することが考えられる。
特許文献1のFe基軟磁性合金は微細結晶相を析出させることで、軟磁気特性を向上させることができることが記載されている。しかし、微細結晶相を安定的に析出させることができる組成については十分に検討されていない。
本発明者らは、微細結晶相を安定的に析出させることができる組成について検討を行った。その結果、特許文献1に記載された組成とは異なる組成においても微細結晶相を安定的に析出させることができることを見出した。
本発明は、高い飽和磁束密度、低い保磁力および高い透磁率を同時に有する軟磁性合金等を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明に係る軟磁性合金は、
組成式((Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b))MaBb)1−cCcからなる主成分、および、少なくともP,SおよびTiを含む副成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Biおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.030≦a≦0.14
0.005≦b≦0.20
0≦c≦0.040
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
前記軟磁性合金全体を100wt%とする場合において、
前記Pの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Sの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、
前記Pの含有量を前記Sの含有量で割った値をP/Sとする場合において、
0.10≦P/S≦10
であることを特徴とする。
組成式((Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b))MaBb)1−cCcからなる主成分、および、少なくともP,SおよびTiを含む副成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Biおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.030≦a≦0.14
0.005≦b≦0.20
0≦c≦0.040
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
前記軟磁性合金全体を100wt%とする場合において、
前記Pの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Sの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、
前記Pの含有量を前記Sの含有量で割った値をP/Sとする場合において、
0.10≦P/S≦10
であることを特徴とする。
本発明に係る軟磁性合金は、上記の特徴を有することで、熱処理を施すことによりFe基ナノ結晶合金となりやすい構造を有しやすい。さらに、上記の特徴を有するFe基ナノ結晶合金は飽和磁束密度が高く保磁力が低く透磁率が高いという好ましい軟磁気特性を有する軟磁性合金となる。
本発明に係る軟磁性合金は、0.73≦1−(a+b)≦0.93であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、0≦α{1−(a+b)}(1−c)≦0.40であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、α=0であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、0≦β{1−(a+b)}(1−c)≦0.030であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、β=0であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、α=β=0であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、非晶質および初期微結晶からなり、前記初期微結晶が前記非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有していてもよい。
前記初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmであってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、Fe基ナノ結晶からなる構造を有していてもよい。
前記Fe基ナノ結晶の平均粒径が5〜30nmであってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、薄帯形状であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、粉末形状であってもよい。
また、本発明に係る磁性部品は、上記の軟磁性合金からなる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る軟磁性合金は、((Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b))MaBb)1−cCcからなる主成分、および、少なくともP,SおよびTiを含む副成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Biおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.030≦a≦0.14
0.005≦b≦0.20
0≦c≦0.040
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
前記軟磁性合金全体を100wt%とする場合において、
前記Pの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Sの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、
前記Pの含有量を前記Sの含有量で割った値をP/Sとする場合において、
0.10≦P/S≦10
である組成を有する。
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Biおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.030≦a≦0.14
0.005≦b≦0.20
0≦c≦0.040
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
前記軟磁性合金全体を100wt%とする場合において、
前記Pの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Sの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、
前記Pの含有量を前記Sの含有量で割った値をP/Sとする場合において、
0.10≦P/S≦10
である組成を有する。
上記の組成を有する軟磁性合金は、非晶質からなり、粒径が30nmよりも大きい結晶からなる結晶相を含まない軟磁性合金としやすい。そして、当該軟磁性合金を熱処理する場合には、Fe基ナノ結晶を析出しやすい。そして、Fe基ナノ結晶を含む軟磁性合金は良好な磁気特性を有しやすい。
言いかえれば、上記の組成を有する軟磁性合金は、Fe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金の出発原料としやすい。
Fe基ナノ結晶とは、粒径がナノオーダーであり、Feの結晶構造がbcc(体心立方格子構造)である結晶のことである。本実施形態においては、平均粒径が5〜30nmであるFe基ナノ結晶を析出させることが好ましい。このようなFe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金は、飽和磁束密度が高くなり、保磁力が低くなりやすい。
なお、熱処理前の軟磁性合金は完全に非晶質のみからなっていてもよいが、非晶質および粒径が15nm以下である初期微結晶からなり、前記初期微結晶が前記非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有することが好ましい。初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有することにより、熱処理時にFe基ナノ結晶を析出させやすくなる。なお、本実施形態では、前記初期微結晶は平均粒径が0.3〜10nmであることが好ましい。
以下、本実施形態に係る軟磁性合金の各成分について詳細に説明する。
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上である。また、Mの種類としてはNb,HfおよびZrからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。Mの種類がNb,HfおよびZrからなる群から選択される1種以上であることにより保磁力が低下し易くなる。
Mの含有量(a)は0.030≦a≦0.14を満たす。Mの含有量(a)は0.030≦a≦0.070であることが好ましく、0.030≦a≦0.050であることがより好ましい。aが小さい場合には、熱処理前の軟磁性合金に粒径が30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させることができず、保磁力が高くなりやすくなる。aが大きい場合には、飽和磁束密度が低くなりやすくなる。
Bの含有量(b)は0.005≦b≦0.20を満たす。また、0.005≦b≦0.10であることが好ましく、0.005≦b≦0.050であることがより好ましい。bが小さすぎる場合には、熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させることができず、保磁力が高くなりやすくなる。bが大きい場合には、飽和磁束密度が低下しやすくなる。また、熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じない場合には、bが小さいほど、熱処理後の軟磁性合金は高い飽和磁束密度、低い保磁力および高い透磁率を同時に有する傾向にある。
Feの含有量(1−(a+b))については、特に制限はないが0.73≦1−(a+b)≦0.93を満たすことが好ましい。0.73≦1−(a+b)である場合には飽和磁束密度を向上させやすい。また、1−(a+b)≦0.93である場合には熱処理前の軟磁性合金に、粒径が15nm以下の初期微結晶からなり、前記初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有する非晶質相が生じやすい。また、1−(a+b)≦0.93である場合には熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じにくくなる。
Cの含有量(c)は0≦c≦0.040を満たす。c=0でもよい。すなわち、Cを含有しなくてもよい。Cを含有することで保磁力が低下しやすくなる。0.001≦c≦0.040であることが好ましく、0.005≦c≦0.020であることが更に好ましい。cが大きすぎる場合には、熱処理前の軟磁性合金に粒径が30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させることができず、保磁力が高くなりやすくなる。一方、Cを含有しない場合(c=0)には、Cを含有する場合と比較して粒径が15nm以下の初期微結晶を生じやすいという利点がある。
また、本実施形態に係る軟磁性合金においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上である。X1の含有量(α)はα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦α{1−(a+b)}(1−c)≦0.40を満たすことが好ましい。
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Biおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上である。X2の含有量(β)はβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦β{1−(a+b)}(1−c)≦0.030を満たすことが好ましい。
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下とする。すなわち、0≦α+β≦0.50とする。α+β>0.50の場合には、熱処理によりFe基ナノ結晶合金とすることが困難となる。
さらに、本実施形態に係る軟磁性合金は、上記の主成分以外にも副成分としてP,SおよびTiを含有する。軟磁性合金全体を100wt%とする場合において、Pの含有量が0.001〜0.050wt%、Sの含有量が0.001〜0.050wt%、Tiの含有量が0.001〜0.080wt%である。さらに、前記Pの含有量を前記Sの含有量で割った値をP/Sとする場合において、0.10≦P/S≦10である。
P,SおよびTiが全て、上記の微量な含有量で存在することにより、粒径が15nm以下の初期微結晶を生じやすくなる。その結果、高い飽和磁束密度、低い保磁力および高い透磁率を同時に有する軟磁性合金を得ることができる。なお、上記の効果は、P,SおよびTiを全て同時に含有することにより奏される。すなわち、P,SおよびTiのうちいずれか一つ以上を含有しない場合には、特にBの含有量(b)が0.005≦b≦0.050である場合において、熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させることができず、保磁力が高くなりやすくなる。言い換えれば、P,SおよびTiを全て含有する場合には、Bの含有量(b)が0.005≦b≦0.050であり小さい場合でも粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じにくくなる。そして、Bの含有量が小さいことにより、Feの含有量を大きくすることができ、特に高い飽和磁束密度、特に低い保磁力および特に高い透磁率を同時に有する軟磁性合金を得ることができる。
また、Pの含有量,Sの含有量,Tiの含有量およびP/Sのうちいずれか一つ以上が上記の範囲外であると、保磁力が増加しやすくなり、透磁率が低下しやすくなる。
Pの含有量は0.005wt%以上0.040wt%以下であることが好ましい。Sの含有量は0.005wt%以上0.040wt%以下であることが好ましい。Tiの含有量は0.010wt%以上0.040wt%以下であることが好ましい。P,Sおよび/またはTiの含有量を上記の範囲内とすることにより、特に透磁率が向上する傾向にある。
なお、本実施形態に係る軟磁性合金は上記の主成分および副成分に含まれる元素以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。例えば、軟磁性合金100重量%に対して0.1重量%以下、含んでいてもよい。
以下、本実施形態に係る軟磁性合金の製造方法について説明する
本実施形態に係る軟磁性合金の製造方法には特に限定はない。例えば単ロール法により本実施形態に係る軟磁性合金の薄帯を製造する方法がある。また、薄帯は連続薄帯であってもよい。
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる軟磁性合金と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られるFe基ナノ結晶からなる軟磁性合金とは通常、同組成となる。
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(浴湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1200〜1500℃とすることができる。
単ロール法においては、主にロール33の回転速度を調整することで得られる薄帯の厚さを調整することができるが、例えばノズルとロールとの間隔や溶融金属の温度などを調整することでも得られる薄帯の厚さを調整することができる。薄帯の厚さには特に制限はないが、例えば5〜30μmとすることができる。
後述する熱処理前の時点では、薄帯は粒径が30nmよりも大きい結晶が含まれていない非晶質である。非晶質である薄帯に対して後述する熱処理を施すことにより、Fe基ナノ結晶合金を得ることができる。
なお、熱処理前の軟磁性合金の薄帯に粒径が30nmよりも大きい結晶が含まれているか否かを確認する方法には特に制限はない。例えば、粒径が30nmよりも大きい結晶の有無については、通常のX線回折測定により確認することができる。
また、熱処理前の薄帯には、粒径が15nm未満の初期微結晶が全く含まれていなくてもよいが、初期微結晶が含まれていることが好ましい。すなわち、熱処理前の薄帯は、非晶質および該非晶質中に存在する該初期微結晶とからなるナノヘテロ構造であることが好ましい。なお、初期微結晶の粒径に特に制限はないが、平均粒径が0.3〜10nmの範囲内であることが好ましい。
また、上記の初期微結晶の有無および平均粒径の観察方法については、特に制限はないが、例えば、イオンミリングにより薄片化した試料に対して、透過電子顕微鏡を用いて、制限視野回折像、ナノビーム回折像、明視野像または高分解能像を得ることで確認できる。制限視野回折像またはナノビーム回折像を用いる場合、回折パターンにおいて非晶質の場合にはリング状の回折が形成されるのに対し、非晶質ではない場合には結晶構造に起因した回折斑点が形成される。また、明視野像または高分解能像を用いる場合には、倍率1.00×105〜3.00×105倍で目視にて観察することで初期微結晶の有無および平均粒径を観察できる。
ロールの温度、回転速度およびチャンバー内部の雰囲気には特に制限はない。ロールの温度は4〜30℃とすることが非晶質化のため好ましい。ロールの回転速度は速いほど初期微結晶の平均粒径が小さくなる傾向にあり、25〜30m/sec.とすることが平均粒径0.3〜10nmの初期微結晶を得るためには好ましい。チャンバー内部の雰囲気はコスト面を考慮すれば大気中とすることが好ましい。
また、Fe基ナノ結晶合金を製造するための熱処理条件には特に制限はない。軟磁性合金の組成により好ましい熱処理条件は異なる。通常、好ましい熱処理温度は概ね400〜600℃、好ましい熱処理時間は概ね0.5〜10時間となる。しかし、組成によっては上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理温度および熱処理時間が存在する場合もある。また、熱処理時の雰囲気には特に制限はない。大気中のような活性雰囲気下で行ってもよいし、Arガス中のような不活性雰囲気下で行ってもよい。
また、得られたFe基ナノ結晶合金における平均粒径の算出方法には特に制限はない。例えば透過電子顕微鏡を用いて観察することで算出できる。また、結晶構造がbcc(体心立方格子構造)であること確認する方法にも特に制限はない。例えばX線回折測定を用いて確認することができる。
また、本実施形態に係る軟磁性合金を得る方法として、上記した単ロール法以外にも、例えば水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により本実施形態に係る軟磁性合金の粉体を得る方法がある。以下、ガスアトマイズ法について説明する。
ガスアトマイズ法では、上記した単ロール法と同様にして1200〜1500℃の溶融合金を得る。その後、前記溶融合金をチャンバー内で噴射させ、粉体を作製する。
このとき、ガス噴射温度を4〜30℃とし、チャンバー内の蒸気圧を1hPa以下とすることで、上記の好ましいナノヘテロ構造を得やすくなる。
ガスアトマイズ法で粉体を作製した後に、400〜600℃で0.5〜10分、熱処理を行うことで、各粉体同士が焼結し粉体が粗大化することを防ぎつつ元素の拡散を促し、熱力学的平衡状態に短時間で到達させることができ、歪や応力を除去することができ、平均粒径が5〜30nmのFe基軟磁性合金を得やすくなる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
本実施形態に係る軟磁性合金の形状には特に制限はない。上記した通り、薄帯形状や粉末形状が例示されるが、それ以外にも薄膜形状、ブロック形状等も考えられる。
本実施形態に係る軟磁性合金(Fe基ナノ結晶合金)の用途には特に制限はない。例えば、磁性部品が挙げられ、その中でも特に磁心が挙げられる。インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁心として好適に用いることができる。本実施形態に係る軟磁性合金は、磁心の他にも薄膜インダクタ、磁気ヘッドにも好適に用いることができる。
以下、本実施形態に係る軟磁性合金から磁性部品、特に磁心およびインダクタを得る方法について説明するが、本実施形態に係る軟磁性合金から磁心およびインダクタを得る方法は下記の方法に限定されない。また、磁心の用途としては、インダクタの他にも、トランスおよびモータなどが挙げられる。
薄帯形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、薄帯形状の軟磁性合金を巻き回す方法や積層する方法が挙げられる。薄帯形状の軟磁性合金を積層する際に絶縁体を介して積層する場合には、さらに特性を向上させた磁芯を得ることができる。
粉末形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、適宜バインダと混合した後、金型を用いて成形する方法が挙げられる。また、バインダと混合する前に、粉末表面に酸化処理や絶縁被膜等を施すことにより、比抵抗が向上し、より高周波帯域に適合した磁心となる。
成形方法に特に制限はなく、金型を用いる成形やモールド成形などが例示される。バインダの種類に特に制限はなく、シリコーン樹脂が例示される。軟磁性合金粉末とバインダとの混合比率にも特に制限はない。例えば軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜10質量%のバインダを混合させる。
例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜5質量%のバインダを混合させ、金型を用いて圧縮成形することで、占積率(粉末充填率)が70%以上、1.6×104A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.45T以上、かつ比抵抗が1Ω・cm以上である磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的なフェライト磁心と同等以上の特性である。
また、例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜3質量%のバインダを混合させ、バインダの軟化点以上の温度条件下の金型で圧縮成形することで、占積率が80%以上、1.6×104A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.9T以上、かつ比抵抗が0.1Ω・cm以上である圧粉磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的な圧粉磁心よりも優れた特性である。
さらに、上記の磁心を成す成形体に対し、歪取り熱処理として成形後に熱処理することで、さらにコアロスが低下し、有用性が高まる。なお、磁心のコアロスは、磁心を構成する磁性体の保磁力を低減することで低下する。
また、上記磁心に巻線を施すことでインダクタンス部品が得られる。巻線の施し方およびインダクタンス部品の製造方法には特に制限はない。例えば、上記の方法で製造した磁心に巻線を少なくとも1ターン以上巻き回す方法が挙げられる。
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、巻線コイルが磁性体に内蔵されている状態で加圧成形し一体化することでインダクタンス部品を製造する方法がある。この場合には高周波かつ大電流に対応したインダクタンス部品を得やすい。
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、軟磁性合金粒子にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した軟磁性合金ペースト、および、コイル用の導体金属にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した導体ペーストを交互に印刷積層した後に加熱焼成することで、インダクタンス部品を得ることができる。あるいは、軟磁性合金ペーストを用いて軟磁性合金シートを作製し、軟磁性合金シートの表面に導体ペーストを印刷し、これらを積層し焼成することで、コイルが磁性体に内蔵されたインダクタンス部品を得ることができる。
ここで、軟磁性合金粒子を用いてインダクタンス部品を製造する場合には、最大粒径が篩径で45μm以下、中心粒径(D50)が30μm以下の軟磁性合金粉末を用いることが、優れたQ特性を得る上で好ましい。最大粒径を篩径で45μm以下とするために、目開き45μmの篩を用い、篩を通過する軟磁性合金粉末のみを用いてもよい。
最大粒径が大きな軟磁性合金粉末を用いるほど高周波領域でのQ値が低下する傾向があり、特に最大粒径が篩径で45μmを超える軟磁性合金粉末を用いる場合には、高周波領域でのQ値が大きく低下する場合がある。ただし、高周波領域でのQ値を重視しない場合には、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を使用可能である。バラツキの大きな軟磁性合金粉末は比較的安価で製造できるため、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を用いる場合には、コストを低減することが可能である。
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
下表に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1300℃の溶融状態の金属とした後に、大気中において20℃のロールを回転速度30m/sec.で用いた単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。薄帯の厚さ20〜25μm、薄帯の幅約15mm、薄帯の長さ約10mとした。
得られた各薄帯に対してX線回折測定を行い、粒径が30nmよりも大きい結晶の有無を確認した。そして、粒径が30nmよりも大きい結晶が存在しない場合には非晶質相からなるとし、粒径が30nmよりも大きい結晶が存在する場合には結晶相からなるとした。なお、非晶質相には粒径が15nm以下である初期微結晶が含まれていてもよい。
その後、各実施例および比較例の薄帯に対し、下表に示す条件で熱処理を行った。熱処理後の各薄帯に対し、飽和磁束密度、保磁力および透磁率を測定した。飽和磁束密度(Bs)は振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。保磁力(Hc)は直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。透磁率(μ´)はインピーダンスアナライザを用いて周波数1kHzで測定した。本実施例では、飽和磁束密度は1.30T以上を良好とし、1.40T以上をさらに良好とし、1.60T以上を最も良好とした。保磁力は3.0A/m以下を良好とし、2.4A/m以下をさらに良好とし、2.0A/m以下を最も良好とした。透磁率は50000以上を良好とし、53000以上をさらに良好とし、54000以上を最も良好とした。
なお、以下に示す実施例では特に記載の無い限り、全て平均粒径が5〜30nmであり結晶構造がbccであるFe基ナノ結晶を有していたことをX線回折測定、および透過電子顕微鏡を用いた観察で確認した。
表1はP,SおよびTiを全て所定の範囲内で含有し、Nb量およびB量を所定の範囲内で変化させた実施例を記載したものである。また、表2はP,SおよびTiのうち一種以上を含有せず、Nb量およびB量を所定の範囲内で変化させた比較例を記載したものである。
各成分の含有量が所定の範囲内である表1の実施例は飽和磁束密度、保磁力および透磁率が全て良好であった。
これに対し、P,SおよびTiのうち一種以上を含有しない表2の比較例は透磁率が好ましくないものとなった。その中でも、Bの含有量(b)が0.005である比較例は、熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力が著しく大きくなり透磁率が著しく小さくなった。これに対し、bが0.005であっても、P,SおよびTiを全て含有する実施例9は熱処理前の薄帯が非晶質相からなる構造となった。そして、Bの含有量が低く非晶質相からなる薄帯を熱処理することにより、飽和磁束密度(Bs)、保磁力(Hc)および透磁率(μ´)が全て著しく優れた試料を得ることができた。
表3はNb量、すなわちM量を変化させた実施例および比較例を記載したものである。表4はMの種類および含有量を変化させた実施例および比較例を記載したものである。
M量が所定の範囲内である表3および表4の実施例はMの種類に関わらず飽和磁束密度、保磁力および比透磁率が全て良好であった。これに対し、M量が小さすぎる比較例は熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力が著しく大きくなり透磁率が著しく小さくなった。M量が大きすぎる比較例は残留磁束密度が好ましくないものとなった。また、透磁率も低下した比較例があった。
表5はB量を変化させた実施例および比較例を記載したものである。
B量が所定の範囲内である表5の実施例は飽和磁束密度、保磁力および透磁率が全て良好であった。これに対し、B量が小さすぎる比較例は熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力が著しく大きくなり透磁率が著しく小さくなった。B量が大きすぎる比較例は残留磁束密度が好ましくないものとなった。
表6はP量およびS量を変化させた実施例および比較例を記載したものである。
P量およびS量が所定の範囲内である表6の実施例は飽和磁束密度、保磁力および透磁率が全て良好であった。これに対し、P量が所定の範囲外である比較例およびS量が所定の範囲外である比較例は保磁力が大きくなり透磁率が小さくなった。また、P量およびS量が所定の範囲内であっても、P/Sが小さすぎる場合および大きすぎる場合には、保磁力が大きくなり透磁率が小さくなった。
表7はTi量を変化させた実施例および比較例を記載したものである。
Ti量が所定の範囲内である表7の実施例は飽和磁束密度、保磁力および透磁率が全て良好であった。これに対し、Ti量が所定の範囲外である比較例は保磁力が大きくなり透磁率が小さくなった。
表8はNb量を所定の範囲内で変化させながらC量を変化させた実施例および比較例を記載したものである。
C量が所定の範囲内である表8の実施例は飽和磁束密度、保磁力および透磁率が全て良好であった。これに対し、C量が大きすぎる比較例は熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力が著しく大きくなり透磁率が著しく小さくなった。
表9は実施例9についてFeの一部をX1および/またはX2で置換した実施例である。
Feの一部をX1および/またはX2で置換しても良好な特性を示した。
表10は実施例9についてロールの回転速度および/または熱処理温度を変化させることで初期微結晶の平均粒径およびFe基ナノ結晶合金の平均粒径を変化させた実施例である。
初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmであり、Fe基ナノ結晶合金の平均粒径が5〜30nmである場合には、上記の範囲を外れる場合と比較して保磁力および透磁率が、より良好となった。
Claims (14)
- 組成式((Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b))MaBb)1−cCcからなる主成分、および、少なくともP,SおよびTiを含む副成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Biおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.030≦a≦0.14
0.005≦b≦0.20
0≦c≦0.040
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
前記軟磁性合金全体を100wt%とする場合において、
前記Pの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Sの含有量が0.001〜0.050wt%、前記Tiの含有量が0.001〜0.080wt%であり、
前記Pの含有量を前記Sの含有量で割った値をP/Sとする場合において、
0.10≦P/S≦10
であることを特徴とする軟磁性合金。 - 0.73≦1−(a+b)≦0.93である請求項1に記載の軟磁性合金。
- 0≦α{1−(a+b)}(1−c)≦0.40である請求項1または2に記載の軟磁性合金。
- α=0である請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 0≦β{1−(a+b)}(1−c)≦0.030である請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性合金。
- β=0である請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性合金。
- α=β=0である請求項1〜6のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 非晶質および初期微結晶からなり、前記初期微結晶が前記非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有する請求項1〜7のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 前記初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmである請求項8に記載の軟磁性合金。
- Fe基ナノ結晶からなる構造を有する請求項1〜7のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 前記Fe基ナノ結晶の平均粒径が5〜30nmである請求項10に記載の軟磁性合金。
- 薄帯形状である請求項1〜11のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 粉末形状である請求項1〜11のいずれかに記載の軟磁性合金。
- 請求項1〜13のいずれかに記載の軟磁性合金からなる磁性部品。
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