JP2018117589A - 木質培土及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】短時間で量産でき、植物を良好に生育できる木質培土を提供する。【解決手段】針葉樹の木材を砕いて形成された、堆肥化されていない木材砕片で構成された木質培土である。木材砕片が、クエン酸鉄アンモニウムを含有している。【選択図】図2

Description

本発明は、農業や園芸等に好適な木質培土及びその製造方法に関する。
椰子殻の粉砕物やピートモス等、植物繊維を素材とした軽量な培土が、農業や園芸等によく利用されている。このような植物繊維を素材とした培土は、軽量なだけでなく、その繊維分により、栽培時の空隙率を高くでき、保水性や透水性に優れるといった利点もある。なお、本書でいう「培土」は、概念的なものであり、植物を栽培するための土台を構成する素材、を意味する。
しかし、例えば椰子殻の粉砕物を利用する場合には、タンニン(加水分解によって没食子酸などの多価フェノール酸を生ずる混合物)や塩分が多量に含まれており、これが植物の生育を阻害するという問題がある。そのため、長期間、野積みして雨水に曝したり水槽に浸漬したりしてタンニンや塩分を除去することが行われているが、時間と手間を要するうえに、適切な管理を行わないと、品質にバラつきが生じるだけでなく、例えば、養液栽培で使用された場合に、ここから排出される排液にこれらのタンニン成分が混じるため、河川汚染の原因となることがある。そこで、これら植物繊維を培土として利用する際に、タンニンを鉄イオンと反応させて不活性化させる方法が提案されている(特許文献1,2)。
例えば、特許文献1では、硫酸第1鉄の水溶液に椰子殻を2週間浸漬した後、水酸化カルシウムでpHを調整し、乾燥、粉砕して培土を形成している。また、特許文献2では、鉄板等を入れた水槽で椰子の果肉を1晩浸漬した後、圧搾と水浸漬とを繰り返し、乾燥、断裁して溶液栽培用のマットを形成している。
木材は、一般に食品残渣や畜産排泄物等と混合され、堆肥化(自然発酵させる)したものが堆肥として利用されているが、堆肥化には、長い保管時間と広大な保管場所を要するという問題がある。そこで、堆肥化していない木材を素材とした培土(木質培土)も提案されている(特許文献3,4)。
すなわち、特許文献3には、剪定された樹木の幹枝葉を圧縮粉砕機で粉砕して土壌に還元する方法が開示されている。特許文献4には、木材を蒸煮爆砕処理して得られる木質解繊物からなる土壌改質資材が開示されている。木材にもタンニンは含まれているが、特許文献3,4では、タンニンについては考慮されていない。
特開平11−89422号公報 特開2004−166524号公報 特開平10−130084号公報 特開2006−6254号公報
特許文献3、4の技術に、特許文献1や特許文献2の技術を適用することで、木材に含まれるタンニンも取り除ける可能性はある。しかし、その場合でも、依然として時間と手間を要するため、改善の余地がある。更に、本発明者らが検討したところ、硫酸鉄は、タンニンの不活性化には有効であるが、それ自体が植物の生育を阻害し得ることを見出した。
そこで本発明の目的は、短時間で量産でき、植物を良好に生育できる木質培土を提供することにある。
本発明の1つは、針葉樹の木材を砕いて形成された、堆肥化されていない木材砕片で構成され、前記木材砕片が、クエン酸鉄アンモニウムを含有している木質培土である。
木材の粉砕物は、生分解が困難で腐熟し難いために、培土として使用を開始した後、前述した椰子殻等よりも長期にわたってその品質を維持できる。木材の中でも、特に針葉樹は、広葉樹に比べて腐熟しにくく、品質安定性に優れるうえに、建築用資材である合板や積層材の製造時に多量の端材が発生するため、これらを再利用することで、原料を安定して得ることができる。堆肥化されていないので、長い保管時間と広大な保管場所を要さず、短時間で製造できる。
木材を砕いた木材砕片で構成されているので、木材の繊維成分の解け具合を変えることにより、生育対象の植物に応じた保水性や透水性に調整できる。
木材砕片が、クエン酸鉄アンモニウムを含有している(つまり残存している)ので、十分量のクエン酸鉄アンモニウムが添加されていることになり、木材砕片に含まれるタンニンは十分に不活性化されている。従って、植物の生育阻害を安定的かつ効果的に防止できる。クエン酸鉄アンモニウムは、硫酸鉄のような生育阻害を招かないので、植物を良好に生育できる。
前記木材砕片は、更に界面活性剤を含有しているのが好ましい。
木材、特に針葉樹は、一度乾燥させると撥水性を発現し、吸水しにくくなる。真夏の日射や、水遣りのし忘れ等で、万が一、土壌が乾燥した場合でも、界面活性剤を含有することで、撥水性の発現による植物の生育阻害が抑制できる効果が得られる。
前記木材砕片は、3mm〜20mmの範囲のメッシュを通過する大きさであるのが好ましい。本発明で用いるメッシュサイズの定義は、JIS Z 8801−1に規定される試験用ふるいの公称目開き同等のものをいう。
木質培土の保水性や透水性は、粒度分布に影響を受ける。栽培する植物によって、要求される保水性や透水性は異なるが、メッシュのサイズによって任意の粒度分布が得られるため、メッシュサイズを変えることによって対象とする植物にとって適当な保水性や透水性を調整することができる。20mmメッシュを通過しない大きな木材砕片は、根の延び先を塞いでその生長を阻害し易いし、そのような大きな木材砕片を含むと、粒度分布がばらついて扱い難い。20mm以下のメッシュを通過する大きさに調整することで、適切な粒度分布が得られ、適度な保水性や透水性を調整することができる。一方、3mmよりも小さな粉砕物は、粉砕物をメッシュを通し大きさを揃える時にメッシュを通過しにくく、著しく生産効率を落とすため、好ましくは、3mm以上のメッシュを通過するものを作るのが生産効率がよい。最も好適には、3mm〜20mmの範囲のメッシュを使用して木材砕片を製造するのがよい。そうすれば、扱い易いうえに、保水性が高く、良好な品質の木質培土が得られる。
前記木材のうち、辺材と心材との割合は1:0〜1:1の範囲に設定するのが好ましい。特に、心材の割合は低いほどよい。
心材には生育阻害の原因となるタンニンが辺材よりも多く含まれており、前記のとおりすれば、木材砕片が含有するタンニン量を少なくできるので、タンニンによる植物の生育阻害の防止にとって有利になる。
本発明の他の1つは、木質培土の製造方法である。
その製造方法は、針葉樹の木材を砕いて木材砕片を形成する第1工程と、前記木材砕片を溶液で処理する第2工程と、を含み、前記第2工程が、前記木材砕片の絶乾重量に対して0.5重量%以下のクエン酸鉄アンモニウムを前記木材砕片に作用させる第1の改質処理を含むことを特徴とする。
この製造方法によれば、前述したような木質培土を、工業的に製造できるので、短時間で量産できる。クエン酸鉄アンモニウムは、木材砕片に対して過量に作用させても、生育阻害を招き難いことから、タンニンを効果的に不活性化できる。木材砕片の絶乾重量に対して0.5重量%以下のクエン酸鉄アンモニウムであれば、植物を安定して良好に生育させることができる。
特に、前記第2工程が、前記木材砕片の絶乾重量に対して0.2重量%以下の硫酸鉄を前記木材砕片に作用させる第2の改質処理を含むようにしてもよい。
硫酸鉄は、タンニンとの反応性が高いため、タンニンの不活性化には有効である。しかし、適量を過ぎると、その濃度障害によって植物の生育阻害を招く。そこで、濃度障害を生じ無い、このような濃度で木材砕片に作用させ、その不足分をクエン酸鉄アンモニウムで補うことで、よりいっそう効率的に、タンニンを不活性化できる。
前記第2工程が、前記木材砕片に界面活性剤を作用させる第3の改質処理を含むようにしてもよい。
木材砕片に界面活性剤を作用させることで、乾燥による撥水性の発現による植物の生育阻害が抑制でき、植物の生育を促進できる効果も得られる木質培土を得ることができる。
特に、前記第1及び第2の各改質処理は、前記クエン酸鉄アンモニウム及び前記硫酸鉄を含有する溶液を前記木材砕片に噴霧することによって行うのが好ましい。
そうすれば、より改質処理が簡単になり、簡単に、短時間で良質な木質培土を量産できるようになる。
前記第1工程は、前記木材を切断する処理、前記木材を衝撃で砕く処理、及び前記木材を磨り潰す処理のうち、少なくともいずれかの処理によって前記木材砕片を形成する細分化処理を含むのが好ましい。
これら処理によって、生育対象とする植物に応じた木質培土を得ることができる。
その際、前記第1工程が、3mm〜20mmの範囲のメッシュを通過する前記木材砕片を選別する分級処理を含むようにするとよい。
そうすれば、扱い易い品質に優れた木質培土を得ることができる。
本発明の木質培土の製造方法によれば、植物を良好に生育できる木質培土を、短時間で量産できるので、安価に提供できる。
木質培土の製造方法での主な工程の一例を示す概略図である。 木質培土の製造方法での主な工程の一例を示す概略図である。 比較試験1の結果を示す図である。 比較試験2の結果を示す図である。 比較試験3の結果を示す図である。 比較試験4の結果を示す図である。 比較試験5の結果を示す図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
<木質培土>
現在、農業や園芸には、ピートモスや赤玉土、堆肥などを主材として構成された培土が一般に用いられている。培土は、栄養成分はもとより、植える植物に適した保水性、透水性、pH等の品質が求められる。ピートモスなどのいわゆる有機資材は、土壌の保水性・通気性の改善あるいは向上を目的として用いられる。近年では、趣味としての園芸も定着したことから、これを楽しむライトユーザーにとっては、軽量性も重要視されつつある。堆肥は、土壌改良資材(肥料)として有効であるが、その製造には、長い保管時間と広大な保管場所を要する。
そのような状況の下、木材の端材の活用により、これらの要望を満たし得る培土を開発すべく、本発明者らが鋭意検討を行った。その結果、植物の生育阻害を招くタンニンを効果的に不活性化できる改質方法を見出し、これらに代わる新規な培土(木質培土)を開発した。以下、その詳細について説明する。
(木質培土の原料)
木質培土は、堆肥化されていない細かな木屑状の木材砕片で構成されており、その主たる原料は、針葉樹の木材である。
ここで、堆肥化されていないとは、腐熟により、木材を構成している多糖類等が生分解されていないことを意味する。木質培土は、細分化されてはいるが、セルロースを主骨格とする木材の繊維成分は、ほとんどそのまま残存した状態となっている。木材の繊維成分は、生分解され難いため、後述するように、木材を砕いて、保水性や透水性が異なる所定の形態の木材砕片に形成することで、生育対象の植物に適した栽培条件を長期にわたって維持できる培土が得られる。
木質培土の原料には、スギやヒノキ等、国産の針葉樹が好適である。広葉樹は、針葉樹よりも腐り易いため、針葉樹に比べて品質の安定性に欠ける。針葉樹であれば、腐りにくいため、適切かつ安定したpF値(植物が、生育するために吸収できる土壌中の水分量の指標)や三相分布(固相、液相、気相)を、長期にわたって維持できる。
更に、国産の針葉樹は、建築材料や木材加工材料などに多用されており、その製造時には多量の端材(木材の余分な切れ端)が発生する。その端材が、木質培土の原料に利用できるため、安価な原料を安定して確保することができる。
タンニンは、木材の部位では、特に樹皮に多く存在するが、その内側の辺材(樹木の周辺部分)や心材(樹木の中心部分)にも存在する。そして、辺材よりも心材の方が、タンニンの含量が多い傾向がある。そのため、心材よりも辺材を原料に多く用いるのが好ましい。具体的には、辺材と心材との割合が1:0〜1:1の範囲となるように、原料となる木材の割合を設定するのが好ましい。
辺材の端材は、柱材などを製材する際に背板または加工端材として多量に発生する。このような辺材端材を優先的に使用することで辺材の割合を上げることができる。また、合板や積層材の製造時には、薄板を形成するために、長さ方向に所定の寸法に分断した丸太を、外周から中心に向かって周方向に所定の厚みで剥いでいく工程がある。その工程の最初の剥き始めを使うことで辺材の割合を増やすことができる。一方、最後に残る、剥き芯と称する丸太の中心部分からなる端材を、木質培土の原料から排除することで、心材の割合を減らすことが可能になる。また、樹齢の若い樹木ほど樹幹中の辺材率が高いため、間伐材を使用することにより、大径木を使用する場合に比べて心材の割合を下げることができる。このようにして心材と辺材との割合を調整することができる。
木質培土には、補助的な原料として、木材に含まれるタンニンの不活性化を目的としたクエン酸鉄アンモニウムや硫酸鉄からなる改質剤、品質の向上を目的とした界面活性剤やpH調整剤が添加されている。
硫酸鉄、具体的には、硫酸第一鉄等は、タンニンとの反応性が高いため、タンニンの不活性化には効果的であるが、過剰に添加すると、植物の生育阻害を引き起こすことが判明した(詳細は後述)。詳しくは、木材砕片に添加される硫酸鉄の濃度が、木材砕片の絶乾重量に対して0.2重量%より多くなると、植物の生育阻害を引き起こす可能性があることが判明した。
それに対し、クエン酸鉄アンモニウムは、硫酸鉄よりもタンニンとの反応性は低いものの、木材砕片の絶乾重量に対して0.5重量%の高濃度で添加しても、植物の生育阻害が認められなかった。このことから、クエン酸鉄アンモニウムは、木質培土の改質剤として有効であることが判明した。
従って、木質培土には、タンニンを不活性化する改質剤として、木材砕片に含有されているタンニンを十分に不活性化できる量のクエン酸鉄アンモニウムを添加するのが好ましい。更には、植物の生育阻害が起きない量の硫酸鉄と、その不足分のタンニンを十分に不活性化できる量のクエン酸鉄アンモニウムと、を添加するのが、より好ましい。そのため、この木質培土では、硫酸鉄とクエン酸鉄アンモニウムとが併用されている。
木材砕片は、乾燥することによって撥水性が生じる。撥水性が生じた木材砕片で木質培土が構成されていると、保水性が悪化するとともに、撥水することによって水分分布が不均質となり、植物の生育阻害を招くおそれがある。それに対し、界面活性剤を木材砕片に添加することで、乾燥による植物の生育阻害を抑制することが判明した(詳細は後述)。そのため、この木質培土では、界面活性剤が補助的な原料として添加されている。
また、植物は、一般に、弱酸性から中性のpHを好むものが多いが、それぞれ適したpHがある。そのため、この木質培土では、生育対象とする植物に応じたpH調整剤が補助的な原料として添加されている。例えば、アルカリ性調整剤としての炭酸カルシウム、苦土石灰、くん炭など、酸性調整剤としての過リン酸石灰、ピートモスなどが、仕様に応じて木質培土に添加されている。
(木質培土の特徴)
木質培土は、木材の繊維成分が、ほとんどそのまま残る、細かな木屑状の木材砕片で構成されており、生育対象の植物に応じた形態に設定されている。具体的には、木材の繊維成分の解け具合が、仕様に応じて設定されている。繊維分が解けるほど、保水性や吸水性が高くなり易く、木材組織が残るほど、透水性(水はけ)が高くなり易い。
原料となる木材を砕く方法としては、例えば、回転鋸やカッターミルなどの切削粉砕機によって木材を細かく切断する方法(切削粉砕)、ハンマーミルやピンミルなどの衝撃粉砕機によって木材を衝撃で砕く方法(衝撃粉砕)、エクストルーダーやボールミルなどの摩砕粉砕機によって木材を磨り潰す方法(摩砕粉砕)がある。これらの中では、摩砕粉砕が最も繊維分が解け易いため、摩砕粉砕によって木材を砕くことで保水性や吸水性を高くできる。
木材砕片は、3mm〜20mmの範囲のメッシュを通過する大きさに調整するのが好ましい。10mmメッシュを通過しない大きな木材砕片は、根の延び先を塞いでその生長を阻害し易いし、そのような大きな木材砕片を含むと、粒度分布がばらついて扱い難い。10mmメッシュを通過する大きさに調整することで、適切な粒度分布が得られ、適度な保水性や透水性を調整することができる。一方、3mmよりも小さなメッシュは、著しく生産効率を落とすため好ましくない。好ましくは、3mm以上のメッシュを通過するものを作るのが生産効率がよい。
硫酸鉄は、タンニンとの反応性が高いうえに、木材砕片が含有するタンニンに対して不足する量が添加されるため、木材砕片に残存しないか残存しても微量である。それに対し、クエン酸鉄アンモニウムは、木材砕片が含有するタンニンに対して過剰量が添加されるため、木材砕片には、クエン酸鉄アンモニウムが残存している。その結果、木材砕片は、クエン酸鉄アンモニウムを含有するものとなっている(すなわち、木材砕片からクエン酸鉄アンモニウムを検出できる)。
同様に、界面活性剤やpH調整剤も添加されているため、木材砕片は、これらも含有するものとなっている。
木質培土は、このような木材砕片のみで構成された状態、例えば、木材砕片を袋詰め等して提供することができる。また、木質培土は、植物の生育に有用なその他の成分、例えば、肥料、炭、ベントナイトやゼオライト等の軽量骨材などを木材砕片に適量混合した状態で提供することもできる。
<木質培土の製造方法>
木質培土は、針葉樹の木材(端材)を砕いて木材砕片を形成する工程(第1工程)、得られた木材砕片を溶液で処理する工程(第2工程)を経て製造される。堆肥化されていない木材を原料にして、工業的に製造できるので、短時間で量産できる。
第1工程では、端材を各種粉砕機で細かく砕いて木材砕片を形成する処理(細分化処理)と、20mm以下の範囲のメッシュを通過する木材砕片を選別する処理(分級処理)とが行われる。細分化処理では、製造する木質培土の形態に応じて、前述した各種の粉砕機が選択して使用される。端材を砕くだけであるので、短時間で処理できる。
分級処理では、細分化処理で得られる木材砕片を3mm〜20mmのいずれかのメッシュを通過させることで、所定の粒度に分級された木材砕片のみを回収する。作業効率の観点からは、20mmよりサイズの大きなメッシュを前段で通過させ、粗分級を行うのが好ましい。20mmメッシュを通過しない木材砕片は、細分化処理を再度行う(リサイクルする)ことで、処理効率を向上させることができる。リサイクルしながら、細分化処理と分級処理とを同時に行うのが最も効果的である。また、3mmメッシュに満たないサイズのメッシュを使用すると著しく分級効率が落ちるため、好ましくは、3mm〜20mmのサイズのメッシュを用いるのが好ましい。
第2工程では、木材砕片に含まれるタンニンの不活性化や、品質の向上を目的とした改質処理が行われる。具体的には、硫酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、界面活性剤、pH調整剤等の各々の所定量を、木材砕片に作用させる処理が行われる。
硫酸鉄は、タンニンとの反応性が高いため、その不活性化には有効であるが、過剰に添加すると、植物の生育阻害を引き起こす。そのため、植物の生育阻害が起きない量として、木材砕片の絶乾重量に対して0.2重量%以下の硫酸鉄を木材砕片に作用させる。それにより、硫酸鉄の全量が木材砕片のタンニンと反応して、タンニンを不活性化する。結果的に、木質培土には、未反応の硫酸鉄は残存しないか、残存しても微量である(植物の生育阻害は生じない)。
一方、その量の硫酸鉄では、木材砕片が含有するタンニンの量に対して不足する。そのため、残存したとしても植物の生育阻害を引き起こさないクエン酸鉄アンモニウムを、残りのタンニンの不活性化に十分な量として、木材砕片の絶乾重量に対して0.5重量%以下の範囲で作用させる。そうすることで、効果的にタンニンを不活性化でき、植物の生育阻害を防ぐことができる。
また、硫酸鉄やクエン酸鉄アンモニウムは、水溶液にして木材砕片に作用させるのが一般的であるが、その際、硫酸鉄のみであると、鉄の酸化によって沈殿が生じ易いため、濃度が安定しないという問題がある。それに対し、硫酸鉄の水溶液にクエン酸鉄アンモニウムが加わると、クエン酸の還元作用によって酸化が防止されるため、沈殿が生じ難くなり、硫酸鉄の濃度が安定する利点もある。
また、界面活性剤やpH調整剤の各々の所定量を、木材砕片に作用させる処理が行われる。それにより、生育対象の植物により適した状態に改質でき、植物の生育を促進できる。
第2工程では、改質液を溜めた水槽に木材砕片を浸漬することによって各成分を木材砕片に作用させてもよいが、効率的に量産できるように、改質液を噴霧する処理を行うのが好ましい。図1A及び図1Bに、その一例を示す。
木材砕片に対して各成分を所定量作用させればよいので、図1Aに示すように、所定量の木材砕片1を撹拌機2に投入し、木材砕片1を撹拌しながら、各成分の含量を調整した改質液をスプレー3で所定量噴霧することにより、改質処理を行うことができる(バッチ式)。この方法によれば、各成分を、短時間で多量の木材砕片1に対して均一に作用させることができる。
また、図1Bに示すように、フィーダー4から一定量で供給される木材砕片1を、ベルトコンベア5で搬送し、各成分の含量を調整した改質液を、スプレー3で、ベルトコンベア5で搬送される木材砕片1に向けて所定量噴霧する。そうすることによっても、木材砕片1を均一に改質処理を行うことができる。より好ましくは、噴霧後に連続式混合攪拌装置等の攪拌機を用いて攪拌することで均質な処理が可能になる。この方法によれば、連続的に改質処理できるので、より量産化が実現できる。なお、改質液の噴霧はまとめて1度に行ってもよい。また、改質液の噴霧後または噴霧中に攪拌しながら均一になるようにしてもよい。
このように、改質液の噴霧による方法によれば、短時間で均一に各成分を木材砕片に作用させることができる。改質液も必要十分量で足りるため、極めて効率的である。噴霧時に、改質液を加温すれば(例えば、50℃以上)、水分の除去を促進できるので、より効率的に処理できる。
<タンニンの不活性化の検討>
次に、タンニンの不活性化について検討した内容を説明する。
(比較試験1)
硫酸鉄とクエン酸鉄アンモニウムの植物の生育への影響を調べた。試験では、電気伝導率(EC)が同一値(略0.5μS/cm)となるように調整した硫酸鉄及びクエン酸鉄アンモニウムの各水溶液を作製し、個別のシャーレに敷いた濾紙に、各水溶液を添加した。各濾紙に、12粒程度の小松菜の種を播種した後、暗条件下で7日程度育苗を行った。
図2に、その結果を示す。硫酸鉄では、発芽不良が認められたが、クエン酸鉄アンモニウムでは、発芽不良は認められなかった。この結果より、クエン酸鉄アンモニウムは、それ自体の存在によって植物の生育阻害を生じる可能性は低いのに対し、硫酸鉄は、それ自体の存在によって植物の生育阻害を生じることが判明した。
(比較試験2)
タンニンの存在下での、硫酸鉄とクエン酸鉄アンモニウムの植物の生育への影響を調べた。試験では、125ppm、500ppmの各濃度で硫酸鉄及びクエン酸鉄アンモニウムの各水溶液を作製し、これらに400ppmのタンニン酸を加えて、比較試験1と同様の試験を行い、育苗後での根の発育状態を比較した。
図3に、その結果を示す。同図中、(a)は、ブランクの試験結果である(タンニン酸400ppmのみ)。(b1)は、タンニン酸400ppm+硫酸鉄125ppmでの試験結果であり、(b2)は、タンニン酸400ppm+硫酸鉄500ppmでの試験結果である。(c1)は、タンニン酸400ppm+クエン酸鉄アンモニウム125ppmでの試験結果であり、(c2)は、タンニン酸400ppm+クエン酸鉄アンモニウム500ppmでの試験結果である。
図3の(a)より、タンニン酸のみの存在下では、根毛がほとんど認められず、生育が阻害されていることが判る(200ppm程度の濃度でも同様の結果であることは確認済み)。それに対し、図3の(b1)や(c1)より、400ppmのタンニン酸に対して125ppmの濃度で各鉄塩を添加した試験区では、根毛が認められ、タンニン酸による生育阻害が抑制されていることが判る。すなわち、400ppmのタンニン酸に対しては、125ppm程度の鉄塩を添加することで、タンニンによる植物の生育阻害が防止できる。
一方、図3の(b2)より、400ppmのタンニン酸に対して過量の500ppmで硫酸鉄を添加した試験区では、根毛がほとんど認められなかったのに対し、図3の(c2)より、400ppmのタンニン酸に対して過量の500ppmでクエン酸鉄アンモニウムを添加した試験区では、根毛が認められた。すなわち、硫酸鉄には濃度障害が認められ、その過剰な添加は、植物の生育阻害を引き起こすのに対し、クエン酸鉄アンモニウムには濃度障害は認められず、過剰に添加しても植物の生育阻害を引き起こす可能性は低いことが判った。
(比較試験3)
改質液の噴霧による効果について調べた。試験では、木材砕片の絶乾重量に対する重量%別(0.1、0.3、0.5)で、硫酸鉄及びクエン酸鉄アンモニウムの各改質液を作製し、これらを木材砕片に噴霧し、ポリフェノール量の変化を比較した。なお、タンニンの量については、フォーリン・チオカルト(Folin-Ciocalteu)法を用いたポリフェノール量の測定により行った。
図4に、その結果を示す。鉄塩の種類、濃度による大きな違いは認められず、いずれの試験区でも、ブランク(無処理)と比べてポリフェノール量が低下した。従って、鉄塩を含む改質溶液を木材砕片に噴霧することにより、タンニンを不活性化できることが判明した。
(比較試験4)
硫酸鉄とクエン酸鉄アンモニウムとの併用による効果について調べた。試験では、70℃で3日間乾燥したスギチップ(徳島産)を、カッターミル(スクリーン径2mm)で粉砕して木材砕片を作製した。この木材砕片に、その絶乾重量に対して0.5重量%のクエン酸鉄アンモニウムと、濃度が異なる硫酸鉄とを含有する改質液を噴霧し、硫酸鉄の噴霧含量が異なる木質培土を作製した。これら木質培土を用いて小松菜の育苗試験を行い、播種から35日後の収穫量を比較した。
図5に、その試験結果を示す。0.5重量%のクエン酸鉄アンモニウムのみの試験区を含め、木材砕片の絶乾重量に対して0.2重量%以下の硫酸鉄が併存する試験区では、高い収量が得られたが、木材砕片の絶乾重量に対して0.2重量%を超える硫酸鉄が併存する試験区では、収量の低下が認められた。
従って、木材砕片の絶乾重量に対し、少なくとも0.5重量%以下のクエン酸鉄アンモニウムを木材砕片に作用させることで、タンニンによる生育阻害を抑制して、植物を良好に生育できる木質培土を得ることができる。また、木材砕片の絶乾重量に対し、0.2重量%以下の硫酸鉄を、十分量のクエン酸鉄アンモニウムと併用して木材砕片に作用させることによっても、タンニンによる生育阻害を抑制して、植物を良好に生育できる木質培土を得ることができる。
(比較試験5)
界面活性剤の添加による効果について調べた。試験では、比較試験4と同様に木材砕片を作製し、その木材砕片に、クエン酸鉄アンモニウムのみからなる改質液を添加した木質培土の2試料(単独区)と、硫酸鉄とクエン酸鉄アンモニウムを併用した改質液を添加した木質培土の2試料(併用区)とを作製した。各木質培土の一方の試料の改質液には、界面活性剤(サイマトEZ:株式会社トモグリーンケミカル製)を適量添加した。作製した各試料を用いて、同じ条件の下で小松菜の育苗試験を行った。
図6に、その試験結果を示す。単独区及び併用区のいずれの試料においても、界面活性剤を添加した方が収量が増加し、界面活性剤の添加が、植物の生育に有効であることが判った。
1 木材砕片
2 攪拌機
3 スプレー
4 フィーダー
5 ベルトコンベア

Claims (10)

  1. 木質培土であって、
    針葉樹の木材を砕いて形成された、堆肥化されていない木材砕片で構成され、
    前記木材砕片が、クエン酸鉄アンモニウムを含有している木質培土。
  2. 請求項1に記載の木質培土において、
    前記木材砕片が、更に界面活性剤を含有している木質培土。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の木質培土において、
    前記木材砕片が、3mm〜20mmの範囲のメッシュを通過する大きさである木質培土。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の木質培土において、
    前記木材のうち、辺材と心材との割合が1:0〜1:1の範囲に設定されている木質培土。
  5. 木質培土の製造方法であって、
    針葉樹の木材を砕いて木材砕片を形成する第1工程と、
    前記木材砕片を溶液で処理する第2工程と、
    を含み、
    前記第2工程が、前記木材砕片の絶乾重量に対して0.5重量%以下のクエン酸鉄アンモニウムを前記木材砕片に作用させる第1の改質処理を含む木質培土の製造方法。
  6. 請求項5に記載の製造方法において、
    前記第2工程が、前記木材砕片の絶乾重量に対して0.2重量%以下の硫酸鉄を前記木材砕片に作用させる第2の改質処理を含む木質培土の製造方法。
  7. 請求項6に記載の製造方法において、
    前記第2工程が、前記木材砕片に界面活性剤を作用させる第3の改質処理を含む木質培土の製造方法。
  8. 請求項6又は請求項7に記載の製造方法において、
    前記第1及び第2の各改質処理が、前記クエン酸鉄アンモニウム及び前記硫酸鉄を含有する溶液を前記木材砕片に噴霧することによって行われる木質培土の製造方法。
  9. 請求項5に記載の製造方法において、
    前記第1工程が、前記木材を切断する処理、前記木材を衝撃で砕く処理、及び前記木材を磨り潰す処理のうち、少なくともいずれかの処理によって前記木材砕片を形成する細分化処理を含む、木質培土の製造方法。
  10. 請求項9に記載の製造方法において、
    前記第1工程が、3mm〜20mmの範囲のメッシュを通過する前記木材砕片を選別する分級処理を含む、木質培土の製造方法。
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