以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部材の寸法、部材間の大きさの比等は、必ずしも現実のものと同一とは限らず、また、同じ部材等を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比が異なって表される場合もある。また、本明細書に添付した図面においては、理解を容易にするために、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更したり、誇張したりしている場合がある。
なお、本明細書等において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値および上限値として含む範囲であることを意味する。また、本明細書等において、「フィルム」、「シート」、「板」等の用語は、呼称の相違に基づいて相互に区別されない。例えば、「板」は、「シート」、「フィルム」と一般に呼ばれ得るような部材をも含む概念である。
[荷電粒子線露光用マスク]
本発明の荷電粒子線露光用マスクの一実施形態について説明する。
図1は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの一実施形態を示す平面図であり、図2は図1に示される荷電粒子線露光用マスクのI−I線における断面図である。図1および図2において、荷電粒子線露光用マスク11は、平面視において略中央の部位が開口した開口部14を有する薄板部12と、薄板部12の外縁下方を支持する支持部13を備えている。薄板部12の厚みは、0.1μm〜30μmの範囲で設定され得る。
荷電粒子線露光用マスク11の外縁は、支持部13の外縁から内側へ入り込んだ薄板部12の外縁の一部をなす上角部12aと、支持部13の外縁の一部をなす上角部13aとで段状になっている。荷電粒子線露光用マスク11において、支持部13の外縁から薄板部12の外縁まで内側に入り込んでいる距離Aは30μm〜1000μmであるのが好ましい。また、後述するレジストパターン65を電子線リソグラフィ法で形成する場合、溝部65bの幅の約半分が距離Aとなる。よって、この距離Aが長いと電子線描画に時間がかかるため、距離Aは30μm〜150μmであるのがより好ましい。荷電粒子線露光用マスク11の外縁が段状になっていることにより、荷電粒子線露光用マスク11の搬送時等に外部から薄板部12への不要な力の作用を抑制することができ、ハンドリングが容易になるとともに、複数の荷電粒子線露光用マスク11が多面付けされた多面付け体から荷電粒子線露光用マスク11を個片化する際に、薄板部12にかかる不要な力を抑制することができる。
荷電粒子線露光用マスク11において、薄板部12および支持部13の平面視の外郭形状は八角形状である。薄板部12および支持部13の平面視の外郭形状を八角形状としたのは、荷電粒子線露光用マスク11を例えばステンシルマスクやアパーチャーとして用いる場合、これらをセットする治具やホルダなどの形状に合わせたからである。したがって、薄板部12および支持部13の平面視の外郭形状は八角形状に限らず、治具やホルダなどの形状に合わせた多角形状であってもよく、例えば三角形状、五角形状、六角形状等であってよい。すなわち、荷電粒子線露光用マスク11の形状としては、互いに異なる3方向以上の辺で構成されている多角形状が適宜設定され得る。
図1に示される荷電粒子線露光用マスク11は、単結晶シリコン基板上に酸化シリコン層(埋め込み酸化シリコン層;ボックス層ともいう)が配置され、当該酸化シリコン層上に薄板部の単結晶シリコン層が配置されたSOI(Silicon on Insulator)基板を使用して製造されている。したがって、荷電粒子線露光用マスク11の薄板部12の材質は単結晶シリコンとなる。また、荷電粒子線露光用マスク11の製造においてSOI基板を使用しない場合、例えばシリコン基板、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化シリコン等のシリコン化合物基板や、これらの基板材質を含む所望の材質の中から選択した複合材質からなる積層体を基板として使用することができる。また、薄板部12の厚みは、使用される基板の材質に対応したものとなる。例えば、薄板部12の材質が単結晶シリコンである場合、薄板部12の厚みは、例えば、0.1μm〜30μmとなり、また、薄板部12の材質が窒化シリコンである場合は、例えば、0.1μm〜1μmとなり、炭化シリコンである場合は、例えば、0.1μm〜3μmとなる。
図示例では、荷電粒子線露光用マスク11の薄板部12の平面視において略中央の部位に開口する開口部14は、電子線描画装置の電子銃から発せられる電子線を成形して所望の矩形(図示例では正方形)に変える成形アパーチャーとして使用する矩形状であるが、これに限定されず、その開口形状、配設位置、寸法は、荷電粒子線露光用マスク11の使用目的に応じて適宜設定され得る。
荷電粒子線露光用マスク11の支持部13は、薄板部12の外縁における下方の面12bを支持可能な枠形状を有する。SOI基板を使用して製造される荷電粒子線露光用マスク11では、支持部13はSOI基板を構成する単結晶シリコン基板13gと酸化シリコン層13hとの積層からなる。支持部13を構成する酸化シリコン層13hは、薄板部12の一方の面12bであって薄板部12の外縁に固着されている。上記構成を有する支持部13により薄板部12が支持され得る。
荷電粒子線露光用マスク11にSOI基板を使用していない場合には、上記のように、シリコン基板、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化シリコン等のシリコン化合物基板や、これらの基板材質を含む所望の材質の中から選択した複合材質からなる積層体を基板として使用することができる。また、これらの基板材質を含む所望の材質の中から選択した複合材質からなる積層体を基板として使用することができる。積層体を、薄板部12を構成するための層と、支持部13を構成する層との2層構造とすることができる。この2層の間にエッチング選択性をもたせればよい。また、薄板部12が自立薄膜(メンブレン)となり、酸化シリコン層13hに相当する部材が存在しない場合であっても、薄板部12は開口部14を有する状態を維持可能であればよい。
また、薄板部12を構成するための層と、支持部13を構成する層との間にエッチング選択性をもたせるために、積層体を3層以上の構造としてもよい。積層体が3層構造の場合、薄板部12に相当する基板と酸化シリコン層13hに相当する基板との間にエッチング選択性が存在し、また、単結晶シリコン基板13gに相当する基板と酸化シリコン層13hに相当する基板との間にエッチング選択性が存在するように、組合せを設定することができる。なお、本開示において、異なる層、材料間においてエッチング選択性があるとは、同一条件でエッチングを行ったときに、エッチング速度に相違が生じる場合があることを意味する。
支持部13の材質は、使用する基板に対応したものとなり、かつ、荷電粒子線露光用マスク11の製造過程における個片化の際に用いられるレーザー照射により多結晶状態となる材質となる。このような支持部13の厚み(図2に示される矢印d方向の厚み)は、支持部13の材質、枠形状の平面視の寸法等を考慮して設定され得る。例えば、支持部13の厚みは100μm〜800μm、好ましくは200μm〜400μmの範囲で適宜設定され得る。
荷電粒子線露光用マスク11の支持部13を構成する単結晶シリコン基板13gの外壁面には、当該支持部13を構成する物質の多結晶状態となっている部位が平行段状に存在する。これは、荷電粒子線露光用マスク11を製造する工程の一つであるレーザー照射において、単結晶シリコン基板13gにレーザー照射により局所的に加熱された箇所が改質された領域(以下「改質領域」ともいう。)が形成され、多結晶状態となるものである。ダイシング工程において個片化された荷電粒子線露光用マスク11(以下、個片化される荷電粒子線露光用マスクを「チップ」という場合がある。)の外壁が多結晶状態となっていることで、そのチップの外壁が一方向にへき開し難くなる。これにより、多結晶状態となる領域の強度が向上し、荷電粒子線露光用マスク11の強度が向上する。
図3は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの他の実施形態を示す平面図であり、図4は図3に示される荷電粒子線露光用マスクのII−II線における断面図である。図3および図4に示される荷電粒子線露光用マスク31においては、平面視における薄板部32の略中央に、図1および図2に示される開口部14に代えて、電子線を透過する矩形形状の複数の透過部34を有する他は、図1および図2に示される荷電粒子線露光用マスク11の構成と同様である。図3では、図示における上下方向が長手方向となる長方形状の透過部34の5つが並列に構成された形態が示されているが、本開示における透過部34の形状、配設位置、および個数がこれに限定されるものではなく、透過部34の形状は、荷電粒子線露光用マスク31の使用目的に応じて適宜設定され得る。
なお、図1および図2に示される荷電粒子線露光用マスク11の構成と同様に、薄板部32の外縁下方を支持する支持部33は、SOI基板を構成する単結晶シリコン基板33gと酸化シリコン層33hとの積層からなる。この支持部33を構成する酸化シリコン層33hは、薄板部32の一方の面32bであって薄板部32の外縁に固着されている。上記構成を有する支持部33により薄板部32が支持され得る。その他の構成およびその構成による作用効果については図1および図2に示される荷電粒子線露光用マスク11の構成および当該構成による作用効果と同様であるため記載を省略する。
図5は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの他の実施形態を示す平面図であり、図6は図5に示される荷電粒子線露光用マスクのIII−III線における断面図である。図5および図6に示される荷電粒子線露光用マスク41においては、平面視における薄板部42に、図1および図2に示される開口部14に代えて、電子線を透過する矩形形状の複数の開口部44を有し、薄板部42の一方の面42a側で各開口部44の周縁44pから離間した部位に、当該開口部44を囲むように位置する補強部45を備えている他は、図1および図2に示される荷電粒子線露光用マスク11の構成と同様である。図5では、開口部44として、4列×3行で碁盤の目となるように配列され、開口部44の周縁44pから距離Cだけ離間した位置に、補強部45の輪郭(図5に破線で示す)が位置するように構成された形態が示されている。一方で、本開示における開口部44の形状、配列、および個数はこれに限定されるものではなく、荷電粒子線露光用マスク41の使用目的に応じて適宜設定され得る。なお、図5および図6における荷電粒子線露光用マスク41のように、開口部44の周縁において補強部45が支持部43と連続するように形成されていることにより、荷電粒子線露光用マスク41に応力等が作用しても、荷電粒子線露光用マスク41に歪みが生じることが抑制され、薄板部42の変形、開口部44の破損等を防止することができる。また、補強部45は、薄板部42に荷電粒子線が衝突して発生した熱を外部に逃がす放熱作用も発現する。
なお、図1および図2に示される荷電粒子線露光用マスク11の構成と同様に、薄板部42の外縁下方を支持する支持部43は、SOI基板を構成する単結晶シリコン基板43gと酸化シリコン層43hとの積層からなる。支持部43を構成する酸化シリコン層43hは、薄板部42の一方の面42bであって薄板部42の外縁に固着されている。上記構成を有する支持部43により薄板部42が支持され得る。その他の構成およびその構成による作用効果については図1および図2に示される荷電粒子線露光用マスク11の構成および当該構成による作用効果と同様であるため記載を省略する。
図7(A)は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの他の実施形態を示す平面図であり、図7(B)は、図7(A)に示される荷電粒子線露光用マスクのIV−IV線における断面図であり、図7(C)、図7(D)、及び図7(E)は、判別マークの変形例を示す一部断面図である。図7(A)及び図7(B)に示される荷電粒子線露光用マスク11’は、以下に説明する判別マーク21を所望の部位に有する以外、図1(A)及び図1(B)に示される荷電粒子線露光用マスク11と同様の構成を有する。本実施形態においては、露光装置のマスクホルダにセットされる荷電粒子線露光用マスク11’の正しい向き(正位置)にて当該荷電粒子線露光用マスク11’の薄板部12側から見たときに、判別マーク21は、薄板部12の右下側の隅の近傍に位置している(図7(A)参照)。
例えば、開口部14が薄板部12の中心から所定の方向にオフセットした位置に形成されている場合、正位置と異なる向きで荷電粒子線露光用マスク11’がマスクホルダにセットされると、開口部14は本来存在すべき位置(荷電粒子線露光用マスク11’が正位置でマスクホルダにセットされたときにおける開口部14の位置)からずれた位置に存在することになる。そのため、開口部14が薄板部12の中心からオフセットした位置に形成されている荷電粒子線露光用マスク11’は、露光装置のマスクホルダに確実に正位置でセットされなければならない。
荷電粒子線露光用マスク11’は、例えば顕微鏡等を用いて視認されながら露光装置のマスクホルダにセットされる。本実施形態の荷電粒子線露光用マスク11’の開口部14が薄板部12の中心からオフセットしている場合、開口部14のオフセット方向を、顕微鏡等を用いて視認しながら、荷電粒子線露光用マスク11’が露光装置のマスクホルダに正位置でセットされる。しかし、開口部14のオフセット量が極めて微小であると、開口部14のオフセット方向を、顕微鏡等を用いたとしても視認するのが困難となる。このような場合、荷電粒子線露光用マスク11’が正位置とは異なる向きでマスクホルダにセットされてしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態のように、荷電粒子線露光用マスク11’の正位置を特定可能な判別マーク21が形成されていることで、荷電粒子線露光用マスク11’における判別マーク21の位置を確実に視認することができるため、当該判別マーク21の位置に基づいて荷電粒子線露光用マスク11’の正位置を容易に判別することができる。
本実施形態において、判別マーク21がコーナー辺12CSE近傍に位置している態様を例に挙げて説明しているが、この態様に限定されるものではない。判別マーク21は、荷電粒子線露光用マスク11’の正位置を判別可能な位置に形成されていればよい。すなわち、判別マーク21の形成位置は、荷電粒子線露光用マスク11’の薄板部12側からの平面視形状が回転対称性を有さない形状となるように適宜設定されればよい。例えば、判別マーク21は、他のコーナー辺(コーナー辺12CNE、コーナー辺12CNW、コーナー辺12CSWのいずれか)の近傍に形成されていてもよいし、辺12ES、辺12WS、辺12SS、辺12NSのいずれかの近傍に形成されていてもよい。また、荷電粒子線露光用マスク11’においては、複数の判別マーク21が形成されていてもよい。例えば、2つの判別マーク21が、コーナー辺12CNE、コーナー辺12CSE、コーナー辺12CNW、コーナー辺12CSWのいずれかの近傍または辺12ES、辺12WS、辺12SS、辺12NSのいずれかの近傍に形成されていてもよい。また、コーナー辺12CNE、コーナー辺12CSE、コーナー辺12CNW、コーナー辺12CSWのうちの2つのコーナー辺(一対の対向するコーナー辺を除く)のそれぞれの近傍に判別マーク21が形成されていてもよいし、辺12ES、辺12WS、辺12SS、辺12NSのうちの2つの辺(一対の対向する辺を除く)のそれぞれの近傍に判別マーク21が形成されていてもよい。判別マーク21は、薄板部12のうちの支持部13に重なっている領域に形成されているのが好ましく、当該領域における各コーナー辺のいずれかの近傍、または各辺のいずれかの近傍に形成され得る。なお、判別マーク21は、支持部13(単結晶シリコン基板13g)の底面13gbに形成されていてもよい。
また、本実施形態において、判別マーク21は、例えば、ラインアンドスペース、ホール等の各種凹凸パターンにより構成されていてもよいし、一つの凹部により構成されていてもよい。判別マーク21が各種凹凸パターンにより構成されている方が、一つの凹部により構成されているよりも容易に視認され得る。判別マーク21の全体形状は、例えば、略正方形状、略長方形状、略多角形状、略円形状等であればよく、特に限定されない。
なお、複数の荷電粒子線露光用マスク11’が作成される場合、各荷電粒子線露光用マスク11’における判別マーク21の形成位置や数が異なっていてもよい。複数の荷電粒子線露光用マスク11’のそれぞれにおける判別マーク21の形成位置や数が異なることで、当該判別マーク21を各荷電粒子線露光用マスク11’を識別するための識別マークとしても利用することができる。
本実施形態において、判別マーク21が凹凸パターンにより構成される場合、判別マーク21を構成する凹部は、薄板部12及びその下層に位置する酸化シリコン層13hの厚さ方向に貫通してなるものであってもよいし(図7(B)参照)、薄板部12の厚さ方向にのみ貫通してなるものであってもよいし(図7(C)参照)、薄板部12の厚さ方向の途中までの深さの凹部であってもよい(図7(D)参照)。すなわち、当該凹部の深さ(凸部の高さ)は、薄板部12及び酸化シリコン層13hの積層厚さと同一であってもよいし(図7(B)参照)、薄板部12の厚さと同一であってもよいし(図7(C)参照)、薄板部12の厚さよりも小さくてもよい(図7(D)参照)。また、判別マーク21は、薄板部12の厚さ方向に貫通する2以上の貫通孔を有する有孔パターン部21aと、有孔パターン部21aを構成する2以上の貫通孔に連続する中空部21bとにより構成されていてもよい(図7(E)参照)。なお、中空部21bは、酸化シリコン層13hの厚さ方向に貫通してなるものであってもよいし(図7(E)参照)、酸化シリコン層13hの厚さ方向の途中までの深さの凹部であってもよい。
判別マーク21の全体形状が略正方形である場合、判別マーク21の全体形状の大きさは、例えば100μm×100μm〜1000μm×1000μmの範囲内で適宜設定され得る。
図8は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの他の実施形態を示す切断端面図であり、図2に示される荷電粒子線露光用マスクに相当する図である。図8に示される荷電粒子線露光用マスク11”は、薄板部12側の表面、支持部13の側壁面及び底面を被覆する金属層100を有する。金属層100は、例えば、荷電粒子線露光用マスク11”を長期保管するときに単結晶シリコン層の酸化を防止する目的で設けられる。薄板部12の開口部14の周壁に酸化膜が形成されてしまうと、開口部14の開口形状や開口寸法が変動してしまうおそれがある。そのため、少なくとも当該開口部14の周壁に金属層100が形成されていればよい。本実施形態における金属層100は、密着層と貴金属層とをこの順に積層してなる2層構造を有する。貴金属層を構成する材料として、例えば金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等が挙げられる。密着層を構成する材料として、例えばチタン、クロム等が挙げられる。密着層は、貴金属層を、下地である荷電粒子線露光用マスク11”を構成する薄板部12や支持部13を構成する単結晶シリコン層に密着させるためのものである。なお、貴金属層が薄板部12や支持部13を構成する単結晶シリコン層に密着され得るのであれば、金属層100は密着層を有していなくてもよい。金属層100の厚さとしては、0.01μm〜10μmの範囲内とするのが好ましく、0.01μm〜2μmの範囲内とするのがより好ましく、0.03μm〜1μmの範囲内とするのがさらに好ましい。
[荷電粒子線露光用マスクの製造方法]
次に、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の一実施形態について説明する。
図9〜図12は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の一実施形態を説明するための工程図であり、図1および図2に示される本発明の一実施形態にかかる荷電粒子線露光用マスク11の製造方法を例として説明するものである。
本実施形態では、荷電粒子線露光用マスクを形成するための基板51として、支持基板53aと、支持基板53aに積層された酸化シリコンを含むボックス層53bと、このボックス層53b上に配置された厚みが0.1μm〜30μmの範囲内である単結晶シリコン層52と、を有するSOI基板を準備する。そして、この基板51の主面51a、および、これに対向する主面51bにハードマスク材料層を形成する。すなわち、基板51を構成する単結晶シリコン層52上にハードマスク材料層61aを形成し、支持基板53a上にハードマスク材料層61bを形成する(図9(A))。
基板51の厚みは特に制限されるものではないが、例えば100μm〜800μmの範囲の厚みの基板を使用することができ、基板の加工性を考慮すると、基板51の厚みを200μm〜400μmの範囲とするのが好ましい。
ハードマスク材料層61a、61bとしては、例えば、酸化シリコンや、クロム、アルミニウム等の金属材料を使用することができ、ボックス層53bをエッチングするエッチャントと同じエッチャントでエッチングできるものが好適である。以下では、ハードマスク材料層61a、61bとして、ボックス層53bと同じ酸化シリコンを使用したプロセスについて説明する。
次に、ハードマスク材料層61aにレジストパターン65を形成する(図9(B))。このレジストパターン65は、略中央に所望の開口65aを有し、外縁近傍に沿って開口65aを取り囲むように、平面視がドーナツ状となる溝65bを有している。溝65bの幅を、30μm〜1000μmの範囲内とすることが好ましく、30μm〜150μmの範囲内とすることがより好ましい。好ましい範囲は、後のレーザー照射工程において支持部53’の厚みに応じて必要なレーザー照射の幅と、上述の距離A(図2参照)が溝65bの幅の約半分となることから、設定した距離Aを電子線リソグラフィ法で形成する時間で設定され得る。なお、レジストパターン65を、電子線感応型レジストを用いて電子線リソグラフィ法により、あるいは、感光性レジストを用いてフォトリソグラフィ法により形成することができる。さらに、電子線リソグラフィ法とフォトリソグラフィ法を組み合わせてレジストパターン65を形成することができる。
次いで、レジストパターン65をマスクとしてハードマスク材料層61aをエッチングしてハードマスク61’aを形成し、このハードマスク61’aをマスクとして単結晶シリコン層52をエッチングする(図9(C))。このエッチングでは、ボックス層53bがエッチングストッパーとして作用し、単結晶シリコン層52に開口が形成される。これにより、基板51に開口部54が形成され、開口部54の深さは単結晶シリコン層52の厚みに対応し、0.1μm〜30μmの範囲内となる。したがって、後工程において、支持基板53aをエッチングし、さらに、露出したボックス層53bを除去して、開口部54が支持基板53a側に貫通した段階で、開口部54の深さは0.1μm〜30μmの範囲内で所望の深さとなっている。また、このエッチングでは、開口部54の形成とともに単結晶シリコン層52の深さまで溝部55が形成される。
ハードマスク材料層61aを、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。ウェットエッチングによって酸化シリコンであるハードマスク材料層61aをエッチングする場合、エッチャントとしてフッ化水素酸、またはフッ化水素酸を含む薬液を使用することができる。一方、ドライエッチングによって酸化シリコンであるハードマスク材料層61aをエッチングする場合、トリフルオロメタン(CHF3)ガスや六フッ化エタン(C2F6)ガスを使用したドライエッチングを行うことができる。ドライエッチングは異方性を有するため、ほぼ設計値通りのサイズのハードマスク61’aを容易に形成することができる。
また、単結晶シリコン層52を、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。ウェットエッチングによって単結晶シリコン層52をエッチングする場合、KOH水溶液、エチレンジアミン・ピロカテコール(EDP)、または、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)等のアルカリ水溶液をエッチャントとして使用することができる。一方、ドライエッチングによって単結晶シリコン層52をエッチングする場合、エッチングガスとして、4フッ化炭素(CF4)、8フッ化炭素(C4F8)、六フッ化硫黄(SF6)、臭化水素(HBr)を使用したドライエッチングを行うことができる。
次に、開口部54および溝部55を被覆するように樹脂層71を形成し、また、ハードマスク材料層61bにレジストパターン75を形成する(図10(A))。
樹脂層71は、開口部54および溝部55を保護する目的、および、後工程で支持基板53aをエッチングする際の歪みを抑制する目的で形成される。樹脂層71の厚みを5μm〜30μmの範囲で適宜設定することができる。このような樹脂層71は、図示例では、基板全域に亘って形成されているが、少なくとも開口部54と溝部55を覆う範囲内に形成されていればよい。樹脂層71の形成では、レジスト等として用いられる公知の樹脂を使用することができ、溶媒に溶けた樹脂材料の溶液をスピンコート法等により塗布し、加熱により溶媒を除去して樹脂材料を硬化させることにより樹脂層71が形成され得る。樹脂層71の厚みは、樹脂材料や添加剤の濃度調整により溶液の粘度を調整し、さらに溶液塗布時の基板の回転速度を調整することで制御され得る。樹脂材料の溶液の一度の塗布で所望の厚みを得ることができない場合は、樹脂層71が所望の厚みになるまで、樹脂材料の溶液を塗布して樹脂材料を硬化させる処理を複数回繰り返してもよい。
このレジストパターン75は、開口部54に対向する位置に開口75aを有している。この開口75aは、後述する支持部53’を形成するのに適した開口寸法、開口形状を備える。
次いで、レジストパターン75をマスクとしてハードマスク材料層61bをエッチングしてハードマスク61’bを形成し、このハードマスク61’bをマスクとして支持基板53aをエッチングする(図10(B))。このエッチングにおいても、ボックス層53bがエッチングストッパーとして作用する。これにより、単結晶シリコン層52の下方外縁に位置する枠形状の支持部53’が形成される。このような支持基板53aのエッチングにより形成された支持部53’間に露出したボックス層53bは、開口部54を貫通させるために、後工程において、基板51の主面51b側からエッチングされる。
ハードマスク材料層61bを、ハードマスク材料層61aに対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。また、支持基板53aを、単結晶シリコン層52に対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。
次に、樹脂層71とレジストパターン75を除去する(図10(C))。樹脂層71とレジストパターン75を、有機溶媒を用いて除去してもよく、また、酸素プラズマ処理等のアッシングを用いて除去してもよい。有機溶媒として、例えば、レジストリムーバを使用することができる。レジストリムーバを用いて樹脂層71とレジストパターン75を除去した後に、露出されたハードマスク61’a、61’b、および、開口部54に露出したボックス層53bの表面に残留した有機物を除去するためにSPM洗浄を行ってもよい。SPM洗浄は、硫酸過酸化水素水洗浄ともいわれている。SPM洗浄として、過酸化水素水と硫酸との容量比がH2O2:H2SO4=3:1であるSPM洗浄液を70℃〜80℃に加熱して使用する例が挙げられる。SPM洗浄は、強力な酸化作用を利用して有機物を除去するのに効果がある洗浄方法である。SPM洗浄の後はIPA乾燥によってハードマスク61’a、61’b、および、ボックス層53bの表面を乾燥してもよい。このような樹脂層71とレジストパターン75を、同一工程で除去してもよく、それぞれ別の工程で除去してもよい。本実施形態によれば、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合において、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前に、レジストパターン等を一度に剥離することができ、荷電粒子線露光用マスクごとにレジストパターン等を剥離するような手間を省くことができるため、生産効率が落ちることがない。
次いで、ボックス層53bを基板51の主面51b側からエッチングすることで開口部54を貫通させ、ボックス層53bを基板51の主面51a側から支持基板53aの上面までエッチングすることで溝部55の深さがボックス層53bの厚みだけ深くなる(図11(A))。本実施形態では、開口部54の深さは、上記のように、単結晶シリコン層52の厚みに対応したものであり、開口部54は0.1μm〜30μmの範囲内の深さで形成され得る。また、溝部55の深さは、単結晶シリコン層52の厚みにボックス層53bの厚みを加えた厚みに対応したものであり、溝部55は0.2μm〜32μmの範囲内の深さで形成され得る。ボックス層53bを、ハードマスク材料層61aに対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。このボックス層53bのエッチングと同時に、ハードマスク61’aとハードマスク61’bを除去してもよい。また、支持部53’間に露出するボックス層53bをエッチングして開口部54を貫通させた後に、上記の樹脂層71を除去してもよい。
このようなハードマスク61’a、61’b、ボックス層53bの除去後の基板51に対して、SPM洗浄、APM洗浄、および、フッ酸(HF)洗浄を行うことができる。また、洗浄後はIPA乾燥によってマスクを乾燥してもよい。ここで、APM洗浄は、アンモニア過酸化水素水洗浄ともいわれている。APM洗浄として、アンモニア(NH4OH)と過酸化水素水と水との容量比がNH4OH:H2O2:H2O=1:2:5であるAPM洗浄液を70℃〜80℃に加熱して使用する例が挙げられる。APM洗浄は、有機物の除去および不溶性のパーティクルの除去に効果がある洗浄方法である。
次いで、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付した後、溝部55の形成方向に沿って、矢印L方向から支持部53’の深さ方向にレーザーを照射する。本実施形態においては、レーザーを、支持部53’の内部に集光点を合わせて、溝部55の形成方向に沿って移動させ照射する。これにより、支持部53’の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し、支持部53’の内部に熱ひずみが誘起され、これにより支持部53’の内部にクラック領域(改質領域の一つ)が形成される。そして、レーザーを照射する集光点の位置を支持部53’の深さ方向に沿って多段に変えることにより、破線で示される改質領域53cが支持部53’の内部に形成される(図11(B))。改質領域53cには、上記のクラック領域だけでなく、例えば溶融領域、および屈折率変化領域などの領域も含まれる。改質領域53cの形成により、改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部を改質領域53cより内側に存在する支持部53’から、比較的小さな力で分離することが可能となる。また、本実施形態によれば溝部55に沿って支持部53’の内部にレーザーが照射される。このため、レーザーが単結晶シリコン層52に当たることなく支持部53’に確実に照射されることにより、単結晶シリコン層52の端面にひび割れなどが発生して欠けが生じ、欠けたシリコン片が飛散するような不具合を防止することができる。
次いで、ダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げることで改質領域53cを起点として矢印f方向に応力が作用する(図11(C))。これにより、改質領域53cを起点として当該改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部が、改質領域53cより内側に存在する支持部53’から分離されることで、本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’が形成される(図12(図2に示される荷電粒子線露光用マスク11に相当))。形成後の荷電粒子線露光用マスク51’を構成する支持部53’の外周端面は、ダイシングテープ85により一部が分離されて改質領域53cが露出する状態となっており、当該領域において多結晶状態となっている部位が平行段状に存在する。なお、レーザー照射はテープ越しに行ってもよい。
ダイシングテープ85は、所望の粘着力を有する粘着テープであり、例えばPVC(Polyvinyl chloride)等のフィルム基材と当該フィルム基材の一方の面に設けられた、例えばアクリル系の粘着剤を用いて形成される粘着剤層とを有している。粘着剤層は、支持部53’から使用済みのダイシングテープ85を剥がし易くするために、UV光が照射されると硬化して粘着力が低下するものであっても、加熱されると粘着力が低下するものであってもよい。
なお、本実施形態においては、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付した後、支持部53’の深さ方向にレーザーを照射しているが、これに限定されるものではなく、支持部53’の深さ方向にレーザーを照射した後、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付してもよい。また、本実施形態においては、上述のようにダイシングテープ85を用いて支持部53’を分離する方法を示しているが、これに限定されず、例えば人力により支持部53’を分離してもよい。また、ブレーキング装置などの公知の治具により支持部53’を分離してもよい。
本実施形態によれば、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前の状態において、各荷電粒子線露光用マスク間が、酸化シリコンを含むボックス層53bに加え、支持部53’によって各荷電粒子線露光用マスクの裏面が繋がっている。このため、強度低下による破損等が生じることがなく、高品質の荷電粒子線露光用マスクを製造することができる。
上述した本実施形態における溝部55を形成する溝部形成工程の具体例について説明する。図13は、図9〜図11に示される溝部形成工程に含まれる一実施形態として、基板から1つの荷電粒子線露光用マスクを形成するための溝部を形成する例を説明する模式図である。ここでは、製造される荷電粒子線露光用マスクを平面視により図示し、溝部55が形成されるボックス層53bやその下層に位置する支持基板53aの図示を省略している。また、本実施形態における荷電粒子線露光用マスクの製造方法により製造される荷電粒子線露光用マスクの外郭形状が八角形状である例を用いて説明する。なお、図13において、荷電粒子線露光用マスクの所望の位置に形成される開口部または透過部について図示を省略する。さらに、以下の説明における「溝部を形成する」には、所望の溝部を形成する際に行われる、溝部形成のためのレジストパターンの形成や、溝部が形成される部位に対応する各層に対するエッチングなどの工程が含まれるものとする。
また、図13では溝部55を破線で示し、図11(B)で示されるレーザー照射工程において、溝部55に上方(図の手前側)から垂直方向にレーザーを照射するレーザー照射装置(不図示)の移動方向を矢印で示すとともに、荷電粒子線露光用マスクの八角形状の各辺に対応して溝部55に沿って照射されるレーザーの照射順序を数字で示している。なお、ダイシングテープ85を用いて改質領域53cを起点として支持部53’の一部が分離されて形成される荷電粒子線露光用マスク112の八角形状となる外郭形状を実線で示している。また、上記のとおり、溝部55を破線で示しているが、図示を簡略化するために便宜上破線としているものであり、実際には上述したような所望の幅を有してもよい。なお、上記のようにレーザー照射装置を移動させることに替えて、レーザー照射装置を固定させておき、レーザーが照射される基板あるいはその載置台を移動させることにより溝部55を形成するようにしてもよい。
以下、図13における上下左右方向に対応して、荷電粒子線露光用マスク112の八角形状をなす下辺を112aで示し、上辺を112bで示し、左辺を112cで示し、右辺を112dで示す。また、左下辺を112eで示し、右上辺を112fで示し、左上辺を112gで示し、右下辺を112hで示す。
図13に示されるように、本実施形態においては、下辺112aを形成するための溝部55a、上辺112bを形成するための溝部55b、左辺112cを形成するための溝部55c、および右辺112dを形成するための溝部55dを形成する。また、左下辺112eを形成するための溝部55e、右上辺112fを形成するための溝部55f、左上辺112gを形成するための溝部55g、右下辺112hを形成するための溝部55hを形成する。
このように形成された各溝部55に沿ってレーザー照射工程においてレーザーを照射する。以下では、まず、矢印[1]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55aに沿ってレーザーを照射し、次に矢印[1’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55bに沿ってレーザーを照射する。次に、矢印[2]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55cに沿ってレーザーを照射し、矢印[2’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55dに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[3]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55eに沿ってレーザーを照射し、矢印[3’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55fに沿ってレーザーを照射する。そして、矢印[4]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55gに沿ってレーザーを照射し、矢印[4’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55hに沿ってレーザーを照射する。なお、本説明においては、各溝部55に対してレーザーの集光点を変えて多段にレーザーを照射することについての説明は省略している。なお、ここでは、矢印が示されている位置に近い各溝部55の端部をレーザー照射開始位置とし、他方の端部をレーザー照射終了位置とする。よって、レーザー照射開始位置でレーザー照射装置によるレーザー照射出力をONし、レーザー照射終了位置でレーザー照射出力をOFFにするものとする。
上述のように各溝部55を形成し、レーザー照射工程において各溝部55にレーザーを照射した後、各溝部55に沿って支持部53’内に形成される改質領域53cを起点としてダイシングテープ85を広げることにより支持部53’の一部を分離することで、図13の実線で示すような八角形状の荷電粒子線露光用マスク112を形成することができる。なお、レーザーの照射順序は上記の順序に限定されず、上記以外の順序であってもよい。
なお、図13では、例えば下辺112aを形成するための溝部55aと、左辺112cを形成するための溝部55cおよび右辺112dを形成するための溝部55dとが各端部側において交差するように各溝部55を形成しているが、これに限定されず、八角形状の各頂点をなす二辺のうちの少なくとも一方の辺の延長線に対応する部位に溝部55を形成するものであればよい。つまり、各頂点をなす二辺を形成するための各溝部55が端部側で交差しなくてもよく、各頂点を形成可能なように各溝部55を形成すればよい。例えば、頂点Pを形成するには、下辺112aに対応する溝部55aと、左下辺112eに対応する溝部55eとが交差していればよく、溝部55aが、左辺112cに対応する溝部55cと交差しなくてもよい。例えば、溝部55aの形成を、当該溝部55aが頂点Pを図の左方へ過ぎたすぐの辺りまでに留めてもよい。
図14は、上述した溝部形成工程の他の実施形態として、基板に多面付けにより4つの荷電粒子線露光用マスクを形成するための溝部を形成する例を説明する模式図である。4つの荷電粒子線露光用マスクは同サイズとする。ここでは、製造される4つの荷電粒子線露光用マスクとして、図の左下に荷電粒子線露光用マスク122が、図の左上に荷電粒子線露光用マスク132が、図の右上に荷電粒子線露光用マスク142が、図の右下に荷電粒子線露光用マスク152が多面付けにより互いに隣接して配置された形態の平面視を用いて図示し、溝部55が形成されるボックス層53bやその下層に位置する支持基板53aは図示を省略している。また、上記の4つの荷電粒子線露光用マスクそれぞれの外郭形状が八角形状である例を用いて説明する。なお、図14においても、各荷電粒子線露光用マスクの所望の位置に形成される開口部または透過部について図示を省略する。
また、図14においても、溝部55を形成する部位を破線で示し、図11(B)で示されるレーザー照射工程において、溝部55に上方(図の手前側)から垂直方向にレーザーを照射するレーザー照射装置(不図示)の移動方向を矢印で示すとともに、4つの荷電粒子線露光用マスクそれぞれの八角形状の各辺に対応して照射されるレーザーの照射順序を数字で示している。なお、ダイシングテープ85を用いて改質領域53cを起点として支持部53’の一部が分離されて形成される荷電粒子線露光用マスク122、132、142、152の八角形状となる外郭形状を実線で示しており、少なくとも実線部に溝部55を形成する必要がある。また、上記のとおり、溝部55を破線で示しているが、図示を簡略化するために便宜上破線としているものであり、実際には上述したような所望の幅を有するものである。
以下、図14における上下左右方向に対応して、荷電粒子線露光用マスク122の八角形状をなす下辺を122aで示し、上辺を122bで示し、左辺を122cで示し、右辺を122dで示す。また、左下辺を122eで示し、右上辺を122fで示し、左上辺を122gで示し、右下辺を122hで示す。また、図14における上下左右方向に対応して、荷電粒子線露光用マスク132の八角形状をなす下辺を132aで示し、上辺を132bで示し、左辺を132cで示し、右辺を132dで示す。また、左下辺を132eで示し、右上辺を132fで示し、左上辺を132gで示し、右下辺を132hで示す。また、図14における上下左右方向に対応して、荷電粒子線露光用マスク142の八角形状をなす下辺を142aで示し、上辺を142bで示し、左辺を142cで示し、右辺を142dで示す。また、左下辺を142eで示し、右上辺を142fで示し、左上辺を142gで示し、右下辺を142hで示す。また、図14における上下左右方向に対応して、荷電粒子線露光用マスク152の八角形状をなす下辺を152aで示し、上辺を152bで示し、左辺を152cで示し、右辺を152dで示す。また、左下辺を152eで示し、右上辺を152fで示し、左上辺を152gで示し、右下辺を152hで示す。
なお、荷電粒子線露光用マスク122、荷電粒子線露光用マスク132、荷電粒子線露光用マスク142、および荷電粒子線露光用マスク152は多面付けにより隣接して形成されるため、一部の辺同士が重複する部分が存在している。具体的には、荷電粒子線露光用マスク122の上辺122bと荷電粒子線露光用マスク132の下辺132aとが重複し、荷電粒子線露光用マスク132の右辺132dと荷電粒子線露光用マスク142の左辺142cと重複し、荷電粒子線露光用マスク142の下辺142aと荷電粒子線露光用マスク152の上辺152bとが重複し、荷電粒子線露光用マスク152の左辺152cと荷電粒子線露光用マスク122の右辺122dとが重複している。このため、これらの重複する各辺を形成するための溝部55として共通のものを用いることができる。具体的には、荷電粒子線露光用マスク122の上辺122bと荷電粒子線露光用マスク132の下辺132aとが重複する部分と、荷電粒子線露光用マスク142の下辺142aと荷電粒子線露光用マスク152の上辺152bとが重複する部分を形成するための溝部55’aを共用することができる。また、荷電粒子線露光用マスク132の右辺132dと荷電粒子線露光用マスク142の左辺142cとが重複する部分と、荷電粒子線露光用マスク152の左辺152cと荷電粒子線露光用マスク122の右辺122dとが重複する部分を形成するための溝部55’cを共用することができる。
また、互いに同サイズの電粒子線露光用マスク122、荷電粒子線露光用マスク132、荷電粒子線露光用マスク142、および荷電粒子線露光用マスク152が互いに隣接して配置されるため、上下左右において2つの荷電粒子線露光用マスクが並列して存在することになる。具体的には、荷電粒子線露光用マスク122と荷電粒子線露光用マスク132とが上下に並列して存在し、荷電粒子線露光用マスク132と荷電粒子線露光用マスク142とが左右に並列して存在し、荷電粒子線露光用マスク142と荷電粒子線露光用マスク152とが上下に並列して存在し、荷電粒子線露光用マスク152と荷電粒子線露光用マスク122が左右に並列して存在する。このため、4つの荷電粒子線露光用マスクが隣接して配置されて集合をなす最外郭形状をなす上下左右の各辺を形成するための溝部55を共用することができる。具体的には、荷電粒子線露光用マスク122の左辺122cと荷電粒子線露光用マスク132の左辺132cを形成するための溝部55cを共用することができる。また、荷電粒子線露光用マスク132の上辺132bと荷電粒子線露光用マスク142の上辺142bを形成するための溝部55bを共用することができる。また、荷電粒子線露光用マスク142の右辺142dと荷電粒子線露光用マスク152の右辺152dを形成するための溝部55dを共用することができる。また、荷電粒子線露光用マスク152の下辺152aと荷電粒子線露光用マスク122の下辺122aを形成するための溝部55aを共用することができる。
すなわち、図14に示されるように、本実施形態においては、荷電粒子線露光用マスク122の下辺122aおよび荷電粒子線露光用マスク152の下辺152aを形成するための溝部55aと、荷電粒子線露光用マスク122の左辺122cおよび荷電粒子線露光用マスク132の左辺132cを形成するための溝部55cを形成する。また、荷電粒子線露光用マスク132の上辺132bおよび荷電粒子線露光用マスク142の上辺142bを形成するための溝部55bと、荷電粒子線露光用マスク142の右辺142dおよび荷電粒子線露光用マスク152の右辺152dを形成するための溝部55dを形成する。さらに、荷電粒子線露光用マスク122の上辺122bと荷電粒子線露光用マスク132の下辺132aとが重複する部分と、荷電粒子線露光用マスク142の下辺142aと荷電粒子線露光用マスク152の上辺152bとが重複する部分を形成するための溝部55’aを形成する。さらに、荷電粒子線露光用マスク132の右辺132dと荷電粒子線露光用マスク142の左辺142cとが重複する部分と、荷電粒子線露光用マスク152の左辺152cと荷電粒子線露光用マスク122の右辺122dとが重複する部分を形成するための溝部55’cを形成する。
なお、4つの荷電粒子線露光用マスクそれぞれにおいて、八角形状をなす辺のうち、上述した上下左右の一部同士が重複している辺を除く、斜めの各辺については各辺に対応する溝部55を形成する。具体的には、荷電粒子線露光用マスク122の左下辺122eを形成するための溝部55e、右上辺122fを形成するための溝部55q、左上辺122gを形成するための溝部55j、右下辺122hを形成するための溝部55pを形成する。また、荷電粒子線露光用マスク132の左下辺132eを形成するための溝部55i、右上辺132fを形成するための溝部55k、左上辺132gを形成するための溝部55g、右下辺132hを形成するための溝部55rを形成する。また、荷電粒子線露光用マスク142の左下辺142eを形成するための溝部55s、右上辺142fを形成するための溝部55f、左上辺142gを形成するための溝部55l、右下辺142hを形成するための溝部55mを形成する。さらに、荷電粒子線露光用マスク152の左下辺152eを形成するための溝部55o、右上辺152fを形成するための溝部55n、左上辺152gを形成するための溝部55t、右下辺152hを形成するための溝部55hを形成する。この場合、溝部55j、溝部55i、溝部55k、溝部55l、溝部55m、溝部55n、溝部55o、および溝部55pは、これら各溝部55の内側の端部が溝部55’aおよび溝部55’cを超えてその先の何れかの荷電粒子線露光用マスクの領域に延長されないようにしておく。また、溝部55q、溝部55r、溝部55s、および溝部55tのそれぞれの両端部が何れかの荷電粒子線露光用マスクの領域に延長されないようにしておく。上述した何れかの溝部55の端部を荷電粒子線露光用マスクの領域まで延長して形成しないようにすることで、荷電粒子線露光用マスクの外郭形状としての望ましい八角形状を得ることができる。
このように形成された各溝部55に沿ってレーザー照射工程においてレーザーを照射する。まず、矢印[1]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55aに沿ってレーザーを照射し、次に矢印[1’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55’aに沿ってレーザーを照射し、さらに矢印[1”]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55bに沿ってレーザーを照射する。次に、矢印[2]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55cに沿ってレーザーを照射し、矢印[2’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55’cに沿ってレーザーを照射し、さらに矢印[2”]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55dに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[3]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55eに沿ってレーザーを照射し、矢印[3’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55fに沿ってレーザーを照射する。そして、矢印[4]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55gに沿ってレーザーを照射し、矢印[4’]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55hに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[5]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55iに沿ってレーザーを照射し、矢印[6]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55kに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[7]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55jに沿ってレーザーを照射し、矢印[8]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55pに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[9]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55lに沿ってレーザーを照射し、矢印[10]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55mに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[11]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55nに沿ってレーザーを照射し、矢印[12]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55oに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[13]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55rに沿ってレーザーを照射し、矢印[14]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55tに沿ってレーザーを照射する。さらに、矢印[15]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55qに沿ってレーザーを照射し、矢印[16]方向にレーザー照射装置を移動させて溝部55sに沿ってレーザーを照射する。なお、ここでも、各溝部55に対してレーザーの集光点を変えて多段にレーザーを照射することについての説明は省略する。なお、ここでは、矢印が示されている位置に近い各溝部55の端部をレーザー照射開始位置とし、他方の端部をレーザー照射終了位置とする。よって、レーザー照射開始位置でレーザー照射装置によるレーザー照射出力をONし、レーザー照射終了位置でレーザー照射出力をOFFにするものとする。
上述のように各溝部55を形成し、レーザー照射工程において各溝部55にレーザーを照射した後、各溝部55に沿って支持部53’内に形成される改質領域53cを起点としてダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げ支持部53’の一部を分離することで、図14の実線で示すような4つの荷電粒子線露光用マスクを形成することができる。また、上述のような順序でレーザーを照射することにより、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合において、各荷電粒子線露光用マスクを構成する辺のうち複数の辺(上述の例では少なくとも2辺)を形成する溝部を共用できるため、各荷電粒子線露光用マスクを構成する一辺を形成するための溝部を形成する度にレーザー照射のON・OFFを頻繁に繰り返すことがなくなる。つまり、複数の辺を形成する溝部を共用可能な場合、複数の辺ごとにレーザー照射を行う場合よりもレーザー照射のON・OFF回数を減らすことができ、無駄なレーザー照射を抑制することができる。
なお、上述のレーザーの照射順序は一例であり、この実施形態に限定されず、上述の効果を損なわない範囲で適宜照射順序を変更することができる。また、本実施形態においては、4つの荷電粒子線露光用マスクを多面付けする例を用いて説明したが、これに限定されず、3つ以下の荷電粒子線露光用マスクを多面付けする形態や、5つ以上の荷電粒子線露光用マスクを多面付けする形態としてもよい。
上述の荷電粒子線露光用マスクの製造方法では、基板としてSOI基板を使用しているが、使用する基板はSOI基板に限定されず、例えば、シリコン基板、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化シリコン等のシリコン化合物基板や、これらの基板材質を含む所望の材質の中から選択した複合材質からなる積層体を基板として使用することができる。また、これらの基板材質を含む所望の材質の中から選択した複合材質からなる積層体を基板として使用することができる。複合材質からなる積層体を基板として使用する場合、積層体としては、例えば図1を用いて説明すると、荷電粒子線露光用マスク11の薄板部12を構成するための層と、支持部13を構成する層との2層構造とすることができる。この2層の間にエッチング選択性をもたせればよい。また、形成される薄板部12は自立薄膜(メンブレン)であり、薄板部12が開口部14を有する状態を維持可能であればよい。また、薄板部12を構成するための層と、支持部13を構成するための層との間にエッチング選択性をもたせるために、積層体を3層以上の構造としてもよい。このような積層体を使用する場合、積層体を構成する層のエッチング選択性に応じたエッチング条件を設定することにより、上述のSOI基板を使用した場合と同様にして、荷電粒子線露光用マスクを製造することができる。なお、本開示において、異なる層、材料間においてエッチング選択性があるとは、同一条件でエッチングを行ったときに、エッチング速度に相違が生じる場合があることを意味する。
本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態について説明する。図15〜図16は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。本実施形態は、上述した図9〜図12に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法のうち、図10〜図11に示される工程と異なる工程を示すものである。よって、図8に示される工程については説明を省略する。
図9(C)において、単結晶シリコン層52の深さまで溝部55が形成された後、開口部54および溝部55を被覆するように樹脂層71を形成し、また、ハードマスク材料層61bにレジストパターン75を形成する(図15(A))。本実施形態では、図10(A)に示される工程と異なり、開口パターン75aに加えて、対応溝パターン75bが、レジストパターン75として形成される(図15(A))。対応溝パターン75bは、後述する対応溝53dを形成するのに適した溝寸法、溝形状を備える。本実施形態において、対応溝パターン75bが形成される側の溝部55を第1溝部55hとし、対応溝パターン75bが形成されない側の溝部55を第2溝部55cとする。
なお、対応溝パターン75bは、第1溝部55h側の支持基板53aに対応する位置に形成され、第2溝部55c側の支持基板53aに対応する位置には形成されていない(図15(A))。他方、これに限定されず、対応溝パターン75bは、第2溝部55c側の支持基板53aに形成され、第1溝部55h側の支持基板53aに対応する位置に形成されないものであってもよい。
次いで、レジストパターン75をマスクとしてハードマスク材料層61bをエッチングしてハードマスク61’bを形成し、このハードマスク61’bをマスクとして支持基板53aをエッチングする(図15(B))。これにより、単結晶シリコン層52の下方外縁に位置する枠形状の支持部53’が形成されるとともに、第1溝部55hに対応する支持部53’側に対応溝53dが形成される。一方、第2溝部55cに対応する支持部53’側には、対応溝53dが形成されない。なお、対応溝53dを形成するためのエッチングについては、ボックス層53bの下面まで実施されなくてもよく、例えば、支持基板53aの高さの略半分以上の高さまで実施されるものであってもよい。この場合、エッチングされずに残った支持部53’について、後述するダイシングテープにより当該支持部53’の一部を分離させることになるため、後述のように当該支持部53’の深さ方向にレーザーを照射して、当該支持部53’内に改質領域53cを形成すればよい。このような支持基板53aのエッチングにより形成された支持部53’間に露出したボックス層53bは、開口部54を貫通させ、対応溝53dと溝部55の第1部分とが連通した貫通孔とするために、後工程において、基板51の主面51b側からエッチングされる。
ハードマスク材料層61bを、ハードマスク材料層61aに対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。また、支持基板53aを、単結晶シリコン層52に対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。
次に、図10(C)に示される工程と同様に、樹脂層71とレジストパターン75を除去する(図15(C))。本実施形態によれば、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合において、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前に、レジストパターン等を一度に剥離することができ、荷電粒子線露光用マスクごとにレジストパターン等を剥離するような手間を省くことができるため、生産効率が落ちることがない。
次いで、図11(A)に示される工程と同様に、ボックス層53bを基板51の主面51b側からエッチングすることで開口部54を貫通させ、ボックス層53bを基板51の主面51a側から支持基板53aの上面までエッチングすることで溝部55の深さがボックス層53bの厚みだけ深くなる(図16(A))。本実施形態では、開口部54の深さは、上記のように、単結晶シリコン層52の厚みに対応したものであり、開口部54は0.1μm〜30μmの範囲内の深さで形成され得る。また、溝部55の深さは、単結晶シリコン層52の厚みにボックス層53bの厚みを加えた厚みに対応したものであり、溝部55は0.2μm〜32μmの範囲内の深さで形成され得る。また、本実施形態では、ボックス層53bをエッチングすることで、支持部53’の左側において、対応溝53dと溝部55とが連通した貫通孔53d’が形成されることになる。
次いで、支持部53’の底面(図では下方側の面)にダイシングテープ85を貼付した後、第2溝部55cの形成方向に沿って、矢印L方向から支持部53’の深さ方向にレーザーを照射する。本実施形態においては、レーザーを、支持部53’の内部に集光点を合わせて、第2溝部55cの形成方向に沿って移動させ照射する。これにより、支持部53’の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し、支持部53’の内部に熱ひずみが誘起され、これにより支持部53’の内部にクラック領域(改質領域の一つ)が形成される。そして、レーザーを照射する集光点の位置を支持部53’の深さ方向に沿って多段に変えることにより、破線で示される改質領域53cが支持部53’の内部に形成される(図16(B))。
次いで、ダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げることで改質領域53cを起点として矢印f方向に応力が作用する(図16(C))。これにより、改質領域53cを起点として当該改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部が、改質領域53cより内側に存在する支持部53’から分離されることで、本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’が形成される(図12(図2に示される荷電粒子線露光用マスク11に相当))。一部が分離された後の支持部53’の外周端面は、ダイシングテープ85により一部が分離されて改質領域53cが露出する状態となっており、当該領域において多結晶状態となっている部位が平行段状に存在する。なお、支持部53’に対してテープ越しにレーザー照射を行ってもよい。
図15及び図16に示される本実施形態においては、第1溝部55hに対応する支持部53’に対応溝53dが形成される。また、第2溝部55cに対応する支持部53’には、レーザー照射が行われて改質領域53cが形成され、当該部分を起点にダイシングテープ85により支持部53’が分離される(図16(C)参照)。本実施形態によれば、溝部55に対応する位置のすべてにおいて、レーザー照射により改質領域53cを形成してダイシングテープ85により支持部53’を分離する場合よりも、多角形状の荷電粒子線露光用マスクのコーナーの形状をよりきれいに仕上げることができる。例えば、多角形状の各頂点をなす2辺のうちの一方の辺に対応する位置(上記の第1溝部55hに相当)に対応溝53dを形成し、当該2辺のうちの他方の辺に対応する位置(上記の第2溝部55cに相当)に支持部53’を形成すればよい。なお、上記2辺の両方または当該2辺のうちのいずれか一方の辺の延長線に対応する部位に溝部55を形成してもよい。また、本実施形態によれば、レーザー照射の時間を短縮することができるため、レーザー照射に伴うコストを低減することができる。
本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法のさらに他の実施形態について説明する。図17〜図18は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。この実施形態は、基板としてSOI基板に替えてシリコン基板、シリコン化合物基板等の単一材質からなる基板を使用した例である。
まず、基板51の一方の主面51aにハードマスク材料層61aを形成し、基板51の主面51bにハードマスク材料層61bを形成する。ハードマスク材料層61a、61bを、基板51をエッチングする際にエッチングレジストとして機能する材料を用いて形成する。次に、ハードマスク材料層61aにレジストパターン(不図示)を形成し、このレジストパターンをマスクとしてハードマスク材料層61aをエッチングしてハードマスク61’aを形成し、このハードマスク61’aをマスクとして基板51をエッチングする(図17(A))。このエッチングにより、基板51に開口部54および溝部55が形成される。この開口部54の深さは、上述の荷電粒子線露光用マスク11の薄板部12の厚みと同等以上の深さとする。
次に、開口部54および溝部55を被覆するように樹脂層71を形成し、また、ハードマスク材料層61bにレジストパターン75を形成する。このレジストパターン75は、開口部54に対向する位置に開口75aを有している。その後、レジストパターン75をマスクとしてハードマスク材料層61bをエッチングしてハードマスク61’bを形成し、このハードマスク61’bをマスクとして基板51をエッチングする(図17(B))。このエッチングは、開口部54が貫通し、かつ、開口部54の深さDが0.1μm〜30μmの範囲内で所望の深さとなるように実施する。これにより、外縁下方に位置する枠形状の支持部53を形成する。なお、開口部54の周縁であって、その下層には支持部53が存在しない。よって厚みが0.1μm〜30μmとなっている基板51の部分は薄板部52’ということになる。すなわち、薄板部52’は、その略中央が開口する開口部54が形成されており、薄板部52’の外縁下方が支持部53によって支持されていることになる。
次いで、樹脂層71とレジストパターン75を除去し、さらに、ハードマスク61’a、61’bを除去する(図17(C))。本実施形態によっても、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合において、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前に、レジストパターン等を一度に剥離することができ、荷電粒子線露光用マスクごとにレジストパターン等を剥離するような手間を省くことができるため、生産効率が落ちることがない。
次いで、支持部53の底面に伸縮性を有するダイシングテープ85を貼付した後、溝部55の形成方向に沿って、矢印L方向から支持部53の深さ方向にレーザー光を照射する(図18(A))。本実施形態においては、レーザー光を、支持部53の内部に集光点を合わせて、溝部55の形成方向に沿って移動させ照射する。これにより、支持部53の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し、支持部53の内部に熱ひずみが誘起され、これにより支持部53の内部にクラック領域(改質領域の一つ)が形成される。そして、レーザー光を照射する集光点の位置を支持部53の深さ方向に沿って多段に変えることにより、破線で示される改質領域53cが支持部53の内部に形成される(図18(A))。改質領域53cには、上記のクラック領域だけでなく、例えば溶融領域、および屈折率変化領域などの領域も含まれる。改質領域53cの形成により、改質領域53cより外側に存在する支持部53の一部を改質領域53cより内側に存在する支持部53から、比較的小さな力で分離することが可能となる。また、本実施形態によっても、溝部55の形成方向に沿ってレーザーを基板51に照射する。このため、レーザーが基板51の主面51aなどに当たることなく支持部53に確実に照射されるため、基板51の主面51aの端面にひび割れなどが発生して欠けが生じ、欠けた材料片が飛散するような不具合を防止することができる。
次いで、ダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げることで改質領域53cを起点として矢印f方向に応力が作用する(図18(A))。これにより、改質領域53cを起点として当該改質領域53cより外側に存在する支持部53の一部を改質領域53cより内側に存在する支持部53から分離することで、本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’が形成される(図18(B))。形成後の荷電粒子線露光用マスク51’を構成する支持部53の外周端面は、ダイシングテープ85により一部が分離されて改質領域53cが露出する状態となっており、当該領域において多結晶状態となっている部位が平行段状に存在する。なお、支持部53に対してテープ越しにレーザー照射を行ってもよい。
本実施形態においても、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前の状態において、支持部53によって各荷電粒子線露光用マスク間の裏面が繋がっている。このため、強度低下による破損等が生じることがなく、高品質の荷電粒子線露光用マスクを製造することができる。
本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態について説明する。図19〜図21は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。本実施形態は、上述した図9〜図12に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法に係る工程と概ね同様の工程を有するものであるが、本実施形態における荷電粒子線露光用マスクの製造方法は、溝部55を形成する際に、図7に示される判別マーク21を形成する点において、図9〜図12に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法と異なるものである。よって、図9〜図12に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法と異なる点を主として説明する。
本実施形態においても、基板51として上述したSOI基板を準備し、当該基板51の主面51aすなわち単結晶シリコン層52上に形成されたハードマスク材料層61aにレジストパターン65を形成する(図19(A))。本実施形態におけるレジストパターン65は、開口65a、溝65bh、及び溝65bcを有し、さらに、溝65bcの近傍に、ラインアンドスペース形状の凹凸パターン65cを有している。凹凸パターン65cを構成するライン(スペース)の幅は、0.2μm〜100μmの範囲内とするのが好ましく、1μm〜10μmの範囲内とするのがより好ましい。
次いで、レジストパターン65をマスクとしてハードマスク材料層61aをエッチングしてハードマスク61’aを形成し、このハードマスク61’aをマスクとして単結晶シリコン層52をエッチングする(図19(B))。このエッチングにおいては、開口部54、溝部55h、及び溝部55cに加えて、判別マーク56が基板51に形成される(図19(B))。なお、判別マーク21が溝部55h及び溝部55cの形成と同時に形成される態様に限定されるものではなく、判別マーク21が形成された後、当該判別マーク21を遮蔽し、別途、開口部54及び溝部55h及び溝部55cが形成される態様であってもよい。
本実施形態におけるハードマスク材料層61aを、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。ウェットエッチングによって酸化シリコンであるハードマスク材料層61aをエッチングする場合、エッチャントとしてフッ化水素酸、またはフッ化水素酸を含む薬液を使用することができる。一方、ドライエッチングによって酸化シリコンであるハードマスク材料層61aをエッチングする場合、トリフルオロメタン(CHF3)ガスや六フッ化エタン(C2F6)ガスを使用したドライエッチングを行うことができる。ドライエッチングは異方性を有するため、ほぼ設計値通りのサイズのハードマスク61’aを容易に形成することができる。
また、単結晶シリコン層52を、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。ウェットエッチングによって単結晶シリコン層52をエッチングする場合、KOH水溶液、エチレンジアミン・ピロカテコール(EDP)、または、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)等のアルカリ水溶液をエッチャントとして使用することができる。一方、ドライエッチングによって単結晶シリコン層52をエッチングする場合、4フッ化炭素(CF4)、8フッ化炭素(C4F8)、六フッ化硫黄(SF6)、臭化水素(HBr)をエッチングガスとして使用したドライエッチングを行うことができる。
次に、開口部54、溝部55h、溝部55c及び判別マーク56を被覆するように樹脂層71を形成し、また、ハードマスク材料層61bにレジストパターン75を形成する(図19(C))。
樹脂層71は、開口部54、溝部55h、溝部55c及び判別マーク56を保護する目的、および、後工程で支持基板53aをエッチングする際の歪みを抑制する目的で形成される。樹脂層71の厚みは5μm〜30μmの範囲で適宜設定され得る。このような樹脂層71は、図示例では、基板全域に亘って形成されているが、少なくとも開口部54、溝部55h、溝部55c及び判別マーク56を覆う範囲内に形成されていればよい。樹脂層71の形成では、レジスト等として用いられる公知の樹脂を使用することができ、溶媒に溶けた樹脂材料の溶液をスピンコート法等により塗布し、加熱により溶媒を除去して樹脂材料を硬化させることにより樹脂層71が形成され得る。樹脂層71の厚みは、樹脂材料や添加剤の濃度調整により溶液の粘度を調整し、さらに溶液塗布時の基板の回転速度を調整することで制御され得る。樹脂材料の溶液の一度の塗布で所望の厚みを得ることができない場合は、樹脂層が所望の厚みになるまで樹脂材料の溶液を塗布して樹脂材料を硬化させる処理を複数回繰り返してもよい。
レジストパターン75は、開口部54に対向する位置に開口75aを有している。この開口75aは、後述する支持部53’を形成するのに適した開口寸法、開口形状を備える。
次いで、レジストパターン75をマスクとしてハードマスク材料層61bをエッチングしてハードマスク61’bを形成し、このハードマスク61’bをマスクとして支持基板53aをエッチングする(図20(A))。これにより、単結晶シリコン層52の下方外縁に位置する枠形状の支持部53’が形成される。このような支持基板53aのエッチングにより形成された支持部53’間に露出したボックス層53bは、開口部54を貫通させるために、後工程において、基板51の主面51b側からエッチングされる。
ハードマスク材料層61bを、ハードマスク材料層61aに対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。また、支持基板53aを、単結晶シリコン層52に対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。
次に、樹脂層71とレジストパターン75を除去する(図20(B))。樹脂層71とレジストパターン75を、有機溶媒を用いて除去してもよく、また、酸素プラズマ処理等のアッシングを用いて除去してもよい。有機溶媒としては、例えば、レジストリムーバを使用することができる。レジストリムーバを用いて樹脂層71とレジストパターン75を除去した後に、露出されたハードマスク61’a、61’b、および、開口部54に露出したボックス層53bの表面に残留した有機物を除去するためにSPM洗浄を行ってもよい。SPM洗浄は、硫酸過酸化水素水洗浄ともいわれている。SPM洗浄として、過酸化水素水と硫酸との容量比がH2O2:H2SO4=3:1であるSPM洗浄液を70℃〜80℃に加熱して使用する例が挙げられる。SPM洗浄は、強力な酸化作用を利用して有機物を除去するのに効果がある洗浄方法である。SPM洗浄の後はIPA乾燥によってハードマスク61’a、61’b、および、ボックス層53bの表面を乾燥してもよい。このような樹脂層71とレジストパターン75を、同一工程で除去してもよく、それぞれ別の工程で除去してもよい。本実施形態によっても、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合において、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前に、レジストパターン等を一度に剥離することができ、荷電粒子線露光用マスクごとにレジストパターン等を剥離するような手間を省くことができるため、生産効率が落ちることがない。
次いで、ボックス層53bを基板51の主面51b側からエッチングすることで開口部54を貫通させ、ボックス層53bを基板51の主面51a側から支持基板53aの上面までエッチングすることで溝部55および判別マーク56の深さがボックス層53bの厚みだけ深くなる(図20(C))。本実施形態では、開口部54の深さは、上記のように、単結晶シリコン層52の厚みに対応したものであり、開口部54は0.1μm〜30μmの範囲内の深さで形成され得る。また、溝部55および判別マーク56の深さは、単結晶シリコン層52の厚みにボックス層53bの厚みを加えた厚みに対応したものであり、溝部55および判別マーク56は0.2μm〜32μmの範囲内の深さで形成され得る。ボックス層53bを、ハードマスク材料層61aに対するエッチングと同様に、ウェットエッチングまたはドライエッチングによってエッチングすることができる。このボックス層53bのエッチングと同時に、ハードマスク61’aとハードマスク61’bを除去してもよい。また、支持部53’間に露出するボックス層53bをエッチングして開口部54を貫通させた後に上記の樹脂層71を除去してもよい。
このようなハードマスク61’a、61’b、ボックス層53bの除去後の基板51に対して、SPM洗浄、APM洗浄、および、フッ酸(HF)洗浄を行うことができる。また、洗浄後はIPA乾燥によってマスクを乾燥してもよい。ここで、APM洗浄は、アンモニア過酸化水素水洗浄ともいわれている。APM洗浄として、アンモニア(NH4OH)と過酸化水素水と水との容量比がNH4OH:H2O2:H2O=1:2:5であるAPM洗浄液を70℃〜80℃に加熱して使用する例が挙げられる。APM洗浄は、有機物の除去および不溶性のパーティクルの除去に効果がある洗浄方法である。
次いで、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付した後、溝部55h及び溝部55cのそれぞれの形成方向に沿って、矢印L方向から支持部53’の深さ方向にレーザーを照射する。本実施形態においても、図11(B)に示される工程と同様に、レーザーを、支持部53’の内部に集光点を合わせて、溝部55h及び溝部55cのそれぞれの形成方向に沿って移動させ照射する。これにより、支持部53’の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し、支持部53’の内部に熱ひずみが誘起され、これにより支持部53’の内部にクラック領域(改質領域の一つ)が形成される。そして、レーザーを照射する集光点の位置を支持部53’の深さ方向に沿って多段に変えることにより、破線で示される改質領域53cが支持部53’の内部に形成される(図21(A))。改質領域53cには、上記のクラック領域だけでなく、例えば溶融領域、および屈折率変化領域などの領域も含まれる。改質領域53cの形成により、改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部を改質領域53cより内側に存在する支持部53’から、比較的小さな力で分離することが可能となる。また、本実施形態において、溝部55に沿って支持部53’の内部にレーザーが照射される。このため、レーザーが単結晶シリコン層52に当たることなく支持部53’に確実に照射されることにより、単結晶シリコン層52の端面にひび割れなどが発生して欠けが生じ、欠けたシリコン片が飛散するような不具合を防止することができる。
次いで、ダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げることで改質領域53cを起点として矢印f方向に応力が作用する(図21(B))。これにより、改質領域53cを起点として当該改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部が、改質領域53cより内側に存在する支持部53’から分離されることで、本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’が形成される(図21(C))。本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’は、図7に示される荷電粒子線露光用マスク11に相当する。形成後の荷電粒子線露光用マスク51’を構成する支持部53’の外周端面は、ダイシングテープ85により一部が分離されて改質領域53cが露出する状態となっており、当該領域において多結晶状態となっている部位が平行段状に存在する。なお、支持部53’に対してテープ越しにレーザー照射してもよい。
ダイシングテープ85は、所望の粘着力を有する粘着テープであり、例えばPVC(Polyvinyl chloride)等のフィルム基材と当該フィルム基材の一方の面に設けられた、例えばアクリル系の粘着剤を用いて形成される粘着剤層とを有している。粘着剤層は、支持部53’から使用済みのダイシングテープ85を剥がし易くするために、UV光が照射されると硬化して粘着力が低下するものであっても、加熱されると粘着力が低下するものであってもよい。
なお、本実施形態においても、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付した後、支持部53’の深さ方向にレーザーを照射しているが、これに限定されるものではなく、支持部53’の深さ方向にレーザーを照射した後、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付してもよい。また、本実施形態においては、上述のようにダイシングテープ85を用いて支持部53’を分離する方法を示しているが、これに限定されず、例えば人力により支持部53’を分離してもよい。また、ブレーキング装置などの公知の治具により支持部53’を分離してもよい。
本実施形態によっても、基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前の状態において、各荷電粒子線露光用マスク間が、酸化シリコンを含むボックス層53bに加え、支持部53’によって各チップの裏面が繋がっている。このため、強度低下による破損等が生じることがなく、高品質の荷電粒子線露光用マスクを製造することができる。また、本実施形態における荷電粒子線露光用マスクの製造方法により、荷電粒子線露光用マスク11’の平面視における外郭形状の向きを容易に判別可能な判別マーク21が所望の部位に形成された荷電粒子線露光用マスクを製造することができる。
図22及び図23は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。本実施形態においては、上述した図15〜図16に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法のうち、図16に示される工程に、金属層を形成する工程が追加される。よって、金属層を形成する工程を主として説明する。
図16(A)に示される工程において、ボックス層53bをエッチングすることで、開口部54が貫通し、溝部55の深さがボックス層53bの厚みだけ深くなり、対応溝53dと溝部55とが連通した貫通孔53d’が形成される。(図16(A))。本実施形態において、貫通孔53d’が形成される側に位置する溝部55を第1溝部55hとし、貫通孔53d’が形成されない側に位置する溝部55を第2溝部55cとする。また、本実施形態において、開口部54が貫通し、第1溝部55h及び第2溝部55cの深さがボックス層53bの厚みだけ深くなり、対応溝53dと第1溝部55hとが連通した貫通孔53d’が形成された状態のものを中間品とする。さらに、当該中間品における、第1溝部55hや第2溝部55cが形成されている側の面を基板51の「一の面」とし、支持部53’の底面53’b側の面を基板51の「一の面に対向する面」とする。本実施形態において、上記「一の面」には、単結晶シリコン層52のボックス層53b側の面52bに対向する面52a、開口部54の内壁面54w、第1溝部55hの内壁面55hw、第2溝部55cの内壁面55cw、第2溝部55cの底面55cb、及び貫通孔53d’の内壁面53d’wの一部が含まれる。また、本実施形態において、上記「他の面」には、支持部53’の底面53’b、支持部53’の内壁面53’w、単結晶シリコン層52のボックス層53b側の面52b、及び貫通孔53d’の内壁面53d’wの一部が含まれる。
次いで、第2溝部55cを覆う遮蔽部材200を単結晶シリコン層52の面52a上に載置し、その状態で基板51の一の面に金属層100Sを形成する(図22(A))。これにより、第2溝部55cの内壁面55cw及び底面55cbには金属層100Sが形成されない。一方、遮蔽部材200により覆われていない基板51の一の面にのみ金属層100Sが形成される。底面55cbは、後工程において、レーザーが照射される予定の支持部53’のレーザー照射面に相当する。金属層100Sは、例えば蒸着法やスパッタ法等により形成され得る。金属層100Sは、例えば金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等を構成する材料とする貴金属層と、貴金属層を単結晶シリコン層52等に密着させるための密着層とで構成され得る。密着層を構成する材料として、例えばチタン、クロム等が挙げられる。また、本実施形態においては、第1溝部55hの内壁面55hwのみならず、貫通孔53d’の内壁面53d’wの一部(開口上端から内壁面53d’wの途中までの部分)に金属層100Sが形成されているが、これに限定されるものではなく、成膜条件等を調整することにより、貫通孔53d’の内壁面53d’wにおける金属層100Sの形成領域が適宜設定され得る。
本実施形態において、第2溝部55cの上部開口の周縁部55CTに密着させるようにして遮蔽部材200が載置されているが(図22(A)参照)、これに限定されるものではない。金属層100Sの成膜に際し、第2溝部55cの内壁面55cw及び底面55cbに金属層100Sを構成する金属材料が付着しないように、遮蔽部材200を第2溝部55cの上部に位置させればよく、遮蔽部材200が第2溝部55cの上部開口の周縁部55CTに密着していなくてもよい。例えば、遮蔽部材200と第2溝部55cの上部開口の周縁部55CTとの間にわずかな隙間が空いていても、当該隙間を通じて金属層100Sを構成する金属材料が、第2溝部55cの内壁面等に付着しなければよい。
次に、遮蔽部材200を除去し、基板51の他の面に金属層100Rを形成する(図22(B))。なお、金属層100Rを、金属層100Sと同様に貴金属層と密着層との2層構造で構成することができる。
その後、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付した後、第2溝部55cの形成方向に沿って、矢印L方向から支持部53’の深さ方向にレーザーを照射する(図22(C))。本実施形態においては、レーザーを、第2溝部55c側に位置する支持部53’の内部に集光点を合わせて、第2溝部55cの形成方向に沿って移動させ照射する。これにより、支持部53’の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し、支持部53’の内部に熱ひずみが誘起され、これにより支持部53’の内部にクラック領域(改質領域の一つ)が形成される。そして、レーザーを照射する集光点の位置を支持部53’の深さ方向に沿って多段に変えることにより、破線で示される改質領域53cが支持部53’の内部に形成される(図22(C))。
次いで、ダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げることで改質領域53cを起点として矢印f方向に応力が作用する(図23(A))。これにより、改質領域53cを起点として当該改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部が、改質領域53cより内側に存在する支持部53’から分離される。支持部53’の一部が分離される際、支持部53’の底面側の金属層100Rの一部が、分離される支持部53’の一部とともに、改質領域53cより内側に存在する支持部53’の底面側の金属層100Rから分離される。これにより、本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’が形成される(図23(B)。形成後の荷電粒子線露光用マスク51’を構成する支持部53’(一部が分離された後の支持部53’)の外周端面は、ダイシングテープ85により一部が分離されて改質領域53cが露出する状態となっており、当該領域において多結晶状態となっている部位が平行段状に存在する。なお、改質領域53cが露出した上記支持部53’の外周端面に、金属層100Sや金属層100Rが成膜されなくてもよく、基板51の一の面及び他の面にそれぞれ対応する、荷電粒子線露光用マスク11の少なくとも表裏面に金属層100Sや金属層100Rが成膜されるものであればよい。
図22及び図23に示される本実施形態によれば、例えば基板51に多面付けにより複数の荷電粒子線露光用マスクを形成するような場合等において、各荷電粒子線露光用マスクを個片化する前に基板51の両面に金属層を成膜することができる。よって、個片化後の各荷電粒子線露光用マスクの表裏面にそれぞれ金属層を成膜する方法における煩雑さがなく、個片化前の各荷電粒子線露光用マスクに対する金属層への成膜が効率よく行われ得る。
図24及び図25は、本発明の荷電粒子線露光用マスクの製造方法の他の実施形態を説明するための工程図である。図24及び図25に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法は、上述した図22及び図23に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法と比較して、金属層の形成方法が異なる。
図16(A)に示される通り、ボックス層53bをエッチングすることで、開口部54を貫通させ、溝部55の深さがボックス層53bの厚みだけ深くなり、対応溝53dと溝部55とが連通した貫通孔53d’が形成される。(図16(A))。本実施形態において、貫通孔53d’が形成される側に位置する溝部55を第1溝部55hとし、貫通孔53d’が形成されない側に位置する溝部55を第2溝部55cとする。また、本実施形態において、開口部54が貫通し、第1溝部55h及び第2溝部55cの深さがボックス層53bの厚みだけ深くなり、対応溝53dと第1溝部55hとが連通した貫通孔53d’が形成された状態のものを中間品とする。さらに、当該中間品における、第1溝部55hや第2溝部55cが形成されている側の面を基板51の「一の面」とし、支持部53’の底面53’b側の面を基板51の「一の面に対向する面」とする。本実施形態において、上記「一の面」には、単結晶シリコン層52のボックス層53b側の面52bに対向する面52a、開口部54の内壁面54w、第1溝部55hの内壁面55hw、第2溝部55cの内壁面55cw、第2溝部55cの底面55cb、及び貫通孔53d’の内壁面53d’wの一部が含まれる。また、本実施形態において、上記「他の面」には、支持部53’の底面53’b、支持部53’の内壁面53’w、単結晶シリコン層52のボックス層53b側の面52b、及び貫通孔53d’の内壁面53d’wの一部が含まれる。
その後、基板51の他の面に金属層100Rを形成する(図24(A))。また、本実施形態においては、貫通孔53d’の内壁面53d’wの一部(開口下端から開口上端の近傍までの一部)に金属層100Rが形成されているが、これに限定されるものではなく、形成条件等を調整することにより、貫通孔53d’の内壁面53d’wにおける金属層100Rの形成領域が適宜設定され得る。
次に、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付した後、第2溝部55cの形成方向に沿って、矢印L方向から支持部53’の深さ方向にレーザーを照射する(図24(B))。本実施形態においては、レーザーを、第2溝部55c側の支持部53’の内部に集光点を合わせて、溝部55の形成方向に沿って移動させ照射する。これにより、支持部53’の内部には多光子吸収による光学的損傷という現象が発生し、支持部53’の内部に熱ひずみが誘起され、これにより支持部53’の内部にクラック領域(改質領域の一つ)が形成される。そして、レーザーを照射する集光点の位置を支持部53’の深さ方向に沿って多段に変えることにより、破線で示される改質領域53cが支持部53’の内部に形成される。
次いで、ダイシングテープ85をエキスパンド装置で広げることで改質領域53cを起点として矢印f方向に応力が作用する(図24(B))。これにより、改質領域53cを起点として当該改質領域53cより外側に存在する支持部53’の一部53’dが、改質領域53cより内側に存在する支持部53’から分離される(図24(C))。支持部53’の一部53’dが分離される際、支持部53’の一部53’dの底面側の金属層100Rの一部が、当該一部53’dとともに、改質領域53cより内側に存在する支持部53’の底面側の金属層100Rから分離される。なお、本実施形態において、分離された支持部53’の一部53’dの側壁面53’dsと、当該側壁面53’dsに対向する支持部53’の側壁面53’sとに挟まれる空間を分離溝55dとする。本実施形態において、上記の側壁面53’dsおよび側壁面53’sも上記「一の面」に含まれるものとする。
その後、支持部53’の底面にダイシングテープ85を貼付したままの状態で、基板51の一の面に金属層100Sを形成する(図25(A))。その後、支持部53’の底面からダイシングテープ85を剥離することにより、本実施形態の荷電粒子線露光用マスク51’が形成され得る(図25(B))。本実施形態においても、形成後の荷電粒子線露光用マスク51’を構成する支持部53’の外周端面は、ダイシングテープ85により一部が分離されて改質領域53cとなっており、この改質領域53cが金属層100Sにより被覆された状態となっている。なお、支持部53’に対してテープ越しにレーザーを照射してもよい。
なお、上述した図22〜図25に示される荷電粒子線露光用マスクの製造方法では、第1溝部55hに対応する位置に対応溝53dが形成され、その後、対応溝53dと第1溝部55hとが連通してなる貫通孔53d’が形成された後の中間品に、金属層を成膜する方法を例として説明した。しかし、これに限定されるものではなく、平面視がドーナツ状となる溝部55の形成方向に沿って、支持部53’にレーザー照射が行われて改質領域53cが形成された後の中間品(図11(B)参照)に、金属層100Sおよび金属層100Rを成膜するものであってもよい。この場合、図22を参照して既に説明した通り、基板51の一の面に金属層100Sを成膜する際に、各溝部55を覆うように、メタルマスク200を各溝部55の上方に位置させることで、各溝部55の内壁面及び底面に金属層100Sが形成されないようにすることができる。