JP2018094670A - 耐摩耗性と耐欠損性を両立した表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具 - Google Patents

耐摩耗性と耐欠損性を両立した表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具 Download PDF

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Abstract

【課題】 強断続切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮する表面被覆cBN工具を提供する。
【解決手段】 cBN基体表面に、A層とB層の交互積層構造が形成されている表面被覆cBN工具であって、cBN基体中のcBN粒子は、粒径0.50〜1.00μmの範囲に粒度分布のピークが存在し、該ピークの半値全幅は0.33〜0.73μmを満足し、A層は(Ti1−xAl)N(但し、原子比で、0.4≦x≦0.7)、B層は(Al1−a−b−cCrSiCu)N(但し、原子比で、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05)を満足する平均組成を有し、前記B層はSi成分濃度が層厚方向に沿って変化する組成変調構造を備え、さらに、硬質被覆層をXRD測定したとき、(200)面の回折ピークは43.6±0.1度の位置に存在し、該ピークの半値全幅は0.25±0.05度である。
【選択図】 図1

Description

この発明は、合金鋼等の強断続切削加工等において、すぐれた耐摩耗性とすぐれた耐欠損性を示し、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮する立方晶窒化ホウ素(以下、「cBN」ともいう)焼結体を工具基体とする表面被覆工具(以下、「被覆cBN工具」ともいう)に関する。
一般に、表面被覆切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、被覆工具として、CrとAlの複合窒化物((Cr,Al)N)層、あるいは、TiとAlの複合窒化物((Ti,Al)N)層からなる硬質被覆層を、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットあるいは立方晶窒化ホウ素焼結体(以下、cBNで示す)からなる基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、アークイオンプレーティング法により、被覆形成した被覆工具が知られている。
そして、被覆工具の切削性能を改善するために、多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1に示すように、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメット等の工具基体の表面に、Cr、Al及びSiを主成分とする金属成分と、C、N、O、Bから選択される少なくとも1種以上の元素とから構成される立方晶構造の硬質層を1層以上被覆することにより、耐欠損性、耐摩耗性を改善した被覆工具が提案されている。
また、特許文献2には、工具基体表面に硬質被覆層を被覆した被覆工具において、硬質膜の少なくとも1層は、(MaLb)Xc(但し、MはCr,Al,Ti,Hf,V,Zr,Ta,Mo,W,Yの中から選ばれた少なくとも1種の金属元素を示し、LはMn,Cu,Ni,Co,B,Si,Sの中から選ばれた少なくとも1種の添加元素を示し、XはC,N,Oの中から選ばれた少なくとも1種の非金属元素を示し、aはMとLとの合計に対するMの原子比を示し、bはMとLとの合計に対するLの原子比を示し、cはMとLとの合計に対するXの原子比を示す。また、a,b,cは、それぞれ0.85≦a≦0.99、0.01≦b≦0.15、a+b=1、1.00<c≦1.20を満足する。)とすることで、硬質膜の成分であるCu,Si等による結晶粒の微細化、結晶安定性により、高温硬さが高くなり、耐摩耗性が向上し、さらに、耐酸化性も向上すると記載されている。
また、特許文献3、特許文献4には、立方晶型窒化硼素を20体積%以上含むCBN焼結体からなる基材に対して、少なくとも切削に関与する箇所に、(Ti1−XAl)N(ここで、0.3≦X≦0.7)で表される組成からなる硬質耐熱被膜を設けることにより、切削工具としての強度と耐摩耗性の改善を図ることが提案されている。
さらに、特許文献5には、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、(Ti,Al)系複合窒化物あるいは複合炭窒化物層からなる下部層と、(Cr,Al)系複合窒化物層からなる上部層を被覆形成し、かつ、上部層は、立方晶構造からなる薄層Aと、立方晶構造と六方晶構造の混在する薄層Bの交互積層構造として構成することによって、高速強断続切削加工における潤滑性と耐摩耗性を改善することが提案されている。
なお、上記下部層は、組成式:(Ti1−Q−RAl1R)(C,N)で表した場合に、0.4≦Q≦0.65、0≦R≦0.1(但し、Qは原子比によるAlの含有割合、Rは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Si、B、Zr、Y、V、W、NbまたはMoから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足するTiとAlとMの複合窒化物または複合炭窒化物層であり、上記薄層Aは、組成式:(Cr1−α−βAlα2β)Nで表した場合に、0.25≦α≦0.65、0<β≦0.1(但し、αは原子比によるAlの含有割合、βは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足する立方晶構造のCrとAlとM2の複合窒化物層であり、さらに、上記薄層Bは、組成式:(Cr1−γ−δAlγ3δ)Nで表した場合に、0.75≦γ≦0.95、0<δ≦0.1(但し、γは原子比によるAlの含有割合、δは原子比による成分Mの合計含有割合であり、また、成分Mは、Zr、Y、V、W、Nb、MoまたはTiから選ばれる1種または2種以上の元素を示す)を満足するCrとAlとMの複合窒化物層であることが記載されている。
特許第3781374号公報 特開2008−31517号公報 特開平8−119774号公報 特許第4191663号公報 特開2009−101491号公報
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高能率化の傾向にある。
前記特許文献1〜5で提案されている従来被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄の通常条件での切削に用いた場合には格別問題はないが、特に、切れ刃に断続的、衝撃的な高負荷が作用する強断続切削加工条件で用いた場合には、欠損等が発生しやすく、また、耐摩耗性も満足できるものではないため、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
例えば、前記特許文献1に示される従来被覆工具においては、硬質被覆層を構成する(Al,Cr,Si)N層のAl成分は高温硬さ、同Cr成分は高温靭性、高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させ、さらに同Si成分は耐熱塑性変形性を向上させる作用があるが、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して衝撃的・断続的な高負荷がかかる切削条件においては、チッピング、欠損等の発生を避けることはできず、例えば、Cr含有割合を増加することにより高温靭性、高温強度の改善を図ろうとしても、相対的なAl含有割合の減少によって、耐摩耗性が低下してしまうため、(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層における耐チッピング性と耐摩耗性の両立を図るには自ずから限界がある。
また、前記特許文献2に示される従来被覆工具においては、硬質被覆層成分としてCuを含有させ、結晶粒の微細化を図ることによって耐摩耗性を向上させることが提案されているが、耐摩耗性が向上する反面、靭性が低下することによってチッピングの発生を抑制することができず、工具寿命は短命である。
前記特許文献3、4に記載される従来被覆工具においては、耐摩耗性には優れるものの、刃先に衝撃が作用する強断続切削加工では、耐チッピング性が十分ではない。さらに、特許文献3、4に記載される従来被覆工具では、工具基体がcBN焼結体であるため、(Ti,Al)Nからなる硬質被覆層との密着性が十分でなく、(Ti,Al)N層の剥離が発生し、また、これを原因として耐摩耗性の低下が生じる。
前記特許文献5の従来被覆工具においては、硬質被覆層の上部層を(Cr,Al)N系複合窒化物層の薄層Aと薄層Bの交互積層構造として構成しており、かつ、薄層Bは、立方晶構造と六方晶構造の混在する層であるため、潤滑性には優れるものの、強断続切削加工に供した場合、耐欠損性、耐摩耗性が十分ではない。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に、強断続切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐欠損性を発揮すると同時に、耐摩耗性にも優れた被覆工具を開発すべく、鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
(a)まず、硬質被覆層が、(Cr,Al)N層あるいは(Cr,Al,M)N層で構成された従来被覆工具において、硬質被覆層の構成成分であるAlは高温硬さと耐熱性を向上させ、Crは高温強度を向上させると共に、CrとAlが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させる作用があること、また、添加成分MがZrの場合は耐熱塑性変形性向上、Vは潤滑性向上、Nbは高温耐摩耗性向上、Moは耐溶着性向上、Wは放熱性向上、Tiはさらなる高温硬度向上というように、M成分の種類に応じて、硬質被覆層の特性の改善が図られ、そして、硬質被覆層は、これらM成分を含有することによって、耐欠損性、耐溶着性、耐酸化性および耐摩耗性が向上することは、前記特許文献1、2、5によって既に知られている。
(b)また、(Ti,Al)N層はすぐれた高温強度を備え、しかも、工具基体と前記(Cr,Al,M)N層に対してすぐれた高密着強度を有するので、(Ti,Al)N層をA層とし、また、(Cr,Al,M)N層をB層とし、A層とB層との積層構造として硬質被覆層を形成すると、硬質被覆層全体として、すぐれた高温強度を有し、また、すぐれた耐欠損性を有する被覆工具となることも、前記特許文献2〜5によって既に知られている。
(c)しかし、本発明者は、前記A層とB層が少なくとも各1層ずつ交互に積層されている交互積層構造からなる硬質被覆層において、B層をAlとCrとSiとCuの複合窒化物(以下、「(Al,Cr,Si,Cu)N」で示す場合がある)層として構成し、A層とB層を構成する成分の組成範囲を適切に選択することによって、特に、前記B層は結晶粒微細化による耐摩耗性向上効果と衝撃緩和性による耐チッピング性向上を備えることから、硬質被覆層の備える硬さと塑性変形性のバランスを図ることができ、これによって、切れ刃に作用する切削加工時の断続的・衝撃的な高負荷を緩和し、硬質被覆層の耐欠損性を向上させ得ることを見出したのである。
また、本発明のB層について、ナノインデンテーション試験を行ったところ、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)の値は0.35〜0.50の範囲内となることを確認している。
(d)さらに、本発明者は、立方晶窒化ホウ素焼結体からなる工具基体(以下、「cBN基体」ともいう)の成分組成を適正範囲に定め、さらに、cBN焼結体中におけるcBN粒子の粒度分布を調整することにより、前記A層とB層との交互積層構造からなる硬質被覆層と、cBN基体との密着強度を向上させることができるとともに、硬質被覆層全体のXRD測定を行った際に、(200)面のX線回折ピーク位置と該ピーク位置における回折強度の半値全幅が特定の値を示すことによって、硬質被覆層の耐欠損性がより向上し、長期の使用にわたって一段とすぐれた耐欠損性、耐摩耗性が発揮されるようになることを見出したのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
「(1)立方晶窒化ホウ素焼結体からなる工具基体表面に、A層とB層が少なくとも各1層以上交互に積層された交互積層構造からなる合計層厚0.5〜4.0μmの硬質被覆層が形成されている表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具において、
(a)前記立方晶窒化ホウ素焼結体は、
TiC、TiN及びTiCNのうちの1種または2種以上の合計:10〜50vol%、
WC:0.1〜2vol%、
AlN:0.3〜5vol%、
TiB:2〜10vol%、
Al:1.5〜10vol%、
cBN(立方晶窒化ホウ素):30〜80vol%
からなる組成を有し、
(b)前記立方晶窒化ホウ素焼結体中のcBN粒子の粒度分布を測定した場合、粒径0.50〜1.00μmの範囲に粒度分布のピークが存在し、かつ、該ピークの半値全幅の値は、0.33〜0.73μmを満足し、
(c)前記A層は、0.1〜3.0μmの一層平均層厚を有し、
組成式:(Ti1−xAl)N
で表した場合に、0.4≦x≦0.7(ただし、xは原子比によるAlの含有割合を示す)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合窒化物層、
(d)前記B層は、0.1〜3.0μmの一層平均層厚を有し、
組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、
0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する平均組成を有するAlとCrとSiとCuの複合窒化物層であり、
(e)前記B層は、層厚方向に沿ってSi成分濃度が周期的に変化する組成変調構造を有し、
(f)前記組成変調構造におけるSi成分濃度の周期的な変化は、Si成分の最高含有点とSi成分の最低含有点が1nm〜100nmの平均間隔で繰り返され、
(g)前記Si成分の最高含有点におけるSi成分の組成の極大値の平均値をbmaxとしたとき、
b<bmax≦1.3bの範囲内であり、
(h)前記Si成分の最低含有点におけるSi成分の組成の極小値の平均値をbminとしたとき、
0.7b≦bmin<bの範囲内であり、
(i)さらに、前記A層とB層からなる硬質被覆層全体についてX線回折測定を行ったとき、(200)面のX線回折ピークは回折角43.5±0.2度の位置に存在し、かつ、該回折ピークの半値全幅は0.4±0.1度を満足することを特徴とする表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具。
(2)前記B層について、層厚の1/10以下の押し込み深さになるように設定した荷重でナノインデンテーション試験を行うことによって求めたB層の塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)の値は0.35〜0.50の範囲内であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、この発明の被覆cBN工具について、より詳細に説明する。
立方晶窒化ホウ素焼結体(cBN焼結体):
本発明の被覆cBN工具の基体を構成するcBN焼結体は、その成分組成を特定の範囲内に規制することにより、交互積層構造の硬質被覆層を構成するA層またはB層のいずれとも、すぐれた密着強度を示すようになる。特に、A層との密着強度が高いので、cBN基体直上に形成する層としては、A層が望ましい。
本発明では、cBN焼結体の成分組成を次のとおりに定めた。
TiC、TiN及びTiCNのうちの1種または2種以上の合計:10〜50vol%、
WC:0.1〜2vol%、
AlN:0.3〜5vol%、
TiB:2〜10vol%、
Al:1.5〜10vol%、
cBN(立方晶窒化ホウ素):30〜80vol%
本発明で、cBN焼結体の成分組成を前記のとおり定めた技術的な理由は以下のとおりである。
cBN粒子:
切刃におけるcBN粒子は、通常、耐摩耗性および耐塑性変形性を確保する作用を有するが、結合相中の含有量が30vol%未満ではcBN焼結体の高硬度が十分に発揮されなくなり、耐摩耗性の低下が顕著になる。一方、含有量が80vol%を越えると靭性が低下して欠損を発生しやすくなり、また、cBN基体と硬質被覆層との密着性も悪くなり、硬質被覆層の剥離を伴う異常摩耗が発生し耐摩耗性が低下するため好ましくない。
したがって、cBN粒子の含有量は30〜80vol%に定めたが、より好ましい含有量は40〜70vol%である。
また、cBN焼結体の耐摩耗性を向上させ、cBN粒子の離脱防止を図る上で、cBN焼結体中におけるcBN粒子の粒度分布を測定した場合、粒径0.50〜1.00μmの範囲に粒度分布のピークが存在し、かつ、該ピークの半値全幅の値は、0.33〜0.73μmを満足することが必要である。
これは、粒度分布のピークが粒径0.50μm未満になると、切削加工によって露出したcBN基体の摩耗進行が促進され、一方、粒度分布のピークが粒径1.00μmを超えると、切削加工時に作用する断続的・衝撃的な高負荷によって、cBN粒子と結合相との界面から、cBN粒子の離脱発生を原因として、早期に欠損を発生することになるからである。
また、該ピークの半値全幅の値が0.33μm未満になると、cBN粒子は均一であるが、焼結体中で充填率が低下するため、結合相との分散性や反応性が劣り、靱性が低下して欠損が発生しやすくなる。
一方、該ピークの半値全幅の値が大きくなればなるほど微細な粒子から粗い粒子が混在する。特に該ピークの半値全幅の値が0.73μmを超えると、微細すぎるcBN粒子と粗いcBN粒子が混在する。この時、微細すぎるcBN粒子は、焼結阻害要因となる酸素、水分等の不純物の吸着・混入になりやすく、結果的にcBN焼結体の靱性を低下させてしまう。粗いcBN粒子の場合は、粒度分布のピークが1.00μmを超える時と同様に、cBN粒子の切削加工時に作用する断続的・衝撃的な高負荷によって、cBN粒子と結合相との界面から、cBN粒子の離脱発生を原因として、早期に欠損を発生しやすくなる。
したがって、cBN粒子の粒度分布のピークの半値全幅の値は、0.33〜0.73μmとする。
なお、cBN焼結体中におけるcBN粒子のより好ましい粒度分布は、粒径0.65〜0.85μmの範囲にピークが存在し、かつ、該ピークの半値全幅の値は、0.45〜0.65μmを満足する粒度分布である。
TiC,TiN,TiCN(Ti系化合物):
cBN焼結体に含有されるTiC,TiN,TiCN等のTi系化合物は、結合相として作用し、耐熱性および靭性を確保する作用を有する。しかし、その合計含有量が10vol%未満では靭性の低下が著しくなるとともに、硬質被覆層との密着強度も低下し、一方、合計含有量が50vol%を越えて含有すると相対的にcBN量が減少し、所望の高硬度が得られず、耐熱性の低下も著しくなる。
したがって、これらのTi系化合物の合計含有量は10〜50vol%に定めた。
なお、これらのTi系化合物(TiC,TiN,TiCN)の好ましい合計含有量は20〜40vol%である。また、これらTi系化合物の平均粒径は、cBN焼結体中における分散性を考慮すると1μm以下(好ましくは0.2〜0.7μm)とすることが望ましい。
WC,TiB,AlN,Al(分散成分):
cBN焼結体に含有されるWC,TiB,AlN,Al等の分散成分は、いずれもTi系化合物からなる結合相中に硬質分散相として分散している成分であり、Ti系化合物の粒成長を抑制する作用を有するが、WCが0.1vol%未満、TiBが2vol%未満、AlNが0.3vol%未満、また、Alが1.5vol%未満では、Ti系化合物の粒成長抑制効果が少なく、一方、WCが2vol%を超える場合、TiBが10vol%を超える場合、AlNが5vol%を超える場合、また、Alが10vol%を超える場合には、cBN焼結体の焼結性が低下し、強度が低下するとともに、硬質被覆層との密着強度の低下も招く。
上記の作用に加え、TiBが2vol%未満になると、高温における強度低下が著しく、逆に10vol%を超えると、あまり高くない温度領域においても強度および靭性の低下が著しくなる。また、AlNが0.3vol%未満になると、緻密な焼結体になり難く、5vol%を超えると、強度および靭性の低下が著しくなる。さらに、Alが、1.5vol%未満になると、耐摩耗性および耐熱性の低下が著しくなり、10vol%を超えると靭性の低下が著しくなる。
したがって、cBN焼結体における上記各分散成分の含有量を、それぞれ上記特定の量とすることによって、cBN焼結体の焼結性の低下、強度の低下を抑えると同時に、cBN焼結体におけるTi系化合物の粒成長抑制効果を抑えるとともに、硬質被覆層との密着強度をより一段と向上させることができる。
よって、分散成分の含有量を、WC:0.1〜2vol%、TiB:2〜10vol%、AlN:0.3〜5vol%、Al:1.5〜10vol%と定めた。
なお、これら分散成分の好ましい範囲は、WC:0.3〜1.5vol%、TiB:3〜7vol%、AlN:1〜4vol%、Al:2〜9vol%である。
また、これら分散成分の素地中における粒径は、平均粒径でいずれも0.5μm以下(好ましくは0.3μm以下)であることが望ましい。
cBN焼結体におけるcBN粒子、Ti系化合物および分散成分の平均粒径は、例えば、以下の方法によって測定し、求めることができる。
cBN粒子の場合は、作製したcBN焼結体の断面組織を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)にて観察し、二次電子像を得る。得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析によって各cBN粒子の最大長を求め、それを各cBN粒子の直径とし、この直径より計算し求めた各粒子の体積を基に縦軸を体積百分率(体積%)、横軸を直径(μm)としてグラフを描画させ、体積百分率が50体積%の値となる直径をcBN粒子の粒径とし、SEMで得られた倍率5,000の二次電子像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の平均粒径(μm)とした。
Ti系化合物および分散成分の粒子の場合は、作製したcBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いて、cBN焼結体の各結合相組織を観察し、各々構成される元素の元素マッピング像を取得する。例えばAlの場合は、AlとOの元素マッピング像となる。得られた元素マッピング像が重なる部分を画像解析によって分析し、Ti系化合物および分散成分の各々の粒子を画像処理にて抜き出し、画像解析によってTi系化合物および分散成分の各々の粒子の最大長を求め、それをTi系化合物および分散成分の各々の粒子の直径とし、この直径より計算し求めた各粒子の体積を基に縦軸を体積百分率(体積%)、横軸を直径(μm)としてグラフを描画させ、体積百分率が50体積%の値となる直径をTi系化合物および分散成分の各々の粒子の粒径とし、AESで得られた倍率20,000の元素マッピング像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をTi系化合物および分散成分の各々の粒子の平均粒径(μm)とした。
硬質被覆層の交互積層構造を構成するA層:
図1(a)に、本発明被覆工具の硬質被覆層の縦断面概略模式図を示すが、交互積層構造からなる硬質被覆層のA層を構成するTiとAlの複合窒化物層(以下、単に、「(Ti,Al)N層」と記すこともある)は、それ自体すぐれた高温強度を備えることに加え、A層は、cBN基体との密着強度にすぐれるとともに交互積層を構成するB層に対してもすぐれた密着強度を有するため、A層とB層との交互積層構造によって硬質被覆層を形成することによって、A層−B層間の層間密着強度を高めることができ、その結果、耐摩耗性を低下させることなく耐欠損性、耐剥離性を向上させることができる。
ただ、(Ti,Al)Nを、
組成式:(Ti1−xAl)N
で表した場合に、Alの含有割合を示すx値(原子比)が0.4未満では、高温硬さが低下するため耐摩耗性の劣化を招き、また、x値(原子比)が0.7を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、十分な高温強度を確保することができなくなるとともに、六方晶構造の結晶粒が出現することによって硬さが低下し、その結果、耐摩耗性が低下することから、A層におけるAlの含有割合x値(原子比)を、0.4≦x≦0.7と定めた。
硬質被覆層の交互積層構造を構成するB層:
(Al,Cr,Si,Cu)N層からなるB層は、特に、Cu成分含有による結晶粒微細化が図られることによりすぐれた耐摩耗性を示し、また、B層が備える衝撃緩和作用によってすぐれた耐チッピング性を示す。
B層を、組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、それぞれの成分の平均含有割合(原子比)を示すa、b、cについては、0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する値とする。
Crの平均含有割合を示すa値(原子比)が、AlとSiとCuの合量に占める割合で0.15未満では、最低限必要とされる高温靭性、高温強度を確保することができないため、チッピング、欠損の発生を抑制することができず、一方、同a値が0.40を超えると、相対的なAl含有割合の減少により、摩耗進行が促進することから、a値を0.15〜0.40と定めた。
また、Siの平均含有割合を示すb値(原子比)が、AlとCrとCuの合量に占める割合で0.05未満では、耐熱塑性変形性の改善による耐摩耗性向上を期待することはできず、一方、同b値が0.20を超えると、耐摩耗性向上効果に低下傾向がみられるようになることから、b値を0.05〜0.20と定めた。
さらに、Cuの平均含有割合を示すc値(原子比)が、AlとCrとSiの合量に占める割合で0.005未満では、結晶粒微細化による耐摩耗性向上効果を期待することができず、一方、同c値が0.05を超えると、アークイオンプレーティング(以下、「AIP」で示す。)装置によって(Al,Cr,Si,Cu)N層を成膜する際にパーティクルが発生しやすくなり、衝撃的・断続的な高負荷が作用する切削加工において耐チッピング性が低下することから、c値を0.005〜0.05と定めた。
また、A層の場合と同様、a、b、cの値がそれぞれの下限近傍になると、相対的にAlの含有割合が大きくなり、六方晶構造の結晶粒が出現する場合もあるが、a、b、cの値がそれぞれ定められた範囲内にあれば、耐摩耗性への実質的な悪影響は少ないので、(Al,Cr,Si,Cu)N層中に微量の六方晶構造の結晶粒が存在することは許容される。
なお、上記a、b、cについて、好ましい範囲は、それぞれ、0.15≦a≦0.25、0.05≦b≦0.15、0.01≦c≦0.03である。
A層とB層とからなる交互積層の構造:
本発明では、硬質被覆層は、A層とB層とで構成されるが、層構造の一つの態様として、図1(a)に示すA層とB層との二層構造をあげることができる。
また、別の態様としては、図2に示すようにA層とB層との合計層数が3層以上の交互積層構造をあげることができる。
なお、前記B層は、図1(b)〜(d)に示すように、B層内にSi成分濃度が周期的に変化する組成変調構造を有する。
なお、交互積層構造を構成するA層及びB層は、それぞれの1層平均層厚を0.1〜3.0μmとする。
これは、A層の平均層厚が0.1μm未満では、工具基体あるいはB層との密着強度向上効果が少なくなり、一方、A層の平均層厚が3.0μmを超えると、残留圧縮応力の蓄積により、クラックが発生しやすくなり安定した密着力を確保できなくなることから、A層の1層平均層厚は、0.1〜3.0μm、望ましくは、0.3〜2.0μmと定めた。
また、B層の平均層厚が0.1μm未満では、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することはできず、一方、その平均層厚が3.0μmを超えると、チッピング、欠損を発生しやすくなるので、B層の平均層厚は、0.1〜3.0μm、望ましくは、0.3〜2.0μmと定めた。
また、交互積層構造からなる硬質被覆層の合計層厚が0.5μm未満では、長期にわたる十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、合計層厚が4.0μmを超えると硬質被覆層が自壊を生じやすくなることから、硬質被覆層の合計層厚は0.5〜4.0μmとする。
さらに、A層とB層からなる交互積層を構成するにあたり、cBN基体の表面直上にA層を形成することによって、工具基体と硬質被覆層の密着強度をより強固なものとすることができ、また、硬質被覆層の最表面にB層を形成することによって、強断続切削加工時に作用する断続的・衝撃的な高負荷を効果的に緩和することができ、より一層、耐欠損性の向上を図ることができるので、交互積層を構成するにあたり、cBN基体の表面直上にはA層を、また、硬質被覆層の最表面にはB層を形成することが望ましい。
B層の組成:
図1(a)に示す組成変調構造を有するB層を成膜するに際しては、例えば図5に示すように、アークイオンプレーティング(以下、「AIP」と記す)装置内に、A層形成用の所定組成のTi−Al合金ターゲットを配置するとともに、組成変調構造を形成するための2種類のAl−Cr−Si−Cu合金ターゲットをそれぞれ配置することで実施する。
前記2種類のAl−Cr−Si−Cu合金ターゲットは、B層の組成変調におけるSi成分濃度の最高含有点を形成するSi成分最高含有点形成用Al−Cr−Si−Cu合金ターゲットと、B層の組成変調におけるSi成分濃度の最低含有点を形成するSi成分最低含有点形成用Al−Cr−Si−Cu合金ターゲットである。
組成変調構造を有するB層の成膜に当たっては、図5に示すAIP装置において、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体とSi最高含有点形成用ターゲットとの間にアーク放電を発生させて成膜すると同時に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体とSi最低含有点形成用ターゲットとの間にもアーク放電を発生させて成膜することによって、Si成分濃度が層厚方向に沿って周期的かつ連続的に変化する組成変調構造(図1(c)参照)を有するB層を形成することができる。
また、上記の成膜工程において、工具基体とSi最高含有点形成用ターゲット(あるいはSi最低含有点形成用ターゲット)との間にアーク放電を発生させて成膜したのちアーク放電を停止し、次いで、工具基体とSi最低含有点形成用ターゲット(あるいはSi最高含有点形成用ターゲット)との間にアーク放電を発生させて成膜したのちアーク放電を停止する、という前記操作を交互に繰り返し行うことにより、Si成分濃度が層厚方向に沿って周期的にかつ不連続的(ステップ状)に変化する組成変調構造(図1(d)参照)を有するB層を形成することができる。
本発明は組成変調構造の形態に関して、Siの成分濃度変化が連続的または不連続的のいずれの形態であっても構わないが、切刃に対して衝撃的・断続的な高負荷が作用する切削加工において、硬質被覆層の耐摩耗性および耐熱性向上効果を発揮させつつ、かつ層全体として耐チッピング性を向上させる観点からは、Si最高含有点とSi最低含有点の間の層内の親和性を高めるため、組成変調構造のSiの成分濃度変化が連続的に変化することがより好ましい。
ここでいう最高含有点、最低含有点について説明する。ここでいうSiの最高含有点とは、層厚方向に沿って測定した各測定点におけるSi成分の濃度が、B層全体の組成式(Al1−a−b−cCrSiCu)NにおけるSi成分の平均濃度割合bの値を連続して超えている部分における極大値の平均値を言い、bの値を連続して超えている部分が複数ある場合は、それぞれの部分における極大値の平均値をそれぞれの部分における最高含有点と定義する。同様に、ここでいう最低含有点とは、層厚方向に沿って測定した各測定点におけるSi成分の平均濃度割合bが、B層全体の組成式(Al1−a−b−cCrSiCu)NにおけるSi成分の平均濃度割合bの値未満となる連続した部分における極小値の平均値を言い、連続してbの値未満となる部分が複数ある場合は、それぞれの部分における極小値の平均値をそれぞれの部分における最小含有点と定義する。この定義によれば、bの値近傍での周期的な変化において、図1(b)に示すように、最高含有点と最低含有点が交互に出現する。
組成変調構造を有するB層におけるSi最高含有点におけるSi濃度:
B層のSi最高含有点(図1(b)参照)におけるSi成分は、B層自体の耐摩耗性を向上させる作用をもつが、Si最高含有点におけるSiの含有割合を示すbmaxの平均値が、1.3b(ただし、bの値は、B層の組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)NにおけるSiの平均組成bを示す)より大きくなると、相対的に、Al、Cr、Cuの含有割合が減少するため、高温靱性および高温強度を有するSi最低含有点が隣接して存在してもB層としての耐チッピング性の低下は避けられず、一方、各Si最高含有点におけるSiの含有割合を示すbmaxの平均値は、その定義により、b以下の値を取らないことから、Si最高含有点におけるSi濃度bmaxの平均値は、bを超え1.3b以下の値とすることが必要であり、1.03b≦bmax≦1.25bを満足することが望ましい。
組成変調構造を有するB層におけるSi最低含有点におけるSi濃度:
前記のとおり、Si最高含有点は相対的に耐摩耗性を向上させるが、その反面、相対的に高温靱性や高温強度に低下により、耐チッピング性が劣るため、このSi最高含有点の耐チッピング性低下を補うため、Si含有割合を相対的に小さくし、これによって層全体としての耐チッピング性を向上させるSi最低含有点(図1(b)参照)を厚さ方向に交互に周期的に形成する。
しかし、Si最低含有点におけるSiの含有割合を示すbminの平均値が、B層の組成式におけるSiの平均組成を示す0.7b未満の値であると、相対的に、Al、Cr、Cuの含有割合が高くなるため、高硬度を有するSi最高含有点が隣接して存在しても層全体としての耐摩耗性の低下が避けられなくなり、耐摩耗性向上効果、耐熱性向上効果を十全に発揮できず、一方、Si最低含有点におけるSiの含有割合を示すbminの平均値は、その定義により、b以上の数値とならないことから、B層のSi最低含有点におけるSi濃度bminの平均値は、0.7b以上b未満の値とすることが必要であり、0.75b≦bmin≦0.97bを満足することが望ましい。
組成変調構造を有するB層のSi最高含有点とSi最低含有点の平均間隔:
Si最高含有点とSi最低含有点の平均間隔が1nm未満では、それぞれの点を明確に区別して形成することが困難であり、その結果、B層に所望の高強度、高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、また、その平均間隔が100nmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちSi最低含有点であれば高温硬さと耐熱性不足、Si最高含有点であれば強度不足がB層内に局部的に現れ、これが原因で切刃にクラックが発生し易くなり、また、摩耗進行が促進されるようになることから、Si最高含有点とSi最低含有点の平均間隔は1nm以上100nm以下とする。
なお、A層、B層の組成、一層平均層厚、硬質被覆層の合計層厚は、cBN基体表面に垂直な硬質被覆層縦断面について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)を用いた断面測定により、測定することができる。
A層とB層とからなる硬質被覆層全体についてのX線回折:
図3に示すように、本発明のA層とB層とからなる硬質被覆層全体を構成する結晶粒についてX線回折を行い、(200)面の回折ピークを求めると、回折角(2θ)が43.5±0.2度の位置に(200)面の回折ピークが観察される。
前記(200)面の回折ピークの回折角(2θ)が43.3度より小さくなると、硬質被覆層の内部圧縮応力が過大となり、特に、切削加工時の断続的・衝撃的な負荷により自壊を生じやすく、一方、前記回折角(2θ)が43.7度より大きくなると、硬質被覆層の内部圧縮応力が十分でないため、欠損発生抑制効果が発揮されない。
したがって、硬質被覆層全体についてX線回折を行った際の、(200)面の回折ピークは、回折角(2θ)が43.5±0.2度の位置に存在することが、耐欠損性向上のためには必要である。
なお、通常のcBN基体(例えば、cBN粒子を60vol%含み、残部がTi系化合物の結合相とWC,TiB,AlN,Al等の分散成分からなるcBN基体)上に、(Al,Cr,Si,Cu)N層の単層を被覆し、該層についてX線回折を行った場合には、(200)面の回折ピークは、44度付近に観察されることから、本発明の硬質被覆層では、結晶格子が相対的に引き伸ばされている状態にあり、その結果、硬質被覆層に断続的・衝撃的な負荷が作用した場合に、欠損の発生が抑制される効果があることがわかる。
また、前記43.5±0.2度の位置に存在する(200)面の回折ピークについて、半値全幅を測定したとき、半値全幅が0.3度より小さくなると、切削加工時に作用する断続的・衝撃的な外部からの負荷に対して、十分に耐えうることができないため、欠損発生抑制効果が発揮されない。一方、半値全幅が0.5度より大きくなると、硬質被覆層の結晶性が低下したり、硬質被覆層内部に欠陥を生じたりするため、切削加工時の断続的・衝撃的な負荷により、硬質被覆層から欠損しやすくなる。
したがって、半値全幅は0.4±0.1度であることが必要である。
B層の塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast):
本発明の硬質被覆層のB層について、切れ刃に作用する切削加工時の高負荷の緩和効果を確認するため、B層の層厚の1/10以下の押し込み深さになるように設定した荷重でナノインデンテーション試験を行い、B層の硬さを求めるとともに、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)を求めたところ、B層の硬さは、26〜40GPaの範囲内であり、また、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)の値は0.35〜0.50の範囲内であることを確認した。
また、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)とは、図4の概略説明図に示すとおり、B層の層厚の1/10以下の押し込み深さになるように荷重を負荷してB層の表面を変位させ(図4(a)参照)、変位−荷重の負荷曲線を求め(図4(b)参照)、次いで、荷重を除荷して変位−荷重の除荷曲線を求め(図4(b)参照)、負荷曲線と除荷曲線の差から、塑性変形仕事比率Wplastと弾性変形仕事Welastとを求め、これらの値から、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)を算出することができる。
そして、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)が0.35以上0.50以下の範囲内であれば、B層は、耐塑性変形性を低下させることなく衝撃緩和性をも備えることから、強断続切削加工条件に供された場合であっても、すぐれた耐欠損性を発揮する。
塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)が0.35未満であると衝撃緩和性が十分でなく、強断続切削高条件に供された場合に十分な耐欠損性が得られず、一方0.50を超えると耐塑性変形性が低下し、耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)は0.35以上0.50以下とした。
この発明の被覆工具は、硬質被覆層が、(Ti1−xAl)NからなるA層と(Al1−a−b−cCrSiCu)NからなるB層のそれぞれが、少なくとも各1層以上交互に積層された交互積層構造からなり、硬質被覆層全体としてすぐれた密着強度、耐摩耗性を有するとともに、cBN基体に対する密着強度にもすぐれ、さらに、前記B層について、Si成分濃度が周期的に変化する組成変調構造の層として構成され、硬質被覆層の最表面のB層は高硬度(B層の層厚の1/10以下の押し込み深さになるように設定した荷重によるナノインデンテーション試験で、26〜40GPa)を有し、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)は0.35以上0.50以下の範囲内であり、さらに、cBN基体自体の耐摩耗性、耐欠損性もすぐれることから、断続的・衝撃的な高負荷が切れ刃に作用する合金鋼等の強断続切削加工でも、硬質被覆層が衝撃に対する緩和作用を有するため欠損等を発生することなく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
(a)は、本発明被覆cBN工具の硬質被覆層のA層とB層からなり、かつ、B層が組成変調構造を有する硬質被覆層の縦断面概略模式図を示し、(b)は、B層の部分拡大図を示し、(c)は、連続的な組成変調構造における層厚方向の距離とSi含有量の関係を示し、(d)は、不連続的な組成変調構造における層厚方向の距離とSi含有量の関係を示す。 本発明被覆工具のA層とB層の交互積層構造からなる硬質被覆層の縦断面概略模式図を示す。 本発明被覆cBN工具の硬質被覆層について測定したX線回折チャートの一例を示す。 塑性変形仕事比率を求めるための概略説明図を示し、(a)は試験法の概略説明図、(b)は試験によって求められた変位−荷重の負荷曲線及び変位−荷重の除荷曲線の概略説明図である。 硬質被覆層の形成に用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
つぎに、本発明の被覆cBN工具を実施例により具体的に説明する。
cBN基体の作製:
原料粉末として、0.5〜1.5μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末を硬質相形成用原料粉末として用意し、同じく、1μm以下の平均粒径を有するTiC粉末、TiN粉末、TiCN粉末のうち1種または2種以上を結合相形成用原料粉末として用意し、さらに、同じく、1μm以下の平均粒径を有するWC粉末、AlN粉末、TiB粉末、Al粉末を分散成分形成用原料粉末として用意した。
前記のcBN粉末、結合相形成用原料粉末および分散成分形成用原料粉末を、所定の配合比で配合した。
次いで、この原料粉末をボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、成形圧120MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1×10−4Pa以下の真空雰囲気中、900〜1300℃の範囲内の所定温度に保持して仮焼結し、その後、超高圧焼結装置に装入して、圧力:5GPa、温度:1200〜1400℃、保持時間30minの条件で超高圧焼結することにより、表1に示す本発明のcBN焼結体1〜12を作製した。
上記で作製したcBN焼結体1〜12について、その縦断面を以下の方法で観察し、cBN粒子、結合相成分および分散成分の体積割合とともに、それぞれの平均粒径を、次の方法で測定・算出した。
体積割合の測定・算出:
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有量(体積%)は、作製したcBN焼結体の断面組織を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)によって観察し、得られた二次電子像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出した値を、画像総面積で除して面積比率を算出することにより、その面積比率を体積%とみなし、cBN粒子の含有量(体積%)を測定し、SEMで得られた倍率5,000の二次電子像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有量(体積%:vol%)とした。画像処理に用いる観察領域として、20μm×20μm程度の視野領域が望ましい。
cBN焼結体に占める結合相成分および分散成分の含有量(体積%)は、作製したcBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いて、cBN焼結体の各結合相組織を観察し、各々構成される元素の元素マッピング像を取得する。例えばAlの場合は、AlとOの元素マッピング像となる。得られた元素マッピング像が重なる部分を画像解析によって分析し、結合相成分および分散成分の各々の粒子を画像処理にて抜き出し、画像解析によって結合相成分の粒子および分散成分の粒子の占める面積を算出した値を、画像総面積で除して面積比率を算出することにより、その面積比率を体積%とみなし、各々の結合相成分の粒子および分散成分の粒子の含有量(体積%)を測定し、AESで得られた倍率20,000の元素マッピング像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値を各々の結合相成分の粒子および分散成分の粒子の含有量(体積%:vol%)とした。画像処理に用いる観察領域として、5μm×5μm程度の視野領域が望ましい。
平均粒径の測定・算出:
cBN粒子の平均粒径は、作製したcBN焼結体の断面組織を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)にて観察し、二次電子像を得る。得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析によって各cBN粒子の最大長を求め、それを各cBN粒子の直径とし、この直径より計算し求めた各粒子の体積を基に縦軸を体積百分率(体積%)、横軸を直径(μm)としてグラフを描画させ、体積百分率が50体積%の値となる直径をcBN粒子の粒径とし、SEMで得られた倍率5,000の二次電子像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の平均粒径(μm)とした。
Ti系化合物および分散成分の粒子の平均粒径は、作製したcBN焼結体の断面組織をオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いて、cBN焼結体の各結合相組織を観察し、各々構成される元素の元素マッピング像を取得する。例えばAlの場合は、AlとOの元素マッピング像となる。得られた元素マッピング像が重なる部分を画像解析によって分析し、Ti系化合物および分散成分の各々の粒子を画像処理にて抜き出し、画像解析によってTi系化合物および分散成分の各々の粒子の最大長を求め、それをTi系化合物および分散成分の各々の粒子の直径とし、この直径より計算し求めた各粒子の体積を基に縦軸を体積百分率(体積%)、横軸を直径(μm)としてグラフを描画させ、体積百分率が50体積%の値となる直径をTi系化合物および分散成分の各々の粒子の粒径とし、AESで得られた倍率20,000の元素マッピング像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をTi系化合物および分散成分の各々の粒子の平均粒径(μm)とした。
表1に、cBN焼結体1〜12について求めた、cBN粒子、結合相成分および分散成分の体積割合と平均粒径の値を示す。
なお、cBN粒子については、粒度分布におけるピーク値と該ピーク値における半値全幅の値は、表3に示す。
上記cBN焼結体1〜12をワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg合金系ろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもった本発明のcBN基体1〜12を製造した。
硬質被覆層の成膜:
前記本発明のcBN基体1〜12に対して、図5に示したアークイオンプレーティング装置を用いて、
(a)cBN基体1〜12を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着した。
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を450℃以上に加熱した後、0.5〜2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200〜−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、もってcBN基体表面をアルゴンイオンによって10〜60分間ボンバード処理した。
(c)次いで、交互積層構造からなる硬質被覆層を次のようにして形成した。
まず、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示す2〜10Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表2に示す装置内温度に維持し、また、同じく表2に示す回転テーブルの回転数に制御し、回転テーブル上で自転しながら回転するcBN基体に表2に示す−10〜−75Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、A層形成用Ti−Al合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に表2に示す100〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させる。次いで、B層のSi最高含有点形成用Al−Cr−Si−Cu合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極、またSi最低含有点形成用Al−Cr−Si−Cu合金ターゲット(カソード電極)とアノード電極との間に、同じく表2に示す100〜200Aの範囲内の所定の電流を流して、同時または交互に繰り返してアーク放電を発生させ、cBN基体1〜12の表面に、それぞれ表3に示される目標組成、一層目標平均層厚のA層とB層の交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成することによって、表3に示す本発明被覆cBN工具(「本発明工具」という)1〜12を作製した。
なお、表2のA層形成用カソード電極(ターゲット)種別およびB層形成用カソード電極(ターゲット)種別における組成は、いずれも原子比である。
比較のため、所定の平均粒径のcBN粒子、結合相形成成分原料粉末および分散成分形成原料粉末を所定の配合割合で配合し、これを実施例と同様な方法で焼結することにより、表4に示す比較例のcBN焼結体21〜32を作製し、さらに、これらを実施例と同様な方法で加工することによって、比較例のcBN基体21〜32を作成した。
ついで、表5に示す条件で、比較例のcBN基体21〜32に、A層とB層の交互積層構造からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、表6に示す比較例被覆cBN工具(「比較例工具」という) 21〜32を作製した。
なお、表5のA層形成用カソード電極(ターゲット)種別およびB層形成用カソード電極(ターゲット)種別における組成は、いずれも原子比である。
上記で作製した本発明工具1〜12および比較例工具21〜32について、収束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて硬質被覆層に縦断面を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた断面測定により、交互積層構造を構成するA層、B層の成分組成、一層層厚を5箇所以上で測定し、これを平均することにより、A層、B層の平均組成および一層平均層厚を算出した。
さらに、本発明工具1〜12および比較例工具21〜32のB層について、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた層厚方向に沿った断面測定により、Si最高含有点におけるSi濃度bmaxの平均値、Si最低含有点におけるSi濃度bminの平均値、Si最高含有点とSi最低含有点の平均間隔を測定した。
なお、bmaxの平均値、bminの平均値、Si最高含有点とSi最低含有点の平均間隔は、いずれも5箇所以上で層厚方向に沿った断面測定を行い、各々の層の測定値の平均値として求めたものである。
また、本発明工具1〜12および比較例工具21〜32の硬質被覆層について、その表面からのX線回折により、(200)面のX線回折ピークを示す回折角を求めるとともに、該回折角におけるピークの半値全幅の値を求めた。
なお、X線回折は、測定条件:Cu管球、測定範囲(2θ):30〜80度、スキャンステップ:0.013度、1ステップ辺り測定時間:0.48sec/stepという条件で測定した。
さらに、本発明工具1〜12および比較例工具21〜32の最表面層であるB層について、硬さを求めるとともに、ナノインデンテーション試験を行い、変位−荷重の負荷曲線および変位−荷重の除荷曲線から塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)を算出した。
より具体的に言えば、荷重200mg、B層の層厚の1/10以下の押し込み深さでナノインデンテーション試験を行う(図4(a)参照)ことにより、B層の表面を変位させ、変位−荷重の負荷曲線および変位−荷重の除荷曲線を求め(図4(b)参照)、該負荷曲線と除荷曲線の差から、塑性変形仕事比率Wplastと弾性変形仕事Welastとを求め、これらの値から、塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)を算出した。
図4(b)に、本発明工具1の硬質被覆層のB層について測定した変位−荷重の負荷曲線および変位−荷重の除荷曲線の概略説明図を示す。なお、試験荷重は同時測定する試料のうち、最表面のB層の層厚が最も薄い試料においても押し込み深さがB層の層厚の1/10以下の押し込み深さとなるよう、工具の層厚に応じて決定する。図4(b)に示す測定結果については試験荷重200mgにて試験を行っており、押し込み深さがB層の層厚の1/10以下となることも確認している。
表3、表6に、上記で求めた各種の値を示す。



次いで、本発明工具1〜12および比較例工具21〜32について、以下の条件で切削加工試験を実施した。
被削材:JIS・SCr420(60HRC)の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度: 200m/min.、
切り込み: 0.05mm、
送り: 0.05mm/rev.、
切削時間: 15分、
の条件でのクロム鋼の乾式強断続切削加工試験を行い、切刃の逃げ面摩耗幅を測定し、また、欠損発生の有無を観察した。
表7に、試験結果を示す。
表7の結果によれば、本発明工具1〜12では、逃げ面摩耗幅の平均は約0.11mmであるのに対して、比較例工具21〜32は逃げ面摩耗が進行し、また、短時間で欠損発生により寿命となるものもあった。
この結果から、本発明工具は、強断続切削加工条件下での耐欠損性、耐摩耗性のいずれもすぐれていることが分かる。
本発明の表面被覆cBN工具は、合金鋼の強断続切削条件での切削加工は勿論のこと、高熱発生を伴う各種被削材の高速連続切削加工においても、すぐれた耐欠損性および耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (2)

  1. 立方晶窒化ホウ素焼結体からなる工具基体表面に、A層とB層が少なくとも各1層以上交互に積層された交互積層構造からなる合計層厚0.5〜4.0μmの硬質被覆層が形成されている表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具において、
    (a)前記立方晶窒化ホウ素焼結体は、
    TiC、TiN及びTiCNのうちの1種または2種以上の合計:10〜50vol%、
    WC:0.1〜2vol%、
    AlN:0.3〜5vol%、
    TiB:2〜10vol%、
    Al:1.5〜10vol%、
    cBN(立方晶窒化ホウ素):30〜80vol%
    からなる組成を有し、
    (b)前記立方晶窒化ホウ素焼結体中のcBN粒子の粒度分布を測定した場合、粒径0.50〜1.00μmの範囲に粒度分布のピークが存在し、かつ、該ピークの半値全幅の値は、0.33〜0.73μmを満足し、
    (c)前記A層は、0.1〜3.0μmの一層平均層厚を有し、
    組成式:(Ti1−xAl)N
    で表した場合に、0.4≦x≦0.7(ただし、xは原子比によるAlの含有割合を示す)を満足する平均組成を有するTiとAlの複合窒化物層、
    (d)前記B層は、0.1〜3.0μmの一層平均層厚を有し、
    組成式:(Al1−a−b−cCrSiCu)Nで表した場合、
    0.15≦a≦0.40、0.05≦b≦0.20、0.005≦c≦0.05(ただし、a、b、cはいずれも原子比)を満足する平均組成を有するAlとCrとSiとCuの複合窒化物層であり、
    (e)前記B層は、層厚方向に沿ってSi成分濃度が周期的に変化する組成変調構造を有し、
    (f)前記組成変調構造におけるSi成分濃度の周期的な変化は、Si成分の最高含有点とSi成分の最低含有点が1nm〜100nmの平均間隔で繰り返され、
    (g)前記Si成分の最高含有点におけるSi成分の組成の極大値の平均値をbmaxとしたとき、
    b<bmax≦1.3bの範囲内であり、
    (h)前記Si成分の最低含有点におけるSi成分の組成の極小値の平均値をbminとしたとき、
    0.7b≦bmin<bの範囲内であり、
    (i)さらに、前記A層とB層からなる硬質被覆層全体についてX線回折測定を行ったとき、(200)面のX線回折ピークは回折角43.5±0.2度の位置に存在し、かつ、該回折ピークの半値全幅は0.4±0.1度を満足することを特徴とする表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具。
  2. 前記B層について、層厚の1/10以下の押し込み深さになるように設定した荷重でナノインデンテーション試験を行うことによって求めたB層の塑性変形仕事比率Wplast/(Wplast+Welast)の値は0.35〜0.50の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆立方晶窒化ホウ素焼結体工具。

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