JP2018094624A - 酸化スケールの除去方法 - Google Patents
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[1]0.3〜1.5質量%のNi、0.001〜0.5質量%のSiを含有する鋼材を、1170℃以上1300℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の加熱をする過程で生成する酸化スケールを除去する方法であって、
前記鋼材表面積あたりSi量として400〜1200g/m2のSi含有物と、
Fe量として、質量%で前記Si量の0.3〜20%のFe含有物、
前記鋼材表面積あたりB量として4〜40g/m2のB含有物、
前記鋼材表面積あたりP量として8〜80g/m2のP含有物、
前記鋼材表面積あたりS量として8〜80g/m2のS含有物の少なくとも1つと、を混合し、
前記鋼材の鋼材表面に前記混合物を配置し、
前記鋼材に前記加熱を行い、
その後デスケーリングを行うことを特徴とする、酸化スケールの除去方法。
[2]前記Fe含有物は、鉄酸化物あるいは鉄水酸化物であり、鉄酸化物は、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイト、マーゲマイト、あるいはそれらの混合物であり、前記鉄水酸化物は、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、ゲーサイト、アカガナイト、レピドクロサイト、フェロオキシハイト、あるいはそれらの混合物である、[1]に記載の酸化スケールの除去方法。
[3]前記配置を、前記鋼材表面全面に行う、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記鋼材は、ブレーキディスク材である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5]前記酸化スケールが、前記鋼材表面で3mm以上の厚さを有する、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
前記鋼材表面積あたりSi量として400〜1200g/m2のSi含有物と、
Fe量として前記Si量の0.3〜20質量%のFe含有物、
前記鋼材表面積あたりB量として4〜40g/m2のB含有物、
前記鋼材表面積あたりP量として8〜80g/m2のP含有物、
前記鋼材表面積あたりS量として8〜80g/m2のS含有物の少なくとも1つと、を混合し、
前記鋼材の鋼材表面に前記混合物を配置し、
前記鋼材に前記加熱を行い、
その後デスケーリングを行うことを特徴とする、酸化スケールの除去方法、が提供される。
Niを含有する鋼材を酸素雰囲気中で加熱すると、図1に示すようなスケールが生成する。一番の特徴は鋼とスケールとが入り組んだ内部酸化層を形成することである。その上部に外層スケールと内層スケールが生成する。外層スケールは、主に鉄の外向き拡散により成長したスケールであって、緻密な構造であるのに対して、内層スケールは、主に酸素の内向き拡散により成長したスケールであって、内部に多くのボイドを有する。内部酸化層は、酸素が鋼(地金)内に拡散し、鉄の酸化物が析出した層である。
その結果スケールの除去は困難となり、高圧水によるデスケーリングを施しても、外層スケール、内層スケールを含めたスケール全体のデスケーリングが困難である(図2)。
Fe量として前記Si量の0.3〜20質量%のFe含有物(鉄酸化物あるいは鉄水酸化物)、
前記鋼材表面積あたりB量として4〜40g/m2のB含有物、
前記鋼材表面積あたりP量として8〜80g/m2のP含有物、
前記鋼材表面積あたりS量として8〜80g/m2のS含有物の少なくとも1つと、の混合物を配置した後、鋼材の加熱を1170℃以上1300℃以下の温度で1時間以上10時間以下行う。これにより、スケールをデスケーリングしやすい構造に変えることができる。模式的な図3を参照しながら説明すると、Si含有物と、Fe含有物、B含有物、P含有物、S含有物の少なくとも1つと、の混合物が加熱されて、スケール内に十分な量の液相成分を生成させる。その液相成分がスケール内に浸透し、スケールの粒界での結合を弱めることで外層スケールと内層スケールとからなるスケールを剥離させやすい状態とすることが出来る。(図3)良好なデスケーリング性を得るために十分な量の液相成分とは、内層スケール全量に対し体積分率で50%以上であることを目安とする。
但し、Si−Fe系の液相酸化物は、スケール内を容易に移動する性質があることから、数十cm程度の距離を動くことも可能である。そのため、スケール内に浸透させるSi含有物と、Fe含有物、B含有物、P含有物、S含有物の少なくとも一つと、の混合物は、必ずしも鋼材表面の全面に均一に塗布や貼り付ける必要はなく、鋼材表面の一部に配置した場合、不均一に散布した場合であっても、鋼材全面のデスケーリング性を改善できる。そのため、混合物の配置の程度は、鋼板の表面積に対する面積率で、99%以下としてもよい。一方で、上記のように、Si含有物と、Fe含有物(鉄酸化物あるいは鉄水酸化物)、B含有物、P含有物、S含有物の少なくとも一つと、の混合物は、鋼材表面上にできるだけ広く配置する方が、十分な量のSi−Fe系液相酸化物の生成反応が進行しやすい。したがって、混合物の配置の程度は、鋼板の表面積に対する面積率で、50%以上が好ましい。なお特に断りのない限り、本発明において、鋼材表面とは、鋼材を水平位置に置いた場合の鋼材の上面(おもて面)を指し、鋼材の側面や下面(裏面)は含まない。
B含有物、P含有物、S含有物の混合量の下限値に関しては、次の考えを基に設定している。
B,P,SはFeOとFe2SiO4との共晶点を下げる効果を有する。Bの場合、その効果を得るには、鋼材表面から1cmの深さの範囲の濃度が0.005質量%以上であることが必要であることを本発明者は知見している。また、P、Sの場合、濃度が0.01質量%以上であることが必要であることも知見している。この知見に基づき、鋼材表面から1cmの深さの範囲のB、S、PをB含有物、P含有物、S含有物から供給する。その場合、鋼材の主成分であるFeの密度が7.9g/cm3であることに基づいて、それぞれの含有物の混合量の下限値を下記のとおりに設定している。(Bの場合、7.9g/cm3×1cm×0.005%=3.95×10−4g/cm2≒4g/m2、P、Sの場合、7.9g/cm3×1cm×0.01%=7.9×10−4g/cm2≒8g/m2)
一方、上限値に関しては、次の考えを基に設定している。概して、これらの各元素の添加量が多いほど、共晶点を下げる効果が高まる。しかし、添加量が多過ぎると、鋼材の材質に影響を与える可能性があるため、鋼材の材質に影響がないと考えられる濃度の範囲内で上限値を設定する。Bは、結晶粒界の強化や鋼の高強度化に有効な元素であるとされているが、含有量が多すぎると加工性が低下することがあり、0.05質量%を上限濃度としている。Sについては含有量が多すぎると加工性が低下することがあり、0.1質量%を上限濃度としている。Pについては粒界脆化が起こりやすくなり加工性が劣化することがあり、0.1質量%を上限濃度としている。この影響は鋼材表面から1cm深さの範囲に及ぶと考えられ、鋼材の主成分であるFeの密度が7.9g/cm3であることに基づいて、B含有物、P含有物、S含有物の混合量の上限値を下記のとおりに設定している。(Bの場合、7.9g/cm3×1cm×0.05%=39.5×10−4g/cm2≒40g/m2、P、Sの場合、7.9g/cm3×1cm×0.1%=79×10−4g/cm2≒80g/m2)
Cは、安価に強度を確保するために有効な元素であるが、添加量が多くなると加工性が低下するため、0.001〜1.0%とする。
Mnも強度の改善に添加される元素である。Mnによる強度改善効果はMn含有量が多いほど大きい。しかし、Mn含有量が2%を超えても、添加量に伴い強度は増大するものの加工性を劣化させる。そのため、Mn含有量を0.001〜2%とする。
Pも強度の改善に有効な合金元素であるとともに、P系の酸化物は、共晶温度を低下させ液相が増加するため、スケールの剥離性は良好となる。しかし、0.1%を超えて含有させてもスケールの剥離性におよぼす効果は飽和するとともに、粒界脆化が起こりやすくなり加工性が劣化するため、上限は0.1%とする。
Sは、本来不純物であり、多量に含有すると冷間または熱間加工性を害するので、可能な限り少ないことが好ましいが、通常不可避的に含有される0.1%以下であれば本発明上何ら問題はない。
Bは、鋼の焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、その効果を得るためには0.001%以上が必要であるためB含有量は0.001%以上としてもよい。B含有量が0.05%を超えると、上記効果が飽和してコストが上昇するばかりでなく、熱間圧延時の製造性を阻害するので、B含有量は、0.05%以下である。
実施例、比較例として、Si含有物とFe含有物(鉄酸化物あるいは鉄水酸化物)との混合物を、それらの質量、形態、配置位置、を変えて(表2参照)、加熱前の鋼材に配置し、加熱し、デスケーリングを行い、さらに熱間鍛造した後の表面疵(スケール疵)の有無を判定した。比較例では、本発明の範囲外となるように、Si含有物および、Fe含有物、配置位置を採用した。
また、Si含有物と、B含有物、P含有物、S含有物の少なくとも一つと、の混合物を、それらの質量、形態、配置位置、を変えて(表3参照)、加熱前の鋼材に配置し、加熱し、デスケーリングを行い、さらに熱間鍛造した後の表面疵(スケール疵)の有無を判定した。比較例では、本発明の範囲外となるように、B含有物、P含有物、S含有物の質量、配置位置を採用した。
表面疵の判定は、製品の表面品質上問題となる程度のものが目視で確認された場合を×、品質上問題無い程度のものが断面観察で確認された場合を△、表面疵のないことが目視および断面観察で確認された場合を○とした。
配置条件および表面疵の結果を表2、表3に示す。
本発明例1〜22では、本発明の範囲内の量でSi含有物を配置し、本発明の範囲内のFe含有物量、B含有物、P含有物、S含有物の少なくとも一つを配置し、本発明の範囲内の温度と時間で加熱をしており、いずれもデスケーリングによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった。
比較例2では、Si含有物量が本発明の範囲より少ない量で配置し、デスケーリングを行ってもスケールが十分に除去されず、その後の鍛造で表面品質上問題となる疵を生じた(×)。比較例5は、Si含有物量が1300g/m2(本発明の範囲外)であり、鍛造後の表面疵は生じなかったが、余剰のSi含有物を含む混合物が鋼材表面からこぼれ落ち、加熱炉内に堆積していた。
ここでは、Fe含有物(鉄酸化物あるいは鉄水酸化物)中に含まれるFe量のSi含有物中に含まれるSi量に対する比率について考察する。
比較例1、3、4では、Feの比率が本発明の下限値(0.3%)より少なく、十分な液相酸化物が得られず、デスケーリング性が向上しなかった。本発明例6は、Feの比率が0.3%であり、デスケーリングによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった。本発明例7は、Feの比率が20%であり、鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかったが、Si含有物とFe含有物との混合物の粘度が高く、これよりもFeの比率を高めると混合作業や鋼材表面への混合物の配置作業の作業性が低下することが示唆された。
ここでは、B含有物、P含有物、S含有物の少なくとも一つが、Si含有物と混合される場合について考察する。比較例6、7、8では、B、P、S量が本発明の下限値より少なく、十分な液相酸化物が得られず、デスケーリング性が向上しなかった。別途、B、P、S量が本発明の上限値の場合について、試験したところ、デスケーリング性は良好であり、鍛造後の表面疵は見られなかった。
本発明例11、18では、加熱温度を1300℃、加熱時間を10時間とし、9mmという厚いスケールを生成させたが、この場合にもデスケーリングによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった。すなわち、本発明は高温且つ長時間の加熱をした場合でも有効であるという結果が得られた。また、本発明例12では、加熱温度を1180℃、加熱時間を1時間とし、3mm厚のスケールを生成させたが、この場合でもデスケーリングによりスケールが十分に除去され、その後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった。すなわち、本発明の範囲の下限付近の加熱温度、加熱時間であっても、本発明の効果が奏されることが裏付けられた。
発明例8、9、20では、Si含有物と、Fe含有物またはS含有物と、の混合物を、鋼材表面の全面ではなく、鋼材表面の40%(面積比)を覆うように配置した。すなわち、鋼材表面の60%(面積比)は、混合物を配置しない状態で、鋼材を加熱し、デスケーリングを行った。鍛造後の表面疵は、目視では確認できず、断面観察で品質上問題無い程度のものが確認された(△)。発明例4は、混合物を鋼材の全面に配置したことを除いて、発明例8と同じ条件で行われた例である。混合物を鋼材表面の全面に配置した発明例4では、鍛造後の表面疵が目視だけでなく、断面観察でも確認されなかった(○)。
発明例1〜4、8、9、12ではFe含有物としてFeO粉末を用い、発明例5〜7、11ではFe含有物としてFe3O4粉末を用い、発明例10ではFe含有物として水酸化鉄(III)粉末を用いた。いずれの発明例でも、デスケーリング後の鍛造で表面品質上許容できない疵を生じることはなかった。
Claims (5)
- 0.3〜1.5質量%のNi、0.001〜0.5質量%のSiを含有する鋼材を、1170℃以上1300℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の加熱をする過程で生成する酸化スケールを除去する方法であって、
前記鋼材表面積あたりSi量として400〜1200g/m2のSi含有物と、
Fe量として、質量%で前記Si量の0.3〜20%のFe含有物、
前記鋼材表面積あたりB量として4〜40g/m2のB含有物、
前記鋼材表面積あたりP量として8〜80g/m2のP含有物、
前記鋼材表面積あたりS量として8〜80g/m2のS含有物の少なくとも1つと、を混合し、
前記鋼材の鋼材表面に前記混合物を配置し、
前記鋼材に前記加熱を行い、
その後デスケーリングを行うことを特徴とする、酸化スケールの除去方法。 - 前記Fe含有物は、鉄酸化物あるいは鉄水酸化物であり、鉄酸化物は、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイト、マーゲマイト、あるいはそれらの混合物であり、鉄水酸化物は、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、ゲーサイト、アカガナイト、レピドクロサイト、フェロオキシハイト、あるいはそれらの混合物である、請求項1に記載の酸化スケールの除去方法。
- 前記配置を、前記鋼材表面全面に行う、請求項1または請求項2に記載の方法。
- 前記鋼材は、ブレーキディスク材である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記酸化スケールが、前記鋼材表面で3mm以上の厚さを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
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