以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物]
まず、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の一構成例について説明する。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、一般式:NixCoyMnzMt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子である。
そして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の二次粒子は、針板状の結晶から構成される一次粒子が凝集した構造を有することができる。
本発明の発明者は、リチウムイオン二次電池の高出力化を達成することが可能な正極活物質について鋭意検討を行った。その結果、リチウムイオンの正極負極間移動距離を短くすることが有効であることから、粒子内部に均一な細孔を有した正極活物質を用いることが有用であることを見出した。そして、係る粒子内部に均一な細孔を有した正極活物質は、所定の構造を有する正極活物質前駆体、すなわちニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を用いることで得られることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、水酸化物型ニッケルコバルトマンガン複合物の粒子である。そして、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は一次粒子の結晶が針板状であり、該一次粒子により二次粒子を構成することができる。すなわち係る一次粒子が凝集して二次粒子を構成することができる。なお、針板状とは、一方の端部から他方の端部に向かって細くなっている板状形状を意味する。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の二次粒子が係る構造を有することで、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を正極活物質前駆体として用い、正極活物質を生成した場合に、粒子内部に均一な細孔を有する正極活物質が得られる。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、一般式:NixCoyMnzMt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子とすることができる。
なお、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、上述の一般式で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を含有する粒子とすることができるが、特に上述の一般式で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物から構成されている粒子であることが好ましい。ただし、上述の一般式で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物から構成される粒子の場合であっても、例えば製造工程で混入する不可避成分等が含まれることを排除するものではない。
さらに、本実施形態のニッケルコバルト複合水酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガン以外の元素が二次粒子の内部に均一に分布、および/または二次粒子の表面を均一に被覆されていることが好ましい。
[ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法]
次に、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、一般式:NixCoyMnzMt(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法であって、以下の晶析工程を有することができる。
酸素含有ガス雰囲気下において、ニッケルを含有する化合物、コバルトを含有する化合物、およびマンガンを含有する化合物を含む混合水溶液と、アルカリ水溶液を含む初期水溶液とを混合して反応水溶液を形成する晶析工程。
図1を用いながら、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法の構成例について説明する。
図1に示したように、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析工程を有することができ、晶析工程は、例えば核生成工程と、粒子成長工程とを有することができる。核生成工程と、粒子成長工程とに分けて以下に説明する。
(晶析工程)
a)核生成工程
まず、核生成工程について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、まず、ニッケルを含有する化合物(金属化合物)、コバルトを含有する化合物(金属化合物)、およびマンガンを含有する化合物(金属化合物)を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製することができる。
各金属化合物としては特に限定されるものではないが、水溶性の金属化合物を用いることが好ましく、水溶性金属化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。具体的には例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン等を好適に用いることができる。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法では、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子における上記各金属の組成比は、混合水溶液における各金属の組成比とほぼ同じとなる。このため、混合水溶液中における各金属の組成比が、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中における各金属の目標組成比と同じ組成比となるように水に溶解させる金属化合物の割合を調節して、混合水溶液を作製することができる。
なお、図1に点線で示したように、必要に応じて、1種以上の添加元素を含有する化合物を所定の割合で混合して、混合水溶液を調製することもできる。
添加元素を含有する化合物としては、具体的には、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素を含む水溶性の化合物を用いることが好ましく、例えば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等から選択された1種以上を用いることができる。
このように混合水溶液に、添加元素を含有する化合物を添加することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の内部に、添加元素を均一に分散させた状態で共沈させることができる。このため、添加元素が均一に分散したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の核が得られる。
混合水溶液の中の上述の金属化合物、すなわちニッケルを含有する化合物、コバルトを含有する化合物、マンガンを含有する化合物、および添加元素を含有する化合物の合計の濃度は特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、混合水溶液中の、上述の金属化合物の合計の濃度が、1.0mol/L以上2.6mol/L以下であることが好ましい。特に、混合水溶液中の上記金属化合物の合計の濃度が、1.5mol/L以上2.2mol/L以下であることがより好ましい。
これは、混合水溶液中の上述の金属化合物の合計の濃度を1.0mol/L以上とすることで反応槽当たりの晶析物量を十分に確保することができ、生産性を高めることができるからである。ただし、混合水溶液の上述の金属化合物の合計の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超える場合があり、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせる等の危険があるため、2.6mol/L以下であることが好ましい。
なお、上述の金属化合物は、必ずしも混合水溶液とする必要はない。例えば、複数の金属化合物を混合することで、特定の金属化合物同士が反応して不要な化合物が生成される場合には、個別に金属化合物を含む水溶液を調製することができる。そして、後述する初期水溶液や、核生成反応水溶液に、調製した個々の金属化合物を含む水溶液を、所定の割合で同時に添加してもよい。この場合には、個別に添加した金属化合物を含む水溶液中の合計の金属化合物の濃度が、上述した混合水溶液の濃度の範囲内となるように、調整、添加することが好ましい。
一方、反応槽には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液、および水を供給、混合して初期水溶液を調製しておくことができる。なお、初期水溶液にはアンモニウムイオン供給体を含むアンモニア水溶液をあわせて添加しておくこともできる。
アルカリ水溶液については、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物から選択された1種以上を含むアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。
なお、アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されるものではないが、例えば炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、塩化アンモニウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液から選択された1種以上を好ましく用いることができる。
初期水溶液(反応前水溶液)を調整する際、各成分の添加量は特に限定されるものではないが、アルカリ水溶液の添加量を、初期水溶液のpH値が、液温40℃基準において、11.0以上13.0以下となるように調整することが好ましく、11.0以上12.5以下となるように調整することがより好ましい。
また、初期水溶液中のアンモニウムイオンの濃度は、0以上15g/L以下であることが好ましく、5g/L以上10g/L以下であることがより好ましい。このため、例えば上述のようにアンモニア水溶液の添加量を調整することで初期水溶液中のアンモニウムイオン濃度を調整することが好ましい。
なお、初期水溶液の温度(液温)は特に限定されないが、例えば20℃以上60℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。
そして、反応槽内において、初期水溶液を調製した後、初期水溶液を撹拌しながら、初期水溶液に混合水溶液を添加することができる。
初期水溶液に、混合水溶液を添加、混合することで、核生成工程における反応水溶液である核生成反応水溶液が形成され、核生成反応水溶液中においてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の微細な核が生成される。
なお、核生成工程において、初期水溶液に、混合水溶液を添加し、粒子の核を生成する際、核生成に伴い、核生成反応水溶液のpH値、およびアンモニウムイオンの濃度が変化する。このため、核生成反応水溶液には、混合水溶液とともに、必要に応じてアルカリ水溶液や、アンモニア水溶液を添加することもできる。
核生成反応水溶液中のpHを調整するためにアルカリ水溶液を添加する場合、該添加するアルカリ水溶液については、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物から選択された1種以上を含むアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。初期水溶液を調製する際に用いたアルカリ水溶液と同じアルカリ水溶液を用いることもできる。
なお、核生成反応水溶液のpHを調整する際、上述のアルカリ水溶液に替えて、アルカリ化合物、例えばアルカリ金属水酸化物を水溶液にせずに直接核生成反応水溶液に添加することもできる。ただし、核生成反応水溶液のpH制御の容易さから、アルカリ化合物は水に溶解し、水溶液としてから反応槽内の核生成反応水溶液に添加することが好ましい。
アンモニア水溶液についても特に限定されるものではなく、初期水溶液において例示したものと同様のアンモニウム供給体の中から選択した1種以上のアンモニウム供給体の水溶液を用いることができる。
核生成反応水溶液のpH値(設定pH値)は、上述の初期水溶液と同じ範囲、すなわち液温40℃基準において11.0以上13.0以下の範囲に維持されていることが好ましい。特に核生成反応水溶液のpH値は、40℃基準において11.0以上12.5以下の範囲に維持されていることがより好ましい。これは核生成反応工程の間、核生成反応水溶液のpH値を上述の範囲に維持することにより、生成した核がほとんど成長せず、核の生成が優先的に生じるからである。
また、核生成反応工程において、均一なサイズの核を生成する観点から、核生成反応水溶液のpH値の変動幅を抑制することが好ましく、核生成反応水溶液のpH値の変動幅が設定pH値±0.1以内であることが好ましく、設定pH値±0.05以内であることがより好ましい。
核生成反応水溶液のアンモニウムイオンの濃度(設定アンモニウムイオン濃度)についても上述の初期水溶液と同じ濃度、すなわち0以上15g/L以下に維持するように制御することが好ましく、5g/L以上10g/L以下に維持するように制御することがより好ましい。
核生成工程において、核生成反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度はその変動幅が小さいことが好ましく、特に一定であることがより好ましい。これは、核生成反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度が変動すると、該水溶液中の金属イオンの溶解度が変動し、均一なニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の核の生成が阻害される恐れがあるからである。
核生成工程において、核生成反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、例えば設定アンモニウムイオン濃度±2.0g/L以内にあることが好ましく、設定アンモニウムイオン濃度±1.0g/L以内にあることがより好ましい。
上記核生成反応水溶液に対して、混合水溶液、さらには必要に応じてアルカリ水溶液や、アンモニア水溶液を供給することで、核生成反応水溶液中には、連続して新しい核の生成が継続される。
混合水溶液や、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を反応槽の初期水溶液や、核生成反応水溶液に添加する方法については、特に限定されるものではなく、任意の方法により添加することができる。例えば初期水溶液や、核生成反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、核生成反応水溶液のpH値等が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
核生成反応水溶液の温度は特に限定されないが、核生成工程の間、20℃以上60℃以下に維持されていることが好ましく、30℃以上50℃以下に維持されていることがより好ましい。これは、核生成反応水溶液の温度を20℃以上60℃以下とすることで、核生成反応を十分に進行させつつ、核生成反応水溶液を加温するためのエネルギーを最小限度に抑制でき、好ましいからである。
そして、核生成反応水溶液中に、所定の量の核が生成されると、核生成工程を終了することができる。所定量の核が生成したか否かは、核生成反応水溶液に添加した金属塩の量によって判断することができる。
また、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法において、晶析工程は酸素含有ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
そこで、核生成工程では、初期水溶液を調製した反応槽内に酸素含有ガス、例えば空気を吹き込むことにより雰囲気制御を行った後、混合水溶液等を供給することが好ましい。また、混合水溶液を供給している間も空気を継続して吹き込むこともできる。このように酸素含有ガス雰囲気下で初期水溶液に混合水溶液を添加することで、得られる核生成反応水溶液中に含まれている溶存酸素や供給した空気に含まれる酸素などと反応し針板状の結晶粒子の元となるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の核粒子が生成される。
核生成反応中に核生成反応水溶液中の溶存酸素が消費されるため、酸素含有ガスの供給量が十分であるかは、核生成反応水溶液中の溶存酸素濃度を測定することで確認できる。核生成反応水溶液中の溶存酸素量が飽和量の半分以上であれば反応に十分な溶存酸素が存在しており、酸素を十分に供給できていることになる。一方、核生成反応水溶液中の溶存酸素量が飽和量の半分未満の場合には、核生成反応水溶液中の溶存酸素量が十分ではない可能性があるので、酸素含有ガスの供給量を増加させることが好ましい。
なお、核生成反応水溶液中のpH値、アンモニウムイオン濃度、溶存酸素量については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータ、溶存酸素計によって測定することが可能である。
b)粒子成長工程
次に、粒子成長工程について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、粒子成長工程では、核生成工程で得られた核生成反応水溶液のpH値が所定の範囲となるように調整したpH調整後の核生成反応水溶液を調製できる。その後pH調整後の核生成反応水溶液に、混合水溶液を添加することができる。なお、混合水溶液を添加する際、得られる粒子成長反応水溶液のpH値やアンモニウムイオン濃度を調整、維持するためにアルカリ水溶液や、アンモニア水溶液等を併せて添加することもできる。
後述するように、粒子成長工程においては、粒子成長反応水溶液のpH値が10.0以上11.0未満であることが好ましい。そこで、上記pH調整後の核生成反応水溶液のpH値は粒子成長工程と同様に液温40℃基準において、10.0以上11.0未満となる様に調整することが好ましく、10.5以上11.0未満になるように調整することがより好ましい。pH値の調整に用いる溶液は特に限定されないが、例えば酸性の材料を用いることができ、硫酸、塩酸等や、その水溶液を用いることができる。なお、pH調整後の核生成反応水溶液のpH以外のパラメータ、すなわち温度(液温)や、アンモニウムイオン濃度は、核生成反応工程で説明した範囲内にあることが好ましい。
そして、粒子成長工程では、上述のようにpH調整後の核生成反応水溶液に対して、混合水溶液や、必要に応じてさらにアルカリ水溶液、アンモニア水溶液等を添加することができる。
粒子成長工程では、粒子成長反応水溶液のpH値(設定pH値)が、40℃基準で10.0以上11.0未満であることが好ましく、10.5以上11.0未満であることがより好ましい。核成長反応水溶液のpH値を11.0未満とすることで、粒子成長反応を十分に進行させることができ、また晶析物中への不純物カチオンの残留を特に抑制できるため好ましい。また、粒子成長反応水溶液のpH値を10.0以上とすることで、晶析物中への不純物アニオンの残留を特に抑制することができるため、好ましい。
従って、粒子成長工程において、粒子成長反応水溶液のpH値を上述の範囲とすることによって、粒子成長反応を十分に促進しつつ、不純物残量の少ないニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。
粒子成長反応水溶液のpHの値の制御方法は特に限定されるものではないが、例えば粒子成長反応水溶液にアルカリ水溶液を添加し、その添加量を調整することで制御することができる。
なお、粒度分布が広い正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となることに起因して、充放電を繰り返すと正極材料の粒子が選択的に劣化し、容量が低下する場合がある。そして、通常、正極活物質の粒度分布は、該正極活物質を生成する際に用いた正極活物質前駆体の粒度分布の特性を引き継いでいる。このため、正極活物質前駆体として用いることができる本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子についても粒度分布が狭いことが好ましい。そして、本発明の発明者の検討によれば、粒子成長工程において、粒子成長反応水溶液のpH値の変動幅を抑制することで、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の粒度分布の幅を抑制できる。このため、粒子成長反応水溶液のpH値の変動幅を抑制することが好ましく、例えば、粒子成長工程において、粒子成長反応水溶液のpH値の変動幅が設定pH値±0.1以内であることが好ましく、設定pH値±0.05以内であることがより好ましい。
また、粒子成長反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度(設定アンモニウムイオン濃度)についても特に限定されないが、例えば、0以上15g/L以下に維持するように制御することが好ましく、5g/L以上10g/L以下に維持するように制御することがより好ましい。
これは、粒子成長反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を0以上15g/L以下とすることで、特に均質にニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の核を成長させることができるため、好ましいからである。
ここまで説明したように、核生成工程、および粒子成長工程において、すなわち晶析工程において、初期水溶液中、および初期水溶液と混合水溶液とを混合した反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、0以上15g/L以下とすることが好ましい。特に初期水溶液中、および反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は5g/L以上10g/L以下とすることがより好ましい。なお、反応水溶液とは、既述の核生成反応水溶液、および粒子成長反応水溶液を意味し、pH調整後の核生成反応水溶液も含まれる。以下、反応水溶液は、核生成反応水溶液、pH調整後の核生成反応水溶液、および粒子成長反応水溶液の両方を指す場合に用いる。
なお、粒子成長工程において、粒子成長反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度はその変動幅が小さいことが好ましく、特に一定であることがより好ましい。これは、粒子成長反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度が変動すると、該水溶液中の金属イオンの溶解度が変動し、均一なニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の核の成長が阻害される恐れがあるからである。
粒子成長工程において、粒子成長反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、例えば設定アンモニウムイオン濃度±2.0g/L以内にあることが好ましく、設定アンモニウムイオン濃度±1.0g/L以内にあることがより好ましい。
粒子成長反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を例えば上述の範囲に制御するために、粒子成長反応水溶液に対して、既述のように必要に応じてアンモニア水溶液を添加することができる。
粒子成長反応水溶液の温度は特に限定されないが、粒子成長工程の間、20℃以上60℃以下に維持されていることが好ましく、30℃以上50℃以下に維持されていることがより好ましい。これは、粒子成長反応水溶液の温度を20℃以上60℃以下とすることで、粒子成長反応を十分に進行させつつ、粒子成長反応水溶液を加温するためのエネルギーを最小限度に抑制でき、好ましいからである。
ここまで説明したように、核生成工程、および粒子成長工程の間、すなわち晶析工程の間、反応水溶液の温度を20℃以上60℃以下に維持していることが好ましく、30℃以上50℃以下に維持していることがより好ましい。
粒子成長工程で用いる混合水溶液や、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液は、核生成工程で既に説明したものと同様の材料を用いることができる。このため、ここでは説明を省略する。
なお、混合水溶液については、核生成工程でも既述のように、ニッケル、コバルト、マンガン、および任意に添加できる添加元素の各金属を含有する化合物は、必ずしも混合水溶液とする必要はない。例えば、複数の金属化合物を混合することで、特定の金属化合物同士が反応して不要な化合物が生成される場合には、個別に金属化合物を含む水溶液を調製することができる。そして、pH調整後の核生成反応水溶液や、粒子成長反応水溶液に、調製した個々の金属化合物を含む水溶液を、所定の割合で同時に添加してもよい。
混合水溶液中の上述の金属化合物の合計の濃度は、核生成工程で既述のように、1.0mol/L以上2.6mol/L以下であることが好ましく、1.5mol/L以上2.2mol/L以下であることがより好ましい。そして、上述のように個別に添加した金属化合物を含む水溶液を粒子成長反応水溶液等に添加する場合、個別に添加した金属化合物を含む水溶液中の合計の金属化合物の濃度が、上述の範囲内となるように、調整、添加することが好ましい。
また、核生成工程と、粒子成長工程とでは、混合水溶液、アルカリ水溶液、およびアンモニア水溶液は、それぞれ濃度および溶質が同じ水溶液を用いることもできるが、混合水溶液、アルカリ水溶液、およびアンモニア水溶液のうち、一部または全部の水溶液について、その濃度および/または溶質が異なっていてもよい。ただし、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法では、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子におけるニッケル、コバルト、マンガン、および添加元素の各金属の組成比は、混合水溶液における各金属の組成比と同様となる。このため、粒子成長工程において用いる混合水溶液中の各金属の組成比は核生成工程と同様にすることが好ましい。
そして、既述のように本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法において、晶析工程は酸素含有ガス雰囲気下で実施することが好ましい。そこで、粒子成長工程においても、酸素含有ガス、例えば空気を反応槽内に吹き込むことができる。このように酸素含有ガス雰囲気下で粒子成長工程を実施することで、粒子成長反応水溶液中に含まれている溶存酸素や、供給した酸素含有ガスに含まれる酸素などと生成物とが十分に反応して酸化物の針板状の結晶を生成することができる。そして、得られた針板状の結晶がさらに凝集して大きな二次粒子を生成することができる。このため、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の二次粒子は、針板状の結晶から構成される一次粒子が凝集した構造を有することができる。
なお、核生成工程から、粒子成長工程までは反応槽内で連続して実施することができることから、核生成工程開始後、継続して反応槽内に酸素含有ガス、例えば空気を反応槽内に供給することができる。
粒子成長反応中に粒子成長反応水溶液中の溶存酸素が消費されるため、酸素含有ガスの供給量が十分であるかは、核生成工程の場合と同様に、粒子成長反応水溶液中の溶存酸素量を測定することで確認できる。粒子成長反応水溶液中の溶存酸素量が飽和量の半分以上であれば反応に十分な溶存酸素が存在しており、酸素を十分に供給できていることになる。一方、粒子成長反応水溶液中の溶存酸素量が飽和量の半分未満の場合には、粒子成長反応水溶液中の溶存酸素量が十分ではない可能性があるので、酸素含有ガスの供給量を増加させることが好ましい。
なお、粒子成長反応水溶液中のpH値、アンモニウムイオン濃度、溶存酸素量については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータ、溶存酸素計によって測定することが可能である。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の粒径は、主に粒子成長工程の反応の時間により制御することができる。このため、粒子成長工程では、所望の粒径に成長するまで反応を継続すれば、所望の粒径を有するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法の晶析工程で用いる反応槽の構成は特に限定されないが、晶析工程が完了するまで生成物であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を回収しない方式の装置を用いることが好ましい。そのような装置としては、例えば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽等が挙げられる。
バッチ反応槽等の晶析工程を完了するまで生成物を回収しないタイプの反応槽を用いることで、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題の発生を防げる。このため、粒度分布が狭く、粒径の揃った粒子を得ることができる。
なお、ここまで説明したように、晶析工程は酸素含有ガスの雰囲気下で実施することが好ましく、反応槽内の雰囲気を制御することが好ましい。このため、密閉式の装置等の雰囲気を制御することが可能な装置を用いることが好ましい。
このように雰囲気を制御することが可能な反応槽を用い、反応槽内を酸素含有ガス雰囲気、例えば空気雰囲気とすることで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、既述の構造とすることができると共に、共沈反応をほぼ均一に進めることができる。このため、粒径分布の優れた粒子、すなわち粒度分布の範囲の狭い粒子を得ることができる。
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、上述の晶析工程に加えて、任意の工程を有することもできる。以下、任意の工程の構成例について説明する。
(被覆工程)
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、晶析工程で得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、添加元素で被覆する被覆工程を有することもできる。
なお、ここでの添加元素とは、既述のMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素を意味する。
被覆工程において、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の表面を添加元素により被覆する具体的な方法、条件は特に限定されるものではない。被覆工程において、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、添加元素で被覆する方法としては例えば以下の何れかの方法を用いることができる。
pHが制御されたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子が懸濁した液に、添加元素を含む水溶液を添加して、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の表面に添加元素を析出させる方法(析出法)。
なお、上述の析出法により被覆工程を実施する場合、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子が懸濁したスラリーに、添加元素を含む水溶液を添加する際、上記スラリーと添加元素を含む水溶液との混合水溶液のpHが、5.5以上8.0以下となるように上記スラリーのpHを制御しておくことが好ましい。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と、添加元素を含有する化合物とが懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる方法(噴霧乾燥法)。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と添加元素を含有する化合物とを固相法で混合する方法(固相法)。
上述の析出法で用いる添加元素を含む水溶液については特に限定されないが、例えば核生成工程で説明した添加元素を含有する化合物を水に溶解した水溶液を用いることができる。また、被覆工程では、添加元素を含む水溶液に替えて、添加元素を含むアルコキシド溶液を用いることもできる。
上述の噴霧乾燥法や、固相法で用いる添加元素を含有する化合物についても特に限定されないが、例えば核生成工程で説明した添加元素を含有する化合物を用いることができる。
既述のように核生成工程や、粒子成長工程で、混合水溶液に添加元素を含有する化合物を添加し、かつ被覆工程でニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の表面を、添加元素で被覆する場合、核生成工程、粒子成長工程で混合水溶液中に添加する添加元素を含有する化合物の量を、被覆工程で被覆する量の分だけ少なくしておくことが好ましい。これは、混合水溶液への添加元素を含有する化合物の添加量を、被覆工程で被覆する量の分だけ少なくしておくことで、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子に含まれる添加元素と、他の金属成分との原子比を所望の値とすることができるからである。
被覆工程は、粒子成長工程終了後、例えば後述する乾燥工程等を実施した後に実施することもできる。
(洗浄工程)
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を洗浄する洗浄工程を有することもできる。
洗浄工程では、例えば既述の晶析工程や、被覆工程で得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を含むスラリーを洗浄する。
洗浄工程を実施する場合、まずニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を含むスラリーを濾過することができる(濾過ステップ)。
次いで、濾過したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を水洗し、再度濾過することができる(水洗・再濾過ステップ)。
濾過ステップや、水洗・再濾過ステップにおける濾過は、通常用いられる方法で行えばよく、例えば、遠心機、吸引濾過機等を用いて濾過を実施することができる。
また、水洗・再濾過ステップにおける水洗は、通常行われる方法で行えばよく、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子に含まれる余剰の塩を除去できればよい。水洗で用いる水は、不純物の混入を防止するため、可能な限り不純物の含有量が少ない水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。
(乾燥工程)
本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法は、乾燥工程を有することができる。
乾燥工程では、具体的には例えば、洗浄工程で洗浄したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を乾燥することができる。
乾燥工程において、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を乾燥する際の条件は特に限定されないが、例えば乾燥温度を100℃以上200℃以下として、洗浄済みのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。
以上に説明した本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法によれば、酸素含有ガス雰囲気下において晶析反応を実施することにより、針板状の結晶から構成される一次粒子が凝集した構造を備えた二次粒子を有するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。
また、本実施形態のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法では、主として核生成反応が生じる時間(核生成工程)と、主として粒子成長反応が生じる時間(粒子成長工程)とを明確に分離することができる。このため、両工程を同じ反応槽内で行ったとしても、狭い粒度分布をもつニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得ることができ、該ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子から得た正極活物質も狭い粒度分布とすることができる。その結果、正極材料の劣化を抑制し、サイクル特性を高めることができる。
[リチウム金属複合酸化物粒子]
次に、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子の一構成例について説明する。
本実施形態にリチウム金属複合酸化物粒子は、一般式:Li1+αNixCoyMnzMtO2(0.25≦α≦0.55、x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物粒子とすることができる。
そして、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子の二次粒子は多孔質粒子であり、二次粒子の内部の空隙率が10%以上30%以下であることが好ましい。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子は、Li2M1O3とLiM2O2で表される2種類の層状化合物が固溶したリチウム過剰ニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子である。このとき、M1は平均で4価となるよう調整された少なくともMnを含有した金属元素、M2は平均で3価となるよう調整された少なくともNi,Co,Mnを含有した金属元素であり、酸化物前駆体に示すNi,Co,Mnの組成比がM1+M2で成立するものとする。また、Li2M1O3とLiM2O2の存在比率はリチウム過剰であることからLi2M1O3が0%では無いこととする。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子は、二次粒子の中心部まで均一な細孔を有することが好ましい。このような多孔質構造とすることにより、該リチウム金属複合酸化物粒子をリチウムイオン二次電池等の非水系電解液二次電池の正極活物質として用いた場合に、電解液との反応表面積を大きくすることができる。また、該リチウム金属複合酸化物粒子の外殻部の一次粒子間の粒界あるいは細孔から電解液が浸入して、粒子内部の反応界面でもリチウムの挿脱入が行われる。このため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
そして、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子の空隙率は上述のように10%以上30%以下であることが好ましい。これは空隙率を10%以上とすることで、電解液との反応表面積を十分に大きくすることができるからである。ただし、空隙率が高くなりすぎると、タップ密度が低くなる。また、粒子が破壊され易くなるため30%以下であることが好ましい。なお、空隙率はリチウム金属複合酸化物粒子の任意の断面における空隙の面積比を意味している。
また、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子は、比表面積が3.0m2/g以上であることが好ましく、5.0m2/g以上であることがより好ましい。なお、比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば12.0m2/g以下とすることができる。
これは、リチウム金属複合酸化物粒子の比表面積が3.0m2/g以上の場合、該リチウム金属複合酸化物粒子を非水系電解液二次電池の正極活物質として用いた際に、電解液との反応表面積を特に大きくすることができる。このため、反応抵抗を抑制し、高出力の電池とすることができるからである。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子はタップ密度が、1.6g/cc以上あることが好ましく、1.8g/cc以上であることがより好ましい。なお、タップ密度の上限値は特に限定されないが、例えば3.0g/cc以下であることが好ましい。
これは、リチウム金属複合酸化物粒子のタップ密度を1.6cc/g以上とすることで該リチウム金属複合酸化物粒子を非水系電解液二次電池の正極活物質として用いた場合、特に高いエネルギー密度の電池とすることができるからである。
なお、後述するように、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子は、例えば既述のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を用いて製造することができる。このため、比表面積や、タップ密度は、例えば晶析工程における条件、すなわち例えば粒子成長工程の時間等を選択することにより調整することができる。
さらに、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いた非水系電解液二次電池の高放電レート条件(2C)での放電容量が、200mAh/g以上であることが好ましく、250mAh/g以上であることがより好ましい。
[リチウム金属複合酸化物粒子の製造方法]
次に、本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子の製造方法は、リチウム金属複合酸化物粒子において既述の粒子構造となるようにリチウム金属複合酸化物粒子を製造できる方法であれば特に限定されるものではない。本実施形態のリチウム金属複合酸化物粒子の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する焙焼工程。
熱処理済みのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と、リチウム化合物とを混合して混合物を形成する混合工程。
混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程。
以下、各工程について説明する。
(焙焼工程)
焙焼工程では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を熱処理することができ、例えばニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中の水分を除去し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中の少なくとも一部を酸化物とすることができる。
なお、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子としては、既述のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を用いることができる。
焙焼工程における熱処理温度は特に限定されないが、熱処理によりニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子が含有する水分を除去し、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物粒子中のリチウムや、その他の金属の原子数の割合がばらつくことを防ぐことができるように選択することが好ましい。
焙焼工程では、例えば既述のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造方法の乾燥工程における乾燥温度より高く、かつ600℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。特に、熱処理温度は105℃以上600℃以下であることが好ましい。
これは、焙焼工程での熱処理温度が105℃未満の場合、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中の余剰水分が除去できず、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物粒子中のリチウムや、その他の金属の原子数の割合のばらつきが大きくなる恐れがあるからである。
また、熱処理温度が600℃を超えると、焙焼により粒子が焼結して均一な粒径のリチウム金属複合酸化物粒子が得られない恐れがあるからである。
なお、焙焼工程では、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物粒子中のリチウム等の金属の原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全てのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子をニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子に転換する必要はない。しかしながら、得られるリチウム金属複合酸化物粒子中の金属の原子数のばらつきを、より少なくするためには、熱処理温度を500℃以上としてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子をニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子に全て転換することが好ましい。
このため、焙焼工程における熱処理温度は例えば500℃以上600℃以下とすることがより好ましい。
なお、焙焼工程での所定の熱処理温度による熱処理後のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、後述する混合工程における熱処理後のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と、リチウム化合物との混合比を決めておくことが好ましい。このように、所定の熱処理温度により得られる熱処理後のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中の各金属比を分析し、最適なリチウム化合物との混合比を決めておくことで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物粒子中のリチウムや、その他の金属の原子数の割合のばらつきを抑制でき、好ましい。
焙焼工程において熱処理する際の雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
また、焙焼工程における熱処理時間(焙焼時間)は特に制限されないが、1時間未満ではニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。熱処理時間の上限についても特に限定されないが、生産性等を考慮して15時間以下が好ましい。
そして、焙焼に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を非還元性雰囲気中、好ましくは空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
(混合工程)
混合工程は、上記焙焼工程において得られた熱処理後のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子(以下、「焙焼粒子」という)と、リチウム化合物とを混合して、混合物(混合粉)を得る工程である。
焙焼粒子とリチウム化合物とは、混合物中のリチウム以外の金属の原子数、すなわちニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素の原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、1.25以上1.55以下となるように混合することが好ましい。特に、上記混合物中のリチウムの原子数と、リチウム以外の金属の原子数との比(Li/Me)が1.3以上1.5以下となるように混合することがより好ましい。後述する焼成工程の前後でLi/Meは変化しないので、焼成工程に供する混合物中のLi/Meが、得られるリチウム金属複合酸化物粒子におけるLi/Meと同じになる。このため、混合工程で調製する混合物におけるLi/Meが、得ようとするリチウム金属複合酸化物粒子におけるLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。
混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、もしくはこれらから選択された2種以上の物質の混合物が、入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、リチウム化合物としては、水酸化リチウム、および炭酸リチウムから選択された1種以上を用いることがより好ましい。
混合工程において、焙焼粒子とリチウム化合物とを混合する際の混合手段としては、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いればよい。
(焼成工程)
焼成工程は、上記混合工程で得られた混合物を焼成して、リチウム金属複合酸化物粒子とする工程である。焼成工程において混合物を焼成すると、焙焼粒子に、リチウム化合物中のリチウムが拡散するので、リチウム金属複合酸化物粒子、より具体的にはリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子が形成される。
焼成工程において、混合物を焼成する焼成温度は特に限定されないが、例えば600℃以上950℃以下であることが好ましく、700℃以上900℃以下であることがより好ましい。
焼成温度を600℃以上とすることで、焙焼粒子中へのリチウムの拡散を十分に進行させることができ、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶構造を均一にすることができ、生成物を正極活物質として用いた場合に電池特性を特に高めることができるため好ましいからである。また、反応を十分に進行させることができるため、余剰のリチウムの残留や、未反応の粒子が残留することを抑制できるからである。
焼成温度を950℃以下とすることで、生成するリチウム金属複合酸化物粒子間で焼結が進行することを抑制することができる。また、異常粒成長の発生を抑制し、得られるリチウム金属複合酸化物粒子が粗大化することを抑制することができる。さらに、粒子内部に微細な細孔を確実に形成することができる。このため、得られるリチウム金属複合酸化物粒子は比表面積を高くすることができ、非水系電解液二次電池の正極材料として用いた場合に、正極の抵抗を抑制し、高出力の電池とすることができる。
焼成工程における熱処理温度までの昇温速度は特に限定されないが、焙焼粒子とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を3℃/min以上10℃/min以下として上記温度まで昇温することが好ましい。
また、熱処理温度まで昇温する過程で、用いたリチウム化合物の融点付近の温度にて1時間以上5時間以下程度保持することで、より反応を均一に行わせることができ、好ましい。
焼成工程における焼成時間のうち、所定温度、すなわち上述の焼成温度での保持時間は特に限定されないが、1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは2時間以上である。これは焼成温度での保持時間を2時間以上とすることで、リチウム金属複合酸化物の生成を十分に促進し、未反応物が残留することをより確実に防止することができるからである。
焼成温度での保持時間の上限値は特に限定されないが、生産性等を考慮して24時間以下であることが好ましい。
焼成温度での保持時間終了後の条件は特に限定されるものではないが、混合物を匣鉢に積載して焼成する場合には匣鉢の劣化を抑止するため、降下速度を2℃/min以上10℃/min以下として、200℃以下になるまで雰囲気を冷却することが好ましい。
焼成時の雰囲気は特に限定されないが、酸化性雰囲気とすることが好ましい。酸化性雰囲気としては、酸素含有ガス雰囲気を好ましく用いることができ、例えば酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
これは焼成時の雰囲気中の酸素濃度を18容量%以上とすることで、リチウム金属複合酸化物の結晶性を特に高めることができるからである。
酸素含有ガス雰囲気とする場合、該雰囲気を構成する気体としては、例えば大気や、酸素、酸素と不活性ガスとの混合気体等を用いることができる。
なお、酸素含有ガス雰囲気を構成する気体として、例えば上述のように酸素と不活性ガスとの混合気体を用いる場合、該混合気体中の酸素濃度は上述の範囲を満たすことが好ましい。
特に、焼成工程においては、酸素含有ガス気流中で実施することが好ましく、大気、または酸素気流中で行うことがより好ましい。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、所定の雰囲気中で混合物を焼成できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
焼成工程によって得られたリチウム金属複合酸化物粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウム金属複合酸化物粒子を得ることができる。
ここで、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
また、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、焼成工程の前に、仮焼成を実施することが好ましい。
仮焼成を実施する場合、仮焼成温度は特に限定されないが、焼成工程における焼成温度より低い温度とすることができる。仮焼成温度は、例えば250℃以上600℃以下することが好ましく、350℃以上550℃以下とすることがより好ましい。
仮焼成時間、すなわち上記仮焼成温度での保持時間は、例えば1時間以上10時間以下程度とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
仮焼成後は、一旦冷却した後焼成工程に供することもできるが、仮焼成温度から、焼成温度まで昇温して連続して焼成工程を実施することもできる。
なお、仮焼成を実施する際の雰囲気は特に限定されないが、例えば焼成工程と同様の雰囲気とすることができる。
仮焼成することにより、焙焼粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、特に均一なリチウム金属複合酸化物粒子を得ることができる。
[非水系電解液二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解液二次電池の一構成例について説明する。
本実施形態の非水系電解液二次電池は、既述のリチウム金属複合酸化物粒子を正極材料として用いた正極を有することができる。
まず、本実施形態の非水系電解液二次電池の構造の構成例を説明する。
本実施形態の非水系電解液二次電池は、正極材料に既述のリチウム金属複合酸化物粒子を用いたこと以外は、一般的な非水系電解液二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
具体的には、本実施形態の非水系電解液二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有することができる。
より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉した構造を有することができる。
なお、本実施形態の非水系電解液二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、またその外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
各部材の構成例について以下に説明する。
(正極)
まず正極について説明する。
正極は、シート状の部材であり、既述のリチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いることができる。
正極は例えば、既述のリチウム金属複合酸化物粒子を含有する正極合材ペーストを、例えばアルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成できる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。例えば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述のリチウム金属複合酸化物粒子と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、正極活物質であるリチウム金属複合酸化物粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種以上を用いることができる。
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解液二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることができる。
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種以上を用いることができる。
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解液を保持する機能を有している。
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
以上に非水系電解液二次電池の各部材の構成例について説明した。
本実施形態の非水系電解液二次電池は、既述のリチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いた正極を有しているので、低い正極抵抗が得られ、高出力の電池とすることができる。
このため、本実施形態の非水系電解液二次電池は、高出力が要求されるモーター駆動用電源の電池として好適に用いることができる。
また、既述のリチウム金属複合酸化物粒子は、そのタップ密度を高くすることもでき、該リチウム金属酸化物を正極活物質として用いた本実施形態の非水系電解液二次電池は、高容量とすることができる。このため、本実施形態の非水系電解液二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器、具体的には例えばノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末などの電源に好適に用いることができる。
また、本実施形態の非水系電池は、上述のように高容量化を図ることができるため、容量当たりの体積を小さくすることができる。すなわち小型化を図ることもできる。
電池は大型化すると安全性の確保が困難になり、高価な保護回路が必要不可欠であるが、本実施形態の非水系電解液二次電池は小型が可能であるため、優れた安全性を有しているため、安全性の確保が容易になるばかりでなく、高価な保護回路を簡略化し、より低コストにできる。
そして、本実施形態の非水系電解液二次電池は、上述のように小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける輸送機器用の電源として好適に用いることができる。
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下に各実施例、比較例での試料の作製条件、および評価結果について説明する。
なお、全ての実施例を通じて、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、リチウム金属複合酸化物粒子、および非水系電解液二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
[実施例1]
(1)ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、図1に示したフローに従い、以下のようにして作製した。
(混合水溶液の調整)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを水に溶かして、2.0mol/Lの混合水溶液を調製した。この混合水溶液における各金属の元素モル比が、Ni:Co:Mn=0.165:0.165:0.67となるように各金属の化合物を水に添加、混合した。
(晶析工程)
次に晶析工程として、以下の核生成工程と粒子成長工程とを実施した。
(核生成工程)
まず、容量が5Lの反応槽内に、水を約1.2Lの量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。そして、晶析工程が完了するまで初期水溶液、および反応水溶液の液温は40℃に維持した。なお、反応水溶液は、核生成反応水溶液、pH調整後の核生成反応水溶液、および粒子成長反応水溶液を指す。
次いで、初期水溶液のアンモニウムイオン濃度が5g/Lとなるように、反応槽内の水に25質量%アンモニア水を適量加えた。
更にアルカリ水溶液として、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内の水に添加し、pHを11.0に調整し、初期水溶液とした。
そして、空気圧縮機から空気を4L/分で反応槽内に供給することで反応槽内をパージし、反応槽内を酸素含有ガス雰囲気、具体的には空気雰囲気とした。なお、晶析工程の間空気の供給は継続して行った。
反応槽内を空気によりパージした後、反応槽内の初期水溶液に、上述の混合水溶液を10.3ml/分の添加速度で4分間添加し(ここでの時間を表1では「添加時間」として示す)、核生成反応水溶液を調製した。
なお、混合水溶液を初期水溶液に添加する際、上述のアルカリ水溶液、およびアンモニア水を併せて添加し、核生成反応水溶液のpH値が液温40℃基準で11.0となるように、また、アンモニウムイオン濃度が5g/Lとなるように制御した。pHの変動幅は上記pH設定値である11.0の±0.1以内に収まっていることが確認できた。また、アンモニウムイオン濃度の変動幅についても上記設定アンモニウムイオン濃度である5g/Lの±1.0g/L以内に収まっていることを確認した。
そして、上述のように混合水溶液を添加することで4分間反応を継続した後、撹拌のみを5分間継続した。
(粒子成長工程)
核生成工程終了後、核生成反応水溶液のpH値が液温40℃基準で10.5になるまで64%硫酸を滴下し、pH調整を行った。
次に、pH調整後の核生成反応水溶液に対して、既述の混合水溶液を10.3ml/分の添加速度で100分間添加し、粒子成長反応水溶液を調製した。
なお、混合水溶液をpH調整後の核生成反応水溶液に添加する際、核生成工程と同じアルカリ水溶液、およびアンモニア水を併せて添加し、粒子成長反応水溶液のpH値が40℃基準で10.5となるよう、またアンモニウムイオン濃度が5g/Lとなるように制御した。pHの変動幅は上記設定pH値である10.5の±0.1以内に収まっていることが確認できた。また、アンモニウムイオン濃度の変動幅についても上記設定アンモニウムイオン濃度である5g/Lの±1.0g/L以内に収まっていることを確認した。
そして、上述のように混合水溶液を添加することで、100分間反応を継続し、粒子成長工程を終了した。なお、混合水溶液を添加している間、pH調整後の核生成反応水溶液、または粒子成長反応水溶液の撹拌は継続して実施している。
(洗浄工程)
晶析工程で得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を含むスラリーを濾過した後、水洗し、再度濾過した。
なお、水洗には純水を用いた。また、濾過の際には吸引濾過機を濾過手段として用いた。
(乾燥工程)
洗浄工程でスラリーから分離し、洗浄したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、大気雰囲気下、120℃で乾燥した。
以上の工程によりニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni:Co:Mn=15.9at%:16.7at%:67.4at%であることが確認できた。
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を走査型電子顕微鏡SEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S−4700、倍率1000倍)により観察したところ、二次粒子が、針板状の結晶から構成される一次粒子が凝集した構造を有することを確認できた。さらに、二次粒子は略球状であり粒径がほぼ均一であることも確認できた。
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子について、平均粒子径D50を、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した結果、平均粒子径は8.4μmであることが確認された。
(2)リチウム金属複合酸化物粒子の製造
以下の手順により、リチウム金属複合酸化物粒子を製造した。
(焙焼工程)
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、500℃で2時間の熱処理を行い、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に含まれていた水分を除去し、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子に転換して回収した。
(混合工程)
混合工程では、熱処理済みのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、すなわちニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子と、リチウム化合物である炭酸リチウムとを混合して混合物を調製した。
両成分を混合する際、熱処理済みのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子中の金属成分、すなわちニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数の和をMeとし、炭酸リチウム中のリチウムの原子数をLiとした場合に、Li/Me=1.5となるように両成分を秤量、混合した。
混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
(焼成工程)
混合工程で得られた混合物を大気中(酸素:21容量%)にて、500℃で5時間仮焼成した後、800℃で2時間焼成した。
焼成後は室温まで冷却した後、解砕してリチウム金属複合酸化物粒子を得た。
なお、仮焼後、一旦冷却した後、800℃での焼成(本焼成)を実施しており、焼成時の昇温速度は、5℃/minとし、焼成温度にて2時間保持している。
得られたリチウム金属複合酸化物粒子について、上述のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の場合と同様の方法で、粒度分布を測定したところ、平均粒子径は6.4μmであった。
また、得られたリチウム金属複合酸化物粒子について、断面SEM観察を行ったところ、得られたリチウム金属複合酸化物粒子は、二次粒子内部の中心部まで均一な細孔を有した多孔質構造となっていることを確認した。
そして、断面SEM像の粒子を100個以上観察した結果、中心部まで細孔をもつ粒子(多孔質粒子)の割合は100%であることが確認できた。また、画像解析ソフトを用いて二次粒子の空隙率を測定したところ24%であった。
なお、上記SEMはニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を評価した場合と同じ装置を用いている。
さらに、得られたリチウム金属複合酸化物粒子についてタップ密度の評価を行ったところ、1.7g/ccであることが確認できた。
タップ密度は、得られたリチウム金属複合酸化物粒子を20mlメスシリンダーに充填後、該メスシリンダーについて、高さ2cmからの自由落下を500回繰り返す方法で密に充填させてから測定を行った。
また、得られた正極活物質について、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、マルチソーブ)により比表面積を求めたところ、10.4m2/gであることが確認できた。
(3)非水系電解液二次電池の製造
得られたリチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用い、2032型コイン電池を製造し、評価を行った。
図2を用いて製造したコイン型電池の構成について説明する。なお、図2は、製造したコイン型電池の断面模式図を示している。
図2に示すように、製造したコイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
このコイン型電池10を、以下のようにして作製した。まず、得られたリチウム金属複合酸化物粒子52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)7.5mgを溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンと共に混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極121を作製した。作製した正極121を、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極121、負極123、セパレータ122および電解液とを用いて、コイン型電池10を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
なお、負極123には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒子径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンとを溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンと共に混合した負極合材ペーストを銅箔に塗布、乾燥した負極シートを用いた。また、セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
得られたコイン型電池10の性能を評価する、初期放電容量は、以下のように定義した。
初期放電容量は、コイン型電池10を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.05C(270mA/gを1Cとする)としてカットオフ電圧4.65Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.35Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
上記リチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いて形成された正極を有するコイン型電池について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は280mAh/gであった。また、高放電レート特性を評価するため0.01Cで充放電容量を測定、その後、0.2C,0.5C,1.0Cで各3回充放電容量を測定した後、2.0Cで3回測定した平均値を高放電レートの放電容量とした。その値は、211mAh/gであった。
本実施例の製造条件をまとめたものを表1に、本実施例により得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の組成の評価結果を表2に、リチウム金属複合酸化物粒子の評価結果、および該リチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質に用いて製造したコイン型電池の評価結果を表3に、それぞれ示す。また、以下の実施例2および比較例1、2についても、同様の内容について同表に示す。
[実施例2]
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の製造時の粒子成長工程における添加時間、すなわちpH調整後の核生成反応水溶液への混合水溶液の添加時間を196分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、リチウム金属複合酸化物粒子、および非水系電解液二次電池製造し、評価を行った。
評価結果を表1〜表3に示す。
粒子成長工程の時間を長くしたことで粒子径は、大きくなっている。しかし、電池特性は実施例1と同等であった。
[比較例1]
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を製造する際の晶析工程において、反応槽内への吹込みガスを、酸素を含有しない窒素ガスに変更したこと以外は、実施例2と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、リチウム金属複合酸化物粒子、および非水系電解液二次電池製造し、評価を行った。
評価結果を表1〜表3に示す。
実施例1、2のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、いずれも二次粒子は、針板状の結晶から構成される一次粒子が凝集した構造を有することが確認できた。
また、各ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を用いて製造したリチウム金属複合酸化物粒子についても、二次粒子は二次粒子の中心部まで細孔を有した多孔質構造を備えた多孔質粒子であり、二次粒子の内部の空隙率が10%以上30%以下であることを確認できた。
さらに、実施例1、2のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、およびリチウム金属複合酸化物粒子は、いずれも粒径がほぼ揃った粒子となっていることも確認できた。
このため、実施例1、2のリチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いたコイン型電池は、正極での反応抵抗が小さくすることができ、初期放電容量が高く、かつ高放電レートでの放電容量も高いものとなっており、急速な充放電においても高出力な非水系電解液二次電池となっている。
これに対して、比較例1のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子は、板状結晶がランダムに絡み合った二次粒子構造を有することが確認できた。また、係るニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を用いて製造した、リチウム金属複合酸化物粒子は、二次粒子の内部に細孔を有していない緻密な粒子となっていることが確認できた。
このため、比較例1のリチウム金属複合酸化物粒子を正極活物質として用いて製造したコイン型電池は、正極での反応抵抗が高く、実施例1、2と比較して、初期放電容量、および高放電レートでの放電容量が劣り、出力が低くなることが確認できた。
以上の結果より、多孔質粒子であって、所定の空隙率を有するリチウム金属複合酸化物粒子を用いて非水系電解液二次電池を製造した場合、正極での反応抵抗を抑制し、初期放電容量や、高放電レートでの放電容量を高くすることができ、優れた出力特性を有する非水系電解液二次電池となることが確認できた。
また、係るリチウム金属複合酸化物粒子は、二次粒子が針板状の結晶から構成される一次粒子が凝集した構造を有するニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を用いて得られることも確認できた。