本発明は、振動部材、特に、光硬化音声コイルアタッチメントを備えたハードスピーカ放射振動板を含むスピーカに用いるための振動部材に関する。また、本発明は、光硬化音声コイルアタッチメントを備えたハードスピーカ放射振動板を含むスピーカに関する。
スピーカは、電気音声信号を対応する音に変換する機器である。19世紀以降、種々のスピーカが開発及び改良され続けている。
一般的に、動電型直接放射スピーカは、主に、磁気回路部材と、磁気回路部材に部分的又は完全に内設された音声コイルと、音声コイルに機械的に取り付けられた音放射振動板と、を備え、ほとんどの場合、振動板周囲物、スパイダとも言われるサスペンション、フレーム等の更なる支持パーツを備える。音声コイルを流れる交流電流に起因する磁場が磁気回路部材からの磁場と相互作用すると、フレミングの法則に従って、音声コイルが振動板への取付部位に作用して振動板の一部が振動し、この振動が音声コイルに直接隣接していない他の振動板領域へと伝播する。その結果、音伝播、吸収(減衰)及び境界反射プロセスにおける振動数依存性且つ非線形性に依る非常に複雑な様式で、振動板の全体領域から音が放射される。そのため、振動板の材質、構造及び構成が、スピーカの音質に多大に影響する。
例えば、欧州特許公報EP2268058A1は、携帯電話、セルラー電話、カムコーダ、PDA、デジタルカメラ、ノートブックコンピュータ、LCDテレビ及びDVD等の電子機器において音を再生するのに用いられる微小スピーカを開示している。図1に示すように、スピーカの振動システムは、永久磁石Pとヨーク4の内面との間の間隙に設けられた音声コイル8を備える。スピーカ膜Mは、音声コイル8に接続されている。膜Mは、0.3mm以下の厚みで100MPa未満のヤング率を持つエラストマ、例えば、シリコーンから成る。エラストマ膜は、一般的な接着剤を用いて音声コイル8に接続され得る。当業者には知られているように、自動生産において迅速な硬化は必須であるので、UV硬化接着剤が好ましい。従来技術の振動システムは、膜Mにおいて音声コイル8とは反対側に設けられた補強材16を更に備え、このような補強材16は、一般的に金属又は金属を含む複合材料若しくは比較的分厚いポリマーシートのような不透明材料から成り、接着剤のUV硬化に悪影響を及ぼし得る。また、ポリマーシートが光透過性でUV硬化プロセスに適用可能であったとしても、依然としていくつか問題がある。例えば、ポリマー表面の(プライマ又はプラズマ処理による)前処理無しでは、特に、音声コイルから発生した熱によって音声コイル/ポリマー接着が弱くなって剥離が起こり易い。
本発明は、製造効率を向上させるために光硬化音声コイルアタッチメントを備えたハードスピーカ放射振動板を含みスピーカでの使用に適用された振動部材を提供することを目的とする。
一態様において、本発明は、スピーカに用いるための振動部材であって、支持部と、作用力に応じた音放射のために振動すると共に振動を伝播する光透過性の硬質ハード振動板と、硬質ハード振動板に接続され硬質ハード振動板と共に振動するように構成された第1部位及び硬質ハード振動板を配置するために支持部に接続された第2部位を有するフレキシブル膜と、光硬化接着剤により硬質ハード振動板に接続された音声コイルと、を備え、音声コイルを流れる交流電流と磁石により生成され音声コイルを通る磁力線とが、音声コイルからの時変力線と連動して作用することにより作用力を生み出す振動部材を与える。
所望の性能を達成するため、本発明において硬質ハード振動板は、好ましくは、光硬化接着剤の硬化を許容するのに十分なUV−A帯域透過性(例えば、50%超(>50%))、50GPa超のヤング率及び5.0超のモース硬度を有する。
これら3つの物理的基準に合致し得る材料は、これらに限定されるものではないが、単結晶ダイアモンド、単結晶アルミナ(光学的に透明なサファイア)、単結晶ジルコニア、単結晶形態となった他の多くの金属酸化物又は窒化物、単結晶シリカ(石英)及び非晶質二酸化ケイ素(ガラス)を含む。製造のコスト及び容易性から、好ましくは、硬質ハード振動板は、実質的に均一な非晶質材料により形成される。例えば、硬質ハード振動板は、ガラスシートである。
例示では、硬質ハード振動板は、実質的に平坦なシート、実質的にボウル型のシート又は実質的にドーム型のシートとなっている。或いは、硬質ハード振動板は、下方又は上方に湾曲した内方部と、音声コイルが接続される平坦な周囲部と、を有するように構成されている、若しくは、内方部では僅かに下方に湾曲し、且つスピーカにおいて磁石を有する磁気回路部材の外側にある周囲部では強く湾曲するように構成されていてもよい。
例示では、フレキシブル膜は、柔軟なポリマー材料から成る。
フレキシブル膜及び音声コイルは、硬質ハード振動板の互いに反対側に配置され得る。或いは、硬質ハード振動板及び音声コイルは、フレキシブル膜の互いに反対側に配置され得る。
硬質ハード振動板は、フレキシブル膜の第1部位と完全又は部分的に重なり得る。
実施形態では、振動部材は、放熱能を増強及び/又は音響性能を修飾するために、硬質ハード振動板及び/又はフレキシブル膜に接続された補助層を更に備える。
例えば、補助層は、アルミホイル、蒸着金属層又はグラファイトシートである。
他の態様では、本発明は、音放射のためのスピーカであって、フレームと、磁力線を形成するための磁気回路部材と、磁気回路部材を内含してフレームに収容される磁気ポットと、フレームに収容された振動部材と、を備えたスピーカを与える。振動部材は、作用力に応じた音放射のために振動すると共に振動を伝播する光透過性の硬質ハード振動板と、硬質ハード振動板に接続され硬質ハード振動板と共に振動するように構成された第1部位及び硬質ハード振動板を配置するためにフレームの内面に接続された第2部位を有するフレキシブル膜と、光硬化接着剤により硬質ハード振動板に接続された音声コイルと、を有し、音声コイルを流れる交流電流と音声コイルを通る磁力線とが作用力を生み出す。
例示では、磁気回路部材は、音声コイルの中心にあるくり抜きに配置された磁石及び/又は音声コイルを囲む磁石を含み得る。或いは、磁気回路部材は、音声コイルと共にヨークの環状溝に配置された複数ピースの磁石を含む。
本発明は、以下の詳細な記載及び添付の図を参照することで当業者には容易に明確になるであろう。
スピーカに用いられる従来の振動システムを模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第1実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
図2に示した振動部材を備えたスピーカの第1実施形態を模式的に示す断面図。
図2の振動部材に用いられる硬質ハード振動板の例を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第2実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第3実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第4実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第5実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第6実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第7実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第8実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第9実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第10実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第11実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
スピーカでの使用に適用される本発明の第12実施形態に係る振動部材を模式的に示す断面図。
図2に示した振動部材を備えたスピーカの第2実施形態を模式的に示す断面図。
図2に示した振動部材を備えたスピーカの第3実施形態を模式的に示す断面図。
図2に示した振動部材を備えたスピーカの第4実施形態を模式的に示す断面図。
図2に示した振動部材を備えたスピーカの第5実施形態を模式的に示す断面図。
本発明は、以下の実施形態を参照してより具体的に記載される。本発明の好ましい実施形態に関する以下の記載は、図示及び記載のためだけに提示されるものであることに留意すべきである。また、開示形態そのもので網羅されるものでも限定されるものでもない。
図2には、本発明の実施形態に係るスピーカでの使用に適用される振動部材の断面図が示されている。振動部材10は、硬質ハード振動板100、フレキシブル膜101、支持部102及び音声コイル103を備える。本実施形態では、硬質ハード振動板100は、光透過材料により構成され、音声コイル103は、硬質ハード振動板100の面1001に光硬化接着剤104で固定されている。フレキシブル膜101の内方部1011は、硬質ハード振動板100において音声コイル103が設けられた面1001とは反対側の面1002に取り付けられ、硬質ハード振動板100を完全に覆っている。フレキシブル膜101は、更に、内方部1011から外方に伸長した周囲部1012により支持部102と接続されている。
図3には、上述した振動部材10を備えたスピーカの一部断面が模式的に示されている。スピーカ1は、振動部材10に加えて、磁気ポット21、永久磁石22、上部プレート23及びフレーム24を更に備える。磁気ポット21は、例えば、振動部材10を保持するためにU型の鋼から成る。永久磁石22は、磁気ポット21中に保持され、例えば、鋼から成る上部プレート23で覆われ、音声コイル103のコアとして配置されている。振動部材10、磁気ポット21、永久磁石22及び上部プレート23は、例えば、プラスチック材料から成りフレキシブル膜101の周囲部1012を支持する支持部として機能するように構成されたフレーム24中に収容されている。
永久磁石22は、図2において複数の矢印で示すように、音声コイル103を通って放射状に磁束105を生み出す。永久磁石22からの磁束105と音声コイル103を流れる電流に起因する束との相互作用により、硬質ハード振動板100、フレキシブル膜101及び音声コイル103を備える振動部材10は、図2において矢印で示すように、対応する機械的な動き106を生み出す。
本実施形態では、フレキシブル膜101は、所定量の変形を許容すると共に元の状態に戻ることを保証する柔軟なポリマー材料から成る。硬質ハード振動板100は、UV域のほとんどの光を透過させる薄いガラスシートであり、UV硬化接着剤を用いて音声コイル103、ガラスシート(硬質ハード振動板)100及びフレキシブル膜101を順番に積み重ねることで硬質ハード振動板100を形成することができ、これにより、自動硬化プロセスを迅速化することができる。また、ガラスシート100は、接着剤の標準的な熱硬化温度(通常、120℃以上200℃以下)において永続的に変形も融解もしないので、硬化プロセスを加速するために音声コイル103/ガラスシート100に熱をかけることができる。また、ガラスシート100の高い固有の剛性により、激しく振動板が振動している間の気圧差による振動板の歪みに耐えるのに必要な剛性を保持したまま、硬質ハード振動板100を非常に薄い板に形成することができる。また、ガラスシート(硬質ハード振動板)100は、ポリマーフィルムに比べて比較的高い熱伝導度(ガラスシート〜1W/mk、PET〜0.2W/mk、空気〜0.024W/mk)を有するので、音声コイル103に対するヒートシンクとしても機能し得る。更に、音声コイル103/ガラスシート100の接着は、両部材とも固いので、せん断力による剥離に対して高い耐性を有する。ガラスシート100の優れた音響特性、接着剤による境界界面の無さ、そして硬化後硬質型接着剤の利用により、人間の可聴域を超える超音波放射も可能である。
薄いガラスシートは硬質ハード振動板100のほんの一例であり、上述した長所を達成することができる限り、いかなる他の適切な光透過ハードスピーカ放射振動板(好ましくはガラスベース)も本発明で用いることができる。例えば、同じ出願人により出願された同時継続米国特許出願第15/673,554(本願では参照として引用)では、不定形圧縮スキン−テンションコア構造が提案されている。図4では、不定形圧縮スキン−テンションコア構造400が、上面層410、上方遷移層420、コア430、下方遷移層440及び下面層450を備える。各々の層は、圧縮ストレス層410、450及び対応する遷移層420、440を形成すると共にコア430においてテンションを補償するため高温融解塩浴に未処理ガラスシートを浸漬したときに起こる化学イオン交換の結果、スキンからの深度が異なる上面層410、上方遷移層420、下方遷移層440及び下面層450におけるゲストイオンの密度分布に起因する内部ストレスに差がある実質的に同じ硬質且つ均一な不定形材料から成る。好ましい実施形態では、光透過性の硬質ハード振動板100は、50%超(>50%)のUV−A帯域透過性、50GPa超のヤング率及び5.0超のモース硬度を有する。
図5は、本発明に係る振動部材の他の実施形態を模式的に示している。本実施形態では、フレキシブル膜が、音声コイル103と硬質ハード振動板100との間に配置されると共に光硬化接着剤104を介して音声コイル103に良好に接着する材料で形成されたフレキシブル膜30により実施されている。ここで、硬質ハード振動板100は、光硬化接着剤104を用いるために依然として光透過性である必要が有る。
図6は、本発明に係る振動部材の別の実施形態を模式的に示している。本実施形態では、フレキシブル膜が、硬質ハード振動板100において音声コイル103とは反対側の面の側方されたフレキシブル膜40により実施されている。フレキシブル膜40は、リング型に形成されている。つまり、フレキシブル膜40は、くり抜かれた内方部を有して硬質ハード振動板100を部分的に覆っており、これにより、軽量化を図ることができる。
図7A〜7Eは、硬質ハード振動板の硬度を更に高めるため、本発明に係る振動部材の更に別の実施形態を模式的に示している。図7Aに示す実施形態では、硬質ハード振動板が、ボウル型のガラスシート50となっている。硬質ハード振動板が振動している際の接触又は衝突を避けるために、硬質ハード振動板50のボウル底に対応するトッププレート52の位置に切り込み又は穴51が設けられている。図7Bに示す実施形態では、硬質ハード振動板が、ドーム型のガラスシート53となっている。図7Cに示す実施形態では、硬質ハード振動板54が、下方に湾曲したメインボディ541と、音声コイル103へのより良い接着操作のための平坦なフランジ542と、を有する。図7Dに示す実施形態では、硬質ハード振動板55が、上方に湾曲したメインボディ551と、音声コイル103へのより良い接着操作のための平坦なフランジ552と、を有する。図7Eに示す実施形態では、硬質ハード振動板56が、僅かに下方に湾曲した内方部561と、強く下方に湾曲した周囲部562と、を有し、このような強く湾曲した形状は、磁気ポット21の外側にあるので全体的なスピーカの厚みに影響を及ぼさない。また、スピーカの全体的な厚みを減らす必要が有る場合には、硬質ハード振動板の任意の場所に切り込み又は穴を設けてもよい。
光透過性硬質ハード振動板は、音声コイルと接続するための光硬化接着剤と共に使用されることが好ましいが、同じ出願人により出願された同時継続米国特許出願第15/673,554で提案されている光透過性硬質ハード振動板のように、他のタイプの接着剤と共に使用されてもよい。これらの実施形態では、振動部材の幾つかの物理的特性を増強するため、振動部材に補助層が更に設けられ得る。例えば、図8A〜8Dに示すように、補助層60は、アルミホイル、蒸着金属層又はグラファイトシートで、音声コイル103により生成された熱に対する熱拡散材として機能し、且つ音響性能を修飾するのに特定の効果を有する。補助層60は、実際の適用及び必要に応じて種々の位置に配置可能で、図8Aでは硬質ハード振動板100と音声コイル103との間に配置され、図8Bでは硬質ハード振動板100とフレキシブル膜101との間に配置され、図8Cでは硬質ハード振動板100とフレキシブル膜40との間に配置され、図8Dではフレキシブル膜101において硬質ハード振動板100とは反対側の面に配置されている。これら実施形態では、平坦な硬質ハード振動板が、補助層60の配置を図示するための例として用いられている。しかしながら、上述したような他の構成の硬質ハード振動板も、所望の目的を達成するために使用可能である。
上述した実施形態で提案したような振動部材は、種々の磁気設計と共にスピーカに用いられ得る。図9Aに示すスピーカ2の実施形態では、音声コイル103の外側にリング磁石70が用いられている。リング磁石70は、リング型のトッププレート71で覆われ、音声コイル103の内方側に突起721を有するTヨーク72に取り付けられ、且つフレーム73で囲まれている。リング磁石70、トッププレート71及びTヨーク72の割り当ては、リング磁石70の配置を単に固定するだけでなく、音声コイル103と磁力線との相互作用を最適化するようにリング磁石70による磁力線を分布させる働きも有する。
図9Bに示すスピーカ3の実施形態では、ディスク磁石762及びリング磁石761を備えた磁気回路部材が用いられている。この磁気回路は、リング型のトッププレート771、ディスク型のトッププレート772及びディスク型のベースプレート78を備え、リング磁石761は、トッププレート771とベースプレート78との間に配置され、ディスク磁石762は、トッププレート772とベースプレート78との間に配置されている。音声コイル103は、リング型のトッププレート771とディスク型のトッププレート772との間に形成された磁気ギャップに配置されている。この磁気回路配置は、図3及び図9Aに示したような単純な磁気回路配置よりも大きな磁気作用力を与えることができる。
図9Cに示すスピーカ4の実施形態では、磁石80が、リング磁石で音声コイル103の内側に配置されている。トッププレート81は、磁石80の断面と同様のリング形状を有する。磁石80は、磁石80及びトッププレート81のくり抜き部分と整列した穴820を有する磁石ポット82に配置されている。このような構成は、スピーカ部材の重量を低減すると共に、背面気流のための通気口を与えることができる。
図9Dに示すスピーカ5の実施形態では、複数ピースの磁石83が用いられている。磁石83は、音声コイル103と共に、鋼製ヨーク84の環状溝821に配置されている。
上記から、振動部材においてハードスピーカ放射振動板、より特異的には光透過性ハードスピーカ放射振動板を利用することにより、例えば、光硬化接着剤を用いて音声コイルアタッチメントを構成可能であることが理解できる。硬質ハード振動板、フレキシブル膜、磁石、トッププレート及び磁石ポットの変形及び置換は、異なる実施形態に記載されているとしても、所望の目的を達成するために当業者であれば任意に組み合わせ可能であることに留意すべきである。
本発明は、現時点で最も実用的且つ好ましい実施形態だと考えられるものとして記載されているが、開示された実施形態に必ずしも限定されないことは理解すべきである。また、種々の変形及び同様の構成も、最も広く解釈した添付クレームの精神及び範囲に含まれるべきである。