以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1,2には、本発明に従う構造とされた流体封入式筒形防振装置の第一の実施形態として、自動車用のサスペンションブッシュ10が示されている。サスペンションブッシュ10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。そして、サスペンションブッシュ10は、例えば、インナ軸部材12が図示しない車両ボデーに取り付けられると共に、アウタ筒部材14が車輪側の部材である図示しないサスペンションアームに取り付けられることにより、車両ボデーとサスペンションアームの間に介装されて、それら車両ボデーとサスペンションアームを相互に防振連結するようになっている。なお、以下の説明では、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、それぞれ言う。
より詳細には、インナ軸部材12は、金属等で形成された高剛性の部材であって、略一定の断面形状で延びるロッド状とされており、径方向中央部分には円形断面のボルト挿通孔18が軸方向に貫通して形成されている。また、インナ軸部材12の軸方向中央部分には、ストッパ部材20が取り付けられている。ストッパ部材20は、合成樹脂などで形成されて、インナ軸部材12の外周面に固着されていると共に、本実施形態では略長方形の断面形状を有しており、インナ軸部材12から外周側への突出寸法が左右方向で上下方向よりも大きくされている。本実施形態のストッパ部材20は、上下外面が略平面とされていると共に、左右外面が周方向および軸方向に湾曲する曲面とされている。なお、インナ軸部材12の形状は特に限定されるものではなく、例えば円筒形状などであっても良い。
また、インナ軸部材12の外周側には、中間筒部材22が配設されている。中間筒部材22は、金属などで形成された高剛性の部材であって、インナ軸部材12に比して薄肉大径の略円筒形状とされている。更に、中間筒部材22の軸方向中間部分には、図1〜5に示すように、一対の窓部24,24が形成されている。この窓部24は、中間筒部材22を径方向に貫通しており、周方向で中間筒部材22の半周弱の長さとされて、径方向一方向の両側に設けられている。更にまた、図4,5に示すように、中間筒部材22における一対の窓部24,24の周方向間には、一対の溝状部26,26が形成されている。溝状部26は、中間筒部材22の軸方向(図4中の左右方向)の中間部分に窓部24よりも小さな溝幅寸法で周方向に延びており、周方向の両端部が一対の窓部24,24の各一方につながっている。
このような中間筒部材22がインナ軸部材12に対して略同一中心軸上で外挿されており、それらインナ軸部材12と中間筒部材22の間に本体ゴム弾性体16が配設されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉の略筒形状とされて、内周面がインナ軸部材12の外周面に固着されていると共に、外周面が中間筒部材22の内周面に固着されており、インナ軸部材12と中間筒部材22が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本実施形態では、本体ゴム弾性体16がインナ軸部材12と中間筒部材22を備えた一体加硫成形品28として形成されている。また、本体ゴム弾性体16の加硫成形後に、中間筒部材22に八方絞りなどの縮径加工を施すことにより、本体ゴム弾性体16の冷却収縮などに起因する引張応力を低減して、耐久性の向上を図ることが望ましい。
さらに、中間筒部材22の一対の溝状部26,26の溝内面は、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のゴム層によって覆われており、周方向の2箇所には軸方向に延びるシールリップ30がゴム層に一体形成されている。更に、一方の溝状部26を覆うゴム層には、図4に示すように、周方向および軸方向の中央部分において径方向に突出する当接突部32が一体形成されている。
更にまた、本体ゴム弾性体16には、一対のポケット部34,34が形成されている。ポケット部34は、本体ゴム弾性体16の軸方向中間部分で外周面に開口する凹所状とされており、インナ軸部材12の径方向両側にそれぞれ形成されている。また、ポケット部34の内周底面には、外周側へ突出するストッパゴム36が本体ゴム弾性体16と一体形成されている。このストッパゴム36は、本実施形態では、図1中の左右方向に並ぶ3つの山状突部を備えており、左右中央が左右両側よりも突出寸法を大きくされている。更に、ストッパゴム36の突出先端面には、周方向に連続する凹溝と凸条が軸方向で交互に設けられており、後述するストッパゴム36の内周蓋部材62への当接が緩衝的に実現されるようになっている。
また、ポケット部34は、中間筒部材22の窓部24と対応する開口形状を有していると共に、ポケット部34の開口部が窓部24と位置合わせされて、本体ゴム弾性体16におけるポケット部34の開口周縁部が窓部24の開口縁部に固着されており、ポケット部34が窓部24を通じて外周側へ開放されている。特に、窓部24の周方向両側の開口縁部には、本体ゴム弾性体16と一体形成された当接部38がそれぞれ固着されており、当接部38が窓部24の軸方向両側の開口縁部に固着されたゴム弾性体よりも厚肉とされている。更に、当接部38は、窓部24の軸方向中央部分に設けられており、本体ゴム弾性体16における当接部38の軸方向両側部分が当接部38よりも薄肉とされることで、当接部38の軸方向両側に凹状の控え部39が形成されている。
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品28には、図1,2に示すように、アウタ筒部材14が装着されている。アウタ筒部材14は、金属などで形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状とされていると共に、内周面がシールゴム層40で覆われている。そして、アウタ筒部材14は、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品28に外挿された状態で縮径加工されることにより、一体加硫成形品28を構成する中間筒部材22に対して外嵌装着される。なお、アウタ筒部材14は、中間筒部材22における一対の窓部24,24および一対の溝状部26,26を外れた部分で中間筒部材22に嵌着されている。更に、中間筒部材22とアウタ筒部材14の嵌着部分には、シールゴム層40が圧縮状態で介在しており、中間筒部材22とアウタ筒部材14の嵌着面間が流体密に封止されている。
また、中間筒部材22とアウタ筒部材14の間には、一対のオリフィス組立体42,42が配設されている。オリフィス組立体42は、図6〜10に示すように、アウタ筒部材14の内周面に沿って周方向へ延びる略半円筒形状の部材であって、径方向で対向するように配された一対のオリフィス部材44,44を備えている。
オリフィス部材44は、金属や合成樹脂などで形成された硬質の型成形品であって、全体として略半円筒形状とされており、外周面がアウタ筒部材14の内周面に沿った半円筒状の湾曲面とされている。更に、オリフィス部材44は、周方向の中央部分が両端部分よりも厚肉とされており、厚肉の中央部分には、オリフィス部材44の内周面に開口する第一の凹所46と、第一の凹所46の底面に開口する第二の凹所48が形成されている。更にまた、オリフィス部材44の内周面における厚肉の中央部分と薄肉の両端部分の境界部分には、平坦面としての段差面50が形成されている。この段差面50は、一対のオリフィス部材44,44が対向する径方向(図8中の上下方向)に対して略直交して広がる平面であって、一対のオリフィス部材44,44が対向する径方向で内周側へ向けて突出する突起部52が、段差面50において突出してオリフィス部材44に一体形成されている。なお、オリフィス部材44の周方向の両端部分は、周方向の中央部分よりも軸方向寸法を小さくされている。
さらに、オリフィス部材44には、外周面に開口して周方向に延びる第一の周溝54と第二の周溝56が形成されている。第一の周溝54は、オリフィス部材44の周方向の全長に亘って連続して形成されて、オリフィス部材44の周方向両端面に開口していると共に、オリフィス部材44の周方向中央部を径方向に貫通する連通孔としての中間連通孔58が形成されており、中間連通孔58が第二の凹所48に接続されている。一方、第二の周溝56は、オリフィス部材44の周方向半周よりも短い長さでオリフィス部材44の周方向一方の端部に形成されており、一方の端部がオリフィス部材44の周方向端面に開口していると共に、他方の端部がオリフィス部材44を貫通する端部連通孔60を通じてオリフィス部材44の内周側に連通されている。なお、第一の周溝54の周方向中央部分が軸方向に傾斜して周方向へ延びていると共に、第一の周溝54の周方向一方の端部がオリフィス部材44の軸方向中央に対して軸方向外側へ偏倚しており、軸方向に偏倚して配された第一の周溝54の周方向端部に対して、第二の周溝56が軸方向に並んで並列的に配置されている。
また、オリフィス部材44の内周面には、内周蓋部材62が重ね合わされている。内周蓋部材62は、金属などで形成された板状の部材であって、周方向の両端部分が平坦な板形状とされて、本体ゴム弾性体16の当接部38が押し当てられる当接面としての当接平面63を内周側に備えていると共に、周方向の中央部分が外周側へ凸となる湾曲板形状とされている。本実施形態の内周蓋部材62は、周方向一方の端部に切欠き64が設けられており、周方向一方の端部が他方の端部よりも軸方向寸法を小さくされている。
さらに、内周蓋部材62の周方向中央部分には、厚さ方向に貫通する2つの貫通孔66,66が、周方向で相互に離れて形成されている。更にまた、内周蓋部材62の周方向両端部には、オリフィス部材44の突起部52に対応する断面形状で厚さ方向に貫通する孔部68が形成されている。本実施形態では、内周蓋部材62において、切欠き64を設けられた周方向一方の端部に1つの孔部68が形成されていると共に、切欠き64のない周方向他方の端部には、軸方向(図7中の上下方向)で相互に離れた位置に2つの孔部68が形成されている。なお、内周蓋部材62は、好適にはプレス金具とされており、矩形に打ち抜かれた素板の長辺方向の中央部分を厚さ方向に湾曲させると共に、切欠き64や貫通孔66,孔部68を打ち抜いて形成することにより、得ることができる。
そして、内周蓋部材62は、オリフィス部材44の内周面に径方向で重ね合わされている。すなわち、湾曲板形状とされた内周蓋部材62の周方向中央部分が、厚肉とされたオリフィス部材44の周方向中央部分に重ね合わされていると共に、平板形状とされた内周蓋部材62の周方向両端部分が、オリフィス部材44の段差面50に重ね合わされている。
さらに、オリフィス部材44の突起部52が内周蓋部材62の孔部68に挿通されており、突起部52と孔部68の壁内面との係止によって、オリフィス部材44と内周蓋部材62が周方向および軸方向で相対的に位置決めされている。更にまた、孔部68に挿通されて内周蓋部材62よりも内周側へ突出した突起部52の突出先端部が、軸方向に押し潰されて拡径されることにより、内周蓋部材62における孔部68の開口周縁部に係止されている。このような突起部52のかしめによって、オリフィス部材44と内周蓋部材62が相互に連結されていると共に、突起部52と内周蓋部材62における孔部68の開口周縁部との係止によって、オリフィス部材44と内周蓋部材62が相対的に位置決めされている。
また、オリフィス部材44と内周蓋部材62の連結によって、オリフィス部材44に設けられた第一の凹所46の開口部が内周蓋部材62で覆われており、オリフィス部材44と内周蓋部材62の径方向間には、収容領域70が第一の凹所46によって形成されている。
この収容領域70には、可動部材72が配設されている。可動部材72は、図10〜12に示すように、板状のゴム弾性体とされており、略円板形状の受圧部74と、受圧部74の周囲を囲むように設けられて受圧部74よりも厚肉とされた円環状の狭持部76と、狭持部76から外周側へ突出する突出片78とを、一体で備えている。
可動部材72は、オリフィス部材44の第一の凹所46に挿入配置されており、オリフィス部材44に内周蓋部材62が装着されることにより、可動部材72の狭持部76がオリフィス部材44と内周蓋部材62の径方向間で挟持される。更に、可動部材72の受圧部74が第二の凹所48の開口部を覆うように配されていると共に、内周蓋部材62の貫通孔66,66が受圧部74に向けて開口するように配置されている。このように、可動部材72がオリフィス部材44と内周蓋部材62の径方向間に配設されることにより、収容領域70が可動部材72によって仕切られており、収容領域70における可動部材72よりも内周蓋部材62側に貫通孔66,66が接続されていると共に、可動部材72よりもオリフィス部材44側に中間連通孔58が接続されている。
かくの如き構造とされたオリフィス組立体42は、図1,2に示すように、アウタ筒部材14の内周を周方向に延びるように配されて、中間筒部材22とアウタ筒部材14の径方向間で支持されている。すなわち、オリフィス組立体42は、中間筒部材22の窓部24を周方向に跨ぐように配設されて、周方向の両端部が中間筒部材22の一対の溝状部26,26の各一方に嵌め入れられており、周方向の両端部が中間筒部材22とアウタ筒部材14の径方向間で挟持されている。
ここにおいて、オリフィス組立体42における内周蓋部材62の周方向両端部には、中間筒部材22の窓部24の開口縁部に固着された本体ゴム弾性体16の当接部38が、上下方向で内周側から当接している。本実施形態では、本体ゴム弾性体16の当接部38が、内周蓋部材62の周方向両端部の内周面に設けられた当接平面63に押し当てられる。この当接平面63は、オリフィス部材44と内周蓋部材62の重ね合わせ方向、換言すれば、内周蓋部材62に対する当接部38の当接方向に対して、略直交して広がっている。
このように、本体ゴム弾性体16の当接部38が内周蓋部材62の当接平面63に当接していることにより、仮に突起部52による係止固定が解除されたとしても、オリフィス部材44と内周蓋部材62の分離が本体ゴム弾性体16の当接部38によって防止されるようになっており、オリフィス部材44と内周蓋部材62が本体ゴム弾性体16の当接部38によって位置決めされている。
本実施形態では、本体ゴム弾性体16の当接部38が、内周蓋部材62の周方向両端部に対して圧縮された状態で押し当てられており、内周蓋部材62が当接部38の弾性によってオリフィス部材44側へ付勢されている。なお、本体ゴム弾性体16の当接部38は、突起部52を外れた位置で内周蓋部材62に当接していると共に、突起部52の先端面にも当接している。
また、オリフィス組立体42が窓部24の開口部を覆うことにより、オリフィス組立体42と本体ゴム弾性体16のポケット部34の壁内面との間には、流体室80が形成されている。この流体室80は、非圧縮性流体が封入されていると共に、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって形成されており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間への振動入力時に内圧変動が惹起されるようになっている。なお、流体室80に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが好適に採用され、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
さらに、流体室80は、貫通孔66,66によって収容領域70における可動部材72よりも内周蓋部材62側に連通されていることから、収容領域70における可動部材72よりも内周蓋部材62側には、流体室80と同じ非圧縮性流体が封入されている。
また、一対のオリフィス組立体42,42が中間筒部材22に径方向両側から装着されており、それら一対のオリフィス組立体42,42が一対の窓部24,24の各一方を周方向に跨ぐように配設されている。更に、一方のオリフィス組立体42の第一の周溝54は、周方向一方の端部が他方のオリフィス組立体42の第二の周溝56に周方向で接続されていると共に、周方向他方の端部が他方のオリフィス組立体42の第一の周溝54に周方向で接続されている。更にまた、一方のオリフィス組立体42の第二の周溝56は、周方向端部が他方のオリフィス組立体42の第一の周溝54に周方向で接続されている。これにより、一対のオリフィス組立体42,42の各第一の周溝54および第二の周溝56が、周方向に連続しており、全体として一周程度の長さで延びている。なお、一対のオリフィス組立体42,42の各オリフィス部材44は、周方向端面における第一の周溝54の開口と第二の周溝56の開口の軸方向間が、溝状部26に設けられた当接突部32に対して流体密に押し当てられている。また、本実施形態において、一対のオリフィス組立体42,42は、共通構造とされており、設計の容易化や金型の種類の削減などによって製造コストの低減などが図られている。
さらに、一対のオリフィス組立体42,42の各オリフィス部材44は、アウタ筒部材14に沿って周方向に延びており、オリフィス部材44,44の外周面がアウタ筒部材14で覆われることにより、各第一の周溝54および第二の周溝56の外周開口がアウタ筒部材14によって閉塞されている。これにより、オリフィス部材44,44とアウタ筒部材14の間を周方向に延びるトンネル状の流路が形成されており、この流路によって本実施形態のオリフィス通路82が形成されている。なお、オリフィス通路82は、後述するように流体室80に接続されることからも明らかなように、内部に非圧縮性流体が封入されている。更に、オリフィス通路82に接続されることからも分かるように、収容領域70における可動部材72よりも外周側にも非圧縮性流体が封入されている。
オリフィス通路82は、チューニング周波数の異なる3つの通路を設定されている。すなわち、オリフィス通路82は、両端部が端部連通孔60,60を通じて一対の流体室80,80の各一方に連通されていることから、一対の流体室80,80を相互に連通する低周波通路を備えている。更に、オリフィス通路82は、周方向中間において中間連通孔58を通じて収容領域70における可動部材72よりもオリフィス部材44側に連通されていることから、流体室80と収容領域70を相互に連通する中周波通路を備えていると共に、収容領域70,70を相互に連通する高周波通路を備えている。要するに、オリフィス通路82は、一対の流体室80,80と一対のオリフィス組立体42,42の収容領域70,70にそれぞれ接続されており、低周波通路と中周波通路と高周波通路の各通路における流体流動が、入力振動の周波数に応じて適宜に生ぜしめられるようになっている。
オリフィス通路82に設定された3つの通路は、壁ばね剛性を考慮しつつ通路断面積(A)と通路長(L)の比を調節することで、内部を流動する流体の共振周波数であるチューニング周波数が設定されており、本実施形態では、通路長の違いによって、チューニング周波数が相互に異なる低周波通路と中周波通路と高周波通路が設定されている。尤も、流体室80と収容領域70の壁ばね剛性を調節するなどして、例えば、オリフィス通路82に設定された3つの通路のチューニング周波数を全て同じに設定したり、2つの通路のチューニング周波数を同じに設定するとともに他の1つの通路のチューニング周波数をそれらと異なる周波数に設定することも可能である。
このような本実施形態に従う構造のサスペンションブッシュ10は、車両への装着状態において一対の流体室80,80が配置された径方向で振動が入力されると、入力振動の周波数に応じてオリフィス通路82において流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用などの流動作用に基づく防振効果が発揮される。なお、貫通孔66を通じて流体室80に連通された収容領域70の内周蓋部材62側の領域は、オリフィス通路82に接続された収容領域70のオリフィス部材44側の領域に対して、可動部材72で仕切られていることから、中乃至高周波数の小振幅振動の入力時には、可動部材72の受圧部74が厚さ方向に微小変形することにより、流体室80と収容領域70のオリフィス部材44側との間で液圧が伝達されるようになっている。一方、低周波大振幅振動の入力時には、可動部材72の受圧部74の変形が追従しきれず、流体室80の液圧が収容領域70に伝達されなくなって、オリフィス通路82における低周波通路を通じた流体流動が効率的に惹起されるようになっている。
また、著しく大きな振幅の振動が一対の流体室80,80が配置された径方向に入力されると、図13に示すように、本体ゴム弾性体16のストッパゴム36が内周蓋部材62に当接して圧縮される。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位量が制限されて、本体ゴム弾性体16の過大な変形による損傷などが防止されるようになっている。
さらに、ストッパゴム36が内周蓋部材62に当接した図13の状態で、例えばインナ軸部材12にねじり方向やこじり方向の力が作用するなどして、オリフィス部材44と内周蓋部材62を連結する突起部52に剪断力が作用することにより、仮に突起部52が破壊されたとしても、内周蓋部材62が本体ゴム弾性体16の当接部38によってオリフィス部材44側へ付勢されていることにより、オリフィス部材44と内周蓋部材62が相互に重ね合わされた状態に保持される。これにより、オリフィス部材44と内周蓋部材62の分離が防止されることから、可動部材72がオリフィス部材44と内周蓋部材62の間で支持された状態に保持されて、目的とする防振性能が維持される。このように、オリフィス部材44と内周蓋部材62をかしめによって連結する突起部52が、万が一損傷したとしても、本体ゴム弾性体16と内周蓋部材62の当接よるオリフィス部材44と内周蓋部材62の位置決めがフェイルセーフとして機能することから、優れた信頼性が実現される。
しかも、本体ゴム弾性体16の当接部38が内周蓋部材62に当接していることで、ストッパゴム36から内周蓋部材62へ及ぼされる力が、突起部52だけでなく当接部38によっても分担支持されることから、突起部52に作用する力が低減されて、突起部52の損傷が生じ難くなる。
加えて、本体ゴム弾性体16の当接部38が内周蓋部材62に当接していることで発揮される上記の如き信頼性向上などの効果は、オリフィス組立体42を本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品28に対して組み付けることで発揮されるものであり、かしめなどの特別な作業が不要であることから、製造工程数や製造コストの増加を要することなく、信頼性の向上などを簡単に実現することができる。
また、本実施形態では、オリフィス部材44の突起部52が内周蓋部材62の孔部68に挿通されていることから、突起部52の挿通方向と直交する方向において、突起部52と孔部68の壁内面との係止による位置決め作用が発揮される。これにより、オリフィス部材44と内周蓋部材62が重ね合わせ方向と直交する方向でも位置決めされて、目的とする防振性能などをより安定して得ることができる。
さらに、内周蓋部材62の孔部68に挿通されたオリフィス部材44の突起部52の突出先端部が、押し潰されて拡径せしめられることによって内周蓋部材62における孔部68の開口周縁部に係止されている。このように、突起部52がかしめによって内周蓋部材62に係止されることにより、オリフィス部材44と内周蓋部材62の連結状態がより有利に維持される。しかも、仮に突起部52が破損するなどして突起部52のかしめによるオリフィス部材44と内周蓋部材62の連結が解除されたとしても、オリフィス部材44と内周蓋部材62は、本体ゴム弾性体16の内周蓋部材62への当接によって、相対的に位置決めされた状態に保持される。
また、突起部52が内周蓋部材62の周方向両端部に形成された孔部68に挿通されていると共に、本体ゴム弾性体16の当接部38が内周蓋部材62の周方向両端部で内周蓋部材62の内周面に当接している。これにより、本体ゴム弾性体16の内周蓋部材62への当接による位置決め構造と、突起部52の孔部68への挿通による位置決め構造が、何れも内周蓋部材62の周方向両端部において構成されることから、内周蓋部材62の周方向中央部分では、流体室80と収容領域70を連通する貫通孔66,66を形成するなど、大きな設計自由度が実現される。
さらに、オリフィス部材44と内周蓋部材62が周方向に離れた位置でそれぞれ位置決めされることから、オリフィス部材44と内周蓋部材62が位置決めされた状態でより安定して保持される。
また、内周蓋部材62の内周面において本体ゴム弾性体16の当接部38が当接する部分である当接平面63が、平板形状とされた内周蓋部材62の周方向両端部に設定されて、本体ゴム弾性体16と内周蓋部材62の当接方向(図1中の上下方向)に対して略直交する方向に広がっている。これにより、例えば本体ゴム弾性体16が内周蓋部材62に押し当てられる場合にも、本体ゴム弾性体16が内周蓋部材62の内周面に沿って面方向に移動し難く、本体ゴム弾性体16の内周蓋部材62への当接による位置決め作用を効率的に得ることができる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、本体ゴム弾性体16における内周蓋部材62への当接部分は、内周蓋部材62の周方向両端部分に当接するように設けられることが望ましいが、例えば、内周蓋部材62の周方向中間部分や中央部分に当接するようにしても良い。
前記実施形態では、オリフィス部材44と内周蓋部材62が突起部52のかしめによって連結されている構造を例示したが、オリフィス部材44と内周蓋部材62の連結構造は、必ずしもかしめに限定されるものではなく、例えば、突起部52が孔部68に圧入されることで連結されるようにしても良いし、オリフィス部材44と内周蓋部材62を溶着や接着によって連結することもできる。更に、例えばオリフィス組立体42において、オリフィス部材44と内周蓋部材62が連結されていない、或いは接着剤などで組付け完了まで連結状態で保持される程度の仮連結をされており、オリフィス組立体42が一体加硫成形品28およびアウタ筒部材14へ装着されて、本体ゴム弾性体16の当接部38が内周蓋部材62に当接することにより、オリフィス部材44と内周蓋部材62が当接部38の弾性のみによって連結状態に保持されるようにしても良い。
また、オリフィス部材を含むオリフィス組立体は、必ずしも一対が設けられる必要はなく、例えば、C字状の一つのオリフィス組立体を採用しても良い。また、本発明に係る流体封入式筒形防振装置において、2つのオリフィス組立体を有する構造を採用する場合には、2つのオリフィス組立体の一方を本発明に係る構造とすると共に、他方を従来構造とすることもできる。
前記実施形態では、狭持部76がオリフィス部材44と内周蓋部材62の間で挟持されて、受圧部74の弾性変形によって液圧伝達作用を発揮する可動部材72を例示したが、例えば、可動部材が硬質部材乃至は弾性体で形成された板状とされて、可動部材が厚さ方向の変位を許容された態様で収容領域70に配設されており、可動部材の変位によって液圧伝達作用が発揮されるようにしても良い。
本発明は、サスペンションブッシュにのみ適用されるものではなく、エンジンマウントやサブフレームマウント、デフマウント等として用いられる流体封入式筒形防振装置にも適用可能である。更に、本発明の適用範囲は、自動車用の流体封入式筒形防振装置に限定されるものではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等に用いられる流体封入式筒形防振装置にも好適に採用され得る。