JP2018070459A - 医薬複合物、ポリマー担体、それらの製造方法、及び癌、リウマチ又は炎症の治療剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】高分子物質当たりの医薬化合物の導入率が高く、穏やかな条件で純度よく調製することができ、血液中では安定であるが、癌、リウマチ、炎症等の部位で医薬化合物を放出することができる医薬複合物を提供すること。【解決手段】式:〔式中、GPは、GP−(CO2H)nとなって、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する高分子物質を表す。nは、正の整数を表す。Xは、スペーサーを表す。DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕で示される医薬複合物。【選択図】図1
Description
本発明は、癌、リウマチ、炎症等の部位に医薬化合物をターゲティングするための医薬複合物、そのためのポリマー担体、それらの製造方法、及びそれらを用いる癌、リウマチ又は炎症の治療剤に関する。
医薬化合物を治療が必要な部位に選択的に集めることができるターゲッティング技術は、医薬化合物の副作用を減らして効率的に治療することができるため、注目されている。ターゲッティングは、その利用するメカニズムによって、標的部位との特異的相互作用を利用するアクティブターゲッティングと、物理的、化学的な性質と生体側の解剖学的、生理学的特性とのバランスで受動的に規定される現象を利用するパッシブターゲィングとに大別される。当初、モノクローナル抗体等を利用するアクティブターゲッティングが積極的に研究されたが、1980年代後半以降むしろパッシブターゲティングの重要性が認識されている(非特許文献1)。
高分子物質を静脈注射した場合、一般臓器への分布は遅く、通常、分布は実質的に循環血液中に限定される。分子量が約3万以下の高分子物質は、糸球体濾過を受けるために尿中に速やかに排泄され、正電荷を持った高分子物質のほうが排泄されやすい。糸球体濾過を受けない大きさの高分子物質は、肝臓の末梢血管系の存在する貪食・貪飲細胞によって捕捉されやすい。
癌病巣、炎症部位等では、毛細血管壁の透過性が亢進している。特に腫瘍組織では、毛細血管の透過性が亢進し、リンパ系が未発達あるいは欠如しているために、かなり大きな物質でも血管から漏出し、蓄積しやすい。この現象はEPR効果(enhanced permeability and retention effect)と呼ばれる。腫瘍組織内では分子量の大きい物質でも組織内に容易に拡散し、また腫瘍細胞はエンドサイトーシスが亢進しており、高分子物質が細胞内に効率的に取り込まれる。このような腫瘍組織の特性を利用することで、全身投与した抗癌剤を腫瘍組織で選択的に血管外に漏出・蓄積させ、標的である癌細胞に効率的に到達させるパッシブターゲッティングが可能である。高い腫瘍へのターゲッティング効率を得るためには、尿中排泄を受けにくく、肝臓にも取り込まれにくい血中滞留性のよい高分子担体が適しており、例えば糸球体濾過を受けない分子量5万以上で弱い負電荷をもつ高分子物質が特に好ましいとされる(非特許文献1)。
EPR効果を用いる医薬化合物のパッシブターゲッティングの研究が種々報告されている。
非特許文献2には、高分子物質としてコンドロイチン硫酸を用い、そのカルボキシル基にグリシンリンカーを結合させ、プレドニゾロンをエステル結合させた高分子複合物(コンドロイチン硫酸−グリシン−プレドニゾロン)が開示されている。しかし、本高分子複合物中のプレドニゾロン含有量は3.9%(w/w)であり、十分に高いとは言えない。また、プレドニゾロンの導入が最終工程ではなく、より早い段階でなされているため、多くの反応工程中でプレゾニドロンの分解が起こる可能性があり、医薬品の品質管理が容易ではないとの問題がある。
非特許文献2には、高分子物質としてコンドロイチン硫酸を用い、そのカルボキシル基にグリシンリンカーを結合させ、プレドニゾロンをエステル結合させた高分子複合物(コンドロイチン硫酸−グリシン−プレドニゾロン)が開示されている。しかし、本高分子複合物中のプレドニゾロン含有量は3.9%(w/w)であり、十分に高いとは言えない。また、プレドニゾロンの導入が最終工程ではなく、より早い段階でなされているため、多くの反応工程中でプレゾニドロンの分解が起こる可能性があり、医薬品の品質管理が容易ではないとの問題がある。
非特許文献3には、高分子物質としてアルブミンを用い、その側鎖上のアミノ基にコハク酸−オリゴペプチドをリンカーとして結合させ、ダウノルビシンをアミド結合させた高分子複合物(アルブミン−コハク酸−オリゴペプチド−ダウノルビシン)が開示されている。しかし、この方法ではダウノルビシン−オリゴペプチド中間体を合成する必要があり、中間体の合成や精製がかなり難しいと思われる。また、ダウノルビシンの導入が最終工程ではなく、より早い段階でなされているために、医薬品の品質管理の問題もある。
非特許文献4には、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタアクリレート(HPMA)とデキサメタゾンをグリシルグリシンを介して結合させたメタアクリレートとの共重合体が開示されている。デキサメタゾンの導入が最終工程ではなく、かなり早い段階でなされており、その合成や精製がかなり難しいと思われるため、医薬品の品質管理の問題がある。また、共重合体が生体物質ではないために、代謝されにくいとの問題もある。
非特許文献4には、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタアクリレート(HPMA)とデキサメタゾンをグリシルグリシンを介して結合させたメタアクリレートとの共重合体が開示されている。デキサメタゾンの導入が最終工程ではなく、かなり早い段階でなされており、その合成や精製がかなり難しいと思われるため、医薬品の品質管理の問題がある。また、共重合体が生体物質ではないために、代謝されにくいとの問題もある。
非特許文献5には、高分子物質としてゼラチンを用い、その側鎖上のカルボキシル基にグリシルグリシンヒドラジドをリンカーとして結合させ、ドキソルビシンのカルボニル基にヒドラジドを脱水縮合させた高分子複合物(ゼラチン−グリシルグリシンヒドラジド−ドキソルビシン)が開示されている。しかし、本高分子複合物中のドキソルビシン含有量は3.4〜5.0%(w/w)である。反応原料として平均分子量10万のゼラチンを用いたにも関わらず、最終の高分子複合体では平均分子量が2.2万となっており、反応工程中の品質管理が容易ではなく、さらに前記の通り、分子量が3万以下の高分子物質は糸球体濾過がなされるため、ターゲッティングにも適していないと思われる。さらに、ヒドラジンは毒性が強く、製造や精製過程で特別な取扱注意が求められる。
非特許文献6〜8には、高分子物質としてPEG、ポリサクシンイミド、酸化ペクチンを用いた高分子複合物が開示されているが、前記先行文献と同様の問題がある。
非特許文献6〜8には、高分子物質としてPEG、ポリサクシンイミド、酸化ペクチンを用いた高分子複合物が開示されているが、前記先行文献と同様の問題がある。
高倉喜信,丸山一雄,横山昌幸,Drug Delivery System, Vol.14, No.6, November 1999, p.425-456
Onishi H, et.al., Biol. Pharm. Bull., 2014, 37(10), p.1641-1649
Trouet A, et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 1982, 79(2), p.626-629
Liu XM, et.al., Pharm. Res., 2008, 25(12), p.2910-2919
Wu DG, et.al., Pharm. Res., 2013, 30, p.2087-2096
Liu XM, et.al., Biomacromolecules, 2010, 11, p.2621-2628
Lee M, et.al., Biomacromolecules, 2015, 16, p.136-144
Takei T, et.al., Biomacromolecules, 2010, 11, p.3525-3530
高分子物質当たりの医薬化合物の導入率が高く、穏やかな条件で純度よく調製することができ、血液中では安定であるが、癌、リウマチ、炎症等の部位で医薬化合物を放出することができる医薬複合物を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物をリンカーの材料として用いることで、穏やかな条件で高純度に、医薬化合物が高い導入率で導入された高分子複合物を調製することができ、得られた高分子複合物が弱酸性下で医薬化合物を放出することを見出し、本発明を完成した。本発明は、かかる知見に基づくものであり、具体的には、本発明は以下の通りである。
[1] 式:
〔式中、GPは、GP−(CO2H)nとなって、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する高分子物質を表す。
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
で示される医薬複合物。
[2] Xが、式
〔式中、Yは、置換されていてもよい鎖状又は環状の炭化水素の2価基を表す。
mは、0又は1を表す。〕
で示されるリンカーである、[1]に記載の医薬複合物。
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
で示される医薬複合物。
[2] Xが、式
mは、0又は1を表す。〕
で示されるリンカーである、[1]に記載の医薬複合物。
[3] さらに、癌、リウマチ又は炎症の組織と親和性を有する基を有する、[1]又は[2]に記載の医薬複合物。
[4] 以下の工程による、[1]〜[3]のいずれかに記載の医薬複合物の製造方法。
工程1:式(1)の高分子物質のカルボキシル基を、NH2−X−CONHNH2のアミノ基を反応させて、式(2)のポリマー担体を調製する工程、及び
工程2:式(2)のポリマー担体に、DG=Oで表されるカルボニル基を有する医薬化合物を反応させて、式(3)の医薬複合物を調製する工程。
〔式中、GP、n、X及びDGは、[1]における意義と同義である。〕
[4] 以下の工程による、[1]〜[3]のいずれかに記載の医薬複合物の製造方法。
工程1:式(1)の高分子物質のカルボキシル基を、NH2−X−CONHNH2のアミノ基を反応させて、式(2)のポリマー担体を調製する工程、及び
工程2:式(2)のポリマー担体に、DG=Oで表されるカルボニル基を有する医薬化合物を反応させて、式(3)の医薬複合物を調製する工程。
[5] 式:
〔式中、GP、n及びXは、[1]における意義と同義である。〕
で示されるポリマー担体。
[6] Xが、式
〔式中、Y及びmは、[2]における意義と同義である。〕
で示されるリンカーである、[5]に記載のポリマー担体。
[7] [1]〜[3]のいずれかに記載の医薬複合物を含有する、癌、リウマチ又は炎症の治療剤。
で示されるポリマー担体。
[6] Xが、式
で示されるリンカーである、[5]に記載のポリマー担体。
[7] [1]〜[3]のいずれかに記載の医薬複合物を含有する、癌、リウマチ又は炎症の治療剤。
本発明によって、穏やかな条件で高純度に、医薬化合物を高い導入率で導入した高分子複合物を調製することができる。得られた高分子複合物は、血液中の中性では医薬化合物を放出しないが、癌、リウマチ、炎症等の対象部位の弱酸性下で医薬化合物を放出する。従って、医薬化合物を対象部位にターゲティングすることができ、その効率的薬物放出によって、医薬化合物の薬理効果を対象部位で選択的に発揮させて、医薬化合物の薬理効果を向上させることができ、副作用を遥かに軽減することができる。
本発明のポリマー担体は、カルボニルを有する医薬化合物と結合させて、様々な種類の医薬複合物を調製することができ、汎用性が高い。
本発明のポリマー担体は、カルボニルを有する医薬化合物と結合させて、様々な種類の医薬複合物を調製することができ、汎用性が高い。
1.医薬複合物
本発明の医薬複合物は、式:
〔式中、GPは、GP−(CO2H)nとなって、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する高分子物質を表す。
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
で示される。
本発明の医薬複合物は、式:
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
で示される。
本発明の医薬複合物に含まれるGP−(CO2H)nで表される「高分子物質」は、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する。好ましくは重量平均分子量が4万以上のものが挙げられ、さらに好ましくは5万以上のものが挙げられる。糸球体濾過を受けにくく、目的の治療部位に医薬化合物を集めることができるからである。また、正電荷を持つものよりも、中性のもの、負電荷を持つものが好ましく、より好ましくは弱い負電荷を持つものが挙げられる。弱い負電荷を持つもののほうが肝臓での吸収が少ないからである。
高分子物質は、例えば、カルボキシル基を有する合成高分子物質、カルボキシル基を有する天然高分子物質等が挙げられる。合成高分子物質としては、具体的にはポリグルタミン酸、カルボキシメチルキトサン、サクシニルキトサン、ポリアクリル酸等が挙げられ、天然高分子物質としては、具体的にはコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等が挙げられる。弱い負電荷を有し天然物である点で、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等が好ましく、より好ましくはコンドロイチン硫酸が挙げられる。
高分子物質は、例えば、カルボキシル基を有する合成高分子物質、カルボキシル基を有する天然高分子物質等が挙げられる。合成高分子物質としては、具体的にはポリグルタミン酸、カルボキシメチルキトサン、サクシニルキトサン、ポリアクリル酸等が挙げられ、天然高分子物質としては、具体的にはコンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等が挙げられる。弱い負電荷を有し天然物である点で、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等が好ましく、より好ましくはコンドロイチン硫酸が挙げられる。
高分子物質は、医薬化合物を適用部位にターゲティングして医薬化合物を適用部位で放出するものであるから、より多くの医薬化合物を適用部位に送り込むものが好ましい。従って、より多くの医薬化合物を結合した高分子物質が好ましい。
高分子物質を式:GP−(CO2H)nで記載しているが、高分子物質中のn個のカルボキシル基が医薬化合物と結合することを示すだけであり、高分子分子にはn個のカルボキシル基の他にカルボキシル基を有していてもよい。
nは、正の整数を表し、高分子物質に含まれるカルボキシル基の数に応じて変わる。好ましくは、高分子物質に含まれるカルボキシル基の総数の10〜100%の数字が挙がれ、好ましくは20〜95%の数値が挙げられ、より好ましくは30〜90%の数値が挙げられる。
高分子物質を式:GP−(CO2H)nで記載しているが、高分子物質中のn個のカルボキシル基が医薬化合物と結合することを示すだけであり、高分子分子にはn個のカルボキシル基の他にカルボキシル基を有していてもよい。
nは、正の整数を表し、高分子物質に含まれるカルボキシル基の数に応じて変わる。好ましくは、高分子物質に含まれるカルボキシル基の総数の10〜100%の数字が挙がれ、好ましくは20〜95%の数値が挙げられ、より好ましくは30〜90%の数値が挙げられる。
コンドロイチン硫酸は、構成される糖の種類、硫酸エステルの数及び位置、その由来等によって、大きくA、B、C、D、Eの5つの種類に分類される。コンドロイチン硫酸は、基本的にはD−グルクロン酸又はイズロン酸とN−アセチルガラクトサミン硫酸からなる二糖単位の繰り返し構造を有しているが、現実には他の糖を含んでいる。本発明においては、コンドロイチン硫酸に含まれるD−グルクロン酸又はイズロン酸のカルボキシル基を足掛かりとして、医薬化合物を結合させる。
さらに、高分子物質は、医薬化合物だけではなく、癌、リウマチ、炎症等の組織に親和性を有するリガンドを結合させることもできる。かかるリガンドを結合させることで、本発明の医薬複合物がパッシブターゲッティングによって目的の治療部位に集めるだけではなく、リガンドの親和性を利用して、アクティブターゲッティングにより目的の治療部位により多くを集めることができる。
かかるリガンドとしては、例えば癌、リウマチ、炎症、新生血管等に存在する物質に親和性を有するものが挙げられ、具体的には、葉酸、抗体、トランスフェリン、オリゴペプチド(例えばRDG関連)等が挙げられる。リガンドの結合は、常法に従って行うことができる。
かかるリガンドとしては、例えば癌、リウマチ、炎症、新生血管等に存在する物質に親和性を有するものが挙げられ、具体的には、葉酸、抗体、トランスフェリン、オリゴペプチド(例えばRDG関連)等が挙げられる。リガンドの結合は、常法に従って行うことができる。
本発明の医薬複合物に含まれるDG=Oで表される「医薬化合物」は、ヒドラジドと脱水縮合をすることができるカルボニルを有する医薬化合物であれば、いかなるものであってもよい。好ましくは、癌、リウマチ、炎症等を治療するものが挙げられる。癌、リウマチ、炎症等を治療するカルボニル基を有する医薬化合物としては、例えば、ドキソルビシン、アドリアマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アムルビシン等のアンスラサイクリン系制癌剤、プレドニゾロン、ロキソプロフェン、ケトプロフェン、アンピロキシカム等の抗炎症剤、あるいはプロスタグランジンE1等のプロスタグランジン類が挙げられる。
本発明の医薬複合物に含まれるXで表される「リンカー」は、高分子物質と医薬化合物をつなぐものであり、その材料となる物質として示せば、NH2−X−CONHNH2となる。NH2−X−CONHNH2の左端のアミノ基が高分子物質のカルボキシル基とアミド結合で結合し、右端のヒドラジド基が医薬化合物のカルボニル基と脱水縮合をして結合する。
ヒドラジド基と医薬化合物のカルボニル基が縮合した構造は、後の試験例で示す通り、中性条件では加水分解の進行が遅いが、酸性条件下で加水分解が進行し、医薬化合物が放出される。すなわち、中性の生理条件下では、医薬化合物の放出は抑制され、癌組織等の酸性環境で、又はリソソームの酸性条件で医薬化合物が速やかに放出される。従って、本発明の医薬複合物における上記構造は、癌組織及び癌細胞に対するターゲッティング治療法のために極めて有用である。
ヒドラジド基と医薬化合物のカルボニル基が縮合した構造は、後の試験例で示す通り、中性条件では加水分解の進行が遅いが、酸性条件下で加水分解が進行し、医薬化合物が放出される。すなわち、中性の生理条件下では、医薬化合物の放出は抑制され、癌組織等の酸性環境で、又はリソソームの酸性条件で医薬化合物が速やかに放出される。従って、本発明の医薬複合物における上記構造は、癌組織及び癌細胞に対するターゲッティング治療法のために極めて有用である。
リンカーXとしては、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選択されるヘテロ原子を含んでいてもよく置換されていてもよい鎖状又は環状の炭化水素の2価基が挙げられる。リンカーの長さとしては、直鎖の炭化水素鎖であったとして、炭素数1〜20の長さが挙げられ、好ましくは炭素数2〜15の長さが挙げられ、より好ましくは炭素数3〜10の長さが挙げられる。
鎖状又は環状の炭化水素の2価基としては、例えば、炭素数1〜20の飽和若しくは不飽和の直鎖又は分岐鎖の鎖状炭化水素基、炭素数3〜7の飽和若しくは不飽和の環状炭化水素の2価基等が挙げられる。
鎖状又は環状の炭化水素の置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン原子、アルコキシ、アミノ、ニトロ、カルバモイル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシアルキル、オキソ等が挙げられる。
鎖状又は環状の炭化水素の2価基としては、例えば、炭素数1〜20の飽和若しくは不飽和の直鎖又は分岐鎖の鎖状炭化水素基、炭素数3〜7の飽和若しくは不飽和の環状炭化水素の2価基等が挙げられる。
鎖状又は環状の炭化水素の置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン原子、アルコキシ、アミノ、ニトロ、カルバモイル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシアルキル、オキソ等が挙げられる。
好ましいリンカーとして、例えば、式
〔式中、Yは、置換されていてもよい鎖状又は環状の炭化水素の2価基を表す。
mは、0又は1を表す。〕
で示されるリンカーが挙げられる。
Yで示される鎖状又は環状の炭化水素の2価基としては、例えば、炭素数1〜20の飽和若しくは不飽和の直鎖又は分岐鎖の鎖状炭化水素基、炭素数3〜7の飽和若しくは不飽和の環状炭化水素の2価基等が挙げられる。好ましい鎖状又は環状の炭化水素の2価基としては、炭素数1〜20の飽和若しくは不飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられ、より好ましくは、炭素数2〜15の飽和若しくは不飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられ、さらに好ましくは炭素数3〜10の飽和若しくは不飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられ、特に好ましくは炭素数3〜10の飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられる。
Yで示される鎖状又は環状の炭化水素の置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン原子、アルコキシ、アミノ、ニトロ、カルバモイル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシアルキル、オキソ等が挙げられる。
mは、0又は1を表す。〕
で示されるリンカーが挙げられる。
Yで示される鎖状又は環状の炭化水素の2価基としては、例えば、炭素数1〜20の飽和若しくは不飽和の直鎖又は分岐鎖の鎖状炭化水素基、炭素数3〜7の飽和若しくは不飽和の環状炭化水素の2価基等が挙げられる。好ましい鎖状又は環状の炭化水素の2価基としては、炭素数1〜20の飽和若しくは不飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられ、より好ましくは、炭素数2〜15の飽和若しくは不飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられ、さらに好ましくは炭素数3〜10の飽和若しくは不飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられ、特に好ましくは炭素数3〜10の飽和の直鎖の鎖状炭化水素基が挙げられる。
Yで示される鎖状又は環状の炭化水素の置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン原子、アルコキシ、アミノ、ニトロ、カルバモイル、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシアルキル、オキソ等が挙げられる。
上記の好ましいリンカーを、その材料となる化合物として示せば、NH2NHCO−Y−CONHNH2及びNH2CH2CH2NHNHCO−Y−CONHNH2となる。すなわち、ジカルボン酸ジヒドラジドであるNH2NHCO−Y−CONHNH2又はそれにNH2CH2CH2を結合させた化合物である。高分子物質のカルボキシル基の近傍に立体障害がない場合はいずれのリンカーでも良いが、高分子物質のカルボキシル基の近傍に立体障害がある場合はNH2CH2CH2NHNHCO−Y−CONHNH2を用いるほうが医薬化合物の導入率が向上するために好ましい。
上記のジカルボン酸ジヒドラジドとしては、具体的には、コハク酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジカルボン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等が挙げられ、立体障害等の観点から好ましくはアジピン酸ジヒドラジドが挙げられる。
上記のジカルボン酸ジヒドラジドとしては、具体的には、コハク酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジカルボン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド等が挙げられ、立体障害等の観点から好ましくはアジピン酸ジヒドラジドが挙げられる。
2.ポリマー担体
本発明のポリマー担体は、式:
〔式中、GPは、GP−(CO2H)nとなって、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する高分子物質を表す。
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。〕
で示される。
GP、n及びXは、前記1の記載と同様である。本ポリマー担体は、カルボニル基を有する医薬化合物と結合するだけで、医薬複合物を調製できることから、種々医薬化合物に広く応用することができ、極めて汎用性がある。
本発明のポリマー担体は、式:
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。〕
で示される。
GP、n及びXは、前記1の記載と同様である。本ポリマー担体は、カルボニル基を有する医薬化合物と結合するだけで、医薬複合物を調製できることから、種々医薬化合物に広く応用することができ、極めて汎用性がある。
3.医薬複合物の製造方法
(A)ポリマー担体の製造方法
〔式中、GPは、GP−(CO2H)nとなって、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する高分子物質を表す。
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。〕
高分子物質(1)とNH2−X−CONHNH2又はその保護体とを反応させることで、ポリマー担体(2)を製造することができる。
本反応には、通常のアミド化反応を用いることができる。例えばN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を用いて、常法に従って反応することができる。また、2段階の反応で、リンカーの一部を結合させてから、その残りの部分をさらに結合させることもできる。
(A)ポリマー担体の製造方法
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。〕
高分子物質(1)とNH2−X−CONHNH2又はその保護体とを反応させることで、ポリマー担体(2)を製造することができる。
本反応には、通常のアミド化反応を用いることができる。例えばN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を用いて、常法に従って反応することができる。また、2段階の反応で、リンカーの一部を結合させてから、その残りの部分をさらに結合させることもできる。
下式
〔式中、Yは、置換されていてもよい鎖状又は環状の炭化水素の2価基を表す。
mは、0又は1を表す。〕
で示される好ましいリンカーの場合について、さらに説明を加える。
この好ましいリンカーの材料となる化合物は、NH2NHCO−Y−CONHNH2又はNH2CH2CH2NHNHCO−Y−CONHNH2である。
リンカーの材料がNH2NHCO−Y−CONHNH2である場合は、1段階で高分子物質(1)とこのリンカー材料化合物との縮合を常法に従って実施することができ、例えば上記と同様にしてNHSとWSCを用いて反応することができる。
mは、0又は1を表す。〕
で示される好ましいリンカーの場合について、さらに説明を加える。
この好ましいリンカーの材料となる化合物は、NH2NHCO−Y−CONHNH2又はNH2CH2CH2NHNHCO−Y−CONHNH2である。
リンカーの材料がNH2NHCO−Y−CONHNH2である場合は、1段階で高分子物質(1)とこのリンカー材料化合物との縮合を常法に従って実施することができ、例えば上記と同様にしてNHSとWSCを用いて反応することができる。
リンカーの材料がNH2CH2CH2NHNHCO−Y−CONHNH2である場合は、2段階で反応することが好ましい。1段階目で、例えば高分子物質(1)をNH2CH2CH(OCH2CH3)2等のアセタールとアミド化させ、続いてアセタールを脱保護し、2段階目で生成したアルデヒドに対して、NH2NHCO−Y−CONHNH2で還元的アミノ化反応を行うことができる。1段階目のアミド化反応は、常法に従って実施することができ、例えば上記と同様にしてNHSとWSCを用いて反応することができる。あるいは、WSCのみを用いる縮合化も可能である。続いて常法に従って酸性条件下でアセタールを脱保護する。2段階目の還元的アミノ化反応は常法に従って実施することができ、例えば水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ボラン・ピリジンコンプレックス、ピコリンボラン等の還元剤の存在下、反応させることができる。
得られたポリマー担体は、常法に従って精製することができる。
得られたポリマー担体は、常法に従って精製することができる。
(B)医薬複合物の製造方法
〔式中、GPは、GP−(CO2H)nとなって、重量平均分子量が3万以上でありカルボキシル基を有する高分子物質を表す。
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
上記(A)で調製したポリマー担体(2)に、カルボニル基を有する医薬化合物を脱水縮合することで、本発明の医薬複合物(3)を調製することができる。
脱水縮合は、例えばポリマー担体(2)と医薬化合物を弱酸性条件下で混合することで行うことができ、具体的にはpH3〜4の水溶液中で室温下、1日間〜数日間、撹拌することで実施できる。その後、常法に従って、例えばゲルクロマトグラフィー等の精製手段を用いて精製することで、医薬複合物(3)を製造することができる。
この脱水縮合は穏やかな条件であり、また医薬化合物を最終段階で結合させて医薬複合物を製造することができるため、医薬化合物を分解させることなく、高純度の医薬複合物を得ることができる。従って、医薬化合物の品質管理上、極めて有利である。
脱水縮合は、例えばポリマー担体(2)と医薬化合物を弱酸性条件下で混合することで行うことができ、具体的にはpH3〜4の水溶液中で室温下、1日間〜数日間、撹拌することで実施できる。その後、常法に従って、例えばゲルクロマトグラフィー等の精製手段を用いて精製することで、医薬複合物(3)を製造することができる。
この脱水縮合は穏やかな条件であり、また医薬化合物を最終段階で結合させて医薬複合物を製造することができるため、医薬化合物を分解させることなく、高純度の医薬複合物を得ることができる。従って、医薬化合物の品質管理上、極めて有利である。
4.医薬複合物の適用
本発明の医薬複合物は、例えば、静脈内、腹腔内、局所等に投与される。
医薬複合物の投与量としては、医薬複合物の治療部位への到達する割合、治療部位での医薬化合物の放出率等に応じて、適宜、調整することができる。
医薬複合物は、静脈内に投与する場合、例えば点滴することができ、常法に従って、医薬化合物を浸透圧調整剤等と共に生理食塩水等に溶解して溶液を調製することができる。
また、本発明の高分子複合物を用いてナノ粒子又は高分子ミセル等の形態として用いることもできる。
本発明の医薬複合物は、例えば、静脈内、腹腔内、局所等に投与される。
医薬複合物の投与量としては、医薬複合物の治療部位への到達する割合、治療部位での医薬化合物の放出率等に応じて、適宜、調整することができる。
医薬複合物は、静脈内に投与する場合、例えば点滴することができ、常法に従って、医薬化合物を浸透圧調整剤等と共に生理食塩水等に溶解して溶液を調製することができる。
また、本発明の高分子複合物を用いてナノ粒子又は高分子ミセル等の形態として用いることもできる。
以下、本発明を実施例及び試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
[材料および方法]
(1)材料
以下の試薬を用いた。下記に記載の略号を、以下に必要に応じて用いる。
DEAC:アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール(東京化成工業)
ADH:アジピン酸ジヒドラジド(東京化成工業)
CS−Na:コンドロイチン硫酸Cナトリウム塩(和光純薬工業)
NaBH4:水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業)
WSC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(和光純薬工業)
NHS:N−ヒドロキシスクシンイミド(和光純薬工業)
PD:プレドニゾロン(和光純薬工業)
DOX−HCl:塩酸ドキソルビシン(フナコシ)
セファデックスG50 Fine(GEヘルスケアバイオサイエンスAB)
(1)材料
以下の試薬を用いた。下記に記載の略号を、以下に必要に応じて用いる。
DEAC:アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール(東京化成工業)
ADH:アジピン酸ジヒドラジド(東京化成工業)
CS−Na:コンドロイチン硫酸Cナトリウム塩(和光純薬工業)
NaBH4:水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業)
WSC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(和光純薬工業)
NHS:N−ヒドロキシスクシンイミド(和光純薬工業)
PD:プレドニゾロン(和光純薬工業)
DOX−HCl:塩酸ドキソルビシン(フナコシ)
セファデックスG50 Fine(GEヘルスケアバイオサイエンスAB)
(2)測定装置
UV−VIS吸収スペクトルは、Beckman DU640分光光度計(ベックマン・コールター)を用いて記録した。NMRスペクトルは、JNM−ECA600II分光計(JEOL)を用いて測定した。
UV−VIS吸収スペクトルは、Beckman DU640分光光度計(ベックマン・コールター)を用いて記録した。NMRスペクトルは、JNM−ECA600II分光計(JEOL)を用いて測定した。
(3)HPLC条件
<ドキシルビシン(DOX)の定量方法>
DOXの定量にHPLCを用いた。HPLC装置は、LC−6ADポンプ(島津製作所)、RF−10AXL蛍光検出器(発光550nm;励起482nm;島津製作所)、YMCパックODS−AMカラム(長さ150mm×内径4.6mm;YMC)及びC−R7aクロマトパック(島津製作所)から構成された。移動相は、0.1モル/Lのギ酸アンモニウム(pH4.0)/アセトニトリル(7:3(v/v))であり、流速は1.0mL/分であった。各試料中のDOX濃度は、絶対検量線法を用いて決定した。
<プレドニゾロン(PD)の定量方法>
PDの定量は、基本的には上記と同じHPLC装置が用いられたが、検出器はSPD−10AV VP UV−VIS検出器(246nm)を用いた。移動相は、0.1%のトリフルオロ酢酸を含む26%(v/v)の2−プロパノール水溶液を用いた。
<ドキシルビシン(DOX)の定量方法>
DOXの定量にHPLCを用いた。HPLC装置は、LC−6ADポンプ(島津製作所)、RF−10AXL蛍光検出器(発光550nm;励起482nm;島津製作所)、YMCパックODS−AMカラム(長さ150mm×内径4.6mm;YMC)及びC−R7aクロマトパック(島津製作所)から構成された。移動相は、0.1モル/Lのギ酸アンモニウム(pH4.0)/アセトニトリル(7:3(v/v))であり、流速は1.0mL/分であった。各試料中のDOX濃度は、絶対検量線法を用いて決定した。
<プレドニゾロン(PD)の定量方法>
PDの定量は、基本的には上記と同じHPLC装置が用いられたが、検出器はSPD−10AV VP UV−VIS検出器(246nm)を用いた。移動相は、0.1%のトリフルオロ酢酸を含む26%(v/v)の2−プロパノール水溶液を用いた。
実施例1
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸ポリマー担体(CS−ACH)の調製
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸ポリマー担体(CS−ACH)の調製
上記化学式及び以下の化学式において、コンドロイチン硫酸Cナトリウムをアセチルガラクトサミン6硫酸とグルクロン酸の2糖が反復する構造として簡略化して記載する。
<工程1>CS−CHOの調製
コンドロイチン硫酸Cナトリウム(CS−Na)300mgを水(15mL)に溶解した。アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール(DEAC)300mgを10mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、上記のCS−Na水溶液に加えた。この混合物に、NHS300mgとWSC450mgを加えた。得られた溶液を、6〜24時間、撹拌した。その後、35%塩酸を反応混合物に加えてpH2として、一晩撹拌した。溶液中のTHFを留去し、NaOHを添加して溶液のpHを5にした。得られた溶液を、セファデックスG50カラムで0.1MのNaCl水溶液を流出液としてクロマトグラフィーにかけた。その後、高分子量画分をまとめて、セルロースチューブ(分子量カットオフ10,000)を用いて2日間、水に対して透析をした。溶液を凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸−アミノアセトアルデヒド(CS−CHO)を粉末として得た。
CS−CHOの1H−NMR(DMSO−d6:D2O(1:1(v/v))の分析の結果、CS−CHOに含まれるホルミル基のシグナルが9.36ppmに明確に観察された。
<工程1>CS−CHOの調製
コンドロイチン硫酸Cナトリウム(CS−Na)300mgを水(15mL)に溶解した。アミノアセトアルデヒドジエチルアセタール(DEAC)300mgを10mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、上記のCS−Na水溶液に加えた。この混合物に、NHS300mgとWSC450mgを加えた。得られた溶液を、6〜24時間、撹拌した。その後、35%塩酸を反応混合物に加えてpH2として、一晩撹拌した。溶液中のTHFを留去し、NaOHを添加して溶液のpHを5にした。得られた溶液を、セファデックスG50カラムで0.1MのNaCl水溶液を流出液としてクロマトグラフィーにかけた。その後、高分子量画分をまとめて、セルロースチューブ(分子量カットオフ10,000)を用いて2日間、水に対して透析をした。溶液を凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸−アミノアセトアルデヒド(CS−CHO)を粉末として得た。
CS−CHOの1H−NMR(DMSO−d6:D2O(1:1(v/v))の分析の結果、CS−CHOに含まれるホルミル基のシグナルが9.36ppmに明確に観察された。
<工程2>CS−ACHの調製
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)200mgをCS−CHO(200mg)を含有する水溶液20mLに加え、7〜24時間、攪拌した。その後、NaBH4(200mg)を加え、得られた溶液を一晩撹拌した。次に、この溶液を上記と同様にセファデックスカラムを用いてクロマトグラフィーを行い、上記と同様に高分子量画分をまとめて、水に対して透析した。得られた溶液を凍結乾燥して、CS−ACHの粉末を得た。ADH含量が3.7及び6.9%(w/w)である2つのCS−ACHポリマーを得た。それぞれCS−ACH(I)とCS−ACH(N)と命名した。
CS−ACH(I)の1H−NMR(DMSO−d6:D2O(1:1(v/v))の分析の結果、アジピン酸の中央のメチレン基とカルボニルに隣接するメチレン基の水素原子に基づくピークが、それぞれ1.42及び2.04ppmに明確に確認された。
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)200mgをCS−CHO(200mg)を含有する水溶液20mLに加え、7〜24時間、攪拌した。その後、NaBH4(200mg)を加え、得られた溶液を一晩撹拌した。次に、この溶液を上記と同様にセファデックスカラムを用いてクロマトグラフィーを行い、上記と同様に高分子量画分をまとめて、水に対して透析した。得られた溶液を凍結乾燥して、CS−ACHの粉末を得た。ADH含量が3.7及び6.9%(w/w)である2つのCS−ACHポリマーを得た。それぞれCS−ACH(I)とCS−ACH(N)と命名した。
CS−ACH(I)の1H−NMR(DMSO−d6:D2O(1:1(v/v))の分析の結果、アジピン酸の中央のメチレン基とカルボニルに隣接するメチレン基の水素原子に基づくピークが、それぞれ1.42及び2.04ppmに明確に確認された。
実施例2
コンドロイチン硫酸−アジピン酸ポリマー担体(CS−ADH(W))の調製
コンドロイチン硫酸−アジピン酸ポリマー担体(CS−ADH(W))の調製
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)500mgを水40mLに溶解し、コンドロイチン硫酸Cナトリウム(CS−Na)100mgの水溶液(10mL)に加えた。その後、NHS100mgとWSC150mgを、撹拌しながら加えた。反応を一晩続けた。上記と同様にクロマトグラフィーにかけて、高分子量画分をまとめて、水に対して透析をした。得られた溶液を凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸−アジピン酸ジヒドラジドポリマー(CS−ADH(W))を粉末として得た。CS−ADH(W)のADH含量は3.4%(w/w)であった。
CS−ADH(W)の1H−NMR(DMSO−d6:D2O(1:1(v/v))の分析の結果、アジピン酸の中央のメチレン基とカルボニルに隣接するメチレン基の水素原子に基づくピークが、それぞれ1.47及び2.05ppmに明確に確認された。
CS−ADH(W)の1H−NMR(DMSO−d6:D2O(1:1(v/v))の分析の結果、アジピン酸の中央のメチレン基とカルボニルに隣接するメチレン基の水素原子に基づくピークが、それぞれ1.47及び2.05ppmに明確に確認された。
実施例1及び2で得られたポリマー担体の分析
1H−NMRを用いて、実施例1及び2で得られたポリマー担体の分析を行った。
コンドロイチン硫酸Cは、基本的には硫酸エステルを含むN−アセチルガラクトサミン(Sul−Gal−NAc:分子量638)とグルクロン酸(Glu:分子量194)からなる二糖単位(分子量638)で構成されている。コンドロイチン硫酸Cの二糖単位の構造は、1H−NMRで、Sul−Gal−NAcのN−アセチル基のピークと、糖骨格の水素原子のピークで確認された。コンドロイチン硫酸Cを提供頂いた和光純薬工業の情報、及びコンドロイチン硫酸Cの分子量に関する研究報告に基づけば、その分子量は約数万と考えられる。そこで、コンドロイチン硫酸Cには、60〜70の二糖単位(Sul−Gal−NAc−Glu)からなっていると推測される。本出願では、コンドロイチン硫酸Cの分子量が4万であって、二糖単位が62.7個存在すると仮定して、コンドロイチン硫酸C当たりのポリマー担体へのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)の導入率を計算した。ADHの導入量は、上記のN−アセチル基のピークとアジピン酸のメチレンのピークとを比較することで算出した。その結果を以下に記す。
1H−NMRを用いて、実施例1及び2で得られたポリマー担体の分析を行った。
コンドロイチン硫酸Cは、基本的には硫酸エステルを含むN−アセチルガラクトサミン(Sul−Gal−NAc:分子量638)とグルクロン酸(Glu:分子量194)からなる二糖単位(分子量638)で構成されている。コンドロイチン硫酸Cの二糖単位の構造は、1H−NMRで、Sul−Gal−NAcのN−アセチル基のピークと、糖骨格の水素原子のピークで確認された。コンドロイチン硫酸Cを提供頂いた和光純薬工業の情報、及びコンドロイチン硫酸Cの分子量に関する研究報告に基づけば、その分子量は約数万と考えられる。そこで、コンドロイチン硫酸Cには、60〜70の二糖単位(Sul−Gal−NAc−Glu)からなっていると推測される。本出願では、コンドロイチン硫酸Cの分子量が4万であって、二糖単位が62.7個存在すると仮定して、コンドロイチン硫酸C当たりのポリマー担体へのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)の導入率を計算した。ADHの導入量は、上記のN−アセチル基のピークとアジピン酸のメチレンのピークとを比較することで算出した。その結果を以下に記す。
実施例3
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−ドキソルビシン複合物(CS−ACH(I)−DOX)の調製
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−ドキソルビシン複合物(CS−ACH(I)−DOX)の調製
実施例1で得たCS−ACH(I)15mgを水7mLに溶解させた。このCS−ACH(I)溶液に、塩酸ドキソルビシン(DOX−HCl)45mgを含むメタノール溶液7mL、及びpH3の0.5M酢酸緩衝液7mLを混合した。反応混合物(pH〜3.5)を暗所で2日間撹拌して、メタノールを留去した。得られた溶液に、pH9.5の1M炭酸緩衝液を加えて、反応混合物のpHを約8〜9にした。その後すぐに、ジメチルスルホキシド3〜4mLを反応混合物に加えて、(暗赤色の)溶液にした。得られた溶液を、セファデックスG50カラムで、0.02Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH9)及びメタノールの混合液(5:1(v/v))を流出液としてクロマトグラフィーにかけた。高分子量画分をまとめて、凍結乾燥をすることで、CS−ACH(I)−DOX複合物(以下、CS−ACH(I)−DOXと呼ぶ)を得た。
実施例4
コンドロイチン硫酸−アジピン酸−ドキソルビシン複合物(CS−ADH(W)−DOX)の調製
実施例3においてCS−ACH(I)の代わりに実施例2で得られたCS−ADH(W)を用いることで、CS−ADH(W)−DOX複合物(以下、CS−ADH(W)−DOXと呼ぶ)を得た。
コンドロイチン硫酸−アジピン酸−ドキソルビシン複合物(CS−ADH(W)−DOX)の調製
実施例5
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−ドキソルビシン(CS−ACH(N)−DOX)複合物の調製
実施例1で得たCS−ACH(N)30mgを水7mLに溶解させた。塩酸ドキソルビシン(DOX−HCl)60mgをメタノール7mLに溶解させた。両溶液を混合して、pH3の0.5M酢酸緩衝液7mLを加えた。反応混合物(pH〜3.5)を暗所で2日間撹拌して、メタノールを留去した。得られた反応混合物を実施例3と同様に処理し、同様にして生成物を分離した。凍結乾燥の後、CS−ACH(N)−DOX複合物(以下、CS−ACH(N)−DOXと呼ぶ)を粉末として得た。
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−ドキソルビシン(CS−ACH(N)−DOX)複合物の調製
実施例1で得たCS−ACH(N)30mgを水7mLに溶解させた。塩酸ドキソルビシン(DOX−HCl)60mgをメタノール7mLに溶解させた。両溶液を混合して、pH3の0.5M酢酸緩衝液7mLを加えた。反応混合物(pH〜3.5)を暗所で2日間撹拌して、メタノールを留去した。得られた反応混合物を実施例3と同様に処理し、同様にして生成物を分離した。凍結乾燥の後、CS−ACH(N)−DOX複合物(以下、CS−ACH(N)−DOXと呼ぶ)を粉末として得た。
実施例6
葉酸−コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−ドキソルビシン複合物(F−CS−ACH(N)−DOX)の調製
葉酸(FOL)は、葉酸受容体を有する癌細胞に対してリガンドとして機能し得る。そこで、葉酸をCS−ACH(N)に導入した。
実施例1で調製したCS−ACH(N)26mgと葉酸7mgを、水10mLに溶かした。その後、NHS13mgとWSC19mgを加えた。反応混合物を24時間撹拌した。得られた溶液をセファデックスG50カラムで0.1NのNaCl溶液を流出液としてクロマトグラフィーにかけ、水に対して透析をして、凍結乾燥をすることで、FOL−CS−ACH(N)ポリマー担体(F−CS−ACH(N))を得た。
F−CS−ACH(N)20mgとDOX30mgを、pH3の0.5M酢酸緩衝液でpHを3.5に調整して、上記と同様にして反応させた。上記と同様にして、分離し、凍結乾燥を行うことで、生成物(以下、F−CS−ACH(N)−DOXと呼ぶ)を得た。
葉酸−コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−ドキソルビシン複合物(F−CS−ACH(N)−DOX)の調製
実施例1で調製したCS−ACH(N)26mgと葉酸7mgを、水10mLに溶かした。その後、NHS13mgとWSC19mgを加えた。反応混合物を24時間撹拌した。得られた溶液をセファデックスG50カラムで0.1NのNaCl溶液を流出液としてクロマトグラフィーにかけ、水に対して透析をして、凍結乾燥をすることで、FOL−CS−ACH(N)ポリマー担体(F−CS−ACH(N))を得た。
F−CS−ACH(N)20mgとDOX30mgを、pH3の0.5M酢酸緩衝液でpHを3.5に調整して、上記と同様にして反応させた。上記と同様にして、分離し、凍結乾燥を行うことで、生成物(以下、F−CS−ACH(N)−DOXと呼ぶ)を得た。
実施例7
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−プレドニゾロン複合物(CS−ACH(N)−PD)の調製
実施例1で調製したCS−ACH(N)10mgを水5mLに溶かした。プレドニゾロン(PD)30mgをメタノール10mLに溶かした。両方の溶液を混合し、pH3の0.5M酢酸緩衝液を加えた。反応混合物を2日間撹拌し、pH9.5の1M炭酸緩衝液で溶液のpHを8.5に調整した。得られた溶液をセファデックスG50カラムで、0.02Mの炭酸アンモニウム緩衝液(pH9)及びメタノールの混合液(5:1(v/v))を流出液としてクロマトグラフィーにかけた。高分子量画分をまとめて、凍結乾燥をすることで、CS−ACH(N)−PD複合物(以下、CS−ACH(N)−PDと呼ぶ)を得た。
コンドロイチン硫酸−アミノエチル−アジピン酸−プレドニゾロン複合物(CS−ACH(N)−PD)の調製
実施例3〜7で調製した医薬複合物の分析
実施例〜6で調製したCS−ACH(I)−DOX、CS−ACH(N)−DOX、CS−ADH(W)−DOX及びF−CS−ACH(N)−DOXにおけるDOXの導入量は、1/15Mリン酸緩衝液中の482nmでのUV−VIS吸収スペクトルとその吸光度から求めた。F−CS−ACH(N)−DOX中の葉酸の導入率は、365nmでのスペクトルで分析した。その結果を表2に示す。
以上の通り、これらの医薬複合物には、DOX及びFOLが上記の通り、導入されていることが分かる。
実施例〜6で調製したCS−ACH(I)−DOX、CS−ACH(N)−DOX、CS−ADH(W)−DOX及びF−CS−ACH(N)−DOXにおけるDOXの導入量は、1/15Mリン酸緩衝液中の482nmでのUV−VIS吸収スペクトルとその吸光度から求めた。F−CS−ACH(N)−DOX中の葉酸の導入率は、365nmでのスペクトルで分析した。その結果を表2に示す。
実施例7で調製したCS−ACH(N)−PDについては、PDのスペクトルが大きく変化した。そこで、CS−ACH(N)−PD中のPDの導入率は、試験例2に記載したかなり低いpH3.5でのインキュベーションによるPDのすべてを放出した量に基づいて算出した。その結果を表3に示す。
以上の通り、この医薬複合物には、PDが上記の通り、導入されていることが分かる。
試験例1
CS−ACH(I)−DOX及びCS−ADH(W)−DOXからのDOXのインビトロ放出
実施例3で得られたCS−ACH(I)−DOXを、400μg/mLの濃度でpH4の0.1M酢酸緩衝液及びpH7の1/15Mリン酸緩衝液に溶解した。各溶液を、60rpmで水平に振とうしながら37℃でインキュベートした。適切な時点で少量のサンプル(50μL)を採取した。採取後すぐに、pH9.5の1M炭酸緩衝液(50μL)及び水(50μL)を加えて、医薬化合物の放出を停止させた。得られたサンプルを、HPLC分析まで−20℃で保存した。放出されたDOXの定量の際、凍結サンプルを解凍し、HPLC移動相(100μL)を加えて、得られた溶液をHPLCで分析した。
CS−ADH(W)−DOXからのDOXのインビトロ放出を、上記と同様に行った。
CS−ACH(I)−DOX及びCS−ADH(W)−DOXからのDOXのインビトロ放出
実施例3で得られたCS−ACH(I)−DOXを、400μg/mLの濃度でpH4の0.1M酢酸緩衝液及びpH7の1/15Mリン酸緩衝液に溶解した。各溶液を、60rpmで水平に振とうしながら37℃でインキュベートした。適切な時点で少量のサンプル(50μL)を採取した。採取後すぐに、pH9.5の1M炭酸緩衝液(50μL)及び水(50μL)を加えて、医薬化合物の放出を停止させた。得られたサンプルを、HPLC分析まで−20℃で保存した。放出されたDOXの定量の際、凍結サンプルを解凍し、HPLC移動相(100μL)を加えて、得られた溶液をHPLCで分析した。
CS−ADH(W)−DOXからのDOXのインビトロ放出を、上記と同様に行った。
この結果を、図1及び図2に示す。DOXはpH4と7のいずれでも徐々に放出された。放出パターンは、医薬複合物の双方でほぼ同じ挙動を示した。pH4では放出速度が速く、CS−ACH(I)−DOXとCS−ADH(W)−DOXの放出量は7日後でそれぞれ62%と60%であった。pH7では7日間のインキュベーションの後でもCS−ACH(I)−DOXとCS−ADH(W)−DOXの放出量はそれぞれ17%と22%であった。
これらの結果から、DOXは癌組織等の酸性環境で、及びリソソームの酸性条件でより速く放出されることが示唆された。他方、中性の生理条件下では、DOXの放出は抑制された。これらの特性は、癌組織及び癌細胞に対するターゲッティング治療法のために有効である。
これらの結果から、DOXは癌組織等の酸性環境で、及びリソソームの酸性条件でより速く放出されることが示唆された。他方、中性の生理条件下では、DOXの放出は抑制された。これらの特性は、癌組織及び癌細胞に対するターゲッティング治療法のために有効である。
試験例2
種々のpHの緩衝液でのCS−ACH(N)−PDからのPDの放出
実施例7で得られたCS−ACH(N)−PD1mgを、pH4(0.2M酢酸緩衝液)、5.5(0.2M酢酸緩衝液)及びpH7(0.1Mリン酸緩衝液)の緩衝液1mLに溶解した。各溶液を60rpmで水平に振とうしながら37℃でインキュベートした。適切な時点で少量のサンプル(50μL)を採取し、1M炭酸緩衝液(pH9.5)25μLを加えてPDの放出を停止させた。得られたサンプルを、−20℃で保存した。HPLC分析の直前に、HPLC移動相125μLを加えて、得られた溶液をHPLCで分析した。
100%の放出量は、pH3.5で数日間インキュベーションしている間のPDの放出量に一次関数放出曲線を合わせることで決定した。この100%の放出量が、CS−ACH(N)−PDに含まれるPDの量を示す。
種々のpHの緩衝液でのCS−ACH(N)−PDからのPDの放出
実施例7で得られたCS−ACH(N)−PD1mgを、pH4(0.2M酢酸緩衝液)、5.5(0.2M酢酸緩衝液)及びpH7(0.1Mリン酸緩衝液)の緩衝液1mLに溶解した。各溶液を60rpmで水平に振とうしながら37℃でインキュベートした。適切な時点で少量のサンプル(50μL)を採取し、1M炭酸緩衝液(pH9.5)25μLを加えてPDの放出を停止させた。得られたサンプルを、−20℃で保存した。HPLC分析の直前に、HPLC移動相125μLを加えて、得られた溶液をHPLCで分析した。
100%の放出量は、pH3.5で数日間インキュベーションしている間のPDの放出量に一次関数放出曲線を合わせることで決定した。この100%の放出量が、CS−ACH(N)−PDに含まれるPDの量を示す。
この結果を、図3に示す。医薬化合物の放出が徐々に起こるが、放出速度はpHの低下と共に加速されている。この放出パターンは、酸性pHの炎症部位に対するターゲッティング治療法に適している。中性pHでPDの放出が抑制されることは、医薬化合物の放出が全身循環で、及び正常組織の環境で十分に抑制されることを示している。以上より、本発明の高分子複合物は、関節炎等の炎症性疾患に対するターゲティング治療法として有用である。
試験例3
CS−ACH(N)−DOXのLLC腫瘍細胞に対するインビトロ細胞毒性
ネズミルイス肺癌(LLC)細胞は、東北大学,生物医学研究のための細胞資源センターから入手した。LLC細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)及びカナマイシン(100μg/mL)を含むRPMI−1640培地中で、37℃、5%CO2を含む加湿雰囲気下で培養した。
CS−ACH(N)−DOXのLLC腫瘍細胞に対するインビトロ細胞毒性
ネズミルイス肺癌(LLC)細胞は、東北大学,生物医学研究のための細胞資源センターから入手した。LLC細胞を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)及びカナマイシン(100μg/mL)を含むRPMI−1640培地中で、37℃、5%CO2を含む加湿雰囲気下で培養した。
LLC細胞を96ウェルプレートにウェル当たり1×104細胞の密度で別々に播種し、処理前の24時間、10%FBSを補充したRPMI−1640培地中で維持した。細胞を、DOXを含む培地又は0.015〜5μMのDOXに相当するCS−ACH(N)−DOXを含有する培地で処理し、次いでそれらを48時間インキュベートした。CS−ACH(N)−DOXのコントロールとして、CS−ACH(N)−DOXに含まれるCS−ACH(N)に相当する量のCS−ACH(N)を含有する培地で細胞を処理した。細胞数を細胞計数キット−8(同仁化学研究所)を用いて測定した。細胞生存率は、未処理細胞の450nmの吸光度を基準に表した。
この結果を、図4に示す。LLC細胞に対する細胞毒性(IC50)は、CS−ACH(N)−DOXでは0.35μMであり、DOX溶液の0.07μMより低い。しかし、CS−ACH(N)−DOXは、CS−ACH(N)(>5μM)より高い細胞毒性を示した。このことは、CS−ACH(N)−DOXは細胞の中で加水分解によってゆっくりとDOXを放出していると考えられた。
試験例4
LLC腫瘍担持マウスにおけるCS−ACH(N)−DOXのインビボ抗腫瘍効果
全ての動物実験は、星薬科大学の施設内動物管理使用委員会の承認を得て行った。LLC腫瘍生成のために、100μLのPBSに懸濁した1×106の細胞を、雌のC57BL/6Nマウス(三協ラボサービス)の脇腹に皮下接種した。腫瘍体積は以下の式を用いて計算した。
腫瘍体積=0.5×a×b2
〔式中、a及びbは、それぞれより大きい直径及びより小さい直径を示す。〕
CS−ACH(N)及びCS−ACH(N)−DOXを、50%(v/v)のPEG400を含む溶液に溶解した。腫瘍の平均体積がLLC腫瘍担持マウス中で50〜100mm3に達したときに、静脈内に外側尾静脈を介してDOX10mg/kgの用量でDOX又はCS−ACH(N)−DOXを投与した。CS−ACH(N)−DOXのコントロールとして、CS−ACH(N)をCS−ACH(N)−DOXに含まれるCS−ACH(N)に相当する量で静脈内に投与した。腫瘍体積及び体重を個々の動物について測定した。
LLC腫瘍担持マウスにおけるCS−ACH(N)−DOXのインビボ抗腫瘍効果
全ての動物実験は、星薬科大学の施設内動物管理使用委員会の承認を得て行った。LLC腫瘍生成のために、100μLのPBSに懸濁した1×106の細胞を、雌のC57BL/6Nマウス(三協ラボサービス)の脇腹に皮下接種した。腫瘍体積は以下の式を用いて計算した。
腫瘍体積=0.5×a×b2
〔式中、a及びbは、それぞれより大きい直径及びより小さい直径を示す。〕
CS−ACH(N)及びCS−ACH(N)−DOXを、50%(v/v)のPEG400を含む溶液に溶解した。腫瘍の平均体積がLLC腫瘍担持マウス中で50〜100mm3に達したときに、静脈内に外側尾静脈を介してDOX10mg/kgの用量でDOX又はCS−ACH(N)−DOXを投与した。CS−ACH(N)−DOXのコントロールとして、CS−ACH(N)をCS−ACH(N)−DOXに含まれるCS−ACH(N)に相当する量で静脈内に投与した。腫瘍体積及び体重を個々の動物について測定した。
この結果を、図5に示す。DOX溶液又はCS−ACH(N)の注射では、腫瘍に対する抗腫瘍活性は示されなかった。対照的に、CS−ACH(N)−DOXの注射は、CS−ACH(N)及びDOX溶液と比較して、高い抗腫瘍活性を示した。これは、EPR効果によってCS−ACH(N)−DOXが腫瘍組織に集まったことを示している。DOX溶液、CS−ACH(N)及びCS−ACH(N)−DOXの投与後、マウスの体重変化は顕著な差がなかった(データは示さず)。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の医薬複合物は、高分子物質当たりの医薬化合物の導入率が高く、穏やかな条件で純度よく調製することができ、血液中では安定であるが、癌、リウマチ、炎症等の部位で医薬化合物を放出することができる医薬複合物として利用することができる。
Claims (7)
- 式:
nは、正の整数を表す。
Xは、リンカーを表す。
DGは、DG=Oとなって、カルボニル基を有する医薬化合物を表す。〕
で示される医薬複合物。 - Xが、式
mは、0又は1を表す。〕
で示されるリンカーである、請求項1に記載の医薬複合物。 - さらに、癌、リウマチ又は炎症の組織と親和性を有する基を有する、請求項1又は2に記載の医薬複合物。
- 以下の工程による、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬複合物の製造方法。
工程1:式(1)の高分子物質のカルボキシル基を、NH2−X−CONHNH2のアミノ基を反応させて、式(2)のポリマー担体を調製する工程、及び
工程2:式(2)のポリマー担体に、DG=Oで示されるカルボニル基を有する医薬化合物を反応させて、式(3)の医薬複合物を調製する工程。
- 式:
で示されるポリマー担体。 - Xが、式
で示されるリンカーである、請求項5記載のポリマー担体。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の医薬複合物を含有する、癌、リウマチ又は炎症の治療剤。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2016208434A JP2018070459A (ja) | 2016-10-25 | 2016-10-25 | 医薬複合物、ポリマー担体、それらの製造方法、及び癌、リウマチ又は炎症の治療剤 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN111714640A (zh) * | 2019-03-14 | 2020-09-29 | 北京和益源生物技术有限公司 | 一种糖修饰的叶酸衍生物制备的纳米运载颗粒及其应用 |
CN111748002A (zh) * | 2019-03-14 | 2020-10-09 | 北京和益源生物技术有限公司 | 一种脱氧葡萄糖修饰的叶酸衍生物及其合成与应用 |
-
2016
- 2016-10-25 JP JP2016208434A patent/JP2018070459A/ja active Pending
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CN111748002B (zh) * | 2019-03-14 | 2022-03-29 | 北京和益源生物技术有限公司 | 一种脱氧葡萄糖修饰的叶酸衍生物及其合成与应用 |
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