JP2018053213A - バインダー組成物、成形体、成形体の製造方法 - Google Patents

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純 及川
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綾 中圓尾
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宏崇 名取
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Abstract

【課題】原料にホルムアルデヒドを用いることなく、強度や弾性率などの力学的特性が良好であるバインダー組成物、該バインダー組成物を用いた成形体、及び該バインダー組成物を用いた成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物である。例えば、還元糖は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上である。
【選択図】図1

Description

本発明は、バインダー組成物、成形体、成形体の製造方法に関する。
従来、グラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等の無機繊維を用いた断熱材、防音材、木材ボード製品等の成形体の製造に用いられるバインダーとして、機械的強度等の性能に優れ、低コストであることからフェノール樹脂系のバインダーが、汎用されている。
無機繊維を用いた成形体を製造する際には、無機繊維にバインダーを付着させ、製品の形状とした後に、加熱によりバインダーを硬化させる。バインダーとしては、過去、原料にホルムアルデヒドを使用するフェノール樹脂系のバインダーが広く用いられていたが、近年、原料にホルムアルデヒドを使用していないバインダーが望まれている。
原料にホルムアルデヒドを使用しない、いわゆるノンホルムアルデヒドタイプのバインダーとしては、糖類をベースとして、ポリカルボン酸や無機酸アンモニウム塩等と組み合わせたバインダーが提案されている。
特許文献1には、シリコン含有化合物および脱水反応混合物の架橋結合メラノイジン反応物を含み、該脱水反応混合物は、単量体ポリカルボン酸のアンモニウム塩と単糖とからなるバインダーが記載されている。
特許文献2には、単糖類及び/又は10000未満の重量平均分子量を示す少なくとも1種の多糖類と、分子量が1000以下である少なくとも1種の有機ポリカルボン酸(有機ポリカルボン酸のアンモニウム塩を除く)とを含む、ミネラルウール製の断熱製品用のサイズ組成物が記載されており、単糖類がアルドース、具体的にはグルコース、マンノース及びがラクトースなどの六炭糖であることが記載されている。
特許文献3には、還元糖と、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩および炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される酸前駆体と、窒素の供給源と、水とを含む、実質的にホルムアルデヒドフリーのバインダー溶液が記載されている。
特許第5455169号公報 特許第5575658号公報 特許第5704751号公報
従来のノンホルムアルデヒドタイプのバインダーを、成形体の製造に用いた場合、熱硬化後の強度や弾性率などの力学的特性が、フェノール樹脂系バインダーと比べて劣っていることがあった。
従って、ホルムアルデヒドを用いることなく、強度や弾性率などの力学的特性が、フェノール樹脂系バインダーと同程度又は、フェノール樹脂系バインダーよりも優れたバインダーが望まれている。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、原料にホルムアルデヒドを用いることなく、強度や弾性率などの力学的特性が良好であるバインダー組成物、該バインダー組成物を用いた成形体、及び該バインダー組成物を用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究した結果、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物が熱を与えられるとメイラード反応を起こし、メラノイジン重合物が形成され、このメラノイジン重合物間が架橋され、熱硬化後に良好な力学的特性を示すことを見出し、本発明をするに至った。
従って、前記課題は、本発明によれば、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むことを特徴とするバインダー組成物により解決される。
本発明のバインダー組成物は、ホルムアルデヒドを含まないという利点を有し、グラスウール成形体やロックウール成形体などの成形体の製造に用いた場合に、強度や弾性率等の力学的特性が、フェノール樹脂系バインダーを用いた場合と同等である。従って、グラスウール成形体やロックウール成形体に対するバインダー組成物として使用すると、フェノール樹脂系バインダーを用いたときと同様の触感、堅さ、圧縮復元性が得られる。
また、本発明のバインダー組成物は、低湿度環境と高湿度環境との間で、力学的特性の変化が小さく、耐湿性もフェノール樹脂系バインダーと同程度である。
さらに、本発明のバインダー組成物は、溶液状態での保存安定性に優れるものであり、数ヶ月間安定である。
このとき、前記還元糖が、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
特にグルコースやフルクトースは工業的にとうもろこしを原料として製造されており、安価かつ容易に入手できる植物由来の天然物成分であり、人間にも環境にも優しい物質である。
このとき、前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩が、オレイン酸アンモニウム、リノール酸アンモニウムリノレン酸アンモニウム、及びロジン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
オレイン酸、リノール酸、及びリノレン酸はオリーブオイル等の食用植物油に含有され、植物由来の天然物成分であり、人間にも環境にも優しい物質である。また、クラフト法の製紙工場では、マツ材からパルプを取り出す際に、副生成物としてトール脂肪酸が大量に生成される。トール脂肪酸にはオレイン酸、リノール酸が非常に高濃度で含まれており、工業用オレイン酸を製造する際の原料となっている。したがって、トール脂肪酸をそのまま使用することも可能である。
ロジン酸は、マツ科の植物の樹液である松脂(まつやに)から作られるロジンの主成分であり、工業的に広く利用されている植物由来の天然物成分であり、人間にも環境にも優しい物質である。ロジン酸は、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸を主成分とする混合物であり、これらは全て不飽和モノカルボン酸である。
このとき、前記無機酸アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、及び炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
硫酸アンモニウムやリン酸水素2アンモニウムは、食品添加物として使用されている成分であり、人間に対して安心な物質である。また、無機酸のアンモニウム塩の使用量は、触媒量であるため、本発明のバインダー組成物は大半が天然物由来、植物由来であり、ホルムアルデヒドを含まないことに加え、環境にも優しいバインダーである。
このとき、前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩のモル比を1としたときに、前記還元糖のモル比が2〜10であるとよい。
当該モル比のバインダーは、熱硬化後の強度や弾性率などの力学的特性が良好である。
このとき、前記バインダー組成物の水溶液のpHが7以上9以下であるとよい。
従来のノンホルムアルデヒドタイプのバインダー溶液は、強酸性のポリカルボン酸を使用しているため、バインダー溶液のpHが1〜6と酸性であり、酸による損傷を受け易い鉱物繊維等の材料に対して用いることが困難であった。
本発明のバインダー組成物を水溶液とした場合にpHが7以上9以下であることから、酸による損傷を受け易い鉱物繊維、例えばロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウールを用いた成形体の製造にも好適に使用できる。
さらに、pHが7以上9以下であり、従来の製造装置に使用されている鋼材を錆びさせてしまうことがないため、ステンレス化などの対策を行うことなく、従来の製造装置を使用可能である。
前記課題は、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むことを特徴とするバインダー組成物と、無機繊維、木材、鋳物砂から選択される1種以上と、を含むことを特徴とする成形体により解決される。
このとき、前記無機繊維としてロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール、及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上の鉱物繊維を含むとよい。
このとき、前記還元糖が、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩が、オレイン酸アンモニウム、リノール酸アンモニウムリノレン酸アンモニウム、及びロジン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、前記無機酸アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、及び炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
本発明のバインダー組成物は、フェノール樹脂系バインダーの代替品として使用可能であり、グラスウール、ロックウールなど無機繊維用のバインダーとして使用する以外に、木質ボードに用いられる木材チップ用の接着剤、鋳型に用いられる鋳物砂用の接着剤としても使用可能である。
前記課題は、成形体を製造する方法であって、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物を調製するバインダー組成物調製工程と、無機繊維に前記バインダー組成物を付着させる付着工程と、前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、集積体とする集積工程と、前記集積体を、所望の無機繊維成形体に対応した形状に成形する成形工程と、前記成形された集積体を加熱し、前記バインダー組成物を架橋反応させる加熱・硬化工程と、前記バインダー組成物を冷却する冷却工程と、を行うことを特徴とする成形体の製造方法により解決される。
このとき、前記バインダー組成物調製工程において、前記還元糖が、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩が、オレイン酸アンモニウム、リノール酸アンモニウム、リノレン酸アンモニウム、及びロジン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、前記無機酸アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、及び炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
本発明によれば、原料にホルムアルデヒドを用いることなく、強度や弾性率などの力学的特性が良好であるバインダー組成物、該バインダー組成物を用いた成形体、及び該バインダー組成物を用いた成形体の製造方法を提供することができる。
本発明の一実施形態に係るバインダー組成物の硬化メカニズムを説明する概念図である。 本発明の一実施形態に係る成形体の製造方法を示すフロー図である。 本発明の一実施形態に係るロックウールマットの製造方法を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図1乃至3を参照しながら説明する。
本実施形態は、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物、該バインダー組成物を用いた成形体、及び該バインダー組成物を用いた成形体の製造方法の発明に関するものである。
本実施形態の成形体は、住宅等の建物において外壁と内壁との間に配置される断熱材や工場等の配管の外側に配置される断熱材に好適に用いられる。
<バインダー組成物>
本実施形態に係るバインダー組成物は、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含む。以下に、各成分について詳述する。
(還元糖)
本実施形態のバインダー組成物は1種以上の還元糖を含み、該還元糖としては、単糖、オリゴ糖、多糖、それらの誘導体等が挙げられる。
本明細書において、還元糖とは、開放鎖形態でアルデヒド基を有するアルドース又はケトン基を有するケトースを意味し、オリゴ糖とは2以上10以下の単糖が結合したものを指し、多糖とは11以上の単糖が結合したものを指す。
還元糖として、単糖又は二糖を用いることが好ましく、特に3〜8個の炭素原子を含む単糖、好ましくはグルコース(ブドウ糖)を用いることが好ましい。グルコースは、とうもろこしを原料としており、植物由来の天然物成分であり、容易に大量のグルコースを、安価に入手することができる。
また、工業的にグルコースから製造される異性化糖を用いることもできる。ここで、異性化糖とは、特定組成比のD−グルコースとD−フルクトースを主組成分とする混合糖を意味し、一般的には、でん粉をアミラーゼ等の酵素または酸により加水分解して得られた、主にグルコースからなる糖液を、グルコースイソメラーゼまたはアルカリにより異性化したグルコースおよびフルクトースを主成分とする液状の糖のことを指す。
還元糖として、例えば、トウモロコシシロップ、高フルクトーストウモロコシシロップ等を使用することも可能である。
フルクトースは、グルコースよりも開放鎖形態での存在が大きいため、グルコースよりも迅速にメイラード反応の開始反応が起こることが知られており、フルクトースを含有する異性化糖は、本実施形態のバインダー組成物に用いることができる。また、フルクトースは、グルコースと比較し、水への溶解度が高いため、高濃度のバインダー溶液を作製したい場合に好適に用いることができる。
還元糖として、上記の単糖に限定されることはなく、ガラクトース、マンノース、フルクトース等の単糖を用いることも可能である。
還元糖として用いることができる二糖としては、ラクトース、アラビノース、マルトースなどが挙げられる。
還元糖は、例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン、アルキル基、アルコキシル基、カルボニル基もしくは他の置換基で置換されていてもよい。
さらに、バインダー組成物に用いる還元糖として、天然および合成の還元糖の立体異性体又は光学異性体も用いることが可能である。
還元糖は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
バインダー組成物に含まれる、還元糖の割合は、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩のモル比を1としたときに、還元糖のモル比が2〜10であることが好ましく、6〜8であることが特に好ましい。
バインダー組成物中の、還元糖の含有量は、還元糖と不飽和モノカルボン酸、及び無機酸アンモニウム塩とから構成される混合物の総重量の、45〜95重量%、好ましくは50〜90重量%、及び有利には55〜85重量%であることが好ましい。
(不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩)
本実施形態のバインダー組成物に含まれる、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩は、1つ以上の不飽和の炭素結合を有する一価のカルボン酸のアンモニウム塩である。
具体的には、カルボキシル基の炭素原子を除いた炭素原子数が10〜30で、分子内に1〜6個の炭素−炭素二重結合が存在し、1つのカルボキシル基を有するカルボン酸のアンモニウム塩を用いると良いがこれに限定されるものではない。
アンモニウム塩を形成する不飽和モノカルボン酸として、オレイン酸(oleic acid、18:1(n−9))、リノール酸(linoleic acid、18:2(n−6))、α−リノレン酸(alpha−linolenic acid、18:3(n−6))γ−リノレン酸(gamma−linolenic acid、18:3(n−6))等、オリーブオイル等の植物油に含まれる不飽和モノカルボン酸が挙げられる。
さらには、ロジン酸(rosin acid)の主成分である、アビエチン酸(abietic acid)、パラストリン酸(palustric acid)、イソピマル酸(isopimaric acid)などの不飽和モノカルボン酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。
例えば、アラキドン酸(arachidonic acid、20:4(n−6))、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid、20:5(n−6))、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid、22:6)などの不飽和モノカルボン酸のアンモニウム塩を用いることも可能である。
不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩は、好ましくは植物油由来の不飽和モノカルボン酸のアンモニウム塩から選択され、より好ましくは、オレイン酸アンモニウムである。
オレイン酸は、オリーブオイルの主成分であり、食用に用いられている人間にも環境にも優しい物質である。
オレイン酸は、オリーブオイル以外にも含まれており、牛脂等の油脂を加水分解した脂肪酸を液体酸と固体酸に分別後、得られた液体酸を蒸留し、全留出物を取得することにより製造されており、容易に入手可能である。もしくは、オレイン酸は、マツ材からパルプを取り出す際の副生成物であるトール脂肪酸にも非常に高濃度で含まれており、トール脂肪酸から分離抽出して取得することにより製造されており、容易に入手可能である。
不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
バインダー組成物に含まれる、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩の割合は、還元糖のモル比を1としたときに、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩のモル比が1/10〜1/2であることが好ましく、1/8〜1/6であることが特に好ましい。
バインダー組成物中の、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩の含有量は、還元糖と不飽和モノカルボン酸、及び無機酸アンモニウム塩とから構成される混合物の総重量の、5〜35重量%、好ましくは10〜30重量%、及び有利には12〜25重量%であることが好ましい。
不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩は、熱を与えることで還元糖及び無機酸アンモニウム塩と反応し、未反応のカルボキシル基、水酸基、アルデヒド基を有するメラノイジン重合物が生成する。未反応のカルボキシル基は、不飽和モノカルボン酸アンモニウム由来のカルボキシル基であり、不飽和モノカルボン酸アンモニウムが存在しない場合、カルボキシル基を有するメラノイジン重合物は存在しない、もしくは存在しても極少量である。
このことは、メラノイジン重合物が生成される前に生成される中間体の存在が大きく関与している。すなわち、中間体であるフルフラールやヒドロキシメチルフルフラール等のフルフラール類、又は、ピラリンやピロールアルデヒドなどピロール類と、不飽和モノカルボン酸の二重結合部分が熱的な反応(Diels−Alder反応やヘテロDiels−Alder反応)を起こすことにより、メラノイジン重合物中にカルボキシル基が導入される。
そして、異なるメラノイジン重合物間のカルボキシル基と水酸基が脱水反応することでエステル結合を形成し、架橋構造が生成することで、本実施形態に係るバインダー組成物が硬化する。
従来のバインダー組成物の反応は、メラノイジン重合物中の水酸基に対し、ポリカルボン酸を作用させることによってエステル結合を形成させ、架橋させるものである。従来のバインダー組成物では、メラノイジン重合物間の架橋には2つのエステル結合が存在していたが、本実施形態に係るバインダー組成物は、メラノイジン重合物間の架橋がエステル結合1つである。したがって、本実施形態に係るバインダー組成物は、エステル結合が少ないメラノイジン重合物の架橋構造体を形成できるため、エステル結合の加水分解によって起こる劣化が起きにくいという利点がある。
なお、不飽和モノカルボン酸を添加しなかった場合は、メラノイジン重合物は生成するが、架橋構造が形成されないため、非常に脆い力学的特性を有するものとなってしまう。飽和モノカルボン酸を使用した場合は非常に強度が弱く、柔らかい力学特性を有するものとなってしまう。
(無機酸アンモニウム塩)
本実施形態のバインダー組成物に含まれる、無機酸アンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、炭酸アンモニウム塩、等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
硫酸アンモニウム塩として、具体的には、硫酸アンモニウム(NHSO、又は硫酸水素アンモニウムNHHSOを用いることが可能である。
リン酸アンモニウム塩として、具体的には、リン酸2水素アンモニウムNHPO、リン酸水素2アンモニウム(NHHPO、リン酸アンモニウム(NHPO、亜リン酸アンモニウム(NHHPO、又は次亜リン酸アンモニウムNHPOを用いることが可能である。
硝酸アンモニウムとして、具体的には、硝酸アンモニウムNHNOを用いることが可能である。
炭酸アンモニウム塩として、具体的には、炭酸アンモニウム(NHCO、又は重炭酸アンモニウムNHHCOを用いることが可能である。
これらの無機酸アンモニウム塩は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
無機酸アンモニウム塩は、好ましくは硫酸アンモニウム塩及びリン酸アンモニウム塩から選択され、より好ましくは、硫酸アンモニウム又はリン酸水素2アンモニウムである。
硫酸アンモニウムは、豆乳を固める豆腐用凝固剤、中華麺の食感や風味を出すためのかんすい、ハムやソーセージの組織の改良のための結着剤など、食品添加物として使用されており、リン酸水素2アンモニウムも、ワインの製造などに使用されている食品添加物であるため、人間にも環境にも優しい物質である。
バインダー組成物に含まれる、無機酸アンモニウム塩の割合は、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩のモル比を1としたときに、無機酸アンモニウム塩のモル比が0.1〜10であることが好ましく、0.5〜4.0であることが特に好ましい。
不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩のモル比を1としたときに、無機酸アンモニウム塩のモル比が0.1以上のバインダー組成物を用いると、所定の温度及び時間で硬化を完了させることが可能となる。
無機酸のアンモニウム塩は、工業的に製造されるが、還元糖及び不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩に対して、触媒量の使用で十分であるため、本発明のバインダー組成物は大半が天然物由来、植物由来であり、ホルムアルデヒドを含まないことに加え、人間にも環境にも優しいバインダーである。
バインダー組成物中の、無機酸アンモニウム塩の含有量は、還元糖と不飽和モノカルボン酸、及び無機酸アンモニウム塩とから構成される混合物の総重量の、1〜45重量%、好ましくは2〜40重量%、及び有利には3〜35重量%であることが好ましい。
バインダーの硬化反応において、無機酸アンモニウム塩は、還元糖と反応するアンモニアの供給源として機能するとともに、その後の反応、具体的には、還元糖とアンモニアとの反応生成物と、該反応生成物同士の反応において、触媒として機能する酸性物質の供給源として機能する。
(その他成分)
本実施形態に係るバインダー組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で必要により、密着性向上剤、粘度調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、ワックス、顔料若しくは染料、帯電防止剤、抗菌剤、防かび剤、香料、難燃剤、分散剤、造膜助剤及び湿潤剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上のその他の添加剤を併用してもよい。
バインダー組成物中のこれら添加物の含有量は、硬化後のバインダー組成物の力学的特性に影響を与えない範囲である必要があり、還元糖と不飽和モノカルボン酸、及び無機酸アンモニウム塩とから構成される混合物の総重量の5重量%以下、好ましくは2重量%以下であるとよい。
(バインダー組成物の水溶液のpH)
本実施形態のバインダー組成物は、バインダー水溶液とした際のpHが7以上9以下であることを特徴とする。バインダー組成物のpHが、pHが7.0以上8.5以下であることがより好ましく、特に、7.5以上8.5以下であることが好ましい。
無機繊維系断熱材として、一般的に、グラスウールやロックウールが用いられている。ロックウールはグラスウールと比較して融点が高く耐熱性に優れるが、グラスウールよりも酸に弱い。従来のノンホルムアルデヒドタイプのバインダー水溶液は、強酸性のポリカルボン酸を使用しているため、pHが6.2未満と低く、酸性であるため、ロックウールに用いると、ロックウールが溶解し、製品として要求される水準の成形体を得ることができなかった。
一方、本実施形態のバインダー組成物は、水溶液とした際のpHが7以上9以下の中性〜アルカリ性領域にあるため、ロックウールが溶解せず、ロックウールを用いた成形体の製造にも好適に使用できる。
また、従来のノンホルムアルデヒドタイプのバインダーは、ロックウール以外の酸による損傷を受け易い鉱物繊維、例えば、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウールにも使用することが困難であったが、本実施形態のバインダー組成物は、水溶液とした際のpHが7以上9以下の中性〜アルカリ性領域にあるため、酸による損傷を受け易い鉱物繊維にも好適に適用できる。
酸性のバインダー溶液に、過剰なアンモニアを添加することで、pHを中性〜アルカリ性領域にすることも可能であるが、過剰なアンモニアがバインダー溶液から揮発することにより作業環境が悪化してしまうことがあった。
また、酸性のバインダー溶液に、過剰な水酸化ナトリウムを加えることにより、pHを中性〜アルカリ性領域にすることも可能であるが、ナトリウムが残ることにより、バインダーを塗付した材料の表面が、強アルカリ性になってしまうことがあった。
本実施形態のバインダー組成物は、水溶液とした際のpHが7以上9以下の中性〜アルカリ性領域にあるため、過剰なアンモニアや水酸化ナトリウムを添加することなく用いることが可能である。
さらに、フェノール樹脂系バインダーはpHが7〜9で中性〜アルカリ性であったため、従来の成形体の製造装置には鋼材が用いられている。従って、バインダー水溶液が酸性であると、当該バインダーを用いて成形体を製造する際に、製造装置に使用されている鋼材、特にS50Cなどの炭素鋼材が錆びてしまう。従って、バインダー組成物が酸性であると、バインダー組成物を塗付する際に使用する設備に鋼材が使うことができない。酸性のバインダー水溶液を用いるために、成形体の製造装置をステンレス化するなどの対策を行う場合、莫大な費用が必要となってしまうが、本実施形態のバインダー組成物は、水溶液とした際のpHが7以上9以下程度の中性〜アルカリ性領域にあるので、従来の成形体の製造装置を、そのまま用いることが可能である。
また、本実施形態のバインダー組成物は、従来のフェノール樹脂系バインダーと同様に中性〜弱アルカリ性であり、酸性ではないため、ロックウール等の鉱物繊維に限定されることなく、それ以外の酸に弱い材料に対しても使用可能であり、フェノール樹脂系バインダーの代替品として幅広い用途に用いることができる。
(バインダー組成物の硬化メカニズム)
本実施形態に係るバインダー組成物は、無機酸アンモニウム塩及び不飽和カルボン酸アンモニウム塩がアンモニアの供給源として機能し、還元糖がアンモニアとメイラード反応して、メイラード反応生成物であるフルフラールやヒドロキシメチルフルフラール等のフルフラール類やピラリンやピロールアルデヒドなどピロール類が生成する。
次に、メイラード反応生成物であるフルフラール類とピロール類および不飽和モノカルボン酸の二重結合部でDiels−Alder反応やヘテロDiels−Alder反応が起き、メラノイジン重合物を形成する。このため、メラノイジン重合物は、未反応のカルボキシル基を有している(図1の上図)。そして、異なるメラノイジン重合物間のカルボキシル基と水酸基が脱水反応することでエステル結合を形成し、メラノイジン重合物の架橋構造が生成することで、本実施形態に係るバインダー組成物が硬化する(図1の下図)。
従来のバインダー組成物の反応は、メラノイジン重合物中の水酸基に対し、ポリカルボン酸を作用させることによってエステル結合を形成させ、架橋させるものである。従来のバインダー組成物では、メラノイジン重合物間の架橋には2つのエステル結合が存在していたが、本実施形態に係るバインダー組成物ではエステル結合が1つでメラノイジン重合物間の架橋ができる。したがって、本実施形態に係るバインダー組成物は、エステル結合の数が少ないメラノイジン重合物の架橋構造体を形成できるため、エステル結合の加水分解によって起こる劣化が起きにくいという利点がある。
本実施形態に係るバインダー組成物は、異なるメラノイジン重合物間が架橋されているため、強度及び弾性率などの力学的特性が優れる。炭素−炭素二重結合を有していない、飽和モノカルボン酸アンモニウム塩を用いた場合には、メラノイジン重合物間の架橋構造が生成することがないため、強度及び弾性率などの力学的特性が劣る。
不飽和モノカルボン酸類を添加しなかった場合は、メラノイジン重合物は生成するが、架橋構造が形成されないため、弾性率が高く非常に脆いものとなってしまい、力学的特性が劣る。また、湿度環境下での劣化が激しく、さらに強度および弾性率の低下が見られる。すなわち、耐湿度性に劣る構造体となってしまう。
<バインダー組成物を用いた成形体>
本実施形態に係るバインダー組成物を用い、グラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等の無機繊維を用いた断熱材、防音材などの成形体を製造することができるが、これに限定されるものではない。例えば、フェノール樹脂系バインダーに代表される熱硬化性バインダーが用いられる各種用途、例えば鋳造用、摩擦材用、砥石用、ろ紙用、成形材料用、合板加工用、化粧板用、積層板用に使用することが可能である。
本実施形態に係る成形体は、本実施形態のバインダー組成物を用いて、無機繊維等を成形してなるものであり、例えば断熱材、吸音材、木材ボード製品(チップボード、配向性ストランドボード、パーティクルボード、ファイバーボード等)、その他各種成形体(自動車の屋根、ボンネットのライナー等)として利用できる。
成形体に用いられる無機繊維としては、例えばロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール、ミネラルグラスウール等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら無機繊維を、いずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。汎用性、断熱性、防音性等の観点から、無機繊維として、グラスウール又はロックウールを用いることが好ましい。
本実施形態に係る成形体は、例えば梱包のための表皮材等の、該成形体以外の他の部材をさらに備えるものであってもよい。
また、無機繊維以外にも、木材(木材チップ、木材繊維等)、鋳物砂等を、本実施形態に係るバインダー組成物を用いて成形することで、木材ボード製品、鋳型等の成形体を提供することができる。
<バインダー組成物を用いた成形体の製造方法>
(無機繊維成形体の製造方法)
本実施形態に係る成形体は、バインダーとして、本実施形態に係るバインダー組成物を用いる以外は、従来、無機繊維成形体の製造に用いられている公知の方法を利用することができる。
例えば、本実施形態に係る、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物を調製する工程(以下、バインダー組成物調製工程)と、無機繊維に本実施形態に係るバインダー組成物を付着させる工程(以下、付着工程)と、前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、集積体とする工程(以下、集積工程)と、前記集積体を、所望の無機繊維成形体に対応した形状に成形する工程(以下、成形工程)と、前記成形された集積体を加熱し、バインダー組成物を架橋反応させる工程(以下、加熱・硬化工程)と、前記加熱工程で架橋したバインダー組成物を冷却する工程(以下、冷却工程)と、を順次行う方法が挙げられる。
以下、各工程について図2を参照して詳細に説明する。
(バインダー組成物調製工程)
バインダー組成物調製工程では、本実施形態に係る、還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物を調製する(ステップS1)。
この時、バインダー組成物を、水、アルコール等の溶媒を用いてバインダー溶液として調製する。
(付着工程)
付着工程では、無機繊維に本実施形態に係るバインダー組成物を付着させる(ステップS2)。
無機繊維としては、グラスウール、ロックウール、セラミックファイバー等を用いることができ、無機繊維の繊維長や繊維径は、無機繊維成形体に応じて選択すればよく、通常、繊維径が3〜10μmの範囲内のものが用いられるが、これに限定されるものではない。
無機繊維は、市販のものを用いてもよく、公知の方法により製造したものをそのまま用いてもよい。無機繊維は、一般的には、溶融した原料(ガラス、玄武岩等の鉱物、鉄炉スラグなど)を繊維化することにより製造され、繊維化方法としては、火炎法、遠心法等が挙げられる。
無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等を用いてバインダーを吹き付ける方法、無機繊維をバインダーに含浸させる方法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
無機繊維に付着させるバインダー組成物の量は、特に限定されないが、無機繊維を100質量%としたときに、バインダー組成物の固形成分が、0.5〜20質量%の範囲内であるとよい。バインダー組成物の量は、無機繊維成形体の性質に影響し、バインダー組成物の量が多いほど、無機繊維成形体の機械的強度が強くなる。
(集積工程)
集積工程では、前記付着工程において、バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、集積体とする(ステップS3)。
集積工程は、公知の方法により実施することができる。バインダー組成物が付着した無機繊維を回転するベルトに堆積させ、フリースを形成させるなどして、集積体とすればよい。
(成形工程)
成形工程では、前記集積体を、所望の無機繊維成形体に対応した形状に成形する(ステップS4)。
成形工程は、公知の方法により実施することができる。無機繊維成形体として板状のものを製造する場合を例に挙げると、コンベア上に集積体を積層させればよい。このとき、積層した集積体を鉛直方向から押圧して圧縮する圧縮工程を行ってもよい。
(加熱・硬化工程)
加熱・硬化工程では、成形された集積体を加熱し、前記バインダー組成物を架橋反応させる(ステップS5)。
成形された集積体を硬化炉へと送り、加熱して前記バインダー組成物を反応させることにより、異なるメラノイジン重合物間がエステル結合で架橋した構造を形成させる。
加熱工程における加熱温度は、バインダー組成物が架橋する範囲内であればよく、110℃以上300℃以下の範囲内であることが好ましい。110℃未満の場合、バインダー組成物の架橋が不充分となり、機械的強度が不足する可能性がある。300℃を超えると、バインダー組成物が分解し、機械的強度が低下する可能性がある。
加熱・硬化工程における加熱時間は、バインダー組成物が架橋する範囲内であればよく、集積体のサイズ、加熱温度等によって適宜調整され、特に限定されないが、30秒〜30分であればよい。
(冷却工程)
冷却工程では、前記加熱工程で架橋した、前記バインダー組成物を冷却する(ステップS6)。
具体的には、硬化炉から送出される無機繊維成形体を室温まで冷却する。
得られた無機繊維成形体は、そのまま製品としてもよく、必要に応じてさらに、切断する切断工程や、表皮材による梱包等を施す梱包工程を行ってもよい。
(ロックウールマットの製造方法)
本実施形態に係るバインダー組成物を用いた成形体の製造方法の具体例として、ロックウールマットの製造方法を説明する。図3は、本発明の一実施形態にかかるロックウールマットの製造方法を示す図である。
本実施形態のロックウールマットは、ロックウールの積層体からなるマットであり、ロックウールは硬化したバインダーにより互いに付着している。
溶融した原料1を、高速で回転するロール11に垂らす。原料1が周囲に伝わって流れるロール11に、エアーと共にバインダーを吹きかけ、原料1を繊維化して、スチールベルト(第1のベルト)13に吹き飛ばす。スチールベルト13上に繊維が堆積してフリース3が形成される。このフリース3はスチールベルト13の移動と共に移動し、所定の位置でペンジュラム(第2のベルト)15に移る。その後、フリース3はさらに移動して、所定の位置でコンベア(第3のベルト)17上に移る。コンベア17上でフリースを重ねて積層体5とする。この積層体5を硬化炉19に通して、バインダーを硬化させ、ロックウールマット7が得られる。
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<バインダー組成物の調製>
(比較例1及び比較例2)
バインダー性能の指標として、市販の無機繊維製品用のフェノール樹脂系バインダー(レヂトップ、群栄化学工業社製)を、比較例1のバインダーとした。
また、市販の無機繊維製品用のアクリル樹脂系バインダー(グラスパール、三洋化成工業社製)を、比較例2のバインダーとした。
(実施例1〜実施例8)
還元糖としてグルコースを、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩としてオレイン酸アンモニウムを、無機酸アンモニウム塩としてリン酸水素2アンモニウム又は硫酸アンモニウムを用い、表1に記載の配合量(モル比)で混合して、実施例1〜実施例8のバインダー組成物をバインダー水溶液として調製した。
Figure 2018053213
(比較例3〜6)
還元糖としてグルコースを用い、表2に記載の各成分と配合量(モル比)で混合して、比較例3〜6のバインダー組成物をバインダー水溶液として調製した。
Figure 2018053213
(実施例9〜実施例12)
還元糖としてグルコースを、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩としてオレイン酸アンモニウムを用いた。実施例9及び実施例10では無機酸アンモニウム塩としてリン酸水素2アンモニウムを用い、実施例11及び実施例12では無機酸アンモニウム塩として硫酸アンモニウムを用いた。これらの成分を、表3に記載の配合量(モル比)で混合して、実施例9〜実施例12のバインダー組成物をバインダー水溶液として調製した。なお、表3には実施例3及び実施例4の結果を併せて示している。
Figure 2018053213
(実施例13〜実施例16)
還元糖としてグルコース異性化糖(商品名:スリーシュガー、群栄化学工業社製、D−グルコース:D−フルクトース=45:55重量%〜40:60重量%)を用い、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩としてオレイン酸アンモニウムを用いた。実施例13及び実施例14では無機酸アンモニウム塩としてリン酸水素2アンモニウムを用い、実施例15及び実施例16では無機酸アンモニウム塩として硫酸アンモニウムを用いた。これらの成分を、表4に記載の配合量(モル比)で混合して、実施例13〜実施例16のバインダー組成物をバインダー水溶液として調製した。
Figure 2018053213
得られたバインダー水溶液を用いて、以下の手順で成形体の作製及び引張強度の測定を行った。
<試験例1:成形体の作製及び引張強度の測定>
以下の手順に従い、成形体の作製及び引張強度の測定を行った。
1)ガラス濾紙(ワットマン社製、グレードGF/A、120mm×25mm)をバインダー液に含浸させた。バインダー組成物が付着したガラス濾紙の重量を100重量%としたときに、バインダー組成物の付着重量が70重量%となるようにした。
2)バインダー組成物が付着したガラス濾紙を100℃で1時間乾燥した。
3)バインダー組成物を硬化温度(200℃)で30分硬化させた。
4)試験を行うガラス濾紙を、試験環境下(温度23℃/相対湿度20%RH、又は温度23℃/相対湿度80%RH)に5分間静置し、荷重フルスケール200N、引張り速度25.4mm/分の条件で、万能材料試験機(オリエンテック社製、RTC−1150A)を用いて、引張試験を行い、引張強度及び引張弾性率を得た。
なお、ガラス濾紙は、評価を簡便に行うために無機繊維の代替品として使用したものであり、グラスウール等の無機繊維を用いた場合の結果と同様の傾向を示すと推定される。
実施例1〜16又は比較例3〜6のバインダー組成物の代わりに、比較例1及び比較例2のバインダーを用いた以外は、試験例1と同様の手順で、成形体の作製をし、引張強度及び引張弾性率の測定を行った。
試験例1で得られた引張強度及び引張弾性率の測定結果を、バインダー水溶液のpHと共に、表1〜4に示す。
(比較例1及び比較例2の結果)
表1に示すように、フェノール樹脂系バインダー(比較例1)及びアクリル樹脂系バインダー(比較例2)を用いた場合の引張強度及び引張弾性率の値は、適切な値を示しており、湿度による数値の変化も許容範囲内であった。以下、比較例1及び比較例2の引張強度及び引張弾性率の値を、バインダー性能を判断する際の指標とした。
pHは、フェノール樹脂系バインダー(比較例1)で7.4、アクリル樹脂系バインダー(比較例2)で4.5であった。
(実施例1〜実施例8の結果)
表1に示すように、実施例1〜実施例8のバインダー組成物を用いた場合、引張強度が9.5〜11.2MPa、引張弾性率が954〜1634MPaの範囲内であり、適切な力学的特性を示し、湿度による数値の変化も小さかった。
実施例1〜8の結果から、オレイン酸アンモニウムのモル比を1としたときのグルコースのモル比は4〜10であればよく、6〜8であることが特に好ましいことがわかった。
無機酸アンモニウム塩として、リン酸水素2アンモニウム及び硫酸アンモニウムのいずれを用いても良好な引張強度及び引張弾性率の値が得られた。
また、pHは7.6〜8.4であり、中性〜アルカリ性領域であった。
(比較例3〜6の結果)
表2に示すように、クエン酸アンモニウムを用いた比較例3では、pHが5.3と低いものであった。
炭素−炭素二重結合を有していない飽和モノカルボン酸であるラウリン酸アンモニウムを用いた場合(比較例4)、pHは7.7であったが、引張強度及び引張弾性率の値が小さすぎるものとなり、バインダーとして不適切であることがわかった。
不飽和モノカルボン酸を用いなかった場合(比較例5及び比較例6)、弾性率の値が大きく、硬く脆いものであった。また、湿度の変化によって引張弾性率が大きく変化し、耐湿度性が低いことがわかった。さらに、pHが5.5及び6.2であり、酸性であった。
(実施例9〜実施例12の結果)
表3に示すように、実施例9〜実施例12の結果を実施例3及び実施例4の結果と併せて判断すると、引張強度及び引張弾性率の値は、無機酸アンモニウム塩の種類及び含有割合に依存しないことがわかった。
また、pHは7.6〜8.5であり、中性〜アルカリ性領域であった。
(実施例13〜実施例16の結果)
表4に示すように、グルコース以外にフルクトースを含有する異性化糖を用いても、良好な引張強度及び引張弾性率の値が得られたことから、還元糖としてフルクトースを用いてもよいことがわかった。
また、pHは7.4〜8.2であり、中性〜アルカリ性領域であった。
<試験例2:鉱物繊維マットの作製及び性能評価>
(鉱物繊維マット試験片の作製)
図3の装置を用いて上述した方法で、バインダー組成物の固形成分が1.0〜2.0重量%となるようにバインダー溶液を供給してロックウールマットを作製した。作製したロックウールマットの厚みは、76mm、密度は29kg/mであった。
この際に使用した、実施例17及び比較例7のバインダー組成物の配合は、表5及び表6に示す配合量(モル比)とし、溶媒として水を使用した。
バインダー性能の指標として、市販の無機繊維製品用のフェノール樹脂系バインダー(レヂトップ、群栄化学工業社製)を、比較例1のバインダー溶液とした。
Figure 2018053213
Figure 2018053213
(鉱物繊維マットの性能評価方法)
作製したロックウールマットから、縦×横×厚さが60mm×60mm×76mmの試験片5枚を切り出し、該試験片の厚さをノギスを用いて測定し、圧縮復元試験体を得た。
この圧縮復元試験体を、厚さが19.00mmになるように圧縮して、1ヶ月間放置した。放置した環境は、温度23℃/相対湿度20%RH、及び温度23℃/相対湿度80%RHであった。
その後、圧縮復元試験体を圧縮状態から開放して、試験体の厚みを、ノギスを用い1mm単位まで計測した。下記の式から復元率(%)を求め、試験片5枚の平均値を算出した。
復元率(%)=(圧縮後の試験片の厚み/圧縮前の試験片の厚み)×100
温度23℃/相対湿度20%RHで放置した結果を表5に、温度23℃/相対湿度80%RHで放置した結果を表6に示す。
(鉱物繊維マットの性能評価結果)
実施例17のバインダーは湿度の影響を受けることなく、従来用いられているフェノール樹脂(比較例1)と同程度の高い圧縮復元性を示した。一方、オレイン酸アンモニウムの代わりに、飽和モノカルボン酸であるラウリン酸アンモニウムを用いた比較例7では、復元率の値が小さく、バインダーとして圧縮復元性が不十分であり、高湿度下で復元率が低く、耐湿度性が低いことがわかった。
1 溶融した原料
3 フリース
5 積層体
7 ロックウールマット
11 ロール
13 スチールベルト(第1のベルト)
15 ペンジュラム(第2のベルト)
17 コンベア(第3のベルト)
19 硬化炉

Claims (11)

  1. 還元糖と、
    不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、
    無機酸アンモニウム塩と、
    を含むことを特徴とするバインダー組成物。
  2. 前記還元糖が、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のバインダー組成物。
  3. 前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩が、オレイン酸アンモニウム、リノール酸アンモニウム、リノレン酸アンモニウム、及びロジン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバインダー組成物。
  4. 前記無機酸アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、及び炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のバインダー組成物。
  5. 前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩のモル比を1としたときに、前記還元糖のモル比が2〜10であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載のバインダー組成物。
  6. 前記バインダー組成物の水溶液のpHが7以上9以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項に記載のバインダー組成物。
  7. 還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むことを特徴とするバインダー組成物と、
    無機繊維、木材、鋳物砂から選択される1種以上と、
    を含むことを特徴とする成形体。
  8. 前記無機繊維としてロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール、及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上の鉱物繊維を含むことを特徴とする請求項7に記載の成形体。
  9. 前記還元糖が、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、
    前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩が、オレイン酸アンモニウム、リノール酸アンモニウム、リノレン酸アンモニウム、及びロジン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、
    前記無機酸アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、及び炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の成形体。
  10. 成形体を製造する方法であって、
    還元糖と、不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩と、無機酸アンモニウム塩と、を含むバインダー組成物を調製するバインダー組成物調製工程と、
    無機繊維に前記バインダー組成物を付着させる付着工程と、
    前記バインダー組成物が付着した無機繊維を集積し、集積体とする集積工程と、
    前記集積体を、所望の無機繊維成形体に対応した形状に成形する成形工程と、
    前記成形された集積体を加熱し、前記バインダー組成物を架橋反応させる加熱・硬化工程と、
    前記バインダー組成物を冷却する冷却工程と、
    を行うことを特徴とする成形体の製造方法。
  11. 前記バインダー組成物調製工程において、
    前記還元糖が、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、マルトース、及びラクトースからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、
    前記不飽和モノカルボン酸アンモニウム塩が、オレイン酸アンモニウム、リノール酸アンモニウム、リノレン酸アンモニウム、及びロジン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、
    前記無機酸アンモニウム塩が、硫酸アンモニウム塩、リン酸アンモニウム塩、硝酸アンモニウム塩、及び炭酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項10に記載の成形体の製造方法。
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