JP2018046838A - マーカー遺伝子 - Google Patents

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Abstract

【課題】クリプトコッカスsp.S−2株における遺伝子組み換えマーカーとして使える、新規の遺伝子マーカー、効率的な遺伝子破壊方法、及びかかる方法を利用した相同組換えの頻度の増大方法の提供。【解決手段】特定の配列からなる塩基配列、又はその塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキシアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるマーカー遺伝子。好ましくは、マーカー遺伝子は、特定の配列からなる塩基配列、又はその塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつプロモーター活性を有する塩基配列をプロモーターとしてさらに含む。【選択図】図1

Description

本発明は、遺伝子の機能解析などのために、担子菌酵母の一種であるクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株のゲノム中の特定の遺伝子を破壊する方法に関し、さらには、かかる方法により発見された新規のマーカー遺伝子、かかる方法を特定の遺伝子の破壊に適用することにより得られた、相同組換えの頻度が増大されたクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株等に関する。
近年、遺伝子組換え技術の発展により、原核生物や真核生物を宿主として利用して産業上有用なタンパク質を大量に生産することが可能になった。原核生物の宿主としては、大腸菌などの細菌が一般的に使用されており、真核生物の宿主としては、サッカロミセス属やピキア・パストリス(Pichia pastris)などの酵母が一般的に使用されている。
酵母は、一般的に細菌と比べて増殖速度が速いため、細菌よりも高い細胞密度で培養することができる。また、酵母は、細菌と比べて菌体と培養液との分離が容易であるため、生産されたタンパク質の抽出精製工程を簡単にすることができる。このため、酵母は、遺伝子組換え技術による有用タンパク質の生産宿主として使用されることが多くなっている。
かかる酵母の有用性に鑑み、出願人らは、種々の酵母の中から、αアミラーゼ、酸性キシラナーゼ、クチナーゼなどのタンパク質を大量に生産して細胞外に分泌する特性を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)sp.S−2株(担子菌酵母の一種であり、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−10961として平成7年9月5日に国際寄託済)を選抜した(非特許文献1参照)。
また、出願人らは、この菌株の細胞外タンパク質の生産性の高さを利用して、酵母が本来生産するタンパク質以外の異種タンパク質を大量生産することを提案し、さらに、外来遺伝子を導入された形質転換体の選抜を一層効率的にするため、クリプトコッカスsp.S−2株の自然変異により、ウラシル要求性株(U5株)を取得し、この菌株と、マーカー遺伝子としてのURA5遺伝子を組合せて用いることによって、形質転換体を選抜する方法を提案した(非特許文献2参照)。
U5株を用いることによる異種タンパク質の発現について、様々な菌株からラッカーゼ遺伝子を取得し、クリプトコッカスsp.S−2.U5株を宿主として組換え発現効率を検討したところ、トラメテス・ベルシカラー(Trametes versicolor)及びガエウマノミセス・グラミニス(Gaeumannomyces graminis)由来のラッカーゼ遺伝子を組換え発現させた場合、ピキア・パストリスを宿主として用いた場合より大幅に高い生産性を示すことが記載されている(非特許文献3参照)。
また、特許文献1には、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼについて、特許文献2には、アスペルギルス・オリゼ由来のフラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコースデヒドロゲナーゼについて、コドンユーセージをクリプトコッカスsp.S−2株に合わせて最適化し、さらに分泌シグナル配列をクリプトコッカスsp.S−2株由来の配列に置換することによって、効率的に酵素を発現させることが可能になることが記載されている。
上記のように、クリプトコッカスsp.S−2株は、異種タンパク質を効率的に発現させるための宿主として、ますます有用になってきている。
一方、クリプトコッカスsp.S−2株における遺伝子組換えマーカー遺伝子としては、ウラシル要求性遺伝子マーカーであるURA5遺伝子が報告されているのみである。URA5遺伝子は、orotate phosphoribosyl transferaseをコードしており、本遺伝子を遺伝子マーカーとして用いて、ウラシル要求性株であるU5株に形質転換を行うことにより、ウラシル要求性の有無を指標として形質転換体を選抜することが可能である。
また、5−FOA(5−Fluoroorotic acid)は、orotate phosphoribosyl transferaseを合成する酵母細胞に対してのみ致死作用を示すため、5−FOAの存在下で培養を行うことにより、ウラシル要求性株のポジティブスクリーニングを行うことが可能である(非特許文献4参照)。
この5−FOAの性質を利用して、ピキア・パストリスにおけるPop−in/Pop−out遺伝子破壊法が報告されている(非特許文献5参照)。この方法では、まず、ウラシル要求性マーカー遺伝子とターゲット塩基配列を連結して宿主ゲノム中に導入する。次に、導入したターゲット塩基配列と、宿主の染色体上に存在する塩基配列との間で相同組換えを起こさせ、ウラシル要求性マーカー遺伝子とともにターゲット配列を除去する。この方法によれば、ウラシル要求性マーカー遺伝子をリサイクルすることが可能になるため、遺伝子の多重破壊が可能になる。
しかし、クリプトコッカスsp.S−2株に外来遺伝子、若しくは、クリプトコッカスsp.S−2由来の塩基配列を導入した場合、クリプトコッカスsp.S−2株の染色体上にランダムに遺伝子が導入されることが非特許文献2に示されており、ターゲットとする位置に外来遺伝子を導入することは非常に困難である。クリプトコッカスsp.S−2株において相同組換え効率が低い原因は、外来遺伝子の導入時に、非相同末端結合(Non−Homologous End Joiuning)が起こっているためであると考えられ、クリプトコッカスsp.S−2株には非相同組換え機構が備わっていると考えられる。
真核生物において、二本鎖DNAの切断が修復される過程で働く非相同末端結合機構は、Ku70―Ku80ヘテロダイマー、DNAリガーゼIV−Xrcc4複合体を介して進行することが報告されており(非特許文献5参照)、Ku遺伝子変異体において、ターゲッティング頻度が向上することが、アカパンカビNeurospora crassa(非特許文献7、特許文献3参照)、コウジカビAspergillus oryzae、Aspergillus sojae(非特許文献8、特許文献4参照)などの真核生物において報告されている。
さらに、非特許文献9には、担子菌酵母の一種であるクリプトコッカス・ネオホルマンス(Cryptococcus neoformans)において、遺伝子の相同組換え効率が非常に低いことが示されており、Ku遺伝子の破壊により、遺伝子の相同組換え効率が飛躍的に向上したことが示されている。
上述するように、クリプトコッカスsp.S−2株は、異種タンパク質発現の宿主として非常に有用な微生物であり、この菌株の特性のさらなる改良を目的とした育種のために、遺伝子の機能解析は重要である。
特開2013−46610号公報 特開2013−135663号公報 特開2005−237316号公報 特開2006−158269号公報
Biosci.Biotech.Biochem.,58(12),2261−2262,1994 Appl.Microbiol.Biotechnol.2011 Nov 15.(Construction of a new recombinant protein expression system in the basidiomycetous yeast Cryptococcus sp.strain S−2 and enhancement of the production of a cutinase−like enzyme.) Journal of bioscience and bioengineering 115:394−399.2013(Comparison of laccase production levels in Pichia pastoris and Cryptococcus sp.S−2.) Methods Enzymol.154,164−175 1987 BioTechniques 31 306−312,2001 Nature 412,607−614,2001 PNAS 101,12248−12252 2004 Mol.Gen.Genet.275,460−470 2006 Fungal Genet Biol.43,531−44 2006
しかしながら、クリプトコッカス・ネオホルマンスが有性世代を持つのに対し、クリプトコッカスsp.S−2株はこれまでのところ有性世代が確認されていない。そのために、菌株間の交配等の手段によって、新たな変異株を作製することができず、遺伝学的研究が困難であり、産業的に極めて有用な菌であるにも関わらず、遺伝的解析は遅れていた。
このような有性世代を有さない生物の遺伝子の機能解析には、遺伝子ターゲッティングによる遺伝子破壊あるいは遺伝子置換が特に重要な技術となるが、そのために必要な遺伝子マーカーは、クリプトコッカスsp.S−2株についてはウラシル要求性マーカーが取得されているのみであった。さらに、クリプトコッカスsp.S−2株の相同組換え頻度は非常に低いものであるため、クリプトコッカスsp.S−2株を用いて遺伝子破壊株を取得すること、あるいは任意の位置での相同組換え株を取得することは極めて困難であった。
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的はクリプトコッカスsp.S−2株の新規の遺伝子マーカー、効率的な遺伝子破壊方法、及びかかる方法を利用した相同組換えの頻度の増大方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために、他の酵母における遺伝子破壊法のクリプトコッカスsp.S−2株への応用について鋭意検討した結果、クリプトコッカスsp.S−2株においても、ピキア・パストリスと同様に、ウラシル要求性マーカー遺伝子を用いたPop−in/Pop−out法により、効率的に遺伝子を破壊することができることを見出した。また、かかる方法を用いて、形質転換体の選抜に有用な新たな遺伝子マーカーを取得することができること、さらには、かかる方法を用いて、非相同末端結合機構に関与するKu遺伝子を破壊することにより、相同組換えの頻度を増大させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明は、以下の[1]〜[7]の構成を有するものである。
[1]以下の工程を含むことを特徴とする、クリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株のゲノム中の特定の遺伝子を破壊する方法:
(1)前記特定の遺伝子の5′側配列の少なくとも一部と、ウラシル要求性マーカー遺伝子配列と、前記特定の遺伝子の3′側配列の少なくとも一部とをこの順序で含み、さらに、前記特定の遺伝子の5′側配列の少なくとも一部と前記ウラシル要求性マーカー遺伝子配列の間及び/又は前記ウラシル要求性マーカー遺伝子配列と前記特定の遺伝子の3′側配列の少なくとも一部の間に、前記特定の遺伝子の5′側又は3′側配列の別の少なくとも一部が挿入されている遺伝子コンストラクトを作製する工程;
(2)前記ウラシル要求性の菌株を前記遺伝子コンストラクトで形質転換し、ウラシル非含有培地で培養して、前記菌株のゲノム中の前記特定の遺伝子が存在する部位に二重相同組換えによって前記遺伝子コンストラクトが挿入された第1の形質転換体を選抜する工程;及び
(3)5−FOAを含有する培地で前記第1の形質転換体を培養し、相同配列の染色体内部での相同組換えによりウラシル要求性マーカー遺伝子がゲノム中から除去された第2の形質転換体を選抜する工程。
[2]クリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株が、FERM BP−10961として国際寄託されているクリプトコッカスsp.S−2.U5株であることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]配列番号1で示される塩基配列、又は配列番号1で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキシアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなることを特徴とするマーカー遺伝子。
[4]配列番号2で示される塩基配列、又は配列番号2で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつプロモーター活性を有する塩基配列をプロモーターとしてさらに含むことを特徴とする、[3]に記載のマーカー遺伝子。
[5]相同組換えの頻度が増大されたクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株を取得する方法であって、[1]又は[2]に記載の方法によってクリプトコッカス属の菌株のゲノム中のKu遺伝子を破壊する工程を含むことを特徴とする方法。
[6]クリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株が、FERM BP−10961として国際寄託されているクリプトコッカスsp.S−2.U5株であり、Ku遺伝子が、配列番号3で示される塩基配列、又は配列番号3で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつKu遺伝子活性を有する塩基配列からなることを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7]相同組換えの頻度が増大されたクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株であって、[5]又は[6]に記載の方法により得られることを特徴とする菌株。
本発明によれば、機能解析や改変の対象となる標的遺伝子の破壊や相同組換え、及び形質転換体の選択を効率的に行うことができるため、クリプトコッカス属の菌株における遺伝子の多重破壊や遺伝子組換えの効率を飛躍的に向上させることができる。従って、本発明は、クリプトコッカス属の菌株の遺伝子の機能解析やそれに基づく育種のために極めて有用である。
図1は、ade1 Pop−in/Pop−outベクターの構造を示す。 図2は、ade1 Pop―in株の確認結果を示す。 図3は、ade1 Pop―in株の栄養要求性の確認結果を示す。 図4は、ade1 Pop−outの原理を示す。 図5は、ade1 Pop−out株の確認結果を示す。 図6は、ade1 Pop−out株の栄養要求性の確認結果を示す。 図7は、ade1 相補コンストラクトを示す。 図8は、Ku70のPop−in/Pop−outベクターの構築手順を示す。 図9は、Ku70のPop−in/Pop−outの確認結果を示す。 図10は、ade1 遺伝子座へのターゲティング率の確認結果を示す。 図11は、xyl1 破壊ベクターの構造を示す。 図12は、xyl1 遺伝子座へのターゲティング率の確認結果を示す。
以下、本発明の遺伝子破壊方法、かかる方法によって得られるマーカー遺伝子、かかる方法を特定の遺伝子の破壊に適用することにより得られる、相同組換えの頻度が増大されたクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株を取得する方法、及びかかる取得方法により得られる菌株について説明する。
本発明は、遺伝子の機能解析などのためにクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株のゲノム中の特定の遺伝子を破壊する方法を提供するものである。この方法は、Pop−in/Pop−outコンストラクトを作製する工程(1)、このコンストラクトを用いてPop−inを行い、特定の遺伝子を破壊する工程(2)、及びPop−outを行い、ウラシル要求性マーカー遺伝子を除去する工程(3)を含むものである。
工程(1)では、特定の遺伝子コンストラクト(Pop−in/Pop−outコンストラクト)を作製するが、この遺伝子コンストラクトは、特定の遺伝子の5′側配列の少なくとも一部と、ウラシル要求性マーカー遺伝子配列と、特定の遺伝子の3′側配列の少なくとも一部とをこの順序で含むことが必要であり、さらに、特定の遺伝子の5′側配列の少なくとも一部とウラシル要求性マーカー遺伝子配列の間及び/又はウラシル要求性マーカー遺伝子配列と特定の遺伝子の3′側配列の少なくとも一部の間に、特定の遺伝子の5′側又は3′側配列の別の少なくとも一部が挿入されていることが必要である。
工程(1)によって作製されるPop−in/Pop−outコンストラクトの一例は、図1の下側に示される三つのコンストラクト(ade1−Upop1000a,ade1−Upop500a,及びade1−Upop1000b)である。図1からわかるように、Pop−in/Pop−outコンストラクトは、破壊対象の特定の遺伝子のORFの代わりにウラシル要求性マーカー遺伝子のORFが、この特定の遺伝子の5′側配列の少なくとも一部と3′側配列の少なくとも一部の間に挟まれた構造を有する。これは、工程(2)において、相同組換えによって特定の遺伝子を破壊するためである。また、本来存在する5′側又は3′側配列(の少なくとも一部)に加えて、5′側又は3′側配列の別の少なくとも一部が、本来存在する5′側又は3′側配列(の少なくとも一部)とウラシル要求性マーカー遺伝子のORFとの間に挿入されている。これは、工程(3)において、5′側又は3′側配列の少なくとも一部と、5′側又は3′側配列の別の少なくとも一部との間で、相同配列の染色体内部での相同組換えを生じさせて、ウラシル要求性マーカー遺伝子をゲノム中から除去するためである。
「ウラシル要求性マーカー遺伝子」は、ウラシルの合成に関与する遺伝子であり、例えばorotate phosphoribosyl transferaseをコードする遺伝子が挙げられる。その具体的な例としては、クリプトコッカスsp.S−2のURA5遺伝子を挙げることができる。この遺伝子の配列は、GenBank:AB470526.1に公開されている。
URA5遺伝子がコードするorotate phosphoribosyl transferaseによって、5−FOA(フルオロオロチン酸)は分解される。その結果、orotateの代わりにウラシル合成経路に取り込まれ、最終的に正常なRNAの合成を阻害し、細胞の成育を抑制する。一方、URA5遺伝子が抑制または除去された菌株は5−FOAを分解しないため、5−FOAの存在下でも生育することができる。従って、5−FOAを用いることで、ウラシル要求性マーカーが抑制または除去された菌株を選抜することが可能である。
工程(2)では、ウラシル要求性の菌株を遺伝子コンストラクトで形質転換し、ウラシル非含有培地で培養して、菌株のゲノム中の特定の遺伝子が存在する部位に二重相同組換えによって遺伝子コンストラクトが挿入された第1の形質転換体を選抜する。これは、一般的な形質転換工程と同様である。
工程(1)で作製された遺伝子コンストラクトは、ウラシル要求性マーカー遺伝子を含む。従って、工程(2)で、形質転換処理後の菌体をウラシル非含有培地で培養すると、菌株のゲノム中の特定の遺伝子が存在する部位に二重相同組換えによって遺伝子コンストラクトが挿入された形質転換体のみが生育することができ、目的とする形質転換体(第1の形質転換体)を選抜することができる。
工程(3)では、5−FOAを含有する培地で第1の形質転換体を培養し、相同配列の染色体内部での相同組換えによりウラシル要求性マーカー遺伝子がゲノム中から除去された第2の形質転換体を選抜する。
工程(2)で菌株のゲノム中に遺伝子コンストラクトが挿入されたが、この遺伝子コンストラクトは、5′側配列及び3′側配列の少なくとも一方を少なくとも部分的に重複して含むため、必ずしも安定ではない。従って、図4に示されるように、形質転換後の培養中に、これらの相同配列の間で染色体内部での相同組換えが一定頻度で生じ、それによりウラシル要求性マーカー遺伝子が除去された形質転換体が一定頻度で出現する。これがPop−outと称される現象である。一方、上述の通り、5−FOAの存在下では、ウラシル要求性マーカー遺伝子を有さない菌株のみが生育することができる。従って、工程(2)の後の形質転換体を工程(3)において5−FOAを含む培地中で培養することにより、染色体内部での相同組換えが生じてウラシル要求性マーカー遺伝子が除去された形質転換体(第2の形質転換体)を選抜することができる。この形質転換体は、特定の遺伝子が破壊されており、しかもウラシル要求性マーカー遺伝子が除去されているため、遺伝子の多重破壊が可能であり、遺伝子の機能解析や育種のために極めて有用である。
クリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株は、特に限定されないが、例えばクリプトコッカスsp.S−2,クリプトコッカス・リクエファシエンス(Cryptococcus liquefaciens),クリプトコッカス・フラヴス(Cryptococcus flavus),クリプトコッカス・カルバツス(Cryptococcus curvatus)などから自然変異により取得されるものを使用することができる。これらの菌は、市販品として、または、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)などの公的寄託機関から入手することができる。特に好ましいクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株は、FERM BP−10961として国際寄託されているクリプトコッカスsp.S−2.U5株である。
また、本発明は、配列番号1で示される塩基配列からなることを特徴とするマーカー遺伝子を提供する。
配列番号1で示される塩基配列は、Ade1遺伝子に相当する。この遺伝子は、アデニンの合成に関与するホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキシアミド合成酵素(Phosphoribosylaminoimidazole−succinocarboxamide synthase)をコードする遺伝子である。この遺伝子がコードするアミノ酸配列は、既に知られているクリプトコッカス・ネオホルマンスのAde1遺伝子に対して77%の同一性を有する。
本発明では、マーカー遺伝子は、配列番号1で示される塩基配列のものに限定されず、配列番号1で示される塩基配列に対して90%以上、好ましくは95%以上の同一性を有し、かつホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキシアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列(いわゆる均等の範囲の配列)も包含する。かかる均等の範囲の配列は、配列番号1で示される塩基配列と相補的な塩基配列又はその一部のプローブとして、ストリンジェントな条件(例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH6〜8であるような条件)下でハイブリダイゼーションを行い、得られた塩基配列を遺伝子発現させてその機能を確認することにより、容易に得ることができる。なお、塩基配列間の同一性は、当業者に公知のアルゴリズム、例えば、Blastを用いて決定することができる。
配列番号1は、Ade1遺伝子のORFのみの配列であるため、配列番号1又はその均等の範囲の配列を実際にマーカー遺伝子として機能させるためには、その5′側に適切なプロモーター配列を配置することが望ましい。かかるプロモーター配列としては、従来公知のいかなるものも使用することができるが、特に配列番号2で示される塩基配列、又は配列番号2で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつプロモーター活性を有する塩基配列(いわゆる均等の範囲の配列)を使用することが、マーカー遺伝子の全長を最小限に抑えながらもマーカー遺伝子としての機能を奏させるために好ましい。なお、均等の範囲の配列の取得方法は、配列番号1の場合と同様である。配列番号2は、「TEF1プロモーター」と称されるものであり、translation elongation factor 1 alphaをコードする遺伝子の5′側の塩基配列である。
「TEF1プロモーター」は、遺伝子の発現のために誘導剤を必要としないため、形質転換に用いるマーカー遺伝子(例えば、上述したAde1遺伝子)や、異種タンパク質遺伝子(例えば、特許文献2に示されるアスペルギルス・オリゼ由来フラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコースデヒドロゲナーゼ(FAD−GDH))などの発現に好適である。
また、本発明は、相同組換えの頻度が増大されたクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株を取得する方法を提供する。この方法は、上述の遺伝子破壊方法によってクリプトコッカス属の菌株のゲノム中のKu遺伝子を破壊する工程を含むものである。
Ku遺伝子は、真核生物において、二本鎖DNAの切断が修復される過程で働く非相同末端結合機構に関与する。従って、Ku遺伝子を本発明の方法により破壊することにより、非相同末端結合機構を抑制することができ、相同組換えの頻度を増大することができる。
Ku遺伝子としては、従来公知のいかなるものも使用することができるが、特に配列番号3で示される塩基配列、又は配列番号3で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつKu遺伝子活性を有する塩基配列(いわゆる均等の範囲の配列)を使用することが好ましい。なお、均等の範囲の配列の取得方法は、配列番号1の場合と同様である。
配列番号3のKu遺伝子は、クリプトコッカスsp.S−2株のKu70遺伝子に相当する。この遺伝子がコードするアミノ酸配列は、既に知られているクリプトコッカス・ネオホルマンスのKu70遺伝子に対して59%の同一性を有する。このように、この遺伝子は既知の配列に対して同一性が低く、機能未知の配列であった。
また、本発明は、上述の方法により得られる、相同組換えの頻度が増大されたクリプトコッカス属のウラシル要求性の菌株を提供する。この菌株は、非相同組換え機構が抑制されているため、遺伝子ターゲッティング法又は標的遺伝子組換え法(細胞にDNAを導入し、相同組換え体を選択することにより、標的とする特定遺伝子に突然変異を導入する方法)において非常に高いターゲッティング率が得られるものである。従って、かかる菌株は、遺伝子破壊(ノックアウト)株、遺伝子欠失株、遺伝子置換又は挿入株、又は染色体改変株等の、所望の各種目的株を容易に取得するために極めて有用である。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(A)Ade1遺伝子のPop−in/Pop−outコンストラクトの作製
クリプトコッカスsp.S−2のAde1遺伝子破壊株を作製するために、Ade1遺伝子のPop−in/Pop−outコンストラクトを作製した。Pop−in/Pop−outコンストラクトの作製には、クリプトコッカスsp.S−2のAde1遺伝子の上流約2kbpと、下流約2kbpを使用した。Ade1遺伝子の上流配列を配列番号4に、Ade1遺伝子の下流配列を配列番号5に示す。
まず、ade1遺伝子の上流約2kbpとAde1遺伝子のORFと、ade1遺伝子の下流約2kbpを含む領域を、配列番号6(Ade1P2k_F)のプライマーと、配列番号7(Ade1T2k_R)のプライマーを用いたPCRにより増幅し、Zero Blunt(登録商標)PCR Cloning Kit(Invitrogen社)を用いて、pCR−Bluntベクター中にクローニングした。インサートが導入されたプラスミドを取得し、pCR−ade1と命名した。
次に、pCR−ade1ベクターから、配列番号8(pCR−ade1−PT−F)のプライマーと、配列番号9(pCR−ade1−PT−R)のプライマーを用いてinverse PCRを行い、ade1遺伝子のORF部分を除去したPCR産物を作製した。さらに、非特許文献2に記載のクリプトコッカスsp.S−2組換えベクターであるpCsURA5から、配列番号10(ura5−ade1−F)のプライマーと配列番号11(ura5−ade1−R)のプライマーを用いて、PCRを行い、クリプトコッカスsp.S−2株由来のUra5遺伝子を増幅した。このようにして作製した2つのPCR産物を、In−Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて融合させ、ade1遺伝子が破壊されたベクターであるpCR−ade1−ura5を作製した。
次に、pCR−ade1−ura5ベクターから、以下の3通りのPCR及びin−fusion反応を行った。
すなわち、配列番号8(pCR−ade1−PT−F)のプライマーと配列番号9(pCR−ade1−PT−R)のプライマーで増幅したPCR産物と、配列番号10(ura5−ade1−F)と配列番号11(ura5−ade1−R)のプライマーで増幅したPCR産物をin−fusion反応させて、Ade1−Upop1000aベクターを作製し、
配列番号15(Ade1−500F)のプライマーと配列番号12(Ura5 708−688R)のプライマーで増幅したPCR産物と、配列番号16(Ade1−1436F)と配列番号17(pCR−ade1−PT−R3)のプライマーで増幅したPCR産物をin−fusion反応させて、Ade1−Upop500aベクターを作製し、
配列番号18(Ade1−1000F)のプライマーと配列番号12(Ura5 708−688R)のプライマーで増幅したPCR産物と、配列番号13(Ade1+936F)と配列番号19(pCR−ade1−PT−R4)のプライマーで増幅したPCR産物をin−fusion反応させて、Ade1−Upop1000bベクターを作製した。
このようにして、Ade1遺伝子の上流、ORF、及び下流を含むpCR−ade1ベクター、Ade1の破壊ベクターであるpCR−ade1−ura5、並びにAde1遺伝子のPop−in/Pop−outベクターであるAde1−Upop1000a,Ade1−Upop500a,及びAde1−Upop1000bをそれぞれ完成させた。これらのベクター(遺伝子コンストラクト)の詳細な構造を図1に示す。
(B)Ade1遺伝子のPop−in/Pop−out
組換え宿主としては、クリプトコッカスsp.S−2.U5株を使用した。本菌株は、FERM BP−10961として国際寄託されている。本菌株は、形質転換体の選択のために、ウラシル要求性となっており、ウラシルマーカーであるURA5遺伝子を含むプラスミドを形質転換することにより、ウラシル要求性の有無を指標として形質転換体を選抜することが可能である。
形質転換は、Infect Immun.1992 Mar;60(3):1101−8.(Varmaら)に記載の方法で実施した。具体的には、クリプトコッカスsp.S−2.U5株を20mlYM培地(酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、ポリペプトン0.5%、グルコース1.0%)で25℃、48時間培養した。得られた培養液の吸光度(OD660nm)を測定した。次に、この培養液を200ml液体培地(酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、ポリペプトン0.5%、グルコース1.0%)に、培養液の吸光度(OD660nm)が0.1Absになるように植菌して、培養液の吸光度(OD660nm)が約1.0Absになるまで25℃で培養を行った。次に、この培養液を遠心分離して菌体を回収し、Wash buffuer(270mMシュークロース、1mM塩化マグネシウム、4mM DTT、10mM Tris−HCl pH7.6)で菌体を2回洗浄し、Electroporation buffer(270mMシュークロース、1mM塩化マグネシウム、10mM Tris−HCl pH7.6)に吸光度OD660=50Absとなるように懸濁して懸濁液を調製した。次に、上記(A)で作製した三つのAde1遺伝子のPop−in/Pop−outベクター(Ade1−Upop1000a,Ade1−Upop500a,及びAde1−Upop1000b)を予めKpnIによって制限酵素処理して直鎖化したもの10μg(〜5μl)を、懸濁液100μlに添加し、エレクトロポレーション用のキュベットに移した後、Gene Pulser Xcell(BIO−RAD社)を用いて通電した。通電条件は、C=25μF;V=0.47kVに設定した。通電後の液中に、600μl Electroporation buffer(270mMシュークロース、1mM塩化マグネシウム、10mM Tris−HCl pH7.6)を添加し、選択プレート上に塗り広げた。選択プレートとしては、YNB−ura寒天培地(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、0.078% −ura DO supplement、2%グルコース、1%寒天粉末)を用いた。植菌したプレートを25℃で1週間静置培養し、生育コロニーを選抜した。
形質転換で得られた形質転換体については、配列番号6のAde1−P2K及び配列番号7のAde1−T2K_Rをプライマーとして用いてKOD−Fx(東洋紡社製)によるコロニーPCRを行うことにより、遺伝子コンストラクト(ベクター)の導入を確認した。その結果を図2に示す。
図2からわかるように、Ade1−Upop1000a形質転換体については、5株中2株が(図2の1と5)、ade1−Upop500a形質転換体については、5株中1株が(図2の6)、ade1−Upop1000b形質転換体については3株中1株が(図2の12)、ade1遺伝子座でPop−in/Pop−outコンストラクトを二重相同組換えにより導入されていた。
さらに、得られた形質転換体を、YNB+ura寒天培地(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、 500mM ウラシル、2%グルコース、1%寒天粉末)及びYNB+ura+ade寒天培地(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、500mM ウラシル、500mM アデニン、2%グルコース、1%寒天粉末)培地にそれぞれ植菌し、菌体の生育の有無により、各形質転換体の栄養要求性を確認した。その結果を図3に示す。
図3からわかるように、コロニーPCRでade1遺伝子座へのPop−in/Pop−outコンストラクトの二重相同組換えが確認された株(図3中の番号1,5,6,12)では、アデニン非存在下で生育が確認されず、アデニンを添加した培地でのみ生育が確認された。本結果から、得られた形質転換体は、ade1遺伝子が破壊され、アデニン要求性となっていることが確認された。
次に、本形質転換体に関して、Pop−outを行った。Pop−outとは、図4に示すように、各Pop−in/Pop−outコンストラクトを導入した形質転換体の染色体において、相同配列の染色体内部での相同組換えが起こり、Ura5マーカー遺伝子が除去された形質転換体が、ある一定の頻度で出現する現象のことである。Ura5マーカー遺伝子が除去された形質転換体は、5−FOA存在下で生育することができるようになるため、形質転換体の培養液を5−FOAを含む培地中で生育させ、生育コロニーを選抜することでPop−out株を選抜することが可能である。
Pop−outは、以下の手順で行った。形質転換体を5mlYNB+URA培地(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、0.078%−ura DO supplement、500mM ウラシル、2%グルコース)で25℃、48時間培養した。得られた培養液0.1mlを5−FOA選択プレート(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、0.078%−ura DO supplement、500mM ウラシル、0.2% 5−FOA、2%グルコース、1%寒天粉末)に植菌した。植菌したプレートを25℃で1週間静置培養し、生育コロニーを選抜した。生育したコロニーについては、配列番号6のAde1−P2K及び配列番号7のAde1−T2K_Rをプライマーとして用いてKOD−Fx(東洋紡社製)によるコロニーPCRを行うことにより、遺伝子のPop−outを確認した。その結果の一例を図5に示す。
図5に示すように、Pop−in/Pop−outコンストラクトがPop−outされた場合、コロニーPCRによって、ade1−Upop−1000aとade1−Upop−500aについては3797bp、ade1−Upop−1000bについては2797bpのPCR産物が得られる。ade1−Upop−1000a形質転換体のPop−out候補株では、16株中16株がPop−outされており、ade1−Upop−500a形質転換体のPop−out候補株では、16株全てでPop−outされていなかった。また、ade1−Upop−1000b形質転換体のPop−out候補株では16株中15株がPop−outされていた。以上のことから、Pop−in/Pop−outコンストラクトのPop−outのためには、少なくとも1000bpの長さの相同配列が必要であることが判明した。
さらに、得られたPop−out株を、YNB+ura寒天培地(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、500mM ウラシル、2%グルコース、1%寒天粉末)とYNB+ade寒天培地(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、500mM アデニン、2%グルコース、1%寒天粉末)培地、及び5−FOA選択プレート(0.67%Yeast Nitrogen Base W/O amino acid、0.078%−ura DO supplement、500mM ウラシル、0.2% 5−FOA、2%グルコース、1%寒天粉末)にそれぞれ植菌し、菌体の生育を確認した。生育の結果を図6に示す。
図6に示すように、Pop−out株では、アデニン要求性に加えて、ウラシル要求性になっていることが確認された。また、Pop−out株は、5−FOAを含む培地でも生育した。このようにして得られたPop−out株をA1U5株と命名して、以下の検討に用いた。
(C)Ade1遺伝子に基づくマーカー遺伝子の設計
Ade1遺伝子を実際にマーカー遺伝子として機能させるためには、Ade1遺伝子が発現されてAde1タンパク質が生産されることが必要である。そこで、Ade1遺伝子を発現するために好適なプロモーターの種類を検討した。
まず、上記(A)で作製したクリプトコッカスsp.S−2のAde1遺伝子の上流約2kbpと、ade1遺伝子のORF領域、及びAde1遺伝子の下流約2kbpを含む、pCR−ade1を検討に用いた。配列番号20(Ade1U1KF)と配列番号21(Ade1terR)を用いてPCRを行い、クリプトコッカスsp.S−2のAde1遺伝子の上流1kpと、ade1遺伝子のORF領域、Ade1遺伝子の下流0.3kbpを含む領域を増幅した産物をTarget−clone plus(東洋紡製)にクローニングして、pTAde1+1k−0.3kを作製した。さらに、クリプトコッカスsp.S−2株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号22(CsEF1p_F(Mun))と、配列番号23(EF1pAde1_fR)のプライマーを用いて増幅したクリプトコッカスsp.S−2由来TEF1プロモーター配列のPCR産物と、配列番号24(EF1pAde1_fF)と配列番号21(Ade1terR)のプライマーを用いて増幅した、クリプトコッカスsp.S−2のade1遺伝子のORF領域とade1遺伝子の下流領域0.3kbpを含むPCR産物をFusion−PCRし、得られた産物をTarget−clone plus(東洋紡製)にクローニングして、pTTef1p−Ade1を作製した。上述のようにして作製したコンストラクト(プラスミド)の構造を図7に示す。
次に、作製したプラスミドを用いて、クリプトコッカスsp.S−2 A1U5株に形質転換を行った。形質転換は、上記(B)に示す方法で行い、選択培地には、YNB+ura培地を用いた。その結果、pCR−ade1及び、pTTef1p−Ade1を形質転換に用いた場合は、形質転換体を取得することができたが、pTAde1+1k−0.3kを形質転換に用いた場合は、形質転換体を得ることができなかった(結果は図示せず)。本結果から、ade1遺伝子の発現には、5′UTRの長さが1kbpでは不十分であり、少なくとも2kbp必要であることが明らかとなった。一方で、Tef1プロモーターを用いた場合は、1kbpの長さしかなくてもade1遺伝子の発現には十分であることが明らかとなった。
(D)Ku70遺伝子Pop−in/Pop−outコンストラクトの作製
非相同末端結合機構に関与するKu70遺伝子の破壊を行うため、非特許文献2に記載の、pCsURA5ベクターをベースとして、Ku70遺伝子のPop−in/Pop−outコンストラクトを作製した。
まず、クリプトコッカスsp.S−2のゲノムDNAを鋳型として、配列番号25(Ku70U2kF(SbfI))のプライマーと配列番号26(Ku70U2kR(SbfI))のプライマーを用いてKu70遺伝子のORFの上流約2kbpを増幅し、Sbf1で制限酵素処理した後、同じくSbf1処理したpCsURA5に挿入して、pCsU−Ku70U2Kを作製した。
次に、クリプトコッカスsp.S−2のゲノムDNAを鋳型として、配列番号27(Ku70popF(EcoRI))のプライマーと配列番号28(Ku70D2kR(EcoRI))のプライマーを用いてKu70遺伝子のORFの上流約1kbpを増幅した産物と、配列番号29(Ku70popfF)のプライマーと配列番号30(Ku70popfR)のプライマーを用いてKu70遺伝子のORFの下流約2kbpを増幅した産物をFusion−PCRによって融合させ、EcoRIで制限酵素処理した後、同じくEcoRIで処理したpCsU−Ku70U2Kに挿入して、pCsKu70Upopを作製した。pCsKu70Upopのプラスミドマップを図8に示す。
(E)Ku70遺伝子のPop−in/Pop−out
Ku70のPop−in/Pop−outを行う組換え宿主としては、クリプトコッカスsp.S−2. D11株を使用した。本菌株は、特許文献5に記載されており且つ、FERM BP−11482として国際寄託された、クリプトコッカスsp.S−2株の細胞外多糖類低生産変異体である。D11株はA1U5株からUV変異によって単離された変異体であり、ウラシル及びアデニン要求性株である。
pCsKu70UpopのD11株への形質転換は上記(B)に示すとおりの方法で行い、選択培地には、YNB−ura培地を用いた。取得したKu70遺伝子のPop−in株からのPop−outについても、上記(B)に示すとおりの方法で行い、Pop−out候補株を得た。得られた候補株について、配列番号31(CsKu70coloP_F)と、配列番号32(CsKu70coloP_R)を用いてコロニーPCRを行い、Ku70遺伝子のPop−in/Pop−outを確認した。その結果を図9に示す。図9に示すように、Ku70遺伝子がPop−outされた株を取得し、DK191株と命名した。
(F)Ku70破壊株のAde1遺伝子座へのターゲッティング率(相同組換えの頻度)の検討
Ku70遺伝子の破壊が、遺伝子座へのターゲッティング率に影響を与えるかを確認するため、Ku70破壊株であるDK191株にpCR−ade1を形質転換し、ade1遺伝子座への導入効率を検討した。対照として、Ku70が破壊されていないD11株へも同様に形質転換を行った。得られた形質転換体の確認は、配列番号6(Ade1P2k_F)のプライマーと配列番号7(Ade1T2k_R)のプライマーを用いてコロニーPCRを行うことによって確認した。その結果を図10に示す。
図10から、D11株を宿主とした場合は、32株中9株でade1遺伝子座に二重相同組換えでDNAが導入されたことが確認され、ターゲティング率は28%であった。それに対して、DK191株を宿主とした場合は、32株中29株でade1遺伝子座に二重相同組換えでDNAが導入されたことが確認され、ターゲティング率は、91%であった。本結果から、Ku70遺伝子の破壊により、ターゲティング率は3.4倍向上したことが明らかとなった。
(G)Ku70破壊株のXyl1遺伝子座へのターゲッティング率(相同組換えの頻度)の検討
上記(F)では、遺伝子座の相同配列部分として上流2kbpと下流2kbpを使用したため、相同配列部分が長く、Ku70遺伝子が機能しているD11株でもターゲッティング率は28%と比較的高い値となった。そこでKu70遺伝子破壊の効果をさらに厳格な条件下で確認するため、相同配列部分が短いコンストラクトを用いて、ターゲティング率の検証を行った。
ターゲティング率の検証には、Xylanase遺伝子をコードするXyl1遺伝子座を用いた。クリプトコッカスsp.S−2株は酸性キシラナーゼを多量に分泌生産することが、非特許文献2において記載されている。
まず、クリプトコッカスsp.S−2のゲノムDNAを鋳型として、配列番号33(XylU2kF)のプライマーと配列番号34(XylD1kR)のプライマーによりPCRを行い、キシラナーゼ遺伝子の上流2KbpとORF、及び下流1kbpを含む領域を増幅し、Target clone plus(東洋紡社製)を用いてTA−cloningを行い、pT−XylU2K−ORF−D1Kを作製した。
次に、pT−XylU2K−ORF−D1Kを鋳型として、配列番号35(XylUpper1kiR)のプライマーと配列番号36(XylteriF(SbfMun))のプライマーを用いてインバースPCRを行い、キシラナーゼ遺伝子の上流約1kbpとキシラナーゼ遺伝子のORF部分を除去したpT−XylUp1K−D1Kを作製した。
次に、上記(C)に記載の、pTTef1p−Ade1を鋳型として、配列番号22(CsEF1p_F(Mun))のプライマーと配列番号37(Ade1_R(MunI))のプライマーによりPCRを行い、Tef1プロモーターとade1のORFを含む領域を増幅し、制限酵素MunIで処理した。その後、同じくMunIで処理したpT−XylUp1K−D1Kに導入し、pTXylpdelAを作製した。pTXylpdelAのプラスミドマップを図11に示す。
次に、上記(F)で示すように、Ku70破壊株であるDK191株及び対照としてのD11株を用いて形質転換を行い、形質転換体のターゲティング率を算出した。形質転換体の確認は、配列番号38(XylUpperF)のプライマーと配列番号39(pCsUX_R)のプライマーを用いてコロニーPCRを行うことによって行った。その結果を図12に示す。
図12からわかるように、D11株を宿主とした場合は、32株の全てでxyl1遺伝子座に二重相同組換えでDNAが導入された株は全く取得できなかった。それに対して、DK191株を宿主とした場合は、32株中22株でxyl1遺伝子座に二重相同組換えでDNAが導入されたことが確認され、ターゲティング率は、69%であった。本結果から、Ku70遺伝子の破壊により、ターゲティング率は飛躍的に向上していることが明らかとなった。
本発明によれば、機能解析や改変の対象となる標的遺伝子の破壊や相同組換え、及び形質転換体の選択を効率的に行うことができるため、クリプトコッカス属の菌株における遺伝子の多重破壊や遺伝子組換えの効率を飛躍的に向上させることができる。従って、本発明は、クリプトコッカス属の菌株の遺伝子の機能解析やそれに基づく育種のために極めて有用である。

Claims (2)

  1. 配列番号1で示される塩基配列、又は配列番号1で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつホスホリボシルアミノイミダゾール−サクシノカルボキシアミド合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなることを特徴とするマーカー遺伝子。
  2. 配列番号2で示される塩基配列、又は配列番号2で示される塩基配列に対して90%以上の同一性を有し、かつプロモーター活性を有する塩基配列をプロモーターとしてさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のマーカー遺伝子。
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