JP2018040623A - 分光器、および温度測定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】検出精度を向上し得る小型の分光器、および温度測定装置を提供する。【解決手段】分光器(2A)は、所定長さの格子ピッチ(p1)を有する周期構造格子(10A)を備えて該周期構造格子(10A)の格子ピッチ(p1)の長さに対応する波長の電磁波を透過させると共に、格子ピッチ(p1・p2・p3…)の長さが互いに異なる複数組の周期構造格子(10A・10B・10C…)を備えた光学フィルタ(10)と、光学フィルタ(10)を透過した波長の電磁波を検出する検出器(20)とを備える。分光器検出感度は、検出可能な波長の電磁波のうち長波長側に最大の分光器検出感度を有し、かつ検出最短波長から上記最大の分光器検出感度を持つ波長までの検出電磁波に対して、波長が長いほど分光器検出感度が高い【選択図】図1

Description

本発明は、測定対象から放射される電磁波の分光測定に好適な分光器、および温度測定装置に関するものである。
測定対象の温度を非接触で測定する方法として、測定対象を黒体であるとみなし、測定対象からの黒体放射を分光測定し、波長毎の放射強度から、測定対象の温度を算出する方法があり、このような方法で測定対象の温度を測定する放射温度計が知られている。
放射温度計には、測定対象からの電磁波のスペクトルを検出し、スペクトル全体から温度を算出する方法と、2つ以上の限られた波長のみを検出し、その放射強度から温度を算出する、いわゆる2色法が知られている。
上記放射温度計を利用して測定対象の温度を測定する従来技術として、例えば特許文献1に開示された温度測定装置が知られている。
上記特許文献1に開示された温度測定装置100では、図9に示すように、被測定物Xの温度を測定する放射温度計101と、被測定物Xの放射率を測定する放射率測定装置110と、放射温度計101で測定された温度を放射率測定装置110で測定された放射率を用いて補正する補正処理部とを備えている。放射温度計101は、フィルタ102にて被測定物Xから放射される複数波長の放射光のうち予め定めた単一波長の放射光のみを検出する。放射率測定装置110は、放射率測定用光を被測定物Xに照射する光源111と、被測定物Xの表面で反射した反射光の全てを集光する集光部112と、反射光を検出する検出器113と、検出された反射光の光量に基づいて放射率を算出する演算処理装置114とを備えている。光源111は、放射温度計101の検出波長と同波長の単色光を放射率測定用光として出力する。集光部112は、回転楕円面の内側を反射面とする凹面鏡112aを有している。
これにより、放射温度計101で測定された温度に対して、測定対象の表面の形状及び状態に基づく反射率の違いを放射率測定装置110で測定された放射率を用いて補正するようになっている。
特開2013−092502号公報(2013年5月16日公開)
しかしながら、上記従来の上記特許文献1に開示された温度測定装置100では、フィルタ102にて被測定物Xから放射される複数波長の放射光のうち予め定めた単一波長の放射光のみを検出するとしており、単色光による検出では、検出精度を高くすることができないという問題点を有している。
すなわち、測定対象の温度が室温から数百℃前半程度の場合、測定対象からの黒体放射によって放射された電磁波のうち、可視域から近赤外域の電磁波の強度は非常に微弱である。その理由は、温度測定の重要な要素である水蒸気は赤外域に電磁波の吸収を広く有しているとともに、測定対象の温度が下がるほど、その測定対象からの黒体放射の強度のピークが、長波長側にシフトするためである。
この結果、可視域から近赤外域までの電磁波を検出するためには、高い検出感度を有する検出器を必要となる。一方、室温の測定対象からの黒体放射の強度のピークが存在する遠赤外域の電磁波を検出するためにも大型かつ高価な検出器が必要である。
この点、特許文献1においては、測定対象の表面状態の影響を除去して測定を行うために、測定対象からの放射のうち、予め散乱光検出に使用した電磁波の波長と、同じ波長を有する電磁波のみの強度を基に、測定対象の温度を算出する必要がある。したがって、予め測定対象における散乱光を全て検出し、測定対象の表面状態の影響を取り除けたとしても、測定対象からの黒体放射の強度を検出する精度が低いため、良好な温度測定の精度を得られない可能性がある。
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出精度を向上し得る小型の分光器、および温度測定装置を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様における分光器は、測定対象から放射される電磁波を検出する分光器において、所定長さの格子ピッチを有する周期構造格子を備えて該周期構造格子の格子ピッチの長さに対応する波長の電磁波を透過させると共に、上記格子ピッチの長さが互いに異なる複数組の周期構造格子を備えた光学フィルタと、上記光学フィルタを透過した波長の電磁波を検出する検出器とを備え、上記検出器の感度と上記光学フィルタの透過率との積である分光器検出感度は、検出可能な波長の電磁波のうち長波長側に最大の分光器検出感度を有し、かつ検出最短波長から上記最大の分光器検出感度を持つ波長までの検出電磁波に対して、波長が長いほど分光器検出感度が高いことを特徴とする。
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様における温度測定装置は、分光器と、電磁波源とを備え、上記分光器は、上記測定対象から放射された上記電磁波と、上記電磁波源から上記測定対象に照射され、かつ上記測定対象において散乱された散乱光とを検出することを特徴とする。
本発明の一態様によれば、検出精度を向上し得る小型の分光器、および温度測定装置を提供するという効果を奏する。
(a)は本発明の実施形態1における分光器の構成を示す斜視図であり、(b)と(c)とは、光学フィルタの透過率と、検出器の検出感度とを表すグラフである。 本発明の実施形態1における温度測定装置のブロック図である。 黒体放射の各温度での放射強度と、一般的なSiフォトディテクタの検出感度とを表すグラフである。 本発明の実施形態2における温度測定装置のブロック図である。 (a)は本発明の実施形態2における、分光器の構成を示す斜視図であり、(b)と(c)とは、光学フィルタの透過率と、検出器の検出感度とを表すグラフである。 本発明の実施形態3における温度測定装置のブロック図である。 (a)と(b)とは、本発明の実施形態3における温度測定装置の電磁波源からの電磁波および分光器で検出された電磁波のスペクトルと、上記二つのスペクトルから算出された、散乱光の割合とを表すグラフである。 本発明の変形例における温度測定装置のブロック図である。 従来の特許文献1に開示されている温度測定装置の概略図である。
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施の形態について、図1〜3に基づいて詳細に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成は、特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
<温度測定装置>
図2は、本実施形態における温度測定装置の構成を示すブロック図である。
本実施形態における温度測定装置1Aは、分光器2Aと、算出部3とを備える。分光器2Aは、算出部3とのデータのやり取りが可能なように、算出部3に接続されている。なお、図2における矢印は、温度測定装置1Aの外部にある測定対象Mから、分光器2Aに入射する、黒体放射による電磁波を表している。
分光器2Aは、測定対象Mから放射された電磁波のスペクトルを検出する。分光器2Aによって得られた電磁波のスペクトルのデータは、算出部3に送信される。算出部3では、送信された電磁波のスペクトルのデータを、黒体放射の強度の式と比較して、温度に変換することによって測定対象Mの温度を算出する。
物体からの黒体放射の放射強度B(λ)は、下記の式で表される。
Figure 2018040623
ここで、hはプランク定数、cは光速度、kはボルツマン定数、Tは物体の温度である。
黒体放射のピーク波長をλmaxとする。上述の黒体放射の放射強度B(λ)を波長λに関して偏微分を行った式が0となる波長λを求めることによって、
λmax=hc/(4.97kT)
として求められる。
物体から放射された電磁波を元に温度を検出するには、フィッティングに使用するパラメータを温度Tとして、検出された波長毎の電磁波強度を上述の数式と比較して算出すればよい。
実際には、分光器2Aで検出されるのは、測定対象Mからの一部の熱放射による電磁波のスペクトルのデータである。また、測定対象Mの材料により、放射率が異なる。このため、実際には、黒体放射の式に係数を掛けて分析する必要がある。そのためには、測定前に既知の温度で熱放射の強度を測定し、この結果から係数を別途求めておけばよい。あるいは、他の波長の放射強度との比を取ることによって、波長に依存しない係数の影響を除去してもよい。
算出部3は、送信されたスペクトルに対し、補正を行う。例えば、測定対象Mの材質や表面状態が予め判明している場合、それによってスペクトルを補正する。また、例えば、測定対象Mの置かれている周囲の気温など、周囲の環境の温度と同じ温度にあると考えられる参照対象または参照部を測定し、この結果から、測定対象Mのスペクトルを補正する。測定対象Mからの熱放射を効率よく検出するために、分光器2Aの前にレンズを設置している構成では、測定対象Mからの熱放射のうち、分光器2Aで検出される割合をレンズの焦点距離から算出し補正を行う。これらの補正を行うことによって、より正確に測定対象Mの温度を測定することが可能である。
次に、図1の(a)、(b)、(c)、および(d)を用いて本実施形態における分光器について詳しく説明する。図1の(a)は、本実施形態における分光器の構成を示す斜視図である。また、図1の(b)は、本実施形態における光学フィルタの透過率を表すグラフであり、図1の(c)は、本実施形態における検出器の検出感度を表すグラフである。図1の(d)は、本実施形態における光学フィルタの透過率と、検出器の検出感度との、波長ごとの積、すなわち、本実施形態における分光器の分光器検出感度を表している。
図1の(a)に示すように、分光器2Aは、光学フィルタ10と、検出器20とを備える。本実施形態の光学フィルタ10は、格子ピッチp1・p2・p3…の長さが互いに異なる複数組の周期構造格子10A・10B・10C…を備えている。周期構造格子10A・10B・10C…は、所定長さの格子ピッチp1・p2・p3…を有し、該周期構造格子10A・10B・10C…の格子ピッチp1・p2・p3…の長さに対応する、特定の波長の電磁波を透過させる。
ここで、格子ピッチの長さに対応する特定の波長とは、格子ピッチp1・p2・p3…より少し短い波長となる。光学フィルタ10を透過する電磁波の波長は、光学フィルタ10の屈折率、格子ピッチp1・p2・p3…、格子が作製されている深さ、などに依存するため、具体的には、理論計算、シミュレーションなどで求めることができる。
図1の(a)においては、複数組の周期構造格子10A・10B・10C…のうち、代表として周期構造格子10A・10B・10Cが示されているが、これ以外の周期構造格子が形成されていることを示す。すなわち、図1の(a)における例えば周期構造格子10Aと周期構造格子10Bとの間には、格子ピッチp1〜p2の周期構造格子が連続して複数設けられている。
なお、図1の(a)においては、簡単のために、周期構造格子10A・10B・10Cのホール11の数は、例えば、2×2個、4×4個、6×6個がそれぞれ描かれている。しかし、実際には、周期構造格子10Aのホール11の個数を例えば、n×n’個として、周期構造格子10Bおよび10Cにはそれぞれ、m×m’個、l×l’個のホール11が形成されていてもよい。また、本実施の形態では、周期構造格子10A・10B・10Cの配列方法は一例として横方向に並んだ配列となっているが、必ずしもこれに限らず、例えば、全体として方形の領域に周期構造格子10A・10B・10C…が区画して配列される形態としてもよい。
本実施形態において、光学フィルタ10はプラズモンフィルタを例として挙げている。プラズモンフィルタは、周期構造格子10A・10B・10C…として、数百ナノメートル周期で、周期的に形成されたホールアレイを有する金属薄膜からなっており、特定の波長帯域のみで表面プラズモン共鳴することにより、特定の波長帯域付近の電磁波のみを透過させる光学フィルタである。すなわち、通常の光では回折限界の制限があるため、波長サイズよりも微細な穴を透過することができない。ところが、伝播光で表面プラズモン共鳴を起こし、表面プラズモン共鳴で微細な穴を透過し、表面プラズモン共鳴で伝播光に戻すというプロセスを利用することにより、本来は光が通れないような微細な穴を透過させることができる。
上述のプラズモンフィルタは、形成されたホール11の個数を増やすことにより、プラズモンフィルタの透過率を増大させることが可能である。なお、プラズモンフィルタの周期構造格子10A・10B・10C…の格子ピッチp1・p2・p3…は、周期構造格子10A・10B・10C…を透過する電磁波の波長程度にそれぞれ相当する。
このため、長波長の電磁波を、短波長の電磁波と同じ透過率で透過させたい場合は、光学フィルタ10の材質が、周期構造格子10A・10B・10Cで透過させたい波長に対する屈折率がほぼ同じであれば、同じ個数のホール11を形成する必要があるが、周期構造格子10A・10B・10C…が形成される面積は大きくなる。
以後、簡単のため、光学フィルタ10の材質は、屈折率の波長依存性が無視できるとする。光学フィルタ10に、屈折率の波長依存性がある材質を使う場合には、周期構造格子10A・10B・10C…の周期を屈折率の波長依存性で補正すればよい。
本実施形態において、光学フィルタ10は、周期構造格子10A・10B・10C…としてホールアレイを有する、プラズモンフィルタを例に挙げているが、これに限られず、例えば、回折格子を採用してもよい。この場合、回折格子の格子間隔を広くすることによって透過する電磁波の波長を長くすることができると共に、回折格子の面積を広くすることによって、電磁波の透過率を高くすることができる。
周期構造格子10A・10B・10Cにおいて互いに異なる点の一つは、それぞれの検出器の上に設けられたホール11の間隔が異なることである。これにより、周期構造格子10A・10B・10Cを透過する電磁波の波長帯域が、互いに異なることになる。また、周期構造格子10A・10B・10Cでは、それぞれの光学フィルタに設けられるホール11の個数も異なる。
特に、本実施形態においては、周期構造格子10A・10B・10Cは、この順に、形成されたホール11の間隔が長くなる。このことは、周期構造格子10A・10B・10Cを透過する電磁波の波長が、この順で長くなることを意味する。さらに、周期構造格子10A・10B・10Cは、この順に、形成されたホール11の個数が多くなる。このことは、周期構造格子10A・10B・10Cの透過率が、この順で高くなることを意味する。
本実施形態においては、特に、周期構造格子10Cに設けられているホールアレイの面積は、光学フィルタ10の他のホールアレイそれぞれの有する面積と比較して、最大の面積を有している。このため、周期構造格子10Cに設けられているホールアレイを透過する電磁波の透過率は、光学フィルタ10を透過する電磁波の透過率のうち、最大となっている。
図1の(b)は、光学フィルタ10における、電磁波の透過率を波長毎に示したグラフである。グラフ中のλ1、λ2、およびλ3は、それぞれ周期構造格子10A・10B・10Cを透過する電磁波の波長帯域のうち、最も透過率が高い波長を表す。透過率は、入射光の入射強度をIinとし、出射光の出射強度をIoutとした場合、Iout/Iinで表される。
本実施形態において、光学フィルタ10は、ホール11の間隔が長い周期構造格子ほど、ホール11の個数が多くなる。このことは、図1の(b)にも示されているように、透過率のピークの波長までは、入射した電磁波が長いほど、透過率が高くなることを表している。図1の(b)では、λ3が透過率のピークの波長となっているが、光学フィルタ10が周期構造格子10Cの格子ピッチp3よりも長い周期構造格子を備えていれば、その周期構造格子を透過する波長が、光学フィルタ10全体の透過率のピーク波長となる。
次に、検出器20は、光学フィルタ10の直下(光入射側)に形成されており、光学フィルタ10を透過した電磁波は、検出器20に入射するようになっている。このため、検出器20は、分光器2Aに入射した電磁波のうち、光学フィルタ10を透過する特定の波長帯域の電磁波のみを検出することができる。すなわち、検出器20は、光学フィルタ10を透過した電磁波の少なくとも一部を検出する。
本実施形態において、一つの検出器20は、複数の周期構造格子10A・10B・10Cの直下に形成された構造を有する。そして、検出器20は、それぞれの周期構造格子10A・10B・10Cに対応した検出素子で検出された電磁波の強度を、異なる周期構造格子10A・10B・10C毎に算出する。これにより、それぞれの周期構造格子10A・10B・10Cに対応した波長毎に、分光器2Aに入射した電磁波の分光測定が可能である。また、異なる周期構造格子10A・10B・10Cを透過した電磁波の強度を互いに演算してもよい。
図1の(c)は、検出器20の検出感度を波長ごとに示したグラフである。グラフ中の波長λ1・λ2・λ3は、それぞれ図1の(b)の波長λ1・λ2・λ3に対応している。
ここで、検出器20の検出感度は、例えば、単位面積[cm]当たりに光(強度:Pin[W])を照射したときに検出信号(出力電圧又は出力電流)が得られた場合、検出感度=(出力電圧又は出力電流)/(Pin・面積)[V/(W・cm)]で表される。
また、検出器20の検出感度は、検出素子に使用される材料が、どの波長の電磁波を、どの程度吸収可能なのかによって変化する。一般的な検出器では、検出器の検出素子に使用している材料が、入射した電磁波をよく吸収するほど、当該電磁波に対する検出器の検出感度は高くなる。本実施形態の検出器20は、検出素子の例として、安価に検出器を製造できるシリコン(Si)を採用しているが、これに限られず、従来公知の様々な検出素子を採用できる。
図1の(d)は、分光器2Aの検出感度を波長ごとに示したグラフである。分光器2Aの検出感度は、光学フィルタ10の透過率と検出器20の検出感度との積で決まる。すなわち、図1の(d)のグラフは、図1の(b)に示された、光学フィルタ10の透過率と、図1の(c)に示された、検出器20の検出感度とを、波長ごとに掛け合わせたものである。
図1の(d)に示されるように、分光器2Aは、検出器20が検出可能な波長の電磁波のうち、長波長側のλ3の波長を有する電磁波に対して、最大の分光器検出感度を有する。また、検出可能な最短波長から上記最大の分光器検出感度を持つ波長λ3までの電磁波に対して、波長が長いほど分光器検出感度が高い。
<Siフォトディテクタ>
ここで、検出素子にシリコン(Si)を使用した検出器の感度と、熱放射との関係について、図3を用いて説明する。図3の実線は、それぞれの温度を有する物体からの黒体放射の強度を、波長ごとに示したグラフである。図3の破線は、シリコン(Si)を検出素子に使用した一般的な検出器の検出感度を、波長ごとに示したグラフである。
物体からの黒体放射は、上述の数式1で示されるように、物体の温度に依存して強度が変化する。物体の温度が低下するほど、黒体放射のピーク強度が低下するのみならず、黒体放射のピーク波長が長波長側にシフトする。このため、温度の低い物体、特に室温程度の物体に対して熱放射の測定を行う場合、遠赤外線域の電磁波を高感度で検出可能な検出器が最も高精度に温度を検出できることになる。
一方、検出素子に使用した一般的な検出器は、可視域から近赤外域の電磁波に対して、高い検出感度を有している。これは、検出器のシリコン(Si)が可視域から近赤外域の電磁波を吸収するためである。しかしながら、シリコン(Si)は1.2μm程度以上の波長を有する赤外域の電磁波を吸収しない。このため、シリコン(Si)を検出素子に使用した検出器は、1.2μmを超える赤外域の電磁波に対する検出感度が著しく低下する。
上述の式および図3から、3000Kを超える物体からの熱放射は、ピーク波長がシリコン(Si)の吸収波長範囲にあるため、シリコン(Si)を使用した検出器で容易に熱放射が検出できる。しかしながら、ピーク波長が1.2μmより長い低温の物体、特に、室温に近い物体からの熱放射を、シリコン(Si)を使用した検出器で検出する場合、なるべく長波長の電磁波を検出することで、より高い精度で温度を検出できる。
したがって、シリコン(Si)を使用した検出器を、温度測定装置の分光器の検出器に採用する場合、電磁波の波長が長くなるほど透過率が高くなる光学フィルタと組み合わせて使用することが好ましい。上記の構成であれば、簡易で低価格のシリコン(Si)を材料とした検出器を用いながら、3000K以下の低温の物体の温度を、高感度に測定できる。
<実施形態1の効果>
本実施形態における光学フィルタ10は、最も透過率の高いピーク波長までの電磁波に対して、波長が長いほど透過率が高くなっている。光学フィルタ10は、1つの波長に対応した検出素子がいくつあるかによって、透過率を調節することができる。このため、長波長側の波長を有する電磁波に対して透過率が高くなるホールアレイを有するフィルタの面積を最も多くすることによって、上述の光学フィルタ10を得ることができる。
分光器2Aの検出感度は、光学フィルタ10の透過率と検出器20の検出感度との積で決まる。このため、分光器2Aは、上記のような光学フィルタ10を備えることで、検出できる電磁波のうち、長波長側に最大の検出感度を有し、検出できる最短波長から、上記最大の検出感度に対応する波長までの電磁波に対して、波長が長いほど検出感度が高い。したがって、検出器20に簡易で低価格のシリコン(Si)を検出素子として採用しても、室温程度の物体からの熱放射に対して、高い検出感度を有する分光器2Aを実現することができる。
また、本実施形態の光学フィルタ10は、所定の格子ピッチp1・p2・p3で二次元的に形成された周期構造格子10A・10B・10Cを備えることによって、特定の波長のみを透過させることができる。例えば、周期構造10Aを透過する波長以下の波長をもつ電磁波を検出しない構成とすることができる。このため、算出部3が温度を算出するのに使用しない波長に電磁波を検出するための検出器20の検出素子を備える必要がなく、分光器2Aを安価かつ小型に形成することが可能である。また、光学フィルタ10は、必要な波長域の電磁波のみを透過させるため、透過させたい電磁波の波長に対応する、所定の周期を有した周期構造の個数を効率的に増やすことができる。このため、室温程度の物体からの熱放射など、強度の低い電磁波に対して良好な検出感度を有する分光器2Aを実現することができる。
さらに、本実施形態の分光器2Aは、物体からの熱放射のスペクトルを検出することが可能である。このため、温度測定装置1Aは、単色の電磁波のみを検出することによって温度測定を行うよりも、熱放射の式との比較による、電磁波の強度から温度への変換の精度が高くなる。したがって、温度測定装置1Aは、より正確な温度測定が可能となる。
本実施形態においては、検出器20の検出素子の材料として、低価なシリコン(Si)を採用しているが、これに限られない。例えば、シリコン(Si)が吸収可能な電磁波よりも、より長波長の電磁波を吸収可能な材料を検出器20に採用することによって、低温の物体の温度測定をより高感度に行える分光器2Aを実現することができる。この場合、光学フィルタ10の周期構造の周期を長く設計することによって、容易に長波長の電磁波を透過させる光学フィルタ10を実現でき、赤外域など、安価なカラーフィルタが存在しない波長域の電磁波に対する分光測定を可能にする光学フィルタ10を提供することができる。
また、本実施形態の分光器2Aの検出感度は、測定したい物体の温度をTとして、上式で表されるλmax以下の波長に、最大の検出感度に対応する波長が存在していてもよい。これに加えて、本実施形態の分光器2Aの検出感度は、測定したい物体の温度をTとして、上式で表されるλmaxの波長に近づくほど、検出感度が高くなることが好ましい。上記構成であれば、3000Kを超えるような高温の物体からの電磁波に対し、可視域などの安価な検出器が入手しやすい波長帯における熱放射の測定を高感度で行うことが可能な分光器2Aを実現することができる。上記分光器2Aは、光学フィルタ10の周期構造の周期の長さ、および検出器20の検出素子の材料を、λmaxの波長の電磁波を検出可能なように適宜設計することによって実現可能である。
本実施形態の分光器2Aは、さらに、可動レンズを有していてもよい。これにより、より高感度かつ空間的に高分解能の電磁波検出が可能な分光器2Aを提供することができる。この場合、分光器2Aは、可動レンズの位置および向きを含む位置情報を記録し、位置情報を算出部3に送信してもよい。これにより、算出部3が位置情報に基づいて、焦点距離を考慮した補正を、検出されたスペクトルに対し行うことができるため、より正確な温度測定が可能な温度測定装置1Aを提供することができる。すなわち、算出部3が、可動レンズの位置および向きから、分光器2Aで検出される各波長の電磁波の立体角を算出できる。算出部3は、これらの値から、分光器2Aで検出されたスペクトルを補正して温度の算出を行うことができる。これにより、測定対象Mと分光器2Aとの距離が測定ごとに異なっても、算出部3は測定対象Mの正確な温度を算出することができる。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、図4〜5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
<実施形態2の温度測定装置および分光器>
図4は、本実施形態における温度測定装置の構成を示すブロック図である。
本実施形態における温度測定装置1Bは、分光器2Bと、算出部3とを備える。分光器2Bは、算出部3とのデータのやり取りが可能なように、算出部3に接続されている。なお、図4における矢印は、温度測定装置1Bの外部にある測定対象Mから、分光器2Bに入射する、黒体放射による電磁波を表している。温度測定装置1Bが、前実施形態の温度測定装置1Aと異なる点は、分光器2Aの代わりに、分光器2Bを備える点のみである。
次に、図5を用いて本実施形態における分光器について詳しく説明する。図5の(a)は、本実施形態における分光器の概略図である。また、図5の(b)は、本実施形態における光学フィルタの透過率を表すグラフであり、図5の(c)は、本実施形態における検出器の検出感度を表すグラフである。
図5の(a)に示された分光器2Bは、光学フィルタ10と、検出器20とを備える。分光器2Bが、前実施形態の分光器2Aと異なる点は、光学フィルタ10が、周期構造格子10A・10B・10Cのみを有する点である。このため、本実施形態の光学フィルタ10は、図5の(b)に示すように、波長λ1、λ2、およびλ3付近の電磁波のみに対し、高い透過率を有している。
分光器2Bの検出感度は、光学フィルタ10の透過率と検出器20の検出感度との積で決まる。このため、分光器2Bは、上記のような光学フィルタ10を備えることによって、波長λ1、λ2、およびλ3付近の電磁波のみに対し、高い検出感度を有している。さらに、周期構造格子10A・10B・10Cは、この順で設けられているホール11の個数が増大する。このことから、検出器20の検出感度と併せても、分光器2Bは、波長λ1、λ2、およびλ3の電磁波に対し、この順で検出感度が高くなる。
言い換えれば、分光器2Bは、検出できる電磁波のうち、長波長側に最大の検出感度を有し、波長の異なる複数の電磁波それぞれに対して、検出感度のピークを有する。さらに、分光器2Bは、ピークのそれぞれに対応する波長を有する電磁波に対して、波長が長いほど高い検出感度を有している。
<2色法>
本実施形態の分光器2Bは、上述の通り、波長λ1、λ2、およびλ3付近の電磁波のみに対し、高い検出感度を有している。このため、分光器2Bは、測定対象Mからの熱放射を、スペクトルで検出するのではなく、波長λ1、λ2、およびλ3付近の電磁波のみを検出する。したがって、分光器2Bを備えた温度測定装置1Bは、既存の2色法と呼ばれる放射温度測定の方法を使用して、温度算出を行うことが好ましい。
2色法とは、物体からの熱放射のうち、2色、あるいはそれ以上の限られた波長を有する電磁波のみを検出し、その強度から物体の温度を算出する方法である。2色法においては一般に、検出された複数の波長の電磁波に対し、強度の比を算出することにより、測定対象の放射率の影響をキャンセルすることが可能である。
複数の波長の比のみから温度を算出する場合、複数の波長の間隔が広く、かつそれぞれの波長における放射率を、S/N比を高くして測定できると、算出する温度の精度が高くなる。このため、室温に近い温度を測定する場合には、なるべく赤外の長波長での放射強度を測定するのが好ましい。
<実施形態2の効果>
分光器2Bは、波長λ1、λ2、およびλ3付近の電磁波のみに対し、高い透過率を有する光学フィルタ10を有していればよい。このため、透過させる必要のない光学フィルタの面積分だけ、光学フィルタ10の面積を減らすことができ、分光器2Bの小型化、ひいては温度測定装置1Bの小型化に繋がる。
あるいは、光学フィルタ10のフィルタのうち、透過させる必要のない光学フィルタを、周期構造格子10A・10B・10Cに置き換えることにより、分光器2Bの検出感度を上げることができる。ひいては、温度測定装置1Bの温度測定の精度向上に繋がる。
さらに、本実施形態における光学フィルタ10は、検出感度のそれぞれのピーク波長において、波長が長い電磁波ほど、透過率が高くなっている。光学フィルタ10は、1つの波長に対応した検出素子がいくつあるかによって、透過率を調節できる。このため、長波長側の波長を有する電磁波に対して透過率が高くなるフィルタの面積を最も多くすることによって、上述の光学フィルタ10を得ることができる。
このため、分光器2Bは、検出できる電磁波のうち、長波長側に最大の検出感度を有し、検出感度のそれぞれのピークに対応する波長を有する電磁波に対して、波長が長いほど検出感度が高い。したがって、検出器20に簡易で低価格のシリコン(Si)を検出素子として採用しても、室温程度の物体からの熱放射に対して、高い検出感度を有する分光器2Bを実現できる。
本実施形態においては、分光器2Bは、周期構造格子10A・10B・10Cを有する光学フィルタ10を備え、波長λ1、λ2、およびλ3付近の電磁波のみを検出するが、これに限られない。例えば、周期構造格子10A・10Cのみを有する光学フィルタ10を備え、波長λ1、およびλ3付近の電磁波のみを検出してもよい。この場合、周期構造格子10Bの面積分だけ、分光器2Bを小型にすることができる。あるいは、周期構造格子10Bを周期構造格子10Aまたは周期構造格子10Cに置き換えることによって、分光器2Bの検出感度を上げることができる。
これとは逆に、分光器2Bは、周期構造格子10A・10B・10C以外の光学フィルタをさらに有する光学フィルタ10を備え、波長λ1、λ2、およびλ3付近以外の電磁波をさらに検出してもよい。この場合、温度算出の際の基準となる電磁波が増えるため、温度算出の精度がより向上した温度測定装置1Bを提供できる。
測定対象Mの温度測定を、測定対象Mの熱放射による電磁波のスペクトルを測定することによって行うのか、または2色法によって行うのか、どちらの方法を選択するのかは、測定対象Mの温度、材料、および必要とされる測定精度、測定時間などによって、相応しい方法を適宜選択することが可能である。
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、図6〜8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
<電磁波源を有する温度測定装置>
本実施形態における温度測定装置1Cは、分光器2Aまたは2Bと、算出部3と、電磁波源4とを備える。分光器2Aまたは2Bは、算出部3とのデータのやり取りが可能なように、算出部3に接続されている。なお、図6における矢印は、温度測定装置1Cの外部にある測定対象Mから、分光器2Aまたは2Bに入射する、黒体放射による電磁波と、電磁波源4から測定対象Mに照射される電磁波とを表している。
温度測定装置1Cが、前実施形態の温度測定装置1Aおよび1Bと異なる点は、電磁波源4をさらに備え、分光器2Aまたは2Bが、測定対象Mから放射される電磁波と、電磁波源4から測定対象Mに照射され、測定対象Mにおいて散乱された散乱光とを検出する点である。
電磁波源4は、測定対象Mに対して電磁波を照射する。本実施形態において、電磁波源4から照射される電磁波は、ブロードな波長域を有する白色光である。電磁波源4から照射された電磁波は、測定対象Mの表面にて散乱される。分光器2Aまたは2Bは、測定対象Mの表面にて散乱された散乱光のうち、少なくとも一部を検出する。
分光器2Aまたは2Bは、検出した散乱光のスペクトルのデータを、算出部3に送信する。算出部3では、送信された散乱光のスペクトルのデータに基づいて、測定対象Mの表面粗さ、および測定対象Mの表面における酸化膜の有無など、測定対象Mの表面状態を算出する。これにより、算出部3は、算出された測定対象Mの表面状態から、測定対象Mの表面における、熱放射の放射率を算出できる。
上述した、測定対象Mの表面における、熱放射の放射率の算出と同時に、あるいはその後に、前述の実施形態と同様に、分光器2Aまたは2Bは、測定対象Mからの熱放射を検出し、検出された電磁波の強度のデータを算出部3に送信する。算出部3は、送信された電磁波の強度のデータを、測定対象Mの表面における、熱放射の放射率を使用して補正を行う。この補正された電磁波の強度を、黒体放射の強度の式と比較して、温度に変換することによって、算出部3は、測定対象Mの温度を算出する。
<散乱光のスペクトルの算出および解析>
電磁波源4から照射され、測定対象Mの表面にて散乱された、散乱光のスペクトルの算出および解析について、図7を用いて説明する。図7の(a)は、電磁波源4からの電磁波のスペクトルを実線で、分光器2Aまたは2Bで検出された電磁波のスペクトルを破線で表したグラフである。ここでは、電磁波源4からの電磁波の波長域におけるスペクトルのみを図示しているが、分光器2Aまたは2Bは、これより長波長側で熱放射による電磁波を検出している。
分光器2Aまたは2Bは、電磁波源4からの電磁波が、測定対象Mにおいて反射した反射光を、直接検出しない位置に設置されていることが好ましい。この場合、例えば、あらかじめ電磁波源4のスペクトルを算出部3が保持していれば、検出された電磁波のスペクトルと電磁波源4からの電磁波のスペクトルとの比をとり、規格化を行える。
図7の(b)は、図7の(a)に示された二つのスペクトルの比を求めることにより算出された、検出された電磁波のスペクトルのうちの、散乱光の割合を表すグラフである。ここでは、ある短波長側の波長を有する散乱光が特に強く検出されていることがわかる。このことから、測定対象Mの表面が、電磁波源4の波長より十分に小さいサイズの凹凸を有していることが推定できる。
ここで、散乱光の凹凸のサイズに対する依存性について説明する。
まず、凹凸のサイズが電磁波源4の波長より十分に小さい場合には、レイリー散乱の式を当てはめることができる。この場合、散乱係数は波長の4乗に反比例するという特徴があるため、図7(b)がレイリー散乱の結果であるかが判別できる。レイリー散乱が起きていると判断されれば、凹凸サイズが電磁波源4の波長より十分に小さく、温度計測に用いる赤外領域の波長より十分に小さいため、放射率の波長依存性は考慮しなくてよい。
次に、凹凸サイズが電磁波源4の波長程度である場合には、ミー散乱の式を当てはめることができる。この場合、散乱係数の波長依存性は小さいが、散乱方向の波長依存性が大きくなる。したがって、分光器2Aまたは2Bを固定している場合には、図7(b)の結果に波長依存性が現れる。ミー散乱の理論式は複雑であるが、コンピューターで容易にフィッティングすることができる。また、電磁波源4、分光器2Aまたは2Bの少なくともいずれか一方を、測定対象Mに対して移動させれば、散乱角度依存性もわかり、より詳細に解析することができる。ミー散乱が起きていると判断されれば、凹凸のサイズは電磁波源4の波長程度であり、温度計測に用いる赤外領域の波長の半分程度であるため、放射率の波長依存性を考慮する必要がある。
さらに、凹凸のサイズが電磁波源4の波長より十分大きい場合には、幾何学的散乱の式を当てはめることができる。この場合、散乱係数や散乱方向の波長依存性はない。したがって、図7(b)の結果に波長依存性は現れない。幾何学的散乱が起きていると判断されれば、凹凸のサイズは電磁波源4の波長より十分大きく、温度計測に用いる赤外領域の波長より大きいため、放射率の波長依存性を考慮する必要はない。
上記推定から、測定対象Mの表面からの熱放射の、上記凹凸による放射率の波長依存性が算出される。この放射率の波長依存性を元に、検出した熱放射のスペクトルを補正することによって、より正確な放射温度測定が可能となる。
この他にも、本実施形態の温度測定装置1Cを使用することによって、測定対象Mの表面における、透明膜の有無を判断することも可能である。測定対象Mの表面に酸化膜などの透明膜が存在する場合、得られる散乱光のスペクトルには、透明膜による干渉縞が現れる。この干渉縞の間隔から、透明膜の光学距離が算出できる。測定対象Mの材料が判明している場合、透明膜の種類も推定できるため、光学定数が算出できる。したがって、算出された透明膜の光学距離および光学定数から、透明膜の膜厚を知ることが可能である。
なお、本実施形態の電磁波源4から照射される電磁波は、どのような波長帯の電磁波であってもよいが、白色光であることが好ましい。上記構成であれば、散乱光および熱放射の検出を同時に行ったとしても、検出された電磁波の波長を比較することで、容易に区別することが可能である。
測定対象Mの温度が3000K以下であれば、熱放射のピーク波長は1μm以上となる。このため、熱放射の可視域での強度は非常に低くなる。この結果、分光器2Aまたは2Bによって検出される可視域の電磁波は、ほとんどが散乱光であり、可視域より長い波長域で検出された電磁波は、ほとんどが熱放射による電磁波であると判別できる。
本実施形態においては、電磁波源4からの電磁波として、広範囲の波長域を有する白色光を用いている。上記構成であれば、どの波長の散乱光が強く検出されたかによって、測定対象Mの表面の凹凸のサイズを算出することが可能である。しかし、これに限られず、電磁波源4からの電磁波は単色光であってもよい。特に、電磁波源4に強度の高いレーザを使用した場合、強く検出された電磁波を散乱光として判別することで、熱放射による電磁波と容易に区別することが可能である。電磁波源4を単色光とする場合には、後述の通り、電磁波源4または分光器2Aまたは2Bのいずれかの位置を動かし、電磁波源4の測定対象Mにおける散乱光を、種々の角度(位置)で検出すればよい。
<電磁波源および分光器の位置>
図6に示すように、温度測定装置1Cは、測定対象Mの測定点が分光器2Aまたは2Bの正面に来るように設置されているが、これに限られない。例えば、図8の温度測定装置1C’のように、測定対象Mの測定点が電磁波源4の正面に来るように、電磁波源4が設置されてもよい。
測定対象Mの熱放射による電磁波のうち、少なくとも一部でも、分光器2Aまたは2Bに入射する位置であれば、分光器2Aまたは2Bを設置する位置は問われない。
測定対象Mの測定点に電磁波を照射する電磁波源4の位置に関しても、測定対象Mの表面にて散乱された散乱光のうち、少なくとも一部でも、分光器2Aまたは2Bに入射する位置であれば、どこに設置してもよい。
ただし、電磁波源4の位置は、電磁波源4からの電磁波が、測定対象Mの表面にて反射された反射光が、直接分光器2Aまたは2Bに入射しない位置であることが好ましい。上記構成であれば、散乱光のみを取り出す操作を、より容易に、かつ正確に行うことが可能となる。図8の温度測定装置1C’の構成であれば、測定対象Mの表面の法線方向と、電磁波源4からの電磁波の照射方向とが同じである。このため、反射光は電磁波源4に戻る方向に進行するため、分光器2Aまたは2Bに反射光が直接入射することを防ぐことができる。
また、分光器2Aまたは2Bは、測定対象Mの測定点を中心とした円の円周上を走査するように、測定中に移動してもよい。上記構成であれば、分光器2Aまたは2Bは、種々の方向に散乱される散乱光を、ある一方向からのみならず、多方向から検出することが可能である。
〔まとめ〕
本発明の態様1における分光器2A・2Bは、測定対象Mから放射される電磁波を検出する分光器において、所定長さの格子ピッチp1を有する周期構造格子10Aを備えて該周期構造格子10Aの格子ピッチp1の長さに対応する波長の電磁波を透過させると共に、上記格子ピッチp1・p2・p3…の長さが互いに異なる複数組の周期構造格子10A・10B・10C…を備えた光学フィルタ10と、上記光学フィルタ10を透過した波長の電磁波を検出する検出器20とを備え、上記検出器20の感度と上記光学フィルタ10の透過率との積である分光器検出感度は、検出可能な波長の電磁波のうち長波長側に最大の分光器検出感度を有し、かつ検出最短波長から上記最大の分光器検出感度を持つ波長までの検出電磁波に対して、波長が長いほど分光器検出感度が高いことを特徴とする。
上記の構成によれば、光学フィルタが周期構造格子を有しており、格子ピッチが互いに異なる周期構造格子を複数組設けることによって、測定対象Mから放射される電磁波の分光スペクトルを得ることができる。そして、周期構造格子は、例えば可視光から近赤外域の波長の高々数10倍〜数100倍の長さにて形成されるので、光学フィルタを例えば5mm×5mm以内の大きさで形成することができる。この結果、分光器の小型化、ひいては上記分光器を備えた温度測定装置の小型化に繋がる。
ところで、温度測定用として安価に使用できる分光器は、例えば、可視域から近赤外域の電磁波を検出する分光器であるが、測定対象Mが3000K以下の温度になると、熱放射スペクトルのピーク波長が近赤外より長波長になり、また、可視域から近赤外域の放射の強度が微弱になるので、検出器は長波長側の電磁波に対し高い検出感度を有することが好ましい。
そこで、本発明の一態様では、分光器の検出器は、長波長側の電磁波に対し高い検出感度を有している。
したがって、検出精度を向上し得る小型の分光器を提供することができる。
本発明の態様2における分光器2A・2Bは、上記態様1において、上記光学フィルタ10に、上記最大の分光器検出感度を持つ波長の長さに対応する格子ピッチを周期的に有する最大検出感度用周期構造格子10Cが備えられていると共に、最大検出感度用周期構造格子10Cが他の周期構造格子に比べてその面積が最大となっていることが好ましい。
上記の構成によれば、最も検出感度を高くしたい、長波長側の波長を有する電磁波に対して、効率的に透過率を向上させることができる光学フィルタを提供できる。このため、長波長側の波長を有する電磁波に対して、検出感度の高い分光器を得ることができる。
本発明の態様3における分光器2A(2B)は、上記態様1または2において、上記光学フィルタ10が、プラズモンフィルタであることが好ましい。
プラズモンフィルタは、光学フィルタに設けられているホールアレイの格子ピッチの異なるものが、市場に出ている。この結果、所望の格子ピッチのプラズモンフィルタを入手することにより、光学フィルタを透過する電磁波の波長を、容易に変化させることができる。このため、赤外域の電磁波が透過するフィルタなど、安価なカラーフィルタが存在しない波長帯の電磁波を透過させる光学フィルタを、容易に実現することができる。
本発明の態様4における分光器2Aは、上記態様1から3において、電磁波のスペクトルを検出可能であることが好ましい。
上記分光器を備えた温度測定装置は、検出された電磁波のスペクトルを基に温度測定を行える。このため、上記構成であれば、検出された電磁波のスペクトルと、熱放射の強度の式とのフィッティングの精度が高い温度測定装置を提供できる。
本発明の態様5における分光器2Bは、上記態様1から3において、少なくとも2つの波長に対応する電磁波を検出可能であることが好ましい。
上記分光器を備えた温度測定装置は、検出された少なくとも2つの波長に対応する電磁波を基に温度測定を行える。このため、上記構成であれば、検出された電磁波を熱放射の強度の式と比較して、温度に変換することにより、単色の電磁波に基づいて行った場合よりも正確に温度測定が可能な温度測定装置を提供することができる。
また、上記分光器が検出する電磁波の波長は、少なくとも2つの波長に限られるため、当該検出する電磁波が透過する周期構造格子のみを有した光学フィルタを採用することができる。このため、上記構成であれば、小型かつ安価な構成であっても、高感度で検出したい電磁波のみを良好な感度で検出可能な分光器を実現できる。
本発明の態様6における温度測定装置1Cは、上記態様1から5のいずれか1態様の分光器2A・2Bと電磁波源4とを備えると共に、上記分光器2A(2B)は、上記測定対象Mから放射された上記電磁波と、上記電磁波源4から上記測定対象Mに照射され、かつ上記測定対象Mにおいて散乱された散乱光とを検出することを特徴とする。
上記構成によれば、分光器が、測定対象の表面にて散乱された、散乱光のスペクトルを検出できる。このため、上記分光器を備えた温度測定装置は、測定対象の表面の状態を、散乱光のスペクトルに基づいて算出することが可能となる。したがって、上記温度測定装置は、測定対象の表面の状態を加味した、より正確な温度測定が可能となる。また、分光器が、周期構造格子からなる光学フィルタを採用しているため、散乱光測定用の電磁波源4の波長に対応した周期構造格子と、温度測定用の長波長側の波長に対応した周期構造格子とを小型かつ低コストに備えることができる。さらに、電磁波源4の測定対象Mでの散乱光を十分強くしておけば、散乱光測定用の周期構造格子の面積を少なくすることができるため、小型かつ低コストに上記正確な温度測定が可能となる。
本発明の態様7における温度測定装置1Cは、分光器2A(2B)と、電磁波源4とを備え、上記分光器2A(2B)は、測定対象Mから放射された電磁波と、上記電磁波源4から上記測定対象Mに照射され、かつ上記測定対象Mにおいて散乱された散乱光とを検出することを特徴とする。
上記構成によれば、分光器が、測定対象の表面にて散乱された、散乱光のスペクトルを検出できる。このため、上記分光器を備えた温度測定装置は、測定対象の表面の状態を、散乱光のスペクトルに基づいて算出することが可能となる。したがって、上記温度測定装置は、測定対象の表面の状態を加味した、より正確な温度測定が可能となる。
本発明の態様8における温度測定装置1Cは、上記態様7において、上記分光器2A(2B)が、所定長さの格子ピッチp1を有する周期構造格子10Aを備えて該周期構造格子10Aの格子ピッチp1の長さに対応する波長の電磁波を透過させると共に、上記格子ピッチp1・p2・p3…の長さが互いに異なる複数組の周期構造格子10A・10B・10C…を備えた光学フィルタ10と、上記光学フィルタ10を透過した波長の電磁波を検出する検出器20とを備え、上記分光器2A(2B)は、検出器20が検出可能な波長の電磁波のうち長波長側に最大の検出感度を有し、かつ検出可能な最短波長から上記最大の検出感度を持つ波長までの電磁波に対して、波長が長いほど検出感度が高いことを特徴とする。
本発明の態様9における温度測定装置1Cは、上記態様8において、上記光学フィルタ10に、上記最大の検出感度を持つ波長の長さに対応する格子ピッチを周期的に有する最大検出感度用周期構造格子10Cが備えられていると共に、最大検出感度用周期構造格子10Cが他の周期構造格子に比べてその面積が最大となっていることが好ましい。
本発明の態様10における温度測定装置1Cは、上記態様8または9において、上記光学フィルタ10が、プラズモンフィルタであることが好ましい。
本発明の態様11における温度測定装置1Cは、上記態様8から10において、電磁波のスペクトルを検出可能であることが好ましい。
本発明の態様12における温度測定装置1Cは、上記態様8から10において、少なくとも2つの波長に対応する電磁波を検出可能であることが好ましい。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
1A・1B・1C・1C’ 温度測定装置
2A・2B 分光器
3 算出部
4 電磁波源
10 光学フィルタ
10A・10B 周期構造格子
10C 最大検出感度用周期構造格子(周期構造格子)
11 ホール
20 検出器
M 測定対象
p1・p2・p3 格子ピッチ

Claims (5)

  1. 測定対象から放射される電磁波を検出する分光器において、
    所定長さの格子ピッチを有する周期構造格子を備えて該周期構造格子の格子ピッチの長さに対応する波長の電磁波を透過させると共に、上記格子ピッチの長さが互いに異なる複数組の周期構造格子を備えた光学フィルタと、
    上記光学フィルタを透過した波長の電磁波を検出する検出器とを備え、
    上記検出器の感度と上記光学フィルタの透過率との積である分光器検出感度は、検出可能な波長の電磁波のうち長波長側に最大の分光器検出感度を有し、かつ検出最短波長から上記最大の分光器検出感度を持つ波長までの検出電磁波に対して、波長が長いほど分光器検出感度が高いことを特徴とする分光器。
  2. 上記光学フィルタには、上記最大の分光器検出感度を持つ波長の長さに対応する格子ピッチを周期的に有する最大検出感度用周期構造格子が備えられていると共に、最大検出感度用周期構造格子は他の周期構造格子に比べてその面積が最大となっていることを特徴とする請求項1に記載の分光器。
  3. 少なくとも2つの波長に対応する電磁波を検出可能となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の分光器。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の分光器と電磁波源とを備えると共に、
    上記分光器は、上記測定対象から放射された上記電磁波と、上記電磁波源から上記測定対象に照射され、かつ上記測定対象において散乱された散乱光とを検出することを特徴とする温度測定装置。
  5. 分光器と、電磁波源とを備え、
    上記分光器は、測定対象から放射された電磁波と、上記電磁波源から上記測定対象に照射され、かつ上記測定対象において散乱された散乱光とを検出することを特徴とする温度測定装置。
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