JP2018031703A - 構造物の腐食環境測定方法、腐食環境測定システム、及び腐食環境測定結果を利用した補修計画策定方法と点検計画策定方法 - Google Patents

構造物の腐食環境測定方法、腐食環境測定システム、及び腐食環境測定結果を利用した補修計画策定方法と点検計画策定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】屋外に設置された構造物の腐食速度を定量的にかつ継続的に把握することを可能とする腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムを提供する。また、補修を劣化度合いに応じて最適なタイミングで行うことができる補修計画を策定する方法、及び、構造物の点検を腐食や劣化の進行状況に応じて最適なタイミングで行うことができる点検計画を策定する方法を提供する【解決手段】計測対象構造物に、前記計測構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成した電極の一対が間隔を開けて配置された検査面を有するセンサを配置し、前記検査面に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と前記電極の表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数でインピーダンスの経時変化を測定する。【選択図】図1

Description

本発明は、屋外に設置された照明設備などの構造物の腐食速度を長期間にわたり定量的に把握するための腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムに関するものである。更に、補修を劣化度合いに応じて最適なタイミングで行うことができる補修計画を策定する方法、及び、構造物の点検を腐食や劣化の進行状況に応じて最適なタイミングで行うことができる点検計画を策定する方法に関するものである。
屋外に設置された照明設備などの構造物を構成する金属材料の腐食や劣化の進行状況を把握する手法として、ACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサを暴露して大気腐食モニターにより大気環境を計測する方法が提案されている。
例えば、特開2008−224405には、ACMセンサの設置箇所での腐食速度に基づいてACMセンサの設置されていないエリアの腐食速度を求めるための腐食速度評価方法が開示されている。
特開2008−224405
屋外の腐食環境は場所によって大きく異なるため、同じ構造物であっても、場所によって劣化の進行が異なる。そのため、屋外に設置された構造物を一律に補修した場合、補修が手遅れとなる、或いは、不要な補修を行うことになるおそれがある。また、補修に先立つ点検作業を各構造物について一律に行った場合、劣化が早く進行する場所については劣化情報の収集が遅れ、劣化の進行が遅い場所については不要な点検作業が行われるおそれがある。
従って、構造物の補修を劣化度合いに応じて最適なタイミングで行うことができる補修計画の策定と、補修に先立って行われる点検を構造物の腐食や劣化の進行状況に応じて最適なタイミングで行うことができる点検計画の策定が必要となる。
しかしながら、大気環境を計測するための従来の技術では、腐食や劣化の進行状況を正確に把握することができなかった。例えば、従来のACMセンサは主に濡れ時間を計測し、上記腐食速度評価方法では相対湿度との関係で濡れ時間を計測し、腐食の目安としているが、腐食速度を定量的に測定することは困難であった。
また、ACMセンサは2種類の金属間に流れる電流を測定する構造であることから、センサ部の劣化が早く、腐食環境が厳しい場所では頻繁に交換する必要があり、長期間にわたる継続的な計測には不向きであった。
そこで、本発明は、屋外に設置された構造物の腐食速度を定量的にかつ継続的に把握することを可能とする腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムを提供するとともに、補修を劣化度合いに応じて最適なタイミングで行うことができる補修計画を策定する方法、及び、構造物の点検を腐食や劣化の進行状況に応じて最適なタイミングで行うことができる点検計画を策定する方法を提供することを目的とする。
本発明に係る腐食環境測定方法では、計測対象構造物に、前記計測対象構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成した電極の一対が間隔を開けて配置された検査面を有するセンサを配置し、前記検査面に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と前記電極の表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数でインピーダンスの経時変化を測定する。
本発明に係る腐食環境測定システムは、一対の電極が間隔を開けて配置された検査面を有するセンサと、前記電極に交流電圧を印加しインピーダンスを計測する計測装置を備える。前記センサは、計測対象構造物に配置される。前記電極は、前記計測対象構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成される。前記計測装置は、前記交流電圧を、前記検査面に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と前記電極の表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数で印加する。
本発明に係る腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムでは、複数の構造物が設置された道路トンネルにおいて、前記複数の構造物の中から任意に選んだものを前記計測対象構造物とし、前記センサの複数を前記道路トンネル内に等間隔で配置してもよい。
本発明に係る腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムでは、また、前記電極の一対が、円柱形の第一電極と、前記第一電極より径が大きく前記第一電極の周囲に前記第一電極と軸線が一致する配置とされている円環形の第二電極とで構成されるものであってもよい。
本発明に係る補修計画策定方法では、本発明に係る腐食環境測定方法により得られた、前記インピーダンスの経時変化に基づき、前記計測対象構造物の腐食速度を算出し、前記計測対象構造物及び前記計測対象構造物と同様の腐食環境にある構造物の補修を行う時期を決定する。
本発明に係る点検計画策定方法では、本発明に係る腐食環境測定方法により得られた、前記インピーダンスの経時変化に基づき、前記計測対象構造物の腐食速度を算出し、前記計測対象構造物及び前記計測対象構造物と同様の腐食環境にある構造物の点検作業を行う時期を決定する。
本発明に係る腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムよれば、センサの検査面に間隔を開けて配置される電極が計測対象構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成されていることから、センサの検査面では、計測対象構造物の表面と同様の腐食現象が生じることになる。そして、計測されたインピーダンスに基づき、計測対象構造物の腐食速度を算出することができる。従って、濡れ時間だけではなく、構造物の腐食速度を定量的に測定することができる。
しかも、センサの検査面に配置される電極は、計測対象構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成されることから、計測対象構造物よりも極端に早く劣化することはなく、計測対象構造物における劣化の進行状況を把握するために有意な期間で、継続的な計測ができる。従って、屋外に設置された構造物の腐食速度を定量的にかつ継続的に把握することが可能となる。
本発明に係る腐食環境測定方法及び腐食環境測定システムを道路トンネルに設置された構造物に適用する場合は、道路トンネルの中に設置された複数の構造物の中から任意に選んだものを計測対象構造物とし、センサの複数を道路トンネル内に等間隔で配置する。これにより、場所によって腐食環境の異なる道路トンネル内に設置された複数の構造物の腐食速度をより正確に把握することができる。
本発明者は、トンネル内に設置された構造物の腐食には、トンネル開口付近の路面に散布された凍結防止剤や、車両からの排気ガスが深く関与し、同一トンネル内においても場所によって腐食速度が大きく異なることを発見した。
例えば、山岳トンネルでは、凍結防止剤の影響が強いトンネル入口付近において腐食速度が高くなる場合があり、凍結防止剤を散布しない地域のトンネルでは、排気ガスやトンネル内の湿気の影響を受けて、トンネル中央から出口にかけて腐食速度が高くなる場合がある。従って、道路トンネル内に設置された複数の構造物の腐食速度を把握するためには、センサの複数を道路トンネル内に等間隔で配置することが好ましい。また、腐食速度は相対的に調査することが好ましく、道路トンネル外の入口付近又は出口付近に設置された計測対象構造物についても併せて計測することが好ましい。
電極の形状は、使用状況に応じて最適なものとすればよいが、円柱形の第一電極と、第一電極より径が大きく第一電極の周囲に第一電極と軸線が一致する配置とされている円環形の第二電極とで構成することにより、耐久性を高めることができ、センサの交換頻度を低減できる。
本発明に係る補修計画策定方法では、計測されたインピーダンスに基づき算出された腐食速度を利用することで、構造物における劣化の進行状況を高い精度で推測できる。従って、推測される劣化状況を考慮して補修の時期を決めることにより、補修を劣化度合いに応じて最適なタイミングで行うことができる。
本発明に係る点検計画策定方法も同様に、推測される劣化状況を考慮して点検の時期を決めることにより、構造物の点検を、腐食や劣化の進行状況に応じて最適なタイミングで行うことができる。
本発明に係る腐食環境測定システムの概略構成図である。 センサの構成を示し、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。 測定方法の原理となる等価電気回路である。 計測されるインピーダンのナイキスト線図である。 計測対象構造物が照明装置又は情報板である場合においてセンサを配置する位置を概略的に示す図である。 計測対象構造物がトールゲートである場合においてセンサを配置する位置を概略的に示す図である。 計測対象構造物がガードレールである場合においてセンサを配置する位置を概略的に示す図である。 計測対象構造物がトンネル照明灯具である場合においてセンサを配置する位置を概略的に示す図である。 計測対象構造物が水噴霧配管である場合においてセンサを配置する位置を概略的に示す図である。 計測対象構造物がジェットファンである場合においてセンサを配置する位置を概略的に示し、(a)は側面図、(b)は正面図である。 検査面を初期状態のままとしたセンサを蒸留水に浸漬させたときに得られる周波数とインピーダンスの相関を示し、(a)はナイキスト線図、(b)はボード線図である。 検査面を初期状態のままとしたセンサを3%NaCl溶液に浸漬させたときに得られる周波数とインピーダンスの相関を示し、(a)はナイキスト線図、(b)はボード線図である。 検査面を腐食させたセンサを3%NaCl溶液に浸漬させたときに得られる周波数とインピーダンスの相関を示し、(a)はナイキスト線図、(b)はボード線図である。 低周波数側で計測されるインピーダンを修正して電極表面の電荷移動抵抗Rctを算出する原理を示すナイキスト線図である。 計測対象構造物が設置されたトンネルの入口から180m地点における、車両の走行方向から見たセンサの設置位置を示す図である。 計測対象構造物が設置されたトンネルの入口から180m地点における水分抵抗Rsol及び電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数の経時変化を示すグラフである。 計測対象構造物が設置されたトンネルの入口から2155m地点における水分抵抗Rsol及び電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数の経時変化を示すグラフである。 計測対象構造物が設置されたトンネルの入口から180m地点における、図16に示す計測期間より後の計測期間の、水分抵抗Rsol及び電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数の経時変化を示すグラフである。
図1及び図2に、本発明に係る腐食環境測定システムの実施形態を示す。本発明に係る腐食環境測定方法は、この腐食環境測定システムにより実施することができる。
この腐食環境測定システムは、一対の電極11が間隔を開けて配置された検査面12を有するセンサ1と、電極11に交流電圧を印加しインピーダンスを計測する計測装置2を備える。
センサ1は、計測対象構造物4に配置される。なお、補修又は点検は、全ての構造物について行う必要があるが、全ての構造物について腐食速度を把握する必要はない。ほぼ同様の腐食環境に曝されることが推測される複数の構造物の中から任意に選んだ構造物を、計測対象構造物4とすることができる。
なお、道路トンネルでは、同一トンネル内においても腐食速度は様々である。そこで、道路トンネル内に設置された複数の構造物の中から任意に選んだものを計測対象構造物4とし、センサ1の複数を道路トンネル内に等間隔で配置する。これにより、場所によって腐食環境の異なる道路トンネル内に設置された構造物における腐食速度をより正確に把握することができる。また、腐食速度は相対的に調査することが好ましく、道路トンネル外の入口付近又は出口付近に設置された計測対象構造物4についても併せて計測することが好ましい。
図1に示す実施形態では、道路トンネル3の内部及びその周辺に設置された構造物を計測対象構造物4としているが、計測対象とする構造物に制限はない。照明装置、情報板、トールゲート、ガードレール等を計測対象構造物4としてもよい。なお、図1は、腐食環境測定システムの構成を容易に理解できる形で表現したものであり、システムの構成要素の大きさや設置間距離は正確ではない。
道路トンネル3の内部におけるセンサ1の設置間隔は、状況によって適宜決めればよく、例えば、数百メートル間隔とすることができる。また、山岳トンネルでは、凍結防止剤の影響が強いトンネル入口付近の構造物が最も過酷な腐食環境に曝されることになるため、トンネル入口付近におけるセンサ1の配置間隔を他の場所よりも密にすることができる。
センサ1は、円柱形の第一電極11aと、円環形の第二電極11bと、これら電極11a、11bを覆い固める合成樹脂の被覆材13で構成されている。第二電極11bは第一電極11aより径が大きく、第一電極11aの周囲に、第一電極11aと軸線が一致する配置で固定されている。
第一電極11aと第二電極11bの端面はセンサ1の検査面12において大気に露出している。そして、検査面12側から見たときの第一電極11aの端面の輪郭と、第二電極11bの端面の輪郭が同心円となって現れている。また、第一電極11aと第二電極11bの大気に露出している部分の面積は同じとなっている。
センサ1の検査面12における、第一電極11aの端面の輪郭と、第二電極11bの端面の内側の輪郭の間隔(以下、電極間ギャップGとする)は、検査面12に付着する水滴の径よりも小さいものであればよく、製造条件や構成部材の性状に応じて最適な寸法とすればよい。
第一電極11aと第二電極11bの合成樹脂で覆われた端面の各々には、電線14が接続されている。電線14は被覆材13を貫通し外部に導出され、計測装置2に接続されている。
被覆材13の素材である合成樹脂として、例えば、エポキシ樹脂を採用することができる。ただし、被覆材13の素材は、電極間ギャップGを設けるために必要な絶縁性と加工性を有し、センサ1内部への水分の侵入を防ぐ耐水性を有するものであれば制限はなく、使用環境やコストに応じて最適なものを選択すればよい。
第一電極11aと第二電極11bの材質は、計測対象構造物4と同質とすれば、計測対象構造物4の腐食速度と同じとみなせるため、計測結果の補正等をほぼ不要にすることができる。一方、センサ1の寿命を延ばす必要がある場合には、例えば、クロムやニッケルを少量加え、腐食し難いものにしてもよい。この場合は、計測結果にしかるべき補正を行うことで腐食速度を得ることができる。
ただし、第一電極11aと第二電極11bの耐腐食性が、計測対象構造物4の耐腐食性よりも極めて高いものとなっては、計測対象構造物4の劣化が進行しているにも関わらず、センサ1がそれを検出できない場合がある。従って、第一電極11aと第二電極11bの材質は、計測対象構造物4と耐腐食性において相関のあるものとする。
計測対象構造物4には、気温の変動により生じる結露や雨水などの水分が付着するが、この水分に塩化物イオン等が含まれると、計測対象構造物4の腐食が促進される。例えば、トンネル内の入口付近では、道路トンネル3の外側の路面に散布された凍結防止剤の、車両の走行に伴って発生する飛沫が水分に溶け込むと、塩化物イオンが含まることになる。そして、計測対象構造物4に配置されたセンサ1の検査面12も、計測対象構造物4の表面と同じ腐食環境となる。
検査面12に水分が付着した状態は、電極11に交流電圧を印加した場合の等価電気回路として表現できる。このときの等価回路は、図3に示すように、電極表面抵抗Rct、電気二重層容量Cdl、及び、水分抵抗Rsolで表される。
電極表面抵抗Rctは電極11の表面における錆の種類や状態で変化し、水滴抵抗Rsolは凍結防止剤である塩化物イオン等が含まれると小さくなる。従って、検査面12に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と、電極表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数(以下、検査周波数という)の交流電圧を印加したときに計測されるインピーダンスは、腐食環境に応じて変化する。すなわち、このインピーダンスの経時変化を計測することにより、腐食環境の状態を把握することができる。
検査周波数は、腐食や劣化の進行状況を測定する対象となる計測対象構造物4の材質や設置状況などに応じて適宜決めることができるが、10kHz以上の周波数から10mHz以下の周波数まで、周波数を走査して、ナイキスト線図やボード線図を作成し分析したうえで決めることが好ましい。
電極11に交流電圧を印加したときに測定されるインピーダンスは、図4のナイキスト線図で示すように、検査面12に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と、電極表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数において、低周波側では電極表面の電荷移動抵抗Rctと水分抵抗Rsolの双方が影響しているのに対し、高周波側では電極表面の電荷移動抵抗Rctの影響が低くなり水分抵抗Rsolの影響が支配的となる。そこで、図4に示す低周波側であって縦軸の値が小さくなる周波数(以下、第一検査周波数とする)と、図4に示す高周波側であって縦軸の値が小さくなる周波数(以下、第二検査周波数とする)の双方を検査周波数とすることにより、電極表面の電荷移動抵抗Rctと水分抵抗Rsolの変化を正確に把握することができる。
なお、低周波側のインピーダンスは、実際の腐食環境では、電極表面の電荷移動抵抗Rctと水分抵抗Rsol以外の要因の影響を受けることになる。例えば、カソード部では、酸素拡散に伴う抵抗(ワールズブルグインピーダンス)の影響を受ける。
カソード部では、また、塩化物イオンが存在する場合に形成されるβ‐FeOOHやγ‐FeOOHが酸化剤として働くことによる、以下の式(1)に示す反応の影響を受ける。
更に、アノード部では、腐食反応において中間吸着生成物が生成される場合は、その影響を受けることになる。例えば、中間吸着生成物が、FeOHを生成する触媒として働く場合は以下の反応による影響を受ける。
しかしながら、これらの影響を受けた結果により計測されるインピーダンスを電極表面の電荷移動抵抗Rctとして扱うことにより、第一検査周波数では水分抵抗Rsolと電極表面の電荷移動抵抗Rctを合わせた抵抗の経時変化が得られ、第二検査周波数では水分抵抗Rsolが得られるので、その差から得られる電極表面の電荷移動抵抗Rctを逆数(腐食速度Icor=K/Rct)とすることで、腐食環境の状態を把握することができる。
第一検査周波数は概ね1Hz以下、第二検査周波数は概ね1kHz以上となるが、腐食や劣化の進行状況を測定する対象となる計測対象構造物4の材質や設置状況などにより異なるものとなる。また、低い周波数での計測には時間を要するため、第一検査周波数は、計測時間を考慮して決めることが好ましい。
インピーダンスの経時変化は、交流電圧を、所定のタイミングで、所定の期間、複数回印加することにより計測することができる。例えば、12時間に1回の印加を一年間継続することにより、一年間の経時変化を把握することができる。なお、図3において、低周波は第一検査周波数の交流電流を、高周波は第二検査周波数の交流電流を意味している。
センサ1を配置する位置は、計測対象構造物4において、腐食環境が最も過酷になる位置が好ましい。また、センサ1を単体で用い得られる計測値を周辺環境の代表値として扱う場合、センサ1の検査面12において、雨水がかかり、かつ、新たな水分が循環するように流れる状態が好ましい。センサ1の迎角を、雨水のかかり易い角度(鉛直方向上向き)と水分が流れやすい角度(水平方向)の間、例えば45度とすることにより、これらの条件を満たすことができる。ただし、センサ1の迎角は配置される状況に応じて適宜決めることができる。
図5〜10にセンサ1を配置する位置を例示する。なお、図5〜10は、センサ1を配置する位置を容易に理解できる形で表現したものであり寸法の相関は正確ではない。また、図5〜10に示す白抜矢線は車両の走行方向である。
図5に示すように、計測対象構造物4が照明装置又は情報板である場合、照明装置又は情報板のポール4aの点検口41内及び地際部42に配置することが好ましい。そして、点検口41内において点検口下端付近、下向き45度とすることが好ましく、地際部において地表から10cm程度の高さ、上向き45度、車線上流向きとすることが好ましい。
図6に示すように、計測対象構造物4がトールゲート4bである場合、電波吸収体43の裏及び出口レーン最上流支柱地際部44が好ましい。そして、電波吸収体43の裏において空気の流れが悪く淀んだ位置、上向きとすることが好ましく、支柱地際部44において地表から5cm程度の高さ、上向き45度、車線上流向きとすることが好ましい。トールゲート4bにおいては地表に繁茂する草が少ないため、極力地際部近くとすることが好ましい。
計測対象構造物4の特定の部位をピンポイントで計測したい場合は、その部位の向いている面とセンサ1の検査面12を同じ方向に向けることが好ましい。そのため、電波吸収体43の裏において、センサ1は、検査面12が電波吸収体43と同じ方向を向く状態である上向きとすることが好ましい。また、計測対象構造物4の周囲に、空気の流れが悪く淀んだ場所がある場合には、電波吸収体43と同様に、その場所に上向きで配置することが好ましい。
図7に示すように、計測対象構造物4がガードレール4cである場合、ガードポスト地際部45において地表から15cm程度の高さ、上向き45度、車線上流向きとすることが好ましい。ガードレール4cにおいては地表に繁茂する草が多く、これらを定期的に刈り取る必要があるため、草刈器に干渉しない高さとすることが好ましい。
図8に示すように、計測対象構造物4がトンネル照明灯具4dである場合、灯具本体46を壁面に固定する金具47のうち上流下側に配置されたものに、上向き45度で配置することが好ましい。
図9に示すように、計測対象構造物4が道路トンネル内に配置された水噴霧配管4eである場合、噴霧ノズル48の分岐部に上向き45度で配置することが好ましい。
図10に示すように、計測対象構造物4が道路トンネル内に配置されたジェットファン4fである場合、車道上となる位置を避け、ファン本体49を上方壁面に吊り下げ固定する吊金具50のうち路肩側に配置されたものに、上向き45度で配置することが好ましい。
道路トンネル壁面に設置されたその他の構造物、例えば、火災報知器については、最も低い位置に、上向き45度で配置することが好ましい。
計測装置2は、公知のポテンショスタットとFRA(Frequency Response Analyaer)で構成されている。また、通信ケーブル7を介し、管理センター8に設置された図示しない演算処理装置に接続されている。そして、計測装置2の計測データは、管理センター8の演算処理装置に集約される。
管理センター8では、演算処理装置に集約された計測データ、すなわち、インピーダンスの経時変化に基づき、腐食や劣化の進行状況の監視が行わる。また、インピーダンスの経時変化に基づいて算出された、計測対象構造物4の腐食速度から、点検作業を行う時期、或いは補修を行う時期を決定する。
例えば、経験則に基づき3年に1回の点検作業が行われている(点検周期3年の)構造物と同様の腐食環境に曝されている計測対象構造物4と比較し、腐食速度が3倍早ければ、点検作業を毎年行うことと(点検周期は1年と)する。
一方、経験側に基づく点検周期が3年の構造物と同様の腐食環境に曝されている計測対象構造物4と、経験則に基づく点検周期が5年の構造物と同様の腐食環境に曝されている計測対象構造物4を比較し、腐食速度が同じであれば、これまで3年であった点検周期を5年とする。補修についても同様である。
道路トンネル3における腐食環境の測定にあたり、まず、選定した第一検査周波数及び第二検査周波数において、インピーダンスの経時変化の計測が可能であることの確認試験を行った。
<試験1>
センサ1を蒸留水に浸漬し、電位振幅10mVの交流電圧を、10kHzから10mHzに周波数を走査して印加し、インピーダンスを計測した。ポテンショスタットにはsolartron社の1287型を、FRAにはsolartron社の1255B型を使用した。測定結果を図11に示す。
<試験2>
センサ1を3%NaCl溶液に浸漬し、試験1と同じ条件でインピーダンスを計測した。測定結果を図12に示す。
<試験3>
検査面12に塩水を2時間噴霧し、4時間乾燥させた後、湿潤状態を2時間保持する工程を3回繰り返し、検査面12を錆びた状態としたセンサ1を、3%NaCl溶液に浸漬し、試験1と同じ条件でインピーダンスを計測した。測定結果を図13に示す。
<水分抵抗Rsolの変化>
この確認試験では、センサ1を浸漬した溶液の抵抗が水分抵抗Rsolに相当するため、以下の説明では、溶液抵抗Rsolと表現する。溶液抵抗Rsolは、既述のように、高周波側で支配的となるので、最も高い周波数10kHzのインピーダンスに注目した場合、試験1では432.4Ωであるのに対し、試験2では3.7Ωと、試験3では4.1Ωとなった。すなわち、腐食を促進させる3%NaCl溶液ではインピーダンスが低くなっている。従って、この実施形態のセンサ1は、10kHzを第二検査周波数として、検査面12に付着した水滴に起因するインピーダンスの経時変化を計測することができる。
<電極表面の電荷移動抵抗Rctの変化>
電極表面の電荷移動抵抗Rctは、既述のように、低周波側で支配的となるため、測定した最も低い周波数のインピーダンスに注目した場合、試験1では周波数39.8Hzにおいて124770Ωであるのに対し、試験2では周波数10mHzにおいて2074.3Ωと、試験3では周波数10mHzにおいて84.6Ωとなった。すなわち、腐食を促進させる3%NaCl溶液ではインピーダンスが低くなっており、錆が発生した状態ではインピーダンスが更に低くなっている。従って、この実施形態のセンサ1は、10mHzを第一検査周波数として、電極11の電極表面の電荷移動抵抗Rctに起因するインピーダンスの経時変化を計測することができる。
なお、図11(b)に示す試験1のボード線図において、100Hzのプロットが外れているが、これは、電源の50Hz倍数に現れやすいノイズであると考えられる。
また、図11(a)に示す試験1のナイキスト曲線において、低周波側に現れる山形部分は、カソード部におけるワールズブルグインピーダンスの影響である。電極表面の電荷移動抵抗Rctと水分抵抗Rsol以外の要因の影響を受ける実際の腐食環境では、ナイキスト線図における低周波側の形状は様々であり、このように、周波数10mHzにおけるインピーダンスが必ずしも電荷移動抵抗Rctと水分抵抗Rsolの和に相当するといえない場合もある。
すなわち、周波数10mHzで測定した結果は、実数部Re[Z]と虚数Im[Z]で得られ、ナイキスト線図における半円の途中となる場合がある。そこで、このような場合には、電極表面の電荷移動抵抗Rctを求めるにあたり、図14に示すように、Re[Z]‐Rsolに、以下の式(3)で得られる値xを加算する。
そして、電極表面の電荷移動抵抗Rctを、以下の式(4)で得ることができる。
<実施例>
延長2925m、一方通行の道路トンネル3の、入口から180m地点(図1に示す地点Aに相当、以下計測地点P1とする)及び2155m地点(出口から770m地点、図1に示す地点Bに相当、以下計測地点P2とする)に設置された計測対象構造物4にセンサ1を配置し、腐食環境の測定を行った。
センサ1は、一つの地点毎に、高さの異なる位置に設置された3個の計測対象構造物4に配置した。図15は、計測地点P1における、車両の走行方向から見たセンサ1の設置位置を示す図である。低い位置に設置された火災検知器4gと、高い位置に設置されたジェットファン4fと、これらの間の高さに設置されたケーブルラック4hに、それぞれ、センサ1を配置した。なお、図15は、センサ1を配置する位置を容易に理解できる形で表現したものであり寸法の相関は正確ではない。また、センサ1は、いずれも、上向き45度とした。
計測地点P2においても同様に、火災検知器4gとケーブルラック4hのそれぞれにセンサ1を配置した。また、計測地点P1におけるジェットファン4fと同程度の高さ位置に設置された図示しない横断管にも、センサ1を配置した。以下の説明では、火災検知器4gに配置したセンサ1をCH1と、ケーブルラック4hに配置したセンサ1をCH2と、ジェットファン4f或いは横断管に配置したセンサ1をCH3とする。
測定装置2には、確認試験と同じものを用いて、1時間毎に、周波数10kHzにおけるインピーダンス(水分抵抗Rsol)と、周波数10mHzにおけるインピーダンス(電極表面の電荷移動抵抗Rct)の計測を計測地点P1で554日間、計測地点P2で48日間行った。結果を図16、図17、図18に示す。
図16に示す計測地点P1における電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数は、図17に示す計測地点P2における電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数よりも大きい値で推移している。従って、トンネル入口付近に設置された構造物は、計測地点P2に設置された構造物よりも過酷な腐食環境に曝されていることが確認された。
また、露点との温度差が少なくなると水分抵抗Rsolが低下し、電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数が増加することから、結露のし易さと腐食の進行には関係のあることが確認された。なお、計測地点P1と計測地点P2は、露点との温度差がほぼ同じときでも、水分抵抗Rsol及び電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数には差異があることからも、トンネル入口付近に設置された構造物は、計測地点P2に設置された構造物よりも過酷な腐食環境に曝されていることがわかる。
図18は、計測地点P1における図16に示す測定期間より後の期間のインピーダンスの経時変化を示している。図18に示す測定期間において、電極表面の電荷移動抵抗Rctの逆数は、始めから高い値で推移している。一度塩化物の影響を受けると、凍結防止剤の散布されない春以降も、腐食速度が高い水準を維持することを示すものである。
また、図18に示す測定期間の始めには、水分抵抗Rsolが低下し、腐食が進行し易い状態となっている。梅雨の影響を示すものと考えられる。
更に、この実施例における道路トンネル3に設置された構造物の腐食環境が、概ね計測地点P2と同等であると想定した場合、計測地点P1に設置された構造物の腐食速度は、他の地点の構造物の腐食速度の数十倍のオーダーで大きくなることがわかる。従って、点検周期を短くする必要があり、また、点検と同時に補修を行わなければならない可能性が高く、点検周期と補修周期を同一にすることが無難であると判断される。
1 センサ
2 計測装置
3 道路トンネル
4 計測対象構造物
7 通信ケーブル
8 管理センター
11 電極
12 検査面
13 被覆材
14 電線

Claims (8)

  1. 計測対象構造物に、前記計測対象構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成した電極の一対が間隔を開けて配置された検査面を有するセンサを配置し、前記検査面に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と前記電極の表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数でインピーダンスの経時変化を測定することを特徴とする腐食環境測定方法。
  2. 複数の構造物が設置された道路トンネルにおいて、前記複数の構造物の中から任意に選んだものを前記計測対象構造物とし、前記センサの複数を前記道路トンネル内に等間隔で配置する請求項1に記載の腐食環境測定方法。
  3. 前記電極の一対が、円柱形の第一電極と、前記第一電極より径が大きく前記第一電極の周囲に前記第一電極と軸線が一致する配置とされている円環形の第二電極とで構成される請求項1又は2に記載の腐食環境測定方法。
  4. 一対の電極が間隔を開けて配置された検査面を有するセンサと、前記電極に交流電圧を印加しインピーダンスを計測する計測装置を備え、
    前記センサは、計測対象構造物に配置され、
    前記電極は、前記計測対象構造物と耐腐食性において相関のある材質で形成され、
    前記計測装置は、前記交流電圧を、前記検査面に付着した水分のイオン電導性に係る抵抗と前記電極の表面での電荷移動の抵抗を分離することができる周波数範囲の中の任意の周波数で印加することを特徴とする腐食環境測定システム。
  5. 複数の構造物が設置された道路トンネルにおいて、前記複数の構造物の中から任意に選んだものを前記計測対象構造物とし、前記センサの複数を前記道路トンネル内に等間隔で配置する請求項4に記載の腐食環境測定システム。
  6. 前記電極の一対が、円柱形の第一電極と、前記第一電極より径が大きく前記第一電極の周囲に前記第一電極と軸線が一致する配置とされている円環形の第二電極とで構成される請求項4又は5に記載の腐食環境測定システム。
  7. 請求項1、2又は3に記載の腐食環境測定方法により得られた、前記インピーダンスの経時変化に基づき、前記計測対象構造物の腐食速度を算出し、前記計測対象構造物及び前記計測対象構造物と同様の腐食環境にある構造物の補修を行う時期を決定することを特徴とする補修計画策定方法。
  8. 請求項1、2又は3に記載の腐食環境測定方法により得られた、前記インピーダンスの経時変化に基づき、前記計測対象構造物の腐食速度を算出し、前記計測対象構造物及び前記計測対象構造物と同様の腐食環境にある構造物の点検作業を行う時期を決定することを特徴とする点検計画策定方法。
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