JP2018024549A - 水和膨潤性層状金属酸化物、その組成物、その薄膜およびそれらの製造方法 - Google Patents

水和膨潤性層状金属酸化物、その組成物、その薄膜およびそれらの製造方法 Download PDF

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【課題】 ナノシートを含むゲル、ゾルなどが、中性に近いpHを示す、水和膨潤性層状金属酸化物、その組成物、その薄膜、および、それらの製造方法を提供すること。【解決手段】 本発明による金属酸化物ナノシートが積層された水和膨潤性層状金属酸化物は、金属酸化物ナノシートの層間に少なくとも一般式(1)で表されるアミノ酸カチオンを有する、水和膨潤性層状金属酸化物。[NH3CnHm(OH)pCOOH]+・・・・(1)(ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)【選択図】 図1

Description

本発明は、水和膨潤性層状金属酸化物、その組成物、その薄膜およびそれらの製造方法に関する。詳細には、本発明は、層間にアミノ酸カチオンを有する水和膨潤性層状金属酸化物、その組成物、その薄膜およびそれらの製造方法に関する。
無機層状金属酸化物の1つである層状ペロブスカイト化合物は、ニオブ酸やタンタル酸など、八面体が2〜5重に積み重なり、ペロブスカイト構造を基本とする1つの層を形成し、層間に層の負電荷を補償するための陽イオンを有する層状金属酸化物である。一方、無機層状金属酸化物の1つである層状チタン酸化合物は、チタン酸の八面体よりなる層と層間に層の負電荷を補償するための陽イオンを有する層状金属酸化物であり、ペロブスカイト構造以外の層状構造を持ち、タンタル酸、ニオブ酸化合物、マンガン酸化合物もその類縁化合物として存在する。層間陽イオンは、通常、Li、Na、K、Rb、Csなどアルカリ金属元素のイオンで、比較的容易にイオン交換されることが多い。
従来、層状ペロブスカイト化合物もしくは層状チタン酸類縁化合物などの層状化合物においては、層間の陽イオンを、塩酸(HCl)や硝酸(HNO)などの強酸の溶液中でプロトン(H)にイオン交換することによって生じるプロトン体の層状化合物に対し、ヒドロキシエチルアミンなどのアミンやテトラブチルアンモニウムなどの4級アンモニウム化合物を加えると、層間にアンモニウムイオンとして挿入されて、層間距離が増すとともに水分子を引き込んで大きく膨潤し、層が1層1層バラバラ(剥離)になってナノシートが形成され、最終的には、ナノシートを含んだ透明感のあるコロイド溶液(ゾル)になる事が知られている(例えば、非特許文献1、2および特許文献1、2を参照)。得られたナノシートは、負電荷を示し、陽イオン性(カチオン性)の高分子と交互に1層1層積み上げる交互積層法によって、ナノ積層構造を形成するため、多くの研究が行なわれている(例えば、非特許文献3および特許文献3、4を参照)。
近年、これらプロトン体に、有機アミンや有機アンモニウム化合物の水溶液を加えた際に、膨潤により巨大な水和膨潤体が形成することが観察されており、ナノシート形成に至る重要な中間段階として、注目されている(例えば、非特許文献4、5、6を参照)。機械的な振盪によって、この巨大水和膨潤体から層が剥離し、ナノシートが形成されることになる。前述したように、層状ペロブスカイト化合物もしくは層状チタン酸類縁化合物などから得られるナノシートは負の電荷を持つ。そのため使用した有機アミンや有機アンモニウム化合物のアンモニウムイオン体が対イオンとしてナノシート近傍に存在し、これらの溶液の中に浮遊する形でナノシートは保存され、積層などに供される。しかし、層間に包接されずに溶液中に残った有機アミンや有機アンモニウム化合物により、得られるゾルは、pHが10〜11の強いアルカリ性を示すため、アルカリ性に弱い層状化合物への使用やアルカリ性に弱い基板・基質への積層には適しておらず、また強いアルカリ性を示すナノシートゾルの皮膚への付着は、皮膚に障害を引き起こすため、取り扱いや保存などにおいて欠点があった。
このように、溶液から層間にゲストとして特定の有機アミンを導入することによって、層状化合物を水和膨潤させてナノシート化し、ゲルやゾル溶液を作製して、ナノシートを含む水溶液を作る技術が開発されているが、今のところ、ナノシートを含むコロイド溶液(ゾル)が、中性に近いもの(pH=7±1)になるようなゲストは見出されていない。
一方、有機アミン以外の化合物を用いて膨潤・剥離を起こした報告例がある。例えば、過塩素酸イオンを含むMgAl型の層状複水酸化物(ClO−MgAl−LDH)において、双性イオン(Zwitterion)としてアミノ酸を導入することにより、誘電率を増大させ、膨潤・剥離を促進することが報告されている(例えば、非特許文献7を参照)。確かに双性イオンは、水溶液の状態で、アミンよりもpHが中性に近い。しかしながら、層状複水酸化物は、層状ペロブスカイトなどのように層が負の電荷を持つ化合物とは全く異なり、正の電荷を持つ層から形成されており、また、導入されたアミノ酸は、層間に取り込まれるのではないことが分かっている。
また、層状ペロブスカイトのプロトン体であるHCaNb10を用い、層間のプロトンを酸性水溶液中でH(CH10COOHによってイオン交換し、次いで、塩基性水溶液中でカルボキシル基のプロトンをアルカリ金属イオンに置換することにより、KCaNb10を剥離する手法が報告されている(例えば、非特許文献8を参照)。しかしながら、非特許文献8では、酸性からアルカリ性までpHを大きく変化させており、やはり剥離したナノシートを含む溶液が中性であるものは得られていない。
特許第3232306号公報 特許第2958440号公報 特許第3505574号公報 特許第3513589号公報
T.Sasakiら,"Osmotic Swelling to Exfoliation.Excptionally High Degrees of Hydration of a layered Titanate"、J.Amer.Chem.Soc.,120,4682(1998) T.Tanakaら,"Oversized Titania Nanosheet Crystallites Derived from Flux−Grown Layered Titania Single Crystals",Chem.Mater.,15,3564(2003) M.Osadaら,"Robust High−k Response in Molecularly Thin Perovskite Nanosheets",ACS Nano,47,7556(2008) F.Gengら,"Unusually stable 〜100−fold reversible and instantaneous swelling of inorganic layered materials",Nat.Commun.,4,1632(2013) F.Gengら,"Gigantic Swelling of Inorganic Layered Materials: A Bridge to Molecularly Thin Two−Dimensional Nanosheets",J.Am.Chem.Soc.,136,5491(2014) Y.Songら,"Accordion−like swelling of layered perovskite crystals via massive permeation of aqueous solutions into 2D oxide galleries",Chem.Commun.,51,17068(2015) N.Iyiら,"Swelling and Gel/Sol Formation of Perchlorate−Type Layered Double Hydroxides in Concentrated Aqueous Solutions of Amino AcidRelated Zwitterionic Compounds",Langmuir,29,2562(2013) Yang−Su Hanら,"Exfoliation of layered perovskite, KCa2Nb3O10, into colloidal nanosheets by a novel chemical process",J.Mater.Chem.,11,1277(2001)
本発明の課題は、このような実情に鑑み、ナノシートを含むゲル、ゾルなどが、中性に近いpHを示す、水和膨潤性層状金属酸化物、その組成物、その薄膜、および、それらの製造方法を提供することである。
本発明者は、水和膨潤を引き起こすゲストとして使用される有機アミンが、短鎖のアルキル基もしくは、水酸基を持つアルキル基であること、また、水酸基以外の官能基を有するアルキル基がほとんど試みられていないことに着目した。そして、短鎖のアルキル基を持ち、しかもアミンの塩基性を補償するためのカルボキシル基を有する有機アミンを使用することにより、水和膨潤が引き起こされた場合には、中性に近いpHを示すような、層状金属酸化物のナノシートを含むゲル状又はゾル状の組成物を製造することができると考えた。また、短鎖のアミノ酸は水溶性があるため水溶液を作りやすく、製造上も利点を有すると考えた。
以上の考えに基づき、官能基としてアミンの他にカルボキシル基を有し、また、pHに影響を与えずに分子の親水性を向上させるような水酸基(OH)などの官能基も有する短鎖のアミノ酸系の物質を候補として選んだ。そして、層状ペロブスカイト化合物もしくは層状チタン酸類縁化合物などの層状金属酸化物の層間の陽イオンをプロトン(H)にイオン交換して得られたプロトン体の層状化合物に、これらのアミノ酸を含む溶液を加えて、水和膨潤挙動を調べ、実際に巨大水和膨潤を起こす物質を探索した。
その結果、4−アミノブタン酸(GABAとも称する)など、化学式で、カルボキシル基(COOH)の炭素Cを除くCの数が2〜6の短鎖のアミノ酸あるいはその異性体、ならびに、これに水酸基がついたアミノ酸誘導体をゲストとして使用した場合、著しい水和膨潤性を示し、得られるゲル等の組成物も中性に近いもの(pH=7±1)であることを知見するに至ったものである。
上記課題を解決するために以下の発明を提供するものである。
本発明による金属酸化物ナノシートが積層した構造をもつ水和膨潤性層状金属酸化物は、前記層状金属酸化物の層間に少なくとも一般式(1)で表されるアミノ酸カチオンを有し、これにより上記課題を解決する。
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
(ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
前記水和膨潤性層状金属酸化物は、層状ペロブスカイト酸化物の結晶構造、または、層状チタン酸類縁化合物の結晶構造を有してもよい。
前記金属酸化物ナノシートは、一般式(2)で表される金属酸化物ナノシートであり、前記水和膨潤性層状金属酸化物は、一般式(3)で表されてもよい。
[Ay−13y+1t− ・・・・(2)
[(NH(OH)COOH)1−x[Ay−13y+1]・・・(3)
(ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p、xは0.2≦x≦1.0の範囲である。)
前記nは、3または5であってもよい。
前記金属酸化物ナノシートは、一般式(4)で表される金属酸化物ナノシートであり、前記水和膨潤性層状金属酸化物は、一般式(5)で表されてもよい。
[Mt− ・・・(4)
[(NH(OH)COOH)1−x[M]・・・(5)
(ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p、xは0.2≦x≦1.0の範囲である。)
前記nは、3であってもよい。
本発明による上述の水和膨潤性層状金属酸化物を製造する方法は、層状金属酸化物の層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)を含有する水溶液を接触させ、前記プロトンの少なくとも一部のプロトンに前記アミノ酸(Q)のアミノ基を結合させ、前記アミノ酸を、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)として挿入するステップを包含し、これにより上記課題を解決する。
NH(OH)COOH ・・・(6)
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
(ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
前記層状金属酸化物は、層状ペロブスカイト酸化物であり、前記層状金属酸化物プロトン体は、一般式(7)で表されてもよい。
[H][Ay−13y+1]・wHO ・・・・(7)
(ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。wは、0≦w≦5。)
前記層状金属酸化物は、層状チタン酸類縁化合物であり、前記層状金属酸化物プロトン体は、一般式(8)で表されてもよい。
[H][M]・wHO ・・・・(8)
(ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。wは、0≦w≦5。)
前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液の濃度は、0.005M以上6M以下の範囲を有してもよい。
前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液の濃度は、0.05M以上6M以下の範囲を有してもよい。
前記プロトンに対する前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、1以上600以下の範囲であってもよい。
前記プロトンに対する前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、5以上100以下の範囲であってもよい。
本発明による組成物は、金属酸化物ナノシートと、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)とが、少なくとも水を含有する溶媒に含有されており、これにより上記課題を解決する。
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
(ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
前記金属酸化物ナノシートは、一般式(2)で表される金属酸化物ナノシートであってもよい。
[Ay−13y+1t− ・・・・(2)
(ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である)
前記金属酸化物ナノシートは、一般式(4)で表される金属酸化物ナノシートであってもよい。
[Mt− ・・・(4)
(ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である)
前記金属酸化物ナノシートの厚さは、0.5nm以上10nm以下の範囲であってもよい。
本発明による上述の組成物を製造する方法は、層状金属酸化物の層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)を含有する水溶液を接触させ、前記プロトンの少なくとも一部のプロトンに前記アミノ酸(Q)のアミノ基を結合させ、前記アミノ酸を、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)として挿入するステップと、前記挿入するステップで得られた水和膨潤性層状金属酸化物を振盪し、剥離するステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
NH(OH)COOH ・・・(6)
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
(ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
前記挿入するステップと、前記振盪し、剥離するステップとが、同時に行われてもよい。
本発明による薄膜は、金属酸化物ナノシートが、1層または2層以上積層された層状金属酸化物からなり、前記層状金属酸化物は、上述の水和膨潤性金属酸化物からなり、これにより上記課題を解決する。
前記薄膜は、1μm以上2mm以下の範囲を有し、基板を要せずに自立して膜形状を保つ自立膜であってもよい。
本発明による上述の薄膜を製造する方法は、上述の組成物を基板に付与するステップと、前記付与された組成物を乾燥するステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記基板を除去するステップをさらに包含してもよい。
本発明の水和膨潤性層状金属酸化物は、層間に一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン有することにより、水分子が層間に引き込まれ、底面間隔が数十倍に伸びるような巨大水和膨潤を起こすようになる。本発明の水和膨潤性層状金属酸化物は、高純度、高安定性、汎用性に優れる。また、次に述べるような一般的な製造方法により、きわめて簡単に合成できる材料である。
本発明の水和膨潤性層状金属酸化物の製造方法は、層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)を含有する水溶液を接触させ、プロトンの少なくとも一部にアミノ酸(Q)のアミノ基を結合させ、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)として挿入する。このようにして得られた水和膨潤性層状金属酸化物は、層間に水を取り込み、巨大膨潤を生じる。本発明においては、層間のプロトンとの反応により水和膨潤性層状金属酸化物を製造するため、フラックス法などで合成した結晶のみならず焼成法で得られた粉末状の材料でも出発物として利用できる。
本発明の組成物は、金属酸化物ナノシートと、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)とが、少なくとも水を含有する溶媒に分散されている。本発明の組成物は、溶媒の量に応じてゾルもしくはゲルを形成する。ゾルやゲルで、層間に取り込まれた後の溶液部分には、アミノ酸(Q)の未反応分が残るが、このアミノ酸は、塩基性のアミノ基と、酸性のカルボキシル基を有するために、ほぼ中性のpH(pH=7±1)である。また、アミノ酸は、生体に害がなく、皮膚などへの付着も問題がない。このような組成物により、無臭性、無害性を備えた当該ゲル、ゾル状組成物を提供することができる。本発明の組成物は、金属酸化物ナノシートの積層によく使われる水溶媒を使用しているため、組成物を、そのまま、積層プロセスに使うことができる。また、安全かつ容易に、薄膜や自立膜に成形できる。なお、金属酸化物ナノシートは、出発結晶の形状(積層方向に垂直な面形状)を継承するため、自由なサイズでかつアスペクト比が大きい。
本発明の組成物の製造方法は、先に記載の水和膨潤性層状金属酸化物の製造方法に続いて、得られた層状金属酸化物の水和膨潤体を振盪すればよい。水和膨潤性層状金属酸化物は、水によって巨大膨潤し、層間距離が著しく伸びるため、層間の結合が弱くなって、振盪により一枚一枚の層に容易に分離して剥離され、金属酸化物ナノシートが得られ、金属酸化物ナノシートと、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)とが、少なくとも水を含有する溶媒に分散した状態となり得る。
このように、1)層状金属酸化物プロトン体にアミノ酸を含有する水溶液を作用させることによって簡単に水和膨潤性層状化合物が得られること、2)水和膨潤した層状金属酸化物を振盪などの方法によって、金属酸化物ナノシートを含有した組成物が得られること、3)その組成物は中性に近い溶液であり、しかも生体を構成もしくは生体に含有されている成分であるため、無害であること、など多くの利点があり、その意義は大きい。
このようにして得られた金属酸化物ナノシートは、交互積層の構成成分としてだけでなく、層が1層1層、別れて水中で存在するため、反応性の向上が期待でき、これまで、通常のイオン交換では包接できなかった種々のイオンや分子などと複合体を形成することが期待できる。
本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を示す模式図 本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を製造するフローチャートを示す図 本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を製造する過程を説明する模式図 本発明の組成物を示す模式図 本発明の組成物を製造するフローチャートを示す図 本発明の組成物を製造する過程を説明する模式図 本発明の薄膜を示す模式図 KCaNb10の結晶構造を示す模式図 得られた結晶(KCaNb10)の粉末XRDパターンを示す図 酸処理により合成したプロトン体(HCaNb10・1.5HO)の粉末XRDパターンを示す図 合成したプロトン体(HCaNb10・1.5HO)のSEM(走査電子顕微鏡)像を示す図 酸処理前の層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27)と酸処理により合成したプロトン体(H1.07Ti1.73)の光学顕微鏡像を示す図 実施例10および比較例11におけるGABA水溶液と反応後のHCaNb10・1.5HO結晶の見かけの体積の変化を示す図 実施例10および比較例11におけるGABA水溶液と反応後のHCaNb10・1.5HO結晶の偏光顕微鏡観察の結果を示す図 実施例10におけるGABA水溶液と反応後のHCaNb10・1.5HO結晶のX線小角散乱(SAXS)の結果を示す図 実施例10および比較例11における窒素雰囲気下での結晶のXRDパターンを示す図 実施例12における組成物の様子を示す図 実施例12によるナノシートのSEM像を示す図 実施例12によるナノシートのAFM像(A)およびその高さプロファイル(B)を示す図 実施例12による自立膜の外観を示す図
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を示す模式図である。
本発明の水和膨潤性層状金属酸化物100は、金属酸化物ナノシート110の層間に少なくとも一般式(1)で表されるアミノ酸カチオンを有する。
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
(ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
ここで、本発明者らは、アミノ酸カチオンが、nが2≦n≦6を満たす場合において水和膨潤し、それ以外では水和膨潤しないことを見出した。層間に含有されるアミノ酸カチオンは、塩基性のアミノ基と、酸性のカルボキシル基とを有するため、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物100は全体で中性となる。
金属酸化物ナノシート110は、後述する層状金属酸化物の層と層とがバラバラの状態となった際に生成する、厚さがnmオーダーの薄いシートを意図する。ただし、このシートの厚さは、層の厚さによって異なる。形状は、その生成機構のため、層状金属酸化物の結晶形状、すなわち積層方向と垂直な面の形状を反映する。このサイズは、多くの場合、横方向には5〜100μmであるため、得られるナノシートは、高いアスペクト比を持つことになる。
金属酸化物ナノシート110は、上述したように層状金属酸化物の構造を形成する層に由来する。そのため、例えば、金属酸化物ナノシートがCaNb10)である場合、前駆体である層状ペロブスカイト酸化物(例えばKCaNb10)の層の構造を引き継ぎ、ペロブスカイト構造をなす3連のNb八面体とCaイオンから構成されている。ナノシートは、理想的には1層であり、層の厚さは、例えばCaNb10ナノシートの場合、1.2nm程度であるが、1層に限られるものではなく、層数は、2〜5層程度のものも含むことがある。構造によって異なるが、一般的には、厚さの範囲は、0.5nm以上10nm以下である。なお、既報の非特許文献6などで報告があるようにAFM(原子間力顕微鏡)の測定では、1.8〜1.9nm程度の厚さとして観測されるが、これは1層の厚さに表面に吸着した対イオンの大きさを加えたものが観測されるために、大きい値になっている。
水和膨潤性層状金属酸化物100は、層状ペロブスカイト酸化物の結晶構造、または、層状チタン酸類縁化合物の結晶構造を有する。これにより、良好に水和膨潤さらには単層剥離を可能にする。
層状ペロブスカイト酸化物は、単層剥離された金属酸化物ナノシートとしてペロブスカイトナノシートを生成する任意の層状ペロブスカイト酸化物を意図している。単層剥離されたペロブスカイトナノシートは、一般式(2)で表される。
[Ay−13y+1t− ・・・・(2)
ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。このようなペロブスカイトナノシートを生成する層状ペロブスカイト酸化物は、A’[Ay−13y+1]に代表されるDion−Jacobson型(A’:アルカリ金属)などが良く知られている。本化合物系は極めてバラエティーに富むが、代表的な層状ペロブスカイト酸化物として、KLaNb、KCaNb10、KSrNb10、CsCaNb10、KCaNaNb13、KCaNaNb16、KCaNaNb19、LiEu2/3Ta、KLaTi10などがあり、これらの結晶構造を有していればよい。層状ペロブスカイト酸化物の結晶は、直方体や、四角板状の形状を有し得る。また結晶サイズは1〜200μmのものが多く、厚さは0.1〜100μm程度であるが、合成条件によっては、結晶サイズはmmオーダーにもなる。
金属酸化物ナノシート110が上記一般式(2)で表される場合、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物100を一般式(3)で表してもよい。
[(NH(OH)COOH)1−x[Ay−13y+1](3)
ここで、tは0.5≦t≦1.5の範囲であり、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p、xは0.2≦x≦1.0の範囲である。式(3)において、アミノ酸カチオンは、異性体も含むことを意図する。式(3)において、A、Bおよびyは、式(2)と同様である。
層間に占めるアミノ酸カチオン体の割合に関するパラメーターであるxについて言及する。アミノ酸カチオンが、後述する層状金属酸化物プロトン体のプロトンと完全に反応した場合(100%)は、x=1.0となるが、層間に入る分子の大きさによって、分子同士の立体障害が生じるために100%まで包接されることにならず、20%程度(x=0.2)にとどまる場合がある。この割合は、100%に近いほど望ましいが、溶液の濃度、分子の大きさや種類によって膨潤性が異なり、xが小さい場合でも水和膨潤が生じることがあるために、xを0.2≦x≦1.0の範囲とする。xは、好ましくは、0.5以上である。
金属酸化物ナノシートとカチオンとの比に関するパラメーターであるtについて言及する。例えばHCaNb10で表される層状ペロブスカイト酸化物プロトン体において、アミノ酸水溶液を反応させた場合の生成物は、一般式(3)で表した場合、金属酸化物ナノシートは[CaNb10]となり、−1の価数を持つために、カチオン量はt=1.0である。多くの場合、金属酸化物ナノシートは−1の価数を持つため、t=1.0となるが、価数の異なる成分が層に置換している化合物では、層は−1より大きいかもしくは小さい価数を持つ。そのため、tは0.5≦t≦1.5の範囲とする。
一般式(3)において、n=3または5の場合、巨大水和膨潤を引き起こすので好ましい。中でも、n=3または5におけるアミノ酸カチオンは、好ましくは、以下のとおりである。
層状チタン酸類縁化合物は、単層剥離された金属酸化物ナノシートとしてチタニアナノシート、チタンニオビアナノシートなどチタンを含有するナノシート、あるいは、上述のペロブスカイトナノシート以外のナノシートを生成する任意の層状金属酸化物があり得る。単層剥離されたナノシートは、一般式(4)で表される。
[Mt− ・・・(4)
ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。本化合物系もまた極めてバラエティーに富むが、代表的な層状チタン酸類縁化合物として、K0.8Ti1.73Li0.27、NaTi、KTi、CsTi11、KMnO(代表的にはx=0.55)などがあり、これらの結晶構造を有していればよい。
金属酸化物ナノシート110が上記一般式(4)で表される場合、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物100を一般式(5)で表してもよい。
[(NH(OH)COOH)1−x[M]・・・(5)
ここで、tは0.5≦t≦1.5の範囲であり、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p、xは0.2≦x≦1.0の範囲である。ここでも、xおよびtのパラメーターの意義は上述したとおりである。式(5)において、アミノ酸カチオンは、異性体も含むことを意図する。式(5)において、M、G、r、zおよびqは、式(4)と同様である。
一般式(5)において、n=3の場合、巨大水和膨潤を引き起こすので好ましい。中でも、n=3におけるアミノ酸カチオンは、好ましくは、以下のとおりである。
なお、層状チタン酸類縁化合物としているのは、層状チタン酸と同じ構造を持つということを示すものではなく、これらの結晶構造以外にも、層状コバルト酸化物の結晶構造、層状マンガン・コバルト酸化物の結晶構造、層状マンガン・鉄酸化物の結晶構造、層状タングステン酸化物の結晶構造、層状ニオブ酸化物の結晶構造、層状タンタル酸化物の結晶構造、または、層状ルテニウム酸化物の結晶構造を有してもよく、これらの層状化合物を総称することを意図するものである。そのため同様に、水和膨潤性層状金属酸化物100となり得る。
本発明の水和膨潤性層状金属酸化物100は、層間に水分子が存在してもよいが、水分量(w)は、雰囲気の相対湿度(RH:Relative Humidity)によって、大きく変化するために、特定の値を示して代表させることが難しく、一般式(3)あるいは一般式(5)においては、層間の水分量を表す項(wHO)を省略していることを理解されたい。
次に、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物100の例示的な製造方法を図2および図3を参照して説明する。
図2は、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を製造するフローチャートを示す図である。
図3は、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を製造する過程を説明する模式図である。
ステップS210:層状金属酸化物の層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体310に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)320を含有する水溶液を接触させる。これにより、層間のプロトンの少なくとも一部のプロトンにアミノ酸(Q)320のアミノ基が結合し、アミノ酸320を、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)120として層間に挿入できる。
NH(OH)COOH ・・・(6)
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−pである。アミノ酸カチオンは、nが2≦n≦6を満たす場合において水和膨潤する水和膨潤性層状金属酸化物100が得られる。
ここでも、層状金属酸化物は、層状ペロブスカイト酸化物、または、層状チタン酸類縁化合物である。これにより、良好に水和膨潤さらには単層剥離を可能にする水和膨潤性層状金属酸化物を製造できる。これらの層状金属酸化物は、上述したとおりであるため説明を省略する。
なお、層状金属酸化物プロトン体310は、層状金属酸化物を硝酸等の酸で処理することによって、層状金属酸化物の結晶構造を保ちつつ、層間の金属イオンがプロトン(H)に置き換わることによって得られる。
例えば、層状金属酸化物が層状ペロブスカイト酸化物である場合、層状金属酸化物プロトン体310は、一般式(7)で表される。
[H][Ay−13y+1]・wHO ・・・・(7)
ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。wは、0≦w≦5である。
例えば、層状金属酸化物が層状チタン酸類縁化合物である場合、層状金属酸化物プロトン体310は、一般式(8)で表される。
[H][M]・wHO ・・・・(8)
ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。wは、0≦w≦5である。
ステップS210において「接触させる」とは、層状金属酸化物プロトン体310とアミノ酸(Q)320を含有する水溶液とが物理的に接触する状況を満たしさえすればよく、例えば、層状金属酸化物プロトン体310とアミノ酸(Q)320を含有する水溶液とを混合してもよいし、層状金属酸化物プロトン体310にアミノ酸(Q)320を含有する水溶液を滴下してもよい。
アミノ酸(Q)を含有する水溶液のアミノ酸(Q)の濃度は、好ましくは、0.005M以上6.0M以下の範囲を有する。0.005M未満の場合、アミノ酸(Q)が少なすぎるため、層間に十分なアミノ酸カチオンを挿入できないことが多い。濃度が高いことは特に問題あるわけではないが、水溶液の粘度が上昇し、固・液の接触が妨げられるなど他の問題が生じる可能性があるため、6.0M以下とした。本明細書において、記号「M」とは、モル濃度(mol/L)を意図する。
アミノ酸(Q)を含有する水溶液のアミノ酸(Q)の濃度は、より好ましくは、0.05M以上6.0M以下の範囲を有する。この範囲であれば、水和膨潤性層状金属酸化物を確実に得ることができる。
層状金属酸化物プロトン体におけるプロトンに対するアミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、好ましくは、1以上600以下の範囲である。これにより、上述の一般式(3)あるいは一般式(5)における層間に占めるアミノ酸カチオン体の割合に関するパラメーターであるxが0.2≦x≦1.0の範囲を満たすことができる。
層状金属酸化物プロトン体におけるプロトンに対するアミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、好ましくは、5以上100以下の範囲である。これにより、上述の一般式(3)あるいは一般式(5)における層間に占めるアミノ酸カチオン体の割合に関するパラメーターであるxが0.2≦x≦1.0の範囲を確実に満たすことができる。
ステップS210の具体的な手順に特に制限はないが、例えば、層状金属酸化物プロトン体310とアミノ酸(Q)320を含有する水溶液とを、混合して室温にて、静置すればよい。反応は、直ちに起こり、充分に平衡になるまでの時間を考えても12時間も静置すれば充分である。これにより、層状金属酸化物プロトン体310中のプロトンとアミノ酸(Q)320のアミノ基とが結合し、アンモニウムイオンとなり、アミノ酸カチオン(QH)120が層間に挿入される。
なお、水溶液中では、水和膨潤性層状金属酸化物100は層間に水が多量に侵入し、巨大水和膨潤した水和膨潤性層状金属酸化物(単に膨潤体とも呼ぶ)330として存在する。これにエタノール等を充分に加えて脱水し、ろ過をすれば、巨大水和膨潤前の収縮した状態にある水和膨潤性層状金属酸化物100を粉体として得ることができる。なお、図3では、図が複雑になるのを避けるため、膨潤体330の層間に存在するアミノ酸カチオンを省略して示している。
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を用いた組成物およびその製造方法について説明する。
図4は、本発明の組成物を示す模式図である。
図4には、本発明の組成物としてゲル(A)とゾル(B)とを示す。本発明の組成物は、金属酸化物ナノシート110と、その近傍に一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)120が、少なくとも水を含有する溶媒に含有されている。なお、製造時、過剰にアミノ酸(Q)を使用しているので、残余のアミノ酸(Q)が水溶液中に存在しているが、図が煩雑になるためアミノ酸カチオン(QH)120のみを示し、アミノ酸(Q)は省略している。
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−pである。金属酸化物ナノシート110およびアミノ酸カチオン(QH)120は、実施の形態1で詳述したとおりであるため、説明を省略する。
本発明の組成物では、金属酸化物ナノシート110およびアミノ酸カチオン(QH)120が層状構造を構成することなく(すなわち、結晶構造を維持することなく)、分散し得る。溶媒は、少なくとも水を含有し、残余のアミノ酸(Q)が存在するのみであるため、組成物のpHは、ほぼ中性(pH=7±1)であり、無毒性である。なお、水以外に、メタノール、ホルムアミド等のプロトン性もしくは非プロトン性極性溶媒を含んでもよい。
例えば、図4(A)に示すように、金属酸化物ナノシート110がお互いかなり接近した状態となったゲル状組成物(粘度が高く流動性のない固体状態)であってもよいし、図4(B)に示すように、金属酸化物ナノシート110が完全に離れたゾル状組成物(流動性のある液体状態、コロイド溶液とも呼ぶ)であってもよいし、これらの混合状態であってもよい。ゲルになるかゾルになるかは、出発原料である本発明の水和膨潤性層状金属酸化物と溶媒との量比によって決まる。
本発明の組成物において、水を含有する溶媒中で金属酸化物ナノシート110が浮遊しており、金属酸化物ナノシート110自体は、マイナスに荷電しているため、使用されたアミノ酸カチオン(QH)120が対イオンとして近傍に存在している。このように対イオンの種類は、製造過程に使用されるカチオン種を反映しており、本発明の組成物においては、少なくともアミノ酸カチオン(QH)120を含有する。
次に、本発明の組成物の例示的な製造方法を図5および図6を参照して説明する。
図5は、本発明の組成物を製造するフローチャートを示す図である。
図6は、本発明の組成物を製造する過程を説明する模式図である。
ステップS210:層状金属酸化物の層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体310に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)320を含有する水溶液を接触させる。これにより、プロトンの少なくとも一部のプロトンにアミノ酸(Q)320のアミノ基が結合し、アミノ酸320を、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)120として層間に挿入される。
NH(OH)COOH ・・・(6)
[NH(OH)COOH] ・・・・(1)
ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−pである。アミノ酸カチオンが、nについて2≦n≦6を満たす場合において水和膨潤性層状金属酸化物100が得られる。このステップS210は、図2および図3を参照して説明したステップS210と同様であるため、説明を省略するが、ステップS210では、水溶液中であるため、水和膨潤性層状金属酸化物100の層間に位置するアミノ酸カチオン(QH)120によって、水がさらに侵入(膨潤)し、巨大水和膨潤した膨潤体330が得られる。
ステップS510:得られた巨大水和膨潤した膨潤体330を振盪し、剥離する。ステップS210において、巨大水和膨潤によって底面間隔が大きく伸長した膨潤体330は、金属酸化物ナノシート間の結合が弱まるため、機械的な振動などで、金属酸化物ナノシートをバラバラの状態にできる。図6では、図が複雑になるのを避けるため、膨潤体330の層間にあるアミノ酸カチオン(QH)、ならびに、組成物中の残余のアミノ酸(Q)を省略して示している。
ここでは、分かり易さのために、ステップS210とステップS510とを逐次行うように説明したが、ステップS210とステップS510とを同時に行っても同様の過程により、本発明の組成物が得られることを理解されたい。
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物を用いた薄膜およびその製造方法について説明する。
図7は、本発明の薄膜を示す模式図である。
図7では、本発明の薄膜700が基板710上に位置する様子を示し、本発明の薄膜700は金属酸化物ナノシートが1層または2層以上積層された水和膨潤性層状金属酸化物からなる。水和膨潤性層状金属酸化物は、実施の形態1で説明した水和膨潤性層状金属酸化物と同様であるため説明を省略する。薄膜700の厚さは、0.5nm以上2mm以下の範囲である。ここで、下限は、ナノシート1層の厚さを示している。
基板710は、特に制限はなく、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等が挙げられるが、基板との密着性が必要な場合は、表面がカチオン性であることが望ましい。例示的には、表面に、ポリエチレンイミン(PEI)やポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)に代表されるカチオン性高分子が付与されたシリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等である。これにより、基板710に良好に密着した薄膜700が得られる。また、基板710は必ずしも平板状である必要はなく、湾曲していてもよい。
なお、図7では、薄膜700が基板710上に位置する様子を示すが、これに限らない。製造方法によっては、薄膜700単独の自立膜であってもよい。自立膜の厚さは、1μm以上2mm以下の範囲であり、これにより、基板を要せずに、自立して膜形状を保つことができる。
薄膜700の例示的な製造方法を説明する。上述の基板710(例えば、表面にカチオン性高分子が付与された基板)上に、実施の形態2で説明した組成物を付与すればよい。付与は、基板710を組成物中に浸漬してもよいし、基板710上に組成物を滴下してもよいし、基板710上に組成物をスピンコートしてもよいし、基板710上に組成物をスプレーしてもよい。次いで、必要に応じて超純水で水洗後、付与された組成物を乾燥すればよい。これにより、組成物中の溶媒が除去されて、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物からなる薄膜700が得られる。なお、付与の回数に制限はなく、目的とする薄膜700の膜厚に応じて調整すればよい。
薄膜700として上述の膜厚を有する自立膜を得る場合、基板710を除去すればよい。具体的には、実施の形態2で説明した組成物を、基板710としてメンブレンフィルター上に付与する。メンブレンフィルターを使ってろ過し、そのまま乾燥することがその一例である。これにより、メンブレンフィルター上に水和膨潤性層状金属酸化物からなる薄膜700が形成される。次いで、メンブレンフィルターを適切な溶媒によって溶解・除去すれば、薄膜700単独の自立膜が得られる。
ここで、本発明と非特許文献7および8との差異について詳述する。まず、非特許文献7では、双性イオンによる層状複水酸化物の膨潤が報告されている。アミノ酸は、双性イオンの一種であり、アミノ酸が一部、共通している。表面的には、同様な技術に見えるが、以下の理由により、まったく異なる技術である。
1.層状複水酸化物の層は、今回の層状ペロブスカイト酸化物や層状チタン酸類縁化合物に代表される層状金属酸化物と正反対の正電荷を持っている。層状複水酸化物の膨潤・ナノシート化に有効なゲスト化合物は、通常、ペロブスカイトや層状チタン酸などに応用できるわけではない。
2.非特許文献7で述べられているように層状複水酸化物の膨潤において、アミノ酸は、水の誘電率を上昇させて、層と層の間の結合を弱めることによって剥離を導いている。そのため、誘電率と直接関係するアミンとカルボキシル基の距離と膨潤能は比例している。一方、本発明においてアミノ酸を使用した理由は、層間にアミノ酸をアミノ酸カチオンとして包接させて複合体を作り、その複合体が水を引き寄せて、水和膨潤することを期待したものであり、アミンとカルボキシル基の距離と膨潤能に比例関係は見られない。
3.層状複水酸化物においては、膨潤したものを分離し、水洗を行い、乾燥させることによって得られるのは、アミノ酸が包接された層状化合物でなく、出発物質であるClO LDHでこれは、層間に過塩素酸イオンClO を含むものであり、また、アミノ酸水溶液に入れた後も、取り出したものは、同じく、ClO LDHであった。これは、上記2.で述べたようにアミノ酸が包接されて、それが水和膨潤を引き起こすのでないことを示している。一方、今回の以下に示す層状ペロブスカイト酸化物や層状チタン酸類縁化合物の場合、膨潤したものを分離し、水洗を行い、乾燥させることによって得られるのは、アミノ酸がアミノ酸カチオンとして層間に包接された層状化合物であり、包接によって複合体が形成し、それが水和膨潤を引き起こしていることがわかる。このように2つの事例は、アミノ酸を用いているものの、全く異なるメカニズムに基づくものであり、一部の使用試薬が共通しているのは、単なる偶然であり、非特許文献7から本特許の内容が容易に予測できるものではない。
次に、非特許文献8では、ω−アミノ酸の一つであるAUA(11−aminoundecanoic acid)を用いて、層状ペロブスカイトの膨潤と剥離を行ったことが記載されている。AUAは、本発明におけるアミノ酸の一般式で、n=10、p=0に相当するものであるが、本発明の範囲外である。しかし、本発明と関連するアミノ酸を用いているため、表面的には、同様な技術に見えるが、以下の理由によりまったく異なる技術であるといえる。
まず、非特許文献8では、AUAをpH=3の塩酸で処理してアミノ酸のカチオンを作り、プロトン体とのイオン交換により、層状ペロブスカイトの層間に包接している。これは本発明の、中性のアミノ酸溶液との反応によって包接させる方法と根本的に異なっている。
次に、非特許文献8では、このようにして合成したAUAを包接した層状ペロブスカイトを、pH=12の強アルカリ性の水酸化ナトリウム溶液で処理して、包接されたAUAのカルボキシル基(−COOH)を脱プロトン化によって−COOイオンに変換し、静電反発によって膨潤剥離を引き起こそうとするものである。反応時間も12時間以上要するプロセスである。本発明では、アミノ酸カチオンを包接した層状金属酸化物は、そのままの中性の条件(pH=7±1)で、膨潤・剥離が起こるので、強アルカリ性の溶液による処理などの必要性はない。また、カルボキシル基もイオン化されていないため静電反発による膨潤メカニズムも起こっておらず、本発明による膨潤は、アミノ酸溶液と接触して数秒で起こる現象であるので、非特許文献8と、アミノ酸の種類、包接方法、膨潤メカニズム、膨潤に要する時間、など全ての点で異なっている。
本発明の解決手段は、前述した通りであるが、以下、実施例に基づいて具体的に説明する。但しこれら実施例は、本発明を容易に理解するための一助として示したものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。
<層状ペロブスカイト酸化物およびそのプロトン体の製造>
実施例に先立って、層状ペロブスカイト酸化物としてカリウム体であるKCaNb10およびそのプロトン体、ならびに、チタン酸類縁化合物としてK0.8Ti1.73Li0.27およびそのプロトン体を合成した。
図8は、KCaNb10の結晶構造を示す模式図である。
図8では、3連の八面体で構成されるペロブスカイト層が積層した構造をもつニオブ酸系のKCaNb10800を示す。図8は、層の積層方向(図中の矢印の方向)に対して垂直な方向から見た構造図であり、NbはNb−Oの八面体810として表示されている。KCaNb10において、金属酸化物ナノシートに相当するのが[CaNb10で表される層820であり、層820間にK830が位置する。層820内の八面体に囲まれたサイトにCa2+が位置する。
(層状ニオブ酸ペロブスカイトのカリウム体の合成)
まず、層状ペロブスカイト酸化物のカリウム体としてKCaNb10を非特許文献6に記載の方法を適用して製造した。具体的には以下の通りである。
原料としてKSO(Wako製、99.0%)、CaCO(レアメタリック製、99.99%)およびNb(レアメタリック製、99.99%)をKSO:CaCO:Nb=5:4:3(モル比。全KSOの80%がフラックス成分)の化学量論比で秤量し、エタノール(Wako製、特級)を加え、メノウ乳鉢で湿式混合を行った。
エタノールを完全に蒸発させて、乾燥させた後、混合粉末をフタ付き白金るつぼに詰めた。電気炉中で1300℃24時間の熱処理後、毎時25℃で800℃まで冷却し、室温まで放冷した。るつぼを取り出して超純水を加え、フラックス成分であるKSOを純水で溶解させた。残渣を減圧ろ過した後、超純水で充分に洗浄し、減圧乾燥させて結晶を得た。出発原料6.0gで、3.1gの結晶が得られた。この結晶を粉末XRD(X線回折)、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光による組成分析、SEM(走査電子顕微鏡観察)で評価を行った。粉末XRD結果を図9に、組成分析結果を表1に示す。次いで、得られた粉末は、結晶のサイズを揃えるため、篩で分級して、粒径が25〜75μmの結晶を採集した。この分級操作により、3.1gから0.9〜1.1gの結晶を得た。
図9は、得られた結晶(KCaNb10)の粉末XRDパターンを示す図である。
図9によれば、得られた粉末のXRDパターンは、非特許文献6に掲載されているKCaNb10の粉末XRDパターンに良好に一致した。また、得られた粉末の結晶系は直方晶系であり、a=0.3873nm、b=0.7714nm、c=2.9505nmの格子定数を持つことがわかり、既報の非特許文献6の通り、KCaNb10が得られたことを確認した。図9には、反射指数も示している。SEM観察(図示せず)によれば、結晶は数十ミクロンサイズで板状もしくは直方体の形状であることを確認した。
表1に示すように、得られた粉末の組成は、KCaNb10とほぼ一致しており、KCaNb10結晶が得られたことを確認した。
(層状ニオブ酸ペロブスカイトのプロトン体(HCaNb10・1.5HO単結晶)の合成)
分級したKCaNb10結晶に、5M HNO(Wako製特級試薬より調整)水溶液を加え、酸処理をおこなった。反応は室温でおこない、5M HNO水溶液を1日ごとに計2回入れ替え、その後、2日間放置した。反応終了後、減圧ろ過によりHCaNb10結晶を分離し、減圧乾燥を行った(収率98%)。プロトン体は通常の相対湿度では、プロトンに水分子が配位するため、このプロトン体を相対湿度75%で水和させ、粉末XRD測定を行い、ICP分光分析による化学分析およびSEM観察を行った。これらの結果を図10、図11および表2に示す。
図10は、酸処理により合成したプロトン体(HCaNb10・1.5HO)の粉末XRDパターンを示す図である。
図10に示す反射ピーク角度のデータを解析することにより、直方晶系で、a=0.3873nm、b=0.7714nm、c=2.9505nmの格子定数が得られ、既報の非特許文献6の通りHCaNb10・1.5HOが得られたことを確認した。
図11は、合成したプロトン体(HCaNb10・1.5HO)のSEM(走査電子顕微鏡)像を示す図である。
図11によれば、得られたプロトン体は、元のカリウム体(KCaNb10)の形状を維持しており巨大水和膨潤実験に適したサイズの板状もしくは直方体結晶であった。
さらに、表2から、プロトン体中に残留するKは、カリウム体に比べて1〜2%であり、ほとんどのKがプロトンと交換していることを確認した。以上から、前駆体であるプロトン体の結晶(HCaNb10・1.5HO)を育成することができた。このプロトン体は、一般式(7)において、A=Ca、B=Nb、y=3、t=1.0、w=1.5に相当する。
<層状チタン酸類縁化合物およびそのプロトン体の製造>
(層状チタン酸化物K0.8Ti1.73Li0.27単結晶の合成)
次に、層状チタン酸類縁化合物としてカリウム体層状チタン酸(K0.8Ti1.73Li0.27)を非特許文献2に記載の方法を適用して製造した。具体的には以下の通りである。
原料としてKCO3、TiOおよびLiCOを化学量論比で秤量して、アルミナ乳鉢を用いて粉砕混合した後、混合された粉末を白金るつぼにいれ、1時間、800℃で焼成を行い脱炭酸した。冷却後、再び粉砕混合し、20時間、900℃で本焼成を行って、K0.8Ti1.73Li0.27粉末を得た。このカリウム体粉末に対してフラックス成分であるKCO−MoOをモル比で3倍過剰に加え粉砕混合したのち、1120℃で20時間保持した。焼成後、徐冷なしで室温まで急冷させた。冷却後、超純水でフラックス成分を溶解させ、結晶を濾別した。
この結晶を篩にかけ、横サイズが15〜35μmとなるように選別し、得られた結晶に対して、粉末XRD測定、光学顕微鏡観察、SEM観察、ICP組成分析を行い評価した。結果を表3に示す。
表3によれば、得られた粉末の組成比は、既報の非特許文献2の値と大きな相違はなかった。なお、分析値でKがやや少ないのは、一部が水洗処理中に、Hに置換したためであるが、後の酸処理でプロトンに置換するので問題ない。また、粉末XRD測定結果を元に格子定数を求めたところ、a=0.3820nm、b=1.5568nm、c=0.2970nm(直方晶系)であり、目的の物質が得られたことが確認された。
(層状チタン酸化物のプロトン体(H1.07Ti1.73単結晶)の合成)
合成したカリウム体の単結晶に対して、0.5M HCl水溶液を固液比1.0g/100mLで5日間反応させ、層間のアルカリ金属イオンのプロトン置換を行った。この時、酸水溶液は24時間ごとに新しいものに交換した。5日間反応させたのち、大量の水でサンプルに付着した酸を完全に洗い流し、これを一晩風乾した。こうして得られたサンプルは粉末XRD測定、光学顕微鏡観察、SEM観察、ICP分光分析による化学分析、TG−DTA測定により評価した。結果を図12および表4に示す。
表4では、プロトン体が水分を含むため、値は、酸化物としての重量%で表示している。この化学分析の結果から、層間に存在していたカリウムイオンのほとんどが交換していることが確認された。また、層内に存在していたLi成分もほとんど検出されず、酸処理によって溶出していた。そのため、層に空孔欠陥が生じている。得られた物質の化学式は、H1.07Ti1.73・0.90HOであった。また、粉末XRD測定結果を解析して格子定数を求めたところ、a=0.3780nm、b=1.8395nm、c=0.2997nm(直方晶系)であり、既報の非特許文献2の値とほぼ一致していた。
図12は、酸処理前の層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27)と酸処理により合成したプロトン体(H1.07 Ti1.73)の光学顕微鏡像を示す図である。
図12(a)は酸処理前の層状チタン酸化物の光学顕微鏡像を示し、図12(b)は、酸処理後の層状チタン酸化物のプロトン体の光学顕微鏡像を示す。光学顕微鏡像では酸処理前後でサイズや形状に大きな変化はなかった。以上から、前駆体であるプロトン体の結晶(H1.07Ti1.73・0.90HO)を育成することができた。このプロトン体は、一般式(8)において、G=Ti、r=0、z=1.73、q=4、t=1.07、w=0.90に相当する。
<実施例/比較例1〜9>
実施例/比較例1〜8では、種々の層状金属酸化物と種々のアミノ酸(Q)とを用いて、水和膨潤膨潤実験を行った。
[実施例1]
実施例1では、出発原料として層状ペロブスカイト酸化物プロトン体と、アミノ酸(Q)として4−アミノブタン酸(TCI製、GABAとも呼ぶ)とを用いて、水和膨潤性層状金属酸化物を製造し、水和膨潤実験を行った。GABAは、式(6)NH(OH)COOHで表されるアミノ酸において、p=0、n=3、m=6である。
先に製造した層状ペロブスカイト酸化物のプロトン交換によって得られたプロトン体としてHCaNb10・1.5HOをスライドガラス上に配置した。種々の濃度のGABAを含有する水溶液(濃度M:0.05、0.10、0.50、1.0、5.8)を調製した。HCaNb10・1.5HOにGABAを含有する水溶液を滴下して、HCaNb10・1.5HOとGABA水溶液とを接触させ(図2のステップS210)、結晶の反応を偏光顕微鏡で観察した。結果を表5に示す。
[比較例2]
比較例2では、GABAに代えて、グリシン(CICA製、p=0、n=1、m=2)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[実施例3]
実施例3では、GABAに代えて、3−アミノプロパン酸(TCI製、p=0、n=2、m=4)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[実施例4]
実施例4では、GABAに代えて、6−アミノヘキサン酸(CICA製、p=0、n=5、m=10)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[実施例5]
実施例5では、GABAに代えて、7−アミノヘプタン酸(TCI製、p=0、n=6、m=12)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[比較例6]
比較例6では、GABAに代えて、8−アミノオクタン酸(Aldrich製、p=0、n=7、m=14)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[実施例7]
実施例7では、GABAに代えて、DL−3−アミノブタン酸(TCI製、p=0、n=3、m=6)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[実施例8]
実施例8では、GABAに代えて、(s)−(−)−4−アミノ−2−ヒドロキシブタン酸(TCI製、p=1、n=3、m=5)を用いた以外は、同様であった。結果を表5に示す。
[実施例9]
実施例9では、出発原料として層状チタン酸類縁化合物プロトン体と、アミノ酸(Q)としてDL−3−アミノブタン酸(TCI製、p=0、n=3、m=6)とを用いて、水和膨潤性層状金属酸化物を製造し、水和膨潤実験を行った。ここでも用いたプロトン体は、先に製造した層状チタン酸化物のプロトン体であった。DL−3−アミノブタン酸を含有する水溶液の濃度は、1.0Mであった。結果を表5に示す。
表5の実施例/比較例1〜6に注目すると、アミノ酸の濃度にもよるが、例えば、0.5M以上6.0M以下のアミノ酸水溶液において、ω−アミノ酸のアルキレン(−(CH−)鎖のnが、2以上6以下において水和膨潤することが確認された。中でも、n=3または5のアミノ酸において、巨大水和膨潤を示した。
さらに、実施例7で用いたDL−3−アミノブタン酸は、実施例1で用いたGABAの異性体であり、ω−アミノ酸でない異性体であっても、同様に、水和膨潤することが確認された。実施例8で用いた(s)−(−)−4−アミノ−2−ヒドロキシブタン酸は、実施例1で用いたGABAに親水的なヒドロキシル基(−OH)が付加した誘導体であるが、ヒドロキシル基が付加していても、同様に水和膨潤することが確認された。注目すべきが、実施例7あるいは実施例8の異性体あるいはヒドロキシル基が付加した誘導体を用いた場合、アミノ酸水溶液の濃度が0.05Mという極めて薄い濃度であっても、水和膨潤したことである。
さらに、実施例1、3および4と、実施例9とに注目すると、層状金属酸化物として、層状ペロブスカイト酸化物および層状チタン酸類縁化合物のプロトン体を出発原料として、水和膨潤することが確認された。
以上から、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物における一般式(1)の[NH(OH)COOH]におけるnは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−pである場合、水和膨潤することが示され、水和膨潤性層状金属酸化物は、層状ペロブスカイト酸化物、層状チタン酸類縁化合物に代表される層状金属酸化物の結晶構造を維持していることが示唆される。
また、水和膨潤性層状金属酸化物を製造するにあたって、一般式(6)NH(OH)COOHにおけるnは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−pであるアミノ酸(Q)を含有する水溶液を用い、好ましくは、水溶液の濃度は、0.05M以上6.0M以下の範囲であることが示された。
<実施例10および比較例11>
実施例10および比較例11では、層状金属酸化物プロトン体に対する水溶液中のアミノ酸の割合と水和膨潤挙動との関係を調べるため、反応後に静置し、沈降した層状金属酸化物の水和膨潤体(図3の330)の見かけ体積、偏光顕微鏡観察、およびその層間距離の測定、さらにアミノ酸の包接量の測定を行った。また、併せて得られたゲル状組成物のpH測定も行った。
[実施例10]
実施例10では、実施例1と同様に、出発原料として層状ペロブスカイト酸化物プロトン体と、アミノ酸(Q)として4−アミノブタン酸(GABA)とを用いて、GABA/Hのモル比を、25、50および100と変化させた際の外観の変化を調べ、偏光顕微鏡により観察した。なお、GABA/Hのモル比とは、プロトン体の層間に含まれるプロトンのモル量に対するGABAを含有する水溶液におけるGABAのモル量の比である。
反応後のプロトン体(結晶)の見かけの体積を観察するため、具体的には、メスシリンダー内の層状ペロブスカイト酸化物プロトン体(HCaNb10・1.5HO、0.2g)に対して、種々のGABA/Hのモル比に調製したGABAを含有する水溶液(25mL)を加えた後、30分以上ゆっくり傾けて混ぜ合わせ、プロトン体中のプロトンとGABAとが反応して生じた膨潤結晶(図2のステップS210)が沈殿するまで3日静置した後、沈降している膨潤結晶の見かけの体積を測定した。偏光顕微鏡観察は、同様なやり方で混合した後、一晩静置し、沈殿物について偏光顕微鏡観察を行った。また、膨潤結晶の見かけの体積結果を図13に、また、偏光顕微鏡像を図14に示す。
続いて、反応後の上澄み液と反応前溶液とを示差屈折率計(ATAGO製DD−7)で測定した。屈折率の変化量から濃度減少量を決定し、結晶の層間のプロトンとGABAとの交換率を算出し、GABA包接量を推定したところ、層間のプロトンの少なくとも20%がGABAに交換されていることを確認した。このことから、式(3)における[(NH(OH)COOH)1−x[Ay−13y+1]のxの範囲は、0.2≦x≦1.0であることが示された。
GABA/Hが100の試料について、偏光顕微鏡で観察後、反応後の上澄み液を除去した膨潤結晶をサンプルホルダーに詰め、X線小角散乱(SAXS)測定を行い、底面間隔を調べた。結果を図15に示す。
反応後の膨潤した結晶をエタノールで脱水し、再度、収縮させてから粉末X線回折(XRD)測定を行い、層間のGABAの包接状態を評価した。具体的には、膨潤結晶にエタノールを加え、収縮を確認した後、減圧ろ過、続いて乾燥させた。粉末XRD測定は、層間の水分をなるべく除去するため、窒素気流中で行った。結果を図16に示す。
[比較例11]
比較例11では、GABA/Hのモル比を、0、0.25および0.5と変化させた以外は、実施例10と同様であった。GABA/Hのモル比が0とは、GABAを含有する水溶液を用いない場合である。実施例10と同様に、見かけの体積を測定し、偏光顕微鏡を用いて膨潤結晶の観察を行った。結果を図13および図14に示す。実施例10と同様に、反応後の結晶をエタノールで脱水し、粉末XRD測定を行った。結果を図16に示す。
簡単のため、実施例10および比較例11の実験条件を表6に示す。
図13は、実施例10および比較例11におけるGABA水溶液と反応後のHCaNb10・1.5HO結晶の見かけの体積の変化を示す図である。
図13には、実施例10におけるGABA/H(モル比)が25、50および100の体積変化の様子と、比較例11におけるGABA/Hが0の体積変化の様子とを示す。図13によれば、GABA/Hが0の場合にはまったく水和膨潤していないことが分かる。一方、GABA/Hが25以上において、見かけの体積が5cmまで増加し、巨大水和膨潤したことが分かった。図示しないが、GABA/Hが0.25、0.5の場合は、GABA/Hが0の場合と同様に、巨大水和膨潤が見られなかった。
図14は、実施例10および比較例11におけるGABA水溶液と反応後のHCaNb10・1.5HO結晶の偏光顕微鏡観察の結果を示す図である。
図14(A)は、実施例10におけるGABA/Hが100の場合の観察結果であり、図14(B)は、比較例11におけるGABA/Hが0の場合の観察結果である。図14(A)の結晶は、図14(B)のそれと比較して、顕著に巨大化していることが分かる。これらの結果は、図13の体積変化に良好に一致した。
以上から、GABAについては、水和膨潤性層状金属酸化物を製造するにあたって、層状金属酸化物プロトン体のプロトンに対するアミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、25以上100以下の範囲で巨大膨潤が顕著であることが示された。実施例7および8から、(s)−(−)−4−アミノ−2−ヒドロキシブタン酸、DL−3−アミノブタン酸は、GABAの10倍も薄い濃度で巨大膨潤が起こることがわかっており、また実施例1で示したようにGABAについても高濃度での巨大膨潤が観察されているので、これらも考慮して、プロトンに対するアミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、1以上600以下の範囲であり、好ましくは、5以上100以下の範囲であるとした。
図15は、実施例10におけるGABA水溶液と反応後のHCaNb10・1.5HO結晶のX線小角散乱(SAXS)の結果を示す図である。比較として、水のみの場合の測定結果もあわせて示している。
図15によれば、ブロードなピークが観察された。この結果より、GABA/H=100においては、巨大水和膨潤結晶の底面間隔は50〜60nmであり、また、底面間隔が不均一なためブロードなピークになっていると推定できる。
図16は、実施例10および比較例11における窒素雰囲気下での結晶のXRDパターンを示す図である。
図16(A)は、実施例10におけるGABA/Hが100の場合の水分除去後の結晶のXRDパターンであり、図16(B)は、比較例11におけるGABA/Hが0.25の場合の水分除去後のXRDパターンである。図16(A)には、2.8nmの底面間隔に相当する明瞭なピーク(2θ=3.2°)が現れた。この2.8nmの底面間隔は、GABAの分子2個分の長さ(0.85×2=1.7)に層([CaNb10)の厚さ(1.2nm)を足した長さにおおよそ一致した。これは層に垂直に近い角度で分子が2層になって包接されていることを示している。図示しないが、GABA/Hが25および50の場合も同様のピークを示した。一方、図16(B)には、2θ=3.2°近傍にはピークが現れなかった。なお、図16(B)において、2θ=4.5°近傍の弱いブロードなピークは、GABAがわずかに層間に入っているが、わずかなため分子が傾いており、そのため底面間隔が充分に広くなっていないことを示している。また、2θ=6.3°近傍の弱いブロードなピークは、未反応のプロトン体の存在を示している。すなわち、比較例11では、層間にGABA分子がほとんどないか、あってもごくわずかしか存在しないことが確認された。
GABA/Hのモル比が25、50および100の組成物の上澄み液のpH測定の結果は、それぞれ6.9、7.1および7.3であり、pH=7±1の範囲内の値を示していた。プロトン体を加える前のGABA溶液のpHは、それぞれ7.3、7.4および7.5であったことより、反応によるpHの変化も少ないことがわかる。
以上から、GABAが充分に層間に包接されることによって数十倍の底面間隔になる巨大水和膨潤が起こり、pH=7±1の範囲内の組成物が得られることがわかった。そしてエタノールの添加により、巨大水和膨潤体から水分が取り除かれて収縮し、収縮した結晶は、本発明の金属酸化物ナノシートが積層された水和膨潤性層状金属酸化物であり、その層間に少なくとも一般式(1)[NH(OH)COOH](ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)で表されるアミノ酸カチオンを有すること、またこの水和膨潤性層状金属酸化物が、水中で巨大水和膨潤することが明らかとなった。
<実施例12>
実施例12では、本発明のゾル状の組成物を製造し、さらに薄膜を製造した。
[実施例12]
実施例12では、出発原料として層状ペロブスカイト酸化物プロトン体と、アミノ酸(Q)として(S)−(−)−4−アミノ−2−ヒドロキシブタン酸(s2h4ABAと称する)とを用いて、ゾル状の組成物を製造した。
具体的には、層状ペロブスカイト酸化物プロトン体(HCaNb10・1.5HO、0.1g)を100mL三角フラスコに入れ、s2h4ABA/Hのモル比(10および40)に調製したs2h4ABAを含有する水溶液(50mL)を加えた(図5のステップS210)。次いで、三角フラスコを機械振り(往復震動運動装置による振盪)した(図5のステップS510)。往復震動運動装置により180rpmで7日間振盪した(rpmは、毎分の振動数を表す)。振盪後、60時間、静置し、観察した。三角フラスコ中のコロイド溶液の様子を示す写真を図17に示す。
次いで、作製したコロイド溶液を振り混ぜ、全体を均一にし、10mL分取した。遠心分離機を使い、1500rpm、10分の条件で遠心分離機にかけ、その上澄みからピペットにて1mL分取し、超純水で100倍に希釈して溶液を作製した。この溶液をUV−vis分光装置で、吸光度を測定し、270nmの波長における吸光度と層状ペロブスカイトのモル吸光係数から、ナノシートの濃度を算出し、最初に入れた層状ペロブスカイト酸化物プロトン体の量との割合から剥離率を求めた。これはナノシートが上澄み溶液中に浮遊し、遠心分離で沈降した沈殿物は、ほとんどが未剥離の膨潤体でできているという観察に基づいたものである。その結果、s2h4ABA/Hのモル比10および40について、各々、60%、63%の剥離率であることがわかった。
そしてカチオン性高分子であるPEI(ポリエチレンイミン)で表面を修飾したシリコン(Si)基板を、上記100倍希釈のナノシートゾルに30分漬けて、ナノシートを付着させ、超純水で洗浄後、乾燥したものを、SEMおよびAFMで観察した。SEM観察した結果を図18に示す。これらのシートの厚さが、1層であることを確かめるため、さらに原子間力顕微鏡(AFM)で観察した(タッピングモード)。ナノシートのAFM像を図19に示す。
次いで、自立膜を作製した。s2h4ABA/Hのモル比10の組成物について、1500rpmで10分間、遠心分離した後、上澄みを30mL取り、ニトロセルロース製のメンブレンフィルター(直径5cm)を使って、吸引ろ過した。そしてメンブレンフィルターとともに減圧乾燥させた。乾燥後、アセトン中に入れて、メンブレンフィルターを溶かし、ナノシートが堆積して形成された自立膜を取り出した。得られた自立膜の写真を図20に示す。円形の自立膜を白黒の背景上で撮影したもので、半透明な自立膜であることを示している。
図17は、実施例12における組成物の様子を示す図である。
図17(A)は、実施例12におけるs2h4ABA/Hのモル比が10である組成物の様子であり、図17(B)は、実施例12におけるs2h4ABA/Hのモル比が40である組成物の様子である。これらは60時間静置した後の様子を示す写真であるが、いずれも白濁しており、ゾル状の組成物が得られたことが分かった。また、このようにして得られたゾル状の組成物は、剥離したナノシートを含むゾル状の組成物の特徴を示していた。容器の底にたまった沈殿物は、振盪前に比べかなり減少していた。実施例12の組成物は、出発物質である水和膨潤性層状金属酸化物が中性であり、媒質が水であるため、全体としてpH=7±1の中性であった。
図18は、実施例12によるナノシートのSEM像を示す図である。
図18によれば、シリコン基板上に横方向の長さが5〜10μmのナノシートが付着していることがわかった。図中、基板は、コントラストが暗く表れており、またナノシートはコントラストが明るく表れている。そしてシートの重なり部分は、より明るく表れている。
図19は、実施例12によるナノシートのAFM像(A)およびその高さプロファイル(B)を示す図である。
ここでも、Si基板は、コントラストが暗く表れて、1つの矩形のナノシートはコントラストが明るく表れている。図19(A)の上部のナノシートを横切る白い直線は、高さの測定を行った経路を示しており、図19(B)の高さのプロファイルと対応している。
図19によれば、ナノシートの厚さは、シートの高さと基板の高さの差より求めることができ、ほぼ1.9nmであることがわかる。この値は、既報の非特許文献6に記載されている[CaNb10ナノシートのAFMでの観察値1.9nmと一致しており、1層のナノシートの生成が確かめられた。また、この厚さのプロファイルは、他のナノシートの像についても同様であることから、1層のナノシートが多く生成していることが明らかになった。なお、このAFMによる層の厚さは、結晶構造から得られる層の厚さの1.2nm等の値に比べ大きくなっているが、これは対イオンの有機物や水分子がナノシート表面に付着しているためであると考えられている。ナノシートの横方向の大きさは、5μm以上100μm以下の範囲であった。
なお、s2h4ABAの他に、アミノ酸(Q)としてDL−3−アミノブタン酸(DL3ABAと称する)を用い、DL3ABA/H=5、10の条件で、s2h4ABAの場合と同じ実験を行い、ゾル状の組成物を製造したところ、剥離率はそれぞれ56、51%で、同様なナノシート組成物が得られた。図を示していないが、SEM像も同様で、またAFM像もナノシートの厚さが約1.9nmを示しており、s2h4ABAと同様の結果が得られた。
図20は、実施例12による自立膜の外観を示す図である。
図20に示した実施例12による膜は、ろ過したコロイド溶液の容量から計算したところ、約16μmの厚さを有している(計算値)。この自立膜の一部に水を滴下すると、膨潤が生じて形が崩れていき、ゲルを生じた。また、自立膜の一部をKClの濃厚溶液に入れて、数分経ってから取り出した。外見には変化がなかったが、膜を取り出し、乾燥させてから同様に水を加えたところ、膨潤やゲル化は観察できなかった。これは、自立膜の成分であるアミノ酸カチオンを包接した水和膨潤性層状金属酸化物に水を加えることによってゲル・ゾル化が生じることを示しており、また、この水和膨潤性層状金属酸化物は、KClのような無機塩の水溶液中で陽イオン交換し、水和膨潤性のないK体が生じたため、水中でゲル化しなくなったと説明できる。
以上、説明してきたように、本発明の水和膨潤性層状金属酸化物、ならびに、それによって得られるゾル状あるいはゲル状の組成物は、媒質のpHが中性、無毒性という条件を満たすだけでなく、高純度、高安定性、汎用性、無臭性の条件をも満たし、前駆体となる層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体にアミノ酸水溶液を作用させアミノ酸を包接させるという、簡単な操作によって、得られるので有利である。
なお、組成物中の金属酸化物ナノシートは、アニオン性のナノ材料として有用である。また、当該ナノシートは、バラバラの状態であるため、反応性の向上が期待でき、これまで、通常のイオン交換では包接できなかった有機のカチオンなどと有機無機ハイブリッドを形成することが期待できる。また、積層により触媒・センサ機能を有するナノ構造の構築といった応用分野にまで波及・発展することが考えられる。
100 水和膨潤性層状金属酸化物
110 金属酸化物ナノシート
120 アミノ酸カチオン(QH
310 層状金属酸化物プロトン体
320 アミノ酸(Q)
330 巨大水和膨潤体
700 薄膜
710 基板
800 KCaNb10
810 Nb−Oの八面体
820 [CaNb10で表される層
830 K

Claims (23)

  1. 金属酸化物ナノシートが積層した構造をもつ水和膨潤性層状金属酸化物であって、前記層状金属酸化物の層間に少なくとも一般式(1)で表されるアミノ酸カチオンを有する、水和膨潤性層状金属酸化物。
    [NH(OH)COOH] ・・・・(1)
    (ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
  2. 前記水和膨潤性層状金属酸化物は、層状ペロブスカイト酸化物の結晶構造、または、層状チタン酸類縁化合物の結晶構造を有する、請求項1に記載の水和膨潤性層状金属酸化物。
  3. 前記金属酸化物ナノシートは、一般式(2)で表される金属酸化物ナノシートであり、
    前記水和膨潤性層状金属酸化物は、一般式(3)で表される、請求項1に記載の水和膨潤性層状金属酸化物。
    [Ay−13y+1t− ・・・・(2)
    [(NH(OH)COOH)1−x[Ay−13y+1]・・・(3)
    (ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p、xは0.2≦x≦1.0の範囲である。)
  4. 前記nは、3または5である、請求項3に記載の水和膨潤性層状金属酸化物。
  5. 前記金属酸化物ナノシートは、一般式(4)で表される金属酸化物ナノシートであり、
    前記水和膨潤性層状金属酸化物は、一般式(5)で表される、請求項2に記載の水和膨潤性層状金属酸化物。
    [Mt− ・・・(4)
    [(NH(OH)COOH)1−x[M]・・・(5)
    (ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p、xは0.2≦x≦1.0の範囲である。)
  6. 前記nは、3である、請求項5に記載の水和膨潤性層状金属酸化物。
  7. 層状金属酸化物の層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)を含有する水溶液を接触させ、前記プロトンの少なくとも一部のプロトンに前記アミノ酸(Q)のアミノ基を結合させ、前記アミノ酸を、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)として挿入するステップを包含する、請求項1に記載の水和膨潤性層状金属酸化物を製造する方法。
    NH(OH)COOH ・・・(6)
    [NH(OH)COOH] ・・・・(1)
    (ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
  8. 前記層状金属酸化物は、層状ペロブスカイト酸化物であり、
    前記層状金属酸化物プロトン体は、一般式(7)で表される、請求項7に記載の方法。
    [H][Ay−13y+1]・wHO ・・・・(7)
    (ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。wは、0≦w≦5。)
  9. 前記層状金属酸化物は、層状チタン酸類縁化合物であり、
    前記層状金属酸化物プロトン体は、一般式(8)で表される、請求項7に記載の方法。
    [H][M]・wHO ・・・・(8)
    (ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である。wは、0≦w≦5。)
  10. 前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液の濃度は、0.005M以上6M以下の範囲を有する、請求項7に記載の方法。
  11. 前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液の濃度は、0.05M以上6M以下の範囲を有する、請求項10に記載の方法。
  12. 前記プロトンに対する前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、1以上600以下の範囲である、請求項7に記載の方法。
  13. 前記プロトンに対する前記アミノ酸(Q)を含有する水溶液におけるアミノ酸(Q)のモル比(アミノ酸/プロトン)は、5以上100以下の範囲である、請求項12に記載の方法。
  14. 金属酸化物ナノシートと、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)とが、少なくとも水を含有する溶媒に含有されている、組成物。
    [NH(OH)COOH] ・・・・(1)
    (ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
  15. 前記金属酸化物ナノシートは、一般式(2)で表される金属酸化物ナノシートである、請求項14に記載の組成物。
    [Ay−13y+1t− ・・・・(2)
    (ここで、AはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Mn2+、Co2+、Ni2+、La3+、Eu3+のいずれかもしくは、その混合であり、BはNb5+、Ta5+、Ti4+のいずれかもしくは、その混合であり、yは2≦y≦5である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である)
  16. 前記金属酸化物ナノシートは、一般式(4)で表される金属酸化物ナノシートである、請求項14に記載の組成物。
    [Mt− ・・・(4)
    (ここで、MはLi、Na、Ca2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Mn3+、Co3+、La3+のいずれかもしくは、その混合であり、Gは、Ti4+、Mn4+、Co4+、Nb5+、Ta5+のいずれかもしくは、その混合であり、rは0≦r≦2、zは1≦z≦5、qは2≦q≦15である。tは0.5≦t≦1.5の範囲である)
  17. 前記金属酸化物ナノシートの厚さは、0.5nm以上10nm以下の範囲である、請求項14に記載の組成物。
  18. 層状金属酸化物の層間にプロトンを有する層状金属酸化物プロトン体に一般式(6)で表されるアミノ酸(Q)を含有する水溶液を接触させ、前記プロトンの少なくとも一部のプロトンに前記アミノ酸(Q)のアミノ基を結合させ、前記アミノ酸を、一般式(1)で表されるアミノ酸カチオン(QH)として挿入するステップと、
    前記挿入するステップで得られた水和膨潤性層状金属酸化物を振盪し、剥離するステップと
    を包含する、請求項14に記載の組成物を製造する方法。
    NH(OH)COOH ・・・(6)
    [NH(OH)COOH] ・・・・(1)
    (ここで、nは2≦n≦6の範囲の整数、pは整数で0もしくは1、mは整数でm=2n−p)
  19. 前記挿入するステップと、前記振盪し、剥離するステップとが、同時に行われる、請求項18に記載の方法。
  20. 金属酸化物ナノシートが1層または2層以上積層された層状金属酸化物からなる薄膜であって、前記層状金属酸化物は、請求項1〜6の何れかに記載の水和膨潤性金属酸化物からなる、薄膜。
  21. 前記薄膜は、1μm以上2mm以下の範囲を有し、基板を要せずに自立して膜形状を保つ自立膜である、請求項20に記載の薄膜。
  22. 請求項14〜請求項17のいずれかに記載の組成物を基板に付与するステップと、
    前記付与された組成物を乾燥するステップと
    を包含する、請求項20に記載の薄膜を製造する方法。
  23. 前記基板を除去するステップをさらに包含する、請求項22に記載の方法。
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