JP2018009223A - 遮熱コーティング方法、及び遮熱コーティング材 - Google Patents

遮熱コーティング方法、及び遮熱コーティング材 Download PDF

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Abstract

【課題】き裂の進展を抑制できる遮熱コーティング方法、及び遮熱コーティング材を提供する。
【解決手段】本発明の遮熱コーティング方法は、金属を基材上に溶射することによりボンドコート層を前記基材上に形成する工程と、前記ボンドコート層が形成された前記基材に真空熱処理を施す工程と、前記真空熱処理を施した前記基材の前記ボンドコート層上にセラミックスからなるトップコート層を形成する工程と、を備える。
【選択図】なし

Description

本発明は、遮熱コーティング方法及び遮熱コーティング材に関する。
従来、発電機や航空機に用いられるガスタービンの動翼等の高温部品には、基材が高温に曝されることを防ぐために基材に遮熱コーティング(Thermal Barrier Coatings、TBCs)を施した遮熱コーティング材が用いられている。
非特許文献1には、このような遮熱コーティング材が、主に、トップコート(Top Coat、TC)層と、超合金基材と、TC層と超合金基材との間に設けられたアルミニウムを含む合金であるボンドコート(Bond Coat、BC)層と、熱成長酸化物(Thermally Grown Oxide、TGO)層とで構成されることが開示されている。TC層はジルコニアやイットリアを含む酸化物であり、BC層はアルミニウムを含む合金である。また、TGO層は遮熱コーティング材を使用中にBC層のアルミニウムの酸化により生成・成長する反応生成物である。
このような遮熱コーティング材を高温下で使用すると、各層の熱膨張係数差により応力が発生し、TGO層が湾曲する。その結果、各層の界面または界面近傍で界面に垂直な方向にモードIでのき裂が発生する。その後、界面に作用する界面に平行なせん断力によりき裂がモードIIにより進展し、TC層が剥離する。非特許文献1には、柱状結晶からなるTC層を電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)法により形成して、熱膨張係数差による応力の発生を抑制することが開示されている。
特許文献1には、金属基材上に、金属接合層、酸素バリヤ層、セラミックス遮熱層が順に積層された遮熱コーティング構造が開示されている。特許文献1では、アルミニウムを含有する金属接合層を緻密な薄膜からなる酸素バリヤ層で覆うことにより、高温運転中に金属接合層表面に形成されるアルミナを主成分とする酸化物層の成長を抑制し、酸化物層や金属接合層における剥離現象を減少させている。
特許文献2には、タングステン、モリブデン、タンタル、炭素、チタン、ハフニウム、ニオブ、ホウ素、ジルコニウム及びこれらの組合せのような強化用元素でボンドコートを補強して、ボンドコートの亀裂を軽減することが開示されている。
特開2006−117975号公報 特開2015−14047号公報
A. G. Evans; D. R. Mumm; J. W. Hutchinson; G. H. Meier; F. S. Pettit. "Mechanisms Controlling The Durability of Thermal Barrier Coatings". Progress in Materials Science, 2001, vol. 46, p. 505-553
上述の特許文献1、2及び非特許文献1に開示される方法によれば、界面に垂直な方向への引張負荷(モードI)によるき裂の発生は抑制できるものの、界面に平行な方向のせん断負荷(モードII)により発生したき裂の進展を抑制する手法は知られていなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、き裂の進展を抑制できる遮熱コーティング方法、及び遮熱コーティング材を提供することを目的とする。
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)金属を基材上に溶射することによりボンドコート層を前記基材上に形成する工程と、
前記ボンドコート層が形成された前記基材に真空熱処理を施す工程と、
前記真空熱処理を施した前記基材の前記ボンドコート層上にセラミックスからなるトップコート層を形成する工程と、
を備える遮熱コーティング方法。
(2)前記真空熱処理において、前記ボンドコート層が形成された前記基材を1000℃以上1200℃以下の温度に1時間以上保持する上記(1)に記載の遮熱コーティング方法。
(3)前記ボンドコート層が、CoNiCrAlY系合金、NiCoCrAlY系合金、CoCrAlY系合金、NiCrAlY系合金、及びFeCrAlY系合金のうち少なくともいずれか一種からなる上記(1)または(2)に記載の遮熱コーティング方法。
(4)前記基材がニッケル基超合金からなる上記(1)〜(3)のいずれか一に記載の遮熱コーティング方法。
(5)前記トップコート層がY−ZrO系セラミックスからなる上記(1)〜(4)のいずれか一に記載の遮熱コーティング方法。
(6)基材と、
前記基材上に設けられた金属からなるボンドコート層と、
前記ボンドコート層上に設けられたセラミックスからなるトップコート層と、を備える遮熱コーティング材であって、
前記ボンドコート層の平均結晶粒径が2μm以上である遮熱コーティング材。
(7)前記ボンドコート層が、
Alを含有し、
前記基材の近傍に位置する第1層と、前記第1層よりも前記トップコート層側に位置する第2層と、を備え、
前記第1層のAl含有量(原子%)が前記第2層のAl含有量(原子%)よりも少ない上記(6)に記載の遮熱コーティング材。
(8)前記ボンドコート層が、CoNiCrAlY系合金、NiCoCrAlY系合金、CoCrAlY系合金、NiCrAlY系合金、及びFeCrAlY系合金のうち少なくともいずれか一種からなる上記(6)または(7)に記載の遮熱コーティング材。
(9)前記基材がニッケル基超合金からなる上記(6)〜(8)のいずれか一に記載の遮熱コーティング材。
(10)前記トップコート層がY−ZrO系セラミックスからなる上記(6)〜(9)のいずれか一に記載の遮熱コーティング材。
本発明によれば、き裂の進展を抑制できる遮熱コーティング方法及び遮熱コーティング材が提供される。
トップコート層及びボンドコート層の断面の模式図である。 プッシュアウト試験に用いる試験片の模式図である。 プッシュアウト試験を説明する模式図である。 大気熱曝露試験を行っていない遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、(a)比較例1、(b)実施例1、(c)実施例2、(d)実施例3の結果を示している。 大気熱曝露試験後の比較例1の遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、熱曝露時間が(a)10時間、(b)50時間、(c)100時間、(d)200時間の結果を示している。 大気熱曝露試験後の実施例2の遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、熱曝露時間が(a)10時間、(b)50時間、(c)100時間、(d)200時間の結果を示している。 実施例1〜3及び比較例1のTGO層の厚さと熱曝露時間との関係を示す図である。 実施例1〜3及び比較例1のビッカース硬さと熱曝露時間との関係を示す図である。 大気熱曝露試験を行っていない実施例1〜3及び比較例1の降伏応力と平均結晶粒径との関係を示す図である。 大気熱曝露試験を10時間行った後の実施例1〜3及び比較例1の降伏応力と平均結晶粒径との関係を示す図である。 大気熱曝露試験を50時間行った後の実施例1〜3及び比較例1の降伏応力と平均結晶粒径との関係を示す図である。 実施例1〜3及び比較例1のせん断破壊応力と熱曝露時間との関係を示す図である。 実施例1〜3及び比較例1の破壊靱性と熱曝露時間との関係を示す図である。 実施例4〜6及び比較例1のビッカース硬さと熱処理温度との関係を示す図である。 実施例4〜6及び比較例1のせん断破壊応力と熱処理温度との関係を示す図である。 大気熱曝露試験を行っていない遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、(a)比較例2、(b)実施例7、(c)実施例8の結果を示している。 大気熱曝露試験後の比較例2の遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、熱曝露時間が(a)10時間、(b)50時間、(c)100時間、(d)200時間の結果を示している。 大気熱曝露試験後の実施例8の遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、熱曝露時間が(a)10時間、(b)50時間、(c)100時間、(d)200時間の結果を示している。 実施例7、8及び比較例2のTGO層の厚さと熱曝露時間との関係を示す図である。 実施例7、8及び比較例2のビッカース硬さと熱曝露時間との関係を示す図である。 大気熱曝露試験を行っていない実施例7、8及び比較例2の降伏応力と平均結晶粒径との関係を示す図である。 実施例7、8及び比較例2のせん断破壊応力と熱曝露時間との関係を示す図である。 実施例7、8及び比較例2の破壊靱性と熱曝露時間との関係を示す図である。 弾性FEM解析において用いたモデルを説明する図である。 弾性FEM解析において用いたき裂先端周辺のメッシュを示す図である。 弾性FEM解析の結果を示す応力分布図である。 図26のき裂先端周辺の拡大図である。 図26のき裂先端周辺の拡大図である。 塑性域の面積とき裂長さとの関係を示す図である。 塑性域の面積とき裂長さとの関係を示す図である。
以下に本発明の実施形態に係る遮熱コーティング方法及び遮熱コーティング材について説明する。
本実施形態に係る遮熱コーティング方法は、金属を基材上に溶射することによりボンドコート層を前記基材上に形成する工程と、前記ボンドコート層が形成された前記基材に真空熱処理を施す工程と、前記真空熱処理を施した前記基材の前記ボンドコート層上にセラミックスからなるトップコート層を形成する工程と、を備える。
ここで、トップコート層は、外部から基材に伝わる温度を低下させる遮熱コーティング(TBCs)としての機能を有する層である。また、ボンドコート層の形成のために基材上に溶射する金属は純金属、合金、又は金属間化合物であり、金属以外の成分を含有してもよい。
本実施形態の遮熱コーティング方法では、ボンドコート層が形成された基材に真空熱処理を施すことによりボンドコート層の降伏応力を低減した後、このボンドコート層の上にトップコート層を形成する。このような方法によれば、き裂の進展を抑制できる遮熱コーティング材を得られる。以下、このメカニズムについて説明する。
図1は、トップコート層1とボンドコート層2との断面の模式図であり、これらの層の接合界面にき裂Cが生じた状態を示している。一般に、セラミックスでは強度(降伏応力)が高いほど破壊靱性が高く、またセラミックスはほとんど塑性変形しない。一方、金属では強度(降伏応力)が低いほど破壊靱性が高く、すなわち強度(降伏応力)が低いほど塑性変形により破断し難い。そのため、金属からなるボンドコート層2上にセラミックスからなるトップコート層1を形成した遮熱コーティング材において、これらの層の接合界面または接合界面近傍でき裂が発生した場合、金属が塑性変形することによりき裂の進展が妨げられる。
図1において、接合界面に沿ってき裂Cを進展させる応力が作用したとき、き裂Cの進展方向におけるき裂先端CTの前方且つボンドコート層2内に塑性域Aが形成される。この塑性域Aにおいてき裂Cの進展のためのエネルギーが吸収される(塑性変形に費やされる)ことにより、き裂Cの進展が妨げられる。この塑性域Aの大きさRが大きいほど、吸収されるエネルギーは大きくなるので、き裂Cの進展を抑制できる。このRは、V. Tvergaardらによれば、下記式(1)で表される(Viggo Tvergaard; John W. Hutchinson. "The Influence of Plasticity on Mixed Mode Interface Toughness". Journal of the Mechanics and Physics of Solids, 1993, vol. 41, No. 6, p. 1119-1135)。
式(1)において、σはボンドコート層2の降伏応力、Γは破壊により消費される接合界面の単位面積あたりのエネルギー及びEはそれぞれトップコート層1及びボンドコート層2のヤング率、ν及びνはそれぞれトップコート層1及びボンドコート層2のポアソン比、βはヤング率E、E及びポアソン比ν、νを用いて表される物性値である。式(1)において降伏応力σ以外は物性値であるため、降伏応力σが小さいほど塑性域Aの大きさRが大きくなることが式(1)から導かれる。
また、接合界面の破壊靱性(界面剥離エネルギー)Γは、Y. Weiらによれば、剥離により消費される接合界面の単位面積あたりのエネルギーΓと、接合界面の剥離時に塑性変形により消費される単位面積あたりのエネルギーΓとの和で近似できる(Γ≒Γ+Γ)(Yueguang Wei; John W. Hutchinson. "Nonlinear Delamination Mechanics for Thin Films". Journal of the Mechanics and Physics of Solids, 1997, vol. 45, No. 7, p. 1137-1159)。ΓはΓよりも大きく、接合界面の破壊靱性Γを向上するためにはΓを大きくする必要がある。Γは、破壊された領域(面積R×bの領域)における単位面積当たりの界面破壊に寄与する塑性変形のエネルギーであり、下記式(2)で表される。
式(2)において、εはひずみ、bはき裂進展方向に垂直な方向における遮熱コーティング材の幅(塑性域Aの奥行)であり、Bは式(1)のRを式(2)に代入した結果得られる定数である。εは、式(2)において単位体積当たりの塑性変形のエネルギーに相当する∫σ(ε)dεの計算の際に積分する応力ひずみ線図が、応力がひずみ量によらず降伏応力σで一定となる完全剛塑性体の応力ひずみ線図であると仮定した場合のひずみ量である。式(2)の通り、降伏応力σを小さくすることにより、接合界面の剥離時に塑性変形により消費されるエネルギーΓが大きくなり、接合界面における破壊靱性Γも大きくなる。
以上のように、ボンドコート層2の降伏応力σを小さくすることにより、塑性域Aの大きさRを大きくすると共に、接合界面における破壊靱性Γを大きくすることができる。その結果、き裂Cの進展を抑制できる。
上記の知見から、本実施形態では、塑性域Aの大きさR及び破壊靱性Γを大きくするため、ボンドコート層2に真空熱処理を施すことにより、ボンドコート層2の降伏応力σを低減している。ボンドコート層2は金属を基材上に溶射することにより形成されるので、真空熱処理を施していないボンドコート層2の平均結晶粒径は非常に小さく、且つ残留応力(ひずみ)が蓄積された状態にある。そのため、降伏応力σが比較的高い状態となる。このようなボンドコート層2に真空熱処理を施すことにより、平均結晶粒径を大きくすると共に、残留応力を除去できる。その結果、ボンドコート層2の降伏応力σを低減できる。
このようなボンドコート層2上にトップコート層1を形成することにより、ボンドコート層2に真空熱処理を施さない場合と比較して、接合界面における破壊靱性Γが高い遮熱コーティング材を得られる。その結果、ボンドコート層2とトップコート層1との接合界面または接合界面近傍にき裂が生じてもき裂の進展が抑制されるので、トップコート層1の剥離を抑制でき、遮熱コーティング材の使用寿命を従来よりも長くすることができる。
ここで、真空熱処理において、ボンドコート層2が形成された基材を1000℃以上1200℃以下の温度に1時間以上保持することが好ましい。これにより、ボンドコート層2の降伏応力σを、真空熱処理前と比較して、十分に低減することができる。真空熱処理の温度は、1050℃以上1180℃以下が好ましく、1120℃以上1160℃以下がより好ましい。真空熱処理の時間は、2時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましい。また、真空熱処理の時間が長いほど降伏応力σを低減できるので好ましいが、過度に長くすると製造コストが増加するので、50時間以下とすることが好ましい。
基材はニッケル基超合金からなることが好ましい。ニッケル基超合金は耐用温度が高いので、基材にニッケル基超合金を用いることにより、発電機や航空機に用いられるガスタービンの動翼等の高温部品に好適な遮熱コーティング材を製造できる。ニッケル基超合金としては、ハステロイ(登録商標)X等、高温部品に用いられる遮熱コーティングを施した遮熱コーティング材の耐熱基材として公知のものを利用できる。
ボンドコート層2は、CoNiCrAlY系合金、NiCoCrAlY系合金、CoCrAlY系合金、NiCrAlY系合金、及びFeCrAlY系合金のうち少なくともいずれか一種からなることが好ましい。これにより、基材とトップコート層1とを強固に接合できる。また、上述のニッケル基超合金からなる基材と上述の合金からなるボンドコート層とを組み合わせることにより、真空熱処理においてAlをトップコート層1側に拡散させることができ、基材とボンドコート層との結合をより強固にできる。
なお、CoNiCrAlY系合金は、Niを28.0〜35.0重量%、Crを18.0〜24.0重量%、Alを5.0〜11.0重量%、Yを0.05〜1.0重量%含有し、残部がCo及び不可避不純物からなることが好ましい。NiCoCrAlY系合金は、Coを18.0〜28.0重量%、Crを13.0〜23.0重量%、Alを5.0〜15.0重量%、Yを0.05〜1.0重量%含有し、残部がNi及び不可避不純物からなることが好ましい。CoCrAlY系合金は、Crを20.0〜31.0重量%、Alを5.0〜10.0重量%、Yを0.05〜1.0重量%含有し、残部がCo及び不可避不純物からなることが好ましい。NiCrAlY系合金は、Crを20.0〜32.0重量%、Alを5.0〜12.5重量%、Yを0.05〜1.2重量%含有し、残部がNi及び不可避不純物からなることが好ましい。FeCrAlY系合金は、Crを20.0〜32.0重量%、Alを5.0〜15.0重量%、Yを0.04〜1.0重量%含有し、残部がFe及び不可避不純物からなることが好ましい。なお、上記のCoNiCrAlY系合金、NiCoCrAlY系合金、CoCrAlY系合金、NiCrAlY系合金、及びFeCrAlY系合金は上記以外の成分を含有してもよい。
また、ボンドコート層2を形成するための溶射法としては、高速フレーム溶射法、真空溶射、減圧プラズマ溶射、及びコールドスプレーのうちいずれかを用いることができる。大気中で成膜できるので、製造コストの観点から高速フレーム溶射法を用いることが好ましい。
トップコート層1はY−ZrO系セラミックスからなることが好ましい。Y−ZrO系セラミックスは熱伝導率が低いので、1500℃を超える高温環境下で用いられる高温部品の遮熱コーティングとして好適である。
なお、Y−ZrO系セラミックスとしては、ZrOにYを添加して安定化させたイットリア安定化ジルコニア等、高温部品に用いられる遮熱コーティングとして公知のものを利用できる。
トップコート層1を形成する方法は特に限定されないが、溶射法や蒸着法を用いることができる。溶射法としては、大気プラズマ溶射法、及びサスペンションプラズマ溶射のうちいずれかを用いることができる。また、蒸着法としては、電子ビーム物理蒸着法、及びCVD(化学気相蒸着)法を用いることができる。ボンドコート層2と密着性の高いトップコート層1を得られるので、これらのうち大気プラズマ溶射法を用いることが好ましい。
以上説明した遮熱コーティング法によれば、ボンドコート層2とトップコート層1との界面や界面近傍にき裂が生じた場合にもき裂の進展を抑制し、トップコート層1の剥離を抑制でき、使用寿命の長い遮熱コーティング材を得られる。
また、上述の遮熱コーティング法によれば、基材と、前記基材上に設けられた金属からなるボンドコート層2と、前記ボンドコート層2上に設けられたセラミックスからなるトップコート層1と、を備える遮熱コーティング材であって、前記ボンドコート層2の平均結晶粒径が2μm以上である遮熱コーティング材を得ることができる。このような遮熱コーティング材では、真空熱処理前と比較して、ボンドコート層2の平均結晶粒径が大きいのでボンドコート層2の降伏応力が低い。そのため、上述のようにき裂の進展が抑制される。なお、ボンドコート層2の平均結晶粒径は2.4μm以上が好ましい。平均結晶粒径が大きいほど降伏応力が低くなるので好ましいが、平均結晶粒径を過度に大きくしようとすると真空熱処理を長時間行うことが必要となり製造コストが増加するので、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
さらに、上述の遮熱コーティング法によれば、ボンドコート層2が、Alを含有し、基材の近傍に位置する第1層と、第1層よりもトップコート層1側に位置する第2層と、を備え、第1層のAl含有量(原子%)が前記第2層のAl含有量(原子%)よりも少ない遮熱コーティング材を得られる。真空熱処理によりボンドコート層2に含有されるAlがトップコート層1側に拡散し、ボンドコート層2の基材の近傍においてAlの含有量が減少し、上記第1層が形成される。したがって、このような遮熱コーティング材では、Alの拡散により基材とボンドコート層2とが強固に結合されている。
また、上述の遮熱コーティング法によれば、真空熱処理を施さない場合と比較して、ボンドコート層2のビッカース硬さが低い遮熱コーティング材を得ることができる。このような遮熱コーティング材では、真空熱処理を施さない場合と比較して、ボンドコート層2の降伏応力も低いので、上述のようにき裂の進展が抑制される。ボンドコート層2がCoNiCrAlY系合金である場合、ボンドコート層2のビッカース硬さはHv500以下であることが好ましく、Hv350〜500であることがより好ましい。ボンドコート層2がNiCoCrAlY系合金である場合、ボンドコート層2のビッカース硬さはHv450以下であることが好ましく、Hv350〜450であることがより好ましい。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の請求の範囲によってのみ限定される。
例えば、上述の実施形態では、基材上にボンドコート層とトップコート層とが形成された遮熱コーティング材について説明したが、本発明はこれに限定されない。ボンドコート層とトップコート層との間にTGO(熱成長酸化物)層が形成されている遮熱コーティング材にも本発明を適用できる。この場合、トップコート層を形成する前に、ボンドコート層またはボンドコート層とTGO層とに真空熱処理を施せばよく、これにより上述の作用効果が発揮される。同様に、ボンドコート層とトップコート層との間に複数の層を設けた遮熱コーティング材にも本発明を適用できる。
以下、実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[遮熱コーティング材]
遮熱コーティング材の基材として、表1の組成のニッケル基超合金(ハステロイ(登録商標)X)を用意した。基材の表面に以下の条件で高速フレーム溶射法によりボンドコート層を被覆した。
溶射ガン:JP−5000
灯油流量:6.0 GPH
酸素流量:1850.0 SCFH
キャリアガス(窒素)流量:12 SCFH
溶射距離:380mm
パウダー送り量:65g/min
ボンドコート層の組成を表2に示す。表2に示す通り、CoNiCrAlY合金(表2のBC1)及びNiCoCrAlY合金(表2のBC2)の2種類の材料でボンドコート層を形成した。ボンドコート層の平均厚さは100μmであった。
次いで、形成されたボンドコート層にブラスト処理を行った後、ボンドコート層が被覆された基材に表4の条件で真空熱処理を施した。詳細には、8×10−3Paの真空雰囲気中で表4の温度まで昇温し、表4の時間保持した後に炉冷した。その後、以下の条件で大気プラズマ溶射法によりボンドコート層上に8wt%YSZからなるトップコート層を被覆した。
アルゴンガス圧力:50.0psi
ヘリウムガス圧力:90.0psi
キャリアガス(ヘリウムガス)圧力:100psi
電流:850A
電圧:42V
溶射距離:10mm
パウダー送り量:30g/min
トップコート層の組成を表3に示す。トップコート層の平均厚さは250μmであった。このようにして実施例1〜8の遮熱コーティング材を製造した。また、真空熱処理を行わないこと以外は実施例1〜8と同様の手順で、ボンドコート層がCoNiCrAlY合金である比較例1と、ボンドコート層がNiCoCrAlY合金である比較例2の遮熱コーティング材を製造した。
[大気熱曝露試験]
実施例1〜3、7、8、比較例1、2の遮熱コーティング材を、大気中で1050℃まで加熱して、10時間、50時間、100時間、及び200時間保持した。
[組織観察]
実施例1〜3、7、8及び比較例1、2の遮熱コーティング材について、厚さ方向(界面に垂直な方向)に平行な遮熱コーティング材の断面を鏡面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてこの断面の組織観察を行った。その結果を図4〜6、図16〜18に示す。
図4〜6はボンドコート層がCoNiCrAlY合金である遮熱コーティング材の断面のSEM写真である。図4は大気熱曝露試験を行っていない遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、(a)比較例1、(b)実施例1、(c)実施例2、(d)実施例3の結果を示している。図5、6は大気熱曝露試験後の遮熱コーティング材の断面のSEM写真である。図5は比較例1、図6は実施例2のSEM写真であり、熱曝露時間が(a)10時間、(b)50時間、(c)100時間、(d)200時間の結果を示している。
図16〜18はボンドコート層がNiCoCrAlY合金である遮熱コーティング材の断面のSEM写真である。図16は大気熱曝露試験を行っていない遮熱コーティング材の断面のSEM写真であり、(a)比較例2、(b)実施例7、(c)実施例8の結果を示している。図17、18は大気熱曝露試験後の遮熱コーティング材の断面のSEM写真である。図17は比較例2、図18は実施例8のSEM写真であり、熱曝露時間が(a)10時間、(b)50時間、(c)100時間、(d)200時間の結果を示している。
[TGO層の厚さ測定]
大気熱曝露試験後の実施例1〜3、7、8及び比較例1、2の遮熱コーティング材の厚さ方向に平行な断面のSEM写真から、ボンドコート層とトップコート層との間に形成されたTGO層の厚さを測定した。詳細には、SEM写真において、基材とボンドコート層との界面に垂直な線を7μm間隔で描き、TGO層を横切る線の長さを40点測定して、その平均をTGO層の厚さとした。測定したTGO層の厚さ(縦軸)と熱曝露時間(横軸)との関係を図7、19に示す。なお、図7はボンドコート層がCoNiCrAlY合金である実施例1〜3及び比較例1の測定結果であり、図19はボンドコート層がNiCoCrAlY合金である実施例7、8及び比較例2の測定結果である。
[ビッカース硬さ測定]
実施例1〜8及び比較例1、2の遮熱コーティング材のボンドコート層のビッカース硬さを測定した。詳細には、遮熱コーティング材の厚さ方向に平行な断面を鏡面研磨し、40μm間隔で20点のビッカース硬さを測定し、その平均値を各遮熱コーティング材のビッカース硬さとした。実施例1〜8、比較例1、2について、得られたビッカース硬さ(縦軸)と熱曝露時間(横軸)との関係を図8、14、20に示す。図8は実施例1〜3及び比較例1の測定結果であり、図14は実施例4〜6及び比較例1の測定結果であり、図20は実施例7、8及び比較例2の測定結果である。なお、図14のグラフ中の数字は真空熱処理時間である。また、実施例1〜3、7、8及び比較例1、2のビッカース硬さ測定結果の一部を表5にも示す。
[平均結晶粒径測定]
実施例1〜3、7、8及び比較例1、2の遮熱コーティング材のボンドコート層の平均結晶粒径を測定した。詳細には、上記組織観察で用いた断面のボンドコート層内の80×150μmの領域について、EBSD(Electron Backscatter Diffractin)法により、結晶方位を測定した。測定点の間隔は1μmとした。EBSD法には、日本電子製JSM−5600にTSL社製OIMを搭載したシステムを使用した。各測定点の方位差が15°以上となった2点間に結晶粒界が存在するとみなし、上記領域内の結晶粒界を決定した。決定された結晶粒界に基づき、結晶粒の面積を求め、面積を円と仮定して直径により、平均結晶粒径を得た。このような平均結晶粒径の測定を、大気熱曝露試験を行っていない実施例1〜3、7、8の遮熱コーティング材と、大気熱曝露試験を10時間、50時間行った実施例1〜3及び比較例1の遮熱コーティング材とについて行った。
なお、大気熱曝露試験を行っていない比較例1、2の遮熱コーティング材については、上述の組織観察で得られた図4、16よりも高倍率のSEM写真から、ボンドコート層の平均結晶粒径を求めた。詳細には、ボンドコート層に相当する縦10μm、横16μmの領域において、2μm間隔で縦(厚さ方向)に7本の直線を描き、これらの直線と直交する直線を2μm間隔で4本描いた。これらの直線とボンドコート層の結晶粒界との交点の数を求め、直線の長さの合計を交点の数で割って得られた値を平均結晶粒径とした。実施例1〜3、7、8及び比較例1、2の平均結晶粒径の測定結果を表5に示す。
[降伏応力の算出]
ボンドコート層において、降伏応力が結晶粒径の(−1/2)乗、すなわち{1/(√結晶粒径)}に比例するというホールペッチ(Hall−Petch))の関係が成立するか否かを確認するために、実施例1〜3、7、8及び比較例1、2の遮熱コーティング材のボンドコート層の降伏応力を算出した。一般に、金属材料においては、降伏応力をビッカース硬さの3分の1で近似することができる。そこで、上記の測定で得られたビッカース硬さの3分の1をボンドコート層の降伏応力(kgf/mm)とみなし、降伏応力(GPa)を算出した。実施例1〜3、7、8、比較例1、2について、得られた降伏応力と平均結晶粒径との関係を図9〜11、21に示す。なお、これらの図において、横軸は平均結晶粒径の(−1/2)乗である。図9は大気熱曝露試験を行っていない実施例1〜3及び比較例1の算出結果であり、図11、12はそれぞれ大気熱曝露試験を10時間、50時間行った後の算出結果であり、図21は大気熱曝露試験を行っていない実施例7、8及び比較例2の算出結果である。
[プッシュアウト試験]
遮熱コーティング材のせん断破壊応力及び破壊靱性を得るために、実施例1〜8、比較例1、2の遮熱コーティング材について、大気中室温下でプッシュアウト試験を行った。以下、プッシュアウト試験の手順について、図2、3を参照して詳述する。
図2は、プッシュアウト試験に用いる試験片Sの模式図であり、図3はプッシュアウト試験を説明する模式図である。まず、1つの遮熱コーティング材から、トップコート層1、ボンドコート層2、及び基材3が含まれるように、高さd、幅w、厚さtの2つの同一寸法の試験片を切り出した。基材3のボンドコート層2とは反対側の面にエポキシベースの接着剤を塗布して基材3同士を接着することにより、2つの試験片を接合した。接合された試験片の表面を仕上げ研磨して、図2のような、高さdが4mm、幅wが5mm、厚さ2tが6.5mmのプッシュアウト試験用の試験片Sを得た。
得られた試験片Sを、図3のように、パンチ10と2つの支持部11とを備えるプッシュアウト試験機に設置した。なお、パンチ10の厚さ方向の大きさを4mmとした。この時、試験片Sの高さdが鉛直方向に沿うように試験片Sを支持部11に載せた。また、図3におけるトップコート層1の下面全体が支持部11と接触し、トップコート層1以外が支持部11と接触しないように試験片Sを支持部11に載せた。そして、基材3のみがパンチ10と接触するように試験片Sにパンチ10を載せた。次いで、パンチ10が一定速度で支持部11に近づくようにパンチ10に荷重(図3の矢印)を負荷し、試験片Sが破断するまでパンチ10に負荷される荷重を測定した。
[せん断破壊応力]
実施例1〜8、比較例1、2の遮熱コーティング材のせん断破壊応力を算出した。詳細には、上述のプッシュアウト試験の結果得られた最大荷重を接合界面の面積(d×w)で除した値をせん断破壊応力とした。得られたせん断破壊応力(縦軸)と熱曝露時間(横軸)との関係を図12、15、22に示す。図12は実施例1〜3及び比較例1の測定結果であり、図15は実施例4〜6及び比較例1の測定結果であり、図22は実施例7、8及び比較例2の測定結果である。なお、図15のグラフ中の数字は真空熱処理時間である。
[破壊靱性]
上述のプッシュアウト試験の結果得られた最大荷重から、実施例1〜3、7、8、比較例1、2の遮熱コーティング材の破壊靱性を算出した。以下、破壊靱性の算出方法について詳述する。
本実施例では、下記式(3)を用いて破壊靱性Γを算出した。
式(3)において、σは破断時に各層に負荷された応力のうち破断に寄与した応力、hは各層の厚さ、Eはヤング率E及びポアソン比νを用いてE/(1-ν)で表される値である。添字は「tbc」がトップコート層、「tgo」がTGO層、「s」が基材及びボンドコート層を意味している。ここで、基材及びボンドコート層は化学組成が近いので、破壊靱性の算出においては一つの材料と見なした。計算に用いた各層の物性値及び厚さを表6に示す。なお、大気熱曝露試験後のTGO層の厚さhtgoとして図7、図19の上述の厚さ測定で得られた値を用いた。大気熱曝露試験前の厚さhtgoは0μmとした。
破断時に各層に負荷された応力σを、下記式(4)を用いて算出した。
σは遮熱コーティング材の製造時に各層に導入された熱応力のうち試験片Sの破断に寄与した熱応力である。破断後においても剥離せず接合されている層には熱応力が残留しているので、上記式(4)の熱応力σは、破断前後の力のバランスを考慮して、トップコート層、TGO層、及びボンドコート層の3層が接合した状態(プッシュアウト試験前)における熱応力(σと、破断後における熱応力(σとの差から算出した。また、上式(4)のσmaxはプッシュアウト試験で負荷された荷重により各層に負荷された応力の最大値(最大荷重による応力)である。これらの応力(σ、(σ、及びσmaxを、下記式(5)〜(7)を用いて算出した。
式(5)(6)におけるαは線膨張係数αを用いて(1+α)で表される値である。まΔTは製造時における各層の温度差であり、ΔT=−400Kとして計算した。式(7)におけるPはプッシュアウト試験において試験片Sに負荷された荷重の最大値、wは図2に示す試験片Sの幅である。
式(5)、(6)から算出された熱応力(σ、(σから、遮熱コーティング材の製造時に各層に導入された熱応力のうち試験片Sの破断に寄与した熱応力σ={(σ}−{(σ}を算出した。得られた熱応力σと式(7)から算出された応力σmaxから、式(4)を用いて破断時に各層に負荷された応力のうち破断に寄与した応力σを算出し、式(3)から破壊靱性Γを得た。
なお、TGO層が形成されていない遮熱コーティング材、すなわち大気熱曝露試験を行っていない遮熱コーティング材については、式(3)〜(7)のTGO層に関する数値(添字「tgo」が付された記号)を0として、同様の手順で破壊靱性Γを算出した。
実施例1〜3、7、8、比較例1、2について、得られた破壊靱性(縦軸)と熱曝露時間(横軸)との関係を図13、23に示す。図13は実施例1〜3及び比較例1の測定結果であり、図23は実施例7、8及び比較例2の測定結果である。
[考察]
ボンドコート層をCoNiCrAlY合金で形成した実施例1〜6の結果について、図4〜12を参照して詳述する。
図4のSEM写真において、真空熱処理を施していない図4(a)の比較例1ではボンドコート層2の色の濃さが一様であったのに対し、図4(b)〜(d)の実施例1〜3のボンドコート層2では、トップコート層1側と比較して基材3側の色が薄くなっていた。熱処理時間が長いほど、この傾向は顕著であり、ボンドコート層2の基材3近傍の色の濃さが基材3に近くなっていた。これは、真空熱処理によりボンドコート層2に含まれるAlがトップコート層1側に拡散して、Alの濃度差が生じたため、このような色の差が生じたと考えられる。また、図5、図6のSEM写真から、大気熱曝露後の断面組織に真空熱処理の有無による大きな差異がないこと、及び大気熱曝露によりTGO層4が形成されたことが確認された。
図7から、大気熱曝露により形成されるTGO層の厚さが、真空熱処理を施すことにより小さくなることが確認された。また、熱処理時間が長いほどTGO層の厚さが小さく、熱曝露時間が長くなるほどこの傾向が顕著であった。
図8の通り、ボンドコート層2のビッカース硬さが、真空熱処理を施すことにより低くなった。また、熱処理時間が長いほどビッカース硬さが低かった。この結果から、真空熱処理を施すことによりボンドコート層2の降伏応力が低くなることが確認された。また、同一熱曝露時間では、熱処理時間が長いほどビッカース硬さが低くなることが確認された。
表5の通り、実施例1〜3のボンドコート層2の平均結晶粒径は2μm以上であり、比較例1と比較すると、真空熱処理によりボンドコート層2の結晶粒径が大きくなることが確認された。また、真空熱処理時間が長いほど、結晶粒径が大きかった。さらに、図9〜11の通り、ボンドコート層において降伏応力と平均結晶粒径との間にはホールペッチの関係が成立し、大気熱曝露後においてもこの関係が維持されていた。このように、真空熱処理によりボンドコート層2の平均結晶粒径が大きくなり、それに伴い降伏応力が小さくなることが確認された。
図12、13から、真空熱処理により、遮熱コーティング材のせん断破壊応力及び破壊靱性が高くなることが確認された。同一熱曝露時間では、熱処理時間が長いほどせん断破壊応力及び破壊靱性が高かった。また、大気熱曝露によりTGO層4が形成された場合にも、真空熱処理によりせん断破壊応力及び破壊靱性が高くなることが確認された。
また、図14、15の通り、真空熱処理温度及び熱処理時間が違うにも関わらず、実施例4〜6ではビッカース硬さ及びせん断破壊応力が同程度であった。また、実施例4〜6のビッカース硬さは比較例1よりも低く、せん断破壊応力は比較例1よりも高かった。これらの結果から、1000℃以上1200℃以下の温度に1時間以上保持すれば、真空熱処理による上述の効果を得られることが確認された。
次に、ボンドコート層をNiCoCrAlY合金で形成した実施例7、8の結果について、図16〜23を参照して説明する。
図16〜23に示す通り、実施例7、8においても、実施例1〜6と同様の事項が確認された。図16(b)、(c)のSEM写真では、実施例1〜3と比較して、ボンドコート層2内におけるトップコート層1側と基材3側の色の違いが顕著であった。表2に示す通り、実施例1〜3と比較して実施例7、8のAl濃度が高いので、基材3側とトップコート層1側とでAlの濃度差が大きくなったと考えられる。また、図23では、熱処理時間が1時間の実施例7において、真空熱処理を施していない比較例2との破壊靱性の差が顕著であった。
以上の通り、ボンドコート層2に真空熱処理を施すことにより、ボンドコート層2の種類に関わらず、平均結晶粒径が大きくなると共に降伏応力が低くなり、遮熱コーティング材のせん断破壊応力及び破壊靱性が向上することが確認された。
[弾性FEM解析]
セラミックスからなるトップコート層内にき裂が発生した場合にも、ボンドコート層内に上述の塑性域が形成されてき裂の進展が抑制されるかを確認するために、上述のプッシュアウト試験を模した弾性FEM解析(有限要素法)を行った。なお、弾性FEM解析には、Femap with NX Nastranを使用した。以下、弾性FEM解析の手順について詳述する。
まず、図2に示すプッシュアウト試験の試験片Sを、図24のようにモデル化した。このモデルでは、基材3の表面にボンドコート層2及びトップコート層1が一定の層厚で形成され、ボンドコート層2とトップコート層1との間に層厚が一定のTGO層4が形成されている。また、トップコート層1において、TGO層4とトップコート層1との界面から距離x離れた位置にき裂Cが形成されている。このき裂Cは、この界面に平行な方向に、トップコート層1の端部からき裂長さlを有して延びている。また、図2の試験片Sにおいて2つの基材3を接合した接合面を対称軸Oとした。
このモデルを1辺が2μmの四角形二次要素で分割することによりメッシュを作成した。図25は、き裂先端CT周辺のメッシュを示している。図25のように、き裂先端CTを中心とした1辺が10μmの領域については、最小で1nmのより小さな四角形二次要素により分割した。また、き裂幅を1nmとした。
対称軸Oを移動支点とし、トップコート層1の端面(図24における下端部)を回転支点として境界条件を設定した。このようなモデルを用いて、基材3に荷重Pを負荷した際に各要素に負荷される応力を、距離x、TGO層の厚さhtgo、及びき裂長さlを変えて計算した。トップコート層1、TGO層4、ボンドコート層2、及び基材3の計算に用いた物性値を表7に示す。なお、ボンドコート層2及び基材3は化学組成が類似しているので、一つの材料と見なして計算を行った。また、基材に負荷した荷重Pを1000Nとし、厚さ方向におけるき裂Cの幅を1nmとし、試験片Sの高さdを4mmとした。
図26〜28は、TGO層4とトップコート層1との界面からき裂Cまでの距離xを1.5μm、TGO層の厚さhtgoを5μm、き裂長さlを1.5mmとした場合の弾性FEM解析の結果である。色の濃淡が負荷された応力の大きさを示している。図26はモデル全体における解析結果を示す図であり、図27、28は図26のき裂先端CT周辺の拡大図である。
ボンドコート層2及び基材3の降伏応力を1370MPaとし、ボンドコート層2及び基材3を構成する要素のうち1370MPa以上の応力が負荷された要素を塑性域Aと判断した。図28のように、塑性域Aと判断された要素の数から塑性域Aの面積を算出した。得られた塑性域Aの面積(縦軸)とき裂長さm(横軸)との関係を図29、30に示す。図29は上記距離xを5μmとし、TGO層の厚さhtgoを変化させた場合の計算結果であり、図30はTGO層の厚さhtgoを5μmとし、上記距離xを変化させた場合の計算結果である。
図26〜30に示す弾性FEM解析の結果から、トップコート層1とTGO層4との界面やボンドコート層2とTGO層4との界面ではなく、塑性変形しないトップコート層1内にき裂が発生した場合にも、ボンドコート層2内に塑性域Aが形成されることがわかった。
また、図29、30に示すように、TGO層4が厚い場合や、TGO層4とトップコート層1との界面とき裂Cとの距離が大きい場合にも、面積は小さくなるものの、塑性域が形成されることが確認された。これらの結果から、ボンドコート層2から離れた位置にき裂Cが生じた場合にもボンドコート層2内に塑性域が形成されることがわかった。したがって、ボンドコート層2を形成した後にボンドコート層2の降伏応力を低下させるために真空熱処理を行うことは、き裂発生の場所に関わらず、き裂の進展の抑制に有効であることが確認された。
本発明の遮熱コーティング方法により製造した遮熱コーティング材、及び本発明にかかる遮熱コーティング材は、き裂の進展が抑制されて遮熱コーティングの剥離が抑制されるので使用寿命が長い。そのため、発電機や航空機に用いられるガスタービンの動翼等の高温部品に好適に利用できる。
1・・・トップコート層、2・・・ボンドコート層、3・・・基材、4・・・TGO層、C・・・き裂、CT・・・き裂先端、A・・・塑性域

Claims (10)

  1. 金属を基材上に溶射することによりボンドコート層を前記基材上に形成する工程と、
    前記ボンドコート層が形成された前記基材に真空熱処理を施す工程と、
    前記真空熱処理を施した前記基材の前記ボンドコート層上にセラミックスからなるトップコート層を形成する工程と、
    を備える遮熱コーティング方法。
  2. 前記真空熱処理において、前記ボンドコート層が形成された前記基材を1000℃以上1200℃以下の温度に1時間以上保持する請求項1に記載の遮熱コーティング方法。
  3. 前記ボンドコート層が、CoNiCrAlY系合金、NiCoCrAlY系合金、CoCrAlY系合金、NiCrAlY系合金、及びFeCrAlY系合金のうち少なくともいずれか一種からなる請求項1または2に記載の遮熱コーティング方法。
  4. 前記基材がニッケル基超合金からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の遮熱コーティング方法。
  5. 前記トップコート層がY−ZrO系セラミックスからなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の遮熱コーティング方法。
  6. 基材と、
    前記基材上に設けられた金属からなるボンドコート層と、
    前記ボンドコート層上に設けられたセラミックスからなるトップコート層と、を備える遮熱コーティング材であって、
    前記ボンドコート層の平均結晶粒径が2μm以上である遮熱コーティング材。
  7. 前記ボンドコート層が、
    Alを含有し、
    前記基材の近傍に位置する第1層と、前記第1層よりも前記トップコート層側に位置する第2層と、を備え、
    前記第1層のAl含有量(原子%)が前記第2層のAl含有量(原子%)よりも少ない請求項6に記載の遮熱コーティング材。
  8. 前記ボンドコート層が、CoNiCrAlY系合金、NiCoCrAlY系合金、CoCrAlY系合金、NiCrAlY系合金、及びFeCrAlY系合金のうち少なくともいずれか一種からなる請求項6または7に記載の遮熱コーティング材。
  9. 前記基材がニッケル基超合金からなる請求項6〜8のいずれか一項に記載の遮熱コーティング材。
  10. 前記トップコート層がY−ZrO系セラミックスからなる請求項6〜9のいずれか一項に記載の遮熱コーティング材。
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