JP2018009200A - ボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石 - Google Patents

ボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石 Download PDF

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Abstract

【課題】ボンド磁石用樹脂組成物の成形性に優れ、また得られる成形ボンド磁石の機械強度を改善できる表面被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石を提供する。【解決手段】 粉末表面に被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末において、前記被膜は、鉄(Fe)、燐(P)、酸素(O)、希土類元素(RE)、炭素(C)を含有し、X線光電子分光法で表面被膜組成を分析して、Fe、P、O、RE、Cの合計を100原子%とした時、Fe/RE比が20以上であり、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、かつCが5〜30原子%であり、また膜厚が1nm以上100nm以下であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末などを提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、ボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石に関し、詳しくは、ボンド磁石用樹脂組成物の成形性に優れ、また得られる成形ボンド磁石の機械強度を改善できる表面被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石に関するものである。
近年、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石などが、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器をはじめとする種々の製品にモーターやセンサーなどとして組込まれ、使用されている。これら磁石は、主に焼結法で製造されるが、脆く、薄肉化しにくいため複雑形状への成形は困難であり、また焼結時に15〜20%も収縮するため寸法精度を高められず、研磨等の後加工が必要で、用途面で大きな制約を受けている。
これに対し、ボンド磁石(樹脂結合型磁石)は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂、あるいは、硬化剤との併用によりエポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとし、これに磁石粉末を充填して容易に製造できるため、新しい用途開拓が繰り広げられている。
こうしたボンド磁石の中でも、特に、希土類元素を含む鉄系磁石粉末を用いたボンド磁石は、当該磁石粉末と樹脂バインダーとを混合・混練したボンド磁石用樹脂組成物を製造するとき、混練機の負荷が大きく、樹脂組成物の粘性が増大することがある。そのため、このような樹脂組成物は射出成形法、押出成形法、または圧縮成形法などによる成形性が悪く良好な成形品を得にくかった。これは上記磁石粉末による触媒作用でバインダー樹脂が変性したためと思われる。この現象は磁性粉末に種々の表面処理を施すことによって緩和されることが知られている。
また、上記磁性粉末の表面処理方法については、数多くの提案があり、例えば、高温高湿度環境下での防錆を目的として、成形体表面に熱硬化性樹脂等のコーティング膜を形成することで発錆を抑制したり、また、成形体表面に燐酸塩含有塗料により被覆処理を施したりすることで発錆を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、希土類元素を含む鉄系磁石粉末表面に燐酸塩処理した後でクロム酸塩処理を行うこと(例えば、特許文献2参照)、亜鉛やアルミニウムを蒸着すること(例えば、特許文献3参照)、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルなどの高分子被膜を形成すること(例えば、特許文献4参照)、さらには、NiとSnの金属めっきをすること(例えば、特許文献5参照)などにより成形磁石体の製造工程中や使用中における酸化劣化を防止する技術も提案されている。
上記したような各種表面処理で磁石粉末を被覆することにより、結果として、樹脂の変性を抑制する効果が得られる。しかし、被膜形成して充分な効果を得るためには、数10μm程度の膜厚にする必要があることから、磁気特性を発現する材料の体積分率が低下し、磁気特性の低下を招いてしまう。また、上記の方法では、被膜を形成する際に微粉末同士の凝集も起こることから、異方性の磁石粉末の場合には磁化容易方向を揃えるのが困難になり、磁石成形体の磁気特性の低下が避けられなかった。
一方、nmレベルの膜厚の被膜で磁石粉末を被覆処理する場合、粉砕溶媒中に燐酸を添加し、磁石粉末を粉砕しながら、希土類や鉄の燐酸塩を磁石粉末表面に生成させる方法が検討されている(例えば、特許文献6参照)。この方法で作製した希土類元素を含む鉄系磁石粉末は、非磁性相による磁気特性の低下や微粉末の凝集は緩和されたが、被膜膜厚が小さいため樹脂変性を抑える効果は十分でなく、ボンド磁石用樹脂組成物の流動性や粘性が変化してしまいボンド磁石の成形性が損なわれることがあった。さらにバインダー樹脂との界面に成形時の熱歪に起因する応力集中が生じ、バインダー樹脂との親和性不足も重なって、ボンド磁石としての成形体の機械強度が低く、加工時に破壊してしまうなどの問題もあった。
そのため、本出願人は、希土類元素を含む鉄系磁石粉末表面を燐酸系化合物とポリフェノールを含む被覆処理液で処理すること(例えば、特許文献7参照)、また、希土類元素を含む鉄系磁石粉末表面を燐酸塩処理した後、再び異なる条件で燐酸塩処理を行うこと(例えば、特許文献8参照)を提案した。これにより、従来よりも組成物の流動性および耐食性(防錆)の向上効果が確認された。
しかし、近年、家電機器用モーター、自動車用センサーやモーターにおいて、海外で部品を組み立てるため船などによる輸送が必要となり、その使用環境、輸送環境がさらに厳しくなっており、上記課題解決が求められるとともに、また上記部品については機器を小型化するため、磁気特性にも優れたボンド磁石、それに用いられる磁石粉が要求されていた。
特開2000−208321号公報 特開平1−14902号公報 特開昭64−15301号公報 特開平4−257202号公報 特開平7−142246号公報 特開2002−124406号公報 WO2010/071111 特開2011−52277号公報
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、ボンド磁石用樹脂組成物の成形性に優れ、また得られる成形ボンド磁石の機械強度を改善できる表面被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粉末表面に被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末において、前記被膜が鉄(Fe)、燐(P)、酸素(O)、希土類元素(RE)、炭素(C)を含有し、かつ該被膜のFe、P、O、RE、Cの合計を100原子%としたとき、Fe/RE比が20以上、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、Cが5〜30原子%であり、また膜厚が1nm以上100nm以下とすることによって、当該磁石粉末を用いてボンド磁石用樹脂組成物にしたとき、その成形性に優れ、また得られた成形品の機械強度を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明は、粉末表面に被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末において、
前記被膜は、鉄(Fe)、燐(P)、酸素(O)、希土類元素(RE)、炭素(C)を含有し、X線光電子分光法で表面被膜組成を分析して、Fe、P、O、RE、Cの合計を100原子%とした時、Fe/RE比が20以上であり、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、かつCが5〜30原子%であり、また膜厚が1nm以上100nm以下であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末を提供する。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明の第四の工程において、加熱処理の温度が、70℃以上120℃以下の範囲であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明は、第2の発明において、フェノール系化合物が、フェノール系モノマー、フェノール系オリゴマー、フェノール重合体、多価フェノールから選ばれる1種以上であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法を提供する。
一方、本発明の第4の発明は、第1の発明に記載のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法であって、
燐酸を含む溶液と希土類−鉄系磁石粉末とを粉砕容器又は撹拌容器中で接触させる第一の工程と、
前記接触処理後の希土類−鉄系磁石粉末を不活性ガス中または真空中で、100℃以上300℃以下の温度範囲で加熱処理する第二の工程と、
第二の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末と、フェノール系化合物と燐酸を含む溶液とを接触させる第三の工程と、
第三の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末を不活性ガス中または真空中で、50℃以上200℃以下の温度範囲で加熱処理する第四の工程と、
を備えていることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法を提供する。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末と、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から選ばれる樹脂バインダーとを含むボンド磁石用樹脂組成物であって、前記樹脂バインダーの配合量は、熱可塑性樹脂の場合、前記磁石粉末100重量部に対して、5〜50重量部で、また熱硬化性樹脂の場合は、3〜50重量部であることを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明のボンド磁石用樹脂組成物を成形してなるボンド磁石を提供する。
本発明のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末は、粉末表面に被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末であり、前記被膜は、鉄(Fe)、燐(P)、酸素(O)、希土類元素(RE)、炭素(C)を含有し、該被膜の、Fe/RE比、P、O、RE、Cの各含有量、および膜厚が特定範囲とすることによって、当該磁石粉末を用いてボンド磁石用樹脂組成物にしたとき、その成形性に優れ、また得られた成形品の機械強度を改善することができ、その工業的価値は極めて大きい。
以下、本発明のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末とその製造方法、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石について説明する。本発明のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末は、粉末表面にFe、P、O、RE(希土類元素)、Cを特定量含有する被膜が形成されたものである。
1.希土類−鉄系磁石粉末
本発明に用いる希土類−鉄系磁石粉末は、希土類元素を含む鉄系磁石合金の粉末であれば、成分組成や製造方法などによって特に制限されず、例えば、NdFeB系、Sm(Co、Fe、Cu、M)17系、SmFeN系などの各種磁石粉末を使用できる。
希土類元素としては、Sm、Nd、Pr、Y、La、Ce、Gd、Dy等が挙げられ、単独若しくは混合物として使用できる。これらの中では、特にSmまたはNdが好ましく、希土類元素を含む鉄系磁石合金として、SmまたはNdを5〜40原子%、Feを50〜90原子%含有するものが好ましい。その製造方法には、溶融溶解法や還元拡散法などがあり、還元拡散法によるものが好ましい。
なお、希土類元素を含む鉄系磁石合金粉の製造に関しては、本出願人による特許5071160、特許4407047、特許4345588、特許4241461に詳細に記載されており、これを引用することによって本発明に組み込むものとする。
上記希土類元素を含む鉄系磁石粉末には、フェライト、アルニコなど、ボンド磁石や圧密磁石の原料となる各種磁石粉末を混合してもよい。
2.希土類−鉄系磁石粉末の表面被膜
本発明のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末では、希土類元素を含む鉄系磁石合金からなる磁石粉末の表面に、Fe、P、O、RE(希土類元素)、Cを含有する被膜が形成され、X線光電子分光装置(以下、XPSと記す場合がある)で表面被膜組成を分析したとき、Fe/RE比が20以上であり、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、Cが5〜30原子%であることが必要である。
ここでXPSによる表面組成分析は、以下のように行う。すなわち、導電性両面テープに圧粉体にしたボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末を載せて固定する。分光装置として、一例として、VG Scientific社製ESCALAB220i−XLを用い、励起源として単色化したAlのKα線を使い分析領域600μmφとする。測定結果である光電子分光スペクトルにおいて、Feは2p3/2、Pは2s、Oは1s、REは3d5/2、Cは1sの結合エネルギーピークに注目して各々の面積強度を求め、VG Scientific社が提供する相対感度係数で補正した上で、合計が100原子%となるように表面組成を算出する。
本発明において、上記被膜のFe/RE比は、20以上であることが必要である。Fe/RE比が20未満では、その成形性の改善が認められない。好ましいFe/RE比は22以上であり、より好ましいのは23以上である。なおWO2010/071111(特許文献7)の製法で作製したものは、被膜が単層であるためか、Fe/RE比が20以上にならず組成物の成形性が改善されない。
燐(P)は、7〜25原子%であることが必要である。Pが7原子%未満では磁石粉末の表面被膜として当該磁石粉末の耐候性を確保することができず、当該磁石粉末を用いたボンド磁石用樹脂組成物から磁石成形体を得るときの成形性が悪化する。一方、25原子%を超えると非磁性相である燐酸塩が過剰に存在するため当該磁石粉末の残留磁束密度Brが低下してしまうため好ましくない。好ましいP含有量は9〜25原子%であり、より好ましいのは12〜22原子%である。
酸素(O)は、45〜70原子%であることが必要である。Oが45原子%未満では磁石粉末の表面被膜として酸化物膜の傾向が弱く当該磁石粉末の耐候性が低下し、また、ボンド磁石用樹脂組成物から磁石成形体を得るときの成形性が悪化する。一方、70原子%を超えると非磁性相である酸化物相が過剰に存在するため当該磁石粉末の残留磁束密度Brが低下する。好ましいO含有量は45〜65原子%であり、より好ましいのは48〜60原子%である。
希土類元素(RE)は、2原子%以下含まれることが必要である。REは燐酸塩を生成するため存在していることが必要であるが、REが2原子%を超えると非磁性相の燐酸塩が過剰に存在するため当該磁石粉末の残留磁束密度Brが低下する。好ましいRE含有量は1原子%以下であり、より好ましいのは0.8原子%以下である。
炭素(C)は、5〜30原子%であることが必要である。Cが5原子%未満では、磁石粉末の表面被膜中に存在するフェノール系化合物が少なく、磁石粉末の耐蝕性が低下し、また、当該磁石粉末を用いたボンド磁石用樹脂組成物から磁石成形体を得るときの成形性が悪化する。一方、30原子%を超えると非磁性のフェノール系化合物が過剰に存在するため当該磁石粉末の残留磁束密度Brが低下する。
好ましいC含有量は8〜30原子%であり、より好ましいのは10〜30原子%である。なおWO2010/071111(特許文献7)の製法で作製したものは、被膜が単層であるためか、C含有量が5原子%以上にならず組成物の成形性が改善されない。また、特開2011−52277(特許文献8)の製法で作製したものは、被膜が二層であるものの、フェノール系化合物を用いないためか、C含有量が5原子%以上にならないことが多く同様に組成物の成形性が改善されない。C含有量は、フェノール化合物の使用により主として定まるが、有機溶剤として使用しているアルコールの炭素(C)も含まれている可能性があるため、フェノール系化合物を用いない場合でも、少量表面被膜中に存在するものと考えられるが、5原子%を超えることはない。
本発明の磁石粉末表面に形成される被膜の膜厚は、1nm以上100nm以下であることが必要である。
膜厚が1nm未満であると被膜として希土類−鉄系磁石粉末の表面を完全に被覆することができず樹脂変性を抑える効果は十分でなく成形性は顕著には改善されない。一方、膜厚が100nmを越えると磁気特性を発現する材料の体積分率が低下することから磁気特性の低下を招いてしまう。なお、本発明の粉末表面に形成される被膜の膜厚は、被覆処理された希土類−鉄系磁石粉末の断面の電子顕微鏡写真から確認することができる。被膜の好ましい膜厚は、10nm以上90nm以下で、より好ましい膜厚は、20nm以上80nm以下である。
3.粉末表面に被膜を有する希土類−鉄系磁石粉末の製造方法
本発明の粉末表面に被膜を有する希土類−鉄系磁石粉末は、
(1)燐酸を含む溶液と希土類−鉄系磁石粉末とを粉砕容器又は撹拌容器中で接触させる第一の工程と、
(2)前記接触処理後の希土類−鉄系磁石粉末を不活性ガス中または真空中で、100℃以上300℃以下の温度範囲で加熱処理する第二の工程と、
(3)第二の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末と、フェノール系化合物と燐酸を含む溶液とを接触させる第三の工程と、
(4)第三の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末を不活性ガス中または真空中で、50℃以上200℃以下加熱処理する第四の工程と、
を備えている。
(1)第一の工程
第一の工程は、燐酸を含む溶液と希土類−鉄系磁石粉末とを粉砕容器又は撹拌容器中で接触させる工程である。
ここで使用される燐酸を含む溶液は、有機溶媒と燐酸との混合溶液である。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、シクロヘキサン、トルエンなどが利用できる。必要に応じて水を加えて水分量を調整して使用することもできる。
燐酸としては、金属化合物と反応して金属燐酸塩を生成するオルト燐酸をはじめ、亜燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、直鎖状のポリ燐酸、環状のメタ燐酸が使用できる。また、燐酸アンモニウム、燐酸アンモニウムマグネシウムなども使用できる。これら化合物は、単独でも複数種を組み合わせてもよく、通常、キレート剤、中和剤などと混合して処理剤とされる。
上記燐酸のうち、オルト燐酸が好ましい性能を発揮する。その理由は、オルト燐酸が上記金属化合物と反応しやすく、希土類系金属を成分とする磁石粉末の表面に保護膜を形成しやすいためと考えられる。
燐酸は、磁石粉末の粒径、表面積等に合わせて最適量を添加するが、通常は、粉砕する磁石粉末に対して0.1〜2mol/kg(粉末重量当たり)であり、好ましくは0.15〜1.5mol/kg、さらに好ましくは0.2〜0.4mol/kgである。燐酸の添加量が0.1mol/kg未満であると、磁石粉末の表面が十分に被覆されないために耐塩水性が改善されず、また大気中で乾燥させると酸化・発熱して磁気特性が極端に低下し、2mol/kgを超えると、磁石粉末との反応が激しく起こって磁石粉末が溶解することがある。燐酸の濃度は、特に制限されず、無水燐酸、50〜99%燐酸水溶液などが用いられる。
その後、磁石粉末が、NdFeB系、Sm(Co、Fe、Cu、M)17系であれば、燐酸を含む処理液中で攪拌する。また、SmFeN系であれば、粉砕しながら攪拌することが好ましい。
攪拌時間や粉砕時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、所定の燐酸濃度の処理溶剤内では、粉末1kgあたり0.1〜3時間、好ましくは0.1〜2時間とする。0.1時間未満では、磁石粉の表面が充分な厚さの燐酸塩被膜が形成されず、3時間を超えると磁石粉が凝集しやすくなり好ましくない。本発明の方法においては、磁石合金粉に燐酸を適量添加して撹拌するだけでも被膜が形成されるが、粉砕時に燐酸を適量添加すると磁石粉表面にメカノケミカル的な作用で被膜が形成されるために乾燥時間の短縮が可能となる。
(2)第二の工程
第二の工程では、上記第一の工程における、接触処理後の希土類−鉄系磁石粉末を、不活性ガス中または真空中で、100℃以上300℃以下の温度範囲で加熱処理する。また必要に応じて、分圧0.1kPa以上5.0kPa以下の酸素を含むガス、および/または分子中に不飽和結合を有する炭化水素を含む、エチレンなどのガスを流通しながら加熱処理することにより、磁石粉末の磁気特性を高めることもできる。
ここで、第一の工程で得られる磁石粉末は、多量の処理液を含むスラリー中の合金粉ケーキとして得られる。スラリーの含液率は、5〜30重量%が好ましく、10〜30重量%になるように、スラリーを固液分離装置内で処理調整することがより好ましい。
加熱処理には、ミキサー型乾燥機、処理物静置型の箱型乾燥機などを用いることができる。好ましいのは、ミキサー型乾燥機である。
熱処理雰囲気は、主に非酸化性雰囲気であればよく、不活性ガスを用いる場合は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気にすることが可能である。また真空中で熱処理する場合は、使用する装置にもよるが、昇温開始時の圧力は絶対圧力で70kPa〜100kPa、有機溶剤の蒸発後の圧力及び乾燥操作の圧力は絶対圧力で5kPa以下とすることが好ましい。
熱処理温度は、100〜300℃の温度範囲とする。熱処理温度が100°C未満であると、表面処理被膜に金属状態の鉄が残留し、ボンド磁石組成物の成形性や成形品の機械強度が改善されない。特に100℃未満では、表面処理被膜の緻密性が不足し、また磁石粉末に含有される炭素量、水素量が多く、保磁力低下が起こるので好ましくない。好ましい熱処理温度は、110〜250℃である。
熱処理時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、なるべく短いほうが望ましい。例えば容積100リットルの攪拌型乾燥機にて磁石粉50kgを処理する場合は所定温度到達後3時間以内、特に2時間以内とする。加熱処理時間が長くなるほど磁気特性が低下する。ただし、10分よりも短いと安定な燐酸塩被膜が形成されない場合がある。
(3)第三の工程
第三の工程は、第二の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末と、フェノール系化合物と燐酸を含む溶液とを、攪拌容器中で再び接触させる工程である。第二の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末は、前記燐酸を加えた処理液中で粉砕され、表面に燐酸塩の被膜が形成されているが、まだ必ずしも充分とはいえず、磁石微粉末が磁力などによって互いに凝集しているため流動性が悪い。
また、従来のように、燐酸塩による2段階処理を行った場合でも、流動性効果が得られるものの、まだ再現性が満足できなかった。
そのため、本発明では、組成物のさらなる流動性向上(および耐食性(錆)の向上)を意図して、第二の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末と、フェノール系化合物と燐酸を含む溶液とを、再び接触処理して、磁石粉末の接触面に被膜形成を行うものである。
この工程で使用するフェノール系化合物と燐酸を含む溶液は、フェノール系化合物と燐酸と有機溶媒との混合溶液である。有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、シクロヘキサン、トルエンなどが利用できる。必要に応じて水を加えて水分量を調整して使用することができる。
フェノール系化合物としては、フェノール系モノマー、フェノール系オリゴマー、フェノール重合体、多価フェノールであり、例示すれば、フェノール、クレゾール、オイゲノール、2−ヒドロキシ−1、4−ナフトキノン、4−メトキシ−1−ナフトール、1、4−ジヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸アンモニウム、1、4−ジヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、1、4−ジヒドロ−9、10−アントラセンジオール、カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、1、4−ジヒドロキシナフタレン、没食子酸、タンニン酸、クロロゲン酸、エラグ酸、1、4−ジヒドロ−9、10−アントラセンジオール、リグナン、クルクミン、クマリン、9、10−アントラセンジオール、アントロンなどの一種以上が利用できる。
中でも取り扱い上の安全性、コストなどを考慮すると、天然抽出物質であるカテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、没食子酸、タンニン酸、クロロゲン酸などが好ましい。
これらを有機溶媒あるいは水と混合溶解させた上で、燐酸を含む溶液に添加して使用する。
燐酸としては、前記第一の工程に用いたものと同じもので良く、特に制限が無く市販の燐酸を使用することができる。燐酸の濃度は、特に制限されず、無水燐酸、50〜99%燐酸水溶液などが用いられる。
燐酸の添加量は、粉砕後の磁石粉末の粒径、表面積等に関係するので一概には言えないが、通常は、磁石粉末に対して0.03〜1mol/kgであり、より好ましくは0.05〜0.5mol/kgが好ましい。0.03mol/kg未満であると磁石粉末の表面処理が十分に行なわれないためにコンパウンドの流動性が改善されない。ただし、1mol/kgを超えるとボンド磁石の磁気特性が低下することがある。燐酸の濃度は、特に制限されず、無水燐酸、50〜99%燐酸水溶液などが用いられる。
被覆処理液において、燐酸物(a)に対する、ポリフェノール化合物(b)との質量比:b/aは、特に限定されるわけではないが、0.01〜10の範囲とすることが望ましい。質量比:b/aは、好ましくは0.1〜8、特に0.3〜5である。質量比:b/aが0.01未満では燐酸が過剰となり、金属のエッチングが過剰となり、生成した被膜の耐水性、耐食性が不十分となるため好ましくない。一方、この質量比が10を越えると、エッチング不足となり、被膜が薄くなって耐食性が低下するため好ましくない。
処理時間は、所定の燐酸濃度の有機溶剤内では1〜60分間、好ましくは5〜30分間とする。1分間未満では、磁石粉の表面が充分な厚さの燐酸塩被膜で均一に被覆されず、60分間を超えても流動性が大きくは改善されないので好ましくない。
なお、本発明では、第一の工程で磁石粉末に燐酸を含む処理液を作用させ被膜を形成し、第二の工程で加熱処理して被膜を定着させている。この工程を経ずに最初から磁石粉末に燐酸とフェノール系化合物を含む処理液を作用させ被膜を形成し、加熱処理したのでは、充分に安定でバインダー樹脂に対する流動性の良いものが得られにくい。
(4)第四の工程
第四の工程は、第三の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末を、不活性ガス中または真空中で、50℃以上200℃以下の温度範囲で加熱処理する工程である。
ここで、加熱雰囲気など加熱処理の条件は、処理温度以外は、前記第二の工程と同様であり、必要に応じて、分圧0.1kPa以上5.0kPa以下の酸素を含むガス、および/または分子中に不飽和結合を有する炭化水素を含む、エチレンなどのガスを流通しながら加熱処理することにより、磁石粉末の磁気特性を高めることもできる。
熱処理温度は、50℃以上200℃以下の温度範囲であることが必要であり、70℃以上120℃以下の温度範囲で行うことがさらに好ましい。50℃以上200℃以下の温度範囲であれば、上記第二の工程の処理温度よりも高くても低くても構わないが、第二の工程の処理温度よりも低いほうが好ましい。熱処理温度が50℃未満、または、200℃を超えると、表面処理被膜に金属状態の鉄が残留し、ボンド磁石組成物の成形性や成形品の機械強度が改善されない。特に、50℃未満では、表面処理被膜の緻密性が不足し、また磁石粉末に含有される炭素量、水素量が多く、保磁力低下が起こるので好ましくない。
上記のとおり、本発明では、磁石粉末が燐酸を含む処理液と接触し、その後、特定温度で加熱乾燥処理されることで被膜が形成され、その後、上記被膜が形成された磁石粉末に、さらにフェノール系化合物と燐酸とを含む処理液との接触処理、加熱乾燥処理が繰り返されることで、形成される被膜は、Fe、P、O、RE(希土類元素)、Cを含有し、X線光電子分光法で表面被膜組成を分析して、Fe、P、O、RE、Cの合計を100原子%とした時、Fe/RE比が20以上であり、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、Cが5〜30原子%であり、膜厚が1nm以上100nm以下の被膜となり、金属状態のFe量が低減することになる。
上記被膜で被覆された希土類−鉄系磁石粉末は、ボンド磁石用樹脂組成物の原料として使用され、このボンド磁石用樹脂組成物を、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法又は射出プレス成形法などの成形法により成形することによりボンド磁石を製造することができる。
4.ボンド磁石用樹脂組成物
上記組成の被膜が形成された希土類−鉄系磁石粉末を樹脂バインダーと混合することでボンド磁石用樹脂組成物が得られる。
上記樹脂バインダーの種類は、特に限定されることはなく、各種熱可塑性樹脂単体または混合物、あるいは各種熱硬化性樹脂単体あるいは混合物であり、それぞれの物性、性状等も所望の特性が得られる範囲で選択すればよい。
熱可塑性樹脂は、上記被膜が形成された希土類−鉄系磁石粉末のバインダーとして働くものであれば、特に制限なく、従来公知のものを使用できる。その具体例としては、6ナイロン、6−6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6−12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性した変性ナイロン等のポリアミド(PA)樹脂、直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂などのポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、樹脂系エラストマー等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品等が挙げられる。
特に好ましいのは、6ナイロン、6−6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6−12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性した変性ナイロン等のポリアミド樹脂、あるいはポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂である。
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石粉100重量部に対して、通常5〜50重量部、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは5〜15重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5重量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなり、流動性が低下して磁石の成形が困難となり、一方、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。本発明の目的を損なわない範囲で、ボンド磁石用樹脂組成物の加熱流動性等を向上させるために、各種カップリング剤、滑剤や種々の安定剤等を配合することができる。
磁石合金粉と樹脂バインダー等を混合、混練するには各種ミキサー、ニーダー、押出機を用いることができる。
得られるボンド磁石用樹脂組成物は、メルトインデックス(MI)法の試験方法に基づいて測定される流動性に優れている。なお、流動性は、具体的には東洋精機(株)製メルトインデクサーを用い、樹脂バインダーがポリアミドの場合、250°Cの加熱温度、荷重:21.6kgで、ダイス:直径2.1mm×厚さ8mmの中を所定重量のコンパウンドが通過する所要時間から、流動性(cc/sec)を評価する。本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、上記流動性の数値が0.1cc/sec以上であり、ボンド磁石用樹脂組成物として実用上好ましいものであるといえる。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型フッ素樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂などが挙げられる。ただし、本発明においては射出成形法、押出成形法、トランスファー成形法、圧縮成形法のいずれかによってボンド磁石を得ることが好ましく、そのためには、比較的低温で、かつ速やかな硬化反応性を示す不飽和ポリエステル樹脂等のラジカル反応型熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。
熱硬化性樹脂の配合量は、磁性粉末100重量部に対して、通常3〜50重量部、好ましくは4〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部である。熱硬化性樹脂の配合量が磁性粉末100重量部に対して3重量部未満であると、著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて成形困難になり、一方、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。
本発明のボンド磁石用樹脂組成物は、これらの必須成分の他にも、熱硬化性樹脂に用いられる各種硬化剤、硬化触媒(反応促進剤や反応開始剤等)、反応性希釈剤、未反応性希釈剤、各種変性剤、増粘剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の熱安定剤等を添加することができる。
4.ボンド磁石
上記ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、射出プレス成形法またはトランスファー成形法などの成形法により成形することによりボンド磁石を製造することができる。
上記のボンド磁石用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を樹脂バインダーとする場合、射出成形によることが好ましい。熱可塑性樹脂を配合したボンド磁石用組成物は、180〜200℃で混練後、溶融温度以上(ポリアミド樹脂であれば、例えば210〜220℃)に加温したシリンダー中で組成物を溶融し、796kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形し、冷却後、固化した成形物を取り出せばよい。
また、熱硬化性樹脂と磁石合金粉末を含む組成物を用いる場合は、流れ性のある状態で組成物を金型のキャビティー内に供給し、その後、樹脂の熱硬化温度以上に加熱し、得られた成形体を常温で取り出す。
射出成形法においては、一般に、表面被膜を付与しない希土類−鉄−窒素系磁石粉末を使用した場合、磁石合金粉末と特定の樹脂バインダーとを混練して射出成形する際に、ポリアミド樹脂の場合には混練トルクが高くなり、逆にポリフェニレンサルファイド樹脂の場合には混練トルクが激減するため、いずれの場合にも成形が困難となることがあるが、本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を使用した場合は、問題なく成形することができる。さらに、本発明において優れた磁気特性を引き出すために、微粒化された磁石粉末自体が燐酸塩被膜で均一に被覆され、安定化されていることが好ましい。
また、圧縮成形法により成形を行う場合には、溶剤等で液状化した熱硬化性樹脂を本発明の磁石合金粉末と攪拌しながら混合して得られるボンド磁石用組成物を用いる。
以上のようにして得られた本発明に係る希土類−鉄−窒素系ボンド磁石は、優れた耐候性と高磁気特性を備えるので、用途範囲が広く、産業上の利用性の高いものである。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
(1)成分
希土類−鉄系磁石粉末:
・SmFeN合金粉末(粗粉)[住友金属鉱山(株)製、平均粒径:20μm]
・NdFeB系合金粉末[マグネクエンチインターナショナル製、MQP(登録商標)−B]
被膜成分:
<燐酸>
・85%オルト燐酸水溶液[関東化学(株)製]
<フェノール化合物>
・1、4−ジヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム
・1、4−ジヒドロキシナフタレン
・没食子酸
・1、4−ジヒドロ−9、10−アントラセンジオール
・タンニン酸
・カテキン
・アントシアニン
・ルチン
バインダー樹脂:
・ポリアミド12(PA12、宇部興産(株)製)
・ポリフェニレンサルファイド(PPS、大日本インキ化学工業(株)製)
(2)評価方法
(2−1)磁石粉表面被膜組成の分析
粉末表面に被膜を形成した希土類−鉄系磁石粉末を、バインダーは使わずに面圧100MPaをかけて直径10mm厚みが3mmの圧粉体を作製し導電性両面テープ上に固定した。
XPSによる表面組成分析を行うため、分光装置としてESCALAB220i−XL(VG Scientific社製)を用い、励起源として単色化したAlのKα線を使い分析領域600μmφとしている。測定結果である光電子分光スペクトルにおいて、Feは2p3/2、Pは2s、Oは1s、REは3d5/2、Cは1sの結合エネルギーピークに注目してそれぞれ面積強度を求め、VG Scientific社が提供する相対感度係数で補正した上で、合計が100原子%となるようにして被膜組成を算出した。
(2−2)流動性(メルトインデックス(MI)法)
東洋精機(株)製メルトインデクサーを用い、ポリアミド12(PA12)については250°C、ポリフェニレンサルファイド(PPS)については300°Cの加熱温度、荷重:21.6kgで、ダイス:直径2.1mm×厚さ8mmの中を所定重量のコンパウンドが通過する所要時間から、流動性(cc/sec)を評価した。
[実施例1〜4]
SmFeN合金粉末を用いて、次のように燐酸を含む溶液による処理、次いでフェノール系化合物と燐酸を含む液による処理を行って、表面に被膜を形成した。
(第一の工程)
SmFeN合金粉末3kgを、脱水エタノール4kgと表1に示す第一の工程の処理液との混合溶液中で、媒体攪拌ミルを用いて平均粒径2.0μmまで粉砕した。
(第二の工程)
燐酸を含む溶液と接触させ、粉砕したSmFeN合金粉末スラリーをミキサーに投入し減圧下で、表1に示す第二の工程の処理温度まで昇温し2時間保持して乾燥した。
(第三の工程)
表1に示す第三の工程の、フェノール系化合物と燐酸を含む処理液を脱水エタノール3kgに分散し、第二の工程を経て得られた、冷却されたSmFeN合金粉末に加えて、撹拌容器で30分攪拌した。
(第四の工程)
引き続き、減圧下で表1に示す第四の工程の処理温度まで昇温し2時間保持して乾燥した。
(分析・評価)
乾燥して冷却後に回収した磁石粉末について、X線光電子分光装置で表面被膜組成を分析した。その結果を表3に示す。また上記実施例で得られた磁石粉末について、透過型電子顕微鏡にて表面被膜の厚さを確認したところ、すべての試料について被膜厚さが10〜50nmであった。
次に得られた磁石粉末を表3に示すバインダー樹脂(ポリアミド)と混合し、ラボプラストミルで30分間混練しボンド磁石用樹脂組成物を得た。次にこの樹脂組成物を射出成形して40×8×2mmの成形品を得て、三点曲げによる曲げ強さを評価した。混練物の磁粉率、バインダー樹脂、混練温度を表3に示す。また混練30分での混練トルクと、得られた樹脂組成物の流動性Q値を表3に示す。さらに射出成形の温度と得られた成形体の曲げ強さを表3に示す。
[比較例1〜6,16,17]
上記実施例1に対して、SmFeN合金粉末を用いて、表2の条件で、燐酸塩処理のみ行い、フェノール化合物処理を行わないか、燐酸塩処理を二段で行って磁石粉末に被膜を形成した。上記実施例1と同様にして分析評価し、表4の結果を得た。
[実施例5〜8]
NdFeB系合金粉末を用いて、次のように燐酸を含む溶液による処理、次いでフェノール系化合物と燐酸を含む液による処理を行って、表面に被膜を形成した。
(第一の工程)
NdFeB系合金粉末3kgを、脱水エタノール4kgと表1に示す第一の工程の処理液との混合溶液中で、ミキサーを用いて30分間攪拌した。
(第二の工程)
燐酸を含む溶液と接触させ、NdFeB系合金粉末スラリーを減圧下で、表1に示す第二の工程の処理温度まで昇温し2時間保持して乾燥した。
(第三の工程)
表1に示す第三の工程の処理液を脱水エタノール3kgに分散し、冷却されたNdFeB系合金磁石粉末に加えて30分攪拌した。
(第四の工程)
減圧下で表1に示す第四の工程の処理温度まで昇温し2時間保持して乾燥した。冷却後に回収した磁石粉末について、X線光電子分光装置で表面被膜組成を分析した。その結果を表3に示す。
また、これらの磁石粉末について、透過型電子顕微鏡にて表面被膜の厚さを確認したところ、実施例すべての試料について被膜厚さは10〜90nmだった。
次に得られた磁石粉末を表3に示すバインダー樹脂(PPS又はPA12)と混合し、ラボプラストミルで30分間混練しボンド磁石用樹脂組成物を得た。次にこの樹脂組成物を射出成形して40×8×2mmの成形品を得て、三点曲げによる曲げ強さを評価した。
混練物の磁粉率、バインダー樹脂、混練温度を表3に示す。また混練30分での混練トルクと、得られた樹脂組成物の流動性Q値を表3に示す。さらに射出成形の温度と得られた成形体の曲げ強さを表3に示す。
[比較例7〜15,18、19]
上記実施例5に対して、NdFeB系合金粉末を用いて、表2の条件で、燐酸塩処理のみを行うか、燐酸塩処理、フェノール化合物処理いずれも行なわないか、あるいは燐酸塩処理を二段で行って磁石粉末に被膜を形成した。
また、上記実施例5に対して、燐酸塩処理せず、表2のようにフェノール化合物処理のみを行って磁石粉末に被膜を形成した。同様にして分析評価し、表4の結果を得た。

Figure 2018009200
Figure 2018009200
Figure 2018009200
Figure 2018009200
「評価」
(SmFeN磁石粉末)
比較例1〜6では磁石粉末に燐酸塩処理のみ行いフェノール化合物処理を行わないか、燐酸塩処理を二段で行って磁石粉末に被膜を形成したために、X線光電子分光法で測定した表面被膜組成が、Fe/RE比が20以上から外れ、しかもPが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、Cが5〜30原子%のいずれかの範囲を外れるSmFeN磁石粉末となったので、混練トルクが3.9kg−m以上になり、流動性評価ではダイスから樹脂組成物が流れにくくQ値が極めて低くなった。
また、比較例16〜17では、磁石粉末に燐酸塩とフェノール化合物による処理を行ったので磁石粉末の被膜中、PとOとCの含有量が増えたが、一段で形成したために、表面被膜組成は、Fe/RE比が20未満になり、Cが5原子%未満のSmFeN磁石粉末となったので、混練トルクが3.9kg−mを超え、流動性評価ではダイスから樹脂組成物が流れにくくQ値が低くなった。
これに対して、実施例1〜4では、磁石粉末に燐酸塩処理した後、さらに燐酸を含む溶液にフェノール系化合物を添加した処理液による処理を行って、表面に被膜を形成したために、第3の工程でフェノール系化合物を添加しないものに比べ、混練トルクがより低く抑えられている。また、流動性Q値も、第3の工程でフェノール系化合物を添加しないものに比べ、高くなって成形性が一層向上している。
(NdFeB系磁石粉末)
PA12をバインダー樹脂とした場合の結果を表2で確認すると、燐酸塩処理のみを行った比較例8,13、燐酸塩処理を二段で行った比較例9,10、燐酸塩処理、フェノール化合物処理いずれも行なわなかった比較例15、フェノール化合物処理のみを行った比較例18のとおり、混練トルクが時間と共に上昇し、流動性評価でもダイスから樹脂組成物が流れ出さないか、極めて流れにくく、所期の効果が得られなかった。
たとえば比較例15のように磁石粉末を表面処理しないと、混練トルクが時間と共に上昇し30分の時点で8.9kg−mとなった。流動性評価でもダイスから樹脂組成物が流れ出さず、Q値は0となった。また、表面にFe、P、O、Nd、Cを含む被膜を形成しても、Fe/RE比が20以上、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、Cが5〜30原子%の範囲のいずれかを満たさない比較例8〜10、13では、混練トルクが4.7kg−mまでしか下がらず、Q値は0となり、流動性が悪くなった。
また、比較例18では磁石粉末に燐酸塩とフェノール化合物による処理のみを行って磁石粉末に被膜を形成したために、X線光電子分光法で測定した表面被膜組成が、Fe/RE比が20以上から外れ、Pが7〜25原子%、Cが5〜30原子%の範囲を外れるNdFeB磁石粉末となったので、混練トルクが3.9kg−mを超えたり、流動性評価ではダイスから樹脂組成物が流れにくくQ値が低くなった。
これに対して、実施例5、8では磁石粉末にまず燐酸塩処理した後、さらに、第三の工程で燐酸を含む溶液にフェノール系化合物を添加したため混練トルクが2.7kg−mまで抑えられ、Q値が0.25cc/sとなり流動性が向上し成形性が改善されている。
一方、バインダー樹脂としてPPSを使った場合には、比較例7、11,12、14、19に示した通り、上記のPA12の場合と挙動が異なった。まず比較例14のように表面処理しなかった場合、混練トルクが時間と共に低下し30分の時点でほとんど0kg−mとなった。流動性評価でQ値は1.4cc/sと極めて大きくなった。これらの結果はPA12の場合と比べると良好のように見えたが、樹脂組成物の溶融粘性が低すぎて磁石粉末とPPSが分離し射出成形性が悪化していた。そして成形品の曲げ強さは38MPaだった。
表面にFe、P、O、Ndを含む被膜を形成してもCを含まず、Fe/RE比が20以上、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下(0を除く)、Cが5〜30原子%の範囲とならなかった比較例7、11、12では、混練トルクが最大で0.6kg−mまでしか上がらず、Q値は0.79以上となったが、射出成形性は悪く、成形品の曲げ強さは48MPaまでしか上がらなかった。
これに対して、実施例6と7では、燐酸溶液で処理した後、燐酸を含む溶液にフェノール系化合物を添加した処理液による処理を行って、表面に被膜を形成したために、混練トルクが1.4kg−m、Q値が0.29、0.31cc/sとなるとともに、磁石粉末とPPS樹脂の分離のない良好な射出成形性が得られた。また、曲げ強さは79、77MPaと大きく向上した。
以上の結果から、磁石粉末に燐酸溶液で処理した後、燐酸を含む溶液にフェノール系化合物を添加した処理液による処理を行って、表面に被膜を形成すると、X線光電子分光法で測定した表面被膜組成が、Fe/RE比が20以上、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、Cが5〜30原子%の範囲の粉末となるので、これを使うと、混練トルクの時間的な低下が抑制され、Q値が向上して射出成形ができるようになり、曲げ強さが向上することが分かる。
本発明の磁石粉末を用いて得られる樹脂組成物は、ボンド磁石の材料として使用でき、小型で薄くかつ高強度の電子部品の製造に有用である。

Claims (6)

  1. 粉末表面に被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末において、
    前記被膜は、鉄(Fe)、燐(P)、酸素(O)、希土類元素(RE)、炭素(C)を含有し、X線光電子分光法で表面被膜組成を分析して、Fe、P、O、RE、Cの合計を100原子%とした時、Fe/RE比が20以上であり、Pが7〜25原子%、Oが45〜70原子%、REが2原子%以下、かつCが5〜30原子%であり、また膜厚が1nm以上100nm以下であることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末。
  2. 請求項1に記載の、粉末表面に被膜を有するボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法であって、
    燐酸を含む溶液と希土類−鉄系磁石粉末とを粉砕容器又は撹拌容器中で接触させる第一の工程と、
    接触処理した後の希土類−鉄系磁石粉末を不活性ガス中または真空中で、100℃以上300℃以下の温度範囲で加熱処理する第二の工程と、
    第二の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末を、フェノール系化合物と燐酸を含む溶液と接触させる第三の工程と、
    第三の工程で得られた希土類−鉄系磁石粉末を不活性ガス中または真空中で、50℃以上200℃以下の温度範囲で加熱処理する第四の工程と、
    を備えることを特徴とするボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法。
  3. フェノール系化合物が、フェノール系モノマー、フェノール系オリゴマー、フェノール重合体、多価フェノールから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法。
  4. 第四の工程において、加熱処理の温度が、70℃以上120℃以下の範囲であることを特徴とする請求項2に記載のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末の製造方法。
  5. 請求項1に記載のボンド磁石用希土類−鉄系磁石粉末と、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から選ばれる樹脂バインダーとを含むボンド磁石用樹脂組成物であって、
    前記樹脂バインダーの配合量は、熱可塑性樹脂の場合、前記磁石粉末100重量部に対して、5〜50重量部で、また熱硬化性樹脂の場合は、3〜50重量部であることを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物。
  6. 請求項5に記載のボンド磁石用樹脂組成物を成形してなるボンド磁石。
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WO2023119908A1 (ja) * 2021-12-24 2023-06-29 愛知製鋼株式会社 希土類磁石粉末、その製造方法およびボンド磁石
WO2023119612A1 (ja) * 2021-12-24 2023-06-29 愛知製鋼株式会社 希土類磁石粉末およびその製造方法

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