以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による燃料電池システムの概略構成図である。
図示のように、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、カソード給排機構12と、アノード供給機構14と、コンプレッサ64及びタービン62を有する過給器としてのターボ過給機16と、加熱/冷却機構17と、HFR測定装置18と、負荷装置19と、コントローラ20と、を有している。
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池を積層した積層電池である。燃料電池スタック10は、アノード供給機構14からのアノードガス(水素)の供給及びカソード給排機構12からのカソードガス(空気)の供給を受けて、車両の走行に必要な電力を発電する。この発電電力は、コンプレッサ64等の各種の補機類や、図示しない車輪駆動用の走行モータで使用される。また、燃料電池スタック10の正極端子及び負極端子には、HFR測定装置18と負荷装置19が接続されている。
カソード給排機構12は、カソードガス供給通路22と、カソードガス排出通路24と、を備えている。
カソードガス供給通路22は、燃料電池スタック10に供給される空気が流れる通路である。カソードガス供給通路22の一端はコンプレッサ64の吸気入口に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
カソードガス排出通路24は、燃料電池スタック10から排出されるカソード排ガスが流れる通路である。カソードガス排出通路24の一端は燃料電池スタック10に接続され、他端はタービン62に接続されている。
そして、カソードガス供給通路22には、上流から順に、エアフローメータ26と、空気圧力センサ28が設けられている。また、カソードガス排出通路24には、上流から順に、スタック出口温度センサ30と、燃焼器32と、ノズルベーン34と、が設けられている。
エアフローメータ26は、カソードガス供給通路22において、ターボ過給機16のコンプレッサ64の吸気入口に設けられている。エアフローメータ26は、コンプレッサ64に吸入される空気の流量(以下では「吸入流量」とも記載する)を検出する。エアフローメータ26で検出された吸入流量検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
空気圧力センサ28は、コンプレッサ64から吐出されたカソードガス供給通路22の圧力(以下では「空気圧力」とも記載する)を検出する。空気圧力センサ28で検出された空気圧力検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
また、カソードガス供給通路22において、コンプレッサ64と空気圧力センサ28の間には、カソードガス排出通路24のスタック出口温度センサ30と燃焼器32の間に接続されるバイパス通路36が接続されている。
バイパス通路36は、コンプレッサ64によりカソードガス供給通路22に吸入される空気の一部を、燃料電池スタック10をバイパスさせてカソードガス排出通路24へ供給する。バイパス通路36には、バイパス弁38が設けられている。バイパス弁38は、バイパス通路36を流れる空気の流量を調節する。
バイパス弁38は、コントローラ20によって開閉制御される。例えば、コンプレッサ64によりカソードガス供給通路22に吸入される空気の流量が燃料電池スタック10により発電のために要求される空気の流量を上回る場合に、コントローラ20はバイパス弁38の開度を増加させる。これにより、バイパス流量が増加して、燃料電池スタック10内の電解質膜の過乾燥が防止される。
スタック出口温度センサ30は、燃料電池スタック10から排出されるカソード排ガスの温度(以下、スタック出口温度とも記載する)を検出する。スタック出口温度センサ30で検出されたスタック出口温度検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
燃焼器32は、水素とカソード排ガスを図示しないミキサで混合してなる混合ガスを、白金等による触媒作用で触媒燃焼させ、燃焼後に残ったガス(燃焼ガス)を排出する。この燃焼器32には、アノード供給機構14の高圧タンク40から水素が供給される一方で、燃料電池スタック10からのカソード排ガス及びバイパス通路36からの空気が混合されてなるカソード排ガスが供給される。
なお、本実施形態では、燃焼器32として触媒燃焼方式の燃焼器が用いられることで、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器を用いる場合と比較して、窒素化合物(Nox)の発生が抑制される。しかしながら、拡散燃焼方式の燃焼器や希薄予混合燃焼方式の燃焼器等の触媒燃焼器以外の燃焼器を用いても良い。
また、カソードガス排出通路24における燃焼器32とノズルベーン34の間には、タービンバイパス通路39が接続されている。このタービンバイパス通路39は、燃焼器32からの燃焼ガスの一部を、加熱/冷却機構17に供給する。
すなわち、燃料電池スタック10の暖機時などにおいて、燃焼ガスの一部を加熱/冷却機構17に供給し、燃焼ガスの熱で燃料電池スタック10を暖めることで暖機を促進することができる。また、タービンバイパス通路39から加熱/冷却機構17へ供給されて加熱/冷却機構17で熱が回収された後の燃焼ガスは、後述するタービン排気通路68に合流して燃料電池システム100の外部に排出される。
ノズルベーン34は、タービン62に供給する燃焼ガスの圧力を調節する。ノズルベーン34の開度(ノズルリフト量)は、コントローラ20により制御される。ノズルベーン34は、開放状態でタービン62への入口流路の断面積が増加し、カソードガス排出通路24からタービン62に流入する燃焼ガスの圧力損失が相対的に小さくなる。一方、ノズルベーン34の閉塞状態では、タービン62への入口流路の断面積が相対的に減少し、圧力損失が大きくなる。すなわち、ノズルベーン開度が増大するほど、システムの運転圧力を下げることができる。
次に、アノード供給機構14について説明する。本実施形態におけるアノード供給機構14は、高圧タンク40と、水素ヒータ42と、スタック用水素供給通路44と、燃焼器用水素供給通路46と、を備えている。
高圧タンク40は、燃料電池スタック10及び燃焼器32に供給する水素を高圧状態に保って貯蔵するガス貯蔵容器である。
水素ヒータ42は、加熱/冷却機構17から供給される熱により高圧タンク40からの水素を加熱する熱交換器である。具体的に、高圧タンク40からの水素は、加熱/冷却機構17における燃料電池スタック10の冷却水と熱交換されることで加熱される。
スタック用水素供給通路44は、高圧タンク40から排出される水素を燃料電池スタック10のアノード極に供給する通路である。スタック用水素供給通路44の一端は水素ヒータ42に接続され、他端は燃料電池スタック10に接続される。
また、スタック用水素供給通路44には、スタック供給水素調圧弁48が設けられている。スタック供給水素調圧弁48は、コントローラ20により開閉制御され、燃料電池スタック10へ供給される水素の圧力が調節される。
一方、燃焼器用水素供給通路46は、高圧タンク40から排出される水素の一部を、燃焼器32に供給する通路である。燃焼器用水素供給通路46は、その一端がスタック用水素供給通路44に連通して分岐しており、他端が燃焼器32に連結されている。
また、燃焼器用水素供給通路46には、燃焼器用水素供給通路46内の水素の圧力、すなわち燃焼器32へ供給される水素の圧力(以下では、供給水素圧力とも記載する)を検出する水素圧力検出センサ47が設けられている。水素圧力検出センサ47による供給水素圧力検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
また、燃焼器用水素供給通路46には、燃焼器32への水素供給量を任意に調節する燃焼器水素供給弁49が設けられている。燃焼器水素供給弁49は、燃焼器32への水素供給量を適宜調節する弁である。燃焼器水素供給弁49は、コントローラ20によりその開度が調節される。燃焼器水素供給弁49は、例えば、比例ソレノイド等で構成することができる。
なお、本実施形態にかかる燃料電池システム100において、燃料電池スタック10からのアノード排ガスは、たとえば循環型又は非循環型等の図示しないアノード排出系により処理することができる。
次に、ターボ過給機16について説明する。ターボ過給機16は、電動モータ60と、タービン62と、コンプレッサ64と、を備えている。
電動モータ60は、回転駆動軸66の一方側でコンプレッサ64に接続されるとともに、回転駆動軸66の他方側でタービン62に接続される。電動モータ60は、図示しないバッテリ、及び燃料電池スタック10から電力の供給を受けてコンプレッサ64を回転駆動する電動機としての機能(力行モード)、及び外力によって回転駆動されることで発電し、バッテリ等に電力を供給する発電機としての機能(回生モード)を有する。電動モータ60は、図示しないモータケースと、モータケースの内周面に固定されるステータと、ステータの内側に回転可能に配置されるロータと、を有し、ロータは上記回転駆動軸66に一体に取り付けられる。
また、電動モータ60には、回転数センサ72が設けられている。回転数センサ72は、電動モータ60の回転速度を検出する。回転数センサ72で検出された電動モータ回転数検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
タービン62は、燃焼器32から供給される燃焼ガスによって回転駆動される。そして、タービン62は、この回転駆動力を、回転駆動軸66を介してコンプレッサ64に出力する。すなわち、タービン62の回収動力(以下、「タービン回収動力」とも記載する)で回転駆動軸66を介して直接コンプレッサ64を回転させることができる。
なお、タービン62の回収動力により電動モータ60を駆動しても良い。また、タービン62からの回収動力で電動モータ60を駆動することで電動モータ60の回生運転を行うことができる。さらに、タービン62の駆動に使用された後の燃焼ガスは、タービン排気通路68を介して排出される。
また、コンプレッサ64の要求動力が比較的大きく、タービン回収動力を増加させる必要がある場合などには、タービン62へ流入する燃焼ガスの流量(以下では、「タービンガス入口流量」とも記載する)、温度(以下では、「タービン入口温度」)、及び圧力を増加させてコンプレッサ64へ好適に動力を供給することができる。また、上述したノズルベーン34のノズルリフト量の調節により、タービン62へ供給される燃焼ガスの圧力を調節することでタービン62による回収動力を調節することができる。
コンプレッサ64は、電動モータ60及びタービン62と回転駆動軸66を介して接続されている。コンプレッサ64は、電動モータ60及びタービン62の少なくとも何れか一方により回転駆動軸66を介して回転駆動され、外部から燃料電池システム100内に空気を吸入する。そして、コンプレッサ64は、吸入した空気をカソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10のカソード極に供給する。したがって、本実施形態では、コンプレッサ64は、タービン62とは独立した電動モータ60と、タービン62により駆動される。
次に、加熱/冷却機構17について説明する。加熱/冷却機構17は、冷却水循環流路80と、熱交換器82と、冷却水循環ポンプ84と、を有している。加熱/冷却機構17では、図示しないラジエータ等の冷却装置により、冷却水循環流路80内の冷却水の温度が制御される。
冷却水循環流路80は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aから冷却水出口10bの間で冷却水を循環させる通路である。すなわち、冷却水循環流路80を循環する冷却水は、燃料電池スタック10の冷却水入口10aから燃料電池スタック10内に供給されるとともに、燃料電池スタック10の冷却水出口10bから排出される方向に流れる。
さらに、冷却水循環流路80には、上述した水素ヒータ42に冷却水を供給する冷却水分岐路86が接続されている。したがって、冷却水循環流路80から冷却水分岐路86に流れる冷却水により、高圧タンク40から燃料電池スタック10や燃焼器32に供給される水素が加熱されることとなる。
また、冷却水循環流路80には、燃料電池スタック10の冷却水出口10bの近傍に水温センサ88が設けられている。水温センサ88は、燃料電池スタック10から排出される冷却水の温度(以下では、「冷却水温度」とも記載する)を検出する。水温センサ88で検出された冷却水温度検出値の信号は、コントローラ20に入力される。
なお、本実施形態では、水素ヒータ42により水素が燃料電池スタック10の冷却水と熱交換されるので、冷却水温度は、実質的に燃焼器32へ供給される水素の温度と同一とみなすことができる。
熱交換器82は、冷却水循環流路80を流れる冷却水と上述したタービンバイパス通路39からの排ガスとの間で熱交換を行う。
冷却水循環ポンプ84は、冷却水循環流路80で冷却水を循環させる。なお、冷却水循環ポンプ84の出力は、コントローラ20により制御される。
次にHFR測定装置18について説明する。HFR測定装置18は、燃料電池スタック10内の電解質膜の湿潤状態を取得する湿潤状態取得装置として機能する。HFR測定装置18は、燃料電池スタック10に接続され、電解質膜の湿潤状態と相関のある燃料電池スタック10の内部インピーダンスを測定する。
一般に、電解質膜の含水量(水分)が少なくなるほど、すなわち電解質膜が乾き気味になるほど、内部インピーダンスは大きくなる。一方、電解質膜の含水量が多くなるほど、すなわち電解質膜が濡れ気味になるほど、内部インピーダンスは小さくなる。このため、本実施形態では、電解質膜の湿潤状態を示すパラメータとして、燃料電池スタック10の内部インピーダンスが用いられる。
そして、HFR測定装置18は、例えば、電解質膜の電気抵抗を検出するのに適した高周波数の交流電流を供給し、出力される交流電圧の振幅を当該交流電流の振幅で除することにより、内部インピーダンスを算出する。
以下では、この高周波数の交流電圧及び交流電流に基づいて算出される内部インピーダンスをHFR(High Frequency Resistance)とも記載する。HFR測定装置18は、算出したHFR値をHFR測定値としてコントローラ20に出力する。なお、本実施形態では、HFR測定装置18を省略しても良い。
負荷装置19は、燃料電池スタック10から供給される発電電力を受けて駆動する。負荷装置19としては、例えば、車両を駆動する走行モータや電動モータ60等の各種補機類などが挙げられる。
なお、負荷装置19は、その作動に必要な電力を、燃料電池スタック10に対する要求電力としてコントローラ20に出力する。
負荷装置19と燃料電池スタック10との間には、電流センサ51と電圧センサ52とが配置される。
電流センサ51は、燃料電池スタック10の正極端子と負荷装置19の正極端子との間の電源線に接続される。電流センサ51は、燃料電池スタック10から負荷装置19に出力される電流を検出する。以下では、燃料電池スタック10から負荷装置19に出力される電流のことを「スタック電流」とも記載する。電流センサ51は、スタック電流検出値の信号をコントローラ20に出力する。
電圧センサ52は、燃料電池スタック10の正極端子と負極端子との間に接続される。電圧センサ52は、正極端子と負極端子との間の電圧である端子間電圧を検出する。以下では、燃料電池スタック10の端子間電圧のことを「スタック電圧」という。電圧センサ52は、スタック電圧検出値の信号をコントローラ20に出力する。
さらに、上述のように構成される燃料電池システム100は、当該システムを統括的に制御するコントローラ20を有している。
コントローラ20は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ20には、燃料電池システム100の運転状態検出部からの信号が入力される。具体的に、コントローラ20は、運転状態検出部として、HFR測定装置18、エアフローメータ26、空気圧力センサ28、スタック出口温度センサ30、水素圧力検出センサ47、電流センサ51、電圧センサ52、回転数センサ72、及び水温センサ88を有している。そして、コントローラ20には、これらからの信号が入力される。
さらに、コントローラ20には、燃料電池スタック10に接続された負荷装置19による負荷に応じた要求電力の信号が、負荷装置19の運転制御装置から入力される。負荷装置19による負荷には、例えば、図示しないアクセルペダルセンサで検出されるアクセルペダルの操作量に基づく走行用電力(システム要求出力)、電動モータ60や各種ポンプ及びバルブ等の、燃料電池システム100を作動させるための補機類で消費される電力(補機消費電力)が含まれる。
コントローラ20は、上記要求負荷に基づいて燃料電池システム100への要求発電電力を算出する。すなわち、燃料電池スタック10に対する要求発電電力は、燃料電池システム100の外部に出力される走行用電力等のシステム要求出力と、補機消費電力の和に相当する。本実施形態では、補機消費電力に含まれる電動モータ60の消費電力分を、タービン62の回収動力でアシストする。
そして、コントローラ20は、予め定められている燃料電池スタック10のIV特性に基づいて、要求発電電力からスタック電流の目標値である目標スタック電流を算出する。
コントローラ20は、上記各入力信号等に基づいて、ノズルベーン34のノズルリフト量、バイパス弁38の開度、スタック供給水素調圧弁48の開度、燃焼器水素供給弁49の開度、電動モータ60の出力(トルク又は動力)、及び冷却水循環ポンプ84の出力を制御する。
以下では、本実施形態にかかる燃料電池システム100の制御態様について説明する。なお、本実施形態においては、「出力」に相当する語として「動力」及び「電力」という語を、それらが機械的エネルギー及び電気的エネルギーのいずれも意味する用語として区別すること無く用いる。
図2は、燃料電池システム100の全体的な制御の概要を説明するフローチャートである。
図示のように、ステップS100において、コントローラ20は、負荷装置19による要求電力の信号を読み込む。
ステップS110において、コントローラ20は目標スタック電流を演算する。
図3は、目標スタック電流の演算の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS111において、コントローラ20は補機の消費電力を推定する。具体的には、コントローラ20は、回転数センサ72による電動モータ回転数検出値等から電動モータ60の消費電力の推定値を算出する。また、冷却水循環ポンプ84や燃焼器水素供給弁49等の他のアクチュエータの消費電力又はその推定値を電動モータ60の消費電力の推定値に加算した値を補機の消費電力推定値としても良い。
ステップS112において、コントローラ20は、目標スタック電力を演算する。具体的には、負荷装置19により含まれる、上述のアクセルペダルの操作量に基づく走行用電力としてのシステム要求出力に、ステップS111で算出した補機消費電力の推定値を加算して目標スタック電力を演算する。
ステップS113において、コントローラ20は、実スタック電力を演算する。具体的には、コントローラ20は、電流センサ51によるスタック電流検出値と電圧センサ52によるスタック電圧検出値を乗じて実スタック電力を演算する。
ステップS114において、コントローラ20は、目標スタック電流を演算する。具体的には、コントローラ20は、IV特性を参照しつつ、ステップS113で演算した実スタック電力が、ステップS112で演算した目標スタック電力に近づくように、目標スタック電流を定める。
図2に戻り、ステップS110で目標スタック電流が演算されると、ステップS120の冷却系操作量の演算、ステップS130の空気系操作量の演算、及びステップS140の燃料系操作量演算が行われる。
図4は、冷却系操作量の演算の流れを示すフローチャートである。
先ず、ステップS121において、コントローラ20は、燃料電池スタック10の電解質膜の湿潤状態を好適に制御する観点から、HFR測定装置18によるHFR測定値が目標スタック電流に基づいて算出される目標HFRに近づくように、湿潤制御要求目標空気流量及び湿潤制御要求目標空気圧力を演算する。
ステップS122において、コントローラ20は、各冷却系アクチュエータの操作量を演算する。例えば、コントローラ20は、上記目標HFR等に基づいて、冷却水循環流路80に設けられる図示しないラジエータの目標ラジエータファン回転数や図示しない三方弁8の目標開度を算出する。
次に、空気系操作量の演算の流れについて説明する。
図5は、空気系操作量の演算の流れを示すフローチャートである。なお、本フローチャートの処理は、後述する図7及び図8のブロック図で説明する処理に相当する。
図示のように、ステップS131において、コントローラ20は、予め定められたマップに基づいて、目標スタック電流から、空気圧力の目標値である目標空気圧力を算出する。
ステップS132において、コントローラ20は、予め定められたマップに基づいて、目標スタック電流から吸入流量の目標値である目標空気流量を算出する。
ステップS133において、コントローラ20は、各アクチュエータの操作量を演算する。具体的に、コントローラ20は、ステップS131で算出した目標空気圧力、ステップS132で算出した目標空気流量、エアフローメータ26による吸入流量検出値、後述するタービン入口温度の前回値、及び空気圧力センサ28による空気圧力検出値に基づいて、ノズルベーン34の指令ノズルリフト量、電動モータ60の指令トルク、及び目標タービン入口温度を算出する。
ステップS134において、コントローラ20は、燃焼器水素供給弁49の開度の目標値である目標水素供給弁開度を演算する。具体的に、コントローラ20は、スタック出口温度センサ30によるスタック出口温度検出値、ステップS133で演算された目標タービン入口温度、エアフローメータ26による流量検出値、電流センサ51によるスタック電流検出値、空気圧力センサ28による空気圧力検出値、及び水温センサ88による冷却水温度、水素圧力検出センサ47による供給水素圧力検出値に基づいて、目標水素供給弁開度を演算する。
特に、本実施形態では、コントローラ20は、スタック出口温度に基づく熱示性量として、燃料電池スタック10のカソード出口から排出されるカソード排ガスのエンタルピ(以下では、「燃焼器入口ガス比エンタルピ」とも記載する)を算出する。なお、本実施形態で燃焼器入口ガス比エンタルピとは、燃料電池スタック10から排出されたカソード排ガスの単位流量あたりの熱量を意味する。また、本実施例ではスタック出口温度としてスタック出口温度センサ30の検出値を用いているが、冷却水温度とスタック出口空気温度が近いシステムでは、水温センサ88の検出値を用いても良い。
また、コントローラ20は、タービン入口温度に基づく熱示性量として、タービン62に供給される燃焼ガスのエンタルピ(以下では、「タービン入口ガス比エンタルピ」とも記載する)を算出する。なお、本実施形態でタービン入口ガス比エンタルピとは、燃焼器32から排出された燃焼ガスの単位流量あたりの熱量を意味する。
さらに、コントローラ20は、スタック電流検出値から所定の酸素消費量演算式に基づいて、燃料電池スタック10内の発電により消費される酸素の流量(以下では、「消費酸素流量」とも記載する)を算出する。
そして、コントローラ20は、流量検出値、燃焼器入口ガス比エンタルピ、タービン入口ガス比エンタルピ、及び消費酸素流量に基づいて燃焼器32へ供給する水素の供給流量の目標値である目標水素流量を演算する。
さらに、コントローラ20は、空気圧力検出値、供給水素圧力検出値、及び冷却水温度(水素温度)の検出値に基づいて、燃焼器水素供給弁49が最大開度である場合に当該燃焼器水素供給弁49を通過させることが可能な水素流量として、最大水素通過流量を算出する。
そして、コントローラ20は、この最大水素通過流量と目標水素流量に基づいて、目標水素供給弁開度を演算する。
図6は、燃料系操作量の演算の流れを示すフローチャートである。
図示のように、ステップS141において、コントローラ20は、目標スタック電流等に基づいて燃料電池スタック10に供給する水素圧力の目標値である目標供給水素圧力を演算する。
ステップS142において、コントローラ20は、目標供給水素圧力に基づいて、スタック供給水素調圧弁48の開度目標値である目標スタック供給水素調圧弁開度や図示しないパージ弁の開度等の燃料系アクチュエータの操作量を演算する。
図2に戻り、ステップS150において、コントローラ20は、上記ステップS120で演算した冷却系アクチュエータの操作量、上記ステップS130において演算した空気系アクチュエータの操作量、及び上記ステップS140で演算した燃料系アクチュエータの操作量に基づいて、冷却系アクチュエータ、空気系アクチュエータ、及び燃料系アクチュエータをそれぞれ制御する。
次に、本実施形態における燃料電池システム100における空気系の制御について、図7〜図12に示すブロック図を参照して詳細に説明する。なお、図7〜図12に示す各ブロックの機能は、コントローラ20により実現される。
図7は、燃料電池システム100における空気系制御全体の機能の概要を示すブロック図である。
図示のように、コントローラ20は、目標空気圧力演算部B101と、目標空気流量演算部B102と、空気系FB制御部B103と、ミニマムセレクト部B104と、燃焼器水素量制御部B105と、を有している。
目標空気圧力演算部B101には、図3に示す処理にしたがい演算された目標スタック電流が入力される。目標空気圧力演算部B101は、予め定められたマップに基づいて、目標スタック電流から目標空気圧力を演算する。さらに、目標空気圧力演算部B101は、演算した目標空気圧力を空気系FB制御部B103に出力する。
なお、空気系FB制御部B103に出力される目標空気圧力を、燃料電池スタック10内における電解質膜の湿潤状態やアノードオフガスを希釈するための希釈要求などのシステム内の種々の要求に応じて上限値や下限値をとるように補正することもできる。
目標空気流量演算部B102には、図3に示す処理にしたがい演算された目標スタック電流が入力される。目標空気流量演算部B102は、予め定められたマップに基づいて、目標スタック電流から目標空気流量を演算する。さらに、目標空気流量演算部B102は、演算した目標空気流量を空気系FB制御部B103に出力する。
なお、空気系FB制御部B103に出力される目標空気流量に対して、燃料電池スタック10内における電解質膜の湿潤状態やアノードオフガスを希釈するための希釈要求などのシステム内の種々の要求において上限値や下限値をとるように補正することもできる。
空気系FB制御部B103には、目標スタック電流、目標空気圧力、目標空気流量、吸入流量検出値、タービン入口温度前回値、電動モータ回転数検出値、及び空気圧力検出値が入力される。空気系FB制御部B103は、これら入力された値に基づいて、目標ノズルベーン開度、電動モータ指令トルク、及び目標タービン入口温度を演算する。
図8は、空気系FB制御部B103の詳細な機能を示すブロック図である。図示のように、空気系FB制御部B103は、タービン回収動力推定部B1031と、演算部B1032と、空気系アクチュエータ制御部B1033と、演算部B1034と、目標電動モータ出力演算部B1035と、回収動力/温度変換部B1036と、を有している。
図示のように、タービン回収動力推定部B1031には、空気圧力検出値、空気流量検出値、及び目標タービン入口温度前回値が入力される。タービン回収動力推定部B1031は、これら値及び図示しない記憶部に記憶されたタービン入口温度前回値からタービン回収動力の推定値(以下では、「推定タービン回収動力」とも記載する)を算出する。
具体的に、先ず、タービン回収動力推定部B1031は、以下に示す離散系における一時遅れの近似式(1)を用いてタービン入口温度の推定値Tt_in_eを求める。
ただし、
Tt
_in_e(n−1):タービン入口温度前回値[℃]
Tt
_in_t:目標タービン入口温度前回値[℃]
ts:時定数[sec]
t
samp:制御演算周期[sec]
である。なお、時定数tsは、実験等により予め定められる。
そして、タービン回収動力推定部B1031は、推定したタービン入口温度からタービン回収動力の推定値を算出する。具体的に、タービン回収動力推定部B1031は、以下の式(2)に基づいてタービン回収動力の推定値を算出する。
ただし、
PO
t_e:タービン回収動力の推定値 [kW]
Q
in:吸入流量検出値 [NL/min]
M
air:空気の式量 [g/mol]
cp
air:空気の定圧比熱 [kJ/(g・K)]
V
sta:標準状態における体積(=22.414) [L]
η
cp:タービン効率
T
t_in_e:タービン入口温度の推定値 [℃]
T
sta:標準状態における絶対温度(=273.15) [K]
P
t_in:タービン入口空気圧力 [kPa_a]
P
t_out:タービン出口空気圧力 [kPa_a]
γ:比熱比
60:秒分間の単位変換係数
1000:m
3とL(リットル)の単位変換係数
である。
タービン入口空気圧力Pt_inは、空気圧力検出値及び吸入流量検出値に基づいて算出される。
図9は、タービン入口空気圧力Pt_inの算出機能を示すブロック図である。タービン回収動力推定部B1031は、タービン入口空気圧力Pt_inの演算を行う機能として、図に示す圧損演算ブロックB201と、演算部B202と、を有している。
圧損演算ブロックB201には、吸入流量検出値が入力される。圧損演算ブロックB201は、吸入流量と圧損ΔPの関係を示す圧損テーブルを有している。圧損演算ブロックB201は、この圧損テーブルに基づいて、入力された吸入流量検出値から圧損ΔPを演算し、演算部B202に出力する。
演算部B202には、空気圧力検出値と圧損ΔPが入力される。演算部B202は、空気圧力検出値から圧損ΔPを減算してタービン入口空気圧力Pt_inを求める。
タービン出口空気圧力Pt_outとしては、例えば大気圧(≒101[kpa])を用いる。外気の圧力が変動する場合には、図示しない大気圧センサにより検出された圧力検出値をタービン出口空気圧力Pt_outとしても良い。
タービン効率ηcpは、タービン入口空気圧力Pt_in及びタービン出口空気圧力Pt_outに基づいて算出される。
図10は、タービン効率ηcpの算出機能を示すブロック図である。タービン回収動力推定部B1031は、タービン効率ηcpの算出を行う機能として、図に示す演算部B301と、タービン効率演算ブロックB302と、を有している。
演算部B301には、タービン入口空気圧力Pt_in及びタービン出口空気圧力Pt_outが入力される。演算部B301は、空気圧力比Pt_in/Pt_outを演算し、タービン効率演算ブロックB302を出力する。
タービン効率演算ブロックB302には、空気圧力比Pt_in/Pt_outが入力される。タービン効率演算ブロックB302は、空気圧力比Pt_in/Pt_outとタービン効率ηcpの関係を示すタービン効率マップを有している。タービン効率演算ブロックB302は、このタービン効率マップに基づいて、入力された空気圧力比Pt_in/Pt_outからタービン効率ηcpを演算する。
図8に戻り、タービン回収動力推定部B1031は、算出したタービン回収動力の推定値を演算部B1032に出力する。
演算部B1032には、推定タービン回収動力と、回転数センサ72からのモータ回転数検出値が入力される。演算部B1032は、推定タービン回収動力からモータ回転数検出値を除して、タービン62で回収されるトルクであるタービン回収トルクの推定値(以下では、「推定タービン回収トルク」とも記載する)を算出する。そして、演算部B1032は、算出した推定タービン回収トルクを減算部300に出力する。
空気系アクチュエータ制御部B1033には、目標空気圧力、目標空気流量、空気圧力検出値、及び吸入流量検出値が入力される。空気系アクチュエータ制御部B1033は、入力された空気圧力検出値及び吸入流量検出値が、それぞれ、目標空気圧力及び目標空気流量に近づくように、指令ノズルリフト量及び目標コンプレッサトルクを算出する。
また、空気系アクチュエータ制御部B1033は、算出した指令ノズルリフト量をノズルベーン34に出力するとともに、算出した目標コンプレッサトルクを減算部300に出力する。
減算部300は、空気系アクチュエータ制御部B1033で算出された目標コンプレッサトルクから演算部B1032で算出された推定タービン回収トルクを減算した値を電動モータ指令トルクとして、電動モータ60に出力する。
演算部B1034には、空気系アクチュエータ制御部B1033で算出された目標コンプレッサトルク、及び電動モータ回転数検出値が入力される。演算部B1034は、目標コンプレッサトルクに電動モータ回転数検出値を乗じて、コンプレッサ64の動力の目標値である目標コンプレッサ動力を算出する。演算部B1034は、目標コンプレッサ動力を減算部302に出力する。
目標電動モータ出力演算部B1035には、目標スタック電流が入力される。目標電動モータ出力演算部B1035は、目標スタック電流と電動モータ60に要求される出力である目標モータ動力の関係を示した目標モータ動力マップに基づき、目標モータ動力を算出する。
図9は、目標モータ動力マップの概要を示している。図に示すマップでは、本実施形態では、目標スタック電流が増加してI0に到達するまで、すなわち負荷が一定値に上昇するまでは目標モータ動力が一定値となるように設定されている。これにより、低負荷領域等のコンプレッサ64への要求動力が目標モータ動力より低い場合には、目標タービン回収動力がマイナスとなり、燃焼器32への燃料供給が停止されることとなる。
また、本実施形態では、目標スタック電流がI0に達した以降の高負荷領域においては、電動モータ60で生成する動力を減少させてタービン62からの回収動力で補うことができるので、目標モータ動力を減少させて電動モータ60の消費電力の低減を図ることで、システムのネット出力(車両の走行に使用することできる出力)の向上を図ることができる。
図8に戻り、目標電動モータ出力演算部B1035は、算出した目標モータ動力を減算部302に出力する。
減算部302は、演算部B1034で算出された目標コンプレッサ動力から目標電動モータ出力演算部B1035で算出された目標モータ動力を減算して目標タービン回収動力を算出する。減算部302は、目標タービン回収動力を回収動力/温度変換部B1036に出力する。
回収動力/温度変換部B1036には、目標タービン回収動力、目標空気圧力、及び目標空気流量が入力される。
回収動力/温度変換部B1036は、目標タービン回収動力、目標空気圧力、及び目標空気流量に基づいて、目標タービン入口温度を算出する。具体的に、回収動力/温度変換部B1036は、タービン回収動力推定部B1031で用いた式(2)を用いて、目標タービン回収動力、目標空気圧力、及び目標空気流量から目標タービン入口温度を算出する。
すなわち、式(2)のPOt_eに目標タービン回収動力を代入し、Qinに目標空気流量を代入する。そして、図8に示したタービン入口空気圧力Pt_inの算出ロジックにおいて、「空気圧力検出値」及び「吸入流量検出値」をそれぞれ、目標空気圧力及び目標空気流量に置き換えて、タービン入口空気圧力Pt_inを算出する。また、タービン出口空気圧力Pt_outとしては大気圧を用いる。このようにして得られた各値を式(2)に適用すれば、式(2)のTt_in_eを求めることができるので、これを目標タービン入口温度とすることができる。
回収動力/温度変換部B1036は、算出した目標タービン入口温度をミニマムセレクト部B104に出力する。
図7に戻り、ミニマムセレクト部B104には、空気系FB制御部B103から出力される目標タービン入口温度、及び許容上限温度が入力される。ここで、許容上限温度とは、部品の耐熱温度を考慮して定められるタービン入口温度の上限温度である。
ミニマムセレクト部B104は、目標タービン入口温度と許容上限温度の内の小さい方の値を、実際の目標タービン入口温度として燃焼器水素量制御部B105に出力する。なお、これらが同じ値である場合にはどちらを出力しても良い。以下では、この「実際の目標タービン入口温度」を単に「目標タービン入口温度」と記載する。
燃焼器水素量制御部B105には、目標タービン入口温度、吸入流量検出値、空気圧力検出値、スタック出口温度、スタック電流検出値、供給水素圧力、及び冷却水温度(水素温度)が入力される。
燃焼器水素量制御部B105は、入力された各値に基づいて、燃焼器水素供給弁49の開度の目標値である目標水素供給弁開度を算出し、燃焼器水素供給弁49の開度を目標水素供給弁開度に制御する。
図12は、燃焼器水素量制御部B105による目標水素供給弁開度の算出機能を説明するブロック図である。
図示のように、燃焼器水素量制御部B105は、燃焼器入口ガス比エンタルピ算出部B1051と、タービン入口ガス比エンタルピ算出部B1052と、電流/酸素流量変換部B1053と、目標水素流量算出部B1054と、最大水素通過流量算出部B1055と、目標水素供給弁開度算出部B1056と、を有している。
燃焼器入口ガス比エンタルピ算出部B1051には、スタック出口温度が入力される。燃焼器入口ガス比エンタルピ算出部B1051は、スタック出口温度センサ30からのスタック出口温度に基づいて、燃焼器入口ガス比エンタルピを算出する。
具体的に、燃焼器入口ガス比エンタルピ算出部B1051は、下記の式(3)に基づいて燃焼器入口ガス比エンタルピを算出する。
ただし、
h:比エンタルピ[kJ/mol]
T:ガス温度[K]
k0〜k3:ガス種に応じて決まる定数である。
ガス温度Tには、スタック出口温度が適用される。すなわち、本実施形態では、スタック出口温度が、カソード排ガスと燃焼器水素供給弁49から供給される水素が混合されてなるガス(燃焼器入口ガス温度)の温度とほぼ等しいとみなし、燃焼器32に流入されるガスの温度に代替してスタック出口温度を用いる。なお、スタック出口温度を用いる構成に代えて、燃焼器入口ガス温度を直接検出するガス温度センサやこれを推定するガス温度推定手段を設けて、これらの検出値や推定値をガス温度として用いても良い。
ここで、燃焼器32に流入されるガスには、空気と燃焼器水素供給弁49から供給される水素が含まれる。したがって、ガス種に応じて決まる各定数k0〜k3として、空気に対応する各値と水素に対応する各値を用いることができる。
すなわち、燃焼器入口ガス比エンタルピとしては、空気に対応するk0〜k3を上記式(3)に当てはめて得られる空気由来の燃焼器入口ガス比エンタルピhair(Ts_out)と、水素に対応するk0〜k3を上記式(3)に当てはめて得られる水素由来の燃焼器入口ガス比エンタルピhH2(Ts_out)が定まる。
したがって、燃焼器入口ガス比エンタルピ算出部B1051は、求めた比エンタルピhair(Ts_out)及び比エンタルピhH2(Ts_out)を目標水素流量算出部B1054に出力する。
タービン入口ガス比エンタルピ算出部B1052には、目標タービン入口温度が入力される。タービン入口ガス比エンタルピ算出部B1052は、上記式(3)に基づいて目標タービン入口温度からタービン入口ガス比エンタルピを算出する。
ここで、式(3)中のガス温度Tには、目標タービン入口温度が適用される。また、燃焼ガスには、空気と燃焼器32内の触媒燃焼反応により生成した水蒸気が含まれる。したがって、式(3)中の定数k0〜k3として、空気に対応する各値と水蒸気に対応する各値を用いる。
すなわち、タービン入口ガス比エンタルピとしては、空気に対応するk0〜k3を上記式(3)に当てはめて得られる空気由来のタービン入口ガス比エンタルピhair(Tt_t_in)と、水蒸気に対応するk0〜k3を上記式(3)に当てはめて得られる水蒸気由来のタービン入口ガス比エンタルピhH2O(Tt_t_in)が定まる。
そして、タービン入口ガス比エンタルピ算出部B1052は、求めた比エンタルピhair(Tt_t_in)及び比エンタルピhH2O(Tt_t_in)を目標水素流量算出部B1054に出力する。
電流/酸素流量変換部B1053には、スタック電流検出値が入力される。電流/酸素流量変換部B1053は、スタック電流検出値に基づいて、燃料電池スタック10内において発電で消費される酸素流量である消費酸素流量mO2_consを推定する。
すなわち、この消費酸素流量mO2_consは、燃料電池スタック10に供給される前の空気と燃料電池スタック10から排出される空気の間の流量変化分に相当する。電流/酸素流量変換部B1053は、算出した消費酸素流量mO2_consを目標水素流量算出部B1054に出力する。
具体的に、電流/酸素流量変換部B1053は、以下の式(4)に基づいて消費酸素流量m
O2_consを算出する。
ただし、
N:燃料電池のセルの枚数
I:燃料電池の出力電流[A]
F:ファラデー定数[C/mol]
V
sta:標準状態における理想気体1molの体積[NL]
60:秒分間の単位変換係数
である。
目標水素流量算出部B1054には、比エンタルピhair(Ts_out)、比エンタルピhH2(Ts_out)、比エンタルピhair(Tt_t_in)、比エンタルピhH2O(Tt_t_in)、及び消費酸素流量mO2_consが入力される。
目標水素流量算出部B1054は、入力されたこれらの値に基づいて、燃焼器32に供給する水素流量の目標値である目標水素流量を算出する。
具体的に、目標水素流量算出部B1054は、以下の式(5)に基づいて目標水素流量F
t_H2を算出する。
ただし、
h
H2(T
s_out)は、水素由来の燃焼器入口ガス比エンタルピ[kJ/mol]
h
air(T
t_t_in)は、空気由来のタービン入口ガス比エンタルピ[kJ/mol]
h
H2O(T
t_t_in)は、水蒸気由来の燃焼器入口ガス比エンタルピ[kJ/mol]
h
air(T
s_out)は、空気由来の燃焼器入口ガス比エンタルピ[kJ/mol]
m
d_airは、吸入流量検出値[NL/min]
m
O2_consは、消費酸素流量[NL/min]
である。
ここで、式(5)は、燃焼器32の入口のガスを燃焼器32による燃焼で目標タービン入口温度まで上昇させることを想定した場合のエネルギー保存式を示している。
先ず、左辺第1項のFt_H2×hH2(Ts_out)は、燃焼前後の水素のエンタルピ差を示す。
また、左辺第2項のFt_H2×0.5×hair(Tt_t_in)は、水素を完全燃焼した場合、すなわち水素流量の1/2の水素が燃焼に用いられた場合に燃焼で消費される空気のエンタルピを意味している。したがって、右辺第1項から左辺第2項を減算した(hair(Tt_t_in)−hair(Ts_out))×md_air−0.5×hair(Tt_t_in)×Ft_H2が、燃焼前後の空気のエンタルピ差を意味することとなる。
さらに、左辺第3項のFt_H2×hH2O(Tt_t_in)は、燃焼器32における燃焼で生成した水蒸気のエンタルピを意味する。
また、本実施形態では吸入流量(空気流量)を燃料電池スタック10の上流のエアフローメータ26で検出しているので、右辺第2項、すなわちhair(Ts_out)×mO2_consにおいて、吸入流量から燃料電池スタック10で消費される消費酸素流量分を減算し、燃焼器32に流入する空気のエンタルピを算出している。
したがって、式(5)のエネルギー保存式に基づいて、目標水素流量Ft_H2を算出することで、燃焼器32による燃焼ガスを目標のタービン入口温度に到達させるのに必要な水素流量を導出することができる。
したがって、本実施形態において、目標水素流量算出部B1054は、燃焼器水素供給弁49の開度(燃焼器32への水素供給量)が、コンプレッサ64により燃料電池システム100内に吸入されて燃料電池スタック10を介して燃焼器32へ供給されるガスの流量(吸入流量検出値及び消費酸素流量mO2_cons)に基づいて調節されることとなる。
目標水素流量算出部B1054は、算出した目標水素流量Ft_H2を目標水素供給弁開度算出部B1056に出力する。
最大水素通過流量算出部B1055には、供給水素圧力、冷却水温度、及び空気圧力検出値が入力される。最大水素通過流量算出部B1055は、これら入力された値に基づいて、燃焼器水素供給弁49が最も開口したとき、すなわち最大開度であるときに燃焼器水素供給弁49を通過させることができる最大の水素流量である最大水素通過流量を算出する。
具体的に、最大水素通過流量算出部B1055は、下記の式(6)及び式(8)に基づいて、最大水素通過流量mH2_maxを算出する。ここで、最大水素通過流量mH2_maxは、燃焼器水素供給弁49でチョークが発生していない場合と燃焼器水素供給弁49でチョークが発生している場合で、それぞれ、式(6)及び式(8)を用いて算出される。
先ず、燃焼器水素供給弁49でチョークが発生していない場合においては、最大水素通過流量m
H2_maxは、下記の式(6)で算出される。
ただし、
Cf:流量係数
P1:供給水素圧力検出値[kPa]
P2:空気圧力検出値[kPa]
Psta:標準状態における大気圧(=101.3[kPa])
A:オリフィス断面積[m
2]
ρ1:燃焼器水素供給弁49の入口における水素密度[kg/m3]
ρth:燃焼器水素供給弁49における水素密度(スロート密度)[kg/m3]
Tsta:標準状態における温度[K]
Tth:燃焼器水素供給弁49における水素温度(スロート温度)[K]
である。
そして、式(6)中のρthは、以下の式(7)により算出される。
また、式(6)中のTthは、以下の式(8)により算出される。
次に、燃焼器水素供給弁49でチョークが発生している場合においては、最大水素通過流量m
H2_maxは、下記の式(9)で算出される。
ただし、
Cf:流量係数
P1:供給水素圧力検出値[kPa]
P2:空気圧力検出値[kPa]
Psta:標準状態における大気圧(=101.3[kPa])
A:オリフィス断面積[m
2]
ρ1:燃焼器水素供給弁49の入口における水素密度[kg/m3]
ρ2:燃焼器水素供給弁49における水素密度(スロート密度)[kg/m3]
Tsta:標準状態における温度[K]
Tth:燃焼器水素供給弁49における水素温度(スロート温度)[K]
である。
そして、式(9)中のPthは、以下の式(9)により算出される。
また、式(9)中のTthは、以下の式(11)により算出される。
最大水素通過流量算出部B1055は、算出した最大水素通過流量mH2_maxを目標水素供給弁開度算出部B1056に出力する。
目標水素供給弁開度算出部B1056には、目標水素流量Ft_H2と最大水素通過流量mH2_maxが入力される。目標水素供給弁開度算出部B1056は、目標水素流量Ft_H2及び最大水素通過流量mH2_maxに基づいて、目標水素供給弁開度を演算する。具体的に、例えば、目標水素供給弁開度算出部B1056は、目標水素流量Ft_H2から最大水素通過流量mH2_maxを除した値から定まる開度を目標水素供給弁開度として演算する。
次に、燃料電池システム100の制御における経時的な流れの一例を説明する。
図13は、燃料電池システム100の制御における経時的な流れの一例を説明するタイムチャートである。
図示のように、本実施形態の燃料電池システム100では、時刻t1で負荷装置19より燃料電池スタック10から電流の取り出しが開始される(図13(a)参照)。すなわち、燃料電池スタック10への負荷がかかり始める。したがって、燃料電池スタック10への負荷の増加に応じて空気圧力及び空気流量が上昇する(図13(c)及び図13(d)参照)。
次に、時刻t2において、システムへの要求負荷(スタック出力電流)が所定値を超えると(図13(a)参照)、燃焼器水素供給弁49が開けられ、その開度が徐々に上昇する(図13(g)参照)。この燃焼器水素供給弁49の開放にともない、燃焼器32における燃焼が開始され、タービン入口温度が上昇を始める(図13(f)参照)。
時刻t3において、システムへの要求負荷(スタック出力電流)が上限値に到達し空気圧力及び空気流量が上限値で静定する(図13(c)及び図13(d)参照)。このように空気圧力及び空気流量が静定するので、燃焼器32への供給空気流量も静定することとなる。したがって、この燃焼器32への供給空気流量の静定に応じて、燃焼器水素供給弁49の開度が一定値に静定する(図13(g)参照)。すなわち、燃焼器32への水素供給量が一定値に静定し、タービン入口温度も一定値に静定する(図13(f)参照)。なお、燃料電池スタック10への負荷の上昇にともない、冷却水温度の上昇が開始する(図13(b)参照)。
そして、時刻t4において、冷却水温度が静定する(図13(b)参照)。
時刻t5において、燃料電池システム100を搭載した車両が登坂路を走行するなどの燃料電池スタック10に対する負荷がさらに上昇する。負荷の上昇にともない、冷却水温度が上昇する(図13(b)参照)。
時刻t6において、燃料電池システム100の出力制限が開始され、スタック電流が低下する(図13(a)参照)。これにより、冷却水温度は上限値に静定する(図13(b)参照)。このスタック電流の低下に応じて、空気流量が低下する(図13(d)参照)。この空気流量の低下に応じて、目標タービン回収動力が低下するので、燃焼器水素供給弁49の開度が減少する(図13(g)参照)。
時刻t7において、燃料電池システム100の出力制限によるスタック電流の低下が終了し、静定する(図13(a)参照)。これに伴い、空気流量及び燃焼器水素供給弁49の開度の低下も終了し、静定する(図13(d)及び図13(g)参照)。
時刻t8において、燃料電池スタック10からの負荷の取り出しを終了すべく、スタック電流がゼロに向かって減少する(図13(a)参照)。これにともない、冷却水温度、空気圧力、及び空気流量が減少する(図13(b)、図13(c)、及び図13(d)参照)。したがって、これら冷却水温度、空気圧力、及び空気流量の減少に応じて、燃焼器水素供給弁開度及びタービン入口温度が減少する(図13(g)及び図13(f)参照)。
時刻t9において、スタック電流、空気流量、及びタービン入口温度が静定する(図13(a)、図13(d)、及び図13(f)参照)。
さらに、時刻t10において、冷却水温度が静定し、それに伴い空気圧力が静定する(図13(b)及び図13(c)参照)。
時刻t11において、再び、燃料電池スタック10に負荷が生じ、スタック電流が上昇する(図13(a)参照)。これに伴い、空気圧力及び空気流量が増加する(図13(b)及び図13(c)参照)。さらに、スタック電流、空気圧力、及び空気流量の増加に開始のすぐ後に、燃焼器水素供給弁49の開度が増加し(図13(g)参照)、タービン入口温度が増加する(図13(f)参照)。
時刻t12において、スタック電流が最大値に到達し、静定する(図13(a)参照)。これに伴い、空気圧力及び空気流量が静定する(図13(b)及び図13(c)参照)。また、空気流量の静定に応じてタービン入口温度も静定する(図13(f)参照)。
時刻t14において、高圧タンク40内の水素残量が低下し、供給水素圧力が減少し始める(図13(e)参照)。これにより、燃焼器32へ供給される水素流量が意図せず低下する可能性があるので、燃焼器32へ供給される水素流量を極力確保すべく、燃焼器水素供給弁49の開度をやや増加させる(図13(g)参照)。
時刻t15において、負荷の取り出しが終了し、スタック電流を減少させる(図13(a)参照)。これに伴い、空気圧力及び空気流量が減少する(図13(b)及び図13(c)参照)。さらに、燃焼器水素供給弁49の開度が減少し(図13(g)参照)、タービン入口温度が減少する(図13(f)参照)。
そして、時刻t16において、スタック電流がゼロとなって負荷の取り出しが終了し、全ての制御量が静定する(図13(a)〜図13(g))。
以上説明した本発明の第1実施形態にかかる燃料電池システム100及び燃料電池システム100の制御方法によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態による燃料電池システム100は、燃料電池としての燃料電池スタック10のアノード極に燃料(水素)を供給する燃料供給装置としての高圧タンク40、スタック用水素供給通路44、及びスタック供給水素調圧弁48と、燃料電池スタック10のカソード極に酸化剤としての空気を供給する酸化剤供給装置と、燃料電池スタック10の運転状態を検出する運転状態検出部としてのHFR測定装置18、エアフローメータ26、空気圧力センサ28、スタック出口温度センサ30、電流センサ51、及び電圧センサ52と、運転状態検出部からの信号により上記燃料供給装置及び上記酸化剤供給装置を制御する運転制御装置としてのコントローラ20と、を備える。
そして、酸化剤供給装置は、燃料電池スタック10のカソード極に酸化剤を供給するコンプレッサ64と、該コンプレッサ64を駆動するタービン62と、タービン62を駆動する燃焼ガスを生成する燃焼器32と、を備える。また、運転状態検出部は、コンプレッサ64に吸入される空気の吸入流量を取得する吸入流量取得部としてのエアフローメータ26を備える。さらに、コントローラ20は、エアフローメータ26により取得された吸入酸化剤流量としての吸入流量検出値に基づき、燃焼器32への燃料供給量である水素供給量を制御する燃料供給量制御部としての燃焼器水素量制御部B105を備える。
したがって、本実施形態では、タービン62から動力を回収するコンプレッサ64の作動状態を、当該作動状態により直接的に関係するパラメータである吸入空気流量検出値を用いて燃焼器32への水素供給量を制御することができる。したがって、タービン入口温度の検出値に基づくフィードバック制御により燃焼器32への水素供給量を制御する場合と比較して、制御の応答遅れを抑制することができる。
特に、コンプレッサ64による燃料電池システム100への吸入空気流量が変化する場合においても、この変化に応じて応答良くタービン入口温度を制御することができるので、コンプレッサ64の運転条件に影響されず、タービン入口温度をより正確に制御することができる。
また、タービン入口温度等の比較的高温用の温度センサ(例えばサーミスタ等)を用いることによって生じ得る検出の応答遅れの影響を防止することができるので、制御の応答性をより改善することができる。
なお、本実施形態では、タービン62から独立してコンプレッサ64を駆動する電動モータ60をさらに有する。より詳細には、本実施形態の燃料電池システム100は、タービン62からの回収動力と電動モータ60で生成される動力でコンプレッサ64を駆動する。したがって、上述のようにタービン入口温度の制御の応答遅れが抑制されることで、タービン62からの回収動力と電動モータ60の生成動力のバランスをより応答良く調節することができる。
さらに、本実施形態による燃料電池システム100では、燃焼器水素量制御部B105は、燃料電池スタック10の発電で消費される発電消費酸化剤流量としての消費酸素流量mO2_consを推定し(図12の電流/酸素流量変換部B1053)、吸入流量検出値md_airと消費酸素流量mO2_consに基づいて、燃焼器32への水素供給量を制御する(図12の目標水素流量算出部B1054及び目標水素供給弁開度算出部B1056)。
これにより、燃料電池スタック10の発電状態等に応じて燃料電池スタック10で消費される酸素流量、すなわち消費酸素流量mO2_consが変化した場合であっても、この消費酸素流量mO2_consの変化分を加味して、燃焼器32への水素供給量を調節することができる。したがって、燃焼器32への水素供給量をより高精度に調節することができる。
特に、本実施形態による燃料電池システム100において、上記運転状態検出部は、燃料電池スタック10の出力電流を検出する出力電流検出センサとしての電流センサ51を含む。そして、燃焼器水素量制御部B105は、検出された出力電流としてのスタック電流検出値から消費酸素流量mO2_consを算出する。
これにより、燃料電池スタック10の発電状態を現すスタック電流検出値に基づいて、消費酸素流量mO2_consをより高精度に算出することができる。
さらに、燃焼器水素量制御部B105は、吸入流量検出値及び消費酸素流量mO2_consに基づいて、燃焼器32による燃焼前後におけるガスのエネルギー保存式(式5)を設定し(図12の電流/酸素流量変換部B1053及び目標水素流量算出部B1054)、上記式5に基づいて、燃焼器32への水素供給量を制御する(図12の目標水素流量算出部B1054及び目標水素供給弁開度算出部B1056)。
このように、燃焼器32における燃焼前後のガスのエネルギー保存則を考慮して、燃焼器32への水素供給量を制御することで、当該制御をより高精度に実行することができる。
特に、上記エネルギー保存式(式5)は、燃焼器32に供給されるガス(空気及び水素)が有するエンタルピとしての燃焼器入口ガス比エンタルピhair(Ts_out),hH2(Ts_out)と、燃焼ガスに含まれるガス(空気及び水蒸気)が有するエンタルピとしてのタービン入口ガス比エンタルピhair(Tt_t_in),hH2O(Tt_t_in)と、に基づいて設定される(図12の目標水素流量算出部B1054)。
このように、燃焼器32に供給されるガスのエンタルピ及びタービン62に供給されるガスのエンタルピに基づいてエネルギー保存則を設定することで、設定されるエネルギー保存則の精度がより向上し、ひいては燃焼器32への水素供給量の制御をより高精度に実行することができる。
そして、本実施形態では、燃焼器水素量制御部B105は、エネルギー保存式(式5)から燃焼器32への水素供給流量の目標値である目標燃料供給流量としての目標水素流量Ft_H2を算出し、目標水素流量Ft_H2に基づき水素供給量を調節する。
これにより、燃焼器32における燃焼前後のガスのエネルギー保存則を加味した目標水素流量Ft_H2を設定し、燃焼器32への水素供給量を好適に調節することができる。
さらに、本実施形態では、上記運転状態検出部は、燃焼器32に供給されるガスの温度である燃焼器入口ガス温度を取得するガス温度取得部を含む。そして、運転制御装置としてのコントローラ20の空気系FB制御部B103は、燃焼器32で生成されてタービン62に供給される燃焼ガスの温度(タービン入口温度)の目標値である目標タービン入口温度を算出する(図8の回収動力/温度変換部B1036)。そして、燃焼器水素量制御部B105は、燃焼器入口ガス温度、及び目標タービン入口温度に基づいて、上記エネルギー保存式(式5)を設定する。
特に、本実施形態では、上記ガス温度取得部は、カソードガス排出通路24における燃料電池スタック10の出口温度であるスタック出口温度を燃焼器入口ガス温度として取得するスタック出口温度センサ30である。
これにより、スタック出口温度センサ30の検出値を燃焼器入口ガス温度とし、当該燃焼器入口ガス温度と目標タービン入口温度を用いて、エネルギー保存式(式5)をより高精度に設定することができる。
なお、スタック出口温度センサ30に代えて、例えば、図1のバイパス通路36とカソードガス排出通路24の下流に別途温度センサを設けて、当該温度センサの検出値を燃焼器入口ガス温度として用いても良い。また、燃焼器用水素供給通路46からの水素と燃料電池スタック10からカソードガス排出通路24に排出されるカソード排ガスと燃焼器32内で混合された後のガスの温度を検出又は推定して、当該ガス温度を上記燃焼器入口ガス温度として用いても良い。
さらに、本実施形態による燃料電池システム100では、燃焼器32への水素供給量をその操作量(開度又はデューティー比)に応じて調節可能な燃料供給量調節弁としての燃焼器水素供給弁49をさらに有する。そして、燃焼器水素量制御部B105は、燃料電池スタック10に供給される酸化剤の圧力としての空気圧力、燃焼器32に供給される燃料の圧力としての供給水素圧力、及び燃料電池スタック10を冷却する冷却水温度の内の少なくとも何れか1つのパラメータに基づいて、燃焼器水素供給弁49を通過可能な燃料流量である通過可能燃料流量としての最大水素通過流量を算出する(図12の最大水素通過流量算出部B1055)。そして、燃焼器水素量制御部B105の目標水素供給弁開度算出部B1056は、上記目標水素流量及び蒸気通過可能燃料流量に基づいて燃焼器水素供給弁49の操作量を調節する(図12の最大水素通過流量算出部B1055及び目標水素供給弁開度算出部B1056)。
これにより、燃料電池スタック10の発電状態等に応じて空気圧力、供給水素圧力、又は冷却水温度が変化するなどの要因で燃焼器32へ供給される空気が有するエネルギーが変化する場合であっても、このエネルギー変化を加味して、目標水素流量に対して実際に燃焼器32に供給される水素供給流量を調節することができる。すなわち、燃焼器32への水素供給量をより高精度に制御することができる。
以上説明したように本実施形態では、燃料電池スタック10のカソード極に酸化剤としての空気を供給するコンプレッサ64をタービン62で駆動する燃料電池システム100において実行される制御方法が提供される。そして、この制御方法では、コンプレッサ64に吸入される酸化剤の吸入流量である吸入空気流量検出値を取得し、取得された吸入空気流量検出値に基づき、タービン62に供給する燃焼ガスを生成する燃焼器32への燃料供給量を制御する、
これにより、タービン62から動力を回収するコンプレッサ64の作動状態を、当該作動状態により直接的に関係するパラメータである吸入空気流量検出値を用いて燃焼器32への水素供給量を制御することができる。したがって、タービン入口温度の検出値に基づくフィードバック制御により燃焼器32への水素供給量を制御する場合と比較して、制御の応答遅れを抑制することができる。
なお、上記実施形態において、燃焼器32における燃焼前後のエネルギー保存側(式5)を設定するにあたり、燃焼器32へ供給されるガス及びタービン62へ流入するガスの熱示性量としてのエンタルピを用いている。しかしながら、燃焼前後のエネルギー保存側を表すことができるならば、エンタルピ以外の任意の物理量を用いるようにしても良い。また、目標水素流量算出部B1054において、エンタルピ等の熱示性量を用いることなく、スタック出口温度や目標タービン入口温度から所定のマップなどを用いて、目標水素流量を直接算出するようにしても良い。
さらに、最大水素通過流量算出部B1055を省略して、目標水素流量算出部B1054で算出された目標水素流量のみから、燃焼器水素供給弁49の目標開度を求めるようにし、制御構成の簡素化を図るようにしても良い。
(第2実施形態)
以下では、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図14は、本実施形態による燃料電池システム100におけるコントローラ20の機能を示すブロック図である。
本実施形態では、特に、HFR測定装置18からのHFR測定値が燃焼器水素量制御部B105に入力される。
図15は、本実施形態による燃焼器水素量制御部B105による目標水素供給弁開度の算出機能を説明するブロック図である。
図示のように、本実施形態では、目標水素供給弁開度の算出の機能に関し、コントローラ20は、排ガス水蒸気流量推定部B1057を有している。排ガス水蒸気流量推定部B1057には、スタック出口温度、吸入流量検出値、空気圧力検出値、及びHFR測定値が入力される。
排ガス水蒸気流量推定部B1057には、入力されたスタック出口温度、吸入流量検出値、空気圧力検出値、及びHFR測定値に基づいて、燃料電池スタック10からカソードガス排出通路24に排出されるカソード排ガスに含まれる水蒸気量mvapを推定する。
具体的に、排ガス水蒸気流量推定部B1057は、水蒸気量m
vapを以下の式(12)に基づき、算出する。
ただし、
P2:空気圧力検出値[kPa]
m
d_air:吸入流量検出値[NL/min]
P
vap:水蒸気分圧[kPa]
である。
また、水蒸気分圧P
vapは、以下に示す温度−飽和水蒸気圧特性の近似式(アントワン式)を表す式(13)に基づき算出される。
ただし、
T
out:スタック出口温度[K]
RH:カソード排ガスの相対湿度[%]
EXP:自然対数
100:百分率の変換係数
である。
また、カソード排ガスの相対湿度RHは、HFR値から所定の相対湿度マップを用いて定められる。図16に、相対湿度マップの一例を示す。図示のように、HFRが増加するにつれて(電解質膜が乾燥するにつれて)、相対湿度RHの値が低下する。
排ガス水蒸気流量推定部B1057は、算出した水蒸気量mvapを目標水素流量算出部B1054に出力する。
したがって、本実施形態では、目標水素流量算出部B1054は、燃焼器入口ガス比エンタルピ、タービン入口ガス比エンタルピ、吸入流量検出値、及び消費酸素流量mO2_consに加えて、カソード排ガス中に含まれる水蒸気量mvapによる燃焼ガス温度の増減を考慮して目標水素流量を算出することができる。これにより、目標水素流量の推定精度がより向上する。
具体的には、カソードガス排出通路24内のカソード排ガスに含まれる水蒸気量mvapが増加するほど、燃焼器32へ供給されるカソード排ガスの量も増加し、その結果、燃焼ガスの温度が低下する。したがって、水蒸気量mvapの増加に応じて燃焼ガスの温度を増加させるように、目標水素流量を増やす補正を行うなどして、目標水素流量の推定精度を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、図12及び図15で説明した電流/酸素流量変換部B1053を設けることなく、目標水素流量を算出するようにしても良い。具体的には、コンプレッサ64により燃料電池システム100内に吸入される吸入流量検出値をそのまま、又はこれに所定の補正を行った値を、目標水素流量を算出するようにしても良い。
また、上記各実施形態では、説明の簡略化のため、図7や図14に示すように、目標空気圧力や目標空気流量を目標スタック電流のみに基づいて算出する例を説明したが、目標空気圧力や目標空気流量の算出にあたり、燃料電池スタック10内の電解質膜の湿潤状態(HFR値や燃料電池スタック10の水収支)やアノードオフガスの希釈要求による圧力・流量の調節を考慮して、目標空気圧力や目標空気流量を算出するようにしても良い。
また、上記各実施形態では、燃焼器水素供給弁49として比例ソレノイド等の開度調整可能な弁を用いることで、その開度を制御することにより、燃焼器32への水素供給量の調節を行っている。しかしながら、間欠駆動インジェクタ等のオン・オフのみを切り替え可能な弁を用いて、燃焼器水素供給弁49の開弁時間(デューティー比)を制御して燃焼器32への水素供給量を調節するようにしても良い。また、開度調節及びデューティー比の調節を併用しても良い。
また、上記各実施形態における「コンプレッサ64」は、カソードガス供給通路22を介して燃料電池スタック10のカソード極に空気を供給する機能を果たしている。したがって、このような機能を果たすことができるならば、「コンプレッサ64」は、一般的な意味で認識されている「コンプレッサ」(有効吐出し圧力が200kPa以上の圧縮機)以外にも、適宜、ブロワ等の他の圧縮機や送風機に代えることもできる。
さらに、上記各実施形態における「タービン62」は、燃料電池スタック10にカソードガス排出通路24を介して接続されている。より具体的には、カソードガス排出通路24に設けられた燃焼器32で燃料電池スタック10からのカソード排ガスを水素とともに燃焼させ、生成した燃焼ガスをタービン62に供給するようにしている。しかしながら、これに限られず、例えば、タービン62をカソードガス排出通路24とは別系統に構成するようにしても良い。例えば、任意のガス供給源からのガスをタービン62へ供給する供給系統、及びタービン62へのガスの供給流量及び温度を調節する機構を別途設けるようにしても良い。