以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における血液凝固検査方法を説明するためのフローチャートである。この検査方法は、第1工程S101で、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路を流れる状態に、血液の成分を含む検体および凝固活性剤を、凝固活性剤を先にして流路に導入する。凝固活性剤は、トロンボモジュリン,エラグ酸,カオリン,セライトなどの接触因子を活性化する化学物質およびカルシウムイオンを含む。また、流路は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの材料から構成された測定チップに形成されているマイクロ流路である。
次に、第2工程S102で、流路の途中に設けられた停止箇所に凝固活性剤と検体との接触領域の先端部が到達した時点で凝固活性剤および検体の流れを停止する。次に、第3工程S103で、測定箇所で測定される血液の成分濃度が、停止した時点より設定値に到達するまでの時間を測定する。例えば、測定箇所における表面プラズモン共鳴(SPR)測定により測定される表面プラズモン共鳴(SPR)角度により判定されるアルブミンなどの血液の成分濃度変化を測定すればよい。ここで、測定箇所は、接触領域の先端部が停止箇所に到達した段階における接触領域の後端部より下流側に配置する。
次に、第4工程S104で、測定された時間より接触領域に形成されたものと想定されるフィブリン網の状態を推定する。次に、第5工程S105で、推定されたフィブリン網の状態より検体の血液凝固能を判定する。
なお、測定の後、流路内の検体および凝固活性剤などは、ポンプ圧を高めるなどにより速やかに流路内から排出させ、また、流路内を洗浄することなどにより、流路内へのフィブリンなどの不溶化タンパク質の固着を防ぐようにするとよい。測定終了後に行う洗浄は、洗浄液を流路に通過させることにより可能である。例えば、1%次亜塩素酸ナトリウムおよび0.1%のオクチルフェノールエトキシレート(オクトキシノール)を洗浄液として流路に通過させた後に、水を3回導入して流路内部をリンス処理すればよい。
上述したSPR測定は、例えば、図2A,図2Bに示す測定チップ200およびSPR装置220を用いることで実施できる。測定チップ200は、BK7ガラスからなる基板201と、膜厚50nm程度のAu層202と、流路基板203とから構成されている。Au層202は、例えば、スパッタリング法などのよく知られた堆積技術により形成すればよい。
また、流路基板203は、マイクロ流路204となる溝部,導入口205,および排出口206を備える。例えば、PDMSから流路基板203を形成すればよい。溝部は、幅1mm、深さ(高さ)75μm程度とすればよい。また、導入口205の口径は、3mmとし、排出口206の口径は、1.5mmとした。これらは、例えば、よく知られた生検トレパンにより形成すればよい。また、基板201と流路基板203とは個別に作製し、最後に、マイクロ流路204が測定領域に重なるように測定チップ200を組み立てた。
Au層202を形成した基板201および流路溝を形成した流路基板203の各々の貼り合わせ面を、酸素ガスのプラズマ(反応イオン)の照射により活性化させた後、各々の貼り合わせ面を当接させて貼り合わせることで、両者を一体とした。プラズマの照射は、プラズマ処理装置の処理室内で実施する。プラズマは、出力70Wのマイクロ波により生成し、また、処理室内には酸素を100sccmで供給し、処理室内における酸素分圧は10Paとした。なお、sccmは流量の単位であり、0℃・1013hPaの流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、プラズマの照射は、5秒程度実施した。
また、排出口206には、負圧機構207が接続され、マイクロ流路204内の液体を、排出口206を介して牽引(吸引)可能としている。負圧機構207は、例えば、ステンレスパイプで接続された廃液タンクおよび負圧ポンプ(MFCS−VAC,Fluigent社製)などから構成されている。なお、流路断面の寸法は、排出口206に取り付けたポンプとマイクロ流路204の導入口205の毛細管力のバランス、および検体312の導入速度によって決定すればよい(特許文献7参照)。
測定においては、SPR装置220の測定プリズム222に形成されている測定面223上に、屈折率がBK7ガラスと等しいマッチングオイル(不図示)を塗布し、この上に測定チップ200の基板201裏面を配置する。また、SPR装置220の光源221から出射される光の光軸上に、測定チップ200の測定領域が重なる状態に配置する。SPR装置220は、例えば、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社製の「Smart SPR SS−100」である。
光源221から出射された光を、シリンドリカルレンズ(不図示)などにより長さ4.8mmのライン状に集光して測定プリズム222に入射させ、測定プリズム222の測定面223に密着させている測定チップ200の測定領域に照射する。測定チップ200の測定領域となるマイクロ流路204にはAu層202が形成されており、Au層202の裏面に、測定チップ200を透過してきた集光光が照射される。
このようにして照射された集光光は、流速測定対象の流体が接触したAu層202の裏面で反射し、いわゆるCCDイメージセンサーなどの撮像素子よりなるセンサー224で光電変換されて強度(光強度)が得られる。このようにして得られた光強度の変化により屈折率の変化が求められる。センサー224は、例えば、480ピクセルの受光部を備えるライン型の撮像素子であり、多点屈折率測定を可能としている。
次に、測定チップ200を用いた測定について図3を用いて説明する。マイクロ流路204に、まず、37℃で1分間加熱したトロンビン凝固活性剤311(10マイクロリットル)を供給して満たす。例えば、図3の(a)に示すように、マイクロシリンジ321により、トロンビン凝固活性剤311を導入口205に供給し、図3の(b)に示すように、マイクロ流路204内が、トロンビン凝固活性剤311で満たされ、導入口205が空になった状態とする。
次に、導入口205が空になったことを確認した後、図3の(c)に示すように、自動分注装置322などを用い、37℃で1分加熱した1マイクロリットルの検体312を導入口205に連続的に滴下し、マイクロ流路204の他端の排出口206より、負圧機構207により一定の圧力(負圧)でトロンビン凝固活性剤311を牽引する。
これらのことにより、図3の(d)に示すように、マイクロ流路204内に、トロンビン凝固活性剤311と検体312とが接触する接触領域313を形成する。接触領域313は、導入口205に検体312が滴下されると、マイクロ流路204の導入口205側の開口端で形成される。形成された接触領域313は、負圧機構207による牽引で、トロンビン凝固活性剤311および検体312ともに、マイクロ流路204内を他端の方向に輸送される。この牽引を途中で停止し、マイクロ流路204内の液体の輸送を停止させることで、接触領域313の移動を停止させ、マイクロ流路204内の停止箇所に、接触領域313の先端部313aを配置する。牽引を停止して液体の輸送を停止すれば、接触領域313の移動も停止することは確認している。
ここで、接触している接触領域313では、検体312にトロンビン凝固活性剤311が添加されることになり、接触領域313では、凝固反応が起こり得る状態となっている。このため、上述したように、トロンビン凝固活性剤311と検体312が接触して接触領域313が形成された時点より、接触領域313では、凝固反応が開始される。また、この凝固反応は、マイクロ流路204内の停止箇所に接触領域313の先端部313aを配置された後も継続し、結果として、接触領域313には、フィブリン網が形成されていくことになる。
上述したように、接触領域313の先端部313aが図3の(d)に示すようにマイクロ流路204内の停止箇所に配置されている状態で、マイクロ流路204内の接触領域313の後端部313bより下流側に設けられている測定箇所231における、屈折率(SPR角度)の時間変化を測定する。測定箇所231に、センサー224の検出領域を対応させればよい。センサー224の検出領域には、複数(例えば480個)のフォトダイオード素子が、マイクロ流路204の延在方向に10μm間隔で並んで配置されている。測定箇所231では、各フォトダイオード素子の位置(ピクセル位置)毎に、光強度の変化(SPR角度)が測定され、多点屈折率測定を可能としている。
なお、基板201の屈折率をn、Au層202の誘電率をεm、試料の誘電率をεs、基板201とAu層202との界面に入射する光の入射角度をθとすると、「n(ω/c)sinθ=(ω/c)[εm×εs/(εm+εs)]1/2」が成り立つ条件の時に、入射角度と、基板201とAu層202との界面に誘起されるプラズモンの共鳴が起こる(非特許文献4参照)。この角度θが、SPR角度である。
また、プラズモンの共鳴が起きると反射する光が減衰するため、この状態がセンサー224のいずれかのフォトダイオード素子の検出値の変化として現れる。従って、検出光強度が低下したフォトダイオード素子のピクセル位置(ピクセル値)により、SPR角度が求められる。また、上記ピクセル値より、例えば、「屈折率値=ピクセル値×1.2739×10-4+1.3188(光源波長770nm)」などの換算式により、屈折率値が得られる。
ここで、フィブリン網について説明する。血漿などの血液成分を含む検体と凝固活性剤との接触領域では、接触領域を挟み凝固活性剤の溶液と検体の溶液との間で様々な分子が拡散する中で、検体中に含まれるプロトロンビンがトロンビンに変換され、産生されたトロンビンがフィブリノゲンを不溶性タンパク質であるフィブリンに変換する。このようにして生成されるフィブリンは、接触領域(界面)に網状のフィブリン網を形成する。また、生成されるフィブリンの量は、検体に含まれていたフィブリノゲンの量により変化し、形成されるフィブリン網の状態も、検体に含まれていたフィブリノゲンの量により異なるものとなる。
一方、検体中に溶解状態を継続して拡散しているアルブミンなどの血液成分は、接触領域に形成されるフィブリン網を透過していく。この透過の状態は、形成されるフィブリン網の状態により異なる。フィブリン網が形成される接触領域より下流側に移動していく血液成分の移動度を測定することで、フィブリン網の状態が推定可能であり、推定したフィブリン網の状態から、フィブリノゲンの量が把握でき、血液凝固活性が判定可能となる。
上述したフィブリン網の形成、およびアルブミンがフィブリン網を透過する状態を実験により観察した結果について説明する。実験では、FITC(fluorescein isothiocyanate;フルオレセインイソチオシアネート)で標識したフィブリノゲン、およびRhodamine(ローダミン)で標識したアルブミンを混合した血漿を実験検体として用いた。また、血漿活性度67%の血漿を用いた実験検体1と、血漿活性度25%の血漿を用いた実験検体2とを用意した。また、凝固活性剤としてトロンビン試薬を用いた。
上述した実験検体とトロンビン試薬とを、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路を流れる状態に、トロンビン試薬を先にしてマイクロ流路に導入した。トロンビン試薬と実験検体との接触領域が流路中央に到達した状態で送液を止めた時の蛍光観察結果を図4に示す。図4において、(a)および(b)は、実験検体1の結果を示し、(c)および(d)は、実験検体2の結果を示す。また、(a)および(c)は、FITCの蛍光を観察し、(b)および(d)は、ローダミンの蛍光を観察している。
図4の(a)および(c)に示すように、FITC蛍光は、境界が明確な形状を示し、この形状は、流路進行方向(図面右側)に凸の滑らかな凸錐形状となっている。この状態は、2液の接触領域の形状を反映しており、接触領域にフィブリンが形成されていることが分かる。また、よく知られているように、トロンビンなどの凝固試薬により生産されたフィブリンは、網状に形成される(非特許文献1参照)。従って、接触領域には、フィブリン網が形成されることが分かる。
一方、図4の(b)および(d)に示すように、ローダミン蛍光は、境界がなく、明度が徐々に変化している。また、ローダミン蛍光は、接触領域より下流側(図面右側)にまで広がっている。このことより、アルブミンは、接触領域に形成されているフィブリン網を透過して下流側に拡散することが確認できる。
また、実験検体1と実験検体2との結果を比較すると、ローダミン蛍光は実験検体2の方[(図4の(d)]が、下流側により拡散している。
以上の測定結果は、凝固活性度に依存して形成されるフィブリン網の性質(網のサイズ、網の表面で生じる分子間力、帯電性)によって、血漿中分子(血液の成分)が接触領域に形成されたフィブリン網を通過する移動度に影響を与え、この結果、分子がフィブリン網を透過する時間に差が生じるためと考えられる。
検体中のフィブリノゲン濃度を反映して形成されるフィブリン網の形状が異なることが報告されており(非特許文献1参照)、血液(血漿)中の分子がフィブリン網を通過して移動する状態を捉えることで、フィブリン網が形状されている状態が測定でき、結果として、検体の凝固活性度を測定することが可能になるものと考えられる。
また、フィブリン網を透過する血液成分の分子の移動度を測定する際に、分子が移動した距離ではなく、分子がある一定の場所に到達するまでの時間を指標値として用いることで、血漿中分子の濃度に依存することなくフィブリン網の状態が測定(推定)可能となる。
測定する方法としては、前述したようにSPR測定による屈折率測定が挙げられる。図5に示すように、トロンビン凝固活性剤311と検体312との接触領域に形成されるフィブリン網314の直下に、マイクロ流路204内の多点屈折率測定が可能な測定箇所231を配置する。この状態で、血液成分の高分子315、低分子316、もしくはこれらの分子群がフィブリン網314を透過して測定箇所231に到達する時間を、屈折率変化によって把握する。
次に、分子量90キロダルトン相当の高分子がフィブリン網を透過して拡散する状態をシミュレーションした結果について図6に示す。前述したように、下流側に滑らかな凸錐形状となっているフィブリン網の、流路壁から見て傾斜している測定箇所側の部分より、測定箇所の流路壁に向かって高分子が拡散する状態をシミュレーションした。グレースケールは、濃度を示す。このように、測定箇所では、測定点によって分子が到着する時間が変化するため、観測位置に対する到達時間の変化を捉えることで、フィブリン網、つまりは凝固活性状態を捉えることが可能であると考えられる。
対象とする分子到達時間の測定においては、フィブリン網の影響変化を受けやすい高分子の移動度を主に捉えるとよい。この場合、流路と測定箇所との位置関係は、図7の(c)に示すように、高分子の透過が支配的となっている段階で、接触領域313の先端部313aが、測定箇所231内に配置されている状態とする。図7の(a)に示すように、検体312をマイクロ流路204に導入すると、トロンビン凝固活性剤311と検体312との間に接触領域313が形成される。これらがマイクロ流路204中を進行していくと、図7の(b)に示すように、接触領域313は、流路進行方向に滑らかな凸錐形となる。
初期の段階では、図7の(b)に示すように、より分子量の小さい低分子が接触領域313に形成されているフィブリン網を透過拡散する。この後、 接触領域313が形成された後所定の時間が経過すると、図7の(c)に示すように、高分子が接触領域313に形成されるフィブリン網を透過し始めるようになる。従って、高分子の透過状態を主に観察しようとする場合、図7の(c)に示す時点で後端部313bが測定箇所231の開始側近傍に配置されている状態とし、高分子の測定を開始すればよい。
なお、低分子の移動度を捉えるようにしてもよく、また、フィブリン網を透過してくる全ての分子を対象として移動度を捉えるようにしてもよい。フィブリン網を透過してくる測定可能な分子を対象として移動度を捉えるようにすればよい。
フィブリン網を透過した高分子が所定箇所に到達する時間を屈折率変化で測定する方法について、図8A、図8Bを用いて説明する。前述したように、測定箇所231には、流路進行方向に例えば480個の測定点が等間隔で並んでいる。移動時間は、各測定点において任意の屈折率に達する時間を算出する。
ここで、実際の測定においては、後端部313bより上流側に、測定箇所231の開始点に測定点(第1測定点)が配置されるようにする。まず、マイクロ流路204にトロンビン凝固活性剤311を供給して満たす。次に、導入口205が空になったことを確認した後、検体312を導入口205に連続的に滴下し、マイクロ流路204の他端の排出口206より、負圧機構207により一定の圧力でトロンビン凝固活性剤311を牽引する。
これらのことにより、マイクロ流路204内に接触領域313を形成させ、負圧機構207による牽引で、トロンビン凝固活性剤311および検体312ともに、マイクロ流路204内を下流の方向に輸送する。この牽引を時刻tで停止し、接触領域313の移動を停止させ、マイクロ流路204内の停止箇所に、接触領域313の先端部313aを配置する。
上述した接触領域313の形成時点から、停止させた時刻tを経て、所定の時間が経過するまで、測定箇所231の480カ所の測定点で測定される各々の屈折率変化を記録する。
第1測定点の測定は、図8Aの(a)に示すように、測定開始より停止時刻tに達する前までは、トロンビン凝固活性剤311の部分を測定し、次いで接触領域の部分を測定し、停止時刻tからは、検体312の部分を測定することになる。このため、停止時刻tを過ぎると、検体312における屈折率測定となり、時間の経過と共に測定される屈折率は大きくなり、最大屈折率nmazが測定された後、徐々に屈折率が低下する。後端部313bより上流側の第1測定点で測定される最大値(最大屈折率nmaz)は、検体312における血液成分の濃度を反映しているものと考えることができる。
以下、上述した測定データを利用した解析方法(指標値の求め方)について説明する。まず、第1の解析方法について説明する。上記最大値の例えば25%を設定値として決定し、後端部313bより下流側の測定点で観測された結果において、設定値が測定された停止時刻tからの時間情報を取り出す。この割合は、透過した血液成分が測定点に到達した時刻の屈折率を下限として、測定ノイズによって生じる算出時間の誤差が小さい範囲で定めるとよい。
図8Bに示すように、測定点毎に取り出した時間をプロットし、プロット点より近似直線801を決定する。決定した近似直線801の傾きが、検体312の血液凝固能の指標値となる。第1の解析方法では、流路の流れの方向に配列された複数の測定点で屈折率(検体312の成分濃度)の変化を時系列に測定し、各測定点で屈折率が閾値に到達する時間を求め、求めた時間より得られる近似直線801の傾きを指標値とする。
近似直線801の傾きが大きいほど、測定箇所で測定される血液の成分濃度が、停止した時点より設定値に到達するまでに、より多くの時間がかかっていることを示している。このように、成分濃度が設定値に達するまでの時間がより大きい状態は、接触領域に形成されるフィブリン網を透過する成分がより少ないことを示している。これは、フィブリン網がより厚く、またはより緻密に形成されたことを示しており、より凝固能が高いものと判断できる。
次に、第2の解析方法を説明する。第2の解析方法では、前述したSPR測定により得られる2次元データの合算値を利用する。前述したように、測定箇所231には、流路進行方向に例えば480個の測定点が等間隔で並んでいる。各測定点毎に、時間とともに測定される屈折率の値が変化する。これらの、測定点毎に測定される屈折率の時間変化が、2次元データとなる。この2次元データの中で、所定の時間範囲における所定の濃度範囲の面積の大小により、成分濃度が設定値に達するまでの時間の大小が分かる。
第2の解析方法では、流路の流れの方向に配列された複数の測定点で屈折率(検体の成分濃度)の変化を時系列に測定し、得られた測定点毎の屈折率の変化よる時間と複数の測定点における屈折率変化による2次元データより、所定の時間範囲における所定の濃度範囲の面積を求めて指標値とする。
このように2次元データを用いることで、複数の測定点の経時的な分子移動度変化を捉えることができるため、より高感度に界面で形成されるフィブリン網形成の状態変化、つまり凝固活性状態を捉えることができる。
ここで、上述した2次元データは、図9に示すように、横軸を測定時間とし、縦軸を観測位置(測定点)とした分布を示すものとなる。例えば、ポンプ送液によって血漿サンプルが運ばれ始めるところから測定を開始すると、図9の(a)に示すように、各測定位置毎に、時間とともに屈折率が変化する。図9の(a)において、時刻t0が、ポンプ送液によって血漿サンプルが運ばれ後、送液が停止される時刻である。また、測定位置p0は、接触領域の位置である。また、測定位置p1は、適宜に設定した測定箇所の終点である。
上述した時刻t0と時刻t1の間の、測定位置p0から測定位置p1までの領域を、判定の対象領域とする。図9の(a)において、点線の四角で囲われた領域が測定の対象領域であり、図9の(b)は、測定の対象領域のみを示している。
上述したように取り出した図9の(b)に示す測定の対象領域における屈折率を、前述した最大屈折率nmazで除することによって、測定サンプル毎の血漿サンプル内の組成を規格化する。
規格化した値のうち、最大値の25%以下の数値を示す領域は、血漿中の低分子の移動が主として含む領域となっており、凝固産生物であるフィブリン網の影響を受けづらい領域となっている。また、規格化した値のうち、最大値の50%以上の数値を示す領域は、分子移動のノイズが大きく精度を落とす要因となる。したがって、凝固指標値算出のためには、高感度および低ノイズを図り、図9の(b)に示す取り出した領域内のうち、前述した最大屈折率nmazの25%〜50%の値となる成分のみを残し、これらの総和(面積)をとることによって指標値とする。
この第2の解析方法の場合、図9に示した測定結果の中で、凝固活性剤と検体とが接触する接触領域の位置(測定位置p0)を、より正確に把握することが重要となる。ここで、接触領域で生じる凝固産生物の発生分布が測定毎に異なることがあり、接触領域の位置がSPR測定領域上で50−100μm程度前後することがある。このため、決められた測定位置での固定点観測では大きく誤差が生じる可能性がある。従って、毎測定、接触領域位置の補正を行うとよい。
補正方法としては、まず各測定点での前述した最大屈折率nmazの値によって規格化した値(25%、50%、75%)の到達する時間をプロットして分散値を計算する。次に、凝固反応を伴わない血清(オートノルム)を血漿サンプルの代わりに使用した際の最大分散値を参照し、この値を超える位置を、解析開始点(測定位置p0)とする。これにより、測定毎の微量な接触領域位置のズレを補正することができる。
上述した判断では、フィブリン網に対する血液成分の透過時間を指標値とするため、検体中に含まれる血液成分の組成濃度に依存しない。これは、透過時間が分子の移動度に起因するためであり、分子の移動度は拡散およびフィブリン網および透過分子の物性にのみ依存しているため、血中組成物の濃度が変化しても、判断指標には影響がでない。
次に、実施例を用いてより詳細に説明する。前述した測定チップ200の導入口205が、SPR装置220の観測領域に0.5mm以内の範囲で重なる状態に配置した。
血液成分中の高分子を対象とする場合は、トロンビン凝固活性剤311と検体312との接触領域313が形成されてから3秒以降に高分子のフィブリン網の透過が支配的となるので、これに合わせて観測領域を配置するとよい。
また、本発明では、液相を停止した状態から、トロンビン凝固活性剤311の側にフィブリン網を透過してきた成分が、流路下流側に拡散していく状態を測定する。このため、導入する検体312がマイクロ流路204に入りきって送液を停止するまでの時間と、停止するまでの時間中における血液成分の移動度によって、マイクロ流路204の長さを決定し、測定箇所を決定すればよい。
例えば、検体312の量が1.8マイクロリットル、流路断面の幅が1mm、高さ75μm、牽引圧7mbarの場合、送液は検体312を投入してから約3.4秒後に停止する。この間に、アルブミンや抗体等の血液成分は、接触領域313の形成が開始されるマイクロ流路204の入口から3.8mm離れた場所まで移動する。よってマイクロ流路入口から3.8mm離れた場所に、SPR装置220における測定領域の最上流側の第1測定点が配置される状態とすればよい。
測定においては、まず、37℃で1分間加熱したトロンビン凝固活性剤311(10マイクロリットル)を供給して満たし、導入口205が空になった状態とする。次に、導入口205が空になったことを確認した後、自動分注装置322を用い、37℃で1分加熱した1.8マイクロリットルの検体312を導入口205に連続的に滴下し、マイクロ流路204の他端の排出口206より、負圧機構207により一定の圧力でトロンビン凝固活性剤311を牽引する。
これらのことにより、マイクロ流路204内に、トロンビン凝固活性剤311と検体312とが接触する接触領域313を形成する。接触領域313は、導入口205に検体312が滴下されると、マイクロ流路204の導入口205側の開口端で形成される。形成された接触領域313は、負圧機構207による牽引で、トロンビン凝固活性剤311および検体312ともに、マイクロ流路204内を他端の方向に輸送される。この牽引を途中で停止し、マイクロ流路204内の液体の輸送を停止させることで、接触領域313の移動を停止させ、マイクロ流路204内の停止箇所に、接触領域313の先端部313aを配置する。
以上のように送液を操作している状態で、SPR装置220で測定された結果について説明する。測定により、毎時間における480個の測定点毎のSPR角度が、行列データとして得られる。隣り合う測定点の間隔は10μmである。
最上流側の第1測定点において得られる屈折率の変化より、検体312中の小さな分子が観測領域(測定箇所231)に到達した時間を求めることができる。この時に観測した各SPR測定点の屈折率を初期値とし、その値から変化する屈折率変化量を測定結果として用いる。
得られた測定結果より、まず、第1測定点の測定結果より、測定の終わりに近い時刻で観測された最大屈折率を求め、この25%を設定値として決定する。次に、各測定点の測定結果において、停止時刻から設定値の屈折率変化値に達するまでの時間を求め、求めた結果を測定点の位置に対してプロットする。
グルコース、リン酸緩衝生理食塩水、アルブミンを用い、90%の標準血漿原液(コアグピア用キャリブレータ、積水メディカル株式会社製)を、40%および60%の凝固活性に希釈調製した様々な組成の人工調製血漿を用意し、検体とした。これら検体に対し、上述した測定を実施した。凝固活性剤(凝固開始剤)として、60%に水で希釈したトロンビン溶液(コアグピアFbg,積水メディカル株式会社製)を使用した。測定の結果を図10に示す。
40%凝固活性人工調製血漿に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えて第1検体とし、40%凝固活性人工調製血漿に、5%のグルコース(glucose)を加えて第2検体とし、40%凝固活性人工調製血漿に、5%のアルブミン(albumin)を加えて第3検体とした。これらの測定結果を図10の(a)に示す。
また、60%凝固活性人工調製血漿に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えて第4検体とし、60%凝固活性人工調製血漿に、5%のグルコース(glucose)を加えて第5検体とし、60%凝固活性人工調製血漿に、5%のアルブミン(albumin)を加えて第6検体とした。これらの測定結果を図10の(b)に示す。図10の(b)に示すように、いずれの結果も同様の傾きとなっており、様々な血液成分を混合した検体においても、凝固活性度が等しい場合は、血液成分が移動する時間を指標値とする本発明の測定方法の測定で同じ結果を示すことが分かった。
次に、血漿活性の異なる血漿を用いて測定した結果を図11に示す。凝固開始剤として、60%に水で希釈したトロンビン溶液(コアグピアFbg,積水メディカル株式会社製)を使用した。図11に示す数字は、人口調整血漿の希釈の割合を示している。図11に示すように、検体部分の屈折率変化測定結果より得られる、検体における血液成分の濃度を反映していると考えられる最大屈折率より決定した設定値に到達する時間を複数の測定点で測定した結果得られるプロット軌跡(近似直線)の傾きが、測定に使用した検体(血漿)の凝固活性と相関性をもっている。上記傾きを用いて凝固能を評価できることが分かる。
次に、前述した第2の解析方法による指標値算出によって得られる検量線を、図12に示す。この検量線作成に使用した血漿サンプルは、市販のトロンビン溶液(コアグピアFbg,積水メディカル株式会社製)を用いて調製(希釈)を行った。SPR測定により得られた2次元データ、つまり複数の測定点の経時的な分子移動度(検体の成分濃度)変化を利用する算出法においても、同様に凝固能を評価できることが分かる。
以上に説明したように、本発明では、流路の途中に設けられた測定箇所に凝固活性剤と検体との接触領域が到達した時点で凝固活性剤および検体の流れを停止し、この後で、接触領域より下流側の測定箇所で測定される血液の成分濃度が設定値に到達するまでの時間を測定するようにした。この結果、本発明によれば、装置を大型化することなく、検体の状態に関わらずにより正確に血液や血漿の凝固能が検査できるようになる。
流路内で血漿検体と凝固試薬を直列に配置し、凝固反応の場を流路断面積方向に小さく設けることで、不溶化成分であるフィブリンによる汚染を流路内部に大きく拡散させずに最小限の駆動力で凝固能を調べることができ、汚染を小さくとどめることができる。このため、流路内に洗剤を導入するだけで洗浄を完了させることができるなど、洗浄がより容易となり、チップの繰り返し使用がより実現的になる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、本発明は、主要凝固測定項目(PT測定,APTT測定,Fib測定)において適応可能である。