以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(1.四周部板厚減少に係る板内板厚変動に対する検討)
まず、本発明者らが、厚鋼板の圧延において得た新たな知見について説明する。
本発明者らは、鋼板に対する厚板圧延において、圧延後の被圧延材について板厚の面内分布を調べた結果、被圧延材の長手方向及び幅方向の端部の板厚が、中央部の板厚よりも薄くなる、形状異常が発生する場合があることを発見した。当該形状異常のことを、本明細書では、便宜的に、「四周部板厚減少に係る板内板厚変動」とも呼称する。
図1及び図2に、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が生じた、圧延後の被圧延材の板厚を示す。図1は、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が生じた、圧延後の被圧延材の長手方向の板厚分布を示すグラフ図である。図1では、横軸に被圧延材の長手方向の位置を取り、縦軸に板厚を取り、両者の関係をプロットしている。図2は、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が生じた、圧延後の被圧延材の板幅方向の板厚分布を示すグラフ図である。図2では、横軸に被圧延材の板幅方向の位置を取り、縦軸に板厚を取り、両者の関係をプロットしている。図1は、被圧延材の幅方向の略中心を通る位置における板厚を示しており、図2は、被圧延材の長手方向の略中心を通る位置における板厚を示している。また、図1及び図2では、一例として、製品板厚が360(mm)となるように設定された厚板圧延が行われた場合における、圧延後の被圧延材の板厚を図示している。なお、この時のワークロール直径は800(mm)であり、入側板厚は375(mm)、圧延形状比は0.21である。
図1及び図2を参照すると、中央部と端部とで、2〜3(mm)程度の板厚差が生じていることが分かる。例えば、一般的に圧延において生じる板内板厚変動としては、クラウンが広く知られているが、クラウンにおける板厚差は、通常数十(μm)のオーダーであり、クラウンによってこのような大きな板厚差が生じることは考えにくい。四周部板厚減少に係る板内板厚変動は、従来注目されていなかった新たな形状異常であると考えられる。
従来、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が生じた場合には、板内の板厚差を低減するための工程が追加的に行われている。例えば、ロールギャップを一定にした圧延を数回(2〜3パス程度)行う工程や、グラインダ等の研削機器によって被圧延材の表面を研削する工程が、所定の圧延工程を終えた後に追加的に行われる。従って、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生を抑制することができれば、このような追加的な工程を行う必要がなくなり、製造コストをより削減することができる。
そこで、本発明者らは、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が生じる原因について解析を行った。その結果、比較的板厚の大きい厚鋼板に対して、比較的圧下率の小さい圧延条件で圧延を行った場合(例えば、製品板厚150(mm)以上の厚鋼板に対して、圧下率数(%)で圧延を行った場合)に、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じることが分かった。このような、極厚板に対する軽圧下率な圧延条件によって圧延を行うことにより、被圧延材の表面及び内部において、特異な応力を発生させるメタルフローが生じ、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が引き起こされると考えられる。以下の説明では、上述したような四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じる圧延条件のことを、板内板厚変動発生条件と呼称することとする。
本発明者らは、板内板厚変動発生条件について、より詳細な解析を行った。その結果、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の度合いは、被圧延材の板厚(スラブ厚及び製品板厚)と、圧延形状比と、に大きく依存しており、板内板厚変動発生条件は、これらの値を用いて規定され得ることを突き止めた。
ここで、厚板圧延は、板厚調整のために行う調整圧延(成形圧延)工程と、当該成形圧延工程から平面上で圧延方向を90度回転して所定の製品幅を得るために行う幅出し圧延工程と、当該幅出し圧延工程から再び圧延方向を90度回転して元の方向に戻し所定の製品板厚を得るために行う仕上圧延工程と、の3つの圧延工程から構成される。連続鋳造工程によって製造されるスラブに対して、これらの圧延工程が、それぞれ複数回実行されることにより、最終的に当該スラブが、所望の板厚、板幅、板長を有する厚鋼板に加工される。このように、厚板圧延は、複数の圧延工程(パス)が組み合わされて構成されている。
上記スラブ厚は、一連の圧延工程が実行される前の初期の被圧延材の厚さを意味している。また、上記製品板厚は、一連の圧延工程が実行された後の最終的な被圧延材の厚さを意味している。また、上記圧延形状比は、一連の圧延工程のうちの、ある1回の圧延工程に注目した際の圧延形状比を意味している。なお、以下の説明において、スラブ厚、製品板厚及び圧延形状比と記載した場合には、これらの文言は、特に記載のない限り、上述した圧延形状比、スラブ厚及び製品板厚と同一の意味合いで用いられているものとする。
以下、スラブ厚、製品板厚及び圧延形状比のそれぞれについての検討結果について順に説明する。
(スラブ厚及び製品板厚に関する板内板厚変動発生条件)
まず、スラブ厚及び製品板厚に関する板内板厚変動発生条件について説明する。本発明者らは、従来技術に基づいたパススケジュールで、スラブ厚と四周部板厚減少に係る板内板厚変動との関係、及び製品板厚と四周部板厚減少に係る板内板厚変動との関係について調査した。図3及び図4に調査結果を示す。なお、この時のワークロール直径は800(mm)、スラブ厚は10〜600(mm)及び製品厚は5〜500(mm)である。図3は、スラブ厚と板内板厚偏差との関係を示すグラフ図である。図4は、製品板厚と板内板厚偏差との関係を示すグラフ図である。図3及び図4では、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の度合いを示す指標として、板内板厚偏差(板内の板厚の最大値と最小値との差)を縦軸に取っている。また、図3及び図4では、それぞれ、スラブ厚及び製品板厚を横軸に取っている。
図3及び図4を参照すると、スラブ厚及び製品板厚が大きくなるにつれて、板内板厚偏差も大きくなっていることが分かる。具体的には、スラブ厚が約250(mm)よりも大きい場合、及び製品板厚が約150(mm)よりも大きい場合に、数百(μm)以上の板内板厚偏差が生じていることが分かる。
ここで、図3及び図4の縦軸に示す板内板厚偏差には、四周部板厚減少に係る板内板厚変動以外の板厚変動(例えばクラウン等)に起因する板内板厚偏差も当然含まれている。他の板内板厚変動の代表であるクラウンにおける板内板厚偏差のオーダーが数十(μm)であることを考えると、図3及び図4に示す結果からは、例えば板内板厚偏差が数百(μm)以上生じている領域が、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じている領域であると言える。換言すれば、板内板厚偏差が数百(μm)よりも小さい領域では、四周部板厚減少に係る板内板厚変動による影響と、他の板内板厚変動による影響とを、切り分けることが困難となる。このような観点に基づいて考えると、図3及び図4に示す結果からは、スラブ厚が約250(mm)よりも大きい場合、及び製品板厚が約150(mm)よりも大きい場合に、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じていると言える。
そこで、本実施形態では、スラブ厚が約250(mm)よりも大きいこと、及び製品板厚が約150(mm)よりも大きいことを、板内板厚変動発生条件の一つとみなすこととする。ただし、実際には、例えば製品に求められる板内板厚偏差の許容範囲がより小さい場合であれば、スラブ厚又は製品板厚が上記の板内板厚変動発生条件よりも小さい場合であっても、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に起因する板内板厚偏差が、許容され得ない可能性がある。上記の板内板厚変動発生条件におけるスラブ厚及び製品板厚の値は、あくまで本実施形態について説明するための一例であって、これらの値は、製品に求められる板内板厚偏差の許容範囲を外れ得る値として、圧延条件や製品仕様等に応じて適宜設定されてよい。
(圧延形状比に関する板内板厚変動発生条件)
次に、圧延形状比に関する板内板厚変動発生条件について説明する。本発明者らは、圧延形状比と四周部板厚減少に係る板内板厚変動との関係について調査した。図5に調査結果を示す。図5は、圧延形状比と板内板厚偏差との関係を示すグラフ図である。図5では、図3及び図4と同様に、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の度合いを示す指標として、板内板厚偏差(板内の板厚の最大値と最小値との差)を縦軸に取っている。また、図5では、圧延形状比を横軸に取っている。なお、図5では、一例として、圧延後の板厚が150(mm)となるように圧延を行った場合における、圧延形状比と板内板厚偏差との関係を図示している。例えば、入側板厚が155.2(mm)の場合、圧延形状比は0.30である。
図5を参照すると、圧延形状比が大きくなるにつれて、板内板厚偏差は低減していることが分かる。具体的には、圧延形状比が約0.3以上である場合に、板内板厚偏差が約500(μm)以下に低減することが分かる。
上記(スラブ厚及び製品板厚に関する板内板厚変動発生条件)で言及したように、他の板内板厚変動の代表であるクラウンにおける板内板厚偏差のオーダーが数十(μm)であることを考えると、図3及び図4と同様に、図5に示す結果においても、例えば板内板厚偏差が数百(μm)以上生じている領域が、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じている領域であると言える。そこで、本実施形態では、圧延形状比が約0.3よりも小さいことを、板内板厚変動発生条件の一つとみなすこととする。
ここで、図5の横軸に示す圧延形状比は、厚板圧延における一連の圧延工程のうちの、ある1回の圧延工程に注目した際の圧延形状比を意味している。従って、図5に示す結果は、厚板圧延を構成する各圧延工程において圧延形状比を適宜調整することにより、各圧延工程における四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生を制御することができることを示している。
一方、本発明者らは、図5に示す圧延形状比と板内板厚偏差との関係を、厚板圧延を構成する各圧延工程において取得した結果、いずれの圧延工程における結果も、同様の関係性を示すことを発見した。すなわち、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じる条件(例えば圧延形状比が0.3よりも小さい条件)において、圧延工程を複数回繰り返した場合であっても、板内板厚偏差が徐々に増大することはなく、各圧延工程において、同様の板内板厚偏差が得られたのである。これは、ある圧延工程において生じた四周部板厚減少に係る板内板厚変動が、その次の圧延工程の結果には影響しない、すなわち、四周部板厚減少に係る板内板厚変動は圧延工程間で遺伝しないことを示唆している。
そこで、本発明者らは、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が圧延工程間で遺伝しないことを確認するために、以下の実験を行った。まず、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に生じる条件(例えば圧延形状比が0.3よりも小さい条件)において1回目の圧延を行い、その圧延後の被圧延材における板厚の、最薄部との差分の面内分布を取得した。次に、当該圧延後の被圧延材に対して、同一の条件で、被圧延材の尾端部から圧延機に咬み込ませるように、2回目の圧延を行い、その圧延後の被圧延材における板厚の、最薄部との差分の面内分布を取得した。その結果、1回目の圧延後の板厚の最薄部との差分の面内分布と、2回目の圧延後の板厚の最薄部との差分の面内分布とは、咬み込み端から尾端部にかけて、ほぼ同様の分布を有することが分かった。当該結果から、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が圧延工程間で遺伝しないことが確認された。
従って、厚板圧延においては、少なくとも最後に行われる圧延工程(最終パス)において、板内板厚変動発生条件を満たさないような圧延条件で圧延を行うことにより、四周部板厚減少に係る板内板厚変動を抑制できると考えられる。ここで、板内板厚変動発生条件として注目したパラメータのうち、製品板厚は、製品の規格によって定まる値であるため、任意に変更することは難しい。また、スラブ厚には、当然、製品板厚よりも大きいことが求められるため、製品板厚が所定の値に制限される以上、スラブ厚も任意に変更することは困難である。また、スラブ厚は、連続鋳造機の性能に応じて決定されるものであるため、スラブ厚の変更可能範囲には、設備上の制約もある。
そこで、本実施形態では、圧延形状比に注目し、厚板圧延における少なくとも最終パスを、板内板厚変動発生条件を満たさないような圧延形状比によって実行する。具体的には、厚板圧延の最終パスにおける圧延形状比を0.3以上にする。これにより、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生を抑制することができ、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に伴う板内板厚偏差をより小さくすることができるため、従来行われているような板内板厚偏差を低減するための追加的な処理を省くことができる。
ここで、圧延形状比は、ワークロールと被圧延材との接触弧長と、被圧延材の入側板厚と、被圧延材の出側板厚と、によって定まる。具体的には、圧延形状比Γ=Ld/hmであり、Ldは幾何学的接触弧長(mm)、hmは平均板厚(mm)、hm=(入側板厚+2×ロールギャップ)/3である。なお、ロールギャップは出側板厚に対応して決定される。最終パスにおける出側板厚は、すなわち製品板厚であるため、予め値が設定されている。また、ワークロールと被圧延材との接触弧長は、ワークロール直径及び圧下率に関連する量であるが、ワークロール直径は圧延機の装置構成によって一意に定まる。一方、圧下率は、被圧延材の入側板厚と、被圧延材の出側板厚と、によって定義される量である。このように、出側板厚が製品板厚として所定の値に限定される場合には、圧延形状比を所定の値に設定することは、入側板厚を所定の値に設定することと同意である。従って、本実施形態に係る圧延方法は、厚板圧延の最終パスにおける圧延形状比を0.3以下にするように、当該最終パスの入側板厚を設定する方法であるとも言える。
以上、本発明者らが、厚板圧延において得た新たな知見について説明した。以上説明したように、本発明者らは、厚板圧延において、比較的板厚の大きい厚鋼板に対して、比較的圧下率の小さい圧延条件で圧延を行った場合に、被圧延材の長手方向及び幅方向の端部の板厚が中央部の板厚よりも薄くなる形状異常(四周部板厚減少に係る板内板厚変動)が顕著に生じることを発見した。
従来、当該四周部板厚減少に係る板内板厚変動に対しては、十分にその解析が行われておらず、当該四周部板厚減少に係る板内板厚変動が発生した場合には、圧延や研削作業を追加的に行うことにより、板内板厚偏差を低減する処理が行われていた。これらの追加的な処理は、製造コストの増加を招いていた。
そこで、本発明者らは、当該四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に発生する条件(板内板厚変動発生条件)について詳細な検討を行った。本発明者らによる検討の結果、当該板内板厚変動発生条件は、スラブ厚、製品板厚及び圧延形状比によって規定され得ることが分かった。具体的には、スラブ厚が約250(mm)よりも大きいこと、製品板厚が約150(mm)よりも大きいこと、及び圧延形状比が約0.3よりも小さいこと、を全て満たした場合に、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が顕著に発生し得る。
本発明は、本発明者らによる以上の検討結果に基づいて想到されたものである。以下、本実施形態の好適な一実施形態を実現する一構成例について詳細に説明する。
(2.圧延機の構成)
図6を参照して、本実施形態に係る圧延機の構成について説明する。図6は、本実施形態に係る圧延機の一構成例を示す図である。図6では、本実施形態に係る圧延機を、左右方向(ワークロールの回転軸方向)から見た様子を図示している。ただし、ハウジングの中の構成や、被圧延材の通板位置(パスライン)を示すために、一部の部材は透過させて図示している。また、図6では、本実施形態に係る圧延機の駆動を制御する制御装置を併せて図示している。
ここで、圧延機1は、厚板圧延用の圧延機である。圧延機1は、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が発生し得るような板厚を有する被圧延材(例えば、スラブ厚が約250(mm)よりも大きく、製品板厚が約150(mm)よりも大きい被圧延材)に対して、成形圧延工程、幅出し圧延工程及び仕上圧延工程を、それぞれ複数回繰り返すことにより、所望の形状に被圧延材を加工する。なお、圧延可能なスラブ厚及び製品板厚の上限は、圧延機1の性能に応じて異なる。例えば、本実施形態では、圧延機1は、スラブ厚が約600(mm)以下であり、製品板厚が約500(mm)以下である圧延条件での圧延が可能なように構成されている。
図6を参照すると、本実施形態に係る圧延機1は、ハウジング9の中に、上下一対のワークロール1−1、1−2と、ワークロール1−1、1−2の上下にそれぞれ設置されワークロール1−1、1−2を支持するバックアップロール2−1、2−2と、が配設されて構成される。このように、圧延機1は、4本のロールを備える、いわゆる4重圧延機である。
ワークロール1−1、1−2は、所定のロール回転速度で回転するとともに上下から所定の圧力で被圧延材10を圧下することにより、被圧延材10を一方向に通板しながら所定の板厚に形成する。ワークロール1−1、1−2の圧下位置(ロールギャップ)は、圧延後の被圧延材10の板厚の目標値や圧下率等の圧延条件に応じて、後述する圧下装置11によって適宜調整される。ワークロール1−1、1−2は、一般的な厚鋼板の圧延に用いられるワークロールと同様であってよい。例えば、ワークロール1−1、1−2のロール径は、厚鋼板を圧延することに対応して、例えば900(mm)以上であり得る。
上下一対のワークロール1−1、1−2は、それぞれ、ワークロールチョック3−1、3−2によって回動可能に軸支される。また、バックアップロール2−1、2−2は、それぞれ、バックアップロールチョック4−1、4−2によって回動可能に軸支される。
上側のバックアップロールチョック4−1には、下方に突出したアーム部が設けられており、上側のワークロールチョック3−1は、当該アーム部によって支持されている。また、当該アーム部には、上側のワークロールチョック3−1との間に、インクリースベンディング装置6−1、6−2が設けられる。つまり、上側のバックアップロールチョック4−1のアーム部が、インクリースベンディング装置6−1、6−2を介して、上側のワークロールチョック3−1を支持している。更に、上側のワークロールチョック3−1と上側のバックアップロールチョック4−1との間には、ディクリースベンディング装置7−1、7−2が設けられる。
ハウジング9の、下側のワークロールチョック3−2に対応する位置には、当該ハウジング9の内側に突出した入側プロジェクトブロック5−1及び出側プロジェクトブロック5−2が設けられる。入側プロジェクトブロック5−1及び出側プロジェクトブロック5−2は、インクリースベンディング装置6−3、6−4を介して、ワークロールチョック3−2を支持している。また、下側のワークロールチョック3−2と下側のバックアップロールチョック4−2との間には、ディクリースベンディング装置7−3、7−4が設けられる。
インクリースベンディング装置6−1〜6−4は、ロール開度を大きくする方向の力をワークロールチョック3−1、3−2に与える装置である。インクリースベンディング装置6−1〜6−4は、例えば油圧シリンダー等の駆動装置によって構成される。
ディクリースベンディング装置7−1〜7−4は、ロール開度を小さくする方向の力をワークロールチョック3−1、3−2に与える装置である。ディクリースベンディング装置7−1〜7−4は、例えば油圧シリンダー等の駆動装置によって構成される。
圧延機1では、上述したように、上側のバックアップロールチョック4−1のアーム部が、インクリースベンディング装置6−1、6−2を介して、上側のワークロールチョック3−1を支持する構成を取ることにより、より大きなロールギャップを設定することができる。
また、上側のバックアップロールチョック4−1には、バックアップロールチョック4−1の上下方向の位置を調整する圧下装置11が備えられる。圧下装置11は、例えば油圧シリンダー等の駆動装置によって構成される。圧下装置11によって、上側のバックアップロールチョック4−1及び上側のワークロール1−1の上下方向の位置が調整されることにより、ワークロール1−1、1−2の圧下位置、すなわちロールギャップが制御される。圧下装置11は、後述する制御装置20によってその駆動が制御されており、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生条件(上述した板内板厚偏差発生条件)を満たさないような圧延形状比を実現するように、ロールギャップを調整する。
なお、図6に示す例では、上側のバックアップロールチョック4−1にのみ圧下装置11が設けられる装置構成について図示しているが、圧下装置11は、下側のバックアップロールチョック4−2に設けられてもよい。上側及び下側のいずれか一方に設けられる圧下装置11が駆動されることにより、上下のワークロール1−1、1−2のうちのいずれか一方の上下方向の位置が調整され、ロールギャップが制御されることとなる。また、バックアップロールチョック4−1には、圧下装置11とともに、ロードセル12が設けられる。ロードセル12によって圧延荷重が測定される。
制御装置20は、圧延機1の駆動を統合的に制御する。制御装置20は、所望の圧延条件で圧延が行われるように、圧延機1の各部材の駆動を制御する。制御装置20は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の各種のプロセッサによって構成されてよく、制御装置20の機能は、当該プロセッサが所定のプログラムに従って動作されることにより実現され得る。なお、制御装置20は、圧延機1の動作を制御する機能を有すればよく、その具体的な構成は限定されない。例えば、制御装置20は、上述したような各種のプロセッサであってもよいし、プロセッサとメモリ等の記憶装置とが一体的に構成されたいわゆるマイコンであってもよい。あるいは、制御装置20は、PC(Personal Computer)やサーバ等の各種の情報処理装置であってもよい。
本実施形態では、制御装置20によって、少なくとも最終パスにおいて、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生条件(上述した板内板厚偏差発生条件)を満たさないような圧延形状比によって圧延が行われるように、圧延機1の駆動が制御される。
具体的には、制御装置20は、少なくとも最終パスの圧延形状比が0.3以上となるように圧下率を設定し、当該圧下率によって圧延が行われるように、圧下装置11の駆動を制御しロールギャップを調整する。上述したように、最終パスの出側板厚、すなわち製品板厚は、製品の規格に従って所定の値に限定されているため、圧延形状比が0.3以上となるように圧下率を設定することは、入側板厚を設定することと同意である。従って、制御装置20は、少なくとも最終パスの圧延形状比が0.3以上となるように入側板厚を設定する機能を有しているとも言える。
また、最終パスにおいて圧延形状比が0.3以上となるような圧下率で圧延を行うことにより被圧延材を製品板厚に形成するためには、最終パスよりも前の各パスにおける圧延条件や全体のパス回数等を適切に設定する(すなわちパススケジュールを適切に設定する)必要がある。従って、制御装置20は、少なくとも最終パスの圧延形状比が0.3以上となるように、厚板圧延のパススケジュールを設定する機能を有してもよい。
このように、制御装置20によって、少なくとも最終パスの圧延形状比が0.3以上となるように、圧延機1の駆動が制御されることにより、最終的な圧延後の被圧延材において、四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生を抑制することができる。すなわち、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に伴う板内板厚偏差のより小さい厚鋼板を得ることができる。従って、従来行われているような、板内板厚偏差を低減するための追加的な処理を省くことができ、製造コストをより低減することができる。
以上、図6を参照して、本実施形態に係る圧延機1の構成について説明した。ここで、本実施形態に係る圧延機1の具体的な装置構成はかかる例に限定されない。本実施形態は、圧延機1の制御方法にその主な特徴を有するものであり、圧延機1の装置構成自体は、一般的な厚板圧延用の圧延機と同様の装置構成であってよい。図6では、一例として、一般的な厚板圧延用の圧延機の一構成例を図示している。また、制御装置20は、上述したような圧延形状比に基づく圧延機1の制御以外にも、一般的な圧延機の制御装置が有する各種の機能を実行し得る。
本発明に係る圧延方法を、厚鋼板の圧延ラインに適用した実施例1について説明する。実施例1として、以上説明した本実施形態に係る圧延方法を、スラブ厚が約600(mm)のスラブを、製品板厚430(mm)にまで圧延する厚鋼板の圧延ラインに適用した。当該実施例1では、少なくとも最終パスにおける圧延形状比が、0.3以上になるようにパススケジュールが設定されている。
また、比較例として、同じくスラブ厚が約600(mm)のスラブを製品板厚430(mm)にまで圧延する厚鋼板の圧延ラインに対して、従来の圧延方法、すなわち、最終パスにおける圧延形状比について特に考慮していない圧延方法を適用した。つまり、当該比較例では、上記のようなスラブ厚及び製品板厚を有する被圧延材に対する厚板圧延において、一般的に用いられるパススケジュールが設定されている。
また、比較例としては、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に起因する板内板厚偏差に対して対策を行わない場合(比較例1)と、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に起因する板内板厚偏差を低減させるために追加的な圧延を行う場合(比較例2)と、の2つの場合において、それぞれ、厚板圧延を行った。
本発明の効果を確認するために、比較例1、比較例2及び実施例1における、厚板圧延のパス回数を比較した。ワークロール直径は、いずれも800(mm)であり、出側板厚は430(mm)である。また、この製品の板内板厚偏差の合格基準は1.50(mm)である。図7A−図9Bに、比較例1、比較例2及び実施例1のパス回数を比較した結果を示す。図7A−図9Bでは、横軸にパス回数を取り、縦軸に各パスにおけるロールギャップを取り、両者の関係をプロットしている。
図7A及び図7Bは、比較例1における、パス回数と各パスにおけるロールギャップとの関係を示すグラフ図である。図7Bは、図7Aの最後の数パスに対応する部分を拡大して示すものである。
図8A及び図8Bは、比較例2における、パス回数と各パスにおけるロールギャップとの関係を示すグラフ図である。図8Bは、図8Aの最後の数パスに対応する部分を拡大して示すものである。
図9A及び図9Bは、実施例1における、パス回数と各パスにおけるロールギャップとの関係を示すグラフ図である。図9Bは、図9Aの最後の数パスに対応する部分を拡大して示すものである。
図7A及び図7Bを参照すると、比較例1では、17回パスを通過させることにより、スラブ厚が約600(mm)のスラブが、その板厚が製品板厚である430(mm)になるまで圧延されていることが分かる。しかしながら、比較例1では、従来の一般的なパススケジュールに従って圧延が行われているため、最終パスの入側板厚は440(mm)、ロールギャップは430(mm)であり、圧延形状比は0.15であった。その結果、最終パス終了後(17回目の圧延終了後)の被圧延材には、2.83(mm)の板内板厚偏差が生じており、合格基準の1.5(mm)を満たさなかった。
図8A及び図8Bを参照すると、比較例2においても、比較例1と同様に、17回パスを通過させることにより、スラブ厚が約600(mm)のスラブが、その板厚が製品板厚である430(mm)になるまで圧延されていることが分かる。ただし、比較例2では、その後に、一定のロールギャップで、更に2回の圧延(18回目、19回目の圧延)が行われている。この2回の圧延は、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に起因する板内板厚偏差を低減するために行われる追加的な工程である。なお、この時の17回目の圧延における入側板厚は443(mm)、ロールギャップは430(mm)であり、圧延形状比は0.08であった。また、追加的な圧延が行われた後の板内板厚変動は1.34(mm)であり、合格基準である1.5(mm)を満たすものであった。このように、比較例2では、一定のロールギャップで圧延を行う複数のパスが最後に追加されることにより、四周部板厚減少に係る板内板厚変動に起因する板内板厚偏差は低減され得る。しかしながら、これらの工程が追加されることにより、合計のパス回数は19回となり、比較例1のパススケジュールに比べて、パス回数が増加している。従って、比較例2では、製品における板内板厚変動は1.34(mm)と比較例1に比べて低減され、合格基準の1.5(mm)を満たすものの、製造コストは増加してしまう。
一方、図9A及び図9Bを参照すると、実施例1においても、比較例1、2と同様に、17回パスを通過させることにより、スラブ厚が約600(mm)のスラブが、その板厚が製品板厚である430(mm)になるまで圧延されていることが分かる。ここで、実施例1では、最終パス(17回目の圧延)の圧延形状比が、四周部板厚減少に係る板内板厚変動が発生しないような値、すなわち、入側板厚が475(mm)、ロールギャップが430(mm)及び圧延形状比が0.30になるように設定されている。その結果、実施例1では、17回目の圧延終了後の被圧延材の板内板厚偏差は1.20(mm)となり、合格基準の1.5(mm)以下であった。このように、実施例1では、最終パスである17回目の圧延における四周部板厚減少に係る板内板厚変動の発生が抑制されており、当該17回目の圧延終了後の被圧延材の板内板厚偏差が比較例1に比べて低減されることが確認できた。
このように、実施例1によれば、比較例1と同数のパス回数の圧延によって、比較例1よりも製品における板内板厚変動を低減することができる。また、比較例2のようにパス回数を増加させることなく、板内板厚変動を低減することができる。
更に、本発明者らは、最終パスの圧延形状比が板内板厚偏差に与える影響について、より詳細に調査した。その結果を、下記表1、2に示す。
下記表1には、ワークロール直径D=800(mm)、スラブ厚250(mm)及び最終パスのロールギャップh=150(mm)として、最終パスの入側板厚H(mm)を変化させ、圧延形状比Γが板内板厚変化偏差に及ぼす影響を調べた結果を示している。表中、圧延形状比が0.3よりも小さい2例を比較例3、4とし、圧延形状比が0.3以上である5例を実施例2〜実施例6としている。また、「評価」の欄では、圧延後の板内板厚偏差が0.6(mm)以上である場合を×、板内板厚偏差が0.6(mm)未満である場合を○としている。
下記表2には、ワークロール直径D=800(mm)、スラブ厚500(mm)及び最終パスのロールギャップh=300(mm)として、最終パスの入側板厚H(mm)を変化させ、圧延形状比Γが板内板厚変化偏差に及ぼす影響を調べた結果を示している。表中、圧延形状比が0.3よりも小さい2例を比較例5、6とし、圧延形状比が0.3以上である2例を実施例7、8としている。また、「評価」の欄では、圧延後の板内板厚偏差が1.0(mm)以上である場合を×、板内板厚偏差が1.0(mm)未満である場合を○としている。
上記表1を参照すると、圧延形状比が0.3未満である比較例3及び比較例4では、板内板厚変化偏差が比較的大きいが、圧延形状比が0.3以上である実施例2〜6では、板内板厚変化偏差が比較的小さいことが確認できる。また、上記表2を参照すると、圧延形状比が0.3未満である比較例5及び比較例6では、板内板厚変化偏差が比較的大きいが、圧延形状比が0.3以上である実施例7及び実施例8では、板内板厚変化偏差が比較的小さいことが確認できる。
更に、本発明者らは、ワークロール直径が板内板厚偏差に与える影響についても詳細な調査を行った。その結果を、下記表3〜5に示す。
下記表3には、スラブ厚250(mm)、最終パスのロールギャップh=160(mm)及び圧延形状比Γ=0.3として、ワークロール直径D(mm)を変化させた際における、板内板厚変化偏差について調べた結果を示している。表中、ワークロール直径Dが900(mm)よりも小さい例を比較例7とし、ワークロール直径Dが900(mm)以上である3例を実施例9〜実施例11としている。また、「評価」の欄では、圧延後の板内板厚偏差が0.8(mm)以上かつ1.2(mm)未満である場合を○、板内板厚偏差が0.8(mm)未満である場合を◎としている。
下記表4には、スラブ厚420(mm)、最終パスのロールギャップh=330(mm)及び圧延形状比Γ=0.3として、ワークロール直径D(mm)を変化させた際における、板内板厚変化偏差について調べた結果を示している。表中、ワークロール直径Dが900(mm)よりも小さい例を比較例8とし、ワークロール直径Dが900(mm)以上である3例を実施例12〜実施例14としている。また、「評価」の欄では、圧延後の板内板厚偏差が1.2(mm)以上かつ1.8(mm)未満である場合を○、板内板厚偏差が1.2(mm)未満である場合を◎としている。
下記表5には、スラブ厚500(mm)、最終パスのロールギャップh=350(mm)及び圧延形状比Γ=0.3として、ワークロール直径D(mm)を変化させた際における、板内板厚変化偏差について調べた結果を示している。表中、ワークロール直径Dが900(mm)よりも小さい例を比較例9とし、ワークロール直径Dが900(mm)以上である3例を実施例15〜実施例17としている。また、「評価」の欄では、圧延後の板内板厚偏差が1.8(mm)以上かつ2.4(mm)未満である場合を○、板内板厚偏差が1.8(mm)未満である場合を◎としている。
上記表3〜表5を参照すると、いずれのスラブ厚、入側板厚Hの場合においても、ワークロール直径D=800(mm)の場合に比べて、ワークロール直径D=900(mm)〜1100(mm)の方が、板内板厚変化偏差が小さいことが分かる。
以上の結果から、最終パスにおける圧延形状比Γを0.3以上とすることにより、板内板厚変動をより小さくできることが確認できた。また、その際に、ワークロール直径Dが900(mm)以上である場合には、板内板厚変動を更に抑制できることが分かった。このように、本実施形態に係る圧延方法を厚板圧延に適用することにより、製造コストを増加させることなく、板内板厚変動をより小さくすることができ、製品の品質を向上させることが可能となる。
(3.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
ここで、本明細書では、スラブ厚、製品板厚、圧延形状比及びロール径等の値の大きさを説明するために、「以下」や「よりも大きい」等の表現を用いているが、これらの表現はあくまで例示であって、スラブ厚、製品板厚、圧延形状比及びロール径等の値の大きさを示す際の境界条件を限定するものではない。本実施形態では、スラブ厚、製品板厚、圧延形状比及びロール径等の値の大きさの値がしきい値と等しい場合に、その大小関係をどのように判断するかは任意に設定可能であってよい。本明細書における「以下」との表現は「よりも小さい」との表現と互いに読み替えることが可能であるし、「よりも大きい」との表現は「以上」との表現と互いに読み替えることが可能である。