JP2018000390A - 酸性人工角質形成型製剤 - Google Patents
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Abstract
Description
褥瘡は臨床的には患者が長期間同じ体勢で寝たきりになった場合、体とベッドとの接触局所で血行不全となり、周辺組織に壊死を起こすものをいう。発生病理学的には人体の生理的な骨性隆起部周辺の皮膚・軟部組織に圧迫・伸張・せん断応力が外力によって生じ、その結果組織の微小循環不全となり、壊死が起こり、組織欠損と皮膚潰瘍を生じたものである。
褥瘡は皮膚が損傷を受ける症状によってステージA〜Dの4段階に分類される。
ステージB:傷害が真皮に及び、真皮までの皮膚欠損(皮膚潰瘍)が生じている状態。
水泡が形成されることもあり、壊死組織付着や細菌感染が生じやすい。
ステージC:皮下組織に達する欠損が生じた状態。
ステージD:筋肉や骨まで損傷した状態。骨の壊死、骨髄炎や敗血症を併発する。
(1)褥瘡の治療はステロイド外用剤の使用による炎症除去と皮膚局所の血行改善に努めることであるが褥瘡部位の組織・血管は脆弱化しているので血流改善目的のマッサージやドライヤー等による加熱・乾燥は禁忌である。
(2)表皮に糜爛・潰瘍が生じた場合は創の乾燥を防ぎ、湿潤環境を保持(湿潤療法)が基本であり、創傷被覆剤による創面保護を第一選択とし、感染や壊死組織がある場合にはその管理が優先される。
(3)肉芽形成・上皮化促進を目的として外用剤が使用されるが感染や壊死がある場合は上記と同様に治療を優先させる。
(4)水泡は破壊を避けるのが原則であるが、清潔に小孔を開けて水泡液を排出することを配慮する。
(5)創は毎日定期的に洗浄し、創周囲は薬用石鹸等で愛護的に洗浄し、生理食塩水や水道水でよくすすぐ。
(6)皮膚潰瘍内に壊死組織がある場合は壊死組織を除去する。壊死組織の除去には綿球やガーゼを用いて水洗したり、外科的切除(デブリードマン)したり、タンパク分解酵素を含む軟膏を塗布したりする処置を行う。
(7)創に感染がある場合は、ポビドンヨード、グルコン酸クロルヘキシジンで消毒し感染による発熱には抗生剤等の治療を実施する。
(8)損傷部位がポケット状になっている場合は、皮膚切開(ポケット開放)や外科手術を行う。感染による膿貯留が見られるときは十分に排膿する。
(9)壊死した筋肉等の軟部組織や腐骨部分は切除(デブリードマン)する。
しかし、急性期病院の多くは診療群分類包括評価が導入され、標準的、計画的な治療による平均在院日数の短縮が求められている。そのために褥瘡治療の現場は急性期病院から慢性期病院、介護施設、在宅へと広がっている。このような環境のなかで患者や家族に負担をかけずに在宅で適切な褥瘡治療を提供するためには、よりシンプルで簡便、低コストの褥瘡治療法が求められている現状である。
そこで、本発明の発明者は褥瘡の治療に多大な時間と労力とコストと患者に精神的肉体的な負担をかけないためには褥瘡になる前の対策、つまり発症予防が褥瘡対策の一番の要あると考えた。
本発明が解決しようとする課題は、褥瘡等の治療や皮膚炎症の発生を防ぐための予防手段をどのようにとればよいのかという点にある。
(1)外力:外力は寝方や座り方によって身体各所に加わる体重の具合は異なる。また、生理・解剖学的に骨や関節が突出している部分では、皮膚・皮下組織は外力と骨の板ばさみとなり、血流障害が強くなる。また、外力は身体の同じ場所でも皮膚・皮下組織に一様に加わるのではなく、骨に近い深部組織への負荷が大きいとされる。
(2)回避能力:人は一定以上の外力(強さと時間)が身体に加わると、それを回避する能力を持っている。睡眠中の寝返り行動は、血行障害や痛みを和らげる回避能力の一つである。この回避能力の低下は、さまざまな疾患・病態や療養環境において認められる。
(3)組織耐久性:人の皮膚には外界からのさまざまな刺激・異物・細菌などから身体を守るバリア機能がある。皮膚の汚れや湿潤(多汗・尿・便失禁)、皮膚疾患(類天庖瘡・真菌症等)の存在下では、皮膚のバリア機能が低下し、弱い外力でも皮膚障害(びらん・潰瘍)が発生してしまう。長期間にわたる低栄養状態、浮腫、脱水、皮下組織の血流低下を招く基礎疾患などの全身的な要因でも弱い外力で皮膚・皮下組織の障害が発生する。
ある部位に長時間荷重がかかった場合、自ら姿勢を変えられない、或いは荷重部の痛みを知覚できないことが褥瘡の原因となる。褥瘡予防のために状況に応じた耐圧分散用具と体位変換が必要となる。座位をとれる場合に座位姿勢が保持できないと荷重部に強いずれが生じ、褥瘡の原因となる。フットプレートの高さの調節と座面のクッションが必要である。
生活自立度の低下や麻痺により使われなくなった筋肉はどんどん痩せてしまう(廃用性萎縮)。又、摂食不良などにより栄養状態が低下すると病的に痩せて皮下脂肪が減少してしまう(るい痩)。これによって本来骨に付随する筋と皮下脂肪で包まれている骨が周囲から突出した状態となる。ベッド上での代表的な荷重部である仙骨部、腸骨部、大転子部、座位時の荷重部である坐骨部は、いずれも骨突出部であり、これによって強い圧迫・ずれが生じ、褥瘡の原因となる。この対策として体圧分散用具・クッションの使用や体位変換は総ての骨突出部に対する圧迫・ずれを最小限にするケアといえる。
関節拘縮は体位に著しい制限をもたらし、特に全身の関節拘縮は自力体位変換が出来ないうえに突出した荷重部に強い圧を生じることになり、極めて褥瘡発生リスクが高まる。この対策として体圧分散用具の使用、適切な体位変換とポジッショニングクッションを用いた姿勢保持と除圧が大切である。
栄養低下によるるい痩は病的骨突出の原因となる。栄養状態低下は皮膚をはじめとする組織耐久性低下の原因となる。皮膚の脆弱化は圧迫・ずれによる損傷を生じやすくなる。貧血や循環不全は組織への酸素運搬機能を低下させ、圧迫による組織の虚血に対する耐久性を低下させると考えられる。栄養状態低下による低アルブミン血症も循環不全も浮腫の原因になる。この対策として微量元素(亜鉛)を考慮した栄養サポートが解決の手段となる。
摩擦係数の上昇:皮膚は濡れることによって滑りが悪くなり、ずれ力がかかったときにより強い力を発生させる。特に仙骨座りのような頭側挙上時や座位時の不適切な姿勢では仙骨や坐骨部に非常に強いずれが生じる。湿潤がこれを増強することで皮膚表面に損傷を起こし、浅い褥瘡が出来やすい状態となる。
皮膚の脆弱化:浸潤した皮膚は正常な皮膚よりも耐久性が低くなる。又、湿潤環境が続くと湿疹や真菌感染などの皮膚疾患が発生し、皮膚の耐久性を低下させ、ずれ力に対して損傷を生じやすくなり、浅い褥瘡の原因となる。皮膚の湿潤を生じる最大の原因は尿失禁である。又、下痢の際には皮膚湿潤に加えて皮膚への便の刺激による皮膚脆弱化も生じる。
本発明者は褥瘡が発症する前の大転子部と坐骨部に発赤が認められる数人の患者に透明のセロファンテープを貼付して、その後の発赤部の状態を1ヶ月観察した結果、テープを貼らなかった患者は幹部が発赤から浅い褥瘡に病態が変化したのに対してテープを処置した患者の患部は発赤が消失、或いは進展しない状態が観察された。この事実を基にして更に研究を重ねた結果、この発明を完成させることができた。
また、皮膚組織から分泌された皮脂の機能を付加するために、前記溶解剤の中に皮膚組織の皮脂に相当する天然油であるひまし油、ゴマ油、シソ油、オリーブ油、馬油、ヒノキ油、桂皮油、ナタネ油、ダイズ油、スクワラン、及び、合成油であるシリコーン油の内、1種類以上を含む。
さらに、弱った皮膚の細胞間脂質の保湿機能を付加するために、皮膚の細胞間脂質に相当する成分としてアルカンジオール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール及びその混合物がある。
これらの人工皮膚成分に加えて脆弱化した皮膚の炎症を抑えるサリチル酸、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルレチン酸ステアリル、カミツレ(アズレン)、アラントイン、シソ抽出エキス、アロエ抽出エキス、サポニン等の1種類以上の抗炎症剤が加えられる。
脆弱化した皮膚の排泄物による細菌感染を予防する目的でジャーマンカモミール、ラベンダー、ティートリー、フラキンセンス、サンダルウッド、メントール、ペパーミント、はっか油、シトロネラ等の内、1種類以上の植物精油成分を添加する。さらにこれらの精油成分は患者の気分を和らげ、ケアによる苦痛を緩和する作用も発揮する。
これら種々の機能を持つ成分が脆弱化した皮膚の保護や炎症や感染、或いは、抗原の感作予防としての酸性人工角質形成型製剤を構成する。
更に、角質バリア破壊刺激が強すぎたり、繰り返されたりすることによって皮膚炎が誘導され、透過性バリアが障害された皮膚から経皮的に感作された場合、Th2優位の免疫応答が生じやすいことも報告されている。従って、荒れた皮膚を酸性の人工角質で補修・被覆することで、種々の皮膚炎症とアレルギー性皮膚炎の治療と予防を確実に実施できることが想定される。
本発明に係る褥瘡予防用人工角質においては、ロジン、セラック単独、或いは、ロジンとセラックの混合物をジプロピレングリコール、イソステアリルアルコール、ジエチレングリコール、ステアリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロパノール、イソブタノール、オレイルアルコール、ブタノール、メトキシジメチルブタノール、1,3−ブチレングリコール、エタノールの内の1種、或いはこれらの混合物の溶解剤に溶解し、製剤としたものであるが、人工角質に実際の皮膚角質層の機能性を補助、或いは、付加する目的で、皮脂に相当する天然油を含有し、更に細胞間脂質に相当する保湿剤を添加したものであって、皮膚に塗布した後体温で温められた溶剤が揮散し、及び/または、汗等の水分との接触によって塗布部位の皮膚上と皮内に酸性の透明の耐水性皮膜を形成することにより患部を密封或いは半密封し、脆弱化した皮膚を外部からの物理的刺激、化学的刺激、細菌感染更にアレルゲンの侵入から守り皮膚を再生させる働きをする。
栄養状態低下・浮腫による皮膚組織の耐久性の低下も上記形成皮膜と油によって補強できる。次に褥瘡発症の引き金になる危険因子である圧迫・ずれによる創傷発症は形成皮膜と潤滑作用のある油によって予防できる。患部の湿潤による摩擦係数上昇によるずれ力増強と皮膚の脆弱化は形成皮膜による耐水性の特性によって尿失禁や排便による患部の汚れと湿潤を防止することによって防ぐことが出来る。
皮膚の弾力繊維と膠原繊維の働きをロジ又はセラックを皮膜成分に加えたことによって角質細胞の隙間、毛穴及び皮脂腺等の皮膚付属器官に液が浸透して皮膚を補強する繊維を構成して弾力繊維と膠原繊維としての皮膚の機能を保持する。
皮膜成分として精油成分を添加することによって患部を殺菌し、皮膚の感染症を防ぎ、皮膚の脆弱化を予防する。更に患者の気道を通して緩和な精神作用を与えてリラックスさせ介護を円滑に行えるようにサポートする。すなわち、脆弱化した皮膚上及び皮内に形成された二層の耐水性被膜が角質層を補修し、皮膚角質層に代わる酸性人工角質としての働きをする。
本発明の褥瘡予防するための人工角質の好適な[実施例1]を説明するが、先ず、この実施例の配合比は次の[表1]に示すものである。
[表1][組成比]
ニトロセルロース・・・・・・・・・10.0w/w%
1,3−ブチレングリコール・・・・20.0w/w%
メトキシメチルブタノール・・・・・20.0w/w%
ジプロピレングリコール・・・・・・15.0w/w%
ロジン・・・・・・・・・・・・・・・5.0w/w%
セラック・・・・・・・・・・・・・10.0w/w%
ペンチレングリコール・・・・・・・・8.0w/w%
グリセリン・・・・・・・・・・・・10.0w/w%
グリチルリチン酸ジカリウム・・・・・0.2w/w%
ひまし油・・・・・・・・・・・・・・1.5w/w%
ラベンダー油・・・・・・・・・・・・0.1w/w%
酢酸トコフェロール・・・・・・・・・0.2w/w%
合計:100.0w/w%
上記の組成比になるように本実施例1の褥瘡予防を目的とした酸性人工角質は、次のような手順で調製する。
先ず、ニトロセルロース1〜30w/w(重量%)、好ましくは10.0w/w%、メトキシメチルブタノール5〜40w/w%、好ましくは20.0w/w%と、ジプロピレングリコール1〜20w/w%、好ましくは15.0w/w%との混合液に溶解させたのち、更に1,3-ブチレングリコール5〜40w/w%、好ましくは20.0w/w%を添加して良く攪拌する。
次に、この溶解液にロジン0.1〜50w/w%、好ましくは1.0〜30w/w%、より好ましくは2.0〜25.0w/w%、本実施例では5.0w/w%を少量ずつ添加した。この数値は、0.1w/w%以下では十分な被膜形成と酸性効果が得られず、50%以上では溶解性が悪く、製剤への添加が非常に厳しく、また、皮膚への追随製(柔軟性)が得られないからである。同様に、セラックも0.1〜50w/w%、好ましくは1.0〜30w/w%、より好ましくは2.0〜25.0w/w%、本実施例では10.0w/w%を少量ずつ添加し、同様に、グリチルリチン酸ジカリウム0.1〜1.0w/w、好ましくは0.2w/w%、ひまし油1.0〜10.0w/w%、好ましくは1.5w/w%、ラベンダー油0.05〜1.0w/w%、好ましくは0.1w/w%、及び、酢酸トコフェロール0.05〜3.0w/w%、好ましくは0.2w/w%を加えて良く攪拌したのち、ペンチレングリコール5.0〜30w/w%、好ましくは8.0w/w%と、グリセリン5〜20w/w%、好ましくは10.0w/w%とを順次攪拌下に少量ずつ添加し、約60分間高速攪拌した後に、24時間室温放置して製造する。
上記の組成、及び調整法で製造した実施例の褥瘡予防用人工角質の作用・効果を以下の条件で検証した。
(1)被検体:褥瘡予防用人工角質
(上記の実施例1製剤:以下「実施例品1」という。
対照製品:市販の褥創予防用透明保護テープ製剤:以下「比較例品1」という。
無処置対照:以下「コントロール」という。
(2)被験者:仙骨部に発赤を発症している成人寝たきり被介護者5名×3群、
15名(男性73歳〜85歳)
(3)試験方法:投与量・投与方法及び投与期間
ストレッチャーで入浴後に実施例品又は比較例品を被験者の仙骨部に塗布或いは貼付した。実施例品1の塗布量は1ml/10cm×10cm、比較例品の貼付面積は
10cm×10cmとした。各検体の投与期間は14日とし判定は試験開始後14日
とした。「コントロール」は仙骨部を無処置とした。
尚、被介護者は介護施設での通常の体位変換(4時間毎)を継続して受けた。
試験開始前、試験開始後14日に仙骨部位の皮膚保湿性を測定し、ふき取りによる一般細菌数を測定した。更に試験最終日に被検体を除去した後の処置部及びその周辺部位の皮膚の状態を副作用の観点から観察・評価した。
仙骨部の症状の程度について、下記の基準に従って評価判定した。
4:浅い褥瘡で真皮にいたるもの
3:かなり強い発赤もの
2:発赤が明確なもの
1:発赤が軽微なもの
0:症状のないもの
(5)症状の悪化度の判定
症状の悪化度を下記の基準に従って判定した。
著明悪化(+++):1→4 評価点数:4点
中等悪化(++) :1→3 評価点数:3点
軽度悪化(+) :1→2 評価点数:2点
不変(±) :1→1(症状の不変のもの) 評価点数:1点
改善(−) :1→0 評価点数:0点
試験開始前と試験開始後14日(試験最験日)の被検体を除去した被験者の仙骨部皮膚の保湿性をモイスチャーチェッカー水分計MY−808Sを用いて測定した。
(7)皮膚表面pH測定試験
試験開始前と試験開始後14日(試験最終日)の被検体を除去した被験者の仙骨部の皮膚表面pHをpH皮膚用スキンチェッカーMJ−120を用いて測定した。
(8)一般細菌検査
試験開始前と開始後14日(最終試験日)に被検体を除去した被験者の仙骨部を綿棒で拭き取り、標準寒天培地(平板希釈法)を用いて35℃48時間培養した後にColony Counterで生菌数を測定した。
(9)副作用の判定
試験開始後14日の最終日に被検体を除去した直後の被検体の投与部位である仙骨部及びその周辺部位の皮膚症状を刺激性の観点から観察記録した。
(10)−1:人工角質の褥瘡発症抑制試験の結果
試験結果を表2(図1)に示した。
被験者15例全員が試験開始前の仙骨部に軽微な発赤(±)を確認した。試験開始後14日の判定では「実施例品1」は2例に軽微な発赤(±)が認められたが残り3例の軽微な発赤は消失した。「比較例品」は5例中1例に試験開始前と同程度の軽微な発赤(±)が認められたが、残りの3例は明確な発赤(+)とかなり強い発赤(++)が1例認められた。これに対してコントロールでは5例総てに皮膚症状の悪化が認められ、2例が明確な発赤(+)、3例がかなり強い発赤(++)であった。
なお、表2の褥瘡発症抑制率(%)=
[(コントロール値)−(被献体値)]/コントロール値×100 である。
皮膚症状から求めた評価点数の平均点数が「実施例品1」0.4点、「比較例品1」2.0点及び「コントロール」2.6点であり、「コントロール」を基準とした試験開始前後の評価点数から求めた褥瘡発症抑制率は「実施例品1」84.6%,「比較例品」23.1%であり、前者が後者の約4倍の褥瘡発症抑制効果を示した。
試験結果を表3(図2)と表4(図3)に示した。「実施例品1」は5例の平均値で試験開始前の測定値は39.6%、試験開始後14日目は40.2%で、殆ど変化が無かった。「比較例品1」は試験開始前で40.0%、試験開始後14日目で49.4%であり、約9.4%皮膚保湿性が高くなった。
これに対して「コントロール」では試験開始前は39.4%と前2者とほぼ同等であったが、試験開始後14日目は53.6%と約14.2%皮膚保湿性が高くなった。試験開始前と試験開始後14日目の皮膚保湿率から求めた皮膚保湿率増加率は「実施例品」1.5%、「比較例品」23.2%、「コントロール」36%であった。
なお、表3の 試験前後差(%)=(14日目測定値)−(試験前測定値) であり、
表4の 保湿性増加率(%)=
[(14日目測定値)−(試験前測定値)]/試験前測定値×100 である。
試験結果を表5(図4)に示した。「実施例品1」は試験開始前のpHは5例平均で6.5であったが試験開始後14日目も同じpH6.5であり変化が無かった。「比較例品1」は試験開始前はpH6.6であり、試験開始後14日目で7.1であり約0.5のpH値の上昇が認められた。これに対して「コントロール」では試験開始前は前2者と同程度のpH6.5であったが試験開始後14日目ではpH7.9であり、約1.4のpH値の上昇が認められた。
(10)−4:人工角質の皮膚表面の一般生菌に対する効果試験結果
試験結果を表6に示した。「実施例品」は5例平均で試験開始前に皮膚の常在菌は7800であり、試験開始後14日目は9800と約1.3倍に増菌した。「比較例品」は試験開始前は8600、試験開始後14日目で23000となり、約2.7倍に増菌した。これに対して「コントロール」では試験開始前に8200であったが試験開始後14日目に82600となり、約10倍に増菌する結果となった。
褥瘡の発症しやすい仙骨部を対象にした皮膚症状の判定による褥瘡発症抑制試験では「実施例品1」は「比較例品1」に比較して約4倍の発症抑制効果を示した。
同部位での皮膚保湿性試験では「実施例品1」は試験開始前と後では殆ど皮膚保湿性は変わらずに約40%であったが「比較例品1」は最終測定日の14日目で前者に比べて約10%高い50%であった。無処置の「コントロール」では更に高い約54%の保湿率となった。上記と同じ条件化で実施した皮膚pH測定試験では「実施例品1」では皮膚pHは試験開始前と変わらない6.5の弱酸性領域にあったが、「比較例品1」は7.1と中性域に上昇し、「コントロール」では7.9のアルカリ領域に達していた。
皮膚の汚れ(一般生菌数の増加)や湿潤(多汗、尿・便失禁)更に皮膚pHが上昇してアルカリ性に傾くことはバリア機能が低下し、弱い外力でも皮膚障害(びらん、潰瘍)が発生しやすい状況になる危険性を考慮すると上記結果(褥瘡発祥抑制試験)を裏付けるものであった。
以上の結果から、「実施例品1」は「比較例品1」に比較して確実に褥瘡発症の予防に大きく作用することが期待される。
[表7][構成比]
エタノール・・・・・・・・・・・・・43.2w/w%
ヒドロキシプロピルセルロース・・・・・2.0w/w%
メトキシジメチルブタノール・・・・・10.0w/w%
1,3−ブチレングリコール・・・・・ 10.0w/w%
オリーブ油・・・・・・・・・・・・・・・8.0w/w%
スクワラン・・・・・・・・・・・・・10.0w/w%
セラック・・・・・・・・・・・・・・・6.0w/w%
グリセリン・・・・・・・・・・・・・10.0w/w%
酢酸トコフェロール・・・・・・・・・・0.1w/w%
アロエ抽出エキス・・・・・・・・・・・0.1w/w%
合計:100.0w/w%
上記の組成比になるように本実施例2の主婦湿疹の治療に対する酸性人工角質は、次のような手順で調製する。
先ず、ヒドロキシプロピルセルロースの0.1〜5.0w/w%、好ましくは2.0w/w%を、エタノール10〜80w/w%、好ましくは43.8w/w%、メトキシジメチルブタノール5〜40w/w%、好ましくは10.0w/w%及び1,3−ブチレングリコール5.0〜40w/w%、好ましくは10w/w%の混合液に攪拌下に溶解する。
この溶解液にセラック0.1〜50w/w%、好ましくは1.0〜30w/w%、より好ましくは2.0〜25.0w/w%、本実施例では6.0w/w%を少量ずつ添加した。この数値は、0.1w/w%以下では十分な被膜形成と酸性効果が得られず、50%以上では溶解性が悪く、製剤への添加が非常に厳しく、また、皮膚への追随製(柔軟性)が得られないからである。更に、オリーブ油1〜20w/w%、好ましくは8.0w/w%、スクワラン1〜20w/w%、好ましくは10.0w/w%、グリセリン5〜20w/w%、好ましくは10.0w/w%、酢酸トコフェロール0.05〜3.0w/w%、好ましくは0.1w/w%、アロエ抽出エキス0.05〜0.3w/w%、好ましくは0.1w/w%を順次加えて混合し、約60分間高速攪拌して製する。
上記の組成、及び調製方法で製造した実施例の主婦湿疹に対する治療効果を以下の条件で検証した。
(1)被検体:主婦湿疹治療用人工角質
(上記の実施例製剤:以下「実施例品2」という。
対照製品:通常市販の手荒れ用[保湿クリーム]:以下「比較例品2」という。
(2)被験者:主婦湿疹の成人女性1群5名×2群、
計10名(年齢23〜45歳)
(3)試験方法:投与量・投与方法及び期間
両手に主婦湿疹を有する被験者の手の平に約1mlの「実施例品2」を取り、両手を擦り合わせて全体によく擦りこんだ。投与は1日2回、仕事前の午前9時と午後の休憩後、仕事開始前とし、この操作を4週間、28日にわたって実施し、7日目、14日目、21日目及び28日目に下記の評価基準に従って手荒れの状態を評価した。尚、「比較例品2」も上記と同様な方法で投与、評価した。
皮膚の荒れ状態 (判定)(評価点数) 皮膚の痒みの程度:
非常に荒れている(+++)(4点) 非常に痒い(+++) (4点)
荒れている(++) (3点) 痒い(++) (3点)
軽度に荒れている(+) (2点) やや痒い(+) (2点)
殆ど荒れていない(±) (1点) 殆ど痒くない(±)(1点)
全く荒れていない(-) (0点) 全く痒くない(-) (0点)
著明改善(+++):評価点数4→0 4→1 3→0 2→0
中等度改善(++):評価点数4→2 3→1
軽度改善(+) :評価点数4→3 3→2 2→1 1→0
試験結果を表8〜表11に示した。
表8(図6)に示すように、「実施例品2」は、試験開始前の手荒れ度の5例の平均値は3.6であったが、7日目に2.0、14日目に0.8と軽減し、21日目には0となり28日目も0であった。痒み度も試験開始前3.4から7日目2.0、14日目0.2となり、21日目には0となり、28日目も0と手荒れ度に相関した結果となった。
表9(図7)に示すように、評価基準から判定した「実施例品2」の主婦湿疹に対する改善度は試験開始から7日目に5例中2例が軽度改善、3例が中等度改善を示し、14日目には4例が著明改善、1例が中等度改善となり、21日目は全例が著明改善となり、28日目も同様な結果を維持した。
また、表11(図9)示すように、評価基準から判定した「比較例品2」の主婦湿疹に対する改善度は試験開始から7日目で5例中4例が軽度改善、1例が変化なし、14日目は軽度改善が4例、変化無しが1例、21日目は1例が中等度改善、4例が軽度改善、更に28日目は中等度改善1例、軽度改善4例であった。
なお、本発明の特徴を損なうものでなければ、上記の各実施例に限定されるものでないことは勿論である。
Claims (8)
- ロジン、セラック単独、或いは、ロジン、セラックの混合物を溶解剤に溶解し、酸性の皮膜を皮膚上及び皮内に形成させ、皮膚の補修と保護を特徴とする酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤にジプロピレングリコール、イソステアリルアルコール、ジエチレングリコール、ステアリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロパノール、イソブタノール、オレイルアルコール、ブタノール、メトキシジメチルブタノール、1,3−ブチレングリコール、エタノールの内の1種、或いはこれらの混合物を溶解し、体温で温められた溶剤が攪散し、及び/または、汗を含む水分との接触によって塗布部位の皮膚上及び皮内に酸性の透明の耐水性被膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤の中にニトロセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースの内、1種類以上を溶解し、上記酸性被膜の補強と柔軟性を付与することを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤の中に天然油であるひまし油、ゴマ油、シソ油、オリーブ油、馬油、ヒノキ油、桂皮油、ナタネ油、ダイズ油、スクワラン及び合成油であるシリコーン油の内、1種類以上を含み、皮膚組織から分泌された皮脂の機能を付加したことを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤の中に多価アルコールであるアルカンジオール、イソプレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンの内の1種類以上含有し、弱った皮膚の細胞間脂質の保湿機能を付加することを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤の中に抗炎症作用を有するサリチル酸、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルレチン酸ステアリル、カミツレ(アズレン)、アラントイン、シソ抽出エキス、アロエ抽出エキス、サポニンの内、一種以上を含有し、患部の抗炎症効果を治療的、或いは予防的に発揮することを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤の中に皮膚の血流を促進するトコフェロール、センブリエキス、トウガラシエキス、ショウキョウエキス、ジオウエキスの内、1種以上を含有し、皮膚の代謝を高めることを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
- 前記溶解剤の中に精油であるジャーマンカモミール、ラベンダー、ティートリー、フラキンセンス、サンダルウッド、メントール、ペパーミント、はっか油、シトロネラの内、1種以上を含有し、皮膚の殺菌と鎮痛及び精神的な緩和作用を発揮することを特徴とする請求項1に記載の酸性人工角質形成型製剤。
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