以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本開示のある特定の局面をさらに実証するために含まれる。本明細書において提示される具体的な態様についての詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することによって、本開示はよりよく理解され得る。
図1A〜D。HCV血清粒子は、初代ヒトTリンパ球においてT細胞受容体(TCR)シグナル伝達を阻害する。健常ドナーPBMCを、様々な遺伝子型および亜型(GT;1、1a、1b、2、2b、および3)に感染したHCV陽性(HCV+)のヒトから獲得された血清、またはHCV陰性対照血清(C1〜C4)とともにインキュベートし、かつ抗CD3/CD28によるTCR刺激後に、IL-2放出(図1A)およびCD69表面発現(図1B)を測定した。CD69 MFIは、4つのHCV陰性および6つのHCV陽性の血清サンプルの平均を表す。標準偏差が示されている。様々な用量のプールされたHCV陽性またはHCV陰性の血清とともにインキュベートされたヒトPBMCによるTCR誘導性IL-2放出(図1C)。遺伝子型(GT;1、1a、1b、2、2b、および3)由来のHCV陽性血清、またはHCV陰性の血清(C1〜C4)とともにインキュベートされた精製された初代ヒトCD3+ T細胞によるIL-2放出(図1D)。US=刺激されていない細胞。MFI=平均蛍光強度。データは、3つの技術的反復の平均を表す。標準偏差が示されており、かつ各調査は、異なるドナーを用いて独立して3回実施され、類似の結果を有した。*P<0.05;**P<0.01。
図2A〜F。HCV血清に由来する細胞外小胞(EV)は、初代ヒトTリンパ球においてT細胞受容体(TCR)シグナル伝達を阻害する。健常ドナーPBMCを、HCV感染した患者血清(HCV+ EV;GT1、1a、1b、2、2b、および3)から獲得されたプールされた血清中細胞外小胞(EV)とともにインキュベートした。TCR誘導性のIL-2(図2A)およびCD69表面発現(図2B)を測定した。HCV陽性または陰性の血清とともに37℃または4℃で2時間インキュベートされたヒトT細胞による、TCR誘導性IL-2放出(図2C)。フローサイトメトリーによって判定される、CFSE陽性血清中EVの解析(図2D)、および初代ヒトT細胞によるCFSE+ EVの取り込み(図2E)。HCV RNAは、HCV陽性血清由来のEVにおいて、およびHCV陽性血清とともにインキュベートされたヒトPBMCにおいて、RT-PCRを用いて検出されたが、陰性血清ではそうではなかった(図2F)。HCV RNA US=刺激されていない細胞。MFI=平均蛍光強度。データは、標準偏差を有して、3つの技術的反復の平均を表し、かつ各調査は、異なるドナーを用いて独立して3回実施され、類似の結果を有した。*P<0.05;**P<0.01。
図3A〜D。HCV細胞培養物に由来する粒子(HCVcc)およびHCVエンベロープ偽型レトロウイルス粒子(HCVpp)は、初代ヒトT細胞においてT細胞受容体(TCR)シグナル伝達を阻害する。Huh7.5細胞において産生されたHCVccは、抗CD3/CD28によるTCR刺激の後、モックをトランスフェクトされたHuh7.5細胞培養上清液中でインキュベートされた細胞と比較して、ヒト末梢血単核細胞においてTCR仲介性のIL-2放出(図3A)およびCD69表面発現(図3B)を阻害した。同様に、HCVppは、レトロウイルスGAG粒子でインキュベートされた細胞と比較して、用量関連的様式で、TCR仲介性のIL-2放出(図3C)およびCD69表面発現(図3D)を阻害した。US=刺激されていない細胞。MFI=平均蛍光強度。データは、3つの技術的反復の平均を表す。標準偏差が示されている。各調査は、異なるドナーを用いて独立して3回実施され、類似の結果を有した。*P<0.05;**P<0.01。
図4A〜E。HCVエンベロープタンパク質E2は、T細胞受容体(TCR)仲介性シグナル伝達を阻害する。Jurkat対照細胞(JC)またはHCV E2タンパク質を安定に発現しているJurkat細胞を、抗CD3および抗CD28で刺激した。24時間後、IL-2放出(図4A)を測定した。リンパ球特異的チロシンキナーゼ(Lck Y394;図4B(603〜619=SEQ ID NO:6))、ζ鎖関連プロテインキナーゼ(ZAP)-70(Y319;図4C)、およびT細胞の活性化のためのリンカー(LAT、Y226;図4D(603〜619=SEQ ID NO:6))のリン酸化および活性化を、抗CD3を用いたTCR活性化の後、対照(JC)と比較してHCV E2発現Jurkat細胞において解析した。切断変異体または置換変異体のHCV E2タンパク質を発現しているJurkat細胞において放出されたIL-2が、図4Eに示されている。アミノ酸番号は、HCVポリタンパク質上でのそれらの位置に関する。Lck、ZAP-70、およびLATに関するホスホブロットを少なくとも3回実施し、一貫性のある結果を有した。データは、3つの技術的反復の平均を表す。標準偏差が示されている。すべての調査は少なくとも3回繰り返され、一貫性のある結果を有した。*P<0.01、ns=有意でない。
図5A〜D。HCVエンベロープ(E2)コードRNAは、近位T細胞受容体(TCR)シグナル伝達を阻害するのに十分である。遺伝子型(GT)2aおよびGT3、または4個のシトシン(cytodine)残基がアラニン残基に変化したGT2a配列に属する単離株からのタンパク質発現を廃止するフレームシフト変異を有するHCVエンベロープ(E2)RNA(アミノ酸384〜703をコードする)を安定に発現するJurkat細胞を作出した。抗CD3/CD28による24時間の刺激の後、これらのJurkat細胞からのTCR誘導性IL-2放出を測定した(図5A)。リンパ球特異的チロシンキナーゼ(Lck)の活性化を、抗CD3刺激の後、ホスホY394に対して免疫ブロットすることによって測定した(図5B)。総Lckがローディング対照として働いた。種々のHCV遺伝子型(GT)および変異体由来のHCV E2(アミノ酸603〜619)コード領域のRNA配列が、図5Cに示されている(GT-2a=SEQ ID NO:7;GT-3=SEQ ID NO:8;GT-2a変異体=SEQ ID NO:9)。保存された配列に下線が引かれており、かつGT2a配列内に導入された変異は*を付記されている(図5C)。3'リンカーライゲーションおよび特異的cDNA合成の後、小分子RNAを増幅した。小分子RNAをクローニングしかつシーケンシングし、そして(アミノ酸590〜621)をコードするHCV E2領域を、HCV E2タンパク質を発現しているJurkat細胞において検出した。図5Dは、プラスミド(pCR2.1)およびHCV E2 RNA増幅産物の部分的配列、それに続くオリゴヌクレオチドリンカー配列を実証している(SEQ ID NO:10)。データは、3つの技術的反復の平均を表す。標準偏差が示されている。各調査は少なくとも3回繰り返され、一貫性のある結果を有した。*P<0.01;ns=有意でない。
図6A〜F。HCV E2 RNAは、タンパク質チロシンホスファターゼ受容体E型(PTPRE)発現を阻害する。HCV E2 RNA(アミノ酸603〜619)領域に結合すると予測される、PTPRE 3'非翻訳領域(UTR)内の2つの部位の配列アライメント(図6A;部位1−PTPRE 3'UTR=SEQ ID NO:11、HVC E2 RNA=SEQ ID NO:12;部位2−PTPRE 3'UTR=SEQ ID NO:13、HVC E2 RNA=SEQ ID NO:14)。対照、HCV E2 RNAもしくはHCV E2変異体RNAを発現しているJurkat細胞、または全長HCVレプリコン(FL)もしくは非構造タンパク質(NS)発現レプリコンを発現しているHuh7細胞における、PTPREタンパク質レベルの免疫ブロット解析。上のバンドは、膜貫通ドメインを有する全長PTPRE(アイソフォーム1)を表し、かつ下のバンドは、細胞質PTPRE(アイソフォーム2)を表す。GAPDHがローディング対照となる(図6B)。GFPのみ、もしくはパネルAに示されるPTPRE 3'UTR配列を有するGFPをコードする1μgのプラスミドDNAと、HCV E2をコードする5μgのプラスミドDNAとを共トランスフェクトされたHEK293細胞(図6C)、またはHCV陽性血清とともにインキュベートされたHEK293細胞(図6D)によるGFP発現、ならびに72時間後に測定されたGFP発現。データは3つの技術的反復の平均を表しており、かつ各調査は少なくとも3回繰り返され、一貫性のある結果を有した。PTPREを標的にするHCV E2の領域を、細胞ケモカイン受容体CXCR4を標的にする配列で置き換え(図6E;SEQ ID NO:15)、かつこの配列を安定に発現するJurkat細胞株を作出した。CXCR4は、CXCR4を標的にするこのHCV E2配列を発現しているJurkat細胞において低下したが、天然HCV E2 RNA配列を発現しているJurkat細胞ではそうではなかった(図6F)。*P<0.01。
図7A〜D。HCV E2タンパク質は、遠位T細胞受容体(TCR)シグナル伝達を阻害する。表示される全長のまたは様々な切断変異体またはチロシン613変異体のHCV E2タンパク質フラグメントを発現しているJurkat細胞による、PMA+イオノマイシン(P+I)仲介性IL-2放出(図7A)。組換えHCV E2タンパク質は、インビトロのキナーゼ反応においてLckによってリン酸化され、かつCD45ホスファターゼによって脱リン酸化された(図7B)。Jurkat細胞において発現したHCV E2タンパク質(天然またはY613A変異体)は、抗CD3によるTCR刺激の前(−)または後(+)に沈降された。E2およびホスホ-E2は、それぞれE2特異的抗体または抗ホスホチロシン抗体を用いた免疫ブロットによって検出された(図7C)。100μg/mLのLck阻害剤またはビヒクル対照(DMSO)でインキュベートされていた対照Jurkat細胞(JC)またはHCV E2発現Jurkat細胞(384〜747)における、P+I仲介性IL-2放出(図7D)。データは、3つの技術的反復の平均を表す。標準偏差が示されている。各調査は少なくとも3回繰り返され、一貫性のある結果を有した。*P<0.01。
図8A〜D。HCV E2タンパク質は、NFAT核移行を阻害する。免疫ブロットによって判定される、Jurkat対照細胞またはHCV E2発現細胞における、活性化T細胞の核因子(NFAT)の脱リン酸化(図8A)および核移行(図8B)。核転写因子Yin Yang 1(YY1)が、核局在化に関するローディング対照として働いた。P+I仲介性IL-2は、遺伝子型(GT;1、1a、1b、2、2b、および3)に感染したHCV陽性(HCV+)のヒト、HCV陰性(HCV-)のヒト対象(C1〜C4)から獲得された血清とともに(図8C)、または細胞培養物由来のHCV粒子(HCVcc)、およびHCVエンベロープで(E1-E2;HCVpp)もしくはY613F変異を含有するHCVエンベロープで(HCVpp Y613F)偽型化されたレトロウイルス粒子とともに(図8D)インキュベートされた、初代健常ドナー末梢血単核細胞(PBMC)から放出された。US=刺激されていない、およびS=刺激された(血清なし)。データは、3つの技術的反復の平均を表す。標準偏差が示されている。各調査は、異なるドナーを用いて繰り返され、一貫性のある結果を有した。*P<0.01。
HCV感染の間のT細胞受容体(TCR)シグナル伝達の阻害に関して提唱されるモデル。肝細胞のHCV感染は、子孫HCVビリオン、ならびにHCV RNAおよび/またはE2タンパク質を含有する細胞外小胞の放出をもたらす。ウイルスRNAおよび/またはE2タンパク質は、粒子相互作用の間にT細胞内に放出される。HCVエンベロープRNAは、タンパク質チロシンホスファターゼE(PTPRE)発現を阻害する小分子RNAにプロセシングされ、それは、TCRとの結合の後のLck活性化の欠損、および近位TCRシグナル伝達の欠陥をもたらす。HCV E2タンパク質は、Lck仲介性リン酸化を競合し、かつY613におけるリン酸化されたHCV E2は、NFAT核移行を阻害し、遠位TCRシグナル伝達が阻害される。HCV E2 RNAおよびタンパク質による近位および遠位TCRシグナル伝達の阻害は、HCV感染の間のT細胞機能の欠損に寄与する。
図10A〜B。精製後のCD3+ Tリンパ球の純度。
血清から精製された細胞外小胞(EV)の特徴付け、およびHCV RNAの定量。
図12A〜E。HCVccおよびHCVppは、精製されたCD3+ T細胞においてTCRシグナル伝達を阻害する。
図13A〜D。HCVの発現、およびTCRシグナル伝達分子の活性化に対するE2の効果(603〜619=SEQ ID NO:6)。
図14A〜B。Lck調節タンパク質に対するHCV E2タンパク質の効果。
図15A〜B。Jurkat細胞におけるGFPおよびHCV E2タンパク質の発現。
近位TCRシグナル伝達を阻害するHCV E2 RNAモチーフに関する、予測される構造およびダイサー切断部位(GT-2a=SEQ ID NO:7;GT-3=SEQ ID NO:8;GT-2a変異体=SEQ ID NO:9)。
PTPRE mRNAは、HCV E2 RNAによって変更されない。
図18A〜C。HCV E2タンパク質、CD69へのシグナル伝達、およびNFAT調節分子との相互作用。
HCV E2タンパク質は、CD69の近位活性化を阻害するが、遠位活性化を阻害しない。
図20A〜B。HCV E2 vsRNA-1発現は、インビボにおいてPTPREを阻害する。代表的な肝生検(図20A)および末梢血単核細胞サンプル(PBMC、図20B)におけるPTPREタンパク質レベル。対照肝組織(HCV陰性)は、他の形の肝疾患を有するがHCV感染を有しない個体由来の肝生検を表す。対照PBMC(HCV+)は、HCV、HIV、またはHBVに感染していない健常ドナー由来である(図20B)。アクチンハウスキーピング遺伝子対照は、ゲルに載せた細胞タンパク質の量を実証する。図20Cは、HCV陰性および陽性の人々由来の肝組織におけるアクチンに対するPTPREの比、ならびに追加のHCV感染対象由来のPBMCにおけるPTPRE:アクチン比を示している。
図21A〜D。YFVおよびムンプスウイルス複製に対するLck欠如の効果。YFV(ワクチン系統17D)は、Lckを欠く細胞(JCAM(Lck-))において十分に複製したが、Lckを発現しているJurkat細胞(Lck+)ではあまり複製しなかった(図21A)一方で、ムンプスは、Lckの有無にかかわらずJurkat細胞において複製した(図21B)。感染前にT細胞を活性化することは、YFV複製の低下をもたらし(図21C)、かつ活性化前に感染することは、さらなる複製を抑制した(図21D)。
Lckの阻害は、YFV複製の増強をもたらした。GE/mL=ゲノム当量/mL。GEは、TCID50アッセイによって測定される感染力とよく相関する。
YFVに感染した細胞またはUV不活性化されたYFVとともにインキュベートされた細胞における、TCR刺激(抗C3/CD28)後に初代ヒトT細胞によって放出されたIL-2。
YFVゲノム機構が示され、エンベロープ(赤色)およびLck基質であると予測される2つの保存されたチロシンも示されている。Jurkat細胞対照(JC)、天然YFVエンベロープYFVn、Y274FおよびY274A変異を有する全長env、予測されるLck基質部位を含有するペプチド(274pep;35pep)、予測されるLyn部位を含有するペプチド(96Lyn)、ならびにRNAを発現するがYFVエンベロープタンパク質を発現しないフレームシフトを有するYFVエンベロープコード領域(YFV FS)に関して、抗CD3/CD28刺激後のIL-2応答が示されている。
マウスにおけるYFV感染の効果。本文中に記載されるように、マウスを対照培地、UV不活性化されたYFV、または感染性YFVで免疫化した。記載されるように、ova-ミョウバン免疫化およびブーストの後、脾臓および排出リンパ節を取り出し、かつ付記される濃度におけるovaを用いてエクスビボで刺激した。異なる組織からのIL-2およびIFN-γ放出が示されており、かつ反対の効果を有した。YFVはサイトカイン分泌を低下させた。Ova特異的抗体も、YFV免疫化マウスにおいて低下した。
マウスにおけるムンプス感染の効果。本文中に記載されるように、マウスを対照培地、UV不活性化されたムンプス、または感染性ムンプスウイルスで免疫化した。記載されるように、ova-ミョウバン免疫化およびブーストの後、脾臓および排出リンパ節を取り出し、かつ付記される濃度におけるovaを用いてエクスビボで刺激した。異なる組織からのIL-2およびIFN-γ放出が示されており、かつ反対の効果を有した。ムンプスはサイトカイン分泌を増加させた。
ウイルスエンベロープタンパク質およびTCRシグナル伝達経路とのRNA相互作用についての知見の概要。タンパク質およびRNA(HCV、YFV、GBV-C、HIVgp41)は近位シグナル伝達を阻害し、一方でタンパク質およびLckは遠位TCRシグナル伝達を低下させる。
PTPRE活性についてのELISAに基づくアッセイ。新鮮なホスファターゼ希釈バッファー中で、pNPP基質とともに37℃で1時間インキュベートされた組換えPTPRE(100ng)。活性PTPRE以外のすべてのものを有するブランクウェルも調製した。405nmにおける吸光度を読み取り、値は、PTPRE含有ウェル−ブランクウェルに相当する。
図29A〜C。YFV TCR阻害。YFV RNA配列が、2種のPTPRE 3'utr配列とアライメントされている(図29A;部位1−PTPRE 3'UTR=SEQ ID NO:18、YF Env=SEQ ID NO:19;部位2−PTPRE 3'UTR=SEQ ID NO:20、YF Env=SEQ ID NO:21)。変異は、シード配列(UUUACAAAA;SEQ ID NO:22)における2個のヌクレオシドの変異が、TCRシグナル伝達を回復させたことを示している(図29B;Y274=SEQ ID NO:23;Y274F=SEQ ID NO:24;Y274A=SEQ ID NO:25;Y274G=SEQ ID NO:26)。YFVは、MRC-5細胞においてPTPREタンパク質レベルを低下させたが、ムンプスウイルス感染はそうではなかった(図29C)。
例証的な態様の説明
以前に、GBV-Cおよび他のRNAウイルスが免疫活性化を低下させる潜在的メカニズムが検討された。持続的ヒトペジウイルスGBV-Cエンベロープ糖タンパク質E2によって仲介されるリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck)をめぐる競合を介してT細胞受容体(TCR)シグナル伝達を阻害する新規なウイルスメカニズムが見出された。C型肝炎ウイルス(HCV)および黄熱ウイルス(YFV、17D系統)がT細胞活性化を同程度に阻害し、かつこれらのウイルスの両方のエンベロープ糖タンパク質およびエンベロープコード領域の両方がT細胞活性化を妨害することを示す、さらなるデータが提供された。マイクロRNAへとプロセシングされると予測される、両ウイルスにおいて高度に保存されたRNA配列が同定されている。これらの配列はヒトではPTPRE遺伝子によってコードされる酵素である、PTPRE、すなわち受容体型チロシンタンパク質ホスファターゼεを標的にする。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーのメンバーである。PTPは、細胞成長、分化、分裂周期、および発癌性形質転換を含めた、多様な細胞過程を調節するシグナル伝達分子であることが知られる。この遺伝子について選択的スプライシングを受けた転写産物変種が2つ報告されており、その1つは、短い細胞外ドメイン、単一膜貫通領域、および2つのタンデム細胞質内触媒ドメインを有する受容体型PTPをコードし;もう一方のものは、別の親水性N末端を含有し、ゆえにこのPTPの非受容体型アイソフォームに相当する、PTPをコードする。マウスにおける類似遺伝子の調査により、RAS関連シグナル変換経路、サイトカイン誘導性SATAシグナル伝達、ならびに電位依存性K+チャネルの活性化における、このPTPの調節的役割が示唆された。
GBV-CおよびHCVについてのこれらの調査においてLckキナーゼが関与している一方で、さらなるT細胞阻害性シグナル伝達分子もHCVに関与する。さらに、西ナイルウイルス(WNV)、デングウイルス(DENV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、インフルエンザAおよびB、ならびにHIVを含めた他のヒト病原体に関して、これらがこの免疫調整的特徴を共有することを示すバイオインフォマティック予測が提供される。これらのウイルスの多くに対するサブユニットワクチンに関する主要な問題とは、これらが免疫原性が低く、かつ低レベルの抗体および乏しいメモリー応答しか惹起しないことである。ゆえに、エンベロープタンパク質のT細胞相互作用ドメインの同定、それに続く、TおよびB細胞応答を妨害するために必要とされる重要なアミノ酸の変異によって、防御の寿命が向上したより強力なワクチンを作出し得ると仮定されている。
GBV-Cおよび関連したHCVは、持続的感染を引き起こす細胞質ヒトRNAウイルスである。GBV-Cは全体的T細胞活性化を調整し、これは、活性化後のCD4+およびCD8+ T細胞上での上方調節された表面マーカーの測定によって決定される(Nattermann et al., 2003;Maidana et al., 2009;Xiang et al., 2004;Xiang et al., 2006;Schwarze-Zander et al., 2010;Stapleton et al., 2012)。効果は軽度であり、かつGBV-C感染したヒトは、免疫抑制の副作用によって特徴付けされない(Bhattarai & Stapleton, 2012において概説される)。対照的に、HCVは、他の感染、とくにHBV、細菌感染、および住血吸虫症に対する感受性の増加に関連していることが報告されている(Hahn, 2003において概説される)。抗HCVエンベロープ抗体は感染からチンパンジーを防御し得るものの(Farci et al., 1996)、HCVエンベロープに対する免疫応答は弱い(Fournillier et al., 2001;Cerny and Chisari, 1999)。脂質とのビリオンまたはE2の会合、大量のグリコシル化、および著しい抗原変動を含めた、これに関するいくつかの理由が提唱されている(Fournillier et al., 2001)。
数々の臨床研究により、GBV-C感染とTおよびB細胞活性化のレベルの低下との間の関連性が見出されている(Bowen, and Walker, 2005;Lauer and Walker, 2001;Kanto et al., 1999;Krishnada et al., 2010;Kobayashi et al., 1998;Semmo et al., 2005;Eckels et al., 1999;Serti et al., 2011;Doganiuc et al., 2003;Tomova et al., 2009;Masciopinto et al., 2004)。CD4+ T細胞株におけるGBV-C E2タンパク質の発現は、IL-2放出の遮断、ならびにT細胞受容体(TCR)を介した、刺激後の活性化マーカーCD69およびCD25の上方調節をもたらした(Bhattarai et al., 2012b)。さらに、初代ヒトCD4およびCD8細胞への組換えE2の添加は、TCRシグナル伝達のこれら3つの測定を妨げた(Bhattarai et al., 2012b)。
GBV-CはTおよびBリンパ球内で複製するものの(Xiang et al., 2000;George et al., 2006)、末梢血中の非常に低い比率のリンパ球が感染する(平均して、<1%)。ゆえに、感染のみでは、TCR仲介性活性化の全体的低下を引き起こす可能性は低い。GBV-C感染した人々から獲得された血清微小胞は、GBV-C非感染由来の血清微小胞と比較して、T細胞活性化を妨げることが見出されている。E2タンパク質を発現しているCD4+ T細胞株は、T細胞活性化を低下させたE2を含有するエクソソームを産生することがさらに報告されている(Bhattarai et al., 2013)。以前の報告により、HCVはエクソソームを産生すること、およびE2は、エクソソームの共通の構成要素であるE2受容体CD81とのその相互作用を介して、これらの中に組み入れられることが示されている(Masciopinto et al., 2004)。
HCV粒子は、ウイルス複製がない場合でさえ、ヒトT細胞においてT細胞受容体(TCR)シグナル伝達を直接妨害することが本明細書において開示される。感染したヒトまたは細胞培養物のいずれかの血清から獲得されたHCV粒子は、TCRシグナル伝達を阻害した。TCRシグナル伝達の阻害は、HCVエンベロープ(E2)コードRNAおよびタンパク質によって少なくとも部分的に仲介される。HCV E2 RNAは、リンパ球特異的チロシンキナーゼ(Lck)の活性化を低下させることによって、近位TCRシグナル伝達を阻害した。HCV E2タンパク質は、活性化されたNFATの核移行を低下させることによって、遠位TCRシグナル伝達を阻害した。HCV E2をコードするRNA領域における保存されたヌクレオチド配列は、近位TCRシグナル伝達阻害に関与し、一方で遠位TCRシグナル伝達の阻害は、HCV E2タンパク質における保存されたチロシン(Y613)のLck仲介性リン酸化を伴った。近位および遠位の両方のTCRシグナル伝達の欠陥は、E2 RNAにおけるヌクレオチドまたはE2タンパク質におけるY613の変異によって回復した。これらのデータは、HCV粒子がTCRシグナル伝達を直接妨害し得ることを示す。
I.ウイルス
GBV-Cエンベロープ糖タンパク質は、リンパ球キナーゼと競合する結合部位および基質部位を含有し、これが活性化の欠損につながる。C型肝炎ウイルス(HCV)および黄熱ウイルス(YFV)エンベロープは、リンパ球活性化を同程度に損なう。このことが組換えエンベロープタンパク質による免疫化に対する乏しい免疫原性およびメモリー応答を説明し得ると示唆されている。それゆえ、これらの部位を免疫抑制剤として用いることが提唱される。さらに、これらの免疫調整部位の同定および変異によって、エンベロープ糖タンパク質はより免疫原性であり、かつメモリーTおよびB細胞応答の向上を誘導すると考えられる。
そのため、本開示は、どちらもT細胞活性化を阻害するウイルスエンベロープ配列の同定に端を発する、2つの局面を伴う。これらの配列を、それが所望される状況における宿主免疫応答を低下させるために使用することができ、またはそれらを変更し、その後、ワクチン接種改善に関連して用いて、ウイルス感染を阻止、制御、または限定することができる。
これは、レオウイルス科の脊椎動物dsRNAウイルス、ならびにアトロウイルス科、カリシウイルス科、HEV、ピコルナウイルス科、トガウイルス科、フラビウイルス科、コロナウイルス科、オルトミクソウイルス科、アレナウイルス科、ブニヤウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ラブドウイルス科、およびレトロウイルス科のssRNAウイルスを含めた、すべてのヒトおよび動物RNAウイルスに適用される。
A.C型肝炎ウイルス
HCVは肝細胞で主に複製するが(Major et al., 1997)、多様な末梢血細胞(PBC)との関連においても見出される(Major et al., 1997;Schmidt et al., 1997)。議論の余地があるものの、HCVはPBCにおいてある程度複製し、かつTおよびB細胞株においては非効率的なインビトロ培養が達成され得ると思われる(Major et al., 1997;Bartenschlager et al., 2000)。
HCVが細胞に接着しかつ侵入するメカニズムは明らかになっていない。2つの細胞表面受容体がHCVまたはHCVエンベロープ糖タンパク質E2とインビトロで相互作用することが示されており、いずれかがHCV細胞受容体に相当し得るという推論につながっている(Pileri et al., 1998;Monazahian et al., 1999;Agnello et al., 1999;Flint et al., 1999;Wuenschmann et al., 2000)。組換えHCV E2は、ヒトCD81に結合することが報告されている(Pileri et al., 1998;Flint et al., 1999;Flint and Maidens et al., 1999;Hadlock et al., 2000;Owsianka et al., 2001;Flint and McKeating, 2000;Petracca et al., 2000;Patel et al., 2000)。CD81は、細胞表面分子のテトラスパニンスーパーファミリーのメンバーであり、かつ事実上すべての有核細胞上で発現する(Levy and Maecker, 1998)。初期の研究により、CD81へのE2結合は、インビボにおける標的細胞へのHCVの結合に関与し得ることが示唆された。しかしながら、E2はCD81に結合することが繰り返し報告されているものの、2つの研究だけは、ヒト血清に由来するHCV粒子がこの表面分子に結合するという証拠を提示した(Pileri et al., 1998;Hadlock et al., 2000)。
HCV E2はCD81に特異的に結合するものの(Wuenschmann et al., 2000)、血漿から精製されたHCV粒子の結合は可溶性CD81によって阻害されず、かつウイルス結合の程度はLDLr発現のレベルと相関した(Wuenschmann et al., 2000)ことが報告されている。さらなる一連の証拠は、CD81がHCV受容体ではないと反論している。HCV E2は、ヒトCD81よりもマーモセットCD81に対してより高いアフィニティーを有するが、マーモセットはHCVに感受性ではない。CD81へのHCV E2に関するアフィニティーは、真のウイルス受容体に関して予測されるよりも有意に低いことが見出された(Petracca et al., 2000)。RT-PCRに基づく検出法を用いると、血漿に由来するHCVおよびHCV E2は、CD81の発現を欠くU937サブクローニング細胞に結合した(Hamaia and Allain, 2001)。これらのデータにより、CD81はHCVに対する主たる細胞受容体ではないことが示唆される。
それにもかかわらず、HCV E2はCD81と相互作用し、かつCD81結合に関与するE2領域は高度に保存されており(Pileri et al., 1998;Flint et al., 1999;Flint and Maidens et al., 1999;Hadlock et al., 2000;Owsianka et al., 2001;Flint and McKeating, 2000;Petracca et al., 2000;Patel et al., 2000)、HCV複製におけるCD81-E2相互作用の機能的役割が示唆される(Pileri et al., 1998;Flint et al., 1999;Flint and Maidens et al., 1999;Hadlock et al., 2000;Owsianka et al., 2001;Flint and McKeating, 2000)。感染性血清の勾配遠心分離において見出された極めて低い密度のHCVは、VLDLおよびLDLとの関連を示唆した(Hijikata et al., 1993;Bradley et al., 1991;Prince et al., 1996)。感染性ウイルスは、VLDLおよびLDLと同じ密度で見出され、かつLDLと共沈した(Monazahian et al., 1999;Bradley et al., 1991;Prince et al., 1996;Thomssen and Thiele, 1993;Xiang et al., 1998)。後続の研究(Monazahian et al., 1999;Bradley et al., 1991;Prince et al. 1996;Xiang et al., 1998)により、HCVまたはHCV-LDL複合体と低密度リポタンパク質受容体(LDLr)との相互作用が報告された(Wuenschmann et al., 2000;Prince et al., 1996;Thomssen and Thiele, 1993;Xiang et al., 1998;Thomssen et al., 1992)。
感染した人々の血漿中に存在するHCVは、超低密度リポタンパク質(VLDL)および低密度リポタンパク質(LDL)と相互作用することも報告されている。肝臓は、トリグリセロール(triaglycerol)、コレステロール、リン脂質、およびアポタンパク質apoB-100からなるVLDLを合成し、VLDLは血中に放出され、そこでそれは高密度リポタンパク質(HDL)由来のさらなるリポタンパク質CIIおよびapoEを得る。VLDLは、毛細管内皮細胞に接着して見出される酵素であるリポタンパク質リパーゼ(LPL)によって消化されて、中間密度リポタンパク質(IDL)およびLDLを形成し、かつapoB-100は、LDLにおける唯一の残存アポタンパク質である。低密度リポタンパク質受容体(LDLr)は、apoEおよびapoB-100の両方を認識し、それゆえ、LDLに加えて、VLDL、IDL、およびカイロミクロンレムナントに結合し得る(Marks et al., 1996)。
血清中のHCV-RNA含有物質、おそらくウイルス粒子は、勾配沈降によって超低密度粒子(<1.06g/cm3)まで分離し、HCVはVLDLおよびLDLと関連することが示唆される(Monazahian et al., 1999;Thomssen et al., 1993;Xiang et al., 1998;Prince et al., 1996;Bradley et al., 1991)。加えて、1.11〜1.18g/cm3の密度を有する粒子が記載されている(Xiang et al., 1998;Prince et al., 1996;Bradley et al., 1991;Hijikata et al., 1993)。チンパンジーの感染力調査により、超低密度HCV粒子は高度に感染性であり、一方でより高い密度の粒子は感染性ではないことが報告された(Bradley, 2000)。HCVおよびGBV-Cは、種々の粒子タイプを有し、かつE2タンパク質およびHCV RNAの機能的効果は、粒子タイプの間で変動し得る(Monazahian et al., 1999;Xiang et al., 1998;Prince et al., 1996;Bradley et al., 1991)。Thomssenら(1993)は、HCVがLDLと共沈することを示し、かつHCVまたはHCV-LDL複合体とLDLrとの相互作用を実証した(Wuenschmann et al., 2000;Thomssen et al., 1993;Xiang et al., 1998;Prince et al., 1996;Thomssen et al., 1992)。
Monazahianら(1999)は、ヒトCD81を欠くマウス細胞における組換えヒトLDLrの発現が、これらの細胞へのHCVの結合を裏付けたことを報告し、そしてAgnelloら(1999)は、インサイチューハイブリダイゼーション法を用いて、HCVが、LDLrを含有する線維芽細胞に結合しかつ侵入するがLDLr欠如線維芽細胞ではそうではないことを報告した。フローサイトメトリーを用いて、血漿に由来するHCVはLDLrを発現している細胞に結合するが、LDLrを欠く細胞にはそうではないことが報告された(Wuenschmann et al., 2000)。ウイルスエンベロープタンパク質(E1またはE2)とLDL受容体との間の相互作用は報告されていない(Wuenschmann et al., 2000)。Monazahianら(1999)は、35S-メチオニンで標識されたインビトロ翻訳されたHCV E1およびE2タンパク質が、VLDL、LDL、およびHDLと共沈することを見出した(Monazahian et al., 2000)。
HCV E2は、ウイルスエンベロープの外面タンパク質であり、かつ標的細胞へのウイルスの結合に関与し得る。該タンパク質は、HCVポリタンパク質のアミノ酸394から始まり、かつアミノ酸747にまで及ぶ。それはタンパク質のアミノ末端に超可変領域を有し、かつカルボキシ末端は膜貫通ドメインを含む。
先行技術の欠如のために、対象におけるLDLレベルを下げるより有効な治療の必要性が依然として残る。対象におけるHCV感染を低下させる、制御する、または阻止する新たなかつ有用な方法の必要性も依然として残る。目下主張される本開示は、対象におけるLDLレベルを低下させるための新たなかつ有用な方法を開示することによって、先行技術の欠如を克服する。本開示は、HCV阻害剤を同定する新たなかつ有用な方法、およびHCV感染を治療する方法も開示する。
HCVのウイルスゲノム配列は、該配列を獲得するための方法がそうであるように、公知である。国際公報第WO 89/04669号;第WO 90/11089号;および第WO 90/14436号を参照されたい。C型肝炎ウイルス(HCV)HCVは、およそ9.5kbのプラスセンス一本鎖RNAゲノムを含有する、エンベロープを有するウイルスである。HCVのゲノム配列は、長さがおよそ9401塩基対である(SEQ ID NO:1)。HCVのペプチド配列は、Genbankアクセッション番号M62321から獲得され得る。ウイルスゲノムは、冗長な5'非翻訳領域(UTR)、およそ3011個のアミノ酸のポリタンパク質前駆体をコードする長いオープンリーディングフレーム(SEQ ID NO:2)、および短い3'UTRからなる。5'UTRは、HCVゲノムの高度に保存された部分であり、かつポリタンパク質翻訳の開始および制御に重要である。HCVゲノムの翻訳は、内部リボソーム侵入として知られるキャップ非依存的メカニズムによって開始される。このメカニズムは、内部リボソーム侵入部位(IRES)として知られるRNA配列へのリボソームの結合を伴う。ポリタンパク質前駆体は、宿主およびウイルスプロテアーゼの両方によって切断されて、成熟したウイルス構造および非構造タンパク質を産出する。ウイルス構造タンパク質には、1つのヌクレオカプシドコアタンパク質、ならびに2つのエンベロープ糖タンパク質E1およびE2が含まれる(米国特許第6,326,151号)。
HCVは、細胞結合および侵入のために、低密度リポタンパク質受容体(LDLr)を利用する(Wuenschmann et al., 2000;Monazahian et al., 1999;Agello et al., 1999)。HCVエンベロープ糖タンパク質(HCV E2糖タンパク質)は、ヒトリポタンパク質の脂質部分に結合し、かつ脂質-ウイルス複合体は、LDLに対する天然受容体を用いて細胞に結合することが以前に示されている。HCV E2糖タンパク質は、HCVポリタンパク質のアミノ酸394から始まり、かつアミノ酸747にまで及ぶ。それはタンパク質のアミノ末端に超可変領域を有し、かつカルボキシ末端は膜貫通ドメインを含む。HCVは、LDL受容体を用いたエンドサイトーシスを介して細胞に侵入する。HCV E2糖タンパク質とLDLとの相互作用は、細胞へのCD81非依存的結合だけでなく(Wuenschmann et al., 2000)、細胞によるLDL結合および取り込みの増強ももたらす。
B.他のウイルス
1.黄熱ウイルス
黄熱病は、フラビウイルス科に属する、40〜50nm幅のエンベロープを有するRNAウイルスである黄熱ウイルスによって引き起こされる。プラスセンス一本鎖RNAは、およそ11,000ヌクレオチド長であり、かつポリタンパク質をコードする単一オープンリーディングフレームを有する。宿主プロテアーゼは、このポリタンパク質を3つの構造タンパク質(C、prM、E)および7つの非構造タンパク質(NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B、NS5)に切り出す;計数は、エンドソーム膜とウイルスエンベロープとの融合を誘導するpHの減少に相当する。ゆえに、カプシドはサイトゾルに到達し、崩壊し、かつゲノムを放出する。受容体結合ならびに膜融合は、低いpHでその立体構造を変化させ、90組のホモ二量体から60組のホモ三量体への再編成を引き起こすタンパク質Eによって触媒される。
宿主細胞に侵入した後、ウイルスゲノムは、粗面小胞体(ER)およびいわゆる小胞パック(vesicle packet)において複製される。まず、未成熟型のウイルス粒子がER内部で産生され、そのMタンパク質はその成熟型にまだ切断されず、それゆえprM(前駆体M)と命名され、かつタンパク質Eと複合体を形成する。未成熟粒子は、宿主タンパク質フーリンによってゴルジ装置でプロセシングされ、prMをMに切断する。これにより、複合体からEが放出され、それはここで、成熟した感染性ビリオンにおいてその立場を果たし得る。
黄熱ウイルスは、黄熱病蚊のネッタイシマカ(Aedes aegypti)の咬みつきにより主として伝播するが、「タイガーモスキート(tiger mosquito)」(ヒトスジシマカ(Aedes albopictus))などの他の蚊も、ウイルスの媒介生物として働き得る。蚊を介して伝播する他のアルボウイルスのように、黄熱ウイルスは、感染した人または霊長類の血液を吸う雌性蚊によって取り込まれる。ウイルスは蚊の胃に到達し、かつウイルス濃度が十分に高い場合、ビリオンは上皮細胞に感染し得かつそこで複製し得る。そこから、それらは血体腔(蚊の血液系)に、かつそこから唾液腺に到達する。蚊が次に血液を吸う場合、それはその唾液を創傷内に注入し、ゆえにウイルスは咬まれた人の血液に到達する。ネッタイシマカ内の黄熱ウイルスの経卵的かつ経発育期的(transstadial)伝播、すなわち雌性蚊から彼女の卵へ、次いで幼虫への伝播の兆候も存在する。先の血液の食事なしでの媒介生物のこの感染は、疾患の単回の突然の出現において役割を果たすように見える。
2.HIV
HIVは、レトロウイルス科の一部であるレンチウイルス(Lentivirus)属のメンバーである。レンチウイルスは、共通して多くの形態および生物学的特性を有する。多くの種はレンチウイルスによって感染され、それは、長い潜伏期間(incubation period)を有する長期間の病気に特徴的に関与する。レンチウイルスは、一本鎖プラスセンスのエンベロープを有するRNAウイルスとして伝播される。標的細胞内へ侵入すると、ウイルスRNAゲノムは、ウイルス粒子内のウイルスゲノムとともに輸送される、ウイルスにコードされる逆転写酵素によって二本鎖DNAに転換される(逆転写される)。結果として生じたウイルスDNAは、次いで細胞核の中に取り入れられ、かつウイルスにコードされるインテグラーゼおよび宿主補因子によって細胞DNAに組み込まれる。いったん組み込まれると、ウイルスは潜在性となり得、ウイルスおよびその宿主細胞が免疫系による検出を回避するのを可能にする。あるいは、ウイルスは転写され得、再び複製サイクルを始める新たなウイルス粒子としてパッケージされかつ細胞から放出される新たなRNAゲノムおよびウイルスタンパク質が産生される。
HIVは、ヘルパーT細胞(具体的にはCD4+ T細胞)、マクロファージ、および樹状細胞など、ヒト免疫系における重大な細胞に感染する。HIV感染は、感染していないバイスタンダー細胞のアポトーシス、感染細胞の直接的なウイルスによる殺傷、および感染細胞を認識するCD8細胞傷害性リンパ球による感染CD4+ T細胞の殺傷を含めたいくつかのメカニズムを介して、低レベルのCD4+ T細胞につながる。CD4+ T細胞数がある程度のレベルを下回って減退した場合、細胞媒介性免疫は失われ、かつ身体は徐々に日和見感染に対してより感受性になる。
HIV-1およびHIV-2という2つのタイプのHIVが特徴付けされている。HIV-1は、最初に発見されたウイルスであり、かつLAVおよびHTLV-IIIの両方で称される。それはより悪性であり、より感染性であり、かつ世界的にHIV感染の大多数の原因である。HIV-1と比較してHIV-2のより低い感染力は、HIV-2に曝露されたより少ない人が1回の曝露につき感染するであろうことを暗示している。その比較的乏しい伝播能が理由で、HIV-2は大部分は西アフリカに制限される。
HIVは、他のレトロウイルスとは構造の点で異なる。それは、赤血球よりも大体60倍小さい、それでもウイルスにとっては大きい、約120nmの直径を有するほぼ球状である。それは、2,000コピーのウイルスタンパク質p24から構成される円錐形カプシドによって囲まれた、ウイルスの9つの遺伝子をコードする2コピーのプラス一本鎖RNAから構成される。該一本鎖RNAは、ヌクレオカプシドタンパク質、p7、ならびに逆転写酵素、プロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、およびインテグラーゼなど、ビリオンの発達に必要とされる酵素にしっかりと結合している。ウイルスタンパク質p17から構成される基質がカプシドを取り囲み、ビリオン粒子の完全性を確実にしている。
これは、今度は、新たに形成されたウイルス粒子が細胞から出芽する場合、ヒト細胞の膜から抜き出されたリン脂質と呼ばれる2層の脂肪分子から構成されるウイルスエンベロープによって取り囲まれる。宿主細胞由来のタンパク質、およびウイルス粒子の表面を通して突き出る約70コピーの複合体HIVタンパク質が、ウイルスエンベロープに埋め込まれる。Envとして知られるこのタンパク質は、糖タンパク質(gp)120と呼ばれる3つの分子から作製されるキャップと、構造をウイルスエンベロープ内に固定する3つのgp41分子からなるステムとからなる。この糖タンパク質複合体は、ウイルスが、標的細胞に接着しかつ融合して、感染サイクルを開始するのを可能にする。これらの表面タンパク質の両方、とりわけgp120は、HIVに対する将来的な治療またはワクチンの標的として見なされている。
RNAゲノムは、少なくとも7つの構造的ランドマーク(LTR、TAR、RRE、PE、SLIP、CRS、およびINS)および9つの遺伝子(gag、pol、およびenv、tat、rev、nef、vif、vpr、vpu、ならびにときには、tat、env、およびrevの融合体である10番目のtev)からなり、19種のタンパク質をコードする。これらの遺伝子のうちの3つ、gag、pol、およびenvは、新たなウイルス粒子のための構造タンパク質を作製するために必要とされる情報を含有する。例えば、envは、細胞プロテアーゼによって解体されてgp120およびgp41を形成するgp160と呼ばれるタンパク質をコードする。残り6つの遺伝子、tat、rev、nef、vif、vpr、およびvpu(または、HIV-2の場合にはvpx)は、HIVが細胞に感染し得る、ウイルスの新たなコピーを産生(複製)し得る、または疾患を引き起こし得る能力を制御するタンパク質に対する調節遺伝子である。
2つのTatタンパク質(p16およびp14)は、TAR RNAエレメントに結合することによって作用するLTRプロモーターに対する転写トランス活性化因子である。TARは、アポトーシス遺伝子のERCC1およびIER3を調節するマイクロRNAにプロセシングもされ得る。Revタンパク質(p19)は、RRE RNAエレメントに結合することによって、核および細胞質からRNAを往復させることに関与する。Vifタンパク質(p23)は、APOBEC3G(DNA:RNAハイブリッドを脱アミノ化しかつ/またはPolタンパク質を妨害する細胞タンパク質)の作用を抑制する。Vprタンパク質(p14)は、細胞分裂をG2/Mで停止させる。Nefタンパク質(p27)は、CD4(主要なウイルス受容体)ならびにMHCクラスIおよびクラスII分子を下方調節する。
Nefは、SH3ドメインとも相互作用する。Vpuタンパク質(p16)は、感染細胞からの新たなウイルス粒子の放出に影響を与える。HIV RNAの各鎖の末端は、長い末端反復(LTR)と呼ばれるRNA配列を含有する。LTR内の領域は、新たなウイルスの産生を制御するスイッチとして作用し、かつHIVまたは宿主細胞のいずれか由来のタンパク質によって誘発され得る。Psiエレメントは、ウイルスゲノムパッケージングに関与し、かつGagおよびRevタンパク質によって認識される。SLIPエレメント(TTTTTT)は、Gag-Polリーディングフレームのフレームシフトに関与して、機能的Polを作製する。
HIVは、それが非常に高い遺伝的変動性を有するという点において多くのウイルスとは異なる。この多様性は、1回の複製のサイクルあたりの1個のヌクレオチド塩基あたりおよそ3×10-5個という高い変異率、および逆転写酵素の組換え誘導(recombinogenic)特性と相まって、毎日約1010個のビリオンの作出を有する、その迅速な複製サイクルの結果である。この複雑なシナリオは、1日の経過の中で1人の感染患者においてHIVの多くの変種の生成につながる。この変動性は、1個の細胞が2種またはそれを上回る種類の異なる系統のHIVによって同時に感染された場合に度合いを増す。同時感染が生じた場合、子孫ビリオンのゲノムは、2種の異なる系統由来のRNA鎖から構成され得る。このハイブリッドビリオンは、次いで、それが複製を受ける新たな細胞に感染する。これが起こるとき、逆転写酵素は、2種の異なるRNA鋳型間を前後に跳び回ることによって、2種の親ゲノム間の組換え体である新たに合成されたレトロウイルスDNA配列を作出すると考えられる。この組換えは、それが亜型間で生じた場合に顕著である。
エンベロープ(env)領域における差異に基づいて、M、N、およびOという3つのグループのHIV-1が同定されている。グループMは主要なタイプであり、かつゲノム全体に基づき、地理的に区別される8つの亜型(または分岐群)に細分される。最も流行しているのは、亜型B(北アメリカおよびヨーロッパに主として見出される)、AおよびD(アフリカに主として見出される)、ならびにC(アフリカおよびアジアに主として見出される)であり;これらの亜型は、HIV-1のMグループの系列を表す系統樹において分岐を形成する。別の亜型との共感染は、循環組換え型(circulating recombinant form)(CRF)を生み出す。世界的な亜型流行の解析が行われた最後の年である2000年、世界中の感染の47.2%は亜型Cのものであり、26.7%は亜型A/CRF02_AGのものであり、12.3%は亜型Bのものであり、5.3%は亜型Dのものであり、3.2%はCRF_AEのものであり、かつ残りの5.3%は他の亜型およびCRFから構成された。ほとんどのHIV-1研究は亜型Bに焦点を当てており、わずかな研究室が他の亜型に焦点を当てている。2009年に単離されたウイルスに基づき、第4のグループ「P」の存在が仮説として立てられている。該系統は、2006年にニシローランドゴリラから最初に単離されたゴリラSIV(SIVgor)に由来するようである。HIV-2の遺伝子配列は、HIV-1に部分的にのみ相同であり、かつSIVsmmのものにより酷似している。
3.インフルエンザ
インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、インフルエンザウイルスC、イサウイルス、およびトゴトウイルスという5つの属を含む、オルトミクソウイルス科のRNAウイルスである。インフルエンザウイルスA属は、インフルエンザAウイルスという1種を有する。野生の水鳥は、多種多様のインフルエンザAに対する天然宿主である。ときには、ウイルスは他の種に伝播し、かつ次いで家禽において壊滅的な大発生を引き起こし得る、またはヒトインフルエンザパンデミックを生み出し得る。タイプAウイルスは、3種のインフルエンザタイプの中でもかなり悪性のヒト病原体であり、かつ深刻な疾患を引き起こす。インフルエンザAウイルスは、これらのウイルスに対する抗体応答に基づき、種々の亜型に細分され得る。
インフルエンザウイルスA、B、およびCは、構造が非常に類似している。ウイルス粒子は直径80〜120ナノメートルであり、かつ線維状の形状が生じ得るものの、通常ほぼ球状である。この粒子は、中心コアを包み込んだ、2種の主なタイプの糖タンパク質を含有するウイルスエンベロープから作製される。中心コアは、ウイルスRNAゲノム、およびこのRNAをパッケージしかつ防御する他のウイルスタンパク質を含有する。ウイルスにとっては珍しく、そのゲノムは単一の核酸ではなく、その代わりにそれは、7つまたは8つのセグメント化されたマイナスセンスRNAを含有する。インフルエンザAゲノムは、11種のタンパク質:ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、M1、M2、NS1、NS2(NEP)、PA、PB1、PB1-F2、およびPB2をコードする。
ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)は、ウイルス粒子の外側にある2種の大きな糖タンパク質である。HAは、標的細胞へのウイルスの結合および標的細胞内へのウイルスゲノムの侵入を仲介するレクチンであり、一方でNAは、成熟ウイルス粒子に結合する糖類を切断することによって、感染細胞からの子孫ウイルスの放出に関与する。ゆえに、これらのタンパク質は、抗ウイルス薬の標的である。さらに、それらは、それに対して抗体が作られ得る抗原である。インフルエンザAウイルスは、HAおよびNAに対する抗体応答に基づき、亜型に分類される。これら種々のタイプのHAおよびNAは、例えばH5N1におけるHおよびNの区別の基礎をなす。
インフルエンザウイルスは、典型的には哺乳類の鼻、喉、および肺、ならびに鳥類の腸における上皮細胞の表面にあるシアル酸糖類にヘマグルチニンを介して結合する。細胞は、エンドサイトーシスによって該ウイルスを取り入れる。酸性エンドソームにおいて、ヘマグルチニンタンパク質の一部は、ウイルスエンベロープと液胞膜とを融合させ、ウイルスRNA(vRNA)分子、付属タンパク質、およびRNA依存性RNAポリメラーゼが細胞質に放出される。これらのタンパク質およびvRNAは、細胞核内に輸送される複合体を形成し、そこでRNA依存性RNAポリメラーゼは、相補的プラスセンスvRNAを転写することを始める。vRNAは、(a)細胞質に運び出されかつ翻訳される、または(b)核内にとどまる。新たに合成されたウイルスタンパク質は、ゴルジ装置を介して細胞表面に分泌される、または核内に戻し輸送されてvRNAに結合しかつ新たなウイルスゲノム粒子を形成する。他のウイルスタンパク質は、細胞mRNAを分解すること、および放出されたヌクレオチドをvRNA合成に用いること、およびまた宿主細胞mRNAの翻訳を阻害することを含めて、宿主細胞において多数の作用を有する。
将来的なウイルスのゲノムを形成するマイナスセンスvRNA、RNA依存性RNAポリメラーゼ、および他のウイルスタンパク質は、ビリオンに会合する。ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ分子は、細胞膜における隆起内でクラスター形成する。vRNAおよびウイルスコアタンパク質は、核を去りかつこの膜突出部に侵入する。成熟ウイルスは、宿主リン脂質膜の球体における細胞から出芽し、この膜被覆を有するヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼを得る。以前のとおり、ウイルスはヘマグルチニンを介して細胞に付着し、成熟ウイルスは、いったんそれらのノイラミニダーゼが宿主細胞由来のシアル酸残基を切断すると離脱する。新たなインフルエンザウイルスの放出後、宿主細胞は死滅する。
RNAプルーフリーディング酵素が存在しないために、RNA依存性RNAポリメラーゼは、インフルエンザvRNAのおよその長さであるほぼ10,000ヌクレオチドごとに1個のヌクレオチド挿入エラーを作製する。それゆえ、新たに製造されたインフルエンザウイルスの大多数は変異体であり、「抗原ドリフト」を引き起こす。vRNAの8つの分離したセグメントへのゲノムの分離は、1種を上回る種類のウイルス株が単一細胞に感染した場合に、vRNAの混合または再集合を可能にする。結果として生じた、ウイルス遺伝的特徴の急速な変化は、抗原シフトをもたらし、かつウイルスが、新たな宿主種に感染しかつ防御免疫をすぐに克服するのを可能にする。
4.他のウイルス
本開示は、西ナイルウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、および古典的ブタ熱ウイルス(CSFV)を含めた、他のエンベロープタンパク質に由来するRNAセグメントの使用を企図する。
II.免疫抑制剤としてのウイルスRNAセグメント
ある特定の局面において、本開示は、HCV E2タンパク質または他のウイルス由来のそのホモログをコードするものなど、ウイルスRNAセグメントに向けられている。RNAセグメントの提供を用いて、免疫機能を調整し得る。本明細書において開示される組成物および方法を利用して、そのRNAセグメントのすべてまたは一部を発現させ得ることが企図される。ある特定の態様において、本開示の組成物は、ある特定のタンパク質をコードするRNAを含み得る。RNAセグメントは、例えばエンベロープ配列由来の、RNAゲノムの約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、35、40、45、50、51、75、100、150、175、200、225、250、275、300、350、400、450、または500個の連続した塩基を含み得る。どのRNAセグメントが活性を有するかについての判定は、T細胞の活性化および増殖、ならびにサイトカイン産生を測定する機能的アッセイを用いて達成され得、それらは当業者によく知られている。例示的なHCV E2コード領域(H77系統由来)が下記に示されている。
例示的なYFVエンベロープコード配列が下記に示されている。
とくに、このコード領域由来のセグメントは、ダイサー酵素に対する基質であると考えられ、ゆえにこのモチーフを有するRNA領域がとくに企図される。予測モデルにより、ダイサーに対する基質として働くはずであるいくつかのRNA配列が同定される。miR-FIND(bioinfo.51donate.com/microrna/mir-find)プログラムを用いて、T細胞受容体シグナル伝達を意図的に阻害するHCVエンベロープ(E2)コードRNA/YFV envコード配列についての検索により、種々の遺伝子型間で数が異なるいくつかの潜在的ダイサー部位が同定された。HCV E2コード領域における、遺伝子型2a単離株において保存されたリボヌクレオチド(下線)は以下である。
この領域においていくらかの配列多様性を有する遺伝子型3ウイルスE2コード領域もまたT細胞受容体シグナル伝達およびT細胞活性化を阻害することが観察されているので、介在配列は変動し得る。コード領域の開始地点にフレームシフト挿入を含むことにより阻害が無効にならなかったので、該RNAはT細胞活性化を阻害するのに十分であると思われる。さらに、RNA構造を変化させる変異を作製した場合には保存配列を取り除く変異は単にT細胞シグナル伝達しかレスキューしなかったので、RNA構造が必要とされることは明らかである。代替的変異で構造を回復させることにより、T細胞阻害効果は回復した。小文字は推定シード配列を表し、最後の大文字で書かれたCがおそらく含まれる。YFVに対する比較可能な配列が下記に示されている(小文字はシード配列を表す)。
ゆえに、ある特定の態様において、RNAセグメントは、HCV E2タンパク質の少なくとも約51塩基を含み、かつ長さが100塩基もしくはそれを下回る数であり、かつT細胞阻害ドメイン、すなわちシード配列を含有する、またはYFV Envタンパク質の少なくとも約27塩基を含み、かつ長さが100塩基もしくはそれを下回る数であり、かつT細胞阻害ドメイン、すなわちシード配列を含有する。本開示のある特定の態様は、HCV/YFVポリペプチド、とくにHCV E2タンパク質およびYFV Nnvタンパク質をコードする様々なRNAセグメントを含む。例えば、HCV E2タンパク質/YFV Envタンパク質コードRNAのすべてまたは一部が、本開示の様々な態様において用いられ得る。ある特定の態様において、RNAセグメントは、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、約100、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180、約190、約200、約210、約225、約220個、またはそれを上回る数の塩基、およびその中で導き出され得る任意の範囲を含み得るが、それらに限定されるわけではない。
配列は、該配列が、生物学的活性(例えば、免疫抑制)の維持を含めた、上記で明示される基準を満たす限り、付加的な塩基を含み得、かつそれでもなお、本質的に、本明細書において開示される配列のうちの1つに明示されるとおりであることも理解されるであろう。これらの配列は、「非相同」と称され得る。
本開示の態様は、様々なウイルスRNAセグメントおよびその誘導体を含む。RNAセグメント変種は、置換、挿入、または欠失の変種であり得る。欠失変種は、機能または免疫抑制活性に必須ではない、天然配列の1個または複数個の塩基を欠く。挿入変異体は、典型的に、RNAセグメントにおける非末端地点において材料の付加を伴う。ときには融合と呼ばれる末端付加も企図される。
「生物学的に機能等価の」という用語は、当技術分野においてよく理解されており、かつ本明細書においてさらに詳細に定義される。それに応じて、配列は、天然配列と同一である、約70%〜約80%、または約81%〜約90%、または約91%〜約99%の塩基を有し得る。
本開示は、改変された非天然かつ/または非通常の塩基を含むRNAセグメントを採用し得る。ある特定の(Certin)オリゴヌクレオチド改変は、ヌクレアーゼ分解に対する安定性を向上させ得、エキソヌクレアーゼ耐性に関しては3'末端にホスホロチオエート(P=S)骨格連結、およびエンドヌクレアーゼ耐性に関しては2'改変(2'-OMe、2'-F、および同類のもの)を導入することによって達成されている。2'-O-メチルおよび2'-フルオロヌクレオチドの全体(entirely)を有するモチーフは、血漿中安定性の増強およびインビトロ効力の増加を示している。4'-チオリボース改変を含有する配列は、天然RNAのものよりも600倍上回る安定性を有することが示されている。結晶構造調査により、4'-チオリボースが、天然二重鎖における改変されていない糖類に関して観察されるC3'-エンドパッカー(endo pucker)に非常に類似した立体構造を取ることが明らかになっている。一続きの4'-チオ-RNAは、ガイド鎖および非ガイド鎖の両方において良好な耐容性を示された。
ボラノホスフェート連結では、架橋していないホスホジエステル酸素が、等電子ボラン(BH3)部分によって置き換えられる。ボラノホスフェートsiRNAは、転写反応においてT7 RNAポリメラーゼおよびボラノホスフェートリボヌクレオシド三リン酸を用いた酵素的経路によって合成されている。ボラノホスフェートsiRNAは、ガイド鎖の中心が改変されない場合、天然siRNAよりも活性であり、かつそれらは改変されていないsiRNAよりも少なくとも10倍大きくヌクレアーゼ耐性であり得る。
ある特定の末端コンジュゲートは、細胞取り込みを向上させるまたは指揮することが報告されている。センス鎖およびアンチセンス鎖に部分的ホスホロチオエート骨格および2'-β-メチル糖修飾を有する化学的に安定化されたsiRNAは(上記で述べられた)、血清中および組織ホモジネート中でエキソおよびエンドヌクレアーゼによる分解に対して有意に増強した耐性を示し、かつピロリジンリンカーによる、NAAのセンス鎖の3'末端へのコレステロールのコンジュゲートは、細胞培養において遺伝子サイレンシング活性の有意な喪失をもたらさない。これらの調査は、コレステロールコンジュゲートが、NAAのインビボにおける薬理学的特性を有意に改善することを実証している。
「他のコード配列から実質的に単離された」とは、関心対象の遺伝子が、核酸セグメントのコード領域の一部を形成すること、および該セグメントが、大きな染色体フラグメントまたは他の機能的遺伝子またはcDNAコード領域など、天然に存在するコード核酸の大きな割合を含有しないことを意味する。当然ながら、これは、もともと単離されていた核酸セグメントを指し、かつ後にヒトの操作によって該セグメントに付加された遺伝子またはコード領域を除外するわけではない。
特定の態様において、本開示は、単離された核酸セグメント、およびウイルスエンベロープポリペプチドまたはペプチドをコードするDNA配列を組み入れた組換えベクターに関係する。これらのポリペプチド/ペプチドは、それらのアミノ酸配列内に、ウイルスエンベロープポリペプチドに従った、つまり本質的にそれに対応する近接したアミノ酸配列を含む。これらのポリペプチド内の1つまたは複数のキナーゼ部位に改変を有する変種も想定される。
本開示において用いられる核酸セグメントは、コード配列それ自体の長さにかかわらず、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、付加的な制限酵素部位、マルチクローニングサイト、他のコードセグメントなど、他のDNAまたはRNA配列と組み合わせられ得、そのためそれらの全体の長さは大幅に変動し得る。それゆえ、ほぼ任意の長さの核酸フラグメントが採用され得、全長は、意図される組換えDNAプロトコールにおける調製および使用の容易さによってのみ限定されることが企図される。
A.HCV E2配列または他のウイルスエンベロープ領域を担持するベクター
本開示は、RNAセグメントを提供するベクターの使用も網羅する。「ベクター」という用語は、それが複製され得る細胞内への導入のために、その中に核酸配列を挿入し得る担体核酸分子を指すために用いられる。核酸配列は「外因性」であり得、それは、ベクターが導入されている細胞にとってそれが外来物であること、または配列が、細胞内ではあるが該配列が普通見出されない宿主細胞核酸内の箇所における配列と相同であることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、および人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。特定の態様において、遺伝子療法または免疫化ベクターが企図される。当業者であれば、両方とも参照により本明細書に組み入れられるManiatis et al., 1988およびAusubel et al., 1994に記載されている、標準的な組換え技法によりベクターを構築する能力を十分に備えているであろう。
「発現ベクター」または「発現構築物」という用語は、転写され得る遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。発現ベクターは、特定の宿主生物における機能的に連結されたコード配列の転写およびおそらく翻訳に必要な核酸配列を指す、多様な「制御配列」を含有し得る。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、同様に他の機能を果たしかつ下記で記載される核酸配列を含有し得る。
1.プロモーターおよびエンハンサー
「プロモーター」とは、そこで転写の開始および速度が制御される核酸配列の領域である制御配列である。それは、そこで調節タンパク質および分子がRNAポリメラーゼおよび他の転写因子などに結合し得る、遺伝子エレメントを含有し得る。「機能的に位置付けされた」、「機能的に連結した」、「制御下にある」、および「転写制御下にある」という語句は、プロモーターが、核酸配列に関して正しい機能的な位置および/または配向にあって、その配列の転写開始および/または発現を制御することを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列を指す「エンハンサー」と合わせて用いられても用いられなくてもよい。
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって獲得され得るような、遺伝子または配列に天然に伴うものであり得る。そのようなプロモーターは、「内因性」と呼ばれ得る。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する、核酸配列に天然に伴うものであり得る。代替的に、その天然環境において核酸配列に通常伴わないプロモーターを指す組換えのまたは異種のプロモーターの制御下に、コード核酸セグメントを位置付けすることによって、ある特定の利点が得られる。組換えのまたは異種のエンハンサーもまた、その天然環境において核酸配列に通常伴わないエンハンサーを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意の原核細胞、ウイルス細胞、または真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち異なる転写調節領域の異なるエレメント、および/または発現を変更する変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により産生することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物と合わせて、PCR(商標)を含めた組換えクローニングおよび/または核酸増幅技術を用いて産生され得る(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号および米国特許第5,928,906号を参照されたい)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などの非核細胞小器官内の配列の転写および/または発現を指揮する制御配列が同様に採用され得ることが企図される。
当然、発現のために選定された細胞タイプ、細胞小器官、および生物において核酸セグメントの発現を有効に指揮するプロモーターおよび/またはエンハンサーを採用することが重要であろう。分子生物学の技術分野における当業者であれば、一般的に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞タイプの組み合わせの使用を知っており、例えば参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)を参照されたい。採用されるプロモーターは、構成的であり得、組織特異的であり得、誘導性であり得、かつ/または導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を指揮する適当な条件下で有用であり得る。プロモーターは、異種または外因性であり得る、すなわちウイルス配列とは異なる供給源由来であり得る。一部の例において、所望の配列のインビトロ転写との使用のために、原核生物プロモーターが採用される。多くの市販のシステムとの使用のための原核生物プロモーターには、T7、T3、およびSp6が含まれる。
組織特異的プロモーターまたはエレメントの同定、ならびにそれらの活性を特徴付けするアッセイは、当業者に周知である。そのような領域の例には、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al. 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスα(XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee et al., 1997)、インスリン様成長因子II(Wu et al., 1997)、ヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al., 1996)が含まれる。
2.開始シグナル
コード配列の効率的な翻訳には、特異的な開始シグナルも要され得る。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含めた、外因性の翻訳制御シグナルが提供される必要があり得る。当業者であれば、簡単にこれを決定することができかつ必要なシグナルを提供することができるであろう。タンパク質に関しては、インサート全体の翻訳を確実にするために、開始コドンは、所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」である必要があることは周知である。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成のいずれかであり得る。発現の効率は、適当な転写エンハンサーエレメントの包含によって増強され得る。
3.マルチクローニングサイト
ベクターは、多数の制限酵素部位を含有する核酸領域であるマルチクローニングサイト(MCS)を含み得、そのうちのいずれかを標準的な組換え技術と合せて用いて、ベクターを消化することができる(参照により本明細書に組み入れられるCarbonelli et al., 1999、Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照されたい)。「制限酵素消化」とは、核酸分子内の特異的位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くが市販されている。そのような酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。頻繁には、MCS内で切る制限酵素を用いてベクターを線状化またはフラグメント化して、外因性配列がベクターにライゲーションされるのを可能にする。「ライゲーション」とは、互いに近接していても近接していなくてもよい2つの核酸フラグメント間でホスホジエステル結合を形成する過程を指す。制限酵素およびライゲーション反応を伴う技法は、組換え技術の技術分野における当業者に周知である。
4.スプライシング部位
ほとんどの転写された真核生物RNA分子は、一次転写産物からイントロンを取り除くRNAスプライシングを受ける。真核生物ゲノム配列を含有するベクターは、タンパク質発現のために、転写産物の適正なプロセシングを確実にする、ドナーおよび/またはアクセプターのスプライシング部位を含み得る。参照により本明細書に組み入れられるChandler et al., 1997を参照されたい。
5.終結シグナル
本開示のベクターまたは構築物は、概して、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写産物の特異的終結に関与するDNA配列から構成される。ゆえに、ある特定の態様において、RNA転写産物の産生を終わらせる終結シグナルが企図される。望ましいメッセージレベルを達成するために、ターミネーターがインビボにおいて必要であり得る。
真核生物システムにおいて、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を曝露するために、新たな転写産物の部位特異的切断を可能にする特異的DNA配列も含み得る。これは、転写産物の3'末端に約200個のA残基(ポリA)の伸長を付加するように、特化した内因性ポリメラーゼにシグナルを送達する。このポリAテールを修飾されたRNA分子は、より安定であるように思われかつより効率的に翻訳される。ゆえに、真核生物を伴う他の態様において、ターミネーターはRNAの切断のためのシグナルを含み、そして他の態様において、ターミネーターシグナルは、メッセージのポリアデニル化を促進する。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強し、かつ/またはカセットから他の配列までの読み通しを最小限にする働きをし得る。
本開示における使用のために企図されるターミネーターには、例えばウシ成長ホルモンターミネーターなどの遺伝子の終結配列、または例えばSV40ターミネーターなどのウイルス終結配列を例えば含むがそれらに限定されない、本明細書において記載されるまたは当業者に公知である任意の公知の転写のターミネーターが含まれる。ある特定の態様において、終結シグナルは、配列の切除などによる、転写可能なまたは翻訳可能な配列の不足であり得る。
6.ポリアデニル化シグナル
発現、とくに真核生物の発現のためには、典型的に、転写産物の適正なポリアデニル化をもたらすポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化シグナルの性質は、本開示の実践の成功に決定的ではないと考えられ、かつ/または任意のそのような配列が採用され得る。一部の態様は、好都合でありかつ/または様々な標的細胞において上手く機能することが知られる、SV40ポリアデニル化シグナルおよび/またはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写産物の安定性を増加させ得る、または細胞質輸送を促し得る。
7.複製の起点
宿主細胞においてベクターを増やすために、そこで複製が開始される特定の核酸配列である、複製部位の1つまたは複数の起点(しばしば、「ori」と称される)が含有され得る。あるいは、宿主細胞が酵母である場合、自律複製配列(ARS)が採用され得る。
8.選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
本開示のある特定の態様において、本開示の核酸構築物を含有する細胞は、発現ベクター内にマーカーを含めることによって、インビトロまたはインビボで同定され得る。そのようなマーカーは同定可能な変化を細胞に付与し、それによって、発現ベクターを含有する細胞の容易な同定を可能にする。一般的に、選択可能なマーカーとは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択可能なマーカーとは、マーカーの存在によりその選択が可能となるものであり、一方で陰性選択可能なマーカーとは、その存在によりその選択が阻止されるものである。陽性選択可能なマーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
通常、薬物選択マーカーの包含は、形質転換体のクローニングおよび同定に役立ち、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子は、有用な選択可能なマーカーである。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、その根拠が比色分析であるGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含めた、他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのスクリーニング可能な酵素も利用され得る。当業者であれば、おそらくFACS解析と合わせて、どのように免疫学的マーカーを採用するのかも知っているであろう。用いられるマーカーは、それが、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限り、重要ではないと考えられる。選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
B.宿主細胞
本明細書において使用するとき、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という用語は、互換可能に用いられ得る。これらの用語のすべては、任意およびすべての後続の世代を指すそれらの子孫も含む。すべての子孫は、故意のまたは不注意による変異により、同一でなくてもよいことが理解される。異種核酸配列を発現させる文脈において、「宿主細胞」は原核または真核細胞を指し、そしてそれには、ベクターを複製し得かつ/またはベクターによってコードされる異種遺伝子を発現し得る任意の形質転換可能な生物が含まれる。宿主細胞は、ベクターに対するレシピエントとして用いられ得かつ用いられている。宿主細胞は「トランスフェクト」され得または「形質転換」され得、それは、外因性核酸を宿主細胞内に移入するまたは導入する過程を指す。形質転換された細胞は、初代対象細胞およびその子孫を含む。
所望の結果が、ベクターの複製であるのか、ベクターにコードされた核酸配列の一部もしくはすべての発現であるのか、または感染性ウイルス粒子の産生であるのかに応じて、宿主細胞は原核生物または真核生物に由来し得る。宿主細胞としての使用のために、数々の細胞株および培養物が利用可能であり、かつそれらは、生きた培養物および遺伝子材料のための保管所となる機構であるアメリカ培養細胞細胞系統保存機関(ATCC)を通じて獲得され得る。適当な宿主は、ベクター骨格および所望の結果に基づき、当業者によって決定され得る。プラスミドまたはコスミドを、例えば多くのベクターの複製のための原核生物宿主細胞内に導入し得る。ベクターの複製および/または発現のための宿主細胞として用いられる細菌細胞には、DH5α、JM109、およびKC8、ならびにSURE(登録商標)コンピテントセルおよびSOLOPACK(商標)Goldセル(STRATAGENE(登録商標), La Jolla)などのいくつかの市販の細菌宿主が含まれる。あるいは、大腸菌(E. coli)LE392などの細菌細胞が、ファージウイルスのための宿主細胞として用いられ得る。
ベクターの複製および/または発現のための真核宿主細胞の例には、HeLa、NIH3T3、Jurkat、293、Cos、CHO、Saos、およびPC12が含まれる。様々な細胞タイプおよび生物由来の多くの宿主細胞が利用可能でありかつ当業者に公知であろう。同様に、真核または原核宿主細胞のいずれかと合わせて、ウイルスベクター、とくにベクターの複製または発現に寛容であるものが用いられ得る。
C.細胞内への核酸の導入
ある特定の態様において、核酸を細胞内に導入し得る。ベクターなどの核酸分子を細胞内に導入し得るいくつかのやり方が存在する。ある特定のウイルスが受容体介在性エンドサイトーシスを介して細胞に侵入し、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、ウイルス転写産物を安定にかつ効率的に発現できる能力は、それらを、哺乳類細胞内への外来遺伝子の移入のための魅力的な候補としている(Ridgeway, 1988;Nicolas and Rubenstein, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Temin, 1986)。
「ウイルス発現ベクター」とは、その中にクローニングされているポリヌクレオチドを発現するのに十分な該ウイルスの配列を含有するベクターを含むことが意図される。アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、およびワクシニアウイルスを含めた、多数のそのようなウイルスベクターがすでに徹底的に研究されている。
送達は、細胞株を形質転換するための実験室手順に見られるようなインビトロで、またはある特定の疾患状態の治療に見られるようなインビボもしくはエクスビボで実現され得る。送達のための1つのメカニズムは、発現ベクターを感染性ウイルス粒子内でカプシド化するウイルス感染を介したものである。培養哺乳類細胞内への発現ベクターの移入のためのいくつかの非ウイルス法も本開示によって企図される。これらには、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984)、直接マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, 1985)、DNA搭載リポソーム(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979)およびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速微粒子発射体を用いた遺伝子衝撃(gene bombardment)(Yang et al., 1990)、リポソーム(Ghosh and Bachhawat, 1991;Kaneda et al., 1989)、ならびに受容体介在性トランスフェクション(Wu and Wu, 1987; Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの技法のうちの一部は、インビボまたはエクスビボでの使用に上手く適応し得る。
ある特定の態様において、1つまたは複数の遺伝子をコードする核酸を、細胞のゲノムに安定に組み込み得る。この組み込みは、相同組換えによる同系の位置および配向にあり得る(遺伝子置き換え)、またはそれはランダムな非特異的位置に組み込まれ得る(遺伝子増大)。なおさらなる態様において、核酸は、DNAの分離したエピソーム性セグメントとして細胞内で安定に維持され得る。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主細胞周期から独立したまたはそれと協調した維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。どのように発現ベクターが細胞に送達されるか、および細胞内のどこに核酸がとどまるかは、採用された発現ベクターのタイプに依存する。
核酸分子の移入は、物理的にまたは化学的に細胞膜を透過性にする上述の方法のいずれかによって実施され得る。これは、とくにインビトロでの移入に適用可能であるが、それは同様にインビボ使用に適用され得る。
III.免疫抑制療法
A.炎症性病態
本開示は、免疫応答、とくに病的炎症に関するものの調整のための、ウイルスRNAセグメントの使用に関する。一態様において、病的炎症は、インターロイキン-2(IL-2)発現に関する。IL-2は、炎症応答の間、複数の、ときには相対する機能を有する。それは、T細胞増殖、ならびにT-ヘルパー1(Th1)およびTh2エフェクターT細胞分化の強力な誘導因子であり、かつメモリー細胞の最適な生存および機能をもたらす長続きする競合的利点をT細胞に提供する。調節的役割において、IL-2は調節性T細胞の発達、生存、および機能に重要であり、それはFas介在性活性化誘導性細胞死を増強し、かつそれは炎症性T17細胞の発達を阻害する。ゆえに、その二重のかつ対照的な機能において、IL-2は、炎症性免疫応答の誘導および終結に寄与する。
それゆえ、本開示は、例えばIL-2がT細胞を活性化しておりかつ炎症状態につながっているそうした疾患に介入しようとするものである。そのような疾患には、多発性硬化症、乾癬、炎症性腸障害、早期関節炎、若年性関節炎、リウマチ性関節炎、腸炎性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、家族性地中海熱、筋萎縮性側索硬化症、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群、またはクローン病のような自己免疫疾患が含まれる。他の炎症性病態には、心血管疾患、外傷、または膵炎が含まれる。
B.遺伝子療法
一態様において、本開示は、遺伝子療法に用いられる核酸構築物に、本明細書において言及されるウイルスのうちの1種または複数種由来の免疫抑制性配列を含めることを企図する。遺伝子療法に関する1つの問題は、継続的発現を達成することであり、それは一般的に複数回の投与を要する。単回投与または複数回投与によるかどうかにかかわらず、送達ベクター/ビヒクルに対する免疫反応が生じ得る。それゆえ、免疫療法様態に対する望ましくなくかつ限定的な宿主免疫反応を鈍化させるやり方として、遺伝子療法ベクターに、本明細書において記載される免疫調整ドメインを包含することが本明細書において提言される。
C.薬学的製剤および投与の経路
臨床適用が企図される場合、意図される適用に適した形で薬学的組成物を調製する必要がある。一般的に、これは、発熱物質、ならびにヒトまたは動物に有毒であり得る他の不純物を本質的に含んでいない組成物を調製することを伴う。
タンパク質を安定な状態にする適当な塩およびバッファーを採用することが一般的に望ましい。RNAセグメントを患者に導入する場合、バッファーも採用される。本開示の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解されたまたは分散した有効量のRNAセグメントを含む。そのような組成物は、接種源とも呼ばれる。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、または他の厄介な反応をもたらさない分子実体および組成物を指す。本明細書において使用するとき、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよびすべての溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野において周知である。本開示のベクターまたは細胞と不適合でない限り、任意の従来の媒体または作用物質が治療用組成物における使用を企図される。補助的な活性成分も組成物に組み入れられ得る。
任意の薬学的調製物中の活性化合物のパーセンテージは、化合物の活性の両方に依存する。典型的に、そのような組成物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含有するはずである。組成物および調製物のパーセンテージは、当然変動し得、かつ好都合には単位の重量の約2〜約60%の間にあり得る。そのような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な投薬量が獲得されるような量である。
注入可能な用途に適した薬学的形態には、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注入可能な溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる。この形態は無菌でなければならず、かつ容易な注入が可能である程度に流動的でなければならない。それは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合液、および植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には要求される粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の阻止または制御は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、硝酸フェニール水銀(phenylmecuric nitrate)、m-クレゾールなどによってもたらされ得る。一部の態様において、等張液、例えば糖類または塩化ナトリウムが用いられ得る。注入可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの、組成物における使用によってもたらされ得る。
注入可能な無菌溶液は、必要に応じて上記で挙げられた様々な他の成分とともに、適当な溶媒中に必要とされる量で活性化合物を組み入れ、その後に滅菌濾過が続くことによって調製される。一般的に、分散液は、基本的な分散媒体および上記で挙げられたもの由来の他の成分を含有する無菌ビヒクル中に、様々な滅菌した活性成分を組み入れることによって調製される。注入可能な無菌溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製法は、事前に滅菌濾過されたその溶液から活性成分と任意の付加的な所望の成分との粉末を産出する、真空乾燥および凍結乾燥の技法であり得る。
本開示は、ウイルスRNA免疫抑制性セグメントおよびそれをコードする核酸分子を企図する。一部の態様において、薬学的組成物を対象に投与する。本開示の種々の局面は、有効量の水性組成物を投与する工程を伴う。そのような組成物は、一般的に、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解されるまたは分散する。当業者であれば、作用物質の投与の仕方、ならびにインビボおよびエクスビボの状況への遺伝子送達の仕方を十分承知している。
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、必要に応じて動物またはヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、または他の厄介な反応をもたらさない分子実体および組成物を指す。本明細書において使用するとき、「薬学的に許容される担体」には、任意のおよびすべての溶媒、分散媒体、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野において周知である。活性成分と不適合でない限り、任意の従来の媒体または作用物質が治療用組成物における使用を企図される。他の抗癌剤など、補助的な活性成分も組成物に組み入れられ得る。
静脈内または筋肉内注入のためのものなど、非経口投与のために製剤化された化合物に加えて、他の薬学的に許容される形態には、例えば経口投与のための錠剤または他の固形物質;徐放型カプセル;およびクリーム、ローション、洗口液、吸入剤など、現在用いられている他の任意の形態が含まれる。
本開示の活性化合物は、非経口投与のために製剤化され得る、例えば静脈内、筋肉内、胸腔内、皮下、またはさらに腹腔内の経路を介した注入のために製剤化され得る。i.v.またはi.m.による投与が具体的に企図される。
活性組成物は、中性または塩の形態として製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、酸性塩、および例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸で形成されるものが含まれる。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来してもよい。
ある特定の態様において、患者への組成物の連続的供給を提供することが望ましいことがある静脈内または動脈内経路に関して、これは、液滴システムによって実現される。様々な手法に関して、限定的であるが一定量の治療用作用物質を長期間にわたって提供する遅延放出型製剤が用いられ得る。内服に関しては、連続的灌流が用いられ得る。これは、カテーテル法、それに続く治療用作用物質の連続的投与によって実現され得る。灌流の期間は、特定の患者および状況に対して臨床医によって選択されるが、時間は、約1〜2時間から、2〜6時間、約6〜10時間、約10〜24時間、約1〜2日間、約1〜2週間までまたはそれよりも長い期間まで及び得る。一般的に、連続的灌流を介した治療用組成物の用量は、注入が施される期間に対して調整された、単回または複数回の注入によって与えられるものと等価である。しかしながら、より高い用量が灌流を介して達成され得ると考えられる。
水溶液での非経口投与に関して、例えば溶液は、必要に応じて適切に緩衝されるべきであり、かつ液体希釈剤は、まず、十分な生理食塩水またはグルコースで等張にされるべきである。これらの特定の水溶液は、とりわけ静脈内、筋肉内、皮下、および腹腔内投与に適している。これに関連して、採用され得る無菌の水性媒体は、本開示に照らして当業者に公知であろう。例えば、1回の投薬量を1mLの等張性NaCl溶液中に溶解して、1000mLの皮下注入液に添加するかまたは提唱される注入部位に注射することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1990を参照されたい)。治療されている対象の条件に応じて、投薬量のいくらかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにしても、投与に責任を負う人が、個々の対象に対する適当な用量を決定する。
治療用組成物の有効量は、意図される目標に基づいて決定される。「単位用量」または「投薬量」という用語は、対象における使用に適した物理的に離散した単位を指し、各単位は、その投与、すなわち適当な経路および治療レジメンに伴って、上述される所望の応答をもたらすように算出された、治療用組成物のあらかじめ定められた分量を含有する。治療の回数および単位用量の両方に従って、投与される対象となる分量は、所望される防御に依存する。
RNAセグメントは、単一のまたは様々な日数、週数、月数、または年数の間、1回または複数回の毎日の、毎週の、毎月の、または毎年の投与で、0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100mg/kg重量から50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200mg/kg重量まで変動し得る用量で投与され得る。RNAセグメントは、非経口注入(静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、体腔内、または経皮的)によって投与され得る。
多くの場合、本開示のRNAセグメントの複数回の投与を有することが望ましい。本開示の組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、またはそれを上回る回数投与され得る。投与は、普段では1〜12週間間隔、より通常には1〜4週間間隔である。
受動免疫を提供する製剤によく用いられる投薬量は、1回の投薬あたり0.5mL〜10mLの範囲内、または1回の投薬あたり2mL〜5mLの範囲内にある。適当量の活性化合物を送達する繰り返しの投薬がよく見られる。活性成分の適当な投薬量および投与する容量を決定する場合、レシピエントの年齢および体重関連の背格好の両方が考慮されるべきである。
治療用組成物の正確な量は、実践者の判断にも依存し、かつ各個体に固有である。用量に影響を及ぼす因子には、患者の物理的および臨床的な状態、投与の経路、治療の意図される目標(症状緩和−治癒)、ならびに特定の治療用物質の効力、安定性、および毒性が含まれる。
製剤化されると、溶液は、剤形と適合する様式でかつ治療上有効であるような量で投与される。製剤は、上記で記載される注入可能な溶液のタイプなどの多様な剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども採用され得る。
本明細書において使用するとき、インビトロ投与という用語は、培養下の細胞を含むがそれに限定されない、動物から取り出された細胞に対して実施される操作を指す。エクスビボ投与という用語は、インビトロで操作されており、かつその後生きた動物に投与される細胞を指す。インビボ投与という用語は、動物内の細胞に対して実施されるすべての操作を含む。
D.抗炎症薬との併用
しばしば「併用療法」と呼ばれる複数の治療様態で疾患を治療することが、医学の多くの分野においてよく見られる。炎症性疾患は例外ではない。本開示の方法および組成物を用いて炎症性障害を治療するために、一般的に、標的細胞または対象と、ウイルスRNA免疫抑制性セグメントおよび少なくとも1種の他の療法とを接触させる。これらの療法は、1つまたは複数の疾患パラメーターの低下を達成するのに有効な、合わせた量で提供される。この過程は、例えば、両方の作用物質を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤を用いて、または、一方の組成物がウイルス免疫抑制性セグメントを含みかつ他方が他方の作用物質を含む2つの別個の組成物もしくは製剤を細胞/対象に同時に接触させることによって、細胞/対象に両方の作用物質/療法を同時に接触させる工程を伴い得る。
あるいは、免疫抑制性RNAセグメントは、数分間から数週間に及ぶ間隔で、他の治療の前または後であってもよい。一般に、療法が細胞/対象に対して有利な複合効果を発揮し続け得るように、各送達時点の間に有効期間が終了しないことが確実にされると考えられる。そのような場合、細胞と両方の様態とを、互いの約12〜24時間以内に、互いの約6〜12時間以内に、または約12時間だけの遅延時間を有して接触させることが企図される。ある状況において、治療期間を有意に延長することが望ましくあり得るが、ここで、それぞれの投与の間には数日間(2、3、4、5、6、または7日間)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8週間)が経過する。
ウイルス免疫抑制性セグメントまたは他方の療法のいずれかの2回以上の投与が望まれることも考え得る。下記で例示されるように、ウイルスRNAセグメントが「A」でありかつ他方の療法が「B」である、様々な組み合わせが採用され得る。
他の組み合わせが企図される。
炎症性障害に対する併用療法における使用に適した作用物質または因子には、ステロイド、グルココルチコイド、非ステロイド性(non-steriodal)抗炎症薬(NSAIDS;COX-1およびCOX-2阻害剤を含む)、アスピリン、イブプロフェン、およびナプロキセンが含まれる。鎮痛剤は抗炎症薬とよく関連付けられるが、それは抗炎症効果を有しない。例としては、米国でアセトアミノフェンと呼ばれかつタイレノールの商標名で販売されるパラセタモールである。COX酵素を阻害することによって痛みおよび炎症を低下させるNSAIDSとは対照的に、パラセタモールは、痛みのみを低下させるエンドカンナビノイドの再取り込みを妨げることが近年示されており、それが炎症に対して最小限の効果を有する理由をおそらく説明している。
当業者であれば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、第33章、とくに624〜652ページに向けられる。治療されている対象の条件に応じて、投薬量のいくらかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにしても、投与に責任を負う人が、個々の対象に対する適当な用量を決定する。さらに、ヒト投与に関して、調製物は、FDA生物製剤事務局(Office of Biologics)の基準によって要求される、無菌性、発熱原性、一般的安全性、および純度の規準を満たすべきである。
前述の療法のいずれかは、炎症の治療においてそれらだけで有用であることを証明し得ることも指摘されなけれならない。
IV.ワクチン
本開示の態様において、ウイルス感染を阻止する、制御する、または限定するための、天然RNAではなく操作されたウイルスRNAセグメントに対する免疫応答の増強を誘導する方法が提供される。1つまたは複数の免疫抑制部位を欠く改変ウイルスRNAセグメントが、サブユニットのまたは全体のウイルス免疫化において用いられる。ワクチン組成物の有効量とは、一般的に、疾患もしくは病態またはそれらの症状の程度を検出可能な程度にかつ繰り返して改善する、低下させる、最小限に抑える、または限定するのに十分なその量として定義される。疾患の排除、根絶、または治癒を含めた、より厳密な定義が適用され得る。
A.投与
本開示の組成物をインビボで用いて、免疫応答を改変または調整し得、ゆえに治療的および予防的なワクチンを構成し得る。ゆえに、組成物は、非経口投与のために製剤化され得る、例えば皮内、静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内の経路を介した注入のために製剤化され得る。皮内および筋肉内の経路による投与が具体的に企図される。ワクチンはまた、例えば鼻腔への液滴もしくは噴霧によって、吸入によって、またはネブライザーによって、局所経路により直接的に粘膜へ投与され得る。
治療されている対象の年齢および医学的条件、ならびに選定された経路に応じて、投薬量およびレジメンのいくらかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにしても、投与に責任を負う人が、個々の対象に対する適当な用量を決定する。多くの場合、ワクチンの複数回の投与を有することが望ましい。ゆえに、本開示の組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、またはそれを上回る回数投与され得る。投与は、普段では1〜12週間間隔、より通常には1〜6週間間隔である。病原体への反復的曝露に関しては、周期的な再投与が望ましい。
投与は、様々な「単位用量」を用い得る。単位用量は、治療用組成物のあらかじめ定められた分量を含有するものとして定義される。投与される対象となる分量、ならびに特定の経路および製剤化は、臨床技術分野における者の技能の範囲内にある。
B.免疫応答の測定
当業者であれば、ワクチンに対する免疫応答が生成されたかどうかを判定する様々なアッセイを知っているであろう。「免疫応答」という語句には、細胞性および液性免疫応答の両方が含まれる。ELISA、クロム放出アッセイなどの細胞傷害性Tリンパ球(CTL)アッセイ、末梢血リンパ球(PBL)を用いた増殖アッセイ、テトラマーアッセイ、およびサイトカイン産生アッセイなど、様々なBリンパ球およびTリンパ球アッセイが周知である。参照により本明細書によって組み入れられるBenjamini et al. (1991)を参照されたい。
C.注入可能な製剤
本開示に従った医薬の送達のための1つの方法は、注入を介したものである。しかしながら、本明細書において開示される薬学的組成物は、米国特許第5,543,158号;米国特許第5,641,515号;および米国特許第5,399,363号(それぞれが参照によりその全体として本明細書に具体的に組み入れられる)に記載されているように、静脈内に、皮内に、筋肉内に、またはさらに腹腔内に代替的に投与され得る。
作用物質が、注入に要される特定のゲージの針を通過し得る限り、注入は、注射器によるまたは溶液の注入に用いられる他の任意の方法によるものであり得る。溶液を保持するためのアンプルチャンバーを規定するノズル、および溶液をノズルから送達の部位へ押し出すためのエネルギー装置を有する、新規な無針注入システムが記載されている(米国特許第5,846,233号)。
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としてのワクチンの溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製され得る。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合液中、ならびに油中で調製され得る。保管および使用の普通の条件下において、これらの調製物は、微生物の成長を阻止するまたは制御する防腐剤を含有する。注入可能な用途に適した薬学的形態には、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注入可能な溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末が含まれる(参照によりその全体として本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,466,468号)。この形態は無菌でなければならず、かつ容易な注射針通過性(syringability)が存在する程度に流動的でなければならない。それは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、かつ細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合液、および/または植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には要求される粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持され得る。
微生物の阻止または制御は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。一部の態様において、等張剤、例えば糖類または塩化ナトリウムが用いられ得る。注入可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの、組成物における使用によってもたらされ得る。採用され得る無菌の水性媒体は、本開示に照らして当業者に公知であろう。例えば、1回の投薬量を1mLの等張性NaCl溶液中に溶解して、1000mLの皮下注入液に添加するかまたは提唱される注入部位に注射することができる(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、1035〜1038および1570〜1580ページを参照されたい)。治療されている対象の条件に応じて、投薬量のいくらかの変動が必然的に生じるであろう。いずれにしても、投与に責任を負う人が、個々の対象に対する適当な用量を決定する。さらに、ヒト投与に関して、調製物は、FDA生物製剤事務局の基準によって要求される、無菌性、発熱原性、一般的安全性、および純度の規準を満たすべきである。
注入可能な無菌溶液は、必要に応じて上記で挙げられた様々な他の成分とともに、適当な溶媒中に必要とされる量で活性化合物を組み入れ、その後に濾過滅菌が続くことによって調製される。一般的に、分散液は、基本的な分散媒体および上記で挙げられたもの由来の他の成分のいずれかを含有する無菌ビヒクル中に、様々な滅菌した活性成分を組み入れることによって調製される。注入可能な無菌溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製法は、事前に滅菌濾過されたその溶液から活性成分と任意の付加的な所望の成分との粉末を産出する、真空乾燥および凍結乾燥の技法であり得る。
本明細書において開示される組成物は、中性または塩の形態で製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)、および例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸で形成されるものが含まれる。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来してもよい。製剤化されると、溶液は、剤形と適合する様式でかつ治療上有効であるような量で投与される。製剤は、注入可能な溶液、薬物放出カプセルなどの多様な剤形で容易に投与される。
本明細書において使用するとき、「担体」には、任意のおよびすべての溶媒、分散媒体、ビヒクル、希釈剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、バッファー、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野において周知である。補助的な活性成分も組成物に組み入れられ得る。
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、ヒトに投与された場合に、アレルギー性のまたは同様の厄介な反応をもたらさない分子実体および組成物を指す。活性成分としてタンパク質を含有する注入可能な水性組成物の調製は、当技術分野において十分に理解されている。
D.吸入可能なまたはエアロゾルの製剤
本開示のRNAセグメントに対して企図される投与の特定の形式は、吸入および/または鼻粘膜への投与、すなわち鼻腔内投与を介したものである。多様な商業的ワクチン(インフルエンザ、麻疹)は、現在、鼻腔噴霧製剤を用いて投与されている。本開示の方法は、BD AccuSpray(登録商標)システム(Becton Dickinson)を採用するFlu-Mist(登録商標)製品とともに用いられるものに類似した送達を用いて行われ得る。ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーなどのネブライザーも、この経路に有用である。
E.付加的なワクチン構成要素
本開示の他の態様において、抗原性組成物は、付加的な免疫刺激剤を含み得る。免疫刺激剤には、付加的な抗原、免疫調整因子、抗原提示細胞、またはアジュバントが含まれるが、それらに限定されるわけではない。他の態様において、付加的な作用物質のうちの1つまたは複数は、任意の組み合わせで、抗原または免疫刺激剤に共有結合している。
1.アジュバント
当技術分野において周知でもあるように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫応答の非特異的刺激因子の使用によって増強され得る。アジュバントは、未知の抗原に対する免疫の全身的な増加を促進するために用いられている(例えば、米国特許第4,877,611号)。免疫化プロトコールは、何年にもわたって応答を刺激するアジュバントを用いており、かつそのようなものとして、アジュバントは当業者に周知である。一部のアジュバントは、抗原が提示されるやり方に影響を及ぼす。例えば、タンパク質抗原をミョウバンによって沈殿させた場合、免疫応答は増加する。抗原の乳化も、抗原提示の持続時間を引き延ばす。適切な分子アジュバントには、サイトカイン、毒素、または合成組成物など、すべての許容される免疫刺激化合物が含まれる。
例示的なアジュバントには、完全フロイントアジュバント(殺傷した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する、免疫応答の非特異的刺激因子)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。また用いられ得る他のアジュバントには、IL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、γ-インターフェロン、BCG、水酸化アルミニウム、thur-MDPおよびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP(MTP-PE)、リピドA、ならびにモノホスホリルリピドA(MPL)が含まれる。細菌から抽出された3種の構成要素を含有するRIBI、MPL、トレハロースジミコレート(TDM)、および2%スクアレン/Tween 80乳濁液中の細胞壁骨格(CWS)も企図される。MHC抗原がさらに用いられ得る。
一局面において、アジュバント効果は、リン酸緩衝生理食塩水中に約0.05〜約0.1%溶液で用いられる、ミョウバンなどの作用物質の使用によって達成される。あるいは、抗原は、約0.25%溶液として用いられる糖類の合成ポリマー(カーボポール(登録商標))との混和物として作製される。アジュバント効果は、約70℃〜約101℃に及ぶ温度でそれぞれ30秒間〜2分間の期間の熱処理による、ワクチン中の抗原の凝集によってももたらされ得る。アルブミンに対するペプシン処理された(Fab)抗体、C.パルバム(C. parvum)などの細菌細胞との混合物、グラム陰性細菌の内毒素もしくはリポ多糖類構成要素、マンニドモノオレエート(アラセルA)などの生理学的に許容される油性ビヒクル中の乳濁液、または妨害代替物(block substitute)として用いられるパーフルオロカーボン(Fluosol-DA(登録商標))の20%溶液との乳濁液を用いた再活性化による凝集も採用され得る。
一部のアジュバント、例えば細菌から獲得されるある特定の有機分子は、抗原に対してではなく宿主に対して作用する。例としては、細菌ペプチドグリカンであるムラミルジペプチド(N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン;MDP)である。MDPの効果は、アジュバントの大多数と同様に、完全には理解されていない。MDPはマクロファージを刺激するが、B細胞も直接刺激すると思われる。それゆえ、アジュバントの効果は抗原特異的ではない。しかしながら、精製された抗原と一緒にそれらを投与した場合、それらを用いて、該抗原に対する応答を選択的に促進することができる。
ある特定の態様において、ヘモシアニンおよびヘモエリスリン(hemoerythrin)も、本開示において用いられ得る。キーホールリンペット由来のヘモシアニン(KLH)がある特定の態様において用いられ得るが、他の軟体動物および節足動物のヘモシアニンおよびヘモエリスリンも採用され得る。
様々な多糖類アジュバントも用いられ得る。例えば、マウスの抗体応答に対する様々な肺炎球菌(pneumococcal)多糖類アジュバントの使用が記載されている(Yin et al., 1989)。示されているように、最適な応答をもたらす、またはそうでなければ抑制をもたらさない用量が採用されるべきである(Yin et al., 1989)。脱アセチル化キチンを含めた、キチンおよびキトサンなどの多糖類のポリアミン亜種が用いられ得る。
アジュバントの別の群は、細菌ペプチドグリカンのムラミルジペプチド(MDP、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン)群である。アミノ酸誘導体トレオニル-MDPなどのムラミルジペプチドの誘導体、および脂肪酸誘導体MTPPEも企図される。
米国特許第4,950,645号は、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルグリセロールから形成された人工リポソームにおける使用に関して記載される、ムラミルジペプチドの親油性二糖類-トリペプチド誘導体を記載している。それは、ヒト単球を活性化しかつ腫瘍細胞を破壊するのに有効であるが、一般的に高い用量において非毒性である。米国特許第4,950,645号およびPCT特許出願第WO 91/16347号の化合物は、細胞キャリアおよび本開示の他の態様との使用に企図される。
BCG(マイコバクテリウム(Mycobacterium)の弱毒化系統であるバシラス・カルメット-ゲラン(bacillus Calmette-Guerin))およびBCG細胞壁骨格(CWS)も、トレハロースジミコレートの有無にかかわらず、アジュバントとして用いられ得る。トレハロースジミコレートは、それ自体で用いられ得る。トレハロースジミコレート投与は、マウスにおけるインフルエンザウイルス感染に対する耐性の増大と相関することが報告されている(Azuma et al., 1988)。トレハロースジミコレートは、米国特許第4,579,945号に記載されているように調製され得る。BCGは、その免疫刺激特性が理由で、重要な臨床的ツールである。BCGは、細網内皮系を刺激するように作用し、ナチュラルキラー細胞を活性化し、かつ造血幹細胞の増殖を増加させる。BCGの細胞壁抽出物は、優れた免疫アジュバント活性を有することが判明している。マイコバクテリウムに対する分子遺伝学的なツールおよび方法により、BCGに外来遺伝子を導入する手段が提供されている(Jacobs et al., 1987;Snapper et al., 1988;Husson et al., 1990;Martin et al., 1990)。生きたBCGは、結核を阻止するために世界中で用いられる有効でかつ安全なワクチンである。BCGおよび他のマイコバクテリウムは非常に有効なアジュバントであり、かつマイコバクテリウムに対する免疫応答は広範囲に研究されている。およそ20億例の免疫付与により、BCGは、人間における安全な使用の長期記録を有している(Luelmo, 1982;Lotte et al., 1984)。これは、出生時に与えられ得る数少ないワクチンの1つであり、1回の投薬のみで長期にわたる免疫応答を生み、そしてBCGワクチン接種の経験は世界的な分配ネットワークが存在する。例示的なBCGワクチンは、TICE BCG(Organon Inc., West Orange, NJ)である。
両親媒性でかつ表面活性の作用物質、例えばサポニン、およびQS21(Cambridge Biotech)などの誘導体は、本開示の免疫原との使用のためのアジュバントのさらに別の群を形成する。非イオン性ブロック共重合体界面活性剤(Rabinovich et al., 1994)も採用され得る。オリゴヌクレオチドは、アジュバントの別の有用な群である(Yamamoto et al., 1988)。Quil Aおよびレンチナン(lentinen)は、本開示のある特定の態様において用いられ得る他のアジュバントである。
アジュバントの別の群は、米国特許第4,866,034号の精製された無毒化内毒素などの無毒化内毒素である。これらの精製された無毒化内毒素は、哺乳類においてアジュバント応答をもたらすのに有効である。当然、無毒化内毒素を他のアジュバントと組み合わせて、複数のアジュバントが組み入れられた細胞を調製し得る。例えば、米国特許第4,435,386号に記載されているように、無毒化内毒素とトレハロースジミコレートとの組み合わせがとくに企図される。米国特許第4,436,727号、第4,436,728号、および第4,505,900号に記載されている、無毒化内毒素と、細胞壁骨格(CWS)との組み合わせ、またはCWSおよびトレハロースジミコレートとの組み合わせと同じく、無毒化内毒素とトレハロースジミコレートおよび内毒素糖脂質との組み合わせも企図される(米国特許第4,505,899号)。米国特許第4,520,019号に記載されているように、無毒化内毒素を含まない、CWSとトレハロースジミコレートとの組み合わせも有用であると想定される。
当業者であれば、本開示に従った細胞ワクチンにコンジュゲートされ得る種々の種類のアジュバントを知っているであろうし、かつこれらには、他の中でもアルキルリゾリン脂質(lysophosphilipid)(ALP);BCG;およびビオチン(ビオチン化誘導体を含む)が含まれる。使用にとくに企図されるある特定のアジュバントは、グラム細胞由来のタイコ酸である。これらには、リポタイコ酸(LTA)、リビトールタイコ酸(RTA)、およびグリセロールタイコ酸(GTA)が含まれる。それらの合成対応物の活性型も、本開示と関連して採用され得る(Takada et al., 1995)。
例えば抗体を作ることまたは活性化T細胞をその後獲得することを望む場合、様々なアジュバントが、ヒトにおいて一般に用いられないものでさえも動物において採用され得る。例えば非照射腫瘍細胞を用いて起こり得る、アジュバントまたは細胞のいずれかに起因し得る毒性または他の有害な影響は、そのような状況において無関係である。
アジュバントは、核酸(例えば、DNAまたはRNA)によってコードされ得る。そのようなアジュバントは、抗原をコードする核酸(例えば、発現ベクター)において、または別々のベクターもしくは他の構築物においてもコードされ得ることが企図される。アジュバントをコードする核酸は、例えば脂質またはリポソームなどとともに、直接送達され得る。
2.生物学的な応答改変因子
アジュバントに加えて、生物学的な応答改変因子(BRM)を共投与することが望ましいことがあり、それは、T細胞免疫を上方調節するまたはサプレッサー細胞活性を下方調節することが示されている。そのようなBRMには、シメチジン(CIM;1200mg/日)(Smith/Kline, PA);低用量シクロホスファミド(CYP;300mg/m2)(Johnson/Mead, NJ);γ-インターフェロン、IL-2、もしくはIL-12などのサイトカイン;またはB-7など、免疫ヘルパー機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
3.ケモカイン
ケモカイン、ケモカインをコードする核酸、および/またはそのようなものを発現する細胞も、ワクチン構成要素として用いられ得る。ケモカインは、一般的に、免疫エフェクター細胞をケモカイン発現の部位へ導く化学誘引物質として作用する。例えばサイトカインコード配列と組み合わせて、特定のケモカインコード配列を発現させて、治療の部位への他の免疫系構成要素の動員を増強することが有利であり得る。そのようなケモカインには、例えばRANTES、MCAF、MIP1-α、MIP1-β、IP-10、およびそれらの組み合わせが含まれる。当業者であれば、ある特定のサイトカイン(例えば、IFN)も化学誘引物質効果を有することが知られており、かつケモカインという用語の下に分類もされ得ることを認識するであろう。
V.実施例
以下の実施例は、本開示のある特定の態様を実証するために含まれる。後に続く実施例において開示される技法は、本開示の実践において上手く機能すると判定された技法に相当し、ゆえにその実践のための一部の形式をなすと見なされ得ることが当業者によって解されるべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示される具体的態様において加えられ得、かつ依然として同様のまたは類似した結果を獲得し得ることを解するべきである。
実施例1−材料および方法
細胞およびウイルス。ヒト肝細胞癌腫細胞株(Huh-7.5;ロックフェラー大学Dr. Charles Riceによって親切にも提供された)を、10%ウシ胎仔血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、および1% L-グルタミンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、5% CO2にて37℃で培養した。遺伝子型(1、1a、1b、2、2b、および3)に感染したHCV陽性ヒト血清または陰性対照血清を、患者からまたは健常な血液ドナーから獲得した血液から調製した。全長HCVゲノムまたは該ゲノムのNS2〜5領域のいずれかからなるレプリコンを含有するHuh 7細胞が、Dr. Ralf Bartenschlager (ハイデルベルグ大学)によって親切にも提供され、かつ記載されているように維持された(Lohmann et al., 1999およびQuinkert et al., 2005)。血清中細胞外小胞(EV)を、メーカーの指示書に従いExoQuick試薬(Systems Biosciences)を用いて、血清から精製した。具体的には、推奨されるとおり、ヒト血清をExoquick試薬とともに1時間(4℃)インキュベートし、かつ30分間(10,000g)遠心分離した。ペレットをRPMI中に再懸濁し、かつ使用まで-20℃で保管した。この試薬は、細胞培養上清およびヒト血清の両方からEVを産出することが報告されている(Fabbri et al., 2012)。他の者によって記載されているように(Lindenbach et al., 2005)、J6/JFH感染性クローン(東京都神経科学総合研究所Dr. Takaji Wakitaおよびロックフェラー大学Dr. Charles Riceによって親切にも提供された)からインビトロ転写されたHCV RNAをHuh7.5細胞にトランスフェクトすることによって、細胞培養物由来の感染性HCV粒子(HCVcc)を獲得した。トランスフェクションの72時間後に細胞培養上清を収集し、かつ濃縮した。培養上清中のHCV力価は4.98×107(コピー/mL)であった。4.98×107個の粒子を1×106個の細胞に添加した。記載されているように(Mohr et al., 2010)、HCV(E1-E2)偽型HIV粒子(HCVpp)またはウイルスエンベロープなしのHIV gag粒子(GAGpp)を、pNL4-3-Luc.R-E-(NIRRRPカタログ番号3417)を用いてHEK 293T細胞において作出した。上清中のHCVcc、HCVpp、およびGAGppを、Amicon 100Kフィルターユニット(Millipore)を用いて濃縮し、かつHCVpp/GAGppを、p24 ELISA(Zeptometrix Inc.)を用いて定量した。
HCVエンベロープタンパク質の発現。以前に記載されているように(Xiang et al., 2012)、J6/JFHプラスミド由来(アミノ酸384〜747)(Lindenbach et al., 2005)またはアイオワ大学からの患者から獲得された遺伝子型3単離株由来のHCV E2タンパク質のコード領域を増幅し、かつ改変pTRE2-HGYプラスミド(Clontech, Inc.)にライゲーションした。プラスミドDNAをシーケンシングすることによってHCV配列を確認した(アイオワ大学DNAコア施設)。改変されたプラスミドは、終止コドンが後に続くHCV E2配列、GFPの翻訳を指揮する脳心筋炎ウイルス(EMC)内部リボソーム侵入部位(IRES)をコードする二シストロン性メッセージを生成する。Jurkat(tet-off)細胞株(Clontech, Inc)をトランスフェクトし(Nucleofector II、Lonza Inc.)、かつ細胞株を、ハイグロマイシンおよびG418耐性に対して選択した。GFP陽性細胞をバルク選別し(BD FACS Aria)(アイオワ大学フローサイトメトリー施設)、かつGFP発現をフローサイトメトリー(BD LSR II)によって査定した。HCV E2タンパク質発現を、ヒトモノクローナル抗体(HC33-1、スタンフォード大学Dr. Steven Foungによって親切にも提供された)を用いた免疫ブロットによって判定した。すべての細胞株を、ハイグロマイシンおよびG418(200μg/mL)とともに、10%熱不活性化子ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、100IU/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補充されたRPMI 1640中で維持した。
細胞の単離および刺激。末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll勾配遠心分離によって、健常ドナーから獲得された血液から調製した。PBMCをHCV陽性または陰性の血清(別様に明記されていない限り、それぞれに関して100μl)とともに一晩インキュベートした。CD3+ (T)細胞を、メーカーの指示書に従い磁気システム(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を用いて、陽性選択によって富化し、かつ純度をフローサイトメトリーによって査定した。PBMC(1×106細胞/mL)を、プレートに結合している抗CD3抗体(100ng/mL、OKT3クローン、eBioscience)および可溶性CD28抗体(100ng/mL、クローンCD28.2、BD Biosciences)で刺激した。Jurkat細胞(5×106細胞/mL)を、抗CD3および可溶性CD28(両方とも5μg/mL)で、またはホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA、50ng/mL)およびイオノマイシン(1μg/mL)(P+I)で刺激した。刺激の24時間後に、細胞受容体発現およびサイトカイン放出を、それぞれフローサイトメトリーおよびELISAによって測定した。Lck阻害に関しては、P+Iで刺激する前に、Jurkat細胞を100μg/mLにおけるLck阻害剤II(EMD Millipore)とともに一晩インキュベートした。
フローサイトメトリー:メーカーの推奨を用いて、細胞表面受容体発現をCD69(APC)抗体またはCD45(PE)抗体(BD Biosciences)により測定した。細胞を氷上で1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、かつ2%パラホルムアルデヒド(Polysciences)中で固定した。精製された細胞外細胞小胞(EV)を、抗CD63 exo-flow染色キット(Systems Biosciences)またはCFSE色素(5μM)のいずれかで37℃にて15分間染色した。EVをPBS中で4回洗浄し、かつAmicon 100Kフィルターユニット(Millipore)を用いて濃縮した。補正のための単一染色されたCompBeads(BD Biosciences)を用いて、BD LSR IIフローサイトメーターでデータを取得した。少なくとも10,000回の合計事象を各調査において収集し、かつFlowJoソフトウェアプログラム(Tree Star Inc.)をデータ解析に用いた。すべてのフローサイトメトリー調査を少なくとも3回繰り返し、一貫性のある結果を有した。
HCV PCR。一晩のインキュベーション後、PBMCをトリプシン中で1分間インキュベートし、かつRPMIで2回洗浄した。全RNAを単離し(RNeasyキット、Qiagen)、かつcDNAをHCV 5'UTR特異的プライマーまたはランダムヘキサマーを用いて作製した。最初のラウンドのRT-PCRに関して、外側のプライマーは、センス
およびアンチセンス
であった。ネステッドPCRに関して、プライマーは、センス
およびアンチセンス
であった。最終的な産物サイズは250bpであった。用いたGAPDHプライマーは、383bpの産物サイズをもたらす、センス
およびアンチセンス
であった。
HCV E2に由来する小分子RNAを以下のとおりに同定し、HCV E2を発現しているJurkat細胞から全RNAを単離した(RNeasyキット、Qiagen)。RNAを、メーカーのプロトコールに従いT4 RNAリガーゼ2(New England Biolabs)を用いて、あらかじめアデニル化したDNAユニバーサルmiRNAクローニングリンカー(New England Biolabs)にライゲーションした。ライゲーションされたRNAをRNAカラム(Qiagen)を用いて精製し、かつDNAリンカープライマー
を用いてcDNAを転写した。HCV E2プライマー
およびDNAリンカープライマーを用いて、PCRを行った。PCR産物をTAクローニングベクター(Invitrogen)内にクローニングし、かつプラスミドをシーケンシングすることによってDNA配列を獲得した(アイオワ大学DNAコア施設)。
ELISAおよび免疫ブロット解析。細胞培養上清に放出されたIL-2サイトカインを、メーカーの指示書に従いヒトIL-2 ELISAキット(BD Biosciences)を用いて定量した。細胞溶解バッファー(Cell Signaling)の添加前に、Jurkat細胞を抗CD3(5μg/mL)で所定の時間にわたり刺激した。15分間のPMA/イオノマイシン刺激の後、核タンパク質を、メーカーの指示書に従い核タンパク質単離キット(NEPER、Thermo Scientific)を用いて単離した。タンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、かつニトロセルロース膜(BIORAD)に転写した。膜を、タンパク質不含のブロッキングバッファー(Thermo Scientific)中で室温にて1時間インキュベートし、その後に一次抗体とのインキュベーションが続いた。タンパク質を、Kodak撮影装置を用いたAmersham ECL(GE Healthcare)で検出した。用いた一次抗体は、NFATおよびpLAT(Y226;BD Biosciences);総LAT(Biolegend);pZAP70(Y319);総ZAP70;pLck(Y394/ pSrcY416);総Lck(Y394);Csk;YY1(すべてCell Signaling Technologyより);PTPRE(Origene、クローン4B2)であった。免疫ブロットをImageJによって定量した。
インビトロキナーゼアッセイ。LckによるHCV E2タンパク質のリン酸化を、メーカーによって推奨されているように、組換えE2タンパク質(eEnzyme)をヒトLck(R&D Systems)およびCD45(Enzo Life Sciences)の存在下または非存在下でインキュベートすることによって測定した。上記で記載されているように、サンプルを免疫ブロット解析に供した。リン酸化を、ホスホチロシン抗体(Invitrogen)を用いた免疫ブロット解析によって判定し、かつHCV E2タンパク質を、上記で記載される抗HCV E2ヒトモノクローナル抗体を用いて同定した。
免疫沈降。C末インフルエンザヘマグルチニン(hemagluttinin)(HA)タグを有するHCV E2(HCVポリタンパク質のアミノ酸384〜715)を安定に発現しているJurkat細胞を、10μg/mLの抗CD3で15分間刺激し、かつ溶解した(25mM Tris、150mM NaCl、5%グリセロール、1mM EDTA、1% NP40;氷上で1時間)。細胞溶解物を、抗HAアガロースビーズ(Thermo Scientific)またはプロテインGビーズにコンジュゲートされたNFAT抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。ビーズをペレットにし、かつ溶解バッファー中で3回洗浄した。免疫ブロット解析の前に、結合しているタンパク質を2×LaemmLiサンプルバッファー中に溶出した。
統計:GraphPadソフトウェアV4.0(GraphPad Software Inc.)を用いて統計を実施した。両側スチューデントt検定を用いて、検定および対照との間の結果を比較した。0.05未満のP値を、統計的に有意であると見なした。
倫理声明:本研究は、アイオワ大学施設内審査委員会によって承認された。すべての対象(健常ドナーおよびウイルス感染を有する対象)は、書面によるインフォームドコンセントを提供した。
実施例2−結果
HCV粒子は、初代ヒトT細胞においてTCRシグナル伝達を阻害する。HCV感染した対象(遺伝子型1、1a、1b、2、2b、および3;RNA濃度は1×105〜1×106 RNAゲノム当量[GE]/mLに及ぶ)またはHCV非感染の対照由来の血清を、健常な血液ドナーから獲得されたPBMCとともにインキュベートした。抗CD3/CD28によるTCR刺激の後、培養上清中へのIL-2放出を測定することによって、またはこれらの初代CD4+およびCD8+ Tリンパ球上でのCD69発現を測定することによって、シグナル伝達を定量した。すべてのHCV RNA陽性血清は、HCV非感染の対照と比較して、IL-2放出(図1A)およびCD69表面発現(図1B)を用量依存的様式で阻害した(図1C)。精製されたT細胞(>99%純度、図10)を検定することにより、IL-2放出によって測定されるように、HCV RNA陽性血清は他の細胞タイプの非存在下でT細胞活性化を阻害することが確認された(図1D)。
TCRシグナル伝達を妨害し得る血清因子を取り除くために、血清中細胞外小胞(EV)を、市販の試薬(Exoquick、Systems Biosciences)を用いて調製した。この精製法により、ヒト血清由来のエクソソームと一致する十分に特徴付けされたEVがもたらされる(Fabbri et al., 2012)。エクソソームは、HCVエンベロープタンパク質、HCV RNAを含有し、かつインビトロでHCV感染を伝播することが報告されている(Ramakrishnaiah et al., 2013;Cosset and Dreux, 2014;Masciopinto et al., 2004;Bukong et al., 2014;およびDreux et al., 2012)。精製されたHCV RNA含有EVは、CD63およびCD81を含有したが、CD69およびCD25は含有せず(図11A)、これにより、エンドサイトーシスによる供給源であることが支持された。PBMCとHCV感染した個体由来のEVとのインキュベーションは、HCV陰性の対照EVと比較して、IL-2放出およびCD69発現を阻害した(それぞれ、図2A〜B)。この調製法は、エクソソームの特徴を有するEVを産出するものの、いくらかのウイルス粒子が調製物中に含まれる可能性を除外することはできない。
リンパ球とのEV相互作用をさらに検討するために、HCV感染したまたは非感染の対象由来の血清を、精製されたT細胞とともに37℃または4℃でインキュベートした。2時間のインキュベーションおよび洗浄(室温で)の後、細胞を抗CD3/CD28で刺激した。HCV陽性血清は、37℃でTCRシグナル伝達を有意に阻害したが、4℃ではそうではなかった(図2C)。おそらく先行研究と比較して短くしたインキュベーションが原因で、阻害の程度がより低かった。細胞とのEV融合を査定するために、初代ヒトPBMCとのインキュベーションの前に、HCV陽性または陰性の対象由来の血清中EVを、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識した(図2D)。一晩のインキュベーションの間に、EVは、CD4+およびCD8+ T細胞の両方にCFSEを移入させた(図2E)。CFSEは細胞透過性色素でありかつ微量のCFSEは陽性結果につながり得るため、細胞を最終的な洗浄バッファー中でもインキュベートし(EV洗浄)、そしてCFSEはこれらの細胞では検出されなかった(図2E)。さらに、HCV RNAは、同じインキュベーションの間に、EVからPBMCへ移入した(図2F)。ゆえに、血清に由来するHCV粒子は、T細胞と融合しかつウイルスRNAをT細胞に移入させた。インビトロでウイルスまたはEVのT細胞による取り込みを血清が仲介した可能性を除外するために、上記で記載されるように、PBMCから精製されたT細胞(>97%純度)からHCV RNAを増幅した。HCV RNAは、PBMC、およびHCV感染した対象から獲得された精製されたT細胞の両方に存在し、一方でウイルスRNAは、HCV非感染の対象では検出されなかった(図11B)。
次に、肝細胞細胞株(Huh7.5細胞)で作出された感染性HCV粒子を、TCR刺激の前に、PBMCとともにインキュベートした。血清に由来するEVと同様に、細胞培養物の感染性HCV粒子(HCVcc)は、CD4+およびCD8+ T細胞においてTCRシグナル伝達を阻害した(図3A〜B)。HCV E1およびE2を有する複製欠陥レトロウイルス粒子偽型(HCVpp)も、エンベロープを有しないレトロウイルス粒子と比較して、用量依存的様式でTCRシグナル伝達を阻害したため(GAGpp;図3C〜D)、ウイルス複製は必要でなかった。HCVccおよびHCVppも、精製されたCD3+ T細胞においてTCRシグナル伝達を阻害し(>99%純度、図12)、ゆえに、HCV粒子によるTCRシグナル伝達阻害のメカニズムは、他の免疫細胞の存在を要しない。
要約すると、初代ヒトPBMCと、i)HCV感染した個体由来の血清、ii)HCV RNAおよびCD63/CD81を含有する血清由来EV、iii)HCVcc、ならびにiv)HCVppとのインキュベーションは、対照と比較して、初代ヒトCD4+およびCD8+ T細胞においてTCR仲介性活性化を低下させた。
HCV E2コードRNAは、近位TCRシグナル伝達経路を阻害する。HCVpp粒子は、本質的にHCV E1およびE2のみを含有するため、主要なHCVエンベロープ糖タンパク質(E2)を、TCRを介したT細胞活性化を阻害し得るその能力について検討した。HCVは、たとえあったとしても、リンパ球において十分に複製しないため、HCV E2タンパク質を安定に発現しているJurkat(CD4+)T細胞(図13A)を作出した。全長E2(アミノ酸384〜747)を発現している細胞では、GFPのみを発現している対照Jurkat細胞と比較して、IL-2放出(図4A)または表面CD69増加(図13B)によって判定される有意により低いTCR仲介性活性化が観察された。TCRシグナル伝達カスケードにおける最も近位のキナーゼは、リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck)である(Davis and van der Merwe, 2011)。不活性Lckは、c-srcチロシンキナーゼ(Csk)によってチロシン505(Y505)においてリン酸化される。TCRとの結合の後、Y505は、CD45を含めた多くのチロシンホスファターゼによって脱リン酸化され、立体構造変化および後続のチロシン394(Y394)におけるトランス自己リン酸化がもたらされる。リン酸化されたLck(Y394)は、後続の下流シグナル伝達に用いられる活性キナーゼである。
TCR刺激の後、Lckリン酸化(Y394)は、対照と比較して、HCV E2タンパク質を発現しているJurkat細胞において低下した(図13B)。活性化されたLckは、ζ鎖関連プロテインキナーゼ(ZAP)-70およびT細胞の活性化のためのリンカー(LAT)の両方の活性化に必要とされる。Lck活性化の低下と一致して、ZAP-70およびLATリン酸化は、対照と比較して、HCV E2発現細胞において低下した(図4C〜D)。それらはHCV E2発現細胞および対照細胞において同程度であったため、この阻害はCD45およびCsk発現レベルの低下によるものではなかった(それぞれ、図14Aおよび14B)。
TCRシグナル伝達の阻害に要されるHCV E2領域を特徴付けするために、切断E2タンパク質を発現する一連のJurkat細胞株を作出した(図13C)。個々の細胞株におけるHCV E2発現は同等であった(図15A)。TCR刺激後のIL-2放出は、アミノ酸603〜619を含有するE2フラグメントを発現しているすべての細胞株において低下した(図4E)。対照的に、この領域を含有しないHCV E2タンパク質を発現している細胞において、IL-2放出は阻害されなかった。
キナーゼ特異的リン酸化基質の予測モデルを用いると、HCV E2アミノ酸613(Y613)におけるチロシンは、Src/Lck基質であると予測された(図13C)(Xue et al., 2008)。この領域(アミノ酸603〜619)は高度に保存されており、かつY613は、すべてのHCV遺伝子型を表す600種を上回る種類の単離株において保存されている(web上のhcv.lanl.gov)。先行研究により、関連したヒトペジウイルス(HPgV)における保存されたチロシンはTCRシグナル伝達阻害に必要であり、かつこの残基の変異はTCRシグナル伝達を回復させることが見出された(Bhattarai et al., 2013)。ゆえに、HCV E2 Y613を、該ペプチド(HCVアミノ酸603〜619)に関連してアラニンへ(Y613A)、またはC末膜貫通ドメインが切除されたE2タンパク質に関連してアラニンもしくはフェニルアラニンへ(Y613A、Y613F)変異させた(図13D、15A〜B)。TCR刺激の後、Y613変異は、TCRシグナル伝達を回復させなかった(図4E)。
E2タンパク質がTCR阻害に要されるかどうかを判定するために、フレームシフト変異を有するHCV E2 RNAコード配列を発現しているJurkat細胞株を作出した。この細胞株は、HCV E2 RNAを発現したが、E2タンパク質を発現しなかった(図15A〜B)。驚くべきことに、HCV E2 RNAの発現は、TCRシグナル伝達を阻害するのに十分であった(図5A〜B)。ゆえに、TCRとの結合によって仲介されるT細胞活性化の阻害には、アミノ酸603〜619をコードするE2 RNAが要されかつ十分であった。
HCVは、E2アミノ酸603〜619をコードする配列を含めて、単離株間で相当な配列多様性を有する(web上のhcv.lanl.gov)。アミノ酸603〜619をコードするRNAにおいて13ntの差異を含有する、異なるHCV単離株(遺伝子型3;GT-3)からのHCV E2 RNAおよびタンパク質の発現を検討した(図5C)。GT-2aのように、GT-3 E2 RNAはTCR仲介性IL-2放出を阻害した(図5A)。いくらかの配列多様性にもかかわらず、すべての遺伝子型を表す600種を上回る種類のHCV単離株において、4個のシトシン残基が保存されている(図5C)。シトシン残基をアデノシンに変異させたHCV E2 RNAを発現しているJurkat細胞株を作出し(図5C)、かつ抗CD3/CD28の後のIL-2放出およびLckのリン酸化によって測定されるTCRシグナル伝達は、この変異を発現している細胞において回復した(図5A〜B)。
HCV E2 603〜619をコードするRNA配列内の保存されたヌクレオチドは、マイクロRNA(miRNA)経路に関与する細胞質エンドリボヌクレアーゼであるダイサーによってプロセシングされると考えられるRNA構造を生成するのに必要であることが、バイオインフォマティクス解析により予測された(図16)(Ahmed et al., 2013)。TCRシグナル伝達をレスキューする保存されたシトシンの変異は、ダイサー基質へと折り畳まれないRNA構造をもたらした(図16)。先行研究により、HCV RNAとダイサーを含むmiRNA経路との間の相互作用が同定され(Shimakami et al., 2012およびRandall et al., 2007)、そしてE2コード領域由来のRNAを含めた、HCVウイルスに由来する小分子RNA(vd-sRNA)が、HCV感染した細胞において見出されている(Parameswaran et al., 2010)。vd-sRNAがE2発現細胞に存在するかどうかを判定するため、方法の項に記載されるように、全細胞RNAをE2に由来する小分子RNAの存在について解析した。これらの細胞に存在するRNA種の増幅および配列解析の後、HCV E2アミノ酸590〜621をコードするT細胞阻害性RNA領域を含有するvd-sRNAが同定された(図5D)。ゆえに、全長HCV E2 RNAは、これらの細胞においてTCR阻害性vd-sRNAにプロセシングされた。
vd-sRNAがTCRシグナル伝達を阻害するメカニズムを理解するために、さらなる解析を実施して、このvd-sRNA配列に対する潜在的標的を同定した。タンパク質チロシンホスファターゼE型の3'非翻訳領域(UTR)内に、vd-sRNAに相同な2つの保存された部位が見出された(PTPRE;図6A)。PTPREは、LckがメンバーであるSrcファミリーキナーゼを調節する(Lewis et al., 2005;Roskoski, 2005;Gil-Henn and Elson, 2003;Granot-Attas et al., 2009;およびToledano-Katchalski and Elson, 1999)。PTPRE mRNA発現レベルは、対照およびHCV E2 RNA発現細胞において同程度であった(図17);しかしながら、E2 RNAを発現しているJurkat細胞は、対照と比較して、PTPREタンパク質レベルを有意に低下させた(図15B)。上のバンドは、膜貫通ドメインを有する全長PTPRE(アイソフォーム1)を表し、かつ下のバンドは、細胞質PTPRE(アイソフォーム2)を表す(図15B)。予測されるダイサー基質を取り除くための、E2 RNAにおける保存されたヌクレオチドの変異は、PTPREタンパク質発現(図6B)およびTCRシグナル伝達(図5A〜B)を回復させた。PTPREタンパク質レベルは、非構造タンパク質(NS)のみを発現しているHCVレプリコンを含有する親Huh細胞またはHuh7と比較して、レプリコンに全長HCV RNA(FL)を含有するヒト肝細胞癌(Huh)細胞においても低下した(図6B)。
PTPREノックダウンのための特異性およびHCV E2コードRNAの要件を判定するために、PTPRE 3'UTR配列を、発現プラスミドにおけるGFPの3'UTRに挿入した。293T細胞におけるGFP発現は、PTPRE 3'UTRなしのGFPと比較して、HCV E2コードプラスミドの共トランスフェクションによって低下した(図6C)。さらに、HCV RNA含有血清中での293T細胞のインキュベーションは、対照(HCV RNA陰性)血清中でインキュベートされた細胞と比較して、GFP発現の低下につながった(図6D)。ゆえに、エンベロープE2をコードするHCV RNAは、PTPREを直接標的にしかつその発現を阻害する。
細胞遺伝子を標的にするためのHCV E2 RNAの特異性をさらに検討するために、PTPREに関して予測されるシード配列を、Jurkat細胞において発現した細胞遺伝子を標的にする配列(CXCR4)と置き換えた(図6E)。Jurkat細胞株を以前のように作出し、かつCXCR4発現を検討した。PTPRE標的化配列をCXCR4で置き換えることにより、CXCR4発現が有意に低下した(図6F)。
まとめると、これらのデータは、インビトロで発現したHCV E2 RNAが、ヒト肝細胞(Huh 7)およびT(Jurkat)細胞においてPTPRE発現を阻害する短いRNAにプロセシングされ、かつTCR仲介性Src(Lck)シグナル伝達を阻害することを実証している。293細胞へのHCV RNA含有血清の添加もPTPRE発現を阻害し、ゆえにこの効果は生物学的に関連している可能性が高い。
まとめると、これらのデータは、インビトロで発現したHCV E2 RNAが、ヒト肝細胞(Huh 7)およびT(Jurkat)細胞においてPTPRE発現を阻害する短いRNAにプロセシングされ、かつTCR仲介性Src(Lck)シグナル伝達を阻害することを実証している。293細胞へのHCV RNA含有血清の添加もPTPRE発現を阻害し、ゆえにこの効果は生物学的に関連している可能性が高い。
HCV E2タンパク質は、遠位TCRシグナル伝達を阻害する。ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート(PMA)およびイオノマイシン(P+I)を用いてTCRの下流を刺激することによって、T細胞活性化をインビトロで開始させ得る。HCV E2 RNAが近位および遠位TCR仲介性シグナル伝達を阻害したかどうか判定するために、Jurkat細胞をP+Iで刺激し、そしてHCV RNAだけを発現している細胞は、遠位シグナル伝達を阻害しなかった(図7A)。ゆえに、ウイルスRNAは近位シグナル伝達阻害に特異的であった。驚くべきことに、P+I活性化の後、膜貫通ドメインを有する(アミノ酸384〜747)および有しない(アミノ酸384〜703)HCV E2タンパク質発現は、遠位シグナル伝達を阻害した(図7A)。P+I刺激は、HCV E2 RNAまたはE2タンパク質のいずれかを発現している細胞においてCD69発現を阻害しなかったため、阻害はNFAT経路に特異的であった(図18Aおよび19)。切断されたE2(384〜609)または(601〜725)を発現しているJurkat細胞は、遠位シグナル伝達を阻害しなかったため、全長に近いE2(384〜703)が必要であった(図7A)。全長に近いタンパク質に関連して予測されるLck基質部位の変異(Y613F、Y613A)は、P+I仲介性IL-2放出を回復させたため、保存されたE2 Y613も必要であった(図7A)。
HCV E2タンパク質のY613は、予測されるLck基質であり、ゆえにこの残基のリン酸化を検定した。インビトロにおいて、組換えHCV E2はLckによってリン酸化され、かつCD45によって脱リン酸化され(図7B)、そしてJurkat細胞において発現したHCV E2は、TCR刺激後にリン酸化された(図7C)。ゆえに、TCRとの結合の後にY613A変異体はリン酸化されなかったため、HCV E2はLck基質として働き、かつリン酸化はY613で生じた(図7C)。NFATシグナル伝達におけるHCV E2のLck仲介性リン酸化の役割を査定するために、Jurkat細胞をLck阻害剤で一晩処理した。P+I仲介性IL-2放出は、Lck阻害剤で処理されたHCV E2発現細胞においてレスキューされ、遠位TCRシグナル伝達を阻害するためには、Y613におけるHCV E2のLck仲介性リン酸化が要されることを示唆した(図7D)。まとめると、これらのデータにより、E2仲介性遠位TCRシグナル伝達の阻害のための、HCV E2上の保存されたチロシン(Y613)をリン酸化することにおける、T細胞特異的キナーゼLckの新規な役割が同定された。
ホスホ-HCV E2がP+I誘導性IL-2放出を阻害するメカニズムを判定するために、IL-2 mRNA転写に要される転写因子である、活性化T細胞の核因子(NFAT)の活性化および核移行を査定した。P+I刺激があると、NFATは、対照およびHCV E2タンパク質発現Jurkat細胞において同程度に活性化された(脱リン酸化された)(図8A)。しかしながら、活性NFATの核移行は、対照細胞におけるものと比較して、HCV E2発現細胞において低下した(図8B)。E2タンパク質上のY613はLckによってリン酸化され、かつホスホ-HCV E2はNFATの核移行の低下に要されるため、NFATとリン酸化HCV E2タンパク質との間の相互作用を査定した。HCV E2タンパク質は、刺激されていないまたはTCR刺激されたJurkat細胞のいずれにおいても、NFATを沈降させなかった(図10C)。NFATの核への取り入れおよび核からの運び出しは、インポーチン-β、チューブリン-α、カルシニューリン、プロテインキナーゼD2(PKD2)、CSE1L、および他を含めた、多数の細胞タンパク質および非コードRNAによって調節される(Sharma et al., 2011)。免疫沈降調査において、E2またはホスホ-E2と、これまでに調査された因子との間に直接的相互作用は観察されなかった(図18C)。これらのデータは、LckによるY613でのリン酸化に際してHCV E2はNFAT核移行を阻害し、それにより遠位TCRシグナル伝達の欠損がもたらされることを示唆している。
次に、初代ヒトT細胞における遠位TCRシグナル伝達に対する、HCVエンベロープを有する粒子の効果を査定した。P+I刺激の後、健常ヒトPBMCからのIL-2放出は、血清から獲得されたHCV粒子によって(図8C)、ならびに感染性および欠陥のあるHCV粒子(それぞれ、HCVccおよびHCVpp)によって(図8D)阻害された。Y613のフェニルアラニンへの変異(Y613F)はJurkat細胞において遠位TCRシグナル伝達のHCV E2仲介性阻害を回復させたため(図7A)、レトロウイルス粒子を、天然E1-E2、またはY613F変異を有するE1-E2(HCVpp Y613F)で偽型化した。健常PBMCのP+I刺激の後、IL-2放出は、Y613F変異体とともにインキュベートされた細胞において回復した(図8D)。まとめると、これらのデータにより、遠位TCRシグナル伝達の阻害に必須である、HCVエンベロープタンパク質上の単一残基(Y613)が同定される。
総合すると、これらのデータにより、HCV RNA含有血清、HCVcc、HCVpp、HCV E2タンパク質は、初代ヒトT細胞およびCD4+ヒトT細胞株において遠位TCRシグナル伝達を阻害するが、HCV E2 RNAはそうではないことが裏付けられる。HCVppは遠位シグナル伝達を阻害するため、この阻害は、HCV E2タンパク質のY613のLckリン酸化を要しかつウイルス複製を要しない。
黄熱ウイルス(YFV)RNAおよびエンベロープタンパク質は、T細胞シグナル伝達を阻害する。HCVおよびGBV-C研究に関する主要な問題は、いずれのウイルスもインビトロで十分に複製しないこと、および、HCVはインビボでリンパ球内に見出されるもののリンパ球内で広範に複製しないことである。本発明者らは、YFVのワクチン系統(17D)およびムンプス(Jeryl Lyn)系統が、インビトロでPBMCおよびCD3+ (T)細胞において複製することを以前に示した(Xiang et al., 2009;Mohr et al., 2008)。バイオインフォマティクス解析により、両ウイルスは、Lckに対する基質となると予測される保存されたモチーフを有することが明らかとなった(Xue et al., 2011)。Lckとの潜在的相互作用を検討するために、本発明者らは、まず、Lckを有するまたは有さないJurkat細胞においてYFVおよびムンプスの複製を調査した。YFVはLckの存在下でより少ないウイルスを産生し、一方でムンプスは、Lck含有細胞においてより高いレベルまで複製した(図21A〜B)。YFV前の抗CD3によるTCRの刺激は、Lckを発現している細胞において複製を低下させ(図1C)、かつYFV感染後の抗CD3活性化は、さらなる複製を妨げた(図21D)。Lck阻害剤またはsiRNAのいずれかを用いたLck阻害は、TCR刺激された初代ヒト細胞においてYFV複製を有意に増加させたため、この過程はLck活性に依存していた(図22)。
抗CD3活性化前の初代ヒトCD3+ (T)細胞のYFV感染は、IL-2放出によって測定されるTCRシグナル伝達を低下させた(図23)。留意すべきことに、測定可能な程度の感染力を有しないUV不活性化されたYFVも、このアッセイにおいてTCRシグナル伝達をより少ない程度ではあるが阻害したため、このTCR阻害効果には複製が要されなかった(図23)。感染性YFVクローンを獲得し、そしてエンベロープコード領域を増幅しかつtet-off発現システムにおいてそれを発現させた。HCVのように、Lck基質となると予測される2個の保存されたチロシン、Y274およびY375が存在する(図24)。阻害にはY274が要された。HCVのように、YFVは、近位(TCR仲介性)および遠位(P+I誘導性)のTCRシグナル伝達の両方を阻害した。ゆえに、本発明者らはフレームシフト構築物を作製し、かつHCVのように、envコードRNAが近位シグナル伝達を阻害することを見出した(図24)。留意すべきことに、(Y274F変異体における)RNAコード領域における単一ヌクレオチドの変異は近位シグナル伝達を回復させなかったが、(Y274A変異体における)2個の残基の変異は回復させた(図24)。驚くべきことに、Y274におけるコード配列の解析により、HCV envによって調節される同じホスファターゼ(PTPRE)との相同性が明らかになっている。これらのデータは非常に新しく、そして本発明者は、感染細胞におけるウイルス由来の短いRNAの存在を立証する過程にいる。
マウスを、YFVまたはムンプスウイルスのいずれかでIP免疫化した。初回の調査はBalb/Cマウスにおけるものであったが、調査をC57/ブラック6マウスにおいて繰り返し、類似の結果を有した。示されたすべてのデータは、ブラック6マウスにおけるものである。ストックウイルスは、両方ともVero細胞において産生された。疑似感染させたVero細胞培養上清で免疫化することによって、実験を制御した。加えて、UV不活性化されたYFVおよびムンプスウイルスを検定した。種々の接種源のウイルス力価(不活性化前)およびタンパク質濃度を正規化した。YFVによるIP免疫化の後、脾細胞のTCR活性化を縦方向に18日間測定し、そしてTCRシグナル伝達は、4日目までに減少し、10〜12日目に底に到達し、次いでベースラインまでではないが18日目までに増加することが見出された。その後、YFVで免疫化した後、オボアルブミン(ミョウバン中)を投与し、かつ7日後に、ミョウバン中オボアルブミン(ova)の2回目の投薬を施した。ブーストの7日後に動物を屠殺し、かつ脾細胞および排出リンパ節を免疫応答について検討した。YFVで免疫化されたマウスは、細胞培養物対照と比較して、IL-2、IFN-γ、およびova特異的抗体を有意に低下させた(図5〜6)。これらの調査は2回繰り返され、かつすべての調査において効果は再現可能であった。いかなるウイルス調製物も全体的な免疫応答の欠損につながり得るという懸念、およびムンプスウイルスはインビトロシステムで活性化を増強したという事実により、ムンプスワクチン系統(Jeryl Lynn;複製能を有しかつUV不活性化された)でマウスを免疫化した。最初の調査では、各群において3匹のマウスを免疫化し、かつエクスビボにおけるova刺激の後、サイトカインレベルは増加した(図6に示されるIFN-γおよびIL-2;IL-4、IL-13)。
これらのデータは、いくつかのウイルス由来のウイルスエンベロープコードRNAおよびenvタンパク質がTCRシグナル伝達を妨害し、それによりenv特異的免疫応答を潜在的に遅延または低下させ、かつ複製を促進することを示している。HCVおよびYFVはこの表現型を共有するものの、種々のメカニズムが種々のウイルスによって利用されると思われる。図7は、検定された種々のウイルスタンパク質またはRNAを示したデータ、およびどこでそれらはTCRシグナル伝達を阻害するかを要約している。インフルエンザHAおよびHIV gp120は、同様にTCRシグナル伝達を妨害することが報告されているが、これらの相互作用のメカニズムは研究されていない。
実施例3−考察
HCVは、複雑でかつ完全には理解されていないメカニズムを介して持続的感染を確立する。強力なT細胞応答は、HCV感染の有効な制御および排除と相関するが、感染した個体の大多数は、ウイルス血症を排除することができない(Rehermann, 2009)。慢性感染は、HCV特異的な肝臓内および末梢血中T細胞の低下を伴い、HCVタンパク質、RNA、またはその両方がT細胞機能を阻害することが示唆される。
本明細書において開示されるように、HCV粒子は、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達経路の阻害を介してT細胞活性化を直接低下させた。血清、HCV感染した個体由来のHCV RNA含有EV、およびHCVccは、ヒトT細胞においてTCRシグナル伝達を阻害した。複製能を有しないHCVppがTCRシグナル伝達を阻害したため、TCRシグナル伝達の阻害は複製を要しなかった。HCV陽性血清によるTCRシグナル伝達の相対的阻害は、細胞培養物に由来するHCVccまたはHCVppよりも強力であった。HCV陽性血清は、HCVcc、精製されたEV、およびHCVppに存在していないTCR阻害性サイトカイン(IL-10、TGF-β)を含有するため(Nelson et al., 1997およびReiser et al., 1997)、このことは驚くべきことではない。それにもかかわらず、これらの血清因子の非存在下において、HCVcc、HCV陽性EV、およびHCVppも、PBMCおよび精製されたT細胞においてTCRシグナル伝達を阻害し、ゆえにウイルスE2タンパク質およびRNAは、TCRシグナル伝達を変更するのに十分であった。
E2をコードするHCV RNAおよびE2タンパク質それ自体は、TCRシグナル伝達経路内の2つの別個の部位でTCRシグナル伝達を独立して阻害した。HCV E2 RNAは、Lckの活性化を低下させることによって近位TCRシグナル伝達を阻害し、かつ阻害は、保存されたE2 Y613に隣り合った高度に保存されたヌクレオチド配列を要した。該RNA領域は、ダイサーにプロセシングされてvd-sRNAとなる構造由来の保存された残基を含有する。4個の保存された残基の変異により、予測されるRNA二次構造が破壊され、TCRシグナル伝達が回復する。vd-sRNA配列における保存された配列は、Srcキナーゼシグナル伝達に関与するホスファターゼであるPTPREを標的にすると予測された。
PTPRE翻訳は、HCV E2 RNAを発現しているリンパ球細胞においておよびHCV全長ゲノムを発現している肝細胞において有意に低下した。PTPREはGrb2を介してSrcシグナル伝達を調節し(Toledano-Katchalski and Elson, 1999)、かつGrb2欠如細胞はLck活性化の欠損を有し(Jang et al., 2010)、HCVに由来する短いRNAがPTPRE翻訳を妨害し、TCRシグナル伝達の低下につながることが示唆される。肝細胞におけるHCV複製はSrcキナーゼの阻害によって増強され(Supekova et al., 2008)、ゆえに、このHCVに由来する短いRNAによる、Srcキナーゼを調節する肝細胞PTPREのノックダウンは、リンパ球におけるT細胞シグナル伝達の妨害に加えて、肝細胞におけるウイルス複製も促進し得る。293細胞へのHCV RNA含有血清の添加は、HCV RNA陰性血清と比較して、GFPに付加された場合のPTPRE配列を標的にし、この観察結果の生物学的関連を例証している。
PTPRE活性についてのELISAに基づくアッセイを用いて、汎ホスファターゼ阻害剤がPTPREを強力に阻害することが示された(図28)。
TCRシグナル伝達の阻害の第2のメカニズムは、E2タンパク質リン酸化を伴った。本明細書における調査における4つのラインの証拠により、HCV E2タンパク質のY613でのLck仲介性リン酸化の役割が支持される。第一に、E2は、Lckによってインビトロでリン酸化された。第二に、Jurkat細胞で発現した天然E2タンパク質は、TCRとの結合の後にリン酸化されたが、Y613A変異を有するE2はそうではなかった。第三に、Lck阻害剤は、P+I活性化の後、NFAT移行に対するHCV E2タンパク質仲介性の効果をレスキューし、そして最後に、Y613のアラニンまたはフェニルアラニンへの変異は、遠位TCRシグナル伝達を回復させた。リン酸化HCV E2は、NFAT核移行を低下させることによって遠位TCRシグナル伝達を阻害した。NFATの核への取り入れおよび核からの運び出しは、多数の細胞タンパク質および非コードRNAによって調節される(Sharma et al., 2011)。ホスホ-E2は、これらの因子のうちのいずれかまたは因子の組み合わせを妨害し得、それによりNFAT核移行の欠損がもたらされる。
まとめると、結果は、HCV E2 Y613がLck基質として働いたこと、および遠位TCRシグナル伝達阻害にはY613のLck仲介性リン酸化が要されたことを示している。標的T細胞に移入したウイルスRNAおよびE2タンパク質の量は、E2を発現しているJurkat細胞におけるものと同等ではありそうにないものの、強力なTCRアゴニスト(CD3/CD28抗体)による刺激の後、血清、EV、またはウイルス粒子(HCVccおよびHCVpp)とともにインキュベートされた細胞において、T細胞活性化の有意な阻害が測定された。ゆえに、TCR活性化を低下させるには、血清およびEV中に存在する少量のE2タンパク質およびRNAで十分である。E1はT細胞活性化阻害に影響し得るが、E2タンパク質は遠位TCRシグナル伝達を阻害するのに十分であり、かつY613残基の変異は、E2タンパク質発現(Y613A、Y613F)またはHCV粒子(HCVpp;Y613F)に関連してTCRシグナル伝達を回復させた。HCV粒子相互作用、ならびにTCRシグナル伝達のE2 RNAおよびタンパク質による阻害の工程を図解したモデルが、図9に示されている。さらに、HCV E2 RNAおよびタンパク質が、シグナル伝達カスケードにおける2つの別個の工程でTCR仲介性活性化を阻害するという観察結果は、HCV感染の間のTCRの役割を強調する。関与するRNAおよびアミノ酸配列は高度に保存されており、ゆえにTCR阻害は、E2 RNAおよびタンパク質の両方を発現している細胞において相乗的に阻害される。
HCV感染の間、血清中HCV RNA含有粒子の濃度は高く、しばしば1ミリリットルあたり100万コピーのウイルスRNAを上回る(Schijman et al., 2004およびMatthews-Greer, 2001)。ゆえに、ウイルスRNA含有粒子とリンパ球との間の豊富な相互作用が存在する。ビリオンに加えて、HCV RNAも細胞外小胞中に存在する(Ramakrishnaiah et al., 2013;Cosset and Dreux, 2014;およびDreux et al., 2012)。HCV、HPgV、またはA型肝炎ウイルスRNAを含有する細胞外小胞は、感染していない細胞内にウイルスRNAを送達しかつ感染を開始させることが報告されている(Ramakrishnaiah et al., 2013;Cosset and Dreux, 2014;Chivero et al., 2014;およびFeng et al., 2013)。TCRに対するHCV血清のインビトロ効果は強力でありかつ用量依存的であると思われるものの(図1C)、リンパ球におけるHCV RNAおよびタンパク質の濃度は低いと考えられるため、HCV RNAおよびタンパク質の阻害効果は、インビボにおいて完全ではない。ゆえに、HCV粒子の阻害効果は、深刻な免疫不全につながらないと思われる。それにもかかわらず、HCV感染の間の全身的免疫抑制の証拠が存在する。HCV感染した対象は、HBVのようなワクチン抗原に対する免疫応答の鈍化、および臓器移植片拒絶の低下を有する(Rehermann, 2013;Corell et al., 1995;Moorman et al., 2011;およびShi et al., 2014)。HCV粒子によって仲介される、T細胞活性化およびIL-2放出の低下は、観察されるT細胞の増殖、分化、およびエフェクター機能の欠損に寄与し得(Rios-Olivares et al., 2006およびFolgori et al., 2006)、それは、急性感染の確立を手助けし得、かつ慢性感染においてウイルス持続性を維持するのに役立ち得る。さらに、ワクチン抗原を含めた病原体に対する有効な免疫応答の生成には、効率的なT細胞活性化が関与する。HCV E2 RNAおよびタンパク質内のTCR阻害性モチーフの変異は、改善されたエンベロープに基づくHCVワクチンの設計につながり得る。
本明細書において開示されかつ主張される組成物および方法のすべては、本開示に照らして、過度な実験なしになされ得かつ遂行され得る。本開示の組成物および方法は、様々な態様の観点から記載されているものの、本開示の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載される組成物および方法に、ならびに方法の工程または工程の配列において変動が適用され得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、両方とも化学的かつ生理学的に関連しているある特定の作用物質を、本明細書において記載される作用物質の代わりに置換し得ると同時に、同じまたは類似した結果が達成されるであろうことは明白であろう。当業者に明白であるそのようなすべての類似した代用物および改変は、添付の特許請求の範囲によって規定される、本開示の精神、範囲、および概念の内にあると見なされる。
VI.参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において明示されるものに対して補足的である例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。