本発明の目的は、時計用規制デバイスの分野において、特に、環状の共振運動において2つの自由度を有する共振器において、認識されている要求事項を満たし、回転数の減少が大きい既知の磁気エスケープに接続した単一の自由度を有する共振器の場合において弱い磁気的相互作用に関連づけられた問題に対する解決策をみつけることである。
このために、本発明の主題は、機械的な時計用ムーブメントを備える磁気エスケープであって、これは、モーターデバイスによって駆動され当該機械的な時計用ムーブメントの共振器に結合しているエスケープ車を有し、このエスケープ車は、このエスケープ車の非ゼロの半径方向の範囲内において、第1の角周期P1を有する第1の周期的パターンを定めている第1の磁性構造を有し、360°/P1は、第1の整数N1と等しく、前記磁気エスケープは、前記共振器にマウントされ前記エスケープ車に磁気的に結合している少なくとも1つの磁石を有し、これによって、前記機械的な時計用ムーブメントが機能しているときに、前記磁石は共振振動数で周期的共振運動を行い、前記エスケープ車は、この共振振動数に比例した回転数で回転する。前記磁気エスケープは、前記第1の磁性構造と平行な第2の磁性構造を有し、この第2の磁性構造は、前記半径方向の範囲内において、360°/P2が、整数N1とは異なる第2の整数N2であるように、第2の角周期P2を有する第2の周期的パターンを定めており、数N1とN2の間の差の絶対値|ΔN|は、N/2以下の値であり、すなわち、|ΔN|≦N/2であり、ここで、Nは、数N1とN2のうちの小さい方の数である。前記第1及び第2の磁性構造は、前記時計用ムーブメントが機能しているときに、前記第1の磁性構造が、第1の相対的な角回転数F1relで前記第2の磁性構造に対して回転するようにされており、前記第1の周期的パターン及び前記第2の周期的パターンは、これらが、前記第1及び第2の磁性構造と平行な幾何学的面上への射影において、前記半径方向の範囲内で、前記磁石に結合している組み合わせパターンを発生させるように選択され、この組み合わせパターンは、少なくとも数|ΔN|個の第1の磁性面の割合を有する第1のゾーンと、及び少なくとも数|ΔN|個の前記第1の磁性面の割合よりも小さい第2の磁性面の割合を有する第2のゾーンとを交替構成で定め、前記組み合わせパターンは、第2の相対的な角回転数F2relで前記第2の磁性構造に対して回転し、この第2の相対的な角回転数F2relは、前記第1の相対的な角回転数F1relと数N1の積を数N1とN2との差ΔNによって割った値に等しく、すなわち、F2rel=F1rel・N1/ΔNであり、ここで、ΔN=N1−N2である。
角回転数に関連して、毎秒当たりの回転数は、周期的運動の時間的な期間の逆数に対応していることを理解することができるであろう。
好ましい変種の1つにおいて、前記磁石は、組み合わせパターンの幾何学的面に垂直な磁化軸を有する。
好ましい実施形態において、前記組み合わせパターンは、|ΔN|個の第1のゾーン及び同じ|ΔN|個の第2のゾーンを交替構成で有する周期的組み合わせパターンを定め、 任意の1つの第1のゾーン及び隣接する1つの第2のゾーンは、この周期的組み合わせパターンの角周期P3を定めており、この角周期P3の値は、360°を|ΔN|で割った値であり、すなわち、P3=360°/|ΔN|である。
改善された実施形態の1つにおいて、本発明に係る磁気エスケープは、前記共振器にマウントされ前記共振部分又は前記共振器の別の共振部分によって支持される第2の磁石を有する。この第2の磁石は、前記第1の磁石に対して前記第1及び第2の磁性構造の反対側にて、前記回転軸に実質的に平行な方向にて前記第1の磁石と整列しており、共振振動数で前記第1の磁石と同様な周期的共振運動をするようにされている。
第1の変種において、前記第2の磁石は、前記第1の磁石の磁化軸と平行で反対方向の磁化軸を有する。第2の変種において、前記第2の磁石は、前記第1の磁石の磁化軸と同じ向きで平行な磁化軸を有する。
改善された実施形態の好ましい変種の1つにおいて、前記磁気エスケープは、第1又は第2の磁性構造によって定められる周期的パターンと実質的に同一の周期的パターンを定める第3の磁性構造を有し、前記第3の磁性構造は、前記第1又は第2の磁性構造に重なり合っており、前記第3の周期構造は、前記第1又は第2の磁性構造が回転しているときに、前記第1又は第2の磁性構造と一体的に回転する。同じ周期的パターンを有する前記2つの磁性構造は、異なる周期的パターンを有する磁性構造の両側にそれぞれ位置している。
好ましい変種の1つにおいて、前記第2の磁性構造は、前記時計用ムーブメントに対して固定されており、前記第1の相対的な角回転数F1relは、当該時計用ムーブメントに対する前記エスケープ車の角回転数を定める。
また、本発明は、本発明に係る磁気エスケープ及び共振器を有する時計用ムーブメントの動作を規制する第1のデバイスに関し、前記磁石を支持するその共振部分は、前記時計用ムーブメントが機能しているときに、1つの自由度の発振を行う。前記共振器は、前記エスケープ車の任意の角位置において、安静位置にある磁石の中心が、前記エスケープ車の回転軸を中心とするゼロ位置円に実質的にあるように設計されており、このゼロ位置円は、前記共振器の共振部分の自由度で交差する。前記磁気エスケープによって定められる前記周期的組み合わせパターンは、前記ゼロ位置円の第1の側に位置しており、前記幾何学的面にて垂直方向に突き出ており、前記半径方向の範囲によって定められる前記第1及び第2の磁性構造の環状領域は、振動の各周期の第1の交替において前記磁石に磁気的に結合しており、これによって、この振動の各周期の間に、前記周期的組み合わせパターンは、その角周期P3と等しい角距離の分、回転する。
前記第1の規制デバイスの好ましい実施形態において、前記周期的組み合わせパターンは、第1の周期的組み合わせパターンであり、前記半径方向の範囲は、第1の半径方向の範囲であり、前記第1及び第2の磁性構造は、前記第1の半径方向の範囲に対して、前記ゼロ位置円の反対側に位置している前記エスケープ車の第2の非ゼロの半径方向の範囲内において、交互構成で、|ΔN|個の第3のゾーンと同じ|ΔN|個の第4のゾーンを有する第2の周期的組み合わせパターンを発生させる第3の周期的パターン及び第4の周期的パターンを定めており、前記第3のゾーンは、前記第2の磁性面の割合よりも大きな第3の磁性面の割合を有し、前記第4のゾーンは、前記第1の磁性面の割合及び前記第3の磁性面の割合のいずれよりも小さい第4の磁性面の割合を有し、前記第2の周期的組み合わせパターンは、前記角周期P3を有する。前記第2の周期的組み合わせパターンは、前記第1の周期的組み合わせパターンに対して、前記角周期P3の半分角度的にオフセットしており、前記第2の周期的組み合わせパターンも同様に、前記第1の周期的組み合わせパターンの前記相対的な角回転数F2relで回転し、前記第2の半径方向の範囲によって定められる前記第1及び第2の磁性構造の環状領域は、振動の各周期の第2の交替において前記磁石に磁気的に結合している。
特定の変種において、第1及び第2の周期的組み合わせパターンは実質的に隣接している。
本発明は、同様に、本発明に係る磁気エスケープ及び前記磁石を支持する共振部分を有する共振器を有する時計用ムーブメントの動作を規制する第2のデバイスに関する。前記共振器は、前記磁石の中心が前記回転軸から離れているときに、前記共振部分が前記エスケープ車の回転軸に対しての半径方向の復帰力を与えられ、また、前記磁石の中心が前記回転軸から離れているときに、前記磁石の中心が、共振角回転数で、前記回転軸を中心とする円を実質的に描き、前記磁石が実質的に一定のトルクで回転するようにセットされているようにされている。前記半径方向の範囲によって定められる前記第1及び第2の磁性構造の前記環状領域は、駆動トルクがその有効範囲内において前記エスケープ車に与えられているときに、前記磁石が前記組み合わせパターンの回転に起因する磁気的相互作用トルクによって回転させられるように、前記磁石に磁気的に結合しており、前記組み合わせパターンの角回転数は、トルクの有効範囲内にて共振角回転数に制御されており、この有効範囲は、前記磁気的相互作用トルクが最大の磁気的相互作用トルクよりも低く維持され、前記磁石の中心が描く円が前記有効範囲の任意の駆動トルクに対しても半径方向の範囲内である半径を有するように選択される。
好ましい変種の1つにおいて、前記磁石が前記有効範囲の任意の駆動トルクに対する組み合わせパターン全体の上に重ね合わさるように、前記共振器が設計され前記駆動トルクの有効範囲が選択される。
下の本発明の詳細な説明において、本発明の他の特定の特徴を説明する。
以下、添付図面を参照しながら本発明について説明する。なお、これに限定されるものではない。
図1に、機械的な時計用ムーブメントを備える磁気エスケープ12の第1の実施形態の構成を部分的に示しており、この磁気エスケープ12は、第1の磁性構造2で形成されているエスケープ車を有しており、この第1の磁性構造2は、環状表面において、磁性材料で作られた線状体4を第1の整数N1個(図示した例において、N1=20)有する第1の環状網3を定めており、線状体4は、空間又は実質的に非磁性の材料によって定められている線状体5によって分離している。したがって、この第1の環状網は、360°/N1である第1の角周期P1を有する。磁気エスケープ12は、さらに、磁性材料で作られた線状体10を数N1とは異なる第2の整数N2個(図示した例において、N2=21)有する第2の環状網9を定める第2の磁性構造8を有する。この線状体10は、空間又は実質的に非磁性の材料によって定められている線状体11によって分離している。したがって、この第2の環状網は、360°/N2である第2の角周期P2を有する。図示した特定の変種において、線状体4は、第1の角周期P1の実質的に半分にわたって延在しており、線状体10は、第2の角周期P2の実質的に半分にわたって延在している。磁性材料であることから、透磁率が高い材料であること、特に、強磁性体であることを理解することができる。
ここで、数N1とN2の差の絶対値|ΔN|は、1である(|ΔN|=1)。一般的には、数N1とN2の差の絶対値|ΔN|は、N/2以下であるようにされる。すなわち、|ΔN|≦N/2である。ここで、Nは、数N1とN2のうちの低い方の数である。好ましい変種の1つにおいて、数|ΔN|は、N/3以下である。すなわち、|ΔN|≦N3である。
第1及び第2の環状網は、互いの間隔が比較的小さい平行な形態でマウントされる。第1及び第2の環状網は、時計用ムーブメントが機能しているときに、第1の網が第2の網に対して、エスケープ車の回転軸6のまわりを第1の角回転数F1で回転をするようにされている。所与の例において、第2の磁性構造は、時計用ムーブメントに対して固定されており、これによって、前記回転数F1が時計用ムーブメントにおける第1の環状網の回転数(固定基準を定めている)と同じになる。第1及び第2の環状網は、これらの環状網と平行な幾何学的平面への射影における環状表面(したがって、非ゼロの半径方向の範囲を有する)において、磁性面の割合が大きい第1のゾーン15及び磁性面の割合がより小さい第2のゾーン16を定める組み合わせパターン14を作る。組み合わせパターン14は、共振器(図示せず)の磁石に磁気的に結合している。|ΔN|=1である所与の特定の例の場合において、絶対値が第1の角回転数F1よりもN1倍大きい第2の角回転数F2で組み合わせパターン14が回転するということは注目すべきである。したがって、図1に示すように、20個の線状体を有する第1の環状網3を用いると、組み合わせパターンは、この第1の環状網3よりも20倍速く回転する。なお、組み合わせパターンにおける磁性面の密度は、50%〜100%の範囲で実質的に線形に変わることに留意すべきである。磁性面の割合によって、組み合わせパターンの所与のゾーンの表面全体に対するこのゾーンにおける第1及び第2の環状網の磁性材料によって定められる表面の比がわかる。
光学的モアレ効果と同様に、ここにおいて、様々な磁性面の割合を有するゾーンがある組み合わせパターンが発生することが磁気的モアレ効果であると考える。一般的に、2つの網の間の線状体の数の差|ΔN|があることによって(|ΔN|は、数N1と数N2の間の差の絶対値)、|ΔN|個の第1の磁性面の割合を有する第1のゾーンと、及び|ΔN|個の第2の磁性面の割合を有する第2のゾーンとが交替構成で得られる。この第2の磁性面の割合は、第1の磁性面の割合よりも小さい。組み合わせパターンは、第1の角回転数F1と数N1の積を差ΔN=N1−N2で割った値に等しい第2の角回転数F2で回転する。すなわち、F2=F1・N1/ΔNである。本発明の範囲内において、第1の磁性構造は、エスケープ車を形成する。なお、数ΔNは正又は負でありうることに留意すべきである。数ΔNが正であるとき、組み合わせパターンは、エスケープ車と同じ向きに回転する。数ΔNが負のとき、組み合わせパターンは、エスケープ車の方向とは反対方向に回転する。これは、数学的には、負の回転数に対応している。下で説明するように、磁気エスケープ12は、再び、共振器に固定され第1及び第2の環状網に結合している少なくとも1つの磁石を有する。
図2は、第2の実施形態に係る磁気エスケープ24を部分的に示している。第1の環状網3は、図1のものと同様であるが、より大きな半径方向の距離にわたって延在している。第2の磁性構造18は、隣接している各環状表面に延在している2つの同心の環状網19及び20を形成している。これらの2つの網は、磁性線状体21及び22を同じ数N2有しており、これらの線状体は、空間又は実質的に非磁性の材料によって定められる線によって分離している。したがって、同じ周期P2を有する。環状網19及び20は、半周期P2/2分、角度的にオフセットしており、したがって、180°の位相ずれがある。この例において、N2=N1+2である。2つの磁性構造2及び18を重ね合わせることによって、平行な幾何学的平面への射影において、外側の環状表面に延在する第1の組み合わせパターン25と、及び内側の環状表面に延在する第2の組み合わせパターン26とが得られる。これらの2つの組み合わせパターンどうしは隣接しており、第2の角回転数F2で共に回転する。すなわち、F2=(F1・N1)/(−2)である。数|ΔN|が|ΔN|=2であるので、各組み合わせパターンは、磁性面の割合が大きい2つのゾーン及び磁性面の割合がより低い2つのゾーンを交替構成で有する。
環状網19及び20の間の位相ずれのおかげで、2つの組み合わせパターン25及び26には同様に、180°の位相ずれがある。一般的には、磁性面の割合が大きいゾーン及び磁性面の割合がより小さいゾーンの交替構成によって、角周期P3を有する周期的組み合わせパターンが定まる。角周期P3の値は、360°を数N1とN2の差の絶対値|ΔN|で割った値である。すなわち、P3=360°/|ΔN|である。図2の例において、2つの組み合わせパターン25及び26はそれぞれ、周期P3=360°/2=180°を有する。なお、図2の実施形態は、第2の磁性構造の2つの環状網の2つの同心の環状表面に対応する環状表面に延在するエスケープ車に単一の環状網がある特定の場合のものであることに留意すべきである。変種の1つにおいて、第1の磁性構造は、さらに、同じ周期P1の2つの別個の環状網を有する。例えば、これらの2つの環状網には、P1/4の角度的オフセットがあり、第2の磁性構造の2つの環状網には、P2/4の角度的オフセットがある。また、変種の1つにおいて、第1の磁性構造の2つの環状網は、異なる周期P1及びP2を有しており、また、第2の磁性構造の2つの環状網は、2つの磁性構造の間で周期P1及びP2を逆にした周期を有することに留意すべきである。
図3A及び3Bに示すように、磁気エスケープ24は、少なくとも1つの磁石32を有し、これは、共振器にマウントされ、重なり合った2つの磁性構造に磁気的に結合している。これによって、機械的な時計用ムーブメントが機能しているときに、この磁石は、共振振動数で周期的共振運動をする。本発明によると、2つの磁性構造と磁気的相互作用を行う磁石は、得られる組み合わせパターンに応じた運動を行い、この組み合わせパターンは、エスケープ車よりもはるかに速く回転することができる。図3A及び3Bには、図2の2つの環状網3及び19との磁石32の磁気的相互作用を部分的に断面図で示している。磁石は、組み合わせパターンの幾何学的面に垂直な磁化軸を有する。図3Aにおいて、磁石は、磁性面の割合が大きい組み合わせパターンの第1のゾーンの上に位置している。この第1のゾーンにおいて、2つの網は、磁石の界磁線34Aのための比較的連続的な磁路を共に形成するように、角度的にオフセットしている。この結果として、磁石に対する磁気抵抗が減少する。図3Bにおいて、磁石は、磁性面の割合がより小さい組み合わせパターンの第2のゾーンの上に位置している。この第2のゾーンにおいて、2つの網は、これらの網における磁石の磁路が、磁性線状体の間に存在する空き空間又は非磁性の材料で妨げられるように、実質的に重なり合っている。なお、2つの網の高さレベルにある磁石の界磁線34Bが、空き空間や非磁性領域を通り抜ければならないことがわかる。したがって、磁気抵抗は、図3Aの状況に比べて大きい。この磁気抵抗の変化の結果として、図3Cのグラフ36に示すように磁位エネルギーEpotが変化する。このような磁位エネルギーEpotにおける変化によって、2つの同心の環状の磁気トラックを用いて、回転させ及び/又は共振運動を維持させることが可能になるような磁石に対する力が発生する。
図4に、第1の種類に係る規制デバイス40の第1の実施形態を示している。図2に示すように、この規制デバイスは、磁気エスケープ24を有する。上で説明したように、2つの重なり合った磁性構造2及び18によって、2つの周期的組み合わせパターン25及び26が、180°位相シフトする。共振器42は、2つの枝部43及び44を備えた音叉で形成されている。これらの2つの枝部の自由端において、軸方向に磁化された2つの磁石46及び48がそれぞれ固定されている。これらの安静位置において、2つの磁石の中心は、ゼロ位置円を定める円50の上に位置している。この円50は、2つの隣接している組み合わせパターンどうしを分離する円とマージするように選択される。上で背景技術において言及したデバイスと同様に、2つの組み合わせパターンは、発振器の位置エネルギーが周期的変化するような2つの磁気トラックを形成しており、この発振器は、音叉42及び磁気エスケープで形成されている。磁石はそれぞれ、1つの実質的に半径方向の自由度で振動する。磁石は、2つの磁気トラックの低い磁気抵抗のゾーンによって交替構成で引きつけられる。各トラックの上にて、磁石が磁位エネルギーを蓄積させ、エスケープ車にブレーキをかける。磁石はそれぞれ、ゼロ位置円との交差によって、共振を維持するようにはたらくパルスを受ける。これは、2つの周期的組み合わせパターン25及び26の角度的オフセットのおかげで磁位のジャンプを磁石が経験するためである。したがって、エスケープ車に連結される回転基準系において、磁石は、各磁石の自由度に応じて、振動に対応する軌跡50を動く。
音叉の振動回転数Foscと、第1の磁性構造を支持するエスケープ車の回転回転数F1(第2の磁性構造が回転しない場合)との間の減少率に関連して、一方では、組み合わせパターン25及び26の回転回転数F2は、F1・N1/ΔN(ΔNはN1とN2の差)であり、他方では、振動回転数Foscは、F2・ΔNである。ΔNにがいずれであっても、関係Fosc=F2・ΔN=F1・N1が得られる。したがって、減速比は、数ΔNとは独立である。このことから、ΔNが小さいように、特に、|ΔN|=2又は4であるように選択することによって、利点を享受することができる。本発明は、減速比が大きい割には比較的大きな周期を有する周期的組み合わせパターンを得ることができ、したがって、減速比の減少を必要とせずに、組み合わせパターンを定める磁性構造を有する比較的大きな磁気的相互作用ゾーンを有する大きな寸法の磁石を用いることができるという点で顕著である。音叉の磁石を回転軸6に対して対称的に振動させるために、数ΔNは、偶数である。図4において、ΔN=−2である。
図5に、本発明に係る規制デバイス60の第2の実施形態を示しており、これは、第1の環状網3を定める第1の磁性構造2で形成されている磁気エスケープ24Aを有し、この構造2は、シャフトにマウントされ、回転軸6のまわりを回転する。さらに、図2及び4を参照して上で説明したように、磁気エスケープは、2つの位相シフトした環状網を定める第2の磁性構造18によって形成されている。この第2の実施形態は、第1の実施形態と比べて、共振器70の共振部分68が、それぞれが2つの磁性構造の両側に設けられている2つの磁石32及び62を有するという点で識別することができる。これらの磁石32及び62は、磁気エスケープ24Aを形成しているこのような構成によって、2つの磁性構造が、対向しているそれぞれの磁石から実質的に等しい距離に位置している限り、これらの磁性構造による2つの磁石における軸方向の引力の大部分が、相互に相殺し合うということによって、第1の実施形態の課題を解決することができる。同じことを、2つの磁石によって2つの磁性構造の全体に与えられる引力に対して適用することができる。
2つの磁石は、U字形の非磁性要素の両端に固定されている。共振器を概略的にばねで表している。共振部分68は、例えば、音叉の自由端に固定することができる。機能は、第1の実施形態のものと同様である。磁石はそれぞれ、上で説明した形態で、環状網に磁気的に結合している。これらの磁石は、両方がゼロ位置円に垂直であるように、軸方向にて整列している。構造18は、非磁性の材料で作られたディスク66によって固定され支持されている。共振部分68が構造18の下を通ることができるように、このディスクに側方凹部が設けられている。なお、図示した変種において、磁性構造2及び18はそれぞれ、環状網の線状体3、19及び20を接続する内側の環状部及び外側の環状部を有する。
図示した変種において、2つの磁石は、互いに反対方向に軸方向に磁化されている。この構成は、図6に示すように、磁気的相互作用を増幅することができるので有利である。第1の画像(Δx=0)は、図3Bのものと同様な断面であり、第2の画像(Δx=0.5・P3)は、図3Aのものと同様な断面である。第2の画像において、2つの重なり合った環状網が、2つの磁石の間の遮蔽スクリーンを実質的に形成するので、磁気的相互作用は、単一の磁石の場合の約2倍である第1の近似にて発生する。対照的に、第1の画像において、2つの磁石は、磁性線状体の間の空き空間において互いに反発し合う。この斥力は、磁位エネルギーEpotを増加させる。Epotの曲線74は、3Cの曲線36のものと同様な輪郭を有する。しかし、コンピューターシミュレーションによって、周期的曲線74の振幅が、アプリオリで、周期的曲線36の振幅よりも大きいオーダーであることを確立することができるようになった。
図7に示す変種において、2つの磁石は、同じ方向の軸方向の磁化をされている。ここで、環状網の線状体は、より厚いようにされている。磁位エネルギーのグラフにおいて、Epotの曲線76が曲線74の逆であることがわかる。実際に、この変種では2つの磁石の間の磁束が実質的に軸方向に通ることを考えると、組み合わせパターンの磁性面の割合がより大きいゾーンは、2つの磁石が磁性面の割合がより小さいゾーンに対向している場合よりも、これらの2つの磁石に対してより大きな磁気抵抗を発生させる。周期的曲線76の振幅は、アプリオリで、図示した構成において、周期的曲線74の振幅の半分である。
図8に、第1のタイプの規制デバイス80の第3の実施形態を示している。図5の実施形態と共通の要素を再び詳細に説明しない。規制デバイスは、共振器70と磁気エスケープ24Bとを有し、これは、図2の網3と同様な第1の環状網を定めている第1の磁性構造2Aと、及び図2の網19及び20に対応する2つの同心の環状網を定めている第2の磁性構造18Aによって形成されている。なお、この場合において、エスケープ車を形成し軸6のまわりを回転する2つの同心の環状網があり、構造2Aが、時計用ムーブメント内にて固定マウントされている。この第3の実施形態は、その前の実施形態と比べて、本質的に、第1の網のように、構造18Aの第2及び第3の位相シフトした網を有する環状表面に延在する第4の環状網を定める第3の磁性構造82を有するという点で識別することができる。この第3の構造は、第1の構造2Aと一体化されており、第4の環状網は、第1の環状網と同一であり、それらの磁性線状体は、軸方向にて重なり合っている(2つの網の間には角度的オフセットがない)。第1及び第4の網は、第2及び第3の網を形成する磁性構造18Aの両側にそれぞれ位置している。
磁性構造18Aは、中央の環状部を有しており、これは、連続的である。第2及び第3の網の間に、環状の中間部が設けられており、これは、連続的であり、好ましくは、磁性材料で作られている。さらに、同様に、連続的な環状の周部が設けられている。3つの連続的な環状部品によって、2つの端に固定されている2つの網の磁性線状体を有する単一部品の磁性構造18Aを有することが可能になる。連続的な環状のゾーンが磁気エスケープの動作を妨害しないようにするために、環状網が、振動する磁石の半径方向の長さよりも相当に大きな半径方向の長さにわたって延在するようにされる。この構造18Aは、エスケープ車のシャフトにマウントされている非磁性のハブ86にキャッチされる。2つの固定構造物2A及び82はそれぞれ、2つの連続的な環状の周部を有しており、これらは、非磁性の支柱84によって接続している。この実施形態は、第2の実施形態に存在する課題を解決する。実際に、2つの重なり合った磁性構造は、磁石の磁束のために,互いに引きつけられる。3つの磁性構造の重なり合いのおかげで、これらの引力の大部分は、磁気中間構造体が実質的に他の2つの中央に位置しているときに、相殺される。なお、様々な変種を想到することができる。第1の変種において、2つの同心の位相シフトした網が第1及び第3の磁性構造において設けられ、他方で、第2の磁性構造が単一の拡張した環状網を形成している。別の変種の1つにおいて、第1及び第3の外側構造が、エスケープ車のシャフトにマウントされ一体化されて回転し、他方で、第2の中間構造体が時計用ムーブメント内において固定された形態でマウントされている。
図9を補助的に用いて、変形実施形態の1つを素早く説明する。この規制デバイス90は、エスケープ車の両側に位置している2つの磁性構造2B及び82Aを磁気エスケープ24Cが有するということによって識別することができる。これらの磁性構造2B及び82Aは、2つのブリッジ95及び97の内側で固定されている2つの非磁性支持体94及び96によって時計用ムーブメントに接続されている。さらに、規制デバイス90は、2つの中間の環状網19及び20が二重になっており、エスケープ車を形成する非磁性のディスク92の両側にて設計されているということによっても識別される。
図10を補助的に用いて、時計用ムーブメントの動作を規制する第2のデバイスの第1の実施形態について説明する。図1を補助的に用いて説明したように、規制デバイス100は、磁気エスケープ12を有するが、重なり合った環状網にある磁性線状体が多いという点のみで相違しており、したがって、角周期が短い。しかし、図1のように、磁性線状体の差|ΔN|は、1である(|ΔN|=1)。エスケープ車(全体を示してはいない)は、組み合わせパターン14を形成している2つの磁性構造のうちの1つを支持しており、これらの2つの磁性構造によって定められる環状網の中心軸6のまわりを回転する。規制デバイスは、さらに、共振器102を有し、その共振部分は、磁石104を有する。この共振器は、2つの自由度を有し、磁石104が、自身を回転させずに、共振角回転数で実質的に環状軌跡を動く共振モードを有する。このために、この共振器は、磁石の中心が回転軸6から離れると、その共振部分が回転軸6に対する半径方向の復帰力を受け、規制デバイスが等時性を有するように、この復帰力は、好ましくは、角度的に等方性があり半径方向にて線形であるように設計されている。したがって、共振器は、磁石104の中心が、実質的に、共振角回転数Fresで回転軸を中心とする環状軌跡を、この回転軸から離れている場合に、動くように設計されている。これによって、この磁石は、実質的に一定のトルクで回転させられる。なお、等時性を害さずに、このシステムにおいて前記軌跡が楕円であることができることに留意すべきである。このように軌跡が楕円である場合には、磁石が、重なり合った環状の磁気網によって形成された組み合わせパターンと少なくとも部分的に重なり合っている状態を維持することが確実になる。図10に、このような共振器を概略的に示しており、これは、2つのばね106及び108に接続される磁石104によって特徴づけられており、これらのばね106及び108は、直交しており、実質的に同じ弾性率を有し、これらの2つのばねは、2つの直交しているレール114及び116のそれぞれにて摩擦なしで滑る支持体110及び112にそれぞれマウントされる。このことは、理論上慣性がない車輪を備えた車両によって概略的に示している。ばねの半径方向力のベクトル和によって、復帰力(向心力)が発生する。これによって、共振器の慣性部分が、実質的に円状又は楕円状の軌跡を動くことが可能になる。
ここで、第1及び第2の磁性構造の環状領域は、磁性面の割合が大きい第1のゾーン15と、及び磁性面の割合がより小さい第2のゾーン16とを備えた組み合わせパターン14を定めており、この第1及び第2の磁性構造の環状領域は、磁石104に磁気的に結合しており、これによって、この磁石は、角回転数ωで回転している組み合わせパターンに起因する磁気的相互作用トルクによって回転させられる。組み合わせパターンは、エスケープ車に駆動トルクが与えられるときに、駆動トルクの有効範囲内において回転し、組み合わせパターンの角回転数ωは、このトルクの有効範囲において共振角回転数Fresに制御される。この共振角回転数Fresは、前記磁気的相互作用トルクが、最大の磁気的相互作用トルクより小さく維持するように選択される。これによって、磁石の中心が描く円は、この有効範囲の任意の駆動トルクに対して、組み合わせパターン14の半径方向の範囲内の半径を有する。この共振器における磁気的相互作用は、エスケープ車の角回転数ωを共振器の共振振動数Fresで同期させる効果を有する。組み合わせパターン14によって、磁石の相対的角位置及びこの組み合わせパターンの関数として、磁石が第1のゾーン15の上にあるときの最小エネルギー及び磁石が第2のゾーン16の上にあるときの最大エネルギーの間で、共振器における位置エネルギーEpotが変化する。この位置エネルギーの角度勾配によって、磁石に対する接線方向のエントレインメント力を発生させる。同期外れを回避するために、磁石によってエスケープ車に与えられるブレーキトルクが、位置エネルギーEpotの勾配の最大値に依存して、最大の磁気相互作用トルクよりも小さいままであることを確実にする。
好ましい変種の1つにおいて、駆動トルクの有効範囲は、前記有効範囲の任意の駆動トルクに対する組み合わせパターン14に磁石104が全体的に重なり合うように選択され、そのように共振器が設計されている。
図11は、図10の規制デバイスの変形実施形態を示している。上で既に説明した要素については再び説明しない。この変種は、その前の変種と比べて、磁気エスケープ24Aが、磁性線状体の差の絶対値|ΔN|が2であるような2つの重なり合った環状網で形成されているということによって識別することができる。すなわち、|ΔN|=2である。これは、図2の2つの組み合わせパターンのうちの1つの実施形態と同様である。したがって、組み合わせパターン25Aは、磁性面の割合が大きい2つのゾーン15Aと、及び磁性面の割合がより小さい2つのゾーン16Aとを交替構成で有する。極値の間の磁位エネルギーの差が前の変種のものと実質的に等しいが、この差が半分ほどに小さい角度範囲にわたって影響を与えるとすれば、磁気的相互作用の最大の力は、実質的に2倍ほどに大きい。対照的に、組み合わせパターン25Aの角回転数と、2つの環状の磁気網のうちの1つを支持するエスケープ車の回転の回転数との間の比は、直前の変種の比の半分である。したがって、駆動トルクの有効範囲は増えるが、エスケープ車の回転数と共振振動数との間の倍率が縮小する。磁石104には、90°未満、特に、45°未満の角度的オフセットαがあり、この角度的オフセットが、磁石104と組み合わせパターン25Aの間の磁気的相互作用に起因するトルクの関数として変わることがわかる。
図12は、本発明に係る第2の規制デバイスの第2の実施形態を概略的に示している。この規制デバイス130は、第1の実施形態についての上の説明において言及した物理的特性を実装している特定の実施形態のものである。共振器132は、2つの自由度で弾性変形可能な棒状体134によって形成され、これは、実質的に球体の一部を定めており、この棒状体は、ソケット136内にて固定されている。その自由端において、この棒状体は、磁石104Aを支持している。磁気エスケープ12Aは、図2及び10のために説明したものと同様である。磁気エスケープ12Aは、第1の環状網3Aを形成する第1の磁性構造2Aを有し、その磁性線状体4Aは第1の切頭面に延在しており、磁気エスケープ12Aは、さらに、第2の環状網9Aを形成する第2の磁性構造8Aを有し、その磁性線状体10Aは、第1の切頭面と平行な第2の切頭面に延在する。既に説明したように、上記の組み合わせパターン14と同様な組み合わせパターン14Aが得られる。第1の磁性構造2Aは、シャフト138にマウントされ、このシャフト138は、ブリッジ142の内側に設けられた2つのボールベアリングによって回転可能にガイドされる。第2の磁性構造は、非磁性支持体146に固定されその上に設けられている。構造2Aは、磁性線状体4Aどうしを接続する連続的な内側の環状部を有し、構造8Aは、磁性線状体10Aどうしを接続する連続的な外側の環状部を有する。シャフト138の一端に、切頭部分140が設けられており、これは、磁石104Aのための中央の環状の制限用止めを形成しており、この制限用止めは、ここにおいて第1の磁性構造2A、シャフト138及びピニオン144によって形成されているエスケープ車に駆動トルクが与えられないときには、前記磁石の少なくとも過半部分が組み合わせパターン14Aとの重なり合いを続けるように設計されている。このピニオンは、機械的な時計用ムーブメントの計数機構に接続されており、このピニオンを通して、モーターデバイス(図示せず)によって提供される駆動トルクを受ける。
最後に、一般的には、本発明は、規制デバイスと、この規制デバイスによってペースが定まる計数機構と、及び前記計数機構を駆動し前記規制デバイスの共振モードを維持するモーターデバイスとを有する機械的な時計用ムーブメントに関する。この時計用ムーブメントは、本発明に係る磁気エスケープ又は本発明に係る規制デバイスを有するという特徴がある。