以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。無線LANの規格書して知られているIEEE Std 802.11TM-2012およびIEEE Std 802.11acTM-2013は、本明細書においてその全てが参照によって組み込まれる(incorporate by reference)ものとする。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る無線通信システムを示す。
図1の無線通信システムは、アクセスポイント(AP)11と、複数の無線端末(ステーション)1、2、3、4とを具備した無線ネットワークである。アクセスポイント11も無線端末の一形態である。アクセスポイント11と各無線端末1〜4は、任意の無線通信方式に従って無線通信を行う。一例として、アクセスポイント11と各無線端末1〜4は、IEEE802.11規格に従って無線通信を行う。以下の説明では、主としてIEEE802.11規格の無線LANを想定した説明を行うが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
アクセスポイント11は、複数のアンテナを備える。図1の例では、アクセスポイント11は、4つのアンテナ12A、12B、12C、12Dを備える。アクセスポイント11は、無線通信装置(後述する図9参照)を搭載する。無線通信装置は、無線通信部と、複数の対象通信装置である複数の無線端末1〜4との通信を制御する通信制御装置とを備える。
各無線端末1〜4は、それぞれ1つまたは複数のアンテナを備える。図1の例では、各無線端末1〜4は、それぞれ1本のアンテナ1A、2A、3A、4Aを備える。各無線端末は、無線通信装置(後述する図10参照)を搭載する。無線通信装置は、無線通信部と、対象通信装置であるアクセスポイント11との通信を制御する通信制御装置とを備える。
アクセスポイント11は、各無線端末との間で無線ネットワーク(第1ネットワークと呼ぶ)を形成し、さらにこれとは別に、有線または無線の他のネットワーク(第2ネットワークと呼ぶ)に接続されてもよい。アクセスポイント11は、これら第1ネットワークおよび第2ネットワーク間や、無線端末間の通信を中継する。アクセスポイント11は、第2ネットワークから、または第1ネットワークの無線端末から、無線端末1〜4宛のフレームを受信して、内部のバッファに保持する。アクセスポイント11は、当該保持している各無線端末1〜4宛のフレームを、各無線端末1〜4に空間多重で送信する。空間多重の送信とは、同一の周波数帯域で複数のデータストリームを同時に送信することを意味する。具体的には、アクセスポイント11は、各無線端末宛のフレームを、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信する。ダウンリンクマルチユーザMIMO送信により、スループットを向上させることができる。なお、本実施形態のフレームは、例えばIEEE802.11規格でフレームと呼ばれているもののみならず、パケットと呼ばれているものであってもよい。
ダウンリンクマルチユーザMIMO送信するために、アクセスポイント11は、事前に各アンテナ12A〜12Dから各無線端末1〜4へのダウンリンクの伝搬路の状況を表す伝搬路情報を、無線端末1〜4から取得する。本実施形態は、これらの無線端末1〜4からの伝搬路情報の取得を短時間で行うことを特徴の1つとする。無線端末における伝搬路推定の方法の詳細は後述する。
アクセスポイント11は、各無線端末から取得した伝搬路情報に基づき、複数の無線端末1〜4に向けて、互いの信号の干渉を抑制するように、指向性のビームパターンを算出する。アクセスポイント11は、このような指向性のビームパターンに従って、ビーム21、22、23、24を形成する。これにより、各無線端末宛のデータフレームを送信する。このように、アクセスポイント11は、同一の周波数帯域で、各無線端末に同時にデータフレームを送信できる。つまり、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信が可能となる。
図1の例では、指向性ビームの数が4であり、同時に通信する無線端末の台数も4であるが、本実施形態は、これに限定されない。例えば指向性ビームの数が4であり、同時に通信する無線端末の台数が3でもよい。この場合、3台のうちの1台の無線端末が複数のアンテナを備えて、アクセスポイント11が、当該無線端末に対して2つの指向性ビームを形成してもよい。これにより、当該1台の無線端末に2つのデータストリームを送信し、残りの2台の無線端末にそれぞれ1つのデータストリームを送信できる。なお、図1において、無線端末1〜4以外にも、アクセスポイント11と無線リンクを確立した他の端末が存在してもよい。
図1の例では、アクセスポイント11が備えるアンテナの個数は4であったが、アンテナの個数は2以上の任意の数でよい。ただし、アクセスポイント11が送信可能なデータストリームの上限は、備えるアンテナの個数に相当する。各無線端末が1本のアンテナを備える場合は、各無線端末に送信可能なデータストリーム数はそれぞれ1であるため、アクセスポイント11が備えるアンテナの個数は、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信を行う無線端末の台数以上であればよい。
なお、図1の例で、アクセスポイント11から各無線端末にダウンリンクマルチユーザMIMO送信を行う場合、アクセスポイント11がビームを形成する側、無線端末がビームを形成される側になる。この役割に着目して、アクセスポイント11をビームフォーマー(Beamformer)、無線端末をビームフォーミー(Beamformee)と呼ぶこともある。
図2は、アクセスポイント11が各無線端末から伝搬路情報を取得する方法の概要を説明する図である。アクセスポイント11および各無線端末が送信する信号(フレーム)が矩形によって示されている。横軸は時間軸であり、図に沿って右側が時間の流れる方向である。
前提として、アクセスポイント11は、事前に無線端末1〜4を含む複数の無線端末と無線リンクを確立しており、無線端末1〜4宛のフレームを内部のバッファに保持している。これからアクセスポイント11が、無線端末1〜4に当該フレームをダウンリンクマルチユーザMIMO送信しようとする状況を想定する。
まず、アクセスポイント11は、伝搬路推定を行うべき複数の無線端末を決定し、当該複数の無線端末を指定する通知情報を含んだ通知フレーム51を、任意の1つのアンテナから送信する。通知フレーム51には、後述するように無線端末1〜4から送信する伝搬路情報フレームの送信方法に関する情報を追加で含めてもよい。伝搬路推定を行うべき複数の無線端末は、例えばアクセスポイント11のバッファ内に、送信するフレームが存在する無線端末である。なお、アクセスポイント11は、通知フレーム51を複数のアンテナから送信することも可能である。
通知フレーム51の送信は、一例として、ブロードキャストで行う。ただし、通知フレーム51を、マルチキャストやユニキャストなど、ブロードキャスト以外の方法で送信してもよい。通知フレーム51は、例えばIEEE802.11規格で定められる制御フレーム(Control Frame)によって構成される。通知フレーム51の具体例として、IEEE802.11規格で定義されたNDP(Null Data Packet) Announcement(NDPA)フレームを用いてもよい。もしくは、当該NDPAフレームを拡張したフレームを定義して、この定義したフレームを用いてもよい。
なお、アクセスポイント11は、CSMA/CAに基づき、通知フレーム51の送信前にキャリアセンスを行い、送信権を獲得するものとする。送信権は、キャリアセンスを行っている間に、一定値レベル以上の信号が受信されなければ、キャリアセンス結果がアイドルとして獲得される。キャリアセンスを行っている間、一定値レベル以上の信号が受信された場合は、キャリアセンス結果がビジーとして、送信権は獲得されない。この場合、再度、バックオフ時間をおいて、キャリアセンスを行えばよい。
続いてアクセスポイント11は、通知フレーム51の送信から一定時間T1の経過後、伝搬路推定用のフレーム52を送信する。アクセスポイント11は、伝搬路推定用フレーム52を、アクセスポイント11の各アンテナから、互いに直交する信号で同時に送信する。互いに直交する信号で各アンテナからフレーム信号を同時に送信することで、受信側では各アンテナからの信号が重複して受信されても、各フレームを正しく分離できる。各アンテナから送信される伝搬路推定用フレームの構成(ビット列)は、各無線端末で既知である。伝搬路推定用フレームの構成は、アソシエーション時や、パイロット信号で事前に、無線リンクを確立している各無線端末に通知してもよいし、通知フレーム51で、伝搬路推定対象の各無線端末に通知することも可能である。各アンテナから直交する信号を送信する方法の詳細は、無線端末からアクセスポイントへ伝搬路情報フレームを送信する説明のところで述べる。なお、本動作の変形例として、アクセスポイント11は、各アンテナから同時に伝搬路推定用フレームを送信するのではなく、各アンテナを順番に用いて、伝搬路推定用フレーム52を順次送信してもよい。
伝搬路推定用のフレーム52の形式は任意でよい。伝搬路推定用のフレーム52は、IEEE802.11規格で定義された制御フレーム(Control Frame)、管理フレーム(Management Frame)、データフレーム(Data Frame)のどれにも属さなくてもよい。例えば、伝搬路推定用フレーム52は、IEEE802.11規格で定義されたマルチユーザVHTパケット構造(MU VHT Packet Structure)のPHY部分のみを含む、MAC的な情報を含まないフレームでもよい。この場合、伝搬路推定用フレーム52は、送信元となるアクセスポイントのMACアドレスおよび送信先となる無線端末のMACアドレスを含まない。そのようなフレームの一例として、IEEE802.11規格で定義されたNDP(Null Data Packet)を用いてもよい。もしくは、当該NDPを拡張したフレームを定義し、この定義したフレームを用いてもよい。一定時間T1は、予め定められた一定時間であれば任意の値でよい。一例として、IEEE802.11無線LANのMACプロトコル仕様で規定されているフレーム間のタイムインターバルであるSIFS(Short Inter-frame Space)時間(=16μs)を用いることができる。
複数の無線端末1〜4は、アクセスポイント11から送信された通知フレーム51をそれぞれ受信する。無線端末1〜4は、通知フレーム51内の通知情報を解析することで、伝搬路推定の対象として自装置が指定されたことを認識する。
伝搬路推定の対象として指定された無線端末1〜4は、その後にアクセスポイント11から送信される伝搬路推定用のフレーム52の受信に基づき、伝搬路推定を行う。ここで推定する伝搬路は、アクセスポイント11の各アンテナから無線端末へのダウンリンクの伝搬路である。無線端末は、当該ダウンリンクの伝搬路を推定することで、アクセスポイントから無線端末への伝搬路の状態を表す伝搬路情報を取得する。
伝搬路情報は、例えば伝搬路状態情報(CSI:Channel State Information)(伝搬路応答行列)、または、伝搬路状態情報(伝搬路応答行列)を特異値分解(Singular Value Decomposition:以下SVD)することで得られるV行列の各成分でもよい。あるいは、その他の情報でもよい。
各無線端末における伝搬路情報の推定方法は、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、図8を用いて後述するように、各無線端末からアクセスポイント11へのアップリンクの伝搬路応答と同様の枠組みで、伝搬路応答行列等の伝搬路情報を推定すればよい。
無線端末1〜4は、取得した伝搬路情報を含む伝搬路情報フレーム61、62、63、64を生成する。無線端末1〜4は、伝搬路推定用フレーム52の受信から一定時間T2後に、伝搬路情報フレーム61、62、63、64を、同一の周波数帯域でアクセスポイント11に送信する。すなわち、各無線端末が送信する伝搬路情報フレームは、空間的に多重されたアップリンクマルチユーザMIMOによって伝送される。通知フレーム51に伝搬路情報フレームの送信方法に関する情報が含まれている場合は、当該情報に従って伝搬路情報フレームの送信方法を決定して送信する。アップリンクマルチユーザMIMO送信の具体的な実現方法については、後に詳述する。なお、伝搬路情報として伝搬路状態情報(伝搬路応答行列)をアクセスポイントに送信する場合は、アクセスポイント側で伝搬路状態情報(伝搬路応答行列)を特異値分解してV行列を取得してもよい。
アップリンクマルチユーザMIMOでは各無線端末は、お互いに伝搬路情報フレームの送信タイミングに関する情報を共有していないため、何らかの方法により送信タイミングを合わせる必要がある。第1の実施形態では、アクセスポイントから伝搬路推定用フレームを受信してから、SIFS経過後に各無線端末は伝搬路情報フレームを送信する。このため、実質的にアクセスポイントからの伝搬路推定用フレームの送信が、アップリンクマルチユーザMIMO送信の送信タイミングを合わせるためのトリガの役割を果たしているといえる。
ここで、伝搬路情報フレーム61、62、63、64は、例えばIEEE802.11規格で定義された管理フレーム(Management Frame)によって構成されてもよい。この場合、管理フレームの構成は、一般的なMACフレームの構成を有し、例えば、Frame Controlフィールド、Durationフィールド、RAフィールド、TAフィールド、Frame Bodyフィールド、FCSフィールド等からなるフレームでもよい。この場合、伝搬路情報は、Frame Bodyフィールドに格納される。また、RAフィールドにはアクセスポイントのMACアドレス、TAフィールドには自端末のMACアドレスが格納される。RAフィールドに設定するアクセスポイント11のMACアドレスは、通知フレーム51のTAフィールドに設定されたものを用いてもよいし、事前に把握しているアクセスポイント11のMACアドレスを用いてもよい。伝搬路情報フレームの具体例として、IEEE802.11規格で定義されているCompressed Beamformingフレームを用いてもよい。もしくは、Compressed Beamformingフレームを拡張したフレームを定義し、当該定義したフレームを用いてもよい。
また、一定時間T2は、予め定められた一定時間であれば任意の値でもよい。一例として、IEEE802.11無線LANのMACプロトコル仕様で規定されているフレーム間のタイムインターバルであるSIFS(Short Inter-frame Space)時間(=16μs)を用いることができる。一定時間T2は、一定時間T1と同じ長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。
アクセスポイント11は、各無線端末からアップリンクマルチユーザMIMO送信によって送信された伝搬路情報フレーム61〜64を受信する。アクセスポイント11は、伝搬路情報フレーム61〜64に含まれる各無線端末の伝搬路情報を利用することにより、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信用のビームパターンを算出する。例えば、アクセスポイント11が、各無線端末から伝搬路情報としてV行列の各成分を取得した場合は、各成分を送信ウェイトとして用いて、アンテナごとのビームパターンを算出してもよい。伝搬路情報として伝搬路応答行列を取得した場合は、当該伝搬路応答行列を特異値分解してV行列を取得し、V行列の各成分を送信ウェイトとして用いて、アンテナごとのビームパターンを算出してもよい。ビームパターンの算出はここで述べた例に限定されず、公知の任意の手法を用いることができる。
アクセスポイント11は、伝搬路情報フレーム61〜64の受信から一定時間T3の経過後に、算出したビームパターンに従って、無線端末1〜4に、それぞれフレームをビーム送信する。これにより、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信が実現される。アクセスポイント11は、無線端末1〜4へのダウンリンクマルチユーザMIMO送信が所定時間続いたら、あるいは一定量の伝送を行ったら、送信をいったん停止して、通知フレーム51の送信から再度処理を行ってもよい。また、送信対象となる無線端末に変更が生じた場合も、通知フレーム51の送信から再度処理を行ってもよい。
ここで、アクセスポイント11から無線端末1〜4に送信するフレームは、例えばIEEE802.11規格で定義されるデータフレーム(Data Frame)でもよい。この場合、データフレームの構成は、一般的なMACフレームの構成を有し、例えば、Frame Controlフィールド、Durationフィールド、RAフィールド、TAフィールド、Frame Bodyフィールド、FCSフィールド等からなるフレームでもよい。この場合、無線端末宛のデータは、Frame Bodyフィールドに格納される。また、RAフィールドには無線端末のMACアドレス、TAフィールドにはアクセスポイントのMACアドレスが格納される。RAフィールドに設定する無線端末1〜4のMACアドレスは、伝搬路情報フレーム61〜64のTAフィールドに設定されたものを用いてもよい。一定時間T3は、予め定められた一定時間であれば任意の値でもよい。一例として、IEEE802.11無線LANのMACプロトコル仕様で規定されているフレーム間のタイムインターバルであるSIFS(Short Inter-frame Space)時間(=16μs)を用いることができる。一定時間T3は、一定時間T1またはT2と同じ長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。また、一定時間T3の代わりに、キャリアセンスによるCSMA/CAに基づき送信権を獲得した後にビーム送信を行ってもよい。
以下、無線端末1〜4がアクセスポイント11に伝搬路情報フレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信を行う方法について、詳細に説明する。
図3に、通知フレーム51のフレームフォーマットの例を示す。
通知フレーム51は、例えばFrame Controlフィールド、Durationフィールド、RAフィールド、TAフィールド、共通情報フィールド、端末情報フィールド、FCSフィールドを含む。
Frame Controlフィールドには、フレームの種別などを表す情報が設定される。
Durationフィールドには、バーチャルキャリアセンスとして設定する時間が格納される。Durationフィールドに値が設定されたフレームを受信した装置は、このフィールドに設定された時間が0になるまでカウントダウンし、0になるまでは、ビジーであると認識する。これをバーチャルキャリアセンスと呼ぶ。
RA(Receiver Address)フィールドには、通常、フレームの送信先のMACアドレスが設定される。通知フレーム51は、複数の無線端末宛に送信されるため、RAフィールドには、ブロードキャストアドレスを設定してもよい。ただし、RAとして、ブロードキャストアドレスではなく、マルチキャストアドレスを設定してもよいし、無線端末のMACアドレス(ユニキャストアドレス)を設定してもよい。ユニキャストアドレスを設定する場合は、RAフィールドを複数設けることで、複数の宛先を指定してもよい。
TA(Transmitter Address)フィールドには、フレーム送信元のMACアドレスが含まれる。本実施形態では、例えば、アクセスポイントのMACアドレスが設定される。
共通情報フィールドは、アップリンクマルチユーザMIMO送信を行うために必要な情報として、伝搬路推定を行う対象となる各無線端末(すなわちダウンリンクマルチユーザMIMO送信を行う対象となる各無線端末)に対し、共通に通知すべき情報が設定される。IEEE 802.11規格で定義されたNDPAフレームを拡張して通知フレーム51を形成する場合は、共通情報フィールドをNDPAフレームの任意の箇所に追加することで実現できる。
端末情報フィールド(個別情報フィールド)は、伝搬路推定を行う対象となる無線端末ごとに設けられる。端末情報フィールドの数は、伝搬路推定対象となる無線端末の数に応じて可変である。図2の例では、端末情報フィールド数は4つ設けられる。すなわち端末情報フィールド1、端末情報フィールド2、端末情報フィールド3、端末情報フィールド4が設けられる。
端末情報フィールドには、伝搬路推定対象となる無線端末の識別情報と、伝搬路情報フレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信を行うために必要な情報として当該無線端末に固有の個別情報が含まれる。IEEE 802.11規格で定義されたNDPAフレームを拡張して通知フレーム51を形成する場合は、端末情報フィールドは、NDPAフレーム内のSTA infoフィールド内のサブフィールドとして実現してもよい。変形例として、伝搬路推定対象となる各無線端末の識別情報を、各端末情報フィールドではなく、共通情報フィールドに設定することも考えられる。無線端末の識別情報は、無線端末を識別できる限り特定のものに限定されないが、例えばMACアドレスまたはAssociation ID(AID)、その他、端末を特定できる何らかのIDを用いることができる。
FCS(Frame Check Sequence)フィールドには、通知フレーム51のFCS情報が設定される。FCS情報は、受信装置側でフレーム誤り検出のため用いられる。
図3に示した通知フレーム内の端末情報フィールドおよび共通情報フィールドは、MACフレームのMACヘッダ内に配置されてもよいし、フレームボディ部に配置されてもよい。ここでは、MACフレーム内に端末情報フィールドおよび共通情報フィールドを設定する場合を示したが、図4に示すように、MACフレームの先頭側に付加する物理ヘッダ(PHYヘッダ)に端末情報フィールドおよび共通情報フィールドを設定してもよい。PHYヘッダは、L-STF(Legacy-Short Training Field)、L-LTF(Legacy-Long TrainingField)、L-SIG(Legacy Signal Field)、共通情報フィールド、端末情報フィールドを含む。L-STF、L-LTF、L-SIGは、例えば、IEEE802.11aなどのレガシー規格が認識可能なフィールドであり、信号検出、周波数補正、伝送速度などの情報が格納される。以下の説明では、通知フレームは、図3に示すようなフォーマットを有する場合を想定する。
アクセスポイント11は、図3に示すようなフォーマットを有する通知フレーム51を送信する。通知フレーム51を受信した無線端末は、自装置の識別情報が通知フレーム51の端末情報フィールドのいずれか(または共通情報フィールド)に含まれている場合は、自らが伝搬路推定を行うべき対象として指定されていることを把握できる。
また、各無線端末は、アップリンクマルチユーザMIMO送信を行う上で必要な情報を、共通情報フィールドおよび端末情報フィールドから取得する。これにより、各無線端末は、伝搬路情報フレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信する上で自装置が行うべき送信方法を把握できる。これにより伝搬路情報フレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信が可能となる。
以下、アクセスポイント11が各無線端末に通知フレーム51で通知するアップリンクマルチユーザMIMO送信のために必要な情報(共通情報、個別情報)について、詳細に説明する。
アクセスポイント11は、各無線端末からアップリンクマルチユーザMIMOにより伝送された伝搬路情報フレームを同時に、重ね合わさった信号として受信するため、これらのフレームを空間的に分離する必要がある。本実施形態では、各無線端末において、送信する伝搬路情報フレームのプリアンブルフィールドに、互いに直交するパターンのプリアンブル(ビット列)を格納する。アクセスポイント11は、各伝搬路情報フレームのプリアンブルを事前に把握しており、各無線端末から受信した伝搬路情報フレームにおけるプリアンブルを利用して、各無線端末からアクセスポイント11へのアップリンクの伝搬路応答を推定する。例えば、アクセスポイント11は、各無線端末のアンテナから、アクセスポイントのアンテナへの伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を推定する。アクセスポイントは、推定したアップリンクの伝搬路応答行列を用いることで、各無線端末から受信した伝搬路情報フレームのプリアンブルより後のフィールド(例えばデータフィールド)を正しく分離する。これは、公知の手法、例えばZF(Zero-Forcing)法、または、MMSE(Minimum Mean Square Error)法、または、最尤推定法等、任意の方法を用いて行うことができる。
ここで、アクセスポイント11は、各無線端末から互いに直交するプリアンブルを送信させるために、一例として、直交行列を用いて各無線端末が利用するプリアンブルを決定することができる。以下に、直交行列の例を示す。
(1)の行列は、空間多重数が2の場合の直交行列(すなわち2x2の行列)の例である。(2)の行列は、空間多重数が4(図1の例に相当)の場合の直交行列(すなわち4x4の行列)の例である。直交行列は、各行(または各列)を表す行(または列)ベクトルが互いに直交する性質を持っている。ベクトルが直交するとは、内積がゼロのことである。また、空間多重数とは空間多重するデータストリーム数のことである。
各無線端末は、空間多重数に応じた直交行列の各行(または各列)のそれぞれ異なる1つに基づきプリアンブルを構成することで、直交したプリアンブル構成が実現する(各無線端末のストリーム数がそれぞれ1の場合)。すなわち、アクセスポイントは各無線端末からプリアンブル信号を同時に重なった状態で受信しつつも、お互いのプリアンブルが直交しているため、伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を正しく推定できる。
図5に、空間多重数が2の場合における無線端末1、2の伝搬路情報フレームの概略構成例を示す。各伝搬路情報フレームは、プリアンブル部とデータ部とを含む。プリアンブル部はプリアンブルフィールドに格納されたビット列、データ部はデータフィールドに格納されたビット列に相当する。一例として、プリアンブルフィールドは伝搬路情報フレームの先頭に配置される。ただし、後述するように、先頭には別の種類のフィールドが配置されてもよい。データフィールドはプリアンブルフィールドの後に配置される。プリアンブルフィールドとデータフィールドの間に別のフィールド(例えばFrame Controlフィールド、Durationフィールド、RAフィールド、TAフィールドなど)が存在しても構わない。
各伝搬路情報フレームのデータフィールドには、無線端末1、2で推定された伝搬路情報等のデータが格納されている。
各伝搬路情報フレームのプリアンブルフィールドには、直交行列を用いて生成したプリアンブル部(ビットパターン)が格納されている。プリアンブル部は複数の区間からなり、各区間には、フレーム方向に沿って “P”または“-P”が、直交行列の該当する行(または列)の値に応じて配置されている。無線端末1の[P、−P]は、行列(1)の1行目の[1、−1]に対応し、無線端末2の[P、P]は、行列(1)の2行目の[1、1]に対応する。
1つの区間は、少なくとも1つ以上の変調シンボルに対応している。1つの区間はシンボル期間に対応する。シンボルの変調方式は、BPSK、QPSK、QAM等、任意の方式で構わない。無線端末1のプリアンブルは、[P、−P]である。無線端末2のプリアンブルは、[P、P]である。[P、−P]と[P、P]は互いに直交する。“P”と“-P”はそれぞれ1ビット以上のビット列からなる要素である。一例として、ビット列Pの変調シンボルと、-Pの変調シンボルは、振幅が同一で位相が180度ずれた関係(互いに打ち消し合う関係)にある。
図5における“t1”、“t2”は、プリアンブルの対応する区間のビット列が送信されるタイミングを表している。タイミングt1では、無線端末1のプリアンブルの1番目の区間のビット列Pが、変調方式に応じた変調シンボル(第1変調シンボル)によって送信されるとともに、無線端末2のプリアンブルの1番目の区間のビット列 Pが、無線端末1と同じ第1変調シンボルによって送信される。同様に、タイミングt2では、無線端末1のプリアンブルの2番目の区間のビット列-Pが、変調方式に応じた変調シンボル(第2変調シンボル。例えば第1変調シンボルと同一振幅で逆相のシンボル)によって送信されるとともに、無線端末2のプリアンブルの2番目の区間のビット列Pが、第1変調シンボルによって送信される。
図6に、空間多重数が4の場合における無線端末1〜4の伝搬路情報フレームの例を示す。
各伝搬路情報フレームのデータフィールドには、無線端末1〜4で推定された伝搬路情報等のデータが格納されている。実際にはデータフィールドは、MACフレームであり、MACフレームのフレームボディ部またはMACヘッダに、伝搬路情報等のデータが格納される。
各伝搬路情報フレームのプリアンブルフィールドには、直交行列を用いて生成したプリアンブル(ビットパターン)が格納されている。プリアンブルフィールドは、一例として、MACフレームの先頭側に配置される物理ヘッダ(PHYヘッダ)内に配置される。例えば行列(2)の1行目を用いる場合は、無線端末1のプリアンブルは[P、−P、P、P]であり、これは空間多重数4用の行列(2)の1行目の[1、−1、1、1]に対応する。同様に、無線端末2のプリアンブルは[P、P、−P、P]であり、これは行列(2)の2行目の[1、1、−1、1]に対応する。同様に、無線端末3のプリアンブルは[P、P、P、−P]であり、これは行列(2)の3行目の[1、1、1、−1]に対応する。無線端末4のプリアンブルは[−P、P、P、P]であり、これは行列(2)の4行目の[−1、1、1、1]に対応する。図における“t1”、“t2”、“t3”、“t4”は、プリアンブルの各区間のビット列(Pまたは−P)が送信されるタイミングを表している。
図8を用いて、空間多重が2の場合(図5参照)の例に、伝搬路情報フレームのプリアンブルに基づき、無線端末1、2からアクセスポイント11へのアップリンクの伝搬路推定を行う方法を説明する。
図8に示すように、各無線端末1、2のアンテナ1A、2Aから、アクセスポイント11のアンテナ12A、12Bへのアップリンクの伝搬路応答をそれぞれh11、h12、h21、h22と表す。
今、2台の無線端末1、2のそれぞれのアンテナ1A、2Aから、図5に示したタイミングt1でプリアンブルの1番目の区間のビット列“P”、“P”が、第1変調シンボルで送信される。無線端末1のアンテナ1Aから送信された “P”の第1変調シンボル信号は、アクセスポイント11のアンテナ12Aへの伝搬路応答h11と、アンテナ12Bへの伝搬路応答h12の影響を受けて、各アンテナ12A、12Bで受信される。同様に、無線端末2のアンテナ2Aから送信されたビット列“P”の第1変調シンボル信号は、アクセスポイント11のアンテナ12Aへの伝搬路応答h21と、アンテナ12Bへの伝搬路応答h22の影響を受けて、各アンテナ12A、12Bで受信される。したがって、アクセスポイント11のアンテナ12Aの受信信号は、r1= P*h11 + P*h21、ならびにアンテナ12Bの受信信号は、r1’=P*h12 + P*h22と記述できる。
同様に、図5に示したタイミングt2で、2台の無線端末1、2のそれぞれのアンテナ1A、2Aから、プリアンブルの2番目の区間のビット列“−P”、“P”が、それぞれ第2変調シンボルおよび第1変調シンボルで送信される。無線端末1のアンテナ1Aから送信された“−P”の第2変調シンボル信号は、アクセスポイント11のアンテナ12Aへの伝搬路応答h11と、アンテナ12Bへの伝搬路応答h12の影響を受けて、各アンテナ12A、12Bで受信される。同様に、無線端末2のアンテナ2Aから送信された “P”の第1変調シンボル信号は、アクセスポイント11のアンテナ12Aへの伝搬路応答h21と、アンテナ12Bへの伝搬路応答h22の影響を受けて、各アンテナ12A、12Bで受信される。したがって、アンテナ12Aの受信信号は、r2= −P*h11 + P*h21、ならびにアンテナ12Bの受信信号は、r2’=−P*h12 + P*h22と記述できる。
アンテナ12Aの受信信号r1、r2を加算あるいは減算することで、アクセスポイント11は、伝搬路応答h11、h21を求めることができる。例えば、h11に関しては、r1とr2の減算をとると、r1-r2=2P*h11となる。Pは既知信号であり、受信信号r1、r2は、測定可能である。よって、h11が求まる。h21に関しては、r1とr2の加算をとると、r1+r2=2P*h21となる。Pは既知信号であり、受信信号r1、r2は、測定可能である。よって、h21が求まる。
同様に、アンテナ12Bの受信信号r1’、r2’についても、それぞれの加算あるいは減算をとることで、アクセスポイント11は、伝搬路応答h12、h22を求めることができる。
以上のようにして求めた伝搬路応答h11、h12、h21、h22に基づき、アクセスポイント11は、以下の(3)で示す伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を得ることができる。
この伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を用いることで、無線端末1のアンテナ1Aおよび無線端末2のアンテナ2Aから送信されるデータストリームを分離できる。すなわち、アクセスポイント11は、無線端末1、2から受信した伝搬路情報フレームにおいてプリアンブル部より後に配置されるデータ部を、無線端末1、2間で空間的に正しく分離できる。
空間多重数が2以外の場合でも、空間多重数に対応する直交行列を用いて、互いに直交するプリアンブルを各無線端末に割り当てることにより、アクセスポイント11側で、アップリンクの伝搬路応答行列を正しく推定できる。例えば、図6に示したように、空間多重数が4の場合は、(2)の直交行列を用いて、各無線端末でそれぞれ該当する行(または列)に基づくパターンでプリアンブルを構成することで、アクセスポイント11は、アップリンクの伝搬路応答行列を正しく推定できる。アクセスポイント11は、推定したアップリンクの伝搬路応答行列を用いることで、各無線端末からアップリンクの空間多重で送信された伝搬路情報フレームにおけるデータ部を互いに正しく分離できる。
ここで、正しく伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を推定するためには、各無線端末が直交するプリアンブルを確実に使用する必要がある。仮に、2台以上の無線端末が直交行列の中から同一の行(または列)に基づきプリアンブルを使用すると、アクセスポイントで受信するプリアンブルのパターンは直交しなくなり、正しい伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を取得できない。マルチユーザMIMOではない通常のMIMO送信の場合、複数のアンテナを備える1台の無線端末で、複数のデータストリームの送信を行うため、MIMO送信を行う無線端末は、自らの判断により、送信する各データストリームに対し、それぞれ異なるパターンを適用できる。しかしながら、アップリンクマルチユーザMIMOの場合には、データストリームの送信を行う無線端末が異なるため、他の無線端末が直交行列のうちどの行(または列)に基づくパターンを使用するか把握できない。
そこで、本実施形態では、アクセスポイント11が、各無線端末が使用するプリアンブルが互いに異なるように決定し、各無線端末が用いるべきプリアンブルに関する情報を通知フレーム51の各端末情報フィールドで通知する。これにより、各無線端末がそれぞれ異なるプリアンブルを使用することを確保できる。各無線端末は、通知フレーム51でそれぞれ自装置に対して指定されたプリアンブルを使用する。これにより、アクセスポイント11で各無線端末から受信された伝搬路情報フレームのプリアンブルは互いに直交する。このため、アクセスポイント11は、これらのプリアンブルを利用して、アップリンクの伝搬路応答行列を正しく推定できる。アクセスポイント11は、当該アップリンクの伝搬路応答行列を利用して、各伝搬路情報フレームのデータ部を空間的に正しく分離し、各データ部から各無線端末により推定された伝搬路情報を取得できる。
以下、アクセスポイント11が通知フレーム51を用いて、各無線端末にそれぞれ使用するプリアンブルを通知する方法について、具体的に説明する。
アクセスポイント11は、各無線端末が使用するプリアンブルの指定情報を、通知フレーム51の各端末情報フィールドに設定する。この結果、通知フレーム51の各端末情報フィールドには、各無線端末の識別情報と、各無線端末が使用するプリアンブルの指定情報が含まれる。
プリアンブルの指定情報の例として、直交行列の行番号(または列番号)を用いてもよい。例えば、無線端末1が使用する行番号(または列番号)を、端末情報フィールド1に格納する。無線端末1は、端末情報フィールド1に格納された番号の行(または列)に基づき、使用するプリアンブルを特定する。直交行列が行列(1)のときに、行番号1が指定された場合は、[P、−P]を、使用するプリアンブルとして決定する。
このように行番号(または列番号)を明示的に通知する方法の他に、暗示的な通知方法も可能である。暗示的な通知として、例えば端末情報フィールドのフィールド番号によって、行番号(または列番号)を間接的に通知する方法がある。例えば、端末情報フィールド1で指定された無線端末(すなわち端末情報フィールド1に自装置の識別情報が設定された無線端末)は、直交行列の1行目、端末情報フィールド2で指定された無線端末は、直交行列の2行目、・・・、端末情報フィールドnで指定された無線端末は、直交行列のn行目というようにする。
ここで、行番号を明示または間接に通知された各無線端末は、自装置が使用するプリアンブルを特定するため、直交行列を参照する。このため、各無線端末は、参照する直交行列を取得する必要がある。取得方法は、通知フレーム51の共通情報フィールドにアクセスポイント11が直交行列を格納し、共通情報フィールドから読み出すことで、直交行列を取得してもよい。あるいは、適用する無線通信規格で予め定められた直交行列を無線端末のメモリ装置などに事前に格納しておいてもよい。あるいは、アクセスポイント11が無線端末と無線リンクを確立する際に、直交行列を通知してもよい。あるいは、その他の方法で通知してもよい。
無線端末は同じ行番号を通知された場合であっても、空間多重数(送信ストリーム数)に応じて、使用するプリアンブルは異なる。例えば空間多重数2の場合は、行列(1)が用いられるため、行番号1が指定された場合は、プリアンブルは[P、−P]である。同様に、空間多重数4の場合は、行列(2)が用いられるため、行番号1が指定された場合は、プリアンブルは [P、−P、P、 P]である。このため、無線端末側で、どの直交行列を用いるかを特定できる仕組みが必要である。なお、空間多重数が固定の場合は、固定の直交行列を用いればよく、このような問題は生じない。
そのような仕組みの一例として、共通情報フィールドで、使用する直交行列のデータを逐次通知する方法が可能である。この場合は、当該通知された直交行列を用いればよい。
別の方法として、アクセスポイント11が、通知フレーム51の共通情報フィールドにて、伝搬路情報フレームのアップリンクマルチユーザMIMO送信における空間多重数(総送信ストリーム数)を通知してもよい。端末情報フィールドではなく、共通情報フィールドを使用するのは、総送信ストリーム数は、無線端末毎の固有の情報ではなく、各無線端末に共通の情報であるためである。図2の例では、総送信ストリーム数は4であるため、共通情報フィールドに総送信ストリーム数4の指定情報を含める。各無線端末は、通知フレーム51の受信時に、当該共通情報フィールドを読むことにより、総ストリーム数4を把握する。各無線端末は、種々のストリーム数に応じた直交行列を管理しており、総ストリーム数4に対応する直交行列(上記(2)の行列)を特定する。
上記のように総ストリーム数を明示的に通知する以外に、暗示的な通知方法も可能である。これは、伝搬路推定対象となる無線端末の総数、すなわち端末情報フィールド数の個数に基づき、総ストリーム数を間接的に特定する方法である。図2に示したように、アップリンクマルチユーザMIMO送信を行う各無線端末からの送信が、それぞれ1ストリームに限定される場合は、ユーザ多重数が総送信ストリーム数に一致する。従って、通知フレーム51の端末情報フィールドの数が、総送信ストリーム数に一致する。よって、各無線端末は、通知フレーム51の受信時に、端末情報フィールドの数を計算することにより、使用する直交行列を特定できる。
なお通知フレーム51や伝搬路情報フレーム等には、図3、図5または図6で示したフィールド以外に、Signalフィールドや、同期をとるための同期フィールドなど、他の種類のフィールドが含まれてもよい。Signalフィールドには、例えばフレーム全体長や適用変調方式など、フレーム構成情報が含まれ得る。Signalフィールドや同期フィールドはMACフレームの先頭側に配置される物理ヘッダ(PHYヘッダ)に含まれる。前述したように、プリアンブルフィールドも、この物理ヘッダ内に配置されてもよい。
Signalフィールドまたは同期フィールドなどの他のフィールドと、プリアンブルフィールドとを含む物理ヘッダ(PHYヘッダ)を、伝搬路情報フレームのMACフレームの先頭側に配置したフレームフォーマットの例を図7に示す。なお、Signalフィールドまたは同期フィールドなどの他のフィールドは、無線端末間で混信しないように、ある無線端末のみが、当該他のフィールドの情報を送信してもよい。または、各無線端末が、当該他のフィールドを順次、時間的に重ならないように、送信してもよい。または、全ての無線端末が、これらのフィールドにそれぞれ同じ情報を設定して、同時に送信してもよい。また、当該他のフィールドが、プリアンブルフィールドの直後に配置されてもよい。この場合、アクセスポイント11がプリアンブルフィールドによって推定した伝搬路応答行列(アップリンクの伝搬路応答行列)を用いて、当該他のフィールドを無線端末間で空間的に分離できる。
アクセスポイント11は、必要に応じて、当該他のフィールドの送信方法または配置に関しても、通知フレーム51の端末情報フィールドにより、各無線端末に通知してもよい。この場合、各無線端末は通知フレーム51で指定された方法で、当該他のフィールドを配置してフレームを生成する。
図9は、アクセスポイント11の無線通信装置の機能ブロック図である。上述したように、アクセスポイント11は無線端末側のネットワーク(第1ネットワーク)と、これとは別のネットワーク(第2ネットワーク)との複数のネットワークに接続されてもよい。図9では、第1ネットワーク側の無線通信装置の構成を示している。
無線通信装置は、制御部101と、送信部102と、受信部103と、アンテナ12A、12B、12C、12Dと、バッファ104とを備えている。制御部101は、無線端末との通信を制御する通信制御装置に対応し、送信部102と受信部103は、一例として、無線通信部を形成する。制御部101の処理、および送信部102と受信部103のデジタル領域の処理の全部または一部、あるいは通信制御装置の処理を、CPU等のプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、これらのソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。アクセスポイントは、制御部101、送信部102および受信部103の全部または一部の処理、あるいは通信制御装置の処理を行うプロセッサを備えてもよい。
バッファ104は、上位層と制御部101との間で、データフレームを受け渡しするための記憶部である。バッファ104はDRAM等の揮発性メモリでもよいし、NAND、MRAM等の不揮発メモリでもよい。上位層は、第2ネットワークから受信したフレームを第1のネットワークへの中継のためバッファ104に格納したり、第1ネットワークから受信したフレームを制御部101から受け取ったりする。上位層は、TCP/IPやUDP/IPなど、MAC層の上位の通信処理を行ってもよい。また、上位層は、データを処理するアプリケーション層の処理を行ってもよい。上位層の動作は、CPU等のプロセッサによるソフトウェア(プログラム)の処理によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。
制御部101は、主としてMAC層の処理、物理層の処理の一部(例えばMIMO関連の処理等)を行う。制御部101は、送信部102および受信部103を介して、フレームを送受信することで、第1ネットワークにおける各無線端末との通信の制御を行う。また制御部101は定期的にビーコンフレームを送信するよう制御してもよい。制御部101は、クロック生成部を含んでもよい。また制御部101は外部からクロックが入力されるように構成されてもよい。クロックによって制御部101は内部時間を管理してもよい。クロック生成部で作ったクロックを外部に出力してもよい。
制御部101は、無線端末からのアソシエーション要求を受けて、必要に応じて認証等のプロセスを経て、当該無線端末と無線リンクを確立する。制御部101は、バッファ104を定期的に確認する。または、制御部101は、バッファ104等の外部からのトリガによりバッファ104を確認する。制御部101は、バッファ104に1つまたは複数の無線端末へ送信するフレームがあることを確認したら、これらの無線端末を指定する通知情報を含む通知フレーム(図2の51参照)を生成する。また、制御部101は、必要に応じて、各無線端末に伝搬路情報フレームの送信方法を指定するための情報(共通情報、個別情報、またはこれらの両方)を、通知フレームの共通情報フィールド、端末情報フィールドまたはこれらの両方に設定する。
制御部101は、生成した通知フレームを、使用する通信方式に従って、送信部102から送信する。一例としてキャリアセンスを行い、送信権を獲得できたら、制御部101は、生成した通知フレーム51を送信部102に出力する。送信部102は、各アンテナに対応する送信系統を含み、特定の送信系統を用いて、入力された通知フレーム51に変調処理や物理ヘッダの付加など、所望の物理層の処理を行う。また、物理層の処理後のフレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換を行う。送信部102は、周波数変換された信号を増幅して、任意の1つのアンテナから空間に電波として放射する。なお、通知フレーム51を複数の送信系統に入力して、複数のアンテナから送信する構成も可能である。
また、制御部101は、通知フレーム51の送信から一定時間後に、伝搬路推定用フレーム52を送信するよう制御する。制御部101は互いに直交する信号で伝搬路推定用フレーム52が各アンテナから送信されるように、各アンテナに対応する送信系統毎に伝搬路推定用フレームを生成する。送信部102は、送信系統ごとに、伝搬路推定用フレームを変調する。送信部102は、各送信系統を用いてそれぞれ、変調された信号に対して物理ヘッダの付加等の物理層の処理を行い、物理層の処理後の各フレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換(アップコンバート)を行う。さらに、送信部102は、送信系統ごとに、周波数変換された信号を増幅して、それぞれ対応するアンテナから空間に電波として放射する。
各アンテナで受信された信号は、受信部103において、それぞれアンテナに対応する受信系統ごとに処理される。例えば、上述した伝搬路推定用フレーム52の送信後に、通知フレーム51で指定した複数の無線端末から返信される伝搬路情報フレームの信号が各アンテナで同時に受信される(アップリンクマルチユーザMIMO受信)。受信部103における各受信系統へ、各アンテナの受信信号が入力される。各受信信号は、それぞれ受信系統において増幅され、周波数変換(ダウンコンバート)され、フィルタリング処理で所望帯域成分が抽出される。各抽出された信号は、さらにAD変換によりデジタル信号に変換されて、復調等の物理層の処理を経た後、それぞれ制御部101に入力される。
制御部101は、各受信系統から入力された信号のプリアンブルに基づき、伝搬路推定を行うことで、アップリンクの伝搬路応答行列を取得する。制御部101は、推定により得たアップリンクの伝搬路応答行列に基づき、プリアンブル以降のデータ部を無線端末ごと(伝搬路情報フレームごと)に分離し、各データ部からダウンリンクの伝搬路情報を読み出す。伝搬路情報は、例えば伝搬路状態情報(伝搬路応答行列)またはV行列の各成分などがあり得る。
制御部101は、各無線端末宛のフレームをバッファ104から読み出し、MAC層の処理を行って送信部102に送る。また制御部101は、各無線端末から取得した伝搬路情報に基づき、各送信系統の送信ウェイトを算出し、送信部102の各送信系統に送る。送信部102は、各送信系統に対する送信ウェイトの情報を取得する。送信部102では、送信系統ごとに各フレームを変調し、変調された信号に送信系統に応じた送信ウェイトを乗じる。各送信系統では、各乗算信号に対して物理ヘッダの付加等の物理層の処理を行い、物理層の処理後の各フレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換(アップコンバート)を行う。さらに、各送信系統では、周波数変換された信号を増幅して、それぞれ対応するアンテナから空間に電波として放射する。これにより、各無線端末へのダウンリンクマルチユーザMIMO送信が行われる。
制御部101は、各無線端末に送信する情報、または各無線端末から受信した情報を格納するための記憶装置にアクセスして情報を読み出してもよい。記憶装置は、内部メモリでも、外部メモリでもよく、揮発性メモリでも不揮発メモリでもよい。また、記憶装置は、メモリ以外に、SSD、ハードディスク等でもよい。
上述した制御部101と送信部102の処理の切り分けは一例であり、別の形態も可能である。例えばデジタル領域の処理までは制御部101で行い、DA変換以降の処理を送信部102で行うようにしてもよい。制御部101と受信部103の処理の切り分けについても同様に、AD変換までの処理を受信部103で行い、その後の物理層の処理を含むデジタル領域の処理を制御部101で行うようにしてもよい。ここで述べた以外の切り分けを行ってもよい。
図10は、無線端末1に搭載される無線通信装置の機能ブロック図である。無線端末2〜4に搭載される無線通信装置も無線端末1と同様の構成を有するため、以下では無線端末1の説明によって、無線端末2〜4の説明に代える。
無線通信装置は、制御部201と、送信部202と、受信部203と、アンテナ1Aと、バッファ204とを備えている。制御部201は、アクセスポイント11との通信を制御する通信制御装置に対応し、送信部202と受信部203は、一例として、無線通信部を形成する。制御部201の処理、および送信部202と受信部203のデジタル領域の処理の全部または一部、あるいは通信制御装置の処理を、CPU等のプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、これらのソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。無線端末は、制御部201、送信部202および受信部203の全部または一部の処理、あるいは通信制御装置の処理を行うプロセッサを備えてもよい。
バッファ204は、上位層と制御部201との間で、データフレームを受け渡しするための記憶部である。バッファ204はDRAM等の揮発性メモリでもよいし、NAND、MRAM等の不揮発メモリでもよい。上位層は、他の無線端末、アクセスポイント11、またはサーバ等の他のネットワーク上の装置に送信するフレームを生成して、バッファ204に格納したり、第1ネットワークで受信したフレームを、バッファ204を介して受け取ったりする。上位層は、TCP/IPやUDP/IPなど、MAC層の上位の通信処理を行ってもよい。また、上位層は、データを処理するアプリケーション層の処理を行ってもよい。上位層の処理は、CPU等のプロセッサで動作するソフトウェア(プログラム)によって行われてもよいし、ハードウェアによって行われてもよいし、これらのソフトウェアとハードウェアの両方によって行われてもよい。
制御部201は、主としてMAC層の処理を行う。制御部201は、送信部202および受信部203を介して、アクセスポイント11とフレームを送受信することで、アクセスポイント11との通信を制御する。制御部201は、例えばアクセスポイント11から定期的に送信されるビーコンフレームを、アンテナ1Aおよび受信部203を介して受信する。制御部201は、クロック生成部を含んでもよい。また制御部201は外部からクロックが入力されるように構成されてもよい。クロックによって制御部201は内部時間を管理してもよい。クロック生成部で作ったクロックを外部に出力してもよい。
制御部201は、一例としてビーコンフレームを受信してアクセスポイント11にアソシエーション要求を行い、必要に応じて認証等のプロセスを経て、当該アクセスポイント11と無線リンクを確立する。制御部201は、バッファ204を定期的に確認する。または、制御部201は、バッファ204等の外部からのトリガによりバッファ204を確認する。制御部201は、アクセスポイント11へ送信するフレームがあることを確認したら、当該フレームを読み出して、使用する通信方式に従って、送信部202およびアンテナ1Aを介して送信する。送信部202は、制御部201から入力されたフレームに変調処理や物理ヘッダの付加など、所望の物理層の処理を行う。また、物理層の処理後のフレームに対して、DA変換や、所望帯域の信号成分を抽出するフィルタ処理、周波数変換(アップコンバート)を行う。送信部202は、周波数変換された信号を増幅して、アンテナから空間に電波として放射する。
アンテナ1Aで受信された信号は、受信部203において処理される。例えば、アクセスポイント11から通知フレームの信号が受信され、受信部203において処理される。受信信号は、受信部203において増幅され、周波数変換(ダウンコンバート)され、ファイルタリング処理で所望帯域成分が抽出される。各抽出された信号は、さらにAD変換によりデジタル信号に変換されて、復調等の物理層の処理を経た後、制御部201に入力される。
制御部201は、入力された信号に基づき通知フレーム51を検出した場合、通知フレーム51において自装置が伝搬路推定の対象として指定されているかを、自装置の識別情報がいずれかの端末情報フィールドに格納されているかで確認する。共通情報フィールドに自装置の識別情報が格納されているかを確認する構成も可能である。制御部201は、自装置が指定されていることを確認した場合は、必要に応じて、通知フレーム51に格納されている、伝搬路情報フレームの送信方法に関する情報(共通情報、個別情報)が、共通情報フィールド、端末情報フィールドまたはこれらの両方のフィールドに格納されているかを確認する。格納されている場合は、該当するフィールドから送信方法に関する情報を読み出す。読み出した情報に、伝搬路情報フレームの送信の際に使用するプリアンブルを特定するための情報が含まれる場合は、当該情報に基づき、使用するプリアンブルを特定する。なお、使用するプリアンブルが事前に与えられている場合は、そのプリアンブルを用いるようにしてもよい。制御部201は、通知フレームで自装置が指定されていた場合は、アクセスポイント11から送信される伝搬路推定用フレームを待機する。
制御部201は、受信部203から入力された信号に基づき、伝搬路推定用のフレーム52を検出した場合は、当該フレーム52に基づき伝搬路推定を行うことで、ダウンリンクの伝搬路情報を取得する。伝搬路情報の例として、伝搬路状態情報(伝搬路応答行列)、または伝搬路応答行列を特異値分解して得られるV行列の各成分等がある。制御部201は、上記したプリアンブルと、取得した伝搬路情報等を含む伝搬路情報フレームを生成する。制御部201は、生成した伝搬路情報フレームを、伝搬路推定用フレームの受信から一定時間後にアクセスポイント11に送信するように制御する。伝搬路情報フレームは送信部202およびアンテナ1Aを介して送信される。送信部202の動作は上述した通りである。
制御部201は、伝搬路情報フレームの送信後、アクセスポイント11からダウンリンクマルチユーザMIMOで送信されるフレームを待機する。制御部201は、受信部203から入力された信号に基づき自装置宛のフレームを検出した場合は、そのフレームがユーザデータフレームであれば、バッファ204に格納し、制御フレームまたは管理フレーム等であれば、当該フレームの内容に応じた必要な処理を行う。なお、データフレーム、制御フレームおよび管理フレームについては、後述する別の実施形態でこれらの詳細を説明する。
制御部201は、アクセスポイント11に送信する情報、またはアクセスポイント11から受信した情報を格納するための記憶装置にアクセスして情報を読み出してもよい。記憶装置は、内部メモリでも、外部メモリでもよく、揮発性メモリでも不揮発メモリでもよい。また、記憶装置は、メモリ以外に、SSD、ハードディスク等でもよい。
上述した制御部201と送信部202の処理の切り分けは一例であり、別の形態も可能である。例えばデジタル領域の処理までは制御部201で行い、DA変換以降の処理を送信部202で行うようにしてもよい。制御部201と受信部203の処理の切り分けについても同様に、AD変換までの処理を受信部203で行い、その後の物理層の処理を含むデジタル領域の処理を制御部201で行うようにしてもよい。ここで述べた以外の切り分けを行ってもよい。
上述した実施形態では、アクセスポイント11が各無線端末に使用するプリアンブルを指定する場合を示したが、変形例として、各無線端末が固定のプリアンブルを使用する形態も可能である。この場合、アクセスポイント11は、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信を行うとする際は、直交するプリアンブルを有する無線端末の組を常に特定するようにすればよい。また、空間多重数の変動を許容する場合は、各無線端末は空間多重数に応じた固定のプリアンブルを使用するようにし、アクセスポイント11は空間多重数を特定する情報を各無線端末に通知すればよい。
図11は、第1の実施形態に係るアクセスポイントの動作のフローチャートである。アクセスポイントの通信制御装置は、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信の対象となる複数の無線端末(または複数の通信装置)を選択し(S101)、選択した無線端末を指定する通知情報を含む通知フレーム(第1フレーム)を生成する(S102)。アクセスポイントの通信制御装置は、送信用のアクセス権を獲得した後、通知フレームを無線通信部を介して送信する(S103)。通知フレームは、複数の無線端末における伝搬路情報フレームの送信方法に関する通知情報を含んでもよい。例えば通知情報は、複数の無線装置が伝搬路情報フレームに対して配置するプリアンブルを指定するための情報を含む。
アクセスポイントの通信制御装置は、通知フレームを送信してから予め定められた第1時間(時間T1)の経過後、伝搬路推定用フレーム(第2フレーム)を、無線通信部を介して送信する(S104)。
アクセスポイントの通信制御装置は、伝搬路推定用フレームの送信から予め定められた第2時間(時間T2)の経過後、複数の無線端末のそれぞれから空間多重により送信される、伝搬路推定用フレームに基づき推定された伝搬路情報を含む伝搬路情報フレーム(第3フレーム)を、無線通信部を介して受信する(S105)。各無線端末から受信する伝搬路情報フレームのプリアンブルは互いに直交している。
アクセスポイントの通信制御装置は、伝搬路情報フレームに含まれる伝搬路情報を利用することにより、各無線端末に対して、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信用のビームパターンを算出する(S106)。アクセスポイントの通信制御装置は、伝搬路情報フレームの受信から予め定めた時間(時間T3)の経過後に、算出したビームパターンに従って、各無線端末に、それぞれデータフレームを送信する(S107)。
図12は、第1の実施形態に係る無線端末の動作のフローチャートである。無線端末の通信制御装置は、アクセスポイントから送信される、自端末を含む複数の無線端末を指定する通知情報を含む通知フレーム(第1フレーム)を、無線通信部を介して受信する(S201)。通知情報は、伝搬路情報フレームの送信方法に関する情報を含んでもよい。
無線端末の通信制御装置は、通知フレームを受信してから予め定められた第1時間(時間T1)の経過後、アクセスポイントから送信される伝搬路推定用フレーム(第2フレーム)を、無線通信部を介して受信する(S202)。
無線端末の通信制御装置は、伝搬路推定用フレームに基づき伝搬路推定を行って、伝搬路情報を取得する(S203)。そして、伝搬路情報を含む伝搬路情報フレーム(第3フレーム)を生成し、当該伝搬路情報フレームを、伝搬路推定用フレームを受信してから予め定められた第2時間(時間T2)の経過後、無線通信部を介して、アクセスポイントに送信する(S204)。各無線端末が送信する伝搬路情報フレームのプリアンブルは互いに直交するように、予め使用するプリアンブルを指定されている。例えば通知フレームによって、使用するプリアンブルを指定されている。また、各無線端末が送信する伝搬路情報フレームはそれぞれ同一の周波数帯域で送信され、各無線端末が伝搬路推定用フレームを受信してから第2時間の経過後に伝搬路情報フレームを送信することにより、各無線端末からアクセスポイントへ伝搬路情報フレームが空間多重で(同一の周波数帯域かつ同時に)送信されることとなる。
無線端末の通信制御装置は、伝搬路情報フレームの送信後、予め定めた時間(T3)の経過後に、アクセスポイントから自端末にビーム送信されるデータフレームを受信する(S205)。
以上、第1の実施形態によれば、各無線端末に対し同時に伝搬路推定を行わせ、各無線端末から同時に伝搬路情報フレームをフィードバックさせる。よって、各無線端末が伝搬路推定を行ってから、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信が開始するまでの時間を短くできるため、ダウンリンクマルチユーザMIMO送信時の特性劣化を防止できる。また、各無線端末からの伝搬路情報フレームのフィードバックが同時であるため、高効率なフィードバックが実現され、よってシステムスループットの向上を図ることが可能となる。伝搬路推定を行う無線端末が多ければ多いほど、これらの効果は大きく発揮される。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、アップリンクマルチユーザMIMO送信を行う各無線端末からの送信がそれぞれ1ストリームであった。同様に、アクセスポイントから各無線端末へのダウンリンクマルチユーザMIMO送信もそれぞれ1ストリームであった。本実施形態では、2以上のストリームの送信または受信が可能な無線端末が存在する場合、つまり、MIMO送信または受信が可能な無線端末が存在する場合の実施形態を示す。以下、本実施形態について詳細に説明する。
図14(A)および図14(B)に、2以上のストリームの送信および受信が可能な無線端末、すなわちMIMO送信および受信が可能な無線端末が存在する場合のシステムの例を示す。
図14(A)の例では、無線端末1が3つのアンテナ、無線端末2が1つのアンテナを備える。無線端末1が3データストリームをMIMO送信し、無線端末2が1データストリームを送信する。図14(B)では、無線端末1と無線端末2が、それぞれ2つのアンテナを備え、それぞれ2データストリームをMIMO送信する。図14(A)および図14(B)のいずれの場合も、全体として総送信ストリーム数は4であり、4ストリームのアップリンクマルチユーザMIMO送信、または4ストリームのダウンリンクマルチユーザMIMO送信が可能である。なお、図2の例では、ユーザ多重数が4であるのに対して、図14(A)および図14(B)の例ではユーザ多重数は2である。なお、MIMO対応可能な無線端末に搭載の無線通信装置のブロック構成は、図9に示したものと同様となる。その構成および動作はこれまでのアクセスポイントのMIMO動作の説明から自明であるため、説明を省略する。
このように、MIMO送信を行うことが可能な無線端末が存在する場合、アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム51を用いて、総ストリーム数を(明示的または暗示的に)指定するのに加えて、各無線端末に対してそれぞれ送信許可するストリーム数も指定する。また、無線端末に送信許可するストリーム数だけ、直交行列の行番号(または列番号)を端末情報フィールドで指定することも可能である。なお、アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末が対応可能なストリーム数を、例えばアソシエーション時に各無線端末から取得してもよい。
アクセスポイント11の制御部101は、総送信ストリーム数の指定を、共通情報フィールドで行ってもよい。または、無線端末が各端末情報フィールドに格納された行番号(または列番号)の総数を計算することで、無線端末は総送信ストリーム数を把握できることから、総送信ストリーム数の明示的な通知を省略してもよい。
また、各無線端末に許可するストリーム数の指定は、通知フレーム51の各端末情報フィールドでそれぞれ明示的に通知してもよい。または、端末情報フィールドで通知する直交行列の行番号(または列番号)の個数が、許可する送信ストリーム数に一致するため、無線端末に直交行列の行番号(または列番号)の個数をもって、送信許可するストリーム数を暗示的に通知してもよい。すなわち、この場合、ストリーム数の値を明示的に通知する必要はない。
以下、ストリーム数を暗示的に通知する例を示す。例えば、図14(A)に示したように、無線端末1が3ストリーム、無線端末2が1ストリームの、総送信ストリーム数4のアップリンクマルチユーザMIMO送信の場合を考える。
アクセスポイント11の制御部101は、無線端末1に対応する端末情報フィールドに、直交行列の行番号1、2、3を設定する。これにより、無線端末1は自装置が3ストリームの送信を許可されていることを把握する。また、無線端末1は、総送信ストリーム数4に対応する直交行列の行番号1、2、3の各行[1、 -1、 1、 1]、[1、 1、 -1、 1]、[1、 1、 1、 -1]に基づくプリアンブルを各ストリームで用いることを把握する。上述したように、アクセスポイント11の制御部101は、総送信ストリーム数を共通情報フィールドで明示的に通知してもよいし、通知を省略してもよい。
ここで、送信許可するストリーム数を各端末情報フィールドにて明示的に通知する場合には、直交行列の行番号(または列番号)の通知を省略する構成も可能である。例えば、端末情報フィールド1に対応する無線端末の送信許可ストリーム数が3であり、端末情報フィールド2に対応する無線端末の送信許可ストリーム数が1であるとする。この場合には、端末情報フィールド1に対応する無線端末は、直交行列の1行目から3行目、端末情報フィールド2に対応する無線端末は4行目を用いるようにする。各無線端末は、自装置よりフィールド番号が小さい端末情報フィールドに格納されている送信許可ストリーム数を合計し、合計値に1を加算することで、当該自装置が使用する行番号(または列番号)の開始値を算出できる。つまり、端末情報フィールドの小さい無線端末から順番に、直交行列の行また列を番号の昇順に割り当てる仕組みを採用することで、各無線端末に使用する行番号(または列番号)の通知を省略できる。
ここで、各無線端末に許可する送信ストリーム数が共通の値に限られる場合には、通知フレーム51の共通情報フィールドにて共通の送信ストリーム数を指定するようにし、各端末情報フィールドでの個別の送信許可ストリーム数の通知は行わなくてもよい。この場合も、アップリンクマルチユーザMIMOの総送信ストリーム数は、共通情報フィールドで明示的に通知してもよい。あるいは、共通情報フィールドでの明示的な通知を行わず、共通の送信ストリーム数と、各端末情報フィールドの個数とから、各無線端末が総送信ストリーム数を把握するようにしてもよい。
以上、本実施形態によれば、各無線端末に許可する送信ストリーム数を直接または間接に指定することにより、各無線端末がそれぞれMIMO送信も併用可能となる。もし仮に、各無線端末に許可する送信ストリーム数の指定を行わないとすると、アップリンクマルチユーザMIMOで送信される総送信ストリームの合計が、アクセスポイントで分離できる能力以上のストリーム数で送られることになり得る。また、各無線端末が、他の無線端末と重複しないプリアンブルを選択できなくなる可能性もある。本実施形態では、各無線端末に許可する送信ストリーム数を指定することより、これらの問題を解消することが可能となる。
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、各無線端末から互いに直交するプリアンブルを送信することで、アクセスポイントでアップリンクの伝搬路応答行列を推定できるようにした。第3の実施形態では、各無線端末が直交する周波数キャリアを用いてプリアンブルを送信することで、アップリンクの伝搬路応答行列を推定できるようにする。本実施形態では、マルチキャリア変調方式、特にOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いる場合を想定する。なお、前述した第1または第2の実施形態では、マルチキャリア変調方式およびシングルキャリア変調方式のいずれも対応可能である。以下、本実施形態について詳細に説明する。
図15に、第3の実施形態に係る伝搬路情報フレームの概略構成例を示す。無線端末1〜4が送信する伝搬路情報フレームの概要構成例が示される。第1の実施形態と同様、伝搬路情報フレームにはプリアンブル部とデータ部が含まれるが、各プリアンブル部の構成が第1の実施形態と異なっている。
各伝搬路情報フレームのプリアンブル部は複数の区間からなり、各区間にはキャリアパターンP1、P2、P3、P4がそれぞれ異なる順番で割り当てられている。1つの区間は1つのOFDMシンボル期間に対応する。
キャリアパターンP1は、OFDM変調のサブキャリアf1、f5、f9を用いてプリアンブルデータを送信することを表す。キャリアパターンP2は、OFDM変調のサブキャリアf2、f6、f10を用いてプリアンブルデータを送信することを表す。キャリアパターンP3は、OFDM変調のサブキャリアf3、f7、f11を用いてプリアンブルデータを送信することを表す。キャリアパターンP4は、OFDM変調のサブキャリアf4、f8、f12を用いてプリアンブルデータを送信することを表す。
各サブキャリアで送信するプリアンブルデータは、アクセスポイント11で既知である限り任意でよい。すべてのサブキャリアで同一のデータでもよいし、サブキャリアごとに異なるデータでも構わない。
各区間には、それぞれ左から順にタイミングt1、t2、t3、t4が設定されている。タイミングt1、t2、t3、t4は、プリアンブル部の該当する区間での送信タイミングを表している。各無線端末で、同じタイミングの区間では、キャリアパターンは、互いに異なっている。つまり、タイミングt1、t2、t3、t4の各々で、各無線端末がプリアンブルの送信に使用するサブキャリアは、それぞれ周波数的に直交している。つまり、各無線端末のサブキャリアは互いに干渉しない。OFDMの場合、サブキャリアの周波数はお互いのサブキャリアが直交するように選ばれることから、同じサブキャリアを使用しない限り、各無線端末のサブキャリアは互いに干渉しない。
例えば、タイミングt1では、無線端末1のサブキャリアはf1、f5、f9、無線端末2のサブキャリアはf2、f6、f10、無線端末3のサブキャリアはf3、f7、f11、無線端末4のサブキャリアはf4、f8、f12である。無線端末間でサブキャリアは重複しないから、無線端末間でサブキャリアが直交する。他のタイミングt2〜t4についても同様に、無線端末間でサブキャリアが直交する。無線端末1〜4には、それぞれP1〜P4の全てが異なる順序で割り当てられるから、無線端末1〜4のいずれも、f1〜f12のすべてのサブキャリアで互いに干渉することはない。このように無線端末間で同じ区間(タイミング)では異なるサブキャリアを用いるようにしつつ、区間に応じて使用するサブキャリアを切り換えることをトーンインターリーブと呼ぶ場合もある。
具体的な動作例として、タイミングt1では、無線端末1の制御部201は、サブキャリアf1、f5、f9にはプリアンブルデータを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。同様に、無線端末2の制御部201は、サブキャリアf2、f6、f10にはプリアンブルデータを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。無線端末3の制御部201は、サブキャリアf3、f7、f11にはプリアンブルデータを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。無線端末4の制御部201は、サブキャリアf4、f8、f12にはプリアンブルデータを割り当て、他のサブキャリアには例えばヌルデータを割り当てることでOFDMシンボルを生成し、送信する。
アクセスポイント11では、各無線端末1〜4からのOFDMシンボルを、各アンテナで同時に受信する。アクセスポイント11の受信部103または制御部101は、アンテナ毎に受信信号を復調することで、サブキャリア毎の信号を取得できる。具体的に、タイミングt1に関して、無線端末1についてはサブキャリアf1、f5、f9、無線端末2についてはサブキャリアf2、f6、f10、無線端末3についてはサブキャリアf3、f7、f11、無線端末4についてはサブキャリアf4、f8、f12についての信号を取得できる。他のタイミングt2〜t4についても同様にして、各無線端末で、順次異なるキャリアパターンに基づき、OFDMシンボルを生成し、送信する。これにより、アクセスポイント11の制御部101は、無線端末1〜4について、全ての周波数サブキャリアf1〜f12の信号をそれぞれ取得でき、よってアップリンクの伝搬路応答行列を正しく推定することが可能となる。
このように、各無線端末間で互いに直交するサブキャリアを用いてプリアンブルを送信するためには、使用するキャリアパターンの順序や、キャリア毎に使用するプリアンブルの情報を、各無線端末に通知する必要がある。
通知の方法としては、第1の実施形態と同様に、アクセスポイント11の制御部101が、通知フレーム51の共通情報フィールドまたは端末情報フィールドまたはこれらの両方を利用して、無線端末ごとのキャリアパターンの順序や、サブキャリア毎のプリアンブルの情報を通知することができる。なお、プリアンブルがすべての無線端末、およびすべてのサブキャリアで同じ固定のものである場合は、通知を省略してもよい。
通知の具体例として、キャリアパターンP1〜P4のそれぞれごとに、使用するサブキャリアの番号と、当該サブキャリアに割り当てるプリアンブルデータとの対応を表した情報を共通情報フィールドで通知してもよい。また、無線端末毎の端末情報フィールドで、P1〜P4の順序に関する情報を通知してもよい。
通知の方法は、第1の実施形態と同様の考え方で、種々の形で拡張または変形が可能である。例えば、共通情報フィールドや各端末情報フィールドで明示的に通知する方法以外にも、端末情報フィールドの個数や、総送信ストリームの数などを利用して、暗示的に通知することも可能である。また、本実施形態では、第1の実施形態を拡張する形で説明を行ったが、第2の実施形態についても同様にして拡張して実施可能である。
なお、プリアンブルを送信するサブキャリアとしてf1〜f12を用いたが、これは一例であり、より多数または少数のサブキャリアを用いてプリアンブルを送信してもよい。また、データ部を送信するサブキャリアは、プリアンブルを送信したサブキャリアと同じサブキャリアでもよいし、これらとは別のサブキャリアでもよい。別のサブキャリアを用いる場合は、アクセスポイント11では、プリアンブルを送信したサブキャリアの伝搬路応答から、データ部用のサブキャリアの伝搬路応答を任意の方法で予測して求めればよい。例えばデータ部用のサブキャリアのそれぞれについて、プリアンブルを送信したサブキャリアのうち最も周波数的に近いものと同じ伝搬路応答を採用してもよい。
この他にも、各無線端末が異なるタイミングでプリアンブルパターンを送信することで、すなわち、各無線端末が時間直交でプリアンブルパターンを送信することで、アップリンクの伝搬路応答行列を推定することができる。
図13に、異なるタイミングでプリアンブルパターンを送信する場合の伝搬路情報フレームの概略構成例を示す。キャリアパターン“P-ALL”は、OFDM変調の全てのサブキャリアf1〜f12を用いてプリアンブルパターンを送信することを表す。“NULL”はプリアンブルパターンを送信しないことを表す。プリアンブルパターンは、アクセスポイント11で既知である限り任意でよい。タイミングt1では無線端末1が、t2では無線端末2が、t3では無線端末3が、t4では無線端末4がそれぞれプリアンブルパターンを送信することにより、時間的に直交したプリアンブルパターンの送信が可能になる。このような時間直交の場合には、各無線端末が順次プリアンブルパターンを送信するため、ある時間には、いずれの無線端末のみがプリアンブルパターンを送信していることになる。つまり、各無線端末のプリアンブルパターンの送信タイミングは互いに重複しない。
アクセスポイント11では、タイミングt1では無線端末1、t2では無線端末2、t3では無線端末3、t4では無線端末4からのプリアンブルパターンを受信する。これにより、アクセスポイント11の制御部101は、無線端末1〜4について、全ての周波数サブキャリアf1〜f12の信号を取得でき、アップリンクの伝搬路応答行列を推定することが可能となる。
このように、各無線端末間で異なるタイミングを用いてプリアンブルパターンを送信するためには、各無線端末の送信タイミングや使用するプリアンブルパターンなどの情報(空間分離情報)を、各無線端末に通知する必要がある。
通知の方法としては、第1の実施形態と同様に、アクセスポイント11の制御部101が、通知フレーム51の共通情報フィールドまたは端末情報フィールドまたはこれらの両方を利用して、空間分離情報を通知すればよい。
以上、本実施形態によれば、各無線端末が直交する周波数キャリアを用いてプリアンブルを送信することで、アクセスポイント11は、各無線端末からのプリアンブルを同時に受信しても、アップリンクの伝搬路応答行列を正しく推定できる。また、各無線端末がタイミングをずらしてプリアンブルパターンを送信することで、アクセスポイント11は、アップリンクの伝搬路応答行列を推定することができる。
(第4の実施形態)
本実施形態では、アクセスポイントが、各無線端末からアップリンクマルチユーザMIMOで送信する伝搬路情報フレームの受信タイミングを調整する方法を示す。
第1の実施形態の説明で述べたように、各無線端末は、伝搬路推定用フレーム52の受信から一定時間(図2のT2参照)経過後、伝搬路情報フレームの送信を行う。アクセスポイントと各無線端末の距離が同一の場合は、基本的にはアクセスポイントでは各無線端末から送信された伝搬路情報フレームは同じタイミングにて受信されると考えることができる。
しかしながら、アクセスポイントと各無線端末の距離が異なると、各々の伝搬時間が異なるため、アクセスポイントからの距離が遠い無線端末ほど、アクセスポイントから伝搬路推定用フレーム52を受信するタイミングが遅延する。また、各無線端末が伝搬路推定用フレーム52を受信した後、一定時間経過後に送信する伝搬路情報フレームも、アクセスポイントからの距離が遠い無線端末ほど、アクセスポイントで受信するタイミングに遅延が生じる。
そのため、アクセスポイントと各無線端末間で片方向での最大の遅延時間差をΔtとすると、アクセスポイントで各無線端末から伝搬路情報フレームを受信するタイミングとしては、最大2×Δtの時間差が生じる。2×Δtの時間差が、OFDM等のガードインターバル(サイクリックプレフィクスと呼ばれる場合もある)内に収まっていれば問題ない。なお、サイクリックプレフィクスは、OFDM以外のマルチキャリア変調方式、あるいは、シングルキャリア変調方式でも用いられ得るものであり、本実施形態はOFDMに限定されるものではない。
しかしながら、ガードインターバルを超えた遅延時間差で各無線端末からの伝搬路情報フレームを受信すると、アップリンクマルチユーザMIMO送信の特性劣化につながる。
そこで、第4の実施形態では、アクセスポイントでの伝搬路情報フレームの受信タイミングを調整する。具体的に、各無線端末からの伝搬路情報フレームの送信タイミングを調整する。これにより、アクセスポイントおよび各無線端末間の遅延時間差に起因するアップリンクマルチユーザMIMO送信の特性劣化を防止する。
本実施形態に係るアクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム(図2の51参照)の送信前に、事前に各無線端末と通信して、各無線端末との遅延時間を推定しておく。推定する方法は任意の方法で良く、既存の様々な公知技術を用いることが可能である。例えば、アクセスポイント11から測定用フレームを送信して、各無線端末から当該測定用フレームの受信時刻を格納したフレームを返信する。アクセスポイント11の制御部101は、測定用フレームを送信した時刻と、返信されたフレームに格納されている受信時刻との差から遅延時間を測定する。別の例として、アクセスポイント11から測定用フレームを送信して、各無線端末から応答フレームを受信する。測定用フレームを送信した時刻と応答フレームを受信した時刻の差分から遅延時間を測定する。ここで述べた以外の種々の方法を用いることができる。
第1の実施形態と同様、アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム51の端末情報フィールドにて、伝搬路推定対象となる無線端末の指定を行う。それと共に、第4の実施形態のアクセスポイント11の制御部101は、各端末情報フィールドにて、当該無線端末による伝搬路情報フレームの送信タイミングを調整するための時間調整量を指定する。各無線端末の制御部201は、アクセスポイント11から通知フレーム51を受信して、伝搬路推定対象に指定されたことを把握すると、端末情報フィールドで通知された時間調整量に従って、伝搬路情報フレームの送信タイミングを、基準タイミングに対して、早める、あるいは遅くする。基準タイミングは、例えば伝搬路推定用フレームを受信してから一定時間(図2のT2参照)後のタイミングである。各無線端末は、調整後の送信タイミングで、伝搬路情報フレームを送信する。
ここで、アクセスポイント11が設定する各無線端末の時間調整量は、各無線端末から伝搬路情報フレームを受信するタイミングが、一定の時間遅延の範囲内に収まるように決定する。一定の時間遅延の範囲は、少なくともガードインターバル以内に設定する。このような時間調整量を設定するために、事前に推定した各無線端末との遅延時間を用いる。
各無線端末の時間調整量は、基準となる無線端末の送信タイミングからの相対時間を用いて設定してもよい。ここで、基準となる無線端末については、所定のタイミング(例えば、伝搬路推定用フレームを受信してから一定時間後)を送信タイミングとして設定することができる。基準となる無線端末以外の無線端末は、当該基準となる無線端末の送信タイミングから当該相対時間だけずらしたタイミングで、伝搬路情報フレームを送信する。
ここで、基準となる無線端末は、任意の方法で指定すればよい。例えば、共通情報フィールドに基準となる無線端末の指定を含めてもよい。または、端末情報フィールド1など、事前に決めた番号の端末情報フィールドに設定されている無線端末を、基準となる無線端末としてもよい。
以上、本実施形態によれば、アクセスポイント11は各無線端末に個別に伝搬路情報フレームの送信タイミングを制御することで、アクセスポイント11と各無線端末との通信遅延時間によらず、各無線端末から伝搬路情報フレームを受信するタイミングを一定範囲(ガードインターバル等)内に収めることができる。
(第5の実施形態)
本実施形態は、アクセスポイントが各無線端末から受信する伝搬路情報フレームの受信電力のダイナミックレンジを、一定の範囲内に収めることを特徴とする。
これまでの実施形態の説明で述べたように、アクセスポイント11は、各無線端末から伝搬路情報フレームをアップリンクマルチユーザMIMOで同時に受信する。このとき、各無線端末の送信電力が同一であったとしても、アクセスポイント11と各無線端末との距離がそれぞれ異なる場合は、信号の減衰レベルの違いにより、それぞれ異なった受信電力で伝搬路情報フレームを受信する可能性がある。
図16に、無線端末1、2がアクセスポイント11に対して、それぞれ近い位置および遠い位置に配置された状況を示す。この例では、アクセスポイント11に近接した無線端末1の距離減衰量が20dBであり、アクセスポイント11から遠い位置に配置された無線端末2の距離減衰量が60dBである。この場合、アクセスポイント11は、40dBの受信電力差のある伝搬路情報フレームを同時に受信することになる。
受信電力の最大値および最小値の比または差である入力ダイナミックレンジが大きくなってしまうと、小さい受信電力のフレームが、AD変換時に量子化雑音に埋もれてしまい、正しく受信できない恐れがある。大きい入力ダイナミックレンジに対応するためには、量子化ビット数が大きいAD変換器を採用すればよいが、量子化ビット数にも限度があり、またコスト的に高くなってしまう。
そこで、第5の実施形態では、各無線端末から受信する伝搬路情報フレームの受信電力のダイナミックレンジを、一定の範囲内に収めるように制御することで、上記問題を解決する。
まず、アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム51の送信前に、事前に各無線端末と通信して、各無線端末との距離減衰量を推定する。推定する方法は任意の方法で良く、既存の様々な公知技術を用いることが可能である。例えば、アクセスポイント11の制御部101は各無線端末に特定の送信電力でフレームを送信するよう指示し、当該フレームの受信電力値と、当該特定の送信電力値から距離減衰量(アップリンクの距離減衰量)を推定する。あるいは、アクセスポイント11が一定の送信電力で測定用フレームを送信し、各無線端末から当該測定フレームの受信電力値を格納したフレームを返信する。アクセスポイント11の制御部101は、測定用フレームの送信電力値と、返信されたフレームに格納された受信電力値に基づき距離減衰量(ダウンリンクの距離減衰量)を推定する。本実施形態の目的からアップリンクの距離減衰量を求めることが望ましいが、ダウンリンクとアップリンクの距離減衰量に大きな差異がないと見なせる環境では、どちらの距離減衰量を求めてもかまわない。
アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末との距離減衰量に基づき、伝搬路推定対象となる無線端末により送信される伝搬路情報フレームの受信ダイナミックレンジが、一定の範囲内になるように、各無線端末の送信電力を決定する。一定の範囲内のダイナミックレンジは、少なくともアクセスポイント11に実装されているAD変換器の量子化ビット数で対応可能なダイナミックレンジ以内とする。
アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム(図2の51参照)の端末情報フィールドにて、伝搬路推定対象となる無線端末の指定を行うとともに、当該無線端末に対して決定した送信電力に関する情報(送信電力情報)を設定する。送信電力情報は、各無線端末が送信すべき送信電力値そのもので表してもよいし、通常の送信で使用する送信電力(通常送信電力)に対する相対値で表してもよい。
上述した説明では、各無線端末の送信電力はアクセスポイント11が決定したが、各無線端末において送信電力を決定する構成も可能である。以下、この例を示す。
第1の例として、アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末について推定した距離減衰量を、通知フレーム51の各端末情報フィールドで各無線端末に通知する。各無線端末の制御部201は、各端末情報フィールドで通知された距離減衰量に応じて、伝搬路情報フレームの送信電力を決定する。例えば、アクセスポイント11での伝搬路情報フレームの受信電力が、特定の値または特定の範囲内となるように、送信電力を決定する。この場合、通知フレーム51の共通情報フィールドにて、アクセスポイント11で期待する受信電力の値または範囲を通知してもよい。アクセスポイント11で期待する受信電力の値または範囲が予め決まっている場合には、通知を省略してもよい。
第2の例として、アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム51の共通情報フィールドに、当該通知フレーム51の送信電力値と、アクセスポイント11が期待する各無線端末からの伝搬路情報フレームの受信電力値(期待受信電力値)を設定する。アクセスポイント11の制御部101は、このように設定した通知フレーム51を、共通情報フィールドに設定した送信電力値で送信する。なお、通知フレーム51の送信電力値や伝搬路情報フレームの期待受信電力値が、予め決められた固定値である場合には、アクセスポイント11の制御部101は、これらの値の通知を省略してもよい。
アクセスポイント11から通知フレーム51を受信した各無線端末の制御部201は、通知フレーム51の受信電力を測定する。各無線端末の制御部201は、測定した受信電力値と、共通情報フィールドで通知された送信電力値とに基づき、アクセスポイント11から各無線端末への距離減衰量を把握する。
各無線端末の制御部201は、それぞれ把握した距離減衰量を基に、アクセスポイント11での伝搬路情報フレームの受信電力値が、通知フレーム51で通知された期待受信電力値になるよう、伝搬路情報フレームの送信電力を決定する。各無線端末の制御部201は、それぞれ決定した送信電力により、伝搬路情報フレームを送信するよう制御する。なお、アクセスポイント11から無線端末へのダウンリンクの距離減衰量と、無線端末からアクセスポイント11へのアップリンクの距離減衰量は通信環境によっては厳密には一致するとは限らないが、概ね一致するとみなせる環境では、このような方法も可能である。あるいは、任意の方法で係数を乗じることでダウンリンクの距離減衰量を調整することにより、アップリンクの距離減衰量を推定することも可能である。
以上、本実施形態によれば、アクセスポイントが各無線端末から送信される伝搬路情報フレームの送信電力を制御することにより、アクセスポイントで受信電力値が一定のダイナミックレンジ内に収まるように、各無線端末から送信される伝搬路情報フレームを同時に受信できる。
(第6の実施形態)
本実施形態では、アクセスポイントおよび無線端末間でOFDM伝送を行う場合を考える。
OFDM伝送においては、サブキャリア間干渉を防止するため、サブキャリア間の直交性を保つ必要がある。サブキャリア間の直交性を保つには、送信側装置と受信側装置の間で、正確な周波数同期を必要とする。しかしながら、送信装置および受信装置間で、発振周波数のズレやドップラー偏移により、サブキャリア群の周波数オフセットが生じることがある。このことは、OFDM伝送の特性を悪くする要因となる。
特に、アップリンクマルチユーザMIMO送信の場合には、アクセスポイントは複数の無線端末から同時にフレームを受信する。このため、アクセスポイントは、無線端末ごとに異なった周波数オフセットが生じたフレームを同時に受信する場合もあり得る。この場合、周波数オフセットは、通常の送信(単一データストリームの送信)に比べ、より特性劣化の要因に繋がってしまう。
そこで、第6の実施形態は、アクセスポイントが各無線端末のサブキャリアの周波数オフセットを各々の使用周波数(基準周波数)に対し一定範囲内に収まるように制御することで、アップリンクマルチユーザMIMO送信する際の特性劣化を低減しようとするものである。
まず、アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム51を送信する前に、事前に伝搬路推定対象となる各無線端末と通信して、それぞれのサブキャリアの周波数オフセットの量を推定する。推定する方法は任意の方法で良く、既存の様々な公知技術を用いることが可能である。例えば、アクセスポイント11が、使用周波数のサブキャリア群を各無線端末に送信し、各無線端末から各サブキャリアの受信周波数を格納したフレームを返信する。アクセスポイント11の制御部101は、送信した周波数と、返信されたフレームに記載の受信周波数を比較することで、各サブキャリアの周波数オフセットの量を推定する。あるいは、アクセスポイント11が、使用周波数のサブキャリア群を各無線端末に送信するよう指示し、アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末から受信されたサブキャリア群の周波数と、当該使用周波数との比較により、各サブキャリアの周波数オフセットの量を推定する。各サブキャリアの周波数オフセットが同一または一定範囲内とみなせる場合は、サブキャリア毎の周波数オフセットを算出せずに、OFDM信号の中心周波数(チャネル帯域の中心周波数)のオフセット量を推定してもよい。
アクセスポイント11の制御部101は、各無線端末について推定した各サブキャリアの周波数オフセット量に基づき、無線端末の周波数補正量を決定する。周波数補正量は、アクセスポイント11が各無線端末から伝搬路情報を受信する際の各サブキャリアの周波数オフセットが、各々の使用周波数に対し、一致または一定の範囲内に収まるように決定する。使用周波数は事前にアクセスポイント11と無線端末で固定的に設定しておいてもよいし、アクセスポイント11が使用周波数を決定して各無線端末に通知しておく構成も可能である。
アクセスポイント11の制御部101は、通知フレーム51の端末情報フィールドにて、伝搬路推定対象となる無線端末を指定するとともに、当該無線端末に対して決定した各サブキャリアの周波数補正量に関する情報(周波数補正情報)を指定する。
周波数補正情報は、周波数をどれだけシフトさせるかを示す絶対的な補正量で表してもよいし、基準となる無線端末の周波数の値に対してどれだけシフトさせるかを示す相対的な補正量で表してもよい。
周波数補正情報が絶対的な補正量の場合は、無線端末の制御部201は、指定された補正量だけサブキャリア群の周波数をシフトさせるよう制御する。シフトさせたサブキャリア群に基づき変調を行うことで、伝搬路情報フレームを生成する。
周波数補正情報が基準となる無線端末との相対補正量の場合は、基準となる無線端末以外の無線端末の制御部201は、当該基準となる無線端末のシフト後の周波数に対し、当該相対補正量だけ周波数をシフトさせるよう制御する。シフト後の各サブキャリアに基づき変調を行うことで、伝搬路情報フレームを生成する。ただし、基準となる無線端末については、絶対補正量を指定する。基準となる無線端末以外の無線端末は、当該基準となる無線端末の絶対補正量に基づき、基準となる無線端末のシフト後の周波数を把握できる。
ここで、基準となる無線端末は、任意の方法で指定すればよい。例えば、共通情報フィールドに基準となる無線端末の指定を含めてもよい。または、端末情報フィールド1など、事前に決めた番号の端末情報フィールドに設定されている無線端末を、基準となる無線端末に特定してもよい。
上述した説明ではサブキャリアごとに周波数を調整する場合を示したが、各サブキャリアのオフセットが同一または一定範囲内とみなせる場合は、全体として同じ量だけ周波数を補正してもよい。この場合は、アクセスポイント11の制御部101は、事前にサブキャリア毎の周波数オフセットを算出せずに、受信したOFDM信号の中心周波数(チャネル帯域の中心周波数)と基準となる中心周波数のずれに基づき補正量を決定すればよい。無線端末では、チャネル帯域の中心周波数をシフトさせるようにサブキャリア群全体を同じ周波数だけシフトすればよい。
(第7の実施形態)
図17は、第7の実施形態に係るアクセスポイントに搭載される無線通信装置のハードウェア構成例を示したものである。この構成例は一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。図9に示した無線通信装置と基本的な動作は同じであるため、構成上の違いを中心に説明し、重複する説明は省略する。
本無線通信装置は、ベースバンド部111、RF部121と、アンテナ12A〜12Dとを備える。
ベースバンド部111は、制御回路(プロトコルスタック)112と、送信処理回路113と、受信処理回路114と、DA変換回路115、116と、AD変換回路117、118とを含む。RF部121とベースバンド部111は1チップのIC(Integrated Circuit:集積回路)で構成されてもよい。
ベースバンド部111は、一例としてベースバンドLSIまたはベースバンドICである。また、別の例として、ベースバンド部111がIC132とIC131とを備えてもよい。このとき、IC132が制御回路112と送信処理回路113と受信処理回路114とを含み、IC131が、DA変換回路115、116とAD変換回路117、118を含んでもよい。
制御回路112は、一例として、通信を制御する通信制御装置、または通信を制御する制御部に対応する。このとき無線通信部は、送信処理回路113と受信処理回路114を含んでもよい。さらに無線通信部は、送信処理回路113と受信処理回路114に加えて、DA115、116およびDA117、118を含んでもよい。さらに、無線通信部は、送信処理回路113、受信処理回路114、DA115、116およびAD117、118に加えて、送信回路122および受信回路123を含んでもよい。本実施形態に係る集積回路は、ベースバンド部111の全部または一部の処理、すなわち、制御回路112、送信処理回路113、受信処理回路114、DA115、116およびDA117、118の全部または一部の処理を行うプロセッサを備えていてもよい。
または、IC132が、通信を制御する通信制御装置に対応してもよい。このとき無線通信部は、送信回路122および受信回路123を含んでもよい。さらに無線通信部は、送信回路122および受信回路123に加え、DA115、116およびAD117、118を含んでもよい。
ベースバンド部111における制御回路112は、図9のバッファ104を含み、またMAC層等の処理を行う。制御回路112はクロック生成部を含んでもよい。送信処理回路113は、変調処理や物理ヘッダの付加など、所望の物理層の処理を行い、例えば2種類のデジタルベースバンド信号(以下、デジタルI信号とデジタルQ信号)を生成する。MIMO送信の場合は各ストリームに応じてそれぞれ2種類のデジタルベースバンド信号を生成する。DA変換回路115、117は、送信処理回路113から入力される信号をDA変換する。より詳細には、DA変換回路215はデジタルI信号をアナログのI信号に変換し、DA変換回路216はデジタルQ信号をアナログのQ信号に変換する。なお、直交変調せずに一系統の信号のままで送信する場合もありうる。この場合、DA変換回路は1つだけでもよい。また、一系統または複数系統の送信信号をアンテナの数だけ振り分けて送信する場合には、アンテナの数に応じた数のDA変換回路を設けてもよい。
RF部121は、一例としてRFアナログICあるいは高周波ICである。RF部121における送信回路122は、DA変換後のフレームの信号から所望帯域の信号を抽出する送信フィルタ、発振装置から供給される一定周波数の信号を利用して、フィルタリング後の信号を無線周波数にアップコンバートするミキサ、アップコンバート後の信号を増幅するプリアンプ(PA)等を含む。
RF部121における受信回路123は、アンテナで受信された信号を増幅するLNA(低雑音増幅器)、発振装置から供給される一定周波数の信号を利用して、増幅後の信号をベースバンドにダウンコンバートするミキサ、ダウンコーバート後の信号から所望帯域の信号を抽出する受信フィルタ等を含む。より詳細には、受信回路123は、不図示の低雑音増幅器で低雑音増幅された受信信号を互いに90°位相のずれた搬送波により直交復調して、受信信号と同位相のI(In-phase)信号と、これより90°位相が遅れたQ(Quad-phase)信号とを生成する。これらI信号とQ信号は、ゲインが調整された後に、受信回路123から出力される。
ベースバンド部111におけるAD変換回路117、118は、受信回路123からの入力信号をAD変換する。より詳細には、AD変換回路117はI信号をデジタルI信号に変換し、AD変換回路118はQ信号をデジタルQ信号に変換する。なお、直交復調せずに一系統の信号だけを受信する場合もありうる。この場合、AD変換回路は1つだけでよい。また、複数のアンテナが設けられる場合には、アンテナの数に応じた数のAD変換回路を設けてもよい。受信処理回路114は、物理層の処理、復調処理等を行う。制御回路112は復調後のフレームに対してMAC層等の処理を行う。また制御回路112は、MIMOに関する処理を行う。例えば、伝搬路推定の処理、送信ウェイト計算処理、ストリームの分離処理等を行う。
なお、アンテナ12A〜12Dを、送信回路122および受信回路123のいずれか一方に切り換えるスイッチがRF部に配置されてもよい。スイッチ制御により、送信時にはアンテナ12A〜12Dを送信回路122に接続し、受信時には、アンテナ12A〜12Dを受信回路123に接続する。
上述した各部の処理の詳細は、図9の説明から自明であるため、重複する説明は省略する。
図13は、第7の実施形態に係る無線端末に搭載される無線通信装置のハードウェア構成例を示したものである。この構成例は一例であり、本実施形態はこれに限定されるものではない。図10に示した無線通信装置と基本的な動作は同じであるため、構成上の違いを中心に説明し、重複する説明は省略する。
本無線通信装置は、ベースバンド部211、RF部221と、アンテナ1Aとを備える。RF部221とベースバンド部211は1チップのICで構成されてもよい。
ベースバンド部211は、制御回路(プロトコルスタック)212と、送信処理回路213と、受信処理回路214と、DA変換回路215、216と、AD変換回路217、218とを含む。
ベースバンド部211は、一例としてベースバンドLSIまたはベースバンドICである。また、別の例として、ベースバンド部211が、IC232とIC231とを備えてもよい。このとき、IC232が制御回路212と送信処理回路213と受信処理回路214とを含み、IC231が、DA変換回路215、216とAD変換回路217、218を含んでもよい。
制御回路212は、一例として、通信を制御する通信制御装置、または通信を制御する制御部に対応する。このとき無線通信部は、送信処理回路213と受信処理回路214を含んでもよい。さらに無線通信部は、送信処理回路213と受信処理回路214に加えて、DA215、216およびDA217、218を含んでもよい。さらに、無線通信部は、送信処理回路213、受信処理回路214、DA215、216およびDA217、218に加えて、送信回路222および受信回路223を含んでもよい。本実施形態に係る集積回路は、ベースバンド部211の全部または一部の処理、すなわち、制御回路212、送信処理回路213、受信処理回路214、DA215、216およびDA217、218の全部または一部の処理を行うプロセッサを備えていてもよい。
または、IC232が、通信を制御する通信制御装置に対応してもよい。このとき無線通信部は、送信回路222および受信回路223を含んでもよい。さらに無線通信部は、送信回路222および受信回路223に加え、DA215、216およびDA217、218を含んでもよい。
ベースバンド部211における制御回路212は、図10のバッファ204を含み、またMAC層等の処理を行う。制御回路212はクロック生成部を含んでもよい。送信処理回路213は、変調処理や物理ヘッダの付加など、所望の物理層の処理を行い、例えば2種類のデジタルベースバンド信号(以下、デジタルI信号とデジタルQ信号)を生成する。MIMO送信の場合は各ストリームに応じてそれぞれ2種類のデジタルベースバンド信号を生成する。DA変換回路215、216は、送信処理回路213から入力される信号をDA変換する。より詳細には、DA変換回路215はデジタルI信号をアナログのI信号に変換し、DA変換回路216はデジタルQ信号をアナログのQ信号に変換する。なお、直交変調せずに一系統の信号のままで送信する場合もありうる。この場合、DA変換回路は1つだけでもよい。また、一系統または複数系統の送信信号をアンテナの数だけ振り分けて送信する場合には、アンテナの数に応じた数のDA変換回路を設けてもよい。
RF部221は、一例としてRFアナログICあるいは高周波ICである。RF部221における送信回路222は、DA変換後のフレームの信号から所望帯域の信号を抽出する送信フィルタ、発振装置から供給される一定周波数の信号を利用して、フィルタリング後の信号を無線周波数にアップコンバートするミキサ、アップコンバート後の信号を増幅するプリアンプ(PA)等を含む。
受信回路223は、アンテナで受信された信号を増幅するLNA(低雑音増幅器)、発振装置から供給される一定周波数の信号を利用して、増幅後の信号をベースバンドにダウンコンバートするミキサ、ダウンコーバート後の信号から所望帯域の信号を抽出する受信フィルタ等を含む。より詳細には、受信回路223は、不図示の低雑音増幅器で低雑音増幅された受信信号を互いに90°位相のずれた搬送波により直交復調して、受信信号と同位相のI(In-phase)信号と、これより90°位相が遅れたQ(Quad-phase)信号とを生成する。これらI信号とQ信号は、ゲインが調整された後に、受信回路223から出力される。
ベースバンド部211におけるAD変換回路217、218は、受信回路223からの入力信号をAD変換する。より詳細には、AD変換回路117はI信号をデジタルI信号に変換し、AD変換回路118はQ信号をデジタルQ信号に変換する。なお、直交復調せずに一系統の信号だけを受信する場合もありうる。この場合、AD変換回路は1つだけでよい。また、複数のアンテナが設けられる場合には、アンテナの数に応じた数のAD変換回路を設けてもよい。受信処理回路214は、物理層の処理、復調処理等を行う。制御回路212は復調後のフレームに対してMAC層等の処理を行う。
また無線端末がアンテナを複数備えて、MIMOに対応する場合には、制御回路212は、MIMOに関する処理も行う。例えば、伝搬路推定の処理、送信ウェイト計算処理、ストリームの分離処理等を行う。
なお、アンテナ1Aを、送信回路222および受信回路223のいずれか一方に切り換えるスイッチがRF部221に配置されてもよい。スイッチ制御により、送信時にはアンテナ1Aを送信回路222に接続し、受信時には、アンテナ1Aを受信回路223に接続する。
上述した各部の処理の詳細は、図10の説明から自明であるため、重複する説明は省略する。
(第8の実施形態)
図19(A)および図19(B)は、それぞれ第8の実施形態に係る無線端末の斜視図である。図19(A)の無線端末はノートPC301であり、図19(B)の無線端末は移動体端末321である。ノートPC301および移動体端末321は、それぞれ無線通信装置305、315を搭載している。無線通信装置305、315として、これまで説明してきた無線端末に搭載されていた無線通信装置(図10、図18等)、またはアクセスポイント11に搭載されていた無線通信装置(図9、図17等)を用いることができる。無線通信装置を搭載する無線端末は、ノートPCや移動体端末に限定されない。例えば、TV、デジタルカメラ、ウェアラブルデバイス、スマートフォン、タブレット、ゲーム装置、ネットワークストレージ装置、モニター、デジタルオーディオプレーヤ、ウェブカメラ、ビデオカメラ、プロジェクタ、ナビゲーションシステム、外部アダプタ、内部アダプタ、セットトップボックス、ゲートウェイ、プリンターサーバ、モバイルアクセスポイント、ルータ、エンタープライズ/サービス・プロバイダー・アクセスポイント、ポータブル装置、ハンドヘルド装置等にも搭載可能である。
また、無線端末またはアクセスポイント11に搭載されていた無線通信装置は、メモリーカードにも搭載可能である。当該無線通信装置をメモリーカードに搭載した例を図20に示す。メモリーカード331は、無線通信装置355と、メモリーカード本体332とを含む。メモリーカード331は、外部の装置(無線端末またはアクセスポイント11等)との無線通信のために無線通信装置335を利用する。なお、図20では、メモリーカード331内の他の要素(例えばメモリ等)の記載は省略している。
(第9の実施形態)
第9の実施形態では、第1〜8のいずれかの実施形態に係る無線通信装置(図9または図10等)の構成に加えて、バス、プロセッサ部、及び外部インターフェース部を備える。プロセッサ部及び外部インターフェース部は、バスを介してバッファと接続される。プロセッサ部ではファームウエアが動作する。このように、ファームウエアを無線通信装置に含める構成とすることにより、ファームウエアの書き換えによって無線通信装置の機能の変更を容易に行うことが可能となる。ファームウエアが動作するプロセッサ部は、本実施形態に係る通信制御装置または制御部の処理を行うプロセッサであってもよいし、当該処理の機能拡張または変更に係る処理を行う別のプロセッサであってもよい。ファームウエアが動作するプロセッサ部を、本実施形態に係るアクセスポイントあるいは無線端末が備えてもよい。または当該プロセッサ部を、アクセスポイントに搭載される無線通信装置内の集積回路、または無線端末に搭載される無線通信装置内の集積回路が備えてもよい。
(第10の実施形態)
第10の実施形態では、第1〜8のいずれかの実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、クロック生成部を備える。クロック生成部は、クロックを生成して出力端子より無線通信装置の外部にクロックを出力する。このように、無線通信装置内部で生成されたクロックを外部に出力し、外部に出力されたクロックによってホスト側を動作させることにより、ホスト側と無線通信装置側とを同期させて動作させることが可能となる。
(第11の実施形態)
第11の実施形態では、第1〜8のいずれかの実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、電源部、電源制御部、及び無線電力給電部を含む。電源制御部は、電源部と無線電力給電部とに接続され、無線通信装置に供給する電源を選択する制御を行う。このように、電源を無線通信装置に備える構成とすることにより、電源を制御した低消費電力化動作が可能となる。
(第12の実施形態)
第12の実施形態では、第11の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、SIMカードを含む。SIMカードは、無線通信装置における送信部(102または202)または受信部(103または203)または制御部(101または201)と接続される。このように、SIMカードを無線通信装置に備える構成とすることにより、容易に認証処理を行うことが可能となる。
(第13の実施形態)
第13の実施形態では、第9の実施形態に係る無線通信装置の構成に加えて、動画像圧縮/伸長部を含む。動画像圧縮/伸長部は、バスと接続される。このように、動画像圧縮/伸長部を無線通信装置に備える構成とすることにより、圧縮した動画像の伝送と受信した圧縮動画像の伸長とを容易に行うことが可能となる。
(第14の実施形態)
第14の実施形態では、第1〜8のいずれかの実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、LED部を含む。LED部は、送信部(102または202)または受信部(103または203)または制御部(101または201)と接続される。このように、LED部を無線通信装置に備える構成とすることにより、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第15の実施形態)
第15の実施形態では、第1〜8のいずれかの実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、バイブレータ部を含む。バイブレータ部は、送信部(102または202)または受信部(103または203)または制御部(101または201)と接続される。このように、バイブレータ部を無線通信装置に備える構成とすることにより、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第16の実施形態)
第16の実施形態では、第1〜8のいずれかの実施形態に係る無線通信装置(アクセスポイントの無線通信装置または無線端末の無線通信装置)の構成に加えて、ディスプレイを含む。ディスプレイは、図示しないバスを介して、無線通信装置の制御部(101または201)に接続されてもよい。このようにディスプレイを備える構成とし、無線通信装置の動作状態をディスプレイに表示することで、無線通信装置の動作状態をユーザに容易に通知することが可能となる。
(第17の実施形態)
本実施形態では、[1]無線通信システムにおけるフレーム種別、[2]無線通信装置間の接続切断の手法、[3]無線LANシステムのアクセス方式、[4]無線LANのフレーム間隔について説明する。
[1]通信システムにおけるフレーム種別
一般的に無線通信システムにおける無線アクセスプロトコル上で扱うフレームは、大別してデータ(data)フレーム、管理(management)フレーム、制御(control)フレームの3種類に分けられる。これらの種別は、通常、フレーム間で共通に設けられるヘッダ部で示される。フレーム種別の表示方法としては、1つのフィールドで3種類を区別できるようにしてあってもよいし、2つのフィールドの組み合わせで区別できるようにしてあってもよい。
管理フレームは、他の無線通信装置との間の物理的な通信リンクの管理に用いるフレームである。例えば、他の無線通信装置との間の通信設定を行うために用いられるフレームや通信リンクをリリースする(つまり接続を切断する)ためのフレーム、無線通信装置でのパワーセーブ動作に係るフレームがある。
データフレームは、他の無線通信装置と物理的な通信リンクが確立した上で、無線通信装置の内部で生成されたデータを他の無線通信装置に送信するフレームである。データは本実施形態の上位層で生成され、例えばユーザの操作によって生成される。
制御フレームは、データフレームを他の無線通信装置との間で送受(交換)する際の制御に用いられるフレームである。無線通信装置がデータフレームや管理フレームを受信した場合にその送達確認のために送信される応答フレームは、制御フレームに属する。
これら3種類のフレームは、物理層で必要に応じた処理を経て物理パケットとしてアンテナを経由して送出される。なお、接続確立の手順においては、接続要求フレームと接続受付フレームが管理フレームであり、接続受付フレームへの確認フレームは制御フレームの応答フレームを用いることができる。
[2]無線通信装置間の接続切断の手法
接続の切断には、明示的な手法と暗示的な手法とがある。明示的な手法としては、接続している無線通信装置のいずれか一方が切断のためのフレームを送信する。このフレームは管理フレームに分類される。切断のためのフレームは、例えば接続をリリースするという意味でリリースフレームと呼ぶことがある。通常、リリースフレームを送信する側の無線通信装置ではリリースフレームを送信した時点で、リリースフレームを受信する側の無線通信装置ではリリースフレームを受信した時点で、接続の切断と判定する。その後、通信フェーズでの初期状態、例えば通信相手の無線通信装置を探索する状態に戻る。これは、切断のためのフレームを送信する際には、接続先の無線通信装置と通信距離が離れて無線信号が受信不可あるいは復号不可になるといった、物理的な無線リンクが確保できないことがあるからである。
一方、暗示的な手法としては、一定期間接続を確立した接続相手の無線通信装置からフレーム送信(データフレーム及び管理フレームの送信、あるいは自装置が送信したフレームへの応答フレームの送信)を検知しなかった場合に、接続状態の切断の判定を行う。このような手法があるのは、上述のように接続の切断を判定するような状況では、接続先の無線通信装置と通信距離が離れて無線信号が受信不可あるいは復号不可になるなど物理的な無線リンクが確保できない状態が考えられるからである。すなわち、リリースフレームの受信を期待できないからである。
暗示的な方法で接続の切断を判定する具体例としては、タイマを使用する。例えば、送達確認応答フレームを要求するデータフレームを送信する際、当該フレームの再送期間を制限する第1のタイマ(例えばデータフレーム用の再送タイマ)を起動し、第1のタイマが切れるまで(つまり所望の再送期間が経過するまで)当該フレームへの送達確認応答フレームを受信しないと再送を行う。当該フレームへの送達確認応答フレームを受信すると第1のタイマは止められる。
一方、送達確認応答フレームを受信せず第1のタイマが切れると、例えば接続相手の無線通信装置がまだ(通信レンジ内に)存在するか(言い換えれば、無線リンクが確保できているか)を確認するための管理フレームを送信し、それと同時に当該フレームの再送期間を制限する第2のタイマ(例えば管理フレーム用の再送タイマ)を起動する。第1のタイマと同様、第2のタイマでも、第2のタイマが切れるまで当該フレームへの送達確認応答フレームを受信しないと再送を行い、第2のタイマが切れると接続が切断されたと判定する。
あるいは接続相手の無線通信装置からフレームを受信すると第3のタイマを起動し、新たに接続相手の無線通信装置からフレームを受信するたびに第3のタイマを止め、再び初期値から起動する。第3のタイマが切れると前述と同様に接続相手の無線通信装置がまだ(通信レンジ内に)存在するか(言い換えれば、無線リンクが確保できているか)を確認するための管理フレームを送信し、それと同時に当該フレームの再送期間を制限する第2のタイマ(例えば管理フレーム用の再送タイマ)を起動する。この場合も、第2のタイマが切れるまで当該フレームへの送達確認応答フレームを受信しないと再送を行い、第2のタイマが切れると接続が切断されたと判定する。後者の、接続相手の無線通信装置がまだ存在するかを確認するための管理フレームは、前者の場合の管理フレームとは異なるものであってもよい。また後者の場合の管理フレームの再送を制限するためのタイマはここでは第2のタイマとして前者の場合と同じものを用いたが、異なるタイマを用いるようにしてもよい。
[3]無線LANシステムのアクセス方式
例えば複数の無線通信装置と通信または競合することを想定した無線LANシステムがある。IEEE802.11(拡張規格なども含む)無線LANではCSMA/CAをアクセス方式の基本としている。ある無線通信装置の送信を把握し、その送信終了から固定時間を置いて送信を行う方式では、その無線通信装置の送信を把握した複数の無線通信装置で同時に送信を行うことになり、その結果、無線信号が衝突してフレーム送信に失敗する。ある無線通信装置の送信を把握し、その送信終了からランダム時間待つことで、その無線通信装置の送信を把握した複数の無線通信装置での送信が確率的に分散することになる。よって、ランダム時間の中で最も早い時間を引いた無線通信装置が1つなら無線通信装置のフレーム送信は成功し、フレームの衝突を防ぐことができる。ランダム値に基づき送信権の獲得が複数の無線通信装置間で公平になることから、Carrier Avoidanceを採用した方式は、複数の無線通信装置間で無線媒体を共有するために適した方式であるということができる。
[4]無線LANのフレーム間隔
IEEE802.11無線LANのフレーム間隔について説明する。IEEE802.11無線LANで用いられるフレーム間隔は、distributed coordination function interframe space(DIFS)、arbitration interframe space(AIFS)、point coordination function interframe space(PIFS)、short interframe space(SIFS)、extended interframe space(EIFS)、reduced interframe space(RIFS)の6種類ある。
フレーム間隔の定義は、IEEE802.11無線LANでは送信前にキャリアセンスアイドルを確認して開けるべき連続期間として定義されており、厳密な前のフレームからの期間は議論しない。従ってここでのIEEE802.11無線LANシステムでの説明においてはその定義を踏襲する。IEEE802.11無線LANでは、CSMA/CAに基づくランダムアクセスの際に待つ時間を固定時間とランダム時間との和としており、固定時間を明確にするためこのような定義になっているといえる。
DIFSとAIFSとは、CSMA/CAに基づき他の無線通信装置と競合するコンテンション期間にフレーム交換開始を試みるときに用いるフレーム間隔である。DIFSは、トラヒック種別による優先権の区別がないとき、AIFSはトラヒック種別(Traffic Identifier:TID)による優先権が設けられている場合に用いる。
DIFSとAIFSとで係る動作としては類似しているため、以降では主にAIFSを用いて説明する。IEEE802.11無線LANでは、MAC層でフレーム交換の開始などを含むアクセス制御を行う。さらに、上位層からデータを渡される際にQoS(Quality of Service)対応する場合には、データとともにトラヒック種別が通知され、トラヒック種別に基づいてデータはアクセス時の優先度のクラス分けがされる。このアクセス時のクラスをアクセスカテゴリ(Access Category;AC)と呼ぶ。従って、アクセスカテゴリごとにAIFSの値が設けられることになる。
PIFSは、競合する他の無線通信装置よりも優先権を持つアクセスができるようにするためのフレーム間隔であり、DIFS及びAIFSのいずれの値よりも期間が短い。SIFSは、応答系の制御フレームの送信時あるいは一旦アクセス権を獲得した後にバーストでフレーム交換を継続する場合に用いることができるフレーム間隔である。EIFSはフレーム受信に失敗した場合に発動されるフレーム間隔である。
RIFSは一旦アクセス権を獲得した後にバーストで同一無線通信装置に複数のフレームを連続して送信する場合に用いることができるフレーム間隔であり、RIFSを用いている間は送信相手の無線通信装置からの応答フレームを要求しない。
ここでIEEE802.11無線LANにおけるランダムアクセスに基づく競合期間のフレーム交換の一例を図21に示す。
ある無線通信装置においてデータフレーム(W_DATA1)の送信要求が発生した際に、キャリアセンスの結果、媒体がビジーである(busy medium)と認識する場合を想定する。
この場合、キャリアセンスがアイドルになった時点から固定時間のAIFSを空け、その後ランダム時間(random backoff)空いたところで、データフレームW_DATA1を通信相手に送信する。
ランダム時間は0から整数で与えられるコンテンションウィンドウ(Contention Window:CW)の間の一様分布から導かれる擬似ランダム整数にスロット時間をかけたものである。ここで、CWにスロット時間をかけたものをCW時間幅と呼ぶ。CWの初期値はCWminで与えられ、再送するたびにCWの値はCWmaxになるまで増やされる。CWminとCWmaxとの両方とも、AIFSと同様アクセスカテゴリごとの値を持つ。W_DATA1の送信先の無線通信装置では、データフレームの受信に成功するとその受信終了時点からSIFS後に応答フレーム(W_ACK1)を送信する。W_DATA1を送信した無線通信装置は、W_ACK1を受信すると送信バースト時間制限内であればまたSIFS後に次のフレーム(例えばW_DATA2)を送信することができる。
AIFS、DIFS、PIFS及びEIFSは、SIFSとスロット時間との関数になるが、SIFSとスロット時間とは物理層ごとに規定されている。また、AIFS、CWmin及びCWmaxなどアクセスカテゴリごとに値が設けられるパラメータは、通信グループ(IEEE802.11無線LANではBasic Service Set(BSS))ごとに設定可能であるが、デフォルト値が定められている。
例えば、802.11acの規格策定では、SIFSは16μs、スロット時間は9μsであるとして、それによってPIFSは25μs、DIFSは34μs、AIFSにおいてアクセスカテゴリがBACKGROUND(AC_BK)のフレーム間隔はデフォルト値が79μs、BEST EFFORT(AC_BE)のフレーム間隔はデフォルト値が43μs、VIDEO(AC_VI)とVOICE(AC_VO)のフレーム間隔はデフォルト値が34μs、CWminとCWmaxとのデフォルト値は、各々AC_BKとAC_BEとでは31と1023、AC_VIでは15と31、AC_VOでは7と15になるとする。なお、EIFSは、SIFSとDIFSと最も低速な必須の物理レートで送信する場合の応答フレームの時間長の和である。本実施形態では、このようなフレーム間隔のパラメータを用いる無線通信システムを通信レンジの広い干渉システムとして想定する。
本実施形態で用いられる用語は、広く解釈されるべきである。例えば用語“プロセッサ”は、汎用目的プロセッサ、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、コントローラ、マイクロコントローラ、状態マシンなどを包含してもよい。状況によって、“プロセッサ”は、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラム可能論理回路(PLD)などを指してもよい。“プロセッサ”は、複数のマイクロプロセッサのような処理装置の組み合わせ、DSPおよびマイクロプロセッサの組み合わせ、DSPコアと協働する1つ以上のマイクロプロセッサを指してもよい。
別の例として、用語“メモリ”は、電子情報を格納可能な任意の電子部品を包含してもよい。“メモリ”は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、プログラム可能読み出し専用メモリ(PROM)、消去可能プログラム可能読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、フラッシュメモリ、磁気または光学データストレージを指してもよく、これらはプロセッサによって読み出し可能である。プロセッサがメモリに対して情報を読み出しまたは書き込みまたはこれらの両方を行うならば、メモリはプロセッサと電気的に通信すると言うことができる。メモリは、プロセッサに統合されてもよく、この場合も、メモリは、プロセッサと電気的に通信していると言うことができる。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。