本明細書に記載されている化合物、組成物及び方法は、開示されている主題の具体的な態様の以下の詳細な説明、ならびに本明細書に含まれる実施例及び図を参照することによって、より容易に理解されてよい。
本化合物、組成物及び方法を開示及び記載する前に、以下に記載されている態様は、特定の合成方法または特定の試薬に限定されず、そのため、当然ながら、変動してよいことを理解されたい。また、本明細書において用いられている技術は、特定の態様のみを記載する目的のものであり、限定しようとするものではないことも理解されたい。
また、本明細書を通して、種々の公報が参照されている。これらの公報の開示は、開示されている事項が関係する技術の記述をより完全に説明するために、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。開示されている参照文献もまた、参照文献が置かれている文章において議論されている、該文献に含まれる題材について、参照により個々にかつ具体的に本明細書に組み込まれる。
一般的な定義
本明細書及びこれに続く特許請求の範囲において、参照されている多くの用語は、以下の意味を有すると定義される:
本明細書の詳細な説明及び請求項を通して、語句「comprise」及び該語句の他の形態、例えば「comprising」及び「comprises」は、限定されないが、例えば、他の添加物、構成要素、整数または工程を含むことを意味し、これらを排除することは意図されていない。
詳細な説明及び添付の請求項において用いられるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が他の場合を明確に指示していない限り、複数の指示対象も含む。そのため、例えば、「1つの組成物」への言及は、2つ以上のかかる組成物の混合物を含み、「1つの剤」への言及は、2つ以上のかかる剤の混合物を含み、「構成要素」への言及は、2つ以上のかかる構成要素の混合物などを含む。
「任意選択的な」または「任意選択的に」は、その後に記載されている事象または状態が起こっても起こらなくてもよいこと、ならびに、該記載が、該事象または状態が起こる例及び起こらない例を含むことを意味する。
本明細書において、「約」1の特定の値から、及び/または「約」別の特定の値までの範囲が表示されている場合がある。「約」によって、値の5%以内、例えば、値の4、3、2、または1%以内が意味される。かかる範囲が表示されているとき、別の態様は、1の特定の値から、及び/または他の特定の値までを含む。同様に、値が先行詞「約」を用いて近似として表示されているとき、特定の値が別の態様を形成することが理解されよう。各範囲の終点は、他の終点に関係して、また、他の終点からは独立してのいずれにおいても有意であることがさらに理解されよう。
用語「阻害する」は、活性、応答、状態、疾患、または他の生物学的パラメータの減少を称する。これは、限定されないが、活性、応答、状態、または疾患の完全切除を含む。これはまた、例えば、ネイティブまたは対照レベルと比較したとき、活性、応答、状態、または疾患の10%低減を含んでいてもよい。このように、低減は、ネイティブまたは対照レベルと比較したとき、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、または間にあるいずれの量であることもできる。
「対象」は、本明細書において用いられているとき、個体を意味する。そのため、「対象」として、家庭動物(例えば、ネコ、イヌなど)、家畜(例えば、畜牛、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)、及びトリを挙げることができる。「対象」として、哺乳動物、例えば霊長類またはヒトを挙げることもできる。
「低減する」または該語句の他の形態、例えば「低減すること」または「低減」は、事象または特徴(例えば、腫瘍成長)の低下を意味する。これは、典型的には、ある基準値または予期される値に関係し、換言すると、関係があるが、称される該基準値または関係値に常に必要とされるわけではないことが理解される。例えば、「腫瘍成長を低減する」は、基準または対照と比較して腫瘍の成長の速度を低減することを意味する。
「防止する」または該語句の他の形態、例えば「防止すること」または「防止」は、特定の事象若しくは特徴を停止させる、特定の事象若しくは特徴の発生若しくは進行を安定若しくは遅延させる、または特定の事象若しくは特徴が生じる機会を最小にすることを意味する。防止するとは、例えば、低減するよりも典型的には絶対的であるため、対照との比較を必要としない。本明細書において用いられているとき、ある事柄は低減され得るが防止されない、しかし、低減されるある事柄は防止され得る。同じく、ある事柄は防止され得るが低減されない、しかし、防止されるある事柄は低減され得る。低減するまたは防止するが用いられるとき、別途特に示されていない限り、他の語句の使用もまた明確に開示されることが理解される。
「処置する」または該語句の他の形態、例えば「処置された」または「処置」は、特定の特徴または事象(例えば、腫瘍成長または生存)を低減、防止、阻害または排除するために、組成物を投与するまたは方法を実施することを意味する。用語「制御する」は、用語「処置する」と同義的に用いられる。
用語「抗がん」は、任意の濃度において細胞増殖及び/または腫瘍成長を処置または制御する能力を称する。
化学的定義
本明細書において用いられているとき、用語「置換されている」は、有機化合物の全ての許可可能な置換基を含むことが企図される。広範な態様において、許可可能な置換基として、有機化合物の、非環式及び環式の、分枝及び非分枝の、炭素環式及び複素環式の、芳香族及び非芳香族の置換基が挙げられる。例示的な置換基として、例えば、以下に記載されているものが挙げられる。許可可能な置換基は、適当な有機化合物について、1つ以上であってよく、同じであっても異なっていてもよい。本開示の目的で、ヘテロ原子、例えば窒素は、ヘテロ原子の価数を満たす、水素置換基及び/または本明細書に記載されている有機化合物の任意の許可可能な置換基を有することができる。本開示は、有機化合物の許可可能な置換基によっていずれの方式に限定されることも意図されていない。また、用語「置換」または「によって置換されている」とは、かかる置換が、置換原子及び置換基の許可価数に従うものであること、ならびに該置換が、安定な化合物、例えば、再配置、環化、脱離などによる転換を自発的に経ない化合物を生じさせるという黙示的な条件を含む。
「Z1」、「Z2」、「Z3」、及び「Z4」は、種々の具体的な置換基を表す全体記号として本明細書において用いられる。これらの記号は、本明細書に開示されているものに限定されない任意の置換基であり得、一例において、ある特定の置換基であると定義されているとき、別の例においては、何らかの他の置換基として定義され得る。
用語「脂肪族」は、本明細書において用いられているとき、非芳香族炭化水素基を称し、分枝及び非分枝アルキル、アルケニル、またはアルキニル基を含む。
用語「アルキル」は、本明細書において用いられているとき、1〜24個の炭素原子、例えば1〜3、1〜4、1〜5、1〜6、1〜7、1〜8、1〜9、1〜10、または1〜15個の炭素原子の分枝または非分枝の飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどである。アルキル基はまた、置換されていても置換されていなくてもよい。アルキル基は、限定されないが、以下に記載されているように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホオキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含めた1つ以上の基によって置換されていてよい。
本明細書を通して、「アルキル」は、非置換アルキル基及び置換アルキル基の両方を称するのに一般に用いられる;しかし、置換アルキル基はまた、アルキル基における具体的な置換基を同定することによって、本明細書において具体的に称される。例えば、用語「ハロゲン化アルキル」は、1つ以上のハライド、例えば、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素によって置換されているアルキル基を具体的に称する。用語「アルコキシアルキル」は、以下に記載されているように、1つ以上のアルコキシ基によって置換されているアルキル基を具体的に称する。用語「アルキルアミノ」は、以下に記載されているように、1つ以上のアミノ基などによって置換されているアルキル基を具体的に称する。「アルキル」が一例において用いられ、具体的な用語、例えば「アルキルアルコール」が別に用いられているとき、用語「アルキル」は、具体的な用語、例えば「アルキルアルコール」なども称さないということを示唆することは意味していない。
この慣例はまた、本明細書に記載されている他の基にも用いられる。すなわち、用語、例えば「シクロアルキル」は、非置換及び置換シクロアルキル部位の両方を称するが、該置換部位は、加えて、本明細書において具体的に同定され得る;例えば、特定の置換シクロアルキルは、例えば、「アルキルシクロアルキル」と称され得る。同様に、置換アルコキシは、例えば、「ハロゲン化アルコキシ」と具体的に称され得、特定の置換アルケニルは、例えば、「アルケニルアルコール」などであり得る。また、一般用語、例えば「シクロアルキル」、及び具体的な用語、例えば「アルキルシクロアルキル」を用いる慣例は、一般用語が具体的な用語も含まないということを示唆することは意味していない。
用語「アルコキシ」は、本明細書において用いられているとき、単一の、末端エーテル連結を通して結合されたアルキル基である;すなわち、「アルコキシ」基は、−OZ1:ここで、Z1は、上記に定義されているアルキルである;として定義され得る。
用語「アルケニル」は、本明細書において用いられているとき、2〜24個の炭素原子、例えば、2〜5、2〜10、2〜15、または2〜20個の炭素原子の炭化水素基であり、構造式が少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有している。非対称構造、例えば(Z1Z2)C=C(Z3Z4)は、E及びZ異性体の両方を含むことが意図される。このことは、本明細書における構造式において推定され得、式中、非対称アルケンが存在するか、または結合記号C=Cによって明確に示され得る。アルケニル基は、限定されないが、以下に記載されているように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホオキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含めた1つ以上の基によって置換されていてよい。
用語「アルキニル」は、本明細書において用いられているとき、2〜24個の炭素原子、例えば2〜5、2〜10、2〜15、または2〜20個の炭素原子の炭化水素基であり、構造式が、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有している。アルキニル基は、限定されないが、以下に記載されているように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホオキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含めた1つ以上の基によって置換されていてよい。
用語「アリール」は、本明細書において用いられているとき、限定されないが、ベンゼン、ナフタレン、フェニル、ビフェニル、フェノキシベンゼンなどを含めた任意の炭素系芳香族基を含有する基である。用語「ヘテロアリール」は、芳香族基の環内に組み込まれた少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基を含有する基として定義される。ヘテロ原子の例として、限定されないが、窒素、酸素、硫黄、及びリンが挙げられる。用語「アリール」に含まれる用語「非ヘテロアリール」は、ヘテロ原子を含有しない芳香族基を含有する基を定義する。アリールまたはヘテロアリール基は、置換されていても置換されていなくてもよい。アリールまたはヘテロアリール基は、限定されないが、本明細書に記載されているように、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホオキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含めた1つ以上の基によって置換されていてよい。用語「ビアリール」は、アリール基の具体的なタイプであり、アリールの定義に含まれる。ビアリールは、ナフタレンにおけるように、縮合環構造を介して一緒に結合されている、またはビフェニルにおけるように、1つ以上の炭素−炭素結合を介して付着している2つのアリール基を称する。
用語「シクロアルキル」は、本明細書において用いられているとき、少なくとも3個の炭素原子から構成される非芳香族炭素系環である。シクロアルキル基の例として、限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。用語「ヘテロシクロアルキル」は、環の炭素原子の少なくとも1個がヘテロ原子、例えば、限定されないが、窒素、酸素、硫黄、またはリンによって置換されている上述されているシクロアルキル基である。シクロアルキル基及びヘテロシクロアルキル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。シクロアルキル基及びヘテロシクロアルキル基は、限定されないが、本明細書に記載されているようにアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホオキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含めた1つ以上の基によって置換されていてよい。
用語「シクロアルケニル」は、本明細書において用いられているとき、少なくとも3個の炭素原子から構成され、少なくとも1つの二重結合、すなわち、C=Cを含有する非芳香族炭素系環である。シクロアルケニル基の例として、限定されないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニルなどが挙げられる。用語「ヘテロシクロアルケニル」は、上述されているシクロアルケニル基のタイプであり、環の炭素原子の少なくとも1個がヘテロ原子、例えば、限定されないが、窒素、酸素、硫黄、またはリンによって置換されている用語「シクロアルケニル」の意味に含まれる。シクロアルケニル基及びヘテロシクロアルケニル基は、置換されていても置換されていなくてもよい。シクロアルケニル基及びヘテロシクロアルケニル基は、限定されないが、本明細書に記載されているように、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アルデヒド、アミノ、カルボン酸、エステル、エーテル、ハライド、ヒドロキシ、ケトン、ニトロ、シリル、スルホオキソ、スルホニル、スルホン、スルホキシド、またはチオールを含めた1つ以上の基によって置換されていてよい。
用語「環式基」は、アリール基、非アリール基(すなわち、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、及びヘテロシクロアルケニル基)、または両方のいずれかを称するのに本明細書において用いられる。環式基は、置換されていても置換されていなくてもよい1つ以上の環系を有する。環式基は、1つ以上のアリール基、1つ以上の非アリール基、または1つ以上のアリール基及び1つ以上の非アリール基を含有することができる。
用語「カルボニル」は、本明細書において用いられているとき、式-C(O)Z1:式中、Z1は、上述の、水素、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表される。本明細書を通して、「C(O)」または「CO」は、C=Oの簡易表記である。
用語「アルデヒド」は、本明細書において用いられているとき、式−C(O)Hによって表される。
用語「アミン」または「アミノ」は、本明細書において用いられているとき、式−NZ1Z2:式中、Z1及びZ2は、それぞれ、本明細書に記載されている置換基、例えば、上述の、水素、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表される。「アミド」は、−C(O)NZ1Z2である。
用語「カルボン酸」は、本明細書において用いられているとき、式−C(O)OHによって表される。「カルボキシレート」または「カルボキシ」基は、本明細書において用いられているとき、式−C(O)O−によって表される。
用語「エステル」は、本明細書において用いられているとき、式−OC(O)Z1または−C(O)OZ1:式中、Z1は、上述の、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表される。
用語「エーテル」は、本明細書において用いられているとき、式Z1OZ2:式中、Z1及びZ2は、独立して、上述の、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表される。
用語「ケトン」は、本明細書において用いられているとき、式Z1C(O)Z2:式中、Z1及びZ2は、独立して、上述の、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表される。
用語「ハライド」または「ハロゲン」は、本明細書において用いられているとき、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素を称する。
用語「ヒドロキシル」は、本明細書において用いられているとき、式−OHによって表される。
用語「ニトロ」は、本明細書において用いられているとき、式−NO2によって表される。
用語「シリル」は、本明細書において用いられているとき、式−SiZ1Z2Z3:式中、Z1、Z2、及びZ3は、独立して、上述の、水素、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表される。
用語「スルホニル」は、式−S(O)2Z1:式中、Z1は、上述の、水素、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロシクロアルケニル基であってよい;によって表されるスルホオキソ基を称するのに本明細書において用いられる。
用語「スルホニルアミノ」または「スルホンアミド」は、本明細書において用いられているとき、式−S(O)2NH−によって表される。
用語「チオール」は、本明細書において用いられているとき、式−SHによって表される。
用語「チオ」は、本明細書において用いられているとき、式−S−によって表される。
「R1」、「R2」、「R3」、「Rn」など(nは何らかの整数である)は、本明細書において用いられているとき、上記に列挙した基のうち1つ以上を独立して保有することができる。例えば、R1が直鎖アルキル基であるとき、アルキル基の水素原子のうち1つが、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミン基、アルキル基、ハライドなどによって任意選択的に置換されていてよい。選択される基に応じて、第1基は、第2基内に組み込まれていてよく、または、代替的には、第1基は、第2基へのペンダント(すなわち、付着している)であってよい。例えば、句「アミノ基を含むアルキル基」では、アミノ基が、アルキル基の骨格内に組み込まれていてよい。代替的には、アミノ基が、アルキル基の骨格に付着していてよい。選択された基の性質は、第1基が第2基に埋め込まれるか付着されるかを決定する。
反対であることが記述されていない限り、実線のみで示され、くさび形または破線では示されていない化学結合を有する式は、それぞれ可能性のある異性体、例えば、各エナンチオマー、ジアステレオマー、及びメソ化合物、ならびに異性体の混合物、例えばラセミまたはスカレミック混合物を企図している。
開示されている材料、化合物、組成物、物品、及び方法の具体的な態様を詳細に参照し、その例を、添付の実施例及び図に示す。
化合物
イカリイン(ICA)は、イカリソウ植物由来のフラボノイドグリコシドである。イカリソウ植物はまた、西洋においてはホーニーゴートウィードとして、中国薬局においてはインヨウカクとしても公知であり、豊富なフラボノイドグリコシドを含有する。イカリイン及びその脱グリコシル誘導体イカリチン(3,5,7−トリヒドロキシ−2−(4−メトキシフェニル)−8−(3−メチル−2−ブテン−1−イル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)は、抗炎症性及び抗腫瘍形成活性の向上を含めた、これらの植物のハーブ抽出物から観察される効果に関与していると考えられる。
ICA及び誘導体3,5,7−トリヒドロキシ−4’−メトキシ−8−(3−ヒドロキシ−3−メチルブチル)−フラボン)(ICT)は、MDSCに関連する炎症反応を効果的に阻害することが最近確認された(Zhou Jら、Int Immunopharmacol.2011;11(7):890−8;Wu Jら、Int Immunopharmacol.2011;12(1):74−9(ICA及びICT、ならびにこれらのMDSC及びがんに対する効果及び使用の教示に関して全体が参照により本明細書に組み込まれる)。これらの化合物は、発現を低減することによってS100A8/A9の相互作用を崩壊させ、末梢及び腫瘍内MDSCの数の減少ならびにこれらの活性の不活化をもたらし、結果として腫瘍組織量を低減させる。したがって、一態様において、ICA、イカリチン、及び/またはICTを、薬学的担体ならびに任意選択的な抗がん剤及び/または抗炎症剤と共に含む医薬組成物を本明細書において開示する。また、一態様において、イカリソウ植物の抽出物を、薬学的担体ならびに任意選択的な抗がん剤及び/または抗炎症剤と共に含む医薬組成物を本明細書において開示する。
さらなる態様において、ICA及び/またはICTの誘導体である化合物を本明細書において開示する。例えば、式Iを有する化合物:
I
式中、Yは、N、COH、COR、及びCR1から選択され;
Xは、NH及びOから選択され、ただし、YがNであるとき、XがNHであり、YがCOH、COR、またはCR1であるとき、XがOであることを条件とし;
各Dは、他から独立して、H、OH、OR、及びハロゲンから選択され;
Rは、アルキルまたはモノグルコシドであり;
R1は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、チオール、チオアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されており;
各R2は、任意の他から独立して、水素、ヒドロキシル、アルコキシル、スルホニル、アミノ、チオール、チオアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、ニトロ、スルホニル、またはスルホニルアミノによって任意選択的に置換されており;
nは、0、1、2、3、4または5である;
またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグを本明細書において開示する。
ある特定の例において、各Dは、他から独立して、H、OH、OR、及びハロゲンから選択される。他の具体例において、1つのDがHである。他の例において、両方のDがHである。さらに他の例において、1つのDがOHである。他の例において、両方のDがOHである。なおさらなる例において、1つのDがORである。さらに他の例において、両方のDがORである。
ある特定の例において、R1は、アルキル、アルケニル、またはアルコキシルであり、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、またはヒドロキシルによって任意選択的に置換されている。アルキルまたはアルケニルは、長さが、C1〜C24、より詳細には、C1〜C12、より詳細には、C1〜C8、例えばC3〜C6であってよい。
ある特定の例において、R2は、アルキル、アルケニル、またはアルコキシルであり、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、スルホニル、またはスルホニルアミノによって任意選択的に置換されている。例えば、R2は、メトキシル、エトキシル、プロピルオキシル、メチル、エチル、またはプロピルであってよい。
ある特定の例において、開示されている化合物は、イカリインまたはイカリチンを含まない。そのため、式Iの化合物は、XがOではなく、YがCOHまたはCORではなく、各Dは、両方がOHまたは両方がORではなく、Rが単糖類であり、R1が3−メチル−2−ブテニルではなく、R2がn−メトキシではないという条件を含むことができる。しかし、イカリイン及びイカリチンを、薬学的担体及び任意選択的な抗がん剤または抗炎症剤と共に含む組成物を本明細書において開示する。
YがCOHでありXがOである式Iのいくつかの具体例において、化合物は、式I−A:
I−A
式中、D、R1、n、及びR2は、本明細書において定義されている通りである;を有する。
YがCOHでありXがOである式Iのいくつかの具体例において、化合物は、式I−B:
I−B
式中、D、R1、n、及びR2は、本明細書において定義されている通りである;を有する。
各DがOHであり、YがCOHであり、XがOであり、nが1であり、R2がメトキシルであり、R1がCH2CH2R3である式Iのいくつかの具体例において、化合物は、式II:
II
式中、R3は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されており;
ただし、R3が、クロロイソプロピル、ヒドロキシイソプロピル、イソプロピルアセトアミド、アミノイソプロピル、メトキシイソプロピルではないことを条件とする;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。上記に記述したイカリイン及びイカリチンの条件は、式IIに適用することもできる。
式IIのいくつかの例において、R3は、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されているアルケニル基である。他の例において、R3は、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されているアルキル基である。
1つの具体例において、化合物はICTである。
ICT
R3がNHR4であるいくつかのさらなる例において、化合物は、式III:
III
式中、R4は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されており;
各R2は、任意の他から独立して、水素、ヒドロキシル、アルコキシル、スルホニル、アミノ、チオール、チオアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、ニトロ、スルホニル、またはスルホニルアミノによって任意選択的に置換されており;
nは、0、1、2、3、4または5である;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。
式IIIの化合物のさらなる例は、R2がパラメトキシであり、式III−Aによって表される:
III−A
R4がC(O)R5である式IIIのいくつかの具体例において、化合物は、式IV:
IV
式中、R5は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されており;
各R2は、任意の他から独立して、水素、ヒドロキシル、アルコキシル、スルホニル、アミノ、チオール、チオアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、ニトロ、スルホニル、またはスルホニルアミノによって任意選択的に置換されており;
nは、0、1、2、3、4または5である;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。
式IVの化合物のさらなる例は、R2がパラメトキシであり、式IV−Aによって表される:
IV−A
各DがOHであり、YがCOHであり、XがOであり、nが1であり、R2がメトキシルであり、R1がCH2C(O)NR6R7である式Iのいくつかのさらなる実施形態において、化合物は、式V:
V
式中、R6及びR7は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから独立して選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されており;
各R2は、任意の他から独立して、水素、ヒドロキシル、アルコキシル、スルホニル、アミノ、チオール、チオアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、ニトロ、スルホニル、またはスルホニルアミノによって任意選択的に置換されており;
nは、0、1、2、3、4または5である;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。
式Vの化合物のさらなる例は、R2がパラメトキシであり、式V−Aによって表される:
V−A
各DがOHであり、YがCOHであり、XがOであり、nが1であり、R2がメトキシルであり、R1がCH2CH=CR8R9である式Iのいくつかの実施形態において、化合物は、式VI:
VI
式中、R8及びR9は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから独立して選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されており;
ただし、R8及びR9は、両方がメチルとはならないことを条件とし;
各R2は、任意の他から独立して、水素、ヒドロキシル、アルコキシル、スルホニル、アミノ、チオール、チオアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから選択され、これらの任意のものが、アセチル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシ、アルキルヒドロキシ、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、ニトロ、スルホニル、またはスルホニルアミノによって任意選択的に置換されており;
nは、0、1、2、3、4または5である;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。
式VIの化合物のさらなる例は、R2がパラメトキシであり、式VI−Aによって表される:
VI−A
各DがOHであり、YがNであり、XがNHであり、nが2であり、1つのR2がOCH2CH3であり、他のR2がS(O)(O)NR6R7である式Iのいくつかの実施形態において、化合物は、式VII:
VII
式中、R6及びR7は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから独立して選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されている;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。
各DがHであり、YがNであり、XがNHであり、nが2であり、1つのR2がOCH2CH3であり、他のR2がS(O)(O)NR6R7である式Iのいくつかの実施形態において、化合物は、式VIII:
VIII
式中、R6及びR7は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、またはヘテロアリールから独立して選択され、これらの任意のものが、カルボニル、アルキル、アミノ、アミド、アルコキシル、アルキルヒドロキシル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、カルボニル、ハロゲン、ヒドロキシル、チオール、シアノ、またはニトロによって任意選択的に置換されている;
を有し、またはその薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグである。
各DがHであり、YがCOHであり、XがOであり、nが2であり、1つのR2がOCH2CH3であり、他のR2がS(O)(O)NR6R7である式Iのいくつかの実施形態において、R6及びR7は、本明細書において定義されている通りである。
開示されている化合物の薬学的に許容可能な塩及びプロドラッグもまた、本明細書において開示する。薬学的に許容可能な塩は、化合物において見られる具体的な置換基に応じて、酸または塩基によって調製される、開示されている化合物の塩を含む。本明細書に開示されている化合物が安定な非毒性の酸または塩基塩を形成するのに十分に塩基性または酸性である条件下では、塩としての化合物の投与が適切であり得る。薬学的に許容可能な塩基付加塩の例として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、またはマグネシウム塩が挙げられる。生理学的に許容可能な酸付加塩の例として、塩酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、炭酸、硫酸、ならびに酢酸、プロピオン酸、安息香酸、コハク酸、フマル酸、マンデル酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アスコルビン酸、α−ケトグルタル酸、α−糖リン酸、マレイン酸、トシル酸、及びメタンスルホン酸のような有機酸などが挙げられる。したがって、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、アセテート、プロピオネート、ベンゾエート、スクシネート、フマレート、マンデレート、オキサレート、シトレート、タルトレート、マロネート、アスコルベート、α−ケトグルタレート、α−糖ホスフェート、マレエート、トシレート、及びメシレート塩を本明細書において開示する。化合物の薬学的に許容可能な塩は、当該分野において周知の標準的な手順、例えば、十分に塩基性の化合物、例えばアミンを、好適な酸と反応させて、生理学的に許容可能なアニオンを付与することによって得られ得る。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム若しくはリチウム)またはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)塩が作製されてもよい。
式I−VIIIの化合物は、イカリチンから出発して調製され得る。例えば、イカリチンにおけるイソプレニル部位は、酸化されてアルデヒドとなり得、還元アミノ化されてアミン若しくはアミド、またはエステルとなり得、アミドに転換され得る。さらには、イソプレニル部位は、酸化されてカルボニルとなり得、置換反応に好適な脱離基に転換され得る。
使用の方法
本明細書に開示されているICA、イカリチン、ICT及びこれらの誘導体は、MDSCの活性化を調節し、MDSCによって作り出される腫瘍微環境を改変するのに用いられ得る。これらの化合物、及びこれらを含有する組成物は、MDSCの機能の根本となるS100A9/SIGLEC3シグナリングのダウンレギュレーションを通して作用し得る。本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体によって標的されるシグナリング事象は、PDE5の直接または間接的阻害及びPP2Aの活性化を含むことができ、MDSCによって産生されるNOを含む炎症性メディエーターを制御する。本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体は、DAP12を活性化することにより、SIGLEC3−ITIMシグナリングを阻害し、また、MDSCの数をMDSCの成熟を駆動することによって低減するのに用いられてもよい。本明細書に開示されているICA/ICT及びその誘導体による処理は、NOの産生を媒介するTNFαを低減することができる。本明細書に開示されているICA/ICT及びその誘導体はまた、MDSCの増加、ならびに腫瘍の確立に利益になる抑制サイトカイン(例えば、TGFβ)、血管形成因子(VEGF)及び生存因子の産生のための確立された転写因子であるSTAT3のレベルをダウンレギュレートすることもできる。これらの経路をトリガーするレセプター/リガンド相互作用は明らかではないが、TLR4は、炎症及びがんをもたらすMDSCの発生における主なトリガーとして好まれていた。TLR4は、病原体関連分子パターン(PAMP)ならびに内因性危険シグナル(DAMP)を含む、外因性だけでなく内因性の危険シグナルも認識することができる特殊なレセプターである。S100A8/A9は、TLR4を活性化する細胞によって放出される強力なDAMPである。TLR4/MyD88/IRAK経路は、NF−κB、MAPK及びSTAT3を含めた多数の下流エフェクター経路の活性化に重要であり得る。これらのマーカーのいずれかの欠失は、低減された腫瘍成長と関連し得る。これらのDAMP/レセプター相互作用の最も重要な腫瘍促進性の1つは、MDSCを腫瘍部位に補充する能力であることが示唆されている。そのため、無菌環境におけるがんに関して、DAMPは、腫瘍の進行及び局所的な免疫抑制を促進する炎症反応を始動させる原因となり得る。
したがって、対象におけるがんを処置または防止する方法であって、対象に有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物を投与することを含む方法を本明細書において開示する。さらに、対象において前がん性症候群を処置する方法であって、対象に有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物を投与することを含む方法を本明細書において提供する。前がん性症候群の例として、限定されないが、骨髄異形成症候群、本態性血小板血症、骨髄線維症、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)、真性多血症、腺腫様ポリープ、家族性腺腫性ポリポーシス、遺伝性非腺腫性結腸がん、粘膜下線維症、扁平苔癬、表皮水疱症、円板状エリテマトーデス、子宮頸部異形成、子宮頸部上皮内腫瘍形成、扁平上皮内病変、上皮過形成、腺管がん、及びパジェット病が挙げられる。また、腫瘍を標準のケア治療に敏感にさせる方法であって、対象に有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物を投与することを含む方法も提供する。
腫瘍細胞を殺傷する方法も本明細書において提供する。該方法は、腫瘍細胞を有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物と接触させることを含む。該方法は、第2化合物または組成物(例えば、抗がん剤)を投与することまたは有効量のイオン化放射線を対象に投与することをさらに含むことができる。
腫瘍微環境を変更する方法も本明細書において提供する。該方法は、腫瘍を有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物と接触させることを含む。微環境の変更は、対照と比較したときのMDSCの低減を特徴とすることができる。該方法は、第2化合物または組成物(例えば、抗がん剤)を投与することまたは有効量のイオン化放射線を対象に投与することをさらに含むことができる。
また、腫瘍の放射線治療方法であって、腫瘍を有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物と接触させること、及び腫瘍を有効量のイオン化放射線で照射することを含む方法も本明細書において提供する。対象において炎症を処置する方法も本明細書においてさらに提供し、該方法は、対象に有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物を投与することを含む。任意選択的に、該方法は、第2化合物または組成物(例えば、抗炎症剤)投与することをさらに含むことができる。
開示されている主題は、腫瘍性障害または状態を有する対象を処置するための方法にも関する。一実施形態において、有効量の1つ以上の本明細書に開示されている化合物または組成物が、腫瘍性障害を有しその処置を必要とする対象に投与される。開示されている方法は、腫瘍性障害の処置を必要とするまたは必要とし得る対象を同定することを任意選択的に含むことができる。対象は、ヒトまたは他の哺乳動物、例えば霊長類(サル、チンパンジー、類人猿など)、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、マウスまたは腫瘍性障害を有する他の動物であってよい。対象に投与用化合物を投与及び処方するための手段は、当該分野において公知であり、その例は、本明細書に記載されている。腫瘍性障害として、限定されないが、肛門、胆管、膀胱、骨、骨髄、腸(結腸及び直腸を含む)、乳房、眼、胆嚢、腎臓、口腔、喉頭、食道、胃、睾丸、頸部、頭部、首部、卵巣、肺、中皮腫、神経内分泌、陰茎、皮膚、脊髄、甲状腺、膣、陰門、子宮、肝臓、筋肉、膵臓、前立腺、血液細胞(リンパ球及び他の免疫系細胞を含む)、ならびに脳の前がん性症候群(例えばMDS)、がん及び/または腫瘍が挙げられる。処置が企図される具体的ながんとして、B細胞がん、例えば白血病(急性リンパ芽球性、急性骨髄性、慢性リンパ球性、慢性骨髄性など)、リンパ腫(ホジキン及び非ホジキン)、ならびに多発性骨髄腫が挙げられる。
本明細書に開示されている方法によって処置され得るがんの他の例は、副腎皮質がん、副腎皮質がん、小脳星細胞腫、基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、中枢神経系リンパ腫、頸部がん、慢性骨髄増殖性障害、結腸がん、皮膚T−細胞リンパ腫、子宮内膜がん、上衣腫、食道がん、胆嚢がん、胃がん、消化管カルチノイド腫瘍、胚細胞腫瘍、神経膠腫、毛様細胞白血病、頭部及び首部のがん、肝細胞(肝臓)がん、下咽頭がん、視床下部及び視経路神経膠腫、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、島細胞がん(内分泌膵臓)、喉頭がん、唇及び口腔がん、肝臓がん、髄芽腫、メルケル細胞がん、潜在性菌状息肉腫を伴う頸部扁平上皮がん、骨髄異形成症候群、骨髄性白血病、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、非小細胞肺がん、口腔がん、口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、副鼻腔及び鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、褐色細胞腫、松果体芽細胞腫及びテント上原始神経外胚葉腫瘍、下垂体腫瘍、形質細胞腫/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、前立腺がん、直腸がん、腎細胞(腎臓)がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、ユーイング肉腫、軟組織肉腫、セザリー症候群、皮膚がん、小細胞肺がん、小腸がん、テント上原始神経外胚葉腫瘍、精巣がん、胸腺がん、胸腺腫、甲状腺がん、骨盤及び尿管の移行細胞がん、絨毛性腫瘍、尿道がん、子宮がん、膣がん、陰門がん、ワルデンストレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍が挙げられる。
開示されている主題はまた、それを必要とする患者において感染を処置し及び/または敗血症を防止するための方法にも関する。敗血症は、重篤な感染、最も一般的な細菌だけでなく、血液、尿路、肺、皮膚または他の組織における菌類、ウイルス、及び寄生生物に対する免疫系の応答によって引き起こされる。
開示されている主題はまた、炎症性及び/または自己免疫障害または状態を有する対象を処置するための方法にも関する。MDSCは、自然及び適応の両方の免疫反応を混乱させることによって免疫を抑制する。例えば、MDSCは、アルギニンの取り込み、及びT細胞活性化に必須のアミノ酸であるアルギニンの周囲を枯渇させるアルギナーゼの高い細胞内レベルによってCD4+及びCD8+T細胞を抑制することによってT細胞活性化に間接的に影響する。また、MDSC産生ROS及び過酸化亜硝酸は、TCRのニトロ化を触媒し、これによりT細胞−ペプチド−MHC相互作用を防止することによってCD8+T細胞を阻害する。MDSCはまた、腫瘍免疫を腫瘍促進性のタイプ2表現型に歪曲することによって腫瘍免疫を混乱させる。MDSCは、このことを、タイプ2サイトカインIL−10を産生することによって、また、タイプ1サイトカインIL−12のマクロファージ産生をダウンレギュレートすることによって行う。この効果は、IL−10のMDSC産生を増加させるマクロファージによって増幅される。MDSCの蓄積及び活性化はまた、慢性炎症によっても同定される。例えば、炎症誘発性サイトカインIL−1β及びIL−6ならびに生物活性脂質PGE2は、MDSCを誘発することが知られている。
開示されている化合物によって処置され得る炎症性及び自己免疫障害または状態として、限定されないが、全身性エリテマトーデス、橋本病、関節リウマチ、痛風性関節炎、移植片対宿主病、シェーグレン症候群、悪性貧血、アジソン病、強皮症、グッドパスチャー症候群、炎症性腸疾患、例えばクローン病、大腸炎、非定型大腸炎、薬剤性大腸炎;コラーゲン蓄積大腸炎、遠位大腸炎、空置性大腸炎:劇症大腸炎、不確定大腸炎、感染性大腸炎、虚血性大腸炎、リンパ球性大腸炎、顕微鏡的大腸炎、胃腸炎、ヒルシュスプルング病、炎症性消化器系疾患、クローン病、非慢性または慢性消化器系疾患、非慢性または慢性炎症性消化器系疾患;限局性腸炎及び潰瘍性大腸炎、自己免疫性溶血性貧血、不妊症、重症筋無力症、多発性硬化症、バセドウ病、血小板減少性紫斑病、インスリン依存性真性糖尿病、アレルギー;ぜんそく、アトピー性疾患;動脈硬化;心筋炎;心筋症;糸球体腎炎;再生不良性貧血;肺、前立腺、肝臓、卵巣、結腸、頸部、リンパ及び乳房組織の臓器移植及び多数の悪性腫瘍後の拒絶、乾癬、尋常性座瘡、ぜんそく、自己免疫疾患、セリアック病、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、炎症性腸疾患、骨盤炎症性疾患、再灌流傷害、サルコイドーシス、脈管炎、間質性膀胱炎、1型過敏症、全身性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、ならびに封入体筋炎が挙げられる。
一実施形態において、有効量の1つ以上の本明細書に開示されている化合物または組成物が、炎症性または自己免疫障害を有しその処置を必要とする対象に投与される。開示されている方法は、炎症性または自己免疫障害の処置を必要とするまたは必要とし得る対象を同定することを任意選択的に含むことができる。対象は、ヒトまたは他の哺乳動物、例えば霊長類(サル、チンパンジー、類人猿など)、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、マウスまたは炎症性障害を有する他の動物であってよい。対象に投与用化合物を投与及び処方するための手段は、当該分野において公知であり、その例は、本明細書に記載されている。
神経変性疾患または障害を有する対象を処置する方法も開示する。本明細書において用いられているとき、「神経変性疾患」として、「タンパク質凝集障害」、「タンパク質形態障害」、または「タンパク質オパシー」とも称される、タンパク質凝集関連神経変性疾患が挙げられる。タンパク質凝集関連神経変性疾患として、有害な細胞内タンパク質凝集体(例えば、サイトゾル若しくは核における含有物)または細胞外タンパク質凝集体(例えば、血小板)の形成を特徴とする疾患または障害が挙げられる。「有害なタンパク質凝集」は、2以上のヘテロまたはホモマータンパク質またはペプチドの望ましくない害になる蓄積、オリゴマー化、フィブリル化または凝集体である。有害なタンパク質凝集体は、特徴が疾患を示す場合が多く疾患特異性タンパク質を含有している体、含有物または血小板に堆積され得る。例えば、スーパーオキシドディスムターゼ−1凝集体は、ALSに関連し、ポリQ凝集体は、ハンチントン病に関連し、α−シヌクレイン含有レビー小体は、パーキンソン病に関連する。
神経疾患はまた、疾患誘発実体に間接または直接関係する因子に起因して、免疫系が含む能力を超える疾患誘発因子のレベル、または、免疫機能が疾患進行に付随して低下するまたは抑制される状況を増加させることに関係する免疫不良にも関連する。MDSCは、エフェクターT細胞活性を抑制することによりT細胞欠乏を引き起こし、これにより、免疫不良に関連する神経変性疾患を促進させる可能性がある。
タンパク質凝集障害またはプロテオパシーの代表例として、タンパク質形態障害、α−シヌクレイン病、ポリグルタミン病、セルピノパシー、タウロパシーまたは他の関係する障害が挙げられる。神経疾患の他の例として、限定されないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、アルツハイマー病(AD)、びまん性レビー小体病(DLBD)、多系統萎縮症(MSA)、筋緊張性異栄養症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮(DRPLA)、フリードライヒ失調症、脆弱X症候群、脆弱XE精神遅滞、マシャドジョセフ病(MJDまたはSCA3)、球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病としても知られている)、脊髄小脳失調症1型(SCAl)遺伝子、脊髄小脳変性症2型(SCA2)、脊髄小脳変性症6型(SCA6)、脊髄小脳変性症7型(SCA7)、脊髄小脳失調症17型(SCA17)、慢性肝臓疾患、ニューロセルピン封入体を伴う家族性脳疾患(FENIB)、ピック病、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上まひ(PSP)、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症症候群、白内障、セルピノパシー、溶血性貧血、嚢胞性線維症、ウィルソン病、神経線維腫症2型、脱髄性末梢神経障害、網膜色素変性、マルファン症候群、肺気腫、突発性肺線維症、嗜銀顆粒性認知症、大脳皮質基底核変性症、石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病、第17番染色体に連鎖する前頭側頭型認知症/パーキンソニズム、ハレルフォルデンスパッツ疾患、ニーマンピック疾患C型、亜急性硬化性全脳炎、認知症を含めた認知障害(アルツハイマー病、局所貧血、心的外傷、血管問題若しくは脳卒中、HIV疾患、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルトヤコブ病、周生期低酸素症、他の全身状態若しくは薬物乱用に関連);せん妄、健忘障害若しくは加齢に関係のある認知低下;急性ストレス障害、広場恐怖症、全般性不安障害、強迫性障害、パニック発作、パニック障害、心的外傷後ストレス障害、分離不安障害、社会恐怖症、特定恐怖症、物質誘発性不安障害、及び全身状態に起因する不安を含む不安障害;統合失調症(妄想型、解体型、緊張型若しくは未分化型)、統合失調症様障害、統合失調性障害、妄想性障害、簡単な精神病性障害、共有精神病性障害、全身状態に起因する精神病性障害、及び物質誘発性精神病性障害を含めた統合失調症若しくは精神病;物質関連障害及び常習行動(物質誘発性せん妄、持続性認知症、持続性健忘障害、精神病性障害若しくは不安障害;アルコール、アンフェタミン、大麻、コカイン、幻覚剤、吸入剤、ニコチン、オピオイド、フェンシクリジン、鎮静剤、睡眠薬若しくは抗不安薬を含む物質からの我慢、依存若しくは離脱を含む);無動症及び無動−硬直症候群(パーキンソン病、薬物誘発性パーキンソニズム、脳炎後のパーキンソニズム、進行性核上まひ、大脳皮質基底核変性症、パーキンソニズム−ALS認知症症候群及び基底核石灰化を含む)を含めた運動障害、薬剤誘発性パーキンソニズム(例えば、神経遮断薬誘発性パーキンソニズム、神経遮断薬悪性症候群、神経遮断薬誘発性急性ジストニー、神経遮断薬誘発性急性アカンジア、神経遮断薬誘発性遅発性ジスキネジー及び薬剤誘発性体位性振戦)、ジルドラトゥレット症候群、てんかん、及びジスキネジー、例として、振戦(例えば静止時振戦、体位性振戦及び企図振戦)、舞踏病(例えば、シデナム舞踏病、ハンチントン病、良性遺伝性舞踏病、神経有棘赤血球増加症、症候性舞踏病、薬物誘発性舞踏病及び片側バリズム)、ミオクローヌス(全身性ミオクローヌス及び限局性ミオクローヌスを含む)、チック(単純チック、複合チック及び症候性チックを含む)、ならびにジストニー(全身性ジストニー、例えば特発性ジストニー、薬物誘発性ジストニー、症候性ジストニー及び発作性ジストニー、ならびに限局性ジストニー、例えば眼瞼痙攣、口下顎ジストニー、痙攣性発声障害、痙攣性斜頸、軸性ジストニー、ジストニア書痙及び片麻痺性ジストニーを含む)が挙げられる;肥満、神経性過食症及び強迫性接触障害;骨及び関節痛(変形性関節症)、反復運動痛、歯痛、がん性疼痛、筋膜痛(筋肉損傷、線維筋痛)、周術期痛(一般手術、婦人科)、慢性疼痛、神経障害性疼痛、外傷後疼痛、三叉神経痛、偏頭痛及び片頭痛を含む疼痛;過剰飲食に関連する肥満及び摂食障害ならびにこれに関係する合併症;注意欠陥過活動性障害;行為障害;抑鬱障害、双極性障害、全身状態に起因する気分障害、及び物質誘発性気分障害を含む気分障害;振戦を含む、筋痙直または衰弱に関連する筋肉の痙攣及び障害;尿失禁;筋萎縮性側索硬化症;眼損傷、眼の網膜症若しくは黄斑変性、聴力損失若しくは耳鳴りを含めた神経損傷;嘔吐、脳水腫、及びナルコレプシーを含む睡眠障害、ならびに運動ニューロン細胞のアポトーシスが挙げられる。神経障害性疼痛の例示的な例として、糖尿病性多発神経障害、エントラップメントニューロパシー、幻想痛、脳卒中後の視床痛、ヘルペス後神経痛、抜歯後の非定型顔面神経痛など、脊髄損傷、麻薬性鎮痛薬、例えばモルヒネに耐性の三叉神経痛及びがん性疼痛が挙げられる。神経障害性疼痛として、中枢または末梢のいずれかの神経障害によって引き起こされる疼痛が挙げられる。また、単発ニューロパシーまたは多発ニューロパシーのいずれかによって引き起こされる疼痛が挙げられる。
さらに、対象における慢性疾患の貧血(がん関連貧血を含む)を処置する方法であって、対象に、有効量の本明細書に開示されている化合物または組成物を投与することを含む方法を提供する。
組成物、製剤及び投与方法
開示されている化合物、及びこれを含有する組成物のインビボ適用は、当業者に現在またはこれまで公知である任意の好適な方法または技術によって達成され得る。例えば、開示されている化合物は、生理学的または薬学的に許容可能な形態に製剤化され、当該分野において公知の任意の好適な経路、例えば、経口、経鼻、直腸、局所、及び非経口投与経路によって投与され得る。本明細書において用いられているとき、用語「非経口」として、例えば注射による皮下、皮内、静脈内、筋肉内、腹腔内、及び胸骨内投与が挙げられる。開示されている化合物または組成物の投与は、当業者によって容易に決定され得るように、単回投与であっても、連続または異なる間隔であってもよい。
本明細書に開示されている化合物及びこれを含む組成物はまた、リポソーム技術、除放性カプセル、埋め込みポンプ、及び生分解性容器を利用して投与され得る。これらの送達方法は、長期間にわたって均一な投薬量を有利に提供することができる。化合物はまた、塩誘導体形態または結晶形態で投与され得る。
本明細書に開示されている化合物は、薬学的に許容可能な組成物を調製するための公知の方法に従って製剤化され得る。製剤化は、当業者に周知の容易に入手可能な多くのソースにおいて詳細に記載されている。例えば、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Science(1995)には、開示されている方法と併せて用いられ得る製剤が記載されている。一般に、本明細書に開示されている化合物は、有効量の該化合物が該化合物の有効な投与を容易にするために好適な担体と組み合わされるように製剤化され得る。用いられる組成物はまた、種々の形態であり得る。これらの例として、固体、半固体、及び液体の剤形、例えば、錠剤、丸薬、粉末、液体溶液または懸濁液、坐薬、注射可能及び注入可能溶液、ならびにスプレーが挙げられる。好ましい形態は、意図される投与形態及び治療用途に依る。組成物はまた、当業者に公知の従来の薬学的に許容可能な担体及び希釈剤も好ましくは含む。化合物と共に用いられる担体または希釈剤の例として、エタノール、ジメチルスルホキシド、グリセロール、アルミナ、デンプン、生理食塩水、ならびに等価の担体及び希釈剤が挙げられる。所望の治療的処置のためのかかる剤形の投与を提供するために、本明細書に開示されている組成物は、有利には、担体または希釈剤を含む組成物全体の重量を基準にして対象化合物のうちの1つ以上の合計が約0.1%〜100重量%の間であり得る。
投与に好適な製剤として、例えば、製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする酸化防止剤、バッファ、静菌薬、及び溶質を含有することができる水性無菌注射溶液;ならびに懸濁剤及び増粘剤を含むことができる水性及び非水性無菌懸濁液が挙げられる。該製剤は、単回投与または複数回投与容器、例えば、封止されたアンプル及びバイアルにおいて付与され得、使用の前には、無菌液体担体、例えば、注射用水の状態のみを必要とする凍結乾燥された(凍結乾燥)状態で保存され得る。即時注射溶液及び懸濁液は、無菌粉末、顆粒、錠剤などから調製され得る。本明細書に開示されている組成物は、上記に特に言及した成分に加えて、対象となる製剤のタイプを考慮して有する当該分野において従来的な他の剤を含むことができることが理解されるべきである。
本明細書に開示されている化合物及びこれを含む組成物は、細胞との直接接触を通してまたは担体手段を介してのいずれかで細胞に送達され得る。化合物及び組成物を細胞に送達するための担体手段は、当該分野において公知であり、例えば、リポソーム部位における組成物のカプセル化が挙げられる。本明細書に開示されている化合物及び組成物の細胞への送達の別の手段は、標的となるタンパク質または核酸に化合物を付着させて、標的細胞に送達することを含む。米国特許第6,960,648号ならびに米国特許出願公開第20030032594号及び同第20020120100号には、別の組成物にカップリングされ得、生体膜を横切って組成物が移行することを可能にするアミノ酸配列が開示されている。米国特許出願公開第20020035243号にはまた、細胞膜を横切って生体部位を輸送し細胞内送達させるための組成物も記載されている。化合物はまた、ポリマー内に組み込まれ得、ポリマーの例として、頭蓋内腫瘍についてはポリ(D−Lラクチド−コ−グリコリド)ポリマー;20:80のモル比(GLIADELにおいて用いられるとき)のポリ[ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン:セバシン酸];キチン;ならびにキトサンが挙げられる。
腫瘍性障害の処置のために、本明細書に開示されている化合物は、処置を必要とする患者に、他の抗腫瘍若しくは抗がん物質、ならびに/または放射線及び/若しくは光力学治療、ならびに/または手術処置と組み合わせて投与されて、腫瘍を除去することができる。これらの他の物質または処置は、本明細書に開示されている化合物と同時にまたは異なるときに付与され得る。例えば、本明細書に開示されている化合物は、分裂阻害剤、例えばタキソール若しくはビンブラスチン、アルキル化剤、例えばシクロホスファミド若しくはイフォスファミド、代謝拮抗薬、例えば5−フルオロウラシル若しくはヒドロキシウレア、DNAインターカレータ、例えばアドリアマイシン若しくはブレオマイシン、トポイソメラーゼ阻害剤、例えばエトポシド若しくはカンプトテシン、抗血管形成剤、例えばアンギオスタチン、抗エストロゲン薬、例えばタモキシフェン、ならびに/または他の抗がん薬若しくは抗体、例えば、それぞれ、GLEEVEC(Novartis Pharmaceuticals Corporation)及びHERCEPTIN(Genentech、Inc.)など、あるいは免疫療法薬、例えばイピリムマブ及びボルテゾミブと併用され得る。他の態様において、開示されている化合物は、ACY−1215、Tubacin、TubastatinA、ST−3−06、またはST−2−92のような他のHDAC阻害剤と同時投与される。
ある特定の例において、本明細書に開示されている化合物及び組成物は、1つ以上の解剖学的部位、例えば望ましくない細胞成長(例えば腫瘍部位または良性皮膚成長、例えば、腫瘍または皮膚成長に注射または局所適用される)の部位において、薬学的に許容可能な担体、例えば不活性希釈剤と任意選択的に組み合わされて局所投与され得る。本明細書に開示されている化合物及び組成物は、薬学的に許容可能な担体、例えば、不活性希釈剤、または経口送達用の吸収可能な食用担体と任意選択的に組み合わされて全身投与、例えば静脈内または経口投与され得る。該化合物及び組成物は、硬若しくは軟シェルゼラチンカプセルに封入され得、錠剤内に圧縮され得、または患者の食事の食品と共に直接組み込まれ得る。経口治療投与では、活性化合物は、1つ以上の賦形剤と組み合わされて、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハ、エアゾールスプレーなどの形態で用いられ得る。
錠剤、トローチ、丸薬、カプセルなどは、バインダー、例えばトラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプン若しくはゼラチン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸など;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;及び甘味剤、例えばスクロース、フルクトース、ラクトース若しくはアスパルテームを含有することもでき、または、香味剤、例えばペパーミント、ウインターグリーン油、若しくはチェリー香味料が添加され得る。単位剤形がカプセルであるとき、上記タイプの材料に加えて、液体担体、例えば植物油またはポリエチレングリコールを含有することができる。種々の他の材料は、コーティングとして存在し得、または他の場合には、固体単位剤形の物理的形態を変更することができる。例えば、錠剤、丸薬、またはカプセルは、ゼラチン、ワックス、シェラック、または糖などでコーティングされ得る。シロップまたはエリキシルは、甘味剤として活性化合物、スクロースまたはフルクトース、保存料としてメチル及びプロピルパラベン、染料、ならびに香味料、例えばチェリーまたはオレンジフレーバーを含有することができる。当然ながら、あらゆる単位剤形の調製の際に用いられるあらゆる材料は、薬学的に許容可能であって、かつ、使用量で実質的に非毒性であるべきである。また、活性化合物は、除放性の調製物及びデバイス内に組み込まれ得る。
薬学的に許容可能な塩若しくはプロドラッグを含む、本明細書に開示されている化合物及び組成物は、注入または注射によって静脈内、筋肉内、または腹腔内投与され得る。活性剤またはその塩の溶液は、水において調製され得、任意選択的に、非毒性の界面活性剤と混合され得る。ディスパージョンはまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、及びこれらの混合物において、また、油においても調製され得る。通常の保存及び使用状態下で、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための保存料を含有することができる。
注射または注入に好適な薬学的剤形は、無菌の注射可能または注入可能な溶液またはディスパージョンの即時調製に適合し、任意選択的には、リポソームにカプセル化される、活性成分を含む無菌水性溶液若しくはディスパージョンまたは無菌粉末を含み得る。最終剤形は、無菌の流体であって、製造及び保存条件下に安定であるべきである。液体担体またはビヒクルは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、非毒性グリセリルエステル、及びこれらの好適な混合物を含む溶媒または液体ディスパージョン媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、リポソームの形成によって、ディスパージョンの場合には所要の粒径の保持によって、または界面活性剤の使用によって維持され得る。任意選択的に、微生物の作用の防止は、種々の他の抗菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合において、等張剤、例えば、糖、バッファまたは塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの包含によってもたらされ得る。
無菌の注射可能溶液は、適切な溶媒中に、本明細書に開示されている化合物及び/または剤を所要の量で、必要に応じて上記に列挙した種々の他の成分と共に組み入れ、続いて、ろ過滅菌をすることによって調製される。無菌の注射可能溶液の調製のための無菌粉末の場合には、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、予め滅菌ろ過した溶液に存在する活性成分及び任意のさらなる所望の成分の粉末を生じさせる。
局所投与では、本明細書に開示されている化合物及び剤は、液体または固体として適用され得る。しかし、皮膚科学的に許容可能な担体と組み合わされて、固体または液体であり得る組成物として皮膚に局所的に投与されることが一般に望ましい。本明細書に開示されている化合物及び剤は、対象の皮膚に局所適用されて、悪性または良性腫瘍のサイズを低減することができ(及び完全な除去を含むことができる)、または感染部位を処置することができる。本明細書に開示されている化合物及び剤は、腫瘍または感染部位に直接適用され得る。好ましくは、化合物及び剤は、腫瘍または感染部位に、製剤、例えば軟膏、クリーム、ローション、液剤、チンキ剤などで適用される。
有用な固体担体として、微細に分割された固体、例えばタルク、クレイ、微結晶性セルロース、シリカ、アルミナなどが挙げられる。有用な液体担体として、化合物が任意選択的には非毒性界面活性剤の補助によって有効なレベルで溶解または分散され得る、水、アルコール若しくはグリコールまたは水−アルコール/グリコールブレンドが挙げられる。アジュバント、例えば香料及びさらなる抗微生物剤は、所与の使用のために特性を最適化するように添加され得る。得られる液体組成物は、帯具及び他の包帯に含浸させるのに用いられる吸収パッドから適用され得、または例えばポンプ型若しくはエアゾール噴霧器を用いて患部に噴霧され得る。
増粘剤、例えば合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩及びエステル、脂肪アルコール、変性セルロースまたは変性鉱物材料もまた、ユーザーの皮膚に直接適用するために展開可能なペースト、ジェル、軟膏、石鹸などを形成するのに液体担体と共に使用され得る。
本明細書に開示されている化合物及び剤ならびに医薬組成物の有用な投薬量は、動物モデルにおいてインビトロ活性及びインビボ活性を比較することによって決定され得る。マウス及び他の動物において有効な投薬量をヒトに外挿するための方法は、当該分野において公知である。
また、本明細書に開示されている化合物を薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含む医薬組成物も開示する。ある量の化合物を含む、経口、局所または非経口投与に適合される医薬組成物は、好ましい態様を構成する。患者、特にヒトに投与される用量は、致死毒性を有さず、好ましくは、副作用または病的状態が許容可能なレベルを超えないようにして、合理的な時間枠にわたって患者において治療応答を達成するのに十分であるべきである。当業者は、投薬量が、対象の状態(健康)、対象の体重、同時に行う処置の種類、もしあれば、処置の頻度、治療可能比、ならびに病態の重篤度及びステージを含めた種々の因子に依存することを認識する。
また、本明細書に開示されている化合物を含む組成物を1つ以上の容器に含むキットも開示する。開示されているキットは、薬学的に許容可能な担体及び/または希釈剤を任意選択的に含むことができる。一実施形態において、キットは、本明細書に記載されているように、1つ以上の他の構成要素、付属物、またはアジュバントを含む。別の実施形態において、キットは、1つ以上の抗がん剤、例えば本明細書に記載されている抗がん剤を含む。一実施形態において、キットは、キットの化合物または組成物をどのように投与するかを記載している指示書または包装材料を含む。キットの容器は、任意の好適な材料、例えば、ガラス、プラスチック、金属などを有し、任意の好適なサイズ、形状、または構成を有し得る。一実施形態において、本明細書に開示されている化合物及び/または剤は、固体、例えば錠剤、丸薬、または粉末形態としてキットにおいて提供される。別の実施形態において、本明細書に開示されている化合物及び/または剤は、液体または溶液としてキットにおいて提供される。一実施形態において、キットは、本明細書に開示されている化合物及び/または剤を液体または溶液形態で含有するアンプルまたはシリンジを含む。
以下の実施例は、開示されている主題による方法及び結果を示すのに記載される。これらの実施例は、本明細書に開示されている主題の全ての態様の包含を意図しておらず、むしろ、代表的な方法及び結果を示すことを意図している。これらの実施例は、当業者に明らかである、本発明の等価物及び変形例を排除することを意図していない。
数値(例えば、量、温度など)に関して正確さを確保するよう努力しているが、いくらかの誤差及び偏差が考慮されるべきである。別途示されていない限り、部は重量部であり、温度は℃であるか、周囲温度であり、圧力は、大気圧またはその付近である。反応条件の多数の変形例及び組み合わせ、例えば、成分濃度、温度、圧力、ならびに、記載のプロセスから得られる生成物の純度及び収率を最適化するのに用いられ得る他の反応範囲及び条件が存在する。かかるプロセス条件を最適化するのに、合理的かつ常套的な実験のみが必要とされる。
実施例1:ICA/ICTはMDSCの調節によりインビボ腫瘍成長を防止する
ICA及びICTの最も顕著な特徴の1つは、インビボでの抗腫瘍形成能である。5匹のマウスからの直径1cmの4T1腫瘍を感染後7日でBALB/cマウスに確立させた。マウスを100mg/kgのICA、ICTまたはビヒクル(i.p.)で1週間に3回処置し、腫瘍サイズ(平均及びSD)を2〜3日毎にモニタリングした。二重陽性のGr−1+CD11b+MDSCの割合を1群あたり5匹のマウスの脾臓について求めた。細胞表現型をフローサイトメトリーによって評価した。ICA及びICTは、MDSCを循環させる割合をそれぞれ50.28%〜33.35%及び26.97%だけ有意にダウンレギュレートすることができることが分かる(図1)。ICA及びICTは、循環するMDSCの蓄積及び活性化を減少させることによってインビボ腫瘍成長を阻害することができることが分かる(Zhou Jら、Int Immunopharmacol.2011;11(7):890−8;Wu Jら、Int Immunopharmacol.2011;12(1):74−9)。
MDSCの分化におけるICAまたはICT。
さらに、これらの化合物の毒性を腫瘍細胞及び免疫細胞において試験したところ、ICA及びICTが造血または骨髄由来の細胞、例えばPBMC、骨髄単核細胞(BMMC)、またはU937細胞(IC50>100μM)に毒性でなく、造血に影響しないことが分かる(図2)。具体的には、健常な3ドナーからのBMNCを異なる濃度のICAまたはICTで48時間処理し、その後、サイトカインを含むMethoCultH4434完全培地を用いてコロニー形成をアセスメントした。混合物を35mmの培養皿(1×105細胞/各皿)に置き、5%CO2中37℃で約7〜14日間インキュベートした。インキュベーション後、CFU−E、BFU−E及びCFU−GMのコロニーを同定し、倒立光学顕微鏡を用いて計数した。この観察により、腫瘍微環境におけるMDSCのダウンレギュレーションと、本明細書に開示されているICA、ICT及び誘導体による処理との間の強い相関が実証される。しかし、これらの細胞を脾臓から得たが、ICA/ICTは、腫瘍組織から単離したMDSCに同様の影響を及ぼすことも分かった。ここでは、Gr1+細胞を4T1腫瘍担持マウスの腫瘍から得た。MDSCを20μMのICA、ICT、またはDMSOで48時間処理した。バーは、フローサイトメトリーによって測定したDMSO処理細胞と比較したMDSCの相対割合を表す(図3A)。腫瘍組織からの精製MDSCのROS(図3B)及びNO(図3C)活性の産生も測定した。
実施例2:ICA及びICTは、ヒトPBMCにおいてSIGLEC3/CD33発現を阻害することができる
SIGLEC3は、AMLを有する患者から単離されるMDSCにおいて高度に発現される(図6a)。ICA及びICTは、mRNA及びタンパク質の両方の発現レベルでSIGLEC3をダウンレギュレートすることが可能であることが分かった(図4及び5)(Zhou Jら、Int Immunopharmacol.2011;11(7):890−8)。具体的には、健常なPBMCを1μMのDMSO、ICAまたはICTで48時間培養し、SIGLEC3の発現をQ−PCRによって測定し、ΔΔCt法によって分析した。また、健常なドナーからのPBMCをDMSOまたはICTで48時間処理し、SIGLEC3−PE及びSIGLEC5/14−APC抗体によって細胞外染色した(BD biosciences)。S100A9は、SIGLEC3によってライゲーションすることができ、MDSC活性化の調節を標的とする特定のストラテジーの同定に関係し得る未特性化経路の存在を表している。
実施例3:SIGLEC3の内因性リガンドとしてのS100A9の同定
PDE5、及びS100A9経路とのその相互作用は、腫瘍におけるMDSCの蓄積及び活性化に必須であり得るが、その具体的な上流経路はあまり理解されていない。白血病を有する患者のMDSCにおけるSIGLEC3の顕著な増加が実証されている(図10a)(Wei Sら、ASH Annual Meeting Abstracts.2009;114(22):597)。SIGLEC3は、MDSC用マーカーであり、ITIMモチーフを通して抑制シグナリングを媒介し得るが、その関係するリガンドまたは以下の経路は、依然として未知である。そのため、SIGLEC3の細胞外ドメインのキメラをヒトIgG−Fcによって作り出し、該キメラを用いて、MDS(骨髄異形成症候群、AML(急性骨髄性白血病)に転換する前悪性障害)を有する患者の骨髄(BM)から単離したMDSCの溶解物からのリガンドを免疫沈降させ、質量分析によって分析した。最も顕著なバンドは10及び15kDaの間にあり、また、質量分析後の最も顕著なヒットの1つはS100A9であった。SINGLE3とS1−A9との間の相関は確立されているため、インビトロでの直接結合アッセイを実施して、単離された系におけるこれらの2つの成分間での親和性を裏付けた。図7において分かるように、SIGLEC3キメラが直接結合したS100A9は、トランスフェクトAD293細胞において発現した(同様の結果が、SJCRH30横紋筋肉腫細胞、SIGLEC3の発現を欠失する細胞株において得られた)。さらに、免疫沈降S100A9は、SIGLEC3に直接特異性を示し、また、このレセプターを発現する細胞、例えばMDS患者からのMDSCは、SIGLEC3との共局在によって実証されているように、組み換えヒト(rh)S100A9に結合することができる(図8及び図6b)。興味深いことに、S100A9と通常対をなすS100A8は、個々にではなく、ヘテロ多量体の部分としてのみ生じ、S100A9が、SIGLEC3の実際のリガンドであり得ることを示している。
実施例4:S100A9/SIGLEC3は、MDSCにおけるPDE5及びタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)の両方の活性に関係し得、ICA及びICTによって調節され得る
ICA/ICTは、処理後のNF−κB及びMAPKの脱リン酸化と相関する(Zhou Jら、Int Immunopharmacol.2011;11(7):890−8)、インビトロでのPP2Aのホスファターゼ活性をアップレギュレートすることができる(図9)。これら2つのタンパク質の直接的な会合または結合を、PP1について最近実証されている(Murthy KS.Br J Pharmacol.2008;153(6):1214−24)ように試験した。予想外にも、PP2Aは、PP2Aによるウエスタンブロッティングに続いてPDE5の共免疫沈降によって実証されるように、PDE5に構造的に結合していることが分かった(図10)。S100A9/SIGLEC3及びPDE5の活性化を相関する関係が存在するかを理解するために、SJCRH30細胞を、ベクター、S100A9またはSIGLEC3のいずれかによってトランスフェクトした。細胞をトランスフェクション後72時間溶解させ、PDE5またはそのリン酸化されたカウンターパートのいずれかについてのウエスタンブロットによってアセスメントした。SIGLEC3の過剰発現は、PDE5の活性化をアップレギュレートしたが(リン−Ser92に特異的な抗体を用いるウエスタンブロットによって検出され得る、PDE5におけるSer92でのリン酸化の向上によって実証される、増加したPDE5活性化)、その発現は、依然として変化しなかった(図11)。これは、本明細書に開示されているICA、ICT、及びこれらの誘導体によって具体的に標的とされ得る新規のMDSC活性化経路を表す。
実施例5:PDE5へのICA及びICTの結合形態のモデリング
ICA及びICTは、他のPDE5阻害剤に同様の影響を及ぼし得るが、PDE5分子における阻害箇所に結合することが可能であるかは実証されていない。イカリシドIIであるICAの代謝産物は、共結晶構造を有し、モデル構築体を用いて、この部位についてのICA及びICT化合物の結合親和性を実証した。
ここで用いた結晶構造は、2H44であり、タンパク質データバンクから得た。これは、1.0Åの分解能でイカリシドIIによって複合体化されたPDE5A1を特徴とする(Wang Hら、J.Biol.Chem.2006;281(30):21469−79)。小さな分子構造をPubChemから得、該構造は:イカリイン(CID:5318997)、イカリチン(CID:5318980)、及びイカリシドII(CID:6852214)を含み;ICT(3,5,7−トリヒドロキシ−4’−メトキシ−8−(3−ヒドロキシ−3メチルブチル)−フラボン)は、イカリチン構造体から生じた。
シュレディンガーのDiscovery Suite(Schrodinger、L.L.C.)をドッキング研究のために用いた。LigPrep2.4(Schrodinger、L.L.C.)を、5.0〜9.0の範囲のpH値についてEpikを用いての互換異性体及び代替のイオン化状態の生成を含む構造ライブラリの作製のために、また、必要に応じて立体異性体の生成のために用いた。シュレディンガーのGLIDE5.6(Schrodinger、L.L.C.)を、2H44についてレセプターグリッドを生成するために、また、基準精度(SP)、続いて超高精度(XP)を用いたドッキングのために用いた。Sitemap2.4(Schrodinger、L.L.C.)を、疎水性領域、水素結合供与領域、及び水素結合受容領域を含む2H44の結合部位の化学的性質を決定するために用いた。2H44を調製して、欠落原子に起因する側鎖を補正し、タンパク質内の水素結合を最適化し、水分子を除去し、OPLS−2005力場を用いて0.30Å以下のRMSDに対して拘束エネルギー最小化を実施するタンパク質調製ワークフローを用いた研究をモデル化した。
2H44結晶構造体を、デフォルト値を用いて上記のように調製した。レセプターグリッドを、共結晶化リガンド、イカリシドIIを用いて生成し、グリッド中心を決定した。他の設定を、最大に設定したグリッドサイズを除いてデフォルト値にした。イカリシドIIを2H44結晶構造体から抽出し、LigPrepを用いることによって調製した。合計32の構造体を得、モデルが2H44においてイカリシドIIの共結晶化様態を再生させる可能性を検証するドッキングシミュレーションのための試験ライブラリを形成した(図12A)。GLIDEをデフォルト設定で用い、基準精度(SP)ドッキング、続いてPDE5A1に対するイカリシドIIの超高精度再調整(XP)を実行した。最低のエネルギー様態は、−17.22kcal/molのGscoreを有し、イカリシドIIの共結晶位置(0.9558のRMS、図12A)と重なる。水素結合は、S668、H613、及びI665で同定され、これらの全てが、元々の結晶学的様態に存在する。これらの結果は、モデルがイカリシドIIに関する分子の結合様態を予測するのに好適であるという確実性を提供する。
ICTを、先の構造(5318980PubChem構造)を修飾することにより生じさせた。ICTを調製し、上記のようにLigPrepを用いてイカリシドIIとドッキングした。対照ドッキングとして、XP再調整によるSPドッキングを、イカリシドIIドッキングにおいてPDE5A1で先に生成したリガンドライブラリ及びレセプターグリッドとしてのICTのLigPrep結果(1構造体のみ)を用いて実行した。−13.013Kcal/molのglideスコア(Gscore)を有する、単一の様態をXPドッキングから得た。この様態は、3つの水素結合相互作用S663、H613、D764(点線)、及びF820と重なるポテンシャルpiを提示する(平行な点線)(図12B)。この結果は、リガンドの最適化を実行するのに必要とされる情報を提供する。予測されるコンピュータでの相互作用の検証をサポートするために、ICA及びICTの両方が、環式ヌクレオチドホスホジエステラーゼアッセイキット(Promega Corp)によってPDE5のホスホジエステラーゼ活性を遮断することができることをインビトロで実証した。
実施例6:SIGLEC3/CD33レセプターへのS100A9結合を介した炎症性MDSCの活性化
S100A9によるSIGLEC3のライゲーションに続く下流シグナリング事象は、健常なドナーの骨髄から単離したIMC(CD33+HLA−DR−Lin−)(Lonza Walkersville Inc.(Walkersville,MDから購入)を用いてアセスメントすることができる。組み換えヒトS100A9−DDKを用いて、PBMCまたはIMCのいずれかを15、30、45または60分間刺激することができ、その後、サイトスピンし、蛍光コンジュゲート抗MYC及び抗SIGLEC3抗体によって染色することができる。次いで、2つのタンパク質の共局在、及び結合後の複合体の内部箇所を観察することができる。SIGLEC3をアデノウイルスまたはレンチウイルス(LV)ベクターにおいて調製することができ、rhS100A9−DDKによる24、48、または72時間の処理の前に、IMCまたはSJCRH30のいずれかの細胞において(図7及び図8にてなされるように)過剰発現することができる。このストラテジーは、S100A9/SIGLEC3を通してのシグナリングがIMCを活性化し、MDSCへの分化を誘発することができるかを確認するのに用いることができる。S100A9をSIGLEC3と嵌め合わせた後、培養上澄みを収集し、抑制可溶性因子:TGFβ、IL−10、VEGF、ROS及びNOの産生について分析することができる。SIGLEC3、PDE5、PKC及びPP2Aの発現は、QPCRによって試験することができ、活性化は、リン酸化状態または活性化のいずれかによってウエスタンブロット分析により測定することができる。S100A9のカルシウム結合活性がレセプターへの結合親和性に影響を及ぼすかをアセスメントするために、また、糖ライゲーションの役割を理解するために、キレート剤、例えばEDTAまたはグリコシダーゼ(S100A9の糖部位を除去する)を添加することができる。S100A9によるライゲーションの際、IMCは活性化してMDSCとして振る舞い、S1009/SIGLEC3ライゲーションがMDSCの活性化に重要であるという明らかな証拠を提供することができる。同様のストラテジーに続いて、SIGLEC3を発現するIMCをICA/ICTで処理することができ、その後、S100A9によってライゲーションして、この経路をICA/ICTによって調節することができるかを調査する。これらの化合物による処理の際、S100A9/SIGLEC3媒介シグナリングを遮断することができ、これにより、DMSO処理細胞と比較して、低減されたIMC−MDSC転移、減少された抑制サイトカイン産生及びNO/ROS産生をもたらす。
MDSCのSIGLEC3シグナリングにおける細胞内ITIMドメインの責任をアセスメントするために、ITIMチロシン部位のいくつかのCD33ドミナントネガティブ変異体(CD33Y340F、CD33Y358F及びCD33Y340/Y358F)を作製することができる(フェニルアラニンによるまたはアラニンによるチロシン置換)。これらの変異体及び野生型(wt)SIGLEC3をAD293またはSJCRH30細胞にトランスフェクトすることができる。これらの横紋筋肉腫細胞は、内因性SIGLEC3及びS100A9を発現しない。3つの主な下流シグナリング機能は、rhS100A9によるライゲーション後、これらのSIGLEC3発現細胞においてアセスメントすることができる。まず、MAPK/ERK活性化を、抗リン−MAPKによるウエスタンブロット分析を用いてアセスメントすることができる。MAPKは、ITIMシグナリングの下流標的であり得る(Yoder JAら、Proc Natl Acad Sci USA.2001;98(12):6771−6)。SIGLEC3シグナリングの特異性は、アイソタイプ抗体または非関連リガンド、例えばS100A7を用いて制御することができる。対照として、培地のみで培養し、対照ベクターでトランスフェクトし、SIGLECをトランスフェクトすることなく非関連リガンドでライゲーションしたAD293またはSJCRH30細胞を含むこともできる。wt−SIGLEC3トランスフェクト細胞におけるS100A9/SIGLEC3シグナリングは、MAPKのリン酸化レベルを低減するSHP1/2を補充することができる。しかし、SIGLEC3変異体群において、架橋SIGLEC3は、SHP1/2ホスファターゼの補充に失敗して、結果として、MAPKのリン酸化レベルの増加または持続のいずれかをもたらす可能性がある。第2に、SIGLEC3トランスフェクタントにおけるITIMシグナリングは、S100A9によるライゲーションに続いて直接測定することができる。MDSCは、SIGLEC関連ITIMを使用して、抑制機能を媒介する。SIGLEC3をS100A9と嵌め合わせた後、ITIMにおけるチロシンがリン酸化状態となり、チロシンホスファターゼSHP1/SHP2を補充及び活性化することができる。そのため、ITIMモチーフのリン酸化または細胞質チロシンホスファターゼの補充は、抗CD33mAbを用いたSIGLEC3の免疫沈降、続いて抗ホスホチロシンまたは抗ホスファターゼ抗体それぞれによるウエスタンブロット分析によって測定することができる。第3に、SIGLEC3トランスフェクタントを48〜72時間培養することができ、上澄みを、TGFβ、IL−10及びVEGFの産生ならびにROS及びNOの産生についてアセスメントすることができる。SIGLEC3の特異的架橋により、TGFβ、IL−10及びVEGFの産生の増加をもたらすことができる。これらの細胞において過剰発現したwt−SIGLEC3はまた、これらのサイトカインを増加させることもできる。対照的に、SIGLEC3変異体−トランスフェクト細胞は、これらの細胞におけるITIMシグナリングの欠失に起因する抑制サイトカイン産生の減少も表示することができる。
初代細胞における結果を確認するために、健常なドナーからのヒトIMCにおけるS100A9/SIGLEC3シグナリングの分子機構を調査することができる。このため、全てのSIGLEC3構築物をレンチウイルスベクター(LV)に変換して、IMCにおいて発現することができる。LV−SIGLEC3構築物をIMCに導入することができ、S100A9との架橋後、1)サイトカイン、ROS及びNOの産生のアセスメント、2)骨髄細胞の成熟を遮断し、MDSC蓄積を誘発する、IMCにおけるwt−SIGLEC3の長期(14日間)過剰発現のモニタリング;に用いることができる。
ITIMのリン酸化を測定して、トランスフェクタントにおけるSIGLEC3シグナリングに対するICA/ICTの影響を決定することができる。種々の濃度及び時間で細胞をICA/ICTによって処理した後、ITIMのリン酸化及びホスファターゼの補充を、SIGLEC3レセプターの免疫沈降、続いて抗ホスホチロシンまたは抗ホスファターゼ抗体それぞれを用いるウエスタンブロット分析によって測定することができる。このストラテジーは、SIGLEC3シグナリングがICA/ICT機能に関与しているか否かを明らかにすることができ、かつ/またはICA/ICTがレセプターレベルでS100A9/SIGLEC3シグナリング経路を破壊し得るかを確認することができる。
SIGLEC3は、腫瘍組織からのMDSCにおいて過剰発現するため(図6a)、SIGLEC3を用いて、ICA/ICTによる処理によりまたは該処理によらずにS100A9/SIGLEC3によって媒介されるシグナリング事象を試験することができる。SIGLEC3は、がんから単離したMDSCにおけるS100A9及びSIGLEC3の発現レベル;抑制サイトカインの産生(例えば、TGFβ、IL−10など);該MDSCにおけるROS及びNOの産生;ならびにS100A9/SIGLEC3シグナリングの下流分子の変化;を調査するのに用いることができる。先に観察したICA/ICTの効果に基づいて、MDSCにおけるMAPK、PI3K−AKT、STAT3及びTLR4の活性化を、SIGLEC3/S100A9抑制経路の成分としての役割に起因して試験することができる。
S100A8/A9は、インビボでTLR4を活性化することができることが報告されている(Ehrchen JMら、J Leukoc Biol.2009;86(3):557−66)。このように、本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体は、TLR4シグナリングを阻害することができ、TLR4及びSIGLEC3の両方の経路に直接または間接的に影響してよい。このことは、ICA/ICTによって標的とされる特異的な経路を同定すること、ならびにSIGLEC3及びTLR4経路が炎症の際にMDSC活性化をどのように画策するかの知識を取得することを助けることができる。いくつかのアプローチを用いて、SIGLEC3及びTLR4が、NF−κB及びMyD88欠失マウスを含めて、これらの剤による処理への応答においてどのようにクロストークしてよいかを調査することができる。RNAiストラテジーを用いてこの問題に対処することができる。shRNA(LV−shRNA)を含有するLVベクターは、ICA/ICT処理の後の下流事象を調査し、両方の経路に対するこれらの化合物の影響を比較するために、特異的なシグナリングタンパク質をノックダウンするのに用いることができる。S100A9、SIGLEC3、TLR4及びMyD88に特異的なshRNAは、LVベクター内に設計及び構成することができる。このLV−shRNAは、発現がS100A9/SIGLEC3またはTLR4シグナリングに直接関係するかを決定するためのこれらの遺伝子の強制的なサイレンシングに用いることができる。ウイルスベクター/モック−感染細胞、GFP含有ベクターまたは非標的shRNAのトランスフェクションを対照として用いることができる。トランスフェクション速度及びタンパク質特異的発現を、FACS、ウエスタンブロット、及びQ−PCRによって検証することができる。上記shRNAを用いるSIGLEC3またはTLR4経路のいずれかのタンパク質特異的ノックダウンの後、細胞を、SLGLECシグナリングのためのrhS100A9、またはTLR4シグナリングのためのLPSのいずれかによって、下流シグナル事象の測定の前に処理することができる。S100A7を非特異的な対照として用いることができる。特異的なshRNAは、S100A9/SIGLEC3シグナリングまたはTLRシグナリングのいずれかを崩壊し得る。この点において、これらのTLR4またはSIGLEC3欠失細胞を用いて、下流のMDSC活性の測定により、ICT/ICA処理に直接または間接的に応答することができるかを決定することができる。これは、MDSC活性化だけでなくICA/ICT応答にも関与するシグナル変換経路として価値のある見識を提供することができる。TLR4活性を、リン−IκBαまたはNF−κB核転座のレベルを測定することによってアセスメントすることができる。
実施例7:ICA及びICTによるプロ炎症性メディエーターの不活化におけるPP2AによるPDE5阻害の役割
RNSは、MDSCにおける強力な炎症性メディエーターであり、ホスホジエステラーゼ−5(PDE5)によって誘発される酵素iNOSの制御下にあることが知られている。このように、活性化されたPDE5は、MDSCによるNOのロバスト産生を誘発し、免疫抑制を媒介することができる。PDE5は、S100A9/SIGLEC3ライゲーションによって誘発され得る。例えばシルデナフィルによる、MDSCにおけるPDE5阻害は、マウスにおいて腫瘍成長を防止するのに効果的であり得;作用は、インビボでのMDSCの抑制に対してトレースすることができる(Serafini Pら、J Exp Med.2006;203(12):2691−702)。そのため、iNOSの上流にあるPDE5は、MDSCの活性化及び機能のための因子であり得る。
本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体は、MDSC及びiNOSを低減するシルデナフィルと同じ効果を有することができ、ICA/ICTは、PDE5阻害を介して作動して、この成果を達成することができる。実際、ICA及びICTは、PDE5に結合することができる(図12)。ICA/ICTは、腫瘍担持マウスの組織から単離されたMDSCによってNO及びROSの産生を阻害することができ、腫瘍部位においてMDSCの蓄積を阻害することができる(図3)。そのため、本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体は、MDSCにおけるPDE5活性の調節を通して作用し得る。
MDSCを上記のように単離して、PDE5またはPDE4(PDE5阻害剤によって影響されないホスホジエステラーゼ)に特異的なLV−shRNAによって処理して、ノックダウンPDE5が単独でMDSCの機能的活性化を低減するのに十分であるか否かを確認することができる。次いで、LV−PDE5をMDSC、IMCまたはSJCRH30において過剰発現させ、続いて、ICA/ICT処理をすることができる。全MDSCの生物学的機能を評価して、ICA/ICTがPDE5とどのように相互作用するかに対処することができる。トランスフェクトされた細胞を異なる用量(1、5、10及び20μM)で異なる時間(24、48または72時間)にわたってICA/ICTで処理することができる。次いで、該細胞を、a)ELISA及びQ−PCRにより、iNOS、TGFβ及びIL−10の発現;b)ウエスタンブロットにより、IκBα、p38、AKT及びSTAT3を含む炎症マーカーのリン酸化状態;c)IMC成熟状態(PDE5の過剰発現は、IMC成熟を遮断し、MDSCの増加を促進することができる);ならびにd)(抗CD3及びCD28またはPHA活性化(1μg/ml)によって)刺激された自家移植CFSE標識T細胞と共に種々の比で処理MDSCを共培養することにより、T細胞抑制;について分析することができる。低減されたT細胞増殖は、MDSC活性化の1つの指標であり、ICA/ICTは、PDE5活性を遮断することによってMDSCの阻害に起因してT細胞増殖を改善することができた。そのため、ノックダウンPDE5は、ICA/ICTの効果を複製することができる一方で、PDE5の過剰発現は、MDSCに対するPDE5及びICA/ICTの両方の効果を立証することができる。
SIGLEC3をPDE5に間接的に関連させることができるが、これらの関係は、直接研究されてはいない。S100A9/SIGLEC3シグナリングに対するPDE5の応答は、増加された活性化であり得るという証拠がある(図11)。PDE5は、ICA/ICT処理後に減少する会合であるPDE5のセリン92を脱リン酸化することができるレギュレーター、ホスファターゼ−2A(PP2A)と構造的に会合することができることも示されている(図10)。ICA/ICTは、PP2A酵素活性を有意にアップレギュレートすることができ(図9)、PDE5の直接阻害の他に、PP2Aを代替的に刺激してPDE5を抑制することができることを示している。PP2Aは、腫瘍サプレッサー及び細胞成長の阻害剤として最もよく知られており、活性化するとき、標的細胞にアポトーシスを経るようにさせることができる。このホスファターゼは、がん患者においてダウンレギュレートされるため、その発現及び活性がMDSCにおいて低減され得、抑制機構の一部となり得ることも確立されている。PP2A(PP2Aca)の触媒サブユニットにおけるtyr−307のリン酸化は、酵素活性の不活化に関与し得る。そのため、MDSCからのPP2Aのtyr−307のリン酸化状態を、S100A9によるライゲーション後にウエスタンブロットによってアセスメントし、PP2A活性がMDSCにおいて低減するかを調査することができる。その後、MDSCにおいて減少したPP2A活性をICA/ICT処理によって取り返すことができるかを調査することができる。抗SIGLEC3による共免疫沈降を実施して、PP2A、PDE5及びSIGLEC3が同じ複合体に共存するかを確認することができる。Ser92のリン酸化を、SIGLEC3免疫沈降、またはMDSCから調製された細胞溶解物全体においてウエスタンブロットによってモニタリングすることができる。MDSCの生存をモニタリングして、アポトーシスまたはG1アレストがICA/ICTによる処理後に増加するかを調査することができる。増加したPP2A活性は、ICA/ICTによって誘発される低減されたMDSC蓄積に寄与する機構の1つであり得る。
PP2Aのホスファターゼ活性もまた、インビトロホスファターゼアッセイキットを用いることによって検証することができる。PP2A活性ホルスコリンの試験に含まれる全てのアッセイにおいて、PP2Aのアクチベーターを陽性対照として含むことができ、阻害剤であるオカダ酸を陰性対照として用いることができる。S100A9/SIGLEC3シグナリングは、PDE5の活性化及びPP2Aの阻害をもたらし得るが、ICA/ICTまたはホルスコリンによる処理の際には、PP2A活性が増加し得る。特に、PDE5のSer92におけるリン酸化をPP2Aによって減少させ、MDSCに対するICA/ICTの特異的な効果を支持する証拠を提供することができる。代替的には、PP2Acaを含有するLV−またはアデノウイルスベクターを用いて、MDSCにおいてPP2Aを過剰発現させることができる。リンパ腫細胞株であるナマルバ細胞におけるPP2Acaの過剰発現は、PP2Aシグナリング経路を活性化することができる。そのため、MDSCにおけるPP2Acaの過剰発現を用いて、上記のように、リン−PDE5、アポトーシス、S100A9/SLGLEC3の発現、NO及び炎症性サイトカインの産生を調査することによりICA/ICTの効果を立証することができる。
健常なドナーまたはがんを有する患者からの細胞の使用に起因する変動が存在してよいため、代替のストラテジーは、SIGLEC3を発現するSJCRH30細胞を用いるためのものであり得る。このストラテジーを用いることにより、本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体による処理に続いてこれらの細胞においてPDE5またはPP2Aのいずれかを過剰発現させることによって、アプローチを強化することができる。PDE5の過剰発現のこれらの実験を用いて、ICA/ICT誘発のPP2A活性化に打ち勝つ可能性を実証することができる。対照的に、PP2Aを過剰発現させることによって、ICA/ICTの作用を、PDE5活性化のダウンレギュレーションを通して向上させることができる。
各々の下流経路を特異的な阻害剤(JNK阻害剤SP600125、p38阻害剤SB203580若しくはERK1/2阻害剤PD98059、またはSHP1/2阻害剤、ならびに、S100A9ライゲーションにおけるCa++及び糖部位の役割を理解するためのキレート剤EDTAまたはEGTA及びグリコシラーゼ)によって阻害して、PDE5、PP2A、S100A9及びSIGLECが炎症において重要な他の経路に関係するかをアセスメントし、異なる経路間でクロストークが存在するか、またはいずれの経路がMDSCにおけるICA及びICTの調節機能においてより重要であるかを理解することができる。S100A9/SIGLEC3の両方の発現ならびにPDE5及びPP2Aの活性化を測定して、これらの経路のうちいずれがこれら2つのタンパク質と共に関係するかをアセスメントすることができる。これらの実験から読み取れることは、ウエスタンブロットによるリン−PDE5及びリン−PP2A、フローサイトメトリーによるSIGLEC3発現、ならびに抑制サイトカイン及び可溶性メディエーターの下流での産生である。生物学的結果を経路特異的shRNA処理によってさらに立証して、結果を確認し、ICA及びICTの作用における各成分の特異性を示すことができる。特異的タンパク質のサイレンシング及び本明細書に開示されているICA、ICTまたはこれらの誘導体による処理の後、NF−κB、Akt、p38及びSTAT3経路の成分のリン酸化状態をウエスタンブロットまたはフローサイトメトリーによって測定することができる。
これらの結果は、コンピュータでPDE5阻害に重要なキーとなるアミノ酸を修飾してPDE5酵素の最も良好な変異体の選択をガイドし、触媒ポケットへのICTの結合、ならびにリン酸化部位におけるPP2Aの親和性を変化させ得る生化学的構造を理解するためのモデルを研究することによって裏付けることができる。結合ポケットにおいて各々別々のアミノ酸における変異体:PDE5のH613、D764、F820、及びS663を生化学的特性に基づいて作製することができ、最も良好な変化を、PDE5の全構造に対してほとんど修飾のないまたは修飾のない結合を防止し得るコンピュータモデルに基づいて選択することができる。このことは、Quick Change site−directed mutagenesis assay kitを用いてインビトロで試験する変異体の選択を助けることができる。これらのクローンを、Lipofectamine LTX Plusを用いてFACSソートMDSCまたはIMCのいずれかに導入することができる。PDE5の野生型過剰発現を有するものと比較したときの差をアセスメントすることができる。これらの細胞を異なる用量の化合物で異なる時間長さにわたって処理することができ、その後、細胞毒性/増殖をフローサイトメトリーによって測定することができ、PP2A及びPDE5の共免疫沈降(野生型及び変異体)を測定して、PDE5変異体がPDE5へのPP2A結合に影響するかを調査することができ、iNOSの発現及びNOの産生を測定することができ、キーとなる経路の成分Iκb、p38、AKT及びSTAT3のリン酸化をウエスタンブロットによって測定することができ、サイトカインIFNγ、TNFα、IL−10及びTGFβの放出をELISA及びQ−PCRによって測定することができる。
実施例8:アダプタータンパク質DAP12を活性化してMDSCの成熟の誘発を通して腫瘍微環境を改善することによるSIGLEC3−ITIMシグナリングの反作用
ITAMモチーフを持つDAP12に関連するレセプターは、ITIM担持分子から発せられるシグナルに打ち勝つ活性化レセプターとして機能することができる。該レセプターは、PI−3K及びMAPK/ERKの活性化をもたらすことができるSyk/Zap70を補充することによってそのようにすることができる。ITAMとITIMとの間の最終的なバランスを、各レセプターに関連する特異的な機能によって決定及び画策することができる。いくつかのCD33関連SIGLEC、例えばITIMを欠失するSIGLEC−HまたはSIGLEC−14は、これにより、DAP12と直接相互作用することができる。DAP12の重要性は、いくつかのレセプター複合体とパートナーになることができ、骨髄を発生させる役割をすることができることである。DAP12は、幹細胞の単球への成熟に特に関与し、DCの成熟及び生存を促進することができる。がんにおける障害は、MDSC表現型を有する未熟骨髄細胞の有意な蓄積である。これらの細胞における蓄積MDSC及びSIGLEC3の過剰発現により、ITIM及びITAM媒介シグナリングの不均衡を結果として生じさせ得、SIGLEC3−ITIMシグナリングがDAP12(ITAMシグナル)からの活性化シグナルを支配する。このように、未熟骨髄細胞が、さらなる分化及び成熟を経ることを防止することができる。そのため、骨髄分化及び成熟を誘発するためにDAP12経路を活性化させることは、腫瘍微環境においてMDSCを減少させ、腫瘍免疫を改善するための潜在的なストラテジーであり得る。
これを達成するために、DAP12の2つの構成的活性形態を作り出し、アデノウイルスベクターに挿入した。複数の分析(生物学的アッセイ、生化学的アッセイ、ならびに免疫化学的評価及びシグナリングアッセイなど)の後、これらの構築物が下流の標的をシグナリングして生物学的機能を誘発することができることを確認した。AD293細胞を用いることで、DAP12のこれら2つの活性形態(P19及びP23)がSyk70/Zap70に結合してERK/MAPK活性化をもたらすことができた(図13)。これらの構築物を用いる利点の1つは、活性DAP12が自身においてシグナリングして、活性化レセプターに関する必要性をバイパスことができることである。図14に示すように、生じたデータは、これらの構築物が、3日間の感染後のCD80、CD83、CCR7のような骨髄成熟マーカーの増加した発現によって示されるように、未熟DCの成熟を促進させるという実現可能性を示している。これらの結果は、活性DAP12が未熟骨髄細胞の成熟を駆動させる潜在性を有して、MDSCの低減された蓄積または抑制機能のダウンレギュレーションのいずれかをもたらすことができることを示唆している。これらの所見は、DAP12によって媒介されるシグナリング経路を標的にするこの目的で提案されている実験を行うための論理的根拠を裏付けている。
アデノウイルスベクターは、細胞に対して毒性であるとき、長期アッセイには好適でない。それゆえ、レンチウイルスベクターを、非分割細胞を形質導入する可能性のある腫瘍担持マウスにインビボで用いる。DAP12及びDAP12変異体をアデノウイルスからLVベクターに転換することができる。DAP12構築物は、野生型(wt−DAP12)、ドミナントネガティブDAP12(dnDAP12)ならびにDAP12の2つの活性形態(P19及びP23)を含むことができる。EGFPのみを有するLVもまた、ベクター対照として、及び感染をモニタリングするための手段として用いることができる。
MDS/AMLを有する患者から単離したMDSCにおいてDAP12mRNA発現を低減することができるため、がん患者からのMDSCにおける低レベル発現またはシグナリング欠乏が可能である。それゆえ、がんからFACSソーティングにより単離されたMDSCにおけるDAP12の遺伝子発現を、DAP12発現に関する定量的なリアルタイムPCR(Q−PCR)によって評価することができる。この研究において、健常なドナーからの未熟骨髄細胞を対照として用いることができる。DAP12のシグナリング事象は、mAbを用いて、DAP12関連活性化レセプター、TREM(骨髄細胞において発現されるトリガリングレセプター)を架橋することと、続いて抗DAP12による免疫沈降及び抗チロシンリン酸化抗体によるウエスタンブロットとによって分析することができる。対照細胞におけるTREMの架橋は、DAP12におけるITAMのチロシン部位において増加したリン酸化を引き起こし得、また、Sykの増加された補充ならびにPI−3キナーゼ及びERKの活性化をもたらし得、これらは、図13に記載されるウエスタンブロットによって容易に検出することができる。一方で、がん患者から単離したMDSCにおけるシグナリング事象は、対照と比較したとき、減少または阻害され得る。この相関係数を算出し、DAP12mRNAの低減が機能性欠乏と相関するかを決定することができる。これらのアッセイはいずれも、DAP12の発現及び機能の検出において信頼性がある。これらの実験は、DAP12が未熟骨髄分化に重要であるか否かを実証することができる。加えて、がん患者に存在する場合があるいずれかのDAP12(またはこの経路における他の分子)の欠乏の情報を提供することができる。
MDSCにおける成熟表面マーカーの発現を、DAP12構築物の導入後に分析することができる。がん患者からのMDSCを、DAP12構築物の種々の変異体を含有するLVに感染させることができる。細胞を0、3、5及び7日で採取することができ、これらの表現型を、MDSCまたは成熟マーカー(CD80、CD83、CCR7、CD14、CD15及びHLA−DRを含む)のいずれかの抗体によって分析することができる。患者の細胞におけるDAP12の過剰発現は、MDSC集団の減少を誘発し、単球または顆粒球成熟マーカー(それぞれCD14及びCD15)による成熟細胞集団を増加させることができる。この表現型変化は、活性DAP12の導入に続いて時間依存的に起こり得る。
活性DAP12によるトランスフェクション後のMDSCの抑制機能を調査することができる。該調査は、抑制サイトカイン(TGGβ、IL10、VEGFなど)の産生、ならびに抑制可溶性メディエーターの生成(ROS、NO及びアルギナーゼ産生など)を調査することを含むことができる。MDSCにおける活性DAP12の導入は、MDSC関連サイトカイン及び可溶性因子の産生を遮断することによってMDSC抑制機能を低減することができる。
MDSCの認識されている機能的特性として、抗原刺激またはCD3刺激したT細胞増殖及びインターフェロン−γ(IFN−γ)産生の抑制が挙げられる。それゆえ、抗CD3/CD28刺激及びIFN−γ産生に応答するT細胞増殖は、自家移植T細胞をLV−DAP12構築物感染のMDSCによって5〜7日間培養し、その後、3H−チミジンの組み込みによる増殖、及びELISAまたはELISPOTによるIFN−γ産生を調査することによってモニタリングすることができる。
S100A8/A9発現レベルもまた、活性DAP12の過剰発現後にウエスタンブロット分析によって決定して、S100A8/A9シグナリングとDAP12シグナリング経路との間のあらゆる相関をアセスメントすることができる。
活性DAP12の過剰発現、及び、活性DAP12がS100A9または対照リガンドS100A7によるライゲーションに続いてSIGLEC3−ITIM媒介シグナリングを阻害する能力もまた調査することができる。SIGLEC3のITIMシグナリングをアセスメントするために、ITIMモチーフのリン酸化または細胞質SHP1/2の補充を、抗SIGLEC3抗体を用いたSIGLEC3レセプターの免疫沈降、続いてそれぞれ抗ホスホチロシンまたは抗ホスファターゼ抗体によるウエスタンブロット分析によって測定することができる。これらの実験を用いて、MDSCにおいて非常に活性なCD33シグナリング経路を活性DAP12の過剰発現によってダウンレギュレートすることができるかを決定することができる。
これらの阻害レセプターの発現をさらに低減するために、活性DAP12に加えて、LV−shSIGLEC33を発現させることができる。がん患者における腫瘍微環境の変更におけるこれらのシグナリング分子の組み合わされた役割を調査することができる。がん患者から単離したMDSCを、LV−DAP12またはLV−shRNAのいずれかによってSIGLEC3に二重感染させることができ、これらの細胞を、成熟表面マーカーの発現及び抑制活性について調査することができる。この組み合わされたストラテジーは、MDSC媒介活性を阻害し、腫瘍微環境を改善することができる。
SIGLEC5及びSIGLEC14ならびにこれらの変異形態を含むいくつかのCD33−rSIGLEC発現構築物を作製し、両方の活性の研究及びシグナルの阻害に用いることができる。中でも、SIGLEC14は、成熟シグナルを送達するDAP12に関連する活性SIGLECである。SIGLEC14及びDAP12は、抗SIGLEC14抗体と架橋する前にAD293細胞内に共トランスフェクトしている。図15に示すように、SIGLEC14及びDAP12と共トランスフェクトした架橋細胞は、低減されたIL−10産生によって示されるようにこれらの細胞に内因性のSIGLEC3−ITIM経路を抑制した。
インビボでのMDSC成熟におけるDAP12について、特に、腫瘍の発生において潜在的な役割を有するか否かについてはほとんど知られていない。それゆえ、DAP12ノックアウトマウス(DAP12−/−)を用いて、上記で議論したインビトロ研究をさらに立証することができる。結果は、DAP12媒介シグナリングがNK細胞の活性化及び成熟に重要であり得ること、ならびにこれらのマウスにおいて損失したNK機能を他のITAM担持アダプターによって補償することができないことを示している。これらのデータは、DAP12が、これらの細胞における特異的な活性化レセプターとパートナーになるとき、特有の生物学的役割を媒介することができることを示唆している。
DAP12−/−マウスの脾臓及び骨髄からのGr−1+CD11b+細胞の割合及び発現を、フローサイトメトリーベースのアプローチを用いて調査することができる。これらの実験は、DAP12の欠乏及びDAP12媒介活性化シグナルの次の不在が未熟骨髄細胞の成熟及び/または蓄積に影響し得るか否かを決定することができる。野生型(wt)C57BL/6マウスを対照マウスとして用いることができる。炎症及びがんは、加齢プロセスと関連するため、DAP12−/−及びwt−マウスを、1、3、6、9、12、15、18、及び21ヶ月を含む種々の齢でGr−1及びCD11b発現について調査することができる。これらの実験は、1)MDSCがDAP12−/−マウスにおいて蓄積または展開するか否か、ならびに2)MDSCの蓄積及び増加がDAP12欠乏を伴う加齢プロセスによって加速するか否かに対処することができる。インビトロでのデータに基づくと、wt−マウスとは対照的に、DAP12−/−マウスにおいて未熟骨髄細胞の分化及び成熟の遮断が存在し得る。それゆえ、Gr−1+CD11b+表面マーカー発現を有する未熟骨髄細胞集団をDAP12−/−マウスの骨髄に蓄積及び展開することができる。さらに、増加したMDSC数を高齢マウスにおいて見出すことができ、このプロセスを、DAP12の非存在下に加速することができる。
以下の実験を用いて、DAP12−/−マウスから単離したGr−1+CD11b+細胞が悪性腫瘍及び他の病態において見られる常套的なMDSCとして機能するかを評価することができる。
抑制サイトカイン及び可溶性抑制メディエーターの両方、例えば、TGF−β、IL−10、VEGF、アルギナーゼ及びNOSの産生をモニタリングすることができる。活性DAP12発現は、SIGLEC3またはSIGLEC5(ITIM担持)によって媒介される抑制サイトカイン産生に打ち勝つことができたため、DAP12シグナリングの非存在は、SIGLEC3またはSIGLEC5から発せられる阻害シグナリングにおける不均衡に起因して抑制メディエーター及びサイトカインの過剰産生を結果として生じ得る。
DAP12−/−マウスにおけるT細胞応答を調査することができる。DAP12−/−マウスの骨髄細胞におけるDAP12シグナリングの欠失は、細胞の分化/成熟を防止することができ、抑制メディエーター及びサイトカインの産生に伴うMDSC蓄積を増加させ、また、損なわれたT細胞増殖及び低減されたIFNγ産生を表示することができる。
MDSCの発生におけるDAP12の特異的な役割をさらに立証するために、DAP12の活性形態(同じ活性DAP12構築物を、高い相同性に起因してヒト及びマウスの両方において用いることができる)を、DAP12−/−マウスから単離されたMDSCに導入することができ、また、これを用いて、上昇したDAP12発現及び活性化したDAP12が、抑制サイトカインの産生(TGF−β、IL10及びVEGF)を阻害し、T細胞応答を増加させ、ならびに/またはMDSC分化/成熟を駆動させることができるか否かを、成熟表面マーカーを測定することによりアセスメントすることができる。
実施例9:腫瘍担持モデルにおける腫瘍微環境でのICA/ICTの調節機構
MDSCを、上記で議論したインビボモデルからの脾臓または腫瘍組織から単離することができる。S100A9免疫沈降、続いて、質量分析を実施して、関与するマウスSIGLECを同定及び確認することができる。結合レセプターをヒトカウンターパートについて上記のように試験し、マウスS100A9及び/または対応するSIGLECによってマウスNIH3T3(インビトロでのトランスフェクションモデル)に共トランスフェクトし、リガンド/レセプターとして裏付けることができる。特異的なマウスS100A9/SIGLEC結合及び共局在/内在化を免疫染色によってモニタリングすることができる。S100A9における特異的なシグナリング及び対応するSIGLECライゲーションを、ITIMのリン酸化、SHP1/2の補充、PDE5の活性化及びそのPP2Aとの関連ならびにその抑制の調査を含めて、生化学的にアセスメントすることができる。これらの生化学的実験は、野生型(WT)、S100A9ノックアウト(KO)及びS100A9トランスジェニックマウス(Tg)から単離されたMDSCを用いることができる。
ICA/ICTによる処理後の腫瘍環境の特性決定を先に記載したようにマウスモデルにおいてアセスメントすることができる。簡潔に言えば、6〜8週の高齢雌BALB/cマウスに、5×105の4T1−Neu乳がん細胞またはマウスルイス肺がんを脇腹において皮下(s.c.)接種することができる。腫瘍成長を2〜3日間毎にキャリパーを用いた二方向腫瘍測定によってモニタリングすることができ、腫瘍体積を算出することができる。3つの用量の12、25または50mg/kgの本明細書に開示されているICA、ICT、または誘導体を、腫瘍接種後7日目に開始して実験の終了まで1週間に3回、経口または腹腔内(i.p.)のいずれかの注射によって付与することができる。対照群に、いずれかの経路によって等量のビヒクルを付与することができる。腫瘍及び脾臓MDSCを収集することができる。
腫瘍を免疫細胞及び腫瘍細胞にパラフィン埋め込みまたは分離し、再培養することができる。いずれかのソースから、単離した細胞を、調製した抗体パネルによって細胞内で染色し、キーとなる経路の状態のリン酸化を測定することができる。種々の用量の本明細書に開示されているICA/ICTまたはこれらの誘導体及び時間による動態研究を用いて、PDE5活性がインビボでのICA/ICT注射によって抑制されるかをモニタリングすることができる。PP2A活性をモニタリングして、インビボでのホスファターゼ活性の向上におけるICA/ICTの役割を確認することができる。ICA/ICTによる処理後、ビヒクルで処理したマウスと比較したとき、PDE5活性を阻害することができ、PP2A活性をインビボで増加させることができる。この二歯状のシグナリング事象に取り組みことにより、MDSC活性を抑制することができ、腫瘍微環境を改善することができる。このことは、脾臓及び局所腫瘍におけるMDSCの割合の変化を測定し、ICA/ICTによる処理後の、MDSCから正常な成熟骨髄細胞へのシフトをアセスメントすること;ICA/ICTがMDSCによって生じる抑制サイトカインのレベルを低減することができるかを測定すること;及びICA/ICTがMDSCからの可溶性抑制メディエーターの産生を阻害することができるかを試験することによって立証することができる。
抗原(Ag)特異的なT細胞応答の阻害は、MDSC活性化を示すことができる。それゆえ、Ag特異的なT細胞応答を、TRP−1欠失マウスの脾臓から単離されたT細胞を用いて試験することができる。このモデルは、C57BL/6同系マウスにおいて注射される黒色腫B16細胞腫瘍における免疫反応の抑制を研究するのに用いられてきた。TRP−1抗原によるWT及びTRP−1欠失マウスのワクチン接種は、抑制成分が腫瘍を維持する能力を強調させ、それゆえ、B16黒色腫を有するマウスに挑んだ後にICA/ICTによるMDSC抑制の調節を研究するのに好適なモデルを提供することができる。注射後、これらのマウスをICA/ICTによって処置することができ、WTまたはTRP−1欠失マウスにおける特異的なTRP−1抗原に応答した特異的なT細胞活性化をCD8+細胞におけるT細胞増殖及びIFNγ産生によってモニタリングすることができる。特異的なTRP−1由来ペプチド及び対照ペプチドに対する刺激に応答するIFNγ産生細胞の数を、ELISPOTを用いて評価することができる。T細胞増殖を3Hチミジンの組み込みによって評価することができる。CD11b+Gr1+MDSCをB16注射WTまたはTRP−1欠失マウスから単離し、T細胞増殖またはIFN−γ産生の評価の前にTRP−1由来ペプチド及び対照ペプチドの存在下で健常なマウスから単離したT細胞に対して異なる比で添加することができる。MDSCによるAg特異的な免疫抑制を、本明細書に開示されているICA/ICTまたはこれらの誘導体によって前処理したMDSCと共培養したT細胞において低減することができる。
S100A9Tgマウスは、腫瘍組織においてMDSC蓄積を向上させているが、S100A9KOマウスは、低減したMDSC集団による腫瘍に対しての本明細書に開示されているICA/ICTまたはこれらの誘導体の直接的な効果のアセスメントを可能にする腫瘍設定においてさえもMDSCのレベルを低減させている(Cheng Pら、J Exp Med.2008;205(10):2235−49)。この実験設定は、定義されるインビボでのICA及びICT腫瘍抑制の機構におけるS100A9及びMDSCの機能的役割を可能にすることができる。S100A9/SIGLEC経路と腫瘍部位における抑制の維持との間に相関があり得るため、ICA及びICTの機能においてなす役割をアセスメントする。単核細胞(MNC)を、除去した腫瘍、脾臓から、またはマウスの大腿骨及び頸骨から単離して、市販のキット(Miltenyi Biotec)を用いて富化することができる。次いで、これらを表現型分析に用いることができ、MDSCの量をGr−1+CD11b+の発現に関してアセスメントすることができる。これらの細胞は、S100A9KO及びWTマウスと比較したとき、腫瘍、脾臓及び末梢血に蓄積することができる。MDSCをS100A9Tgの腫瘍においてICA及びICT処理後にどのように調節するかを決定するために、MDSCを、DMSOまたはICA/ICTで処理したS100A9Tg及び対照マウスの両方から精製することができ、これを用いて、(a)ELISAまたはフローによってサイトカインの産生をアセスメントし、(b)MDSC抑制可溶性因子(ROS及びNO)の産生ならびにこれらの調節遺伝子ARG2及びNOS2の発現の変化をアセスメントし、(c)PDE5活性をアッセイし、(d)PDE5活性またはPP2Aホスファターゼ活性をアッセイすることができる。実験は、対照としてのWT及びS100A9KOマウスと並行して行うことができる。S100A9TgマウスにおけるMDSC媒介活性は、DMSO処理マウスまたはS100A9KOマウスと比較して、ICA/ICTによる処理後に抑制機能が大幅に低減し得る。
養子導入ストラテジーを用いて、SIGLEC、S100A9及びMDSCの関与を直接明らかにすることができる。このことは、処理したS100A9TgまたはKOマウスから単離されたMDSCを未処理のカウンターパートに養子導入することによってなすことができる。WTマウスにおいて抑制を媒介することにおけるS100A9及びMDSCの特異性を研究することができ、腫瘍成長における遅延がMDSCのみに依存するかを決定することができる。上記の濃度でICAまたはICTによって処理したS100A9TgからのFACS精製MDSCを、尾静脈注射によってWT同系レシピエントに導入することができる。CD45.1遺伝子マーカーを発現するS100A9TgマウスからのGr−1+CD11b+MDSCの養子導入を、CD45.2レシピエントに養子導入して、発生の間の集団を個々にモニタリングすることができる。MDSC媒介の機能的免疫抑制活性を、MDSC発現、及び脾臓内での蓄積によってアセスメントすることができる。WT CD45.2マウスからの成熟した骨髄細胞(Gr−1−CD11c+DEC205+F4/80+)及びS100A9KOマウスからのGr−1+CD11b+細胞をS100A9に関する陰性対照としてレシピエントマウスに養子導入することができる。注射後、これらのマウスを毎月観察し(動態研究)、脾臓におけるMDSC発現、MDSC関連サイトカイン産生、及び免疫抑制について試験することができる。動態研究に加えて、可変数のMDSCをレシピエントに導入し、任意の免疫抑制機能、例えば抗CD3/CD28に応答するT細胞増殖について分析することができる。このストラテジーを用いて、S100A9TgマウスからのドナーMDSCの嵌め合わせを定量することができる。DMSOで処理したS100A9TgマウスからのGr−1+CD11b+MDSCの養子導入のレシピエントの脾臓において、高い割合のMDSC蓄積及びサイトカイン産生を観察することができる。これらのレシピエントは、増加した抑制サイトカイン産生及び減少したT細胞増殖によって示される有意な免疫抑制を表示することができる。対照的に、ICA/ICTで処理したマウスからのMDSCを受け取ったレシピエントは、正常な骨髄細胞成熟及び低減された免疫抑制を表示することができる。この設定において、ICA/ICT処理後のCD11b+Gr−1+MDSCの低減された蓄積及び増加を、異なる処理からそれぞれ養子導入したWTマウス及びS100A9KOにおけるフローサイトメトリー分析によって検出することができる。精製した処理MDSCによるサイトカイン及び可溶性因子の産生を減少させ、機能性を確認することができる。
ヒト肺腺がん(例えばA549)または肝臓肝細胞がん(例えばHepG2)の細胞株を、MDSC機能に対する及びヒト腫瘍成長に対するICT/ICAの効果を研究するために、NSG免疫不全マウスにおいて成長させることができる。NSG(NOD/Shi−scid IL2r−/−)マウスモデルは、ヒト腫瘍移植片及び多系譜造血再構成に関して優れた可能性を有する。
予備研究を実施して、腫瘍異種移植の成長曲線を決定し、本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体の生理学的効果に関する基本的な情報を得ることができる。マウスを、2〜3週間、1日1回、12、25及び50mg/kgの用量で腫瘍接種後5〜7日にビヒクル対照及び実験群(n=12)にランダム化することができる。腫瘍細胞の注射後25日に、マウスの半分を犠牲にし、種々の実験に用いることができる。これらを用いて腫瘍体積及び重量を測定することができる。MDSCを腫瘍組織から精製することができ、リン−PDE5及びPP2A活性をウエスタンブロットによってモニタリングして、活性化に対するICA/ICTの遮断効果が存在するかを調査することができる。リン−MAPK、リン−AKT、リン−STAT3及びリン−NF−kB抗体を用いて、化合物がヒト異種移植片の炎症性反応に対してインビボ阻害効果を有するかをチェックすることができる。
免疫再構成実験を実施して、MDSCに対する本明細書に開示されているICA/ICT及びこれらの誘導体の特異的な効果を調査し、免疫反応を回復または向上させることができる。簡潔には、腫瘍細胞の注射後25日に、ヒトT細胞及びCD33+骨髄細胞を尾静脈注射によりマウスに付与することができる。これらの骨髄細胞の成功裏の生着に約2ヶ月を要し得る。マウスは上記のように対照及び実験群に分けられて、2週間に1回、ビヒクル、ICAまたはICTを受け取り、次いで種々の実験に用いることができる。フローサイトメトリーを用いて、腫瘍組織の単一の細胞懸濁液からのヒトMDSC表面マーカー:CD33+HLA−DR−LIN−を用いて染み込ませるヒトMDSCの数を調査することができる。ICA/ICTで処理したマウスは、おそらくはICT/ICA誘発PP2A活性化により、MDSC増加に対するICT/ICAの阻害効果に起因してMDSCを発現するCD33+HLA−DR−LIN−の数が低下し得、MDSCの分化及び成熟を促進することにより結果としてMDSCがアポトーシスを経るようにしてよい。血液サンプルを収集することができ、血漿を調製して、特定のELISAキットを用いてヒトTGF−β、IL−10及びVEGFの産生を調査することができる。ICA/ICTを用いたS100、SIGLEC及びTLRシグナリングの阻害により、MDSCを活性化し、抑制サイトカインを生じさせる能力を減少させることができる。腫瘍組織の一部をパラフィン埋め込みして、免疫染色によるCD4+またはCD8+T細胞の局所染み込みを研究することができる。ヒトの器官のT細胞を腫瘍組織、脾臓、または末梢血のいずれかから単離し、IFN−γ産生細胞をELISPOTによって決定することができる。ICA、ICTまたはビヒクル処理マウスから単離したT細胞を抗CD3/CD28によって刺激することができ、細胞増殖アッセイを、3H組み込みを測定することによって実施することができる。T細胞増殖及びIFNγ産生細胞の数は、対照のDMSO処理マウスと比較したとき、ICT/ICA処理マウスにおいて有意に高くなることができる。
代替のストラテジーは、SIGLEC3+MDSCにおけるNK媒介抗体依存細胞毒性(ADCC)を測定することによって実施することができる。ICAは、腫瘍患者及び健常なドナーの両方においてNK細胞活性及びリンホカイン活性化キラー細胞(LAK)活性(0.1〜1.0μg/ml)を増加させることができる(He Wら、Arzneimittelforschung.1995;45(8):910−3)。近年、ICA/ICTが化合物による処理の48時間後にCD3−CD56+NK細胞においてFcレセプター(CD16、FcγRIII)の発現レベルを増加させることができることが分かった(図16)。これらのFcレセプターは、ADCCの発生、NK細胞の細胞毒性機能に重要であり得るため、これは、特に興味深いことである。この機能は、標的細胞をトリガーしてパーフォリン及びグランザイムを含有する細胞毒性顆粒の放出を通してアポトーシスを経ることができる、標的細胞に既に結合している抗体によるCD16のライゲーションを通したNK細胞の活性化に関与することができる。ヒト化抗SIGLEC3/CD33抗体を用いてストラテジーを適用し、NK媒介ADCCによってMDSCを枯渇させることができる。
MDSCを標的とすることが免疫反応を回復させ腫瘍微環境を改善させるか否かを調査するために、以下の実験を実施して、SIGLEC3+標的細胞に対するICA/ICT誘発NK媒介ADCCのインビトロ及びインビボの両方の効能を試験することができる。
インビトロでのNK媒介ADCCを測定するために、健常なドナーの末梢血からのNK細胞を単離し、ICA/ICTまたはDMSOで48時間処理することができる。NK細胞によって殺傷され得ない内皮細胞株であるCRL−2597を、SIGLEC3でトランスフェクトし、標識化し、氷上での抗SIGLEC3抗体またはアイソタイプIgGのいずれかによる30分間のインキュベーションに続いてクロム−51[Cr51]において標的として用いることができる(Chen Xら、Blood.2008)。NK細胞との4時間の共培養の後、[Cr51]の放出を測定することができる。ICA/ICT処理NK細胞は、DMSO処理NK細胞と比較したとき、SIGLEC3トランスフェクトCRL−2597に対して増加したADCCを有することができる。また、抗SIGLEC3抗体によって培養した標的細胞は、アイソタイプIgGによって予めインキュベートされた標的細胞と比較したとき、さらなる[Cr51]放出を有することができる。
記載されているMDSCの機能的基準の区別は、抗原シミュレーションまたはCD3刺激したT細胞増殖及びインターフェロン−γ(IFN−γ)産生の抑制を含む。それゆえ、NK ADCCによるMDSCの枯渇後にT細胞応答を調査するために、MDSCをがん患者の末梢血から単離することができる。抗SIGLEC3抗体またはアイソタイプIgGによるインキュベーション後、これらのMDSCを、ICA/ICTによって既に処理したまたは処理していない自家移植PBMCと共培養することができる。5〜7日間の抗CD3/抗CD28によるTCRの再シミュレーションの後、T細胞増殖をBrdu組み込みによってモニタリングし、CD3+T細胞においてフローサイトメトリーによって分析することができる。これらのT細胞からのIFN−γ産生もまた、細胞内染色によってモニタリングすることができる。SIGLEC3+MDSCの枯渇は、ADCCが本明細書に開示されているICA/ICTまたはこれらの誘導体による処理後に増加したPBMCに存在するNK細胞によるMDSCの枯渇に起因して、アイソタイプIgG及びDMSO処理群と比較してT細胞応答を改善することができる。
同様の設定に続いて、抑制サイトカイン、NO及びROSをELISAによって調査することができる。これらの抑制因子の産生は、NK媒介ADCCによるMDSC枯渇に起因して大幅に低減し得る。
インビボアプローチは、上記の異種移植腫瘍モデルにNK細胞及び抗SIGLEC3抗体の両方を投与する前に化合物を用いてまたは用いずにNK細胞を処理することによって使用することができる。アイソタイプIgGによって処理されたNK細胞及びDMSOによって処理されたNK細胞を対照として用いることができる。MDSCの生物学的機能を、上述したようにモニタリングすることができる。MDSCの蓄積及び増加をモニタリングすることができる。免疫抑制及び腫瘍成長を試験することができる。NK媒介ADCCによるインビボでのMDSCの枯渇は、免疫及び腫瘍微環境を改善することができ、腫瘍成長を低減することにより腫瘍担持宿主に利益を与えることができる。
実施例10:
ICTは、PBMCにおけるCD33の発現をダウンレギュレートすることができる(図17)。Q−PCRによるSIGLEC3の相対発現を図17Aに示す。健常なPBMCを20μMのPDE5阻害剤ICTによって48時間培養し、SIGLEC3の発現をDDCt法によって測定した。実験対象は、DMSOで処理したPBMCであり、内部対照はGAPDHであった。エラーバーは、3つの別々のドナー/実験のSEMを示す。20μM ICTによって処理したPBMCにおけるCD33の発現についてのフローサイトメトリー分析を図17Bに示す。
ICTは、PBMCにおける抑制因子の発現をダウンレギュレートすることができる(図18)。Q−PCRによるIL−10、TGFb、TNFa、ARG2及びNOS2の相対発現を図18に示す。健常なPBMCを20μMで48時間培養し、遺伝子抑制因子の発現をDDCt法によって測定した。実験対象は、DMSOで処理したPBMCであり、内部対照はGAPDHであった。エラーバーは、3つの別々のドナー/実験のSEMを示す。
ICTはまた、LPS処理PBMCにおける抑制サイトカインIL−10及びTGFbの発現をダウンレギュレートすることもできる(図19)。Q−PCRによるIL−10及びTGFbの相対発現を図19A及びBにそれぞれ示す。健常なPBMCを20μM ICTによって48時間培養し、遺伝子発現をDDCt法によって測定した。実験対象は、DMSOで48時間処理したPBMCであり、内部対照はGAPDHであった。エラーバーは、3つの別々のドナー/実験のSEMを示す。
ICTは、MDS−BMにおけるCD33及びiNOSの発現をダウンレギュレートすることができる(図20)。20μM ICTで処理したPBMCにおけるCD33の発現についてのフローサイトメトリー分析を図20Aに示す。Q−PCRによるMDS−BMにおけるCD33の相対発現を図20Bに示す。健常なPBMCを、ICA、ICTまたはPDE5阻害剤シルデナフィルによって48時間培養し、SIGLEC3の発現をΔΔCt法によって測定した。実験対象は、DMSOで48時間処理したPBMCであり、内部対照はGAPDHであった。エラーバーは、3つの別々のドナー/実験のSEMを示す。MDS−BMにおけるNOS2の相対発現をBについて記載のように測定し、図20Cに示す。
種々の細胞株におけるICTのIC50値を表1に示す。種々の細胞株におけるICTの異なる用量でのアポトーシス速度を表2に示す。
ICA及びICTは、MDS BMNCの造血を増加させることができる(図21)。MDS患者からの骨髄単核細胞(BMC)を20μM ICTで48時間処理し、次いで、MethoCultH4434完全培地内に播種し、混合物を35mmの培養皿(1×105細胞/各皿)に置き、5%CO2中37℃で14日間インキュベートした。インキュベーション後、CFU−GM及びBFU−Eのコロニーを同定し、倒立光学顕微鏡を用いて計数した(図21A及びBにそれぞれ示す)。各点は、正常な3個体の平均結果を表し、各実験点は、複製プレートを表す。結果を平均値±SDとして表す。
コンピュータでのPDE5A1へのICTのドッキングモデルを図22に示す。ICTの3Dワーキングモデルを生じさせ、デフォルト値を用い、全ての水を除去してPDE5の利用可能な結晶構造に組み込んだ(2H44.pdb)。レセプターグリッドを、本発明化合物の代謝産物である共結晶化リガンドイカリシドIIを用いて生成した。LigPrepを用いて、イカリシドIIを、ドッキングシミュレーション用に作製した2H44.pdb及びライブラリから除去した(図22A)。GLIDEは、ドッキングスコア(Gscores)を提供し、先に生成したグリッドを用いて、タンパク質に対するリガンドの自由エネルギーのおおよその結合を表した。2H44.pdbからの結晶構造様態を最も良好なものに類似させる様態は、−13.676Kcal/molのglideスコア(Gscore)を有する。SPシミュレーションでは、選択された様態が、イカリシドIIの共結晶位置(0.3471のRMS)と重なり合い、イカリシドIIにおいて、残基D764の側鎖、及び水素を含む残基I665の骨格原子を含む同様の水素結合ネットワークを形成する(図22B)。GLIDEの超高精度(XP)ドッキングシミュレーションは、入力したリガンド及び最低エネルギー様態(Gscore:−17.215Kcal/mol)が0.9558のRMSを有する共結晶構造様態に密接に接近するとき、SPドッキング結果からの最も良好な様態によって行った(図22C)。この様態でのH結合相互作用は、イカリシドIIによるS668と、イカリシドIIによるH613と、イカリシドIIによるI665との間で起こり、これらの全てもまた、結晶学的様態に存在する。イカリシドIIと、モデルにおいて生成されたイカリシドIIのXPドッキング様態との重なり合った結晶構造(図22D)。これらの結果は、モデルが、XPで用いられるとき好適であり、イカリシドIIに関する分子について予測される結合様態及び相互作用が信頼できるという確実性を提供する。それゆえ、このモデルは、リガンドの設計及び最適化研究に適切である。ICTをイカリチンの修飾によって生成させ、ICTのLigPrep結果(1つの構造のみ)を、イカリシドIIドッキングにおいてPDE5A1について先に生成したリガンドライブラリ及びレセプターグリッドとして用いて、SPドッキングシミュレーションを実行した。シュレディンガーのSitemap2.4(Schrodinger、L.L.C.)を用いて、PDE5A1における潜在的な結合ポケットを検索した。ICTでは、最も良好な相互作用を有する様態が、−10.764Kcal/molのglideスコア(Gscore)を有し;この様態においてICT及びPDE5A1間:ICT及びD764、ICT及びQ817間;ICT及びS663間;ならびにICT及びH613間の4つのH結合相互作用が存在する。また、この様態は、結晶構造様態がなすときにかなり良好なサイトマップ結果の疎水性領域と適合する。
ICA及びICTは、PDE5の酵素活性を阻害することができる(図23)。ICA及びICTによるホスホジエステラーゼ阻害を、GMP特異的組み換えウシホスホジエステラーゼタイプVを用いて、製造者の指示書に示されているように活性対照と同じ濃度でシルデナフィルを用い、PromegaのPDE−Gloシステムによって測定した。
PDE5シグナリングのスキーム及びそのPP2A及びS100A9との関係を図24に示す。GTPは、グアニリルシクラーゼの作用を通してcGMPに変換される。PDE5は、次いで、NO及びさらなるGCのレベルを増加させるGMPの産生に関与する。これは、PDE5を含む多くのシグナリング分子をリン酸化するPKCをシミュレーションする。これらのプロセスは、全て、カルシウム、SIGLEC3及びSIGLEC5ならびにS100A9発現の低下をもたらす。S100A9は、カルシウムを調節し、サイクルを再開する細胞内の濃度を増加させることが知られている。対照的に、PP2Aの活性化は、脱リン酸化、及びPDE5を含む経路のその後のダウンレギュレーションをもたらす。
明白であり本発明に固有である他の利点は、当業者に明らかである。ある特定の特徴及びサブ組み合わせは、有用性を有しており、他の特徴及びサブコンビネーションを参照せずに使用されてよいことが理解される。これは、特許請求の範囲によって実施され、該範囲内にある。本発明の多くの可能な実施形態が本発明の範囲から逸脱することなくなされてよいため、添付の図に記載されまたは示されている本明細書における全ての事項は、説明的であって限定的な意味ではないと解釈されるべきであることが理解されるべきである。
別途定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術的及び科学的用語は、開示されている発明が属する分野における当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書において列挙されている公報、及び該公報が列挙している題材は、具体的に、参照により本明細書に組み込まれる。
当業者は、単なる常套的な実験を用いて、本明細書に記載されている発明の具体的な実施形態の多くの等価物を認識し、または解明することができる。かかる等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。