以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1は、本実施の形態に係るエンジン100の概略構成を示す。本実施の形態において、エンジン100は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関である。以下の説明においては、ディーゼルエンジンをエンジン100の一例として説明する。
エンジン100は、気筒102と、ピストン104と、インテークマニホールド106と、吸気ポート108と、排気ポート110と、エキゾーストマニホールド111と、外部EGR装置116と、吸気バルブ120と、排気バルブ130と、第1動弁機構150と、第2動弁機構160と、制御装置200とを含む。エンジン100は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程を経て動作する。エンジン100は、たとえば、車両に搭載される。
気筒102は、円筒形状を有する。気筒102内にはピストン104が格納される。気筒102内で燃料と空気とを含む混合気が燃焼することによってピストン104が押し下げられ、クランク機構を介して図示しないエンジン100のクランクシャフトが回転させられる。気筒102は、複数個設けられてもよい。気筒102の頂部には、吸気ポート108の一方端と、排気ポート110の一方端とが接続される。
吸気ポート108の一方端と気筒102の頂部との接続部分には、吸気バルブ120が設けられる。吸気バルブ120は、第1動弁機構150によって作動する。すなわち、吸気バルブ120は、第1動弁機構150によって図1の紙面下方向に押し下げられると、吸気ポート108の一方端と気筒102の頂部とが連通状態になる。吸気バルブ120は、第1動弁機構150によって図1の紙面上方向に引き上げられると、吸気ポート108の一方端と気筒102の頂部との間を弁体によって遮断状態にする。
排気ポート110の一方端と気筒102の頂部との接続部分には、排気バルブ130が設けられる。排気バルブ130は、第2動弁機構160によって作動する。具体的な動作については吸気バルブ120と同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
なお、特に図示しないが、気筒102内には、気筒102内に燃料を噴射するための燃料噴射インジェクタが設けられる。
吸気ポート108の他方端には、インテークマニホールド106が接続される。インテークマニホールド106は、各気筒に接続される吸気管枝と、共通のサージタンク(いずれも図示せず)とを含む。インテークマニホールド106には、吸気管105の一方端が接続されており、吸気管105の他方端には、エアクリーナ(図示せず)が設けられる。なお、吸気管105、インテークマニホールド106および吸気ポート108によってエンジン100の「吸気通路」が形成される。
排気ポート110の他方端には、エキゾーストマニホールド111が接続される。エキゾーストマニホールド111には、排気管の一方端が接続されており、排気管の他方端には、触媒(図示せず)が設けられる。なお、排気ポート110と、エキゾーストマニホールド111と、排気管とによってエンジン100の「排気通路」が形成される。
第1動弁機構150は、たとえば、エンジン100のシリンダヘッド内に設けられる。第1動弁機構150は、バルブスプリング121と、ロッカーアーム122と、カム124とを含む。
バルブスプリング121は、ロッカーアーム122の一方端からの力が吸気バルブ120上方に接続されるタペット123に作用しない場合に、吸気バルブ120が閉状態になるようにタペット123に付勢力を付与して吸気バルブ120を所定の位置に保持する。所定の位置とは、吸気バルブ120の弁体が吸気ポート108の一方端と気筒102の頂部との接続部分を遮断状態にする位置である。
ロッカーアーム122の一方端からの力がタペット123に作用する場合であって、タペット123に作用する力がバルブスプリング121の付勢力を上回ることにより、バルブスプリング121が縮小しタペット123が押し下げられる。これにより、吸気バルブ120のリフト量が増加し、開状態になる。
ロッカーアーム122の他方端は、カム124が回転することによって押し上げられる。ロッカーアーム122の一方端と他方端との間の支持部材によって、回転自在に支持されている。そのため、ロッカーアーム122の他方端が押し上げられることによって、ロッカーアーム122の一方端が押し下げられる。
カム124は、回転軸方向から視て略楕円形状の外縁を有しており、その外縁の形状によってロッカーアーム122の他方端を押し上げる時期や押し上げ量等が定まる。すなわち、カム124の外縁の形状により、吸気バルブ120の開閉時期やリフト量が定まる。
カム124は、カムシャフト125に取り付けられる。カムシャフト125は、タイミングチェーン等を介してエンジン100のクランクシャフトと連動して回転する。
第2動弁機構160は、たとえば、エンジン100のシリンダヘッド内に設けられる。第2動弁機構160は、バルブスプリング131と、ロッカーアーム132と、カム134と、アクチュエータ136とを含む。
なお、第2動弁機構160による排気バルブ130の開閉動作は、第1動弁機構150による吸気バルブ120の開閉動作と同様であり、その詳細な説明は繰り返さない。
カム134は、回転軸方向から視て略楕円形状の外縁を有しており、その外縁の形状によってロッカーアーム132の他方端を押し上げる時期や押し上げ量等が定まる。すなわち、カム134の外縁の形状により、排気バルブ130の開閉時期やリフト量が定まる。
カム134は、排気バルブ130の動作特性を変更するための2種類のカム部材(図2参照)を含む。カム134は、カムシャフト135に取り付けられる。カムシャフト135は、タイミングチェーン等を介してエンジン100のクランクシャフトと連動して回転する。
アクチュエータ136は、制御装置200の制御信号に応じて動作し、カム134に含まれる2種類のカム部材のうちのいずれか一方を選択する。選択されたカム部材の回転によってロッカーアーム132の他方端が押し上げられる。カム部材の選択によって排気バルブ130の動作特性を変更することができる。カム134に含まれる2種類のカム部材の詳細な構造やアクチュエータによるカム部材の詳細な選択方法については、後述する。
吸気バルブ120は、第1動弁機構150の動作によって吸気行程において開弁状態となる。吸気バルブ120は、排気バルブ130が閉弁状態になる直前に開き、少なくともピストン104が上死点(TDC)に対応する位置から下死点(BDC)に対応する位置に移動する間、開弁状態となる。このとき、ピストン104が下降することによって気筒102内の圧力(以下、筒内圧と記載する)がインテークマニホールド106内の圧力(インマニ圧と記載する)よりも低くなる。筒内圧とインマニ圧との圧力差によって吸気ポート108から気筒102内に空気が導入される。
排気バルブ130は、第2動弁機構160の動作によって排気行程において開弁状態となる。排気バルブ130は、膨張行程の後、ピストン104が下死点(BDC)まで低下する直前に開き、少なくとも下死点に対応する位置から上死点(TDC)に対応する位置に移動する間、開弁状態となる。このとき、筒内圧がエキゾーストマニホールド111内の圧力(以下、エキマニ圧と記載する)よりも高いため、筒内圧とエキマニ圧との圧力差によって気筒102から排気ポート110に燃焼後の排気ガスが流通する。
外部EGR装置116は、EGRバルブ112と、EGR配管114とを含む。EGR配管114の一方端は、エキゾーストマニホールド111に接続される。EGR配管114の他方端は、インテークマニホールド106に接続される。すなわち、EGR配管114は、気筒を経由しないで吸気通路と排気通路とを接続する。EGR配管114の一方端と他方端との間にEGRバルブ112が設けられる。
制御装置200は、エンジン100の運転状態に基づいてEGRバルブ112の開度を決定する。制御装置200は、決定された開度になるように図示しないアクチュエータを用いてEGRバルブ112の開度を調整する。これにより、EGR配管114を流通するEGRガスの流量が調整されたり、EGRガスの流通が遮断されたりする。
制御装置200は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファ等とを含んで構成される。制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン100が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
インテークマニホールド106には、インテークマニホールド106内の圧力を検出す第1圧力センサ300と、インテークマニホールド106内の温度を検出する第1温度センサ302とが設けられる。第1圧力センサ300および第1温度センサ302は、検出結果を示す信号をそれぞれ制御装置200に出力する。
吸気管105にはエアクリーナを経由して吸入された空気の流量を検出するエアフローメータ304が設けられる。エアフローメータ304は、検出結果を示す信号を制御装置200に出力する。
エキゾーストマニホールド111には、エキゾーストマニホールド111内の圧力を検出する第2圧力センサ306と、エキゾーストマニホールド106内の温度を検出する第2温度センサ308とが設けられる。第2圧力センサ306および第2温度センサ308は、検出結果を示す信号をそれぞれ制御装置200に出力する。
さらにエンジン100には、出力軸であるクランクシャフト(図示せず)の回転数(以下、エンジン回転数という)を検出するエンジン回転数センサ310が設けられる。エンジン回転数センサ310は、検出結果を示す信号を制御装置200に出力する。
車両の運転席には、アクセルペダル(図示せず)が設けられる。アクセルペダルには、アクセルペダルの踏み込み量(以下、アクセル開度と記載する)を検出するアクセル開度センサ312が設けられる。アクセル開度センサ312は、検出結果を示す信号を制御装置200に出力する。
以下、カム134の詳細な構造を説明するとともに、アクチュエータ136を用いてカム134に含まれる2種類のカム部材のうちのいずれか一方を選択する方法について説明する。
図2は、カム134をカムシャフト135の回転軸方向から視た形状を示す図である。図2に示すように、カム134は、第1カム部材134aと、第2カム部材134bとを含む。第1カム部材134aおよび第2カム部材134bの各々は、回転軸方向に沿って所定の厚さを有する。第1カム部材134aと第2カム部材134bとは、当接して設けられる。
また、第1カム部材134aと第2カム部材134bとは、第2カム部材134bに突起部134cが設けられる点以外の部分は、同じ外縁形状を有する。第1カム部材134aと第2カム部材134bとにおける同じ外縁形状の部分は、いずれも略楕円形状を有し、上部に先細った形状を有する。第2カム部材134bの上部の先細った形状の部分は、カムシャフト135の回転軸方向から視て第1カム部材134aの上部の先細った形状の部分と一致した位置に設けられる。
第2カム部材134bに設けられる突起部134cは、吸気行程における予め定められた時期に排気バルブ130を開弁状態にする位置に設けられる。また、突起部134cの突出量は、吸気行程における排気バルブ130のリフト量が予め定められた量になるように定められる。これにより、第1カム部材134aと第2カム部材134bとを切り替えることによって排気行程における、排気バルブの開弁期間、リフト量および開閉時期を維持しつつ、吸気行程で排気バルブを開弁するか否かを変更することができる。
図3は、カム134の第1カム部材134aと第2カム部材134bとのうちのいずれか一方を選択してロッカーアーム132を動作させる構成の一例を示す。
ロッカーアーム132は、ベース部132aと、第1アーム部材132bと、第2アーム部材132cと、第1貫通孔132dと、第2貫通孔132eと、ベース支持部材132fとを含む。
ベース部132aは、カムシャフト135の回転軸方向から視て一方端と他方端との間に設けられるベース支持部材132fを回転中心として回転自在に支持される。ベース部132aの一方端には、排気バルブ130のタペット133に向けて突出する突起部が設けられる。
ベース支持部材132fは、ベース部132aに加えて、第1アーム部材132bの一方端および第2アーム部材132cの一方端の各々を回転自在に支持する。
第1アーム部材132bの他方端は、第1カム部材134aの外周面に当接する。第2アーム部材132cの他方端は、第2カム部材134bの外周面に当接する。
第1アーム部材132bの一方端と他方端との間には、カムシャフト135の回転軸と平行な方向に沿って第1貫通孔132dが形成される。第2アーム部材132cの一方端と他方端との間には、カムシャフト135の回転軸と平行な方向に沿って第2貫通孔132eが形成される。
ベース部132aの他方端には、アクチュエータ136が内蔵される。アクチュエータ136は、第1貫通孔132dと、第2貫通孔132eとのうちのいずれか一方にピン形状の突起部136a,136bのうちのいずれか一方を挿入する。アクチュエータ136は、たとえば、油圧で突起部136a,136bを動作させるものであってもよいし、電動で突起部136a,136bを動作させるものであってもよい。
アクチュエータ136によって突起部136aが第1貫通孔132dに挿入されると、第1アーム部材132bとベース部132aとが一体的に動作する。そのため、第1カム部材134aの回転によって第1アーム部材132bの他方端が押し上げられる場合、第1アーム部材132bの他方端が作用点となり、ベース支持部材132fが支点となり、ベース部132aの一方端が力点となる。ベース部132aの一方端が押し下げられると、排気バルブ130が開弁状態になる。このとき、第2カム部材134bが回転しても、第2アーム部材132cは、一方端を回転中心として揺動するのみとなる。そのため、排気バルブ130は、第1カム部材134aの外縁形状による動作特性で動作する。
一方、アクチュエータ136によって突起部136bが第2貫通孔132eに挿入されと、第2アーム部材132cとベース部132aが一体的に動作する。そのため、第2カム部材134bの回転によって第2アーム部材132cの他方端が押し上げられる場合、第2アーム部材132cの他方端が作用点となり、ベース支持部材132fが支点となり、ベース部132aの一方端が力点となる。ベース部132aの一方端が押し下げられると、排気バルブ130が開弁状態になる。このとき、第1カム部材134aが回転しても、第1アーム部材132bは、一方端を回転中心として揺動するのみとなる。そのため、排気バルブ130は、第2カム部材134bの外縁形状による動作特性で動作する。
制御装置200は、エンジン100の運転状態に応じてアクチュエータ136を動作することによって第1カム部材134aおよび第2カム部材134bのうちのいずれか一方を選択して選択されたカム部材に対応した動作特性で排気バルブ130を開閉させる。
第1カム部材134aは、第2カム部材134bと比較して突起部134cが設けられていない。そのため、第1カム部材134aが選択される場合には、排気バルブ130は、排気行程における第1期間にリフトされて第1開弁状態になるとともに、吸気行程において排気バルブ130は開弁しない。
一方、第2カム部材134bは、突起部134cが設けられる。そのため、第2カム部材134bが選択される場合には、排気バルブ130は、排気行程において第1開弁状態になるとともに、吸気行程の一部の第2期間に第1開弁状態よりも少量でリフトされて第2開弁状態になる。
以下の説明において第1カム部材134aを「通常排気カム」と記載し、第2カム部材134bを「2段カム」と記載する場合がある。また、第1カム部材134aが選択される場合を「2段カム非使用時」と記載し、第2カム部材134bが選択される場合を「2段カム使用時」と記載する場合がある。
上述したような構成を有するエンジン100においては、たとえば、エンジン100の負荷が上昇する過渡期において、外部EGR装置116を用いて排気ガスをエキゾーストマニホールド111からインテークマニホールド106に還流させる場合、EGR配管114の長さに対応した分だけEGRガスの還流に遅れが生じる場合がある。そのため、気筒102内に流入する気体の体積に対するエキゾーストマニホールド111から還流する排気ガスの体積との比を示すEGR率が目標値から乖離する場合がある。
このような場合、たとえば、排気バルブ130の開閉時期を変更することが考えられる。図4に、遅角前の排気バルブ130のリフト量の変化(破線EX1)と、遅角後の排気バルブ130のリフト量の変化(実線EX2)と、吸気バルブ120のリフト量の変化(実線IN1)とを示す。
図4のEX2に示すように、エンジン100の負荷が上昇する過渡期に、排気バルブ130の開閉時期を大きく遅角させると、排気行程初期における排気バルブ130のリフト量が小さくなる。そのため、筒内圧が上昇し、ピストンが上下運動するときの仕事量である、ポンプ損失が増加して、燃費が悪化してしまう。
図5に、筒内圧と気筒102内におけるシリンダ容積(気筒102とピストン104とで形成される燃焼室の容積)との関係を示す。図5の実線は、遅角前の吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程における筒内圧とシリンダ容積との関係を示す。図5の破線は、遅角後の吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程における筒内圧とシリンダ容積との関係を示す。
図5の実線に示すように、圧縮行程後の上死点付近での燃焼時に筒内圧がピークとなる。その後、膨張行程においてピストン104の下降によりシリンダ容積が増加するにつれて、筒内圧が低下していく。そして、下死点付近でシリンダ容積がピークとなる。このとき、排気バルブ130が開かれる。そして、ピストンの上昇によりシリンダ容積が低下していく。
排気バルブ130が開いた状態でピストンが上昇するため、排気ガスは気筒102から排気ポートへと流通する。そのため、筒内圧は、ほぼ一定の状態が維持される。その後、吸気行程において吸気バルブが開くとともにピストン104が低下すると、筒内圧が下がり、筒内圧がインテークマニホールド106内の圧力よりも低くなる。そのため、吸気ポート108から空気が気筒102内に導入されることとなる。
ここで、排気バルブ130の開弁時期が遅くなると、遅角前と比較して排気行程の初期において気筒102から排気ガスが排出されない期間が生じる。その結果、図5の破線に示すように、遅角前よりも排気行程における筒内圧が高い状態が維持される。このとき、筒内圧が高い状態でピストン104が上下運動することになるため、遅角前と比較して、ピストン104が上下運動するときのポンプ損失が増加することとなる。その結果、燃費が悪化する場合がある。
そのため、燃費悪化の抑制と両立を図る必要があるため、排気バルブ130の開弁時期を十分に遅らせることができず、吸気行程初期における排気バルブ130のリフト量が小さくなり、排気ポート110から気筒102に還流するEGRガスの流量を十分に確保できない。
そこで、本実施の形態においては、制御装置200は、エンジン100の負荷が上昇する過渡期に、排気バルブ130を排気行程と吸気行程との各々において開弁状態にする第2カム部材134bを選択するように第2動弁機構160を制御するものとする。
このようにすると、エンジン100の負荷が上昇する過渡期に、排気行程とは別に吸気行程においても排気バルブ130を開弁状態にすることができる。そのため、ポンプ損失の増加を抑制しつつ、十分なEGR量を得ることができる。
以下、本実施の形態に係るエンジン100の動作を制御する制御装置200で実行される制御処理について図6を用いて説明する。図6は、制御装置200で実行される制御処理の一例を示すフローチャートである。制御装置200は、たとえば、図6に示される制御処理を所定時間間隔毎に実行する。なお、カム134においては、初期状態として、第1カム部材134aが選択されているものとする。
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、制御装置200は、エンジン100の負荷が変化する過渡期であるか否かを判定する。制御装置200は、たとえば、アクセル開度の変化率(たとえば、単位時間当たりの変化量)がしきい値以上となる車両の加速時に、エンジン100の負荷が変化(上昇)する過渡期であると判定する。このとき、制御装置200は、たとえば、過渡判定フラグをオン状態にする。エンジン100の負荷が変化する過渡期であると判定される場合(S100にてYES)、処理はS102に移される。
S102にて、制御装置200は、気筒102内のEGR率の推定値を算出する。気筒102内のEGR率とは、気筒102内に流入する気体の量に対する排気側から還流されるEGRガス量の割合を示す。制御装置200は、たとえば、エンジン回転数と、吸入空気量と、インテークマニホールド106内の気体の圧力および温度とに基づいて筒内EGR率の推定値を算出する。制御装置200は、たとえば、実験等によって適合されたマップあるいは数式等を用いて上述したパラメータから筒内EGR率の推定値を算出する。
S104にて、制御装置200は、目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさ(絶対値)がしきい値A(0)よりも大きいか否かを判定する。制御装置200は、たとえば、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて目標EGR率を設定する。制御装置200は、たとえば、エンジン回転数と燃料噴射量と目標EGR率との関係を示すマップや数式等を用いてエンジン回転数と燃料噴射量とから目標EGR率を算出する。目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさがしきい値A(0)よりも大きいと判定される場合(S104にてYES)、処理はS106に移される。
S106にて、制御装置200は、排気バルブ130を排気行程と吸気行程とにおいて開弁状態にする2段カムを選択する。すなわち、制御装置200は、アクチュエータ136を用いて第2カム部材134bを選択する。
なお、たとえば、吸気行程中のエキゾーストマニホールド111内の圧力が高い期間に排気バルブ130が開弁状態になり、適切な量の排気ガスが気筒102に導入されるように排気バルブ130の開閉時期とリフト量、すなわち、第2カム部材134bの形状(具体的には、突起部134cの形状)が設定される。
S108にて、制御装置200は、筒内EGR率の推定値を算出する。制御装置200は、たとえば、エンジン回転数と、吸入空気量と、インテークマニホールド106内の気体の圧力および温度と、エキゾーストマニホールド111内の気体の圧力および温度とに基づいて筒内EGR率の推定値を算出する。制御装置200は、たとえば、実験等によって適合されたマップあるいは数式等を用いて上述したパラメータから筒内EGR率の推定値を算出する。
S110にて、制御装置200は、筒内EGR率が目標EGR率になるようにEGRバルブ112の開度をフィードバック制御する。制御装置200は、たとえば、目標EGR率と筒内EGR率との差分に基づいてEGRバルブ112の開度のフィードバック量を算出する。制御装置200は、算出されたフィードバック量に基づいてEGRバルブ112の開度を変化させる。
制御装置200は、その後処理をS104に戻して、目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさがしきい値A(0)よりも大きいか否かを判定する。
目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさがしきい値A(0)以下にであると判定される場合(S104にてNO)、処理はS112に移される。
S112にて、制御装置200は、排気バルブ130を排気行程において開弁状態にする通常排気カムを選択する。すなわち、制御装置200は、アクチュエータ136を用いて第1カム部材134aを選択する。このとき、制御装置200は、たとえば、過渡判定フラグをオフ状態にする。なお、S100にて、エンジン100の負荷が変化する過渡期でないと判定される場合(S100にてNO)、制御装置200は、この処理を終了する。
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係るエンジン100の制御装置200の動作について図7および図8を用いて説明する。以下の説明においては、たとえば、車両がユーザにより運転されている場合を想定する。
図7は、アクセル開度(LN1)、燃料噴射量(LN2)、過渡判定フラグ(LN3)、目標EGR率(LN4)、筒内EGR率(LN5)、目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさ(LN6)、2段カムの使用の有無(LN7)、EGRバルブ112の開度(LN8)、および、NOx排出量(LN9)の各々の変化を示す。なお、本実施の形態においては、エンジン100の負荷が変化する過渡期に目標EGR率および筒内EGR率の推定値が算出されるものとして説明したが、図7のLN4およびLN5に示すように、制御装置200は、過渡期以外の時間領域においても目標EGR率および筒内EGR率を算出している。
たとえば、図7のLN1に示すように、アクセル開度が一定の状態である場合を想定する。ユーザによるアクセルペダルの踏み込み量が増加することにより、アクセル開度が増加する。アクセル開度の増加にともなって、図7のLN2に示すように燃料噴射量が増加する。
時間T(0)にて、アクセル開度の変化率がしきい値を超えると、エンジン100の負荷が変化する過渡期であると判定される(S100にてYES)。そのため、図7のLN3に示すように、過渡判定フラグがオフ状態からオン状態に切り替わる。
このとき、エンジン回転数と、吸入空気量と、インテークマニホールド106内の気体の圧力および温度とに基づいて筒内EGR率の推定値(LN5)が算出される(S102)。
時間T(1)にて、目標EGR率(LN4)と筒内EGR率の推定値との差の大きさ(LN6)がしきい値A(0)よりも大きいと判定される場合には(S104にてYES)、図7のLN7に示すように2段カムが選択される(S106)。そのため、排気バルブ130は、排気行程に加えて吸気行程においても開弁状態になる。
図8に、吸気バルブ120のリフト量の変化(IN1’)と、2段カムが使用された場合の、排気行程における排気バルブ130のリフト量の変化(EX1’)と、吸気行程における排気バルブ130のリフト量の変化(EX2’)と、エキゾーストマニホールド111内の圧力の変化(LN14)とを示す。
図8のEX1に示すように、排気行程において排気バルブ130は、クランク角が下死点(BDC)になる前に開き始める。クランク角(ピストン104の位置)が下死点(BDC)と上死点(TDC)との間の中間付近であるときに排気バルブ130のリフト量がピークとなる。その後、クランク角が上死点(TDC)に近づくほど排気バルブ130のリフト量が減少し、上死点(TDC)後に排気バルブ130が閉弁状態になる。
図8のINに示すように、吸気行程において吸気バルブ120は、クランク角が上死点(TDC)になる前に開き始める。クランク角が上死点(TDC)と下死点(BDC)との間の中間付近であるときに吸気バルブ120のリフト量がピークとなる。その後、クランク角が下死点(BDC)に近づくほど吸気バルブ120のリフト量が減少し、下死点(BDC)後に吸気バルブ120は閉弁状態になる。
図8のEX2に示すように、排気行程後半の上死点(TDC)後に排気バルブ130が一旦閉弁状態になった後に吸気バルブ120が開弁状態であるときに排気バルブ130が再度開き始める。排気バルブ130のリフト量は、吸気行程の後半にピークとなる。吸気行程における排気バルブ130のピーク時のリフト量は、排気行程における排気バルブ130のピーク時のリフト量よりも小さい。そして、排気バルブ130は、クランク角が下死点(BDC)となった後に閉弁状態になる。吸気行程における排気バルブ130が開弁状態になる期間においては、図8のLN14に示すように他の気筒から排気ガスが排出されることによってエキゾーストマニホールド内の圧力が増加する期間に対応する。そのため、吸気行程において排気バルブ130が開弁状態になることによって、排気ポート110から気筒102に対して排気ガスが還流することになる。
図7に戻って、2段カムが選択されることによって排気ガスが気筒102内に導入される。また、2段カムが選択される場合、エンジン回転数と、吸入空気量と、インテークマニホールド106内の気体の圧力および温度と、エキゾーストマニホールド111内の気体の圧力および温度とに基づいて筒内EGR率の推定値(LN5)が算出される(S110)。そして、筒内EGR率が目標EGR率になるようにEGRバルブ112の開度が制御される(S108)。このとき、内部EGRにより筒内EGR率が維持されるため、2段カム使用時のEGRバルブ112の開度(LN8)は、2段カム非使用時のEGRバルブ112の開度(破線LN12)よりも減少する。
図7の破線LN10に示すように、エンジン100の負荷が変化する過渡期に2段カムが選択されない場合、外部EGR装置116におけるEGRガスの還流の遅れにより筒内EGR率が大きく減少する。これに対して、2段カムが選択されることによって、排気ポート110から気筒102に排気ガスが還流されるため、図7のLN5に示すように、筒内EGR率の減少が抑制される。そのため、図7のLN6に示すように、目標EGR率と筒内EGR率との乖離が抑制される。その結果、2段カム使用時のNOx排出量(LN9)は、2段カム非使用時のNOx排出量(破線LN13)よりも減少する。
時間T(2)にて、目標EGR率と筒内EGR率の推定値との差の大きさがしきい値A(0)以下になると(S104にてNO)、通常排気カムが選択される(S112)。そのため、排気バルブ130は、排気行程において開弁状態になり、吸気行程において閉弁状態が維持される。また、このとき、過渡判定フラグがオフ状態になる(LN3)。
以上のように、本実施の形態に係るエンジン100によると、エンジン100の負荷が上昇する過渡期に、排気行程とは別に吸気行程においても排気バルブ130を開弁状態にすることができる。そのため、エンジン100の負荷が上昇する過渡期において、排気行程の初期における排気バルブ130のリフト量を確保して筒内圧の上昇を抑制しつつ、吸気行程において排気側から気筒102内への排気ガスの還流量を確保することができる。そのため、ピストン104が上下運動するときのポンプ損失の増加を抑制して燃費の悪化を抑制しつつ、十分なEGR量を得ることができる。したがって、エンジン負荷が変化する過渡期において、燃費の悪化を抑制しつつ、十分なEGR量を得ることができるエンジンを提供することができる。
また、過渡期であって、かつ、目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさがしきい値A(0)よりも大きい場合に、2段カムが選択される。そのため、ピストン104が上下運動するときの仕事量の増加を抑制しつつ、十分なEGR量を確保することができる。一方、過渡期であって、かつ、目標EGR率と筒内EGR率との差の大きさがしきい値A(0)以下である場合に、通常排気カムが選択される。そのため、不必要に2段カムが選択されることが抑制されるため、EGR量が過多になることを抑制することができる。
さらに、2段カムが選択される場合には、エンジンの回転数と、吸入空気量と、インテークマニホールド内の温度および圧力と、エキゾーストマニホールド内の温度および圧力とに基づいて推定値が算出される。そのため、筒内EGR率の推定値を精度高く算出することができる。
さらに、2段カムが選択される場合には、筒内EGR率の推定値が目標EGR率になるようにEGRバルブ112の開度が制御される。そのため、2段カムが選択されることによるEGR量の過不足分を外部EGR装置116によって調整することができる。これにより、筒内EGR率を目標EGR率に一致させることができる。そのため、NOxの排出量の増加を抑制することができる。
以下、変形例について説明する。
また、本実施の形態においては、第1動弁機構150および第2動弁機構160として、ロッカーアームを用いた構成を一例として説明したが、特にロッカーアームを用いた構成に限定されるものではない。第1動弁機構150および第2動弁機構160は、たとえば、カムが直接吸気バルブ120や排気バルブ130のタペット133を押す構成であってもよい。
本実施の形態において、エンジン100として、ターボチャージャーを搭載しないエンジンを一例として説明したが、ターボチャージャーを搭載したエンジンに本発明を適用してもよい。
本実施の形態において、外部EGR装置116は、吸気通路と排気通路とを気筒102を経由しないで接続するEGR配管と、EGR配管を流通する排気ガスの流量を調整するEGRバルブとを有する構成であればよく、たとえば、ターボチャージャーを搭載するエンジンにおいて、ターボチャージャーの上流に排気ガスを還流するLPL(Low Pressure Loop)−EGRであってもよいし、上述したようなインテークマニホールドに(すなわち、ターボチャージャーの下流に)排気ガスを還流するHPL(High Pressure Loop)−EGRであってもよいし、LPL−EGRと、HPL−EGRとを組み合わせた構成であってもよい。
本実施の形態においては、アクセル開度の変化率がしきい値よりも大きい場合に、エンジン100の負荷が変化する過渡期であると判定するとして説明したが、たとえば、車両の速度の変化率(すなわち、加速度)がしきい値よりも大きい場合に、エンジン100の負荷が変化する過渡期であると判定してもよい。
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。