JP2017203011A - 高活性アントシアニン類含有組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】タンパク質の異常な凝集及び/又は線維化によって引き起こされる疾患を予防及び/又は治療するための組成物を提供する。【解決手段】タンパク質の凝集及び/又は線維化を抑制するための組成物であって、有効成分として酸化型アントシアニンを含有することを特徴とする組成物。前記タンパク質として、α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβ及びそれらの変異体からなる群より選択されるタンパク質が挙げられる。前記組成物中における酸化型アントシアニンとアントシアニンのモル比は、70:30〜100:0であることが好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、特定のタンパク質の凝集/線維化を防ぐことができる組成物に関する。
生体内において、ある種のタンパク質が異常凝集又は線維化して様々な疾患を引き起こすことが以前から報告されており、例えば白内障は、水晶体を構成するクリスタリンが異常凝集し、白濁することが原因と考えられており、パーキンソン病は、α-シヌクレインが凝集して細胞毒性を有するアミロイド線維を形成し、その結果、中脳の黒質神経細胞が徐々に減少してドーパミン産生量が減少することが原因と考えられており、家族性筋委縮性側索硬化症(家族性ALS)は、Cu/Znスーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)が遺伝子変異を起こしたのち、凝集・アミロイド線維化して神経細胞に蓄積することが原因の一つと言われており、アルツハイマー病は、アミロイドβ(Aβ42)が線維化して神経細胞毒性を示すことが原因と考えられている。
白内障は、高齢になるにつれ発症率が上昇し、80歳以上になるとほぼ全員に水晶体混濁症状が観察されることが報告されており、視野全体が白く濁ることでまぶしさや見えにくさを感じ、日常生活に支障が生じる。
他方、パーキンソン病、家族性ALS、アルツハイマー病は、白内障のように発症率が高いわけではないが、病気が進行すると、寝たきりになる・重度の記憶障害を伴うなど、患者のQOLが著しく損なわれるため、その予防・治療が切望されている。
このようなタンパク質の凝集・線維化を抑制して、関連する疾病を予防・治療しようとする試みはすでになされており、本発明者もこれまでに、アントシアニン(ブルーベリーやビルベリー等に多く含まれるポリフェノール)によってアミロイドβの凝集を抑制できること、及びアルツハイマー病を発現するマウスにアントシアニン入りのえさを与えることによって短期記憶力の低下を軽減することができたことを報告している(非特許文献1)。
また非特許文献2も、カテコールタイプのフラボノイドであるタキシフォリンが、アミロイドβに対し凝集抑制活性を示すこと、さらに、タキシフォリンに酸化剤を加えたところ、アミロイドβの凝集がより強く抑制されたことを報告している。
しかしながら、今なお、病気の原因となるタンパク質の凝集を強く抑制できる物質が求められている。
本発明者は、前記課題を解決するために研究を重ねた結果、アントシアニン又はアントシアニン含有素材を酸化させることによって得られた酸化型アントシアニンが、眼の水晶体を構成するα-クリスタリンの凝集を防ぎ、白濁化を抑制できること、及び、α-シヌクレイン、SOD1及びアミロイドβの凝集/線維化も抑制できることを見い出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、タンパク質の凝集及び/又は線維化を抑制するための組成物であって、有効成分として酸化型アントシアニンを含有することを特徴とする。前記タンパク質として、α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβ及びそれらの変異体が挙げられる。
本発明の組成物に有効成分として含まれる、酸化型アントシアニン(アントシアニンやアントシアニン含有素材を酸化処理することによって得られる)は、酸化処理していないアントシアニンと比べて、前記タンパク質の凝集及び/又は線維化を抑制する効果が高い。
これまで、アントシアニンはその抗酸化作用が注目されており、生体内で活性酸素の生成を抑制する働きがあるため、血管拡張や毛細血管保護等の効果を発揮すると考えられていた。
これに対し、本発明者は、アントシアニンを酸化処理する(すなわち、アントシアニンの抗酸化作用を失わせる)ことによって得られた酸化型アントシアニンが、α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβ(これらの変異体を含む。以下同じ)の凝集に対し、高い抑制作用を示すことを見い出した。
前記組成物において、酸化型アントシアニンとアントシアニンのモル比は、70:30〜100:0であることが好ましい。
前記組成物は、白内障、パーキンソン病、家族性ALS、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)からなる群より選択される疾患を予防及び/又は治療するために有用であり、特に、白内障を予防及び/又は治療するための組成物として有用である。
前記組成物の好ましい形態として、食品・飲料(健康食品等も含む)、サプリメント、医薬組成物が挙げられる。
本発明はまた、酸化型アントシアニンを含有する組成物であって、酸化型アントシアニンとアントシアニンのモル比が70:30〜100:0であることを特徴とする。
本発明はまた、前述の組成物を製造する方法であって、アントシアニン又はアントシアニン含有素材を過酸化水素により酸化する工程、及び、その後カタラーゼにより前記過酸化水素を分解する工程を含むことを特徴とする。
本発明の組成物によれば、α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβ(又はこれらの変異体)の凝集及び/又は線維化を効率よく抑制できるため、本発明の組成物は、これらが原因となる病気の予防・治療に有用である。
図1は、ビルベリーに含まれる主なアントシアニンの構造を示す図である。 図2は、実施例で使用したビルベリーエキス(VMA)に含まれるアントシアニン、及び、合成VMAに含まれるアントシアニンを示す図である。 図3は、αAB-クリスタリンの熱凝集に対する、VMA、酸化型VMA、還元型VMAの抑制効果を示すグラフである。 図4は、αAB-クリスタリンの熱凝集に対する、酸化型VMAの抑制効果を示すグラフである。 図5は、αA-クリスタリンの凝集途中における酸化型VMAの添加効果を示すグラフである。 図6は、VMA、合成VMA、合成VMA組成成分、酸化型VMA、還元型VMAによる、αAB-クリスタリンの凝集抑制効果を示すグラフである。 図7は、酸化型Del-Gal及び酸化型Cya-GlcによるαAB-クリスタリンの凝集抑制効果を示すグラフである。 図8は、αAB-クリスタリン添加時及びVMA添加時におけるγD-クリスタリンの濁度を示すグラフである。 図9は、α-クリスタリンのホモオリゴマーおよびヘテロオリゴマー添加時におけるβA3-またはβB1-クリスタリンの相対濁度を示すグラフである。 図10は、VMAの酸化による構造の変化を示す吸収スペクトルである。 図11は、アントシアニン(Del-Gal及びCya-Glc)の酸化による構造の変化を示す吸収スぺクトルである。 図12は、酸化によるアントシアニンの構造変化を説明する図である。 図13は、酸化型VMAによる、α-シヌクレインの凝集抑制効果を示すグラフである。 図14Aは、各濃度の酸化型VMA存在下における、変異型SOD1の線維形成抑制効果を示すグラフであり、図14Bは酸化型VMA/変異型SOD1モル比と、96時間後の線維形成抑制割合との関係を示すグラフである。 図15は、各濃度の酸化型VMA存在下における、変異型SOD1の線維形成試験の結果を示すTEM写真である。 図16は、VMA組成成分による、変異型SOD1の凝集抑制効果を示すグラフである。 図17は、酸化型VMAによる、アミロイドβ(Aβ42)の線維形成抑制効果を示すグラフである。
本発明に係る組成物の有効成分は、アントシアニン(又はアントシアニン含有素材)を酸化して得られる酸化型アントシアニンである。アントシアニンは、植物体内に存在する色素成分であり、特に抗酸化作用を発揮する。アントシアニンは、ポリフェノールの一種であり、以下に基本構造を示すアントシアニジンをアグリコンとする配糖体として構成されている(式中、R2はOHを、R1及びR3はH、OH又はOCH3を、R4及びR6はH又はOHを、R5及びR7は、OH又はOCH3を示す)。
アントシアニジンは、植物体内においてチロシン及びフェニルアラニンから、4−クマロイルCoA、テトラヒドロキシカルコン、ナリンゲニンをそれぞれ経由して再合成される。アントシアニンは、アグリコンであるアントシアニジン部位のB環の水酸基の数によりペラルゴニジン(B環の水酸基数1)、シアニジン(同2)、及びデルフィニジン(同3)の3系統に分類される。
特に、本発明の酸化型アントシアニンは、シアニジン又はデルフィニジン又はそれらのB環上のヒドロキシ基がメトキシ化(−OCH3)されているもの(ペチュニジン、ペオニジン、マルビジンなど)をアグリコンとするアントシアニン又は当該アントシアニンを含有する素材を酸化処理して得られる酸化型アントシアニンであることが好ましい。
アントシアニンとしては、アントシアニンの生合成品、化学合成品、又は天然素材から溶媒を用いて抽出された粗抽出品若しくは精製品を使用してもよい。
アントシアニン含有素材としては、好ましくはアントシアニンを含有する植物体が使用される。アントシアニンを含有する植物体としては、例えばビルベリー、ブルーベリー、クランベリー、コケモモ(カウベリー)、リンゴンベリー、ハックルベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ローガンベリー、サーモンベリー、ボイセンベリー、イチゴ(ストロベリー)、クワ(マルベリー)、エルダベリー、ハスカップ、ニワトコ、ハイビスカス、スグリ(カシス:ブラックカーラント、レッドカーラント)、クズベリー、アサイー、プルーン、サクランボ、リンゴ、マンゴー、シソ、有色イモ(サツマイモ、ジャガイモ、ヤマイモ)、赤キャベツ、赤ダイコン、ブドウ、紫トウモロコシ、紫タマネギ、ナス、有色米、黒豆、黒ゴマ、椿等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。アントシアニンを含有する上記植物体における適用部位としては特に限定されない。アントシアニンは色素成分であるため、好ましくは、果実、種、葉、花又はそれらの構成成分の一部を含有するものが用いられる。
特に好ましいアントシアニン含有素材として、アントシアニンを多く含有するビルベリー及びブルーベリーが挙げられる。ビルベリーはヨーロッパに生育する落葉低木で、成熟した黒紫色の液果(ベリー)は0.37%程度のアントシアニンを含み、ベリー類の中で含有量は最も高い。ビルベリー液果には15種類のアントシアニンが含まれており、5種類のアグリコン(デルフィニジン[De]、シアニジン[Cy]、ペチュニジン[Pt]、マルビジン[Mv]、ペオニジン[Po])がそれぞれ3種類の配糖体(グルコシド[Glc]、ガラクトシド[Gal]、アラビノシド[Ara])を形成している(図1参照)。
特に、ビルベリーの成分を抽出・濃縮して得られた、アントシアニンを30〜40%(w/w)含有するビルベリーエキス(VMA)は、本発明に係る酸化型アントシアニン含有組成物を製造するためのアントシアニン含有素材として非常に適している。
アントシアニン及びアントシアニン含有素材の酸化処理の方法は特に限定されず、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)、過酸化水素等の公知の酸化剤を使用することができる。
本発明の組成物は人体への投与が予定されているため、特に、酸化剤として過酸化水素を使用し、酸化処理後にカタラーゼ処理により、過酸化水素を水と水素に分解する(2H22→O2+2H2O)ことが好ましい。使用する過酸化水素の量は、アントシアニン1モルに対して、30〜200モル程度が適切であり、50〜200モル程度がより好ましく、特に100〜200モルが好ましい。
上記酸化処理によって得られる本発明の酸化型アントシアニンは、以下に示すように、アントシアニジンのB環がキノン構造(キノン型アントシアニン)となっていると考えられる(B環上のORは、OH又はOCH3)。
本発明の組成物には、酸化型アントシアニン(キノン型)以外に、アントシアニン(非キノン型)が含まれていてもよいが、酸化型アントシアニンの割合が、アントシアニンの割合より高いことが好ましく、酸化型アントシアニンとアントシアニンの割合が70:30〜100:0であることがより好ましく、80:20〜100:0であることが特に好ましく、90:10〜100:0であることがさらに好ましい。また、組成物調製時点で、上記割合であることが好ましい。
従来から、アントシアニンを含むサプリメントやドリンクは販売されているが、アントシアニンはその抗酸化作用によって生体内で活性酸素の発生を抑制することによって、血管障害等を防ぐと考えられてきたため、ソフトカプセル等のサプリメントには、ビタミンC等の抗酸化剤が添加され、ドリンク類は容器に充填される際に窒素充填が行われるなど、摂取前にアントシアニンが酸化しないように(すなわち、抗酸化力を失わないように)製品化されてきた。これに対し、本発明では、意図的に酸化させた酸化型アントシアニンを用いるため、従来のアントシアニン含有製品と比べて、酸化型アントシアニン含有率が明らかに高い。
本発明の組成物は、食品・飲料、サプリメント、医薬組成物のいずれの形態であってもよい。前記食品・飲料には、一般の飲食品だけでなく、特定保健用食品、機能性表示食品、健康補助食品等のいわゆる健康食品が含まれる。
サプリメントの形態としては、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、粉末等が挙げられるが、これらに限定されない。
医薬組成物は、経口投与用であっても、非経口投与用であってもよく、また、全身投与用(内服薬、注射剤、経腸投与剤等)であってもよく、局所投与用(点眼剤、塗り薬等)であってもよい。特に、白内障の治療を目的とする場合は、内服薬及び点眼剤が好ましい。内服薬の形態は特に限定されず、例としてソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、粉薬、水剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の組成物が食品・飲料である場合、その他の成分として、糖類、香料、甘味料、基剤、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等が適宜配合されていてもよい。
また、本発明の組成物がサプリメント・医薬組成物(医薬品、医薬部外品等)である場合、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等の添加剤が適宜配合されていてもよい。
本発明の有効成分である酸化型アントシアニンは、多くの植物中に含まれ、高い安全性が確認されているアントシアニンと非常に近い構造を有しているため、アントシアニンと同様高い安全性が期待できる。
組成物中に含まれる酸化型アントシアニンの含有量は、組成物の形態(粉末、錠剤、点眼剤、ドリンク剤等)や投与頻度によって、及び、摂取者の体重や健康状態等によって、及び、治療・予防しようとする疾患の種類や重症度等によっても異なるため、それらを考慮して適宜決定すればよい。
一例をあげると、本発明の組成物は、酸化型アントシアニンを1回摂取量又は1日摂取量として1〜400mg、より好ましくは30〜250mg、特に好ましくは50〜180mg含有する経口投与用組成物(ソフトカプセル、錠剤、ドリンク剤等)である。
また別の例として、本発明の組成物は、酸化型アントシアニンの濃度が0.001〜30mg/mL、あるいは0.01〜20mg/mL、あるいは0.1〜10mg/mLである点眼剤である。
本発明の組成物は、クリスタリンの1種であるα-クリスタリンの凝集を抑制する。クリスタリンは、哺乳類水晶体中の主要な構造タンパク質であり、水晶体の透明性及び屈折率を維持する役割を有する。ヒトは α, β, γに分類される計14種類のクリスタリンを持っており、水晶体の透明性におけるクリスタリンの重要性は、先天性白内障に関連した多数の遺伝変異の発見によって実証されている。また、分子シャペロンとして機能するα-クリスタリンはαA-クリスタリンとαB-クリスタリンからなり(大部分の脊椎動物において、αA:αB=約3:1の比で存在する)、水晶体の透明度を維持するのに特に重要であると考えられている。例えば、糖尿病患者においては、還元糖を伴うα-クリスタリンの非酵素反応が加齢性白内障を引き起こす最も重要な要因の一つであることが報告されている。
このため、白内障予防及び進行の抑制のためには、α-クリスタリンの安定化を図ることが重要であると考えられている。後述する実施例において実証されるように、酸化型アントシアニンは、分子シャペロンとして機能するα-クリスタリンを安定に維持し、α-クリスタリンの凝集を抑制した。なお、α-クリスタリンの凝集に対する酸化型アントシアニンの抑制効果の機序はまだはっきりとわかっていないが、酸化型アントシアニンによる、疎水性相互作用の緩和効果が凝集を抑制している可能性がある。
また、本発明の組成物は、α-シヌクレイン、SOD1(Cu/Znスーパーオキシドディスムターゼ)、アミロイドβの凝集あるいは線維化を防ぐことができる。α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβの線維化は、それぞれ、パーキンソン病、家族性ASL、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)の原因となることが報告されている。
α-シヌクレインは140のアミノ酸からなる天然変性タンパク質であり、SOD1は、153アミノ酸からなる二量体タンパク質であり、アミロイドβは42のアミノ酸からなるタンパク質である。これらのタンパク質は、凝集してアミロイド線維を形成するという共通点はあるものの、酸化型アントシアニンが、これらのタンパク質の凝集を抑制するメカニズムは、それぞれ異なっている可能性が高い。
α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβのアミノ酸配列は、それぞれ、以下のGenBank受入番号で提供されている:
alpha- A crystallin;NP_000385.1
alpha- B crystallin;NP_001276737.1
α-シヌクレイン;P37840.1
SOD1;CAG46542.1
Amyloid Beta-Peptide (1-42);1IYT_A
本発明において、α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβとは、特に明記されていなくても、上記アミノ酸配列を有するものだけでなく、それらの変異体(例えば、上記アミノ酸配列と少なくとも90%以上、あるいは95%以上の相同性を有する変異体)を含む意味で用いられる。
すなわち、上記タンパク質は、特定のアミノ酸に何らかの変異が起こった場合、凝集・線維化が生じやすくなっている。例えば家族性ALSは、SOD1の遺伝子変異の関連が指摘されており、構造異常を起こした変異型SOD1が凝集・アミロイド線維化して、神経細胞に蓄積することが疾患の原因の一つと言われている。本発明の組成物は、前記タンパク質の異常な凝集・線維化を防ぐことを目的とするため、前記GenBank受入番号によって提示されている前記タンパク質のアミノ酸配列が一部改変(アミノ酸の欠損、置換、付加など)あるいは修飾されている変異体であって、凝集・線維化を引き起こす変異体も対象となる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例で使用したビルベリーエキス(VMA:Vaccinium myrtillus anthocyanosides)は、株式会社わかさ生活から提供されたものであり、北欧産ビルベリー(15種類のアントシアニン含有)の成分を抽出・濃縮して得られた粉末であって、アントシアニン成分を約36%(w/w)含有し、そのうち大部分(約70%)が、デルフェニジン3-ガラクトシド及びシアニジン3-ガラクトシドからなる。また、実施例で使用した合成VMA中に含まれるアントシアニンは8種である(図2参照)。
実施例に示す「比」や「倍」は、特に断りのない場合はモル基準による。また、VMAおよび合成VMA等に関するモル表示は、それらに含まれるアントシアニン成分のモルを表す(アントシアニン成分の平均分子量を450として計算)。
[実施例1]
α-クリスタリンが凝集する条件において、VMAを添加することによる凝集抑制効果を検証するため、及び、VMAを酸化、還元させた場合、α-クリスタリンの凝集抑制効果に違いがみられるかを調べるため、以下の実験を行った。
<αAB-クリスタリンヘテロオリゴマーの作製>
凍結乾燥品のαA-クリスタリン及びαB-クリスタリンを、0.1 Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7)に溶解し、エッペンチューブで混合して、37℃で1時間インキュベートすることによって、aAB-クリスタリンヘテロオリゴマーを作製した(αA:αB=3:1) (終濃度 0.1 mg/mL、5μM)。
なお、αA-クリスタリン及びαB-クリスタリンのモル比を3:1としたのは、大部分の脊椎動物の水晶体において、aAとaBは3:1の比で存在しており、3:1のヘテロポリマーの存在が、多様な条件下における水晶体の透明度維持に関して重要であるといわれているためである。また、本発明者の実験(65℃・1時間におけるクリスタリン凝集量を光散乱測定により確認)でも、3:1のヘテロポリマーが、ホモポリマーや、他の割合のヘテロポリマーと比べて、高い熱安定性を示すことが確認されている。
<酸化型VMA及び還元型VMAの調製>
0.1 Mリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)で調製したVMAに対し、NaIO4(酸化剤)又はTCEP(還元剤)をエッペンチューブに混合し、室温で遮光して10分間静置し、得られたサンプルを酸化型VMAあるいは還元型VMAとした。
<熱凝集試験>
αABクリスタリンに対し、VMA、還元型VMA、酸化型VMAを5〜10等量(25μM〜50μM)添加し、その後70℃の温度(α-クリスタリンの熱凝集が生じる温度)で光散乱測定を行った。
<光散乱測定>
光路長1 cmの石英セルに0.1 Mリン酸ナトリウムバッファーとサンプルを入れ、全量を3 mLとした。混合した後、蒸発を防ぐため、サンプルの上にミネラルオイルをかぶせ、JASCO 社製FP-6300を用いて360 nmにおける光散乱を60分間測定した。なお、セル内の温度がクリスタリンの凝集温度になるように温度調節を行い、設定温度になったところでオートゼロとし、測定を開始した。
結果を図3に示す。図3から明らかなように、αAB-クリスタリンにVMAを添加すると、凝集量を反映する1時間後の光散乱強度が900程度から400程度となり、凝集が抑制されたことがわかった。また、VMAを酸化させると1時間後の光散乱強度が300程度となり凝集量がより減少したことから、凝集抑制効果が高くなることがわかった。さらに、添加する酸化型VMAを5当量から10当量に増やすと、光散乱強度に反映される凝集量がほぼ確認できないくらい低くなり、濃度依存的に凝集抑制効果が高くなることが確認された。他方、還元型VMAの凝集抑制効果はVMAより低かった。
このことから、VMAを酸化させるとα-クリスタリンの凝集抑制効果が高くなることが分かった。
[実施例2]
次に、VMAと反応させる酸化剤の量を変え、酸化率を変えた場合に aAB-クリスタリンの凝集抑制効果に違いがみられるかを調べるため、以下の実験を行った。
酸化剤(NaIO4)の添加量を変化させて、各種酸化型VMAを調製した以外は、実施例1と同じ方法で実験を行い、αAB-クリスタリンの凝集量を確認した。
光散乱測定における熱凝集1時間後の凝集量を相対比較した結果を図4に示す。
図4に示すように、VMAに対し混合する酸化剤を1倍量から3倍量に増やすにつれ、αAB-クリスタリンの凝集量がコントロールと比較して減少した。酸化剤(NaIO4)のみを添加した場合はコントロールの80%程度の凝集量がみられ、凝集抑制効果が低かった。
このことより、aAB-クリスタリンの凝集抑制効果はVMAの酸化による効果であると考えられた。
[実施例3]
α-クリスタリンの凝集状態に対し酸化型VMAを添加した場合、凝集を可溶化する効果があるかを検証するため、以下の実験を行った。
αA-クリスタリンの熱凝集途中、一定時間(30分および45分)経過後に酸化型VMAを添加したときの結果を図5に示す。αA-クリスタリンの調製方法は、αB-クリスタリンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じである。
図5に示されるように、酸化型VMAを添加した時点以降、光散乱強度の変化に反映されるαA-クリスタリンの凝集速度が抑制された。このことから、酸化型VMAはαA-クリスタリンの凝集を可溶化(分解)する効果はなく、凝集形成を抑制すると考えられる。
[実施例4]
VMAに含まれるどの成分がαABクリスタリンの凝集抑制に効果を示すか確認するために、以下の実験を行った。
実験に使用したVMAは、アントシアニン成分を約36%(w/w)含有しており、その他の成分の大部分は、糖類であるグルコースとフルクトース、及びポリフェノール成分であるクロロゲン酸が占めている。
そのため、8種類のアントシアニン成分(図2参照)、グルコール、フルクトースおよびクロロゲン酸を、VMA中に含まれる各成分の重量比に従って、約36:20:20:10(重量比)となるように混合し、合成VMAを調製した。
VMA、合成VMA、酸化型VMA、還元型VMAそれぞれについて、実施例1と同じ方法でαABクリスタリンの凝集抑制効果を確認した。
また、合成VMAをアントシアニンと、それ以外の成分(グルコース、フルクトース、クロロゲン酸の混合物)に分けたもの、及び、デルフェニジン3-ガラクトシド(Del-Gal)、及びシアニジン3-グルコシド(Cya-Glc)単独のもの(VMA中のアントシアニン36%すべてを一種類と仮定して添加量を計算)についても、試験を行った。
各成分は、すべてVMA 5当量相当になるよう、αABクリスタリン溶液に添加された。
光散乱測定における熱凝集1時間後の凝集量を相対比較した結果を図6に示す。図6に示すように、合成VMAを添加するとコントロールの60%程度の凝集量となり、VMAを添加したときの凝集量45%程度に匹敵するほどではないが凝集抑制効果がみられた。また、合成VMAの組成成分のうち、アントシアニン(8種)を添加すると合成VMAと同程度の凝集抑制効果が確認されたが、アントシアニン以外の成分(グルコース、フルクトース、クロロゲン酸の混合物)を添加した場合は90%程度の凝集量であり、凝集抑制効果が低いことがわかった。また、Del-Galおよび Cya-Glcも、グルコース、フルクトース、クロロゲン酸の混合物より有意に高い凝集抑制効果を示した。このことから、VMA組成成分の中でもアントシアニンがα-クリスタリンの凝集抑制に効果的であることが分かった。
また、本実験においても、酸化型VMAは、最も高いα-クリスタリン凝集抑止効果を示した。
[実施例5]
VMAは酸化した場合、α-クリスタリンの凝集を抑制する効果が大きくなったことから、 Del-Gal及びCya-Glcの酸化型についてもα-クリスタリンの凝集抑制効果を検証した。具体的には、酸化型VMAを調製したときと同じ方法で、NaIO4により酸化型Del-Gal及び酸化型Cya-Glcを作製し、実施例1と同じ方法で、αABクリスタリンの凝集に対する抑制効果を確認した。結果を図7に示す。
図7に示すように、各アントシアニン(Del-Gal及びCya-Glc)は酸化しなくてもαAB-クリスタリンの凝集を抑制したが、酸化の程度が高くなると、凝集抑制効果が高くなり、特にシアニジンは2倍量以上の酸化剤を混合すると凝集量が大きく減少した。
このことから、アントシアニンを積極的に酸化すると、αAB-クリスタリンの凝集抑制効果が高くなることがわかった。
[実施例6]
以前の実験から、α-クリスタリンによるβ-クリスタリンの熱凝集抑制効果は明らかとなっているが、本実施例では、もう一種類の水晶体構成タンパク質であるγ-クリスタリンに対して、α-クリスタリン及びVMAが凝集を抑制する効果があるかどうかを検証した。
γD-クリスタリンは熱に強く、75℃において熱凝集するため、α-クリスタリンの凝集温度である65℃より低温で熱凝集抑制効果検証実験を行うことができない。そのため、塩酸グアニジンで変性させたγD-クリスタリンをバッファーで希釈し、リフォールディングさせた際の濁度を測定することにより凝集量の変化を調べた。
変性バッファーとリフォールディング・バッファーの組成は、以下の通りである。
凍結乾燥していたγD-クリスタリンを 1 mg/mLになるように変性バッファーに溶かし、37℃でオーバーナイトでインキュベートした。光路長1 cmの石英セルに、γD-クリスタリンの終濃度が0.01 mg/mL (0.5μM)となるようにリフォールディング・バッファーで100倍希釈した(Gdn-HCl 終濃度50mM)。
先に、α-クリスタリン(あるいはVMA)とリフォールディング・バッファーだけをセルに入れ撹拌し、セル内の温度が37℃になったところでオートゼロとし、γD-クリスタリンを添加した。α-クリスタリン(αA:αB = 1:1)の量は、γD-クリスタリンに対し1〜20倍量(0.01〜0.3 mg/mL)とし、VMAの量はγD-クリスタリンに対しアントシアニン成分が5〜50倍量(2.5〜25μM)となるようにし、全量を3 mLとした。
γD-クリスタリンを添加すると同時に、JASCO社製V-560を用いて350 nmにおける濁度を10分間測定した。結果を図8に示す。
図8に示すように、αAB-クリスタリンを添加したとき、添加濃度の増加に伴って、γD-クリスタリンの凝集量が低下した。これより、α-クリスタリンのシャペロン機能がγD-クリスタリンの凝集を抑制していることが示された。一方、VMAの添加ではγD-クリスタリンの濁度に変化はなく、凝集量に変化はないと考えられることから、VMAによるγD-クリスタリンの凝集抑制効果はないと考えられた。
以上の結果より、VMAはγ-クリスタリンの凝集を抑制する効果はなかったが、α-クリスタリンはγ-クリスタリンの凝集を抑制することが明らかとなった。以前の研究から、α-クリスタリンは、β-クリスタリンの凝集を抑制することも示されている(図9参照。βA3-クリスタリンおよびβB1-クリスタリンの熱凝集に対し、α-クリスタリンはホモオリゴマーでもヘテロオリゴマーでも凝集抑制効果を示したが、特にヘテロオリゴマーであるαAB-クリスタリンは、ホモオリゴマーであるαA-クリスタリンおよびαB-クリスタリンよりも、高い分子シャペロン機能を示すことが実証された)。
これらの結果を総合すると、VMAは外来性ケミカルシャペロン(タンパク質高次構造の形成や安定化に関わる低分子化合物)として働きα-クリスタリンの凝集を抑制し、内在性分子シャペロンであるα-クリスタリンはβ-,γ-クリスタリンの凝集を抑制することで、VMAは水晶体タンパク質全体の安定化に寄与することが示唆された。
[実施例7]
VMAおよびアントシアニンの酸化による構造変化を確認するために、以下の実験を行った。
0.1 M リン酸ナトリウムバッファーpH 7.0で調製したVMA、Del-Gal、Cya-Glcに対し、1〜3倍量のモル比のNaIO4あるいは10〜50倍量のモル比のH2O2をエッペンチューブに混合し、室温で遮光して10分間静置した(強制酸化)。
また、0.1 M リン酸ナトリウムで調製した各サンプルをエッペンチューブに入れアルミホイルでふたをし、遮光して室温で一定時間静置した(自然酸化)。
その後、各成分の酸化による構造の変化を調べるために吸収スペクトルを測定した。
<吸収スペクトルの測定>
光路長1 cmの石英セルに、VMA終濃度50μM、アントシアニン(Del-Gal又はCya-Glc)終濃度100μMになるように0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.0)で調製し、全量を3 mLとした。完全に溶解していないものは0.22μmのフィルターでろ過した後、25℃において300〜800 nmにおける吸光度を測定した。
結果を図10及び図11に示す。図10及び図11に示すように、VMA及びアントシアニンは、酸化率に伴い徐々に吸収スペクトルが変化し、構造の変化が示唆された。この構造変化は、B環上の水酸基が酸化されることにより、B環がキノン構造(o-ベンゾキノン)へ変化したためと考えられる(図12参照)。
以上の実験から、酸化型VMAがα-クリスタリンの凝集を抑制すること、この凝集抑制効果は、酸化処理していないVMAより高いこと、酸化型VMAは凝集したα-クリスタリンを脱凝集する作用があるわけではなく、添加時点以降のα-クリスタリンの凝集を抑制すること、VMA中の成分の中でもアントシアニンにα-クリスタリンの凝集を抑制する効果があり、アントシアニンの酸化処理によりα-クリスタリン凝集抑制効果が高まること、酸化型アントシアニンが内在性分子シャペロンであるα-クリスタリンの安定化を通じて、結果的に水晶体タンパク質全体の安定化に寄与すること、酸化によりB環がキノン構造となるキノン型アントシアニンが生成している可能性が示唆された。
なお、酸化型アントシアニンが、α-クリスタリンの構造を安定化し凝集を抑制できる理由は明らかではないが、キノン構造にα-クリスタリンが結合することで凝集が抑制されている可能性がある。
これらの実験を総合すると、酸化型アントシアニンは、水晶体の透明性の維持および水晶体の白濁化の進行防止に有用であるため、白内障の予防・治療に効果があると考えられる。
[実施例8]
酸化型VMAによる、α-シヌクレインの凝集(アミロイド線維形成)の抑制効果を確認するために、以下の実験を行った。
150 mM NaCl, 20μMチオフラビンTを含む 50 mM Tris-HClバッファー(pH 7.0)に、1 mg/ml(69μM)α-シヌクレイン(αSyn)を調製し、96穴マルチプレート(Greiner)に1 wellあたり150μLずつ分注した。このとき、あらかじめ同じバッファーに溶解させたVMA(モル比で2等量)のみ、あるいは 276 mM NaIO4(αSynに対して4等量)を添加したサンプルも同様に測定した。well中には3/32インチのアフロンビーズ(伊藤製作所) 1個を入れ、プレート上部は透明なPackaging Tape(HD ClearTM)で密封した。Perkin Elmer、ARVO Xプレートリーダーを用い、37℃で振盪させながら、適宜チオフラビン蛍光測定によって反応を追跡した。プレートリーダーの振盪・測定条件の詳細は以下のとおりとした、
Excitation:450 nm、Emission:486 nm、Measurement time:0.1 sec、
Shaking duration:820.0 sec、Shaking speed:Fast, Shaking type:Orbital, Shaking diameter:5.0 mm
結果を図13に示す。図13から明らかなように、VMAは酸化しなくても、α-シヌクレインのアミロイド線維の形成を防ぐ効果があったが、NaIO4で酸化したVMAは、酸化されていないVMAと比べて、明らかに高いα-シヌクレインの凝集抑制効果を示した。
α-シヌクレインは凝集によりアミロイド線維を形成し、アミロイド線維の有する細胞毒性により中脳の黒質神経細胞が徐々に減少し、その結果黒質で産生される神経伝達物質のドーパミンが減少し、運動の制御機構である黒質線条体系が働かなくなり、パーキンソン症状が起こることが報告されている。また、パーキンソン病患者の脳組織の拡大写真でも、α-シヌクレインの沈着が確認されている。そのため、α-シヌクレインの凝集抑制は、パーキンソン病の予防・治療に重要であると考えられている。
本発明の酸化型アントシアニンは、α-シヌクレインの凝集抑制効果が非常に高いため、パーキンソン病の予防や症状の悪化抑制に効果があると考えられる。
なお、酸化型アントシアニンがα-シヌクレインの凝集を抑制するメカニズムとして、酸化型アントシアニンが、α-シヌクレインのN末端(α-シヌクレイン同士が結合し最終的にアミロイド線維凝集を形成する際の初期相互作用部位と考えられる)に作用し、5番目のメチオニン残基の酸化によってアミノ酸の構造が変わったり、あるいはアントシアニン自体が直接相互作用することによってα-シヌクレインの凝集が抑制されることが考えられる。
[実施例9]
酸化型VMAによるSOD1のアミロイド線維形成の抑制効果を確認するために、以下の実験を行った。実験に使用したSOD1G93Aは、家族性ALSを発症する変異型SOD1である。
150 mM NaClを含む50 mM Tris-HClバッファー(pH 7.4)で家族性変異体であるSOD1G93A(G93A apo)を溶解させ、φ10 mmテストチューブにSOD1タンパク質が終濃度1 mg/mL (62.5μM)、Tris(2-carboxyethyl) phosphine Hydrochloride (TCEP)が終濃度1 mMとなるように調整した。この時、空気酸化(室温・24時間)したVMAあるいはアントシアニン類が目的の濃度となるように混合し、これを37℃、160-163 min-1の条件に設定したTAITEC PERSONAL-11 WATER BATH SHAKERで振とうしてアミロイド線維形成反応を追跡した。
アミロイド線維形成反応はチオフラビンT蛍光測定によって以下のように行った。1サンプルにつきφ10 mmテストチューブを3本ずつ用意し、チオフラビン-Tバッファー2 mLを分注後、SOD1終濃度が 0.0075 mg/mLになるようアミロイド線維形成サンプル15μL を入れた。30秒ボルテックスした後、HITACHI F-4500 Fluorescence Spectrophotometerを用いて以下の設定条件で60秒測定し、その平均値を用いた。
VMAの空気酸化は以下のように行った。
アミロイド線維形成を開始する24時間前に、150 mM NaClを含む50 mM Tris-HClバッファー(pH 7.4)にVMAを溶解させ、遮光し室温で静置した。
なお、酸化型VMAを用いてアミロイド線維形成抑制実験をする上で、酸化型VMA中のキノン構造が線維形成バッファー中の還元剤TCEPによって、再び酸化前のカテコール構造へと戻る可能性が考えられた。そこで24時間室温で空気酸化させたVMAに1 mM TCEPを添加し、吸収スペクトルの変化を確認したところ、スペクトルに多少の変化は見られたものの、VMAは酸化前のスペクトルに戻ることはなかった。このことから、酸化型VMAにTCEPを添加した場合においてもVMAは酸化前のカテコール型の構造に戻らないものと判断した。
変異型SOD1(G93A apo)62.5μMに対し、24時間室温静置し空気酸化させたVMAを0倍等量、0.3倍等量(18.8μM)、0.6倍等量(37.5μM)、1.0倍等量(62.5μM)、2.5倍等量(156μM)、5.0倍等量(313μM)添加し、アミロイド線維形成を行った際の、経時的なチオフラビンT(ThT)蛍光測定の結果を図14Aに示す。さらに、振とう96時間後における酸化型VMA非存在下でのG93Aは100%線維を形成しているとし、そのThT蛍光強度値を線維形成100%、振とう0時間のThT蛍光強度値を線維形成0%として、各酸化型VMA濃度存在下におけるG93Aの線維形成割合を算出した結果を図14Bに示し、線維形成後のサンプルの透過型顕微鏡(TEM)写真を図15に示す。
図14Aの結果より、酸化型VMA濃度依存的にThT蛍光強度の増加の立ち上がりが遅延し、ThT蛍光強度の最大値も酸化型VMA濃度が大きいほど低い値を示した。酸化型VMAとSOD1G93Aのモル比に対する線維形成抑制割合を示した図14Bでは、SOD1G93Aと酸化型VMAが1:2.5の割合で存在するとき線維形成割合は約22%であり、ほぼ完全に線維形成が抑制された。さらに、SOD1G93Aと酸化型VMAが1:5の割合で存在するとき線維形成割合は約0%であり、完全な線維形成の抑制を示し、TEM観察の写真においてもアミロイド線維は確認されなかった。
[実施例10]
酸化型VMAがSOD1の凝集(アミロイド線維化)を抑制することが確認できたため、その有効成分を特定するためにVMA中に含まれるアントシアニン成分(Delphinidin-3-Glucoside Chloride[Del]、Cyanidin-3-Glucoside Chloride[Cya]、Petunidin-3-Glucoside Chloride [Pet])の存在下でアミロイド線維形成を調べた。
具体的には、変異型SOD1(G93A apo)(62.5μM)に対し、24時間室温静置し空気酸化させたDel、Cya、Pet及びVMAをそれぞれ2倍等量 (125μM) 添加し、アミロイド線維形成を追跡した。結果を図16Aに示す。
酸化型Del、Cya、Pet存在下におけるSOD1G93Aは、これらを添加しないSOD1G93A単独よりThT蛍光強度の最大値が低く、アミロイド線維の形成が抑制されることが分かった。しかし、それらをすべて含む酸化型VMAが最も抑制効果が高いことが分かった。
また、VMA 312.5μM(SOD1G93A 5倍等量)中のグルコース、フルクトース、クロロゲン酸(Glc+Frc+Chl)、及びVMA 312.5μM中のクロロゲン酸(Chl)についても、24時間空気酸化させた後、SOD1G93Aに添加し、アミロイド線維形成を追跡した。結果を図16Bに示す。
図16Bに示されるように、酸化型VMA中のアントシアニン以外の成分に、変異型SODの線維形成を抑制する効果は見られなかった。このことから、酸化型VMA中の酸化型アントシアニンが、変異型SODの線維形成抑制効果を発揮することが確認された。
[実施例11]
アントシアニンによるSOD1の凝集(線維形成)抑制メカニズムを解明するため、酸化型Del (Delphinidin-3-Glucoside Chloride)の存在下、不存在下のSOD1G93Aに対し、リジン後を認識・切断するリシルエンドペプチダーゼ(AP1)を添加して消化させ、逆相HPLCで比較し、TOF MSで分子量を同定した。Delの酸化は、室温で24時間静置することによって行った。
その結果、酸化型Delの添加によって消失したピークは、Cys残基(Cys6, 57, 111, 146)を含むペプチドであり、酸化型Delの添加によって出現した9本のピークを分子量で同定したところ、Cys残基間で様々な組み合わせのS-S結合が生じていることが確認された。また、このS-S結合スクランブル分子種のサイズ分析を行ったところ、SOD1G93Aはモノマーからオリゴマーまでの様々なサイズの可溶性分子種を形成していることが分かった。
このことから、酸化型アントシアニンはSOD1G93AのCys残基間でS-S結合のスクランブルを引き起こすことで、モノマーからオリゴマーまでの様々なサイズのSOD1G93A可溶性分子種を形成させ、この作用により線維形成の抑制が生じると考えられる。
これらの実験結果から、酸化型アントシアニンが、変異型SOD1のアミロイド線維形成に対して抑制効果を示すことが明らかになった。変異型SOD1が凝集・アミロイド線維化し神経細胞に蓄積することが、家族性ALSの原因の一つに挙げられているため、本発明の組成物は、家族性ALSの予防・治療に有効であると考えられる。
[実施例12]
酸化型VMAによるアミロイドβ(Aβ42;以下単にAβと表記する)のアミロイド線維形成の抑制効果を確認するために、以下の実験を行った。
凍結乾燥されたAβを0.02%アンモニア水に氷中で溶解させ、終濃度500μM (0.852 mg/ml) となるように調製し、これをストック溶液とした。このサンプルを100 mM NaClを含む50 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)で終濃度10μM Aβ、20μMチオフラビンT、VMAは任意の濃度になるように調整し、96 well プレートに150μl/wellとなるように分注し、蒸発を避けるために上部はシールで覆った。Aβのアミロイド線維形成反応は37℃で行い、Molecular Device Spectra Max M2eを用い振盪させながら、励起波長 440 nm、蛍光波長 480 nm、測定感度 Mediumの設定で時間経過によるチオフラビン蛍光測定を適時行うことで追跡した。
酸化型VMAは酸化剤としてAβペプチドに対して4倍等量のNaIO4を用いて作製した。それぞれ100 mM NaClを含む50 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)に溶解させストック溶液を調製しておき、アミロイド線維を形成させる150μlの反応系に対し、VMAの終濃度が様々になるように添加して実験を行った。結果を図17に示す。
図17に示されるように、酸化型VMAの添加量につれてAβのアミロイド線維形成の抑制は効果的に起こっており、酸化せずに加えたVMA(1等量)よりもアミロイド線維凝集抑制効果は高いことが分かった。
本発明者らは、非特許文献1において、VMA(酸化処理無し)がAβのアミロイド線維形成を抑制することができること、マウス由来の神経細胞(Neuro2a細胞)にAβとVMAを加えた場合、VMAがAβの細胞毒性を抑えることを報告している。具体的には、Aβのみを加えたマウス神経細胞Neuro2aでは正常な細胞の割合が、コントロール(何も添加しない正常な細胞)と比べて30%程度になるが、AβとVMAの両方を加えると、正常な細胞の割合はコントロールより高く(コントロールに対し115%)となった。
また、非特許文献1では、アルツハイマー病発症モデルマウス(DTマウス)に、VMA入りのえさを摂取させることにより、通常の餌を摂取させたDTマウスと比べ、短期記憶力の低下が改善されたことを報告している(Y迷路テストにより確認)。
したがって、VMA(非酸化型)よりもAβのアミロイド線維形成抑制効果が有意に高い酸化型VMAは、インビボにおいても、非酸化型VMAと比べ、アルツハイマー病の症状を抑制する効果がより高いと考えられる。
本発明の組成物は、白内障、パーキンソン病、家族性ALS及びアルツハイマー病の原因となるタンパク質の凝集・線維化を防ぐことができるため、これらの病気の予防・治療への効果が期待されるとともに、本発明の組成物の有効成分である酸化型アントシアニンは、天然成分であり長年にわたって人類に摂取されてきたアントシアニンと非常に類似した基本骨格を有するため、高い安全性が期待できる。
<αAB-クリスタリンヘテロオリゴマーの作製>
凍結乾燥品のαA-クリスタリン及びαB-クリスタリンを、0.1 Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7)に溶解し、エッペンチューブで混合して、37℃で1時間インキュベートすることによって、αAB-クリスタリンヘテロオリゴマーを作製した(αA:αB=3:1) (終濃度 0.1 mg/mL、5μM)。
なお、αA-クリスタリン及びαB-クリスタリンのモル比を3:1としたのは、大部分の脊椎動物の水晶体において、αAとαBは3:1の比で存在しており、3:1のヘテロポリマーの存在が、多様な条件下における水晶体の透明度維持に関して重要であるといわれているためである。また、本発明者の実験(65℃・1時間におけるクリスタリン凝集量を光散乱測定により確認)でも、3:1のヘテロポリマーが、ホモポリマーや、他の割合のヘテロポリマーと比べて、高い熱安定性を示すことが確認されている。
[実施例2]
次に、VMAと反応させる酸化剤の量を変え、酸化率を変えた場合に αAB-クリスタリンの凝集抑制効果に違いがみられるかを調べるため、以下の実験を行った。
図4に示すように、VMAに対し混合する酸化剤を1倍量から3倍量に増やすにつれ、αAB-クリスタリンの凝集量がコントロールと比較して減少した。酸化剤(NaIO4)のみを添加した場合はコントロールの80%程度の凝集量がみられ、凝集抑制効果が低かった。
このことより、αAB-クリスタリンの凝集抑制効果はVMAの酸化による効果であると考えられた。

Claims (8)

  1. タンパク質の凝集及び/又は線維化を抑制するための組成物であって、有効成分として酸化型アントシアニンを含有することを特徴とする組成物。
  2. 前記タンパク質が、α-クリスタリン、α-シヌクレイン、SOD1、アミロイドβ及びそれらの変異体からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
  3. 酸化型アントシアニンとアントシアニンのモル比が、70:30〜100:0であることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記組成物が、白内障、パーキンソン病、家族性ALS及びアルツハイマー病からなる群より選択される疾患を予防及び/又は治療するための組成物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
  5. 前記組成物が、白内障を予防及び/又は治療するための組成物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 食品・飲料、サプリメント、医薬組成物からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
  7. 酸化型アントシアニンを含有する組成物であって、酸化型アントシアニンとアントシアニンのモル比が70:30〜100:0であることを特徴とする組成物。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を製造する方法であって、アントシアニン又はアントシアニン含有素材を過酸化水素により酸化する工程、及び、その後カタラーゼにより前記過酸化水素を分解する工程を含むことを特徴とする、方法。
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