JP2017200681A - 塗装条件設定方法及びプログラム - Google Patents

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Abstract

【課題】目標色と一致し、且つ、均一な塗色を得るための最小の膜厚とこれに対応する下地色を、シミュレーションにより求める。
【解決手段】任意の膜厚及び任意の下地色において、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出する。そして、前記塗色の変動が所定範囲内となる膜厚及び下地色の範囲を設定する。そして、前記膜厚及び下地色の範囲内における最小の膜厚と、これに対応する下地色を、膜厚及び下地色の最適値として設定する。
【選択図】図5

Description

本発明は、顔料及び光輝材を含む塗料を下地の上に塗装する際の、塗膜の膜厚及び下地色の最適条件をシミュレーションにより設定するための方法及びプログラムに関する。
例えば自動車の外装部品の製造工程では、まず、デザイン段階で当該部品の塗色(以下、目標色)が決定され、この目標色を得るための塗料が試作される。そして、この試作塗料を下地の上に塗装して試作品を形成し、この試作品の塗色が目標色と一致するか否かを検証する。
しかし、塗料は、下地の色を隠蔽する程度(隠蔽力)が十分で無いことが多く、特に、自動車の外装の塗料に多く適用されるメタリック塗料やパール塗料は、アルミフレークや干渉性光輝材等の光輝材を含むため、塗面に対する照明方向や観察方向により隠蔽力が大きく変化する。このため、デザイン段階で決定した目標色と、実際に塗装を施した試作品の外観色とが一致しないことが多い。
この場合、塗膜の膜厚や下地の色を変えてさらに試作品を作製し、目標色と一致するように調整を行う。しかし、多数の試作品を作製すると、工数が増えてコスト高を招く。また、膜厚や下地色を調整しても、試作品の塗色と目標色とを一致させることが困難な場合は、試作塗料の成分を再調整したり、目標色を再検討する必要が生じる。この場合、工数がさらに増えるばかりか、デザインの自由度が狭まってしまう。
そこで、目標色を得るための塗料の組成(顔料及び光輝材の配合比)をコンピュータシミュレーションにより算出する、いわゆるコンピュータ・カラーマッチングが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
特開平10−310727号公報
しかし、上記のようなコンピュータ・カラーマッチングにより算出した組成の塗料を用いた場合でも、所望の外観色を得られないことがある。例えば、製品ごとの塗装条件の変動により塗膜の膜厚が変動し、これにより塗色が製品ごとに変動して、目標色と異なってしまうことがある。また、各製品の塗装中の塗装条件の変動や、スプレー安定性、スプレーパターンにより、各製品の塗膜の膜厚が部位ごとに微妙に変動し、塗色のムラ(塗装斑)を引き起こすことがある。特に、顔料及び光輝材を含む塗料を用いる場合、上記のように、塗面に対する照明方向や観察方向により隠蔽力が大きく変化するため、製品ごとあるいは部位ごとの塗色の変動が生じやすい。
例えば、塗膜の膜厚を厚くすれば、隠蔽力が高くなるため、膜厚の微小変動に起因する塗色の変動が抑えられ、塗色を安定させることができる。しかし、膜厚を厚くすると、塗料の使用量の増大、塗装時間の増大、乾燥時間の増大、乾燥エネルギーの増大等に伴うコストの増大や、塗面の端部における塗料溜りによる外観品質の低下等が引き起こされる。従って、膜厚はできるだけ薄い方がよいが、目標色と一致し、且つ、塗装斑を防止できる最小の膜厚と、これに対応する下地色の組み合わせを、シミュレーションにより求める手法は確立されておらず、上記のように多数の試作品を作製せざるを得ないのが実情である。
上記のような事情から、本発明は、目標色と一致し、且つ、均一な塗色を得るための最小の膜厚とこれに対応する下地色を、シミュレーションにより求めることを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明は、顔料及び光輝材を含む試作塗料を下地の上に塗装する際の、塗膜の膜厚及び下地色の最適条件をシミュレーションにより設定するための方法であって、任意の膜厚及び任意の下地色において、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出する工程と、前記塗色の変動が所定範囲内となる膜厚及び下地色の範囲を設定する工程と、前記膜厚及び下地色の範囲内における最小の膜厚、及びこれに対応する下地色を、膜厚及び下地色の最適値として設定する工程とを備えた塗装条件設定方法を提供する。
また、本発明は、顔料及び光輝材を含む試作塗料を下地の上に塗装する際の、塗膜の膜厚及び下地色の最適条件を、コンピュータに設定させるためのプログラムであって、任意の膜厚及び任意の下地色において、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出する工程と、前記塗色の変動が所定範囲内となる膜厚及び下地色の範囲を設定する工程と、前記膜厚及び下地色の範囲内における最小の膜厚、及びこれに対応する下地色を、膜厚及び下地色の最適値として設定する工程とを、コンピュータに実行させるためのプログラムを提供する。
上記のように、本発明では、シミュレーションにより、任意の膜厚及び任意の下地色において、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出し、この塗色の変動が所定範囲内となるように、塗膜の膜厚及び下地色の範囲を設定する。そして、この膜厚及び下地色の範囲内における最小の膜厚と、これに対応する下地色を、膜厚及び下地色の最適値とする。以上により、膜厚の微小変動が引き起こす塗色の変動を所定範囲内に抑えることができる最小の膜厚と、これに対応した下地色を取得できる。
上記のような膜厚及び下地色の最適化は、任意の膜厚及び任意の下地色における塗膜の塗色を再現する再現計算手段(プログラム)を構築し、この再現計算手段を用いて反復計算することにより行われる。しかし、顔料と光輝材とでは光学モデルが全く異なるため、これらの双方を含む塗膜の塗色を再現する再現計算手段を構築することは極めて困難である。
そこで、上記の塗装条件設定方法は、各種顔料を単体で含む複数種の塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色における散乱係数及び吸収係数と、各種光輝材を単体で含む複数種の塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色における変角分光反射率係数とを含む材料データベースを作成する工程と、前記材料データベースと前記試作塗料の組成とから、前記試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数と、前記試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数とを算出する工程と、前記試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数と、前記試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数とを合成することにより、任意の膜厚及び任意の下地色における塗色を再現する再現計算手段を構築する工程とを有し、前記再現計算手段を用いて反復計算を行うことにより、膜厚及び下地色の最適値を求めることが好ましい。
このように、材料データベースと試作塗料の組成とに基づいて、試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数と、試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数とを別個に算出する。これにより、顔料に起因する変角分光反射率係数は、顔料の光学モデルに基づいて算出することができ、光輝材に起因する変角分光反射率係数は、光輝材の光学モデルに基づいて算出することができるため、これらの変角分光反射率係数を合成することにより、任意の膜厚及び任意の下地色における塗色を正確に再現する再現計算手段を構築することができる。
例えば、材料データベースに含まれる各種顔料及び各種光輝材の塗膜の変角分光反射率係数と、試作塗料の塗膜の変角分光反射率係数とから、試作塗料の組成を定量することができる。具体的には、材料データベースに含まれる、各種顔料を単体で含む複数種の塗膜の変角分光反射率係数、及び、各種光輝材を単体で含む複数種の塗膜の変角分光反射率係数と、試作塗料の塗膜の変角分光反射率係数とから、試作塗料に含まれる顔料及び光輝材の種類及び配合比を算出することができる。
上記のように、本発明によれば、目標色と一致し、且つ、均一な塗色を得るための最小の膜厚とこれに対応する下地色を、シミュレーションにより求めることができる。
本発明の一実施形態に係る塗装条件設定装置の模式図である。 本発明の一実施形態に係る塗装条件設定方法における、材料データベースの作成手順を示すフロー図である。 材料データベースの一例を示す図である。 上記塗装条件設定方法における、再現計算手段による塗色の算出手順を示すフロー図である。 上記塗装条件設定方法における、膜厚及び下地色の最適化計算の手順を示すフロー図である。 上記塗装条件設定装置の表示部の画面の一例を示す図である。
本発明の一実施形態に係る塗装条件設定装置1は、図1に示すように、測定部2とコンピュータ3とを有する。
測定部2は、被測定物(塗膜等)の可視光領域における変角分光反射率係数を測定するものである。変角分光反射率係数は、照射方向に対する受光角度が異なる複数方向における、波長ごとの反射率の、硫酸バリウムの完全拡散面の反射率を100とした場合の係数である。測定部2としては、市販の変角分光光度計を用いることができる。測定部2は、例えば、被測定面に対して垂直な方向に対して所定の角度傾けた方向から光を照射し、この照射方向の鏡面反射方向を起点として複数の異なる角度で反射光を受光する。具体的には、鏡面反射方向を起点として、照射方向側を正としたときの受光角度が、−15°〜110℃の範囲内の6つの方向(例えば、−15°、+15°、+25°、+45°、+75°、+110°)で反射光を受光する。そして、各受光角度θにおける受光量から、可視光領域の波長(400〜700nm)間の所定波長毎(例えば10nm毎)の反射率を計測する。
コンピュータ3は、入力部4、記憶部5、演算部6、及び表示部7を有する。入力部4は、測定部2のデータ等を入力するものであり、例えば測定部2とデータ通信可能とする端子や、手動でデータを入力するためのキーボード等を含む。記憶部5は、入力部4から入力されたデータや、演算部6による演算結果等を記憶するものである。演算部6は、所定のプログラムにより、入力部4から入力されたデータや、記憶部5で記憶されたデータを用いて演算を行うものである。演算部6の具体的な機能は後述する。表示部7は、例えばモニタであり、入力部4から入力されたデータや、演算部6による演算結果等を表示する。
次に、上記塗装条件設定装置1を用いて、塗装条件を設定する方法を説明する。この塗装条件設定方法は、材料データベースを作成する工程と、再現計算手段を構築する工程と、膜厚及び下地色を最適化する工程とを有する。
[材料データベースの作成]
材料データベースは、各種顔料あるいは各種光輝材を単体で含む塗膜の光学特性に関する情報である。材料データベースは、図2に示す手順を経て作成される。以下、各手順を詳しく説明する。
(ステップS1)
まず、明度の異なる複数の下地を用意し、測定部2により、各下地の表面の変角分光反射率係数を測定する。本実施形態では、白色の下地(以下、白下地W)および黒色の下地(以下、黒下地B)の表面の変角分光反射率係数R、Rを測定する。白下地W及び黒下地Bは、例えば図1に示すように矩形の平板からなる。図示例では、白下地W及び黒下地Bが一体化されているが、これらを別体に設けてもよい。
(ステップS2)
次に、白下地Wおよび黒下地B上に、各種顔料を単体で含む複数種の塗料を塗布し、塗膜を形成する。顔料は、一般に赤、青、黄、黒、白といった色彩を付与する為に、塗料中に分散されている微粒子である。本実施形態では、まず、白下地W及び黒下地Bの上に、顔料P1、P2、P3・・・をそれぞれ単体で所定の濃度で含む塗料を所定の膜厚(例えば15μm)で塗布する。尚、塗膜の表面は光沢が不足し、表面の散乱が後の反射率の計測に悪影響を及ぼすことがあるので、例えばクリアコートを所定の膜厚(例えば数十μm)で塗装してもよい。そして、測定部2により、各下地W,B上の、各種顔料P1、P2・・・を単体で含む塗膜の表面の変角分光反射率係数(RP1,W、RP1,B)、(RP2,W、RP2,B)・・・を測定すると共に、当該塗膜の膜厚XP1、XP2・・・を測定する。
(ステップS3)
次に、白下地Wおよび黒下地B上に、各種光輝材を単体で含む複数種の塗料を塗布し、塗膜を形成する。光輝材は、メタリック系塗料に含まれる金属光輝材と、パール系塗料に含まれる干渉性光輝材とに大別される。金属光輝材は、一般にアルミ等の金属のフレークで、鱗状を成し、平均径は数μm〜100μm程度である。金属光輝材は光を透過しない。一方、干渉性光輝材は、パール色を呈する材料で、微粉砕された雲母(マイカ)の表面に、屈折率の異なる酸化金属を1層〜多層コーティングされたものである。屈折率の異なる複数層間の界面でFresnelの反射が生じ、これにより生じる光の干渉を利用して、パール色(照明と受光の角度によって色相が異なる)を呈する。
本実施形態では、まず、白下地W及び黒下地Bの上に、各種光輝材E1、E2・・・を単体で所定の濃度で含む塗料を、所定の膜厚(例えば15μm)で塗布する。尚、塗膜の表面に、クリアコートを所定の膜厚(例えば数十μm)で塗装してもよい。そして、測定部2により、各下地W,B上の、各種光輝材E1、E2・・・を単体で含む塗膜の表面の変角分光反射率係数(RE1,W、RE1,B)、(RE2,W、RE2,B)・・・を測定すると共に、当該塗膜の膜厚XE1、XE2・・・を測定する。
(ステップS4)
次に、各下地W,Bの変角分光反射率係数R、R、顔料P1のみを有する塗膜の変角分光反射率係数(RP1,W、RP1,B)及び膜厚XP1から、顔料P1のみを有する塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色(明度)における、受光角度θごと、波長λごとの散乱係数SP1及び吸収係数KP1を算出する。この散乱係数SP1及び吸収係数KP1は、顔料の光学モデル(クベルカ・ムンク理論)に基づいて算出することができる。散乱係数SP1及び吸収係数KP1の算出は、測定部2に内蔵された演算部(図示省略)、あるいはコンピュータ3の演算部6で行われる。同様に、顔料P2、P3・・・を単体で含む各塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色(明度)における、受光角度θごと、波長λごとの散乱係数SP2、SP3・・・及び吸収係数KP2、KP3・・・を算出する。尚、計測した変角分光反射率係数は、表面のクリア層と空気との界面で生じるFresnelの反射によって引き起こされる、表面での鏡面反射及び内部の鏡面反射の影響を受けることがある。従って、計測した変角分光反射率係数を、Saundersonの補正方法等により、上記の鏡面反射の影響を受けない理想的な反射の状態に補正してもよい。
(ステップS5)
次に、各下地W,Bの変角分光反射率係数R、R、光輝材E1のみを有する塗膜の変角分光反射率係数(RE1,W、RE1,B)及び膜厚XE1から、光輝材E1のみを有する塗膜の被覆率PE1を算出する。この被覆率PE1に基づいて、任意の膜厚及び任意の下地色(明度)における、受光角度θごと、波長λごとの変角分光反射率係数RE1を算出する。被覆率PE1及び変角分光反射率係数RE1の算出は、測定部2に内蔵された演算部(図示省略)、あるいはコンピュータ3の演算部6で行われる。同様に、光輝材E2、E3・・・を単体で含む各塗膜の被覆率PE2、PE3・・・、及び、任意の膜厚及び任意の下地色(明度)における、受光角度θごと、波長λごとの変角分光反射率係数RE2、RE3・・・を算出する。
(ステップS6)
以上のステップS1〜S5で得られた各データが、入力部4を介してコンピュータ3の記憶部5に伝達され、材料データベースとして記憶される(図3参照)。各データは、測定あるいは算出後すぐにコンピュータ3の記憶部5に転送してもよいし、測定部2内のメモリに一旦格納した後、最後にまとめて記憶部5に転送してもよい。
[再現計算手段の構築]
次に、図4に示す手順を経て塗色を再現する再現計算手段を構築し、この再現計算手段をコンピュータ3にインストールする。以下、塗色の算出の各手順を詳しく説明する。
(ステップS7)
まず、塗装対象物(例えば自動車のボデー)のデザイン段階において、当該塗装対象物の塗色を決定すると共に、その塗色を出すための試作塗料を作製する。そして、白下地W及び黒下地Bの上に、所定の膜厚(例えば15μm)で試作塗料を塗布して塗膜を形成する。尚、塗膜の表面に、クリアコートを所定の膜厚(例えば数十μm)で塗装してもよい。そして、測定部2により、白下地W及び黒下地B上に形成された試作塗料の塗膜の表面の変角分光反射率係数RC,W、RC,Bを測定すると共に、当該塗膜の膜厚Xを測定する。
(ステップS8)
次に、試作塗料の組成を定量する。具体的には、ステップS7で測定した試作塗料の塗膜の変角分光反射率係数RC,W、RC,Bと、記憶部5に記憶された材料データベースとから、試作塗料の組成を定量する。詳しくは、試作塗料の塗膜の変角分光反射率係数RC,W、RC,Bと、材料データベースに含まれる、各下地W,B上の各種顔料P1、P2・・・の変角分光反射率係数(RP1,W、RP1,B)、(RP2,W、RP2,B)・・・、及び各種光輝材E1、E2・・・の変角分光反射率係数(RE1,W、RE1,B)、(RE2,W、RE2,B)・・・とを比較することで、試作塗料に含まれる顔料及び光輝材の種類及び配合比を算出する。尚、試作資料の組成が予め分かっている場合は、ステップS7(白下地W及び黒下地B上への試作塗料の塗布、及び変角分光反射率係数RC,W、RC,Bの測定)及びステップS8(試作塗料の定量)を省略することもできる。
(ステップS9)
次に、試作塗料の塗膜に含まれた顔料に起因する散乱係数及び吸収係数を算出する。具体的には、材料データベースのうち、試作塗料に含まれた顔料(例えばP1及びP3)の散乱係数SP1、SP3に、試作塗料における各顔料の配合比を掛けた上で、これらを合成することにより、試作塗料に含まれる顔料に起因する散乱係数Sが算出される。同様に、選択した顔料P1,P3の吸収係数KP1、KP3に、試作塗料における各顔料の配合比を掛けた上で、これらを合成することにより、試作塗料に含まれる顔料に起因する吸収係数Kが算出される。こうして得られた散乱係数S及び吸収係数Kから、任意の膜厚及び任意の下地色における、試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数Rが算出される。尚、ステップS4で、理想状態の変角分光反射率係数に補正した場合、その逆関数を用いて、実際の状態の変角分光反射率係数に補正してもよい。
(ステップS10)
次に、試作塗料の塗膜に含まれた光輝材に起因する変角分光反射率係数を算出する。具体的には、材料データベースのうち、試作塗料に含まれた光輝材(例えばE2及びE4)の変角分光反射率係数RE2、RE4に、試作塗料における各光輝材の配合比を掛けた上で、これらを合成することにより、任意の膜厚及び任意の下地色における、試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数Rが算出される。
(ステップS11)
次に、ステップS9で求めた、試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数Rと、ステップS10で求めた、試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数Rとを合成することにより、試作塗料の塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色における変角分光反射率係数Rを算出する。そして、この変角分光反射率係数Rに基づいて、任意の膜厚及び任意の下地色における、試作塗料の塗膜の塗色(例えば、三刺激値XYZやL値)を算出する。以上のステップS8〜S11により試作塗料を用いた塗膜の塗色を再現する再現計算手段(プログラム)が、コンピュータ3の演算部6に予めインストールされる。
[膜厚及び下地色の最適化]
(ステップS12)
次に、再現計算手段がインストールされた演算部6により、膜厚及び下地色の最適値を設定する。具体的には、図5に示すように、まず、再現計算手段を用いて、膜厚及び下地色(例えば明度L)を変動させながら反復計算を行い、設定された範囲内における任意の膜厚及び任意の下地色において、塗膜の膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出する。例えば、膜厚が10〜20μm、下地の明度Lが2〜90の範囲内のあらゆる膜厚及び下地の明度において、膜厚を±1μm変動させたときの塗色の変動を算出する。
図6は、任意の膜厚及び下地色における、膜厚の微小変動に伴う塗色の変動を表すグラフである。同図のグラフは、受光角度θ(−15°、+15°、+25°、+45°、+75°、+110°)ごとに、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を色の濃淡で表したものである。色が濃いほど塗色の変動が小さく、色が薄いほど塗色の変動が大きい。各グラフの横軸は膜厚(μm)であり、縦軸は下地の明度Lである。
(ステップS13)
次に、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動が所定範囲内となる、膜厚及び下地色の許容範囲が設定される。これにより、この許容範囲内の膜厚及び下地色であれば、塗装条件の変動等により膜厚が製品ごとあるいは部位ごとに微妙に変動した場合でも、この膜厚変動が引き起こす塗色の変動を抑えて、目標色と一致し、且つ、均一な塗色を得ることができる。図6のグラフでは、全ての受光角度θにおいて、塗色の変動が所定値以下の領域(色が所定よりも濃い領域。図中に散点で囲まれた領域。)が、膜厚及び下地色の許容範囲となる。
(ステップS14)
上記で設定した膜厚及び下地色の範囲内において、最小の膜厚と、これに対応する下地色とが、膜厚及び下地色の最適値となる。図6では、散点で囲まれた許容範囲のうち、膜厚が最小となる点(×印)の膜厚及び下地色が最適値となる。
以上により、膜厚の微小変動に伴う塗色の変動を所定以下とするために必要最小限の膜厚と、それに対応した下地色(下地の明度)を、最適値として取得することができる。これにより、製品ごとあるいは部位ごとの塗色の変動を抑えて、目標色と一致し、且つ、均一な塗色を得ることができると共に、膜厚をできる限り薄くすることで、塗料の使用量の低減、塗装時間の低減、乾燥時間の低減、乾燥エネルギーの低減による低コスト化や、塗面の端部における塗料溜りの低減による外観品質の向上等が図られる。
こうして算出された膜厚及び下地色の最適値が、表示部7に出力される。この他、表示部7には、図6に示す膜厚及び下地色の許容範囲及び最適値を示すグラフや、試作塗料の組成、再現計算手段により算出した塗色の実色等を表示してもよい。
以上より、材料データベースが記憶されたコンピュータ3に、上記のステップS8〜S14を実行するプログラムをインストールしておけば、ステップS7で測定した試作塗料の塗膜の変角分光反射率係数RC,W、RC,B及び膜厚Xをコンピュータ3に入力するだけで、目標色と一致し、且つ、均一な塗色が得られる最小の膜厚及びこれに対応した下地色を自動的に求めることができる。
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と重複する点については説明を省略する。
例えば、上記の実施形態では、塗膜の膜厚を微小変動させたときの塗色の変動に基づいて、膜厚及び下地色の許容範囲を設定したが、これに加えて、隠蔽力に基づいて膜厚及び下地色の許容範囲を設定してもよい。具体的には、例えば、再現計算手段により、白下地W及び黒下地B上の試作塗料の塗膜の変角分光反射率係数RC,W、RC,Bに基づいて、任意の膜厚及び下地色における試作塗料の隠蔽力を算出し、所定範囲の隠蔽力が得られるように膜厚及び下地色の許容範囲を設定することができる。そして、膜厚の微小変動に伴う塗色の変動に基づいた膜厚及び下地色の許容範囲と、隠蔽力に基づいた膜厚及び下地色の許容範囲との重複部分のうち、最小の膜厚及びこれに対応した下地色が最適値となる。
また、上記の実施形態では、ステップS7及びS8において、目標色を得るための塗料そのものを試作塗料として使用した場合を示したが、これに限られない。例えば、目標色を得るための塗料に含まれる顔料と同濃度の顔料のみを含む第一の試作塗料と、目標色を得るための塗料に含まれる光輝材と同濃度の光輝材のみを含む第二の試作塗料とを使用してもよい。この場合、第一の試作塗料及び第二の試作塗料を、それぞれ白下地W及び黒下地Bの上に塗布し、各塗膜の変角分光反射率係数を測定する。そして、第一の試作塗料の変角分光反射率係数と、材料データベースに含まれた、各下地W,B上の各種顔料の変角分光反射率係数(RP1,W、RP1,B)、(RP2,W、RP2,B)・・・とを比較することで、試作塗料に含まれる顔料の種類及び配合比を算出する。また、第二の試作塗料の変角分光反射率係数と、材料データベースに含まれた、各種光輝材の変角分光反射率係数(RE1,W、RE1,B)、(RE2,W、RE2,B)・・・とを比較することで、試作塗料に含まれる光輝材の種類及び配合比を算出する。このように、顔料のみを含む第一の試作塗料と、光輝材のみを含む第二の試作塗料に分けて変角分光反射率係数を測定することで、試作塗料の組成をより正確に定量することが可能となる。
また、上記の実施形態では、試作塗料を塗布する下地が白色及び黒色である場合を示したが、これに限らず、少なくとも明度差のある複数色の下地を用いればよい。ただし、黒色と白色の組み合わせが、明度差が最も大きく、下地の色が塗色に及ぼす影響(隠蔽力等)が現れやすいため、最も好ましい。また、試作塗料を塗布する下地は2色に限らず、3色以上としてもよい。
また、上記の実施形態では、試作塗料の塗膜の膜厚が1水準である場合を示したが、これに限らず、複数水準(例えば3水準)の塗膜を作成し、各塗膜の変角分光反射率係数を測定してもよい。
本発明の塗装条件設定方法は、自動車の塗装に限らず、顔料及び光輝材を含む塗料を用いたあらゆる製品の塗装に適用することが可能である。
1 塗装条件設定装置
2 測定部
3 コンピュータ
4 入力部
5 記憶部
6 演算部
7 表示部
W 白下地
B 黒下地

Claims (3)

  1. 顔料及び光輝材を含む試作塗料を下地の上に塗装する際の、塗膜の膜厚及び下地色の最適条件をシミュレーションにより設定するための方法であって、
    任意の膜厚及び任意の下地色において、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出する工程と、
    前記塗色の変動が所定範囲内となる膜厚及び下地色の範囲を設定する工程と、
    前記膜厚及び下地色の範囲内における最小の膜厚、及びこれに対応する下地色を、膜厚及び下地色の最適値として設定する工程とを備えた塗装条件設定方法。
  2. 各種顔料を単体で含む複数種の塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色における散乱係数及び吸収係数と、各種光輝材を単体で含む複数種の塗膜の、任意の膜厚及び任意の下地色における変角分光反射率係数とを含む材料データベースを作成する工程と、
    前記材料データベースと前記試作塗料の組成とから、前記試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数と、前記試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数とを算出する工程と、
    前記試作塗料に含まれる顔料に起因する変角分光反射率係数と、前記試作塗料に含まれる光輝材に起因する変角分光反射率係数とを合成することにより、任意の膜厚及び任意の下地色における塗色を再現する再現計算手段を構築する工程とを有し、
    前記再現計算手段を用いて反復計算を行うことにより、膜厚及び下地色の最適値を求める請求項1に記載の塗装条件設定方法。
  3. 顔料及び光輝材を含む試作塗料を下地の上に塗装する際の、塗膜の膜厚及び下地色の最適条件を、コンピュータに設定させるためのプログラムであって、
    任意の膜厚及び任意の下地色において、膜厚を微小変動させたときの塗色の変動を算出する工程と、
    前記塗色の変動が所定範囲内となる膜厚及び下地色の範囲を設定する工程と、
    前記膜厚及び下地色の範囲内における最小の膜厚、及びこれに対応する下地色を、膜厚及び下地色の最適値として設定する工程とを、コンピュータに実行させるためのプログラム。
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