本発明は、海洋や河川などに設置される鋼管杭、鋼矢板などの金属構造物に取り付けられる電気防食用流電陽極に関する。さらに詳述すると、本発明は、マグネットを利用して金属構造物へ固定する電気防食用流電陽極に関する。
海洋や河川などに設置される鋼管杭、鋼矢板などの金属構造物の防食方法として、該金属構造物よりも卑な電位を有する金属(流電陽極)を接続して防食電流を流し、海水や水による金属構造物の腐食を防止する流電陽極方式が知られている。この流電陽極方式では、流電陽極を金属構造物に取り付ける方法として、水中溶接が一般的に用いられている。
しかしながら、近年、鋼矢板構造物が大規模地震(マグニチュード7以上)によって水中溶接した部位から折損した事例が報告された。この原因は水中溶接による溶接部の強度低下(脆化)であることが調査と試験によって明らかにされた(非特許文献1)。この問題の対策として熱間圧延鋼矢板の規格(JIS A5528)が改訂され、新たに溶接用熱間圧延鋼板矢板の規格(JIS A5523)が制定された。しかし、これまでに建設された多くの構造物は規格改定前のものであることから、依然として溶接以外の固定方法の開発が望まれている。
このことから、近年、マグネットを用いて流電陽極を鋼矢板などの金属構造物に取り付ける方法が提案されている(特許文献3)。この固定方法は、アルミニウム合金などの塊から成る流電陽極を貫通する芯金の両端にマグネットゴムシートを張り付けたものであり、マグネットゴムシートによって芯金の両端を鋼矢板に取り付ける一方、電気導通用金属板を使って芯金と鋼矢板とを導通させるようにしている。しかしながら、電気防食用流電陽極は重量物である上、常時海水に浸漬している金属構造物の電気防食用流電陽極は一般に波や潮流の作用を受けるため、磁気吸引力が不十分であると、電気防食用流電陽極を金属構造物に堅固に固定することができずに高波波浪で剥離する恐れがある。
そこで、ネオジム磁石のようなレアメタルを使った強力なマグネットの使用が提案されている(特許文献1,2)。このレアメタルを使ったマグネットは一般に脆く衝撃などをうけて壊れ易いという問題を有している。一方、強力な吸着力を有するが故に、鋼矢板に取り付ける際にマグネットが鋼矢板に強力な力で吸着されて衝撃を与え、マグネットを壊す虞がある。しかも、吸着された後には人手では容易に引き離すことが困難であり簡単には取り外せない問題がある。そこで、マグネットのヨークの縁よりも鋼矢板側に突出可能なジャッキアップ用のボルトを備え、電気防食用流電陽極を鋼矢板に取り付けようとするときには、ボルトをヨークの縁よりも鋼矢板側へ突出させてボルトの先端をヨークよりも先に当接させることにより、ボルトの突出量を減らして行くことで徐々にヨークと鋼矢板を接近させて、ヨークが鋼矢板に衝撃的に吸着されることがないようにしている。そして、流電陽極が溶けて無くなったときには、ジャッキアップ用ボルトを鋼矢板に向けて突き出すことでマグネット・ヨークを鋼矢板に対して徐々に引き離すようにして鋼矢板からマグネットを取り外し、芯金とその両端のマグネットとを撤去し、新規の電気防食用流電陽極と交換するようにしている。
特開2012−31474号公報
特開2008−274359号公報
特開2001−355085号公報
福手勤,阿部正美,長谷川博行,松田史郎:水中溶接された鋼矢板構造物の破断メカニズムと破断モードの改善に関する材料学的研究,港湾技術研究所報告,36巻,4号,p43〜68(1997)
しかしながら、レアメタルを使ったマグネットは非常に高価であることから、できれば撤去せずにそのまま再利用したいという要望がある。つまり、一旦鋼矢板に固定した後は取り付けた状態にしたまま、スタッドボルトのように再利用し陽極部分のみを取り替えるようにしたいという要望がある。ところが、海水中での作業は、波や潮流の作用を受けるため、作業中にも作業員(潜水士)の体ごと電気防食用流電陽極が金属構造物に押しつけられたり、金属構造物から離されたり、さらには左右に流されたり、押し上げられたり押し下げられたりするため、陸上での作業と異なり困難を極め、場合によっては作業ができないこともある。特に、海水中あるいは水中でボルトあるいはナットを外してから電気防食用流電陽極の芯金をマグネットのヨーク側のボルトから一旦取り外し、新たな電気防食用流電陽極に交換する作業は、困難を極める。波や潮流の作用を受ける海水中で電気防食用流電陽極の芯金のボルト通し孔にヨーク側のボルトを位置合わせして通し、再び取り外したナットをボルトに締め付ける作業は難しく面倒である。そこで、水中での作業なので是非とも簡易的に取り替えられるようにしたいという要望がある。
本発明は、かかる要望に応えるものであり、鋼矢板にマグネットを取り付けた状態にしたまま、水中での流電陽極の交換作業を簡易に行える電気防食用流電陽極の取り付け構造物への固定構造を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、電気防食用流電陽極を金属構造物に高保持力マグネットを利用して固定する電気防食用流電陽極固定構造において、電気防食用流電陽極と、該流電陽極を貫通し両端が流電陽極の外に突出する芯金と、高保持力マグネットを含むベース部材と、ベース部材側に備えられると共に芯金を貫通する軸部とベース部材との間で芯金を挟持する頭部とを有し、ベース部材に対し頭部が接近離反可能に設けられて芯金を締め付け可能とする芯金固定具と、芯金の電極本体から突出した両端部には芯金の厚み方向に貫通しかつ芯金の周縁に芯金固定具の軸部を導入可能な挿入口を開口すると共に芯金固定具と重力作用方向並びに重力作用方向と直交する方向の双方で芯金固定具の軸部と係合する鉛直係合部を少なくとも有する開放された孔から成る係合溝とを有し、芯金をベース部材に対して平行移動させて係合溝の挿入口から芯金固定具を相対的に挿入し、鉛直係合部に達したところで陽極本体を降下させて鉛直係合部の最奥部まで相対的に鉛直移動させ、係合溝の鉛直係合部の最奥部で芯金固定具を締め付けることによって芯金をベース部材に固定するようにしている。
ここで、芯金固定具はベース部材に芯金を着脱自在に固定できる締付け手段であればどのような構造のものでも採用可能であるが、作業並びに構造を簡易なものとする上では、ベース部材側に出入り自在に螺合されるボルト、あるいはベース部材側に対し固着されたねじ軸と、該ねじ軸に対して螺合させられるナットとの組み合わせから成るものであることが好ましい。さらに芯金固定具はベース部材から抜け落ちるのを防ぐ抜け止めを備えていることが好ましい。
また、係合溝は、芯金の周縁に芯金固定具の軸部を導入可能な挿入口を開口すると共に芯金固定具と重力作用方向並びに重力作用方向と直交する水平方向の双方で芯金固定具の軸部と係合する鉛直係合部を少なくとも有する開放孔であれば特定の形状や向きに限定されるものではないが、好ましくは同じ向きで芯金の両端にそれぞれ形成されていることであり、さらに好ましくはL形にすることである。
また、ベース部材はヨークを兼ねるケースに高保持力マグネットを収容したマグネット盤であり、ケースのマグネットの吸着面の反対側の面に芯金固定具を突出させ、ケースとの間で芯金を挟持して締め付け可能に備えたものであることが好ましい。また、ベース部材は高保持力マグネットをヨークを兼ねるケースに収容したマグネット盤と、該マグネット盤を連結する補強板とで構成され、補強板に芯金固定具が備えられ、芯金が補強板に固定されるようにしても良い。さらに、補強板には鉛直方向と直交しかつ金属構造物と平行な方向にそれぞれ張り出した安定板と、該安定板の両端に前記金属構造物に向けて迫り出すジャッキアップ用ボルトから成るスタビライザをそれぞれ備えていることが好ましい。
本発明の電気防食用流電陽極固定構造によれば、芯金固定具により固定している状態においては、係合溝の鉛直係合部に導入された芯金固定具の軸部と芯金とが重力作用方向並びに重力作用方向と直交する水平方向の双方で係合するため、芯金固定具による芯金のベース部材への締め付けが不十分な状態でも、波浪や潮流により芯金ひいては流電陽極がベース部材から外れ落ちることがない。また、電気防食用流電陽極を交換する場合には、芯金固定具をベース部材から取り外さずとも、芯金が移動させられる程度にまで弛めた状態で、芯金をベース部材・鋼矢板に沿ってスライドさせることで、芯金をベース部材から容易に取り外すことができる。そして、電気防食用流電陽極を交換する場合には、芯金の縁の挿入口から芯金固定具の軸部を導入するようにベース部材に沿って新しい流電陽極をスライドさせることで、芯金固定具の軸部を鉛直係合部にまで到達させ、芯金を芯金固定具の軸部に引っ掛けて支えることができる。その後、芯金固定具を締め付けるだけで流電陽極を所定の位置に固定できる。
即ち、金属構造物・鋼矢板に高保持力マグネットを含むベース部材を取り付けたまま、水中での流電陽極の交換作業を簡易に行える。
また、本発明によれば、芯金固定具としてベース部材側に出入り自在に螺合させられるボルト、あるいはベース部材側に対し固着されたボルトとこれに対して螺合させられるナットとの組み合わせを利用する場合、水中での流電陽極の交換作業は、ボルトあるいはナットを締め付ける若しくは弛める作業と、芯金をベース部材に沿ってスライドさせる作業だけで済むので、芯金をベース部材に対して容易に脱着させることができる。しかも、前述のボルトあるいはナットに抜け止めを備えていれば、弛め過ぎてマグネット盤からボルトあるいはナットが外れ落ちることがないので、弛め過ぎによるボルトあるいはナットの紛失に注意を払う必要がなくなり、より作業を簡易にすることができると共に作業の不具合も減少する。
また、係合溝が同じ向きで芯金の両端にそれぞれ形成されている場合、芯金固定具に対する芯金の両端の動きが同じになるため、芯金の脱着作業がさらに容易となる。
さらに、係合溝をL形に形成する場合には、芯金固定具を弛めた状態で芯金を鉛直方向に持ち上げ、さらに横移動させるだけで、芯金をベース部材から取り外すことができる。また、新たな電気防食用流電陽極を取り付ける際には、芯金固定具の軸部と芯金の係合溝の挿入口とを同じ高さに位置合わせしてから芯金をベース部材に沿って水平移動させ、最奥まで装入した時点で芯金を離せば芯金を含む陽極全体が重力により沈降して、鉛直係合部の最奥で引っかけられるので、取り付け作業が極めて簡便となる。
また、請求項7記載の発明によれば、芯金固定具を突出させたマグネット盤に芯金を固定するようにしているので、最小限の部品で金属構造物・鋼矢板に高保持力マグネットを含むベース部材を取り付けたまま、水中での流電陽極の交換作業を簡易に行える。
また、請求項8記載の発明によれば、全てのマグネット盤を補強板で連結し、該補強板に芯金を固定するようにしているので、剛性が高まり、より大きな波浪に耐えることができる。
また、請求項9記載の発明によれば、ベース部材から横方向に張り出した安定板と、安定板の両端で金属構造物に向けて迫り出すジャッキアップ用ボルトとで陽極にかかる横方向の力を支えるので、鋼矢板に沿って横方向に流れる潮流に対して流電陽極が安定する。
本発明の電気防食用流電陽極の一実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図1に示す電気防食用流電陽極の芯金とマグネット盤との関係を示す図で、(A)はマグネット吸着面側から見た裏面図、(B)は側面図である。
マグネット盤に対する芯金の装着状態を示す説明であり、(A)は芯金の係合溝を芯金固定用ボルトに係合させる寸前の状態を示し、(B)は係合させた直後、(C)は係合溝の垂直部に芯金を落とし込んだ状態を示す。
本発明の電気防食用流電陽極の他の実施形態を示す図で(A)は正面図、(B)は側面図である。
図4に示す電気防食用流電陽極の芯金と補強プレート並びにマグネット盤との関係を示す部分拡大側面図である。
本発明の電気防食用流電陽極のさらに他の実施形態を示す図で(A)は正面図、(B)は側面図である。
(A)〜(E)は芯金の係合溝の他の実施形態を示す説明図である。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1に本発明にかかる電気防食用流電陽極の一実施形態を示す。この電気防食用流電陽極は、金属構造物に高保持力マグネットを利用して固定するものであり、高保持力のマグネット6を含むベース部材3と、芯金2によって支持された流電陽極本体1とを芯金固定具4で着脱可能に連結して、図示していない金属構造物例えば鋼矢板に固定するものである。
図1及び図2に示すように、本実施形態の流電陽極1は、側面視台形状の陽極本体1と、陽極本体1の長手方向端部の側面から突出する芯金2とで構成され、金属構造物に吸着されるベース部材3の芯金固定具4に芯金2の両端を取り付けられるように設けられている。尚、陽極本体1は、防触しようとする金属構造物に対して卑となる金属例えば亜鉛、マグネシウム、又はこれらやアルミニウムの合金からなるものとされ、一般的には、アルミニウム合金のインゴット等が用いられる。
ここで、ベース部材3は、高保持力マグネットを具備し、高保持力マグネットの吸着力により金属構造物に対して固定されるものであり、金属構造物に吸着される側とは反対側の面に芯金固定具4を備えているものであれば良く、マグネットの形状や配置並びにケース構造などにおいて特定の構造や形状に限定されず、どのような構造・形態であっても構わない。例えば、本実施形態のベース部材3は、図2に示すようなマグネット盤の形態で構成され、ヨークを兼ねる箱形のケース7に高保持力のマグネット6を収容し、ケース7のマグネット6の吸着面(鋼矢板側の面)と反対側の面に突出させるように芯金固定具4を備えている。
芯金固定具4は、芯金2を貫通する軸部4aとベース部材3との間で芯金2を挟持する頭部4bとを有し、ベース部材3に対し頭部4bが接近離反可能に設けられて芯金2を締め付け可能とするものである。この芯金固定具4は、ベース部材3との間で芯金2を挟み付けるようにして着脱自在に固定できる締付け手段であれば、どのような構造のものでも採用可能であるが、中でもベース部材3に出入り自在に螺合されるボルト(以下、芯金固定用ボルトと呼ぶ)の採用が作業並びに構造を簡易なものとする上で好ましい。勿論、芯金固定具4としては、前述のボルトに限られず、ベース部材3側に対し固着されたねじ軸(軸部に相当)と、該ねじ軸に対して螺合させられるナット(頭部に相当)との組み合わせから成るものであっても良いし、また、ねじ機構以外の締結手段、例えば係合溝を通過する軸部の先端に操作レバー付きのカム板(頭部に相当)を回動自在に備え、レバー操作によりカム板を回動させることでカム板とケースとの間で芯金を挟み付けるカム変位を与えるものであっても良い。
芯金固定用ボルト4は、本実施形態の場合、ケース7の底部(バックヨーク部)中央に形成された貫通孔10を通して、ケース7に内蔵される中仕切り8の十字形状の交差部に開けられた交差部を貫通するねじ孔9に対し螺合されており、芯金固定用ボルト4を回転させることで中仕切り8並びにケース7との間で芯金2を挟持して締め付けるように設けられている。勿論、ケース7にねじ孔を開けることにより、ケース7に対して芯金固定用ボルト4を直接に螺合させることで、マグネット盤3に対して出入り自在に備えても良い。
芯金固定具4の可動部、即ちベース部材に対して接近離反可能に設けられる芯金固定用ボルトあるいはナットには、弛め過ぎてベース部材から脱落しないようにするため、抜け止め11が施されることが好ましい。抜け止め11としては、特定の構造・手段に限られないが、例えば図2に示すように芯金固定用ボルト4の先端側に環状溝を切って嵌められるE形止め輪やC形止め輪、グリップ止め輪などの各種止め輪、あるいは図示していないが芯金固定用ボルト4や固定ねじ軸の軸部を径方向に貫通するスプリングピンなどの簡易な抜け止め手段の使用が好ましい。
本実施形態のマグネット盤3は、例えば、4個のブロック形のマグネット6と、該マグネット6を内部空間に収容する箱形のケース7と、該ケース7の内部空間内を4等分する十字形状の中仕切り8とから構成されている。ケース7と中仕切り8とはヨークとしても機能するものであり、軟磁性材料であれば特に制限されるものではなく、ヨーク材として従来より用いられているものを用いることができ、例えば、鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、センダストなどが挙げられる。ケース7は、その内部空間が十字形状の中仕切り8により4等分されており、各区分にそれぞれマグネット6が隣り合うマグネットの磁極が互いに異極となるように配列されて収容されている。また、中仕切り8はケース7に対し、導電性の接着剤によって固定されても良いし、場合によっては固定されていなくとも良く、芯金固定用ボルト4の締め付けにより固定されるようにしても良い。
また、ケース7とマグネット6との隙間には必要に応じて導電性の防食部材が導電性の接着剤によって設けられている。この場合、積極的に十分な防食電流を供給することでマグネット6の腐食を防止することができる。また、マグネット6の表面には防触膜や樹脂膜やめっき膜が形成されていても良い。尚、マグネット6としては、Nd−Fe−B系マグネット(ネオジム磁石と称する。)の他、サマリウム系磁石、セリウム系磁石やフェライト磁石などを用いることができるが、特に保磁力の大きいネオジム系磁石の使用が好ましい。
ケース7は、その開口の周縁が内方に収容するマグネット6の吸着面よりやや突出するように、その内部空間の深さがマグネット6の高さ(厚み)よりやや深く形成されている。一方、中仕切り8は、マグネット6の吸着面より突出しないように、その厚みがマグネット6の高さより低く形成されている。
他方、芯金2は、本実施形態の場合には鋼製の板材から成り、陽極本体1の内部を長手方向に貫通し、陽極本体1の外に突出した部分がマグネット盤3側へ偏るように屈曲したオフセット脚部を備える。そして、このオフセット形脚部のベース部材3と接する辺には、マグネット盤3から突出する芯金固定用ボルト4を引っ掛けるための係合溝5が設けられている。
係合溝5は、芯金2の厚み方向に貫通しかつ芯金2の周縁に一端が開口して芯金固定具4の軸部4aを側方から導入可能な挿入口5bを形成する開放孔であり、重力作用方向並びに重力作用方向と直交する方向の双方で芯金固定具4の軸部4aと係合する鉛直係合部5aを少なくとも有するものであれば良い。本実施形態における係合溝5は、図3に示すように、芯金2の縁の挿入口5bから水平方向に延びる水平係合部5cを通過して鉛直係合部5aに達するL形に形成されている。この場合、溝加工が簡単になると共に芯金2の脱着作業が横移動と縦移動だけで済み簡易なものとなる。
尚、係合溝5は、芯金固定用ボルト4が鉛直方向に係合した状態で固定される鉛直係合部5aを少なくとも有する開放孔であれば、その形態がL形でなくとも良く、例えば鉛直係合部5aと周縁の挿入口5bとを結ぶ途中経路5dの形状が図7(E)に例示するような斜面や、図7(D)に例示するような水平面と斜面の組み合わせ、さらには図7(C)に例示するような階段状としても良いし、あるいは図7(B)に例示するような鉛直係合部5aと周縁の挿入口5bとが直結したI形などの様々な通路形状にしても良い。また、係合溝5は図1に示すように、流電陽極1を鉛直方向に配置した際に、陽極本体1の上側に位置するオフセット脚部と陽極本対1の下側に位置するオフセット脚部とで、同じ形状、同じ向きとする必要はなく、様々な形状、向きの係合溝5を組み合わせても良い。例えば、図7の(A)に示すように鉛直軸を中心に左右線対称に芯金2の両端にそれぞれ形成するようにしても良いし、図7(B)に示すようにL形の係合溝5とI形の係合溝5とを組み合わせるなど、異なる形状の係合溝5を組み合わせて用いても良い。このような複雑な形状の係合溝5あるいは異なる形状の係合溝の組み合わせを採る場合には、単純なL形の係合溝5の場合に比べて芯金を取り外す動作が複雑となるため、波浪に起因する単純な動きから芯金の脱落を防ぐことができる。一方、図1に示すように同じ構造の係合溝5を同じ向きで配置する場合には、芯金2を鉛直に保ったまま平行移動させることで脱着作業が完了するので、作業が簡易になる。また、芯金固定用ボルト4が鉛直方向に係合した状態で固定される鉛直係合部5aは必ずしも開放孔の最奥部に存在する必要はなく、係合溝5の途中に存在しても良いし、挿入口5bも芯金2の側方に限られず先端縁側でも良い。
以上のように構成された電気防食用流電陽極によれば、芯金2の両端に固定されたマグネット盤3を鋼矢板に向けて接近させることで、鋼矢板の所望の位置に吸着固定することができる。マグネット盤3の構成部材はいずれも導電性を有しているため、鋼矢板と接触するケース7から芯金2を介して陽極本体1と鋼矢板とが電気的に接続されている。これにより、鋼矢板の腐食を防止することができる。
一方、陽極本体1の交換作業は、例えばL形の係合溝5を有する芯金2の場合、芯金固定用ボルト4をケースから外れない程度に弛めてから、マグネット盤3の上に残る芯金2を鉛直方向上向きに持ち上げてから水平方向横向きに水平係合部5c内を移動させるだけで、芯金固定用ボルト4から容易に取り外せる。
その後、新たな陽極本体1を海中に沈め、芯金2の係合溝5の挿入口5aを芯金固定用ボルト4の首下部分4aに宛がってから鋼矢板と平行に陽極本体1ともども芯金2を水平移動させて押し込めば、芯金固定用ボルト4の首下部分・軸部4aが水平係合部5cの最奥部に達したところで芯金2並びに陽極本体1がその自重により鉛直係合部5aの最奥部まで降下して、鉛直係合部5aの最奥部で芯金固定用ボルト4に芯金2が引っ掛かる。そこで、芯金固定用ボルト4を締め付けることによって芯金2をマグネット盤3に固定することができる。このとき、芯金2並びに陽極本体1は、その自重により鉛直方向に下向きに押しつけられるので、芯金2のL形溝の鉛直係合部5aの最奥部ではマグネット盤3の固定用ボルト4に対して芯金2が下向き並びに左右水平方向にはその動きが制約される。したがって、芯金2は波浪によって移動させられようとしても、移動することができず、マグネット盤3から外れることがない。また、仮に芯金固定用ボルト4での締め付けが弛んだとしても、芯金2を含めた陽極全体がその自重により鉛直方向下向きに移動しようとするので、芯金2はボルト4に係合したままとなる。また、陽極並びに芯金2に波の力などで横方向並びに前後方向の力が作用したとしても、芯金固定用ボルト4と係合溝5との係合が解除されることがない。
以上、L形の係合溝5を例に挙げて主に取り替え作業を説明したが、これに特に限られるものではなく、例えば図7の(A)〜(E)に例示するように、さまざまな形状の開放孔を採用した芯金2においても簡単に電気防食用流電陽極の交換作業を実施することができる。例えば、図7の(A)に示す流電陽極のように同じ形状の係合溝5が線対称に形成されている場合には、互いの挿入口5bが芯金固定用ボルト4の軸部に宛がわれた状態で芯金2を反時計回転方向(あるいは時計回転方向)に回転させれば、上下の芯金固定用ボルト4が上下の係合溝5の鉛直係合部5aに同時に嵌合する。また、図7の(B)に示すように、L形の係合溝5とI形の係合溝5とを組み合わせて用いる流電陽極の場合には、上側の芯金固定用ボルト4を挿入口5bに宛がう一方、下側の芯金固定用ボルト4を芯金2の下端縁に宛がって芯金2を水平移動させれば、上下の芯金固定用ボルト4が上下の係合溝5の鉛直係合部5aに同時に嵌合することができる。
また、図4に他の実施形態を示す。この実施形態の電気防食用流電陽極固定構造は、全てのマグネット盤3同士を連結する補強プレート12を備えるものである。この電気防食用流電陽極は、一列に配置された複数例えば2個1組で上下1組ずつの合計2組のマグネット盤3を補強プレート12にボルト13によって連結し、補強プレート12に対して芯金2を着脱自在に固定するようにしたものである。補強プレート12は、マグネット盤3の互いの間隔を一定に保ちうるので、鋼矢板にマグネット盤3を吸着させる際に、芯金2を固定する芯金固定用ボルト4の間隔を保つことができる。しかも、蛙股状のオフセット脚部を有する芯金2と補強プレート12とが連結されて一体となるので、構造物としての強度が高くなる。したがって、波浪や波の動きによって芯金2そのものが捻れることが少なくなるので、より大きな波浪に耐えることができる。尚、芯金固定用ボルト4は補強プレート12に開けられたねじ孔に螺合させるようにしているが、場合によっては補強プレート12にナットなどを溶接付してねじ孔として利用しても良い。
さらに、図6に他の実施形態を示す。この実施形態は、図4の実施形態において、さらに左右の揺れを防ぐスタビライザー14を配置したものである。このスタビライザー14は、補強プレート12と直交するように配置されたL型チャネルから成るプレート15と、その両端に配置されたジャッキアップ用ボルト16を備えたものである。スタビライザー14の存在により、補強プレート12並びにマグネット盤3の鋼矢板に対する接面幅が広がるため、陽極本体1の左右の揺動を抑えることができる。鋼矢板にマグネット盤3を設置する場合には、ジャッキアップ用ボルト16を鋼矢板側に向けて突出させ、ジャッキアップ用ボルト16を鋼矢板に突き当てた状態でマグネット6の吸着力を軽減させた状態で作用させて固定し、その後ジャッキアップ用ボルト16を引き込めて直接マグネット6の周囲のヨーク・ケース7と鋼矢板を接触させるような状態で吸着させて固定することが可能である。そして、固定後は、ジャッキアップ用ボルト16の調整により陽極本体1の左右の揺動を抑えるべく、スタビライザーとして機能させる。スタビライザー14を有している方が、より大きな波浪に耐えることができる。勿論、このスタビライザー14と図4の補強プレート12とは併用する必要はなく、例えば芯金2のオフセット形脚部に直接プレート15を溶接付などで固定するようにしても良い。
ここで、流電陽極の鋼矢板への取り付けに際しては、必要に応じて図示していないジャッキアップボルトなどを利用してマグネット盤3を緩やかに取り付け可能とされ、安全に取り付け作業を行えるようにされる。具体的には、流電陽極を鋼矢板に取り付ける前に、ジャッキアップボルトをマグネット盤3よりも突出させた状態としておき、マグネット盤3を鋼矢板に接近させると、ジャッキアップボルトの先端によって、マグネット盤3のケース7と鋼矢板との接触が妨げられるため、マグネット盤3は鋼矢板に弱い力で引き寄せられるか、あるいは全く引き寄せられないこととなる。その後、ジャッキアップボルトを軸回りに回転させてマグネット盤3のケース7から後退させることで、マグネット盤3と鋼矢板とを徐々に接近させ、吸着させるようにできる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、マグネット6は陽極を強固に鋼矢板に固定できる吸着力を発揮できるものであれば、特にその形状や大きさなどに限定されるものではないし、また特定のレアメタルを用いたマグネット材料に限定されるものでもない。また、本実施形態においては、マグネット盤3を吸着対象である鋼矢板に徐々に接近させて吸着させるために、アジャストボルトを利用しているがこれに特に限定されるものではなく、その他の間隔調整手段を用いても良いし、一旦セットした後は芯金2のみを取り外して陽極本体1を交換するため、間隔調整手段そのものを必ずしも備えなくとも良い。また、マグネット盤3の芯金固定用ボルト4をねじ孔を切った筒状としてケース7に溶接などで固着させ、内側のねじ孔にジャッキアップ用のボルトを備え、外側のねじ部に芯金を固定するためのナットを螺合させるようにすることで、ジャッキアップ用ボルトをマグネット盤よりも先に鋼矢板に当接させてから少しずつ引き込めることでケースを鋼矢板に対して徐々に近づけることにより、鋼矢板に衝撃的に吸着されることを防ぐようにしても良い。
1 陽極本体
2 芯金
3 ベース部材としてのマグネット盤
4 芯金固定具としての芯金固定用ボルト
4a 軸部
4b 頭部
5 係合溝
5a 鉛直係合部
5b 挿入口
5c 水平係合部
6 マグネット
9 ねじ孔
11 抜け止めとしてのEリング
12 補強プレート
14 スタビライザー
本発明は、海洋や河川などに設置される鋼管杭、鋼矢板などの金属構造物に取り付けられる電気防食用流電陽極の固定構造及び電気防食用流電陽極に関する。
海洋や河川などに設置される鋼管杭、鋼矢板などの金属構造物の防食方法として、該金属構造物よりも卑な電位を有する金属(流電陽極)を接続して防食電流を流し、海水や水による金属構造物の腐食を防止する流電陽極方式が知られている。この流電陽極方式では、電気防食用流電陽極を金属構造物に取り付ける方法として、水中溶接が一般的に用いられている。
しかしながら、近年、鋼矢板構造物が大規模地震(マグニチュード7以上)によって水中溶接した部位から折損した事例が報告された。この原因は水中溶接による溶接部の強度低下(脆化)であることが調査と試験によって明らかにされた(非特許文献1)。この問題の対策として熱間圧延鋼矢板の規格(JIS A5528)が改訂され、新たに溶接用熱間圧延鋼板矢板の規格(JIS A5523)が制定された。しかし、これまでに建設された多くの構造物は規格改定前のものであることから、依然として溶接以外の固定方法の開発が望まれている。
このことから、近年、マグネットを用いて電気防食用流電陽極を鋼矢板などの金属構造物に取り付ける方法が提案されている(特許文献3)。この固定方法は、アルミニウム合金などの塊から成る電気防食用流電陽極を貫通する芯金の両端にマグネットゴムシートを張り付けたものであり、マグネットゴムシートによって芯金の両端を鋼矢板に取り付ける一方、電気導通用金属板を使って芯金と鋼矢板とを導通させるようにしている。しかしながら、電気防食用流電陽極は重量物である上、常時海水に浸漬している金属構造物の電気防食用流電陽極は一般に波や潮流の作用を受けるため、磁気吸引力が不十分であると、電気防食用流電陽極を金属構造物に堅固に固定することができずに高波波浪で剥離する恐れがある。
そこで、ネオジム磁石のようなレアメタルを使った強力なマグネットの使用が提案されている(特許文献1,2)。このレアメタルを使ったマグネットは一般に脆く衝撃などをうけて壊れ易いという問題を有している。一方、強力な吸着力を有するが故に、鋼矢板に取り付ける際にマグネットが鋼矢板に強力な力で吸着されて衝撃を与え、マグネットを壊す虞がある。しかも、吸着された後には人手では容易に引き離すことが困難であり簡単には取り外せない問題がある。そこで、マグネットのヨークの縁よりも鋼矢板側に突出可能なジャッキアップ用のボルトを備え、電気防食用流電陽極を鋼矢板に取り付けようとするときには、ボルトをヨークの縁よりも鋼矢板側へ突出させてボルトの先端をヨークよりも先に当接させることにより、ボルトの突出量を減らして行くことで徐々にヨークと鋼矢板を接近させて、ヨークが鋼矢板に衝撃的に吸着されることがないようにしている。そして、電気防食用流電陽極が溶けて無くなったときには、ジャッキアップ用ボルトを鋼矢板に向けて突き出すことでマグネット・ヨークを鋼矢板に対して徐々に引き離すようにして鋼矢板からマグネットを取り外し、芯金とその両端のマグネットとを撤去し、新規の電気防食用流電陽極と交換するようにしている。
特開2012−31474号公報
特開2008−274359号公報
特開2001−355085号公報
福手勤,阿部正美,長谷川博行,松田史郎:水中溶接された鋼矢板構造物の破断メカニズムと破断モードの改善に関する材料学的研究,港湾技術研究所報告,36巻,4号,p43〜68(1997)
しかしながら、レアメタルを使ったマグネットは非常に高価であることから、できれば撤去せずにそのまま再利用したいという要望がある。つまり、一旦鋼矢板に固定した後は取り付けた状態にしたまま、スタッドボルトのように再利用し陽極部分のみを取り替えるようにしたいという要望がある。ところが、海水中での作業は、波や潮流の作用を受けるため、作業中にも作業員(潜水士)の体ごと電気防食用流電陽極が金属構造物に押しつけられたり、金属構造物から離されたり、さらには左右に流されたり、押し上げられたり押し下げられたりするため、陸上での作業と異なり困難を極め、場合によっては作業ができないこともある。特に、海水中あるいは水中でボルトあるいはナットを外してから電気防食用流電陽極の芯金をマグネットのヨーク側のボルトから一旦取り外し、新たな電気防食用流電陽極に交換する作業は、困難を極める。波や潮流の作用を受ける海水中で電気防食用流電陽極の芯金のボルト通し孔にヨーク側のボルトを位置合わせして通し、再び取り外したナットをボルトに締め付ける作業は難しく面倒である。そこで、水中での作業なので是非とも簡易的に取り替えられるようにしたいという要望がある。
本発明は、かかる要望に応えるものであり、水中での電気防食用流電陽極の交換作業を簡易に行える電気防食用流電陽極の取り付け構造物への固定構造及び電気防食用流電陽極を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、電気防食用流電陽極を金属構造物に高保持力マグネットを利用して固定する電気防食用流電陽極固定構造において、流電陽極本体と、流電陽極本体を貫通し両端が前記流電陽極本体の外に突出する芯金と、高保持力マグネットを含むベース部材と、芯金を貫通する軸部とベース部材との間で芯金を挟持する頭部とを有し、ベース部材側に備えられると共にベース部材に対し頭部が接近離反可能に設けられて芯金を締め付け可能とする芯金固定具と、芯金の流電電極本体から突出した両端部に設けられた係合溝とを有し、係合溝は、芯金を厚み方向に貫通しかつ芯金の周縁に開口して芯金固定具の軸部を芯金の周縁から導入可能な挿入口と、重力作用方向並びに重力作用方向と直交する左右水平方向の双方で芯金固定具の軸部と係合する鉛直係合部とを少なくとも有し、芯金をベース部材に対して平行移動させて係合溝の挿入口から芯金固定具の軸部を相対的に挿入して通過させ、鉛直係合部の最奥部で軸部が引っ掛かった状態で芯金固定具を締め付けることによって芯金をベース部材に固定するようにしている。
ここで、芯金固定具はベース部材に芯金を着脱自在に固定できる締付け手段であればどのような構造のものでも採用可能であるが、作業並びに構造を簡易なものとする上では、ベース部材側に出入り自在に螺合されるボルト、あるいはベース部材側に対し固着されたねじ軸と、該ねじ軸に対して螺合させられるナットとの組み合わせから成るものであることが好ましい。さらに芯金固定具はベース部材から抜け落ちるのを防ぐ抜け止めを備えていることが好ましい。
また、係合溝は、芯金の周縁に芯金固定具の軸部を導入可能な挿入口を開口すると共に芯金固定具と重力作用方向並びに重力作用方向と直交する水平方向の双方で芯金固定具の軸部と係合する鉛直係合部を少なくとも有する開放孔であれば特定の形状や向きに限定されるものではないが、好ましくは同じ向きで芯金の両端にそれぞれ形成されていることであり、さらに好ましくはL形にすることである。
また、ベース部材はヨークを兼ねるケースに高保持力マグネットを収容したマグネット盤であり、ケースのマグネットの吸着面の反対側の面に芯金固定具を突出させ、ケースとの間で芯金を挟持して締め付け可能に備えたものであることが好ましい。また、ベース部材は高保持力マグネットをヨークを兼ねるケースに収容したマグネット盤と、該マグネット盤を連結する補強板とで構成され、補強板に芯金固定具が備えられ、芯金が補強板に固定されるようにしても良い。さらに、補強板には鉛直方向と直交しかつ金属構造物と平行な方向にそれぞれ張り出した安定板と、該安定板の両端に前記金属構造物に向けて迫り出すジャッキアップ用ボルトから成るスタビライザーをそれぞれ備えていることが好ましい。
また、本発明は、海洋や河川などに設置される金属構造物に取り付けられて金属構造物の腐食を防止する電気防触用流電陽極において、流電陽極本体と、流電陽極本体を貫通し両端が流電陽極本体の外に突出する芯金と、芯金の流電電極本体から突出した両端部に設けられた係合溝とを有し、係合溝は芯金を厚み方向に貫通しかつ芯金の周縁に開口して金属構造物側に固定されている芯金固定具の軸部を芯金の周縁から導入可能な挿入口と挿入された芯金固定具の軸部と重力作用方向並びに重力作用方向と直交する左右水平方向の双方で係合する鉛直係合部とを少なくとも備えるようにしている。
本発明の電気防食用流電陽極固定構造によれば、芯金固定具により固定している状態においては、係合溝の鉛直係合部に導入された芯金固定具の軸部と芯金とが重力作用方向並びに重力作用方向と直交する水平方向の双方で係合するため、芯金固定具による芯金のベース部材への締め付けが不十分な状態でも、波浪や潮流により芯金ひいては流電陽極本体がベース部材から外れ落ちることがない。また、電気防食用流電陽極を交換する場合には、芯金固定具をベース部材から取り外さずとも、芯金が移動させられる程度にまで弛めた状態で、芯金をベース部材・鋼矢板に沿ってスライドさせることで、芯金をベース部材から容易に取り外すことができる。そして、電気防食用流電陽極を交換する場合には、芯金の縁の挿入口から芯金固定具の軸部を導入するようにベース部材に沿って新しい電気防食用流電陽極をスライドさせることで、芯金固定具の軸部を鉛直係合部にまで到達させ、芯金を芯金固定具の軸部に引っ掛けて支えることができる。その後、芯金固定具を締め付けるだけで電気防食用流電陽極を所定の位置に固定できる。
即ち、金属構造物・鋼矢板に高保持力マグネットを含むベース部材を取り付けたまま、水中での電気防食用流電陽極の交換作業を簡易に行える。
また、本発明によれば、芯金固定具としてベース部材側に出入り自在に螺合させられるボルト、あるいはベース部材側に対し固着されたボルトとこれに対して螺合させられるナットとの組み合わせを利用する場合、水中での電気防食用流電陽極の交換作業は、ボルトあるいはナットを締め付ける若しくは弛める作業と、芯金をベース部材に沿ってスライドさせる作業だけで済むので、芯金をベース部材に対して容易に脱着させることができる。しかも、前述のボルトあるいはナットに抜け止めを備えていれば、弛め過ぎてマグネット盤からボルトあるいはナットが外れ落ちることがないので、弛め過ぎによるボルトあるいはナットの紛失に注意を払う必要がなくなり、より作業を簡易にすることができると共に作業の不具合も減少する。
また、係合溝が同じ向きで芯金の両端にそれぞれ形成されている場合、芯金固定具に対する芯金の両端の動きが同じになるため、芯金の脱着作業がさらに容易となる。
さらに、係合溝をL形に形成する場合には、芯金固定具を弛めた状態で芯金を鉛直方向に持ち上げ、さらに横移動させるだけで、芯金をベース部材から取り外すことができる。また、新たな電気防食用流電陽極を取り付ける際には、芯金固定具の軸部と芯金の係合溝の挿入口とを同じ高さに位置合わせしてから芯金をベース部材に沿って水平移動させ、最奥まで装入した時点で芯金を離せば芯金を含む陽極全体が重力により沈降して、鉛直係合部の最奥で引っかけられるので、取り付け作業が極めて簡便となる。
また、請求項7記載の発明によれば、芯金固定具を突出させたマグネット盤に芯金を固定するようにしているので、最小限の部品で金属構造物・鋼矢板に高保持力マグネットを含むベース部材を取り付けたまま、水中での電気防食用流電陽極の交換作業を簡易に行える。
また、請求項8記載の発明によれば、全てのマグネット盤を補強板で連結し、該補強板に芯金を固定するようにしているので、剛性が高まり、より大きな波浪に耐えることができる。
また、請求項9記載の発明によれば、ベース部材から横方向に張り出した安定板と、安定板の両端で金属構造物に向けて迫り出すジャッキアップ用ボルトとで陽極にかかる横方向の力を支えるので、鋼矢板に沿って横方向に流れる潮流に対して電気防食用流電陽極が安定する。
また、請求項10記載の発明にかかる電気防触用流電陽極によれば、金属構造物側に固定されている芯金固定具を利用して新たな電気防触用流電陽極を容易に取り付けることができる。
本発明の電気防食用流電陽極固定構造の一実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図1に示す電気防食用流電陽極固定構造の芯金とマグネット盤との関係を示す図で、(A)はマグネット吸着面側から見た裏面図、(B)は側面図である。
マグネット盤に対する芯金の装着状態を示す説明であり、(A)は芯金の係合溝を芯金固定用ボルトに係合させる寸前の状態を示し、(B)は係合させた直後、(C)は係合溝の垂直部に芯金を落とし込んだ状態を示す。
本発明の電気防食用流電陽極固定構造の他の実施形態を示す図で(A)は正面図、(B)は側面図である。
図4に示す電気防食用流電陽極固定構造の芯金と補強板並びにマグネット盤との関係を示す部分拡大側面図である。
本発明の電気防食用流電陽極固定構造のさらに他の実施形態を示す図で(A)は正面図、(B)は側面図である。
(A)〜(E)は芯金の係合溝の他の実施形態を示す説明図である。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1に本発明にかかる電気防食用流電陽極固定構造の一実施形態を示す。この電気防食用流電陽極固定構造は、金属構造物に高保持力マグネットを利用して固定するものであり、高保持力のマグネット6を含むベース部材3と、芯金2によって支持された流電陽極本体1とを芯金固定具4で着脱可能に連結して、図示していない金属構造物例えば鋼矢板に固定するものである。
図1及び図2に示すように、本実施形態の電気防食用流電陽極は、側面視台形状の流電陽極本体1と、流電陽極本体1の長手方向端部の側面から突出する芯金2とで構成され、金属構造物に吸着されるベース部材3の芯金固定具4に芯金2の両端を取り付けられるように設けられている。尚、流電陽極本体1は、防触しようとする金属構造物に対して卑となる金属例えば亜鉛、マグネシウム、又はこれらやアルミニウムの合金からなるものとされ、一般的には、アルミニウム合金のインゴット等が用いられる。
ここで、ベース部材3は、高保持力マグネットを具備し、高保持力マグネットの吸着力により金属構造物に対して固定されるものであり、金属構造物に吸着される側とは反対側の面に芯金固定具4を備えているものであれば良く、マグネットの形状や配置並びにケース構造などにおいて特定の構造や形状に限定されず、どのような構造・形態であっても構わない。例えば、本実施形態のベース部材3は、図2に示すようなマグネット盤の形態で構成され、ヨークを兼ねる箱形のケース7に高保持力のマグネット6を収容し、ケース7のマグネット6の吸着面(鋼矢板側の面)と反対側の面に突出させるように芯金固定具4を備えている。
芯金固定具4は、芯金2を貫通する軸部4aとベース部材3との間で芯金2を挟持する頭部4bとを有し、ベース部材3に対し頭部4bが接近離反可能に設けられて芯金2を締め付け可能とするものである。この芯金固定具4は、ベース部材3との間で芯金2を挟み付けるようにして着脱自在に固定できる締付け手段であれば、どのような構造のものでも採用可能であるが、中でもベース部材3に出入り自在に螺合されるボルト(以下、芯金固定用ボルトと呼ぶ)の採用が作業並びに構造を簡易なものとする上で好ましい。勿論、芯金固定具4としては、前述のボルトに限られず、ベース部材3側に対し固着されたねじ軸(軸部に相当)と、該ねじ軸に対して螺合させられるナット(頭部に相当)との組み合わせから成るものであっても良いし、また、ねじ機構以外の締結手段、例えば係合溝を通過する軸部の先端に操作レバー付きのカム板(頭部に相当)を回動自在に備え、レバー操作によりカム板を回動させることでカム板とケースとの間で芯金を挟み付けるカム変位を与えるものであっても良い。
本実施形態の場合、芯金固定具4としては、芯金固定用ボルトが採用され、ケース7の底部(バックヨーク部)中央に形成された貫通孔10を通して、ケース7に内蔵される中仕切り8の十字形状の交差部に開けられた交差部を貫通するねじ孔9に対し螺合されており、芯金固定用ボルト4を回転させることで中仕切り8並びにケース7との間で芯金2を挟持して締め付けるように設けられている。勿論、ケース7にねじ孔を開けることにより、ケース7に対して芯金固定用ボルト4を直接に螺合させることで、マグネット盤3に対して出入り自在に備えても良い。
芯金固定具4の可動部、即ちベース部材に対して接近離反可能に設けられる芯金固定用ボルトあるいはナットには、弛め過ぎてベース部材から脱落しないようにするため、抜け止め11が施されることが好ましい。抜け止め11としては、特定の構造・手段に限られないが、例えば図2に示すように芯金固定用ボルト4の先端側に環状溝を切って嵌められるE形止め輪やC形止め輪、グリップ止め輪などの各種止め輪、あるいは図示していないが芯金固定用ボルト4や固定ねじ軸の軸部を径方向に貫通するスプリングピンなどの簡易な抜け止め手段の使用が好ましい。
本実施形態のマグネット盤3は、例えば、4個のブロック形のマグネット6と、該マグネット6を内部空間に収容する箱形のケース7と、該ケース7の内部空間内を4等分する十字形状の中仕切り8とから構成されている。ケース7と中仕切り8とはヨークとしても機能するものであり、軟磁性材料であれば特に制限されるものではなく、ヨーク材として従来より用いられているものを用いることができ、例えば、鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、センダストなどが挙げられる。ケース7は、その内部空間が十字形状の中仕切り8により4等分されており、各区分にそれぞれマグネット6が隣り合うマグネットの磁極が互いに異極となるように配列されて収容されている。また、中仕切り8はケース7に対し、導電性の接着剤によって固定されても良いし、場合によっては固定されていなくとも良く、芯金固定用ボルト4の締め付けにより固定されるようにしても良い。
また、ケース7とマグネット6との隙間には必要に応じて導電性の防食部材が導電性の接着剤によって設けられている。この場合、積極的に十分な防食電流を供給することでマグネット6の腐食を防止することができる。また、マグネット6の表面には防触膜や樹脂膜やめっき膜が形成されていても良い。尚、マグネット6としては、Nd−Fe−B系マグネット(ネオジム磁石と称する。)の他、サマリウム系磁石、セリウム系磁石やフェライト磁石などを用いることができるが、特に保磁力の大きいネオジム系磁石の使用が好ましい。
ケース7は、その開口の周縁が内方に収容するマグネット6の吸着面よりやや突出するように、その内部空間の深さがマグネット6の高さ(厚み)よりやや深く形成されている。一方、中仕切り8は、マグネット6の吸着面より突出しないように、その厚みがマグネット6の高さより低く形成されている。
他方、芯金2は、本実施形態の場合には鋼製の板材から成り、流電陽極本体1の内部を長手方向に貫通し、流電陽極本体1の外に突出した部分がマグネット盤3側へ偏るように屈曲したオフセット脚部を備える。そして、このオフセット形脚部のベース部材3と接する辺には、マグネット盤3から突出する芯金固定用ボルト4を引っ掛けるための係合溝5が設けられている。
係合溝5は、芯金2の厚み方向に貫通しかつ芯金2の周縁に一端が開口して芯金固定具4の軸部4aを側方から導入可能な挿入口5bを形成する開放孔であり、重力作用方向並びに重力作用方向と直交する方向の双方で芯金固定具4の軸部4aと係合する鉛直係合部5aを少なくとも有するものであれば良い。本実施形態における係合溝5は、図3に示すように、芯金2の縁の挿入口5bから水平方向に延びる水平係合部5cを通過して鉛直係合部5aに達するL形に形成されている。この場合、溝加工が簡単になると共に芯金2の脱着作業が横移動と縦移動だけで済み簡易なものとなる。
尚、係合溝5は、芯金固定具としての芯金固定用ボルト4が鉛直方向に係合した状態で固定される鉛直係合部5aを少なくとも有する開放孔であれば、その形態がL形でなくとも良く、例えば鉛直係合部5aと周縁の挿入口5bとを結ぶ途中経路5dの形状が図7(E)に例示するような斜面や、図7(D)に例示するような水平面と斜面の組み合わせ、さらには図7(C)に例示するような階段状としても良いし、あるいは図7(B)に例示するような鉛直係合部5aと周縁の挿入口5bとが直結したI形などの様々な通路形状にしても良い。また、係合溝5は図1に示すように、流電陽極本体1を鉛直方向に配置した際に、流電陽極本体1の上側に位置するオフセット脚部と流電陽極本体1の下側に位置するオフセット脚部とで、同じ形状、同じ向きとする必要はなく、様々な形状、向きの係合溝5を組み合わせても良い。例えば、図7の(A)に示すように鉛直軸を中心に左右線対称に芯金2の両端にそれぞれ形成するようにしても良いし、図7(B)に示すようにL形の係合溝5とI形の係合溝5とを組み合わせるなど、異なる形状の係合溝5を組み合わせて用いても良い。このような複雑な形状の係合溝5あるいは異なる形状の係合溝の組み合わせを採る場合には、単純なL形の係合溝5の場合に比べて芯金を取り外す動作が複雑となるため、波浪に起因する単純な動きから芯金の脱落を防ぐことができる。一方、図1に示すように同じ構造の係合溝5を同じ向きで配置する場合には、芯金2を鉛直に保ったまま平行移動させることで脱着作業が完了するので、作業が簡易になる。また、芯金固定用ボルト4が鉛直方向に係合した状態で固定される鉛直係合部5aは必ずしも開放孔の最奥部に存在する必要はなく、係合溝5の途中に存在しても良いし、挿入口5bも芯金2の側方に限られず先端縁側でも良い。
以上のように構成された電気防食用流電陽極によれば、芯金2の両端に固定されたマグネット盤3を鋼矢板に向けて接近させることで、鋼矢板の所望の位置に吸着固定することができる。マグネット盤3の構成部材はいずれも導電性を有しているため、鋼矢板と接触するケース7から芯金2を介して流電陽極本体1と鋼矢板とが電気的に接続されている。これにより、鋼矢板の腐食を防止することができる。
一方、流電陽極本体1の交換作業は、例えばL形の係合溝5を有する芯金2の場合、芯金固定用ボルト4をケースから外れない程度に弛めてから、マグネット盤3の上に残る芯金2を鉛直方向上向きに持ち上げてから水平方向横向きに水平係合部5c内を移動させるだけで、芯金固定用ボルト4から容易に取り外せる。
その後、新たな流電陽極本体1を海中に沈め、芯金2の係合溝5の挿入口5aを芯金固定用ボルト4の首下部分4aに宛がってから鋼矢板と平行に流電陽極本体1ともども芯金2を水平移動させて押し込めば、芯金固定用ボルト4の首下部分・軸部4aが水平係合部5cの最奥部に達したところで芯金2並びに流電陽極本体1がその自重により鉛直係合部5aの最奥部まで降下して、鉛直係合部5aの最奥部で芯金固定用ボルト4に芯金2が引っ掛かる。そこで、芯金固定用ボルト4を締め付けることによって芯金2をマグネット盤3に固定することができる。このとき、芯金2並びに流電陽極本体1は、その自重により鉛直方向に下向きに押しつけられるので、芯金2のL形溝の鉛直係合部5aの最奥部ではマグネット盤3の固定用ボルト4に対して芯金2が下向き並びに左右水平方向にはその動きが制約される。したがって、芯金2は波浪によって移動させられようとしても、移動することができず、マグネット盤3から外れることがない。また、仮に芯金固定用ボルト4での締め付けが弛んだとしても、芯金2を含めた陽極全体がその自重により鉛直方向下向きに移動しようとするので、芯金2はボルト4に係合したままとなる。また、流電陽極本体1並びに芯金2に波の力などで横方向並びに前後方向の力が作用したとしても、芯金固定用ボルト4と係合溝5との係合が解除されることがない。
以上、L形の係合溝5を例に挙げて主に取り替え作業を説明したが、これに特に限られるものではなく、例えば図7の(A)〜(E)に例示するように、さまざまな形状の開放孔を採用した芯金2においても簡単に電気防食用流電陽極の交換作業を実施することができる。例えば、図7の(A)に示す電気防食用流電陽極のように同じ形状の係合溝5が線対称に形成されている場合には、互いの挿入口5bが芯金固定用ボルト4の軸部に宛がわれた状態で芯金2を反時計回転方向(あるいは時計回転方向)に回転させれば、上下の芯金固定用ボルト4が上下の係合溝5の鉛直係合部5aに同時に嵌合する。また、図7の(B)に示すように、L形の係合溝5とI形の係合溝5とを組み合わせて用いる電気防食用流電陽極の場合には、上側の芯金固定用ボルト4を挿入口5bに宛がう一方、下側の芯金固定用ボルト4を芯金2の下端縁に宛がって芯金2を水平移動させれば、上下の芯金固定用ボルト4が上下の係合溝5の鉛直係合部5aに同時に嵌合することができる。
また、図4に他の実施形態を示す。この実施形態の電気防食用流電陽極固定構造は、全てのマグネット盤3同士を連結する補強板12を備えるものである。この電気防食用流電陽極は、一列に配置された複数例えば2個1組で上下1組ずつの合計2組のマグネット盤3を補強板12にボルト13によって連結し、補強板12に対して芯金2を着脱自在に固定するようにしたものである。補強板12は、マグネット盤3の互いの間隔を一定に保ちうるので、鋼矢板にマグネット盤3を吸着させる際に、芯金2を固定する芯金固定用ボルト4の間隔を保つことができる。しかも、蛙股状のオフセット脚部を有する芯金2と補強板12とが連結されて一体となるので、構造物としての強度が高くなる。したがって、波浪や波の動きによって芯金2そのものが捻れることが少なくなるので、より大きな波浪に耐えることができる。尚、芯金固定用ボルト4は補強板12に開けられたねじ孔に螺合させるようにしているが、場合によっては補強板12にナットなどを溶接付してねじ孔として利用しても良い。
さらに、図6に他の実施形態を示す。この実施形態は、図4の実施形態において、さらに左右の揺れを防ぐスタビライザー14を配置したものである。このスタビライザー14は、補強板12と直交するように配置されたL型チャネルから成る安定板15と、その両端に配置されたジャッキアップ用ボルト16を備えたものである。スタビライザー14の存在により、補強板12並びにマグネット盤3の鋼矢板に対する接面幅が広がるため、流電陽極本体1の左右の揺動を抑えることができる。鋼矢板にマグネット盤3を設置する場合には、ジャッキアップ用ボルト16を鋼矢板側に向けて突出させ、ジャッキアップ用ボルト16を鋼矢板に突き当てた状態でマグネット6の吸着力を軽減させた状態で作用させて固定し、その後ジャッキアップ用ボルト16を引き込めて直接マグネット6の周囲のヨーク・ケース7と鋼矢板を接触させるような状態で吸着させて固定することが可能である。そして、固定後は、ジャッキアップ用ボルト16の調整により流電陽極本体1の左右の揺動を抑えるべく、スタビライザーとして機能させる。スタビライザー14を有している方が、より大きな波浪に耐えることができる。勿論、このスタビライザー14と図4の補強板12とは併用する必要はなく、例えば芯金2のオフセット形脚部に直接安定板15を溶接付などで固定するようにしても良い。
ここで、電気防食用流電陽極の鋼矢板への取り付けに際しては、必要に応じて図示していないジャッキアップボルトなどを利用してマグネット盤3を緩やかに取り付け可能とされ、安全に取り付け作業を行えるようにされる。具体的には、電気防食用流電陽極を鋼矢板に取り付ける前に、ジャッキアップボルトをマグネット盤3よりも突出させた状態としておき、マグネット盤3を鋼矢板に接近させると、ジャッキアップボルトの先端によって、マグネット盤3のケース7と鋼矢板との接触が妨げられるため、マグネット盤3は鋼矢板に弱い力で引き寄せられるか、あるいは全く引き寄せられないこととなる。その後、ジャッキアップボルトを軸回りに回転させてマグネット盤3のケース7から後退させることで、マグネット盤3と鋼矢板とを徐々に接近させ、吸着させるようにできる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、マグネット6は陽極を強固に鋼矢板に固定できる吸着力を発揮できるものであれば、特にその形状や大きさなどに限定されるものではないし、また特定のレアメタルを用いたマグネット材料に限定されるものでもない。また、本実施形態においては、マグネット盤3を吸着対象である鋼矢板に徐々に接近させて吸着させるために、アジャストボルトを利用しているがこれに特に限定されるものではなく、その他の間隔調整手段を用いても良いし、一旦セットした後は芯金2のみを取り外して流電陽極本体1を交換するため、間隔調整手段そのものを必ずしも備えなくとも良い。また、マグネット盤3の芯金固定用ボルト4をねじ孔を切った筒状としてケース7に溶接などで固着させ、内側のねじ孔にジャッキアップ用のボルトを備え、外側のねじ部に芯金を固定するためのナットを螺合させるようにすることで、ジャッキアップ用ボルトをマグネット盤よりも先に鋼矢板に当接させてから少しずつ引き込めることでケースを鋼矢板に対して徐々に近づけることにより、鋼矢板に衝撃的に吸着されることを防ぐようにしても良い。
1 流電陽極本体
2 芯金
3 ベース部材としてのマグネット盤
4 芯金固定具としての芯金固定用ボルト
4a 軸部
4b 頭部
5 係合溝
5a 鉛直係合部
5b 挿入口
5c 水平係合部
6 マグネット
9 ねじ孔
11 抜け止めとしてのEリング
12 補強板
14 スタビライザー